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法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人の破産をめぐる税務 【その1】事業年度及び所得計算(期限切れ欠損金)

法人の破産をめぐる税務 【その1】 ─ 事業年度及び所得計算(期限切れ欠損金) ─   税理士法人エムワイパートナーズ 代表社員 税理士 安井 孝徳   はじめに 2009年12月に施行された「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(中小企業金融円滑化法)」が、いよいよ2013年3月をもって期限切れを迎えることとなる。 決して好ましい話ではないが、昨今の日本経済の状況等から考え、今後は中小企業の資金繰りの悪化から企業倒産が相次ぐようなことも考えられる。 そのようなことから、今後は法人の破産が増加するとも言われている。 これに関わることとなる破産管財人や専門家は、当該税務の概要は当然ながら理解しておく必要があると考える。 以下、これらの内容について、破産会社及びその会社を取り巻く利害関係者の特有の税務に限定して4回にわたって解説する。なお、破産会社は株式会社に限定して解説することとする。 第1回目は破産会社の特有の税務のうち、事業年度及び所得計算(期限切れ欠損金)について解説する。  ※なお、本連載の第1回・第2回の執筆は安井が担当し、第3回・第4回は甲田義典税理士が担当する。   1 事業年度 法人において、破産した場合においても税務申告は必要である。 したがって、破産後においても課税所得は納税額を把握するための1つの指標であり、その課税単位である事業年度の把握は、必要不可欠である。 法人が通常清算による解散をした場合には、解散の日までの期間と解散後の期間で事業年度を区切るみなし事業年度が設けられているが、破産の場合においてもみなし事業年度を設ける必要がある。 ① 破産の場合のみなし事業年度 法人が破産手続に入った場合には、破産開始決定の日の属する事業年度開始の日から破産開始決定の日までの期間(解散事業年度)及び破産開始決定の日の翌日からその事業年度終了の日までの期間(清算事業年度)をみなし事業年度とすることになる(法法14①一)。 ここで注意すべきは、通常清算の場合と「その事業年度終了の日」の定義が異なるという点である。 通常清算では「その事業年度終了の日」を、清算事務年度終了の日(解散の日の翌日から1年間)とされているのに対し、破産開始決定の場合には、定款で定められた事業年度終了の日となる。 これは、法人税基本通達1-2-9において、株式会社が会社法475条に掲げる解散等した場合には、清算事業年度は清算事務年度となる旨の記述があるが、同条では、「解散等」から破産開始決定が除かれており、破産開始決定の場合には当該通達の適用はないためである。 したがって、破産開始決定の場合には、清算事務年度を適用すべきではなく、原則通り定款で定めた事業年度を用いることとなる(法法13①)。 また、その後、清算手続中の法人は、最終的に財産の換価・確定(残余財産の確定)が行われ、その後一定の手続を終え破産手続が終了することとなるが、その場合にその残余財産の確定が事業年度の途中で完了した場合には、その事業年度開始の日から残余財産の確定の日までの期間を清算最後事業年度としてみなし事業年度を設けることとなる(法法14①二十一)。 【破産の場合の事業年度の例】 3月決算法人が平成25年1月31日に破産開始の決定を受け、平成25年8月31日に財産が換価・確定した場合   2 期限切れ欠損金 ① 概要 法人が破産手続に入った場合、残余財産を確定させる過程において債務免除益が発生するのが一般的である。通常所得計算の現行法では、清算事業年度における債務免除益を含む単年度所得が繰越欠損金額を超える場合には、納税が発生することとなる。 ただし、破産手続中の法人は、残余財産がなく納税資金がないことが一般的である。そのような状況に対応するため、残余財産がないと見込まれる場合は、清算事業年度(以下「適用事業年度」という)においては、通常の繰越欠損金額のほかに期限切れ欠損金額も使用できることとなる。 ② 期限切れ欠損金額 「期限切れ欠損金額」とは、適用事業年度の前事業年度以前から繰り越された欠損金額の合計額から、法人税法57条1項又は同法58条1項によりその事業年度において損金の額に算入される青色欠損金額又は災害損失欠損金額(以下「繰越欠損金額」という)を控除した金額をいう(法令118)。 また、繰越欠損金額と期限切れ欠損金額が両方ある場合には、まず繰越欠損金額を先に使用し、次に期限切れ欠損金額を使用することとなる。 なお、ここでいう「適用事業年度の前事業年度以前から繰り越された欠損金額の合計額」とは、その適用事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額がマイナスである場合のその金額となる(法基通12-3-2)。 すなわち、期限切れ欠損金額は、前事業年度に係る法人税確定申告書別表五(一)における期末現在利益積立金額の合計額(マイナス値)から、繰越欠損金額を控除した金額になると考えられる。 したがって、例えば、時価純資産価額がマイナスであることにより、実質的に債務超過である場合であっても、前期末の利益積立金額がプラスの場合には、期限切れ欠損金額はゼロであるため、この適用はないこととなる。 さらに、平成13年度税制改正により、資本金等の額がマイナスである場合も考えられ、例えば、税務上、簿価純資産価額が△200百万円である場合であっても、資本金等の額が△350百万円であり、利益積立金額が150百万円であるときは、期限切れ欠損金額がゼロとなってしまうため、留意が必要である。 ③ 損金算入額 損金の額に算入される金額は、期限切れ欠損金額が、当該措置の適用及び清算最後事業年度の事業税の損金算入の規定を適用しないものとして計算した場合における適用年度の所得を限度とすることとされている(法法59③)。 したがって、前述のとおり、まず当該事業年度の所得の金額から繰越欠損金額を控除し、その控除後の金額に清算最後事業年度の事業税の損金算入額を足し戻した金額が、期限切れ欠損金額の損金算入額になるものと考えられる。 また、更生手続開始の決定があった場合や再生手続開始の決定があった場合においては、期限切れ欠損金額の損金算入について、債務免除を受けた金額を限度とする等の取扱いがあるが、清算の場合においてはそのような取扱いがないため、債務免除益以外の益金の額、具体的には、資産の処分により発生した譲渡益と相殺することも可能であることに留意が必要である(法法59①②)。 ④ 残余財産がないと見込まれる場合 前述のとおり、期限切れ欠損金額の損金算入は、残余財産がないと見込まれるときに限り適用することができる(法法59③)。 では、「残余財産がないと見込まれるとき」とは、どのような状態をいうのかというと、債務超過の状態にあるときがこれに該当する旨、法人税基本通達において明らかにされている(法基通12-3-8)。 債務超過の状態にあるかどうかの判定は、清算法人のその清算事業年度終了の時の現況によることとなる(法基通12-3-7)。 したがって、清算期間が1年以上に及ぶ場合には、損金算入しようとする各事業年度の末日において、債務超過の状況にあるか否かを検討し、期限切れ欠損金額の使用の可否を判断しなければならないこととなる。 (了)
#2(掲載号)
#安井 孝徳
2013/01/17
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

ポイントカードの利用と課税区分

ポイントカードの利用と課税区分   税理士 飯田 聡一郎   1 領収書に見るポイントの課税関係 大手家電量販店や各種コンビニエンスストアにおいて、ポイントカードの利用が一般的となっている。 ポイントカードを利用した場合の領収書を確認してみると、いくつかの類型があり、実際に手元にある領収書で確認したところ、下記の2パターンを確認することができた。 上記領収書ABは共に、税込で1,050円の商品を購入して、ポイントを100ポイント利用し、実際には支払額は950円というケースを表している。 しかし、領収書を注意深くみると、Aパターンでは消費税額が50円であり、Bパターンではいったん50円の消費税を計上した後、対価の返還処理により4円を控除しているため、実質の消費税額は46円になる。 実際に同じ商品を購入して、ポイントを利用して950円支払っている場合に、購入側では課税仕入の金額が異なり、販売者側では課税売上高として異なった金額でカウントしていることになる。 日本全国で、ポイントを使った販売は相当な規模で行われており、複数の処理が存在することは、納税者にとっても大きなリスクとなる。 そこで本稿は、ポイントを利用した場合の消費税の処理について、理論的にどうあるべきかについて検討を加えることとする。   2 公表されているポイントの処理についての検討 ポイントに関する処理について明記してある書籍は、本稿執筆現在、筆者が探した範囲では見つからなかった。 また、インターネットで「ポイント」と「消費税」をキーワードに検索を行うと、国税庁のホームページから平成20年6月20日の税大論叢第58号に掲載された高安滿税務大学校教授による「マイレージサービスに代表されるポイント制に係る税務上の取扱い-法人税・消費税の取扱いを中心に-」という論文がヒットする。 なお、同論文では、ポイントの消費税について、下記のような結論としている。 アンダーライン部分は筆者が付したものであるが、同論文によれば、商品を引渡しの際に値引きした場合に不課税で、かつ入金時にも不課税となるとしている。 上記の場合、最初に紹介したAパターンでもなく、Bパターンでもなく、下記のような領収書になるべきである。 実質的には、税込で対価の返還処理を行ったとするBパターンと同じ形になるが、差引支払金額の対価が課税取引となるという説明は、明らかにAパターンと異なる計算結果を導くことになる。 同論文では、ポイントシステムの原型はスタンプカードであるとしている。なお、トレーディングスタンプに関する内容については、消費税審理事例検索システムでは3件の応答事例が見受けられた。しかし、現在、国税庁のホームページに公表されているのは商品券と引き替えた場合の取扱いについてのみで、それ以外の部分について公表されていない。 トレーディングスタンプに関する質疑応答事例としては、大蔵財務協会の『平成23年版 回答実例消費税質疑応答集』34ページに、下記のような記載がある。 仮にトレーディングスタンプとポイントカードのポイントが同種のものであれば、商品を売却してポイント相当を控除した場合に異なる結論になる。   3 課税売上についての検証 問題となるのは、商品を売却してポイント分を控除して代金を受け取った場合に、課税売上高がいくらになるのかという点である。 税抜きで1,000円の商品を販売して、ポイントを100円分控除した場合の課税売上高については、控除されたポイント部分が後日、確実に入金されるのであれば、課税売上高は1,000円と考えるのが正しいと考えられる。 例えば、クレジットカードで1,000円の商品を販売し、後日クレジット手数料を控除後に入金されるような場合に、課税売上高が1,000円であることは明かである。 商品1,000円の販売、収受すべき金額が税込1,050円で、950円は消費者から直接受け取り、100円相当部分はポイントカード発行会社から入金されるという形をとるだけであるから、課税売上高は1,000円と考えるのが自然である。 なお、ポイントカードについて、独自に発行しているような場合には、対価の返還と考えられる。なぜなら、他の会社へ請求権が生ずるわけではなく、ポイント控除後で入金額が確定するためである。 この場合には、ポイント交付時に対価の返還があったのか、あるいはポイント行使時に対価の返還があったかという、別の論点が生じることとなるが、基本的にはポイントが行使された時点で、それ以前の販売に対する対価の返還があったと考えるのが理論的である。   4 結論 本稿を書くきっかけは、ポイントに関する消費税の取扱いが、実務で見過ごせないほど大きくなっているにもかかわらず、課税庁側の取扱いが見えないことにある。 上記税大論叢の結論は、ポイントそのものを類型化しないで、結論を想定していると考えられる。 ポイントを自己完結型のものと提携型のものとに区別すると、下記のように取り扱うのが理論的である。 1) 自己完結型 販売者側・・・ポイント控除後で課税売上 購入者側・・・ポイント控除後で課税仕入 2) 提携型 販売者側・・・ポイント控除前の金額で課税売上 購入者側・・・ポイント控除後で課税仕入 提携型のポイントについては、販売者側である加盟店は付与した時点で債務の確定、行使された時点で債権の確定が行われる。一方で、購入者側では行使するまで値引きが確定されないので、理論上は上記のような処理になると考えられる。 ただし、消費税の性格上、1つの取引について非対称が生じてしまうことは、消費税の中立性の観点から疑問が残る。また、現在は仕入税額控除について帳簿による控除なので採用可能であるが、将来インボイス方式が採用された場合は問題が生じる。 そこで、取引の対称性に配慮すると、下記のように位置づける必要がある。 販売者側・・・ポイント控除後の金額で課税売上 購入者側・・・ポイント控除後で課税仕入 この段階では、対称性を維持するために、実際の支払額で処理せざるを得ない。 その上で、ポイント部分について、販売者とポイント仲介者の間で、①債権の譲渡と考えて非課税取引として処理、②ポイント行使部分に対する対価性のない給付と位置づけ対象外取引としての処理、③ポイントの仲介者が提携企業のポイントを個別管理していることを条件に、ポイント付与時に預け金の処理、行使時に預け金の戻りとする処理などが考えられる。 いずれに該当するかは、ポイント仲介者との契約内容によって判断すべきである。 3) ポイントが完全に支払手段としての性格を有する場合 販売者側・・・ポイント控除前の金額-ポイント付加額で課税売上 購入者側・・・ポイント控除前の金額-ポイント付加額で課税仕入 仮に、ポイントが完全に支払手段としての性格を具備するのであれば、購入者側は、購入時に付加されたポイント分の対価の返還が実現されていると考えられ、取引の対称性が保たれる。 4) 事務上の対応 現在、ポイントと呼ばれるものに複数の類型が存在しており、ポイントの処理として画一的な処理にはならないと考えるべきである。 自己完結型については、比較的シンプルで、税大論叢通りの処理で問題ないと考えられる。しかし、提携型で理論上非対称となる場合は、レシート上の内容はあくまでもレジシステムとしての表示と割り切り、税法上の取扱いについては契約形態に応じて十分な検討が必要と考えられる。 (了)
#2(掲載号)
#飯田 聡一郎
2013/01/17
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第2回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第2回】   弁護士 木村 浩之   (2 役員の範囲) (3) 使用人兼務役員の範囲 ア 使用人兼務役員の意義 法人の取締役(ただし、委員会設置会社を除く)については、会社法その他の法令上、使用人との兼任を禁止する規定が存しておらず、取締役と使用人は兼ねることができると解されており、実際に、兼任がなされることも少なくない。 そして、法人税法上は、法人の役員のうち、 ⅰ) 一定の範囲の役員を除き、 ⅱ) 法人の使用人としての職制上の地位を有し、 ⅲ) 常時使用人としての職務に従事する者 を使用人としての職務を有する役員(「使用人兼務役員」)(法法34⑤)として、その使用人兼務部分に相当する給与については、不相当に高額とされる部分を除き、使用人と同様に損金算入が認められる。 以下では、上記ⅰ)ないしⅲ)の各要件につき、順次、検討する。 イ 使用人兼務役員とされない役員 法人税法上、使用人兼務役員となり得る役員からは、一定の範囲の役員が除かれている。 具体的には、次のいずれかに該当する役員は、使用人兼務役員とされない役員とされている。 上記の役員のうち、A及びCに該当する役員については、私法上代表権を有するものであり、使用人の地位とは相容れず、使用人兼務役員となれないことは言わば当然である。 同様に、Bに該当する役員については、私法上表見代表として責任を負うものであり、このような職制上の地位を有する役員についても、使用人の地位とは相容れない。 なお、「副社長、専務、常務その他これらに準ずる」ものとして、例えば、最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)などもこれに該当すると考えられる。 また、「職制上の地位を有する」とは、表見代表としての責任を負うことを前提とするものであることから、単なる自称のようなものでは足りず、法人が「定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等によりその職制上の地位を付与した」ものである必要がある(法基通9-2-4)。 また、Dに該当する役員については、会社法その他の法令によって使用人との兼務が法律上禁止されている役員である。仮に法令に違反して実質的に使用人としての業務に従事したとしても、その対価として支払われる給与については、あくまでも役員給与であり、使用人兼務役員の使用人分給与とは認められない(大阪高判昭和33年12月18日・税資26号1202頁)。 さらに、Eに該当する役員については、同族会社の大株主又はその同族関係者など、法人に対する影響力を有すると認められる一定の要件に該当する者であり、同族会社の使用人が役員とみなされる要件と同一である(【第1回】(2)イ参照)。 要は、使用人としての地位を有するものであれ、役員としての地位を有するものであれ、このような者が経営に従事する場合、税法上は「役員」としてのみ取り扱われることになる。 ウ 使用人としての「職制上の地位」 使用人兼務役員に該当するためには、法人の役員としての地位のほか、使用人としての「職制上の地位」を有している必要があるが、これについては、通達では、「支店長、工場長、営業所長、支配人、主任等法人の機構上定められている使用人たる職務上の地位をいう」ものとされており、「総務担当」「経理担当」のように特定部門の職務を統括することを呼称するものは含まれない(法基通9-2-5)。 この要件は、法人がどのような地位を付しているかという言わば形式的な要件であり、実務上、問題となることは多くない。 実務上問題となるのは、より実質的な要件である、「常時使用人としての職務に従事する」といえるか否かである。 エ 「常時使用人としての職務に従事する」 その者が「常時使用人としての職務に従事する」といえるか否かは、事実認定の問題であるが、一般には、使用人としての使用従属性の有無について実質的に判断することが必要であるといえる。 具体的には、会社の規模、会社組織の体制・機構、その者が会社経営上に占める役割の重要性、他の役員との業務内容の比較、その者による実質的な代表行為の有無など、会社の実態、その者の会社における実質上の地位役割その他の事情を勘案し、具体的事案に即して決せられるべきである(福岡高判昭和34年6月10日・行集10巻6号1093頁、岡山地判昭和33年9月22日・税資26号947頁参照)。 例えば、事務員がゼロかほとんどいない小規模な会社であれば、役員であっても一般事務を行うことは通常であり、使用人に委ねられるべき一般事務を担っていることのみをもって、重要な業務を担当する役員が使用人兼務役員に該当するとはいえないことが多い。 他方、意思決定を専権として行う役員がいる会社であれば、会社の業務執行に従事する役員であったとしても、それが意思決定者の補助者として従事しているにすぎないと認められる場合には、なおその者は使用人兼務役員に該当し得ることになる。 (4) 小括 以上、2回にわたって検討してきたように、「みなし役員」あるいは「使用人兼務役員」の要件に該当するか否かという役員の範囲をめぐっては、実際の法人内部における各人の職務の具体的な状況についての事実認定が問題となることが多い。 そのため、これらの要件該当性について判断するに当たっては、会社内における各人の職務の実態について事実関係を適切に把握し、整理することが重要であるといえる。 (了)
#2(掲載号)
#木村 浩之
2013/01/17
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第2回】「平成24年分の申告から適用される改正事項①」

平成24年分 確定申告実務の留意点 【第2回】 「平成24年分の申告から適用される 改正事項①」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   【1】 はじめに 平成24年分の所得税から適用される改正事項は様々なものがあるが、ここでは所得控除関係、住宅取得関係、譲渡所得関係(株式等の譲渡、土地建物等の譲渡)、その他の改正に分類し、主な改正の内容について解説する。   【2】 所得控除関係 (1) 生命保険料控除の改正 生命保険料控除に介護医療保険料控除が加わり、控除額の合計額が最高12万円とされた。 平成23年分までの生命保険料控除は、一般の生命保険料控除と個人年金保険料控除から構成されていた。平成24年分以後は、この2つに介護医療保険料控除が加わることとなった。 一般の生命保険料控除、個人年金保険料控除、介護医療保険料控除は、保険契約の締結時期が平成24年1月1日以降(新契約)か平成23年12月31日以前(旧契約)かによって、別の計算式を適用し計算する。 また、適用限度額は、平成23年分までは合計10万円であったが、平成24年分以降は合計12万円となる。 なお、具体的な控除額の計算方法については、拙稿「平成24年分 おさえておきたい年末調整のポイント①」(Profession Journal創刊準備2号掲載)で解説している。 (2) 医療費控除の改正 医療費控除の対象となる医療費の範囲に、介護福祉士による喀痰吸引等及び認定特定行為業務従事者による特定行為の対価が加わった。 喀痰吸引等は、原則として医行為に該当するため、医師法等の定めにより医師や看護職員以外の者が行うことはできないものとされていた。しかし、介護現場の実態やニーズを踏まえ、「社会福祉士及び介護福祉士法」が改正され、平成24年4月1日以後は医師や看護職員以外の介護業務従事者も、医師の指示の下に診療の補助となる一定の行為(喀痰吸引等)を行うことができることとされた。 この改正に伴い、医療費控除の対象となる医療費の範囲に介護福祉士による喀痰吸引等及び認定特定行為業務従事者による特定行為の対価が加えられた(所法73②、所令207七)。 喀痰(かくたん)吸引等とは、口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部の喀痰吸引、及び一定の経管栄養をいい(社会福祉士及び介護福祉士法施行規則1)、認定特定行為業務従事者とは、介護の業務に従事する介護福祉士以外の者で、一定の研修の課程を修了したと都道府県知事が認定した者をいう(社会福祉士及び介護福祉士法附則3①)。 また、特定行為とは、喀痰吸引等のうち認定特定行為業務従事者が修了した上記研修の課程に応じて定める一定の行為をいう(社会福祉士及び介護福祉士法附則3①)。 (3) 寄附金控除、寄附金特別控除の改正 支出した寄附金が寄附金控除及び所得税額の特別控除の対象となる認定NPO法人の範囲が改正された。 認定NPO法人とは、NPO法人のうちその運営組織及び事業活動が適正であること、並びに公益の増進に資することにつき一定の要件を満たすものとして認定を受けた法人をいう。 認定NPO法人に対し、特定非営利活動に係る事業に関連する寄附金を支出した場合には、寄附金控除又は所得税額の特別控除のどちらか有利な制度を選択し適用することができる。 従来は、認定NPO法人の認定を国税庁長官が行っていたが、「特定非営利活動促進法の一部を改正する法律」が施行されたことにより、平成24年4月1日以降は、都道府県知事又は指定都市の長が認定を行う新たな制度となった(国税庁長官が認定する制度は廃止)。 これに伴い、平成24年4月1日以降は、都道府県知事又は指定都市の長の認定を受けたNPO法人(認定NPO法人)、又は仮認定を受けたNPO法人(仮認定NPO法人)に対して、その認定又は仮認定の有効期間内に支出した寄附金が寄附金控除又は所得税額の特別控除の対象となる(措法41の18の2)。 ※ 仮認定NPO法人とは、設立後5年以内のNPO法人うち、その運営組織及び事業活動が適正であって特定非営利活動の健全な発展の基盤を有し公益の増進に資すると見込まれるものにつき一定の基準に適合したものとして、所轄庁の仮認定を受けたNPO法人をいう。 なお、平成24年以後に支出した寄附金のうちに、国税庁長官に認定を受けた旧制度に基づく認定NPO法人に対する金額がある場合には、当該NPO法人を新制度に基づく認定NPO法人とみなして寄附金控除又は所得税額の特別控除を適用する(特定非営利活動促進法の一部を改正する法律附則10⑤、⑥)。   【3】 住宅取得関連 (1) 住宅借入金等特別控除 認定低炭素住宅を取得した場合の住宅借入金等特別控除が創設された。 「都市の低炭素化の促進に関する法律」(以下、「エコまち法」)が制定されたことにより、認定低炭素住宅を新築又は建築後使用されたことのない状態で取得し、同法施行日(平成24年12月4日)から平成25年12月31日までの間に居住の用に供した場合には、以後10年間の各年において、住宅借入金等特別控除を適用することができる(措法41⑤)。 認定低炭素住宅とは、住宅の用に供する「エコまち法」に規定する低炭素建築物(二酸化炭素の排出の抑制に資する建築物)に該当する家屋で一定のものをいう(措法41⑤、エコまち法2③)。 各年分における住宅借入金等の年末残高の限度額及び控除率は次のとおりである(措法41⑤)。 なお、対象となる借入金の範囲や要件、適用を受ける場合の合計所得金額の上限(3,000万円以下)等は、通常の住宅借入金等特別控除の適用を受ける場合と同じである。 (2)  認定長期優良住宅を新築等した場合の所得税額の特別税額控除の改正 認定長期優良住宅を新築等した場合の所得税額の特別税額控除について、税額控除限度額が引き下げられ、適用期限が2年間延長された。 平成24年1月1日以後に認定長期優良住宅を居住の用に供した場合の税額控除限度額が50万円に引き下げられ(改正前100万円)、適用期限が平成25年12月31日まで2年延長された(措法41の19の4、平24改措法等附17)。   【4】 譲渡所得関係(株式等の譲渡) (1) 「上場株式等の譲渡」の範囲の改正 各種特例の適用対象となる「上場株式等の譲渡」の範囲が改正された。 「上場株式等の譲渡」については、譲渡損失の損益通算と繰越控除(措法37の12の2)及び譲渡所得等に対する軽減税率(平20 改所法等附43②)という特例を適用することができる。 その適用の対象となる「上場株式等の譲渡」の範囲に、信託会社の国内にある営業所に信託されている上場株式等の譲渡で、その営業所を通じて外国の証券会社への売委託により行うもの又は外国証券会社に対して行うものが加わった(措法37の12の2②九、十)。 この改正は、平成24年1月1日以後に行う「上場株式等の譲渡」について適用される(平24改措法等附14)。 (2) 特定中小会社が発行した株式に係る特例(エンジェル税制)の改正 特定中小会社が発行した株式に係る特例(エンジェル税制)の適用対象が改正された。 特定中小会社が発行した株式の取得に要した金額の控除等の特例(措法37の13)、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除等の特例(措法37の13の2)の適用対象に、地域再生法に規定する認定地域再生計画に記載されている一定の特定地域再生事業を行う株式会社(中小企業者に限る)に発行される株式で一定のものが追加された(措法37の13①四)。 この改正は、「地域再生法の一部を改正する法律」の施行日(平成24年11月1日)から適用される。 次回は、譲渡所得(土地建物等の譲渡)とその他の改正について引き続き解説を行う予定である。 (了)
#2(掲載号)
#篠藤 敦子
2013/01/17
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第6回】税率変更の問題点(5) 「売上返還・貸倒れの処理方法」

〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第6回】 税率変更の問題点(5) 「売上返還・貸倒れの処理方法」   アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩   1 売上げに係る対価の返還等をした場合の税額控除 税率改正に伴い、事業者が売上げに係る対価の返還等をした場合には、その税額控除(消費税法38条)の適用につき注意が必要である。 事業者が行った課税資産の譲渡等の時期が施行日前であれば、施行日後に売上げに係る対価の返還等を行った場合であっても旧税率が適用されることとなる。 具体的には、平成26年4月1日後に販売商品等の返品があった場合やその販売商品等の値引き又は割戻しを行った場合には、平成26年3月末日までに販売等を行ったものについては旧税率の5%(国税部分4%)、平成26年4月1日後に販売等を行ったものについては新税率の8%(国税部分6.3%)により税額控除を行うこととなるため、施行日後の課税期間においては、新税率適用分と旧税率適用分の税額控除が混在する可能性があり、慎重に対応しなければならない。 したがって、売上げに係る対価の返還等を行う場合には、その販売等を行った時期を明確に把握し、返品伝票や請求書等において販売時期や適用税率等を表示しておく必要がある。 また、月々の販売高や販売数量に基づいて売上割戻しや販売奨励金を支払うケースにおいては、締め日が月末でない場合に月末時点での区分が可能かどうかも踏まえて処理方法を検討しなければならず、注意が必要である。 なお、新税率適用分と旧税率適用分が混在する場合の税額控除額の計算式(国税部分)は以下のようになる。 この売上げに係る対価の返還等を行った場合、相手先である仕入れを行った事業者は、仕入れに係る対価の返還等として控除対象仕入税額の調整を行うこととなり、売上側の適用税率と仕入側の適用税率を一致させなければならず、取引内容によっては当事者間で事前に打合せを行う必要がある。 平成9年の税制改正において、販売商品等の返品処理を1月単位で整理し、例えば4月中に返品を受けた商品は3月中に販売したものとして継続して処理している場合には、平成9年4月中の返品については旧税率により処理することを認めていた。 ただし、この取扱いは、売上側の適用税率と仕入側の適用税率が一致しており、その返品伝票等にその適用税率を明記していることが条件となっていた。 今回の改正についても同様の取扱いを認めることが想定されるが、売上げに係る対価の返還等につき合理的な方法により継続して処理している場合で、返品伝票や請求書等において適用税率等を明記しなければ認められないことから、当事者間において適用税率などの記載事項も含めた処理方法について、事前に検討しておく必要がある。   2 売上げに係る対価の返還等をした場合の取扱い(上記1を除く) 消費税の計算において、売上げに係る対価の返還等をした場合には、上記1の税額控除規定以外にも 「基準期間における課税売上高・特定期間における課税売上高」の計算(消費税法9条) 「当課税期間の課税売上高(5億円の判定)・課税売上割合」の計算(消費税法30条) 「簡易課税制度」の計算(消費税法37条) において影響を及ぼすこととなり、注意しなければならない。 具体的な内容は、以下のとおりである。 ① 基準期間における課税売上高・特定期間における課税売上高 消費税における納税義務に関する規定において、基準期間における課税売上高及び特定期間における課税売上高は、それぞれの期間において行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した金額となり、売上げに係る対価の返還等の金額につき適用税率が異なる場合には、以下のような計算式になる。 ② 当課税期間の課税売上高・課税売上割合 仕入税額控除に関する規定において、5億円の判定で使用する当課税期間の課税売上高は、当課税期間に行った課税資産の譲渡等の対価の額の合計額から売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した金額となることから、売上げに係る対価の返還等の金額につき適用税率が異なる場合には、上記①と同様に計算することとなる。 また、仕入税額控除の計算で使用する課税売上割合は、当課税期間中に国内において行った資産の譲渡等の対価の額の合計額のうちに課税資産の譲渡等の対価の額の合計額の占める割合となる。ここで言うところの課税資産の譲渡等の対価の額の合計額は、売上げに係る税抜対価の返還等の金額の合計額を控除した金額となることから、売上げに係る対価の返還等の金額につき適用税率が異なる場合には、上記①と同様に計算することとなる。 ③ 簡易課税制度 仕入税額控除において、簡易課税制度を採用する場合における控除税額は、以下の算式により計算する。 また、みなし仕入率を計算する場合において、各業種別の消費税額をそれぞれ求めることとなるが、その計算式は以下のようになる。 上記のように売上げに係る対価の返還等があった場合において、旧税率適用分と新税率適用分が混在する場合の処理については、様々な規定に影響を及ぼすこととなり、それぞれの計算式が複雑になることから注意が必要である。 さらに、適用税率を誤って処理した場合には、修正しなければならない項目が多岐にわたることから、適正に処理できるよう細心の注意を払わなければならない。   3 売掛金等が貸し倒れた場合の取扱い 上記1と同様に、事業者が行った課税売上げに係る売掛金等の債権が貸し倒れた場合に係る税額控除(消費税法39条)についても注意が必要である。 課税売上げに係る売掛金等の債権が貸し倒れた場合には、貸し倒れた時期が施行日後であっても、その課税資産の譲渡等を行った時期が施行日前であれば旧税率により処理することとなる。 したがって、その貸倒れとなった売掛金等がいつ売り上げたものなのかを明確にしておく必要がある。 また、貸倒れの場合、売り上げた時期と貸し倒れた時期との時間的なズレが長期となるケースが少なくないため、旧税率適用分の貸倒れに係る税額控除と新税率適用分の貸倒れに係る税額控除が混在する可能性が高いので、注意しなければならない。 さらに、今回の税率変更が平成26年4月1日に8%(国税部分6.3%)、平成27年10月1日に10%(国税部分7.8%)と短期間に2度の改正が行われることから、貸倒れに係る税額控除が5%(国税部分4%)の税率も含めると3つに区分して計算することも考えられ、その取扱いについては慎重に対応すべきである。 なお、3つに区分して処理する場合の税額控除の計算式(国税部分)は以下のようになる。 前期以前の消費税の計算において、貸倒れに係る消費税額として税額控除を行った後にその売掛金等の全部又は一部を領収したときは、貸倒回収に係る税額(控除過大調整税額)として課税標準額に対する消費税額に加算することとなるが、この場合における適用税率は、その売上時に適用された税率により処理しなければならない。 したがって、貸し倒れた場合における処理と同様に、いつ売り上げた売掛金等に係るものなのかを明確にする必要がある。   4 旧税率が適用された取引がある場合の添付資料(付表)について 消費税の確定申告を行う場合には、消費税の確定申告書に付表を添付して提出することとなる。 この付表について、仕入税額控除につき原則課税を適用する場合には、付表2の「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表」を添付することとなるが、平成9年の税制改正以後の申告において、旧税率の3%が適用された取引がある場合には、付表2ではなく、付表1の「旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表【経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用】」及び付表2-(2)の「課税売上割合・控除対象仕入税額等の計算表【経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用】」を添付することとなっている。 同様に、仕入税額控除につき簡易課税を適用する場合には、通常であれば付表5の「控除対象仕入税額の計算表」を添付することとなるが、旧税率の3%が適用された取引がある場合には、付表5ではなく、付表4の「旧・新税率別、消費税額計算表兼地方消費税の課税標準となる消費税額計算表【経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用】」及び付表5-(2)の「控除対象仕入税額の計算表【経過措置対象課税資産の譲渡等を含む課税期間用】」を添付することとなっている。 今回の改正においても平成26年4月1日以後に消費税の確定申告を行う際に添付する付表については、旧税率(5%)が適用された取引がある場合、付表2や付表5ではなく、経過措置として別の付表を添付することが想定されるので注意が必要である。 (了)
#2(掲載号)
#島添 浩
2013/01/17
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第2話】「更正の請求期間の延長」

小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第2話】 「更正の請求期間の延長」   公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「田村上席」 山口調査官は、横に座っている田村上席調査官に向かって声をかけた。 田村上席調査官は、午後から、税務調査後の調査報告書を書いている。その手を止めて、怪訝そうに山口調査官の顔を見る。 「何?」 「・・・あの・・・」 山口調査官は、少し口ごもりながら、応える。 「税務調査で、納税者から修正申告を提出してもらうケースのことなんですが・・・」 山口調査官は、手に持っている平成23年度税制改正の資料を田村上席調査官に見せる。 「更正の請求のことなんですが・・・これって、修正申告を提出しても、法定申告期限から5年以内であれば、納税者からその是正を求めることができ、また、税務調査が終わった後、税務署が修正申告を勧奨する場合、納税者が修正申告書等を提出する際、更正の請求をすることができる旨をわざわざ説明しなければならない・・・」 山口調査官は、少し不満そうに言葉を続ける。 「・・・そうすると、このような改正によって、今までのように、納税者と税務署との話し合いで決着を付けにくくなるのではないですか?」 山口調査官は、父親ほどの年齢差のある田村上席調査官の顔をうかがう。 「・・・納税者との話し合い?」 田村上席調査官は惚けたように聞き返す。 山口調査官は、少し苦笑いしながら、説明する。 「・・・例えば、棚卸資産の洩れと交際費等の課税を税務調査で指摘したとします。そして、交際費の範囲について、納税者と税務署の意見が異なったとき、話し合いで増差所得を調整して、修正申告を提出してもらうケース・・・つまり、何らかの事情で、交際費を課税する代わりに、棚卸資産の洩れはなかったことにする・・・そんなケースで修正申告書を提出しても、後で、交際費について更正の請求を出してくると・・・これって、税務署側にとって不利なんじゃないですか?」 田村上席調査官は頷く。 「そりゃあ、そんなことも考えられるが、納税者が、そんな更正の請求を提出してきた場合、更正の請求の調査で、棚卸資産の洩れを再度考慮して、更正の請求を認めるか否かの判断をすればいいだろう」 「更正の請求の内容以外の事項についても、調査の対象として、判断しても構わないのですか?」 山口調査官が尋ねる。 「もちろん、その場合、課税標準ないし税額の総額がいくらであるかが調査の対象になる。いわゆる総額主義で、提出された「更正の請求」の内容が判断されることになるだろう」 山口調査官は頸を傾げながら、質問を続ける。 「しかし、調査報告書の中には、さっき言ったような、納税者との駆け引きを詳細な記録として残せないでしょ。その調査を担当した人は、当然、棚卸資産の洩れなどについて、納税者と交渉して見逃してやったなんて、書けませんよね」 田村上席調査官は苦笑する。 「確かに、山口君の言うとおりだ・・・。そんなことを書いたら、上司の決裁が通らないからな」 田村上席調査官は、机の上に置かれている自分の調査報告書を見て苦笑する。 今目の前にある調査報告書も、上司である統括官等の決裁が通るように、自分に都合の悪いことは省略している。 「この調査報告書も、自分に都合の良い作文だから・・・納税者との交渉で棚卸資産の計上洩れを見逃したなんてこと、おめおめとは書けない・・・」 田村上席調査官は苦笑いしながら、呟くように言う。 「ということは、更正の請求の調査担当者は、結局、納税者が主張する交際費課税の妥当性(争点)のみを調査することになるのではないですか?」 山口調査官は、語気を強めて田村上席調査官に反論する。 「更正の請求の期間が原則5年に延長されたということは、今後、納税者と税務署との曖昧な交渉は、簡単にはできなくなったということを意味しているんだろう・・・」 田村上席調査官は、もう一度、平成23年度税制改正の書かれた資料を見る。 「そうか・・・平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税については、更正の請求ができる期間が法定申告期限から原則として5年に延長されたのだから、もうじき、これらの税務調査がスタートするから、これからの税務調査もやりにくくなって、厄介になるかもしれない・・・」 田村上席調査官は渋い顔をする。 「しかし、田村上席。更正の請求をする際には、納税者は「事実を証明する書類」の添付が必要となっていますし、また「偽りの記載をした更正の請求書を提出した者」に対しては、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が創設されていますから、以前より少し厳しくなったのでは?」 山口調査官は曖昧に笑った。 「・・・もっとも、このような規定がどれだけ効果があるか分からないが・・・しかし、今回の「更正の請求期間の延長」の改正は、納税者にとっては有利なんだろうな」 田村上席調査官の言葉に、山口調査官は大きく頷く。 「今までのように、修正申告書を納税者に提出させれば、それで一件落着とはいかなくなったのですから、税務調査も簡単に終了しそうにないですね・・・」 「そうだなあ・・・更正処分も修正申告も、納税者にとっては、調査後、不服申立てをするのか更正の請求を提出するのかの違いで、共に税務調査での結果の是正を納税者側から要求することができることになったのから・・・」 田村上席調査官は、机の上に置かれている書きかけの調査報告書を見る。 「・・・これからは、納税者から修正申告書が提出されたとしても、調査報告書には、更正の請求が提出されることを前提として、詳細に記録しておかなければならないな・・・」 田村上席調査官は、もう一度、その調査報告書を見直すことにした。 (つづく)
#2(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/01/17
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「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の見直しをめぐる実務への影響(2)

「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の 見直しをめぐる実務への影響(2)   税理士 齋藤 和助   1 会計検査院の指摘内容 前回、詳解したように、会計検査院の指摘内容は、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合の取得費加算額を、「その譲渡した土地等に対応する相続税相当額」から「その者が相続したすべての土地等に対応する相続税相当額」に改めた改正(以下「平成5年改正」という)は、特例を取り巻くその後の状況が大きく変化した結果、その必要性が著しく低下しているとし、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うよう求めるものであった。 平成5年改正が見直され、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合、その譲渡した土地等に対する相続税額のみを取得費加算の対象とする本来の制度に戻った場合には、実務上どのような影響が考えられるのであろうか。 今回は、見直しが行われた場合の実務への影響について考えてみたい。   2 具体例による検証 平成5年改正が見直された場合の影響額について、数字を使って具体例で検証してみると、以下のようになる。 具体例は、会計検査院が問題視した加算割合※1が譲渡割合※2を50ポイント以上上回るケースである。 このケースでは、平成5年改正適用時と不適用時で取得費加算額が1億円減少し、譲渡所得税は2,000万円増加している。 土地等を多く相続し、その一部を譲渡した者は取得費加算上著しく有利な状況となっていることがよくわかる。 ※1 相続した全ての土地等に対応する相続税相当額に対する取得費加算額の割合 ※2 譲渡した土地等に係る相続税評価額が相続した全ての土地等に係る相続税評価額に占める割合 上記の例では、相続税評価額が時価の8割であると仮定して譲渡価額を設定しているが、取得費加算が見直された場合には、時価で譲渡できたとしても、相続税額の完納はできないため、相続財産の中に預貯金等がない場合、とりわけ相続財産のほとんどが土地の場合には物納の検討が必要となる。   3 譲渡か物納か 相続財産のほとんどが土地の場合には、譲渡所得税が増加すれば、物納を検討する必要がある。したがって、このようなケースにおいては、相続財産である土地を譲渡した場合と物納した場合との有利選択に必要な資料を事前に提供する必要がある。 この場合、ポイントとなるのが土地の取得時期や取得価額である。 相続税の申告上、今まではあまり気にせずに済んだことだが、上記有利選択には「いつ」「いくら」で取得した土地なのかが重要な要素となる。「いつ」は税率に、「いくら」は譲渡所得金額に影響する。 例えば、取得後5年以下の土地を譲渡した場合には39%(所得税30%・住民税9%)の譲渡所得税がかかる。また、同じ相続税評価額の土地であっても、先祖伝来の土地で譲渡価額の5%が取得価額となる土地と、高い時期に購入し、譲渡価額を上回る取得価額のある土地とでは譲渡の際の税負担が異なるため、相続税法上同じ価値とはいえ、所有財産としての価値が違うといえる。 これらの要素は相続財産のほとんどが土地であり、納税資金のない相続人にとっては、以前にも増して必要な情報となる。   4 物納に対する事前準備 上記有利選択で物納有利が判断された場合でも、簡単に物納が認められるわけではない。平成18年度の税制改正により、物納の状況も以前とはだいぶ事情が違っている。 改正前はとりあえず物納申請しておいて、譲渡先を探し、譲渡できたら延納や金銭一時納付に切り替えることが実務上行われていた。しかし、平成18年度の税制改正により、納付順位の厳格化や、物納申請財産の適格性が以前にも増して求められるようになっている。 それぞれの実務におけるポイントを挙げると、以下のようになる。 (1) 相続税納付順位の厳格化 相続税の納付は、金銭一時納付が原則である。そして、一時納付の例外として第二順位の延納が、金銭の例外として第三順位の物納が認められている。 したがって、第三順位の物納が認められるためには、第一順位の金銭一時納付、第二順位の延納が不可能であることを納税者自らが示す必要がある。このために用意されているのが『金銭納付を困難とする理由書』である。 改正前は提出さえしておけば認められた感のあるこの理由書であるが、改正後は申請者である相続人の生活費があらかじめ印字されているなど厳格化されている。 物納を認めてもらうためには、まず、この理由書の記載がポイントとなる。 (2) 物納申請財産の適格性 物納申請財産の適格性も、厳しく求められている。 土地に関しては、隣地との境界が不確定なものなども、以前であれば容認されていたが、改正後は物納申請の審査期間が原則3ヶ月に法定化され、申請者による延長届出も最長1年とされたことから、申請の段階で管理処分不適格財産として認められない可能性がある。 したがって、相続財産のほとんどが土地等であるような場合には、物納を想定して、生前に測量等を行い、隣地との境界線を確定するなど、物納財産としての適格性を満たしておくよう生前対策を行う必要がある。   5 おわりに 今回の会計検査院の指摘は、過度な取得費加算を認めるがゆえに譲渡所得税が減少している部分を捉えてのものであり、データに基づいた説得力のある指摘であるといえる。 実際に前回詳解した会計検査院のデータによれば、平成5年改正により増加した取得費加算額は786億円、これによる所得税額の減少額は118億円とある。 しかし、反面、取得費加算が過大に使えることによる、物納の減少による税務署側の事務処理負担の軽減や、土地譲渡の促進等の副次的なプラス効果があったことも見逃してはならない。 もし、見直しが指摘通りに行われた場合、分析されていないこれらのプラス効果にどれだけ影響が出るのだろうか。 財務省の今後の動向に注目していきたい。  (連載了) 【参考】国税庁ホームページ 「様式集(延納・物納関係)」 ※「金銭納付を困難とする理由書」(Wordファイル)あり
#2(掲載号)
#齋藤 和助
2013/01/17
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載2〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第2回】会社法における実態貸借対照表の作成義務と法人税申告

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載2〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第2回】 会社法における実態貸借対照表の 作成義務と法人税申告   公認会計士・税理士 武田 雅比人   B社は、以下の貸借対照表のとおり、実態としては債務超過の状態にあり、この度、解散をすることになりました。 会社が解散した場合には、清算人は処分価格による貸借対照表を作成しなければならないと聞きましたが、これは、法人税制上の期限切れ欠損金の損金算入のために作成する「実態貸借対照表」(法規26の6三、法基通12-3-9)と同じものであると考えてよいのでしょうか。 また、実態貸借対照表とは、継続記録に基づく通常の貸借対照表とは異なるのでしょうか。   1 会社法は従来から処分価格による実態貸借対照表の作成を要求 会社法上、清算人は、その就任後遅滞なく、清算株式会社の財産の現況を調査し、法務省令で定めるところにより、解散日における財産目録及び貸借対照表を作成しなければならない(会社法492①)とされています。 財産目録では、解散日における処分価格を付さなければならず(処分価格を付すことが困難な場合を除く)、清算株式会社の会計帳簿については、財産目録に付された価格を取得価額とみなすこととされています(会社法施行規則144②)。 この財産目録は、資産、負債及び正味資産の3つの部に区分して表示します(会社法施行規則144③)。 清算開始時の貸借対照表は、財産目録に基づき作成しなければならず、処分価格により表示したものを作成し、資産、負債及び純資産の3つの部に区分して表示し、処分価格を付すことが困難な資産がある場合には、その資産に係る財産評価の方針を注記しなければなりません(会社法施行規則145)。 従来、実務においては、継続企業と同様の計算書類を作成しているものも少なくなかったと考えられますが、平成22年度税制改正により、清算中の事業年度も継続企業と同様の通常の確定申告書を作成して提出することが必要となっています。 このため、会計帳簿は通常の継続記録のままとし、各清算事務年度末において資産を時価に評価替えをして会社法が規定する貸借対照表を作成することが多いと思われます。会社法では損益計算書の作成が必要ないことから、このような対応が実務的であろうと思われます。 なお、平成22年度税制改正において、解散した場合の期限切れ欠損金額の損金算入の措置(法法59③)が講じられたため、今後は、法人税制上の要請からも、債務超過会社等が処分価格によって清算事務年度に係る貸借対照表を作成する実務が定着することとなると考えられます。   2 法人税法上も処分価格による実態貸借対照表を要求 解散した場合の期限切れ欠損金額の損金算入(法法59③)に規定する「残余財産がないと見込まれる」かどうかの判定は、法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の現況により行うこととなります(法基通12-3-7)。 解散した法人がその事業年度終了の時において債務超過の状態にある場合には、「残余財産がないと見込まれるとき」に該当することとなります(法基通12-3-8)。 「残余財産がないと見込まれることを説明する書類」は、例えば、法人の清算中に終了する各事業年度終了の時の実態貸借対照表(その法人の有する資産及び負債の価額により作成される貸借対照表をいう)とされ、法人が実態貸借対照表を作成する場合の資産の価額は、その事業年度終了の時における処分価格によることとなります(法基通12-3-9)。 会社法では、清算人が作成する解散時点での貸借対照表は、解散日における処分価格(処分価格を付すことが困難な場合を除く)により作成されなければならず、会社法の規定にはないものの、会社法の趣旨からして、各事業年度末の貸借対照表もその各事業年度末時点での処分価格にて作成すべきものと考えられます。 他方、法人税においては、残余財産確定時までは評価損益を認識しません。 このため、会社法に基づく定時株主総会(会社法497)で承認された貸借対照表を「実態貸借対照表」として申告書に添付し、課税所得計算は申告調整で対応することになると思われます。 ところで、残余財産が確定した日が事業年度終了の日である場合には、残余財産がないと見込まれることを説明するための「実態貸借対照表」と会社法の貸借対照表は同じものとなるはずですが、これらの日が異なる場合には、残余財産確定時点では会計処理を行わずに作成した「実態貸借対照表」を法人税申告書の添付書類とすることが認められるものと考えます。 これは、簡便性の観点から、時価による評価替えを行わずに従前の帳簿価額により貸借対照表を作成していた場合においても同様です。 この場合、残余財産確定時点での実態貸借対照表を説明する資料は保管しておく必要があります。   3 実態貸借対照表作成上の留意点 実態貸借対照表においては、不良債権や繰延資産などの資産性のないものは計上せず、資産の売却(処分)見積額から売却(処分)に要するコスト見積額を控除することになると考えられます。 リース債務や従業員退職金、借入金の経過利息は精算し、未払法人税等などは計上することになります。 なお、その法人の解散が事業譲渡等を前提としたもので、その法人の資産が継続して他の法人の事業の用に供される見込みである場合には、その資産が使用収益されるものとして事業年度終了の時において譲渡されるときに通常付される価額によることとされていますので、ご留意ください(法基通12-3-9)。   4 法人税申告における留意点 法人税申告では、清算中も評価損益を課税対象としない通常事業年度と同一の法人税申告書を作成することになりますが、残余財産確定事業年度(残余財産の確定の日を末日とする事業年度)における申告においては、通常事業年度の申告とは異なる取扱いがありますので、注意が必要です。 ① 貸倒引当金等の繰入れ不可(法法52①・53①) ② 最後事業年度に係る事業税の損金算入(法法62の5⑤) ③ 非適格組織再編成による調整勘定の損金益金算入(法法62の8④・⑥二・⑦) ④ 一括償却資産の未償却額の損金算入(法令133の2④) ⑤ 繰延消費税等の損金算入(法令139の4⑨) また、法人税申告書には貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書等を添付(法法74③)することになりますが、会社法が作成を義務付けている貸借対照表・事務報告・附属明細書には、損益計算書や株主資本等変動計算書が含まれていません。このため、実務上は、法人税申告書に添付する決算書等については、評価損益を特別損益として明示して計上した損益計算書と実態貸借対照表・株主資本等変動計算書を添付することとなるのではないかと思われます。 ところで、資産処分益や債務免除益の発生を原因とする所得が多額であり、通常の所得・税額計算による納税見込額を負債として計上すると債務超過になるとして、期限切れ欠損金額の損金算入規定を適用して申告をする場合において、会社法の貸借対照表に計上される未払法人等は納税見込額であるため、結果として会社法の貸借対照表では債務超過にならないことがあり得ます。 このような場合には、「残余財産がないと見込まれることを証明する書類」として、期限切れ欠損金の損金算入規定を適用しないで計算した実態貸借対照表によって残余財産がないことを説明した書類などが必要となるものと思われます。 この詳細については、次回(第3回)の解説において説明することとします。 (了)
#2(掲載号)
#武田 雅比人
2013/01/17
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租税争訟レポート【第3回】納税者と法人が保険料を負担した養老保険に係る一時所得の計算(所得税更正処分等取消請求事件最高裁判決)

租税争訟レポート【第3回】 納税者と法人が保険料を負担した 養老保険に係る一時所得の計算 (所得税更正処分等取消請求事件最高裁判決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 1 養老保険の契約形態、保険料の負担 原告ら4名は、原告らの経営する法人を契約者として、以下の《図表》に示す養老保険に加入していたところ、満期保険金を受け取った。原告らに対する貸付金については、原告らが満期保険金を受領した際に、法人に対して返済している。 《図表》本件養老保険の契約形態 ※保険料の取扱い 《参考》通常の養老保険の契約形態 ※保険料の取扱い 2 一時所得金額の計算方法 原告らは、満期保険金に係る一時所得の金額の計算上、法人負担分も含めた保険料の総額を、所得税法34条2項に規定する「収入を得るために支出した金額」として確定申告を行った。 3 処分行政庁による更正 原告らの確定申告に対し、所轄税務署長らは、法人が負担した保険料について控除を認めない旨の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったため、原告らは、異議申立、審査請求を経て、本件訴訟を提起した。   【控訴審・第一審の判断】 控訴審判決は、一時所得の総収入金額から控除する額を、「その収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額(所得税法34条2項)」と定義したとしても、その文言には、「所得者本人が負担した金額に限る」とは規定しておらず、生命保険契約等に基づく生命保険金等の一時金が一時所得とされる場合に、その一時所得の金額の計算上控除される保険料等は、その一時金を取得した者自身が負担したものに限られるのか、それとも、その生命保険金等の受給者以外の者が負担していたものも含まれるのかについては、法文上必ずしも明らかではないとして、納税者の主張を認め、処分行政庁による更正処分等を取り消した。 しかし、この判決には、法人負担分を含めた保険料総額を控除すると、法人負担分が損金として処理され(法人税課税がされず)、かつ、個人に対する給与所得課税もされていないうえ、さらにこの部分が一時所得として課税されないこととなり、課税の公平を害することとなるという強い批判があった。   【最高裁の判断】 最高裁は、所得税法34条2項を、一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨であるから、一時所得に係る収入のうちこうした支出額に相当する部分は個人の担税力を増加させるものではないとし、「支出した金額」とは、一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額(下線:筆者)をいうと解するべきであると判示した。 そのうえで、同項の「その収入を得るために支出した金額」という文言も、収入を得る主体と支出をする主体が同一であることを前提としたものであり、一時所得に係る支出が「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないとして、法人が負担した部分の保険料を総額に算入することを認めず、納税者敗訴の逆転判決を言い渡した。   【解説】 本判決は、法律の規定を、その文章の意味どおりに解釈する文理解釈を優先するか、法の適用によって実現される目的を論理的に捉える目的論的解釈を優先するかが真っ向から争われた訴訟であり、控訴審までは、文理解釈によって、納税者の主張を認めている。 (控訴審判決一部抜粋) この考え方に、最高裁判決が反対していることは、須藤正彦裁判官の補足意見が示している。 しかし、ここで国税庁が行った法令改正に着目すると、上告審判決後、一時所得の計算において控除できる保険料又は掛金の総額は、使用人(役員を含む)の給与所得に係る収入金額に含まないものの額を控除して計算することが定められ(所得税法施行令183条4項3号、185条3項1号)、その後、通達も同趣旨に改正された。 『平成23年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)では、「養老保険を利用して関係法人から役員に資金を移転する租税回避の事例があることを踏まえ、これを適正化するため」に、「給与所得課税が行われたものに限る旨を明確化する」ことを目的にしているという解説がされている(同書87頁)。 課税当局は、上告審で指摘された「法令等の不備」を認めたうえで、改正により治癒を図ろうとしたわけだが、最高裁は目的論的解釈で租税回避行為を否定し、課税の公平を守ったものといえよう。 (了) 【参考】本件の判決文はこちら(裁判所ホームページ) ※PDFファイル
#2(掲載号)
#米澤 勝
2013/01/17
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会計リレーエッセイ 【第1回】「会計は平時の学問・実務なのか?~2011.3.11の大震災後に想う」

会計リレーエッセイ 【第1回】 「会計は平時の学問・実務なのか? ~2011.3.11の大震災後に想う」   青山学院大学大学院教授 八田 進二   2011年3月11日の東日本大震災を境に、わが国のあらゆる組織ないし機関、あるいは、既存の仕組みないしは秩序、さらには、人材育成に向けた教育の内容やその進め方等々に対して、根底からの見直しと改革が余儀なくされたのである。 つまり、先般の大震災は、その後の大津波、さらには全電源喪失に伴う原発事故を伴うとともに、そうしたほとんど未経験のリスクへの対応に、特定の企業ないしは組織だけでなく、国全体の対応があまりにも稚拙であり脆弱であったために、被災規模を限りなく増幅させてしまったことは、その後の複数の検証を通じて明らかにされたのである。 しかし、当初、一連の大災難等を前にして、科学者ないしは専門家と称される者の多くが、数多くのメディアを通して繰り返し異口同音に口にしていた言葉、すなわち「想定外であり」そして「未曾有のものだ」という台詞が今も耳に残っているのである。 確かに、日本人のほとんどが経験したことのない大災難であったことから、当初は、こうした発言に対してとりわけ違和感を抱くことはなかったものの、今、こうして、事後的に冷静な検証と分析がなされたことで、改めて原発事故の当事者たる関係者に対して多くの不信感と深い憤りを感じるのである。 それは、裏を返すならば、科学者ないしは専門家の発してきた言葉が、今般の事故が自分達の守備範囲とする専門領域での知見を遥かに超えるものであり、それゆえに、自らの責任は回避されるものであることを力説せんがためのものと解されるからなのではなかろうか。 一方、先の大震災を踏まえて、実に多くの専門家等により、大震災からの復活・復興とそれを踏まえての新たな発展を目途とした提言等が、見える形での著作物を通じて発せられてきているものの、会計の専門家ないしは専門家集団等からの提言等は、ほんの一部を除き、いまだ皆無に等しい状況にあることに対しては、失望にも似た焦燥感を抱かざるを得ない。 というのも、会計専門家の多くは、会計をして「事後的対応」に特化した業務領域であるとの認識からか、あるいは、会計や監査は平時の学問と解しているからなのかは定かではないが、少なくとも、国難ともされる緊急時ないしは非常時には、会計はまったく無力であると諦観してしまっているのでないかとさえ思えるからである。 それとごろか、会計ないしは会計学というのは、Accountingの翻訳語であり、本来の意味からするならば、「報告すること」「説明すること」さらには、「責任を負うこと」と訳出される「account for~」にそもそもの語源があるのであり、Accountingとは、単に、銭勘定の為の計算合わせの技術ないしは学問ではないということである。 つまり、権限を有する立場の者が、当人に課せられた使命(役割)を適切に果たすとともに、その経緯ないしは顛末について適時にかつ適切な情報開示(ティスクロージャー)を通じて、関係当事者(所謂、ステークホルダー)に対して説明責任を履行するといった一連の活動にこそ、会計の原点があるのであり、それは、まさに、民主主義社会および資本主義社会のインフラを成すものなのである。 加えて、今日、健全な経済社会構築に向けて会計に期待されている役割は、単に平時の事後的作業にのみ特化するのではなく、まさに、緊急時に備えての「事前的対応」に貢献することで、持続可能な健全経営を担保する役割を担うことにあると解されるのである。そのためには、「簿記」「財務会計」「管理会計」「監査」および「税務会計」といった旧態依然とした大学等における学科目に拘泥するのではなく、「リスク管理」「内部統制」さらには「コーポ―レート・ガバナンス」といった領域をも包含した、「広い視点の会計」へと頭を切り替えることが求められているのである(図表参照)。 会計の領域・役割 というのも、企業経営者が本来の説明責任を適切に履行するためには、単に財務情報といった結果情報のみに依拠すれば事足りる時代ではなくなってきているからである。 つまり、かかる情報は、健全な企業経営を推進してきたことの証しとしての信頼しうる説明材料でなければならず、そのためには、企業経営に係るリスクの適切な管理と、有効な内部統制の整備・運用および経営全般を規律付ける健全なコーポレート・ガバナンスが担保されていることが不可欠であるといえるからである。 その結果、万が一にも、企業経営に係るリスクが顕在化した時でも、適時かつ適切に透明性の高い情報開示を通じて、関係当事者の判断を円滑に行える道筋を提供できるものと思われる。 このように考えるとき、会計に携わるすべての関係者は過去の遺産に安住することなく、今こそ、事前的対応を目途として企業を取り巻くリスクの低減に向けた会計社会の推進に貢献すべきであろう。 (了)
#2(掲載号)
#八田 進二
2013/01/17
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