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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第17回】「7対1入院基本料と重症度・看護必要度」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第17回】 「7対1入院基本料と重症度・看護必要度」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 看護必要度とは何か 重症度・看護必要度は、今日の診療報酬で入院基本料等の様々な評価に用いられている。 図表1に示すように、A得点とB得点から構成されており、一般病棟用では、A得点が2点以上、B得点が3点以上の患者が全体の何割いるかという評価が行われる。   図表1 一定以上の患者は手がかかるのだから、そのような病院あるいは病棟等を評価しようという仕組みであり、A得点5点、B得点5点のような患者も必要度をぎりぎりで満たす患者も同じ評価になるため、連続的な評価にはなってないという特徴を持つ。 現行の診療報酬においては、一般病棟7対1入院基本料を算定する場合には、看護必要度を満たす患者が15%以上、また急性期看護補助体制加算25対1を届け出る場合にも7対1入院基本料を算定する病棟にあっては15%以上の看護必要度の基準を満たす患者を入院させることが求められている。看護師や看護補助者を重点的に配置する必要があるのは、看護必要度が高く手のかかる患者が多いからという考え方であろう。 今後、7対1入院基本料を算定する病床を削減する方向で各種の医療政策が展開されていく予定である。その際に重要な鍵を握るのが看護必要度と平均在院日数であり、両者は密接に関係するものでもある。   2 診療報酬における看護必要度評価の経緯 看護必要度は、人員配置等の構造的な面だけではなく、患者の看護必要度を加味した評価体系とするために、平成8年頃から開発が行われ、平成14年度診療報酬改定で評価が行われた。 図表2に示すように、平成14年度診療報酬改定では、いわゆるICUに関する加算である特定集中治療室管理料の算定要件に重症度の判定基準が導入され、続く平成16年度改定ではハイケアユニット入院医療管理料に導入された。まずは重症系ユニットを中心とした評価が行われた。 図表2 また、平成20年には一般病棟7対1入院基本料に対して10%以上の看護必要度を要求し、平成22年には急性期看護補助体制加算の算定要件や10対1入院基本料を算定する病院に看護必要度評価加算が設けられるなど、少しずつ診療報酬体系の中で存在感を増してきている。 看護必要度の評価が妥当であるか、評価のあり方に病院間格差があるなどの指摘も存在し、評価方法については進化していくものと予想される。また、がん患者の看護必要度が比較的低くなったり診療科構成による影響、そして急性期機能が高い病院よりも慢性期的な病院の看護必要度が高い場合があるなど、一般病棟の評価方法としての妥当性に疑問が呈されることもありえる。 しかし、患者の重症度に応じた人員配置を行うことは限られた医療資源の効率的配置という観点からは必然であり、時代が後戻りすることは考えづらく、看護必要度あるいは何らかの重症度を反映した類似の考え方が今後も診療報酬において重要な位置付けとして君臨することであろう。   3 平均在院日数と看護必要度 図表3は今後の、急性期病院に求められる方向性を示している。 図表3 看護必要度と平均在院日数   右下の看護必要度が高く平均在院日数が短い象限が急性期病院の理想的なポジショニングであり、左上にある看護必要度が低く平均在院日数が長い病院は急性期病院(この資料では7対1入院基本料)からは退場宣告を受けたものと捉えることもできる。 確かに右下象限には特殊な機能を持った専門病院が多く含まれるであろうし、左上の象限にある病院は連携先に苦労する地域一般病院なのかもしれない。また、この図表3からは、平均在院日数と看護必要度には相関がないと解釈することも可能であり、より精緻な分析をしていく必要がある。 ただし、治療終了後も在院日数を長引かせれば看護必要度が低くなることは容易に想像できる。平均在院日数を短縮し、集中治療をすることが求められていると捉えることが望ましい。   4 医療機関群と看護必要度 2012年度診療報酬改定でDPC/PDPSにおける基礎係数の設定で、医療機関群が新設されたことは記憶に新しい。 医療機関群については、必ずしも医療の質を評価したものではなく、病院のポジショニングが反映されたものであり、各群は優劣を意味するわけではない。ただし、基礎係数の実績要件でハードルが高かった、診療密度と手術1件当たり外保連手術指数は看護必要度と密接に関わることには言及しておきたい。 看護必要度は、平均在院日数を短縮し集中治療を行えば高くなり、また予定入院よりも緊急入院(特に救急車搬送入院)で高くなる。このことは、1日当たり包括範囲出来高換算点数である診療密度でも同じことがいえる。 さらに侵襲性の高い手術(特に全身麻酔手術)が多ければ、看護必要度が高くなり、外保連手術指数も高くなる。医療政策において急性期病院に求められている大きな方向性という意味では、看護必要度も医療機関群も共通点が多い。   5 重症系ユニットの設置と看護必要度 ICU・HCUなどの重症系ユニットにより集中治療を行うことは、これからの急性期病院にとって重要な機能といえよう。しかし、特定集中治療室管理料では概ね90%以上、ハイケアユニット入院医療管理料では概ね80%以上の重症者が在室することが要求されており、これらの病床数を増加させることは一般病棟における看護必要度を下落させることにつながる。 ICU等のユニットにおいて手厚い人員配置を行うか、7対1入院基本料等算定する病床を重視するかは病院の戦略と密接に関係する。高度急性期病院として医療の質向上を目指すためには、ユニットの充実は期待されるが、高い診療報酬にこだわり無理にユニットを維持している病院も少なくない。ICUで勤務する看護師の半分近くが新人であったりする場合には、その効果に疑問が呈されても不思議ではない。 地域の中でどのような役割を果たすべきなのかが看護必要度には反映されるという点では、医療機関群と同様であり、自院のポジショニングを明確にすることが求められている。   6 看護必要度評価見直しの影響 今後、看護必要度の評価を見直す方向で議論が進められており、具体的には時間尿測定及び血圧測定については、項目から除外し、創傷処置については褥瘡の発生状況を把握するためにも、褥瘡の処置とそれ以外の手術等の縫合部等の処置を分けた項目とし、呼吸ケアについては、喀痰吸引を定義から外すこととされている。 追加される項目は、計画に基づいた10分間以上の指導・意思決定支援、高悪性腫瘍剤の内服、麻薬の内服・貼付、抗血栓塞栓薬の持続点滴をA項目に追加することが考えられるが、このうち10分間以上の指導・意思決定支援については、実施すべき内容等定義を明確にした上で、A項目に追加される予定である。 診療科による影響はあるものの、時間尿測定や血圧測定の実施頻度は通常の急性期病院では多くない。また、高悪性腫瘍剤の内服でTS1のような抗がん剤も評価されるため急性期病院ではプラスの影響が出るものと予想される。 ただし、多くの病院の看護必要度が高くなることは、現行の15%の基準値のハードルが引き上げられる可能性もあり、今後も実態に合った適切な評価を行うことが求められる。 (了)
#37(掲載号)
#井上 貴裕
2013/09/26
読み物 連載

女性会計士の奮闘記 【第9話】「士業の連携で幅広くサポート!」

女性会計士の奮闘記 【第9話】 「士業の連携で幅広くサポート!」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   〈社長の役員報酬変更による影響額(単位:円)〉 ・①+②+③=79,316円 ・社長の役員報酬を半分にすることによって、本人から徴収される社会保険料、源泉所得税及び会社が負担する社会保険料の額が、合計で月額79,316円も低くなります。 ・ただし、役員報酬は、事業年度の会計期間開始の日から3ヶ月を経過する日までに改定され、その後、各支給時期の給与の額が期間を通じて同額でなければ、法人税法上、損金と認められない可能性がありますので、注意が必要です。 ※社会保険料は、東京都の平成25年9月改定の基準で計算しております。 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の疑問は多岐にわたります。 その疑問にタイムリーに答えるため、他の士業との連携が必要です。 さらに、事前の情報提供が得られるよう、日ごろから良好なネットワークを作っておくことが大切です。 (了)
#37(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/09/26
読み物 連載

神田ジャズバー夜話 「5.ジンクスのようなもの」

この店にもいくつかジンクスのようなものがある。 その1、後で来ると言って来るやつはいない。 「すいませーん、後で来ようと思ってるんですが、へえ、いい店ですね」 「はい、まあ」 「じゃあ、後で来まーす」 「はーい」一応返事をしておく。が、そんなことを言って来たためしはない。私はそいつが帰ると扉の外に塩をまく。 その2、ビル・エバンスの『ワルツ・フォー・デヴィ』をかけると客が来る。 客が来そうな時間にかけているからだといってしまえばジンクスでもなんでもないが、常々神仏は信じないといっておきながら、何度も実績があるので、客がいないと心細くなりかけてしまう。 一応、仮説として「二軒目でゆったり飲むには管楽器はうるさく、ボーカルは好き嫌いが別れるので、ピアノトリオぐらいが丁度いい。しかもジャズ好きには聞き覚えのある『ワルツ・フォー・デヴィ』ならば入り易いのではないか」と考えてはいる。 その3、昼間客が多いと夜は少ない。 昼間は喫茶店として営業している。客は一日に2、3人がいいところ。コーヒーは客単価が安いので私の労働時間(ほとんど待機時間だが)を時給に直すと200円ぐらいにしかならない。それでも昼間から音を流していると(外へも別のスピーカーで流れている)通りがかりの人が店の存在に気付き、夜の来店に繋がることが多いので広報宣伝活動を主な目的として営業している。 たまに5人、ときには10人ということがあり、そんな日の夜は客が少ない傾向がある。昼間5人目が来ると夜の心配をする。これは対処の仕様がない。いつものようにただじっと待つだけだ。 「エバンスにするか」その夜もまだ客は来ていなかった。 それまで好きで聴いていたバド・パウエルをビル・エバンスに代えた。 ドアが開き、新聞屋の桑原さんが入ってきた。桑原さんには以前『ワルツ・フォー・デヴィ』のジンクスの話をした。桑原さんもケニー・バレルの『ミッドナイト・ブルー』を聴くと必ずなにか悪いことがあるそうだ。 「やっぱり、誰もいないね」 「え、なんでそう思ったんですか」 「『ワルツ・フォー・デヴィ』がかかってるからさ」 そして今夜は珍しく客が沢山入っている。店内には「『ワルツ・フォー・デヴィ』が流れている。そこへ桑原さんが来た。 「あれ、マスターどうしたの、いっぱいじゃない」 「『ワルツ・フォー・デヴィ』でこれだけ入って来たんですよ」 「うそ!」 そう嘘です。『ワルツ・フォー・デヴィ』はリクエストされたのです。 (了)
#37(掲載号)
#山本 博一
2013/09/26
お知らせ 所得税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」の一部改正(9/17公表)~複数のNISA口座が開設された場合の取扱い~

《速報解説》 「租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて」の一部改正(9/17公表) ~複数のNISA口座が開設された場合の取扱い~   弁護士 木村 浩之   1 はじめに 平成25年9月17日付けで、国税庁ホームページにおいて、「『租税特別措置法(株式等に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて』の一部改正について(法令解釈通達)」が公表された。 平成25年度税制改正において、投資促進税制の一環として少額投資非課税制度(NISA)が新設され、平成26年1月1日から施行されることになっているが、その適用に当たっては、金融機関等を通じた非課税適用の申請が必要とされている。 今回の通達改正は、その申請手続が平成25年10月1日から開始されることに伴い、NISAの適用に関する具体的な取扱いが定められたものである。   2 問題の所在 NISAは、最大500万円の上場株式や株式投資信託等への非課税投資を可能とする制度であるが、その適用関係を明確にするために、同時に1つの金融機関等でしかNISA口座を開設することができないものとされている。 ところが、NISA口座の開設について依頼を受けた金融機関等においては、他の金融機関等でNISA口座が開設されているかどうかを正確に把握できるとは限らず、事実上複数の金融機関等においてNISA口座が開設され、税務署に対して非課税適用の申請がなされることがあり得る。 そこで、今回の通達改正では、そのような場合の取扱いが定められている。   3 通達による定め (1) 複数の申請がなされた場合の取扱い 複数の金融機関等から非課税適用の申請がなされた場合は、税務署を基準に、税務署が申請を受け付けた日がもっとも早い申請を有効なものとして取り扱うことになる(措通37の14-19)。 なお、この受付日は、電子申請がなされる場合には、その受信日、記録用媒体の提出による申請がなされる場合には、その収受日が基準となる。 (2) 複数のNISA口座が開設された場合の取扱い 複数の金融機関等においてNISA口座が開設されてしまった場合は、上記(1)のとおり、税務署の受付日がもっとも早い非課税適用の申請が有効なものになるので、それより遅い申請に係るNISA口座は非課税規定の適用を受けられないことになる(措通37の14-21)。 さらに、申請の受付日が同日である場合は、実際にNISA口座内で上場株式等を取得したのが早い日のものが非課税規定の適用を受けられ、それも同日である場合は、配当や譲渡によって口座内に異動が生じたのが早い日のものが非課税規定の適用を受けられることになる。   4 関係様式の定め なお、以上にあわせて、NISA適用に関する書類の様式が定められた「『法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」も公表されているので、参考にされたい。  (了)
#36(掲載号)
#木村 浩之
2013/09/24
お知らせ その他お知らせ

【特別無料公開~10/1】 「〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点」(全16回)

このたび2013年10月1日までの期間限定で、「〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕消費税率の引上げに伴う実務上の注意点」全16回を非会員の方でもご覧いただける「無料公開」とさせていただきます。 消費税率の引上げに伴い、企業では実際にどのような問題が起こりうるのか、また、経過措置への対応は問題ないか、分かりやすく、かつ、詳細に解説していますので、この機会にぜひご覧下さい。 ※公開は終了しました。
#Profession Journal 編集部
2013/09/19
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 組織再編 財務会計 速報解説一覧

《速報解説》 改正「企業結合に関する会計基準」等の解説

《速報解説》 改正「企業結合に関する会計基準」等の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年9月13日、企業会計基準委員会は、「企業結合に関する会計基準」及び関連する他の改正会計基準等を公表した。 これにより、平成25年1月11日に公開草案を公表し、意見募集を行っていたものが確定することとなる。 以下では主な改正点について述べる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正点 改正される会計基準等は、 企業結合に関する会計基準 事業分離等に関する会計基準 連結財務諸表に関する会計基準 だけでなく、 貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準 包括利益の表示に関する会計基準 など広範囲に及ぶので、適用に際しては注意が必要と思われる。 また、例えば、公開草案の「連結財務諸表に関する会計基準」29項で規定されていた「売却した株式に対応するのれんの未償却額」の取扱いについては改正基準では規定されていなかったり、公開草案では「共通支配下の取引における個別財務諸表上の会計処理(企業結合会計基準案45 項)」の改正が予定されていたが、非支配株主の名称変更にとどまっていたりするので、改正基準を読む際には、注意が必要と思われる。 なお、「公表にあたって」においては、「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第18号)及び「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第24号)の改正について、別途予定されていることが述べられている。 1 支配が継続している場合の子会社に対する親会社の持分変動 現行基準の「少数株主持分」を「非支配株主持分」に変更する。 これにより、連結株主資本等変動計算書の表示区分における「少数株主持分」は「非支配株主持分」に変更され、また、利益剰余金の変動事由における「当期純利益」は「親会社株主に帰属する当期純利益」に変更される。 2 当期純利益の表示 次のように用語の変更が行われている。 従来と同様の「当期純利益」の用語であっても、その意味する内容は異なるものとなるので、注意が必要と思われる。 上記の改正により、連結損益及び包括利益計算書又は連結損益計算書の表示については、2計算書方式の場合は、当期純利益に非支配株主に帰属する当期純利益を加減して親会社株主に帰属する当期純利益を表示し、一方、1計算書方式の場合は、当期純利益の直後に親会社株主に帰属する当期純利益及び非支配株主に帰属する当期純利益を付記する(「連結財務諸表に関する会計基準」39項)。 「1株当たり当期純利益に関する会計基準」の適用に当たっては、連結財務諸表において、連結損益計算書上の「当期純利益」は「親会社株主に帰属する当期純利益」、連結損益計算書上の「当期純損失」は「親会社株主に帰属する当期純損失」とする(「1株当たり当期純利益に関する会計基準」12項)。 3 取得関連費用の取扱い 4 暫定的な会計処理の確定の取扱い 5 適用時期等 次のとおりであるが、複雑になっているので注意が必要である。 (了)
#36(掲載号)
#阿部 光成
2013/09/19
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法人・個人の所得課税における実質負担率の比較検証 【第1回】「税率の推移と実質負担率」

法人・個人の所得課税における 実質負担率の比較検証 【第1回】 「税率の推移と実質負担率」   (株)よつばコンサルティング 税理士 石渡 晃子 税理士 青木 岳人     1 比例税率と超過累進税率 (1) 応能負担と応益負担 「応能負担の原則」と「応益負担の原則」、この言葉を見聞きしたことがある方は多いであろう。 これは、なぜ税金が課されるのかという課税の考え方であり、「応能」「応益」、異なる2つの視点から捉えたものである。 応能負担とは、その者の担税力に応じた税負担を負うべきというものである。一方、応益負担とは、公共サービスの享受に応じた税負担を負うべきというものである。 応能負担の考え方は「超過累進税率(あるは累進税率)」へ、応益負担の考え方は「比例税率」へ、それぞれ結びつくものであり、「応能」「応益」どちらの性質が色濃いものであるかにより、税率の違いが発生するのである。また、国税は「応能」、地方税は「応益」といった傾向も強い。 なお、これら2つの考え方についての法的根拠も参照までに示しておこう。まず、「応能原則」は憲法第13条(個人の尊重)、第25条(生存権の保障)、第29条(財産権の保障)に基づく。一方、「応益原則」は憲法第14条(法の下の平等)に基づく。 平等な課税について憲法に照らし合わせ考えると、「応能原則」の方がより法律に忠実な課税であるともいえよう。 (2) 比例税率 比例税率とは、課税所得の大小に関係なく一定の率を適用することをいう。したがって、「水平的公平性」(*1)を満たす方法であるといえる。 本稿で取り上げる税のうち、「法人税」「住民税」「事業税」がこれにあたる。 では、なぜこれらは比例税率が適用されるのであろうか。 まず、法人税は、所得の再分配や限界効用の逓減といった概念には当てはまらないものであり、また、基本的に税制は経済に対して極力中立的であるべきという要求(*2)を満たす必要がある。 次に、住民税や事業税は、行政サービスを享受しているという観点から課税されており、応益負担の意味合いが濃いものである。 (*1) 公平性には「水平的公平性」と「垂直的公平性」の2つの概念が存在する。 (*2) 「公平・中立・簡素」の3つが租税原則である。すなわち、①公平な課税、②経済社会において干渉しないこと、③納税者及び税務当局双方にとって費用が最少であること、が課税を行う上での原則となる。   (3) 超過累進税率 超過累進税率とは、課税所得を複数の段階に区分し、上の段階へ進むに従って税率が高くなるかたちで税を課す制度である。 この課税方法は、大正2年改正において、所得税について2.5%~22%の14段階にて導入されたのが、その始まりである。 本稿で取り上げる税のうち「所得税」がこれにあたる。 所得税の役割は、第一は国の財源を調達することであり、第二は所得再分配を行うことである。第二の役割を果たすためには、応能負担の原則に基づく必要がある。そのため、超過累進税率を採用しているのである。 つまり、超過累進税率は、垂直的公平性と応能負担の原則の両者を満たすものである。 超過累進税率の特色は、複数の段階(ブラケット)を設けていることであるが、ブラケット数を多く設けることにはそれぞれメリットとデメリットがある。 1つ目のメリットは、貧富の差が大きい場合は特に所得再分配機能が働くことである。所得再分配の機能を存分に果たそうとするのであれば、低税率から高税率まで多くのブラケットを設けるのが好ましい。また2つ目のメリットは、ブラケット数が多いことにより、なめらかに負担が累増していくことである。 しかしその一方で、デメリットも存在する。例えばサラリーマンの場合、「就職から退職まで」という1つのライフステージの中で納税義務を負うこととなるが、所得税の税率が1つ~2つのブラケット内に収まらない場合、累進感が増すこととなる。 また、低所得層への社会福祉の充実が図られる中で所得再分配を前面に押し出すことは、かえって公平性を欠くというデメリットもある。   2 法人の所得に対する税率 (1) 法人税 法人税とは、その企業活動により得た所得に対して課される国税をいい、平成25年度予算ベースで租税収入の20.6%(9.6兆円)を占める。 その税率は、平成25年9月現在で25.5%(基本税率)である。なお、法人税は比例税率で課税を行うものであるが、中小企業に対してはその担税力を考慮し、軽減税率を導入している。この点においては、比例税率の中に若干の累進税率を取り入れているともいえよう。 下記に示すのが税率の推移であるが、近年、税率は引下げの一途をたどっている。 〈法人税率の推移〉 (注) 平成24年4月1日から平成27年3月31日の間に開始する各事業年度に適用される税率。 (※) 昭和56年4月1日前に終了する事業年度については年700万円以下の所得に適用。 (財務省ホームページより引用) 法人税は、そもそも所得税の一部として課税されていたものが、昭和15年に法人税として独立、18%の比例税率により課税されるようになったのが、その始まりである。近代税制としての始まりはシャウプ勧告であり、昭和25年に35%の比例税率によりスタートした。 その後、昭和27年には42%まで引き上げられ、多少の上下を伴いつつも、昭和59年には43.4%まで引き上げられる。これは、昭和40年代後半ごろから法人所得に対する課税強化が主張されるようになったためである。というのも、企業設備の拡大その他経済の高度成長が公害等社会的費用を増大させており、企業は応分の負担を負うべきであるという声が高まったためである。また、法人税の税率引上げの背景には、所得税減税に伴う税源確保があった。 上記推移図をさらに見進めると、昭和59年以後は一転、税率が引き下げられる一方である。これは、企業活力や国際競争力を維持する観点から行われたものである。 特に平成10年頃から大幅な引下げが行われているが、これは日本の法人課税の実効税率の高さが問題視し始められたことによる。当時、日本の法人課税における実効税率は諸外国より10%程度高いとされ、産業の空洞化を防ぐこと、景気の回復・経済の発展を図ることを理由として、税率を引き下げ課税ベースを拡大するという改正が行われてきたのである。 (2) 法人住民税 法人住民税とは、市町村民税(東京23区は特別区民税)と道府県民税・都民税のうち、法人に対して課されるものをいう。法人住民税には、課税所得にかかわらず課される「均等割額」と法人税額をベースとして課される「法人税割額」がある。 地方公共団体により多少の差異があるが、基本的には、市町村民税の均等割額は資本金等の額及び従業者数に応じ5万円から300万円、法人税額割は12.3%の比例税率による。道府県民税の均等割額は資本金等の額及び従業者数に応じ2万円から80万円、法人税額割は5.0%の比例税率による。 なお、東京都23区の場合、特別区民税と都民税は一括して課税される。 (3) 法人事業税 法人事業税は法人の行う事業に対して課される地方税であり、所得に対して課税される税金のうち、唯一損金算入が認められる税金である(*3)。 課税標準は所得であり、税率は平成20年度改正の暫定措置により、資本金又は出資金の額及び所得の額により1.5%~5.3%の比例税率とされている。また、暫定措置により税率が軽減される一方、別途、地方法人特別税(国税)が事業税を課税標準として課される。 (*3) 事業税も応能負担の考えから課税されるものであるが、欠損法人に対しては全く課税されないため、負担の公平性という観点からは矛盾しているかもしれない。   3 個人の所得に対する税率 (1) 所得税 所得税とは、個人の所得に対して課される国税であり、平成25年度予算ベースで租税収入の30.3%(14.2兆円)を占める。 税率は5%~40%の6段階の超過累進税率によるが、納税者の85%が10%以下の税率適用である(平成24年度予算推計、財務省資料より)。 現行税率までの近年推移は、下記のとおりである。 〈所得税の税率の推移(イメージ図)〉 (注)昭和62年分の所得税の税率は、10.5、12、16、20、25、30、35、40、45、50、55、60%の12段階(住民税(63年度)の最高税率は16%、住民税と合わせた最高税率は76%)。 (※)昭和62年分の所得税の税率は、10.5、12、16、20、25、30、35、40、45、50、55、60%の12段階(住民税(63年度)の最高税率は16%、住民税と合わせた最高税率は76%)。 (財務省ホームページより引用) 上記の推移をみると、平成元年改正前のブラケット数の多さに目がとまる。 そもそも現在の所得税の始まりは、戦後のシャウプ勧告による20%~55%の8段階の超過累進税率による課税である。 これが昭和28年には15%~65%の11段階、昭和44年には10%~75%の16段階までブラケット数が増やされた。昭和44年長期税制答申にて「最低税率適用階級から最高税率適用階級まで限界負担能力の上昇に応じてなめらかに負担が累増していく形が望ましい」とあるが、これがブラケット数を増加させた要因のひとつである。昭和59年改正・62年改正では最高税率を60%まで引き下げるとともに、低所得・中所得層の税率引下げを行うべく累進構造の改正を行っている。 ところで、累進構造には所得再分配の役割を果たすという重要な役割があるが、その一方できつすぎる累進構造には といったデメリットもある。 そこで、平成元年に抜本的改革が行われ、10%~50%の5段階となった。 現行は5%~40%の6段階であるが、これは平成19年度改正にて、特に若年層(20歳~39歳)での所得格差の急激な拡大(ジニ係数の変化)を是正すべく、最低税率を5%とし、30%と37%の税率を33%と40%へそれぞれ3%引き上げ、減税と増税を組み合わせて負担の調整を図ったものである。 なお、平成25年度改正において、所得税の役割のひとつである所得再分配機能の回復と所得格差の是正のため、最高税率は45%に引き上げられ、この税率は平成27年より適用となる。 (2) 個人住民税 個人住民税とは、市町村民税(東京23区は特別区民税)と道府県民税・都民税のうち、個人に対して課されるものをいう。 個人住民税には、課税所得にかかわらず課される「均等割額」と課税所得をベースとして課される「所得割額」がある。なお、個人住民税おける課税所得とは所得区分については所得税と同様であるが、所得控除額は住民税独自の金額が適用されている。 均等割額と税率は全国統一であり、均等割額は市町村民税3,000円(ただし平成26年6月より10年間は3,500円)、道府県民税は1,000円(同1,500円)、税率は市町村民税6%、道府県民税は4%の比例税率による。 (3) 個人事業税 個人事業税は、個人の行う事業に対して課される地方税である。 税率は、個人の行う事業別に第一種事業は5%、第二種事業は4%、第三種事業は5%(一部例外事業は3%)の比例税率による。 課税標準は所得であるが、所得税で適用される青色申告特別控除前の所得から事業税独自の事業主控除290万円を控除した後の金額となる。個人事業税には軽減税率といった制度はないが、低所得者の負担を軽減するためにこの事業主控除が設けられている。   4 実質負担率とは 実質負担率とは、「最終税額」を「課税所得」で除して計算したものをいう。 (1) 法人の実質負担率 まず法人に対して課される税を示す。なお、基本税率を適用し、また、設立1年目を前提として事業税の損金算入は考慮しないものとする。 これに、東京都に本店を置く法人(資本金1億円超)として税率を当てはめてみる。 では、課税所得が1,000万円の場合を計算してみよう(住民税均等割額は考慮しない)。 (2) 個人の実質負担率計算 次に、個人に対して課される税をみてみよう。 こちらも課税所得は1,000万円とし、第一種事業を営むものとする。 (3) 小括 このように、同じ課税所得であっても、法人と個人では実質負担率は異なる。また、上記計算例の場合、法人税率は25.5%、所得税率は33%まで適用されているが、所得税は超過累進税率を採用するため、税率のみでの単純比較には何ら意味がない。 したがって、「法人」「個人」どちらが税負担が少なくなるのかを検討するためには、実質負担率を使って比較をする必要がある。 第2回では、いくつかシミュレーションを示し、実質負担率を使った比較検討を行うこととする。 (了)  
#36(掲載号)
#青木 岳人
2013/09/19
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第5回】「被相続人の戸籍調査と相続人関係図の作成」

〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第5回】 「被相続人の戸籍調査と 相続人関係図の作成」   税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   〔被相続人の戸籍調査における留意点〕 第3回及び第4回では、法律上、誰が相続人となるのか、具体的なケースも検討しながら説明してきた。 実務において、誰が相続人になるのか、具体的に確定するためには、他界した方の戸籍を死亡時から遡って出生まで調べていくことになる(*1)。 戸籍は、本籍地が変わった場合、婚姻した場合などは、新しい戸籍が作成される(この場合の新しい戸籍が作成される前の戸籍を「除籍」という)。また、法律が変わり、戸籍が新しく作成される場合もある(この場合の新しい戸籍が作成される前の戸籍を「改製原戸籍」という)。このように新しく戸籍が作成される場合、前の戸籍のすべてが新しい戸籍に記載されるわけではない。 重要なことは、新しい戸籍が作成された場合、すべての事項が移記されるわけではなく、特定の重要な身分事項しか移記されないということである。 また、従前の戸籍から除籍された人は、新しく作成された戸籍には記載されない。そのため、他界した方の相続人(子供)を漏れなく調べるには、他界した方の戸籍を、死亡時点のものから出生(*2)まで遡り、戸籍(除籍、改製原戸籍を含む)を一つずつ調べていく必要がある。 他界した方の戸籍(除籍、改製原戸籍を含む)は、多くの場合、納税者が収集することが多いが、資料の収集自体を納税者から依頼されることもある。この場合、税理士は職権で戸籍(除籍、改製原戸籍を含む)を取得することができる。 ただし、その場合には、税理士会で販売している「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」を用いて取得を行う。戸籍は、本籍地の市役所・区役所などで取得することになるため、本籍地が複数の市区町村にまたがっている場合には、それぞれの市区町村の役所へ依頼する必要がある。遠隔地の場合には、手数料分の定額小為替及び返信用封書を同封することで、郵送にて依頼することも可能である(手数料は必ずしも同じではないため、事前に各市区町村の役所へ確認したうえで依頼する必要がある)。   〔相続人関係図の作成〕 他界した方の戸籍(除籍、改製原戸籍を含む)を死亡から出生まで遡り、相続人を確定することができたら、それを「相続人関係図」としてまとめることが通常である(*3)。 〈相続関係説明図例〉 (法務省ホームページより ※PDFファイル) (了)
#36(掲載号)
#根岸 二良
2013/09/19
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔理解を深める〕研究開発税制のポイント整理 【第4回】「試験研究費の額をめぐる留意点」

〔理解を深める〕 研究開発税制のポイント整理 【第4回】 (最終回)  「試験研究費の額をめぐる留意点」   税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔   1 はじめに 本連載の最終回となる今回は、前回に引き続き研究開発税制を適用するにあたり実務上留意すべき点として、「試験研究費の額」を解説する。   2 試験研究費の額 (1) 試験研究費の原価性 試験研究費の税額控除の規定は、試験研究費を支出した事業年度ではなく、損金の額に算入した事業年度において適用される。 そのため、試験研究費の原価性が「期間費用」になるのか「製造原価」になるのか、その区分は非常に重要である。 ① 期間費用 製造原価に算入しない費用であれば、販売費及び一般管理費として、研究開発支出の発生事業年度においてその全額を損金の額に算入することができる。 すなわち、発生事業年度において試験研究費の税額控除の規定の適用を受けることができる。 ② 製造原価 製造原価に算入する費用すなわち資産の取得価額を構成する費用は、次の資産の区分に応じそれぞれの時期に損金の額に算入され、試験研究費の税額控除の規定の適用を受けることができる。 (ア) 棚卸資産 当期の売上高に対応するものが損金の額に算入される。 (イ) 固定資産 当期の減価償却費が損金の額に算入される。 (ウ) 繰延資産 平成19年度の改正により、繰延資産の範囲から試験研究費が除外された。しかしながら、試験研究用として建物を賃借するために支出する権利金など税務上繰延資産として処理しなければならない支出もあるため、試験研究費と無関係ではない。当期の償却費が損金の額に算入される。   (2) 実務上留意すべき点 本稿では「試験研究費の額」における実務上の留意点を、様々な論点が含まれる上記(1)②(イ)の「固定資産の減価償却費」に焦点を当てて解説する。 ① 開発研究用減価償却資産の特例 開発研究用減価償却資産は など不安定な点があることから、耐用年数が一般用減価償却資産よりも短い。 〈耐令別表第6 開発用減価償却資産の耐用年数表〉 ② 圧縮記帳 国や地方公共団体は、研究開発の奨励・促進のため、研究開発を行う企業に対して補助金を出すことがある。この補助金により取得した試験研究用資産は、一定の要件を満たせば圧縮記帳の規定を適用することができ、当該規定により損金の額に算入される金額は、試験研究費の額に含めることになる。 なお、返還不要が確定した補助金は、試験研究費の額から控除する「他の者から支払を受ける金額」に該当する。 ③ 特別償却制度 法人が「準備金方式」を選択して特別償却制度を適用した場合、積み立てた金額は試験研究費の額に含まれないので留意したい。 なお、研究開発税制に関連する特別償却制度は以下のとおりである。 ④ 試験研究用固定資産の除却損等 減価償却費が試験研究費の額になる以上、償却不足額の一時償却を意味する除却損や譲渡損も試験研究費の額に含まれると考えられる。その点は、研究開発税制の制度が各事業年度の比較を基に構成されていることから、臨時的・偶発的な金額を含めることは適当でないとされている。 ⑤ 少額減価償却資産の特例 少額減価償却資産の特例を適用して計算した減価償却費は、試験研究費の額に含まれる。   連載のまとめ 研究開発税制は、その時々の経済状況により制度内容が改正される。 「平成26年度税制改正に関する経済産業省要望」においても、税額控除率の引上げなど、研究開発税制の拡充・延長が挙げられている。 本連載では、平成25年度現在の研究開発税制の制度内容について、沿革と照らし合わせながら解説した。 本連載を一つの区切りとして、今後の研究開発税制の改正に対応していただきたい。 (連載了)
#36(掲載号)
#吉澤 大輔
2013/09/19
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔書面添付を活かした〕税務調査を受けないためのポイント 【第3回】「「添付書面」記載のポイントと意見聴取時の留意点」

〔書面添付を活かした〕 税務調査を受けないためのポイント 【第3回】 「「添付書面」記載のポイントと 意見聴取時の留意点」   公認会計士・税理士 田島 龍一   1 意見聴取制度のおさらい 意見聴取(税理士法35条)には、次の3つが法定されている。 本稿では、上記①の「事前通知前の意見聴取」のみを取り上げる。 また、意見聴取の流れは下記の通りである。   2 「添付書類」記載のポイント (1) 適切な添付書類の作成 前回述べたとおり、書面添付は、提出された確定申告書及びその添付書類である計算書類が適切な根拠とプロセスで作成されたかを税理士が自らの責任で記載するものである。 上記のように、税務署は、それを税務調査の観点から税理士に確認し(意見聴取)、税務調査と同様な効果があると認められれば税務調査を省略する。 つまり意見聴取は、書面添付に記載した内容に関して実施されるので、意見聴取における最大の対策は、「いかに適切な添付書面を作成するか」となる。 そこで「税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面」の記載内容と各記載事項の留意点について、国税庁(法人課税課)による「書面添付制度に係る書面の有用事例集(平成17年7月)」をもとに解説する(資料を参照)。 この有用事例集では、各業種の有用事例とそのポイントが紹介されている。 なお、日本税理士連合会ホームページに掲載されている「新書面添付制度ガイドブック」も参考となる(ただし会員限定)。 (2) 添付書面の構造 添付書面の構造は、大きく2区分に分かれている。 「第1区分」は、さらに次の3つに細分化される。 「第2区分」である「申告書作成に関する計算・整理等の内容」は、さらに次の5つに細分化される。 (3) 主要項目の留意点 上記の3~5のうち、特に留意すべき記載内容につき、以下に述べる。 ① 「第2区分」 3 計算し、整理した主な事項 「3 計算し、整理した主な事項」は、次の3つに区分して記載する。 (1) 計算・整理したプロセスとその根拠資料の明示 ここには税理士が計算し・整理した事項を科目ごとに記載するが、「区分」欄に科目名を記載し、「事項」欄には実際に税理士が実施した決算整理手続を記載する。また、「備考」欄にはその根拠資料や追加情報を記載する。 記載できる枠が決まっているので、「区分」にどの科目を選定し「事項」に何を記載するかは、あくまで自分が税務調査官であるとしたならば、当期の決算書のどの部分に興味を持ち、何を知りたいかを考えて科目選定を行う。 具体的には、損益項目の金額の重要なものや一般的に不正が起こりやすい科目(交際費や修繕費等)、また、当期に初めて発生した科目を選択する。 「事項」には、税務調査時に調査官が調べると思われる手続を実際に行い記載する。また「備考」には、この資料を確認すれば大丈夫と思われる資料を確認の上で明示し、また、留意した事項を記述して、「ここまでの手続を行っているなら大丈夫」と安心感を与えられる記載が望まれる。 (2) 顕著な増減説明 著しい増減は、「(1)のうち顕著な増減事項」に増減の著しい科目名と増減の動向を記載し、「増減理由」に調査した増減理由を記載する。 なお、「(1)のうち」というのは、「計算・整理した事項」のうち、という意味であり、(1)に記載しなかった科目の増減を記載しても構わない。 著しい金額の増減は、その理由によっては、税務更正がありうるかもしれないと税務調査官が興味を持つ項目である。 このため、この理由であれば十分ありうるという内容と、その背景を調査官の目線で納得できるかを考えながら記載するとよい。 (3) 「(1)のうち会計処理方法に変更等があった事項」 当年度で変更された会計処理内容を記載し、「変更等の理由」に調査した変更理由を記載する。 会計処理変更時は間違いが生じやすく、また、変更の背景に過去の不正が潜んでいることがありうるので、税務調査官の関心事である。 変更理由が、より適切に会社の損益や財政状態を表示しうるものであるかを確認し、説明することが求められる。 ② 「第2区分」 4 相談に応じた事項 税務相談は、「事項」欄に相談項目を記載し、「相談の要旨」欄にその概略を記載する。 期中や決算整理時点では、納税者から様々な質問が出て、税理士がその回答をすると思われるが、ここに記載するものは、決算に重要な影響を与えうる内容の相談や税務当局が関心事となる項目に係る相談について、税法に準拠して正しく回答していることを示すのが重要となる。 務署の関心事は、役員報酬の変更や役員退職金、役員への貸付金・借入金の処理、修繕費と固定資産の資本的支出の区分、交際費と会議費の区分や基準設定等である。 スペースによるが、場合によっては、些細と思われる事項でも、「会社と税理士とはこのような小さなことでも相談に乗り、適切に処理されている」という印象を与えると思われる場合には、記載することも得策となりうる。 ③ 「第2区分」 5 その他 「その他」には、「総合所見」を記載し、税務署が「この関与税理士は定期的にきちんと納税者を指導しているので、この会社には間違いや不正はあり得ない」と感じる内容がにじみ出る記載が理想であろう。 (4) その他の事前対策事項 「税務代理権限証書」(下記参照)は、事前通知前意見聴取を受けるための必要条件になっている。その理由は、意見聴取は、いわば税務署からの擬似税務調査に対して税理士が納税者に代わって回答することであるので、納税者からの委任状の提出が必須となるわけである。 「税務代理権限証書」 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます(国税庁ホームページへ)。   3 意見聴取時の留意点 ① 意見聴取は、税務プロ同士の税務調査 意見聴取は、税務署の職員と税理士という「税のプロ同士の税務調査」と考えるのが妥当と思われる。 一般の臨場調査では、そこに税の素人である納税者自身が対応するため、調査に直接の関係ない不要な発言があって調査官が混乱したり誤解したりする恐れがあり、結果として余分な説明等に時間がかかり、スムースに処理が進まないことがある。 ② 資料提供時の留意点 意見聴取には、調査官の質問に係る納得のできる根拠資料を調べたうえで回答するという姿勢が必要である。 なお、税務上の解釈につき難しい内容については、上席等に正しく伝達可能になるように、文書で、その背景と解釈根拠等を分かりやすく記載した資料を準備して説明することも大切である。 * * * つまり意見聴取の対策とは、結局、税理士が納税者と関わりを持ち、その計算書類についてどれだけ深く調べ、準備して臨んでいるかにかかっているということになる。 連載の最終回となる次回は、書面添付を円滑に実施するためのクライアントへの指導及び事務所(スタッフ)運営のポイントについて述べる。 (了)
#36(掲載号)
#田島 龍一
2013/09/19
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