理由付記の不備をめぐる事例研究
【第39回】
「寄附金(貸倒損失・債権放棄)」
~書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すると判断した理由は?~
千葉商科大学商経学部講師
泉 絢也
今回は、青色申告法人X社に対して行われた「書面による債権放棄の通告が寄附金に該当すること」を理由とする法人税更正処分の理由付記の十分性が争われた名古屋地裁平成8年3月22日判決(税資215号960頁。以下「本判決」という)を素材とする。
1 更正通知書に記載された更正の理由(本件理由付記)
更正の理由
貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから次のように申告書に記載された所得金額等に加算して更正しました。
(寄附金の損金不算入 〇〇〇円)
貴法人が有していた〇〇市〇〇のS工業(株)(以下「債務者」という)に対する貸付金7,600万円が回収不能であるとして××年12月27日付で債権放棄を書面によって債務者に通告し同年12月31日付で貸倒損失として損金に計上していることについては、下記の理由から回収不能が客観的に確認できませんので、この事実に基づく債権放棄による貸倒損失は寄附金と認められますから、寄附金の損金不算入額〇〇〇円を所得に加算します。
記
1 債務者は一度も事業を閉鎖あるいは廃止して休業に至ったという事実はないこと。
2 売上及び売上総利益率は年々上昇し収益力は高まっていること。
3 債務者は債権放棄日の前月まで債務を返済しており、債権放棄以後も債務者からの仕入取引がありその代金を支払っていること。
4 債権放棄時、債務者はT銀行A支店をはじめその他4行の銀行から融資を受けていること。
5 貴法人以外の他の債権者は債権放棄をしていないこと。
(注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。
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