公開日: 2015/09/03 (掲載号:No.134)
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〔書評〕 酒井克彦 著『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』

筆者: 平 仁

※この記事は会員以外の方もご覧いただけます。

〔書評〕

酒井克彦 著

『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈

~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』

(清文社・2015年7月刊・A5判・224頁・定価=本体2,200円+税)

〈評者〉          
東京福祉大学准教授
ABC税理士法人
税理士 平 仁

税務調査に対する対応に迷いを抱える税理士は多い。

税務調査の結果、増差税額が生じたため、クライアントに追徴税額の支払いを依頼しなければならないだけではなく、追加的に延滞税・加算税の支払いを依頼しなければならないからである。

また、税務調査の際に税務署との見解の相違が明らかとなり、修正申告を余儀なくされる場合に課される加算税の負担をクライアントに求める場合に、クライアントとの間にトラブルになる場合も多いからであろう。

本書は、税理士とクライアントとの間のトラブルに発展しがちな加算税について、加算税を課さない「正当な理由」について、条文解釈とともに判例研究を通じて、その認定判断基準を明確にすることにチャレンジした意欲作である。

加算税は申告納税制度の下における適法性を確保するために設けられたものであり、「①法に基づく正確性や、②申告期限が守られない場合のペナルティ」(12頁)であると定義した上で、判例は、「①当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図ること、②過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図ること」(15頁)との趣旨を明らかにしている。

一方で、加算税を課さないことに対する政策的合理性のある根拠として、加算税通達を公表することが必要であることを明言し、加算税通達が例示する免除理由が明確になっているからこそ、その反対解釈から加算税を課す根拠が明確になるのである。その上で、通説である「不当・酷説」に基づき、加算税免除の判断基準として行政訴訟において採用される「クリーンハンドの原則」(自ら不正に関与した者は裁判所の救済を受けることができないというイギリス法の原則)が租税法においても前提されていることを明らかにしている(72頁以下)。

また、租税争訟における立証責任は原則として課税庁側に求められるが、「法律要件分類説に立って考えれば、課税権の発生に対する権利障害規定は、納税者側が主張・立証責任を負うと解すべき」(65頁)であり、「多くの裁判例において、「正当な理由」の主張・立証責任は納税者側にあると判断されており、学説上も通説である」(66頁)とする。しかし「不当性判断が行政上の措置としての妥当性に根拠を有するとするならば、不当性判断による「正当な理由」要件を納税者の側で主張・立証することに困難が伴うこともありえる」(70頁)から、我々実務家を悩ませることになるのである。だからこそ、クリーンハンドの原則が整合性をもつのである。

本書を通じ、税理士が、加算税を課さない「正当な理由」の判断基準を己のものにすることは、クライアントの責任ではない加算税の支払いを要求させないようになる、ということであり、納税者の権利を擁護する税理士の役割そのものと言えるであろう。ひいては課税権力の透明性を高めることにもつながり、適正な税務行政の実現を図ることになるものと思われる。

そういう意味では、国税庁OBである筆者が「正当な理由」の判断基準を明確にしようとしたチャレンジは、税務行政と納税者とを結ぶ懸け橋としての役割を果たすものであると言えよう。

(了)

〔書籍情報〕

「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈

~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈

  • 著者:酒井 克彦 著
  • 出版社:清文社
  • 発行日:2015年7月31日
  • 判型:A5判 224頁
  • 概要:加算税が免除されるか否かという、納税者にとって大きな関心事である「正当な理由」について、加算税の免除要件を構成する「正当な理由」がある場合はどのような場合であるか等、加算税制度の理解や、過去の判例等の知識を整理し、検討の素材を提供。
  • ISBN:978-4-433-52075-5
  • 定価:2,376円(税込)
  • 会員価格:2,138円(税込)

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〔書評〕

酒井克彦 著

『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈

~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』

(清文社・2015年7月刊・A5判・224頁・定価=本体2,200円+税)

〈評者〉          
東京福祉大学准教授
ABC税理士法人
税理士 平 仁

税務調査に対する対応に迷いを抱える税理士は多い。

税務調査の結果、増差税額が生じたため、クライアントに追徴税額の支払いを依頼しなければならないだけではなく、追加的に延滞税・加算税の支払いを依頼しなければならないからである。

また、税務調査の際に税務署との見解の相違が明らかとなり、修正申告を余儀なくされる場合に課される加算税の負担をクライアントに求める場合に、クライアントとの間にトラブルになる場合も多いからであろう。

本書は、税理士とクライアントとの間のトラブルに発展しがちな加算税について、加算税を課さない「正当な理由」について、条文解釈とともに判例研究を通じて、その認定判断基準を明確にすることにチャレンジした意欲作である。

加算税は申告納税制度の下における適法性を確保するために設けられたものであり、「①法に基づく正確性や、②申告期限が守られない場合のペナルティ」(12頁)であると定義した上で、判例は、「①当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図ること、②過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図ること」(15頁)との趣旨を明らかにしている。

一方で、加算税を課さないことに対する政策的合理性のある根拠として、加算税通達を公表することが必要であることを明言し、加算税通達が例示する免除理由が明確になっているからこそ、その反対解釈から加算税を課す根拠が明確になるのである。その上で、通説である「不当・酷説」に基づき、加算税免除の判断基準として行政訴訟において採用される「クリーンハンドの原則」(自ら不正に関与した者は裁判所の救済を受けることができないというイギリス法の原則)が租税法においても前提されていることを明らかにしている(72頁以下)。

また、租税争訟における立証責任は原則として課税庁側に求められるが、「法律要件分類説に立って考えれば、課税権の発生に対する権利障害規定は、納税者側が主張・立証責任を負うと解すべき」(65頁)であり、「多くの裁判例において、「正当な理由」の主張・立証責任は納税者側にあると判断されており、学説上も通説である」(66頁)とする。しかし「不当性判断が行政上の措置としての妥当性に根拠を有するとするならば、不当性判断による「正当な理由」要件を納税者の側で主張・立証することに困難が伴うこともありえる」(70頁)から、我々実務家を悩ませることになるのである。だからこそ、クリーンハンドの原則が整合性をもつのである。

本書を通じ、税理士が、加算税を課さない「正当な理由」の判断基準を己のものにすることは、クライアントの責任ではない加算税の支払いを要求させないようになる、ということであり、納税者の権利を擁護する税理士の役割そのものと言えるであろう。ひいては課税権力の透明性を高めることにもつながり、適正な税務行政の実現を図ることになるものと思われる。

そういう意味では、国税庁OBである筆者が「正当な理由」の判断基準を明確にしようとしたチャレンジは、税務行政と納税者とを結ぶ懸け橋としての役割を果たすものであると言えよう。

(了)

〔書籍情報〕

「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈

~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈

  • 著者:酒井 克彦 著
  • 出版社:清文社
  • 発行日:2015年7月31日
  • 判型:A5判 224頁
  • 概要:加算税が免除されるか否かという、納税者にとって大きな関心事である「正当な理由」について、加算税の免除要件を構成する「正当な理由」がある場合はどのような場合であるか等、加算税制度の理解や、過去の判例等の知識を整理し、検討の素材を提供。
  • ISBN:978-4-433-52075-5
  • 定価:2,376円(税込)
  • 会員価格:2,138円(税込)

筆者紹介

平 仁

(たいら・ひとし)

東京福祉大学社会福祉学部准教授
ABC税理士法人
税理士

2002年 税理士登録。
2003年2月 平仁税理士事務所を開設。
2010年6月 ABC税理士法人を設立。

独立開業と同じくして、大学における税法等の教育を手掛け、青山学院大学大学院会計プロフェッション研究科客員教授(租税法総論・法人税法、経営学部税務会計論)、法政大学経営学部兼任講師(税理士会寄付講座)をはじめ、専修大学、国士舘大学、獨協大学、産能大学(通信教育部サポート校)で非常勤講師を務める。
日本税法学会理事、租税訴訟学会理事、法政会計人会幹事。

判例研究から得られた知見を実務に生かす研究がポリシー。
「理論武装は納税者のために!」

【主な著書】
・『税務争訟ガイドブック』(共著、民事法研究会2008年)
・「IFRSアドプションと確定決算主義」税務会計研究23号2012年
・「租税法における遡及立法の意義」税法学564号2010年

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