公開日: 2013/04/18 (掲載号:No.15)
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監査基準の改訂・不正リスク対応基準の設定について~平成25年3月26日付 “意見書”のポイント~

筆者: 阿部 光成

4 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の監査手続
不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合や、識別した不正リスクに対応して追加的な監査手続を実施してもなお十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑いがより強くなると述べられている。

このため、不正リスク対応基準は、上記について不正による重要な虚偽の表示の疑義として扱わなければならないものとしている。

① 追加的な監査手続の実施の結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義がないと判断した場合には、その旨と理由を監査調書に記載しなければならない。

② 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、想定される不正の態様等に直接対応した監査手続を立案し監査計画を修正するとともに、修正した監査計画に従って監査手続を実施しなければならない。

5 不正リスクに関連する審査
不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、監査事務所として適切な監査意見を形成するため、審査についてもより慎重な対応が求められている。そして、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査の担当者による審査が完了するまでは意見の表明ができないことが述べられている。

6 監査役等との連携
監査人は、監査の各段階において、監査役等との連携を図らなければならないことについて述べられている。

これは、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合や経営者の関与が疑われる不正を発見した場合には、取締役の職務の執行を監査する監査役や監査委員会と連携を図ることが有効であると考えられているためである。

また、意見書の「一経緯 1審議の背景」では、不正に関しては、財務諸表作成者である経営者に責任があると述べ、監査人は、企業における内部統制の取組みを考慮するとともに、取締役の職務の執行を監査する監査役等と適切に連携を図っていくことが重要であると述べられている。

不正リスク対応基準では、監査人は、監査実施の過程において、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないとしている。

 

Ⅴ 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理

不正リスク対応基準は、監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための監査事務所としての品質管理を規定している。これは、現在各監査事務所で行っている品質管理のシステムに加えて、新たな品質管理のシステムの導入を求めているものではなく、監査事務所が整備すべき品質管理のシステムにおいて、不正リスクに対応する観点から特に留意すべき点を明記したものである。

1 監査事務所間の引継ぎ
監査事務所交代時において、前任監査事務所は、後任の監査事務所に対して、不正リスクへの対応状況を含め、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項を伝達するとともに、後任監査事務所から要請のあったそれらに関連する監査調書の閲覧に応じるように、引継ぎに関する方針と手続に定めなければならない。

後任監査事務所は、前任監査事務所に対して、監査事務所の交代理由のほか、不正リスクへの対応状況、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項について質問するように、引継ぎに関する方針及び手続に定めなければならない。

2 監査実施の責任者間の引継ぎ
監査事務所内において、同一の企業の監査業務を担当する監査実施の責任者が全員交代する場合(監査実施の責任者が1人である場合の交代を含む)は、監査上の重要な事項が適切に伝達されなければならない。

 

Ⅵ 監査基準の改訂

監査基準について、次の事項を改訂している。

① 品質管理の方針及び手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には、審査を受けないことができる。

② 監査役等との連携

   現行の監査基準では監査役等との連携に関する規定がないが、監査における監査役等との連携は、不正が疑われる場合に限らず重要であると考えられることから、監査人は、監査の各段階において、適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければならないことを明記している。

 

Ⅶ その他の公開草案からの主な修正事項

1 監査契約の新規の締結及び更新
監査契約の新規の締結及び更新に関する方針及び手続に、不正リスクを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価することを含めるとともに、監査契約の新規の締結及び更新の判断に際して(更新時はリスクの程度に応じ)、監査事務所としての検討を求めている。

更新の際の判断については、「更新時はリスクの程度に応じ」と、カッコ書が追加されている。

2 経済合理性から事業上の合理性への変更
公開草案では、「監査の過程で発見した経済合理性等に疑問を抱かせる特異な取引」などのように経済合理性の用語が用いられていた。
意見書では、事業上の合理性の用語が用いられている。

これは用語の統一を行うこと、事業上の合理性の用語のほうが、経済合理性よりもやや広い範囲をカバーする用語と考えられることから、変更を行ったものと考えられる。

 

Ⅷ 実施時期等

1 監査基準の改訂
改訂監査基準は、平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。

2 不正リスク対応基準

① 不正リスク対応基準は、平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。

② 不正リスク対応基準中、第三 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理については、平成25年10月1日から実施する。

③ 不正リスク対応基準は、中間監査に準用し、平成26年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から実施する。

(了)

監査基準の改訂・

不正リスク対応基準の設定について

~平成25年3月26日付 “意見書”のポイント~

 

公認会計士 阿部 光成

 

平成25年3月26日、企業会計審議会は「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下「意見書」という)を公表した。これにより、平成24年12月21日に、公開草案を公表し、意見募集を行っていたものが確定したことになる。

公開草案では、「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)」の表題であったが、意見書では「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」の表題となり、「監査基準の改訂に関する意見書」と「監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下、「監査における不正リスク対応基準」を含め、「不正リスク対応基準」という)から構成されている。

本稿では、意見書の主なポイントについて解説を行う。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

【参考】 金融庁ホームページ
「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」の公表について」(企業会計審議会(平成25年3月26日))

 

Ⅰ 不正リスク対応基準の考え方

不正リスク対応基準は、次の基本的な考え方に基づいている。

① 財務諸表監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正を対象としており、重要な虚偽の表示とは関係のない不正は対象としていない。

② 不正リスク対応基準は、財務諸表監査の目的を変えるものではなく、不正摘発自体を意図するものでもない。財務諸表監査における不正による重要な虚偽表示のリスク(以下「不正リスク」という)に対応する監査手続等を規定している(公開草案から記載の順序を入れ変えている)。

③ すべての財務諸表監査において画一的に不正リスクに対応するための追加的な監査手続の実施を求めることを意図しているものではない。

   被監査企業に不正による財務諸表に重要な虚偽の表示を示唆するような状況がないような場合や監査人において既に不正リスク対応基準に規定されているような監査手続等を実施している場合には、現行の監査基準に基づく監査の実務と基本的には変わらない(過重な監査手続を求めるものではない)。

④ 財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の意見表明に対する監査人の責任とは区別されている(二重責任の原則)。

   経営者の作成した財務諸表に重要な虚偽の表示がないことについて、正当な注意を払って監査を行った場合には、監査人としてはその責任を果たしたことになる。

④に関して、公開草案では「正当な注意を払って監査を行った場合には、基本的には、監査人は責任を問われることはない」とされていた。

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筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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