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国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第6話】「修正申告の勧奨(その2)」

小説 『法人課税第三部門にて。』 【第6話】  「修正申告の勧奨(その2)」  公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   (前回のつづき) 「そうか・・・」 田村上席調査官は、両手を頭の後ろに当て、椅子の背にもたれながら、山口調査官の話を聞いている。 「納税者は、重加算税について不満があるのかな?」 田村上席調査官は、山口調査官に尋ねる。 「交際費も棚卸資産も、納税者の誤りであることは明らかなので・・・」 山口調査官が納税者の申告書を見ながら言う。 「ところで、重加算税については、理由附記は大丈夫なのか?」 田村上席調査官は、もう一度、重加算税について尋ねる。 「ええ、審理とも相談したのですが・・・棚卸の集計用紙には、10,000,000円と合計額を書いておきながら、その横に1,000,000円と記し、二重丸を付けて、小計欄の金額を1,000,000円としている・・・これって、明らかに隠ぺい・仮装に当たりませんか?」 逆に、山口調査官が田村上席調査官に質問する。 「納税者はどう言っているんだ?」 「経理課長は集計ミスだと言っているのですが・・・しかし、集計用紙の記載内容を見れば、作為的に棚卸の金額を書き換えているものと思われます」 山口調査官は、確信めいた口調で応えた。 「納税者からその件について、確認書を取っているのかい?」 「確認書?」 「・・・故意に棚卸数量を除外したとか・・・そんな文言の確認書だよ」 田村上席調査官の語気が強くなる。 「しかし・・・それって、最終的には、法的に意味のないものでしょう」 山口調査官は反論する。 「だが、相手に対して、後で文句を言わさない心理的な効果は十分にあるだろう」 田村調査官は自信を持って言う。 「おそらく、あの、調査結果の内容の説明等を口頭で説明したときの状況から推測するに、相手方はそんな確認書を提出しないでしょうね」 山口調査官は、経理課長の険しい顔を思い出しながら、答える。 経理担当者は、山口調査官の指摘に対して、黙ったままであった。 「経理課長の指示で、棚卸資産を減額したのかもしれない・・・」 山口調査官は、気弱そうな経理担当者の顔を思い出した。 「ともあれ、重加算税の理由附記を書くのはなかなか難しい」 田村上席調査官は、椅子に大きくもたれながら、呟く。 「今までは、重加算税について理由の附記など必要なかったのに、国税通則法の改正によって、また、仕事が増えましたね」 山口調査官は、苦笑いを浮かべた。 「・・・最近、重加算税を賦課決定するか否かについて、審理に尋ねても、なかなかすぐに回答してくれないんだ」 田村上席調査官は困った顔をする。 「それだけ、慎重になっているのでしょうね」 山口調査官も同情する。 「・・・しかし、今回のケースは、重加算税を賦課決定することは可能でしょう・・・棚卸の集計表の合計欄を書き直しているのですから、客観的にみて、隠ぺい・仮装しているものと判断できるでしょう。判例によると、このようなケースでは、故意の立証は、税務署には要求されない・・・」 「なかなか詳しいな・・・山口君は」 田村上席調査官は、山口調査官の言葉に感心する。 「これからは・・・修正申告書を提出してもらう代わりに、重加算税の賦課決定をしないというわけにもいかないだろうな」 田村上席調査官の独り言である。 「僕としては、どちらかといえば・・・交際費課税を見逃しても・・・重加算税は課したいですね」 山口調査官が田村上席調査官に言う。 「・・・しかし、交際費の処理については、明らかに納税者が間違っているだろう」 田村上席調査官の声が大きくなる。 「ええ、このケースの交際費については、有名な判決がありますから」 山口調査官は、納税者にコピーして渡した判決文を、机の横にあるキャビネットから取り出した。 東京地裁平成2年3月23日判決である。 「この判決文の中に、こう書かれています」 山口調査官は判決文の一部を読み上げる。 「この判決文を見て、納税者は納得したということですね」 田村上席調査官の言葉に、山口調査官は頷く。 「・・・そうか、そうすると、納税者が修正申告の勧奨に応じなかったら、更正処分を行うしかない。少し手間だけれど・・・いずれにしても、重加算税の理由附記については書かなければならないのだから」 「そうですね・・・この納税者に対しては、統括官に更正処分をすることを伝えます。たまには、更正処分の起案もしておかなければ、その処理を忘れてしまうから・・・」 山口調査官は、また苦笑いしながら、田村上席調査官に冗談を言った。 (つづく)
#16(掲載号)
#八ッ尾 順一
2013/04/25
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制─企業戦略への影響と対策─ 【第8回】「これまでのポイントを踏まえた対策と留意点」

〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第8回】 「これまでのポイントを踏まえた 対策と留意点」   アースタックス税理士法人 税理士 中村 武   前回までにおいて、本制度における「損金不算入額」計算、翌年度以降の「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入額」計算及び「主要他規定との調整項目」について確認してきた。 連載最終回となる今回は、これまで整理してきたポイントを踏まえ、本制度の導入に伴う既存案件への影響及び対策について考察を行う。 〈ポイント1〉 適用事業年度について 本制度は、平成25年4月1日以降開始する事業年度から適用されることとなる。 したがって、本邦内国資本系法人において一般的な3月末決算法人については、平成25年4月1日開始事業年度より既にその適用が開始されているが、外国資本系法人において一般的な12月末決算法人については平成26年1月1日開始事業年度より適用となり、その開始まで一定期間の猶予があるため、本制度の導入に伴う影響及びその対策を検討する期間が残されていることとなる。 ただし、本制度は所得金額に比して過大な支払利子について、その損金算入を制限しようとするものであるため、その対策は当該法人の「資本政策」に関わってくることとなり、長期的な視野による考察・分析に基づいた判断が必要とされるべきものであることから、一時的な納税額減額のために法人としてあるべき姿から離れた付け焼刃的な対策を取ることがないよう留意が必要であろう。 また、関連する各関連者への影響の策定及び必要な説明手続、金融機関との交渉等が必要となってくることが想定されるため、対策には相応の期間が必要と予想されることから、早期の対応が必要となることについて合わせて留意が必要と考えられる。 なお、本制度は創設の規定であるため、今後も状況に応じて適宜規定の改定が予想される。この場合にも、改定の内容及び適用開始時期には事前に十分な注意を払い、その対応が遅れることのないように、引き続き留意が必要と考えられる。   〈ポイント2〉 適用除外の検討I(1,000万円基準) 第5回で解説を行ったとおり、本制度は、「当該事業年度の関連者純支払利子等の額が1,000万円以下であるとき」には適用しないこととされている(措法66の5の2④)。 法人の規模にもよるが、1,000万円基準については、関連者からの借入金額を減少させることにより、関連者純支払利子の金額が基準以下になる可能性があるか、検討の余地があろう。 また、実務上の要請により、例えば既存法人について事業部ごとに分社化等が計画されているような場合には、分社を行うことによりこの基準を満たすような場合もあると予想されるため、検討の余地があろう。 なお、この適用除外規定を受けるためには、法人が確定申告書(中間申告書を含む)に適用除外に該当する旨を記載した書面及びその計算明細の添付があり、かつ、その計算に関する書類を保存している場合に限り適用されるため、留意が必要である(措法66の5の2⑤)。   〈ポイント3〉 適用除外の検討Ⅱ(50%基準) 同じく第5回で解説を行ったとおり、本制度は、「当該事業年度の関連者支払利子等の額の合計額がその事業年度の支払利子等の額の合計額(以下「総支払利子等の額」)の50%以下であるとき*」には適用しないこととされている(措法66の5の2④)。 *法人との間に連結完全支配関係がある連結法人に対する支払利子等の額及び法人に係る関連者等に対する支払利子等の額でその関連者等の課税対象所得に含まれるものを除く。   この50%基準については、関連者等からの借入れのうち、一定額を国内の金融機関等の第三者に移管することにより実現が可能な場合も考えられる。この場合には、関連者等を含めたグループ全体の政策に影響を与えることとなるので、グループ全体の資本コスト・資本政策を含めた対策が必要となろう。 なお、この適用除外規定を受けるためには、〈ポイント2〉でも述べたように申告要件があるため、留意されたい。   〈ポイント4〉 金融機関からの借入れへの変更の検討 第3回で解説を行ったとおり、本制度は、本制度の支払利子等に該当するもののうち、関連者等に対する支払いで、関連者等の課税対象所得に含まれるものが適用対象となる。 既存の案件で、外国法人たる親会社等(関連者等に該当)が金融機関から資金調達を行い、その資金を子会社に貸し付けていた場合には本制度の適用対象となるが、当該子会社が国内の金融機関から借入れを行うように変更を行った場合には、当該金融機関への支払いは本制度の適用対象外となる。 したがって、関連者等を含めたグループ全体の資金調達コストを鑑みたうえで、対策を検討する余地があると思われる。 なお、上記の場合において、外国法人たる親会社等が国内の金融機関に保証を行い、子会社が保証料を当該親会社に支払った場合においては、当該保証料は「その他一定の費用又は損失(措令39の13の2③)」として本制度の支払利子等に該当し、本制度の適用対象となることについて留意されたい。   〈ポイント5〉 超過利子額の損金算入の検討 本制度は「所得金額に比して過大な支払利子」について損金算入を制限し租税回避行為を防止するために導入されたものであり、課税の繰延べをその目的とするものではないが、第6回でも解説したとおり、その判断の基礎となる所得金額及び支払利子の水準が大きく変動することがあるため、「超過利子額(損金不算入額の繰越額)の損金算入」の規定により、一旦損金不算入とされたものが翌年度以降損金に算入される可能性がある。 したがって、法人の経営計画及び資産状況を鑑み、翌期以降で所得金額が多く出るような取引が予想される場合又は含み益のある資産等がありその処分により所得金額を多くするようなことが可能である場合には、超過利子額の繰越期間内(7年間)に実現をさせることにより、超過利子額の損金算入を行うことについて十分検討の余地があると考えられる。 なお、同じく第6回で解説を行ったように、超過利子額の損金算入の規定の適用を受けるためには、この規定の適用を受けようとする事業年度だけでなく、超過利子額が発生した過年度の申告書に超過利子額に関する明細書の添付が必要とされていることに留意が必要である。 また、第7回で解説を行ったように、過大利子税制の損金算入額が過小資本税制の損金不算入額より大きい場合には、過大支払利子税制が適用されるため、その損金不算入額の全額について超過利子額の繰越しができるが、反対に過小資本税制の損金算入額が過大支払利子税制の損金不算入額より大きい場合には、過小資本税制が適用されるため、控除利子額の繰越しの適用はないことに留意が必要である。   〈ポイント6〉 調達方法(直接投資等)の検討 国外から本邦への投資をその目的として、国内法人がいわば投資ビークルとして使用される場合において、その投資資金が国外の関連者等からの資本金及び借入れによって国内法人に対し投資が行われる場合がある。 この場合、国外の関連者等に対して外部の投資家が投資をしている場合、当該外部の投資家自体は関連者等に該当しない可能性が考えられる。 その際には、国外の関連者等を通さず、当該外部投資家からの直接投資に切り替えることにより本制度の適用対象外となる可能性もあるため、検討の余地があろう。 また、投資の形態についても貸付けではなく、実態が組合の形式を取れるのであれば組合形式の投資に切り替えることにより本制度の適用対象外となる可能性もあるため、合わせて検討の余地があると考えられる。 *  *  * 《連載終了に当たって》 今回は本制度導入に伴う、既存案件への影響及び対策について考察を行った。 これまで(第1回から第8回)において、本制度導入の趣旨から、具体的な計算方法、他規定との調整及び対策方法について解説及び考察を行ってきたが、本制度は創設の規定となるため、一般的には理解の進んでいない部分が未だ多くあると思われる。 また、これまでの解説でも理解できるように、本制度は創設規定でありながら詳細かつ幅広な規定が整備されているため、具体的な計算及び対策についても留意が必要な部分が多くなっている。 したがって、規定の確認を進めるとともに、本制度導入のそもそもの趣旨を踏まえながら、適切な対応を取ることが必要となってくると考えられる。 本制度の影響及び対策を考える上で、本連載が何らかの参考になれば幸いである。 (連載了)
#16(掲載号)
#中村 武
2013/04/25
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第4回】

法人税の解釈をめぐる論点整理 《寄附金》編 【第4回】   弁護士 木村 浩之   (前回はこちら) (5 対価性の有無等) 前回に続き、対価性の有無をめぐるポイントについて整理する。 (4) 価格設定の合理性について 反対給付がある場合であっても、その価値が自己の給付するものよりも低く、そのことに合理的な理由がない場合(価格設定に合理性がない場合)には、実質的な贈与として寄附金に該当することになる。 この価格設定については、時価すなわち客観的な交換価値(第三者間における取引価格)から乖離するものであれば、合理性を欠くものとして直ちに寄附金に該当すると即断されがちである。しかしながら、時価から乖離するものであっても、そのことに合理的な理由があり、実質的な贈与とはみられない場合には、寄附金には該当しない。もっとも、その価格設定に合理的な理由があるか否かは、容易に判断できない場合が多いのが実情である。 特に実務上問題となることが多いのは、関連会社間における取引である。関連会社間の取引であれば、第三者間のように交渉によらずに任意に価格設定がなされ得るのであり、また、経営指導料や業務委託費等の様々な名目で容易に利益の移転が図られ得ることから、その価格設定が合理的であるか否かをめぐって問題となりやすいといえる。 一般には、価格設定の合理性については、反対給付の客観的な交換価値のみならず、次のような要素を考慮して判断すべきものと解される。 以上のような要素を考慮して、価格設定が合理的であるといえるか否かを判断することになる。 例えば、不動産を低額で譲渡したことが寄附金に該当するか否かが争われた裁判例において、「譲渡価額よりもより高価に譲渡できるのに、経済人としては不合理にも、それよりも低額に譲渡した場合に(寄附金税制が)適用されるのであって、譲渡価額よりも高額にできる利益、権利、地位を有していなかったときは、より高額に譲渡しなかったからといって、自己の有していたところを不当にも低く譲渡したとすることはできない」と判示し、もともと不動産を譲り受けた際に転売価格を制限する条件が付されていた(上記ⅱの場合に相当する)場合には、その負担を考慮して価格設定の合理性を判断すべきであり、そのような負担を考慮しない不動産の客観的な交換価値を下回る価格で売買がなされたとしても、実質的に贈与されたものと評価することはできないとの判断が示されている(大阪高判昭和59年6月29日・行集35巻6号822頁)。   (5) 小括 以上のように、寄附金該当性をめぐっては、対価性の有無等が問題となることは多いといえるが、合理的な経済人である法人が何の理由もなく経済的に不利となる取引をすることは考えにくいことから、取引には何らかの経済合理的な理由があることが通常であるといえる。 したがって、一見すれば無償行為にみえるものであったとしても、取引全体を観察した上で、実質的な観点から対価性の有無を検討することが重要である。 また、何らかの対価関係が認められるとしても、その相当性をめぐっても争いが生じやすいことから、無用の紛争を避けるため、価格設定について合理的な説明ができるようにしておくことが肝要であるといえる。   6 特殊の相手方に対する寄附金 (1) 公的団体に対する寄附金 以上の寄附金税制の特例として、一定の公的な性格を有する団体に対する寄附金については、全額の損金算入(国又は地方公共団体に対する寄附金、指定寄付金)、あるいは特別の損金算入限度額(特定公益増進法人又は認定NPO法人等に対する寄附金)が認められる。ただし、これらの団体に対する寄附であったとしても、寄附をした者にも特別の利益があると認められる場合には、寄附金ではなく、繰延資産等に該当することになる。 なお、この寄附金の相手方については、実質的に判断するものとされており、直接これらの者になされないものであったとしても、最終的にこれらの者に帰属することが明らかな場合には、特例の適用が認められる(法基通9-4-3参照)。逆に、形式的にはこれらの者になされたものであったとしても、最終的にこれら以外の者に帰属することが明らかな場合は、特例の適用が認められない(法基通9-4-4参照)。   (2) グループ法人間の寄附金 関連会社間の寄附金は、利益移転に用いられるおそれがあり、課税上の弊害があると考えられてきたが、完全支配関係にあるグループ法人間の寄附金については、実質的には内部取引であって損益を生じさせるものではないといえる。 そこで、寄附金税制の特例として、完全支配関係にあるグループ法人間の寄附金については、全体において課税関係を生じさせないものとされている。 すなわち、寄附金を支出する側においては、その全額が損金不算入とされ、他方、利益を受ける側においては、その全額が益金不算入とされている(法法37②)。 なお、以下の場合には、この特例の適用がないので、注意が必要である。 その理由として、a)関連会社が外国法人である場合は、寄附金については移転価格税制によって対応すべきものであることが挙げられている。また、b)個人(親族関係者等)による完全支配関係にあるグループ法人間の場合は、例えば、親が保有する法人から子が保有する法人に利益を移転することが容易になるおそれがあることが挙げられている。 《寄附金》編の最終回となる次回は、資本等取引に関する寄附金税制の適用について整理する。 (了)
#16(掲載号)
#木村 浩之
2013/04/25
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

租税争訟レポート 【第8回】クレディ・スイス元部長脱税事件第一審判決〔無罪〕(所得税法違反事件第一審判決)

租税争訟レポート【第8回】 クレディ・スイス元部長脱税事件 第一審判決〔無罪〕 (所得税法違反事件第一審判決)   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 1 平成18年分の申告内容   2 平成19年分の申告内容   3 訴訟の経緯 本件は、被告人が、クレディ・スイス証券株式会社等から、平成18年分及び平成19年分の収入として、①源泉徴収の上で現金で国内口座に支給された基本給、賞与等の給与収入合計約2億8,000万円以外に、②源泉徴収されずに海外口座に入れられた株式賞与(いわゆるインセンティブ報酬)合計約3億4,000万円の給与収入、③同株式等を売却したことによる譲渡収入約7億2,000万円、④その他の収入を得たが、①以外の収入を除外して、現金で支給された①の金額が記載された源泉徴収票のみに基づいた確定申告書を作成提出し、もって、所得合計約3億5,000万円を秘匿、所得税合計1億3,000万円余りを免れたとして起訴された事案である。   【原審(控訴審)の判断】→【検察官の主張の骨子】   【弁護人の主張の骨子】   【最高裁判所の判断】→【裁判所の判断】 検察官の指摘する事情は、いずれも、被告人において株式報酬が源泉徴収されておらず、自らの申告が過少なものであると認識していたことを基礎付ける事実関係として認められないか、脆弱なものにすぎない。これらに加え、被告人が過少申告の認識を有していなったとする方が自然と思われる事実関係が存在することなどを併せ考慮すると、被告人において株式報酬が源泉徴収されておらず、自らの申告が過少なものであると認識していたと推認することはできないのであって、「株式報酬についても、会社から支給される他の給与と同様に、会社においてすべて源泉徴収されているものと思い込んでいた。」とする被告人の供述を排斥することはできない。 以上のとおり、過少申告の認識がなかったとする被告人の供述を否定することができず、その他全証拠を検討しても、被告人に所得税のほ脱の故意があったと認めるには合理的な疑いを入れる余地があるといわざるを得ない。 したがって、弁護人のその余の主張を検討するまでもなく、本件公訴事実について犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。   【解説】 国税局査察部の告発を受けて東京地検特捜部が起訴した脱税事件で初めて「無罪判決」が出された。国税局査察部が告発した事件を検察が起訴しないことはなく、起訴をすれば100%有罪判決が出てきた歴史が塗り替えられた。 本件のポイントは、被告人にほ脱の意思(故意)があったことを検察官が立証できるかどうかにあった。ほ(逋)脱とは、偽りその他不正の行為により税を免れることをいい、所得税法違反事件が脱税事件として起訴されるか、加算税などの行政処分だけで終わるかの分岐点は、ほ脱の故意とほ脱額によって判断されると考えられている。 かつて、検察庁勤務時代に脱税事件を主任検事として捜査した経験を持つ弁護士の落合洋司氏は、ご自身のブログにおいて、国税局が調査・査察を行い告発の意向を持つ事件については、国税と検察の間で「告発要否勘案協議会」を開いて、検察側でも、これは起訴できるという見通しの下に告発を受けていると説明した上で、本件のような、「故意の問題で水掛け論」状態になっているような事件について告発を受けた際の検察庁の判断に問題があったのではないかという、見解を示している。 本件では、被告人が過少申告した金額は、普通の給与所得者の水準からすれば相当に高額であり、国税局査察部・東京地検特捜部が、見せしめ(一罰百戒)的に起訴に踏み切った感を抱かざるを得ない。 一般に、給与所得者は、自らの収入については会社が源泉徴収しているものだと思っており、わが国の源泉徴収・年末調整制度も、そうした認識のもとに成り立ってきたものであることは、国税局・検察とも認識しているはずである。そうした認識からすれば、被告人に自らの所得を隠そうとした形跡が見られない状況で、起訴にまで踏み切った判断ははたして適切であったのかどうか、疑問を感じるところである。 検察は判決文を待たずに控訴したとのことであり、争いの場は東京高裁に移ることになった。 (了)
#16(掲載号)
#米澤 勝
2013/04/25
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載16〕 連結納税と青色申告

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載16〕 連結納税と青色申告   税理士 大塚 直子   1 連結離脱法人の青色申告の承認手続 連結納税制度においては、青色申告、白色申告の区別はない。このため、連結納税の適用を受けている子法人が、青色申告の承認を受けていない場合において、その子法人が連結納税の適用を受けないこととなるときは、青色申告の承認申請について、特例が設けられている。 つまり、青色申告の承認を受けていない連結子法人が、連結親法人による連結完全支配関係を有しなくなったため連結納税の承認が取り消された場合において、その子法人が青色申告したいときは、次の表に掲げる最初に青色申告の承認を受けようとする事業年度の区分ごとに、それぞれに掲げる提出期限までに、その子法人の納税地の所轄税務署長に青色申告の承認申請書を提出しなければならない(法法122②五~七)。 青色申告の承認を受けていない連結子法人とは、青色申告の承認を受けずに連結納税を適用とすることとなった場合や、連結納税の適用期間中の連結グループ内の連結法人によって設立された連結子法人をいう。 なお、連結法人(各連結事業年度の連結所得に対する法人税を課される連結事業年度の連結法人をいう)は、青色申告の承認申請書を提出することはできない(法法122①)。 特に、連結納税適用期間中の連結納税グループ内の連結法人によって設立された連結子法人については、設立時に青色申告の承認申請書は提出できないことに留意が必要である。   2 連結納税の承認申請と青色申告の承認申請との適用関係 連結納税を連結親法人の設立事業年度から適用する場合において、連結納税の承認を受けられなかった場合に備え、設立事業年度から青色申告の承認を得るために、連結納税の承認申請と同時に青色申告の承認申請を行うことが考えられる。 連結納税の承認申請と青色申告の承認申請との適用関係だが、連結納税の申請に対して承認の処分又はみなし承認があった場合には、青色申告の承認申請書は無効となる。 つまり、青色申告の承認申請書を提出した時点においては、その申請は有効なものだが、連結納税の承認を受けた場合には、承認を受けた最初の連結事業年度(設立事業年度)以後の連結事業年度について連結申告をすることになるので、青色申告に係る事業年度(設立事業年度)終了の日等が存在しないことになり、青色申告の承認申請書は無効となる(法法4の3⑤⑥⑧⑨二、122①、法規52)。 また、連結親法人が連結納税の承認を受けることができなかった場合(却下された場合)には、単体申告をすることになるので、適用年度(設立事業年度)終了の日までに承認又は却下の処分がなされなかったときは、その日において青色申告の承認があったものとみなされる(法法4の3②、122②一、125①)。   3 連結離脱法人に係る連結加入前の青色申告の効力 連結納税の開始又は連結納税への加入前の単体申告期間において青色申告を行っていた法人であっても、連結納税の適用を受けている期間においては、青色申告・白色申告という区分はない。 連結納税の開始又は連結納税への加入前の青色申告の承認の効力は、その開始又は加入後も継続する。つまり、連結納税の適用の承認を受けたことは、青色申告の承認の取消事由には該当しない。 ただし、国税庁長官の職権により、連結納税の承認を取り消され場合(法法4の5①)には、青色申告の承認も取り消されることになるので、注意が必要である。   4 連結納税の承認の取消しと青色申告の承認の取消し 連結納税の承認の要件は、青色申告の承認の要件と同等以上に厳格になっている。 連結納税への加入前の単体申告において青色申告の承認を受けていた連結法人が、法人税法4条の5第1項(連結納税の承認の取消し等)に規定する連結納税の承認の取消事由に該当した場合には、青色申告の承認の取消事由に該当する(法法127①五)。 このため、連結納税の承認を取り消された場合には、青色申告の承認についても取り消されることとなる。 〈連結納税の承認取消事由と青色申告の承認取消事由の比較〉 (了)
#16(掲載号)
#大塚 直子
2013/04/25
会計 税務・会計 管理会計 解説 解説一覧

林總の管理会計[超]入門講座 【第1回】「管理会計と原価計算」

林總の 管理会計[超]入門講座   公認会計士 林 總     【第1回】 「管理会計と原価計算」 (了)
#16(掲載号)
#林 總
2013/04/25
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税効果会計を学ぶ 【第8回】「繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の基本的考え方」

-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。   税効果会計を学ぶ 【第8回】 「繰延税金資産の回収可能性に関する 監査上の基本的考え方」   公認会計士 阿部 光成   前回(第7回)において、監査上の取扱いとして、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号。(以下「監査委員会報告第66号」という)があることを述べた。 今回から、監査委員会報告第66号の内容について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 会計基準・実務指針等を読む際の留意点 監査委員会報告第66号に限らず、会計基準・実務指針等を読む際には、本文の記載だけでなく、結論の背景などについても読み、理解する必要がある。 最近は、データベース化された会計基準等を用いて、検索機能を活用することが多いと考えられる。 検索機能は便利であるが、実務において、検索機能によりヒットした箇所のみを読み、実務に適用する傾向が一部においてみられる。 会計基準・実務指針等を理解するためには、本文の記載を読む際にも全体の流れを読み、また、なぜその規定を採用したのかについては結論の背景に記載されていることが多いので、これらを含めて会計基準・実務指針等を全体として理解することが必要と思われる。   Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性に関する監査上の基本的考え方 1 監査人における留意点 監査委員会報告第66号は、監査人における留意点として次のことを述べている。 2 留意点の背景 監査上、上記の留意点が強調されるのは、繰延税金資産の回収可能性を判断する際には、当該資産が将来の税金負担額を軽減する効果を有するか否かについての判断が極めて重要となるためであり、将来の課税所得の十分性やタックスプランニングの存在等について、監査上慎重な検討が必要である。 このように慎重な判断が求められているが、これらは将来事象の予測や見積りに依存することとなり、その客観性を判断することが困難な場合が多い(監査委員会報告第66号2)。 3 過去の業績等の状況を主たる判断基準とすること 「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)21項(1)では、課税所得が発生する可能性が高いかどうかを判断するためには、過年度の納税状況及び将来の業績予測等を総合的に勘案し、課税所得の額を合理的に見積もる必要があると述べている。 後述するように、監査委員会報告第66号は、「将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を過去の業績等に基づいて行う場合の判断指針」として、会社分類を例示して規定している。 同委員会報告では、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難な場合が多いとし、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針を示している(監査委員会報告第66号5)。 そもそも繰延税金資産の回収可能性の判断は、将来の課税所得に依存するものであり、それを見積もることがポイントになる。 しかしながら、将来の課税所得を客観的に見積もることが実務上困難なことが多いので、監査委員会報告第66号は、会社の過去の業績等の状況を主たる判断基準としているものと解される。 このとき、ポイントは、会社の基礎収益力等をいかに的確に把握するかであり、端的にいえば、会社が本業においてどれだけ基礎収益力等を獲得する能力があるかが重要ということになると解される。 監査委員会報告第66号でも、それぞれの会社分類(例示区分)に直接該当しない場合であっても、それぞれの例示区分の趣旨を斟酌し、会社の実態に応じて、それぞれの例示区分に準じた判断を行う必要があると述べられていることに留意が必要である(監査委員会報告第66号5(1))。   Ⅲ 会社分類(例示区分)と繰延税金資産 監査委員会報告第66号における過去の業績等に基づいた回収可能性の判断指針をまとめると、次のようになる(監査委員会報告第66号5)。 (了)
#16(掲載号)
#阿部 光成
2013/04/25
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

改正労働契約法──各企業への適用に当たっての注意点 【第4回】「不合理な労働条件の禁止規定の創設」

改正労働契約法 ──各企業への適用に当たっての注意点 【第4回】 「不合理な労働条件の禁止規定の創設」   特定社会保険労務士 奥田 エリカ   [改正ポイント③] 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止 (改正労働契約法20条) 同一の使用者と労働契約を締結している有期契約労働者と無期契約社員との間で、労働条件が相違する場合に、その労働条件の相違が期間の定めがあることによる不合理な労働条件であることを禁止するルールが創設された。 ◆期間の定めがあることによる不合理な労働条件とは 今回の改正による規定で禁止されるのは、労働者の職務内容、当該職務の内容・配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、労働条件が不合理と認められるものであってはならないとされる。不合理とされた労働条件の定めは無効となり、不法行為(故意・過失による権利の侵害)として損害賠償が認められうると解されている。この規定により無効となった労働条件は、原則的に無期契約労働者と同じ労働条件が認められることとなる。 対象となる労働条件とは、賃金、労働時間等の労働条件のみならず、災害補償、服務規律、福利厚生など、一切の待遇が含まれる。通達では、「とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り、合理的とは認められないと解されるものであること」としている。 では、正社員には通勤手当を支給しているが、有期労働契約のパート労働者には不支給としているケースは、一律に不合理な労働条件とされてしまうのだろうか。 労働条件の相違が不合理と認められるか否かは、次の要素を考慮して行われる。 これに当てはめて検証すれば、上記パート労働者は、正社員とは異なる業務に従事している、責任の範囲も狭い、会社に徒歩圏内から通勤できること等を条件として採用している、といった場合には、交通費の不支給が一概に不合理ではない、と主張できるだろう。 したがって、本条で定める不合理な労働条件の判断は、ある程度、狭い範囲で適用されるのではないかと思われる。具体的には、有期労働契約の労働者が次の事項にあてはまるような場合には、正社員との労働条件の相違が不合理とみなされる確率が高くなる。 上記を踏まえ、一定の労働条件の相違を設けるならば、有期労働契約の締結・更新にあたって、労働者の従事する業務内容、責任の範囲、人事異動の有無などをできるだけ明確にし、正社員とのバランスも考慮して、当該労働者に十分な説明することが重要と思われる。 ま と め 以上、4回にわたり、労働契約法の改正に伴い、各企業がその改正を適用するにあたり、どのような検討課題が挙げられるのか、3つの改正ポイントごとに解説をしてきた。 労働力、そして一定の雇用調整機能として有期労働契約の労働者は欠かせないが、その雇用期間が長くなったときは、どう処遇していくのかを考える必要がある。法改正前から有期労働契約については、雇止め法理のルールは確立しており、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準が適用されていた。 結局、契約期間に制限があるという事実のみで雇用管理が簡単になっているわけではないのである。 最後に、有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換については、「改正高年齢者雇用安定法」との関係も考慮する必要がある。 定年年齢を60歳と定めている会社において、定年後の労働者を1年ごとの有期労働契約で継続雇用しているケースは多いだろう。たとえ定年後の有期労働契約であっても、その期間が通算5年を超えると無期労働契約への転換申込権が発生することとなる。また、有期労働契約の雇止め法理や不合理な労働条件の設定に関しても、例外なく適用を受けることとなる。 いったん定年を迎えた者が、無期労働契約社員となる可能性があり、65歳以後の定年についても考慮する必要があるなど、法改正が行われた結果、会社にとっての「不合理さ」も発生してしまう。 会社及び人事担当者は、改正直後の話題性に振り回されず、実際の改正条文と自社の状況をよく見極め、周囲の動向も踏まえた上で適切な措置を取るべきであろう。 (連載了)
#16(掲載号)
#奥田 エリカ
2013/04/25
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

会社が取り組む社員の健康管理【第8回】「衛生管理体制・業務上傷病への補償」

会社が取り組む 社員の健康管理 【第8回】 「衛生管理体制・業務上傷病への補償」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 業務に起因する疾病については、労災補償や損害賠償の訴訟による法的制裁だけでなく、会社の信用失墜による経営への悪影響など多大な社会的責任を負うことがあるため、会社の規模にかかわらず、安全・衛生面での対策は十分に行っておく必要がある。 「会社が取り組む社員の健康管理」の最終回となる今回は、法に基づく衛生管理体制の整備、業務上傷病への補償について触れていくこととする。   2 安全配慮義務(健康配慮義務) 職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的とする法令として、労働安全衛生法が定められている。 会社は、労働災害を防止するために、同法で定められた最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境を作り、労働条件を改善することで、労働者の安全と健康を守らなければならない。 また、平成20年3月に施行された労働契約法5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、労働者に対する安全配慮義務(健康配慮義務)が明文化された。 危険作業や有害物質への対策はもちろんであるが、メンタルヘルス対策も使用者の安全配慮義務に含まれると解釈されている。 労働契約法に罰則はないが、安全配慮義務を怠った場合、民法709条(不法行為責任)、715条(使用者責任)、415条(債務不履行)等を根拠に多額の損害賠償を命じる判例が多数存在することは、労働者を使用する上で留意しておきたい。   3 衛生管理体制 労働安全衛生法では、労働者の健康を確保し快適な職場作りを進めるために、事業場の規模(注)に応じて衛生管理者、産業医等を選任し、これらの者に労働衛生対策を進めるために必要十分な権限を与え、管理体制を整備しなければならない。 (注) 事業場の規模・・・企業全体ではなく、本社・支店・営業所等など各事業場の労働者数により判断する。 (1) 常時50人以上の労働者を使用する事業場がすべきこと 次の選任、届出等の義務がある。 ① 衛生管理者の選任 職場において労働者の健康障害を防止するため、常時50人以上の労働者を使用する事業者は、その事業場専属の衛生管理者を選任しなければならない。 選任は、有資格者の採用ではなく既存の社員に資格を取得させ選任要件を満たすことも可能である。試験の実施については下記【参考2・3】を参照。 ② 産業医の選任 職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なことから、常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない。 ③ 衛生委員会の開催 事業者は常時50人以上の労働者を使用する事業場ごとに、衛生に関することを調査審議し、事業者に意見を述べるため、衛生委員会を設置しなければならないとされ、開催ルールとして次のことが定められている。 委員会の構成者や審議事項については、下記【参考5】の資料を参照いただきたい。   (2) 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場がすべきこと 次の選任、周知義務がある。 ※「衛生推進者」については、(1)で触れた「衛生管理者」と異なり、免許試験や選任後の届出(労働基準監督署)義務はない。   衛生管理者の選任が義務付けられていない中小規模事業場の衛生水準の向上を図るため、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、衛生推進者を選任しなければならない。 ※衛生推進者の講習 衛生推進者を養成する講習は各種団体において実施されている。個々の団体による案内ページへのリンクは割愛させていただくが、「衛生推進者」「講習」などのキーワードにより検索することができる。 なお、10人未満の小規模事業場については(1)(2)のような体制を設けることまで義務付けられていないが、規模の大小にかかわらず、労働者の健康管理を行うことは重要である。 法で定められた規模に満たない職場であっても、厚生労働省が公開する安全・衛生に関する施策(下記【参考7】を参照)を取り入れるなど、労働者の健康面への配慮を実施していきたい。   4 労災補償 業務上災害を発生させたときは、会社は被災労働者に対し、療養・休業その他の各種補償を行わなければならない(労働基準法)。 ところが、小規模事業場など災害補償を十分に行えない職場では労働者が救済されないこともある。 そこで、労働者が確実に補償を受けられるようにするため、及び事業主の補償負担の軽減のために労災保険制度が設けられ、被災労働者が労災保険による補償給付を受けた場合は、会社は労働基準法の補償義務を免れる。 給付概要は次のとおりである。 事故等に基づくケガのほか、長時間労働に伴う心臓疾患や脳血管疾患なども、業務との因果関係が認められるときには給付の対象となることがある(第7回「過重労働についての認定基準」)。 (1) 業務災害・通勤災害による傷病等 (2) 定期健康診断等における異常の所見 定期健康診断の結果、異常の所見が認められるときは、労災保険から二次健康診断等給付が行われる。   (1)(2)で示した給付の詳細については、下記【参考8】を参照のこと。   5 おわりに 脳・心臓疾患や精神障害の増加傾向を見ると、労働者の健康管理面への対応や配慮が十分に行われていない会社もまだ多数あるものと思われる。 今回の記事で触れた衛生管理体制の整備を形式なものとせず、健康障害の予防や健康保持増進につなげていくためにも、労働者への周知や理解を得ることなどを通じて労使双方が協力し、対応を進めていく必要がある。   ◆ 連載のまとめ ◆ 「会社が取り組む社員の健康管理」として、全8回にわたり健康診断や職場の衛生管理体制等について触れてきた。 当連載が、企業が健康管理へ取り組むきっかけとなり、全労働者が健全な心身で職業生活を送り企業のさらなる発展につなげていくことにお役立ていただければなお幸いである。 (連載了)
#16(掲載号)
#佐藤 信
2013/04/25
労務・法務・経営 経営

NPO法人 “AtoZ” 【第4回】「NPO法人の管理運営②」~議事録の作成・役員報酬規程等規程の整備等~

NPO法人 “AtoZ” 【第4回】 「NPO法人の管理運営②」 ~議事録の作成・役員報酬規程等規程の整備等~   税理士 岩田 聡子   1 議事録・報酬規程の重要性 NPO法人は、小規模法人が多く、管理運営に専念している者がいない法人も多く見られる。そのため、備え付けておかなければならない議事録・報酬規程が、どうしてもおろそかになりがちである。 しかし、NPO法人であっても法人である限りは、組織の活動等の基本的な規則である定款に従った運営を行わなければならない。 議事録とは法人が開く会議の議題から決定事項までその内容をすべて記録した文書であり、内部管理体制の整備のために必要不可欠なものである。 議事録の中には、定款でその作成が定められているものがある。 定款は、それぞれの法人が作成しているため、内容に異なるところもあるが、ここでは内閣府発行の「特定非営利活動促進法に係る諸手続の手引き」に記載された定款例(以下「定款例」)に基づいて、その定められている議事録を紹介する(手引きは内閣府HPからダウンロード可能)。   2 社員総会議事録 定款例の22条で総会の権能として定められているものは以下のとおりであり、これらを変更、決定するときには必ず社員総会を開き、議事録を作成しなければならない。 理事長等からの借入金により運営されているNPO法人も多いと思われるため、この定款を参考に設立した法人は、⑧の借入金について、議事録の作成を忘れないように注意が必要である。 この他、定款例48条にも、臨機の措置として、社員総会の決議の規定がある。   3 理事会議事録 定款例の31条において、理事会の権能として定められているものは以下のとおりである。理事会を開いた際も、議事録を作成しなければならない。 どのような事項を総会で決定するか、理事会で決定するかは、定款を作成するNPO法人の判断による。最初にきちんと振分けされていればよいのだが、実態にそぐわない場合には定款変更を検討することも必要である。   4 報酬規程等 NPO法人も通常の法人と同様、報酬・給与等を支払う場合、役員報酬規程・給与規程・報酬規程・旅費規程等の規程を作成し、これに基づいて支払っていくこととなる。 特に、役員報酬の決定については、規程があっても、定款で定められているとおり、総会又は理事会の決議、議事録が必要となることを留意しなければならない。 また、規程がない場合、役員に対し、役員としてではなく使用人として仕事をした部分について給与を支給する場合、指導者として指導者報酬を支払う場合等に、すべて役員報酬と指摘されてしまうこと等のリスクも想定される。 これらの他、理事会等で出席した理事のため、概算で交通費を支払う場合、旅費規程で定めていない場合には、これも役員報酬となる可能性があり、場合によっては、源泉税が生ずることも考えられる。 こうした規程の作成は、ノウハウがないため敬遠されがちであるが、該当する場合には、作成するとともに、規程通りに運用されているか、実態に合わせて随時改訂していくことも大切である。   5 社員総会の通知の方法 NPO法人が社員総会を開く場合には、その社員総会の5日前までに通知しなければならない(NPO法14④)。 社員総会の通知は、定款で定めた方法により、文書又は電磁的方法により通知することができる。 最近はメール等で通知することも多いかと思うが、定款に「電磁的方法による」と記載されていなければ、メールでの通知は認められないので、メール通知する際には記載の確認をする必要がある。 上記のとおり、NPO法人の管理運営にあたっては、様々な書類を作成し、内部環境を整備することが、NPO法人の内部管理体制の充実や、社会の信頼に答えられる活動の基礎となるのである。 (了)
#16(掲載号)
#岩田 聡子
2013/04/25

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