2026年改訂コーポレートガバナンス・コードのポイントと
企業実務における対応
【前編】
PwC Japan有限責任監査法人 マネージャー
公認会計士 信田 裕介
本稿の概要
金融庁及び株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)が事務局を務める「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議(令和7年度)」における議論を踏まえ、東証は2026年7月21日に有価証券上場規程を一部改正し、コーポレートガバナンス・コード2026年改訂版(以下「CGコード2026」という。)を同日付で施行している(※1、2)。2026年4月10日から5月15日のパブリック・コメント募集期間に、147の個人及び団体からコメントが寄せられ、改訂案の方向性に賛同する意見が多数みられた。CGコード2026は、2015年のCGコード策定後、2018年、2021年に続く3度目の改訂となるが、コードの構造そのものが大幅に再編されている点が、これまでの改訂と異なる。(※1) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」(2026年7月21日)
(※2) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」(2026年7月21日)
本稿では、今回の改訂の概要・背景等を前編として整理し、後編において企業実務における対応等を解説する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。
* * *
1 はじめに
CGコードは、2015年の策定以降、2018年の第1次改訂、2021年の第2次改訂を経て、今般、3度目の改訂に至った。日本のコーポレートガバナンス改革は、2013年の「日本再興戦略」以来、成長戦略の一環として推進されてきたものであり、リスクの回避・抑制や不祥事の防止といった「守りのガバナンス」だけでなく、健全な企業家精神の発揮を促し、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図る「攻めのガバナンス」の実現に主眼を置いている。2015年の適用開始から10年を経て一定の進捗がみられた一方、形式的な対応にとどまることなく、企業と投資家双方の取組みにおける改革の「実質化」が重要であるとの指摘がなされてきた。
2 改訂の背景
今回の改訂は、企業が中長期的な価値向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しする観点から行われたものである。すなわち、コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返り、コード自体の「実質化」を狙いとして、コンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実効的な実施を支援する「解釈指針」を新設した。
背景には諸外国の動向もある。英・独等では、コード本体とは別に、拘束力を持たない「ガイダンス」や対応の具体例を示す層を設けることで、開示負担に配慮しつつ実質的な対応を促す例がみられる(※3)。今回新設された「解釈指針」は、日本のコードにこうした層を導入するものと位置づけられる。
(※3) 金融庁「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議(令和7年度第1回) 資料4事務局説明資料(金融庁)」10ページ
3 改訂の趣旨-プリンシプル化・スリム化と「解釈指針」の新設、コード構造の再編
今回の改訂の中核は、プリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用する本コードの趣旨に立ち返り、上場会社が特に注力すべき点が明確になるよう、従前の補充原則を再整理した点にある。すなわち、従来の補充原則については、①ガバナンスの中核をなす箇所を原則へ格上げし、②具体的な例示や趣旨・背景は新設の「解釈指針」へ移管し、③コード内の他の箇所又は法令等と重複する箇所等は削除する、という方針で整理された。この結果、CGコード2026における規範は「基本原則」と「原則」から構成されるものとされ、従来の補充原則は廃止された。
こうした再整理により、コードの構成は次のとおり変化した。基本原則は、第5章「株主との対話」を第1章「株主の権利・平等性の確保、株主との対話」へ統合したことに伴い、5個から4個へと整理された。原則は、補充原則のうちガバナンスの中核となる箇所を格上げしたうえで、31個から26個へと再構成された。補充原則(47個)は、上記①〜③の方針に沿ってその内容を原則又は解釈指針に譲り、あるいは削除され、区分としては廃止された。あわせて、各原則の趣旨・背景やベストプラクティス・グッドプラクティスを示す「解釈指針」が、全ての基本原則及び一部の原則に付設される形で新設された。
ここで、コンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲を確認しておきたい。CGコード2026において同手法の対象となるのは「基本原則」及び「原則」であり、新設された「解釈指針」はその対象に含まれない。この結果、同手法の対象となる原則の数は、コーポレートガバナンス・コード2021年版 (※4)(以下「CGコード2021」という。)の計83個(基本原則5個・原則31個・補充原則47個)から、計30個(基本原則4個・原則26個)へと、形式的には大きく絞り込まれた。もっとも、市場区分ごとの適用対象範囲は改訂前から変わっておらず、プライム市場・スタンダード市場の上場会社は「基本原則」と「原則」が、グロース市場の上場会社は「基本原則のみ」が適用対象となる(〈図表1〉)。なお、原則26個のうち、原則1-2(株主総会における権利行使)、原則4-7(任意の仕組みの活用)、原則4-10(独立社外取締役の数の確保)の3つには、CGコード2021において補充原則として定められていた内容と同様に、引き続きプライム市場上場会社にのみ適用される内容が盛り込まれている(〈図表2〉)。プライム市場上場会社は、この点も踏まえた対応が求められる。
(※4) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」(2021年6月11日)
あわせて、コードの趣旨・精神を再周知する観点から、本コードの目的やプリンシプルベース・アプローチ、コンプライ・オア・エクスプレインの考え方を整理した記載が置かれ、原則をコンプライする場合・しない場合のいずれであっても、その取組みを丁寧に説明することが投資家との建設的な対話に資することが明確化された。
〈図表1〉市場区分ごとのコンプライ・オア・エクスプレインの適用範囲
(注) 「〇」はコンプライ・オア・エクスプレインの対象を意味する。また、CGコード2026で新設された解釈指針はコンプライ・オア・エクスプレインの対象ではないが、原則の実施等を検討するにあたり、参照することが期待されている。
(出所) 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2025年7月版)」、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」、東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」より筆者作成
〈図表2〉CGコード2026におけるプライム市場上場会社向けの原則
| 原則1-2 株主総会における権利行使 |
プライム市場上場会社は、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とする等、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備を行うべきである。 |
| 原則4-7 任意の仕組みの活用 |
プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。 |
| 原則4-10 独立社外取締役の数の確保 |
プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任すべきである。 支配株主を有するプライム市場上場会社は、取締役会において支配株主からの独立性を有する独立社外取締役を少なくとも過半数選任すべきである。 また、上記にかかわらず、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、過半数の独立社外取締役を選任することが必要と考えるプライム市場上場会社は、十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。 |
(出所) 東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」より筆者作成
4 改訂内容の概要
CGコード2026の趣旨等を記載した「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」を踏まえると、今回の改訂における原則・解釈指針の主な改訂内容として、次の3つが挙げられる。
- 成長投資の促進(経営資源の配分):取締役会の役割・責務として成長投資等に向けた取組みの重要性が明記された。①目指すところに向けた成長の道筋を構築すべきこと、②成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分について具体的に何を実行するのかを説明すべきこと、③経営資源の配分が経営戦略・経営計画に照らし適切かを不断に検証すべきことが示されている。解釈指針では、現預金等の金融資産・実物資産を成長投資等に有効活用できているかが検証事項として例示されている。
- 取締役会の機能強化:中核的な責務を原則に、具体的な例示等を解釈指針に移管しつつ加筆された。特に独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性が強調され、議長や独立社外取締役を含む取締役を支援する事務局(実務上「コーポレートセクレタリー」と称される機能を含む)の機能強化を推進すべき旨が追記された。
- 有価証券報告書の定時株主総会前の開示:有価証券報告書を株主総会前に提出することが、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として原則1-2に記載された。また、解釈指針では、株主総会開催日の3週間以上前の提出が最も望ましく、選択肢として総会開催時期の後ろ倒しも含め検討することが考えられる旨が補足されている。
【後編】では、これらの改訂がコンプライ・オア・エクスプレインの対象範囲に与える影響を整理したうえで、パブリック・コメントの「意見に対する考え方」で示された解釈を手がかりに、企業実務上の対応の要点を解説する。
【参考資料】
- 金融庁・東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議(令和7年度)」
- 金融庁・東京証券取引所「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)の公表について」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2026年7月版)」
- 東京証券取引所「「コーポレートガバナンス・コードの改訂について」に寄せられたパブリックコメントの結果について」
- 東京証券取引所「コーポレートガバナンス報告書の更新について(2026年7月21日更新)」
- 東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2026年7月版)」
(【後編】に続く)
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