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《速報解説》 経営者保証解除スキームの新設など中小企業の事業承継支援等を目的とした「中小企業成長促進法」、施行は原則2020年10月1日

《速報解説》 経営者保証解除スキームの新設など中小企業の事業承継支援等を目的とした「中小企業成長促進法」、施行は原則2020年10月1日   Profession Journal編集部   9月14日(月)に帝国データバンクが公表した「事業承継に関する企業の意識調査(2020年)」によると、事業承継を経営上の問題と認識している企業は67.0%と回答企業の3社に2社にのぼることが明らかとなった。中小企業の事業承継問題は新型コロナウイルス感染症の影響で倒産や休廃業のリスクが高まることで、より注目が集まることも想定される。 このような中、中小企業の事業承継の円滑化を中心とした支援措置の拡充を図る「中小企業成長促進法」(中小企業の事業承継の促進のための中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律)の施行日を令和2年(2020年)10月1日(一部は令和3年(2021年)4月1日)とすることが、施行日政令の公布(9月16日付け官報特別号外第98号)によって確定された。 本年6月19日に公布された中小企業成長促進法は、①中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)、②中小企業等経営強化法、③地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律、④産業競争力強化法、⑤独立行政法人中小企業基盤整備機構法、それぞれの改正法からなり、中小企業の事業承継を含む経営支援の拡充が盛り込まれているが、特に経営承継円滑化法では、事業承継のネックとなっている経営者保証について新たな対策が採られている。 具体的には、事業承継時において、その企業に現経営者の経営者保証のある融資が行われている場合、事業承継によって経営者候補にも経営者保証を求められる可能性があることで、スムーズな承継のネックとなっていた。「後継者候補はいるが承継を拒否しているケースの約7割が、経営者保証を理由に承継を拒否」しているとのアンケート結果も公表されている。 この問題に対しては本年4月から、経営者保証を不要とする「事業承継特別保証制度」(保証限度額2億8,000万円(うち無担保8,000万円))の運用が始まっているが、この一般枠ではカバーできない融資に対し、さらに経営者保証を不要とする信用保証の特別枠として「経営承継借換関連保証」(保証限度額2億8,000万円(うち無担保8,000万円))が創設される(一般枠と異なり経営承継円滑化法による経済産業大臣の認定が必要)。さらに、一般枠・特別枠共に、新型コロナウイルス感染症の影響により条件変更を行った事業者に限り、「返済緩和中であること」の要件が特別に除外される。 〔事業承継特別保証と経営承継借換関連保証の概要〕 (※) 中小企業庁ホームページ これらの制度を利用することで、現経営者の経営者保証付き融資について、経営者保証なし融資への借換えを実施することができ、経営者候補の心理的な負担軽減が期待される。 〔解除スキーム(保証なし債務への借換支援)のイメージ図〕 (※) 中小企業庁ホームページ なお、事業承継時の経営者保証解除に向けた施策としては、今回の法改正の他にも、事業承継時に原則として前経営者、後継者の双方から二重には保証を求めないとする「経営者保証に関するガイドライン」の特則が施行(本年4月)されるなどの対策がとられている。 中小企業成長促進法では他に、第三者承継を行う者に対する保証制度(経営承継準備関連保証、経営力向上関連保証)の拡充や、みなし中小企業者特例の整備(中小企業が増資や従業員増加により中小企業要件から外れても、地域経済牽引事業計画の実施期間(5年以内)は中小企業とみなす措置)等の措置が規定されている。 〔中小企業成長促進法の概要〕 (※) 中小企業庁ホームページ (了) ↓お勧め連載記事↓
#385(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2020/09/16
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《速報解説》 ASBJ、「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表~基本はストック・オプション会計基準に準ずるも適用範囲等には注意~

《速報解説》 ASBJ、「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案)」等を公表 ~基本はストック・オプション会計基準に準ずるも適用範囲等には注意~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2020年9月11日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号)により、会社法202条の2 において、金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないと規定されたことを受けたものである。 基本的に、ストック・オプション会計基準に準じた会計処理を提案している。 意見募集期間は2020年11月11日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い(案) 1 適用範囲 実務対応報告案は、会社法202条の2に基づく、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引を対象とする(3項)。 ここで注意すべきことは、実務対応報告案は、いわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する場合には適用されないことである(3項、25項)。 そして、適用範囲に含まれない取引に関して、これまでの実務で行われている会計処理及び開示に影響を与えることを意図してもいない(25項)。 2 事前交付型の会計処理 事前交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、対象勤務期間の開始後速やかに、契約上の譲渡制限を付した株式の発行等を行い(会社法における割当日)、権利確定条件が達成された場合に譲渡制限が解除され、権利確定条件が達成されない場合には企業が無償で株式を取得する取引をいう(無償取得することが確定することを「没収」という。4項(7)(16))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて会計処理を規定している。 3 事後交付型の会計処理 事後交付型とは、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引のうち、契約上、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる(会社法における割当日)取引をいう(4項(8))。 次のように、①新株の発行により行う場合と②自己株式の処分により行う場合に分けて規定しており、純資産の部の株主資本以外の項目に「株式引受権」が新設される。このため、「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」等において、株式引受権を新設する。 なお、2020年9月1日に、法務省から「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正に関する意見募集」が公表されており、会社計算規則改正案2条3項34号において、「株式引受権」が新たに定義されている。 4 注記 次の注記項目を定める(20項)。 5 1株当たり情報 6 関連当事者との取引 関連当事者との取引に関する開示は要しない(54項)。 7 適用時期等 (了)
#385(掲載号)
#阿部 光成
2020/09/14
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プロフェッションジャーナル No.385が公開されました!~今週のお薦め記事~

2020年9月10日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.385を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2020/09/10
税務 税務・会計 解説 解説一覧

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第91回】「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その1)」~所管事項の原則~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第91回】 「法令相互間の適用原則から読み解く租税法(その1)」 ~所管事項の原則~   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 租税法が法である限り法解釈・適用の一般原則が適用されることになる。しかし、ときとして、租税法律主義の支配する租税法領域においては、租税実体法を前提とした議論の展開が重視され過ぎるがゆえに、必ずしも法解釈・一般適用の原理が強く意識されているとは限らない。 そこで、租税法の個別具体の問題解決場面、すなわち租税法の解釈適用が、いかに法解釈・適用の一般原理を前提として展開されているか検証を行うこととしたい。 本稿では、特に、法令相互間の適用原則たる「所管事項の原則」について関心を寄せることとしよう。   Ⅰ 所管事項の原則 1 概観 法令の「所管事項の原則」とは、法令の種類ごとに所管事項を定め、所管事項以外のことはその法形式では規定できないこととし、法令間に矛盾抵触が生じないようにするという考え方である。 仮に所管事項を外れた規定をすれば、それは無効になる。 この点、法律以下の各種の法令の種類ごとにそれぞれの専属的な所管事項を設けることは事実上不可能であって、実際問題としても、2つ以上の種類の法令の所管事項が競合する例はきわめて多いとはいわれているものの、例えば、所得税法に殺人の規定がないというようなことを意味する所管事項の原則は、いわば、当たり前のことを述べているだけであって、解釈論に何らかの影響があるのであろうか。 以下では、租税法における所管事項の原則が解釈論において議論された、同族会社等の行為又は計算等の否認規定に関するいわゆる「対応的調整」の問題について触れてみたい。 (※) この際、例えば、「関係行政機関が所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則」(内閣府・総務省・法務省・外務省・財務省・文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土交通省・環境省令第1号)とか、「財務省が関係行政機関に属する行政機関として所管する法令に基づく手続等及び財務省が他の行政機関と共同で所管する公益法人の設立又は監督に関する手続等のうち、関係行政機関が所管する法令に係る行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則を適用する範囲を定める件の一部を改正する件」(財務350)といった告示が示す「所管法令」というものは、各省庁が所掌する法令のことを指す用語であるから、ここにいう「所管事項の原則」とは別である。 2 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》の適用 同族会社等の行為計算の否認とは、同族会社等を使って所得税や法人税などの負担を不当に減少させようとする行為を否認する税務署長の更正、決定権限のことをいう。 例えば、次の図のように、不動産所得者Aが不動産を貸し付けて年間500万円の所得を得ていた場合を想定しよう。 ここでAが不動産管理会社(同族会社)を設立し、かかる不動産管理会社を経由して、賃借人に同額の賃料で不動産の貸付けを行うこととすれば、同社に利益がプールされ、Aが負担する所得税の累進課税を軽減させることができるのである。 また、当該不動産管理会社で家族従業員に給与を支払えば(図表2の場合350万円)、その支払は同法人の損金となることから、法人税を軽減することも可能となる。また、この場合、不動産管理会社を経由しない場合にはAの不動産所得が500万円であるのに対して(図表1)、不動産管理会社を経由する取引をすれば不動産所得が50万円となる(図表2)。 〔出典:酒井克彦『スタートアップ租税法〔第3版〕』216頁(財経詳報社2015)〕 所得税法157条《同族会社等の行為又は計算の否認等》は、税務署長に同族会社等の行為や計算を無視した更正や決定の権限を付与している。 すなわち、同条1項は、「税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者・・・の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、・・・金額を計算することができる。」と規定する。 3 対応的調整と所管事項の原則 そこで、所轄税務署長が、所得税法157条1項を適用して、例えば、Aが不動産管理会社から受ける不動産所得の計算に係る収入金額を450万円と認定して更正処分を行うことがあり得る。 これは、所得税法157条1項の適用問題であるが、他方で、かかる更正処分が別の問題を惹起することになるのである。すなわち、そのような所得税法上の更正処分の反射として、不動産管理会社に係る法人税の金額の計算に修正を加えるべきか否かという問題がある。 具体的にいえば、不動産管理会社は、法人税の計算において、益金(収益)の額が500万円、損金(費用)の額が給与350万円+Aへの賃料の支払額50万円で400万円であったことから、500万円-400万円=100万円という法人所得を確定申告していたはずであるが、上記の所得税法上の更正処分を前提とすれば、不動産管理会社からAへの支払は50万円ではなく、450万円が正しかったということになりはしないであろうか。 そうであるとすると、現在の法人税の申告において計上されている賃料の支払額を50万円から450万円として減額更正されるべきであるように思われる。 このことを、「対応的調整」と呼ぶが、これまで、対応的調整による法人税に係る減額更正が認められるべきか否かについて、長らく議論されてきた。 上記の架空の事例においては、所得税法157条1項の適用があったわけであるが、従来は、法人税法に対応的調整の規定が存在しなかった。法人税法に規定がない以上、所得税法上の処理の反射として、法人税の減額更正を行うべきことは、所管事項の原則の見地からすれば立法上不可能であって、所得税法と法人税法が別々の法律であるからには、対応的調整はできないことになろう。 上記事例でいえば、あくまでも税務署長が同族会社等の行為計算の否認を行う権限を所得税法において付与されたのは、Aの所得税の計算に関するものだけであるはずである。そうであるとすれば、不動産管理会社の法人税の計算においては、実際に同社がAに支払った金額の50万円以上の支払賃貸料を計上することはできないはずであると解されていたのである。 まさに、所管事項の原則が所得税法157条1項の適用における法人税の減額更正を阻むこととなり、「対応的調整」が否定されてきた直接の理由となってきたのである。 もっとも、平成18年度税制改正において、所得税法157条1項の適用があった場合に、次のように法人税法132条《同族会社等の行為又は計算の否認》1項の適用を許容する対応的調整規定(法法132③)が設けられたことによって、この解釈問題には一定の決着がつけられた。 なお、この対応的調整に関する規定(法法132③)は、所得税法と法人税法との間の調整のみならず、相続税法や地価税法における同族会社等の行為計算の否認規定の適用に関しても適用される条文として創設されている。 その逆も同じく、法人税法132条1項の適用があった場合の所得税の減額更正処理を行うための「対応的調整」として、同時に、所得税法157条3項が次のように設けられている。ここでも、所得税法と法人税法間のみならず、相続税法や地価税法が射程範囲に含まれていることに留意したい。 (続く)
#385(掲載号)
#酒井 克彦
2020/09/10
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谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」 【第43回】「租税法律主義の基礎理論」-「上からの租税法律主義」と法律による行政の原理-

谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第43回】 「租税法律主義の基礎理論」 -「上からの租税法律主義」と法律による行政の原理-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 本連載は「税法の基礎理論」と題して租税法律主義を基軸に据えて、税法の制定及び解釈適用に関する総論的な問題について、そのときどきの筆者の問題関心によりトピックを取り上げ検討してきたが(第1回Ⅰ参照)、今回からは「租税法律主義の基礎理論」を主題として、租税法律主義それ自体の「総論的」検討を行うことにする。 このような検討は、これまでにも若干言及したが(第34回Ⅰ・前回Ⅲ2参照)、昨年、公益財団法人日本税務研究センターの「憲法と租税法」共同研究会において行った租税法律主義に関する「総論的」検討をベースとするものである。その成果は日税研論集77号(近刊)で拙稿「租税法律主義(憲法84条)」として公表することになっている。 筆者は、従来から、「税法の基礎理論」(拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)第1編)では、「とりわけ租税法律主義を基軸に据えて、税法の制定および(特に税務行政による)解釈適用に関する総論的な問題について体系的に解説を加える。」(同【1】)こととしてきたが、租税法律主義それ自体について本格的に「総論的」検討を加えたのは、上記の拙稿が初めてであった。 ここでは、今回から租税法律主義それ自体の「総論的」検討を行うに当たって、前記の拙稿の目次を以下に掲げておこう。 このうちⅠでは、わが国における租税法律主義の展開を概観しながら租税法律主義の法的性格・法的構成を検討したが、今回は、その1で検討したわが国における租税法律主義の「起源」に関連して、明治憲法下における「上からの租税法律主義」(齊藤稔『租税法律主義入門』(中央経済社・1992年)28頁。太字筆者)としての性格づけ及び「法律による行政の原理」という基本的性格について検討しておこう。   Ⅱ 「上からの租税法律主義」 わが国における租税法律主義の「起源」は、既に第34回Ⅱ2でみたとおり、明治憲法が第6章(「会計」)の冒頭で「新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ」(62条1項)と定めたことにあるが、この規定について、伊藤博文(宮沢俊義校註)『憲法義解』(岩波書店・2019年)という「半官的な逐条説明書」(同書7頁校註者はしがき)は次のとおり解説していた(122頁。下線筆者)。 ここでいう「立憲政」は、英米仏等の諸外国における立憲主義とは異なり、欽定憲法たる明治憲法の下では、外見的立憲主義を意味し、したがって、租税法律主義も「上からの租税法律主義」として性格づけられるべきものであったのである。   Ⅲ 法律による行政の原理(特に法律の留保の原則)の確立 『憲法義解』の前記解説(特に第1文)によれば、租税法律主義が租税の賦課・徴収に関する法治主義を意味するものとして捉えられていたことは、明らかであるが、この点については、既に第34回Ⅱ2でみたとおり、「租税の賦課が政府の専断に依ることを得ず必ず議会の協賛を要することは、一般の法治主義の原則から生ずる当然の事理で、敢て本条の規定を待たない」(美濃部達吉『逐条憲法精義』(有斐閣・1927年)622頁)と述べられていたところである。 ここでいう「法治主義」は、次の見解(美濃部達吉『日本行政法 上巻』(有斐閣・1936年/復刻版1986年)68-70頁。下線筆者)にみられるように、明治憲法下では、「法治行政の原則」すなわち法律による行政の原理として捉えられ、その内容のうち特に法律の留保の原則が重視されていた。 法律による行政の原理の内容及びイデオロギー的基礎については、次のとおり述べられている(塩野宏『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)77-78頁。下線筆者)。   Ⅳ おわりに 以上でみたように、明治憲法下では、租税法律主義は「上からの租税法律主義」として性格づけられ、租税の賦課に係る法治主義すなわち法律による行政の原理として、特に法律の留保の原則として確立されていた。そのイデオロギー的基礎は自由主義的政治思想にあり、その意味で、明治憲法下での租税法律主義は自由主義的憲法原理としての基本的性格を有していたのである。 現行憲法における租税法律主義については、憲法原理の転換に伴い、「上からの租税法律主義」としての性格は失われたが、今日でも、基本的には、「近代法治主義の、租税の賦課・徴収の面における現われ」(金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)79頁)であると考えられていることからすると、前記のような基本的性格は、明治憲法で租税法律主義が宣明されて以来、維持されていると理解することができよう。 筆者は、今回の冒頭に掲げた拙稿「租税法律主義(憲法84条)」において、Ⅰの1で明らかにした上記の理解を出発点にして、わが国における租税法律主義のその後の展開を概観しながら租税法律主義の法的性格・法的構成を検討したが、Ⅰの2で検討した財政民主主義の具体化を目的とする租税法律主義の民主主義的再構成については、第34回Ⅱで租税法律主義の「自律的」厳格さ(第3回Ⅱ)の補論として租税法律主義の厳格化の観点から課税要件法定主義を検討し、また、Ⅰの3で検討した行政裁量統制の徹底を目的とする租税法律主義の債務関係説的再構成については、既に第3回Ⅲで租税法律主義の「他律的」厳格さを検討し、これに加えて、第34回Ⅲでは、課税要件法定主義を構成するための理論的基礎としても検討したところである。 そこで、次回は、前掲拙稿のⅠの4「租税法律主義の機能的考察-法の支配による租税法律主義のコーティング-」をベースにして、租税法律主義の法的性格・法的構成を検討することにする。 (了)
#385(掲載号)
#谷口 勢津夫
2020/09/10
税務 税務・会計 解説 解説一覧 財産評価

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第12回】「〔第1表の2〕使用人兼務役員・みなし役員がいる場合の従業員数の算定」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第12回】 「〔第1表の2〕使用人兼務役員・みなし役員がいる場合の従業員数の算定」   税理士 柴田 健次   Q A社の従業員及び役員に関する労働時間等の状況は、下記の通りとなります。 A社の会社規模を判定する場合における従業員数は、何人になりますでしょうか。 【役員に関する事項】 なお、A社は指名委員会等設置会社には、該当していません。 【従業員に関する事項】 A 継続勤務従業員数は31人(1人+30人)、継続勤務従業員以外の従業員数は4.5人{(960時間+7,160時間)/1,800時間}となるため、35.5人で35人超の区分に該当することになります。  ◆  ◆  ◆ ① 従業員数の算定 非上場株式の会社規模判定における従業員数の算定は、次の算式により求めた人数となります(評価通達178(2))。 継続勤務従業員数とは、直前期末以前1年間においてその期間継続して評価会社に勤務していた従業員で、かつ、就業規則等で定められた1週間当たりの労働時間が30時間以上の従業員をいいます。 直前期末以前1年間の途中で入社した場合や退社した場合又は週30時間未満のアルバイト等の従業員については、従業員1人当たりの平均的な年間労働時間数を1,800時間として考え、継続勤務従業員以外の従業員の年間労働時間の合計時間数を1,800時間で除して計算します。 ◎ 従業員算定上の留意点   ② 本問への当てはめ ◇甲、乙、丙の判定 法人税法施行令71条1項1号、2号及び4号に掲げる役員に該当しますので、従業員数には含まれません。 ◇丁の判定 丁は専務、常務等の職制上の地位を有する役員には該当しておらず、1週間当たりの労働時間が30時間以上となりますので、継続勤務従業員数に含めて判定します。 ◇戊の判定 法人税法上は、純然たる使用人である場合においても、同族会社の使用人のうち、法人税法施行令71条1項5号イからハまで(使用人兼務役員とされない役員)の規定中「役員」とあるのを「使用人」と読み替えた場合に同号イからハまでに掲げる要件の全てを満たしている者で、その会社の経営に従事しているものについては、役員とみなされます(法令7)。 上記の法人税法施行令7条1項2号に該当する戊は、法人税法施行令71条1項5号に該当することになりますので、使用人兼務役員になれない者に該当します。 評価通達178(2)における従業員数については、法人税法施行令71条(使用人兼務役員とされない役員)1項1号、2号及び4号に掲げる役員は含まないこととされていますが、法人税法施行令71条1項5号に掲げる役員については、除外されていません。すなわち、法人税法施行令71条1項5号に該当する戊は、従業員数から除外される役員には該当しないことになります。 なお、従業員の範囲について国税庁の質疑応答事例では、下記の通り解説がなされています。 (出典) 国税庁・質疑応答事例「従業員の範囲」 したがって、戊は使用者の指揮命令を受けて経理という労働に従事しており、かつ、労働時間も決まっていますので、従業員に含めて判定することが相当であると考えられます。また、1週間当たりの労働時間が30時間未満となりますので、継続勤務従業員以外の従業員として判定することになります。   ☆実務上のポイント☆ 役員でも指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役には該当せず、かつ、専務や常務などの職制上の地位を有していない場合には、従業員数に含めて判定することになりますので、留意しておきましょう。 (了)
#385(掲載号)
#柴田 健次
2020/09/10
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題 【第2回】「完全支配関係の範囲を拡大することの問題点」

組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の 現行法上の問題点と今後の課題 【第2回】 「完全支配関係の範囲を拡大することの問題点」   公認会計士 佐藤 信祐 3 グループ通算制度の範囲を拡大することの問題点 連結納税制度に関する専門家会合「連結納税制度の見直しについて」10頁(令和元年)では、100%未満の会社に対してもグループ通算制度の範囲を拡大することについて、「そのグループ内の法人間での損益通算による税額の増減に相当する額を各法人間で適正に分配しなければ、少数株主の利益が害されることとなる。」としたうえで、「少数株主の利益が害されないような制度を目指せば、制度の複雑化は避けられない。また、会社法上、子法人の少数株主を保護するための親法人の責任や代表訴訟によるその責任の追及に関する規定が設けられていない中で、税法上、子法人の少数株主と親法人との利益が相反する構造が内在する損益通算を容認することについては、慎重な検討が必要と考えられる。」とすることで、グループ通算制度の範囲を連結納税制度と同様に、「発行済株式又は出資の全部を保有する関係」に限定することにしている。 個人的には、損益通算による税額の増減に相当する金額を通算法人間で精算すれば済む話のように思えるが、諸外国の税制を参考にすると、やや複雑な議論になるようである。アカデミックな見地からすれば、諸外国の税制を分析したうえで、この問題をどのように解決するのかという点にまで踏み込むべきであるが、本連載はそこまで踏み込むことを目的にするものではない。 この問題を先送りするとすれば、グループ法人税制の範囲のみを発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との取引に拡大することになる。そして、単なる資産の譲渡であっても譲渡損益が繰り延べられるのであるから、発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成に対しては、事業単位の移転であることを要求する必要がなくなる。 すなわち、以下のような改正を行うことにより、組織再編税制とグループ法人税制及びグループ通算制度との整合性を保つことができるようになる。 その結果、組織再編税制において事業単位の移転であることが要求されるのは、共同事業を行うための組織再編成のみとなり、「発行済株式又は出資の全部を保有する関係」が求められるのは、グループ通算制度と後述する受贈益の益金不算入(法法25の2)のみとなる。中長期的には、グループ通算制度の範囲も拡大すべきであると思われるが、短期的には、そのような改正であってもやむを得ないと思われる。   4 受贈益の益金不算入 平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入されたことによって、法人による完全支配関係がある場合には、贈与を受けた法人において生じた受贈益は、その全額が益金の額に算入されず(法法25の2①)、贈与を行った法人において生じた寄附金は、その全額が損金の額に算入されないことになった(法法37②)。なお、受贈益の益金不算入の適用を法人による完全支配関係がある場合に限定している理由は、相続税・贈与税の回避に利用される恐れがあるからである(※)。 (※) 佐々木浩ほか『平成22年版改正税法のすべて』206-207頁(大蔵財務協会、平成22年)。 もし、「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人」との取引に対して受贈益の益金不算入を適用してしまうと、株主間贈与を容易に行うことができるという問題があることから、100%未満のグループにまで受贈益の益金不算入を拡大すべきではないと考えられる。 なお、本連載では、帳簿価額修正をグループ法人税制に取り込むことができるか否かについても分析を行う予定である。もし、帳簿価額修正をグループ法人税制に取り込むことができるのであれば、寄附修正事由(法令9①七、法令119の3⑥、119の4①)の規定は不要ということになる。 第1回で解説したように、①グループ通算制度のうち相当程度をグループ法人税制に取り込む必要があると考えており、かつ、②グループ内の適格組織再編成を「発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上に相当する数又は金額の株式又は出資を保有する関係のある法人との間で行われる組織再編成」としたうえで、金銭等不交付要件、主要資産等引継要件、従業者従事要件及び事業継続要件を課さないようにすべきであると考えている。 このうち、①については、帳簿価額修正だけでなく、グループ通算制度の加入又は離脱における時価評価課税をグループ法人税制に取り込むことが可能かどうかについて検討する予定である。そして、②については、完全支配関係内の組織再編成だけでなく、支配関係内の組織再編成を容認したことによる弊害について分析する予定である。 しかしながら、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の問題点はそれだけではない。思いつくところを挙げると、みなし配当と株式譲渡損が両建てになる場面があるという点が挙げられる。平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、令和2年度税制改正により特定関係子法人から受ける配当等の額が株式等の帳簿価額の10%を超える場合の特例が導入されたが、みなし配当と株式譲渡損が両建てになる事案のすべてを防止できているわけではない。当時の実務で行われていた節税手法を知っている者からすれば、優れた改正であることは否定しないが、依然として抜け穴が残っていることも否定できず、根本的な改正が必要になると考えられる。 さらに、グループ法人税制が適用される範囲についても問題がある。法人税法62条の9に規定されている非適格株式交換等又は非適格株式移転に係る時価評価課税の例外として、「株式交換又は株式移転の直前に当該内国法人と当該株式交換に係る株式交換完全親法人又は当該株式移転に係る他の株式移転完全子法人との間に完全支配関係があった場合における当該株式交換及び株式移転」が挙げられているが、単独株式移転については他の株式移転完全子法人がいないことから、非適格株式移転に該当してしまうと時価評価課税の対象になってしまう。 単独株式移転では、同一の者による完全支配関係が要求されておらず、当事者間の完全支配関係のみが要求されていることから、株式移転の直後に当事者間の完全支配関係(株式移転完全子法人と株式移転完全親法人との間における当該株式移転完全親法人による完全支配関係)が成立しているのであれば、時価評価課税の対象から除外すべきであると考えられる。 本連載では、このような問題意識から、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の問題点を検討していくことを予定している。連載を重ねる中で新たな問題点が発見されるかもしれないし、第1回、第2回で述べた私見が変わるかもしれないが、その点についてはご容赦願いたい。 *   *   * 次回では、組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度を理解するうえで重要になる「移転資産に対する支配の継続」という概念について解説を行う予定である。 (了)
#385(掲載号)
#佐藤 信祐
2020/09/10
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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第21回】「財団法人の設立」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第21回】 「財団法人の設立」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私Zは電気メーカーBを経営しています。事業をグローバルに展開し、大手企業の省人化投資の波に乗り、近年大きく業績を伸ばしています。10年前は株式上場を考えましたが、上場すると短期の業績を求められ、じっくり事業を育てることが難しくなる可能性があるので、非上場企業のままとすることを決めました。 ところで、私は来年70歳になるので数年内に社長職を息子Yに譲り、私は会長に就任し経営の一線から退く予定です。会長になれば時間に余裕ができるので、今までお世話になった地域、社会への恩返しとしての活動を行いたいと考えています。 そこで、企業オーナーとして財団法人を設立し、その法人を通して社会貢献活動を行いたいと考えていますが、財団法人とはどのような法人なのでしょうか。また、どのように設立できるのでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ 財団には「一般財団法人」と「公益財団法人」とがあります。公益財団法人になるためには、まず一般財団法人を設立し、行政庁(内閣府又は都道府県)の認定を受ける必要があります。 [1] 一般財団法人の設立 (1) 設立方法 一般財団法人は、株式会社等の通常の法人と同様の手続きで設立することができます。 大きな流れとしては、公証人による定款認証 ⇒ 拠出財産の振込 ⇒ 必要書類の法務局への提出となり、決めるべき主な事項は以下の通りです(定款・登記書類の作成は司法書士等の専門家に依頼することをお勧めします)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (2) 非営利法人としての設立 上記のように一般財団法人は登記により設立できますが、法人税法上は普通法人に該当し、通常通り法人税が課税されます。しかし、以下の要件のすべてに該当する法人は、非営利性が徹底された法人として収益事業以外の事業に法人税は課税されません(法2九の二イ、法令3①、国税庁「新たな公益法人関係税制の手引き」)。つまり、一般財団法人が受け取る寄附、利息、配当には法人税が課税されません。 (注) 非営利性が徹底された法人は、理事においてのみ親族等の割合が3分の1以下であることが要件となっていますが、公益法人への移行や株式の寄附を検討している場合は、設立当初から理事・監事・評議員のすべてについて親族・会社関係者の割合を3分の1以下としておくほうが良いでしょう。 (3) 財団法人の機関 財団法人は理事・監事・評議員から構成され、それぞれ次の役割があります。以下の通り、財団法人の代表は理事から選出されますが、その理事は評議員から選ばれることから、評議員の人選が重要になります。 (4) 財源 企業オーナーが社会貢献のために設立する一般財団で収益事業を行うことはほとんどなく、B社からの寄附金や、オーナーから寄附されたB社株式から生ずる配当を事業費に充当するのが一般的です。したがって、設立前に財源について一定の目途をつけておく必要があります。 (5) 事業 事業については財源の問題とともに考慮する必要があります。寄附や配当等により事業活動を行う場合は人件費等のコストがかかる事業を行うのではなく、限られた財源を最大限社会貢献に生かせる事業として、学生への奨学金給付事業や研究者等に対する助成事業が多く選ばれています。 また、将来的にB社の株式を財団へ寄附するのであれば、議決権をもつ財団を適切に保全・管理していく必要があるので、次世代が財団の運営に関与していかなければなりません。そういった観点からも、シンプルな事業を選択し次世代以降の負担軽減に配慮することが必要です。   [2] 結論 持ち分の定めのない法人は、その特徴により、事業承継対策の選択肢の1つとなり得ます。一方で、持分のない法人は出資を通じた支配ができませんので、理事会・評議員会を通じて財団法人を管理・運営していく必要があります。今回は財団法人の概要のみしかご説明しませんでしたが、次回以降に公益認定の取得方法や、スキーム事例、税の取扱いについて説明したいと思います。 実際の手続きに際しては、司法書士・税理士等の専門家に相談することをお勧めします。   (了)
#385(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2020/09/10
その他地方税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第63回】「自動車税減免申請事件」~最判平成22年7月6日(集民234号181頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第63回】 「自動車税減免申請事件」 ~最判平成22年7月6日(集民234号181頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)
#385(掲載号)
#菊田 雅裕
2020/09/10
中小企業会計 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《経過勘定-前払費用》編 【第1回】「短期の前払費用の取扱い」

〔事例で使える〕 中小企業会計指針・会計要領 《経過勘定-前払費用》編 【第1回】 「短期の前払費用の取扱い」   公認会計士・税理士 前原 啓二     はじめに 前払費用、前受収益、未払費用、未収収益については、経過勘定項目として処理するのが原則ですが、前払費用については、法人税基本通達が短期の前払費用として一定の要件を満たす場合、支払時点での費用処理を認めています(法基通2-2-14)。 また「中小企業会計指針」においても、この通達の取扱いを適用可能としています(中小企業会計指針31)ので、今回はこの短期の前払費用の取扱いをご紹介します。 【設例1】 (1) A社(9月30日決算)が、新規取得した配送トラックの自動車損害保険料(保険期間:X2年10月1日~X3年9月30日の1年間)120,000円を、X2年9月30日に一括年払しました。 (2) 上記(1)のケースから少し変えて、決算期を9月30日決算でなく8月31日決算とし、保険期間がX2年10月1日からX3年9月30日の1年間の保険料120,000円を、期末日のX2年8月31日に一括年払したケース。 (3) 上記(1)のケースから少し変えて、新規取得したトラックではなく1年早いX1年10月1日に取得したトラックとし、これに係るX1年10月1日からX2年9月30日の1年間の保険料120,000円を前期末のX1年9月30日に一括年払した際、その全額をX2年9月期に保険料計上していたとして、同トラックに係る次のX2年10月1日からX3年9月30日の1年間の保険料120,000円を、X2年9月30日に同じく一括年払したケース。 1 A社の配送トラックの自動車損害保険料に係る仕訳 (1)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年9月30日〉 〈X3年9月30日〉 法人税基本通達(短期の前払費用)の取扱いによると、下記の会計処理も可能です。 〈X2年9月30日〉 (2)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年8月31日〉 〈X3年8月31日〉 〈X4年8月31日〉 法人税基本通達(短期の前払費用)の取扱いについては、その適用要件を満たしません。 (3)のケースでは、原則的な処理によると、下記の仕訳となります。 〈X2年9月30日〉 〈X3年9月30日〉 法人税基本通達(短期前払費用)の取扱いについては、その適用要件を満たしません。 *  *  * 前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対して支払われた対価をいい、前払利息、前払保険料、前払家賃、前払保証料等が該当します(中小企業会計指針30)。原則的な処理では、費用については発生したものを損益計算書に計上しなければならず、当期の費用でない前払費用は当期に損益計算書から除去するための経過勘定項目として貸借対照表に計上します(中小企業会計指針31)。前払費用のうち、事業年度の末日後1年を超えて費用となる部分は長期前払費用として表示します(中小企業会計指針32)。 重要性の乏しいものについては、経過勘定として処理しないことができますが、中小企業会計指針では、このほかに、前払費用のうち当期末においてまだ提供を受けていない役務に対する前払費用の額で、支払日から1年以内に提供を受ける役務に対応する金額については、継続適用を条件に費用処理することができるとされています(中小企業会計指針31)。 これは、中小企業の会計実務で浸透している法人税基本通達2-2-14(短期の前払費用)の取扱いをそのまま取り入れたものと考えられます。同通達では、支払った日の属する事業年度に損金の額に算入することも適用要件とされています。 ◎ 設例への当てはめ (1)のケースでは、原則的な処理によると、支払日であるX2年9月30日現在ではまだ保険期間が開始されていないため、いまだ役務が提供されていない段階であり費用が発生していません。したがって、X2年9月期では、120,000円全額を当期に損益計算書から除去するための経過勘定項目として貸借対照表に前払費用を計上します。 法人税基本通達における短期の前払費用の取扱いは、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める(法基通2-2-14)というものです。 (1)のケースでは、同保険について次年度以降も年払日に保険料を計上し続けるとすれば、この通達の要件をすべて満たすので、支払日(X2年9月30日)を含むX2年9月期に120,000円全額を費用計上することができます。 しかし、(2)のケース(8月31日決算)では、保険期間が同じ1年であっても、その終了日(X3年9月30日)が支払った日(X2年8月31日)から1年を超えるため、この通達の要件を満たしておらず、適用されません。 また、(3)のケースでは、X1年9月30日に一括年払した120,000円全額を原則的な処理により支払日に前払費用計上(して翌年度のX2年9月期に保険料計上)したため、X2年9月30日に一括年払した120,000円を同日(支払日)の保険料として計上することは、継続して支払った日の属する事業年度に損金の額に算入しているという通達の要件を満たしておらず、これもまた適用されません。 以上のように、前払費用を支払日に費用計上する際には、上記の法人税基本通達の要件に留意する必要があります。   2 (1)のケースに係る部分の決算書の金額 (1)のケースに係る部分の決算書の金額は、次のとおりです。 X2年9月30日決算期 (了)
#385(掲載号)
#前原 啓二
2020/09/10
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