公開日: 2015/05/21 (掲載号:No.120)
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基準年度の見直しによる「実質的に債権とみられない金額」の簡便法の取扱いについて~平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度における貸倒引当金計算上の留意点~

筆者: 小谷 羊太

基準年度の見直しによる

「実質的に債権とみられない金額」の簡便法の取扱いについて

~平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度における貸倒引当金計算上の留意点~

 

税理士 小谷 羊太

 

平成27年度税制改正では、中小企業等の貸倒引当金の特例について、一括評価金銭債権の帳簿価額から控除される「実質的に債権とみられない金額」の基準年度の実績による場合の簡便法に関し、次の見直しが行われた。

① 簡便法によることができる法人が平成27年4月1日に存する法人とされた。

② 基準年度が平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に開始した各事業年度とされた(改正前の基準年度は「平成10年4月1日から平成12年3月31日までの期間内に開始した各事業年度」)。

以下では本制度概要について改めて確認するとともに、今回の改正を踏まえた適用初年度の取扱いについて解説する。

 

一括貸倒引当金-現行制度の概要

貸倒引当金は、金銭債権のうち、将来の貸倒れに備えるために、その損失の見込額を計上することができる引当金制度である。

当該事業年度の売上に係る金銭債権について、損金経理により貸倒引当金として費用計上した金額のうち、一定額(貸倒引当金繰入限度額)が当期の損金として認められる。

 

一括貸倒引当金繰入限度額の計算

一括貸倒引当金繰入限度額の計算には、「貸倒実績率」による計算方法と「法定繰入率」による計算方法がある。このうち、法定繰入率による計算方法は、期末資本金が1億円以下の中小法人のみ選択することができる。

 中小法人 大法人  貸倒実績率 可 能 可 能  法定繰入率  可 能  不 可

貸倒実績率による計算方法(参考)
一括評価金銭債権 × 貸倒実績率 = 一括貸倒引当金繰入限度額

法定繰入率による計算方法
実質的に債権と 一括評価金銭債権 -           × 法定繰入率 = 一括貸倒引当金繰入限度額 みられないもの

 

中小企業等の貸倒引当金の特例-貸倒引当金の繰入限度額の計算

法定繰入率により計算する一括貸倒引当金繰入限度額は、上記算式のとおり「一括評価金銭債権の額」から「実質的に債権とみられないものの額」を差し引いた金額に「法定繰入率」を乗じて算出する。

「実質的に債権とみられない金額」の計算方法は、「個別法」による方法と「簡便法」による方法が選択できる。つまり、実質的に債権とみられないものの額について、その算定方法が選択できるのであれば、その金額は少なくなるほうが、法定繰入率を乗じる金額が大きくなるので、一括貸倒引当金繰入限度額は大きくなる。

 一括評価金銭債権  実質的に債権と みられないもの  ×法定繰入率 = 一括貸倒引当金繰入限度額

上記のことを踏まえ、黒字が見込まれる事業年度については、会社にとって有利な方法(実質的に債権とみられない金額が少なくなる方法)を選択することとなる。

 

平成27年度税制改正事項の確認

財務省ホームページの「租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令(要綱)」では、本改正について以下のように記述されている(下線部筆者)。

租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令要綱(法人課税)

中小企業の貸倒引当金の特例について、実質的に債権とみられない金額の計算について基準年度実績による簡便法を用いる場合の基準年度を平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度とすることとする。(租税特別措置法施行令第33条の7、第39条の86関係)

 

基準年度実績による簡便法の計算

基準年度実績による「実質的に債権とみられない金額」の計算は、次の算式により計算した「控除割合」を一括評価金銭債権に乗じて計算する。

一括評価金銭債権 × 控除割合 = 実質的に債権とみられないものの額  各事業年度末の実質的に債権とみられないものの額の合計額 = 控除割合(小数点以下3位未満切捨て) 各事業年度末の一括評価金銭債権の額の合計額

上記算式にある各事業年度は、基準年度のものを使用する。

つまり、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度のものを合計して使用することとなる。

 

基準年度における留意点

基準年度実績(簡便法)による実質的に債権とみられない金額の計算は、「控除割合」を用いて「実質的に債権とみられないものの額」を算定することができるため、現在の申告において貸倒引当金の規定の適用を受けない企業であっても、将来その計上が必要となったときに、貸倒引当金の繰入限度額が容易に計算できるようになる。

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基準年度の見直しによる

「実質的に債権とみられない金額」の簡便法の取扱いについて

~平成27年4月1日以後に開始する最初の事業年度における貸倒引当金計算上の留意点~

 

税理士 小谷 羊太

 

平成27年度税制改正では、中小企業等の貸倒引当金の特例について、一括評価金銭債権の帳簿価額から控除される「実質的に債権とみられない金額」の基準年度の実績による場合の簡便法に関し、次の見直しが行われた。

① 簡便法によることができる法人が平成27年4月1日に存する法人とされた。

② 基準年度が平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に開始した各事業年度とされた(改正前の基準年度は「平成10年4月1日から平成12年3月31日までの期間内に開始した各事業年度」)。

以下では本制度概要について改めて確認するとともに、今回の改正を踏まえた適用初年度の取扱いについて解説する。

 

一括貸倒引当金-現行制度の概要

貸倒引当金は、金銭債権のうち、将来の貸倒れに備えるために、その損失の見込額を計上することができる引当金制度である。

当該事業年度の売上に係る金銭債権について、損金経理により貸倒引当金として費用計上した金額のうち、一定額(貸倒引当金繰入限度額)が当期の損金として認められる。

 

一括貸倒引当金繰入限度額の計算

一括貸倒引当金繰入限度額の計算には、「貸倒実績率」による計算方法と「法定繰入率」による計算方法がある。このうち、法定繰入率による計算方法は、期末資本金が1億円以下の中小法人のみ選択することができる。

 中小法人 大法人  貸倒実績率 可 能 可 能  法定繰入率  可 能  不 可

貸倒実績率による計算方法(参考)
一括評価金銭債権 × 貸倒実績率 = 一括貸倒引当金繰入限度額

法定繰入率による計算方法
実質的に債権と 一括評価金銭債権 -           × 法定繰入率 = 一括貸倒引当金繰入限度額 みられないもの

 

中小企業等の貸倒引当金の特例-貸倒引当金の繰入限度額の計算

法定繰入率により計算する一括貸倒引当金繰入限度額は、上記算式のとおり「一括評価金銭債権の額」から「実質的に債権とみられないものの額」を差し引いた金額に「法定繰入率」を乗じて算出する。

「実質的に債権とみられない金額」の計算方法は、「個別法」による方法と「簡便法」による方法が選択できる。つまり、実質的に債権とみられないものの額について、その算定方法が選択できるのであれば、その金額は少なくなるほうが、法定繰入率を乗じる金額が大きくなるので、一括貸倒引当金繰入限度額は大きくなる。

 一括評価金銭債権  実質的に債権と みられないもの  ×法定繰入率 = 一括貸倒引当金繰入限度額

上記のことを踏まえ、黒字が見込まれる事業年度については、会社にとって有利な方法(実質的に債権とみられない金額が少なくなる方法)を選択することとなる。

 

平成27年度税制改正事項の確認

財務省ホームページの「租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令(要綱)」では、本改正について以下のように記述されている(下線部筆者)。

租税特別措置法施行令等の一部を改正する政令要綱(法人課税)

中小企業の貸倒引当金の特例について、実質的に債権とみられない金額の計算について基準年度実績による簡便法を用いる場合の基準年度を平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度とすることとする。(租税特別措置法施行令第33条の7、第39条の86関係)

 

基準年度実績による簡便法の計算

基準年度実績による「実質的に債権とみられない金額」の計算は、次の算式により計算した「控除割合」を一括評価金銭債権に乗じて計算する。

一括評価金銭債権 × 控除割合 = 実質的に債権とみられないものの額  各事業年度末の実質的に債権とみられないものの額の合計額 = 控除割合(小数点以下3位未満切捨て) 各事業年度末の一括評価金銭債権の額の合計額

上記算式にある各事業年度は、基準年度のものを使用する。

つまり、平成27年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始した各事業年度のものを合計して使用することとなる。

 

基準年度における留意点

基準年度実績(簡便法)による実質的に債権とみられない金額の計算は、「控除割合」を用いて「実質的に債権とみられないものの額」を算定することができるため、現在の申告において貸倒引当金の規定の適用を受けない企業であっても、将来その計上が必要となったときに、貸倒引当金の繰入限度額が容易に計算できるようになる。

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筆者紹介

小谷 羊太

(こたに・ようた)

税理士

昭和42年大阪市生まれ。
平成17年開業税理士登録。
奈良産業大学法学部卒業後、会計事務所勤務を経て大原簿記学校税理士課法人税法担当講師として税理士受験講座や申告実務講座の教鞭をとる。
現在は東京と大阪を中心に、個人事業者や中小会社の税務顧問に加え、セミナー講師も務める。

税理士法人 小谷会計
http://www.yotax.jp/

【著書】
第2版/はじめて課税事業者になる法人・個人のためのインボイス制度と消費税の実務』共著(清文社)
赤字と黒字をうまく使いこなす 法人税欠損事業年度の攻略法』(清文社)
実務で使う 法人税の耐用年数の調べ方・選び方』(清文社)
法人税と所得税をうまく使いこなす 法人成り・個人成りの実務』共著(清文社)
三訂版 実務で使う 法人税の減価償却と耐用年数表』(清文社)
実務で使う法人税の優遇制度と有利選択』(清文社)
『法人税申告書に強くなる本』(清文社)
『法人税申告書の書き方がわかる本』(日本実業出版社)
『法人税申告のための決算の組み方がわかる本』(日本実業出版社)

【共著書】
『よくわかる株式会社のつくり方と運営』(成美堂出版)

    

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