公開日: 2022/12/01 (掲載号:No.497)
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〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第4回】「ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引」

筆者: 喜多 弘美

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第4回】

「ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引」

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

【第3回】では、リース取引の流れについて整理しました。リース契約を締結すると、今後、リース会社と取引が発生し会計処理を行います。どのような会計処理を行うか、その判断に必要になってくるのが、リース取引の判定です。

 

1 リース取引の全体像

まずは、リース取引の全体像をみていきましょう。リース取引には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引があり、オペレーティング・リース取引はファイナンス・リース取引以外の取引と定義されています。また、ファイナンス・リース取引には、所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引があります。

今回は、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の判定について、ファイナンス・リース取引の定義、ファイナンス・リース取引の条件をみていきます。

 

2 ファイナンス・リース取引の定義

企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第5項では、ファイナンス・リース取引を次のとおり定義しています(下線筆者)。

「ファイナンス・リース取引」とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」という。)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいう。

長い文章ですが、簡単にすると、以下2つの条件をどちらも満たすことでファイナンス・リース取引と判定します。

 リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずる取引(中途解約不能)

 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト)

 

3 ファイナンス・リース取引の条件

次に、上記2つの条件について、具体的にみていきましょう。

 リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずる取引(中途解約不能)

「リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引」は、契約書上にリース期間中に解約することができないと明記されている場合です。また、「これに準ずる取引」は、契約書上はリース期間中に解約可能であっても事実上解約できないと考えられる契約のことを指します。具体的には、以下のような場合です。

  • 解約時に、未経過のリース期間に係るリース料の概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引
  • 解約時に、未経過のリース期間に係るリース料から、借手の負担に帰属しない未経過のリース期間に係る利息等として、一定の算式により算出した額を差し引いたものの概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引

つまり、リース期間中に解約できたとしても、上記2つのような場合は、多額の規定損害金を支払うこととなるため事実上解約できず、中途解約不能といえるでしょう。

 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト)

「借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ」るとは、リース物件を使用することで得られる利益をほとんどすべて得られるということです。また、「当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する」とは、リース物件を使用する場合にかかってくるコスト(リース物件の取得価額相当額、維持管理費用等)のほとんどすべてを負担することをいいます。

つまり、リース物件を使用する場合にかかってくるほとんどすべてのコストを負担する代わりに、リース物件を使用することで得られる利益ほとんどすべてを得られる場合、この条件を満たします。すなわち、物件を購入した場合と、変わらない実態といえるでしょう。この条件を満たすリース取引は、フルペイアウトのリース取引といわれます。

では、フルペイアウトのリース取引かどうかは具体的にどのように判断されるのでしょうか。以下2つの判断方法があります。

 リース料総額で判断する場合(現在価値基準)

 リース期間で判断する場合(経済的耐用年数基準)

 

4 ファイナンス・リース取引:フルペイアウトの判断基準

 リース料総額で判断する場合(現在価値基準)

これは、解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値と、リース物件を仮に購入した場合に支払う金額を比較する方法です。つまり、リース契約でも、物件を購入した場合と変わらないコストを支払っている場合はフルペイアウトと判断されます。

具体的には、解約不能のリース期間中のリース料総額は、毎月支払うリース料を単純に合計したものには、リース会社に支払う利息が含まれています。そのため、リース料総額からリース会社に支払う利息部分を除いた価値(リース料総額の現在価値)と仮に購入する場合に支払う金額を比較し、リース料総額の現在価値が仮に購入する場合に支払う金額の90%以上である場合は、フルペイアウトのリース取引と判断します。購入する場合に支払う金額を「見積購入価額」、リース料総額で判断する方法を「現在価値基準」と呼んでいます。

◆リース料総額で判断する場合

リース料総額の現在価値見積購入価額 × 90%

 リース期間で判断する場合(経済的耐用年数基準)

これは、解約不能のリース期間とリース物件の経済的耐用年数を比較する方法です。つまり、経済的耐用年数(使用可能な期間)のほとんどすべての期間にわたり、リース物件を使用している場合はフルペイアウトと判断されます。

具体的には、解約不能のリース期間がリース物件の経済的耐用年数の75%以上である場合は、フルペイアウトと判断します。リース期間で判断する方法を「経済的耐用年数基準」と呼んでいます。

◆リース期間で判断する場合

解約不能のリース期間経済的耐用年数 × 75%

このように、フルペイアウトのリース取引かどうかの判断には2つの基準が設けられていますが、原則は現在価値基準で判断します。ただ、現在価値基準を計算することが実務上は大変なので、経済的耐用年数基準も設けられています。

*  *  *

今回は、ファイナンス・リース取引の判定基準についてみてきましたが、少しややこしく感じたかもしれません。

最後にまとめると、「中途解約不能」かつ「フルペイアウトのリース取引」をファイナンス・リース取引といい、「中途解約不能」と「フルペイアウトのリース取引」のどちらか一方でも満たさない取引はオペレーティング・リース取引と判定します。

また、前述のとおり「フルペイアウトのリース取引」の判断基準には、「現在価値基準」と「経済的耐用年数基準」があります。以上を下図にまとめましたので参考にしてみてください。

(了)

次回は2023年6月1日に掲載予定です。

〈一から学ぶ〉

リース取引会計税務

【第4回】

「ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引」

 

公認会計士・税理士
喜多 弘美

 

【第3回】では、リース取引の流れについて整理しました。リース契約を締結すると、今後、リース会社と取引が発生し会計処理を行います。どのような会計処理を行うか、その判断に必要になってくるのが、リース取引の判定です。

 

1 リース取引の全体像

まずは、リース取引の全体像をみていきましょう。リース取引には、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引があり、オペレーティング・リース取引はファイナンス・リース取引以外の取引と定義されています。また、ファイナンス・リース取引には、所有権移転ファイナンス・リース取引と所有権移転外ファイナンス・リース取引があります。

今回は、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の判定について、ファイナンス・リース取引の定義、ファイナンス・リース取引の条件をみていきます。

 

2 ファイナンス・リース取引の定義

企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第5項では、ファイナンス・リース取引を次のとおり定義しています(下線筆者)。

「ファイナンス・リース取引」とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」という。)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引をいう。

長い文章ですが、簡単にすると、以下2つの条件をどちらも満たすことでファイナンス・リース取引と判定します。

 リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずる取引(中途解約不能)

 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト)

 

3 ファイナンス・リース取引の条件

次に、上記2つの条件について、具体的にみていきましょう。

 リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずる取引(中途解約不能)

「リース契約に基づく期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引」は、契約書上にリース期間中に解約することができないと明記されている場合です。また、「これに準ずる取引」は、契約書上はリース期間中に解約可能であっても事実上解約できないと考えられる契約のことを指します。具体的には、以下のような場合です。

  • 解約時に、未経過のリース期間に係るリース料の概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引
  • 解約時に、未経過のリース期間に係るリース料から、借手の負担に帰属しない未経過のリース期間に係る利息等として、一定の算式により算出した額を差し引いたものの概ね全額を、規定損害金として支払うこととされているリース取引

つまり、リース期間中に解約できたとしても、上記2つのような場合は、多額の規定損害金を支払うこととなるため事実上解約できず、中途解約不能といえるでしょう。

 借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引(フルペイアウト)

「借手が、当該契約に基づき使用する物件からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ」るとは、リース物件を使用することで得られる利益をほとんどすべて得られるということです。また、「当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担する」とは、リース物件を使用する場合にかかってくるコスト(リース物件の取得価額相当額、維持管理費用等)のほとんどすべてを負担することをいいます。

つまり、リース物件を使用する場合にかかってくるほとんどすべてのコストを負担する代わりに、リース物件を使用することで得られる利益ほとんどすべてを得られる場合、この条件を満たします。すなわち、物件を購入した場合と、変わらない実態といえるでしょう。この条件を満たすリース取引は、フルペイアウトのリース取引といわれます。

では、フルペイアウトのリース取引かどうかは具体的にどのように判断されるのでしょうか。以下2つの判断方法があります。

 リース料総額で判断する場合(現在価値基準)

 リース期間で判断する場合(経済的耐用年数基準)

 

4 ファイナンス・リース取引:フルペイアウトの判断基準

 リース料総額で判断する場合(現在価値基準)

これは、解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値と、リース物件を仮に購入した場合に支払う金額を比較する方法です。つまり、リース契約でも、物件を購入した場合と変わらないコストを支払っている場合はフルペイアウトと判断されます。

具体的には、解約不能のリース期間中のリース料総額は、毎月支払うリース料を単純に合計したものには、リース会社に支払う利息が含まれています。そのため、リース料総額からリース会社に支払う利息部分を除いた価値(リース料総額の現在価値)と仮に購入する場合に支払う金額を比較し、リース料総額の現在価値が仮に購入する場合に支払う金額の90%以上である場合は、フルペイアウトのリース取引と判断します。購入する場合に支払う金額を「見積購入価額」、リース料総額で判断する方法を「現在価値基準」と呼んでいます。

◆リース料総額で判断する場合

リース料総額の現在価値見積購入価額 × 90%

 リース期間で判断する場合(経済的耐用年数基準)

これは、解約不能のリース期間とリース物件の経済的耐用年数を比較する方法です。つまり、経済的耐用年数(使用可能な期間)のほとんどすべての期間にわたり、リース物件を使用している場合はフルペイアウトと判断されます。

具体的には、解約不能のリース期間がリース物件の経済的耐用年数の75%以上である場合は、フルペイアウトと判断します。リース期間で判断する方法を「経済的耐用年数基準」と呼んでいます。

◆リース期間で判断する場合

解約不能のリース期間経済的耐用年数 × 75%

このように、フルペイアウトのリース取引かどうかの判断には2つの基準が設けられていますが、原則は現在価値基準で判断します。ただ、現在価値基準を計算することが実務上は大変なので、経済的耐用年数基準も設けられています。

*  *  *

今回は、ファイナンス・リース取引の判定基準についてみてきましたが、少しややこしく感じたかもしれません。

最後にまとめると、「中途解約不能」かつ「フルペイアウトのリース取引」をファイナンス・リース取引といい、「中途解約不能」と「フルペイアウトのリース取引」のどちらか一方でも満たさない取引はオペレーティング・リース取引と判定します。

また、前述のとおり「フルペイアウトのリース取引」の判断基準には、「現在価値基準」と「経済的耐用年数基準」があります。以上を下図にまとめましたので参考にしてみてください。

(了)

次回は2023年6月1日に掲載予定です。

連載目次

〈一から学ぶ〉

リース取引の会計税務

令和5年5月2日付でASBJより企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等が公表されましたが、本連載は改正前(現行)制度のおさらいを行うことも目的としていますので、原則、上記改正基準案については取り上げていません。

筆者紹介

喜多 弘美

(きた・ひろみ)

公認会計士・税理士

喜多弘美公認会計士税理士事務所 所長

神戸大学経済学部、甲南会計大学院卒業。

2010年公認会計士試験論文試験合格後、上場会社経理部に所属し、固定資産・消費税を担当。その後、大手監査法人で会計監査、グループ会社で内部監査・人事に携わる。2020年4月から個人事務所を開業し、会計システム導入支援・記帳代行に従事。2020年11月税理士登録。

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