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〔大法人のための〕交際費課税の改正ポイント 【第2回】「改正後の取扱いに関するQ&A」
〔大法人のための〕 交際費課税の改正ポイント 【第2回】 「改正後の取扱いに関するQ&A」 税理士法人山田&パートナーズ 税理士 吉澤 大輔 今回は、本改正によって生じる交際費等の取扱いの変更点について、大法人の現場で起こりそうな疑問点を想定し、Q&A形式で解説する(なお、本連載で取り扱う大法人の判定については、前回のフローチャートを参照)。 本稿で取り上げるQ&Aは、以下のとおりである。 改正後の確認事項Q&A Q1 接待飲食費の範囲 「接待飲食費」は、どのような範囲まで含まれるのでしょうか。 また、1回あたりの「接待飲食費」の金額に、上限はあるのでしょうか。 A 大法人が支出する交際費等のうち平成26年度税制改正により損金計上が認められることになる「接待飲食費」とは、社内飲食費※を除いた次のような費用で、帳簿書類により飲食費であることが明らかにされているものをいう。 なお、1回あたりの「接待飲食費」の上限は設定されていない。 ※社内飲食費とは、専ら当該法人の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものをいう。 Q2 5,000円基準の適用について 本改正後も引き続き、大法人でも5,000円基準は適用されるのでしょうか。 A 法人が支出する交際費等がQ1の接待飲食費に該当し、かつ、次の算式で計算した1人当たりの金額が5,000円以下である場合には、当該支出は交際費等に含まれない。 したがって、支出した法人の規模にかかわらず、当該支出は全額損金算入される。 Q3 交際費等の支出時期と適用関係 いつから支出した交際費から損金算入できるようになるのでしょうか。 例えば、平成26年3月30日の接待飲食費を平成26年4月5日に支払った場合には、適用できるのでしょうか。 A 大法人が支出する接待飲食費について損金計上の規定を適用するためには、平成26年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する各事業年度において支出する接待飲食費であることに注意しなければならない。 なお、平成26年度税制改正を受けた改正租税特別措置法関係通達は、本稿執筆時点においてまだ公表されていないが、改正前措通61の4(1)-24では、「各事業年度において支出する・・・」の意義を実際に支出した時ではなく「接待飲食の行為があった時」であることを述べている。 したがって、例えば平成26年4月1日に事業年度を開始した大法人が平成26年3月30日の接待飲食費を平成26年4月5日に支払った場合には、当該接待飲食費については平成26年3月期の事業年度の交際費に該当することから、平成26年度税制改正の影響を受けることはないと考えられる。 ※上記については、改正通達公表後、追記を行う予定。→2014/7/14追記(論末)参照。 大法人特有の論点Q&A Q4 グループ会社間の接待交際費 当社の事業に関係のある孫会社の役員等に対して接待を行いました。 接待に際して支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 孫会社はグループ会社ではあるが、社外である。 したがって、孫会社の役員等に対する接待は社内飲食費には該当せず、接待飲食費に該当することになる。 Q5 海外のグループ会社社員への接待交際費 当社の事業に関係のある海外のグループ会社役員等(国籍問わず)に接待飲食を行いました。 この接待飲食に支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 接待飲食の場所は国内に限定されていないため、海外で支出した飲食代も接待飲食費の額に該当する。 Q6 出向者への接待 当社の事業に関係のあるグループ会社へ出向している当社の社員に対して、当社社員が接待を行いました。 この場合、接待に際して支出した飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 接待飲食費に該当する。 自社(出向元)の社員であっても、実際に勤務しているのは出向先である。そのため出向先の立場で出向者が受けた接待に際して自社が支出した飲食代は、接待飲食費に該当する。 ただし、自社の同期会等の感覚の集まりに出向者が参加した場合で、自社が支出した同期会等の飲食代は社内飲食費に該当し損金不算入となる可能性がある。 Q7 地方支店の社員との飲食 東京本社の社員が地方支店へ出張した際に、地方支店の社員と名刺交換をし、業務終了後には会社負担で食事会を開きました。 会社が負担した食事会の飲食代は、接待飲食費に該当するのでしょうか。 A 社内飲食費に該当し、接待飲食費には含まれない。 全国展開している会社の場合、顔と名前を互いに知らない社員同士の存在は十分に考えられる。 しかしながら、同じ会社内である社員同士の飲食は社内飲食費に該当する。 (了)
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〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第25回】 「『配偶者の税額軽減』の適用を受ける」
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第25回】 「『配偶者の税額軽減』の適用を受ける」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 相続税の特例で、税額に大きな影響があるものには、前回まで説明を行った小規模宅地特例とともに、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)がある。 今回は、相続税の「配偶者の税額軽減」について説明を行う。 1 配偶者の税額軽減の概要 この「配偶者の税額軽減」とは、被相続人の配偶者が相続・遺贈で取得した財産については、次のいずれか大きい金額までは、配偶者は相続税の負担はないという特例である。 (※) 「配偶者の法定相続分相当額」とは、相続・遺贈で財産を取得したすべての者の課税価格の合計額に、配偶者の法定相続分を乗じた金額を意味する。 具体的には、配偶者の税額軽減額は、次のように計算される。 配偶者の税額軽減が適用できる場合、相続税申告業務のうち多くのケースにおいて、配偶者に関しては、相続税の負担が全くない、若しくは非常に少額の負担にとどまる結果となる。 このように、配偶者の税額軽減の特例は、夫婦間での財産の相続・遺贈については、相続税の負担を免除する、又は少額に圧縮する効果があるが、これは「①同一世代間における財産の移転であること、②配偶者は被相続人の遺産の形成に寄与していること及び③被相続人の死亡後における生存配偶者の生活保障を考慮する必要があることなどにより設けられている」(『相続税法基本通達逐条解説(平成22年版)』加藤千博編、財団法人大蔵財務協会、332頁)という趣旨に基づいている。 2 配偶者の税額軽減の適用要件 (1) 遺産分割協議の合意 配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、原則、相続税の申告期限までに、遺産分割協議の合意がされている必要がある。 ただし、相続税の申告期限までに、遺産分割協議の合意がなされていない場合でも、申告期限後3年以内に遺産分割が行われた場合等においても一定の手続を行っておくことで、配偶者の税額軽減の適用を受ける余地はある(*1)。 (2) 相続税申告書の提出 配偶者の税額軽減の適用を受けるためには、相続税申告を行い、かつ、配偶者の税額軽減に関する必要事項を記載し、かつ必要な書類を添付する必要がある(*2)。 (3) 仮装・隠ぺい 仮装・隠ぺいにより相続税申告を行った場合には、その部分については配偶者の税額軽減は適用されない。これは、相続財産につき、「仮装・隠ぺい」という不正手段を用いていた場合には、配偶者といえども、他の相続人と同様に相続税を負担させることにより、悪質な納税義務違反の発生を防止する趣旨であると考えられる。 この場合、具体的には、配偶者の税額軽減額は、次のように計算される。 なお、「仮装・隠ぺい」とは、相続又は遺贈により財産を取得した者が行う行為で当該財産を取得した者に係る相続税の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装することと定義される。 仮装・隠ぺい行為があったか否かの判断は、 か否かで判断される(平成23年11月25日裁決、平成24年4月24日裁決)。 (了)
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基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第2回】「基礎概念における「価値」を理解する」
基礎から学ぶ統合報告 ―IIRC「国際統合報告フレームワーク」を中心に― 【第2回】 「基礎概念における「価値」を理解する」 公認会計士 若松 弘之 前回は、現状の「開示情報の氾濫」と「非財務情報の有用性」を踏まえて、近い将来「統合報告」の取組みが、企業価値の判断に有用な開示手法になる可能性について述べました。 今回はまず、2013年12月にIIRCから公表(日本語版は2014年3月に日本公認会計士協会から公表)された「国際統合報告フレームワーク」(以下、「フレームワーク」という)の具体的内容から説明していきます。 1 統合報告書とフレームワークの関係とは? フレームワークによると、統合報告書は であり、フレームワークに準拠して作成することが求められています。 フレームワークは、統合報告書の全般的な内容を統括する「指導原則」及び「内容要素」を規定し、それらの「基礎概念」を説明することを目的としており、画一的かつ詳細なルールを定めるものではなく、原則主義アプローチに基づいています。 したがって、企業が「フレームワークに準拠した統合報告書である」と宣言するためには、「基礎概念」を十分理解したうえで、フレームワークが要求する事項(フレームワーク本文に太字の斜字体で明示されている)である「指導原則」や「内容要素」を取り入れたものでなければなりません。 2 統合報告書のターゲット(情報提供先)は? 統合報告書は、企業に資本を出資する投資家(株主)や資金を融資する金融機関や社債権者などの「財務資本の提供者」を主たる情報提供先と考えています。これは一義的に企業の価値増減の影響を受けるのが「財務資本の提供者」となるためです。 しかしながら、フレームワークでは統合報告書のターゲットを「財務資本の提供者」に限定するのではなく、従業員、顧客、サプライヤー、事業パートナー、地域社会、立法者、規制当局及び政策立案者など、組織の長期的価値創造能力に関心を持つ「全てのステークホルダー」にとって、統合報告書は有益なものとして位置付けています。 3 「基礎概念」とは? フレームワークの中で一番理解が難しいのはどこかと言われれば、この「基礎概念」の部分ではないでしょうか。なぜなら、「基礎概念」は新しい観念に関する抽象的な表現を多く含んでいるからです。ただし、「基礎概念」は、統合報告の本質に迫るうえで非常に重要なコンセプトになっており避けて通ることはできませんので、次の会話を手がかりに理解していきましょう。 2人の会話から、統合報告が明らかにしようとしている主題が、企業が将来にわたり、2種類の「価値」をどのように増やしていけるのか、また、その関係性や相互作用はどうなっているのかという点であることが理解できたでしょうか。 * * * それでは、そもそもその「価値」の源泉はどこにあるのでしょうか。 フレームワークの「基礎概念」を理解するうえで、もう1つおさえておかなければならないポイントが、「価値」と「資本」の関係です。 この部分については、次回詳しく解説していきます。 (了)
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連結会計
企業結合会計基準に対応した改正連結実務指針等の解説 【第6回】「複数の取引が1つの企業結合等を構成している場合の会計処理」
企業結合会計基準に対応した 改正連結実務指針等の解説 【第6回】 (最終回) 「複数の取引が1つの企業結合等を構成している場合の会計処理」 公認会計士 布施 伸章 ◆ 解説 ◆ 1 一体取引とみるかどうかの考え方 企業結合会計基準5項及び事業分離等会計基準4項では、複数の取引が1つの企業結合又は事業分離を構成している場合には、それらを一体として取り扱うものとしている。 また、企業結合会計基準66項及び事業分離等会計基準62項では、通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当であると考えられるが、1つの企業結合又は事業分離を構成しているかどうかは状況によって異なるため、当初取引時における当事者間の意図や当該取引の目的等を勘案し、実態に応じて判断することとなるとされている。 資本連結実務指針7-3項では、「当初取引時における当事者間の意図」など企業結合会計基準66項の趣旨を踏まえて、 と定めている。 したがって、そのポイントは以下の2点になると考えられる。 ①の取扱いは、ある目的を達成するために、関連性のある組織再編が段階的に行われていたとしても、第三者間で行われている場合には、それぞれの時点で合理的な取引条件でなされているものと想定されることから、会計上もその順序に従って処理することが、一連の組織再編の実態を適切に表すことが多いと考えられるためと思われる。 ②の取扱いは、株主等の取引当事者間で事前に契約等により1つの企業結合等を構成していると判断されるような場合には、個々の取引に着目した会計処理よりも、一連の取引を一体として扱うことが経済実態を反映すると考えられるためと思われる。 取引の一体性について、事前に契約等により明確な場合は必ずしも多くはないと考えられるため、②に該当するかどうかは判断が必要になる。 実務では、ある企業の株式の過半数を取得する場合、残りの株式の扱い(非支配株主が保有する株式の扱い)も同時に検討されることが多いと思われるが、残りの株式を有利な固定価格で買い取る権利を有している場合には、残りの株式の取扱いも、事実上、当初の株式の取得時点で決定していると評価できることがあり、一体処理として扱われる可能性が高いと思われる。 他方、残りの株式の買取りに関して単に優先買取権があるというだけでは、追加取得の判断は事後的に行われることになるため、別々の取引として扱われる可能性が高くなると思われる。 このほか、追加買取りの相手が当初買取りの相手と同じ場合には、両者が異なる第三者の場合に比べて、一体取引として扱われる可能性は高いと思われ、取引価格の調整、売り戻し、買い戻しの有無や取引毎にみたときの経済合理性なども踏まえ、総合的に判断することが求められることになると考える。 なお、会計基準では、「通常、複数の取引が1事業年度内に完了する場合には一体として取り扱うことが適当である」との記述があるが、これはあくまで例示と考えられる。したがって、複数の取引が1事業年度内に行われたときは一体取引として会計処理を行い、事業年度を越えれば別々の取引として会計処理する、というような画一的な判断は適当ではないと考えられる。 2 一体取引とされた場合の会計処理 複数の取引が1つの企業結合等を構成しているものとして一体として取り扱われる場合、支配獲得後に追加取得した持分に係るのれん(別々の取引とされた場合には、資本剰余金として処理される額)については、支配獲得時にのれんが計上されていたものとして算定し、追加取得時までののれんの償却相当額を追加取得時に一括して費用として計上することになる(資本連結実務指針7-4項)。 例えば、第1四半期に60%の株式を取得して支配を獲得し連結子会社とし、同一事業年度内の第3四半期に20%の株式を追加取得した場合(子会社に対する持分比率は80%)で、当該取引が一体のものとして取り扱われたときは、追加取得時の差額については、支配獲得時(第1四半期の60%の株式取得時)にのれんが計上されていたものとして、第3四半期から、第1四半期及び第2四半期の償却分も含めて償却計算を行うことになる(資本連結実務指針66-4項)。 (連載了)
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〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第3回】「確定給付型企業年金制度のみの場合」
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第3回】 「確定給付型企業年金制度のみの場合」 公認会計士・税理士 前原 啓二 1 掛金支出時と決算時の仕訳 〈企業年金掛金支出時〉 〈X2年3月31日の仕訳〉 この設例は、退職金の財源をすべて外部拠出し、確定給付企業年金法に基づく確定給付企業年金制度のみから退職給付を行う場合です。適用する方法は、簡便的方法で、直近の年金財政計算上の数理債務をもって退職給付債務とする方法(退職給付に関する会計基準の適用指針50(2)③)です。 この方法によると、当期末における退職給付引当金残高は、年金財政計算上の数理債務34,500,000円から年金資産の時価25,500,000円を控除した額9,000,000円になります。 当社の決算日(3月31日)と年金財政計算の決算日(2月28日)に差異がありますが、この設例では年金財政計算の決算日X2年2月28日から当社の決算日X2年3月31日までの間に年金資産の時価や年金財政計算上の数理債務に重要な影響を与える事象はないものとし、また、年金財政計算のX2年3月31日の報告書も特にないことから、簡便的にX2年2月28日現在の年金財政計算上の数理債務34,500,000円と年金資産25,500,000円を用いて計算します。 同様に、前期末の退職給付引当金残高を計算すると下記のとおりです。 退職給付引当金の前期末残高から当期末残高の増減を、退職給付債務と年金資産に分解して示すと、次のとおりです。 年金資産については、当期の年金掛金支出額3,600,000円(上表の注①)により増加します。退職給付引当金残高は年金財政計算上の数理債務から年金資産の時価を控除した額なので、年金資産の増加は退職給付引当金の減少要因となり、年金掛金の支出は会計上退職給付引当金の減額で仕訳されます。前期末貸借対照表上の退職給付引当金残高8,000,000円から当期の年金掛金支出額3,600,000円を差し引いた4,400,000円が決算整理前の退職給付引当金残高となります。 当期末の退職給付引当金残高9,000,000円を退職給付引当金期末残高とするため、決算整理前の退職給付引当金残高4,400,000円から4,600,000円を増加させます。この増加額4,600,000円は、退職給付債務の増加5,000,000円と年金資産の増加400,000円に分解できます。前者は、直近年金財政計算上の数理債務の前期末金額30,000,000円から当期の年金給付額500,000円を控除した29,500,000円と、直近年金財政計算上の数理債務の当期末金額34,500,000円との増差額5,000,000円(上表の注②)です。後者は、年金資産の運用益400,000円(上表の注③)です。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、実際に退職給与を支給した日の属する事業年度にその支給額が損金算入されます。したがって、当期の退職給付引当金の計上費用4,600,000円は加算・留保します。 一方、確定給付企業年金の掛金については支出額をその支出した事業年度に損金算入できます(法令135)が、会計上はこの支出額を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上はこの金額を減算調整します。 (了)
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金融商品会計
経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第48回】金融商品会計④「その他有価証券の評価」
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第48回】 金融商品会計④ 「その他有価証券の評価」 仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① X2年3月31日 (*1) 100株×(120-100)=2,000 (*2) 2,000×40%=800 (*3) 2,000-800=1,200 ② X2年4月1日 ③ X3年3月31日 (全部純資産直入法による場合) (*4) 100株×(100-90)=1,000 (*5) 1,000×40%=400 (*6) 1,000-400=600 (部分純資産直入法による場合) 〈会計処理の解説〉 会計上、有価証券として取り扱われるものには、株式、社債券、国債などがありますが、会社がこれら有価証券を保有する目的は実にさまざまです。 そこで、会計上は、有価証券を以下の4つの保有目的に分類し、保有目的ごとに異なる会計処理を行います。 本事例におけるA社株式は、取引関係の維持を目的としているため、(d)その他有価証券に該当します。 その他有価証券は、取引関係の維持などを目的として保有しており、事業遂行上の必要性から直ちに売却することが困難な場合もあるため、評価差額を当期の損益とせず、税効果を調整の上、純資産の部に直接計上します(これを「全部純資産直入法」といいます)。 一方、保守主義の観点から、時価が取得原価を上回る銘柄の評価差額については純資産の部に計上し、時価が取得原価を下回る銘柄の評価差額については損益計算書に計上する方法も認められます(これを「部分純資産直入法」といいます)。 その他有価証券の評価方法をまとめると、以下のようになります。 〈時価が著しく下落した場合〉 上記のとおり、その他有価証券の評価差額は、全部純資産直入法か部分純資産直入法により処理しますが、時価が著しく下落した場合においては、回復する見込みが“ある”と認められる場合を除き、評価差額を当期の損失として処理(減損処理)しなければなりません(基準20項)。 「著しく下落した場合」に該当するかどうかは、状況に応じて個々の企業が合理的な基準を設ける必要があります。ただし、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には、個々の企業が設けた基準に関係なく、「著しく下落した場合」に該当し、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められず、評価差額を当期の損失としなければなりません。 有価証券の時価の下落率が概ね30%未満の場合には、一般的に「著しく下落した場合」には該当しないと考えられています。 一方、時価が回復する見込みがあるかどうかは、市場環境の動向や発行会社の業況等を総合的に勘案して判断します。ただし、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある等の場合には、通常、回復する見込みがあるとは認められません。 有価証券の減損処理をまとめると、以下のようになります。 ①時価の著しい下落があり、②回復可能性があると認められない場合(すなわち、回復可能性がない、あるいは回復可能性があるかどうか不明な場合)、有価証券は減損処理が必要となります。 * * * 次回は、子会社株式・関連会社株式の評価について解説します。 (了)
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国際出向社員の人事労務上の留意点(日本から海外編) 【第1回】「国際出向社員の各種法律における身分関係①(税務)」
国際出向社員の人事労務上の留意点 (日本から海外編) 【第1回】 「国際出向社員の各種法律における身分関係①(税務)」 社会保険労務士 平澤 貞三 近年、企業規模の大小を問わず、日本企業の海外進出が加速しているのは周知のとおりである。また、大震災後に減ってしまった国内在住のエクスパット(業務命令で海外から日本へ赴任している社員)も徐々に勢いを戻しつつあり、人事の国際化が活発化を増してきている。 そこで本連載では、日本と海外の間を出向している社員の人事労務上の取扱いや留意点について、7月から8月にわたり全8回で、『日本から海外編』、『海外から日本編』として解説していきたい。 (1) 国際出向社員の税務上の立場 日本の国内法において、個人の納税義務者の居住形態は、居住者、非居住者に分かれ、また、その居住形態ごとに課税所得の範囲が定められている。 これらを表にまとめると次のようになる。 【居住形態の区分】 【居住形態ごとの課税所得の範囲】 (2) 税務上の居住形態の判定基準 居住者の定義は、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」となるが、これに対し所得税法において、住所の有無の推定規定が設けられている。 簡単に言えば、日本から海外へ赴任する場合で、継続して1年以上海外に居住することを通常要する場合は、その出国時点から日本での住所を失ったものとみなして、1年以上の海外居住の実績を待たずに出国日の翌日から非居住者して扱うというものである。 海外から日本の場合も同様に、1年以上の勤務の予定で来日する社員は、入国日の翌日から住所又は居所を1年以上有する者とみなされ、入国日の翌日から居住者として扱われることになる。 (3) 国内源泉所得 国内源泉所得とは、給与所得に限って簡単に言えば、日本国内で勤務したことに基因して発生した給与である。その給与が日本国内で払われたものか、国外から払われたものかを問わず、日本で税金を納めるべき所得となる。 その国内源泉所得に該当する給与が、日本の会社から払われた場合(上記表中①、⑥、⑪)は源泉徴収(給与計算)を通じて、また、国外から払われた場合(上記表中②、⑦、⑫)は確定申告により、所得税を納めることになる。 逆に国外源泉所得は、国外で勤務したことに基因して発生した給与であり、1年以上の予定で海外に赴任した社員(=非居住者)に対する給与は日本での課税所得にあたらないため、仮に日本から給与を支給している場合であっても、所得税の源泉徴収は不要である(上記表中⑬、⑭、⑮)。 (了)
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事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第14回】「消費税転嫁阻害表示〔③禁止される「表示」の具体例(その2)〕」
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第14回】 「消費税転嫁阻害表示〔③禁止される「表示」の具体例(その2)〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 セールの実施自体は問題ない 本連載第12回において述べたとおり、消費税転嫁対策特別措置法の消費税転嫁阻害表示の禁止規定は、消費税分を値引きする、消費税分を転嫁しない、消費税分相当分のポイントを付与するなどの宣伝や広告等の表示を禁止するものである。 よって、この規定は、あくまで表示を規制するものであり、事業者が、自身の企業努力によって価格設定を行うこと自体を制限するものではない。そのため、事業者がセールを実施することそのものが、消費税転嫁対策特別措置法に違反するものではない。 設例の事案でも、アパレル事業者が、各商品の値札に記載の値引き率に加えて、レジでの会計の際に消費税率と一致する8パーセント分を割引にするようなセールを実施すること自体は、特段問題ない。 2 消費税転嫁阻害表示として禁止されるセールの表示 このようなセールを行うこと自体には問題がないとしても、セールの宣伝・広告等の表示については、消費税転嫁阻害表示との関係で注意する必要がある。 (1) 禁止される表示と禁止されない表示の判断基準 本連載第12回でも述べたとおり、「消費税」「消費税分」「消費税引上げ分」「増税分」「税率引上げ分」(*1)等の消費税に明らかに関連する文言を含み、消費税相当分8パーセントや消費税引上げ分の3パーセントの値引きをする表示は、消費税転嫁阻害表示として禁止される。 (*1) 「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」(平成25年9月10日 消費者庁)第2の3、注5 他方、上記のように「消費税」等の文言を含まず、「3%値下げ」「8%還元セール」等とのみ記載された表示については、消費税との関連が明らかでなく、いずれも、禁止される消費税転嫁阻害表示には当たらない。 なお、消費税転嫁対策特別措置法8条2号における「消費税との関連を明示」するという要件については、もともとの消費税転嫁対策特別措置法の法案には置かれていなかった。もっとも、法案提出後の衆議院経済産業委員会において多数の質疑が提出されたことから、この経緯を踏まえ、禁止の対象を消費税との関連を明示しているものに限ることによって、消費税転嫁阻害表示の範囲を明確化することになった。そのため、同委員会で、このような要件を規定する文言を含む形で修正案が提案され、その後、衆議院本会議及び参議院本会議で可決されたものである。 この要件が置かれたことによって、従前の法案に比べ、禁止される表示の範囲が明確になり、事業者にとっても、禁止されるか否かの予測がはるかに容易になった。 (2) 禁止されるか否かの判断方法 消費税転嫁阻害表示に当たるか否かは、ある宣伝や広告における特定の文言だけに着目するのではなく、事業者が行う宣伝や広告の表示全体から判断されることとなる。 例えば、ある広告チラシの表面に大きく と記載されているとき、この文言のみに着目すれば、消費税との関連性が明らかでないため、消費税転嫁阻害表示には当たらないことになる。 しかし、同一のチラシの同一面に相対的に小さく、あるいは、同一のチラシの裏面に、 等と記載してあるときには、上記表面の文言と合わせて表示全体を見れば、消費税率3パーセント分を値引きするということが明らかとなるので、消費税分を値引きする等の表示として消費税転嫁阻害表示に当たることになる。 よって、事業者が、消費税分を値引きする旨の宣伝や広告を作成する際には、ある特定の文言にだけ注意するのではなく、表示全体をみたときに、消費税との関連が明示される結果になってしまっていないか、広く注意を払う必要がある。 (3) 設例のチラシの場合 設例のチラシを見ると、チラシの上部には、消費税との関係では としか記載されておらず、これだけに着目すれば、消費税との関連を明示するものとはいえない。 しかしながら、チラシの下部の吹き出しの中を見ると、小さく、 と記載がある。 したがって、このチラシの表示全体から判断すると、消費税分8パーセント分が値引きになる旨が読み取れ、当該値引き分と消費税との関連を明示しているとみられる。 よって、設例のチラシは、消費税転嫁阻害表示に当たり、消費税転嫁対策特別措置法に違反すると考えられる。 3 値引き分の負担を供給業者に求めることは「買いたたき」として禁止される 他方で、小売店等が、ある商品についてセールを実施し、実質的に消費税8パーセント分も含めた値引き価格を設定する際、その原資を自らの企業努力のみによって捻出するのではなく、納入業者に協力を求めて納入価格を値引きさせることは、「買いたたき」として、消費税転嫁対策特別措置法に違反する可能性が高い(同法3項1号。なお、消費税の転嫁を拒否する等の行為が禁止される事業者間については、本連載第1回を参照)。 この「買いたたき」とは、本連載第3回で述べたとおり、 をいい、合理的理由の有無が問題とされることになる。 したがって、設例のアパレル事業者が、商品の納品業者に対して、セールの原資を得るため仕入価格の値引きを求めることは、「買いたたき」に当たるであろう。 (了)
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会社を成長させる「会計力」 【第11回】「金融資本市場との対話がもたらす良質な資金調達」
会社を成長させる「会計力」 【第11回】 「金融資本市場との対話がもたらす良質な資金調達」 島崎 憲明 《事業の前提となるのは資金調達》 企業の持続的な成長には、既存事業の拡充や新規事業への積極的な取組みが必要であるが、同時にそれらの事業活動を支える良質な事業資金の確保が欠かせない。 筆者が経理部長や経理担当役員として経験した資金(負債と資本)調達に関する業務には、周辺業務も含めると次のようなものがあった。 CFOの役割は、大きく企業会計、企業財務、リスクマネジメントの3つからなるが、ここに列記した①から⑥の業務は、資金調達(コーポレートファイナンス)に関わるものである。 広義のコーポレートファイナンスには資金の調達に止まらず、バランスシートの借方、すなわち資産から生ずる将来のキャッシュフローの最大化やリスクマネジメントなども含まれるが、ここでは資金の調達サイドに焦点を当て、市場(間接・直接金融市場、資本市場)やその関係者とどう向き合うかについて話を進めたい。 会社の成長には、限られた経営資源を最適に配分し、いかにしてリターンを極大化するか、さらには、テイクしているリスクを適切にマネジメントするのが肝中の肝であることは、すでに本連載において何度か説明した。 良質の事業アセットを積み上げるには、まず、それに必要な資金を調達しなければならず、このため財務業務における重要な一つが、良質な資金の量的確保にある。つまりは、低コストの資金を安定的に調達し、これらの資金を事業や投資に投入し収益を確保するということである。 《良質な資金調達に欠かせない財務報告と株主総会》 財務報告と株主総会は、経理部長や経理担当役員の主要業務の一つであるが、毎期の定例業務でもある。財務報告は四半期も含めると年4回、株主総会は年1回だが、最低限のやるべきことは法令などで定められている。 法で決められたものが関係者にとって十分であるがどうかは別問題であり、法で決められた事項に加えて、会社側からの自主的な対応が必要である。 財務報告については、法定開示に加え、記者発表や説明会の場を自主的に持っている会社が多いであろう。マスコミや証券アナリストとの双方向コミュニケーションは、業績の結果報告に止まらず、経営計画などの説明も行うなどして、会社の成長戦略について理解を深めてもらう機会として活用している会社が多くみられる。 株主総会は決議・報告すべき事項が法令で決まっているので、会社側からの説明が主になるのはやむを得ない。しかしながら最近では、株主総会の開催について集中日を避けるとか、総会の運営に十分な時間を費やすなどの変化がみられる。 筆者が何社かの株主総会に出席して得た印象は、各社例外なく、経営陣(特に社長や財務経理担当取締役)が株主との対話を重視する姿勢を持って総会に臨んでいるということである。総会はできるだけ短く、質問の回答もできるだけ簡潔にし、余計なことは言わないことを良しとしていた時代とは隔世の感がある。 株主総会における経営陣と出席株主との質疑応答は、個人株主を対象としたIRと類似しつつあるようで、まさに「開かれた株主総会」に変わってきたと感ずる。 決算説明会や株主総会で使用する資料は、実績の説明が主となるので経理部が中心となって作成する会社が多いが、心がけるべき点は「透明度の高い説明責任を果たす」ということに尽きる。 法定開示では実績を前期と比較して説明するのが通常であるが、例えば、さらに計画との比較を行うとか、中期経営計画の進捗状況を加えることにより、株主や債権者などのステークスホールダーにとって、会社の現在から将来を見通すうえでの助けとなるのだ。 事業に必要な資金(エクイティやデット)の出し手である株主や債権者、さらには資金を使って価値を生み出す力となる役職員などが、会社の経営についてPDCAサイクルで適切に評価するためにも、このような一歩踏み込んだ報告が必要なのである。 《総合商社のIR》 日本における企業のIR(インベスター・リレーション)活動は、1990年代後半から急速に広まったと言われている。筆者が米国から1992年に帰国した時には、既に経理部内にIR担当者が置かれていたし、商社のIR担当者の集まりが定期的にあったから、商社でのIR活動は他社に比べて先行していたようだ。 当時は国内の証券アナリストや機関投資家が主な対象者であり、海外の投資家や国内の個人投資家を対象としてIRを行うようになるのは、もう少し先であった。 日本IR協議会のホームページでは、IRについて次のような説明がある。 筆者は部長、取締役として長年IRの仕事に関与してきたが、次のようなことを常に念頭において取り組んできた。 それは、 という認識である。 また、IR活動が個人投資家から外国人投資家まで、短期保有目的から長期保有目的の投資家まで広範囲の投資家を対象とするようになると、会社からの説明もそれらに対応した内容が求められる。とは言っても、すべての投資家に共通して求められるのは、会社の成長戦略と適切なリスクマネジメントについての具体的な説明である。 住友商事の海外IRは2000年9月が最初であった。社長に同行した米国での最初の海外IRでは、投資家から種々の経営課題について質問を受けたが、IRミーティングでのやりとりは、説明する会社側のトップにとっても勉強になるところが多かった。 当時、住友商事ではリスクリターン指標を導入して事業の集中と選択を進めていたが、リスクを定量化してリスクに見合ったリターンをすべての事業に要求し、目標とするリスクリターンは株主資本コストを上回るレベルとするという経営方針は、多くの投資家の理解を得た。 リスクリターン指標はその後の経営改革の背骨になっているが、社内の英知を結集して開発した「共通のモノサシ」であるリスクリターンが欧米の投資家から評価されたことは、我々の背中を強く押してくれた。 しかしながら、未だ納得のいかない外人投資家からの意見もあった。 総合商社のROEや収益率が低いのは、事業が広がりすぎているからで、特定の事業にもっと絞り込むべきであるというコメントを多くの外国人投資家からいただいた。総合商社という事業形態が日本固有のものであり、欧米に存在しなかったことも影響していたと思うが、総合商社の評価が「コングロマリット・ディスカウント」されているというのである。 我々は、ディスカウントではなく「コングロマリット・プレミアム」だとし、種々の機能を持つ総合商社のバリューチェーン展開による新たな価値創造などについて説明したが、なかなか理解を得られなかった。 当時は確かに事業投資に対するディシプリンが十分でなかったが、その後の共通の評価尺度により事業の集中と選択をスピーディーに進めた結果、総合商社は総合事業会社として国内外で広く事業を展開する現在の形へとつながっている。 このように、市場の声に耳を傾ける姿勢は大切であるが、それらはあくまでも第三者としての意見であり、鵜呑みにする必要はない。これらを取捨選択して対応する姿勢が、より大事なのである。 各社のホームページを見ると、多くの会社がIR活動にかなりのスペースを使って説明しており、年々充実しているようだ。各社とも投資家との対話を重視しIRに力を入れている姿勢がうかがえる。さらに、IRは社長はじめ経営トップと仕事を共にする機会が多く、会社の経営方針やグループ全体の事業を鳥瞰できることから、経理、財務、営業などから若手をローテンションさせて、人材育成の場として活用している会社も多くみられる。 IRにおける業務経験は、広い視野を持った戦略的思考のできる人材を育てるのに役立つはずである。 (了)
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私が出会った[相続]のお話 【第7回】「遺産分割協議でまず優先すべきは、〇〇〇への相続」~当家にとって本当に大切なことを見極める『公平な仲介役』に~
私が出会った[相続]のお話 【第7回】 「遺産分割協議でまず優先すべきは、〇〇〇への相続」 ~当家にとって本当に大切なことを見極める『公平な仲介役』に~ 財務コンサルタント 木山 順三 〔長い付き合いだからこそ、できるアドバイスがある?〕 ある時、家庭裁判所から「遺言信託」に関する講演依頼がありました。 聞き手は、家裁に勤務し、主に遺産分割協議の調停を行う調査官や書記官の人たちです。 なぜ私にお声掛りがあったのかと問い合わせますと、彼らの日常勤務において信託銀行が絡む相続事案には問題が少なく、その理由や円満な解決に導く秘訣をレクチャーしてもらいたいとのことです。 そういえば私も時々クライアントとともに、自筆証書遺言書の検認手続や後見人の申請手続等で家庭裁判所に行きますが、遺産分割協議が取り交わされるフロアは、いつも一種独特の雰囲気で関係者が集まっておられます。 そこで私は、信託銀行が円満に分割協議をまとめる要因を考えてみました(決して信託銀行のPRでありません)。 上記の内容をもとに、遺産分割協議をスムーズに進めるための方法をまとめると、このようになります。 これらのことはいずれも、担当税理士としても、同様に対処できる事項であると思います。 それでは次に、私なりのクライアントを説得する『分割協議における優先順位』を述べてみましょう。 〔クライアントを説得する私なりの優先順位〕 第1番目 「まず配偶者に相続させる。」 遺産分割協議の場において、私自身、必ず相続人(子供)たちに申し渡す言葉があります(特に配偶者である母親が健在の時)。 と、このようにお伝えしています。 第2番目 「家を引き継ぐものに多く相続させる。」 特に旧家や名家の相続に関しては、昔からの家主体の考え方が残っています。 すなわち、この家を未来永劫継続発展させるためには、誰が承継すればよいのか。昔からの先祖のお守や祭祀は誰がやるのか? 最近は「本家・分家など、古臭い」と言われる方も増えましたが、まだまだ家の仏壇のお祭りや何回忌等の際には、親戚一同顔を合わせるのではないでしょうか。 その世話をする人には、ある程度の負担に見合う額を、多少は多めに分配しても良いと思うのですが・・・。 ましてや故人と相続人の一人が共同で事業を発展させた場合などは、その相続人を他の相続人の取り分と同等に扱うことは、むしろ不平等とは思いませんか? 第3番目 「二次相続も考えて節税策を講じる。」 例えば、配偶者である妻に多額の固有財産がある場合や、配偶者が夫の場合(通常は夫には固有財産が多い)は、第1番目の「まず配偶者に相続させる。」を選択すると、二次相続に際しては相続人数も減少し、相続財産額も多額となります。 その結果当然のことですが、税率も高くなります。 このような場合は、一次相続と二次相続の合計相続税額を比較し、そのうえで子供たち等へ遺産分割を行うよう判断することが大切です。 特に来年以降の相続税増税を控え、具体的な税額数字を算出し考えることが必要になります。 第4番目 「法定相続割合で遺産を分割する。」 この方法は、あくまで最後の手段です。 基本的には一番公平な方法なのですが、当然のことながら、残された親の面倒や、仏壇・墓等の祭祀やお守は誰が行うのでしよう? 私は、このケースでは必ず相続人全員に 「みなさん! 遺産をもらった限りは、お母さん(又は実家)が万一の時は、全員が面倒をみる義務があるのですよ!」 とお伝えするようにしています。 * * * 以上、分割協議における4つの優先順位を掲げましたが、これらを踏まえて、実際にスムーズな相続処理が行われた事例をご紹介しましょう。 〔察知した争続の予感・・・〕 Tさんは10数年前に夫を亡くし、その折、知人の紹介で私宛てに遺産整理業務を依頼されました。 当家の子供たち(4人)はいずれも母親思いでしたが、兄弟仲は必ずしも良くなく、将来の「争族」を予感させました。 この時は、亡夫の財産のうち居宅が大きな割合を占め、母親が引き続き居住する関係から子供たちへの分割も難しく、一次相続における遺産分割は配偶者主体となりました。 それから何年か経ち、Tさんから相談の依頼がありました。 その内容は、長男から「二世帯住宅を新築し、同居しないか」との提案を受けたとのことです(ただし建築資金は母親充当)。 どうやら次の相続を見越して、長男が布石を打つ模様です。 このままでは将来、争いごとになること必至です。 そこで私は、次のような提案をしました(事前の交通整理ですね)。 【もともとの居宅地の形状】 ◆100%本人(母親)所有 ◆当初このまま二世帯住宅への建替えを検討(長男) 【遺言作成のための分筆後の形状】 *遺留分:300坪×1/4×1/2=37.5坪 *実質:180坪×1/3=60坪 〔思いは伝わった。それでも・・・〕 それから数年後、Tさんが亡くなられました。 二次相続においても、引き続き第三者としての私の主導のもと、遺言執行が進められ、また、遺言作成に至る生前のTさんの思いを披露することができました。 いかがでしょうか。 本件の相続対応を振り返ってみますと、ほぼ上述した要素が絡んでいます。 ただし、金銭面においては、同居時における母親の金銭の出入りについて、長男に対し他の兄弟から徹底的なチェックがあり、一時は険悪な雰囲気となりました。 見かねた私が 「亡くなったお母さんは今頃天国で、『こんな子供たちを生んだ覚えはない!』と嘆いておられますよ!!」 と申し上げるほどでした。 事前の交通整理をしていなければ、いったいどのようになっていたのやら・・・ (了)