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税効果会計を学ぶ 【第11回】「将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異」
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第11回】 「将来解消見込年度が長期にわたる 将来減算一時差異」 公認会計士 阿部 光成 前回に引き続き、「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(監査委員会報告第66号。以下「監査委員会報告第66号」という)を適用する際の留意点について解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異 将来減算一時差異には、棚卸資産の評価減や賞与引当金のように(いずれも計上時には税務上、損金算入できないものとする)、スケジューリングの結果、一般に、短期間で解消されるものがある。 一方、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異のように、将来解消年度が長期となる将来減算一時差異も存在する。 将来解消年度が長期となる将来減算一時差異は、企業が継続する限り、長期にわたるが将来解消され、将来の税金負担額を軽減する効果を有するものである(監査委員会報告第66号5(2))。 監査委員会報告第66号は、将来解消年度が長期となる将来減算一時差異については、会社分類(例示区分)に関連付けて次のように規定している(監査委員会報告第66号5(2))。 Ⅱ 税効果会計に関するQ&A 1 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異のスケジューリング 「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に関して、会社分類(例示区分)③及び④(但書)の場合、例えば、退職給付引当金について5年間(合理的な見積可能期間)のスケジューリングを行った上で、その期間を超えた年度であっても、最終解消年度までに解消されると見込まれる退職給付引当金に係る繰延税金資産については、回収可能性があると判断できると述べられている。 「5年間(合理的な見積可能期間)のスケジューリングを行った上で」と述べられているので、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異であったとしても、まず5年間(合理的な見積可能期間)についてはスケジューリングを行うことが必要であり、その上で、その期間を超えた年度であっても、最終解消年度までに解消されると見込まれる将来減算一時差異に係る繰延税金資産については回収可能性があると判断できることになると解される。 2 役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異 役員退職慰労引当金については、就任している役員の現在の年齢などによっては、役員を退任し実際の支給が行われるまでに相当の長期間を要することがある。 役員退職慰労引当金についても、監査委員会報告第66号の将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に該当するのかどうかの論点が考えられる。 これについて、「税効果会計に関するQ&A」のQ1では、役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、スケジューリングの結果に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断するものであり、退職給付引当金や建物の減価償却超過額のように将来解消見込年度が長期となる将来減算一時差異には該当しないと述べられている。 このため、役員退職慰労引当金に係る繰延税金資産の回収可能性については、これまでの役員在任期間の実績や内規などに基づいて役員の退任時期を合理的に見込み、当該役員の退任時期に将来減算一時差異が解消され、税金負担額を軽減できる範囲内で、繰延税金資産を計上することとなる。 3 将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異に関する限定的な取扱い 監査委員会報告第66号では、将来解消見込年度が長期にわたる将来減算一時差異として、退職給付引当金や建物の減価償却超過額に係る将来減算一時差異を挙げている。 本来、繰延税金資産の回収可能性は、一時差異等のスケジューリングに基づいて判断すべきものである。 これに対して、退職給付引当金や減価償却については次の性質を持っている。すなわち、退職給付引当金は、従業員の退職金に関する制度設計に基づいて計上され、基本的に、会社の意思による影響を受けないで、長期間にわたって一時差異等の解消が性格上予定されているものである。また、減価償却費は、会社の採用した会計方針(減価償却方法)に基づいて、計画的・規則的に実施することにより、長期間にわたって、規則的に一時差異等の解消が予定されているものである(手塚仙夫『税効果会計の実務(第7版)』(清文社、2011年6月)57ページ参考)。 前述のとおり、本来、繰延税金資産の回収可能性は、一時差異等のスケジューリングに基づいて判断すべきものであるが、このような退職給付引当金や減価償却の性質に鑑みて、監査委員会報告第66号はこれらについて特例的な取扱いをしたものと解されるので、退職給付引当金や減価償却についての限定的な例示と解すべきものと考える。 (了)
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年次有給休暇管理上の留意点 【第1回】「年次有給休暇の基本」
年次有給休暇 管理上の留意点 【第1回】 「年次有給休暇の基本」 社会保険労務士 菅原 由紀 ◆年次有給休暇の基本 「休暇」とは、労働契約において労働義務がない日をいう「休日」とは違い、労働契約上の労働日について、その労働提供義務を免れるものをいう。 休暇には法律で定められている「法定休暇」と使用者が独自に就業規則等で定めた「法定外休暇」がある。 年次有給休暇(以下、「年休」という)は、付与が義務付けられている「法定休暇」の一つである。 《休暇の種類》 使用者は労働者に対して、毎年決められた日数の年休を与えなければならない。 年休は、雇入日から6ヶ月継続勤務し所定労働日の8割以上出勤した者に対して、最初は10日与えられる。 その後1年ごとの勤務年数に応じて8割以上出勤する条件を満たせば、雇用形態にかかわらず、条件を満たした労働者に対して所定の日数が与えられるものである。したがって、パート・アルバイトにも与えなければならない。 出勤率の計算にあたっては、年休の取得日、産前・産後休業、育児・介護休業期間、業務上の負傷又は傷病のため休業した期間は出勤したものとみなす。また、遅刻・早退した日でも1日出勤したものとされる。 ◆年休の付与日数 年休は、以下の日数を付与することになる。 《年休の付与日数(基本)》 週所定労働時間が30時間未満で週の労働日数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下の者については、比例付与の規定がある。 《短時間従業員の比例付与日数》 ◆年休の単位 年休は1日単位が原則であるが、半日単位で与えることは通達により認められている。また、平成20年の労働基準法の改正によって、労使協定を締結すれば年5日の範囲で時間単位で与えることができるようになった。 年休を取る権利は、2年で時効によって消滅する。 年休は、労働者が請求した時季や日数を与えることが原則だが、会社の正常な運営を妨げる場合、使用者は労働者が申し出た時季を変更することができる。 ◆年休の買上げ 年休は現実に使用者が労働者に与えなければならないものであり、事前にその買上げを予約し、これにより年休の日数を減らしたり、請求された日数を与えないことは、法律違反である。 ただし、次の場合は買上げが認められている。 ◆年休の賃金 年休期間中の賃金は、次の方法のうち、会社があらかじめ定めたいずれかの方法で計算する。 (イ)と(ロ)は就業規則等で、(ハ)の場合は労使協定を締結した上で、就業規則等によって定める必要がある。 この場合の賃金の選択は、労働者によって取扱いを変えたり、会社の恣意によって、その都度選択するといった性格のものではなく、就業規則等によって方法を定めた場合は、必ずその定められた方法で賃金を支払わなければならない。 ◆年休の使途 年休の取得理由については、労働者の自由に委ねられている(自由利用原則)ため、使用者は労働者が年休の取得を申し出てきた場合に、その使途を尋ねることは許されないというのが原則である。 ただし、使用者は上記のように「時季変更権」があることとの関係で、使用者が「休暇の使途を考慮して時季変更権の行使を控えようとする場合」などには、労働者に対して年休の使途を尋ねることは許されるとされている。 ◆年休取得による不利益取扱い 使用者は、年休を取得した労働者に対し、賃金の減額その他不利益な取扱いをすることは禁止されている。 例えば、賞与を実出勤日数に応じて支給するため、年休を通常の欠勤と同じようにみなして賞与を査定したり、年次有給休暇を取得した月の皆勤手当を減額又は不支給にすることは不利益な取扱いになる。 逆に取得しないことで有利な取扱いをすることも、年休の取得意欲を削ぐことになるため、不利益な取扱いに含まれる。 (了)
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〔時系列でみる〕出産・子を養育する社員への対応と運営のヒント 【第6回】「産後8週間経過後の対応(3)」―子の看護休暇・次世代育成支援―
〔時系列でみる〕 出産・子を養育する社員への 対応と運営のヒント 【第6回】 「産後8週間経過後の対応(3)」 ―子の看護休暇・次世代育成支援― 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 前回に引き続き、子を養育する従業員に対する育児・介護休業法による制度のポイントと企業の対応策について解説し、その後、次世代育成支援対策推進法(本文中は「次世代法」とする)について触れていくこととする。 2 子の看護休暇 (1) 制度の概要 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、1年に5日(子が2人以上の場合は10日)まで、病気・けがをした子の看護又は子に予防接種・健康診断を受けさせるための休暇を取得することができる。 (2) 対象者から除外される従業員 日々雇用される者及び労使協定により対象外とすることを定めた次の従業員については、対象者から除外することができる。 (3) 企業側の注意点 ① 休暇の日数 「5日(又は10日)」は1年度における取得可能日数であり、「1年度」は、別段の定めをしないときは、毎年4月1日から翌年3月31日となる。 管理の都合(例えば年次有給休暇についても基準日を設け、一斉に更新をしている)により、4月1日とは異なる起算日を設定するときは、就業規則に規定し、従業員に周知をしておく必要がある。 ② 年次有給休暇との関係 「子の看護休暇」は、年次有給休暇とは別に与えなければならない。 したがって、年次有給休暇として10日付与している従業員については、さらに5日(又は10日)の「子の看護休暇」を与えることとなる。 なお、年次有給休暇とは異なり、有給・無給のいずれとするかは労使間で定めることができる。 無給とする場合には、事後トラブルを回避するためにもその旨を就業規則に明記しておくとよい。 ③ 取得手続 子の看護休暇の申出は、次の事項を会社に伝えて行う。 取得手続は、会社側が最も気を付けておきたい点である。 育児・介護休業法に定められた育児休業や時間外労働の制限等は、1ヶ月前の申出など事前手続を要するが(前回参照)、子の看護休暇はいつまでに手続をすべきであるか、法令の定めがない。 つまり、当日の朝に連絡があった場合でも取得を認めることとなる。 制度の趣旨は子の傷病時の看護等のための休暇であるから、急病にも対応できるものが望まれ、当日の電話による口頭の申出でも取得を認め、書類の提出は事後でも差し支えない扱いとすることが必要とされている。 このため、子を養育する従業員がいる部門では、フォロー体制について検討をし、当日の急な申出があっても業務の進行への影響を最小とするルール作り(例:業務情報の共有により他者もサポートできる仕組みを構築する等)を行っていくとよい。 なお、この体制整備については子の看護休暇を取得する従業員のためとして行うのではなく、子を養育していない従業員に対しても、自身が急病により欠勤をするとき、家族の慶弔休暇等により業務を離れる必要があるときなど、すべての従業員に関係のある事例を想定しながら制度設計をしていくと、より理解を得やすく、現実的なフォロー案が従業員側から出ることも期待できるであろう。 3 次世代育成支援 (1) 制度の概要 次の世代を担う子どもたちが健やかに生まれ育つ環境を作るため、次世代法が制定され、101人以上の従業員を雇用する企業は、「一般事業主行動計画」(以下「行動計画」)を策定し、都道府県労働局に届出、公表、従業員への周知が義務付けられている。 (2) 行動計画の策定 行動計画では、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むに当たって、計画期間、目標、目標達成のための対策及びその実施時期を定めなければならない。 なお、これから行動計画を策定しようとする場合は、下記【参考】の「両立支援のひろば(厚生労働省)」に公開されているものを参照しながら進めていくとよいであろう。 企業規模、業種、地域を絞って検索することができるため、各社に合ったものを定めるときには役立つものと思われる。 また、同サイトには「両立診断サイト」も設けられており、質問に回答をしていくことで、他企業の平均と自社の現状との比較をした診断結果をグラフで確認することも可能である。 この連載の初回に触れた通り、従業員優遇の福利厚生としてのみではなく、重要な人的資源の活用のための経営戦略の一環として両立支援に取り組んでいくためにも、同業他社の現況も把握をしながら進めていくことは意義のあることといえる。 (3) 制度上のメリット 上記の行動計画により両立支援の取組みを進めることは、従業員の働きやすさの向上・職場への定着率のアップ・働く意欲の向上にもつながり、これと相まって、長期的には企業の成長と生産性の向上をもたらすことが期待できる。 その他の優遇措置として、税制上のものがある。 一定期間内に取得・新築・増改築をした建物等について、行動計画の認定を受けた日を含む事業年度において、普通償却限度額の32%の割増償却ができる。 ただし、平成26年3月31日までの期間内に始まるいずれかの事業年度において次世代法の認定を受けること、という期限がある点に注意を要する。 詳細は【参考】の資料を確認していただきたい。 4 おわりに 両立支援策の設計においては、「他の従業員の理解を得ながら進めていくこと」が重要である旨を当連載の中で幾度か述べてきた。 今回の記事中でも触れたが、やむを得ず急な休みを取得するケースは、子を養育する従業員だけではなく、他の従業員についても起こりうることである。 「私には関係ない」と考える各従業員にも当事者意識を持たせること、一部の社員をターゲットにした制度ではなく、全従業員が何らかのメリットを享受できると思われる制度設計をしていくとよいであろう。 次回は苦情処理等について触れていくこととする。 (了)
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親族図で学ぶ相続講義 【第6回】「資産家の相続」
親族図で学ぶ相続講義 【第6回】 「資産家の相続」 司法書士 Wセミナー専任講師 山本 浩司 [被相続人甲野太郎 相続関係説明図] 資産家の相続の場合には、一般庶民にはない苦労があります。 今日はそのあたりの事情で、よくある話について述べましょう。 1 乙山桜子に相続させたくないとき だいたい、2つくらいパターンがあります。 ひとつは、いわゆる「農家の相続」というやつです。 農家では、田んぼを遺産わけすることを“たわけ”(田分けの意を兼ねる)といって嫌う傾向があります。 田んぼを兄妹で分けると、経営規模が縮小して共倒れになってしまうという考え方が根本にあります。 また、乙山桜子は、すでに他家に嫁ぎ、そのときに財産を分けたし、その後も援助をしたのだから相続には口出しするなという意味もあります。 次に、乙山桜子が何らかの問題を抱えているケースがあります。 だいたい資産家というのは、入るものもデカイが、出る方も大きいので、失敗すると負債もかさむのです。 で、乙山花子が債権者に追われているとすれば、これに相続をさせると甲野家の資産が目減りする(債権者に持っていかれる)ことになります。 こういう場合に、甲野太郎が生前に打っておける手をご紹介します。 まず、遺言を書けばよろしいです。 つまり、「全財産を長男の甲野一郎に相続させる」と書いておけばいいのです(公正証書遺言がベスト)。 しかし、これだけでは万全とはいえません。 というのは、乙山桜子には遺留分があるのです。 この事例では、乙山花子は、甲野太郎の全財産のうちの4分の1を遺留分として、遺言の効力を減殺することができるのです(遺留分減殺請求権)。 そこで、この懸念を払しょくするために、乙山桜子に「遺留分の放棄をさせる」という手があります。 遺留分というのは、被相続人(甲野太郎)の生前に放棄することができるのです。 この条文にあるように、乙山花子に家庭裁判所に向かわせ、そこで遺留分放棄の許可を受けます。 これによって、乙山花子は、甲野太郎の死亡後に遺留分減殺請求権を行使することができなくなります。 以上に述べた方法、つまり、遺言と生前の遺留分放棄の方法を併用すると、甲野太郎は自由にその遺産を処分することができるようになります。 2 甲野浩に相続させたいとき 資産家ならではの悩みは、相続税ですね。 相続税は、相続の発生が課税原因ですから、この問題を根本的に解決するには相続の回数を減らすしかありません。 そこで、「孫を養子にする」という手法がとられることがあります。 今日の事例の相続関係図では、甲野太郎の子の甲野一郎が存命ですから、孫の甲野浩は甲野太郎を相続しません。 しかし、甲野太郎が甲野浩を養子にすれば、甲野浩は相続人となります。 養子というのは、年長養子(養子の年が養親の上のケース)や尊属養子(甥が叔父を養子にするなど)が禁止される程度でありまして、孫を養子にする、弟や妹を養子にするなど、かなり柔軟に養子縁組をすることができます。 このように孫を養子にして、孫に相続させることによって、「親→子→孫」という2回の相続をする場合に比べて、相続の回数を1回減らすことができるのです。 (了)
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改正金融検査マニュアルのポイントと中小企業へ与える影響 【第1回】「改正された金融検査マニュアル等の特徴とその効果」
改正金融検査マニュアルのポイントと 中小企業へ与える影響 【第1回】 「改正された金融検査マニュアル等の 特徴とその効果」 OAG税理士法人 税理士 山下 好一 金融庁は、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」(以下、「金融円滑化法」という)の失効に伴い、金融検査マニュアル及び監督指針(以下、「金融検査マニュアル等」という)の改正を行った。 それに先立ち、昨年の11月に大臣談話として、期限到来後も金融機関や金融庁の方針は何ら変わらないとし、金融検査マニュアル等で措置されている、中小企業向け融資に当たり貸付条件の変更を行っても不良債権とならないための要件は恒久措置であるなどと公表していた。 したがって、借り手側の中小企業や小規模事業者(以下、「中小企業等」という)は、失効後もこれまで通り、貸付条件の変更等の申込みを行うことができる。 そもそも金融円滑化法は、リーマンショックによる百年に一度ともいわれている不況の中、金融機関の自己資本比率維持のための「貸し渋り・貸しはがし」防止の観点から、平成21年12月に施行された。 この金融円滑化法は、23年3月31日までの時限立法であったが、2度の延長を経て本年3月31日に失効を迎えた。 その間の利用状況「中小企業円滑化法に基づく貸付条件の変更等の状況について」[確報値](施行日から24年9月末まで)を見ると、374万件の申込みに対し、348万件の実行がなされ、実行率は93.0%となる。審査中及び取下げを除けば97.4%の実行率となり、金融機関の積極的な取組姿勢をうかがうことができる。 件数は債権ベースであるため、実際の申込企業数は不明(30万社から40万社といわれている)であるが、実行された374万件の債権すべてが真に条件変更を必要としたかの疑問は残るものの、これが倒産件数を抑制していることはいうまでもない。 しかしながら、返済猶予等による資金繰りの改善があっても、それは恒久的なものではなく、その間に事業再生を図らなければ、いずれ資金難に陥ってその企業は淘汰される。 現に、経営の改善が図られず、金融円滑化法が延命措置法として機能していたともいわれている。 金融庁は、条件変更を受けながら経営改善計画等の策定ができない中小企業等が増加の傾向にあることを踏まえ、金融機関に貸付条件の変更等を促すことを目的としていた金融円滑化法を延長せず、今回の金融検査マニュアル等の改正で、これらを補完するため、借り手の経営改善や事業再生等の支援強化など、次のことを明記し、検査・監督で徹底するとしている。 金融機関は、債務者の実態的な財務内容、資金繰り、収益力等により、その返済能力を検討し、債務者に対する貸出条件及びその履行状況を確認の上、業種等の特性を踏まえ、事業の継続性と収益性の見通し、キャッシュ・フローによる債務償還能力、経営改善計画等の妥当性、金融機関等の支援状況等を総合的に勘案し債務者区分を判断する。 この債務者区分に従い、担保及び保証等による調整を行い、分類対象外債権の有無を検討の上、債権の分類を行い、各金融機関の貸倒実績等をもとに償却・引当などを行う。 金融庁の検査官は、立入検査当初に全員で、金融機関が行った債務者区分の判断の妥当性を検査し、その後、事前に割り当てられた各自のパートについて検査している。 この検査過程で、債務者区分の変更があれば、必然的に分類も変わり、最終的には自己資本比率も変わることになる。 金融機関は、4%以上(国内業務に特化)の自己資本比率(国際業務を行う場合は8%)を確保する必要がある。一般的に、「自己資本/総資本」で算出するが、金融機関では、分母に「信用リスク(貸出金等が回収できない危険性)+市場リスク(所有する有価証券の変動リスク)+オペレーショナル・リスク(事務ミスや不正行為等による損失)」を用いるようになっている。 貸付金に回収の危険が生じれば、償却・引当金が大きくなり、ついては分母の信用リスクが増加し、自己資本比率が低下する。自己資本比率を維持もしくは上昇させるためには、分子を大きくするか分母を小さくするか、又はこの両方が必要となる。 そこで、新たに貸付けを行えば正常債権であってもいくらかの引当が生じるため、貸付けの抑制を行う、また不良化した債権を回収する。これで手持現金を多くし、自己資本比率の低下を抑えた。 これが「貸し渋り・貸しはがし」である。 改正金融検査マニュアル等の方針では、貸付条件の変更を行っても、一定の要件があるものの不良債権とはならず、分母の増加を抑制することができる。金融機関の積極的な取組姿勢は、このためと見ることもできる。 現在の我が国経済を見ると、景気は回復している状況にあるが、それはアベノミクスの金融緩和政策による株価の上昇や円安に伴うものであり、一部ではミニバブルとの警戒感も見受けられる。このような状況にあって、中小企業等には、まだまだ景気回復の実感は伝わっていない。 いずれにしても、条件変更を受けながら経営改善が行えず、自らの利益による資金繰りの改善に至っていない中小企業等が多く存在しており、これまで以上の支援が期待される。 (了)
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顧問先の経理財務部門の“偏差値”が分かるスコアリングモデル 【第1回】「経営者の視点で経理財務部門の課題を考える」 ~経理財務分野で解決されるべき課題~
顧問先の経理財務部門の “偏差値”が分かる スコアリングモデル 【第1回】 「経営者の視点で経理財務部門の課題を考える」 ~経理財務分野で解決されるべき課題~ 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 筆者が代表を務める株式会社スタンダード機構は、スコアリングモデルを運営している。 スコアリングモデルとは、その会社の経理財務部門が提供するサービスを他社と比較し、「そのサービスレベルが優れているか、劣っているか」という視点によって客観的に評価する手法であり、平成17年3月に経済産業省の主導で開発されたものである。 この連載では、主に事業会社を顧問先に持つ税理士や公認会計士の読者に向けて、スコアリングモデルの概要、スコアリングデータが示す優秀な会社の傾向、診断に使う個別の評価項目の解説を行う予定である。 読者が顧問先に対してスコアリングモデルを活用すれば、図表1・図表2のような資料を作成することができ、客観的なデータの裏付けをもって、顧問先の経理財務部門の業務の問題点を診断することが可能となる。 図表1 スコアリングモデルのイメージ① ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表2 スコアリングモデルのイメージ② ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 例えば、図表1のように、顧問先の経理財務部門の総合的な能力や、正確性、効率性、安定性、リスク管理、戦略性のレベルを示すことができる。 さらに、図表2のように、経理財務の個別の業務プロセスのサービスレベルの優劣が一目で分かるような診断サービスを提供できる。このように、問題点を適切に把握できれば、業務改善のための解決策も適切に策定できるだろう。 顧問先の業務改善のために役に立ちたいという強い意欲のある読者であれば、特段の専門知識がなくても、連載を読み進むにつれてスコアリングモデルをご理解いただけると思う。 経理財務部門の業務改善の成果は実感しにくい 読者の顧問先では、ライバル会社に比べて、経理財務部門の業務改善が進んでいるだろうか。 経営者は会社が持続的に成長することを目指しているため、成果の見えやすい商品開発部門や営業部門には日頃から注視している。しかし、経理財務部門となると、会社財産の管理や予決算など、非常に重要な業務を担っているにもかかわらず、その成果が見えにくい。 そのため、高度成長期には、経理財務部門はその組織のあり方について十分な検討が尽くされないまま肥大化してきた聖域となっていた。 1970年代に右肩上がりの経済成長が終焉を迎え、1980年代には資産バブル崩壊によるバランスシートの劣化が深刻化すると、経営者の意識はようやく改まった。1990年代の平成不況から2000年の金融ビッグバン以降の“失われた20年”の間に、構造改革という名の下、米国型の経営方式を取り入れた多くの会社で、経理財務部門の変革が急速に進展した。 例えば、経理財務部門の担い手を正社員から派遣社員に変える派遣化、経理財務業務を行う専門会社を作るシェアードサービス、外部の経理財務サービスを提供する会社に委託するアウトソースなど、日頃から顧問先と接している読者ならばいくらでも思いつくだろう。 しかしながら、そうして矢継ぎ早に進めてきた経理財務部門の変革が本当に成果をもたらしたのか。客観的な根拠をもって検証し実感できている経営者がどのくらいいるだろうか。 外部の利害関係者に向けたガバナンス機能 読者の顧問先の経理財務部門は、外部の利害関係者を意識したガバナンス機能を果たしているか。 商取引を始める際、相手先である会社の経営状態に重大な関心を持つ仕入先、銀行、株主など、会社を取り巻く外部の利害関係者は、その会社の経理財務部門が作成した財務諸表に多くを依存しながら、取引先を選別する。 しかしながら、そもそも財務諸表は、付加価値の連鎖と呼ばれる会社の一連の活動の最終成果だけを会計情報として提供するだけで、それに先行する内部の業務処理に関する非会計情報を何ら提供しない。それどころか、上場企業においても、株主状況の有価証券報告書虚偽記載問題、過大な売上計上による不正な財務報告など、会計をめぐる不祥事は後を絶たない。 そうした背景もあり、外部の利害関係者の関心は、外から光が当てられる財務諸表だけでなく、影となって外からは見えない財務諸表の作成プロセスを担う経理財務部門の業務のあり方にも広がろうとしている。 しかしながら、これまで、経理財務部門が担う業務のレベルを客観的に評価する取組みはなかった。 経理財務部門に求める経営者の期待 読者の顧問先の経理財務部門は、ライバル会社に比べて優秀であり、経営者の期待に応えているか。 経営管理の効率性を追求しITによる省力化が進展する今日、経理財務の業務プロセスは自動化されたITの支援なしには考えられなくなってきた。そのような人手が介在しないブラックボックス化したITの連鎖から構成される経理財務業務に、ITリテラシーの濃淡による業務の脆弱化やリスクの増大が危惧されている。 他方、会社の再生事例を数多く見てみると、経理財務部門が経営の視点からどのように振る舞うかが、経営危機に瀕した会社が再生する重要成功要因となっている事例が見受けられる。 これらの今日的課題を踏まえると、経理財務部門に期待される機能は高度化かつ多様化しており、様々な要請の適切なバランスを考慮して定義されなければならない。 しかしながら、そのような複数の視点から、これからの経理財務部門が備えるべき機能を具体的に提示した試みがない。 経理財務部門のサービスレベルを図るベンチマークの必要性 これまで指摘した諸課題が解決されなかった要因の1つに、経理財務部門のサービスレベルを定量化し会社間比較を可能にするベンチマークが存在しなかった実情が挙げられる。 他社に比べて顧問先の会社の経理財務部門にどのような課題があるかをデータで示す。この要請に答えるのが、スコアリングモデルである。 スコアリングモデルの土台となっているのは、平成15年、経済産業省が経理財務の標準的な流れと機能の一覧をまとめたスキルスタンダード(経済産業省スタンダード)である。 スコアリングモデルは、この経済産業省スタンダードに準拠しつつ、経営者や外部の利害関係者に対して、企業価値の最大化に向けて経理財務部門に要請されるガバナンスの共通指標を洗い出し、その達成度に関する会社間比較情報を、分かりやすいベンチマークとして伝えるため、実証事業として開発された。 使い手を考えると、スコアリングモデルは、経営者、経理財務部門の最高責任者、経理財務部門長に対して、経営管理において知っておくべきポイントを、客観的データの裏付けに基づいて提供する。さらに、税理士、公認会計士、経営コンサルタント、銀行、機関投資家など、外部の利害関係者に対して、会社の経理財務部門のあり方を評価するポイントを提供する。 冒頭で触れたとおり、この連載で想定している使い手は、主に事業会社を顧問先に持つ税理士や公認会計士の読者である。 次回は、スコアリングモデルの概要、基本構想について解説する。 (了)
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NPO法人 “AtoZ” 【第10回】「認定NPO法人②」~認定基準について~
NPO法人 “AtoZ” 【第10回】 「認定NPO法人②」 ~認定基準について~ 税理士 岩田 聡子 1 認定NPO法人の認定基準 今回は、初めて認定を受けようとする場合の基準について解説する。 認定NPO法人となるには、以下の9つの基準を満たし、所轄庁の認定を受けなければならない(NPO法45①一~九)。 (1) パブリックサポートテスト パブリックサポートテスト(以下「PSTという)とは、NPO法人が広く市民からの支援を受けているかどうかを判断する基準で、これを満たすには、次のいずれかの基準に適合することが必要である。 ※下記の用語で、「実績判定期間」とは、認定基準を満たしているか判定するための期間であり、認定申請書を提出する直前の事業年度以前、2年以内に終了した各事業年度をいう(NPO法44③括弧書)。 ① 相対値基準 〈原則〉 実績判定期間における経常収入金額のうちに寄附金等収入金額の占める割合が5分の1以上であること。 寄附金のうちから、匿名・住所不明の寄附金、同一の者からの1,000円未満の寄附金を除く等、収入金額からは上記の寄附金の他、国等からの補助金を除く等、様々な金額を加減算して計算する。 〈小規模法人の特例〉 上記の寄附金等の加減算の計算のうち、一定のものの計算が不要となる。 この特例の適用を受けられる法人は、「実績判定期間の総収入金額÷実績判定期間の月数×12 < 800万円」で、かつ、実績判定期間において受け入れた寄附金の額の総額が3,000円以上である寄附者(役員・社員を除く)が50人以上である法人である。 ② 絶対値基準 実績判定期間内の各事業年度中の寄附金の額の総額が3,000円以上である寄附者の数の合計数が年平均100人以上であること。 匿名、住所不明の寄附金、役員及び役員と生計を一にする者からの寄附金は除かれ、寄附者本人と生計を一にする者も含めて1人と数える。 ③ 条例個別指定基準 認定申請日の前日において、都道府県又は市区町村の条例により、個人住民税の寄附金税額控除の対象となる法人として個別に条例の指定を受けていること。 (2) 活動の対象に関する基準 実績判定期間における 以上①~⑤の活動の事業活動の占める割合が50%未満であること。 会員、役員特定の者のみを対象とした「共益的活動」が多いNPO法人は、認定、仮認定の対象とはならない。 (3) 運営組織及び経理に関する基準 管理運営について、下記①~⑤の基準を満たしていること(NPO法45①三)。 (4) 事業活動に関する基準 事業活動について、下記①~⑤の基準を満たしていること(NPO法45①四)。 (5) 情報公開に関する基準 閲覧の請求があった時は、正当な理由がある場合を除いて、事業報告書等、役員名簿及び定款、その他一定の書類を閲覧させなければならないこと(NPO法45①五)。 (6) 事業報告書等の提出に関する基準 実績判定期間を含む各事業年度において、事業報告書等を所轄庁に提出していること(NPO法45①六)。 所轄庁の条例に定める期限後に提出された場合には、認定、仮認定が受けられない場合があるので、提出日は必ず確認しなければならない。 (7) 不正行為等に関する基準 法令違反、不正行為、公益に反する事実等がないこと(NPO法45①七)。 この場合の法令はNPO法のみでなく、すべての法令が対象となる。 (8) 設立後の経過期間に関する基準 認定又は仮認定の申請書を提出した日を含み事業年度の初日において、設立の日以後1年を超える期間が経過していること(NPO法45①八)。 (9) 認定基準の適合する期間に関する基準 上記の(1)から(8)が、それぞれ定められた期間において認定基準に適合していること(NPO法45①九)。 2 仮認定NPO法人 仮認定NPO法人とは、新たに設立されたNPO法人で、その運営組織及び事業活動が適正であって、特定非営利活動の健全な発展の基盤を有し、公益の増進に資すると見込まれるものとして所轄庁の仮認定を受けたNPO法人をいう(NPO法58)。 仮認定を受けるためには、上記の(2)から(9)の認定基準を満たし、かつ、以下の2つの基準を満たしていなければならない(NPO法59)。 なお、仮認定の申請は1回限りとなっている。 3 申請に向けて 認定・仮認定NPO法人として様々な税金の優遇を受けるためには、高い公益性、内部管理体制の充実、法令を順守した適正な法人の運営、情報公開等が要求されている。 認定・仮認定を取るためには、法律に従い、基準を地道に1つ1つクリアしていくことが大切となる。 (了)
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《速報解説》 金融庁、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開催~エンドースメントIFRSの導入を明確化~
《速報解説》 金融庁、企業会計審議会総会・ 企画調整部会合同会議を開催 ~エンドースメントIFRSの導入を明確化~ Profession Journal編集部 金融庁は5月28日、企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を開き、国際会計基準への対応について協議した。今回の会議のテーマは下記の3つである。 任意適用の緩和 前回の合同会議で示された「任意適用の緩和」の方向性が具体的に示された。IFRSを任意適用するための要件は、現在、4つある(連結財務諸表規則1条の2)。 審議では、上記ニ(3)の「外国に連結子会社(資本金の額が20億円以上のものに限る)を有していること」の緩和が焦点になった。 現在、有価証券報告書提出企業が4,061社。そのうち上場企業が3,550社。その中で外国に資本金20億円以上の連結子会社を有する企業が621社で、これが現在の任意適用可能会社である。この要件を外すと、新たに2,929社が任意適用可能となる(現在、任意適用会社・任意適用表明会社合計20社)。審議の中ではイの上場要件を外す案も検討された。金融庁としては、任意適用企業が増えることにより、IFRS策定への日本の発言力を確保したい思惑がある。 また、IFRSを採用した企業は、合理的な理由なく日本基準等に変更することはできないという方針を示した。 適用の方法 前回の会合で、「IFRSには、のれんの償却や開発費の資産計上などマネジメントの考え方から受け入れがたい基準があり」、「エンドウースメントプロセスを入れて、一部の基準をカーブアウトしたIFRSの任意適用の容認も保持すべき」との指摘があった。 それを受け、今回は、「エンドウースメントIFRS」(カーブアウトIFRS、合同会議では「J-IFRS」(以下「J-IFRS」という))のメリット・デメリットについて検討された。J-IFRSの導入により、IFRSに対するアレルギーを緩和し、適用しやすくしたいという金融庁の狙いがある。 委員からは、J-IFRSを導入すると、日本企業は、IFRS(指定国際会計基準※)(ピュアIFRS)、J-FRS、日本基準、米国基準の4つの基準を適用できることになり、混乱を招くという複数の意見が出された。 さらに、「日本基準のIFRSへのコンバージェンスが停滞し、日本基準のローカル化につながる」「J-IFRSを任意適用するのであれば、ピュアIFRSの任意適用を断念すべきである。ピュアIFRSの任意適用を優先するのであればJ-IFRSの強制適用を合意するまでは適用に着手すべきではない」といった意見があった。J-IFRSの位置付けを明確にすべきという発言が大勢を占めた。 ※わが国におけるIFRS任意適用企業が適用するIFRSは、金融庁長官が「指定国際会計基準」として定めることとしている。現在は、IASBが定めたすべての基準が採用されている。 単体開示の簡素化 合同会議では、連結財務諸表を作成している会社の単体開示の簡素化についても協議した。 金融庁は、金商法開示と会社法開示の二重の負担を軽減する趣旨から、金商法で要求されている貸借対象法、損益計算書、株主資本等計算書を、会社法の計算書類で代替すること、また、注記事項、附属明細票、主な資産・負債に関して、会社法の計算書類と金商法の財務諸表とで開示水準の大きく異ならない項目については、会社法の要求水準統一すること等を提案。概ね簡素化の方向で一致。ただし、単体開示のみの会社については、見直しは行わないとした。 (了)
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財務省ホームページにおける「「所得税法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第5号)の一部改正規定の内容について」の公表について
いつもProfession Journalをご愛読いただき、お礼申し上げます。 さて、5/30付けで、財務省ホームページにおいて、下記の情報が公表されました。 「所得税法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第5号)の一部改正規定の内容について 上記の公表に伴い、5/31付けで、国税庁ホームページにおいて、下記の情報が公表されています。 「平成25年分 所得税の改正のあらまし」の修正について 弊誌では税制改正大綱の内容により《速報解説》を公開しておりますが、下記の記事について追記情報がございますので、ご注意下さい。 《速報解説》 住宅税制(住宅ローン控除等)の拡充・延長について─平成25年度税制改正大綱─
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租税争訟レポート 【第10回】勝馬投票券の払戻金に係る所得を雑所得と判断した事例
租税争訟レポート【第10回】 勝馬投票券の払戻金に係る所得を 雑所得と判断した事例 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 3年間で28億7,000万円分の馬券を購入し、30億円余りの的中配当を得た元会社員(39)の男性が、競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7,000万円を脱税したとして、所得税法違反の罪で大阪地検に告発され、起訴された。 しかし、男性が実際に馬券で儲けたのは約1億4,000万円に過ぎないことから、男性の担税力を無視した課税庁の処分に対して、批判が出ていた事案の刑事裁判において、第1審判決が言い渡されたものである。 【争点に対する裁判所の判断】 1 馬券の払戻金に係る所得は一時所得か雑所得か 判決は、「被告人の本件馬券購入行為は、一般的な馬券購入行為と異なり、その回数、金額が極めて多数、多額に達しており、その態様も機械的、網羅的なものであり」、かつ、「利益を得ることに特化したものであって、実際にも多額の利益を生じさせている」ことから、被告人の馬券購入による所得は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」には該当しないから、一時所得に当たらず、「雑所得に分類される」とした。 2 「その収入を得るために支出した金額」又は「必要経費」として控除すべき金額の範囲 続いて、必要経費については、当たり馬券の購入費用が払戻金を得るために「直接に要した費用」として必要経費に当たることは明らかであるとしたうえで、「被告人の本件馬券購入方法からすれば、外れ馬券を含めた全馬券の購入費用は、当たり馬券による払戻金を得るための投下資本に当たり、外れ馬券の購入費用と払戻金との間には費用収益の対応関係があるというべきである」として、外れ馬券の購入費用を「その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額」として必要経費に該当するという判断を示した。 3 所得税法241条所定の「正当な理由」の有無及び可罰的違法性ないし期待可能性の有無 被告人が確定申告をしなかったことについては、「過大な金額の課税がなされることに対する不安もさることながら、実際には申告しなければ馬券購入による所得には課税されないであろう」と予想したものであり、「馬券の払戻金に係る所得について申告義務があることを十分に認識して」いることから、所得税法241条の「正当な理由」について、真にやむを得ないといえるだけの事情を認めず、本件無申告に係る税額から、「可罰的違法性を欠くとはいえないし、期待可能性がないともいえない」として、有罪判決を下した。 4 量刑の理由 量刑について、裁判所は、被告人は、「申告義務をないがしろにし、ひいては納税意識に欠けた犯行といわざるを得ない」としたうえで、その情状について、「過大な課税処分を受けることが予想され、このことが被告人による確定申告を躊躇させたことは否定できない」こと、さらに、「被告人が既に7,000万円を超える額の納税を行っていること、本件発覚後競馬をやめていること、本件無申告が明るみに出たことによって職を失うなど既に十分な社会的制裁を受けていること及び被告人には前科前歴がないこと等」をあげ、「刑の免除はもとより、罰金刑で済まされるべき事案ではない」としながらも、被告人を懲役2月に処し、その執行を2年間猶予することが相当であると判断した。 【解説】 判決は、一般的には、競馬は趣味や娯楽であり、当たり馬券による収入は一時所得に当たるとしながらも、本件の元会社員の行為は、「一般的な馬券購入とは異なり、継続的、網羅的で資産運用の一種」と判断して、外国為替証拠金取引(FX)や先物取引と同様に、「雑所得」と判断した。 その上で、裁判所は、雑所得の課税実務に合わせて、外れ馬券の購入費や元会社員が開発した独自の競馬予想システムの運営コストも含めて、雑所得のための必要経費であると認定した。その結果、男性の脱税額は約5,200万円と公訴事実から大幅に減少した。 1 刑事事件でありながら現行所得税法の所得区分にまで踏み込んだ判決であること 本件は、大阪国税局が刑事告発し、検察が立件した脱税をめぐる刑事事件である。 本レポート【第8回】でも触れたように、こうした事件における有罪率は過去100%であり、検察も自信を持って起訴したはずである。しかし、大阪地裁の西田裁判長は、国税庁の通達は通達として認めながら、本件に限っては、一般的な馬券購入とは異なるとして、雑所得として課税するのが適正であると判断した。 たいへん画期的な判決であり、杓子定規に通達どおりの課税処分を行ってきた課税当局に反省を促す内容のものである。 2 的中馬券による所得がすべて「雑所得」と判断したものではないこと ところが、本判決は、勝馬投票券の払戻金はすべて「雑所得」であると判断したわけではなく、通常の当たり馬券は「一時所得」として課税することを認めている。 一時所得の要件は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」であるところ、馬券を購入するという行為は「営利を目的」としているはずであり、本件の被告人と一般の競馬ファンとの間で異なる課税方法を認めることは納税者を混乱させるのではないか。むしろ、すべての馬券収入を雑所得とすべきであると判断すべきではなかったかと考える。 3 所得税基本通達に対する見解 判決では、一時所得の例示として、「競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等」を挙げている所得税基本通達34-1について、「通達は、国民に対する拘束力を有する法規範ではない」と前置きし、「通達が発出された当時、本件のような形態の馬券購入は、そもそも想定されていなかった」とし、さらに、「馬券購入行為の払戻金に係る所得について、その具体的な馬券購入方法等を考慮することなく、通達の例示を根拠として画一的にこれを一時所得として処理することは」、所得税基本通達の趣旨に沿うものとはいえないから、課税当局に対しては、「具体的事案の内容等を検討した上で実質的にそれに見合った所得分類を判断することが求められている」と批判している。 4 無罪判決が妥当ではなかったかと思料されること 元会社員は、すでに約7,000万円の納税を終えており、裁判所が認定した脱税額については、すでに納付されている。本件起訴を契機に退職を余儀なくされ、大きな社会的制裁も受けていることからすれば、所得税法241条後段により、刑を免除すべき事案ではないかというのが率直な感想である。本来、検察は本件を起訴すべきではなく、民事訴訟であれば、被告人は職を失うこともなかったのではないかと思うと、被告人には、十分に酌量すべき情状があったと考えるべきであろう。 (了)