公開日: 2023/10/10
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《速報解説》 ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集

筆者: 阿部 光成

《速報解説》

ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る
自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年10月6日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。

 「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第80号。以下「自己株式等会計適用指針案」という)

 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第81号。以下「税効果適用指針案」という)

これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。

また、同日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。

  • 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)の改正について(公開草案)(以下「資本連結実務指針案」という)

意見募集期間は、いずれも2023年12月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 基準開発の範囲

令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置が設けられている(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)。

基準開発の範囲は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に限定している。

これは、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられるケースとしたためである。

完全子会社以外の子会社株式の一部の配当、現物配当実施会社の株主の会計処理などは、今回の公開草案の範囲外とし、その取扱いは示していない。

 

Ⅲ 個別財務諸表の会計処理

現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する(自己株式等会計適用指針案10項(2-2)、38-2項)。

つまり、基準開発の範囲のケースについては、配当財産の時価ではなく、配当財産の適正な帳簿価額をもって会計処理することになる。

 

Ⅳ 現物配当実施会社の税効果会計

現物配当実施会社の税効果会計については、現行の「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めを変更しない。

一方、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加する(税効果適用指針案4項、124-2項)。

 

Ⅴ 適用時期等

公表日以後ただちに適用することを提案している。

また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことを提案している。

 

Ⅵ 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針(案)」

保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、次のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行う(資本連結実務指針案46-3項、46-4項、66-8項、66-9項)。

(1) 配当前の投資の修正額(付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金を除く)とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額

[会計処理]

連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。

(2) 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額

[会計処理]

 連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。

 個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額については、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正する。

 子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額を修正する。

(3) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社になった場合)

[会計処理]

 当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されないため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、投資の修正額のうち配当後持分額が加減されることで、持分法による投資評価額に修正される。

 この場合、当該持分法による投資評価額には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の取得関連費用を含めない(資本連結実務指針46-2項)。

 同様にのれんの未償却額の取扱いは、子会社株式を売却し当該会社に対する支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い(資本連結実務指針45-2項)に準じて行う。

(4) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合)

[会計処理]

残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。

(了)

《速報解説》

ASBJ及びJICPA、パーシャルスピンオフの会計処理に係る
自己株式等会計適用指針案等や資本連結実務指針案を公表して意見募集

 

公認会計士 阿部 光成

 

Ⅰ はじめに

2023年10月6日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。

 「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第80号。以下「自己株式等会計適用指針案」という)

 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(企業会計基準適用指針公開草案第81号。以下「税効果適用指針案」という)

これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。

また、同日、日本公認会計士協会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。

  • 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号)の改正について(公開草案)(以下「資本連結実務指針案」という)

意見募集期間は、いずれも2023年12月6日までである。

文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。

 

Ⅱ 基準開発の範囲

令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置が設けられている(いわゆるパーシャルスピンオフ税制)。

基準開発の範囲は、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合に限定している。

これは、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限的なものであり早期に基準開発を完了すべきことから、まずは発生する可能性が高いと考えられるケースとしたためである。

完全子会社以外の子会社株式の一部の配当、現物配当実施会社の株主の会計処理などは、今回の公開草案の範囲外とし、その取扱いは示していない。

 

Ⅲ 個別財務諸表の会計処理

現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する(自己株式等会計適用指針案10項(2-2)、38-2項)。

つまり、基準開発の範囲のケースについては、配当財産の時価ではなく、配当財産の適正な帳簿価額をもって会計処理することになる。

 

Ⅳ 現物配当実施会社の税効果会計

現物配当実施会社の税効果会計については、現行の「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めを変更しない。

一方、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加する(税効果適用指針案4項、124-2項)。

 

Ⅴ 適用時期等

公表日以後ただちに適用することを提案している。

また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことを提案している。

 

Ⅵ 「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針(案)」

保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合、次のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行う(資本連結実務指針案46-3項、46-4項、66-8項、66-9項)。

(1) 配当前の投資の修正額(付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金を除く)とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額

[会計処理]

連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。

(2) 個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額

[会計処理]

 連結財務諸表上、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を修正する。

 個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額については、付随費用のうち配当した部分に対応する額を修正する。

 子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額を修正する。

(3) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社になった場合)

[会計処理]

 当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されないため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額は、投資の修正額のうち配当後持分額が加減されることで、持分法による投資評価額に修正される。

 この場合、当該持分法による投資評価額には支配喪失以前に費用処理した支配獲得時の取得関連費用を含めない(資本連結実務指針46-2項)。

 同様にのれんの未償却額の取扱いは、子会社株式を売却し当該会社に対する支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い(資本連結実務指針45-2項)に準じて行う。

(4) 残存する当該被投資会社に対する投資(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合)

[会計処理]

残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上する。

(了)

筆者紹介

阿部 光成

(あべ・みつまさ)

公認会計士
中央大学商学部卒業。阿部公認会計士事務所。

現在、豊富な知識・情報力を活かし、コンサルティング業のほか各種実務セミナー講師を務める。
企業会計基準委員会会社法対応専門委員会専門委員、日本公認会計士協会連結範囲専門委員会専門委員長、比較情報検討専門委員会専門委員長を歴任。

主な著書に、『新会計基準の実務』(編著、中央経済社)、『企業会計における時価決定の実務』(共著、清文社)、『新しい事業報告・計算書類―経団連ひな型を参考に―〔全訂第2版〕』(編著、商事法務)がある。

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