公開日: 2016/03/17 (掲載号:No.161)
文字サイズ

特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~ 【第3回】「〈事例1〉欠損等法人が100%子会社の合併により新規事業を開始するケース(第1号事由)」

筆者: 足立 好幸

特定株主等によって支配された欠損等法人
欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い
~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~

【第3回】

「〈事例1〉欠損等法人が100%子会社の合併により
新規事業を開始するケース(第1号事由)」

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト パートナー
足立 好幸

 

〈事例1〉

欠損等法人が100%子会社の合併により新規事業を開始するケース(第1号事由)

P社(内国法人。決算日は3月31日。50%超の株式等を直接及び間接に所有する株主はいない)は、平成25年10月1日に、Q社からA社の発行済株式のすべてを取得した。その結果、A社はP社の100%子会社となり、A社の100%子会社であったB社がP社の100%孫会社となった。

A社の状況は次のとおりである。

  • A社は、買収時には事業を行っておらず、B社の株式を所有するだけの会社となっていた。
  • A社には買収時に従業員はいなかった。
  • A社の決算日は3月31日である。
  • A社の資本金等の額は550百万円である。
  • A社の所有するB社株式の税務上の帳簿価額は100百万円である。
  • A社の平成27年3月期の繰越欠損金は以下のとおりである。

発生事業年度 金額(百万円) 平成22年4月1日~平成23年3月31日 200 平成23年4月1日~平成24年3月31日 240 平成24年4月1日~平成25年3月31日 5 平成25年4月1日~平成26年3月31日 3 平成26年4月1日~平成27年3月31日 2 合計 450

  • A社に対する債権について、債務免除及び現物出資を行う予定はない。

B社の状況は次のとおりである。

  • B社は設立時から電子部品を製造及び販売する事業を行っており、今後も継続する見込みである。
  • B社は従業員が120名である。
  • 買収前の役員は退任していない。
  • B社の設立日は平成19年8月4日であり、設立時からA社の100%子会社となっている。
  • B社の決算日は3月31日である。
  • B社の資本金等の額は100百万円である。
  • B社の平成25年9月30日時点の時価純資産価額は70百万円である。
  • B社の平成27年3月期の繰越欠損金は以下のとおりである。

発生事業年度 金額(百万円) 平成23年4月1日~平成24年3月31日 120 平成24年4月1日~平成25年3月31日 30 平成25年4月1日~平成26年3月31日 50 合計 200

  • 設立時からB社に対する債権は売買されたことはない。

P社では、今期(平成28年3月期)において、平成28年1月1日に、A社を合併法人、B社を被合併法人とする吸収合併を行うことになった。

この場合、合併に係る組織再編税制については、100%親子会社間の合併であるため、適格合併(法法2十二の八、法令4の3②)となり、5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件(法法57②③④、62の7①、法令112④⑨、123の8①)を満たしているため、本来、合併法人及び被合併法人の繰越欠損金の利用制限、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限は生じないが、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)については適用されるのであろうか。

 

《検討》

本ケースのように、ある事業会社を買収しようとした場合に、売主の希望により、その事業会社の100%親会社の株式を取得するケースがある。この場合、買収した100%親会社は、事業会社の株式を所有するだけの会社であり、買収者にとって100%親会社をそのまま残す必要はないため、買収後に、その100%親会社と事業会社の合併を検討することも多い。

このような場合、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)は適用されるのであろうか。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

特定株主等によって支配された欠損等法人
欠損金の繰越しの不適用(法人税法57条の2)の取扱い
~「繰越欠損金の使用制限」が形式的に適用される事例の検討~

【第3回】

「〈事例1〉欠損等法人が100%子会社の合併により
新規事業を開始するケース(第1号事由)」

 

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト パートナー
足立 好幸

 

〈事例1〉

欠損等法人が100%子会社の合併により新規事業を開始するケース(第1号事由)

P社(内国法人。決算日は3月31日。50%超の株式等を直接及び間接に所有する株主はいない)は、平成25年10月1日に、Q社からA社の発行済株式のすべてを取得した。その結果、A社はP社の100%子会社となり、A社の100%子会社であったB社がP社の100%孫会社となった。

A社の状況は次のとおりである。

  • A社は、買収時には事業を行っておらず、B社の株式を所有するだけの会社となっていた。
  • A社には買収時に従業員はいなかった。
  • A社の決算日は3月31日である。
  • A社の資本金等の額は550百万円である。
  • A社の所有するB社株式の税務上の帳簿価額は100百万円である。
  • A社の平成27年3月期の繰越欠損金は以下のとおりである。

発生事業年度 金額(百万円) 平成22年4月1日~平成23年3月31日 200 平成23年4月1日~平成24年3月31日 240 平成24年4月1日~平成25年3月31日 5 平成25年4月1日~平成26年3月31日 3 平成26年4月1日~平成27年3月31日 2 合計 450

  • A社に対する債権について、債務免除及び現物出資を行う予定はない。

B社の状況は次のとおりである。

  • B社は設立時から電子部品を製造及び販売する事業を行っており、今後も継続する見込みである。
  • B社は従業員が120名である。
  • 買収前の役員は退任していない。
  • B社の設立日は平成19年8月4日であり、設立時からA社の100%子会社となっている。
  • B社の決算日は3月31日である。
  • B社の資本金等の額は100百万円である。
  • B社の平成25年9月30日時点の時価純資産価額は70百万円である。
  • B社の平成27年3月期の繰越欠損金は以下のとおりである。

発生事業年度 金額(百万円) 平成23年4月1日~平成24年3月31日 120 平成24年4月1日~平成25年3月31日 30 平成25年4月1日~平成26年3月31日 50 合計 200

  • 設立時からB社に対する債権は売買されたことはない。

P社では、今期(平成28年3月期)において、平成28年1月1日に、A社を合併法人、B社を被合併法人とする吸収合併を行うことになった。

この場合、合併に係る組織再編税制については、100%親子会社間の合併であるため、適格合併(法法2十二の八、法令4の3②)となり、5年前の日又は設立日からの支配関係継続要件(法法57②③④、62の7①、法令112④⑨、123の8①)を満たしているため、本来、合併法人及び被合併法人の繰越欠損金の利用制限、特定資産譲渡等損失額の損金算入制限は生じないが、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)については適用されるのであろうか。

 

《検討》

本ケースのように、ある事業会社を買収しようとした場合に、売主の希望により、その事業会社の100%親会社の株式を取得するケースがある。この場合、買収した100%親会社は、事業会社の株式を所有するだけの会社であり、買収者にとって100%親会社をそのまま残す必要はないため、買収後に、その100%親会社と事業会社の合併を検討することも多い。

このような場合、欠損等法人の繰越欠損金の使用制限の規定(法法57の2、60の3)は適用されるのであろうか。

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

筆者紹介

足立 好幸

(あだち・よしゆき)

公認会計士・税理士
税理士法人トラスト

グループ通算制度・連結納税制度・組織再編税制を専門にグループ企業の税制最適化、企業グループ税制に係る業務を行う。

著書に、『令和5年11月改訂 プロフェッショナル グループ通算制度』『グループ通算制度への移行・採用の有利・不利とシミュレーション』『グループ法人税制Q&A』『M&A・組織再編のスキーム選択』(以上、清文社)、『グループ通算制度の実務Q&A』『グループ通算制度の税効果会計』『早わかり 連結納税制度の見直しQ&A-グループ通算制度の創設で何が変わる?』『ケーススタディでわかる連結納税申告書の作り方』『連結納税の組織再編税制ケーススタディ』『連結納税の清算課税ケーススタディ』『連結納税の欠損金Q&A』『連結納税導入プロジェクト』(以上、中央経済社)など多数。

 

関連書籍

演習法人税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

【電子書籍版】法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

〔目的別〕組織再編の最適スキーム

公認会計士・税理士 貝沼 彩 著 公認会計士・税理士 北山雅一 著 税理士 清水博崇 著 司法書士・社会保険労務士 齊藤修一 著

法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

プロフェッショナル グループ通算制度

公認会計士・税理士 足立好幸 著

組織再編税制大全

公認会計士・税理士 佐藤信祐 著

法人税申告の実務

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

詳解 グループ通算制度Q&A

デロイト トーマツ税理士法人 稲見誠一・大野久子 監修

法人税申告書と決算書の作成手順

税理士 杉田宗久 共著 税理士 岡野敏明 共著
#