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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第3回】税率変更の問題点(2) 「レジスター等のシステム変更」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第3回】 税率変更の問題点(2) 「レジスター等のシステム変更」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 システムの変更について 現在使用しているレジスター等については、この税率変更に伴ってシステムの変更をしなければならない。 販売する商品等のバーコードラベルなどをバーコードスキャナで読み込んで集計するレジシステムの場合には、発行側のバーコードの情報変更と読取り側のレジシステムの情報変更の双方を行わなければならず、かなりの事務作業となるため、早急に対応策を検討しなければならない。 また、外部にシステム設計を依頼している場合には、システム設計会社側が各企業より同時に発注を受けることとなり、その構築に必要以上の時間がかかる可能性もあるので注意しなければならない。 さらにPOSレジシステムなどを採用している企業の場合には、販売管理システムや会計システムと連動しているケースも少なくないことから、システム変更につき多額のコストが発生することとなり、設備投資資金も踏まえて検討する必要がある。 レジシステムの変更においては、レシートや領収書の表示についても5%から8%又は10%に変更しなければならず、注意が必要である。 平成9年の税率変更の際には、本体価額を集計しその合計額に税率を乗じる「外税方式」の計算システムが主流であったため、税率のみを変更するだけで容易に集計システムや表示方法を変更することができた。 しかしながら、平成16年の総額表示義務規定により消費税を含めた「内税方式」により計算しなければならなくなったことで、1円単位の端数処理をどのように処理するのか、レシート等の表示について消費税額をどのように表記するのかといった問題が生じるため、事業者側でどのようなルールで処理するのかを選択した上で、レジシステムを変更しなければならない。 さらに、このレシート等の表示については、レジシステムを内税方式により計算し、1円未満の端数処理後の消費税額を明示しなければ旧消費税法施行規則22条1項の規定を適用することができないことから、この対応も含めて検討しなければならない(下記2参照)。 また、税率変更前に販売した商品等が税率変更後に返品された場合については、5%で返品処理をすることとなり、その対応をレジシステムで処理しなければならないことから注意が必要である。   2 旧消費税法施行規則22条の適用について 事業者が売上代金に係る決済上受領すべき金額について、本体価格とこれに係る消費税額等とを区分して領収している場合において、その消費税額等につき本体価格に税率を乗じて生じた1円未満の端数を処理しているときは、その端数処理後の消費税額等の合計額を基礎としてその課税期間中の課税標準額に対する消費税額を計算することが、消費税法施行規則22条1項の『課税標準額に対する消費税額の計算の特例』(下記具体例参照、以下「旧規則22条」という)の規定により認められていた。 この旧規則22条の規定は、総額表示義務規定により税込価格で計算することが前提となったため、税抜価格で表示されている場合の端数処理の問題は生じないということから、平成16年3月31日に廃止された。 しかしながら、当時において、税抜価格を前提とした外税方式により処理をしていた事業者が多いこと、税込価格を前提とした内税方式のレジシステム等に変更するために相当の時間を要することなどの理由により、以下のような3つの経過措置が設けられた。 上記の各経過措置を適用するためには、それぞれの経過措置に定める方法により1円未満の端数処理を行った後の消費税額等とその基礎となった税込価格又は税抜価格とを領収書又は請求書等において明示することが要件となっているため、そのためのレジシステムを構築することが必要となる。 ただし、実際の運用については、期限付きで認められていた【経過措置3】のように税抜価格に税率を乗じて計算するレジシステムを採用している事業者が未だに少なくないことから、今回の改正においてもこの【経過措置3】を認める方向で検討されている。 具体的には、『転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況(中間整理)』において「いまだに外税方式による税額計算をせざるを得ない業界に対しては、その事情を把握した上で、必要があれば『外税方式の端数処理の特例』を再び措置する方向で検討する。」としている(『消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)』にも明記されている)。 したがって、レジシステム等の変更については、上記の経過措置の規定を適用するかどうかも含めて検討する必要がある。   3 システムの運用について レジシステム等の変更については、税率が変更される施行日(平成26年4月1日)から稼働しなければならないが、その導入時期をいつにするのかも検討する必要がある。 24時間営業をしている事業者の場合には、変更したレジシステム等を導入した後でも施行日前に販売したものは旧税率により計算し、施行日の0時からは新税率により計算することとなる。 同様に、商品等のバーコードについてもそのラベルをいつ貼り替えるのか、あるいは新旧税率に対応できるラベルに変更するのかも含めて検討しなければならない。 また、このシステム等の変更についても、今回の税率変更が2段階であることから、8%と10%の両方を対応させるのか、それぞれに分けて対応させるのかといった点についても検討が必要である。特に回転率が悪い商品等を取り扱う事業者にとっては重要な項目となる。 さらに、現在の政府の検討事項である複数税率について、導入されることとなればシステム変更がより一層複雑になることから、今後の法改正にも注意しなければならない。 (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#島添 浩
2012/11/22
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 退職給付会計

改正「退職給付会計」の要点と実務上のポイント【第4回】「退職給付制度・年金資産運用の再検討」

改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第4回】 「退職給付制度・年金資産運用の再検討」   有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕   2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 前回は改正適用時の実務(財務諸表への影響)について述べたが、今回はそれらを踏まえ、退職給付制度や年金資産運用について再検討すべきポイントなど、いくつか検討ポイントを挙げてこれについて述べる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことをあらかじめお断りしておく。   本改正の財務諸表への影響 第1回でも述べたとおり、本改正によって損益計算書の取扱いに変更はない。「退職給付債務及び勤務費用の計算方法」の変更により、改正前基準と改正後基準で勤務費用の水準は変動することが予想される。また退職給付債務の計算方法が変更されることで、利息費用の水準は変動することが予想されるし、数理計算上の差異の発生の仕方も変わるので数理計算上の差異の費用処理額も変動することが見込まれる。 しかし「退職給付費用=勤務費用+利息費用-期待運用収益±数理計算上の差異の費用処理額±過去勤務費用の費用処理額」が損益計算書に計上されるという大枠が変更されるわけではない。 本改正によって大きく変わるのは、貸借対照表の「純資産の部」である。発生した数理計算上の差異は、(翌期からこれを費用処理する会計方針の企業では)その発生した期にはその他の包括利益を通じて、純資産の部のその他の包括利益累計額に「退職給付に係る調整累計額」として計上される。したがって数理計算上の差異の発生は貸借対照表の「純資産の部」を直接増減させることになる。 これによって「純資産の部」の変動が大きくなることが見込まれる。 なお数理計算上の差異は、年金資産から発生するものと退職給付債務から発生するものに分けられる。年金資産から発生する数理計算上の差異は、期待運用収益と実際の運用収益の差から生じる。また退職給付債務から発生する数理計算上の差異のうち金額的影響が大きいのは、割引率の変更によるものである。   退職給付制度の再検討 退職給付制度を再検討することによって何を期待するかは、企業の置かれている状況によって異なる。コスト削減すなわち退職給付費用の絶対額の削減を求める場合もあるだろうし、今般の会計基準改正を受けて数理計算上の差異の発生の抑制を追求する場合もあるだろう。あるいはその両方という場合も考えられる。 ただ留意しておきたいのは、コスト削減は従業員側から見れば給付削減に他ならないということである。 以下で退職給付制度を構成する要素(給付水準、支払方法、給付算定式、制度の枠組み)ごとに再検討のポイントを見ていく。 これらから退職給付制度の再検討の方向性は、 コスト削減を目指すのであれば、給付水準・支払方法を従業員の同意を得られる範囲で適正化する 数理計算上の差異の発生を抑制するのであれば、確定給付企業年金を確定拠出年金へ移行することを検討する、あるいはキャッシュバランスプランの導入を検討する などが考えられる。 確定拠出年金は2001年に日本で導入されて以来、何度かの拠出限度額の引上げや従業員による拠出(いわゆるマッチング拠出)の導入など着実に規制緩和が行われてきている。ただ60歳まで原則として引出しができないことや、拠出限度額の関係で(給付水準が比較的高い企業の場合は)退職給付をすべて移行できるとは限らないことから、退職給付制度をすべて確定拠出年金とするのではなく、他制度と併用するのが現実的かもしれない。   年金資産運用の再検討 前述のとおり、年金資産から発生する数理計算上の差異は、期待運用収益と実際の運用収益の差から生じる。数理計算上の差異の発生を抑制するためには、期待運用収益と実際の運用収益の差があまり生じないようなリスクのより低い資産運用に移行する必要があり、その結果、多くの場合は期待運用収益を引き下げざるを得ないだろう。 なお、退職給付制度を再検討して必要に応じこれを見直した場合、年金資産運用も再検討する必要があるだろう。従来型の年金ALMを通じてリスクのより低い資産運用に移行するだけでなく、LDI(Liability Driven Investment、年金債務に基づく投資)のような手法の採用も検討対象となるだろう。   その他の検討すべき事項 期末における退職給付債務や年金資産の金額は、これまで期末の財務諸表に反映されることはなかった(数理計算上の差異を翌期から費用処理する会計方針の会社の場合)。 本改正により連結財務諸表の貸借対照表上、未認識項目が廃止され退職給付債務と年金資産の差額がそのまま負債又は資産として計上されることとなるため、従来は主に開示のために入手していた期末における退職給付債務や年金資産の額を、よりタイムリーに入手する必要があるだろう。また年金資産については開示目的で株式・債券などの種類ごとの割合又は金額の入手が必要になる。 こういった情報は子会社の分に関しても同様に入手が必要となるので、その内容やスケジュールについて事前に関係者間での十分な擦合せが必要となろう。 (連載了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#堀田 晃裕
2012/11/22
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〔会計不正調査報告書を読む〕【第2回】コマニー中国事業・取引に関する不適切な処理「第三者調査委員会調査報告書」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第2回】 コマニー中国事業 取引に関する不適切な処理 「第三者調査委員会調査報告書」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】   【コマニー株式会社の概要】 コマニー株式会社(以下「コマニー」という)は石川県小松市に本店を置く、間仕切りの製造・販売会社で、年商27,673百万円、経常利益651百万円。国内に2社、中国に5社の連結対象子会社を有している(数字はいずれも2012年3月期)。名古屋証券取引所上場。   【報告書のポイント】 1 第三者調査委員会を設置するに至った端緒 2012年9月11日、証券取引等監視委員会による立入調査があり、格満林(南京)実業有限公司(以下「格満林」という)を含む中国子会社(以下「格満林グループ」という)における会計処理の妥当性及び平成23年8月に買収して子会社とした南京捷林格建材有限公司(以下「捷林格」という)と格満林との取引にかかる関連当事者取引の該当性、捷林格の子会社該当性の有無などが指摘された。   2 コマニーグループの中国における業務体制と会計監査 【図表1】事業系統と会計監査体制(有価証券報告書を簡略化して作成)   (1) 格満林の2009年12月期決算 格満林は、監査を担当していたKPMG南京事務所から、2009年12月期決算について、監査報告書を発行しない旨の通告を受けため、既に捷林格の監査を担当していた江蘇興瑞会計士事務所に監査を依頼、適正意見に相当する監査証明を得た。 中国では、監査証明が入手できない場合には、税務申告などができず、営業許可証が発行されないために事業停止となる危険性があったためである。 (2) あずさ監査法人による連結監査 あずさ監査法人は、格満林グループについては、連結売上高等に占める重要性が低いことを理由に、連結監査の中で分析手続等を行い、数年に一度の往査手続を実施、KPMGとはメールによる情報交換を行っていた。また、内部統制報告制度についても、重要性の観点から、評価の対象外としていた。 調査委員会は、こうしたあずさ監査法人の連結監査手続については、不適切な点は認められないと判断している。 なお、あずさ監査法人は、捷林格について、2011年8月のコマニーによる買収までは、連結対象であるという認識を有していない。   3 格満林グループの不適切な処理に対する監査上指摘事項とその検証 (1) KPMG南京事務所による指摘事項 KPMG南京事務所からは、長期滞留売掛金に対する貸倒引当金の設定不足、長期滞留在庫に対する引当金の設定不足など合計6項目にわたる指摘があった。 (2) 検証結果 調査委員会は、例えば、貸倒引当金の設定については、KPMG側が、滞留期間1年以上の売掛金には30%、2年以上の売掛金には50%、3年以上の売掛金には100%という設定を求めた(簡便法)のに対し、格満林グループ側は、個々の売掛金ごとに回収見込みを検討(個別法)して設定したものであり、妥当な処理と判断した。また、その他の指摘事項についても、格満林グループ側の処理は、概ね妥当な処理として認めており、不適切な会計処理には当たらないと判断した。   4 捷林格の子会社該当性及び関連当事者取引 (1) 捷林格の出資形態 【図表2】捷林格の出資形態 捷林格は、コマニーが中国市場における第2ブランド品(低価格品)の販売を模索する中で、格満林の副総経理Cが自らの経営する成光インターナショナル有限会社から20万USドルを出資させて設立したものであるが、この資金は、C副総経理がマンション購入資金と偽って、コマニーの社長から借り入れた2,500万円が原資であった。 (2) 子会社該当性 コマニーは、捷林格とは資本関係を有していないが、調査委員会は、C副総経理がコマニー又は格満林の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者(緊密な者)に該当し、C副総経理の有する議決権が過半数に達していることをもって、コマニー又は格満林が捷林格の議決権の過半数を有しているとみなして、設立当初より、捷林格はコマニー又は格満林の子会社に該当すると判断した。 前述したように、この判断は、あずさ監査法人の見解とは異なっている。 (3) 関連当事者取引 C副総経理が所有する捷林格との取引が関連当事者取引に該当するかについて、調査委員会は、Cは格満林の副総経理であってコマニーの役員ではなく、格満林事態も中核企業とは言えないことから、関連当事者には該当しないと判断した。 この判断は、あずさ監査法人の見解と一致するものである。   5 調査報告書の特徴 調査委員会の結論は、格満林グループの会計処理は適切であり、捷林格は、コマニー又は格満林の子会社に該当するとして、証券取引等監視委員会の指摘のうち、ひとつを認めたものとなった。しかし、捷林格を連結の対象とするか、非連結とした場合に同社との取引を関連当事者取引として開示するかは、その重要性を基準として判断すべきであるとしただけで、過年度の有価証券報告書等の訂正までは求めていない。 一方、監査に当たった会計士については、本件で問題となった事象に対し、「コマニー担当の会計士の対応や判断、発言には疑問が残ると言わざるを得ない」と断言し、改善点として、監査法人本部による積極的な関与が有効であるという、かなり踏み込んだ意見を表明している。 裏を返せば、会計士の対応が適時・適切に行われていれば、証券取引等監視委員会から指摘を受けて、第三者委員会を設置するまでの問題にはならなかったのではないかという、第三者委員の見解が込められているように感じられた。 第三者調査委員会の報告を受けて、コマニー株式会社は11月9日、「平成25年3月期第2四半期報告書の提出遅延及び当社株式の管理銘柄(確認中)への指定見込みに関するお知らせ」という適時開示を行い、この中で、捷林格を連結子会社として過去5年間にわたる過年度修正を行うことを発表している。 (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#米澤 勝
2012/11/22
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

外国人労働者の雇用と在留管理制度について【第1回】「外国人雇用をめぐる主な注意点」

外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第1回】 「外国人雇用をめぐる主な注意点」   KPMG BRM株式会社 マネージャー 申請取次行政書士 佐々木 仁   1 はじめに 昨今のグローバル化の波は、大企業だけでなく、中規模あるいは零細な企業の雇用の現場にも押し寄せてきている。有用な人材は国の枠を超え、就学や就職の場を海外に求めている。 将来的に生産拠点や市場を海外に、と考える企業であれば、相互の社会や文化に理解のある、あるいは日本に関心を持つ外国人労働者を雇用することは、当面のニーズに応えるだけでなく、将来にわたって、その企業の発展に大きな影響を及ぼすだろう。 そこで本稿では、今後も増え続けることが予想される外国人労働者の雇用に関して、日本の在留管理制度の観点から想定される問題点及び本年7月9日から新たに施行された在留管理制度について、概括的に述べることにする。   2 外国人を雇用する場合に想定される問題点 外国人を雇用した場合、企業はどのようなことに気をつけなければならないか。 初めから既にスキルや知識を持っている外国人を呼び寄せて雇用する場合も多いが、ここでは参考例として、日本の大学を卒業する留学生を雇用するケースを取り上げてみたい。 日本の社会や文化にある程度慣れており、また多くの場合、語学にも堪能なことから、企業が卒業予定の留学生を雇用するケースが増えている。 日本に来る多くの留学生は優秀な人材が多く、将来的に大いに活躍が期待されるが、他の日本人労働者と大きく異なる点として、日本に居住し活動するための適切な「在留資格」への変更、または取得手続が必要なことを忘れてはならない。 留学生は「留学」の在留資格を得て来日している。そのため、例えば授業の合間にアルバイトとして働く場合でも、入国管理局から「資格外活動」の許可を事前に得る必要があり、かつ、労働時間に上限が定められている(原則週28時間以内、長期休暇期間除く)。 また、当初留学生としての在留資格をもって在留していても、大学を卒業し留学生でなくなれば、日本に居続けるためには、期限内に在留資格を変更しなければならない。 あるいは在留期限が近日中に迫り在留資格を変更するだけの残存期間がなければ、一旦本国に帰国したうえで、日本にいる親族や代理人等に日本の入国管理局から「在留資格認定証明書」を取ってもらい、その証明書を外国人本人が本国の日本大使館に持参して査証(「ビザ」)を取得し、日本に再度上陸する必要がある。 企業が外国人を雇用するときは、通常、本人の資質や印象に注目するため、本人が保有している在留資格の内容について注意が払われることは少ない。ところが、もしその在留資格が適切なものでなければ、予定したとおりその外国人が働くことができないこともあり得るので、十分注意していただきたい。 在留資格に基づかない、いわゆる「ビザなし就労」は不法在留であり、露見すると本人が強制退去命令を受けるほか、コンプライアンス上、雇い入れた企業にも多大な損害が起きる恐れがある。 なお、在留資格の変更や在留資格認定証明書の取得には申請から取得まで数週間かかり、さらに本国でビザを取得して来日するまでは就労することができない。よって、在留資格の変更申請や在留資格認定証明書の交付申請のタイミングが遅れると、当初予定していた雇用の開始日に間に合わなくなる可能性も出てくる。 このように、留学生を卒業後雇用する場合は、現在の在留資格の有無及び有効期限の確認と、有効な在留資格の取得または変更までに必要な時間を見越した、ある程度の時間的な余裕を忘れないようにしたい。雇用が決まったら、できるだけ早く手続することが望ましい。   3 在留資格について そこで、これまでに何度も出てきた「在留資格」とは何であろうか。 「在留資格」とは、外国人が日本に在留する間に「出入国管理及び難民認定法(入管法)」で定められたカテゴリーに基づいて活動を行うことができる資格である。 入管法に定められた活動以外は日本国内で行うことが認められておらず、観光目的等の短期滞在(在留期間90日以内)でビザの取得が免除される場合を除き、適切な在留資格に基づいた入国管理の手続を経ることなく日本に在留することはできない。 一般的に外国人が日本に3ヶ月以上在留する、中・長期在留者として入国するための手続は次のとおりである。 在留資格に基づき、該当する外国人(申請人)は、親族や代理人等に依頼して日本国内の入国管理局で「在留資格認定証明書」を取ってもらい、申請人がいる本国に送付してもらう。 申請人本人が「在留資格認定証明書」を持参して本国の日本大使館に出向き、査証(ビザ)を取得する(在留資格認定証明書の有効期間(上陸申請まで):交付後3ヶ月以内)。 入国する際に、査証が貼付されたパスポートと「在留資格認定証明書」を入国審査官に提示する。 日本に居住する外国人に認められている在留資格は、「特別永住者」を除き、就労可能資格及び就労不能資格と合わせて合計27種類にわたるが、そのうち就労目的に来日する外国人に該当する在留資格で、一般的なものは下記の4種類である。 各資格の活動内容、及び認定されるための最低限の基準は、以下のとおりである。 ① 企業内転勤 ② 人文知識・国際業務 ③ 技術 ④ 投資・経営 上記に記載されたもの以外にも、各資格にそれぞれ定められた基準があるので、雇用が予定されている外国人がどの在留資格に該当するか、また必要な手続についての詳細は、専門家にご相談いただきたい。 次回は、新たな在留管理制度について解説する。 (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#佐々木 仁
2012/11/22
労務・法務・経営 法務

福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(2)

福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(2)   弁護士 中西 和幸   1 はじめに 前回は、魚市場の株主代表訴訟(福岡地裁、高裁では役員が敗訴し、上告中である)の概要を説明した。 今回は、地裁、高裁判決から役員として、「何をしなければならないか」について解説したい。 なお、本稿は、当該裁判に対する論評や被告取締役の責任を追及する目的を有するものではないことを了承されたい。また、略称は前回使用したものはそのまま用いている。   2 「しなかった」ことの責任 本件で忠実義務・善管注意義務違反(以下「注意義務違反」という)が認められた事実は、 簿外取引に対する監視・監督義務のうち、遅くとも平成14年11月18日に公認会計士からの指摘を受けた時点で具体的かつ詳細な調査を行わなかったこと 簿外取引発覚後の連帯保証契約 簿外取引発覚後の当初融資 である。 1については、直接「しなかった」ことの責任が問われているが、2、3も、実質的には「しなかった」ことの責任が問われているので、順に解説する。 (1) 「不作為」とは 「不作為」とは、一定の行為を行う義務がある者が当該義務があるにもかかわらず行為が必要な時期に当該義務を履行しないことをいう。この不作為によっても、取締役や監査役としての法令違反や注意義務違反は発生する。 例えば、取締役会設置会社の業務執行取締役は、取締役会に対し3ヶ月に1回以上自己の職務の執行の状況を報告しなければならない(会社法363条2項)のであり、かかる報告をしない取締役は、何もしていなくとも(何もしていないからこそ)、報告がなかったことにより会社に損害が発生すれば当該条項違反の責任を問われることになる。 例えば、不良品の発生について現場から報告を受けていたにもかかわらず取締役会に報告しなかったことにより会社が製品の回収等の対策を行わず、その結果、当該製品の利用者が負傷し、会社が損害賠償を行った場合が考えられる。 (2) 役員の「作為義務」を考える(役職員をどこまで信頼するか) それでは、役員が本判決で問題となった監視義務につき具体的な作為義務を負う、つまり監視義務の一環として調査義務まで負うのは、どの段階か。 この点、取締役が現場の従業員が行っているすべての行為について、監視義務があるとして疑いの目を向けて調査をする義務があるとまでは、本判決では述べられていない。確かに、日常業務については、役職員間の相互の信頼の下に行われており、実務上はかかる信頼関係を前提として組織・体制を築いているのであるから、特別な事情が発生していない平時には役職員のすべての行為を逐一監視する義務はなく、更に調査義務が発生しているとは言えない。 逆に、他の役職員との相互の信頼関係を疑わせる事情があったときは、監視義務が厳格化し、役員に事実関係の調査義務が発生する、すなわち「作為義務」が発生すると考えることが適切ではなかろうか。 (3) 平時と有事 それでは、他の役職員との信頼関係を前提としてよい時期を「平時」とし、信頼関係が崩れている時期を「有事」とすると、いかなる事態を取締役が認識した場合に、「有事」であることを前提とした作為義務が発生するといえるであろうか。 本判決では、会計士から指摘を受けた時点で具体的かつ詳細な調査を行わなかった不作為について、責任が問われている。ただし、詳しく読むと、判決が指摘した「有事」を疑わせる事情は、単なる会計士の指摘だけではなく、(ア)Y1らが、フク社役員の立場として、不良在庫の発生及び大幅な短期借入金の増加を認識していたこと(イ)魚市場の取締役として、在庫の増加が問題とされ常勤取締役会において在庫管理状況の徹底チェックと長期在庫の処分方針が決められたにもかかわらず在庫が減少せず大幅に増加していることを認識していたことを、調査を行うべき作為義務の根拠としているのである。 以上のように、本判決は、「有事」であることについて複数の通常でない状況を認識していること、それも、親子会社の役員を兼任しているY1らについて、親会社役員と子会社役員のそれぞれの立場での認識を区別して、根拠としている。 したがって、役員としては、それぞれの立場に立って、通常の業務である「平時」と異なる事実を認識したときは、「有事」である可能性があるものとして、監視義務に基づき様々な情報を集めて適正に対応する義務があるということになろう(※)。もっとも、どのような事実が「平時」と異なる事実であるかということについては、会社毎のリスクに応じて考えられるものであり、残念ながらどの会社にも共通するような「これ」といったものはない。したがって、役員としては、こうしたそのリスク感覚を日々磨き上げ、情報を収集して対応することになる。 (※)この点、「重大な企業不祥事の疑いを感知した際の監査役等の対応に関する提言」(平成24年9月27日・日本監査役協会)が参考になろう。 (4) 子会社情報の入手 会社役員が自社の情報、とりわけ不正、事故等の不利益な情報を入手することは容易ではない。不正や事故に関わった役職員は、自らの保身のために隠匿する動機があるからである。そこで、役員として、職制の整備、内部監査、内部通報制度等の内部統制体制(システム)を構築・運用・監査し、その中で情報を取得することになる。子会社の情報を入手するためには、子会社も含めた企業集団全体で内部統制体制(システム)を構築・運用し、また監査しなければならない。 ただし、企業集団全体で体制を構築・運用したとしても、そこで入手できた情報を生かすのは役員次第ということを念頭に置かなければならない。   3 まとめ 以上をまとめると、役員としては、 をすればよい、という、実は当たり前のことを本判決が述べているにすぎないことがわかる。ただ、「当たり前」のことがなかなかできないものが実務であり、それ故、役員の業務は難しいとも言える。 (次回につづく) (参考文献:金融商事判例1367号41頁、1399号24頁、旬刊商事法務1970号15頁) (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#中西 和幸
2012/11/22
労務・法務・経営 経営

事例で学ぶ内部統制【第3回】「限られた人員で経営者評価の独立性をいかにして保つか?」

事例で学ぶ内部統制 【第3回】 「限られた人員で 経営者評価の独立性を いかにして保つか?」   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、内部統制の評価において主要な役割を担う監査部のあり方に目を向ける。 監査部は、企業の中にいながら、経営者の代理人として社内の内部統制の有効性を評価する。そのため、この経営者評価がお手盛りになることを防ぐため、監査部は評価される部門から独立していることが求められる。 ところが、企業の実務家による交流会で意見交換したところ、現場では限られた人員で監査部を組成するため、経営者評価の独立性を保つことに苦心している実情が浮かび上がった。 それでは、限られた人員で、どのように経営者評価の独立性を保っているのか。現場が抱える課題と解決のための創意工夫を紹介しよう。   内部統制の経営者評価をめぐる3つのパターン 議論の冒頭、筆者(株式会社スタンダード機構)より、 「内部統制の評価者は、経営者に代わって、社内で運用されているコントロールが財務報告の信頼性の確保に有効であることを評価するわけであるから、そのコントロールを運用する業務に関与できないこととなる。 例えば、売上計上プロセスで、売上伝票と証憑を照合するコントロールが運用されている場合、評価に携わる監査部の皆さまは、日々の照合業務や伝票への査閲印などという業務を担っていないだろう。これを“経営者評価の独立性”と呼ぶ。 では、実際に皆さまの会社では、どの程度の独立性が確保されておられるのか」 と切り出したところ、経営者評価の体制は3つのパターンに分かれた。 【パターン1】 監査部による第三者評価 参加企業Aは、「独立性を確保するため、すべてのコントロールの評価で、評価される部門から独立した第三者による評価を徹底した。 例えば、決算・財務報告プロセスについては、子会社監査役、財務管理部門経験者などからなる12名の評価チームを編成し、その他業務プロセスについては、内部統制部門からなる23名の評価チームを編成し、35名を統括するチームリーダーを監査部長とした。 この人数は多いと思われるかもしれないが、わが社の場合、過去に現業部門による不祥事が発生したためだ」(プラント会社)と、第三者評価を通じた監査部によるけん制が不可欠と判断した経緯を話した。 参加企業Bは、「当初は、評価される各部門に内部統制責任者を設置し、各部門で自己評価を実施し、その結果を本社に集める方式を考えた。 しかし、やってみたところ、各部門による評価のスタンダードがなく、評価結果がバラバラなため、本社側の内部統制担当者が評価レベルを揃えるのに苦労した。 そこで、評価の独立性を確保するために、本社にある独立した監査部の中に評価部署を設置し、すべての評価は監査部が行うこととした」(精密機器メーカー)と、評価の品質を保つためにも独立した監査部による第三者評価が有効であると指摘した。 【パターン2】 コントロールオーナーによるタスキがけ評価(クロスチェック) 参加企業Cは、「わが社の監査部は2名だけなので、すべてのコントロールの評価を監査部が行うことは不可能だった。 そこで、約30%のコントロールは監査部が評価に直接関与せず、現業部門が評価することとした。 その場合、評価を担う現業部門は、業務プロセスで日々運用を担当するコントロールオーナーが関与しない業務プロセスを担う者にし、相互に相手の業務プロセスのコントロールをタスキがけで評価することとした」(医療機器メーカー)と、監査部の人員の制約により、現業部門に属するコントロールオーナーによるクロスチェックを許容した実情を話した。 参加企業Dも、「恥ずかしながら、わが社の監査部も増員が認められない状況だったので、内部統制報告制度が始まる当初から監査部にすべてのコントロールの経営者評価を任せるという発想はなかった。 そこで、監査法人と相談し、管理部門の部課長から任命された者で構成される財務統制委員会を作って、すべてのコントロールの評価を実施することとした。 この財務統制委員会が経営者に代わって、評価範囲や体制やスケジュールなどの評価計画、評価、報告ができると社内規程で定めて権威づけをした。なお、財務統制委員会による経営者評価の結果に監査法人が依拠できるようにするため、自分が所属する部門の評価をしないようにした」(商社)と、監査法人との協議を経てクロスチェックに至った経緯を強調した。 【パターン3】 コントロールオーナーによる自己評価(セルフチェック) 参加企業Eは、「全体の約90%のコントロールは監査部による第三者評価だが、約10%に当たる海外部門の一部の経理プロセスのコントロールは、経理部門でコントロールを担うコントロールオーナーによる自己評価を行っている。 ただし、その自己評価結果を独立評価部署である監査部又は内部統制推進部が閲覧して評価の実施状況を確認している」(建設会社)と、海外の経理プロセスの評価に自己評価を導入していることを話した。 前出の参加企業Cは、「コントロールオーナーによるセルフチェックは、70%のコントロールの評価に導入した。結局、全体の30%はクロスチェック、70%はセルフチェックだ。 そして、監査部が評価の実施状況を後から確認するのは、セルフチェック部分の70%とクロスチェック部分の一部に相当する10%の合計80%のコントロールとなっている。 監査部の人員が制約され、作業負荷を考えると、これが最適解だった」と、自己評価を積極的に導入した実情を話した。   決算・財務報告プロセスの評価の独立性 多くの参加企業から相談が寄せられたのは、経理部が担う決算・財務報告プロセスの評価で独立性をどうやって保つかという問題であった。 参加企業Fは、「決算・財務報告プロセスの評価には会計知識が必要だが、わが社の監査部は、独立性を確保するあまり、経理・財務部門以外の組織が評価しているため、評価が表面的で形式的なものになりがちだ。 経理・財務部との定期的な勉強会を開催しているが、専門性が高く監査部担当者の知識が追いつかない。 実際の業務を理解して、有効な評価を行うために、他社ではどのような工夫をされているのか。逆に、経理・財務部門内の組織が評価に当たっている場合、独立性をどのように確保されているのか」(情報通信会社)と、問題を投げかけた。 これに対して、参加企業Gは、「経理部経験のある会計知識に明るいベテランを監査部に異動させ、決算・財務報告プロセスの評価をして、独立性と専門性を保った」(部品メーカー)と、人事異動で対応したと話した。 参加企業Hは、「わが社では、経理部員を監査部に異動させるだけの余裕がなかった。かといって、経理未経験者では、経理部のリスク評価ができない。 そこで、同じ経理部の中で、決算・財務報告プロセスを経験していた者が現在の起票を担当しないことを条件にクロスチェックすることとした。 評価者は、人事上は経理部員だが、経理部内の一切の経理伝票を起票しないため、内部統制報告制度においては、第三者として位置づけている」(建設会社)と、職務分離を図ることで対応していた。 次回は、監査部員1名当たりのコントロール数を比較検証する。 (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#島 紀彦
2012/11/22
読み物 連載

香港と日系企業をめぐる最新事情① “Exciting Hong Kong”

香港と日系企業をめぐる最新事情① “Exciting Hong Kong”   アースタックス税理士法人 アースタックス・ビジネスコンサルティング(香港)有限公司 税理士 白水 幹範   〈はじめに〉 とある休日。朝食はいつもの納豆にお味噌汁、家族で街へ外出して、まずはユニクロでフリースを購入、お昼はみんなで回転寿司へ、午後は本屋で週刊誌を、その後ジャスコで晩酌用の焼酎いいちこを購入、夜は友達とワタミで軽く一杯、シメには一風堂のとんこつラーメン。 これ、もちろんすべて香港での話です。 香港の街中には、至るところに日本の物が溢れています。日本食材、日本の衣料品店、日本食レストラン、日本の雑誌、日本のアニメ、日本のリテールショップなど、香港において日本の文化は浸透しています。 香港といえば、観光・グルメ・ショッピングなどをすぐに連想しますが、一方で、金融・貿易・物流・サービスといった様々な産業において、世界中の企業からの資本を集める世界一の競争力をもった都市という一面を持っています。 翻って、今後は人口減少社会を迎える日本。 企業活動がますますグローバル化していくことは必然であり、海外進出は大企業だけに限った遠い話ではなく、身近な中小企業にとっても当たり前の時代がそこまで来ています。 ここでは、日系企業にとって大きな可能性を秘めている香港について、ご紹介させていただきます。   〈香港の概要〉 香港の正式名称は、中華人民共和国香港特別行政区(Hong Kong Special Administrative Region of the People’s Republic of China)といい、中国の南東部、広東省に位置しています。 香港島、大嶼山、九龍半島、そして中国本土に面している新界(262余りの島々を含む)からなります。面積は1,104平方キロメートル、人口は713.63万人(2012年中期現在、香港政府統計処)で、どちらも東京都の約半分強といったところです。 世界的に見ても香港は最も人口密度が高い地域で、香港全域では1平方キロメートル当たりの人口密度は6,580人、九龍地区では44,760人にも及びます(2012年6月末現在、香港政府統計処)。 この九龍地区にある旺角(モンコック)という町は、人口密度が一番高い町というギネス世界記録まで持っているそうです。平日でもお祭りのような雰囲気で、まさに眠らない街香港を象徴するかのように、深夜12時を過ぎても賑わっています。 とはいえ、香港の造成されている土地は全面積の25%も満たないくらいで、公園や自然保護区が40%ほどあるため、意外に思われるかもしれませんが、香港には自然を感じる場所も多いのです。   〈中国返還〉 長きにわたり英国統治下にあった香港は、1984年の英中共同宣言に基づき、1997年7月1日をもって中国に返還されました。 中国返還、そして香港特別行政区設立15周年を迎えた今年2012年7月1日には、ビクトリアハーバーでの花火などをはじめとするさまざまな祝賀イベントが開催されました。 返還後は、「香港特別行政区基本法」において定められている「一国二制度」(一つの国・中国で二つの制度が併存して実施されること)の原則に基づき、外交・国防を除き、香港は高度な自治権が認められました。返還後50年間は返還前の社会・経済制度などの維持が保証される、いわゆる一国二制度が適用されるとの約束が英中間で交わされたため、この制度は今でも順調に機能しています。 すなわち、自由な経済体制が引き続き保障され、規制等による政府のマーケットへの介入を極力排除した自由放任経済により、企業にビジネスの自由を保障しているのです。 また、英国統治下において制定された法制度が適用されており、公正なルールが運用されています。 中国や一部のアジア諸国では、法制度に基づく統治(法治主義)ではなく、権力者の裁量による統治(人治主義)が未だ残っており、外国企業がビジネスを行う場合のハードルを高くしていますが、香港においては、ビジネスにおける契約が当然に守られますし、法に基づかない政府の介入などがなく、極めて透明性の高いビジネス環境が整っています。 また、記憶に新しい2012年9月の尖閣諸島問題を原因とした反日デモ。香港のお隣の深センや広州でも、残念なことにデモが一部暴徒化し領事館や日本料理店への投石行為などがあり、改めて中国ビジネスの難しさを実感させられました。 一方、香港でも反日デモは行われましたが、中国本土のように過激な行動はみられず、秩序が保たれていました。同じ中国とはいえ、中国本土と香港とでは、その安全性も全く異なると感じさせられた一幕でした。   〈公用語〉 香港の公用語は、中国語と英語です。街中で最も広く用いられている言葉は中国語の方言の一つである広東語ですが、中国返還以降も英語教育は重視されており、ビジネスは英語で行うことができることも、香港において外国企業の参入を容易にしている要因の一つです。ストリート名・駅名・建物名などにも英国植民地であったことを感じさせる英語名がついていることがほとんどです。 たとえば、香港島のセントラル地区のWellington Streetは、広東語で威靈頓街(ウァイリントンガーイと発音、ガーイはストリートという意味)といいますが、その英語の発音に近い広東語を語呂合わせでつけられたストリートも多々あります。 最近では、中国経済との緊密化に伴い、中国語の標準語である普通語も普及してきており、若い世代では、英語、広東語、普通語の3言語を自由に操る人材も多くなっています。   〈潜在競争力ランキング〉 公益社団法人日本経済研究センター(JCER)では、潜在競争力を調査し、ランキングを作成しています。これは、世界50ヶ国と地域を対象として、今後10年間にどれだけ一人当たりGDP(国内総生産)を増加させるかを要因に、「国際化」「企業」「教育」「金融」「政府」「科学」「インフラストラクチャー(=社会資本)」「IT(情報技術)」の8つの項目をそれぞれに分析し、ランキング化したものです。 そのランキングによると香港は、2006年調査以来6年、連続総合首位を取っています。 ちなみに2011年調査の上位は、1位 香港、2位 シンガポール、3位 米国、そして日本は14位でした(東日本大震災前のデータを採用)。項目別にみると、香港は同年「国際化」と「金融」で1位、「企業」と「インフラ」で2位になっています。   〈香港の競争力の源泉〉 では、香港の競争力の源泉となっているものは、一体何なのでしょうか? ① 自由主義経済 政府の民間の経済活動に対する介入はできるだけ避けて、民間の自由に任せるという基本方針が貫かれています。 ② 低税率と簡素な税制 事業所得税16.5%、給与所得税は最高17%(2012/13課税年度)、配当金・キャピタルゲインは非課税、相続税・贈与税・消費税はなし、などのように低税率で、かつ、税金の種類も少なく非常にシンプルな税法体系となっています。 ③ 外資企業の進出の容易性 内資・外資企業を差別・制限するような規制がほとんどなく、また、企業設立の手続は極めて簡単に短期間で行えます。 ④ 貿易の自由度 関税がなく(タバコなど一部の品目には物品税あり)、通関の手続も迅速で効率的です。 また、外貨規制がなく、海外送金も自由に行うことができます。香港ドルは米ドルにペッグしており、為替相場も安定しています。 ⑤ 中国のゲートウェイ 今や世界第2位のGDPを誇る中国へのゲートウェイとしての機能を有します。 中国との経済緊密化協定(CEPA)の締結により、ますます活発化する中国との経済活動において、香港は中国市場進出を見据えたショーケース・テストマーケティングとしての役割を担っています。 ⑥ 地理的優位性 アジアの主要都市へ4時間以内のフライトでアクセス可能、さらに5時間のフライト圏内に世界の人口の半数が居住しています。また、日本との時差はわずか1時間です。 ⑦ 国際金融センター 全世界の主要な金融機関が集積しており、多くの金融機関のアジアの地域統括本部が置かれ、世界最高水準の金融サービスを享受できます。 ⑧ 人材インフラの充実 弁護士、会計士などの優秀な人材が豊富で、かつ、英語、中国語(広東語、普通語)を自由に操る人材を容易に雇用することができます。 次回は、香港へ進出を果たした日系企業の最新情報についてご紹介します。 (了)
#0 創刊準備4号(掲載号)
#白水 幹範
2012/11/22
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《速報解説》 平成23事務年度における相続税の調査の状況について

 《速報解説》 平成23事務年度における 相続税の調査の状況について 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良   11月13日に国税庁から「平成23事務年度における相続税の調査の状況について」が公表された。また、東京国税局、名古屋国税局、大阪国税局からも同様の資料が公表された(他の国税局については、平成24年11月17日執筆時点では公表されていない)。 本稿では、この資料から読み取れる相続税の調査の動向について分析を行う。 本公表資料は、平成23事務年度(平成23年7月から平成24年6月)に実施された相続税の調査の状況をまとめたものであり、平成21年中及び平成22年中に発生した相続が主に対象であるとされている。 この期間における相続税の税制改正点として大きなものは、小規模宅地特例の改正(平成22年4月1日以降に生じた相続から適用)がある。また、相続税の基礎控除の引下げが、改正案として税制改正大綱に記載されたのが平成22年12月である。 平成23事務年度における相続税の調査の状況のポイントをまとめると、以下のとおりである。 実施調査件数 13,787件 申告漏れ等の非違件数 11,159件 非違割合 80.9 % 重加算税賦課件数 1,569件 重加算税賦課割合 14.1 % 申告漏れ課税価格 3,993億円 実地調査1件当たり申告漏れ課税価格 2,896万円 実地調査1件当たり追徴税額 549万円   平成22年分の相続税申告(相続税額があるもの)件数は49,733件であるため、概算としては約3割(*)の相続税申告が実地調査の対象となり、実地調査対象となったものは約8割の可能性で申告漏れが発見されていることになる。平成22事務年度の相続税の調査の状況と大きな傾向は変わっていないが、この公表資料から次の2点を読み取ることができる。 (*) 分子である実地調査件数13,787件は、平成21、22年中に発生した相続が主に対象となっている一方、分母である相続税申告件数(相続税額があるもの)49,733件は、平成22年中に発生した相続が対象となっているため、分母と分子の期間が一致していない。ただし、分母・分子の期間が一致した数値は公表資料からは把握できないため、概算として本件のように計算を行っている。   1 海外資産案件事案に係る調査実績 海外資産案件事案に係る実施調査件数は、平成22事務年度695件、平成23事務年度741件となっている。過去の公表資料を調べると、平成19事務年度407件、平成20事務年度475件、平成21事務年度531件と、この分野の実地調査に課税当局を重視している傾向が読み取れる。 非違1件当たりの申告漏れ課税価格は平成22事務年度5,047万円、平成23事務年度6,478万円となっており、数千万円レベルの高額な海外資産を対象として実地調査が行われていると推測される。 2 無申告案件に係る調査実績 無申告案件に係る調査件数は、平成22事務年度1,050件、平成23事務年度1,409件となっている。過去の公表資料を調べると、平成19事務年度504件、平成20事務年度555件、平成21事務年度626件となっている。 特に平成22事務年度、平成23事務年度は無申告事案に係る実地調査件数が大きく増加しており、将来の税制改正において相続税の基礎控除引下げが行われることが予想されることと併せて考えると、無申告事案に係る実地調査につき、課税当局は重視していくと推測される。 なお、無申告案件に係る、実施調査1件当たりの申告漏れ課税価格は、平成22事務年度10,052万円、平成23事務年度8,609万円となっており、課税価格1億円程度の、相続税申告案件としては相対的に小規模な案件が対象となっていると推測される。 (了)   【参考】拙著『知っておきたい やっておきたい 相続のキホンと対策』清文社(2012年)
#0 創刊準備3号(掲載号)
#根岸 二良
2012/11/19
お知らせ 法人税 消費税・地方消費税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」について

《速報解説》 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」について   公認会計士・税理士 新名 貴則   国税庁は平成24年11月8日、「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」をホームページ上で公開した。 これは、国税庁が平成23事務年度(平成23年7月~平成24年6月)に実施した法人税等の税務調査の結果の概要をまとめたものである。またこの中で、税務調査において特に重点を置いた項目とその結果についてまとめてあるので、これを読むことで国税庁の調査方針とその成果が見えてくる。   1 重点調査ポイント   2 実務において注意を要するポイント 無申告法人や無所得申告法人に対する調査件数は前年比で増加しているが、企業業績の低迷のためか追徴税額自体は前年比で減少している。 これに対し、海外取引法人に対する調査における申告漏れ所得の発見金額は大幅に増加している。中でもタックスヘイブン対策税制や移転価格税制に係る調査において発見された申告漏れ所得は、前年比で大幅に増加している。 このため、成果が挙げられる調査項目として、今後も国税庁が重点を置くであろうと推測できることから、実務においてはより慎重な対応が求められるところである。 また、この他にも注目すべき点としては、非居住者等に対する源泉所得税の追徴税額が増加している点が挙げられる。海外業務に携わる社員がいる場合には、その源泉所得税の処理を適切に行う必要がある。  (了) 【参考】国税庁ホームページ 「平成23事務年度 法人税等の調査事績の概要」
#0 創刊準備3号(掲載号)
#新名 貴則
2012/11/15
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

3月決算法人の法人税中間申告のチェックポイント―税制改正事項を中心として―

3月決算法人の 法人税中間申告のチェックポイント ―税制改正事項を中心として―   税理士 齋藤 忠志   3月決算法人では仮決算による中間申告を行う場合も多いと思われる。特に、税制改正事項のうち、平成24年4月1日以降の開始事業年度から適用される場合には、従前通りの税務処理をするというような誤りがないようにしたいものである。 そこで、本稿では、平成24年4月1日以降の開始事業年度から適用される主な税制改正事項のポイントを記載することにより、実務の参考とするものである。 なお、仮決算による中間申告書の提出は、市場利率よりも有利な利率による還付加算金を得るという利殖行為等を防止するため、以下の場合には行うことができない。 中間申告における法人税額が、前年度の確定法人税額の6/12(前期基準額)を超える場合 前期基準額が10万円以下の場合 しかし、中間申告書を所轄税務署宛に提出する必要がなくても、 ・半期ベースの法人税額の試算や税効果会計等の会計処理をするため ・確定申告にあたっての実務上の問題点を把握するため など、仮決算による中間申告を内部的に行うことも有用である。 〔チェック項目〕 1 法人税の税率を正しく適用しているか? 〈留意事項〉 中小法人とは、普通法人のうち、各事業年度終了時の資本金の額などが1億円以下である法人をいうが、大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上の法人)の100%子会社や保険業法上の相互会社等は除かれる。 なお、法人税の額に10%の税率を乗じた復興特別法人税については、事業年度単位に課税されることから、中間申告の制度はない。   2 寄附金の損金算入限度額の計算を正しく行っているか? 〈留意事項〉 【改正前の限度額計算式】 (1)特定公益増進法人等に対する寄附金の損金算入限度額 ={(資本金等の額×6/12×0.25%)+(所得金額×5%)}×1/2 (2)一般の寄附金の損金算入限度額 ={(資本金等の額×6/12×0.25%)+(所得金額×2.5%)}×1/2   3 貸倒引当金を経過措置に則って正しく算定しているか? 〈留意事項〉 (1)中小法人の範囲は1に同じ。 (2)中小法人以外の法人で金融業以外の一般の事業法人については、リ-ス資産の譲渡対価に係る債権がなければ、原則として経過措置の適用が有利となる。   4 定率法の償却率を正しく適用しているか? 〈留意事項〉 原則として、平成19年4月1日から平成24年3月31日までの間に取得をされた減価償却資産(旧減価償却資産)は250%定率法により償却を行い、この旧減価償却資産に対して平成24年4月1日以後に行った資本的支出(追加償却資産)については200%定率法により償却を行う。   5 廃止された規定を従前通り申告していないか? 〈留意事項〉 【期限が延長された主な項目】 (1) 交際費等の損金不算入 (2) 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 (3) 使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例 (4) 中小企業者以外の法人の欠損金の繰戻還付の不適用   6 外国税額控除の限度額計算を正しく行っているか? 〈留意事項〉 国外所得金額の算定では、非課税国外所得金額の全額を控除することとなったが、経過措置として、平成24年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度においては非課税国外所得金額の6分の5を控除する。 外国税額控除の限度額=法人税額×国外所得金額/全世界所得金額   7 青色欠損金の控除を正しく行っているか? 〈留意事項〉 控除前所得の金額とは、青色申告書を提出した事業年度の欠損金の損金算入の規定などを適用せずに算定した金額とする。 (了)
#0 創刊準備3号(掲載号)
#齋藤 忠志
2012/11/08
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