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〔巻頭対談〕 平成25年度 “税” の行方
〔巻頭対談〕 平成25年度 “税” の行方 (本対談は2012年12月17日に行われましたが、その後の政治・経済情勢の変遷に伴い、加筆・修正しています。) 新政権の経済対策 阿部 氏 森信 氏 (次ページ「消費税」「住宅税制、自動車関連税制」へ続く) 消 費 税 住宅税制、自動車関連税制 (次ページ「所得税」「相続税」へ続く) 所 得 税 相 続 税 (次ページ「金融所得課税」「法人税」へ続く) 金融所得課税 法 人 税 (次ページ「税の決め方」「平成25年度税制改正」「新政権に期待すること」へ続く) 税の決め方 平成25年度税制改正 新政権に期待すること (了)
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平成24年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「確定申告の種類と給与所得者の申告」
平成24年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「確定申告の種類と給与所得者の申告」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに まもなく、平成24年分所得税の還付申告書の受付が開始される。 そして、平成24年分の所得税について確定申告書を提出する義務がある場合には、所轄税務署長に対し、平成25年2月16日から同年3月15日までの間に、確定申告書を提出しなければならない(所法120①)。 所得税法は、所得税の課税対象とならない所得(非課税所得)を限定的に規定しており(所法9~11)、それ以外の所得は所得税の課税対象となる。また、所得はその性格によって10種類に区分され、その区分ごとに所定の方法により所得金額を計算することとされている(所法23~35)。 所得税法は総合課税を原則としながらも、土地建物の譲渡による所得や株式の譲渡による所得などの分離課税となる所得もある上、各個人の事情を所得税計算に反映するために設けられた「所得控除」が数多く存在する。 これらは法人税の計算にはみられない制度であり、所得税の計算過程を複雑にしている。 今後数回にわたり、平成24年分の確定申告にかかる所得計算と所得控除について、留意点を実務的な観点からまとめることにする。 第1回目は、申告の種類と給与所得者の確定申告について解説する。 【2】 還付を受けるための申告 確定申告書を提出する義務のない人も、所得税の計算上控除しきれない外国税額控除の額、源泉徴収税額、予定納税額の還付を受けるために確定申告書を提出することができる(所法122①)。 この還付を受けるための申告(以下「還付申告」という)は、任意のものであり、【3】で解説する義務の申告とは区別される。 所得税法上、還付申告について申告期限の定めはなく、国税通則法に還付金の請求権についての時効が定められている。国税通則法74条1項には、「還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する」と規定されている。 5年を過ぎると還付の請求をすることができなくなるということであるから、還付申告できる期間は、その請求をすることができる日(=その年が終了する日の翌日である翌年1月1日)から5年間ということになる。 【3】 確定所得申告 還付申告は、確定申告義務のない人が還付を受けるために行うものである。確定申告義務がある場合に、結果として申告内容が還付になったとしても、その申告(確定所得申告)と還付申告は区別される。 “確定申告義務がある場合”とは、確定申告書の提出や確定申告書への記載、明細書の申告書への添付を要件として適用される特例を適用しないものとして計算した所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額との合計額を超える場合をいう(所法120①、措法41の2の2④、所基通120-1)。 すなわち、各種特例適用前の所得税額が、配当控除の額と年末調整で適用を受けた住宅借入金等特別控除額の合計額を超える場合である。このとき、源泉徴収税額や予定納税額の有無は問われないため、確定所得申告の場合でも源泉徴収税額や予定納税額が計算された所得税額よりも多ければ、還付となることもある。 この場合であっても、確定所得申告は還付申告に該当しないため、確定所得申告は、原則的な申告期間である翌年2月16日から同年3月15日までの間に行うこととなる(所法120①)。 【4】 確定損失申告 確定損失申告とは、純損失や雑損失の金額を翌年以後に繰り越すための申告をいう。 この申告によっても、源泉徴収税額や予定納税額の還付を受けることがある。しかし、この申告も【2】の還付申告には該当しないため、申告書の提出期間は、翌年2月16日から同年3月15日までとなる(所法123①)。 【5】 給与所得者の還付申告 給与所得者は、年末調整で所得税の精算が行われているため、基本的には確定申告をする必要はない。しかし、次のような人は、確定申告をすることにより源泉徴収税額や予定納税額等の還付を受けることができる。 年末調整で適用することができない所得控除(雑損控除、医療費控除、寄附金控除)の適用を受ける人(所法72,73,78) 一定の要件に該当する住宅を取得したり、住宅に特定の改修工事をしたことにより、住宅借入金等特別控除の適用を受ける人(措法41) 特定支出控除の適用を受ける人(所法57の2) 年末調整を受けずに退職したため、源泉徴収された所得税額が納めすぎとなっている人 なお、年末調整を受けた人が源泉徴収票を添付して還付申告をするときには、一部の記載内容を省略して申告書を作成することができる(所法122①、所規47の5)。 具体的には、所得控除のうち年末調整で適用を受けたものについては、第1表にそれぞれの金額を記載せず合計金額で記入し、第2表の該当部分の記載も省略することができる。 【6】 給与所得者の確定申告義務 給与所得者でも確定申告が必要となる場合がある。原則として、次に該当する人は確定申告をしなければならない。 (1) 平成24年分の給与の収入金額が2,000万円を超える人(所法190) (2) 給与の支払いを1箇所から受けている人で、給与所得以外の所得金額の合計額が*20万円を超える人(所法121①一) (3) 給与の支払いを2箇所以上から受けている人で、従たる給与と給与所得及び退職所得以外の所得金額以外の所得金額との合計額が20万円を超える人(所法121①) (4) 同族会社の役員や親族等で、その同族会社から給与の他に貸付金の利子、不動産の賃貸料や動産の使用料等の支払いを受けた人(所法121①、所令262の2) (5) 災害によって住宅または家財に被害を受けたため災害減免法の適用を受け、給与について源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人(災害減免法3②) なお、平成24年分の確定申告書の記載例については、国税庁ホームページで公開されている。 次回は、平成24年分の確定申告に関係する税制改正の概要について、主なものを解説する。 (了)
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小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第1話】「事前通知」
小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第1話】 「事前通知」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 ここは河内税務署。 「おーい、山口君」 渕崎統括官が山口調査官を呼ぶ。 法人課税第三部門は、この2人以外は全員税務調査に出ているため、誰もいない。 「・・・来週から調査に行く準備はできているのか?」 山口調査官は、先ほどから20分間余り、机の引き出しの中を一生懸命に探っている。 渕崎統括官の声で、手を止めて、顔を上げる。 「まだ・・・調査を選定してた相手先には、連絡していないのですが・・・」 山口調査官は、小さな声で返事をする。 渕崎統括官の顔が歪む。 「まだ?・・・一体、どういうことなんだ!」 小柄な渕崎統括官の高い声が、誰もいない部屋に響く。 「今日はもう木曜日だろう! 相手先に連絡して、来週の月曜日から税務調査をさせてくれと言っても、相手先が困るじゃないか。事前通知は余裕を持たなければ」 渕崎統括官は、山口調査官を睨みながら言う。 「・・・早く、調査予定の会社に連絡しろよ」 渕崎統括官は、黙って俯いている山口調査官を見ながら、少し、怒りすぎた自分を反省する。 「ところで君は、新しい税務調査の手続は知っているだろうな」 渕崎統括官は、山口調査官を見て、不安に思った。 「ええ、改正の国税通則法の研修は受けましたから、ある程度は知っていますが」 山口調査官は、自信のある声で応える。 「そうか。「事前通知」については、先行的な取組で、すでに10月から改正国税通則法に従って、実施しなければならないから」 渕崎統括官は、語気を強める。 「そうそう、事前通知をするのは、納税義務者と税務代理人だからな。分かっていると思うけれど・・・」 「税務代理人って、税理士のことですよね」 山口調査官が確認する。 「当たり前だ!」 渕崎統括官の声が高くなる。 「・・・しかし、税務代理人って、「税務代理権限証書」を税務署に提出した税理士等のことなんですよね」 いつの間にか、山口調査官は、改正された国税通則法の資料を持っている。 「確かに、そうだ」 渕崎統括官は小さく頷く。 「・・・ということは、この「税務代理権限証書」を提出していない税理士に対しては、事前通知をしなくてもよいのですね?」 今度は、山口調査官の声のトーンが若干高くなる。 渕崎統括官は、手元にある『税務六法』を見る。 「確かに、君の言うとおりだ。・・・しかし、今までは、申告書の「税理士署名押印」欄に記載があれば、それで連絡していたのだが・・・」 「ただしそれは、単に“申告書を作成した”というだけの意味しかない・・・つまり、通則法にいう税務代理人ではない・・・ですよね?」 山口調査官は意地悪そうに言葉を発する。 「そうだが・・・申告書の署名から税理士の関与が把握できるから、とりあえず納税者にその旨を確認して、了解を得てから、関与税理士に対して「税務代理権限書」を提出するように求めたらどうかね。今までの慣行を重んじて」 渕崎統括官は、子供を諭すように言う。 「それに・・・国税庁の公表している「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」にも、次のように書かれている」 渕崎統括官は、プリントしたFAQを山口調査官に見せた。 「・・・そうですね。それでは、まず納税者に連絡して、関与税理士が税務代理人であることを確認してから、税理士に連絡します。・・・確か、僕の税務調査を予定している会社の税理士は、なぜか「税務代理権限書」を提出していないケースが多いんです」 山口調査官は、机の上に積まれている法人税の申告書を見ながら、言う。 壁に掛けられている時計の針は、午後の3時を示している。 「・・・とりあえず、早く、納税者に税務調査に行くことを通知しなさい」 まだ、FAQを読んでいる山口調査官に、渕崎統括官は催促する。 「ええ・・・でも、その前に見つけないと・・・」 山口調査官は呟きながら、再び引き出しの中をまさぐり始めた。 「さっきから何を捜しているんだ?」 渕崎統括官は、怪訝そうに尋ねる。 「・・・ええ、私の・・・身分証明書と…質問検査章が見当たらないので・・・」 山口調査官は、頭を掻きながら、ボソボソと応える。 「何!?・・・そんな大事なものを・・・失ったら大変なことになるぞ・・・」 山口調査官は、渕崎統括官の言葉で一瞬、青ざめる。 「それがなければ、税務調査なんかできない!・・・始末書を書いてもらわなければ」 渕崎統括官が怒鳴った瞬間に、「統括官、ありました!」と山口調査官は大きく叫んだ。 「・・・・・・」 山口調査官のホッとした表情を見て、渕崎統括官は苦笑いをした。 (つづく)
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「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の見直しをめぐる実務への影響(1)
「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」の 見直しをめぐる実務への影響(1) 税理士 齋藤 和助 1 はじめに 会計検査院は平成24年10月19日に、財務大臣宛に「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」について意見表示を行った。 その内容は、『特例を取り巻く状況が大きく変化していることを踏まえ、特例について、相続財産の処分が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産の処分が行われる場合における相続税と所得税の負担の調整という本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう意見を表示する。』というものである。 本稿では、今回の会計検査院の意見表示の内容と、見直しが行われた場合の実務への影響を2回にわたってみていきたい。 2 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例制度の変遷 (1) 制度創設(昭和45年) この特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産が譲渡される場合には、当該相続財産に対して相続税のほか、値上がり益である譲渡所得税が課されることとなるため、相続税と所得税の負担の調整を図るという趣旨で創設されたものである。 具体的には、相続又は遺贈により財産を取得した個人が、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続財産を譲渡する場合には、その譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に、譲渡した相続財産に対応する相続税額を加算(以下「取得費加算」という)することができるというものである。 これにより、譲渡所得金額が取得費加算額分圧縮され、所得税の負担が軽減されることになる。 (2) 制度見直し(平成5年) 昭和60年代初めから生じた地価の急激な高騰等を背景とした土地税制改革の一環として、平成4年から、土地等に対する相続税の評価割合が地価公示価格の7割程度から8割程度に引き上げられた。 これらの影響により、当時は、相続財産の価額のうち土地等の占める割合が7割強となり、相続税納付のために譲渡される相続財産は土地等が9割強とそのほとんどとなった。さらに、土地等の長期譲渡に係る所得税率が20%(課税所得金額が4,000万円超の部分は25%)から30%に引き上げられたことに伴い、譲渡所得税がかからない物納との負担バランスの調整及び従来の相続税と所得税の負担の調整を見直すことが必要となったことから、相続財産である土地等を譲渡した場合における所得税の更なる負担の軽減を図るため、改正が行われることとなった(以下「平成5年改正」という)。 具体的には、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上、取得費加算額を、「譲渡資産に対応する相続税相当額」から「その者が相続した全ての土地等に対応する相続税相当額」に改めた。 つまり、相続で取得した土地等であれば、実際に譲渡していない土地等の価額についても、譲渡した土地等の取得費加算の対象となることとなった。 3 会計検査院の検査内容 会計検査院はこの特例の適用状況等の検査を全国の税務署のうち58税務署において土地等の譲渡に係る譲渡収入金額が3,000万円以上で、平成21~22年分において特例を適用した者延べ1,966人を対象として行った。 その結果、特例適用者の取得費加算額1,214億円のうち、土地等に係る取得費加算額は1,211億円であり、相続した全ての土地等に対応する加算割合※1と、譲渡割合※2の関係をみると、加算割合が譲渡割合を50ポイント以上上回る者が1,041人(全体に占める割合52.9%)見受けられ、これらの者の土地等に係る取得費加算額は768億円(同63.4%)となっていた。 つまり、土地等を多く相続してその一部を譲渡した者は取得費加算上著しく有利な状況となっている。 さらに、会計検査院は、平成5年改正により増加した取得費加算額への影響について試算しており、これによると、取得費加算額は786億円増加しており、その結果、所得税額は118億円減少している。 ※1 相続した全ての土地等に対応する相続税相当額に対する取得費加算額の割合 ※2 譲渡した土地等に係る相続税評価額が相続した全ての土地等に係る相続税評価額に占める割合 4 現状分析による会計検査院の指摘 地価高騰は、いわゆるバブル経済が破綻したことや、土地税制改革等の地価抑制のための措置が図られたこともあり沈静化し、地価は高騰前の水準でほぼ安定的に推移している状況となっている。 また、譲渡所得税率については、前述のとおり平成4年に30%に引き上げられた後は、地価が下落傾向にあったこともあり、平成7年以降数次にわたる改正により税率の軽減が図られ、現在は15%となっている。 さらに、地価の高騰及びその後の地価の下落に伴い、土地等を譲渡して金銭で相続税を納付することが困難な者が増えたことから、物納申請者数は、平成4年度には12,778人にまで達したが、その後、地価が高騰前の水準で推移し、平成18年度の税制改正における物納財産の明確化等の影響もあり、物納申請者数は急減し、平成22年度においては、448人となっている。 会計検査院はこれらの状況から、平成5年改正による相続税と所得税との更なる負担の調整は、特例を取り巻くその後の状況が大きく変化した結果、その必要性が著しく低下しているとし、本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう求めている。 5 今後の動向 上記指摘から、政府税制調査会(第6回:11/12開催)においても議題として取り上げられており、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例につき、平成5年改正は廃止され、相続財産である土地等の一部を譲渡した場合には、その譲渡した土地等に対する相続税額のみを取得費加算の対象とする、本来の制度に戻る可能性がある。 この場合、実務においては、相続人に対する相続財産、とりわけ土地等を譲渡した場合の譲渡所得税額等のより細かい情報の事前提供が必要となる。 次回は、この実務への影響について具体的に考えてみたい。 (了) 【参考】 会計検査院ホームページ 「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」
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法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第1回】
法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第1回】 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 法人が支給する役員給与については、その恣意的な支給によって法人税の額が操作され得るといった観点から、課税上の弊害を回避して適正な課税を実現するために、損金算入の制限規定が設けられてきた。 従来、役員給与については、定期に定額支給される「報酬」とそれ以外の「賞与」に区別して、賞与に該当するものについて損金不算入とされていたが、新会社法の制定等に伴い、平成18年度の税制改正において、役員給与の損金不算入に関する規定が大幅に改正され、現在に至っている。 現在の法人税法においては、役員給与のうち、一般的な給与(退職給与、ストックオプションによるもの、使用人兼務役員の使用人分を除くもの)については、 のいずれかに該当しない限りは、損金算入が認められない(法法34①)。 また、この規定によって損金算入が否定されない役員給与であっても、不相当に高額な部分の金額については、いわゆる過大給与として損金算入が認められない(法法34②)。 さらに、事実を隠ぺいし、又は仮装して経理をすることによって支給される、いわゆる不正経理に基づく役員給与についても、損金算入が認められない(法法34③)。 なお、ここでいう役員給与には、債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む(法法34④)。 以上をまとめると、次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると拡大します。 この役員給与の損金不算入に係る規定をめぐっては、多岐にわたる論点があり、本稿では、以下の項目について、順次、論点整理の上、解説していくこととしたい。 2 役員(使用人兼務役員を含む)の範囲 (1) 税法上の「役員」 役員給与の損金不算入に関する規定は、税法上の「役員」に対する給与に適用される。 そこで、税法上の「役員」の範囲が問題となるが、法人税法においては、「役員」とは、次の者をいうとされている(法法2十五、法令7)。 このように、取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人という会社法その他の法令に規定される役員としての地位を有する者(限定列挙であり、事実上役員として待遇される使用人、例えば、執行役員などはこれに含まれない)のほか、事実上会社の経営に従事する者、いわゆる「みなし役員」も税法上の「役員」に該当することになる。 役員の範囲をめぐっては、この「みなし役員」に該当するか否かをめぐって問題となることが多いといえる。 また、税法上の「役員」に該当する者であっても、使用人としての職制上の地位を兼務する「使用人兼務役員」については、使用人分の給与は役員給与の損金不算入に関する規定が適用されないため、その範囲をめぐっても問題となることが多い。 そこで、以下では、これらの役員(使用人兼務役員を含む)の範囲をめぐる諸問題について検討する。 (2) みなし役員の範囲 ア 使用人以外の者 使用人以外の者で経営に従事するものは、法人税法上、役員とみなされることになるが、通達では、「相談役、顧問その他これらに類する者でその法人内における地位、その行う職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるもの」がこれに含まれるとされている(法基通9-2-1)。 さらに敷衍すると、 は、これに含まれると解される。 ここで重要なのは、使用人以外の者に付された肩書、役職等のみに着目するのではなく、それが実際に「経営に従事する」という実質的な内容を伴ったものであるかどうかを判断する必要があるということである。 実質的に経営に従事していると認められない限りは、肩書、役職等は単なる美称であり、その者は「みなし役員」には該当しない。 イ 同族会社の使用人 同族会社の大株主又はその同族関係者など、法人に対する影響力を有すると認められる一定の要件に該当する者については、たとえ使用人であっても、経営に従事している場合は、実質的には役員と同様の地位にあると認められることから、税法上役員とみなされることになる。 具体的な要件は、上記(1)のB(b)のとおり、 同族会社の判定の基礎となった株主グループに所属していること(50%超基準) 所属する株主グループの所有割合が10%を超えていること(10%超基準) 本人らの所有割合が5%を超えていること(5%基準) という3つの要件をすべて満たす必要がある。 実務上は、3要件の充足性は比較的明らかであり、同族会社の使用人のみなし役員該当性をめぐっては、その者が「経営に従事する」といえるか否かが問題となることが多いといえる。 なお、非同族会社の使用人については、たとえ経営に従事する者であっても、役員とはみなされない。 例えば、支店長、支配人などについては、法人の経営について相当の権限を有している場合があるが、「みなし役員」とはならない。 ウ 「経営に従事する」の意義 みなし役員に該当するか否かは、その者が「経営に従事する」といえるかどうかの事実認定をめぐって問題となることが多い。 一般には、「経営に従事する」というためには、単に法人の一部の職務を遂行しているだけでは足りず、会社の事業運営上の重要事項に関する意思決定に参画している必要があるといえる。 この点が争われた裁判例で、「法人の(登記上の)取締役は、いずれも別途職業を有して法人の業務には実質上全く関与せず、法人から何らの報酬も受けていず、当初の出資者として形式上取締役になっているに過ぎないこと、代表取締役は法人の業務に従事してはいるものの、すでに老齢であって、むしろその子が法人の営業活動の中心となり、商品の仕入、販売並びに集金等の業務を担当していることから、その子が形式上役員として登記されていず、法人に出資していなくても、法人の事業運営上の重要事項に参画しているというべきであるから、『その他使用人以外の者で法人の経営に従事しているもの』に該当し、同人を税法上法人の役員として取扱うべきである。」旨判示されたものがある(山口地判昭和40年4月12日・税資41号330頁)。 このように、「経営に従事する」といえるかどうかは、他の取締役がどのような業務を担当しているかといった比較の観点のほか、その者による実質的な代表行為の有無、経営会議・取締役会への参加状況など、その者自身がどの程度実質的に法人の意思決定に参画しているかが重要なポイントになるものと考えられる。 次回は、「使用人兼務役員」の範囲をめぐる論点について取り上げる。 (了)
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〔検証〕 法人税法22条の課題
〔検証〕 法人税法22条の課題 税理士 朝長 英樹 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)は、同条が置かれている法人税法第2編第1章第1節第2款の名称(各事業年度の所得の金額の計算の通則)から分かるとおり、各事業年度の所得の金額の計算の通則を定めるものであり、現在の法人税法の規定中の最も重要な条文となっています。 このため、法人税法を正しく理解するためには、この法人税法22条を正しく解釈することが不可欠となります。 しかし、この法人税法22条には、立法上の課題も存在しています。 本稿では、この法人税法22条の条文を確認しながら、その立法上の課題の一部について簡記することとします。 1 法人税法22条1項 法人税法の全体に関することともなりますが、法人税法においては、損益に関する定めを設けるだけでなく、貸借に関する定めを充実させる必要がある、と考えられます。 また、本来は、法人税法は、「計算マニュアル」ではなく、「法人」が誕生してから消滅するまでの間の一連の「法人税」に関する取扱いを包括的に定めるものでなければならない、と考えます。 2 法人税法22条2項 法人税法22条においては、益金の額と損金の額は全て「取引」から生ずるという前提に立って規定が設けられていますが、例えば、評価益、評価損、災害損失などを考えてみると明らかなように、「取引」以外から益金の額や損金の額が生ずることもあるため、このような前提に立って規定を設けることには、疑問があります。 また、無償により役務の提供を受ける取引に関しては、益金の額を生じさせても同額の損金の額が計上されることとなって所得の金額に影響がないという理解の下に、益金の額を計上させることはしないこととされていますが、例えば、製造原価となるものや交際費等となるものについて無償により役務の提供を受けた場合を考えてみると分かるとおり、費用や損失の全額が損金の額となるとは限りませんので、本来は、無償により役務の提供を受ける取引に関しても益金の額を発生させる必要があります。 3 法人税法22条3項 損金の額がすべて「取引」から生ずるという前提に立って規定が設けられていることに疑問があることは、上記2において述べたとおりです。 また、無償による資産の譲渡又は役務の提供に関しては、益金の額を創出するだけでなく、寄附金の額を損金の額として創出することとしなければ、法人税法37条(寄附金の損金不算入)によって寄附金の額を損金不算入とすることはできませんので、本来は、損金の額を創出する定めを設ける必要があります。 4 法人税法22条4項 2項の収益の額が公正妥当な会計処理の基準に従って計算されるということであれば、例えば、資産の無償譲渡においては収益の額は0円ということになります。 このように、収益の額や原価等の額を会計処理の基準によって計算することとしたのでは、法人税法が予定する収益の額や原価等の額とは異なる金額が算出される場面が数多く生ずることとなるため、本来は、このように「計算」を全面的に会計処理に委ねる旨の規定を設けることには問題がある、と言わざるを得ません。 他方、公正妥当な会計処理には、各種の「判定」の基準に関して、法人税法が尊重すべき部分が少なからず存在すると考えられるため、この4項の規定は、公正妥当な会計処理の基準を「尊重」する旨の規定とすることでもよい、と考えます。 5 法人税法22条5項 益金の額や損金の額を発生させない取引は資本等取引だけでなく、貸借取引に関しても、益金の額や損金の額を発生させないことになりますので、本来は、貸借取引から益金の額や損金の額を発生させないという定めも必要となるはずです。 また、平成22年度改正で「残余財産の分配又は引渡し」を資本等取引に追加する改正が行われていますが、残余財産の分配又は引渡しにおいて「資本等取引」として益金の額や損金の額としない部分に関しては「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」と「法人が行う利益又は剰余金の分配」に既に含まれていますので、本来は、このような改正を行う必要はありません。このような改正を行うと、残余財産のキャピタルゲインに課税を行うことができないという解釈ともなりかねません。 この詳細に関しては、拙著『詳解 グループ法人税制』(法令出版)613頁を参照して下さい。 (了)
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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第5回】税率変更の問題点(4) 「請求の締日に基づく処理方法」
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第5回】 税率変更の問題点(4) 「請求の締日に基づく処理方法」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 請求期間の締め日による問題点 事業者が得意先と継続して取引を行っている場合には、締め日を設定して1ヶ月間の期間ごとに請求するケースが多い。 この請求方法において、その締め日が月末でない場合には、施行日前の請求分と施行日後の請求分で税率が異なるため、注意しなければならない。 例えば、20日締めの場合には、平成26年3月21日から3月31日までの販売分については旧税率である5%、4月1日から4月20日までの販売分については新税率である8%を適用することとなる。 この場合における請求書等の記載については、前回でも述べたように、それぞれの税率を表示するなどの工夫が必要である。 また、締め日が月末でない場合や、その事業者の請求に係る売上の計上基準などの観点から、以下のような点に注意しなければならない。 法人税法の決算締切日の特例を適用している場合の取扱い 売上計上基準の取扱い 売上計上基準と仕入計上基準が一致しない場合の取扱い これらの点については、消費税額を計算する上で旧税率を適用するのか新税率を適用するのか、相対取引において売上側と仕入側の処理が適正に処理されているかなどといった項目につき、税務調査等においても細かく確認される可能性があるため、各当事者間の取引内容も含め明確にしておく必要がある。 したがって、これらの点につき具体的に確認していく。 2 法人税の決算締切日の特例を適用している場合の取扱い 法人税において、事業年度の末日と決算締切日がずれている場合には、一定の要件のもと、決算締切日に合わせて法人税の計算を行うことができることとしている。 具体的には、法人税基本通達2-6-1に、以下のように定めている。 この規定は、実務上の商慣行を考慮して要件を満たした場合にのみ認められていることから、事業年度の末日で締め切ることについて問題のない項目については、原則のとおり事業年度の末日をもって締切日としなければならない。 また、この通達は、取引先ごとに締切日が異なる場合についても、それぞれ継続適用していればその締切日により計算できることとなるが、その場合であっても費用と収益は対応させる必要があり、それぞれの売上高に対応する売上原価を計算するために、期末棚卸高の計算については注意が必要である。 この特例に対し、消費税法における資産の譲渡等の時期については、消費税法基本通達9-6-2において以下のように定めている。 この通達により、消費税法上の資産の譲渡等の時期は、法人税における決算締切日の特例を適用している場合には、その計算と同様に処理することが可能となる。 したがって、3月決算法人の事業者で、3月20日を締め日として計算している場合には、その20日までの売上計上を基準として法人税及び消費税における申告を行うことができることとなる。 しかしながら、これらの通達は、締め日に係る計上基準の取扱いであって消費税率についての取扱いではないことから、施行日を含めた課税期間に係る消費税額の計算については注意しなければならない。 具体的には、3月決算法人の事業者における平成26年4月1日から27年3月31日までの課税期間につき消費税の計算を行う場合、26年3月21日から3月31日までの販売分については、旧税率により処理することとなる。 このように、税率改正の施行日をまたぐ法人税及び消費税の申告の計算については、通常の税額計算と異なることが想定され、慎重な対応が必要とされる。 3 売上計上基準の取扱い 消費税の計算において、売上の計上時期である資産の譲渡等の時期については、資産等を相手先に引き渡した時点で計上する『引渡基準』が原則であるが、その事業者の販売方法や業種によって様々な基本通達が示されている。 特に税率変更の施行日の前後に販売等した売上計上時期については、その計上基準により、旧税率が適用されるのか、新税率が適用されるのか、といった問題が生ずる可能性がある。 消費税法基本通達において具体的に認められている売上計上基準では、主に以下のようなものがある。 なお、資産の譲渡等の時期については、その特例規定として長期割賦販売等における延払基準、工事等の請負契約等における工事進行基準という計上基準が認められているが、これらの規定は平成9年の改正時と同様に改正消費税法の附則において特例措置が講じられており、次回以降で詳しく解説する。 上記のように、商品や製品を販売した場合、あるいは役務を提供した場合、その売上をいつ計上するかといった問題については特に重要な項目である。 例えば、商品等の資産を販売する場合、引渡時、資産売買の契約日、代金の決済日が必ずしも同一事業年度になるとは限らないことから、どの日をもって売上計上するかによって、法人税の計算では当期及び翌期の所得金額や税額が変わることとなり、消費税の計算では施行日をまたいで取引を行っている場合には消費税率も異なることとなる。 したがって、税務調査等でトラブルとならないようにするためには、売上計上日を証明する証票等(納品書や請求書等)を整備し、その書類の写しを保管することが重要となる。 出荷基準であれば運送会社の引取りを証する伝票、検収基準であれば取引先の検収確認印・日付の入った書面等などで客観的に確認できるようにしておく必要がある。 また、継続取引を行っている取引先に対しても、税率変更の施行日をまたぐ取引については、当事業者の売上計上基準でトラブルとならないように、納品書や請求書の記載方法等も含め事前に打ち合わせや確認等を行い、相互に合意の上で処理できるように準備しておかなければならない。 4 売上計上基準と仕入計上基準が一致しない場合の取扱い 継続的取引を行っている当事者間において、売上計上基準と仕入計上基準が一致しないケースがあり、その場合の処理方法について注意する必要がある。 具体的には、売上先が出荷基準、仕入先が検収基準の場合、委託販売において売上計算書到着日基準の場合などが考えられる。 上記のように、売上側の計上基準と仕入側の計上基準が必ずしも一致するとは限らないことから、お互いの認識基準を理解した上で明確に区分して請求しなければ問題が生ずる可能性がある。 また、その事業者がサービス業等の場合でその役務の提供が3月末日において明確に区分できないような場合においては、どのように請求を行うかといった点につき事前に検討しなければならない。 この点については、税務調査等においても追及される可能性があるため、当事者間の判断に合理性があるのかどうかも含めて検討すべきである。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【1】 〔第1章〕法(法源)の種類
税務判例を読むための税法の学び方【1】 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 〔第1章〕 法(法源)の種類 はじめに 「法」は道徳などと同様、社会規範の一種である。道徳等の他の社会規範との最も大きな違いは、違反したことにより強制的な制裁(刑罰、損害賠償など)が課せられるという強制力がある点である。また、行為規範となるだけではなく、裁判規範として機能するという点がある。 ではこの「法」と言った場合、「法律」と同義語であろうか。 答えは「否」である。 「法律」の成立要件は、国家により異なるが、わが国においては、国会で可決されて制定されたものを指す。では「法」として機能するものには、どのようなものがあるだろか。 そこでまず、法の種類について見ていく。 1 自然法と実定法 自然法とは、事物の自然本性から導き出される法の総称であり、人間の作った実定法の効力・拘束力の正・不正を識別する概念である。 自然法論によれば、この自然法に反する実定法は、法的拘束力をもたず、無効だと、すなわち「悪法は法にあらず」と主張される。 これに対し、法実証主義の立場からは、社会において実効的に行われている法である実定法の内容が道徳的であるか否かにかかわらず法的効力を認める、すなわち「悪法もまた法なり」と主張される。 仮に自然法論の主張を認めるにしても、何が自然法かといった判断は事実上不可能である。したがって事実上は、法実証主義の立場に立ち、実定法の分類を見ていくことになる。 2 法源 法源とは、法の形式的存在形態、すなわち、法規範がどのような形式で存在しているかをいう。 したがって「法源」という場合、法の存在形式による法の分類を指す場合もあるが、この分類の対象の範囲内か否かという意味を指す場合もある。すなわちこの分類の対象として、法的拘束力を持つものか否か=裁判官が裁判を行う際に基準となる裁判規範であるか否かという意味で使うこともある。もっとも裁判の結果に対する予測可能性から、事実上行為規範として機能することになる。 「法源性」とは、この意味における「法源」の使い方から「法規範性」の有無を指す言葉として使われている。 では次に、この形式的存在形態について見ていこう。 3 成文法(制定法)と不文法 文字・文章で表現され、所定の手続に従って定立される法を、「成文法」又は「制定法」という。これに対し、文字・文章で表現されていない形式の法を「不文法」という。慣習法、判例法、条理などがその例として挙げられる。 なお、判例法は、判決という文章が存在するが、判決文そのものが法ではなく、そこに含まれている法原則が拘束力をもつ法規範とされ、法として制定されたものではないため、不文法に分類される。 我が国では、英米と違い、成文法主義を原則とした上で、不文法も成文法を補充するものとして認められている。これに対し英米法の社会では、裁判所の判例は重要な不文法源となっている。 成文法は、体系的・論理的に整序されており、明確で安定している。したがって、社会の構成員の行動規範、裁判官の裁判規範としての明確性は高いが、法改正には一定の手続を経なければならず、時代の変化には即応しにくい。もっとも、基本的に一般的抽象的に規定されているため、立法後の社会変化に対してもある程度の適応力がある。しかし、立法当時には予測できない問題が生じた結果、成文法でなんら規定が存在しないことも起こり得る。このような場合には不文法で補充せざるを得ず、不文法に法源としての役割が求められる。 4 成文法の種類 ① 憲法 国家の統治体制の基礎を定める基本法である。 憲法も国会の議決を経て制定されたものという点では他の法律と同様であるが、日本国憲法第98条に「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と最高法規性が示されている。 また第96条において「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。」と厳格な手続によらなければ改正できないとされている。 このように、厳格な手続によらなければ改正できない成文憲法を「硬性憲法」といい、通常の法律の改正手続と同じ手続で改正できる成文憲法を「軟性憲法」という。 ② 法律 日本国憲法の定める方法により、国会の議決を経て制定された成文法をいう。 法律は国権の最高機関である国会によって制定される成文法であるから、国内法としては憲法に次で強い効力を持ち、他の国内法令に優先する。条約との関係については、条約の国会承認、憲法第98条第2項の条約遵守主義などから考えて条約が法律に優先すると解されている。 ③ 規則 「規則」という名称のものは数種類あるが、これは国会以外が憲法に定められた規則制定権に基づき、作成する制定法をいい、議院規則と最高裁判所規則がある。 議院規則は、憲法第58条第2項において「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め」と衆議院及び参議院による規則制定権が定められている。なお、これも法律同様立法府の定めたものであるため法律との優劣が問題になるが、法律は国会の両院の可決等の手続により制定されたものであるため、法律が上位とされている。 最高裁判所規則は、憲法第77条において「最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律も及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。」と最高裁判所による規則制定権が定められている。 最高裁判所規則は、法律に優位するという説もあるが、一般には国会を国権の最高機関とする憲法の趣旨からして、法律の方が上位にあると解されている。 なお、議院規則や最高裁判所規則と法律との関係は、法律による委任がなくとも一定の事項については憲法上当然に制定することができる点において、政令や内閣府令・省令のような行政機関の制定する命令とは区別されるものである。 ④ 命令 行政機関が制定する成文法の総称で、法律の実施に必要な細則や法律が委任する事項を定めるものであり、法律の範囲内において定めることができる。政令、府省令、その他の命令の3種がある。 また、内容的に分類すれば、執行命令と委任命令に分けられる(旧憲法下においては独立命令というものもあった)。執行命令とは、法律の規定を執行するために必要な細則を定める命令であり、委任命令とは、法律により委任された事項について定める命令である。 なお租税法律主義により、税に関する重要な事項(すなわち、納税義務者、課税物件、課税標準、納付の方法、納付の期日等)は法律で定めるべきであり、課税標準の計算についての技術的、専門的な事項や細かい手続的事項につき命令で定め得ると解される。 したがって、これら重要な事項は法律で命令に委任し得ず、また、法律で命令へ委任するにあたっても、委任の内容・程度が具体的・個別的であることを要し、概括的・白地的な委任は許されないと解される。 (ア) 政令 内閣が制定する成文法である。日本国憲法第73条において内閣の行う事務が定められているが、その第6号には「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」と定められている。閣議によって決定され、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署して、天皇が公布する。 (イ) 府省令 府の主任の大臣が発する成文法である府令(「内閣府令」)と各省大臣が発する成文法である省令の総称である。 内閣府令については、内閣府設置法第7条第3項に「内閣総理大臣は、内閣府に係る主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、内閣府の命令として内閣府令を発することができる。」と、省令については国家行政組織法第12条第1項に「各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。」と定められている。 なお、基本的には、命令のうちで重要なものは政令で、軽微なものは府省令で定めることになる。税法においては、原則、課税標準の計算に関する事項は政令(名称は「○○税法施行令」)で、細かい手続的事項については省令(名称は「○○税法施行規則」)で定めている。 (ウ) その他の命令 その他の命令として、会計検査院規則、人事院規則、人事院指令、府省の外局である委員会(行政委員会)が発する「規則」(例:国家公安委員会規則)、庁の主任の大臣又は省の外局である庁の長官が発する「庁令」(例:海上保安庁令・復興庁令。海上保安庁令は規則に準じ、復興庁令は府省令に準じる)などがある。その発する機関、根拠法、沿革などにより、政令又は府省令に並ぶか下位に位置することとなる。 (エ) 告示 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる(国家行政組織法第14条第1項)とされているが、一般的には告示そのものは法源とはされていない。 しかし、こうした告示の中には、法律又は委任命令の授権に基づいて、法令を補充する法規としての性質をもつものがある。すなわち、実質は法令の委任に基づく命令であって告示形式をとるものである。行政手続法第2条が、「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 」とした上で、第1号において法令につき「法律、法律に基づく命令(告示を含む。)、条例及び地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)をいう。」と告示を含めているのは、このような例があるためである。 税法における例としては、法人税法第37条により損金算入が認められるいわゆる指定寄附金の範囲が告示によることになっている。地方税については、総務省告示及び各地方団体の長の発する告示がある。 ⑤ 地方自治法規 (ア) 条例 地方公共団体が、議会の議決により、法令に違反しない限りにおいて、制定する自治立法を指す。地方税においては、賦課・徴収は地方議会の定める条例に基づいて行われなければならないとされる「地方税条例主義」によっており、地方税に関する裁判例を見るにあたっては、重要な成文法である(地方自治法第14条)。 (イ) 地方公共団体の「規則」 地方公共団体の長である首長が、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し制定するものである(地方自治法第15条第1項)。 (ウ) 地方公共団体の「規則」以外の地方公共団体の機関の定める「規則」 地方公共団体の委員会は、法律の定めるところにより、法令又は地方公共団体の条例や規則に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則その他の規定を定めることができる(地方自治法第138条の4第2項)。 ⑥ 条約 国家(一定の国際組織も含む)間の又は国際機関(国際連合等)による文書による合意を指し、名称は問わない。したがって、その名称は、条約のほか、憲章、協定、協約、宣言、議定書等さまざまである。憲法との関係では、その優劣につき学説上争いがあるが、法律以下の国内法令に対しては、条約が優位すると考えられている。 (次ページへ進む) (前ページへ戻る) 5 不文法の種類 ① 慣習法 慣習法とは、社会の慣行を通じて発生してきた社会生活の規範ともいうべき慣習が法規範として承認されたものをいう。 成文法中心主義を採用するわが国においては、慣習法が法源としての機能を果たすのは例外的な場合である。慣習が慣習法として認められるための要件を、「法の適用に関する通則法」第3条は「公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。」と定めている。 したがって、公の秩序又は善良の風俗(公序良俗)に反しない慣習で、「法令の規定により認められた」慣習か、「法令に規定されていない事項に関する」慣習に限られる。 ② 判例法 判例とは、先例として機能する裁判例のことで、ある事件に対し下された判決の中で示された一般的規準が先例として規範化され、その後の同種の事件においても同じ内容の判決が下されるようになることから、この一般的に承認されるに至った判決(裁判所の判断)を判例(法)という。判例は、他の裁判官の法解釈を拘束することになり、一種の法規範となるので、事実上法源性を有する。 したがって、判例と裁判例は区別して呼ぶ必要がある。 なお、我が国では、先例拘束性の原理が明文で規定されておらず、また憲法第76条第3項において「すべて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と裁判官の独立性が保証されていることから、判例は、確定的な法源とはいえないとされている。 なお、最高裁判所は、「憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき」は大法廷で裁判を行わなければならない(裁判所法第10条第3号)。 ③ 条理 条理とは、道理・筋道のことであり、西欧では「事物の本性」ともいわれる。明治8年太政官布告103号「裁判事務心得」(民事に関する事項については、現在でも効力が残っているとされ、現在の総務省の法令データ提供システムにおいても、第3条~第5条は表示されている)の第3条において「民事の裁判に成文の法律なきものは習慣に依り習慣なきものは条理を推考して裁判すべし(原文はカタカナ)」と、条理に基づく判断を定めている。 しかし実質的な内容に関しては無いに等しいため、拘束力のある法源かどうかについては否定的な見解が多い。 なお、この第4条においても「裁判官の裁判したる言渡を以て将来に例行する一般の定規とすることを得ず」と、裁判における先例拘束性を否定している。 参考(法源性のない行政機関の内部規律) 以下のものは、所管の諸機関及び職員に対し、発せられる行政組織内の職務命令である。 したがって、これまで述べた法令等が、基本的に国家・地方公共団体職員のみならず一般国民をも拘束するのに対し、これらはあくまで国家・地方公共団体職員等を規律するものである。しかし、その内容が法令の解釈を示すためのものであれば、これら職員に遵守義務が課せられていることから、結果的にこれら職員の行政行為を通じて一般国民をも拘束する結果となる。だが法令ではないため、その適否が訴訟で争われた場合には、裁判所は法令に基づいて判断を下すことになる。したがって法源性はない。しかし、行政先例法(行政上の先例や取扱いが長年の間反覆・継続して行われているうちに、社会一般に法的確信をいだかせるようになり、慣習法として認められるに至ったものをいうとされる)の形成を認める見解もある。 ① 告示 前記したように、各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる(国家行政組織法第14条第1項)とされており、法令を補充する法規としての性質をもつもの(前記)と、行政機関内部の行政規則があり(そのほか、一般処分や事実行為の場合もあるが、ここでは省略する)、ここにおいてはこの後者を指す。 ② 訓令 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達するため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる(国家行政組織法第14条第2項)とされており、行政機関及びその職員を対象として定める命令である。公共性が強く官報に掲載されるものと、非公表扱いのものがある。 ③ 通達 訓令同様、国家行政組織法第14条第2項に基づくものである。上級機関が下級機関に対して、その機関の所掌事務について示達するため発出する公文書のことであり、法令の解釈等を示すものとして、当該法令を所管する省庁が下級機関に対して発遣することが多い。ただし、あくまで行政機関内部の文書であることから、通達で示された法令の解釈は司法の判断を拘束しないが、行政解釈を知る手段として重視される。 特に税法においては、税務通達が実務上非常に大きな影響を持っている。というのも、税に関する法令を具体的な事案に適用するにあたっては、法令の解釈が必要になるが、こうした解釈について課税庁全体における統一をはかるために通達が定められるからである。 なお、これには体系的に法令全体の解釈を示した基本通達と個別の事案ごとに示している個別通達がある。 ④ 行政実例 「行政実例」とは、法令の解釈・運用について所管省庁の見解を示したもので、通達等とは異なり、都道府県・市町村からの照会に対して所管省庁が回答するという形式をとるものである。 これも通達と同じく、そこで示される解釈は司法判断への拘束力を持たないものであるが、指揮監督という関係に基づき、当該事案及び事後の同種事案において下級機関の判断を拘束する。 税務においては、地方税の取扱いにつき見解を示したものがある。 ⑤ その他 インターネットによる行政機関のサイト等において、所管法令等の解釈がされることがある。税務においては、国税庁ホームページにおいて「タックスアンサー(よくある税の質問)」として回答を示しているものがある。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載1〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第1回】株式会社の解散とみなし事業年度及び残余財産確定後の取扱い
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載1〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第1回】 株式会社の解散とみなし事業年度 及び残余財産確定後の取扱い 公認会計士・税理士 長谷川 敏也 A社(3月決算)は、期中の7月14日に解散の特別決議を行いましたが、法人税の申告を行う事業年度は、どのようになるのでしょうか。また、残余財産確定後の事業年度はどうなるのでしょう。 1 特別決議による解散後の事業年度 株式会社は、いつでも株主総会の特別決議によって解散することができます(会社法309②)。そして、原則として、解散の特別決議を行った株主総会の日に解散の効力が生ずることとなります(下記図①~③参照)。 会社法上は、当該事業年度の開始の日から解散の日までを一事業年度(解散事業年度)として取り扱い、その後は、解散の日の翌日から各1年の期間ごとに、各清算事務年度が生ずることとなります(会社法494①)。この各清算事務年度は、法人税法上も、各事業年度とされることとなります(法法13①)。 このため、A社の場合には、各清算事務年度が毎期7月14日に終了することになり、法人税法上も、毎期、7月14日を末日として各事業年度の申告を行うこととなります。 仮に、株主総会の特別決議の日を月の末日としたということであれば、会社法上の各清算事務年度及び法人税法上の事業年度は、いずれもその末日を終了日とするものとなり、実務上は、対応が行いやすくなることとなります。 ※ 会社法では「事務年度」、法人税では「事業年度」 法人税法上は、残余財産が確定した場合には、残余財産確定の日をもって事業年度が終了するものとされているため(法法14①二十一)、その残余財産の確定の日を末日とする事業年度について確定申告書の提出が必要となります。 なお、平成22年度改正により清算所得課税が廃止され、解散の日の翌日以降も継続企業と同様に損益法による課税(各事業年度所得課税)を行うこととされたため、平成22年10月1日以後に解散を行った法人からは、「清算確定申告書」という特別の様式は用いず、通常の各事業年度の申告書及び別表を用いて申告を行うこととされています。 2 残余財産が確定して事業年度が終了した後の期間の損益等の取扱い 法人税法上、清算中の普通法人は、その残余財産が確定した場合には、その確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならないこととされています(法法74②)。また、みなし事業年度(法法14①二十一)も残余財産確定の日をもって事業年度が終了するものとされています。 清算株式会社は、清算事務が終了(残余財産の分配)したときは、遅滞なく、決算報告を作成しなければならず、清算人は、決算報告を株主総会に提出し、又は提供し、その承認を受けなければならない(会社法507)とされており、会社法施行規則150条では、残余財産の分配の完了までを記載することとされていることに留意が必要です。 つまり、会社法では、残余財産確定、残余財産が有る場合その分配、その分配後最後の株主総会、清算結了登記で終了です。法人税に関しては、残余財産が確定した日をもって最後事業年度は終了し、そこから1月以内又は残余財産分配の前日の早い日までに確定申告をします。 法人税法上は、その残余財産が確定した日の翌日から1月以内(当該期間内に残余財産の最後の分配又は引渡しが行われる場合には、その行われる日の前日まで)に、税務署長に対し申告書を提出しなければならないとされています。その後、清算結了登記までの期間の損益の帰属が、解散法人なのか株主なのかはっきりしませんが、解散法人の最後事業年度の翌日に株主に帰属するものと考えられます。 確定申告費用、残余財産の分配のための費用、株主総会費用、清算結了登記費用などを未払金として最後事業年度の費用及び債務に計上して申告する実務が行われています。これは、各事業年度の所得に対する取扱いを前提にすると確定債務ではないため、損金にならないのではないか等の疑義が発生します。しかし、清算法人の清算のための諸費用であることは異論がなく、法人税法上の最後事業年度の損金の額に算入されるものと考えられます。 なお、残余財産の確定後、残余財産が賃貸物件であったりすると、株主に分配するまでの間に残余財産から収益・費用が発生します。この帰属については法令や通達には何も示されていませんが、株主で処理することが合理的と考えられます。 法人税法62条の5第1項では、残余財産の全部の分配又は引渡し(適格現物分配を除く)により被現物分配法人その他の者にその有する資産の移転をするときは、被現物分配法人その他の者に移転をする資産の、残余財産の確定の時の価額による譲渡をしたものとして、各事業年度の所得の金額を計算するとされ、第2項では、その移転による譲渡に係る譲渡利益額又は譲渡損失額は、その残余財産の確定の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入することとされています。 これらの判定は、残余財産の確定の日でみなし事業年度が終了し(法法14①二十一)、それ以後は申告しないことが前提とされているため、この譲渡損益を所得計算に反映するべく、残余財産の確定の日の属する事業年度にこの譲渡損益を計上するための規定(すなわち、損益の認識時点の特例規定)として設けられています。 (了)
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企業予算編成上のポイント 【第1回】「キャッシュ・フロー経営と予算の関係」
企業予算編成上のポイント 【第1回】 「キャッシュ・フロー経営と予算の関係」 公認会計士 児玉 厚 大学卒業後、鉄鋼商社の経理、監査法人を経て、会社を起業して13年目になる。 たまたま「経理マン」「会計士・税理士」「経営者」という3つの立場を経験してきた。 それぞれの立場に対して、少なからず思い入れがある。 「経理マン」の時代には 「経営者はなぜ、管理部門を軽視するのか」 「数値に基づく経営が重要であり、経営者も会計を深く理解する必要があるはずだ」 と思っていた。 「会計士・税理士」の時代には 「(監査):経営者はなぜ、監査を軽視するのか。経営の姿をオープンにし、監査と正々堂々対峙していくべきではないか」 「(税務):経営者はなぜ、節税という幻想に目を奪われ、税引後利益をいかに最大化するかに向き合わないのか」 と思っていた。 今「経営者」の時代の中にいる。経営者の頭にあるのは次の2つの点だ。 「(お金):社員等の生活を守っていくために、いかに売上高を上げ、利益を上げていくべきか」 「(人):そのために、社員のベクトルをどう一本化して、オフバランスの人財価値をいかに最大化していくべきか」 経営者は、「過去」ではなく、99%「将来」の方向を向いている。 「なぜ、経理マンは、未来志向の経営の視点で行動し、サポートしてくれないのか」 「なぜ、会計士や税理士は、未来志向の経営の視点での良き相談相手になってくれないのか」 と多くの経営者が感じていると思う。 それだけ会社を継続させていくことが難しい時代に入っているのだ。 「経理マン」「会計士・税理士」「経営者」の間には、「大きな心の溝」がある。 お互いに信頼し合う「夢のトライアングル」の構築が、日本経済が復活していくために必要だと思う。 そのキーワードが「予算」である。 デフレの時代が長く続いている。物の価値は下がり、お金の価値が上がっていく時代だ。 「キャッシュ・フロー経営」の重要性を疑う経営者は誰もいないだろう。 ところが、目標としての「予算キャッシユ・フロー計算書」は作成されていない。 予算損益計算書の作成に留まっている。 実績財務諸表は、原則として過去の記録の積上げであるが、国際会計との整合性の観点から「予測概念」が多く入ってきている。たとえば、退職給付会計や減損評価や繰延税金資産の回収可能性や資産除却債務などである。時価評価も予測概念に入るだろう。 IFRSでは「将来キャッシュ・フローの予測に資する」という点が重視されるので、さらに予測主義が加速する。 実績財務諸表の適正性は、「予測の正確性」がなければ担保されない。 オリンパスなどの粉飾決算は跡をたたず、資本市場の発展に大きなブレーキがかけられている。 犯罪である粉飾決算は、なぜ起きるのだろうか? 上場会社は、決算短信で業績予想を発表している。(外部予算) 投資家はこの指標を重視して、「株を買う、保有し続ける、株を売る」という経済的意思決定をしている。 業績予想の売上高の10%以上、利益の30%以上、予想値からかい離すると判断した場合には、すみやかに業績予想の修正と修正理由を発表しなければならない。下方修正で合理的な理由がない場合、投資家の信頼を失い、株価が暴落する危険性がある。 経営者は、「何としても業績予想を実現する」という強いプレッシャーを受けているので、結果として経理操作による粉飾決算を誘発するリスクがある。 もし、業績予想が「営業キャッシュ・フロー」で示されるとしたら、経理操作しても意味がないので、粉飾決算の芽を実質的につむことができるはずだ。 内部予算が粉飾決算の引き金になる場合もある。 A事業は年率10%で成長しており、B事業は逆に年率10%で縮小しているとしよう。 A事業部門の目標売上高を当期比10%増加に設定することは合理的だが、B事業部門の目標売上高を同様に当期比10%増加に設定されたら、実現は限りなく不可能に近い。 B事業の営業マンは、予算達成により賞与査定が決まるとしたら、「何としても目標売上高を達成しなければ」という強いプレッシャーを感じ、与信上の危ない先にも販売したり、「経理操作してでも目標売上高を達成したい」という衝動にかられる危険性は常にあるだろう。 もし、営業部門の予算目標を「営業キャッシュ・フロー」に設定し、その目標達成により賞与等の人事評価がなされる仕組みに変わったら、「危ない先には売らない」し、「経理操作をしても意味がない」し、「できるだけ回収サイトを短くする努力をする」はずだろう。 連結経営において、連結子会社等をコントロールすることは難しいが、連結経営方針の予算目標を営業キャッシュ・フローに設定すれば、同様のリスクは大きく回避され、連結ベースのキャッシュ・フローの改善に繋がるだろう。与信管理や滞留債権の回収等の対応の管理コストも自動的に削減されていくはずだ。 営業キャッシュ・フローが改善されていけば、その資金を未来のために投資することができる。 それは社員にとっても大きな夢だ。 会社は「人」であり、「人の意識」が変わらなければ「会社」も変わらない。 つまり「キャッシュ・フロー予算制度の重要性を共に理解する教育基盤」が必要になる。 実績財務諸表を作成する理論が「会計」である。 しかし、予算財務諸表を作成する理論は世の中に存在していない。 そこで、「予算財務諸表を作成する理論」を「予算会計」に名付けることにした。 ここでいう予算財務諸表とは、「予算損益計算書、予算株主資本等変動計算書、予算貸借対照表および予算キャッシュ・フロー計算書並びに月次資金計画書」をいう。 さらに2011年7月より、ブログ&メルマガ「予算会計を学ぶ」を立ち上げた。 このサイトでは、2000年10月に発刊された『企業予算編成マニュアル』(清文社・共著)を解説し、予算作成の連関エクセルシート(製造業)を作成し、メルマガで配信している。「いつも楽しみにしています」というお言葉を多数いただき、感謝に堪えない。 素朴な気持ちとして、「会計業界をもっと夢のある世界にしたい」と思う。 多くの会計人の方のみなさんと「予算会計」という新たな世界を一緒に創造していけたらと願っている。 (了)