《速報解説》
会計士協会、監査人の交代理由等の開示の充実に向けた施策を公表
~具体的な交代理由の適時な把握・交代に関する質問等を実施~
公認会計士 阿部 光成
Ⅰ はじめに
平成29年6月30日、日本公認会計士協会は、会員に対して、副会長通知「監査人の交代理由等の開示の充実に係る日本公認会計士協会の取組について」を公表した。
これは、会計監査の在り方に関する懇談会の提言において、株主等にとってより有用な情報の提供を確保するという観点から、監査人の交代時における開示の充実が求められていることを踏まえたものである。
文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。
Ⅱ 監査人交代時における開示制度の運用上の留意事項
1 アンケート調査
監査人の交代時における開示制度として次のものがある。
① 金融商品取引法に基づく臨時報告書による開示
② 証券取引所の有価証券上場規程に基づく適時開示
平成28年に日本公認会計士協会は会員向けに「監査人の交代理由等に関するアンケート調査」を実施している。
これによれば、監査人が無限定適正意見を表明した後に交代し、被監査会社の監査人交代に係る臨時報告書又は適時開示情報に、交代理由に対する監査人の意見が開示されなかった場合であっても、監査人と被監査会社の見解の相違等が交代の背景に存在していたことを伺わせる回答が得られているとのことである。
2 監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果
参考資料として、「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」が公表されている。
これは、平成28年7月25日に会員専用サイトにて会員宛てに公表した「監査人交代の理由等に関するアンケート調査結果」を一般公表用に編集したものである。
アンケート調査での「交代理由(会社からの契約解除申入れ理由)」に関する回答の選択肢としては次のものがあり、前任監査人と後任監査人からの回答の結果が示されている。
① 監査報酬が折り合わない
② 会計・監査上の見解相違により信頼関係の喪失
③ 連結グループ間での監査人統一
④ 海外展開に合わせ国際的なファームを希望
⑤ 監査判断の意思決定が遅い
⑥ 相談事項に適時に対応してもらえない
⑦ 経験の浅い人員ばかりが担当
⑧ 監査メンバーの変動が多い
⑨ 業務執行社員の関与時間が少ない
⑩ 監査時間がかかりすぎる
⑪ 具体的な説明がなかったため分からない
また、「交代理由(監査人からの辞任申出理由)」についてもアンケート結果が示されている。
3 留意事項
上記のアンケート調査結果は、監査人の交代理由等の開示が、制度の趣旨に則って行われていない可能性があることを示していると考えられるとし、次の事項に留意するようにと述べている(「企業内容等の開示に関する内閣府令」19条2項九の四ハ(4)~(6))。
① 無限定適正意見を表明した後に交代する場合であっても、被監査会社が開示する交代理由等に対する監査人の意見がある場合には意見を表明すべきこと
② 被監査会社が開示する交代の理由等に対して監査人が意見を表明しない場合には、被監査会社はその旨及びその理由を開示することが求められていること
Ⅲ 日本公認会計士協会の施策
日本公認会計士協会は、監査人の交代理由等の開示の充実に向けて、次の施策を行うとのことである。
① 具体的な交代理由の適時な把握
② 交代に関する質問等の実施
③ 品質管理レビューにおける交代理由に関する情報の活用
④ 交代理由の概要についての定期的な公表
上記の施策を行うにあたって、上場会社監査事務所登録制度の定めに基づいて日本公認会計士協会への提出が求められている「登録事務所概要書変更事項届出書(会社数及び会社名)」及び「監査契約会社リスト変更事項届出書」の監査対象会社数の増減理由記載箇所について、現行の自由記載から選択肢形式に変更し、具体的な交代理由の把握や監査人に対する質問等の実施などを行うとのことである。
この対応として、平成29年6月30日、「上場会社監査事務所登録制度における「登録事務所概要書変更事項届出書」等の様式変更について」が公表されており、改正後の様式は、平成29年7月1日以後提出する届出書から適用される。
(了)