公開日: 2023/12/07 (掲載号:No.547)
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〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第11回】「貸手のリース取引の会計処理」

筆者: 喜多 弘美

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第11回】

「貸手のリース取引の会計処理」

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

これまで、セール・アンド・リースバック取引や転リース取引も含めて、リース取引の借手の会計処理を扱ってきました。今回は、リース取引の貸手の会計処理について、見ていきます。

1 貸手から見たリース取引

(1) 貸手はだれ?

リース取引の貸手は、【第3回】「リース取引の流れ」で使用した図の中の「リース会社」です。つまり、今回の主役はリース会社になります。

(2) リース会社から見たリース取引

リース会社は、ユーザーに代わり、サプライヤーからリース物件を購入し、リース物件をユーザーに引き渡します。今まで見てきたように、リース会社とユーザーのリース契約は、売買取引としての性格を持っています。

また、お金の流れを見ると、リース会社はサプライヤーへリース物件の代金を支払い、本来、代金を支払うはずだったユーザーからリース料を受け取ります。ユーザーから受け取るリース料は、リース物件の代金をユーザーから回収していることになり、金融取引としての性格を持っています。

このように、リース会社から見たリース取引は、売買取引金融取引の性格を持っていることになります。

 

2 貸手の会計処理

(1) 所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理

所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理は、取引実態に応じて、次の3つの方法のどれかを選択することになっています。

 リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法

 リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法

 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法

それでは、の方法について、設例を用いて、仕訳と一緒に確認します。

【設例】

  • 貸手はリース物件を4,100万円で購入する
  • リース期間:5年
  • 年間リース料:1,000万円(リース料総額:5,000万円)
  • 1年目の利息相当額:287万円

 リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法

1つ目は、リース取引開始日にリース料総額を売上高として計上する方法です。主に、製造業、卸売業等を営む企業が製品又は商品を販売する手法としてリース取引を利用する場合を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、売買取引の性格を重視した方法です。

(ア) リース取引開始日
リース取引開始日に、リース料総額で売上高を計上し、同額でリース債権を計上します。

また、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により売上原価を計上します。

(イ) リース料受取時(1年目)
リース料を受け取る時に、リース債権を減らします。

(ウ) 決算時(1年目)
リース取引開始日に計算された売上高と売上原価との差額を利息相当額として扱います。つまり、今回の【設例】では、900万円(=売上高5,000万円-売上原価4,100万円)が利息相当額になります。

リース期間中の各期末において、リース取引開始日に計算された利息相当額の総額のうち、各期末日後に対応する利益は繰り延べます。

【設例】では、リース取引開始日に計算された利息相当額900万円のうち、2年目以降の利益613万円(=利息相当額900万円-1年目の利息287万円)を繰り延べることになります。

 リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法

2つ目は、リース期間中の各期に受け取るリース料(以下、「受取リース料」といいます)を売上高として計上する方法で、割賦販売の処理を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)どちらも重視した方法です。

(ア) リース取引開始日
リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。

上記仕訳は、リース物件を購入し、その購入した資産をそのままユーザーへ譲渡した仕訳の2つに分解することができます。

(イ) リース料受取時(1年目)
各期の受取リース料を各期において売上高として計上し、当該金額からリース期間中の各期に配分された利息相当額を差し引いた額をリース物件の売上原価として処理します。

【設例】では、713万円(=1年目の受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)を売上原価として計上します。

 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法

3つ目は、売上高を計上せず、利益の配分のみを行う方法です。リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、金融取引の性格を重視した方法になります。

(ア) リース取引開始日
リース取引開始日に、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。

(イ) リース料受取時(1年目)
各期の受取リース料を利息相当額とリース債権の元本回収とに区分し、受取リース料を各期の損益として、利息相当額をリース債権の元本回収額として処理します。

【設例】では、1年目の利息相当額が287万円のため、713万円(=受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)が元本回収になります。

*  *  *

所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理について、3つの方法を見てきました。どの方法を採用しても毎年の貸借対照表の結果は同じ、また、損益計算書も勘定科目(売上高、売上原価、受取利息)に違いはありますが当期純利益に与える影響額は同じになります。

ただし、選択した方法は継続的に適用する必要があります。また、又はの方法を採用する場合は、割賦販売取引において採用している方法との整合性を考慮し、いずれかの方法を選択します。

(2) 所有権移転外ファイナンス・リース取引の会計処理

所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理も、(1)の所有権移転ファイナンス・リース取引とほぼ同じですが、以下3点が異なります。

 リース取引から生じる債権の勘定科目

所有権移転ファイナンス・リース取引で、会計処理に「リース債権」という勘定科目を使用している箇所を、所有権移転外ファイナンス・リース取引では「リース投資資産」という勘定科目に置き換えます。

これは、所有権移転ファイナンス・リース取引の場合は、貸手が借手からのリース料と割安購入選択権の行使価額で資金を回収するのに対し、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、リース料と見積残存価額の価値により資金の回収を図るため、それぞれ「リース債権」と「リース投資資産」という勘定科目を用いることとしています。

 利息相当額の各期への配分方法

利息相当額の総額をリース期間中の各期に配分する方法は、原則として利息法によることとされています。ただし、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、貸手としてのリース取引に重要性が乏しいと認められる場合は、利息相当額の総額をリース期間中の各期に定額で配分することができます。

なお、貸手としてのリース取引に重要性が乏しいと認める場合とは、未経過リース料及び見積残存価額の合計額の期末残高が当該期末残高及び営業債権の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合とされています。

 リース期間終了後の会計処理

所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、リース期間が終了すると、貸手は借手からリース物件の返却を受けます。そのため、貸手は、リース物件を見積残存価額でリース投資資産から、その後の保有目的に応じて、貯蔵品や固定資産等に振り替えることになります。

(3) オペレーティング・リース取引の会計処理

オペレーティング・リース取引は、借手と同じく、「賃貸借処理」に係る方法に準じて会計処理をします。貸手がリース物件を所有することになるので、貸手はリース物件を購入価額で固定資産として計上し、受取リース料を売上高として計上します。また、固定資産は減価償却し、減価償却費は売上原価に計上することになります。
 

(了)

次回は2/1に掲載予定です。

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第11回】

「貸手のリース取引の会計処理」

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

これまで、セール・アンド・リースバック取引や転リース取引も含めて、リース取引の借手の会計処理を扱ってきました。今回は、リース取引の貸手の会計処理について、見ていきます。

1 貸手から見たリース取引

(1) 貸手はだれ?

リース取引の貸手は、【第3回】「リース取引の流れ」で使用した図の中の「リース会社」です。つまり、今回の主役はリース会社になります。

(2) リース会社から見たリース取引

リース会社は、ユーザーに代わり、サプライヤーからリース物件を購入し、リース物件をユーザーに引き渡します。今まで見てきたように、リース会社とユーザーのリース契約は、売買取引としての性格を持っています。

また、お金の流れを見ると、リース会社はサプライヤーへリース物件の代金を支払い、本来、代金を支払うはずだったユーザーからリース料を受け取ります。ユーザーから受け取るリース料は、リース物件の代金をユーザーから回収していることになり、金融取引としての性格を持っています。

このように、リース会社から見たリース取引は、売買取引金融取引の性格を持っていることになります。

 

2 貸手の会計処理

(1) 所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理

所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理は、取引実態に応じて、次の3つの方法のどれかを選択することになっています。

 リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法

 リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法

 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法

それでは、の方法について、設例を用いて、仕訳と一緒に確認します。

【設例】

  • 貸手はリース物件を4,100万円で購入する
  • リース期間:5年
  • 年間リース料:1,000万円(リース料総額:5,000万円)
  • 1年目の利息相当額:287万円

 リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法

1つ目は、リース取引開始日にリース料総額を売上高として計上する方法です。主に、製造業、卸売業等を営む企業が製品又は商品を販売する手法としてリース取引を利用する場合を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、売買取引の性格を重視した方法です。

(ア) リース取引開始日
リース取引開始日に、リース料総額で売上高を計上し、同額でリース債権を計上します。

また、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により売上原価を計上します。

(イ) リース料受取時(1年目)
リース料を受け取る時に、リース債権を減らします。

(ウ) 決算時(1年目)
リース取引開始日に計算された売上高と売上原価との差額を利息相当額として扱います。つまり、今回の【設例】では、900万円(=売上高5,000万円-売上原価4,100万円)が利息相当額になります。

リース期間中の各期末において、リース取引開始日に計算された利息相当額の総額のうち、各期末日後に対応する利益は繰り延べます。

【設例】では、リース取引開始日に計算された利息相当額900万円のうち、2年目以降の利益613万円(=利息相当額900万円-1年目の利息287万円)を繰り延べることになります。

 リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法

2つ目は、リース期間中の各期に受け取るリース料(以下、「受取リース料」といいます)を売上高として計上する方法で、割賦販売の処理を想定しています。これは、リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)どちらも重視した方法です。

(ア) リース取引開始日
リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。

上記仕訳は、リース物件を購入し、その購入した資産をそのままユーザーへ譲渡した仕訳の2つに分解することができます。

(イ) リース料受取時(1年目)
各期の受取リース料を各期において売上高として計上し、当該金額からリース期間中の各期に配分された利息相当額を差し引いた額をリース物件の売上原価として処理します。

【設例】では、713万円(=1年目の受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)を売上原価として計上します。

 売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法

3つ目は、売上高を計上せず、利益の配分のみを行う方法です。リース会社から見たリース取引が持つ2つの性格(売買取引と金融取引)のうち、金融取引の性格を重視した方法になります。

(ア) リース取引開始日
リース取引開始日に、リース物件の現金購入価額(リース物件を借手の使用に供するために支払う付随費用を含めます)により、リース債権を計上します。

(イ) リース料受取時(1年目)
各期の受取リース料を利息相当額とリース債権の元本回収とに区分し、受取リース料を各期の損益として、利息相当額をリース債権の元本回収額として処理します。

【設例】では、1年目の利息相当額が287万円のため、713万円(=受取リース料1,000万円-1年目の利息相当額287万円)が元本回収になります。

*  *  *

所有権移転ファイナンス・リース取引の貸手の会計処理について、3つの方法を見てきました。どの方法を採用しても毎年の貸借対照表の結果は同じ、また、損益計算書も勘定科目(売上高、売上原価、受取利息)に違いはありますが当期純利益に与える影響額は同じになります。

ただし、選択した方法は継続的に適用する必要があります。また、又はの方法を採用する場合は、割賦販売取引において採用している方法との整合性を考慮し、いずれかの方法を選択します。

(2) 所有権移転外ファイナンス・リース取引の会計処理

所有権移転ファイナンス・リース取引の会計処理も、(1)の所有権移転ファイナンス・リース取引とほぼ同じですが、以下3点が異なります。

 リース取引から生じる債権の勘定科目

所有権移転ファイナンス・リース取引で、会計処理に「リース債権」という勘定科目を使用している箇所を、所有権移転外ファイナンス・リース取引では「リース投資資産」という勘定科目に置き換えます。

これは、所有権移転ファイナンス・リース取引の場合は、貸手が借手からのリース料と割安購入選択権の行使価額で資金を回収するのに対し、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、リース料と見積残存価額の価値により資金の回収を図るため、それぞれ「リース債権」と「リース投資資産」という勘定科目を用いることとしています。

 利息相当額の各期への配分方法

利息相当額の総額をリース期間中の各期に配分する方法は、原則として利息法によることとされています。ただし、所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、貸手としてのリース取引に重要性が乏しいと認められる場合は、利息相当額の総額をリース期間中の各期に定額で配分することができます。

なお、貸手としてのリース取引に重要性が乏しいと認める場合とは、未経過リース料及び見積残存価額の合計額の期末残高が当該期末残高及び営業債権の期末残高の合計額に占める割合が10%未満である場合とされています。

 リース期間終了後の会計処理

所有権移転外ファイナンス・リース取引の場合は、リース期間が終了すると、貸手は借手からリース物件の返却を受けます。そのため、貸手は、リース物件を見積残存価額でリース投資資産から、その後の保有目的に応じて、貯蔵品や固定資産等に振り替えることになります。

(3) オペレーティング・リース取引の会計処理

オペレーティング・リース取引は、借手と同じく、「賃貸借処理」に係る方法に準じて会計処理をします。貸手がリース物件を所有することになるので、貸手はリース物件を購入価額で固定資産として計上し、受取リース料を売上高として計上します。また、固定資産は減価償却し、減価償却費は売上原価に計上することになります。
 

(了)

次回は2/1に掲載予定です。

連載目次

〈一から学ぶ〉

リース取引の会計税務

令和5年5月2日付でASBJより企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等が公表されましたが、本連載は改正前(現行)制度のおさらいを行うことも目的としていますので、原則、上記改正基準案については取り上げていません。

筆者紹介

喜多 弘美

(きた・ひろみ)

公認会計士・税理士

喜多弘美公認会計士税理士事務所 所長

神戸大学経済学部、甲南会計大学院卒業。

2010年公認会計士試験論文試験合格後、上場会社経理部に所属し、固定資産・消費税を担当。その後、大手監査法人で会計監査、グループ会社で内部監査・人事に携わる。2020年4月から個人事務所を開業し、会計システム導入支援・記帳代行に従事。2020年11月税理士登録。

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