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〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第9回】「労働者の処遇、職場環境改善及び教育訓練に関連する助成金」

〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第9回】 「労働者の処遇、職場環境改善及び 教育訓練に関連する助成金」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 前回に引き続き、会社に対する国の支援制度(助成金)について触れていく。 今回取り上げるのは、労働者の処遇や職場環境の改善、教育訓練に対するものである。 両立支援制度と直接関連のある助成金ではないが、職場環境の向上や全労働者のスキルアップを図ることで、子を養育する労働者の両立支援をしやすくすることがある。 各種制度を導入・変更するときは、特定の社員(当連載では「出産・子を養育する社員」)だけに目線を向けて設計するのではなく、周囲の労働者のことや会社全体を良い方向に導いていくことも念頭に置きながら実施していきたい。   2 労働者の処遇、職場環境改善及び教育訓練に関連する助成金 (1) 中小企業労働環境向上助成金 中小企業労働環境向上助成金とは、雇用管理制度(評価・処遇制度、研修体系制度)の導入等を行う健康・環境・農林漁業分野等の事業を営む中小企業事業主に対して助成するものであり、雇用管理改善を推進し、人材の定着・確保を図ることを目的としたものである。 助成金が支給されるケースとして「評価・処遇制度の導入」がある。 業務の効率化や、引継ぎ、情報の共有、突発的に生じた作業への対応等の実施状況を評価し、能力を高めていくことで両立支援を実施しやすい職場へと変えていくことも可能となるであろう。   (2) キャリアアップ助成金 キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者のキャリアアップ等を促進するための取組みを実施した事業主に対して助成するものである。 例えば、子の養育のため短時間で就業している労働者の場合、子が成長し、育児に費やしていた時間が空いたときは、正社員と同様の働き方が可能となることもある。 その際は、この助成金のコースの1つである「正規雇用等転換コース」を利用することを検討していくとよい。 キャリアアップ助成金は、正社員転換のほか、処遇改善や人材育成など、以下の6つのコースで構成されている。 ※⑤の「短時間正社員コース」は、前回(第8回)触れた助成金と同じである。   3 おわりに 前述の助成金は雇用に関する助成金の一部を案内したものであり、他にも各種助成制度が設けられている。 以下は前回案内したものであるが、助成金の検索表やパンフレット等を利用して各社の施策に合ったものを見出し、活用していただきたい。 ■「雇用関係助成金」検索表 ■事業主の方のための雇用関係助成金 ■平成25年 雇用関係助成金パンフレット(簡略版) ※PDFファイル ■平成25年 雇用関係助成金パンフレット(詳細版)   (連載了)
#25(掲載号)
#佐藤 信
2013/06/27
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「消費税転嫁対策特別措置法」を理解するポイント

「消費税転嫁対策特別措置法」を 理解するポイント   弁護士 大東 泰雄   1 消費税転嫁対策特別措置法の成立 消費税率が段階的に引き上げられることを受け、平成25年6月5日、「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」(以下「消費税転嫁対策特別措置法」という)が成立し、平成25年10月1日※から施行されることとなった。 ※国及び都道府県が万全の体制を整備する旨の規定並びに内閣府設置法の一部改正は、平成25年6月15日施行。   消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を実現するため、平成29年3月31日までの時限立法として、 を定めるものである。 本誌Profession Journal No.7(2013年2月21日公開)の拙稿「消費税転嫁と独占禁止法・下請法」において、転嫁拒否等の行為や転嫁カルテル等に関する独占禁止法・下請法の特例立法措置が講じられる見通しであることを解説したが、その特例立法が、特別措置法の制定という形で実現したことになる。 そこで、今回は、同法の概要を速報することとしたい。   2 転嫁拒否等の行為の禁止 (1) 禁止される行為 消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の適正かつ円滑な転嫁を図るため、元々独占禁止法の優越的地位の濫用や下請法による取締り対象となり得る代金減額、買いたたき、購入強制、税抜価格での交渉拒否等の行為が消費税転嫁に関連して行われることを、特に禁止している。 もっとも、これらの禁止規定は、すべての事業者が対象とされるのではなく、「特定事業者」の「特定供給事業者」に対する行為のみが対象とされていることがポイントである。 「特定事業者」及び「特定供給事業者」の概要は、以下のとおりである。 そして、消費税転嫁対策特別措置法は、特定事業者が、平成26年4月1日以後に特定供給事業者から受ける商品・役務の供給に関して、以下の行為を行うことを禁止している(消費税転嫁対策特別措置法3条)。   (2) 公正取引委員会等の検査、指導等 公正取引委員会、主務大臣、中小企業庁長官は、前記転嫁拒否等の行為を是正するために必要があると認めるときは、特定事業者・特定供給事業者に対し、報告命令(書面調査)や立入検査を行うことができるとされている(消費税転嫁対策特別措置法15条1項)。 そして、転嫁拒否等の行為に対しては、各官庁等による以下の措置が定められている(消費税転嫁対策特別措置法4~6条)。   3 「消費税還元セール」の禁止 (1) 禁止される行為 消費税転嫁対策特別措置法は、事業者が、平成26年4月1日以後における自己の供給する商品・役務の取引について、以下の表示を行うことを禁止している(消費税転嫁対策特別措置法8条)。 これは、消費税の転嫁を阻害する表示を禁止するものであり、「消費税還元セールの禁止」などと大きく報道され、消費税転嫁対策特別措置法の中でも注目度の高いと思われる事項である。 上記表示の禁止は、前記転嫁拒否等と異なり、すべての事業者が対象とされることがポイントである。 なお、禁止される表示については、衆議院において法案の修文が行われ、対象範囲が狭められた経緯がある。 (2) 消費者庁長官等の検査、指導等 消費者庁長官※、公正取引委員会、主務大臣、中小企業庁長官は、前記表示を是正するために必要があると認めるときは、事業者に対し、報告命令(書面調査)や立入検査を行うことができるとされている(消費税転嫁対策特別措置法15条2項)。 ※内閣総理大臣から権限が委任されている。以下同じ。   そして、違反表示等に対しては、各官庁等による以下の措置が定められている(消費税転嫁対策特別措置法9条・4~6条)。   4 総額表示に関する特別措置 消費税法上、消費者に対して商品の販売や役務の提供などを行う場合には、本体価格に消費税額及び地方消費税額を含めた総額を表示しなければならないとされている(総額表示)。 しかし、今般の消費税率引上げは2段階にわたることもあり、対応には多大なコストと手間を要する可能性がある。 そこで、消費税転嫁対策特別措置法は、今次の消費税率引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁のため必要があるときは、現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置を講じているときに限り、税込価格を表示することを要しないとしている(消費税転嫁対策特別措置法10条)。 もっとも、これは特例的な措置であるため、できるだけ速やかに、税込価格を表示するよう努めなければならないとする努力規定もあわせて設けられている。   5 転嫁カルテル・表示カルテルの容認 同業者同士が話し合って製品等の販売価格を決めることは、カルテルとして独占禁止法により禁止されているが、消費税転嫁を円滑化するため、消費税転嫁対策特別措置法は、公取委に所定の届出を行った一定の転嫁カルテル・表示カルテルについて、独占禁止法を適用しないことにより、これを容認することとしている(消費税転嫁対策特別措置法12条)。 転嫁カルテルとは、例えば、同種の製品を製造するメーカー同士が話し合って、卸・小売に対し、引き上げられた消費税相当額を価格に上乗せすることを合意する場合である。ただし、転嫁カルテルが容認されるのは、カルテルに参加する事業者の3分の2以上が中小事業者である場合等に限られている。 表示カルテルとは、例えば、業界で話し合って、「消費税込価格」と「消費税額」を並べて表示するという方法を合意するような場合である。これは、中小企業に限らず、すべての事業者が特例の対象とされている。   6 まとめ 以上のとおり、消費税転嫁対策特別措置法は、消費税の円滑かつ適正な転嫁を実現するため、様々な措置を講じており、企業側でも適切な対応が求められる。 消費税転嫁対策特別措置法に関しては、今後、公正取引委員会等が必要な規則、ガイドライン等を公表する見通しであり、同法に適切に対応するには、これらが公表され次第、情報を入手し、各企業の実態に合った具体的な対応を検討することが不可欠である。 筆者も、ガイドライン公表等の動きがあり次第、本誌上において、解説を行う予定である。 (了)
#25(掲載号)
#大東 泰雄
2013/06/27
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民法改正(中間試案)―ここが気になる!― 【第4回】「債務不履行・損害賠償」

民法改正(中間試案) ─ここが気になる!─ 【第4回】 「債務不履行・損害賠償」   弁護士 中西 和幸   1 損害賠償にかかる改正の概要 前回は売買について解説した。 売買契約が履行されなければ、債務不履行であり、損害賠償請求の可否も選択肢の1つであることは、現行法でも中間試案でも変わらない。 今回は、中間試案でどこか変わった点があるのか、という点から損害賠償請求について解説する。無論、損害賠償請求は売買契約に限られるわけではないが、まずは売買契約を中心に解説したい。   2 因果関係と損害賠償の範囲等 (1) 過失責任主義 過失がなければ損害賠償責任を負わないという「過失責任主義」は、中間試案においても採用されている。 この点につき、免責、すなわち損害賠償責任を負わない事由について、契約における債務不履行の場合は「当該契約の趣旨に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるとき」とし、契約以外の債務(例えば交通事故等の損害賠償債務)については「その債務が生じた原因その他の事情に照らして債務者の責めに帰することのできない事由によるものであるとき」と規定している。 しかし、帰責事由の有無は場面場面によって認定が困難であり、条文の規定も抽象的にならざるを得ない。そのため、「当該契約の趣旨に照らして」としたところで、必ずしも明確になるわけではない。 むしろ、売買の際にも問題となったが、リスクを回避するために、契約書に契約の趣旨をもれなく記載しようとすると、記載が際限なく膨大となる可能性がある。 よって、中間試案は明確化を指向しているようであるが、実務上は意味をなさないし、かえって混乱してしまう可能性がある。 (2) 損害賠償の要件 債務不履行に基づく損害賠償については、債務の履行を求めない代わりに損害賠償を求めるものとし、損害賠償を請求したときは、同時に債務の履行を求められないとしている。 これを分類し、限界事由があるとき(履行不能)、契約解除、債務の履行を催告しても履行がないこと等が明記されている。 このように改正されることにより、契約の履行を求めつつ、損害賠償を求めることはできないことが明確になるので注意が必要である。 (3) 因果関係 債務不履行において賠償する義務がある損害は、相当因果関係にある損害とともに、いわゆる「特別損害」も賠償する義務がある。 この点について、中間試案は手を加え、「当事者」ではなく「債務者」が予見し又は予見すべき損害と変更し、債権者が予見しても特別損害に含まれないことになる(ただし、債権者が契約時に予見した損害を明確に伝えることで、債務者の予見すべき損害に含まれることになろう)。 また、予見可能性については、「契約の趣旨に照らして」との限定を付している。 そのため、「契約の趣旨」がこの場面でも重要となる。さらに、「契約締結後に初めて」「予見可能性ある損害」について、債務者が契約の趣旨に照らして相当な回避措置を講じたときは免責されるとする。 まとめると、通常生じる損害は賠償義務があるが、予見すべき損害も賠償義務があるが回避措置を講じれば免責されるということと解される。 結局、損害賠償の因果関係についても「契約の趣旨」が重視されることになる。また、この点は、現行法を変えているため、従来の判例や学説等がどこまで通用するか予測がつかず、裁判等で争いになったときに予測が容易でないことを注意する必要がある。 (4) 限界事由 中間試案では、履行不能という概念から「限界事由」という新たな用語が提唱されている。 ここでは、履行が物理的に不可能な場合、履行に要する費用が履行により得る利益と比べて著しく過大なもの(経済合理性)及び、契約の趣旨から履行請求が相当でないと認められる場合、の3種類が限界事由として列挙されている。 以上の点は、履行不能を3種類に分類したものである。しかし、まず、どの程度の経済的合理性を欠く場合に限界事由ありといえるか不明確である。また、「契約の趣旨」から認められる限界事由の内容は必ずしも明確にならない。 そうすると、限界事由を明確にするためには、契約書に記載しなければならないことになる。 結局、限界事由自身が中間試案によって特に明確になるわけではないことから、現実には、明確化のために契約書に明記しなければならないであろう。   3 その他の規律 (1) 代償請求 履行請求権の限界事由が生じたのと同一の原因により、債務者が債務の目的物の代償と認められる権利又は利益を取得した場合、債権者は、自己の受けた損害の限度で、その権利の移転又は利益の償還を請求することができるとされている。 すなわち、債務の履行が不能であってもその代償を取得した場合(例えば、建物売買契約で不可抗力により火災が発生して建物が消失したとしても、その保険金がこれに当たる)、その代償の移転を請求できるとする規定である。 この代償請求権は、明文がないものの判例上認められており、明文化されたことにより実務がさほど大きく変わるわけではないと予想される。 (2) 過失相殺 債権者に過失がある場合に、発生した損害を一定限度減額する過失相殺については、債務の不履行や損害発生・拡大の防止について債権者が相当な措置を講じなかったとき、と説明を変えているが、実質は変わらないものと想定される。 (3) 損益相殺 債権者の過失の有無ではなく、債権者が利益を得た場合は損害額を裁判所が調整できる損益相殺が明文化された。もっとも、現行法上でも実務において採用されているため、特段変化はないものと予想される。 (4) 金銭債務の特則 金銭債務の特則については、以下の通り改正されている。 債権者及び債務者の双方に変更点があり、バランスがとれている。 ① 損害額 現行法上、金銭債務については、法定利率を損害として超過損害額を否定する代わりに、証明不要としている。中間試案では、これを変更し、金銭債務であっても超過損害を証明すればこれを請求することができるとするものである。 この改正であれば、どのような場合に超過損害が認められるか不明であるが、金銭債務の不履行があった場合、超過損害額の主張/立証に挑戦し、失敗したとしても最低限法定利率の損害は認められるといった戦略も選択可能であろう。 ② 不可抗力 金銭債務について、現行法では認めていなかった不可抗力免責を認めている。 何が不可抗力かは明らかではないが、訴訟等において民事法定利率相当額の損害金も決して安価ではなく、ましてや、利息超過損害額を争うためには、不可抗力の主張/立証が必要であろう。 (5) 損害賠償額の予定 損害賠償額の予定について、現行法上は裁判所が増減できないと規定されているが、これを削除するとされている。もっとも、かかる条項は裁判実務では他の理論構成で回避されており、実務上の変更はないといえる。 また、中間試案では、著しく過大な損害賠償額の予定について一部制限する旨を規定するが、同様に裁判上制限する実務もあり、実務上の変更は実質的にはないものといえる。   4 実務への影響 以上の改正内容を整理すると、債務の履行及び損害賠償についても、「契約の趣旨」がついて回ることになる。確かに、債務不履行の多くの場面は契約に基づくものであろうから、中間試案の規定としてはやむを得ないかもしれない。 しかし、実務とすると、売買(第3回)でも述べたとおり、契約の趣旨を明確化するために、契約書の内容を慎重かつ手厚く書くことになり、契約書作成のための時間とコストが必要となり、また、契約の相手方も負担が増加することになる。 結局、中間試案では明確化を図ると説明されているが、これを鵜呑みにすることなく、当事者が努力をして明確化を実現しなければならないことが予想される。 また、損害賠償の範囲など、先例と異なる条項となるため、かえって分かりにくくなり、また交渉や裁判では先例を利用できず苦労が絶えないこととなる。すると、契約時は予測可能性がなくなるため、かかるリスクをどう扱うかが悩ましい。 現場としては、民法改正が実現したら、売買に限らず、各種契約書が分厚くなること、そのために書き、又読み、交渉する手間やコストがさらに増加することを覚悟しなければならないかもしれない。 (了)
#25(掲載号)
#中西 和幸
2013/06/27
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第4回】「KPIで評価するというアプローチ」 ~KPIを絞り込め~

顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第4回】 「KPIで評価するというアプローチ」 ~KPIを絞り込め~   株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦   はじめに 前回述べたとおり、スコアリングモデルは、経理財務を構成する18種類の業務について、「正確性」、「効率性」、「安定性」、「リスク管理」、「戦略性」の5つの視点で経営管理レベル向上の鍵となる評価指標の達成度をスコアとして表すものである。 具体的に経理財務部門のサービスレベルを評価するため、スコアリングモデルでは、経営管理レベルを向上させる鍵となる重要要素を抽出し、その達成度を測定するために適切な評価指標を設定している。評価指標の英語は、Key Performance Indicatorであるが、実務では、略してKPIと呼ぶ。 今回は、経理財務部門をKPIで評価するという考え方に馴染んでいただくため、具体例を示して解説しよう。   KPIの絞込みで参考にした外部ワーキンググループの声 経済産業省主導でスコアリングモデルを構築していた時点では、KPIとして数百個の評価指標が候補に挙げられていた。この数百個のKPI候補は、主として会計領域の専門的なコンサルティングを行うコンサルタントや会計監査に従事する公認会計士を中心に洗い出したものである。 しかし、数百個ではあまりにも数が多く、実務には到底使えないため、会社に無理なく受け入れられる数まで絞り込む必要が出てきた。 そこで、KPIの絞込みにあたり、各界から意見を募るため、監査法人、銀行、投資会社、IT関連会社、社団・財団法人など約40団体で構成されるワーキンググループを組成した(図表7)。なお、呼称は平成17年当時のままである。 図表7 ワーキンググループを構成したメンバー ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   ワーキンググループを構成するメンバーの立ち位置は様々であることから、その意見も様々であった。 例えば、監査法人や監査関係団体は、スコアリングモデルが、厳格な監査手続を経ないで行うアプローチを採用することから、KPIを絞り込むことに慎重であったものの、運用可能性を高めるためには、その絞込みに賛成した。 そこで、絞込みにあたり、評価の客観性や信頼性を高めるためには、評価項目が分かりやすいことと、その評価項目を裏付ける監査証拠を必ず入手することができ、その確認項目が明確であることを満たすことが必要であるとした。 他方、銀行団体、投資団体、格付会社、IT関連団体などは、会社を取り巻く利害関係者の中でも専ら利用者としての立場を鮮明にし、KPIの数はできるだけ少ない方が良いとした。 そして、貸借対照表や損益計算書に表される財務会計数値ではなく、そのような数値が作成される途中の業務プロセスのレベルを評価する非会計情報であること、業務プロセスは通常は定性的な性質を持つため評価が容易ではないことから、そのような本来的に定性的な事象を客観的に評価するために定量化できることが必要であるとした。 また、事業会社からの意見としては、評価に協力を得て、評価結果に納得してもらうために、KPIが評価対象となる経理財務部門が納得できる内容になっている必要があるというものであった。 そのために、日常的な経理財務実務の中で重要性が高いと思われる要点を評価項目として絞り込むべきとした。 そのような意見を参考に、KPIは最終的に137個まで絞り込まれた。   KPIによる評価とは スコアリングモデルによる評価実務として、読者が顧問先の会社からKPI素データを入手する調査に着手するためには、KPIを質問形式にした質問表を送付する必要がある。 経理業務、財務業務のKPIの例を示すと、いずれも日常的な管理項目から設定されていることが理解できると思う(図表8、図表9)。 図表8 経理業務のKPIの例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   図表9 財務業務のKPIの例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 表中の調査対象業務とは、そのKPIが18種類のいずれの業務に当たるかを示す。 また業務プロセスとは、18種類の業務をさらに適切な単位で区切った業務の単位を示す。 調査項目とは、経理財務部門が行うべき重要な管理項目であり、KPIとしての評価指標となる。これは、端的に特定の管理を行っているか否かを問う定性的な評価指標と、ある管理を行うにあたり利用しているインプットとしての投入資源(時間、人員)や、管理を行ったことによって産出されるアウトプットとしての付加価値の数量を問う定量指標に分かれる。 137個のうち6割強にあたる85個が定量指標、4割弱にあたる52個が定性指標となっている。 回答形式とは、KPIとしての調査項目に対して、どのような形式で回答することを想定しているかをあらかじめ示している。例えば、定性指標であれば、監査証拠に基づき「はい」又は「いいえ」で答えることを示している。定量指標であれば、インプットやアウトプットを数えて日数や百分率等で答えることを示している。   KPIによる評価の例 もう少し具体的な例として、図表8の売上・売掛債権管理から「製品・商品・サービスの提供完了日から起算して、販売管理情報システムへの売上データ入力日までの平均日数は何日ですか。日数を回答欄に記入してください。」という調査項目を取り上げてみよう。 ぜひとも、KPIを使った業務プロセスの評価という考え方に慣れていただきたい。 そもそもこの調査項目をKPIとして設定した背景には、売上金額及び売掛債権の発生額を適正に財務諸表に反映するという目標の達成がある。そしてその目標を達成するため、収益の認識要件が具備されたら売上データ入力を適時に完了するというコントロールを設定することが望ましいという価値判断がある。 そのコントロールの達成度を定量的に測定するKPIが、「販売管理情報システムへの売上データ入力日までの平均日数」である。 もし顧問先の社内でそのようなコントロールが整備、運用されていない場合、売上計上漏れ、期ズレ、売掛金の着服の隠蔽というリスクが懸念されることになる。 実際にKPIを測定するときは、監査証拠を具体的に特定して、日数を確認する。例えば、証拠として販売管理規程、システム出力される売上伝票、販売先からの検収通知書を閲覧し、検収日から入力日までの平均日数を確認するのである。そして、この日数を会社間で比較してスコアにすることにより、コントロールのレベルを測ることができる。 同じように137個のKPIについて素データを収集し、データベースの中で他社と比較して分析することにより、これまで気が付かなかった経理財務部門のサービスレベルがデータに裏付けられて明らかとなる。 次回は、スコアリングモデルが、これまでの取組みと決定的に異なる3つの特長を解説する。 (了)
#25(掲載号)
#島 紀彦
2013/06/27
労務・法務・経営 経営

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第11回】「高額医療機器の稼働率と画像診断管理加算」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第11回】 「高額医療機器の稼働率と 画像診断管理加算」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 過剰投資の危険性 我が国には、地域医療計画において基準病床数による病床規制は存在するものの、医療機器の配置規制がないため、CT・MRI等の高額医療機器が諸外国よりもはるかに普及している。 病院だけでなく、診療所でもCTやMRIが保有されている場合も少なくない。OECD諸国における人口100万人当たりのCT保有台数の平均が12.0台なのに対し、日本は43.1台、人口100万人当たりMRI保有台数についてはOECD平均が22.1台であるのに対し日本は97.3台と、過剰に配置されている。 かといって、病院としては診断機器がなければスムーズな医療提供に支障をきたすおそれもあり、優秀なスタッフを招聘してくることもできなくなってしまう。 ゆえに過剰な投資だとある程度理解していても、高額医療機器を買わないという選択肢を積極的に採用することは困難である。 ただし、設備関係費率が高い病院ほど、医業利益率が悪化する傾向があり、過剰投資は慎む必要があることは言うまでもない。   2 CT・MRIの稼働状況の違い 図表1は、高機能な急性期病院におけるCT・MRI等の高額医療機器の1日当たりの撮影件数である。 図表1 高額医療機器の稼働状況 A病院もF病院もDPC/PDPSにおけるⅡ群病院であり、一定水準の医療機能を有しているが、その稼働状況は著しく異なっており、およそ2倍の開きがある。 同じような高性能な診断機器を保有しているのであるから、A病院の方が経済性に優れており、医療資源が有効に活用されている。この違いは、外来化、土曜日の予定枠の拡大、救急医療への積極的な取組みが大きく影響している。 いずれの病院も平日の日中は高額医療機器の予約が先まで埋まっており、その使用状況に大きな差はない。しかし、A病院は入院中の検査を極力減らし、外来化を積極的に進めている。 これは、DPC/PDPSを導入する前から行ってきたことであり、入院中の診療プロセスを簡素化し、在院日数を短縮し、病床の有効活用のための取組みである。 それに対して、F病院では予定入院であっても入院中の画像診断が多く経済性に優れないばかりか、結果として術前日数がA病院よりも有意に長くなっている。 また、A病院ではMRIに関しては予約をスムーズに入れるために、土曜日についても予約枠を設けている。A病院は、土・日の一般外来は行っていないものの、MRIについては土曜日であっても撮影し、さらに読影できる体制を整備している。 さらに、A病院は救急医療において突出した実績を有しており、夜間等の時間外であってもCTやMRIなどの高額医療機器が常にスムーズに稼働できるようになっている。 前述したように平日の予約枠には大きな差はないが、救急患者への対応が高額医療機器の稼働に影響を及ぼしており、A病院は結果として優れた経済性が実現できるプラスのサイクルとなっている。   3 画像診断管理加算の意義 高額医療機器を有している以上は、フル稼働を目指すことが望ましい。 しかし、単純に撮影だけ行えばよいかというと、そうではない。読影の体制が整備されていなければ、適切な診断・治療につなげていくことは困難である。 診療報酬ではこの点が画像診断管理加算で評価されており、高性能機種を有する病院については画像診断管理加算Ⅱを算定することが望ましい。画像診断管理加算Ⅱを届け出るためには、8割以上の読影結果が、撮影日の翌診療日までに主治医に報告される必要があり、救急医療に注力する等で撮影枚数が多くなると当該加算の算定が困難になってしまう。 しかし、画像診断管理加算ⅠとⅡは、図表2に示す通り、110点の差がついている。 図表2 画像診断管理加算 さらに、図表3に示すように、2012年度診療報酬改定において高性能機種である64列以上のCTや3テスラ以上のMRIについて高い評価が行われたが、高点数を算定するためには画像診断管理加算Ⅱを届け出ていることが前提になっている。 図表3 コンピューター断層撮影診断料の見直し たとえ64列のCTを保有していても、画像診断管理加算Ⅱを届け出ていない場合には、16列以上64列未満のCTの点数を算定することになってしまう。せっかく高性能機種を有していても、高い評価が得られないという事態は避けたいものである。 今後も診療報酬改定において、画像診断管理加算Ⅱの持つ意義は大きくなるものと予想される。当該加算を算定することを前提とし、その影響を強めていくことは、実質的に高額医療機器の配置規制を行うことにもなりかねない。放射線の読影体制を強化することは容易ではないが、この点には十分に配慮した画像診断体制を整備することが期待される。   4 画像診断管理加算の算定状況 図表4は、全国の任意の100病院の画像診断管理加算の算定状況である。約26%が画像診断管理加算Ⅱを算定しており、約33%が画像診断管理加算Ⅰを、その他(算定なし)41%がいずれも届出がない施設である。 図表4 画像診断管理加算の算定状況 また図表5に示すように、病床規模別では、500床台で最も画像診断管理加算Ⅱの算定率が高かった。 高性能機種を有する病院は大規模病院が多いであろうことから、この結果は妥当であると考えられるが、届出がない施設については今後早急な対応を考えなければならない。 図表5 病床規模別画像診断管理加算の算定状況 (了)
#25(掲載号)
#井上 貴裕
2013/06/27
読み物 連載

女性会計士の奮闘記 【第6話】「たとえ言いにくいことでも・・・」

女性会計士の奮闘記 【第6話】 「たとえ言いにくいことでも・・・」   公認会計士・税理士 小長谷 敦子   〈ワンポントアドバイス〉 誠実に、お客様にとって何が最善の方法かを一生懸命に考え、それがたとえ言いにくいことであっても、臆せずお客様に提案することが必要です。 その姿勢がお客様に認められれば、さらに信頼が得られ、いろんな相談案件が舞い込んできます。 しかし、その提案は、経営者の判断に資するため、数字に裏付けられたものでなければなりません。 また、“鉄は熱いうちに打て” 期限を切って作り上げましょう。 (了)
#25(掲載号)
#小長谷 敦子
2013/06/27
読み物 連載

神田ジャズバー夜話 「2.田舎者」

初めて男が店に表れたとき、私はその風貌を見て笑ってしまった。髪の毛がワサワサと不定形のアフロヘアーのようで、スーツ姿の大きな体との取り合わせがなんとも可笑しかった。 「今、笑ったでしょ」 大きな長方形の顔から太い声が出た。口ヒゲの下にある唇は薄く引き結ばれ、黒ぶちの眼鏡の奥にある細い目から表情は伺い知れない。 「え、はい」少しビビり、半ば自棄で返事をした。 「でもいやな笑い方じゃなかったね」 「その髪型、ちょっと意外だったんで」 「そうかなあ」 そんなやり取りから打ち解け、男は自己紹介をした。木曽福島の産でもう還暦を過ぎ、今は新潟で土木業を営み仕事で月に一度ぐらい上京するという。 男は続けて東京駅の靴磨きの兄弟の話をした。内容はもう覚えていないが面白かった記憶はある。 酒は、すすめたアードベックを気に入り、ロックでそればかりを3杯飲んだ。 客の少ない店なので、私は毎日誰が何時に来たかをパソコンに記録している。名前を聞いていない客はその風貌や属性で「黒縁めがね」とか「名古屋IT男」などとする。 男は名乗ったが、名前よりもふさわしい「越後の怪人」にした。 その後も「怪人」は上京の度に来店した。いつも「怪人」の話は面白かった。 ある夜、「怪人」が私の教えた旨いトンカツ屋で隣席の見知らぬおねえさんを口説いたと、ここの常連であるそのトンカツ屋のマスターから聞かされた。コソコソするわけではなく普通の声でメールアドレスを訊いたらしい。 一ヶ月ほど前のこと。画廊の女にあなたはヘッセの『知と愛』を読むべきだといわれ、今読んでいると「怪人」は語った。それ以上の説明がなかったので、その前にどんな会話があれば女がヘッセをすすめるのか私には想像できなかった。 話好きの「怪人」は隣席の男にも話し掛けた。今の話に男は無反応だったが、何度か来店しているその男も話好きなので迷惑ではないだろう。 話題がお互いの仕事におよぶと男はカバンから資料を取り出した。 男は30代後半、神田の生まれで、イベント会社の2代目社長をしているという。 「ぼくは今こんなことしてんですよ」社長は自社で開発した特殊車輌や芸能人と一緒の写真を見せてのプレゼンを長々と続けた。 「怪人」は適当に相づちを打ちながら時々私の方を見ていたが、「あー、もうホテル行かなきゃ」と逃げだした。 私は以前からこの社長がなぜか不愉快だったが、やっとその理由が分った。自慢話ばかりだったのだ。 私は社長に「もう来るな」という意味のことを長々と時間をかけてやんわりと伝えた。 そして今夜も勢い良くドアを開け、「越後の怪人」がやって来た。 私はいつもその風貌を見て笑ってしまうが、今夜は一月前の逃げ出した怪人を思い出して笑っている。 「こないだは、つまんない客に捕まってましたね」笑いを噛み殺し、いつものアードベックをグラスに注ぎながら私は「怪人」の方を見た。 「越後の怪人」は大きな口をへの字にしてから、太い声で言った。 「ああいうのを田舎者っていうんだ」 (了)
#25(掲載号)
#山本 博一
2013/06/27
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《速報解説》 「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」の解説

《速報解説》 「国際会計基準(IFRS)への 対応のあり方に関する 当面の方針」の解説   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成25年6月19日、企業会計審議会は、「国際会計基準(IFRS)への対応のあり方に関する当面の方針」(以下「当面の方針」という)を公表した。 本稿では、当面の方針の概要について述べるが、具体的な内容を理解するために、ぜひ、「当面の方針」自体をお読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 「当面の方針」の内容 「IFRSへの対応のあり方に関する基本的な考え方」では、「単一で高品質な国際基準を策定する」という目標がグローバルに実現されていくことは、世界経済の効率化・活性化を図る観点から有効であるとし、我が国としてもこの目標を実現していくために主体的に取り組むことは重要であると述べるなど、多くの事項が取り上げられている。 なかでも、IFRS策定への日本の発言権を確保していくことがとりわけ重要となるとし、IFRS財団への人的・資金的貢献を継続するとともに、IFRS財団モニタリング・ボードのメンバー要件である「IFRSの使用(強制又は任意の適用を通じたIFRSの顕著な使用)」を勘案しながら、日本のIFRSへの態度をより明確にすることを検討していく必要があると述べていることは注目される。 「当面の方針」は、まずはIFRSの任意適用の積上げを図ることが重要であると考えて、次の事項について述べている。 1 IFRSの強制適用の是非等 我が国におけるIFRSの強制適用の是非等については、諸情勢を勘案すると、未だその判断をすべき状況にないものと考えられると述べ、今後、任意適用企業数の推移も含め今回の措置の達成状況を検証・確認する一方で、米国の動向及びIFRSの基準開発の状況等の国際的な情勢を見極めながら、関係者による議論を行っていくことが適当であるとしている。 そのうえで、仮に強制適用を行うこととなった場合には、十分な準備期間を設ける必要があると述べている。 2 任意適用要件の緩和 IFRSの任意適用要件のうち、IFRSに基づいて作成する連結財務諸表の適正性を確保する取組み・体制整備の要件は維持することとし、「上場企業」及び「国際的な財務活動・事業活動」の要件は撤廃する。 3 IFRSの適用の方法 ピュアなIFRSのほかに、我が国においても、「あるべきIFRS」あるいは「我が国に適したIFRS」といった観点から、個別基準を一つ一つ検討し、必要があれば一部基準を削除又は修正して採択するエンドースメントの仕組みを設けることが述べられている。 この結果、我が国においては、次の4つの会計基準が並存することになる。 4 単体開示の簡素化 現在、有価証券報告書においては、連結財務諸表の開示が中心であることから、制度の趣旨を踏まえ、単体開示の簡素化について検討することが適当であると述べられている。 単体開示の簡素化の方針について、本表(貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書)に関しては、大多数の企業が経団連モデルを使用している状況を踏まえれば、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とでは開示水準が大きく異ならないため、会社法の要求水準に統一することを基本とすることなどの考え方が示されている。 (了)
#24(掲載号)
#阿部 光成
2013/06/25
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「生産等設備投資促進税制」適用及び実務上のポイント 【第3回】「「生産等設備」及び「比較取得資産総額」の判定」

「生産等設備投資促進税制」 適用及び実務上のポイント 【第3回】 「「生産等設備」及び 「比較取得資産総額」の判定」   マネーコンシェルジュ税理士法人 税理士 村田 直   ◆「生産等資産」と「生産等設備」 前回の第2回では、対象法人や対象期間、繰越控除の有無など、要件の基本的な部分を確認した。 今回は、生産等設備投資促進税制の中心部分である、以下の要件判定部分について解説する。 上記要件の両方に、「生産等設備」という用語が登場する。まずは、この用語の意味を把握する必要がある。 平成25年度税制改正大綱には、下記の注意書きが記載されている。 生産等設備の範囲は、正式には通達で規定される予定であるが、現時点(執筆6/6)では、まだ発表されていない。 ただし、現行税法で既に施行されている「沖縄の特定地域において工業用機械等を取得した場合の法人税額の特別控除(租税特別措置法42条の9)」において、「生産等設備」の用語が登場する。 そのため、租税特別措置法基本通達42の9-1において、生産等設備の範囲が下記のように規定されている。 税制改正大綱の記載も、この通達を参考にしているものと推察される。詳細は通達の発表を待たなければならないが、現時点では上記の通達が最も参考になるだろう。 “生産等”設備であるため、生産に携わらない事務系設備は除かれる形になる。 なお、条文を確認すると、「一又は二以上の生産等設備を構成する減価償却資産(国内にある当該法人の事業の用に供する機械及び装置その他の政令で定めるものに限る。)」を「生産等資産」と定義している(措法42の12の2①)。 つまり、「生産等設備」を構成する減価償却資産が「生産等資産」であり、「生産等資産」は政令により、「国内にある建物、建物附属設備、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具・器具備品」とされており(措令27の12の2②)、大綱どおり、無形固定資産と生物は除かれる。   ◆「適用事業年度の減価償却費」は加減算の調整あり 「生産等設備」の定義がおおよそ把握できたところで、改めて、冒頭①の要件の把握に移る。 「国内における生産等設備への年間総投資額」が、「適用事業年度の減価償却費」を超えなければならないわけだが、今度は後半の「適用事業年度の減価償却費」の意味をはっきりさせる必要がある。 条文を確認すると、「当該法人がその有する減価償却資産につき当該適用対象年度においてその償却費として損金経理(略)をした金額」となっている(措法42の12の2①)。減価償却費については、会計上の償却費と税務上の償却費の金額が異なる場合もあり、その場合は、償却超過額や償却不足額が発生することとなる。 その取扱いが気になるところだが、この条文を見ると、“損金算入”ではなく、“損金経理”となっているため、税務上の償却費ではなく、償却費として、会計上、損金経理した金額を使うことが分かる。ただし、その金額をそのまま使うわけではなく、以下の3つの調整を加えることとなる。 1つ目は、特別償却準備金である。 損金経理の方法又はその適用対象年度の決算の確定の日までに剰余金の処分により積立金として積み立てる方法により、特別償却準備金として積み立てた金額は、上記の「適用事業年度の減価償却費」に加算する。 2つ目は、生産等資産に該当する機械装置の減価償却費についての調整である。 生産等資産のうち機械装置(取得をしたものにあっては、その製作の後事業の用に供されたことがないものに限る)の普通償却限度額を超えて、その機械装置につき償却費として損金経理をした金額(特別償却に関する他の規定により損金の額に算入される金額を除く)については、上記の「適用事業年度の減価償却費」から除かれる。 3つ目は、過去の償却超過額についての調整である。 法人税法31条4項の規定により、同条1項に規定する損金経理額に含むものとされる金額は除かれる。 具体的には、適用事業年度前の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかった償却超過額については、適用事業年度に償却不足額がある場合には認容減算され、償却費として損金経理をした金額に含まれることになるが、これらの金額は「適用事業年度の減価償却費」からは除かれることとなる。   ◆「比較取得資産総額」とは 次に、冒頭②の要件についてであるが、条文上は、「比較取得資産総額」の100分の110に相当する金額を超える場合、と規定されている。 「比較取得資産総額」とは、適用事業年度開始の日の前日を含む事業年度(以下「前事業年度」)において、その法人が取得等をした生産等資産でその前事業年度の終了の日において有するものの取得価額の合計額をいう。なお、前事業年度の月数と適用事業年度の月数とが異なる場合には、その合計額に適用事業年度の月数を乗じてこれを前事業年度の月数で除して計算した金額になる(措法42の12の2①、措令27の12の2③④)。 次回は、本制度の創設に伴い新設された法人税申告書「別表6(18)」の書き方や当初申告要件など、手続規定を中心に解説する。 (了)
#24(掲載号)
#村田 直
2013/06/20
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中小企業のM&Aでも使える税務デューデリジェンス 【第4回】「統合の形態により異なる税務の取扱い」

中小企業のM&Aでも使える 税務デューデリジェンス 【第4回】 「統合の形態により異なる税務の取扱い」   公認会計士・税理士 並木 安生   1 はじめに 前回までは主に「買収」に係る税務デューデリジェンスを取り上げたが、今回より、合併や株式移転に代表される「統合」の各形態の内容及びその税務上の取扱いやポイントについて、事例を交えて解説する。   2 統合の形態 B社のオーナー株主(個人)が、同業種(電子機器卸売業)を営む競合他社(A社)から両社の統合の申し出を受けたとする。この際、その統合の手法・形態によって税務上の取扱いが相違することになる。 以下、数値例を用いて解説する。 《A社及びB社に係る前提》 ●税務上の各数値は下表のとおりである。 ●A社及びB社共に電子機器卸売業のみを営んでいる。 ●両社共に負債は存在しない。 ●B社の資本金額は資本金等の額と一致しており、その額は200である。 ●オーナー株主のB社株式簿価は200であり、B社発行済株式の100%を保有している。 ●A社とB社との間には、統合前の時点で資本関係はない。   ① 合併のケース 競合他社(A社)が自社(B社)を吸収することで自社が消滅し、代わりにオーナー株主がA社株式の交付を受けるものとする(図①)。 これは「合併」という最も一般的な統合形態である。 図① 合併(適格のケース) [ステップ1] [ステップ2]   1) A社及びB社の税務 合併は組織再編税制の対象となる取引であり、適格要件の判定が必須となる。適格要件を満たさない場合は非適格合併となり、消滅する会社側(本ケースではB社)が有するすべての資産・負債にかかる譲渡損益を税務上認識しなければならない(適格要件の判定内容については次回解説)。 本事例が非適格合併に該当し、B社の有する資産の譲渡損益を認識しなければならない場合、B社では譲渡益100が課税対象として認識される(ただし、青色繰越欠損金30との相殺が可能である)。また、この場合は消滅する会社側の青色繰越欠損金は引継ぎができないこととなる(ただし本事例では、青色繰越欠損金30は譲渡益100と相殺され使い切られる)。 一方で、本事例が適格合併に該当する場合は、譲渡損益の認識は行われない。また、合併前に資本関係がない会社間の適格合併の場合は、青色繰越欠損金や、A社及びB社が将来保有資産を処分した際の譲渡損などが損金算入制限を受けることがないため、いわゆる「みなし共同事業要件」や「時価純資産超過額の特例」を検討する必要もないことになる。 2) オーナー株主の税務 本事例が非適格合併に該当する場合、仮にオーナー株主へ交付されるA社株式の時価が400であるとすると、この時価とB社株式簿価300との差額100が「みなし配当」として税務上認識される。この配当は個人の所得税上、累進税率が適用される総合課税の対象となる点に留意されたい。 一方、本事例が適格合併に該当する場合、オーナー株主では合併時点において課税関係は生じないことになる。   ② 株式移転のケース 上記①に記載した合併のようにA社とB社が1つの法人となるのではなく、A社及びB社を新たに設立した持株会社の100%子会社とすることでグループとして一体化を図り、A社株主及びオーナー株主は新たに持株会社の株式を受け取るものとする(図②)。 これは「株式移転」という統合形態であり、統合対象会社を別法人のまま残すことで会社の法的形式や組織風土の急激な変化を避けたい場合などに有効となる手法である。 図② 株式移転(適格のケース) [ステップ1] [ステップ2]   1) A社及びB社の税務 株式移転も合併と同様、組織再編税制の対象となる取引であり、適格要件の判定が必須となる。 適格要件を満たさない場合は非適格株式移転となり、統合対象会社のA社及びB社の一定の資産に係る評価損益を税務上認識しなければならない。この点、合併とは異なり、B社だけでなくA社の資産も評価対象となる。本事例の下で、A社及びB社の有するすべての資産が評価損益の対象となる場合、A社では評価損△200、B社では評価益100が認識される。 なお、合併の場合と異なり、適格又は非適格にかかわらず、株式移転によってA社及びB社の青色繰越欠損金や、A社及びB社が将来保有資産を処分した際の譲渡損などが損金不算入となることはない。 2) オーナー株主の税務 本事例の下では、株式移転に伴いオーナー株主はB社株式の代わりに持株会社株式を保有することとなり、現金等の交付を伴わないことを前提としている。 したがって、株式移転が適格又は非適格のいずれとなるかにかかわらず、株式移転の際には課税関係は生じないことになる(譲渡損益やみなし配当は税務上認識されないこととなる)。   3 まとめ 以上のように、いずれの統合形態を選択するかで、オーナー株主、買収対象会社並びに買い手の課税関係が異なることになる。この内容を踏まえた上で統合形態を選択・決定し、税務デューデリジェンスを実施することになる。 その詳細については次回解説する。 (了)
#24(掲載号)
#並木 安生
2013/06/20

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