件すべての結果を表示
消費税・地方消費税
税務
税務・会計
解説
解説一覧
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした]95%ルール改正後の消費税・仕入税額控除の実務 【第9回】「課税売上割合に準ずる割合を検討すべきケース② 単発の土地取引があったケース」
[個別対応方式及び一括比例配分方式の有利選択を中心とした] 95%ルール改正後の 消費税・仕入税額控除の実務 【第9回】 (最終回) 「課税売上割合に準ずる割合を検討すべきケース② 単発の土地取引があったケース」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 〈単発の土地取引があったケース〉 多くの事業者にとって、消費税の非課税取引は例外的なもので、課税売上割合は95%前後という水準であろう。しかしそのような事業者であっても、非課税である遊休土地等の譲渡(消法6①、別表第1一)があった場合には、その金額が多額になり総売上高に占める割合が高くなる傾向にあるため、課税売上割合が大幅に低下し95%を大きく割り込むケースも見受けられるところである。 その結果、通常の課税期間であれば全額控除されるにもかかわらず、少なくとも遊休土地の譲渡のあった課税期間については個別対応方式又は一括比例配分方式により仕入控除税額を計算することが強いられることとなる。 問題は、このような事業者が個別対応方式を採用した場合である。 すなわち、事業者が個別対応方式を採用した場合、課税仕入れ等の税額を消費税法第30条第2項第1号に規定される3つの区分に分類する必要があるが、本件のように販売費・一般管理費をすべて課税売上にのみ要する課税仕入高に分類するケースが見られるということである。 販売費・一般管理費は、通常、課税売上及び非課税売上のいずれにも関係している費用であるか、又は売上との明確な対応関係がない費用であると考えられる。このような費用は、個別対応方式の用途区分において、「両方に共通して要する課税仕入高」に分類すべきということとなる。 したがって、販売費・一般管理費をすべて課税売上にのみ要する課税仕入高に分類するのではなく、両方に共通して要する課税仕入高に分類し、課税売上割合で按分するのが適切な経理処理ということになる。 ただし、これは事業者にとって不利な結果となることが多い。なぜなら、販売費・一般管理費のうち土地取引にほとんど関係しないと思われる費用に関しても、相対的に低い課税売上割合まで控除税額が切り下げられることとなるからである。 このような不合理を解消する手段として検討すべきは、課税売上割合に準ずる割合の適用である。 そこで国税庁は、平成24年3月国税庁消費税室「『95%ルール』の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A[Ⅰ]【基本的な考え方編】」(問30)において、「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の適用」に関し、以下のようなガイドラインを示している。 すなわち、土地の譲渡が単発のものであり、かつ、当該土地の譲渡がなかったとした場合には、事業の実態に変動がないと認められる場合に限り、以下のア又はイのいずれか低い割合が「課税売上割合に準ずる割合」とされることとなる。 課税売上割合に準ずる割合として取引件数割合を適用する際留意すべき事項は以下のとおりである。 ① 事業の実態に変動がないと認められる場合 「土地の譲渡がなかったとしたときには、事業の実態に変動がないと認められる場合」とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合との差が5%以内である場合をいう。 ② 適用期間 この「課税売上割合に準ずる割合」の適用は、たまたま土地の譲渡があった場合に行う一過性のものであるから、土地の譲渡のあった課税期間において適用したときは、翌課税期間において事業者は適用廃止届出書を提出することとなる。仮に提出しない場合には、その承認が取り消され、以後の課税期間においては原則として当該「課税売上割合に準ずる割合」の適用はないこととなる。 ③ 適用例 【前提条件】 ◆当期及び過去3年間の売上高の内訳 ◆当期(平成26年4月~平成27年3月)の課税仕入高の内訳 課税売上にのみ要する課税仕入高:21,600万円 両方に共通して要する課税仕入高:8,640万円 非課税売上にのみ要する課税仕入高:27万円 【税額計算】 99.9%-99.9%=0%≦5% 前期の課税売上割合99.9%=課税売上割合に準ずる割合99.9% ∴99.9% (1) 個別対応方式による控除税額 (2) 一括比例配分方式による控除税額 (1)>(2) ∴控除税額=1,763万円 仮に、本件において「課税売上割合に準ずる割合」の承認を受けていない場合、控除税額は にとどまる。 ④ 法令上の根拠 当該方法は消費税法上に根拠のあるものではなく、あくまで国税庁がQ&Aによりガイドラインを示したに過ぎないものである。したがって、当該方法が仮に裁判で争われた場合、裁判所がどのように判断するのかは未知数である。しかし一方で、「課税売上割合に準ずる割合」は税務署長の承認事項であるため、税務署長の裁量権がある程度認められているものとも解される。したがって、Q&Aで示された当該方法は、一応実務上尊重されるものと考えられる。 今年4月の消費税率引き上げは大きな混乱もなく実施された。来年10月に予定されている10%への再引き上げが実施されるか否かは、これからの経済動向次第であると考えられるが、いずれにせよ今後税理士の業務に占める消費税のウエートは益々高まることであろう。その意味するところは、消費税の取扱いの巧拙が税理士の業務に大きな影響を及ぼすということである。 これは税理士にとって頭痛の種ともいえるが、一方でチャンスともなり得るという点は強調しておきたい。すなわち、仕入控除税額の極大化というタックスプランニングの余地が高まるということである。仕入控除税額の極大化とは、個別対応方式・一括比例配分方式の有利選択及び課税売上割合に準ずる割合の選択の可否検討を意味する。本連載は、その観点から基本的なアイディアを示してみたものである。各企業・事業者の実態に即していろいろ試していただければと考えている。 また、課税売上割合に準ずる割合を選択し実施している事業者は、まだ限られているのが現状である。今後事例の蓄積が進んだところで、その内容をご紹介できる機会があれば、という点を付言して連載を終えたいと思う。 最後までお読みいただきましてありがとうございました。 (連載了)
税務
税務・会計
解説
解説一覧
税務判例を読むための税法の学び方【38】 〔第5章〕法令用語(その24)
税務判例を読むための税法の学び方【38】 〔第5章〕法令用語 (その24) 立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘 14 不確定概念と宥恕規定 (① 宥恕規定の意義と例示)【前回参照】 ② 「違法」と「不法」「不適法」「非合法」「不当」「不正」「不適当」「不相当」「反正義」「不公正」【前半】 「違法」とは、行為や状態が法令に違反するものあることを表す。違法な行為が刑法等の罰則規定に触れるときには処罰され、民法第90条の公序良俗に反する場合には無効とされる。 「不法」も概ね「違法」と同じ意味で用いられるが、「不法」の方が、実質的な違法性に重点を置いた場合や、主観的な違法性に重点を置いた場合に使われる。 『実質的な違法性』とは、単に形式的に法令に違反するだけでなく、その行為や状態が実質的に法秩序に違反する、すなわち反社会性が強い場合である。 例えば「不法投棄」「不法侵入」「不法所持」には、反社会性が強く意識されている。 なお、一般的によく使われる「非合法」という語は、反社会性を含んだこの意味の「不法」に近い語として使われることが多い(「非合法活動」等)。 この「不法」と類似の意味で、反社会性を含んだ一般的な語としては「脱法」がある。 一般的に「脱法行為」とは、外形的には法律によって禁止されている行為に当たらないように、当該規制を「脱」するために行われ、その結果、実質的な内容が強行法規に違反しており違法性を有していることから、反社会的で違法性を問われるような行為に用いられる。 一方、民法においては条文上「違法」という用語は全く使われていないが、「不法」は第132条、295条、509条、517条、708条、709条から724条(「不法行為」の章)と多く使われている。 民法は私法であるから、必ずしも強制適用されるものではなく、当事者の合意があれば行為が「不法」に該当するものであったとしても免責されることがある。それは「反社会性」というものが決して強いものではないから当事者の判断に委ねられているのであるが、この場合「不法」を用いるのは、先に挙げたうちの後者の「主観的な違法性」すなわち当事者の違法性の判断に重点を置いた場合に該当するからである。 このように「不法」という語は、全く異なる内容をもつ語として使われるため、注意を要する。 「違法」や先の前者の場合の「不法」と異なり、行為や状態が法令に違反する場合であっても、倫理的・道徳的に正しくないという意味をあまり含まず、法秩序や職務上の義務に違反するといった形式的な違反を重視する際に使われるのが「不適法」である。 実は前回紹介した刑事訴訟法第398条の「不法」の使用例は、この「不適法」に近い使われ方である。すなわち「不法」を形式的に法令に違反することを表す語としての使用例である。法令によっては、「不法」がこのような使われ方をする点は、注意を要する。 それに対し「不当」は、通常、形式的には法令に違反しないが、その内容が実質的にみて妥当ではないことを表すときに使われる。 例えば、行政法においては、ある行政行為が行政裁量を逸脱したり、裁量権行使を濫用した場合は、その行政行為は違法となる。そして逸脱・濫用のない行政行為は、裁量の範囲として、行政庁の自由な判断に任され、当・不当の問題が発生する。 この場合の「不当」とは、違法性はないが適当ではない場合である。 行政不服審査法においては、この「違法」ではないが「不当」な行政行為もまた対象とするために、第1条(平成26年改正前)は以下のとおりとなっている。 ただし前回紹介した所得税法第157条の「税の負担を不当に減少させ」の「不当に」については議論がある。 この不当性の概念について、平成9年4月25日東京地裁判決では、 とし、特段の事情の例を と判示している。 一方、平成19年6月19日国税不服審判所裁決(裁決事例集73号278頁以下)の法令解釈では、 と、この「不当に」を量的な意味にも捉えている。 このように所得税法第157条の「不当に」の意味は、通常の用例と異なり、様々な議論があることを指摘しておく。 「不正」は、日常用語では、道徳的に正しくないことを表す場合に使われるが、法令上は、形式的にも実質的にも法秩序に反する場合(先の実質的な違法性に重点を置いた場合の「不法」の用例に類似する)に用いられる。 前者の意味で「不正」が使われる例としては、以下の「正当防衛」の規定である刑法第36条第1項や、「電磁的記録不正作出及び供用」の規定である同法第161条の2がある。 その他刑法では、第164条以下の「印章偽造の罪」の規定に、この意味で「不正」の語が使用されている。 税法においては、例えば国税通則法第70条第4項に以下の規定がある。 税法によるこの「不正」もまた、上記と同様の使用例である。 (続く)
税務
税務・会計
解説
解説一覧
経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第16回】「給与計算と社会保険」
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第16回】 「給与計算と社会保険」 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 社会保険の概要 狭義の社会保険とは、医療保険である健康保険と年金保険である厚生年金保険をいいます。保険給付は各々の保険制度で別個に行われますが、事業所の適用、被保険者の資格取得・喪失手続、保険料の算定・納付等については一体として取り扱われています。 2 健康保険の運営主体 健康保険事業の運営主体には、「全国健康保険協会」と「健康保険組合」の2種類があります。 3 保険料の額 健康保険料と厚生年金保険料は、標準報酬月額に各々の保険料率を乗じた額となり、被保険者と事業主の双方が折半で負担します。また、標準報酬月額等級や保険料率は、一定期間ごとに見直されます。 4 標準報酬月額 (1) 標準報酬月額 健康保険と厚生年金保険では、被保険者が事業主から受ける毎月の給料等の報酬の月額を一定の幅で区分した標準報酬月額を設定しています。被保険者は、この区分のいずれかの等級に当てはめます。 また、賞与に対する保険料は、標準月額報酬のような等級への当てはめはせず、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に保険料率を乗じた額となります。 (2) 標準報酬月額の決定方法 標準報酬月額の決め方には、次の4通りの方法があります(健康保険法42)が、定時決定で決まった標準報酬月額は、著しい報酬の増減がない限り、その年の9月から翌年の8月までは固定されます。 (3) 報酬の範囲 標準報酬月額の算定の基礎となる報酬とは、賃金、給与、手当、賞与、その他名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるものすべてです。また、この報酬には、現物で支給される食事や住宅手当、通勤手当等も含まれます。ただし、3ヶ月を超える期間ごとに受ける賞与は含みません。 5 保険料率 (1) 健康保険の保険料率 健康保険の保険料率は、一般保険料率と介護保険料率の合計です。政府管掌健康保険においては全国一律の保険料率で運営していましたが、疾病の予防等の地域の取組によって医療費が低くなっても保険料率に反映されないという問題点等があり、一般保険料率は、平成21年9月分から都道府県ごとに異なっています。また、一般保険料率は、後期高齢者支援金等に充てられる特定保険料率(全国一律)と基本保険料率の合計です。協会けんぽでの東京都の健康保険料率は、1,000分の99.7(特定保険料率は1,000分の40.7、基本保険料率は1,000分の59.0)です。 なお、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者に該当する方は、介護保険料率を加えたものになり、平成26年3月分(平成26年4月納付分)からの協会けんぽの介護保険料率は、1,000分の17.2です。 (2) 厚生年金保険の保険料率 一般の厚生年金保険の保険料率は、平成25年9月分(平成25年10月納付分)から、1,000分の3.54引き上げられ、1,000分の17.12になりました。今後、平成29年まで、毎年9月に1,000分の3.54ずつ引き上げられますので、この保険料率は、平成25年9月分(同年10月納付分)から平成26年8月分(同年9月納付分)までの保険料を計算する際に用います。 6 保険料の納付 事業主は、被保険者負担分と事業主負担分を合わせた保険料を納付します。被保険者負担分については当月分の給料から前月分の保険料を控除し、控除した前月分の被保険者負担分の保険料と、前月分の事業主負担分の保険料を合わせて、当月末まで納付します。 また、保険料は、被保険者資格を取得した月から資格を喪失した月の前月分まで、月単位で計算しますので、入社した日が1日でも、31日でも、1ヶ月分を徴収します。なお、資格を喪失した日は退職日の翌日となりますので、6月30日に退職した場合には資格喪失日は7月1日となり、退職月である6月の保険料まで徴収します。 7 社会保険料の計算例 〈保険料の計算〉 標準報酬月額の算定の基礎となる報酬の金額は、380,000円+14,000円=394,000円となります。 「健康保険・厚生年金保険の保険料額表」の「報酬得月額」欄で、394,000円が含まれる「370,000円以上395,000円未満」の行を探し、標準報酬月額が380,000円であることを求めます。この標準報酬月額の行と交わる欄に記載されている金額が社会保険料の額となりますが、保険料率を乗じた額と同じ額になります。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 例えば、健康保険料は、標準報酬月額×健康保険料率で算定されますので、380,000円×99.7÷1,000=37,886円となります。労使折半での負担となりますので、被保険者と事業主は、各々18,943円を負担します。同様に、介護保険料は、380,000円×17.2÷1,000=6,536円となり、被保険者と事業主は、各々3,268円を負担します。また、厚生年金保険料は、380,000円×171.2÷1,000=65,056円となり、被保険者と事業主は、各々32,528円を負担します。なお、児童手当拠出金は、380,000円×1.52÷1,000=570円となり、事業主が全額を負担します。 以上の計算結果をまとめると、社会保険料は次のようになります。 (了)
会計
税効果会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第6回】「連結納税における税効果会計」
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第6回】 「連結納税における税効果会計」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 税効果会計は大きく「個別財務諸表における税効果会計」(第4回参照)、「連結財務諸表における税効果会計」(第5回参照)、「連結納税における税効果会計」に分けることができる。 今回は「連結納税における税効果会計」について解説する。 連結納税における税効果会計は、個別財務諸表から連結財務諸表まで、以下の10のステップに分けることができる。 連結納税における税効果では、法人税は連結納税主体(連結納税制度を適用する各連結納税会社を全体で1つの納税主体とした場合の当該納税主体)で計算し、地方税(住民税・事業税)は連結納税会社ごとに計算するため、税効果についても法人税部分、住民税部分、事業税部分に分けて検討する必要がある。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 連結納税における税効果においても、スタートは一時差異等の集計から始まる。詳細は、第4回「個別財務諸表における税効果会計」の【STEP1】参照。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 連結納税の繰越欠損金においては、単体納税と異なり、以下のように法人税の繰越欠損金、住民税の繰越欠損金、事業税の繰越欠損金に分けて考える必要がある。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 連結納税における税効果は、法人税部分の税効果、住民税部分の税効果及び事業税部分の税効果に分けて計算するため、それぞれの法定実効税率を算定する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 税率は決算日現在の税法規定に従った税率を使用する。したがって、決算日までに改正税法が公布されている(施行ではない)場合、改正税法の規定に従った税率を使用する(個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「個別指針」という)18)。 なお、繰延税金資産の回収可能性が法人税と事業税で異なる場合又は住民税と事業税で異なる場合で、かつ、その影響が大きい場合、上記の法定実効税率をそのまま適用することは適当ではないため、法人税と住民税の法定実効税率の分母に使用する事業税率を修正する(実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)(以下、「実報7号」という)Q5、[参考])。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 【STEP1】で集計した一時差異等に【STEP2】で算定した法定実効税率をそれぞれ乗じて、法人税部分、住民税部分、事業税部分に分けて算定する。詳細は、第4回「個別財務諸表における税効果会計」の【STEP3】参照。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 連結納税における繰延税金資産(個別財務諸表)の回収可能性の検討は、基本的には第4回「個別財務諸表における税効果会計」と同様である。しかし、単体納税における回収可能性の検討とは、以下の点で異なる(実報7号Q3)。 上記のⅠ.~Ⅳ.を踏まえて、連結納税における繰延税金資産(個別財務諸表)の回収可能性の検討は、以下の順に行う。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 会社区分の決定 連結納税における税効果では、法人税部分の繰延税金資産は、連結納税主体で回収可能性を検討し、地方税部分の繰延税金資産は連結納税会社ごとに回収可能性を検討する。 そのため、各連結納税会社の会社区分のみならず、連結納税主体の会社区分を決定する必要がある。連結納税主体の会社区分の決定方法も各連結納税会社の会社区分の決定方法と同様である。詳細は第4回「個別財務諸表における税効果会計」の【STEP4】参照。 また、連結納税における税効果では、法人税部分の将来減算一時差異・繰越欠損金の種類、地方税部分それぞれで用いる会社区分が異なるので留意が必要である。 ① 将来減算一時差異(法人税部分) 将来減算一時差異(法人税部分)は連結納税においては連結所得をベースに解消されるため、将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、連結納税主体の会社区分が、連結納税会社の会社区分と同じか上位にあるときは、連結納税主体の例示区分を用いる。 言い換えると、連結納税会社の会社区分が連結納税主体の会社区分の上位にあるときは、まず自己の個別所得見積額をベースに判断するため、当該連結納税会社の会社区分を用いる(実報7号Q3)。 ② 特定連結欠損金個別帰属額(法人税の繰越欠損金) 特定連結欠損金個別帰属額は、連結納税会社の個別所得を限度として、連結所得より繰越控除できる。言い換えると、連結所得の発生が少ない(しない)場合や個別所得の発生が少ない(しない)場合は、繰越控除ができない部分が発生する。したがって、連結納税主体と連結納税会社の例示区分のうち、より下位の例示区分を用いる。 ③ 非特定連結欠損金個別帰属額(法人税の繰越欠損金) 非特定連結欠損金個別帰属額は連結所得と相殺されることで解消するため、連結納税主体の会社区分を用いる。 ④ 地方税部分 連結納税においても地方税は単体納税と同様に単体のみで税額計算するため、連結納税会社の会社区分を用いる。 * * * 以上の①から④をまとめると、以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (2) 回収可能性の検討 回収可能性の検討は、法人税部分・住民税分・事業税分それぞれ別に行う。 ① 一時差異等の解消のスケジューリング スケジューリングは、個別財務諸表における税効果と同様である。そのため、詳細は、第4回「個別財務諸表における税効果会計」の【STEP4】を参照。 ただし、スケジューリングにおいて留意する点が1つある。 連結納税における税効果では、すべての会社区分が「1」又は「5」でない限り、必ずスケジューリングを行う必要がある(連結財務諸表でも同様)。 例えば、連結納税会社Aの会社区分が「1」で、他の連結納税会社の会社区分が「3」で、かつ、連結納税主体の会社区分が「3」であったとする。この場合、単体納税であれば、連結納税会社Aはスケジューリングに関係なく繰延税金資産を計上できるが、連結納税の場合、法人税部分の税効果は連結納税会社Aのスケジューリングが他の連結納税会社の一時差異等の解消に影響する。そのため、会社区分「1」である連結納税会社Aにおいてもスケジューリングを行う必要がある。 ② 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「特定連結欠損金個別帰属額」、「非特定連結欠損金個別帰属額」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 特定連結欠損金個別帰属額 (ⅲ) 非特定連結欠損金個別帰属額 ③ 住民税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 住民税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「連結欠損金個別帰属額」、「控除対象個別帰属調整額・控除対象個別帰属税額」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 連結欠損金個別帰属額 (ⅲ) 控除対象個別帰属調整額・控除対象個別帰属税額 ④ 事業税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 事業税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は「将来減算一時差異」、「繰越欠損金」それぞれにおいて、以下の順に行う(実報7号Q3)。 (ⅰ) 将来減算一時差異 (ⅱ) 繰越欠損金 なお、以上の②~④では将来減算一時差異等と将来加算一時差異との相殺について解説していないが、回収可能性の検討においては当然に考慮するので注意が必要である(連結財務諸表でも同様)。 (3) 支払可能性の検討 将来加算一時差異は、将来の課税所得(税金)を増加させるものである。したがって、理論上は将来の税金の支払が見込まれる(支払可能性のある)将来加算一時差異に係る繰延税金負債のみを貸借対照表に計上するために、繰延税金負債について支払可能性の検討が必要である。 しかし、個別指針では、事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合のみ支払可能性がないと判断することになっている(個別指針24)。 そのため、事業休止等の状況でない限り、支払可能性はあるとし、会社が事業を行っている状況では支払可能性を検討せずに、(スケジューリング不能な将来加算一時差異も含む)すべての将来加算一時差異に係る繰延税金負債を貸借対照表に計上する。 (次ページ【STEP5】へ進む) (前ページ【STEP4】へ戻る) 【STEP5】では、税効果会計の会計処理について検討する。内容は、第4回「個別財務諸表における税効果会計」の【STEP5】と同様である。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係る税効果を除く)の計上 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(個別指針2)。 繰延税金資産及び繰延税金負債(その他有価証券評価差額金に係るものを除く)の会計処理の例は以下のとおりである。 【会計処理】 (*1) 当期末の繰延税金資産-前期末の繰延税金資産 (*2) 当期末の繰延税金負債-前期末の繰延税金負債 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果- その他有価証券評価差額金の場合 その他有価証券評価差額金に係る税効果会計の会計処理(時価>取得価額の場合)は以下のとおりである。 【会計処理】 (*1) (時価-取得価額)× 法定実効税率 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 流動資産の繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債は相殺して表示する。また、投資その他の資産の繰延税金資産と固定負債の繰延税金負債も相殺して表示する(個別指針30)。 財務諸表における税効果に関する注記は【STEP10】参照。 個別計算書類では、「繰延税金資産及び繰延税金負債(重要でないものを除く)の発生の主な原因」の注記をする必要がある。 《設例1》 (前提条件) A社グループは連結納税制度を当期末から採用した(承認手続の開始及び承認日は当期に属する)。A社グループの会社は以下の2社である。(前期末は単体納税である。) A社及びB社の個別財務諸表における会計処理を検討する。 (1) 法定実効税率(地方法人税考慮後)は以下のとおりである。なお、A社及びB社とも外形標準課税対象会社である。 (2) 一時差異は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (3) 個別財務諸表における前期末及び当期末の繰延税金資産の計上額は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (4) 会計処理及び繰延税金資産・法人税等調整額の金額は以下のとおりである。 〈A社〉 〈B社〉 (次ページ【STEP6】へ進む) (前ページ【STEP5】へ戻る) 連結納税における税効果の場合の連結財務諸表においても、連結財務諸表固有の一時差異の集計から始まる。詳細は、第5回「連結財務諸表における税効果会計」の【STEP1】参照。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (次ページ【STEP7】へ進む) (前ページ【STEP6】へ戻る) 連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産及び繰延税金負債も、個別財務諸表と同様に、一時差異に法定実効税率を乗じて算定する。 ただし、未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で用いる法定実効税率は異なる。そのため、それぞれで法定実効税率を算定する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 未実現損益の消去以外の一時差異における法定実効税率 連結財務諸表固有の一時差異(未実現損益の消去に係る一時差異は除く)に適用する法定実効税率の算定は【STEP2】と同様である。 なお、子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、連結決算日又は仮決算日に正規の決算に準ずる合理的な手続により決算を行っているときは、当該子会社で適用する法定実効税率は、連結決算日又は仮決算日現在における税法の規定に基づく法定実効税率とする(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、「連結指針」という)11)。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における法定実効税率 未実現損益の消去に係る一時差異に適用する法定実効税率の算定方法も【STEP2】と同様であるが、適用する法定実効税率の時点等が異なる。 未実現損益の消去による一時差異に適用する法定実効税率は、その取引の売却元に適用される法定実効税率が適用される。また、売却元での実際の課税関係は取引時に終了しているため、売却年度に適用された法定実効税率を用いる。 そのため、連結決算日又は仮決算日に改正税法が公布されていても、改正後の法定実効税率は用いない(連結指針13)。 (次ページ【STEP8】へ進む) (前ページ【STEP7】へ戻る) 回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債を算定する。 【STEP7】で未実現損益の消去に係る一時差異とそれ以外の一時差異で別々に法定実効税率を算定したため、【STEP6】で集計した一時差異に別々の法定実効税率を用いて算定する。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (次ページ【STEP9】へ進む) (前ページ【STEP8】へ戻る) 連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定する。しかし、未実現損益の消去に係る一時差異については、その検討方法が異なる。 そのため、納税会社ごとに未実現利益に係る一時差異とそれ以外の一時差異に分けて回収可能性を検討する必要がある。 また、連結納税のため、法人税部分と地方税部分にも分けて検討する必要がある。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (1) 未実現利益の消去以外の一時差異等に係る繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産(法人税部分及び地方税部分)について、その全額を貸借対照表に計上できるわけではなく、将来の課税所得(税金)を減少させる部分しか連結貸借対照表に計上できない。 そこで、連結貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定するために、未実現利益の消去以外の一時差異に係る繰延税金資産と個別財務諸表上の繰延税金資産を合算し、「繰延税金資産の回収可能性」を検討する(連結指針41)。 具体的には、以下の①~③の検討が必要である。 ① 会社区分の決定 それぞれの会社区分の決定のうち、法人税部分の将来減算一時差異の連結財務諸表における会社区分の決定は、個別財務諸表と異なる。 (ⅰ) 将来減算一時差異(法人税部分) 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性を判断する場合、連結所得で回収可能性が決まるため、連結納税主体の会社区分を用いる。 (ⅱ) 特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分) 個別財務諸表と同様に連結納税主体と連結納税会社の例示区分のうち、より下位の例示区分を用いる。 (ⅲ) 非特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分) 非特定連結欠損金個別帰属額も連結所得と相殺されることで解消するため、個別財務諸表と同様に連結納税主体の会社区分を用いる。 (ⅳ) 地方税部分 個別財務諸表と同様に連結納税会社の会社区分をそのまま用いる。 以上の①から④をまとめると以下のとおりとなる。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 ② 回収可能性の検討 (ⅰ) 一時差異等の解消のスケジューリング 上記【STEP4】(2)①と同様である。 (ⅱ) 法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 連結財務諸表における法人税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討は【STEP4】(2)②と基本的に同様だが、連結財務諸表では個別所得ではなく、完全に連結所得をベースに回収可能性を検討するため、個別財務諸表における回収可能額が連結所得を超える場合がある。 この場合、当該超過額に相当する繰延税金資産(=当該超過額×法人税の法定実効税率を乗じた金額)を修正する(取り崩す)必要がある。 また、将来減算一時差異(法人税部分)は、連結納税主体の会社区分を用いるため、個別財務諸表と会社区分が異なることにより繰延税金資産を修正する場合がある。例えば、連結納税会社の会社区分が「2」で連結納税主体の会社区分が「3」の場合、将来減算一時差異(法人税部分)は、個別財務諸表ではスケジューリング可能な一時差異等は全額繰延税金資産を計上可能だが、連結財務諸表では5年の連結所得を限度にしか繰延税金資産を計上できない。そのため修正が必要となる場合がある。 なお、非特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分)及び特定連結欠損金個別帰属額(法人税部分)の会社区分は、連結財務諸表と個別財務諸表で変わりはない。 (ⅲ) 地方税部分の繰延税金資産の回収可能性の検討 地方税部分は、単体納税のため個別財務諸表で計上した繰延税金資産に連結財務諸表固有の一時差異に係る繰延税金資産を合算して、個別財務諸表と同様に回収可能性を検討する。 ③ 支払可能性の検討 繰延税金負債の支払可能性の検討の詳細については、上記【STEP4】(3)参照。 (2) 未実現損益の消去に係る一時差異における繰延税金資産及び繰延税金負債の検討 未実現損益の消去に係る一時差異の税効果も法人税部分と地方税部分に分けて検討する。 未実現利益の消去の場合、法人税部分は、連結所得を限度に繰延税金資産を計上する。地方税部分は単体納税の場合と同様に、単体の課税所得を限度に繰延税金資産を計上する。 一方、未実現損失の消去の場合、未実現損失を計上する前の連結所得を限度に繰延税金負債を計上する。地方税部分は単体納税の場合と同様に、未実現損失を計上する前の単体の課税所得を限度に繰延税金負債を計上する(実報7号Q7)。 (次ページ【STEP10】へ進む) (前ページ【STEP9】へ戻る) ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 連結財務諸表における税効果会計の会計処理について検討する。ただし、会計処理自体は上記【STEP5】の(1)及び(2)と同様である。 (1) 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係る税効果を除く)の計上又は取り崩し 繰延税金資産及び繰延税金負債(純資産の部に直接計上され、課税所得の計算に含まれないその他有価証券評価差額金等に係るものを除く)の増減額を「法人税等調整額」を相手勘定科目として計上する(個別指針2)。会計処理は【STEP5】と同様である。 (2) 直接純資産の部に計上され、課税所得の計算に含まれないものに係る税効果の計上又は取り崩し- その他有価証券評価差額金の場合 会計処理は【STEP5】と同様である。 (3) 繰延税金資産と繰延税金負債の相殺 同一納税主体ごとに繰延税金資産と流動負債の繰延税金負債を相殺して表示する(連結指針42)。 連結納税における法人税は同一の納税主体であるため、親会社及び子会社の法人税に係る繰延税金資産と繰延税金負債を、流動項目と固定項目ごとに、相殺して表示する(実務対応報告第5 号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」Q17)。 一方、地方税に係る繰延税金資産と繰延税金負債は、各連結納税会社=納税主体となるため、親会社と子会社、子会社間で相殺することはできない。 また、税効果会計においては、以下の注記が必要である(連結財務諸表等規則15条の5)。 なお、連結計算書類では、税効果に関する注記は必ずしも求められていない。 また、連結納税親会社の個別財務諸表における法人税に係る繰延税金資産の計上額が、連結財務諸表における法人税に係る繰延税金資産の計上額を大幅に上回る場合で、その上回る金額に重要性がある場合には、連結納税親会社の個別財務諸表に追加情報の注記が必要である(実報7号Q4)。 《設例2》 (前提条件) A社グループは連結納税制度を当期末から採用した(承認手続の開始及び承認日は当期に属する)。A社グループの会社は以下の2社である(前期末は単体納税である)。 連結財務諸表における会計処理を検討する。 (1) 法定実効税率(地方法人税考慮後)は以下のとおりである。 (2) 一時差異は以下のとおりである。なお、連結財務諸表固有の一時差異はない。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 (3) 個別財務諸表及び連結財務諸表における繰延税金資産の計上額は以下のとおりである。 ※画像をクリックすると、大きい画像が開きます。 〈A社〉 〈B社〉 〈連結〉 * * * 以上、10のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
中小企業会計
会計
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第2回】「自社積立の退職一時金制度(自社退職金規程に基づく確定給付型)のみの場合」
〔事例で使える〕中小企業会計指針・会計要領 《退職給付債務・退職給付引当金》編 【第2回】 「自社積立の退職一時金制度 (自社退職金規程に基づく確定給付型)のみの場合」 公認会計士・税理士 前原 啓二 1 退職時と決算時の仕訳 〈退職時の仕訳〉 〈決算時の仕訳〉 (※)当期末自己都合要支給額60,000,000-当期末決算整理前の退職給付引当金残高53,000,000=7,000,000 この設例は、退職金規程に基づく確定給付型の退職一時金制度で、退職金の財源を外部拠出せずに全額自社が積立する場合です。適用する方法は、簡便的方法で、退職給付に係る期末自己都合要支給額60,000,000円を退職給付債務とする方法(中小企業会計指針54)とします。 前期末貸借対照表上の退職給付引当金残高55,000,000円は、前期末自己都合要支給額と一致しており、その金額から当期退職一時金支給額2,000,000円を差し引いた53,000,000円を決算整理前の退職給付引当金残高としています。 この残高から7,000,000円を決算時に増加させた60,000,000円が期末自己都合要支給額であり、この金額が当期末の退職給付引当金残高となります。 2 決算書の金額 〈当期損益計算書〉 〈当期末貸借対照表〉 3 損益計算書の当期純損益から法人税申告書の課税所得を算出する際の加算・減算調整 〈当期法人税申告書別表四〉 〈当期法人税申告書別表五(一)〉 税務上は、実際に退職一時金を支給した日の属する事業年度にその支給額が損金算入されます。したがって、当期の退職給付引当金の計上費用7,000,000円は加算・留保します。 一方、当期に退職一時金2,000,000円を支給しているので、この額は損金算入できますが、会計上はこの支払額を退職給付引当金の減額で処理し費用計上していないことから、税務上はこの金額を減算調整します。 (了)
会計
固定資産
税務・会計
解説
解説一覧
財務会計
減損会計を学ぶ 【第11回】「事業の種類・業態により異なるグルーピング」
減損会計を学ぶ 【第11回】 「事業の種類・業態により異なるグルーピング」 公認会計士 阿部 光成 前回において解説したように、減損会計では、通常、固定資産のグルーピングが行われる。 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下「減損適用指針」という)は、グルーピングに関して、経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行うと述べ、資産のグルーピングを行う手順を例示することにより、実務的な指針として役立てることを目的としている(減損適用指針7項、70項)。 今回は、「事業の種類・業態により異なるグルーピング」として、減損適用指針70項で述べられているグルーピングについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 1 減損適用指針70項の例示 事業の種類・業態により異なるグルーピングとして、減損適用指針70項では、次のようなグルーピングの方法が述べられている。 (※1) 企業会計基準委員会事務局/財団法人財務会計基準機構編『講演録シリ-ズNo.6 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針について』(第一法規、平成15年12月)14ページ (※2) 同上 (※3) 企業会計基準委員会事務局/財団法人財務会計基準機構編『講演録シリ-ズNo.6 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針について』(第一法規、平成15年12月)16ページ 前述のように、減損適用指針は、資産のグルーピングの方法を一義的に示しているものではなく、経営の実態が適切に反映されるよう配慮して行うべきものである。 したがって、上記で例示した業種に属する企業であれば、必ずこのようなグルーピングを行うということではない。また、例示した業種以外であっても、キャッシュ・フローの相互補完性や管理会計の状況によっては、①から③のようなグルーピングを行う企業もありうる。 上記のような場合、企業の継続的な収支は、当該事業を行っている大きさでしか把握されていないことがあるが、管理会計上の目的や効果から合理性を有するものに限られることに留意する必要がある(減損適用指針70項)。 2 グルーピングの事例 1で述べたグルーピングの事例としては、次のものがある(出所:金融庁のEDINET)。 東京電力(株)(平成25年3月31日) 東北電力(株)(平成25年3月31日) 中部瓦斯(株)(平成24年12月31日) 第一生命保険(株)(平成25年3月31日) 名古屋鉄道(株)(平成25年3月31日) (了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
IT業界の労務問題と対応策 【第4回】「ローパフォーマーなど問題社員への対策」
IT業界の労務問題と対応策 【第4回】 (最終回) 「ローパフォーマーなど問題社員への対策」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 昨今、人事労務管理の現場では「モンスター社員」「問題社員」という言葉を耳にする機会が増えてきた。 例えば、次の3つのようなケースが挙げられる。 明確に定義付けされているわけではないが、通常は想定されないような常識外れの態度をとって周囲を振り回し、会社や上司などが対応に苦慮する社員を総称して「モンスター社員」と呼ぶようになったといえる。 「問題社員」と「モンスター社員」との線引きが難しいところもあるが、勤務態度が良くなかったり、労働能力が欠如していたりし、日々の業務遂行に問題がある社員を指していると考える。 IT業界においてもモンスター社員や問題社員と称される者が増えている。 この業界でいうところのモンスター社員・問題社員がとる主な行動としては、次の7つが挙げられる。 問題社員の特徴や行動パターンについて取り上げてみたが、「問題社員を作らない・入社させない」ための決定打や特効薬はない。入社した当時はモチベーションもスキルも高く、将来有望な社員と期待していた社員が、いつのまにか問題社員に変わっていくのだ。 そうはいっても、確実に増えているとされる問題社員を、どうすれば防ぐことができるだろうか。 ① 人物像の把握 ひとつは、採用時にできる限り人物像を把握することである。 履歴書・職務経歴書から、その人の働き方を確認したり、採用面接時に事前アンケートを記入してもらう。また可能な限り採用予定者に承諾をとり前職への確認をさせてもらうなどする。 最終的には面談時の態度等から総合的に判断することにはなるが、多少とも人物像を把握するための対策を講じるべきである。 ② 想いに共感してもらう 2つ目は、会社のビジョン・理念を十分に説明し共感を持ってもらうことである。 入社前に、会社のビジョンや理念といった「想い」に共感をしてもらうことが大切であり、会社の状況により、入社当初とは異なる仕事を担当する可能性があることも理解しておいてもらう必要がある。 ビジョンや理念に共感があれば、多少の仕事の中身に違いがあっても、問題なく頑張ってくれる社員は多いものである。 ③ 試用期間中の見極め 3つ目は、試用期間中に見極めることである。試用期間中は定期的に業務の進捗状況や勤務態度に関して面接指導を行うようにし、勤務態度に問題があるようであれば、注意指導を徹底し、改善を求めていく。注意指導した結果を再度確認し、改めて注意指導を繰り返していく。最後まで改善が見られないようであれば、試用期間満了をもって解雇処分となる旨を通知することになる。 ④ 日々の注意と指導 最後は、やはり日々の勤務態度を注意し指導することである。 まず問題行動を見つけた時点で口頭で注意をする。一度の口頭注意で改善されないようであれば、注意・指導を繰り返す。注意・指導した記録を業務報告書など文書で残しておくようする。それでも改善されない場合は、「注意書」などの文書で注意・指導をする。 文書での注意・指導を行っても一向に改善されないようであれば懲戒処分とし、問題社員に自覚をさせるようにする。併せて、人事評価や賞与の査定時にマイナス評価をし、日々の勤務態度が自身の処遇上にも影響があることを、相手に自覚させる。 * * * 以上、IT業界の労務問題についてお伝えしてきた。 業界特有の要因によるものも含まれているが、実はどの業界でも起きている問題でもある。 他業界のこととせず、自社の労務管理上、どの点に注意をしていき対策を講じていくべきかを考える機会としていただきたい。 (連載了)
労務・法務・経営
法務
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第13回】「消費税転嫁阻害表示〔②禁止される「表示」の具体例〕」
事例でわかる消費税転嫁対策特別措置法のポイントQ&A 【第13回】 「消費税転嫁阻害表示〔②禁止される「表示」の具体例〕」 のぞみ総合法律事務所 弁護士 大東 泰雄 弁護士 山田 瞳 1 消費税の転嫁を阻害する表示の規制の適用の対象となる主体 消費税転嫁対策特別措置法が、事業者に対して、消費税分を値引きする等の宣伝や広告(以下「消費税転嫁阻害表示」という)を行うことを禁止した目的が、消費者に対して消費税を負担していない等の誤認を与えないようにすることのみならず、納入業者に対して買いたたきを行うことや、競合する事業者が追随してしまうことによって消費税の転嫁を妨げる事態になることを防止することにもあったことは、本連載第12回(「消費税転嫁阻害表示〔①禁止される表示の概要〕」解説第1項)において述べたとおりである。 このように、消費税転嫁阻害表示は、納入業者や競業事業者等、事業者との関係においても取り締まられるべきものであることから、このような表示の規制の適用の対象となるのは、広く事業者一般である。 よって、消費税の課税事業者か否かを問わず(*1)、また、いわゆるBtoC(事業者対消費者)取引を行う事業者に限られず、BtoB(事業者対事業者)取引を行う事業者も含まれる。 したがって、設例の事業者については、その取引先が事業者であって、BtoB取引しか行っていない場合でも、消費税転嫁阻害表示規制の適用の対象となる。 (*1) 「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方」平成25年9月10日 消費者庁 2 消費税転嫁阻害表示規制の対象となる具体的な「表示」 消費税転嫁阻害表示規制によって禁止される表示と禁止されない表示の一般的な類型と具体例については、本連載第12回(「消費税転嫁阻害表示〔①禁止される表示の概要〕」解説第2項及び第3項)において述べたところである。 このような具体例を見ると、「セール」や「ポイント」等の表現から、事業者、特にスーパーマーケットや量販店等の小売店が消費者向けに行う宣伝や広告を連想しがちかもしれない。 しかしながら、この具体例は、消費税転嫁阻害表示が予定する典型的な場面として、小売事業者による消費者向けの表示を挙げたものにすぎない。 上記のとおり、この規制が、納入業者に対して買いたたきを行うことや競合する事業者が追随することで消費税の転嫁を妨げる事態になることを防止することをも目的としていることからすれば、その対象となる「表示」には、消費者向けのものに限らず、事業者間のものも含まれるのである。 具体的には、事業者が取引先事業者向けに作成するカタログやパンフレットにおける価格表示や、事業者間でやり取りされる発注書ないし注文書、見積書、請書ないし受注書、申込書、契約書、覚書、請求書等の書類における価格の表示も規制の対象となる(*2)。 (*2) 「消費税の転嫁を阻害する表示に関する考え方の公表について 【別紙2】提出された意見の概要及びこれに対する消費者庁の考え方」 平成25年9月10日 消費者庁 また、価格表示の行われる媒体についても規制に限定がない。よって、紙媒体によるチラシ・ポスター・店舗でのポップ・カタログ・パンフレット等の広告・宣伝から、商品のパッケージ・容器・包装、インターネットを通じたホームページ・電子カタログ・電子パンフレット、テレビCM、ラジオCM、店頭での呼び込み等の口頭による表示までが、広く対象になる。 以上をまとめると、次のとおりである。 3 設例の事業者の場合 設例の事業者が取引先事業者への営業のために利用するカタログにおいて価格の表示をする場合には、それが紙媒体であるか電子媒体であるかを問わず、消費税転嫁阻害表示の規制の対象となるし、ホームページに価格を表示する場合であっても、同様に規制の対象となる。よって、これらの価格表示において「消費税はいただきません。」等の記載があれば、これは、消費税転嫁阻害表示規制違反となる。他方で、消費税や減税との表記を行わずに、単に「3%お値引き」、「8%セール」等の表示を行ったに過ぎない場合には、消費税転嫁阻害表示規制違反とはならない。 また、設例の事業者が取引先事業者に対して発行する見積書、受注書、契約書や請求書において、「消費税はサービスさせていただきます。」等の表示を行っていれば、これもまた、消費税転嫁阻害表示規制違反となるが、単に、「8%端数処理」等の記載を行った場合には、違反とならない。 ただし、価格表示の欄だけを見ると消費税転嫁阻害表示規制違反とはならない場合でも、カタログ、ホームページや見積書等の全体を見ると、同規制違反となり得る場合があることについては次回(第14回)において詳しく述べることとする。 以上に見てきたとおり、消費税転嫁対策特別措置法は、消費税転嫁阻害表示に対して、その主体においても、表示の対象においても、広く規制する姿勢を示している。のみならず、本年4月1日以降、消費者庁は、禁止される表示について専用サイト等を利用して調査等を行う調査員を設置することで、情報収集を開始している(本連載第12回(「消費税転嫁阻害表示〔①禁止される表示の概要〕」解説第3項))。 これらの調査によって、この規制に違反していると判断された場合は、事業者は、指導・助言、勧告・公表等の不利益な措置を受ける可能性が高いことから、広く、事業者は、消費税に関する表示を行う場合には、消費税転嫁阻害表示にあたらないよう、細心の注意を払う必要がある。 (了)
労務・法務・経営
法務
リゾート会員権をめぐる法律問題とトラブル事例 【第4回】「近年発生しているトラブル事例とその対応策③」
リゾート会員権をめぐる法律問題とトラブル事例 【第4回】 (最終回) 「近年発生しているトラブル事例とその対応策③」 クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎 第2回、第3回に引き続き、リゾート会員権をめぐるトラブルの代表例を紹介し、これに対する対応方法を解説したい。 今回は、相談件数が増加している会員権の相続やリゾートクラブの倒産に関するトラブルを取り上げる。 5 リゾートクラブ会員権の相続 - 解 説 - 人が亡くなると、民法上当然に相続が開始する。 相続の開始により、相続人は、故人(被相続人)が有していたプラスの財産とマイナスの財産(負債)のすべてを承継するのが原則である。この場合に、故人の有していた財産の詳細につき家族も把握していない場合も多く、家族が遺品を整理するなかで初めて見つかる財産もある。 生前に故人が遺言書を残していた場合には、それに従うことになる。 他方、遺言書がなかった場合には、法定相続人の間で遺産分割協議を行い、誰が、どの遺産を相続するのかを確定する必要がある。 それでは、遺産の中にリゾートクラブ会員権が存在する場合、どのように取り扱われるのだろうか。 端的に結論を言えば、入会している各クラブの会員規約等の定めにより決まることになる。 以下では、代表的な規定の類型に応じて場合分けして検討する。 なお、以下の処理は、ゴルフ会員権の場合も同様にあてはまる。 この場合は、遺産分割協議にて会員権を承継する人を決め、その者がクラブ側に届け出て名義変更の手続を経ることになる。 ただし、多くの場合、名義変更の際にはクラブ側(理事会)の承認が必要となる。その際には、名義変更料その他各種手数料を徴収される場合も多い。 したがって、遺産分割にてリゾートクラブ会員権を取得することを考えている者は、事前に、クラブ側の承認が得られるかどうかの見込みや、相続に伴い納付が必要となる各種手数料の金額等につき確認しておく必要がある。 なお、ゴルフ会員権の事案ではあるが、判例は、会則上、特に保証金の返還を求めることができる旨が規定されていない限り、その相続人は、会員の死亡を理由に直ちに保証金返還請求権だけを行使することはできないとしている(最高裁平成9年12月16日判決。預託金の据置期間内に被相続人が死亡したケース)。 この場合には、相続により会員権を承継することができないため、退会の手続を取らざるを得ない。この場合、クラブが預託金の返還に応じる場合が多く、クラブ側から返金された金銭が遺産分割の対象となる。 また、相続は認めていないものの、会員の死亡に伴い、会員権の第三者への譲渡を認めているクラブも多い。 そのため、退会に際しての具体的手続や返金額(一定割合の償却がなされることがある)等につきクラブ側に確認した上で、遺産分割協議をなすべきであろう。 この場合、ゴルフ会員権に関する事案ではあるが、判例は理事会の承認を得ることで相続人が会員権を承継することを認めている(最高裁平成9年3月25日判決)。 したがって、リゾート会員権についても同様に解され、具体的な事務手続は、[タイプ1]の場合に準じる形となる。 ただし、この場合も、相続に関する定めがなければ尚のこと、早い段階でクラブ側に相続の際の処理や手続につき問い合わせて確認しておくべきであろう。 * * * 以上のように、相続に関する処理は各クラブの会員規約等により異なってくる。 そのため、相続人としては、リゾートクラブ会員権の会員証のみならず、会員規約や各種契約書・パンフレットが残されていないか調査し、内容を十分確認する必要がある。 そして、相続に関する扱いや手続をめぐって不明事項があれば、リゾートクラブ側に問い合わせて十分確認すべきである。 6 リゾートクラブの倒産 - 解 説 - バブル期にこぞってオープンした各種リゾート施設は、バブル崩壊後の低迷のあおりや余暇の過ごし方の趣向の変化に伴い、平成に入ってから閉鎖・倒産が相次いだ。 この[ケース6]は現在も多く寄せられる相談であり、会員が多数に上る大型リゾート施設の倒産は、社会的な耳目を集めることも多い。 リゾートクラブが自己破産の申立てをした場合、会員権はどうなるのか。 (1) 持分共有型の場合 まず、会員各自がホテル等のリゾート施設の共有持分を有する持分共有型(詳しくは、第1回参照)のリゾートクラブの場合、クラブないし運営会社が有する持分があれば、その分のみについては破産手続に服するが、それ以外の会員の権利は基本的に影響を受けない。 つまり、この場合は、クラブないし運営会社が破産申立をした以上、従前と同様の施設運営はもはや不可能となるものの、会員が有する施設そのものの持分がなくなってしまうわけではない。 したがって、共有持分を有する会員は、通常の不動産と同様、持分を第三者に売却して現金化する等の処理を検討することになる。 (2) 利用権設定型及び出資型の場合 それでは、利用権設定型及び出資型(第1回参照)の場合はどうか。 この場合は、リゾート施設の所有者自体が破産を申し立てるわけであるから、リゾート施設は破産手続の中で売却されて金銭に変えられ、これが債権者に平等に分配されることになる。 そして、会員がクラブに対して有する預託金返還請求権については、破産手続上は一般的な(無担保の)債権である「破産債権」として扱われる。 したがって、会員は、預託金返還請求権を有することを債権届出期間内に届け出する必要がある。ただし、届け出をした場合でも、多くのケースでは全く配当がなされないか、債権額の数%程度の配当しか受け取れない場合が大半であるとの現実がある。 (3) リゾートクラブが民事再生を申し立てた場合 なお、[ケース6]のような破産の場合と異なり、リゾートクラブが民事再生を申し立てた場合はどうか。 この点、民事再生の場合には自己破産とは異なり、リゾートクラブの事業そのものは今後も継続していくことが前提となっている。 つまり、民事再生の申立てによりクラブ運営に裁判所の関与・監督が入る形とはなるが、従前どおり事業は継続し、そこから得た収益をもって債権者に分割払していくという枠組みとなる。 したがって、民事再生が申し立てられた場合も、会員は、民事再生手続中もリゾートクラブ施設を利用することができるのが通常である。 ただし、預託金返還請求権については、他の債権者が有する債権と同様、民事再生手続の中で大幅な減額を余儀なくされる場合が多い。 この点、預託金返還請求権の金額が、会員権相場に近いレベルにまで減額されることが多いとの指摘もなされている。 * * * 以上のように、一口に倒産といっても破産か民事再生か等で会員の立場には違いが出る。 そこで、会員としては、クラブや破産管財人ないし監督委員(再生会社を監督するために裁判所が選任した弁護士)に対し、当該クラブがどのような法的手続に入っているのか、債権届出の期間や方式等の手続に関する詳細、その他の質問事項等につき、問い合わせて確認する必要がある。 (連載了)
労務・法務・経営
経営
現代金融用語の基礎知識 【第7回】「イスラム金融」
現代金融用語の基礎知識 【第7回】 「イスラム金融」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 イスラム金融とは イスラム金融とは、イスラム法(シャリア)の教えに沿った金融のことである。 イスラム教圏の社会では、シャリアの教えに沿った秩序が形成されているが、経済も同様である。 イスラム経済を形成している産業をハラル産業というが、イスラム金融もそれに含まれる。なお、ハラルというと、豚肉などを使わない食品を思い浮かべるかもしれないが、ハラル産業は食品産業だけではなく、様々な分野にわたっている。 〈イスラム金融の位置付け〉 2 イスラム金融の特徴 イスラム金融の特徴としては、シャリアが禁じる事業(豚肉やアルコールなどに関わる事業)への投融資を行わないことのほかに、利子の受け取りを禁じていることがある。 銀行が顧客に対して資金を貸し付けた場合、通常、顧客は銀行に対して元本を返済するとともに利子を支払わなければならない。しかし、イスラム金融において、銀行は顧客から利子を受け取ることができないとされているのである。 それでは、イスラム金融において、銀行は顧客に対して無利子で資金を貸し付けるのだろうか。そうだとすれば、銀行の経営が成り立たないはずである。 イスラム金融においても、銀行は、顧客から実質的に利子に相当するものを受け取っている。しかし、それを利子には当たらない形のものにしているのである。 3 利子を受け取らない銀行? 利子なしで資金を融通する取引とは、例えば下図に示したような取引である。 〈利子なしで資金を融通する取引の例〉 銀行と顧客の間で双方向に商品を売買する。顧客から銀行へ商品を販売(①)した後、銀行から顧客へ商品を販売(③)するのである。ここで売買される商品は同一のものであり、実際にはこの商品の移動はなく、代金のやり取りが行われるだけである(②と④)。 この場合、銀行が顧客に対して支払う代金(②)を例えば1,000円とする。そして、顧客が、銀行に対して、例えば利子相当額100円を付した1,100円を代金(④)として支払うこととするのである。そうすることによって、実質的には100円の利子を付した1,000円の貸付けだが、形式的には利子なしで資金を融通することが可能となるのである。 なお、ここで示した取引の例はあくまで一例であり、イスラム金融における利子なしで資金を融通する取引には様々な形態がある。 4 イスラム金融の将来 現在のイスラム教徒の人口は約15億人だが、国連の人口予想によると、2050年にはその倍になり、世界人口の3分の1を超えるとされている。イスラム社会というと、これまでは遠くの異質な存在だったが、最近では身近になりつつある。日本に滞在するイスラム教徒の数が増加するにつれて、「ハラル」という言葉もよく耳にするようになった。 イスラム金融は、現時点ではまだ特殊な金融取引だろう。しかし、今後、イスラム社会に属する企業等との経済取引が増加していけば、イスラム金融の利用も避けられないはずである(既にイスラム金融業務に乗り出している日本の金融機関がある)。 近い将来、イスラム金融は、決して特殊ではない普通の金融取引の一つとなるのかもしれない。 (了)