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税効果会計を学ぶ 【第18回】「連結財務諸表における税効果会計の取扱い③」~未実現損益に係る一時差異

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第18回】 「連結財務諸表における 税効果会計の取扱い③」 ~未実現損益に係る一時差異   公認会計士 阿部 光成   連結財務諸表における税効果会計として、連結会社相互間の取引から生ずる未実現損益の消去に関する一時差異を取り上げる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 未実現損益に係る一時差異に関する基本的な考え方 「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「連結税効果実務指針」という)3項では、「連結会社相互間の取引から生ずる未実現損益の消去」から連結財務諸表固有の一時差異が生ずることを述べている。 税効果会計基準で採用した方法は資産負債法である(「税効果会計に係る会計基準の設定に関する意見書」三)。 資産負債法は、残高項目に着目し、会計上の資産又は負債の金額と税務上の資産又は負債の金額との間に差異があり、会計上の資産又は負債が将来回収又は決済されるなどにより当該差異が解消されるときに、税金を減額又は増額させる効果がある場合に、当該差異(一時差異)について、税効果を認識する方法である。 しかしながら、連結税効果実務指針では、未実現損益に係る税効果会計の取扱いについては、資産負債法の例外として取り扱うとしており、繰延法の考え方に基づいている(連結税効果実務指針12項、46項)。   Ⅱ 未実現利益に係る一時差異 1 会計処理 資産の売却元で発生した税金額を繰延税金資産として計上し、未実現利益の実現に対応させて取り崩す(連結税効果実務指針13項)。 少数株主が存在する場合の未実現損益の消去に係る法人税等調整額は、未実現損益の消去額に対応して親会社持分と少数株主持分に配分する(連結税効果実務指針17項)。 【設例】 ① 未実現利益の消去仕訳は次のとおりである。 (X1年)  (注) 未実現利益消去に伴う少数株主損益額:400×(1-80%)=80 ② Χ1年の税効果の仕訳は次のとおりである。  (注) 400×40%=160  (注) 160×20%=32 2 税率 連結税効果実務指針は、未実現損益の発生年度における売却元の税率を適用する考え方を採用している(連結税効果実務指針46項)。 資産の売却元で発生した税金は確定した金額であるので、繰延税金資産の計上額は、売却元において未実現利益の金額に対して売却年度の課税所得に適用された法定実効税率を使用して計算した税金の額となる(連結税効果実務指針13項)。 売却元に適用される税率がその後改正されても、未実現利益に関連して認識し測定した繰延税金資産は、その税率変更の影響を受けることがないため、個別税効果実務指針19項の適用はない。 つまり、売却元の連結会社に適用されている税率がその後改正になっても、売却元での課税関係は完了しているため、当該税率変更に伴う繰延税金負債額又は繰延税金資産額の見直しは行われないことになる。 3 未実現利益に係る一時差異の認識の限度 未実現利益の消去に係る将来減算一時差異の額は、売却元の売却年度における課税所得額を超えてはならない(連結税効果実務指針15項)。 これは、未実現損益の消去に係る一時差異は、必ずしも連結消去手続上の未実現損益の消去額によるのではなく、売却元における売却年度の課税所得の額(未実現損益に関連する一時差異の解消額を除く)を上限とする制限である。 当該制限は、①当該税効果額は売却元が実際に支払った金額又は支払税金が軽減された金額と、②未実現損益に関連する一時差異の解消に係る税効果、との合計額又は差引額を限度としなければならないという考え方に基づいている(連結税効果実務指針47項)。 4 未実現利益の消去に係る繰延税金資産の回収可能性 未実現利益の消去に係る繰延税金資産の回収可能性については、他の繰延税金資産とその性格が異なることから、個別税効果実務指針21項の判断要件は適用しない(連結税効果実務指針16項)。   Ⅲ 未実現損失に係る一時差異 1 会計処理 連結手続上、連結会社相互間の取引から生じた未実現損失が消去された場合には、未実現利益の消去の場合と同様に連結財務諸表固有の一時差異が発生する。 連結手続上、消去された未実現損失に係る税効果は、売却元で課税所得の計算上、未実現損失が損金処理されたことによる税金軽減額を繰延税金負債として計上し、当該未実現損失の実現に対応させて取り崩す(連結税効果実務指針14項)。 2 未実現損失に係る一時差異の認識の限度 未実現損失の消去に係る将来加算一時差異の額は、売却元の当該未実現損失に係る損金を計上する前の課税所得額を超えてはならない(連結税効果実務指針15項)。 (了)
#36(掲載号)
#阿部 光成
2013/09/19
会計 収益認識 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第19回】工事契約会計③「工事損失引当金の会計処理」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第19回】 工事契約会計③ 「工事損失引当金の会計処理」   仰星監査法人 公認会計士 大川 泰広   〈事例による解説〉 受注から完成・引渡しまでの請負金額、原価予算及び発生原価は以下のとおりです。 〈会計処理〉 ① ×1年3月期の会計処理  (*1) 1,000百万円×180百万円/900百万円=200百万円  (*2) 諸口には材料費、労務費、経費等が含まれます。 ② ×2年3月期の会計処理  (*3) 1,000百万円×770百万円/1,100百万円-200百万円=500百万円  (*4) △100万円(*5)-△70百万円(*6)=△30百万円  (*5) 工事全体の損失見込額:1,000百万円-1,100百万円=△100万円  (*6) 既に計上した工事損益:(200百万円-180百万円)+(500百万円-590百万円)=△70百万円 ③ ×3年3月期の会計処理  (*7) 1,000百万円-(200百万円+500百万円)=300百万円 〈会計処理の解説〉 本事例における工事契約は、×2年3月期において最終的に損失になると見込まれたため、損失が見込まれた期に工事損失引当金を計上する必要があります。 この工事から発生すると見込まれる損失は△100万円です。ただし、損失が発生すると見込んだ時点までに、既に計上している損益がありますので、これを控除した残りを工事損失引当金として計上します。 ×2年3月期までに計上された損益は、以下のとおりです。 ×2年3月期において、将来、追加的に発生すると見込まれる損失は、この工事から発生すると見込まれる損失△100万円から、既に計上している損失△70百万円を控除した△30百万円です。したがって、×2年3月期に計上すべき工事損失引当金は30百万円となります。 ×2年3月期に計上した工事損失引当金は、×3年3月期において戻入処理を行います。以下は、工事損失引当金を戻し入れる前の累計損益です。 この工事から発生した損失は△100百万円ですが、工事損失引当金を戻し入れる前においては、売上総利益の累計が△130百万円となっています。これは、×3年3月期に発生する損失を、既に×2年3月期に取り込んでいるためです。これを解消するために、×3年3月期では工事損失引当金30百万円を戻入処理します。 工事損失引当金の戻入処理を行った後の累計損益は、以下のようになります。 ×2年3月期に将来の損失を既に取り込んでいるため、工事損失引当金を戻し入れることで、工事が完成した×3年3月期の売上総利益はゼロになります。また、累計損益が△100万円となり、この工事から発生した損失△100万円が会計上も適切に表現されることとなります。 (了) ※10月は減損会計を取り上げます。
#36(掲載号)
#大川 泰広
2013/09/19
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

活力ある会社を作る「社内ルール」の作り方 【第3回】「会社の企業統治のステップ」

活力ある会社を作る 「社内ルール」の作り方 【第3回】 「会社の企業統治のステップ」   特定社会保険労務士 下田 直人   〈企業統治法は繰り返す〉 企業統治には、次のようなステップがあると考える。 単体の企業もこのステップを踏むし、日本だけでなくグローバルで大括りにした場合でも、俯瞰してみると同じステップを踏んでいるのではないかと思う。 そのステップとは、以下のようなものである。 最初の[ステップ1]では、経営者自身の考えや、なんとなく社内に出来上がった文化や風土に皆が従い、企業が統治されていく。この段階では、経営者と従業員との間の距離も近く、従業員間の距離も近いため、特段明文化されたものがなくても、なんとなく阿吽の呼吸ですべてがスムーズに動いていく。 ある意味、経営者の顔を見ながら従業員が働くことにもなるのだが、距離が近く、「社長の喜ぶこと、嫌がること」が予測できるため、特段問題が生じない。 しかしこの状況も、従業員数が増えてくると話が変わってくる。 経営者と従業員一人ひとりの距離が遠くなり、阿吽の呼吸では考えが伝わらなくなる。また、人が増えることにより様々な価値観の人が増え、それに伴いいろいろな主張をする人が出てくる。特に中小企業の場合は中途採用が多いため、前職でのルールが世の中の常識だと思い入社してくる人が多い。つまり、みんなが自分のやり方が最も常識的なやり方だと思い行動するので、トラブルにつながるケースが多い。 そうなると、ルールを作り、明文化し、そのルールで統治していくという方法を企業は選択するようになる。ルールブック、つまり就業規則を拠り所として社内を統治していくのだ。これが上記の[ステップ2]である。 このようにして社内を統治していくと、体系的、論理的な管理ができ、しばらくの間はうまく統治ができる。 しかし、これが行き過ぎると、前回まで述べてきたような「限界」に突き当たる。 ルールは作っても想定外の事態が生じる。すると、「それに対応するための新たなルール」が作られることになる。つまり、きりがない世界に突入し、就業規則はどんどん厚くなる。 本来はルールを知り、それが守られることによって企業統治するものだったのに、ルールが厚くなることで理解することが不能となり、「問題が起きた時に処分をするためのルール」へと変わってしまう。 そして、ルールが細かく決められれば決められるほど、ルールに書いていないから「やらない」、ルールに定めがないから「やってもいい」という杓子定規で、頭で考えない集団が出来上がっていく。つまり、「ルールを考える一部の人」と、「ルールに則って何も考えない大多数の人」という図式が出来上がってしまうのだ。こうなると、スピードが要求される世の中で生き残っていくのは非常に苦しくなってしまう。 そこでまた、本連載の趣旨である、上記の[ステップ3]「価値観を中心として企業を統治していくフェーズ」に入ってくる。 ただし、これは昔(ステップ1)に戻ったわけではない。今度は、なんとなく出来上がった文化ではなく、企業が戦略的に「自社が大切にする価値観」を明確にして、それに基づいた企業文化をデザインしていくことになる。 つまり、価値観といった曖昧なもので統治する時代が再び到来するのだが、そのレベルは以前より上がっているのだ。 これは、ヘーゲルの弁証論の考え方からもある程度予想ができる。私自身、弁証論を真剣に勉強したことはないが、田坂広志氏が『使える弁証法』(東洋経済新報社・2005年)という書籍の中で「螺旋階段的発展の法則」として解説されている。 私が理解したなりに簡単に説明すると、「物事は螺旋階段のように発展する」ということである。螺旋階段を上から見ると、円であるから同じところに戻ってきたように見える。しかし、横から見ると、同じところには来ているのだが、その時はひとつ上の階に上がっている。つまり、物事は同じところに戻ってくるが、その時はひとつ上のレベルで繰り返されるということだ。 例えば、通信手段で考えると、昔は「手紙」という文字を書いて送るのが通信手段であった。これが、「電話」という音声での手段に変わった。そして、現在では「電子メール」という、再び文字の文化に変わっているのである。しかし、そのレベルは以前より上がっている。 実は、企業統治もこのようなステップを踏んでいるのだと私は考えている。 冒頭に述べたように、このような流れは1つの企業の中でも展開されるが、日本やグローバルといった大きな視点で見た場合も同じことがいえると思っている。 実際に、IBMが世界64ヶ国1,700人のCEOを対象に調査をしている「global ceo study 2012」によると、好業績企業のCEOが注力している取組みのひとつとして、「価値観の共有を通じて従業員に権限を委譲する」ことが挙げられている。 この中には具体的に、次のような記述も見受けられる。 このように、一企業ではなく、グローバルなマクロの世界で見たときも、「企業文化や価値観による統治」へ時代がシフトしようとしているのではないかと考えている。 (了)
#36(掲載号)
#下田 直人
2013/09/19
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

競業避止規定の留意点 【第3回】「競業避止義務と職業選択の自由」

競業避止規定の留意点 【第3回】 「競業避止義務と職業選択の自由」   特定社会保険労務士 大東 恵子   競業避止義務が有効であるか否かの判断基準は、前回紹介した《判例》のように、ケースバイケースにより判断される。競業避止義務の有効性の根拠は「企業と労働者の間の契約関係によるもの」とする考え方が一般的である。 そこで、会社が取り得る事前措置としては、就業規則や契約書に、退職後も会社の営業機密を使用・開示してはならない旨の禁止・違反した場合の措置(使用者の差止請求や損害賠償請求)を設けておく方法がある。 この裏返しとして、退任後や退職後に競業を禁止する特約が有効かどうか、という問題がある。 一般に、日本においては憲法における「職業選択の自由」(憲法22条1項)が保障されていることから、 と判示されている。 退職後の競業避止契約の有効性について、「フォセコ・ジャパン・リミテッド事件(奈良地裁・昭和45.10.23)」が、初めて判断基準を明示したリーディング・ケースといわれている。 フォセコ・ジャパン・リミテッド事件 (奈良地裁・昭和45.10.23) 〔事件のあらまし〕 原告である元使用者は、各種冶金用副資材を製造・販売する企業。 その元の労働者である被告2名は、研究部に所属し、「労働者1」は工場で製品管理を担当し、「労働者2」は鋳造本部で販売業務に従事して退職。退職の際に、退職後2年間の秘密漏洩禁止と競業避止の特約を結んでいた。 退社後まもなく、業務内容や顧客が競合する同業他社に就職し、取締役に就任した。元使用者は、各特約に違反したとして、元従業員らに「競合行為の差止め」を求めた。 〔判決〕 労働者側敗訴(会社の差止申請容認)。 競業避止の特約は、労働者から生計の途を奪い、その生存を脅かすおそれがあると同時に、職業選択の自由を制限するから、特約の締結に合理的な事情がないときは、社会秩序(公序良俗)に反して無効である。 一方、その会社だけが持つ特殊な知識は、一種の客観的財産であり、営業上の秘密として保護されるべき利益である。そのため、一定の範囲において労働者の競業を禁ずる特約を結ぶことは十分合理性がある。営業上の秘密としては、顧客等の人的関係、製品製造上の材料・製法等に関する技術的秘密等が考えられる。これらを保護するため、使用者の営業の秘密を知り得る立場にある者に秘密保持義務を負わせ、また、秘密保持義務を担保するために退職後における一定期間、競業避止義務を負わせることは適法・有効である。 この事件では、元従業員は客観的に保護されるべき技術上の秘密を持っており、また元従業員らは、企業の営業の秘密を漏洩するか、しうる立場にあるから、企業は特約に基づいて、元従業員らの競業行為を差し止める権利を有する。競業制限の合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、使用者の利益(企業秘密の保護)、労働者の不利益(転職・再就職の不自由)を考えて慎重に検討する必要がある。 この事件では、制限期間は2年間という比較的短期間であり、制限の対象職種は営業目的と競業関係にある企業であって特殊な分野であることを考えると、制限の対象は比較的狭いこと、場所的には無制限であるが、これは元従業員の営業の秘密が技術的秘密である以上はやむを得ない。退職後の競業制限に対する代償は支給されていないが、在職中に機密保持手当が支給されていたことを考えると、この事件の競業制限は合理的な範囲にある。 会社実務において極めて影響力の大きい判決である。退職後の秘密漏洩禁止と競業避止など、該当従業員や役員・役職などにより機密情報に接近する度合いなどをもとに内容を手厚くし、個別の事案ごとに詳細な検討が不可欠である。 (了)
#36(掲載号)
#大東 恵子
2013/09/19
労務・法務・経営 法務

婚外子相続差別に係る最高裁違憲決定がもたらす影響

婚外子相続差別に係る 最高裁違憲決定がもたらす影響   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   第1 はじめに──ついに下された法令違憲決定 憲法問題の中には、専門家の間でも考え方が激しく対立しているのみならず、同一の争点につき、最高裁判所が長年にわたり繰り返し法的判断を示す場合がある。 その一つのテーマが、いわゆる婚外子(非嫡出子)の法定相続分の問題、すなわち、戸籍上の婚姻関係がない男女間の子(嫡出でない子)の相続分を嫡出子の半分と規定する民法900条4号ただし書(以下「本件規定」という)が、憲法14条1項に違反するかという問題である。 最高裁判所は、平成25年9月4日、上記の問題につき、本件規定が憲法14条1項に違反し無効であるとの決定をついに下した(以下「本件決定」という)。 最高裁判所が、法令自体を違憲と判断したのは本件で9件目であり、同一の争点に関して合憲有効と判断した最高裁平成7年7月5日大法廷決定を変更した。 本稿においては、社会的にも広く報道された本件決定の判示内容を簡潔に紹介するとともに、今後の相続実務への影響についても概観する。   第2 本件決定の判示内容 本件決定が判示した内容は、以下の2点である。 [判示1] 本件規定が憲法14条1項に違反して無効であること まず、本件規定の憲法適合性につき、過去の最高裁判所自身の判断を変更し、憲法14条1項(法の下の平等)に違反し無効とした。 その論理構造は、以下のとおりである。 図1 実際の決定書から引用してみる。   [判示2] 先例としての事実上の拘束性について ──違憲判断が遡及しないこと 上記のように、「遅くとも平成13年7月当時において」、本件規定が違憲無効であったとすれば、平成13年7月以降に発生した相続について、たとえ既に当事者間で遺産分割協議が成立していたり、家庭裁判所の審判が確定していたとしても、それは無効な民法規定を前提とした法律関係であるとして、遡って無効になるとも考えられる。 本決定は、この点につき以下のように判示し、本決定の違憲判断は、既に確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼさない、つまり、違憲判断の効力は遡らないという重大な原則を明示した。 図2 なお、本決定には、[判示1]に関して金築裁判官及び千葉裁判官の補足意見が、[判示2]に関して岡部裁判官の補足意見が付されている。   第3 今後の相続実務への影響 以上のような判断を下した本決定は、今後の相続実務にどのような影響を及ぼすだろうか。 (1) [判示1]が与える影響 まず、[判示1]については、比較的明確である。 本件規定が違憲無効と判断された以上、従来のように非嫡出子の相続分を嫡出子の半分とする取扱いは許されず、あくまでも両者ともに同一の法定相続分を有する者として取り扱われる。 法定相続分は、遺産分割協議や家事調停の申立て、そして生前における遺言内容を検討する際の考慮要素となる等、すべての相続問題の出発点となる。そのため、本件規定が無効とされたことには十分注意が必要である。 同様に、相続税の申告に際して、申告期限が迫っても相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合には、未分割の状態で法定相続分に従った割合にてひとまず申告する例がある。この場合にも、法定相続分の計算において、上記と同じ点を注意する必要がある。 なお、一部報道によれば、政府は本件規定につき速やかな法改正を目指すとしているようである。 (2) [判示2]が与える影響 より複雑な問題を抱えるのは、[判示2]についてである。 以下、場合を分けて整理してみる。 まず、「Ⅰ 本決定により明示された事項」は、次のとおりである。 ①本決定以降に発生する相続については、非嫡出子も嫡出子と同一の法定相続分を有するものとして取り扱われる。 そして、②本決定時に、既に本件規定を前提とした遺産分割審判やその他の裁判が確定していたり、遺産分割協議その他の合意等により法律関係が確定していた場合には、本決定を理由にそれらを覆すことはできない。 逆にいえば、③平成13年7月から本決定までの間に発生した相続においても、本決定の時点において、未だ遺産分割審判やその他の裁判が確定せず、遺産分割協議等が未だ合意に至らず、法律関係が確定していない場合には、本決定を援用し、非嫡出子でも嫡出子と同一の相続分を有するものとして今後の審判手続や分割協議を進めていくことになる。 これらは、相続開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権(例:銀行預金)又は可分債務(例:借入金債務)の処理においても同様である。 他方で、「Ⅱ 本決定が直接判示せず、今後の取扱いにつき未確定な事項」としては、次のとおりである。 まず、①「遅くとも平成13年7月当時」を基準として違憲無効と判断した以上、同月以前に発生した相続における本件規定の効力をいかに考えるかは不明である。 現時点で既に約12年以上経過している話であり、問題となる件数は少ないとは思われるが、議論となる余地はある。 また、②既に遺産分割協議その他の合意等により法律関係が確定している場合でも、非嫡出子が「遺産分割協議を成立させた当時、本件規定は違憲無効であったのに、これを有効であると誤信した錯誤があった」として民法95条の錯誤を主張した場合、これが認められるかという問題は残る(【参考文献(1)】の中村心判事[東京大学法科大学院客員准教授]の指摘による)。 さらには、③既に遺産分割は確定しているが、本決定以降に新たな相続財産(未分割財産)が発見された場合に、これをどのように処理するのか(一度確定した法定相続分に基づき2:1で分けるのか、未分割財産だけを平等(半分)に分けるのか、それとも既に分配が確定した遺産と未分割遺産の合計額が平等となるよう調整して分配するのか等)という問題もある(【参考文献(2)】の本山敦教授[立命館大学法学部]の指摘による)。 このように、本件決定は、長年にわたる論争につき法令違憲の結論をもって決着をつけた点に限っては明確であるが、今後具体的に発生することが予想される個別問題について、未だ激しい紛争の余地を残すものである点に留意すべきであろう。 (了)
#36(掲載号)
#栗田 祐太郎
2013/09/19
労務・法務・経営 経営

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第7回】「失敗しない会計事務所選び(ITの視点から)」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第7回】 「失敗しない会計事務所選び (ITの視点から)」   公認会計士・税理士 小田 恭彦   顧客にとって会計事務所のITの利用度は、会計事務所を選ぶにあたっての重要な要素である。 今回は、「業務の効率化」、「顧客情報の保全」、「会計データ活用」という3つの観点から、会計事務所のITについて考えたい。   業務の効率化におけるIT 顧客にとって業務効率化における重要な点として、会計事務所との情報の受渡しの効率性がある。 日々の受渡しに関する業務量が多い業務のひとつに、記帳委託時の領収証や請求書等の各種証憑のやりとりがある。これにはいくつかの受渡方法があるが、もっともシンプルな方法は郵送である。 郵送の場合、会計事務所側は顧客から入手した各種証憑に基づき記帳業務を行った後、基本的にこれらを再び顧客に返却する。そして、顧客側は戻ってきた証憑類を保管することになる。シンプルであり、ITに依存しない方法であるが、一連の作業が完結するまでに日数を要する方法であり、証憑類の受渡漏れの問題が発生しやすいため注意が必要である。 別の方法としては、FAXがある。FAXを使って会計事務所にいわばコピー情報を渡すことにより、会計事務所との受渡しの際の紛失や返却漏れなどのトラブルが生じないというメリットがある一方、送信する証憑のボリュームいかんによっては手間や通信コストがかかる。 最後に、PDF(メール)がある。これは、証憑をコピー機などでスキャンしてPDF化したうえで、メール送信する方法である。この方法によれば、郵送のように会計事務所との受渡しの際の紛失や返却漏れなどのトラブルも生じず、FAXのように通信コストもかからないし、会計事務所側にとっても紙が増えないため効率的である。 ただし、顧客から受け取ったPDFデータをPCの画面で参照しながら会計ソフトにデータ入力を行うには、2画面で作業ができるようなPC環境の整備が必要であろう。 最終的に、郵送、FAX、PDF(メール)のいずれの方法を採用するかは、個々の顧客が求める利便性との調整になるが、顧客の選択肢を増やすことが、会計事務所には求められるであろう。   顧客情報の保全におけるIT 会計事務所は、決算書類、原始証憑類、議事録、会計システムデータといった顧客のさまざまな情報を預かっている。 顧客情報の形態としては基本的には紙か電子データであるが、まず、紙情報を保全するための方法としては、 など日々の配慮が重要であるが、さらに火災等の事故や自然災害への対応として、顧客情報を電子化してバックアップをとっておくことが有効である。 具体的には、紙データをスキャンしてPDF化したうえで、紙情報の保管場所とは別の場所に保管する。これにより紙の情報が物理的に破損、消失した場合にも情報を復元することができる。 すべての情報を電子データでバックアップするかは情報の重要性と当該作業のコストとの比較次第であるが、個人的には重要な書類についてはバックアップをとるべきであろうと考える。 このような顧客情報の電子化は、会計事務所にもメリットがある。つまり、紙情報は外部倉庫などに保管しておき、電子データを会計事務所ファイルサーバに保管しておくことにより、オフィス内の紙を減らすことができ、ゆとりのある空間の確保と紛失リスクの低減ができる。 これら紙情報のバックアップとしてスキャンした電子データだけでなく、会計ソフトのデータなどの各種作成、入手したデータを含む『電子データの運用管理方法』について述べると、電子データは「個人PCにデータを保管しない」「持ち出す場合にファイルをコピーする」などが基本であるが、電子データを保管するファイルサーバ自身の破損等に備えて別のサーバにバックアップをとり、物理的にも別の場所で保管するのが理想である。 その際には、バックアップデータはファイルサーバとは別の場所に準備しておくか、ないしはデータバックアップを保証してくれる外部業者のファイルサーバを活用することもひとつの方法である。   会計データ活用におけるIT 会計事務所に記帳を依頼している場合、会計事務所にある会計ソフトに入力した結果を顧客に報告するための方法として、試算表などの帳票を出力して報告するという方法があるが、この方法では顧客に報告できる情報がどうしても総括的、限定的になってしまい、顧客がそれ以上の解析や分析をするには情報として不足である。 会計ソフトに入力した個々の仕訳情報を活用したい場合には、会計ソフトのデータを共有できる環境が必要である。 顧客が自計化している場合、ないしは顧客先に訪問して顧客の会計ソフトに直接記帳する場合にはそれが可能であるが、その他の場合には以下の2つの方法のいずれかの方法が考えられる。 まず、リモートアクセスする方法である。 顧客が会計事務所の会計ソフトデータにリモートアクセスして会計データを参照するケースと会計事務所が顧客の会計ソフトにリモートアクセスして記帳業務を行う方法がある。いずれの方法を採用した場合でも、リアルタイムでの情報共有が可能であるが、この方法を採用する場合には、セキュリティなども考慮したリモートアクセス環境を用意する必要がある。 次に、クラウド型会計ソフトを活用する方法である。 最近クラウド型の会計ソフトが増えてきている。クラウド型会計ソフトとは、インターネット経由で会計ソフトにログインしてデータ入力を行うものであり、データは会計ソフトベンダーが用意したサーバにて管理される。 これまで比較的主流であった顧客が作成した会計データをメール等に添付して受渡しする方法は、顧客と会計事務所との間で最新版ファイルを間違えてしまうリスクや、顧客側の会計ソフトのバージョンが古く、会計事務所側で作成したファイルが顧客側で開けないなどの煩雑さがあったが、クラウド型会計ソフトは1つの情報を顧客側と会計事務所側が共有することにより、情報のリアルタイム共有ができる。 さらに、会計ソフトのバージョンアップ作業は自動的に行われるため、会計事務所の個々のPCを個別にアップデートする必要もなく利便性も高い。また、データ自身も会計ソフトベンダーが管理しているため、前述の顧客情報の保全という観点からも望ましい。 *     *     * このように会計事務所をとりまくIT環境も進化しており、会計事務所がITをどれだけ活用しているか、シビアな言い方をすれば会計事務所がどれだけ最新のIT環境についてきているかは顧客にとって重要な要素であり、特にIT化が進んだ顧客の場合には重要な選定要素にもなりかねないであろう。 (了)
#36(掲載号)
#小田 恭彦
2013/09/19
労務・法務・経営 経営

顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第15回】「仕入・買掛債務管理のKPI(その② 仕入値引等対応)」

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第15回】 「仕入・買掛債務管理のKPI (その② 仕入値引等対応)」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 今回は前回に引き続き、「仕入・買掛債務管理」を構成する業務プロセスから、「仕入値引等対応」を評価するKPIを取り上げる。 「仕入値引等対応」は、いったん受渡しが行われた物品や役務に数量不足や品質不良が発見された場合に発生するため、仕入・買掛債務管理においては特殊業務であるとともに、返品や仕入値引による仕入金額の減額の過程で誤謬や不正が発生しやすい。 そこで、仕入計上の評価の妥当性、資産保全の観点で業務管理が重要となるが、そのような業務管理のサービスレベルを評価するKPIを紹介しよう。   KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを押さえておこう。 前回も述べたが、仕入・買掛債務管理において、会社が担う一般的な機能として、「購買業務」、「債務残高管理」、「値引・割戻」という3つの機能が挙げられるが、今回解説するKPIは、「値引・割戻」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 〈経済産業省スタンダード:仕入・買掛債務管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   さらに、経済産業省スタンダードでは、「値引・割戻」に関する対応内容をあらかじめ契約で取り決めているか否かに分けて、「値引・割戻」に関連する業務プロセスを次のようにまとめている。いずれも、証憑と契約内容に基づき価格調整の根拠となる事実を確認し、仕入値引を行うか、仕入先に対して仕入代金の返戻を請求するという流れとなっている。 このように、経済産業省スタンダードでは、購入対象の数量不足や品質不良を理由に仕入金額を減額する仕入値引や返品を理由にする仕入戻と、一定期間に多額又は大量の仕入を行った仕入先からの仕入代金の返戻(リベート)である仕入割戻を同じ業務プロセスで扱っているのだが、スコアリングモデルでは、仕入割戻ではなく、仕入値引、仕入戻の対応についてその正確性のレベルを問うKPIを設定した。 〈経済産業省スタンダード:2.7.1調整額検証(契約有)〉   〈経済産業省スタンダード:2.7.2調整額検証(契約無)〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より)   定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 「仕入値引、返品」とは、仕入製商品の量目不足、品質不良、破損等の理由で仕入金額を控除する仕入値引、返品により仕入金額の全額を消去する仕入戻をさす。 ところで、仕入金額を直接又は間接に減額する会計事象としては、仕入値引、仕入戻、仕入割戻、仕入割引があるが、このKPIで評価の対象にしているのは、当初の購買取引に予定されていない理由で仕入金額を直接変更する仕入値引、仕入戻である。 「発生日」とは、仕入値引の場合、仕入先と値引金額を合意した日、返品の場合、仕入先における返品物品受領日をさす。 「平均」とは、購買情報管理システムに入力された複数の仕入金額変更データ入力日を合算して、それを仕入金額変更データ入力件数で割った平均値をさす。データを取る場合、前月1ヶ月のデータに基づいて記入すればよい。   KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 このKPIは、物品又は役務の購入取引において発生した取引条件の変更を適正に買掛金や棚卸資産の金額に反映するため、変更された仕入データ入力を早期に完了することが望ましいという価値判断に基づいて設定されている。 そして、このKPIで業務を評価する前提条件として、発注依頼、購買、支払の職務分掌が整備され、返品の承認手続が定められていることが必要と考えている。 そこで、会社の経理財務部門が適正に適時に仕入値引等を計上しているか否かというサービスレベルを比較するため、データ入力日までの平均日数をKPIとした。 スコアリングモデルでは、この日数が短い会社が長い会社よりも相対的に望ましいと考えている。そして、どの程度の日数が望ましいのかという問題は、各会社が提供したKPIデータ群によって形成されるベンチマークに委ねている。 では、もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、どういう事態が想定されるのか。 まず、買掛金や棚卸資産の金額が正しく計上されなくなる事態が想定される。 さらに、仕入金額の減額又は消去が遅れると、不要な仕入を行い仕入代金も支払った上で後日返品する手口で仕入先の粉飾を幇助する不正の温床を生む。 このような不正は、支払義務なき債務の支払いが発生するリスクだけでなく、仕入先が破産手続に入った場合には、過払代金を回収できなくなるという極めて具体的な資産保全のリスクを高めることになるだろう。   顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の経理財務業務を観察し、仕入値引や仕入戻に関連する業務プロセスが仕入・買掛債務管理に組み込まれていることを確認していただきたい。その上で、毎回述べているが、実際にKPIを測定するときは、証拠を具体的に特定して、日数を確認する必要がある。 例えば、閲覧すべき証拠として、購買規程、経理規程が考えられる。購買規程、経理規程に、仕入値引や仕入戻の処理方法が定められていることを確認する。不正を防ぐ職務分掌の定めの確認も忘れてはならない。 さらに、仕入値引や仕入値引根拠資料、返品事実根拠資料、購買管理情報システムから出力された仕入変更一覧表を閲覧し、仕入値引承諾日から変更入力日、あるいは返品物品受領日から変更入力日までの平均日数を確認する。 さて、読者の顧問先において、仕入値引、返品の発生日から、購買管理情報システムへの仕入金額変更データ入力日までの平均日数は何日になっただろうか。 *  *  * 次回は、「仕入・買掛債務管理」を構成する複数のKPIのうち、「支払」に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
#36(掲載号)
#島 紀彦
2013/09/19
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税理士・公認会計士事務所[ホームページ]再点検のポイント 【第5回】「管理会社を選ぶ決め手は?」

税理士・公認会計士事務所 [ホームページ]再点検のポイント 【第5回】 「管理会社を選ぶ決め手は?」   データライズ株式会社 代表取締役社長 公認会計士・税理士 河村 慎弥   前回、ホームページの管理会社に満足できないのであれば、管理会社を変更することができることをご説明しました。少し難しい話をしてしまいましたが、手続としては変更先の管理会社に任せてしまえば安心です。 というわけで今回は、任せて安心な管理会社の選び方です。 条件は3つ、「料金」と「技術力」、あとは「あなたのニーズ」です。  *  *  * まずは、「料金」です。 これには、毎月の維持費、更新料、さらに制作料も関係することがあります。毎月の「維持費」と「更新料」についてはすでにお話しました。新たな管理会社を調べる際には、これらについて、少なくとも明確な料金を開示していることが条件です。 その上で、金額的に納得できる業者を選びましょう。 次に、「新規の制作料」です。移管に制作料が関係するの?と驚かれるかもしれません。次回お話する内容なのですが、CMS(第3回参照)や著作権の問題で、どうしても移管できず、新しい業者で、全面的もしくは部分的に、新たに制作し直すしかない場合があります。そしてこの場合には、制作料も関係してきてしまうのです。全面的に制作し直すとなると、その業者の新規制作料が必要となります。   *  *  * 次に、「技術力」です。 ホームページの管理は、簡単なホームページであれば、ちょっと知識のある素人にもできます。制作は外注し、管理は素人レベルの社員に任せている、そんな技術力の低い会社がホームページの制作管理を受注している場合もあります。 それでも、トラブルが発生しなければ問題ないといえるかもしれません。また、そのような会社が、あなたの事務所に常に出入りしている業者である場合には、ホームページに関する様々な要望を話しやすいという利点もあります。 しかし、そのような、「技術力の低さを補う利点」が見当たらない場合には、技術力の低い業者よりも高い業者を選んだ方が得策です。それは、トラブルが発生した場合の対処や、今後ホームページを発展させていく場合のサポートが円滑に行われる可能性が高いからです。 そこで、技術力の高い業者をどうやって選ぶか、ですが、方法としては、ホームページに関する疑問点を何でも聞いてみてください。 制作に関することでも、管理に関することでも、移管に関する手続でも構いません。専門用語で煙に巻くことなく、あなたにわかるように、明確に答えてくれる業者こそが、技術力の高い業者です。 これは、逆の立場で考えるとわかりやすいと思います。 税理士や会計士の方々が、クライアント様から税務・会計の質問をされた場合に、自分が詳しい分野の質問の場合には、即座に相手にわかりやすく説明できますが、自分があまり詳しくない分野の質問の場合には、そうもいかないですよね。   *  *  * 最後は、「あなたのニーズ」です。 これは、事務所として「どのような目的でホームページを公開しているのか」ということに関わります。これによって、前述の料金の安さや技術力の高さをどの程度求めるかも決まってきますし、その他にどのようなサービスを求めるのかも決まってきます。 この連載の第1回の冒頭にも書きましたが、紹介の見込み客が見てくれて住所や電話番号を確認してくれればそれでよいということなら、住所や電話番号が記載されたホームページを公開しておくだけですから、技術力もそれほど必要ないでしょう。そうすると、料金の安い業者を選択すればよいということになります。 これに対し、ある程度の新規顧客の獲得を目指したいということになると、ホームページの作り方やSEO対策などに詳しい業者が選定対象となってきます。 新規顧客の獲得のためのホームページの制作管理をうたって、ある程度のノウハウを公開している業者はいくつもありますが、一般に料金は高めです。料金とサービスを比較して、納得のいく業者を選択する必要があります。  *  *  * なお、この連載では、顧客獲得のためのホームページの制作管理や広告手段について、後日稿を改めて具体的に書かせていただきます。 (了)
#36(掲載号)
#河村 慎弥
2013/09/19
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《速報解説》 「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関する PT研究報告(中間とりまとめ)」の解説

《速報解説》 「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関する PT研究報告(中間とりまとめ)」の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年9月6日、内閣府 民間資金等活用事業推進室は「公共施設等運営権に係る会計処理方法に関するPT研究報告(中間とりまとめ)」を公表した。 平成23年改正「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)」(「PFI法」と呼称される)により、公共施設等運営権(以下「運営権」という)制度が規定されている。 当該制度については、空港に係る公共施設等運営事業(以下「運営事業」という)が近々に具体化されることが見込まれている。 PT研究報告は、現時点で想定される範囲内の空港における運営事業のスキームを前提に、会計処理方法を可能な範囲内で例示するものである。 ただし、PT研究報告は、運営事業に係る円滑な会計実務の実施に向けた研究であり、実務上の指針として位置付けるものではなく、実務を拘束するものではないと述べられている。   Ⅱ 運営権制度のスキーム概要 運営権の制度は、利用料金の徴収を行う公共施設等について、当該公共施設等の所有権を公共主体が有したまま、当該公共施設等を運営して利用料金を収受する(収益を得る)権利を民間事業者に設定するスキームである。 運営権は財産権(みなし物権)として認められ、その譲渡、抵当権の設定、税法上の減価償却が可能とされている。 PT研究報告では次のスキーム図が示されている。 (公共施設等運営権に係る会計処理方法に関するPT研究報告(中間とりまとめ))より   Ⅲ 会計処理の内容 1 運営権対価の会計処理方法 運営権者は、運営権設定時に無形固定資産に計上し、運営事業の事業期間にわたり減価償却過程を経て費用認識することが考えられる。 管理者等は、「繰延受取運営権対価」等の長期前受収益として繰り延べて、運営権の存続期間にわたり、時の経過に基づき収益認識することが合理的であると考えられる。 2 運営権者による第三者への転貸を前提とした管理者等と運営権者との賃貸借契約のケース 運営権者が運営事業の一環として、管理者等の所有する施設等の一部を第三者へ転貸するために締結する管理者等との賃貸借契約等における賃料等相当分については、①運営権対価に包含されている場合には運営権に含まれるものとして取り扱い、②当該賃料等が別途支払われる場合には基本的には通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理が適用されることが考えられる。 3 運営権者の負担により施設等を新設するケース 新たな運営権が設定されると考えられることから、運営権者は新設にかかる正味の負担金額を運営権の取得価額として計上することが考えられる。 4 運営権者の負担により施設等を更新するケース 原状回復を目的とした更新(収益的支出)は費用処理、使用可能期間の延長・価値の向上を伴う更新(資本的支出)は、運営権(無形固定資産)として資産計上し、運営事業の残存期間にわたって減価償却することが考えられる。 5 運営権者の負担により災害復旧を行うケース 原則として、運営権設定の基礎となっている施設等が災害等に伴って受けた損害の度合いに応じて、運営権の簿価を切下げ、原状回復のために要した支出額を運営権の簿価に加えることが考えられる。 (了)
#35(掲載号)
#阿部 光成
2013/09/19
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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第5回】「ホステス報酬事件(その2)」~ホステスは事業所得者か?~

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第5回】 「ホステス報酬事件(その2)」 ~ホステスは事業所得者か?~   国士舘大学法学部教授・法学博士 酒井 克彦   1 最高裁昭和56年判決 ここでは、ホステス報酬の所得区分を考えてみたい。すなわち、「給与所得」に該当するのか「事業所得」に該当するのかである。 このことを検討するに当たっては、弁護士顧問料事件最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)が参考になる。同判決は、事業所得については独立性要件によって説明し、給与所得については従属性要件によって説明している。 すなわち、最高裁昭和56年4月24日判決は、 とする。この事業所得の要件の部分を「独立性要件」といい、給与所得の要件の部分を「従属性要件」と呼ぶことが多い。   2 独立性要件――事業所得該当性 事業所得と給与所得を画するメルクマールの一つに、独立性要件がある。最高裁昭和56年判決がいうように、自己の危険と計算において独立して営まれるような業務から生じた所得は事業所得に該当するというわけである。 いわゆる親会社ストック・オプション訴訟最高裁平成17年1月25日第三小法廷判決(民集59巻1号64頁)は、「本件権利行使益は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価として給付されたものとして、所得税法28条1項所定の給与所得に当たる」と判示しているが、ここにいう「非独立的」とは上記の独立性を有しない所得であるという意味であり、給与所得該当性が独立性のない所得という観点から論じられた珍しい判断でもあった。   3 従属性要件――給与所得該当性 最高裁昭和56年判決は、前述の引用部分の後で、さらに、なお書きにおいて、「とりわけ給与所得者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束」を受けたものを給与所得というとしている。 素直に理解すれば、この空間的、時間的な拘束とは、給与支給者と給与受給者との関係を指していると理解することができそうである。しかしながら、そのように理解すると、前段で給与支給者と給与受給者との関係について、「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき」としているのであるから、改めて給与支給者と給与受給者との関係を論じる必要はないように思われる。 そこで、この疑問点について考えたい。 判決によれば、給与支給者と給与受給者との関係は「雇用契約」という法律関係がある場合のみならず、「これに類する原因」のある関係をも含むものとしているのであるから、その判断は難しいところである。そこで、前段では単に「これに類する原因」と説示するにとどめ、これを明らかにするために、判決は、なお書きにおいて、「何らかの空間的、時間的な拘束」を受ける関係であるかどうかが重要であると説明したのではないかと思われる。 イ 雇用契約に限定しない解釈 ロ 使用者の指揮命令に限定しない解釈 すなわち、雇用契約がないと指揮命令関係を観念できないが、その場合であっても、指揮命令まではいかないとしても、空間的ないし時間的な拘束があれば(その場合には継続的ないし断続的な労務の提供が要求されるが)、給与所得に該当し得ることを最高裁昭和56年判決は明らかにしたものである。この点は、同最高裁判決が、必ずしも雇用契約のみにこだわっているわけではないという態度を示していることの帰結の一つともいえよう。 すると、空間的ないし時間的拘束の有無は、使用者の指揮命令に服していない労務提供関係下においては、重要な要件となると解することができる。 ハ 給与所得該当性   4 小括 ホステス報酬が給与所得に当たるか事業所得に当たるかを考えた場合どうであろうか。 ①上記に示した独立性要件の観点からは、ホステスは自己の営業成績が直截的に報酬やホステスとしての地位に影響を及ぼす関係にあり、かようなリスク負担を自らが負っていること(自己の危険)、衣装代や交際費などはすべて自弁であること(自己の計算)からすれば、独立性要件を充足しているものと解される。 また、補充的に②従属性要件をみると、店とホステスとの関係は、雇用契約によるものでもそれに類するものでもなく、ホステスは指揮命令下にあるわけではない。もっとも、契約条件として店の各種のルールはあるが、それは労働条件ではなくあくまでも役務提供を行うに当たっての契約条件であるとみることができよう。一見すると指揮命令関係にこそないとしても、空間的・時間的拘束を受けているようにも思えるが、その拘束性は一般的な勤務関係における従業者に比して緩やかで、自由度の高いものであるといえよう。 このようなことから、ホステス報酬は一般に、事業所得に該当するケースが多いと思われる。 (続く)
#35(掲載号)
#酒井 克彦
2013/09/12

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