公開日: 2025/06/12 (掲載号:No.622)
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谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第37回】「国税通則法105条(104条、106条~113条の2)」-執行不停止原則とその例外-

筆者: 谷口 勢津夫

谷口教授と学ぶ

国税通則法構造手続

【第37回】

「国税通則法105条(104条、106条~113条の2)」

-執行不停止原則とその例外-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法105条(不服申立てと国税の徴収との関係)

(不服申立てと国税の徴収との関係)

第105条 国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となつた処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。ただし、その国税の徴収のため差し押さえた財産(国税徴収法第89条の2第4項(参加差押えをした税務署長による換価)に規定する特定参加差押不動産を含む。)の滞納処分(その例による処分を含む。以下この条において同じ。)による換価は、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき、又は不服申立人(不服申立人が処分の相手方でないときは、不服申立人及び処分の相手方)から別段の申出があるときを除き、その不服申立てについての決定又は裁決があるまで、することができない。

2 再調査審理庁又は国税庁長官は、必要があると認める場合には、再調査の請求人又は第75条第1項第2号若しくは第2項(第2号に係る部分に限る。)(国税に関する処分についての不服申立て)の規定による審査請求をした者(次項において「再調査の請求人等」という。)の申立てにより、又は職権で、不服申立ての目的となつた処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止し、又はこれらを命ずることができる。

3 再調査審理庁又は国税庁長官は、再調査の請求人等が、担保を提供して、不服申立ての目的となった処分に係る国税につき、滞納処分による差押えをしないこと又は既にされている滞納処分による差押えを解除することを求めた場合において、相当と認めるときは、その差押えをせず、若しくはその差押えを解除し、又はこれらを命ずることができる。

4 国税不服審判所長は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、又は職権で、審査請求の目的となつた処分に係る国税につき、第43条(国税の徴収の所轄庁)及び第44条(更生手続等が開始した場合の徴収の所轄庁の特例)の規定により徴収の権限を有する国税局長、税務署長又は税関長(以下この条において「徴収の所轄庁」という。)の意見を聴いた上、当該国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、又は滞納処分の続行を停止することを徴収の所轄庁に求めることができる。

5 国税不服審判所長は、審査請求人が、徴収の所轄庁に担保を提供して、審査請求の目的となつた処分に係る国税につき、滞納処分による差押えをしないこと又は既にされている滞納処分による差押えを解除することを求めた場合において、相当と認めるときは、徴収の所轄庁に対し、その差押えをしないこと又はその差押えを解除することを求めることができる。

6 徴収の所轄庁は、国税不服審判所長から第4項の規定により徴収の猶予若しくは滞納処分の続行の停止を求められ、又は前項の規定により差押えをしないこと若しくはその差押えを解除することを求められたときは、審査請求の目的となつた処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止し、又はその差押えをせず、若しくはその差押えを解除しなければならない。

7 第49条第1項第1号及び第3号、第2項並びに第3項(納税の猶予の取消し)の規定は、第2項、第3項又は前項の規定に基づく処分の取消しについて準用する。この場合において、同項の規定による処分の取消しについて同条第1項の規定を準用するときは、同項中「税務署長等は」とあるのは、「徴収の所轄庁は、国税不服審判所長の同意を得て」と読み替えるものとする。

8 第75条第1項第2号又は第2項(第2号に係る部分に限る。)の規定による審査請求に係る審理員(行政不服審査法第11条第2項(総代)に規定する審理員をいう。第108条第5項(総代)において同じ。)は、必要があると認める場合には、国税庁長官に対し、第2項の規定に基づき徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止すること又は第3項の規定に基づき差押えをせず、若しくはその差押えを解除することを徴収の所轄庁に命ずべき旨の意見書を提出することができる。

 

1 はじめに

国税通則法第8章(不服審査及び訴訟)第1節(不服審査)第1款は、不服審査に関する「雑則」を定めている。今回は、「雑則」で定められている諸規定(104条~113条の2)のうち、本連載における筆者の問題関心の中心にある国税通則法の「構造」(第1回とりわけ同参照)と深く関連すると思われる「不服申立てと国税の徴収との関係」に関する同法105条の規定について、執行不停止原則とその例外を検討する。

その検討に入る前に、執行不停止原則(税通105条1項本文)に係る用語について、それぞれの意味を確認しておくと、次の解説がされている(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大蔵財務協会・2025年)1310頁。武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)4877頁も参照)。

(1) 処分の効力の不停止とは、例えば、更正決定の場合に、納付すべき税額が確定すること、更正決定税額を所定の期限までに納付すべきであること等の効力が、不服申立てによっても影響されないことをいう。

(2) 処分の執行の不停止とは、例えば、更正決定税額が所定の期限までに納付されない場合に不服申立てがされても、督促やさらに滞納処分を執行しうることをいう(・・・・・・)。

(3) 手続の続行の不停止とは、例えば、滞納処分手続において、先行処分(差押え)に不服申立てがされても、それに続く処分(差押債権の取立て、取り立てた金銭の充当等)をすることができることをいう。

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国税通則法構造手続

【第37回】

「国税通則法105条(104条、106条~113条の2)」

-執行不停止原則とその例外-

 

大阪学院大学法学部教授
谷口 勢津夫

 

国税通則法105条(不服申立てと国税の徴収との関係)

(不服申立てと国税の徴収との関係)

第105条 国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となつた処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。ただし、その国税の徴収のため差し押さえた財産(国税徴収法第89条の2第4項(参加差押えをした税務署長による換価)に規定する特定参加差押不動産を含む。)の滞納処分(その例による処分を含む。以下この条において同じ。)による換価は、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき、又は不服申立人(不服申立人が処分の相手方でないときは、不服申立人及び処分の相手方)から別段の申出があるときを除き、その不服申立てについての決定又は裁決があるまで、することができない。

2 再調査審理庁又は国税庁長官は、必要があると認める場合には、再調査の請求人又は第75条第1項第2号若しくは第2項(第2号に係る部分に限る。)(国税に関する処分についての不服申立て)の規定による審査請求をした者(次項において「再調査の請求人等」という。)の申立てにより、又は職権で、不服申立ての目的となつた処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止し、又はこれらを命ずることができる。

3 再調査審理庁又は国税庁長官は、再調査の請求人等が、担保を提供して、不服申立ての目的となった処分に係る国税につき、滞納処分による差押えをしないこと又は既にされている滞納処分による差押えを解除することを求めた場合において、相当と認めるときは、その差押えをせず、若しくはその差押えを解除し、又はこれらを命ずることができる。

4 国税不服審判所長は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、又は職権で、審査請求の目的となつた処分に係る国税につき、第43条(国税の徴収の所轄庁)及び第44条(更生手続等が開始した場合の徴収の所轄庁の特例)の規定により徴収の権限を有する国税局長、税務署長又は税関長(以下この条において「徴収の所轄庁」という。)の意見を聴いた上、当該国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、又は滞納処分の続行を停止することを徴収の所轄庁に求めることができる。

5 国税不服審判所長は、審査請求人が、徴収の所轄庁に担保を提供して、審査請求の目的となつた処分に係る国税につき、滞納処分による差押えをしないこと又は既にされている滞納処分による差押えを解除することを求めた場合において、相当と認めるときは、徴収の所轄庁に対し、その差押えをしないこと又はその差押えを解除することを求めることができる。

6 徴収の所轄庁は、国税不服審判所長から第4項の規定により徴収の猶予若しくは滞納処分の続行の停止を求められ、又は前項の規定により差押えをしないこと若しくはその差押えを解除することを求められたときは、審査請求の目的となつた処分に係る国税の全部若しくは一部の徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止し、又はその差押えをせず、若しくはその差押えを解除しなければならない。

7 第49条第1項第1号及び第3号、第2項並びに第3項(納税の猶予の取消し)の規定は、第2項、第3項又は前項の規定に基づく処分の取消しについて準用する。この場合において、同項の規定による処分の取消しについて同条第1項の規定を準用するときは、同項中「税務署長等は」とあるのは、「徴収の所轄庁は、国税不服審判所長の同意を得て」と読み替えるものとする。

8 第75条第1項第2号又は第2項(第2号に係る部分に限る。)の規定による審査請求に係る審理員(行政不服審査法第11条第2項(総代)に規定する審理員をいう。第108条第5項(総代)において同じ。)は、必要があると認める場合には、国税庁長官に対し、第2項の規定に基づき徴収を猶予し、若しくは滞納処分の続行を停止すること又は第3項の規定に基づき差押えをせず、若しくはその差押えを解除することを徴収の所轄庁に命ずべき旨の意見書を提出することができる。

 

1 はじめに

国税通則法第8章(不服審査及び訴訟)第1節(不服審査)第1款は、不服審査に関する「雑則」を定めている。今回は、「雑則」で定められている諸規定(104条~113条の2)のうち、本連載における筆者の問題関心の中心にある国税通則法の「構造」(第1回とりわけ同参照)と深く関連すると思われる「不服申立てと国税の徴収との関係」に関する同法105条の規定について、執行不停止原則とその例外を検討する。

その検討に入る前に、執行不停止原則(税通105条1項本文)に係る用語について、それぞれの意味を確認しておくと、次の解説がされている(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和7年改訂・18版〕』(大蔵財務協会・2025年)1310頁。武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)4877頁も参照)。

(1) 処分の効力の不停止とは、例えば、更正決定の場合に、納付すべき税額が確定すること、更正決定税額を所定の期限までに納付すべきであること等の効力が、不服申立てによっても影響されないことをいう。

(2) 処分の執行の不停止とは、例えば、更正決定税額が所定の期限までに納付されない場合に不服申立てがされても、督促やさらに滞納処分を執行しうることをいう(・・・・・・)。

(3) 手続の続行の不停止とは、例えば、滞納処分手続において、先行処分(差押え)に不服申立てがされても、それに続く処分(差押債権の取立て、取り立てた金銭の充当等)をすることができることをいう。

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連載目次

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」

筆者紹介

谷口 勢津夫

(たにぐち・せつお)

大阪学院大学法学部教授

1956年高知県生まれ。京都大学法学部卒業、同大学大学院法学研究科博士後期課程単位修得退学。甲南大学法学部教授、大阪大学大学院高等司法研究科教授を経て2022年4月より現職。大阪大学名誉教授。ほかに大阪大学大学院高等司法研究科長・大阪大学法務室長、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団奨励研究員(Forschungsstipendiat der Alexander von Humboldt-Stiftung)・ミュンヘン大学客員研究員、日本税法学会理事長、租税法学会理事、IFA(International Fiscal Association)日本支部理事、資産評価政策学会理事、司法試験考査委員、公認会計士試験試験委員、独立行政法人造幣局契約監視委員会委員・委員長、大阪府収用委員会委員・会長、大阪府行政不服審査会委員・会長、公益財団法人日本税務研究センター評議員・同「日税研究賞」選考委員、公益財団法人納税協会連合会「税に関する論文」選考委員、公益社団法人商事法務研究会「商事法務研究会賞」審査委員、近畿税理士会・近畿税務研究センター顧問など(一部現職。ほか歴任)。

主要著書は『租税条約論』(清文社・1999年)、『租税回避論』(清文社・2014年)、『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(共著・ミネルヴァ書房・2015年)、『税法の基礎理論』(清文社・2021年)、『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)、『基礎から学べる租税法〔第3版〕』(共著・弘文堂・2022年)、『税法創造論』(清文社・2022年)、『税法基本判例Ⅰ』(清文社、2023年)など。
 
  

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