政府重要資料から
今後の法人税改革等を読み解く
【第1回】
「「骨太方針2026」から読み解く税制の動向」
公認会計士・税理士 荒井 優美子
-連載開始にあたって-
税制改正は、政府税制調査会が中長期的視点から税制のあり方を検討し、毎年度の税制改正は、春から秋にかけて公表される各省庁や業界団体等の税制改正要望等を与党税制調査会が審議し12月の与党税制改正大綱を踏まえて、「税制改正の大綱」が12月に閣議決定される。「税制改正の大綱」には、改正による税収への影響額試算が明記されており、「税制改正の大綱」と同時期に予算政府案が閣議決定される。税制と予算は密接に関係しているが、毎年の予算は6月から7月に決定される「経済財政運営と改革の基本方針」(経済財政諮問会議)、いわゆる骨太方針により、経済財政運営と改革の方向性が示される。その後、秋に内閣府から「総合経済対策」が公表され、12月には「予算編成の基本方針」が公表される。このように、税制改正の動向は、骨太方針や総合経済対策、更には各省庁の研究会や審議会での議論を確認することで、より深い理解と予見が可能になるものと考えられる。本連載では、政府重要資料を都度取り上げ、税制の動向への知見を深める機会を提供できればと思っている。
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1 「骨太方針2026」の閣議決定
新聞報道によれば、内閣府が発表した2026年4~6月期国内総生産(GDP)は年換算で過去最高となり、企業の研究開発サービスの輸出がGDPを押し上げたとされている(※1)。
(※1) 2026年8月17日付日本経済新聞「名目GDP687.7兆円で過去最高 4~6月の年換算、研究開発が寄与」
高市政権は2025年11月の経済対策(「「強い経済」を実現する総合経済対策~日本と日本人の底力で不安を希望に変える~」以下、「総合経済対策」)において、「強い経済」を実現する総合経済対策の3本の柱(第1の柱:生活の安全保障・物価高への対応、第2の柱:危機管理投資・成長投資による強い経済の実現、第3の柱:防衛力と外交力の強化)を「強い日本経済実現」に向けた具体的施策として掲げ、第2の柱の危機管理投資と成長投資の税制支援として、令和8年度税制改正により、17の戦略分野を対象とする大胆な投資減税を導入した(【図表1】参照)。
【図表1】 総合経済対策の概要
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(出典) 内閣府「「強い経済」を実現する総合経済対策:概要(2025年11月21日)」
2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026「責任ある積極財政」元年 ~日本の挑戦を起動する!~」(骨太方針2026)は、総合経済対策の第2の柱を経済財政運営の基本方針に据え、令和9年度(2027年度)を「責任ある積極財政元年」として2040年度までの中長期経済財政計画を策定したものと考えられる(【図表2】参照)。
【図表2】 骨太方針2026の概要
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(出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:概要(2026年7月21日)」
「責任ある積極財政」という表現は、高市総理が就任後初の所信表明(2025年10月24日)でも使われているが、「成長か財政規律かという二者択一ではなく、その両方を実現するのが『責任』の意味」であり(※2)、具体的な財政運営として、①成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保する、②補正予算を前提とした予算編成と決別し、経済成長による税収増なども勘案しながら、必要な予算は当初予算で措置し、投資のための「新たな予算枠」を設定し、市場の信認を得ながら複数年での機動的な財政出動を可能にする、③経済社会の構造変化を踏まえ、経済構造の転換・好循環の実現と再分配機能の回復を図りつつ、経済成長を阻害しない安定的な税収基盤の構築の観点から、税制の見直しを進める、等を掲げる(※3)。
(※2) 2026年8月28日付読売新聞「高市首相「成長と財政規律の両立目指す」、消費税率「2年後に確実に戻す」」
(※3) 自由民主党「重点政策」
骨太方針2026で示された、責任ある積極財政に基づく「中長期経済財政計画」は、このような財政運営を2040年頃までの財政・投資計画として描いたものと思われる。2040年を中長期計画の期間とする考えは、高齢者人口ピークと労働力減少が同時に問題となる「2040年問題」への対応を視野に、「経済界における「投資牽引型経済」へのマインドセットの転換の機運醸成等を踏まえ、2040年度に250兆円の国内投資(※4)を実現することを新たな官民目標と位置付け、官民の連携を従前以上に強化し、その実現に取り組んでいく」(骨太方針2026)というものである。
(※4) 国内民間設備投資
2 「強い経済」の実現に向けた戦略的投資・分野横断的な取組と投資牽引型経済の実現
「強い経済」の実現に向けた戦略的投資では、2040年度まで累計で370兆円超の官民投資を想定し、分野横断的な取組では、8つの分野横断的な課題への対応のための目標数値と具体的な施策が示されている(【図表3】参照)。
【図表3】 8つの分野横断的課題へ取組
| 分野横断的な取組 | 主な目標(KPI) | 主要な施策(一部抜粋) |
|---|---|---|
| 新技術立国・競争力強化 |
・2040年度に、250兆円の国内投資を実現 ・2026-2030年度の合計で、180兆円の官民研究開発投資を実現 |
・「危機管理投資」・「成長投資」の推進 「危機管理投資」・「成長投資」の推進に向けて、『「強く豊かな日本」投資枠』を創設。 ・産業競争力強化に貢献する高い研究力を有する中核大学群への支援 ・スタートアップのシーズ段階から出口まで伴走可能なリードインベスターの育成・呼び込み、スタートアップからの調達加速 |
| スタートアップ | スタートアップ数 2025年 2.5万社→将来に 10万社 |
・「スタートアップ創出パッケージ」の実行 スタートアップを研究開発段階から一貫して支援。 |
| 金融を通じた潜在力の解放 | 2040年度に、250兆円の国内投資を実現 |
・「成長投資を促進するための金融戦略」の実行 金融機関の資金供給・成長支援機能の強化(「官民戦略投資連携フォーラム(仮称)」の設置、大口信用供与等規制の特例の明確化等)。 ・成長志向型コーポレートガバナンスへの転換 改訂「コーポレートガバナンス・コード」と「成長投資ガイダンス」の普及。 |
| 人材育成 | 理工農・デジタル・保健系の定員 2024年 35% → 2040年 50% |
・基盤的経費と多様な競争的研究費の充実・強化 |
| 労働市場改革 | 5年間で、労働生産性(労働者1人当たり付加価値額)を 15%上昇 |
・柔軟で多様な働き方の実現に向けた労働時間法制等の見直し ・リ・スキリング支援の強化 |
| 家事等の負担軽減 | 第一子出産前後の女性の継続就業率 2021年 69.5% → 2030年 80% |
・子育てや介護等と仕事の両立支援 家事支援・ベビーシッター等の利用に対する税制措置を含む支援策の検討。 |
| 賃上げ環境整備 | 2029年度までの間で、日本経済全体で、実質賃金で年 1%程度上昇 |
・「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」の実行 早期の賃上げを促す補助金の見直し。 積極的に賃上げを行う中小企業を重点支援するため、税制も含めた効果的な措置の検討。 |
| サイバーセキュリティ | 2031年度末までに、必要な防護策を実施できている重要インフラ事業者等の割合を 100% |
・「サイバーセキュリティ戦略」(2025年 12月)に基づく具体的な取組を実行 |
(出典) 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026:政策ファイル(2026年7月21日)」をもとに筆者作成)
日本経済団体連合会(以下、「経団連」)は、骨太方針2026の公表に先立ち、2026年4月14日に「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~」において、少子高齢化・人口減少、現役世代の社会保険料負担の増大(いわゆる2040年問題)への対応すべき日本の将来像として、「官民連携により成長と分配の好循環を継続させ、分厚い中間層を形成するとともに、財政の健全性を維持する」ことを掲げ、成長と分配の好循環の加速・拡大のカギは「「投資牽引型経済」の実現である」としている(【図表4】参照)。「企業は、設備投資、研究開発投資、さらには賃金引上げを含めた人的投資に対し、積極果敢に取り組んでいくことが求められ」、この考えからも、骨太方針2026の戦略的投資・分野横断的な取組は、「投資牽引型経済」と軌を一にするものであるとして、高い評価を与えている。
【図表4】 税・財政・社会保障一体改革の全体像
(出典) 日本経済団体連合会「税・財政・社会保障一体改革に関する基本的考え方~投資牽引型経済の実現による成長と分配の好循環~(2026年4月14日)」
3 「責任ある積極財政」と税制措置
骨太方針2026では、戦略的投資等について、令和8年度税制改正による措置に触れているが、ガソリン暫定税率廃止の財源確保に係る令和9年度税制改正以後での対応以外は、特段見当たらない。
一方で、「責任ある積極財政」の下、「予算・税制における各種基準額や閾値について、物価・賃金上昇や経済社会の変化を踏まえ、必要な点検・見直しを進める」とし、「歳出の目安については、一律抑制型の上限としてではなく、予算全般において歳出改革努力を継続する中で、伸ばすべき歳出と見直すべき歳出を峻別する、規律ある資源配分を実現する枠組みとする。このため、租税特別措置や補助金等の点検・見直しを進め、施策の優先順位を洗い直し、大胆に重点化する。危機管理投資・成長投資を強化するとともに、予算編成プロセスにおいて、成長への寄与、民間投資の誘発効果等を精査し、我が国の予算を成長力強化に資するものに変革していく。」との記載から、既存の政策税制についても見直しが行われ、メリハリのある措置の導入が検討されるものと考えられる。
(了)
「政府重要資料から今後の法人税改革等を読み解く」は、不定期の掲載となります。



















