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民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第8回】「請負、委任等その他の契約」
民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第8回】 「請負、委任等その他の契約」 弁護士 中西 和幸 請負、委任等その他の契約についても、判例等の明確化がほとんどであるので、今回はその要点に絞って解説する。 1 請負契約 請負契約については、その大半が判例等の明文化である。 (1) 仕事完成不能時の報酬 請負契約は、仕事の完成を目的とする契約であるため、仕事が完成しなければ報酬が全く発生しないという原則がある一方、現行法下でも、仕事が完成しなくなった原因(注文者による解約、物理的な不可能等)によっては、報酬や費用の請求を認めてもよいのではという解釈があり、これを明文化することになった。 そこで、以下の場合は、既に行った仕事の報酬と費用を請求できるとしている。 ① 報酬の一部請求が可能な場合 これは、当事者間の公平性の問題と考えられ、注文者に一定の利益があれば、注文者の帰責性は問わず、報酬の一部履行を認めるものである。例えば、注文者が材料提供をしなかったり、災害等により仕掛品のさらなる加工が困難となった場合でも、その段階での完成度で一応一定の使用が可能である場合などが考えられる。 また、契約が解除された場合(請負人の債務不履行も含む)も同様とされている。 ② 報酬の全額請求が可能な場合 現行法上の民法536条2項の規律を維持する(すなわち請負契約では改正しない)とするものである。 (2) 瑕疵修補請求等 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の規定である。 以下の通り整理されている。 (3) 実務への影響等 ① 注文者の優位性 請負契約の改正については、現行法を一部改正し、また、解釈上不明確な部分を明確化したのであるが、中間試案段階で確定しているわけではない。 請負契約上問題となりやすい場面での問題として、契約の趣旨と目的物の完成に齟齬がある場合の修補等について規定を整理するなどしており、その結果、請負人の強い従属性が若干緩和されたという効果はある。 しかし、請負人と注文者の力関係は大きく差があり、この点についての配慮は十分でないため、請負人としては、注文者の地位が強いことに引き続き留意しなければならない。 ② 「契約の趣旨」 また、瑕疵修補等に関連して、「契約の趣旨」に沿っているかどうかという視点からの改正案が提案されている。 現行法下でも、契約の趣旨通りに必ずしも仕事が完成するとは限らず、トラブルの中心になっている。しかし、その原因は、注文者と請負人のコミュニケーション不足や想定外の事態に注文者と請負人が足並みをそろえて対処できないこと等が考えられる。 瑕疵修補について、「契約の趣旨」を法改正で前面に出すと、売買契約と同様、契約前の説明や、契約書の作成などに相当の手間やコストが取られる可能性があるのではないかと予想される。 2 委任契約 (1) 全体像 委任契約については、自己執行義務を原則とすること、受任者が受けた損害の賠償義務(専門家が受任者の場合、委任者は損害賠償義務を負わない)、委任契約の終了(委任者が破産しても委任契約は当然に終了しないこと)などについて、改正案が提示される一方、改正しない提案も検討されている。 その中で、報酬請求及び準委任については、比較的まとまった方向性が提示されているので、概略を説明する。 (2) 報酬請求 まず、現行の委任契約において無報酬が原則とされているが、この規定が削除されている。 ただし、有償が原則とされているわけではないことに注意が必要である。 次に、委任事務の一部の履行ができなくなった場合の報酬請求権について、受任自行の履行の割合に応じて報酬を請求することができることを原則としている(成果報酬を定めた場合は、報酬の成果が可分であり委任者が利益を有する場合か、委任者の必要な協力がなかったために委任事務ができなかった場合のいずれかの場合に限定している)。 (3) 準委任 準委任契約は、法律行為以外の事務処理の委託であり適用場面が多い一方、現行法上は、委任契約の条項が準用されるとだけ規定されているにすぎない。 そこで、中間試案では、自己執行義務、委任者の自由な契約解除及び破産の場合の契約解除について準用しないこととし、解除に関して以下の通り定めている。 (4) 実務上の留意点 委任契約については、実務上の不都合を解消する方向での改正がいくつか見られるところである。また、準委任契約については、契約書が作成されないような例が少なくないため、一定の配慮がなされているように見受けられる。 ビジネス実務上も、委任契約や準委任契約は必ずしも書面化されるとは限らない場面が多いと考えられるため(例えば「ちょっと○○をお願いしていい?」とある者にお願いし、その者が依頼を引き受ければ、どんなに小さな依頼であっても委任や準委任契約が成立することが多いのである)、この改正は、比較的有効に機能するのではないかと考えられる。 委任や準委任が重要な契約になれば、各種契約の書面化、特に報酬に関する契約の書面化が重要である一方、書面化により一定の目的を実現でき、またリスクをコントロールできるのではなかろうか。 3 雇用 雇用については、実務上は労働基準法により規律される場面がほとんどであり、民法の規定はあまり重視されてこなかった。こうした経緯もあり、あまり重要な改正は見られない。 もっとも、民法536条2項の規定、すなわち、使用者の責めに帰すべき事由により就労できなかった場合は、労働者は使用者に報酬を請求できる、という解釈が一般化している。民法改正では、危険負担の条項(民法536条2項)が削除されたため、細かな改正よりも、この実務が変更されないよう、雇用の規定で手当てをしている。 4 寄託 (1) 概要 寄託契約については、要物契約(寄託物を引き渡して初めて契約が成立する)から諾成契約(合意により契約が成立する)に変更し、これに関する規定を整備している。 この他に、自己執行義務、有償寄託の場合の受寄者の善管注意義務、第三者が権利主張してきた場合の対応、損害賠償責任などについて解釈を明文化している。 また、報酬については無償性の原則を排除することなど、委任に関する規律を準用するものとしている。 さらに、寄託物の一部滅失等に関する損害賠償請求権の短期消滅時効(1年)を定めている。 この他に、混合寄託や消費寄託についても明確化をはかっている。 (2) 実務への影響 寄託については、委任(準委任)契約の改正とおおむね足並みがそろうことになった。 これは、寄託契約が「物の保管」という準委任契約としての性質を有することから、おおむね整合的に整理できることになる。 ビジネス上は、引渡物の確認、契約内容の確認等、慎重になされることが多く、契約書が作成されることが少なくないことから本改正の影響を大きく受けるとは思われないが、細部についてどこまで影響してくるかは不明確である。 5 組合 (1) 改正の概要 組合については、組合財産の独立性について、新たな規定を設けるが、その他は判例等を明文化するものであり、特段目新しいものはないようである。 また、組合債権者が組合員の固有財産に対して権利行使をすることができる場合については、改正により均等割合を原則とし、組合の債権者がその債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合によってのみその権利を行使することができるものとされている。 (2) 実務への影響 組合については、判例が積み重なっていることもあり、かかる判例の明確化である限り、特段実務への影響はないように思われる。 また、投資事業組合等のビジネス目的の場合は、契約書を作成し詳細に定める例も多く、こうした契約書の効力を左右するような改正がなされない限り、法改正についてさほど心配する必要はないように思われる。 6 今回のまとめ 請負、委任、雇用、寄託、組合等の各契約については、特段大きな変更はなく、判例等の明文化が中心のようである。そのため、慌てて対応するのではなく、まずは改正の方向を確かめてからでも十分間に合うのではなかろうか。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第12回】「売上・売掛債権管理のKPI(その③ 請求)」
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第12回】 「売上・売掛債権管理のKPI (その③ 請求)」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、売上・売掛債権管理を構成する業務プロセスから、「請求」のKPIを取り上げる。 このKPIは、売上・売掛債権管理を担当する人員配置を適正なレベルにするにはどうするか、もしこの業務を社内の人員ではなく経理サービスを提供する外部の会社に委託するなら支払うべきサービス価格はいくらが妥当かという判断を可能にし、社内の人員による業務処理と外部委託のどちらが妥当かという経営意思決定に役立つKPIである。 KPIが設定された業務プロセスの確認 まず、経済産業省スタンダードで整理された業務プロセスを引用しながら、このKPIに対応する業務プロセスを確認しよう。 前回も述べたが、売上・売掛債権管理において、会社が担う一般的な機能は、「売上業務」、「債権残高管理」、「滞留債権対応」、「値引・割戻」の4つになる。今回解説するKPIは、売上業務のうち、「請求」に関連する業務プロセスにおいて設定されている。 請求に関連する業務プロセスは、売上業務の一連の流れの中では、販売管理情報システムに入力を行うことにより売上計上が行われた後、販売先から代金の決済が行われる前に現れるのが一般的である。 〈経済産業省スタンダード:売上・売掛債権管理で会社が担う機能〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) さらに、経済産業省スタンダードでは、請求に関連する業務プロセスを請求書の作成と承認という業務の流れと考え、次のような単純な業務プロセスをまとめている。 今回のKPIは、請求書の枚数が売上・売掛債権管理の業務量に比例する傾向があることに着目し、効率性の観点から、売上・売掛債権管理担当者1人あたりの請求書枚数を問うものである。 〈経済産業省スタンダード:1.4.1請求〉 (経済産業省「経理・財務サービス スキルスタンダード」より) 定義を理解する 調査項目の文言から、KPIの定義を確認しよう。以下、KPIの項目を再掲する。 KPIの算出式の分母にあたる「売上・売掛債権管理担当者のべ人数」とは、売上を計上し、請求書を発行し、決済を確認するまでに費やす時間をのべ人数で表したものをさす。担当者が、売上・売掛債権管理業務とそれ以外の業務を兼務している場合、合理的な比率で売上・売掛債権管理業務にかかるのべ人数を算出する。 例えば、1人の担当者が1ヶ月の業務時間の全時間を、もう1人の担当者が1ヶ月の業務時間の半分の時間を売上・売掛債権管理業務に費やしている場合、「1.5人月」と記入する。 「請求書枚数」や、「売上・売掛債権管理担当者のべ人数」のデータを取る場合、1年のデータを取ることが望ましいが、1年を通して季節性や変動が少ない場合は、調査対象となる月として、最も平均的業務量と思われる1ヶ月を選んでデータを取り、12倍して算出してかまわない。 KPIの背景にある価値判断 スコアリングモデルにおいて、このKPIを設定したのはなぜか。 スコアリングモデルでは、売上・売掛債権管理にかかる人員を適正なレベルに保ち、もし余剰人員が生じている場合は、より付加価値の高い活動に人的資源を配分することが望ましいと考えている。そこで、売上・売掛債権管理という業務により処理される取引量を反映する請求書枚数を会社間で比較し、効率性のレベルを測ることにしたのである。 このKPIは、1人あたり請求書枚数を算出したものであるが、さらに進んで、売上・売掛債権管理にかかる人員の適正配置を考えるには、売上・売掛債権管理にかかる人件費を測定できていることが望ましい。そこで、財務会計上の勘定科目である人件費を、日常的管理になじむ活動の単位で再集計する管理会計の視点が必要となる。 管理会計では、売上・売掛債権管理にかかる人件費という再集計結果を「コストプール」と呼び、活動の単位で再集計する方法を「活動基準原価計算」と呼ぶ。また、売上を計上し、請求書を発行し、決済を確認するという一連の活動量に影響を与え比例的に変動すると考えられる請求書枚数を、「コストドライバー」と呼ぶ。 コストドライバーとコストプールを使って請求書1枚あたりの人件費を算出することにより、自社で売上・売掛債権管理を処理した場合のサービス原価が算出される。その結果、売上・売掛債権管理を自社の人員で処理するのが良いのか、それとも外部の経理サービス会社に委託するのが良いのか、そのときに支払うべき対価はどの程度が適正か、社内の人員配置と外部委託をどのように行うのが良いかを判断できるようになる。 もし会社の中で、このようなKPIを設定した価値判断が共有されない場合、売上・売掛債権管理に隠れている非効率が発見されず、過剰な人員配置が放置されたままになる可能性がある。また、例えば、グループ内に経理業務受託サービス会社を設置する場合、その会社が提供できる売上・売掛債権管理サービスの処理量やコストを適正に把握することができないため、適正な利益を確保するサービス価格を設定することが困難となるだろう。 顧問先のKPIを測定してみる では、実際にどのような手続でKPIを測定するのか。 まず、読者は、顧問先の売上・売掛債権管理の業務量を測るために適切な資料を特定していただきたい。 例えば、請求書枚数を確認するため、請求書控の枚数を閲覧する。1ヶ月の売上・売掛債権管理担当者のべ人数を確認するため、業務時間実績報告表に記録された売上・売掛債権管理にかかった時間を1人あたり所定労働時間で割り戻した数値を算出する。 合併や買収を経験したまま業務が統合されていない会社の場合、事業所や部門ごとに枚数を測定してみると、大きな差が出てこれまで見えなかった非効率を発見できる可能性がある。 読者の顧問先において、売上・売掛債権管理担当者1人あたりの請求書枚数は何枚になっただろうか。 * * * 次回は、売上・売掛債権管理を構成する複数のKPIのうち、滞留債権対応に関連する業務プロセスを評価するKPIを取り上げる。 (了)
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〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第15回】「外来診療単価に差が生じる理由」
〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第15回】 「外来診療単価に差が生じる理由」 東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕 1 外来診療単価に差が生じる要因 病院収入の約3割を占めるのが外来収入であり、外来収入を増加させるためには、患者1人1日当たりの外来診療収入(以下「外来診療単価」とする)を向上させることが重要である。 外来診療単価が高いということは、それだけ濃厚な治療が必要な重症な患者を診ていることを意味しており、病院と診療所の機能分化という観点から病院にとって適切な役割を果たしていると捉えることもできる。また、外来患者のキャパシティには制約があるため、経済性を向上させるためにも外来診療単価を高めることには重要な意味がある。 この外来診療単価は、図表1に示すように、病床数と一定の相関がみられ、規模が大きいほど高くなる傾向がみられる(この点は入院診療単価と同様である)。規模が大きい病院ほど、高額な画像診断機器等を保有するケースが多いことが影響しているのであろう。 図表1 外来診療単価と病床数 その他、外来診療単価を考えるに当たっては、院外処方率の影響も見過ごすことができない。 院内処方の場合には、薬剤費が多くなり、結果として外来診療単価も高くなる。院外処方といってもその割合は様々であり、院外処方率が70%程度の病院もあれば90%を超える病院もある。ただし、外来診療単価に与える影響は、5,000円程度であろう。 院内処方を行えば診療収入に占める材料費の割合(以下「材料費率」とする)が高くなることは言うまでもない。気付いていない方もいるが、このことは人件費率にも影響を及ぼす。 図表2に示すように、材料費率と人件費率には有意な負の相関関係がみられる。つまり、材料費率が高くなると人件費率が低くなる傾向がみられる。 図表2 人件費率と材料費率 人件費率が30%台あるいは、40%の前半という病院が財務的に優れているかというと必ずしもそうではなく、それは院内処方の影響を受けていることが少なくない。 院内処方を実施するということは、院内で医薬品を販売していることを意味するため、診療収入に占める材料費の割合が多くなる。 2 診療行為別の外来診療単価への影響 図表3は、外来診療単価の構成比を病床規模別でみたものである。院内と院外処方の病院が混在しているため、投薬料についてはここでは除いて考えていく。 図表3 病床規模別 外来診療単価の構成比 全体的な傾向としては、検査料、画像診断料、注射料の割合が多く、この3項目で全体の50%以上を占めている。手術・処置料は、全体的にみると約6%程度と金額的なウェイトが高くない。 今後、手術の外来化が進むことが予想されるが、現状でこの項目に含まれ影響を与えるのは後述する透析に係る処置料であろう。 金額的な影響が大きく、病床規模別でみたときに100床未満と700床以上で4倍以上の開きがあるのが、注射料である。外来における注射で金額的な影響が大きいのは化学療法であり、化学療法のベッド数と外来注射料には一定の相関がみられる(図表4)。 図表4 外来注射料と外来化学療法 病床数 外来化学療法は高額な抗がん剤を投与するのであるから外来診療単価が上昇するのは当然であり、その結果が反映されている。ただし、同じベッド数でも外来注射料にはバラつきがあるのも事実であり、診療内容の違いを意味するのか、外来化学療法加算が影響しているのか、稼働率の高低など個別の施設でさらなる検証を行うことが期待される。 その他、外来診療単価を押し上げるものとして、人工透析が思い浮かぶ。慢性維持透析の患者が多数いれば、外来診療単価が上昇することは想像に難しくない。 図表5は、透析装置台数と外来処置料の状況をみたものである。透析装置台数が少ない病院は外来処置料が少なく、透析に重点的に投資していればその分だけ外来処置料が多くなる傾向がみられる。 図表5 外来処置料と透析装置台数 3 外来診療単価と医師1人1日当たり受け持ち患者数 外来診療単価が高い病院は、院内処方率が多い、外来化学療法が多い、慢性維持透析患者が多い傾向がみられた。つまり、病院の戦略が外来診療単価に影響を与えることを意味している。ただし、これらの施策に取り組まない限り外来診療単価が向上しないというわけではない。 図表6に示すように、医師1人1日当たり受け持ち患者数が少ない病院ほど、外来診療単価が有意に高いという傾向がある(入院についてはより顕著な傾向がみられる)。 図表6 外来診療単価と医師1人1日当たり受け持ち患者数 外来患者を絞り込めばより重症者だけを扱うことになり、診療の密度が高くなることを意味している。外来を絞り込むためには、再診患者を減らすべく逆紹介を積極的に推進し、紹介患者を中心とした外来医療を展開することが求められる。 地域性によっては、病床の2倍を遥かに超えた外来患者を受け入れざるを得ないという病院も存在することであろう。その場合には、患者数という量で勝負することになり、高い外来診療単価は期待しづらい。自院の置かれた現状を踏まえて、何をすべきかを考えることが求められている。 4 DPC/PDPSと外来シフト DPC/PDPSという環境下では入院中の検査、投薬そして画像診断等が包括評価されるため、外来シフトを行う病院も多い。予定入院ならば一定程度は外来化が可能であろうし、それが経済性の向上にもつながる。無理のない範囲で外来シフトを進めることは、時代の求める方向性であり自然なことであろう。 ただし、筆者は外来シフトすべき理由についてDPC/PDPSだからという理由ではなく、在院日数を短縮するために入院前後にできることがないかを探ることの方が大切だと考えている。 患者の肉体的・経済的負担を軽減するためにも、入院診療単価を高めるためにも在院日数の短縮は必須であり、今後も医療政策において強く求められることであろう。入院しないとMRIの予約が入らないからという理由で入院中に画像診断を行う病院も少なくないようだが、それは非効率的である。 外来と入院を一気通貫で捉えた効率的な診療プロセスが、結果として外来診療単価を高めることにつながる。 (了)
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女性会計士の奮闘記 【第8話】「お客様の状況はどんどん変わる」
女性会計士の奮闘記 【第8話】 「お客様の状況はどんどん変わる」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 ◆ワンポントアドバイス◆ お客様の状況は、刻々と変わります。一喜一憂している暇はありません。その状況を的確に把握し、どのような情報がお客様にとって役に立つのかを考えなければなりません。 そのためには、常にアンテナを張っておき、税制改正があれば、お客様別に該当する項目をまとめておきます。 その備えがあれば、突然お客様からの質問があっても即座に答えることができ、「さすが」と言ってもらえるのではないでしょうか。 (了)
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神田ジャズバー夜話 「4.プレイGさん」
「次はこれ、ぼくの愛聴盤。トニー・ベネット」 Gさんは自分で持込んだCDを次々と私にかけさせ、店中に響く大きな声で解説を続けている。これじゃ音楽は聴こえない。 「M子さあ、これ最高なんだよ」 いつもはよく喋るM子も今夜はあらぬ方角をじっと睨み、Gさんが話し掛けても返事もしない。話し掛けたGさんもM子の方を見ようとしない。 「トニー・ベネット、いいねえ、ナイアンデ〜」Gさんはとうとう歌いだした。もう黙らせようと思ったら、M子がいきなり喋りだした。 「信じられない、E江とホテル行くなんて、しかも2回目よ」 なるほどね。いつもと違うふたりの理由が分った。浮気のバレたGさんは周囲を巻き込み、M子の怒りをソフト・ランディングさせようとしているのだ。顔を突き合わせないで済むカウンターを選んだのも作戦のうちだろう。 「この人さあ、E江は『B』で、あたしはここって使い分けてんのよ。でもさ、ここにもE江連れて来たことあるでしょ、ねえマスター」 M子の鉾先が私に向けられた。『B』は隣り街のジャズカフェだ。 「え、誰ですか、ないと思いますけど・・・」 私は必死でとぼけた。前にGさんからE江と来たことはM子には喋るなといわれた。それはこういう店では決してしてはいけないことで、ルール違反だと厳命された。 「うそ、絶対来てるわよ」 「いやあ、どうでしたかね・・・」 これはマズい。 カウンターにはこのときM子、Gさん、その隣に奥さん(名字が奥という)太田さんが並んでいた。奥さんはGさんの解説に頷いたり、「へえ、そうですか」などとたまに言葉を挟んでいたが、M子が喋りだすと暫く沈黙があり、今は太田さんと何やら小さな声で話している。 「奥さん、トニー・ベネットってビル・エバンスとやってますよね」 「うん、ああそうだね」と奥さん。 「2回やってるね」と太田さん。 突然話し掛けた私に太田さんも奥さんも話を合わせてくれた。 「信じられない」 M子は正面を向いてまだつぶやいている。Gさんは目を閉じ酒と音楽に酔い痴れたふりをしている。 CD3枚を聴き終わるころM子は根負けしたようで、引きつりながらも笑みを浮かべGさんとの間に対話が成立し出した。これからふたりで近くのデニーズへパンケーキを食べに行くらしい。奥さんと太田さんはとっくの昔に逃げてしまった。 「マスターいくら?」 「4,500円です」 「はい、じゃあ5,000円。お釣はいいよ」 「当然です」 「そうだよね」 70代のじいさんは笑いながら50代のM子と店を出た。 (了)
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《速報解説》 「連結財務諸表規則等の改正案」(IFRS任意適用要件の緩和)の解説
《速報解説》 「連結財務諸表規則等の改正案」 (IFRS任意適用要件の緩和)の解説 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 平成25年8月26日、金融庁は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表した。 これは、企業会計審議会が公表した「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下「当面の方針」という)において、IFRS任意適用要件の緩和の方針が示されたことから、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」等を改正するものである。 公開草案へのコメントは、平成25年9月25日までである。 Ⅱ 主な改正内容 1 連結財務諸表規則等関係 「当面の方針」を踏まえて、IFRSの任意適用要件を緩和することとし、具体的には、IFRSの任意適用が可能な会社(特定会社)の要件をIFRSに基づいて作成する連結財務諸表の適正性を確保する取組・体制整備のみとするものである。 現行の上場企業及び国際的な財務活動・事業活動の要件については撤廃する。 なお、各四半期又は上半期からでもIFRSに基づく中間・四半期連結財務諸表の作成を可能とする改正も行う。 告示及びガイドラインについても所要の改正を行う。 2 開示府令関係 連結財務諸表規則等の改正を踏まえ、四半期報告書・半期報告書に中間・四半期連結財務諸表の適正性を確保する取組に関する記載が行えるよう、それぞれの様式の「記載上の注意」を改正する。 3 適用時期等 公布の日からの施行が予定されている。 (了)
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《速報解説》 「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令」及び「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(8/26公布)の改正ポイント
《速報解説》 「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令」及び「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(8/26公布)の改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) Ⅰ 改正された政令等 「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令」(平成25年政令第245号)及び「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(平成25年内閣府令第54号)が平成25年8月26日に公布され、「金融商品取引法施行令」(以下「施行令」という)、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下「開示府令」という)及び「特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令」(以下「特定有価証券開示府令」という)が改正された。 またそれに伴い、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」(以下「ガイドライン」という)の改正が平成25年8月26日に公表された。 Ⅱ 主な改正内容等 (1) 我が国における株券の性格を有する有価証券等の所有者数が少数となった外国会社等の有価証券報告書提出義務の免除 外国会社等について、内国会社等と同様に、その募集又は売出しにつき有価証券届出書又は発行登録追補書類を提出した有価証券(上場会社及び店頭登録会社を除く)の発行会社にあっては、株券又は優先出資証券の性質を有する有価証券等の直近の募集又は売出しに係る有価証券届出書等の提出日の帰属する事業年度終了後5年を経過しており、その事業年度を含む前5事業年度すべての末日におけるその株券又は優先出資証券の性質を有する有価証券等の所有者数が300名未満である場合、有価証券報告書を提出しなくても公益又は投資者保護に欠けることがないものとして内閣総理大臣の承認を受けることにより、有価証券報告書等の継続開示義務が免除されるよう改正が行われた(金融商品取引法第24条第1項ただし書、施行令第3条の5、第4条の10、開示府令第15条の3、ガイドライン24-2-2等)。 (2) 売出しに係る発行者関係者の範囲の調整 有価証券の売出しに該当する発行者関係者の範囲と、有価証券通知書の提出及び目論見書の作成が必要となる発行者関係者の範囲の不一致を是正するための改正が行われた(施行令第1条の7の3、開示府令第4条、第11条の4等)。 (3) その他の開示府令の改正 外国会社の四半期開示等に係る延長申請の合理化(開示府令第17条の15の2)、親会社・特定子会社・主要株主の異動に係る臨時報告書の提出事由の整理(開示府令第19条)のほか、所要の規定の整備が行われた。 (4) 特定有価証券開示府令の改正 特定有価証券信託受益証券及び特定預託証券に係る外国会社届出書様式の整理(特定有価証券開示府令第11条の5)のほか、所要の規定の整備が行われた。 Ⅲ 適用時期 施行令中、有価証券報告書の提出を要しないこととなる有価証券の範囲等の見直しに関する部分、並びに開示府令及び特定有価証券開示府令については、平成25年8月26日の公布の日から施行される。 ただし、開示府令第19条の臨時報告書の提出に係る改正(上記Ⅱ(3))については、平成25年10月1日以後に、提出会社の親会社等の異動が提出会社等の業務執行を決定する機関により決定された場合又は当該異動があった場合から適用される。 (了)
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【特別公開】 顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル(第1回~第9回)
このたび、現在連載中の「顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル」の第1回から第9回までを、8月19日より8月31日までの期間、非会員の方でも閲覧いただける無料公開とさせていただきます。 この連載は、一般には計測が難しい「企業の経理財務部門の業務」を客観的な方法によって数値化し、他社と比較することで、そのレベルを明らかにする「スコアリングモデル」の手法について、順を追って分かりやすく解説する連載記事です。 第1回から第9回まではこの連載の導入部分として、スコアリングモデルがどのような意味を持つのか、どのようなことを明らかとするかを解説していますので、この機会にぜひご覧ください(最新号では第12回を掲載中です)。 下記の目次をクリックすると、閲覧いただけます。
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《速報解説》 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」の改正ポイント
《速報解説》 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」の改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) Ⅰ 改正された内閣府令 次世代EDINETに移行するための「金融商品取引法施行令第14条の10第1項の規定に基づき入出力装置の技術的基準を定める件」(金融庁告示第46号)、「開示用電子情報処理組織による手続の特例等に関する留意事項について」(電子開示手続等ガイドライン)等が平成25年8月20日付けで施行及び適用されたことに伴い、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(平成25年内閣府令第52号)が平成25年8月21日に公布され、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「財務諸表等規則」という)、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という)、「中間財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「中間財務諸表等規則」という)及び「中間連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「中間連結財務諸表規則」という)が改正された。 Ⅱ 主な改正内容等 次世代EDINETのXBRL(財務情報を効率的に作成・流通・利用できるよう、国際的に標準化されたコンピュータ言語)の表現形式に、財務諸表等規則等に定める財務諸表様式の体裁を揃えるものである。 具体的には、株主資本等変動計算書(財務諸表等規則様式第7号)、連結株主資本等変動計算書(連結財務諸表規則様式第6号)、中間株主資本等変動計算書(中間財務諸表等規則様式第6号)及び中間連結株主資本等変動計算書(中間連結財務諸表規則様式第6号)につき、純資産の各項目を縦に並べる様式から横に並べる様式に変更された。 Ⅲ 適用時期 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」の適用時期は次のとおり。 (了)
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解説
解説一覧
〔しっかり身に付けたい!〕はじめての相続税申告業務 【第3回】「相続人の確定」
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第3回】 「相続人の確定」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 〔相続人を確定する意義〕 今回は相続人の確定について、その手続を見ていくこととする。 相続人とは、法律上、「相続で財産を取得する権利がある者」をいう。 遺言がない場合には、誰がどの相続財産を取得するかという遺産分割協議を、相続人全員で行い、合意する必要がある(*1)。 逆に言えば、遺産分割協議で合意した当事者に、相続人が一人でも欠けている場合、遺産分割協議は成立していないことになるため、誰が相続人となるのかを確定する必要がある。 また、「相続税申告」という観点からは、相続人の範囲・人数は、相続税の納税義務者(相続税法1の3(*2))、相続税の基礎控除(相続税法15)、死亡保険金の非課税枠(相続税法12五)、死亡退職金の非課税枠(相続税法12六)、相続税総額計算(相続税法16)に影響がある。 このため、「誰が相続人になるのか」、まずその範囲を確定する必要がある。 〔相続人となる親族〕 法律上、相続人となる親族は、以下のように決まっている。 (1) 配偶者(民法890) 他界した人の配偶者は 常に相続人となる(民法890)。 (2) 配偶者以外の親族(民法887、889) ① 他界した人に子供がいる場合 他界した人の子供は、相続人になる(*3)。 ② 他界した人に子供がいない場合 他界した人に子供がいない場合、他界した人の「直系尊属(両親、祖父母)」が相続人になる。 ③ 他界した人に子供と両親が共にいない場合 他界した人に子供がおらず、かつ、直系尊属(両親・祖父母)が存命していない場合には、他界した人の「兄弟姉妹」が相続人になる(*3)。 上記①~③のうち一番多いケースは、「① 他界した人に子供がいる場合」で、次に多いのは「③ 他界した人に子供と両親が共にいない場合」、と考えられる。 この①③のケースは重要な部分なので、次回は具体例を用いて確認していくこととする。 (了)