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〔会計不正調査報告書を読む〕 「連載の狙い」
〔会計不正調査報告書を読む〕 「連載の狙い」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 一昨年(2011年)は、大きな企業不正の発覚が多発した年であった。 特にオリンパス社の巨額損失隠しについては、損失の金額の大きさ、隠蔽期間の長さ、発覚の経緯など、世間の耳目を集めるものであったことから、第三者委員会調査報告書の内容は大いに注目された。 第三者委員会(「外部調査委員会」とも称されるが、本連載では同義語として取り扱う)は、企業不正のみならず、いじめ問題、年金問題などの行政問題についても広く設置されるが、その定義は、「企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施したうえで、専門家としての経験と知見に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策を提言するタイプの委員会」をいうものとされている※。 ※日本弁護士連合会「『企業不祥事における第三者委員会』ガイドラインの策定にあたって」 ※PDFファイル 一般的な企業不正の発覚から幕引きまでの流れは、概ね以下のとおりである。 外部の人間が当該企業に不正があったことを知るのは、「適時開示(1)」の段階である。 不正を公表した企業は、その前段階において、社内調査によりある程度不正の内容を把握し、損益に与える影響も試算しているのだが、残念ながら、あくまで「社内調査」であることから、その調査内容の独立性、網羅性が担保されたものではなく、株主をはじめとする利害関係者からの「他にはないのか」「責任問題はどうする」といった質問に十分応えられるものとは言えない。 そこで、第三者調査委員会を設置し、独立した外部の有識者による調査結果を公表のうえ、再発防止策や関係者の処分を打ち出して、不正事件の幕引きを図るという手続を踏むことになる。 通常、第三者委員会に与えられた時間は1ヶ月間程度であり、調査報告書の公表をもって、その役割を終える。 本連載では、企業不正のうち、特に「不正会計」に関わる、公表された第三者調査委員会報告書を読み、不正の手口、不正隠蔽工作、発覚の経緯、再発防止策などを検証することを第一義的な目的としつつ、報告書から読み取ることが可能な不正防止策、早期発見のための仕組みなどを検討することによって、調査内容を自社の不正対策に役立てられるような知見をまとめることを志向するものである。 また、調査委員会メンバーの選定、調査手法、報告内容に何らかの疑義がある場合には、その疑問点についても積極的に指摘していきたいとも考えている。 (了)
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誤りやすい[給与計算]事例解説〈第1回〉 【事例①】最低賃金法の適用
誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第1回〉 税理士・社会保険労務士 安田 大 1 支給額の算定 【事例①】―最低賃金法の適用― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 賃金の決定 賃金は、原則として、労働契約により労働者と使用者との合意によって決められるものであるが、最低賃金法によって、その最低基準が定められ、使用者には最低賃金額以上の賃金の支払いが義務づけられている。 そして、労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めた場合は、その部分については無効とされ、無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされる。 2 最低賃金の種類 最低賃金には、地域別最低賃金と事業別(産業別)最低賃金の2種類がある。 地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわらず、都道府県単位でその都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して適用される最低賃金である。 事業別(産業別)最低賃金とは、特定の産業の基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されている。 東京都(地域別)の現在(平成24年10月1日~)の最低賃金額は、時間額で850円である。 3 最低賃金の適用労働者 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、その都道府県内の事業場で働くすべての労働者に対して、パートタイマーやアルバイト、臨時雇いや嘱託などの雇用形態や呼び方にかかわらず、適用される。 事業別(産業別)最低賃金については、特定地域内の特定の産業の基幹的労働者に対して適用され、18歳未満や65歳以上の労働者、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の労働者、その他その産業に特有の軽易な業務に従事する労働者などには適用されない。 4 最低賃金の減額適用 最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、一般の労働者よりも著しく労働能力が低い場合など、次の労働者については、都道府県労働局長の許可を受ければ、個別に最低賃金の減額の特例が認められる。 5 最低賃金の対象 最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金とされており、次の賃金については、含めないで計算する必要がある。 6 最低賃金額の判定 最低賃金額以上の賃金が支払われているかどうかの判定は、最低賃金額が時間(時給)で定められているため、その支給形態によって次のとおりとなる。 ① 時間給制の場合 時間給 ≧ 最低賃金額(時間額) ② 日給制の場合 日給÷1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) *日額が定められている事業別(産業別)最低賃金が適用される場合には、日額で判定する。 ③ 月給制の場合 月給÷1ヶ月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額) ④ 出来高払制その他の請負制の場合 出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、その賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算して、判定する。 ⑤ 上記①~④の組み合わせの場合 ①~④の時間給換算額の合計額 ≧ 最低賃金額(時間額) *たとえば、基本給については日給制で、その他に月給制の手当があるような場合には、上記②で計算した基本給の時間額と、上記③で計算した月額手当の時間額との合計で判定することになる。 (了) 【参考】 厚生労働省ホームページ 「平成24年度地域別最低賃金全国一覧」
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面接・採用・雇用契約までの留意点 【第1回】「採用の自由とその限界」
面接・採用・雇用契約までの留意点 【第1回】 「採用の自由とその限界」 社会保険労務士 菅原 由紀 「採用の自由」と「法による規制」 使用者には、広く採用の自由が認められており、いつ、どのような人を、どのような選考基準によって、どのような労働条件で雇うかは原則として使用者の自由である。これは、憲法22条、29条等における「財産権の行使」「営業の自由」などが保障されているからである(昭和48年12月12日三菱樹脂事件最高裁判決)。 しかし、この原則に対してはいくつかの例外があり、「男女雇用機会均等法」、「障害者雇用促進法」、「高年齢者雇用安定法」「雇用対策法」そして「労働組合法」という5つの法律によって禁止事項が定められている。 しかしながら、障害者雇用促進法を除いたほとんどの労働法は「機会の平等」を求めているのであって、「結果の平等」までを義務付けしているものではない。障害者雇用促進法においても、一定率の障害者の雇入れを義務付けているだけであり、特定の人を採用することを義務付けているわけではない。 したがって、やはり使用者の採用の自由は広く認められているといえるであろう。 入社試験や面接で“聞いてはいけない”質問 使用者は採用の自由を認められていることから、応募者に関する情報については、選考の合理的な必要性の範囲内であれば、様々な事項についての情報を入手することができるものと解されてきた。 しかし、近年の法令や行政指導においては、次の2点について、採用過程での使用者の情報収集活動に一定の制限を加えられている。 したがって、業務に関係のない質問、収集目的を明らかにできないような内容の質問、女性に対してだけされるような質問、基本的人権に関わる身上・経歴・思想信条に関する質問等については、特段の理由がない限り、トラブルを回避するという観点からは差し控えるべきであろう。 ただし、いったん採用した者との使用者側からの雇用契約の解消(解雇)は難しいという状況から、実務上は「雇わない自由」がある面接採用において、採用の可否を決定するために必要な情報を収集することは重要である。 そこで面接にあたっては、収集すべき情報を整理し、応募者に対して合理的な理由を説明した上で、実施する必要があるだろう。 (了)
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外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第3回】「在留カードについて」
外国人労働者の雇用と在留管理制度について 【第3回】 「在留カードについて」 KPMG BRM株式会社 マネージャー 申請取次行政書士 佐々木 仁 新在留管理制度の施行に伴い、従来外国人に所持が求められていた「外国人登録証明書」に代わり、「在留カード」が発行されることになった。 在留カードは、中・長期在留者(前回参照)に、原則として空港での入国管理審査の際にパスポートへの上陸許可の証印とともに手渡されることになっている。以後、外国人は常時この在留カードを携帯するよう求められる。 在留カードにはICチップが搭載され、外国人の写真が表示されるほか、以下の事項が記載される(住居地が変更したときは、カードの裏面に変更後の新しい住居地が記載される)。 《在留カードの記載事項》 すでに「外国人登録証明書」を持っている中・長期在留者が入国管理官署において資格変更や在留期間の更新許可申請を行った場合、従来の「外国人登録証明書」は「在留カード」に切替えられる。また、上記の資格変更や届出を行わない場合であっても入国管理官署で希望すれば、「在留カード」に換えることができる。 外国人が出国する場合、これまでは事前に、入国管理官署に1回限りあるいは数次の再入国許可を受ける必要があったが、新しい制度の導入に伴い、出国後1年以内に再入国する予定であれば、外国人が出国する際にこの在留カードを提示することにより、原則として予め許可を受けることなく、再入国することができることになった(「みなし再入国許可」)。 なお、平成24年7月9日よりも前から日本に中・長期在留している外国人が保有している「外国人登録証明書」は、その有効期間内(在留期間の満了日に至るまで)は「在留カード」とみなされるため、在留資格の変更や在留期間を更新するまでは、すぐに「在留カード」に換える必要はない。 (注) 入管法と併せて住民基本台帳法が改正されたことに伴い、日本人と外国人が同居する複数国籍世帯であっても、外国人を含めた世帯全員が記載された住民票の写しを交付申請することができるようになった。 外国人の住居地の届出は、管轄の市区町村役場に在留カードを持参のうえ、転入届・転居届と一括して行うことができる。 次回は新しい在留管理制度の導入に伴う罰則等について解説する。 (了) 【参考】法務省(入国管理局)ホームページ 「「在留カード」が公布されます」
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親族図で学ぶ相続講義 【第1回】「子の子は親族か?」
親族図で学ぶ相続講義 【第1回】 「子の子は親族か?」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 上図のような相続事件が発生したとしましょう。被相続人は甲野太郎です。 甲野太郎の相続人は誰でしょうか? まず、カンタンなところからお話しすると、被相続人の配偶者はつねに相続人となります(民法890条前段)。したがって、甲野花子は相続人です。 次に、甲野一男は相続人ではありません。相続は、死亡によって開始しますが(民法882条)、被相続人の甲野太郎の死亡以前に甲野一男が死亡しているからです。被相続人が死亡したときに生存していない者には相続権はないのです(これを同時存在の原則という)。 次いで、甲野桜子は相続人ではありません。なぜなら甲野桜子は被相続人の甲野太郎の子ではないからです。両者の関係は「姻族一親等」であり、被相続人の姻族には決して相続権が認められません。 では、甲野一郎と甲野次郎はどうでしょう。 ここは「代襲相続」のハナシになります。「被相続人の子が、相続の開始前に死亡したときは、その者の子がこれを代襲して相続」します(民法887条2項本文)。 ここに、「被相続人」は甲野太郎、「被相続人の子」は甲野一男ですから、「その者の子」である甲野一郎と甲野次郎は相続人となりそうです。 しかし、代襲相続を定めた民法887条2項には「ただし書」があり、そこには、「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない」というナゾの一文があるのです。 これは、被相続人の子の子であっても被相続人の直系卑属ではない者がいるということを前提にしています。「直系卑属」とは子以下(子、孫、ひ孫など)の血族を意味しますから、普通は、子の子は被相続人の直系卑属です。 では、子の子が直系卑属でないというのはどういう場合なのでしょうか? 実は、これは、子が養子の場合にのみ起こる事態なのです。養子縁組は「法定血族」の関係を創出しますが、その関係は「誰と誰の間に生ずるか」ということが大事なのです。 では、これについて民法の規定を以下にあげましょう。 条文によると、血族関係が生じるのは「養子と養親の血族」の間です。これを逆にいうと、縁組をしても養子の血族と養親の間には血族関係が生じないわけです。 となると、甲野一郎の地位はどうなるか? 本事例のポイントは、養子の子である甲野一郎は縁組の前に出生しているということにあります。 甲野一郎は養子縁組前に生まれており、縁組のときに養子(甲野一男)の血族です。となると、先の民法727条の規定から、養子の血族(甲野一郎)と養親(甲野太郎)の間には血族関係が生じません。したがって、甲野一郎は、養親(甲野太郎)の子の子ではあるが養親の血族ではないことになります(そもそも親族ですらないアカの他人の関係)。 このため、甲野一郎は被相続人甲野太郎の代襲相続人になることができないのです。 この原理をカンタンにいうと「養子縁組前の養子の子は養親を代襲相続しない」ということになり、この民法727条と887条2項ただし書の組合せからの結論は、養子を含む相続事件では決して知らないわけにはいかない大事な実務の知識です。 次に、甲野次郎はどうなるか? 甲野次郎は縁組の後に出生しています。 養子縁組の後に出生した養子の子である甲野次郎は養親の直系卑属です。これはいったん生じた血族関係の延長と考えればよいわけです。つまり養子縁組後の養子の子は養親を代襲相続するのです。 以上から結論がでました。 甲野太郎の死亡による相続事件の相続人は、妻の甲野花子と孫の甲野次郎です。相続分は各2分の1ずつということになります。 (了)
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事例で学ぶ内部統制【第5回】「全社レベルの内部統制(ELC)におけるCOSOモデルの採用実態」
事例で学ぶ内部統制 【第5回】 「全社レベルの内部統制(ELC)における COSOモデルの採用実態」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 今回は、全社レベルの内部統制(ELC)の評価項目とその関連課題を取り上げる。 ELCとは、“適切な統制が連結ベースで全社的に機能している”という心証を得るため、個別のプロセスレベルの内部統制(PLC)に先立って評価する内部統制である。 筆者(株式会社スタンダード機構)主催の実務家交流会では、ELCの評価項目として、実施基準が例示するCOSOモデルの評価項目をそのまま採用しているか、国内外の連結子会社におけるELCの評価項目をどうするかという課題について意見交換された。 以下、各社が取り組む創意工夫を見てみよう。 ELC評価項目 実施基準は、ELCの評価項目の例示として、6つの基本的要素について複数の評価項目を設定し、合計42項目を掲げている。 実務関係者にはおなじみのCOSOモデルである(図表1)。 図表1 COSOモデル まず、筆者から参加企業に対し、「この42項目の評価項目をそのまま採用しているか。それとも、社内の実情に合わせて修正しているか」と質問したところ、参加企業の対応は次の3パターンに分かれた。 【パターン1】COSOモデル型 まず、COSOモデルの評価体系と42項目の評価項目をそのまま採用する事例が報告された。 参加企業Aは、「評価の最小単位の数をCOSOモデルの42項目とし、各項目に補足説明を付して評価している」(プラント会社)と答えた。 参加企業Bも、「わが社も、COSOモデルの項目数を加除しなかった。それが最も明快だった」(商社)と話した。 【パターン2】COSOモデル準拠 これは、COSOモデルの評価体系を維持しながら、社内で分かりやすく伝達するため、42項目の評価項目を加除修正して評価する方法である。 参加企業Cは、「当初はCOSOモデルの42項目で評価を試みたが、評価される部門から、評価項目の重複がある、内容が抽象的で分からないといった指摘を受けた。実際、監査部と評価される部門の担当者との間で禅問答のような質疑応答が続いたことから、42項目のままでは使えないと考えた。そこで、42項目の体系を維持しながら、評価項目の背景にあるリスクに着目し138項目の最小評価単位に分解した」(航空会社)と話した。 参加企業Dは、「わが社もC社さんと同じだが、全部で55項目にした。COSOモデルでは、ITへの対応が5項目だが、わが社は2項目に減らした。その代わり、他の基本的要素の評価項目を増やした。特に、統制環境を13項目から18項目へ、リスクの評価と対応を4項目から9項目へ増加した。これは、PLCの評価で把握しきれないリスクをELCで捉えようとしたためだ。逆にITへの対応については、IT全般統制やITACで十分評価可能と考えた」(商社)と、リスクに応じてCOSOモデルを加除して対応していた。 参加企業Eは、「C社さんが指摘したとおり、わが社もCOSOモデルには重複が多いと感じたので、18項目にまとめた。その18項目に対して、整備、周知、運用、見直しの有無という評価の軸を設定した。その結果、18項目に4つの評価軸を掛け合わせた72項目となった」(部品メーカー)と、COSOモデルの体系に基づき評価項目を集約しながら、独自の評価の視点を加えていた。 【パターン3】独自経営管理モデル これは、COSOモデルの42項目の評価項目のリスクを網羅しつつも、6つの基本的要素の評価体系や評価項目にこだわらず、自社の経営管理の実態に応じて、評価体系と評価項目を組み直して評価する方法である(図表2)。 図表2 独自経営管理モデル 参加企業Fは、「COSOのフレームワークは維持しながらも、実施基準の42項目をそのまま評価するのではなく、自社の実態を反映させて評価した。具体的には42項目の例示の背景にある財務報告リスクを検討し、当該リスクに対して自社でどのような統制が敷かれているかを掘り下げた結果、160個の評価項目となった」(化学メーカー)と話した。 さらに、参加企業Gは、「COSOモデルのフレームワークは、現場でビジネスを回している親会社や連結子会社の経営者にとってなじみが薄い。むしろ、わが社の経営者の頭は、社内外のステークホルダーとの関係であるべき姿を掲げたビジョンや理念が他の全てのあり方を決めるという思考に慣れている。そこで、グループビジョン、取締役会と監査役のあり方、経営計画と予算、組織の職務分掌、人事管理、コンプライアンス、リスク管理、財務報告、情報管理、モニタリング、グループ子会社管理という順番で基本的要素を組み替え、それぞれにわが社の実情に沿った評価項目を再設定した。評価項目はE社さんが発表した整備、周知、運用、見直しという評価軸を設定し約200項目となった」(商社)と、自社の経営管理モデルに合わせてELCの評価体系と評価項目を大胆に組み替えていた。 このように、評価項目の数だけを見ると、42項目から200項目まで、企業間にばらつきがあることが明らかとなった。 連結子会社のELC評価項目 次に、複数の参加企業から「連結子会社や海外子会社に係る評価項目については、どのように対応しているか」という論点が提示された。 前出の参加企業Bは、「42項目のうち、14項目は親会社が回答し、28項目を子会社が単体で回答すべき項目とした。子会社には、特定の機能だけを親会社からアウトソースし、経営管理も、親会社の管理部門が取締役を兼任し、権限を与えてないので、子会社単体が回答するよりも、親会社のグループ管理の一環で回答し、そのあり方を評価する方がいい」と、親会社と連結子会社で評価項目を変更していた。 他方、複数の参加企業は、「子会社が一定の規模で独自の商売を行い、独自の権限を持って経営管理を行う体制ができているので、親会社と同じ評価項目で評価している」と話した。 また、前出の参加企業Gは、「海外の連結子会社は小規模であり対応が困難なことが多いものの、評価項目において国内の連結子会社と差を設けていない。親会社から現地に出向している常勤の取締役を中心に、取締役会のあり方や、現地のローカルスタッフの管理、経理体制の評価をしている」と、国内と海外で評価項目は変えずに統一的なグループ経営を貫いていた。 さらに、複数の参加企業が、「子会社で起こった不祥事を評価項目に加えている。子会社は小規模なので、本質的に不正や誤謬のリスクが高いにもかかわらず、PLCの対象にならないことが多い。そこで、せめてELCでリスクを低減することを目指した。子会社で過去に起こった小口現金や情報システムのアクセス権限付与、ID棚卸に絡む不祥事に対するコントロールをあえてELCの評価項目に加えている」と、COSOモデルの42項目に加えて、具体的、かつ、今そこにあるリスクを低減するために、独自の評価項目を設定した事例を報告した。 ELC評価項目の削減に向けて さらに、議論は、「どうやってELCの評価項目の削減を監査法人に納得させているか」という論点に及んだ。 前出の参加企業Gは、「評価項目が200項目だったのは、同じリスクを整備、周知、運用、見直しの評価軸で重複評価した、つまり、整備評価と運用評価が重複した結果である。評価項目の中には、4つの評価軸で分ける必要がないものが相当数あったので、再検討の結果、約70項目まで減らした。以前に網羅していたリスクを外したわけではないので、監査法人は納得した」と、コントロールすべきリスクを除外しなければ、評価項目の削減が可能であると報告した。 複数の参加企業も、「評価項目ごとに、整備評価と運用評価を分けていたが、両者の作業を一体化する過程で、評価項目も削減された」と話した。 次回は、プロセスレベルの内部統制におけるキーコントロールの比率について取り上げる。 (了)
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《速報解説》 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件の改正ポイント
《速報解説》 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する 金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件の改正ポイント 宝印刷総合ディスクロージャー研究所 顧 問 小谷 融 (大阪経済大学教授) 研究員 増田 美和 Ⅰ 改正された告示 連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件(平成21年12月金融庁告示第69号)の一部改正が公表された(平成24年12月28日金融庁告示第88号)。 Ⅱ 主な改正内容等 〈指定国際会計基準〉 国際的な財務活動又は事業活動を行う会社で、一定の要件を満たす特定会社が提出する連結財務諸表の用語、様式及び作成方法は、国際会計基準(公正かつ適正な手続のもとに作成及び公表が行われたものと認められ、公正妥当な企業会計の基準として認められることが見込まれるものとして金融庁長官が定めるもの(指定国際会計基準)に限る)に従うことができるとされている(連結財務諸表規則1条の2、93条)。 本改正は、金融庁長官がこの指定国際会計基準を定めるものである。 〈改正内容〉 国際会計基準審議会が平成24年7月1日から同年10月31日までに公表した次の国際会計基準を、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則93条に規定する指定国際会計基準とする。 国際財務報告基準(IFRS)第1号「国際財務報告基準の初度適用」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第3号「企業結合」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第5号「売却目的で保有する非流動資産及び非継続事業」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第7号「金融商品:開示」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第9号「金融商品」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第10号「連結財務諸表」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第12号「他の企業への関与の開示」(改訂・平成24年10月31日) 国際財務報告基準(IFRS)第13号「公正価値測定」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第7号「キャッシュ・フロー計算書」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第24号「関連当事者についての開示」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第27号「個別財務諸表」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第28号「関連会社及び共同支配企業に対する投資」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第32号「金融商品:表示」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第34号「中間財務報告」(改訂・平成24年10月31日) 国際会計基準(IAS)第39号「金融商品:認識及び測定」(改訂・平成24年10月31日) Ⅲ 適用時期 平成24年12月28日から適用する。 (了)
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《速報解説》 書面添付制度に係る事務運営指針の改正について
《速報解説》 書面添付制度に係る 事務運営指針の改正について 税理士法人トーマツ 税理士 有安 寛次 平成24年12月19日付で、下記事務運営指針の一部改正がなされた(平成25年1月1日からの適用)。 「法人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」事務運営指針) 「調査課における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」(事務運営指針) 「資産税事務における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」(事務運営指針) 「個人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」(事務運営指針) 「酒税に関する書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」(事務運営指針) これは、平成23年度の通則法改正、及びそれに伴う通達の整備を受け、書面添付制度に係る事務運営指針において「調査」の範囲が明確になったことに伴い、税理士法33条2項の書面添付のある税理士からの事前聴取後に提出された修正申告書は更正を予知して出されたものでないことを明記することを主眼として、改正がなされたものである。 1 書面添付制度とは 書面添付制度とは、税理士法33条の2に規定する計算事項等を記載した書面が申告書に添付されている場合、調査に際して、納税者に税務調査の事前通知をするときには、その通知前に、税務代理を行う税理士又は税理士法人に対して、添付された書面の記載事項について意見を述べる機会を与えなければならない(税理士法第35条1項)こととされているものである。 なお、添付書面には、 計算し、整理した主な事項について、具体的に、どのような書類や帳票に基づき、どのように確認したのか 審査した主な事項について、具体的に、どのような書類や帳票に基づき、どのように確認(審査)したのか 前年(度)と比較して顕著な増減が見受けられる事項について、具体的に、どのような理由から増減したのか 会計処理方法に変更等があった事項について、具体的に、どのような理由から、どのように変更したのか 相談に応じた事項について、具体的に、どのような相談があり、それに対してどのような指導又は確認をしたのか 審査した事項について、その結果に至るまでに、具体的に、どのような確認作業等を行ったのか などを中心に、正確に記載する必要があるとされている。 2 改正前の事務運営指針の概要 書面添付制度に係る事務運営指針は各事務系統ごと(法人課税部門、調査課、資産税事務、個人課税部門、酒税課)に出されているが、その内容はほぼ同じで「第1章 書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方」、「第2章 書面添付制度に係る事務手続及び留意事項」の2章からなっており、第2章第2節「意見聴取の実施」において具体的な聴取方法等が記載されている。 そのポイントは、 添付書類の記載要件を満たしていないものは、税理士法33条の2の添付書面に該当しないものであるから、意見聴取を行う必要はないこと 事前通知予定日の1~2週間前までに税理士に連絡して意見聴取の日時を決めること 意見聴取後調査に移行しないこととなった場合には、原則として書面で税理士に通知すること。しかし、指導事項等があった場合には口頭による通知に留めること 調査に移行することとなった場合には、納税者に事前通知をする前に税理士に対して調査に移行する旨の連絡を口頭で行うこと 意見聴取の後に修正申告書が提出された場合には、原則として加算税は賦課しないが、事実認定により「更正の予知」があった修正申告と認められる場合には加算税を賦課すること 書面添付の申告書を調査の結果更正することとなった場合には、税理士に意見を述べる機会を与えること となっている。 3 国税通則法の改正 平成23年度の税制改正において税務調査手続の整備が行われ、その多くの規定が平成25年1月1日から施行されることとなっている。 国税通則法の改正に合わせて、調査手続関係通達(以下「通達」という)が平成24年9月12日に制定され、調査手続に関する国税当局の考え方が明らかにされた。 その中で、調査手続に関する「調査」の定義が明らかにされ、「調査」とは国税に関する法律の規定に基づき、特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で国税職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいうとされている(通達1-1)。 その一方で「調査」に該当しない行為も定義されており、国税職員が行う行為で、特定の納税者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないものは、調査には該当しないものであることが明示され、これらの行為のみに起因して修正申告書若しくは期限後申告書の提出又は源泉徴収に係る所得税の自主納付があった場合には、当該修正申告書等の提出等は更正若しくは決定又は納税の告知があることを予知してなされたものには当たらないことが明記された(通達1-2)。 4 事務運営指針の改正 意見聴取後の修正申告書の提出について、従来は、「意見聴取を行い、その後に修正申告書が提出されたとしても、原則として、加算税は賦課しない。ただし、・・・(加算税にかかる事務運営指針)に基づき非違事項の指摘を行ったかどうかの具体的な事実認定により「更正の予知」の有無を判断することになるから、修正申告書が意見聴取の際の個別・具体的な非違事項の指摘に基づくものであり、「更正の予知」があったと認められる場合には、加算税を賦課することに留意する。」として加算税を賦課する余地を残していた。 しかし、今回の通則法の改正、通達の制定を受けて、意見聴取は調査に当たらないことを確認し、よって、その後修正申告書が提出された場合にも更正を予知して提出されたものではないとして、上記の文章が削除されるとともに、次の文章が新たに記載され、意見聴取後に提出された修正申告書は更正の予知があってされたものとしては取り扱われないことが明記された。 このため、係る申告書は自主修正扱いとなり加算税は賦課されないこととなる。 その他、通則法の改正に伴う所要の改正がなされている。 (了)
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《速報解説》 不正リスク対応基準(仮称)(公開草案)の公表について
《速報解説》 不正リスク対応基準(仮称) (公開草案)の公表について 公認会計士 阿部 光成 平成24年12月21日、企業会計審議会監査部会は「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)」を公表し、平成25年1月25日まで意見募集を行っている。 今回の公開草案は、不正による有価証券報告書の虚偽記載等の不適切な事例が相次いでおり、こうした事例において、結果として公認会計士監査が有効に機能しておらず、より実効的な監査手続を求める指摘があることに対応するものである。 今回の公開草案は、次の基準の設定及び改訂を行うものである。 本稿では、公開草案の主なポイントについて解説を行う。 公開草案は一定の想定をおいて記載している部分があるので、全体の理解のために、ぜひ全文をお読みいただきたい。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 監査における不正リスク対応基準の考え方 不正リスク対応基準は、次の基本的な考え方に基づいている。 財務諸表監査において対象とする重要な虚偽の表示の原因となる不正を対象としており、重要な虚偽の表示とは関係のない不正は、対象としていない。 財務諸表監査における、不正による重要な虚偽表示のリスク(以下「不正リスク」という)に対応する監査手続等を規定している。 これは、財務諸表監査の目的を変えるものではなく、不正摘発自体を意図するものでもない。 すべての財務諸表監査において画一的に不正リスクに対応するための追加的な監査手続の実施を求めることを意図しているものではない。 被監査企業に不正による財務諸表に重要な虚偽の表示を示唆するような状況がないような場合や監査人において既に不正リスク対応基準に規定されているような監査手続等を実施している場合には、現行の監査基準に基づく監査の実務と基本的には変わらない。 財務諸表の作成に対する経営者の責任と、当該財務諸表の意見表明に対する監査人の責任とは区別されている(二重責任の原則)。 経営者の作成した財務諸表に重要な虚偽の表示がないことについて、正当な注意を払って監査を行った場合には、基本的には、監査人は責任を問われることはないものと考えられる。 Ⅱ 不正リスク対応基準の適用対象 不正リスク対応基準は、すべての監査において実施されるのではなく、主として、財務諸表及び監査報告について広範囲な利用者が存在する金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10 億円未満かつ負債総額200 億円未満の企業は除く)に対する監査において実施することを念頭に置いている。 具体的な適用対象は、関係法令において明確化されることが予定されている。 Ⅲ 不正リスク対応基準の主な内容 1 職業的懐疑心の強調 監査基準では「職業的懐疑心の保持」が規定されている。 公開草案の前文では職業的懐疑心が特に重要であると述べられており、不正リスク対応基準では「職業的懐疑心の強調」を冒頭に掲記し、次の3つを述べている。 監査の全過程を通じて、職業的懐疑心を保持する。 不正リスクの評価、評価した不正リスクに対応する監査手続の実施及び監査証拠の評価の各段階において、職業的懐疑心を発揮する。 監査手続を実施した結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当するかどうかを判断する場合や、不正による重要な虚偽の表示の疑義に該当すると判断した場合には、職業的懐疑心を高めて監査手続を実施する。 上記のように、職業的懐疑心については、保持・発揮・高めること、について規定しているが、その程度は、監査人の行った監査手続で判断されるものと考えられると述べられている。 このため、職業的懐疑心の程度が示されるように、監査人は行った監査手続を明確にする必要があると考えられる。 2 不正リスクに対応した監査の実施 監査の各段階における不正リスクに対応した監査手続等を規定している。 公開草案の前文では、抜き打ちの監査手続の実施が述べられている。これは、財務諸表全体に関連する不正リスクが識別された場合に、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことが必要になることの1つとして述べられているものである。 3 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況 監査実施の過程において、不正リスク対応基準の付録2に例示されているような「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」を識別した場合には、「不正による重要な虚偽の表示の疑義」が存在していないかどうかを判断するために、適切な階層の経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないこととしている。 付録2に例示されている状況は、現行の監査基準に基づく現在の実務においても、監査人としては、重要な虚偽の表示の可能性が高いものとして、特に注意すべき状況を念頭に記載されている。 付録2は例示であり、監査実施の過程においてそのような状況に遭遇した場合に、「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」として追加的な監査手続を求めているものである。 したがって、付録2に記載されている状況の有無について網羅的に監査証拠をもって確かめなければならないということではなく、必ずしも付録2をチェック・リストとして取り扱うことを意図したものではないと述べられているので、注意が必要であると思われる。 4 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の監査手続 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合や、識別した不正リスクに対応して追加的な監査手続を実施してもなお十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑いがより強くなると述べられている。 このため、不正リスク対応基準は、上記について不正による重要な虚偽の表示の疑義として扱わなければならないものとしている。 追加的な監査手続の実施の結果、不正による重要な虚偽の表示の疑義がないと判断した場合には、その旨と理由を監査調書に記載しなければならない。 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、想定される不正の態様等に直接対応した監査手続を立案し監査計画を修正するとともに、修正した監査計画に従って監査手続を実施しなければならない。 5 不正リスクに関連する審査 不正による重要な虚偽の表示の疑義が識別された場合には、監査事務所として適切な監査意見を形成するため、審査についてもより慎重な対応が求められている。そして、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査の担当者による審査が完了するまでは意見の表明ができないことが述べられている。 6 監査役等との連携 監査人は、監査の各段階において、監査役等との連携を図らなければならないことについて述べられている。 これは、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合や経営者の関与が疑われる不正を発見した場合には、取締役の職務の執行を監査する監査役や監査委員会と連携を図ることが有効であると考えられているためである。 また、公開草案の前文の「一 経緯 1 審議の背景」では、不正に関しては、一義的に財務諸表作成者である経営者に責任があると述べ、監査人は、企業における内部統制の取組みを考慮するとともに、取締役の職務の執行を監査する監査役等と適切に連携を図っていくことが期待されると述べられている。 不正リスク対応基準では、監査人は、監査実施の過程において、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないとしている。 Ⅳ 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理 不正リスク対応基準は、監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための監査事務所としての品質管理を規定している。これは、現在各監査事務所で行っている品質管理のシステムに加えて、新たな品質管理のシステムの導入を求めているものではなく、不正リスクに対応する観点から特に留意すべき点を明記したものである。 1 監査事務所間の引継ぎ 監査事務所交代時において、前任監査事務所は、後任の監査事務所に対して、不正リスクへの対応状況を含め、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項を伝達するとともに、後任監査事務所から要請のあったそれらに関連する監査調書の閲覧に応じるように、引継ぎに関する方針と手続に定めなければならない。 後任監査事務所は、前任監査事務所に対して、監査事務所の交代理由のほか、不正リスクへの対応状況、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項について質問するように、引継ぎに関する方針及び手続に定めなければならない。 2 監査実施の責任者間の引継ぎ 監査事務所内において、同一の企業の監査業務を担当する監査実施の責任者が全員交代する場合(監査実施の責任者が1人である場合の交代を含む)は、監査上の重要な事項が適切に伝達されなければならない。 Ⅴ 監査基準の改訂 監査基準について、次の事項の改訂を予定している。 品質管理の方針及び手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる審査に代わる他の方法が定められている場合には、審査を受けないことができる。 監査役等との連携 現行の監査基準では監査役等との連携に関する規定がないが、監査における監査役等との連携は、不正が疑われる場合に限らず重要であると考えられることから、監査人は、監査の各段階において、適切に監査役等と協議する等、監査役等と連携を図らなければならないことを明記する。 Ⅵ その他 1 取引先企業の監査人との連携 いわゆる「循環取引」のように被監査企業と取引先企業の通謀が疑われる場合等に、監査人としてとることが考えられる監査手続として、「取引先企業の監査人との連携」について議論されたが、解決すべき論点が多いことから、公開草案には含めず、循環取引等への対応について、企業会計審議会において継続して検討を行う。 2 監査報告書の記載内容の見直し等 監査報告書の記載内容の見直し、特別目的の財務報告に対する監査の位置づけを監査基準上明確にするかどうかについては、今後、企業会計審議会において検討を行う。 3 不正の端緒の用語の変更 企業会計審議会監査部会資料の「不正に対応した監査の基準の考え方(案)」では、「不正の端緒」の用語が用いられていた。 公開草案の前文及び不正リスク対応基準では、当該用語は用いられず、「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」、「不正による重要な虚偽の表示の疑義」の用語が用いられている。 Ⅶ 実施時期等 不正リスク対応基準及び改訂監査基準は、平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。 不正リスク対応基準中、「第三 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理」については、平成25年10月1日から実施する。 不正リスク対応基準及び改訂監査基準を実務に適用するに当たって必要となる実務の指針については、日本公認会計士協会において、関係者とも協議の上、適切な手続の下で、早急に作成されることが要請される。 (了)
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《速報解説》 退職給付に関する会計基準適用に伴う「税効果会計に関するQ&A」改正の公開草案
《速報解説》 退職給付に関する 会計基準適用に伴う 「税効果会計に関するQ&A」 改正の公開草案 有限責任 あずさ監査法人 波多野 直子 企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」(以下「退職給付会計基準」という)に対応するため、日本公認会計士協会から「税効果会計に関するQ&A」(以下「税効果Q&A」という)にQ15を追加する改正の公開草案が平成24年12月10日に公表され、平成25年1月9日まで意見募集されている。 本稿は、公開草案の解説であるため、最終化した税効果Q&Aの内容を確認する必要がある。 なお、文中、意見に関する部分は、筆者の私見であることを申し添える。 1 税効果Q&Aの改正の経緯 退職給付会計基準の適用により、連結財務諸表においては、未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(以下「未認識項目」という)を、税効果を調整の上でその他の包括利益累計額で認識し、積立状況を示す額をそのまま負債(退職給付に係る負債)又は資産(退職給付に係る資産)として計上する。 一方、個別財務諸表においては、未認識項目は貸借対照表に計上せず、これに対応する部分を除いた、退職給付債務と年金資産の差額を負債(又は資産)として計上する。 このため、個別財務諸表上の退職給付引当金と連結財務諸表上の退職給付に係る負債の額が異なる。 税効果Q&Aの改正は、これに係る個別財務諸表と連結財務諸表における税効果会計の考え方を整理する必要が生じたことに対応するものである。 2 退職給付会計基準適用による個別財務諸表及び連結財務諸表の税効果の取扱い (1) 個別財務諸表と連結財務諸表の繰延税金資産の回収可能性 連結財務諸表において、未認識項目を負債又は資産として認識する会計処理は、連結手続の一環である。以下の前提の場合、未修正項目100を認識するため、退職給付に係る調整額100/退職給付に係る負債100の連結修正仕訳をする。 ・法定実効税率は40%と仮定とし、回収可能性に問題ないものとする。 この連結修正仕訳の結果生じた一時差異は、連結手続上生じた将来減算一時差異及び将来加算一時差異と考えられる。 このような連結手続上生じた繰延税金資産の回収可能性については、「連結手続上生じた将来減算一時差異(未実現利益の消去に係る将来減算一時差異を除く)に係る税効果額は、各納税主体ごとに個別貸借対照表上の繰延税金資産の計上額(繰越外国税額控除に係る繰延税金資産を除く)と合算し、個別税効果実務指針21項に定める回収可能性の判断要件及び個別税効果実務指針22項に従って繰延税金資産の連結貸借対照表への計上の可否及び計上額を決定し、個別税効果実務指針第23項に従って、計上した繰延税金資産の修正を行わなければならない。」とされている(連結税効果実務指針41項)。 したがって、連結財務諸表上の「退職給付に係る負債(又は資産)」に係る税効果は、個別財務諸表における退職給付引当金に係る一時差異に対する繰延税金資産の額(上記例では160)を計上し、これに連結修正項目の繰延税金資産(上記例では40)を合算し、この合算額(上記例では200)についての回収可能性を判断する(税効果Q&AのQ15(1))。 (2) 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」との関係 監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下「監査委員会報告第66号」という)5(1)の会社分類(例示区分)について、連結財務諸表における会社分類(例示区分)は、個別財務諸表における会社分類(例示区分)と変わらないものと考えられる。 これは、未認識項目の負債(又は資産)の連結貸借対照表への即時認識を行うか否かにより将来年度の課税所得の見積りが変わるものではないためである(税効果Q&AのQ15(2))。 〈例〉 会社分類(例示区分)が①(期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社等)である。 連結修正手続(未認識項目の負債認識)において生じる将来減算一時差異を合算すると、「将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上していない」場合に該当する。 ⇒連結財務諸表における会社分類(例示区分)は②に修正するのではなく、個別財務諸表における会社分類(例示区分)と同じ①とする。 なお、監査委員会報告第66号5(2)の退職給与引当金(退職給付引当金)に係る将来減算一時差異に係る将来解消年度が長期となる将来減算一時差異としての扱いは、当該連結修正項目(未認識項目の負債認識)において生じる将来減算一時差異についても同様に当てはまるものと考えられる。連結財務諸表上の退職給付に係る負債と個別財務諸表の退職給付引当金の帳簿価額は、当初は相違があっても、未認識項目の認識のタイミングのずれによるものであり、退職給付に係る将来減算一時差異としての性質は異なるものではないためである(税効果Q&AのQ15(2))。 (3) 回収可能性の見直し時の会計処理 繰延税金資産の回収可能性の見直しにおいては、まず、回収可能性の見直しについての個別財務諸表における税効果に係る処理を行い、これに加えて、連結修正項目に係る税効果の追加認識又は取崩しを行うことになるものと考えられる(税効果Q&AのQ15(3))。 ① 退職給付引当金及び退職給付に係る負債に係る将来減算一時差異についての繰延税金資産の回収可能性が過去なかったものが、その後にあると判断された場合の処理 スケジューリングに基づき、個別財務諸表における退職給付引当金について繰延税金資産を計上する(繰延税金資産××/法人税等調整額××)。 これに加え、スケジューリングに基づき、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異について回収可能性があると判断される場合には、連結財務諸表上、当該一時差異についても一部又は全額の繰延税金資産を計上する(繰延税金資産××/退職給付に係る調整額××)。 ② 退職給付引当金及び退職給付に係る負債に係る将来減算一時差異についての繰延税金資産の回収可能性が過去あったものが、その後にないと判断された場合の処理 スケジューリングに基づき、個別財務諸表上の回収可能性の見直しを行い、回収可能性があるものと判断される将来減算一時差異に係る繰延税金資産を算出し、これを超えて計上されていた繰延税金資産の額について取崩しを行う(法人税等調整額××/繰延税金資産××)。 このように個別財務諸表において取崩しが生じる場合、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異に対応する繰延税金資産は、すべて回収可能性があるものと判断される額を超える額となる。このため、公開草案の考え方では、連結財務諸表上、個別財務諸表上の取崩しの処理に加え、未認識項目の負債認識において生じる将来減算一時差異に対応する繰延税金資産をすべて取り崩すことになる(退職給付に係る調整額××/繰延税金資産××)。 (了) 【参考】 日本公認会計士協会ホームページ 「「税効果会計に関するQ&A」の改正について(公開草案)」