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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第2回】税率変更の問題点(1) 「商品等の価格変更に伴う表示方法」
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第2回】 税率変更の問題点(1) 「商品等の価格変更に伴う表示方法」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 価格変更の対象物 税率変更があった場合には、物品販売業であれば商品、サービス業であればそのサービスについて、価格の表示を変更しなければならない。 この変更については、商品だけでなく、商品カタログの価格表示やホームページに商品が記載されていればその価格表示なども変更しなければならず、具体的には以下のようなものがある。 税率変更に伴う表示変更の対象物が多岐にわたることから、この変更を実施するためには相当な時間を要する可能性もあり、さらにその変更をするために多額のコストが発生することから設備投資資金の手当てについても検討しなければならず、早急な対応が必要となる。 2 価格の表示方法 平成9年4月の税率変更の際は総額表示義務規定の創設前であったことから、商品等につき税抜表示を採用している事業者は本体価格のみを記載していたため、さほど大きな影響はなかった。 しかしながら、今回の税率変更では総額表示義務規定の適用後となることから、すべての商品等について表示価格の変更をしなければならず、事業者の負担は大きくなる。さらに、“1年6ヶ月”という短い期間で2回の税率変更となることから、回転率の悪い商品等では8%と10%の価格表示をどのように行うのかといった問題も生ずることとなる。 現在の総額表示の方法については、国税庁が平成16年2月19日に発表している『事業者が消費者に対して価格を表示する場合の取扱い及び課税標準額に対する消費税額の計算に関する経過措置の取扱いについて(法令解釈通達)』において以下のようなパターンを認めている。 したがって、いずれのパターンについても表示の変更は発生し、さらに8%と10%の両方に対応できるようにするためには表記箇所の部分が煩雑となり、消費者側が対応できなくなる可能性もあることから注意しなければならない。 この表示方法の変更については、平成24年5月31日に政府から発表された『転嫁対策・価格表示に関する対応の方向性についての検討状況(中間整理)』において、総額表示義務の弾力的運用について以下のように記載している。 続いて平成24年10月26日に発表された『消費税の円滑かつ適正な転嫁・価格表示に関する対策の基本的な方針(中間整理の具体化)』においても「各業界の所管省庁を通じ、各業界からの総額表示の弾力的運用に関する要望を把握し、その要望に応じ必要な弾力的運用のあり方について検討を行い、事業者の準備に係る期間も考慮し、適切な段階で事例集等を公表する。」としている。 また、上記の基本方針において、価格表示に関して業界団体が業界内の統一基準を策定し、その構成員たる事業者に対してその遵守を求めることは、独占禁止法に違反しないことをガイドラインにて明確化することも記載されている。 上記のように、価格の表示方法については、現時点においても未確定の要素が多く、この対策の実行時期をいつにするかといった点は、政府や各同業者団体の動向を見て行う必要があるので注意しなければならない。 3 価格の設定 この税率改正により表示価格を変更する場合、1円未満の端数をどのように取り扱うのかといった問題が生ずる。 前述した国税庁の取扱いによれば、「総額表示の義務付けに伴い税込価格の設定を行う場合において、 1円未満の端数が生じるときは、当該端数を四捨五入、切捨て又は切上げのいずれの方法により処理しても差し支えなく、また、当該端数処理を行わず、円未満の端数を表示する場合であっても、税込価格が表示されていれば、総額表示の義務付けに反するものではないことに留意する。」とあることから、例えば、本体価格198円の商品であれば、税込価格は以下のようになる。 なお、これらの価格は1円未満の端数処理を計算した場合の金額であり、10円未満の端数を切り上げて処理をしてしまうと「便乗値上げ」となる可能性があるため、注意しなければならない。 したがって、事業の性質により10円単位や100円単位で販売する場合には、この価格の設定については十分な検討が必要となる。 具体的な事業としては、自動販売機における商品の販売、電車やタクシーなどの旅客運賃、タバコの販売、コインパーキング業、ファストフードや食券販売などの飲食店業などがあり、その事業は意外に少なくない。 旅客運賃やたばこについては、価格の設定が他の法律により定められることから事業者側の検討事項ではないが、他の事業については、10円単位や100円単位の切上げができず、切り下げることとした場合には収益の減少となり、深刻な問題である。 なお、「便乗値上げ」に関しては、上述した基本方針において、「公正取引委員会は、競争制限的行為による便乗値上げを防止するため、独占禁止法を厳正に運用する。」としている。また、公正取引委員会が平成8年12月25日に発表した『消費税率の引上げ及び地方消費税の導入に伴う転嫁・表示に関する独占禁止法及び関係法令の考え方』においては、「事業者が共同して又は事業者団体が、各構成事業者の販売している価格に消費税率の引上げ分を上乗せする旨を決定すること」を禁止しており、さらに消費税率の引上げに伴う数量調整の決定について「事業者が共同して又は事業者団体が、商品又は役務の内容(容量、数量等)を消費税率の引上げ分変更させて、各構成事業者の価格を据え置く旨を決定すること」を禁止している。 これらの規定は、事業者が共同して行う場合に禁止しているものではあるが、便乗値上げについて厳しい対応が示されていることから、10円単位や100円単位の切上げについて慎重に対応しなければならない。 この消費税の転嫁に関する問題については、次回以降の「税込処理における消費税の転嫁に関する問題」において、さらに詳しく解説していく。 (了) 【参考】首相官邸ホームページ 「消費税の円滑かつ適正な転嫁等に関する対策推進本部」
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租税争訟レポート【第2回】架空役員給与認定による青色申告承認取消及び更正処分等に対する不服申立事件
租税争訟レポート【第2回】 架空役員給与認定による 青色申告承認取消及び 更正処分等に対する不服申立事件 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 原処分庁の調査担当職員は、生コンクリートの製造販売業を営む同族会社である請求人に対する税務調査の結果、請求人の代表取締役であるMが、代表取締役J(Mの実弟)、取締役N(Mの実子)、監査役P(Mの妻)に支給されるべき役員給与をすべて受領し、他の役員に対して実際には支給されていないことから、架空給与であると認定し、これを帳簿に記載したことが法人税法127条1項3号に規定する青色申告承認取消事由に該当することから、青色申告承認取消処分を行い、架空役員給与の損金算入を事実の隠ぺい又は仮装として、重加算税の賦課決定処分を行ったものである。 これに対し、請求人(納税者)は、原処分庁へ異議申立てを行ったが棄却されたため、役員給与は架空のものではないこと、青色申告承認取消処分等の通知書に記載された理由附記に不備があることなどを理由に、国税不服審判所に審査請求を行ったものである。 【図】請求人の役員給与支給形態 【不服審判所の判断】 M、J、N及びPは、請求人の役員として就任し、勤務実態もあるうえ、役員給与の金額は取締役会で定められて毎月10日払いとされていることから、支払債務は毎月10日の時点で確定していた。 原処分庁は、当該役員給与がMからJ、N及びPに渡らなかったことから架空給与であったと主張するが、請求人としては、毎月10日に確定した支払債務の支給事務を行っており、Mに役員給与をまとめて支給することで、債務は履行されていた。一部の役員がMから役員給与を受け取っていないとしても、それは請求人が支払債務を履行しなかったのではなく、役員給与を受領したうえで、その金員の貸付け又は贈与を行ったとみるべきである。 したがって、架空役員給与を理由とする青色申告承認取消処分は、理由がないから取り消されるべきであり、青色申告承認が取り消されたため理由が附記されなかった更正処分は法人税法130条2項に違反するため取り消されるべきであり、かつ、隠ぺい又は仮装があるともいえないことから、重加算税等の賦課決定処分についても全部が取り消されるべきである。 【解説】 法人が、定期同額給与(法人税法34条1項1号)の要件を満たして支給すべき役員給与を、代表取締役が、役員である弟、子及び妻の分までまとめて一括して現金で受け取ったうえで、適宜、他の役員に支給し、あるいは他の役員のための支払いに充て、また一部は法人の営業費用にも充当していたという事実のもと、原処分庁は、他の役員の「役員給与を受け取っていない」という申述に依拠して、彼らに対する役員給与を架空給与として損金算入を否認するとともに、取引の仮装を理由として青色申告承認を取り消し、取消後の更正処分には理由を付記せず、しかも重加算税を賦課決定するという厳しい処分をした。 これに対し、国税不服審判所は、請求人(法人)は、各役員には勤務実態があり、その報酬についても株主総会又は取締役会の承認を得ていること、役員給与の支払債務を履行していることなどを理由に、役員給与は架空のものではないと判断した。また、一部の役員が代表取締役から受領しなかった部分については、金銭の寄付又は贈与として取り扱うべきであると判断して、請求人の主張を全面的に認め、課税庁の処分をすべて取り消した。 本件は、原処分庁が、調査段階における一部の役員らの申述に依拠して課税処分を行ったところ、不服審判所の調査で、役員らの答述内容が変わったものであるが、不服審判所が原処分庁の主張をほとんど認めなかったことを考慮すれば、原処分庁担当職員の調査が不十分であった可能性もある。 (了)
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不正会計発見の「端緒となる兆候」を見逃すな
不正会計発見の 「端緒となる兆候」を見逃すな 公認会計士・公認不正検査士 宇澤 亜弓 あれほど騒がれていたオリンパス事件もほとぼりが冷め、世間の関心がすでに不正会計から薄れてしまった感がある。これが、不正会計が後を絶たない理由の一つであろう。不正会計は、ヒトが行うものであり、内部統制の固有の限界に起因して発生するものであることから、企業には、不正会計が発生するリスクは常に存在する。社会全体として、過去の過ちを繰り返さないためにも、常に不正会計の未然防止及び早期発見に取り組まなければならない。そして、市場関係者がその努力をし続けなければ、不正会計は再び起こるのである。オリンパス事件さえも過去の事件となってしまった今、不正会計を意識している人がどの程度いるのであろうか。 不正会計は、事件が発覚する度になぜそれが防げなかったのか、なぜ「端緒となる兆候」があったにもかかわらず発見できなかったのかと批判の声があがる。確かに、事後的にみると不正会計の兆候はある。ゆえに、不正会計は完全犯罪ではないのである。その痕跡は必ず残り、それが端緒となる。そして、結果として事件として発覚したということは、当事者はその兆候を早期に把握することができなかった、あるいは発見したとしても結果として適切な対応ができなったことを意味する。もちろん、現実の問題は単純な話ではなく、様々な状況において様々な判断がなされていたと考えられる。当然に有事の発想で取り組んでいた関係者も少なからずいたのであろう。 しかしながら、実際に事件は起きてしまったのである。 この事件に係る当事者の民事・刑事の責任は、司法にその判断に委ねるとして、我々がすべきことは、この不幸な事件を教訓にして今後に活かすことである。端緒となる可能性があった事実には何があったのか。当該事実を把握した場合には何を考えるべきであったのか。そして、どのような対応を、どのような判断をすべきであったのか。 ここでは、オリンパス事件を例に考えたい。なお、これは、当該事件の関係者の判断の是非について問うものではない。それぞれの判断の是非については、事実に基づき個別具体的に判断しなければ正しい結論は得られない。 ここで考えたいのは、不正会計の端緒と思われる一つ事実と、それを把握した場合の当該事実の「見方」についてである。 以下は、オリンパスの平成20年3月期の有価証券報告書の連結キャッシュ・フロー計算書関係の注記に記載されていたGyrus Group PLC他29社(以下、「Gyrus他29社」という)の株式取得の状況である。 この注記をみると、Gyrus他29社の総資産額は、売上債権7,611百万円等の合計約127,205百万円であり、負債総額は、仕入債務1,635百万円等の合計約75,920百万円であり、総資産額と負債総額の差額51,285百万円がGyrus他29社の実質価額であったところ、Gyrus他29社株式の取得価額は259,735百万円であったことから、その差額208,450百万円が「のれん」として計上されることとなった。 この注記から分かることは、実質価額が約500億円の会社を約2,600億円弱で取得した結果、約2,100億円近い「のれん」が計上されることとなったのである。これが相当に高い買い物であることには、容易に想像がつくであろう。 問題は、ここからである。 このGyrus他29社の買収という事実に直面した時にどのように感じるかということが大事となる。 この多額の「のれん」の計上に関して、株式の評価は一物百価だから、そんなこともあるだろうなと何も考えずにやり過ごしてしまうか。 この「のれん」の発生原因は何だろうと思うか。 この違いである。 何ら問題意識も持たず、ゆえに懐疑心を抱かない者には、この多額の「のれん」の計上は、不正会計の端緒になり得ないのである。淡々と流れていく日々の業務の一つにしか過ぎなくなる。 これに対して、このGyrus他29社の多額の「のれん」の計上について、なぜ、こんなに多額ののれんが計上されるのだろうかと違和感を覚えることが、健全な懐疑心なのである。しかし、なぜと思うだけでそのままにしてしまっては、違和感を覚えないのと同じである。さらに、こののれんの計上理由を具体的に把握していくことが事実解明へとつながるのである。Gyrus他29社の株式評価方法を把握し、当該株式の評価方法の妥当性を検討する。DCF法であれば、その前提となる事業計画の妥当性まで検討するのである。 結果から言えば、今回のGyrus他29社の株式評価は、仮装取引の原資の捻出等のため、異常に高くなっていたと思われる。したがって、当該評価に係る合理的な理由にはなかなかたどり着かないであろう。ゆえに、当初に感じた違和感が解消されるまで、すなわち、「結論としての納得感」を得られるまで検討することになる。 この過程で考えるべきは、なぜ、これほどまでに「のれん」の計上額が高くなったかということである。そして、その原因の一つとして、当該「のれん」の発生原因が、不正会計のための仮装取引の原資であった可能性や役員等の特別背任的な支出であった可能性を想定することである。これによって、平時の発想を有事に切り替え、会計不正の存在の可能性を前提に調べていくのである。 この違和感が解消されるまで、結論としての納得感が得られるまで調べていく過程で、関係者からの真実の告白を得ることになるのである。もちろん、それは簡単なことではない。しかし、関係者は、痛い腹を探られることにより苦しい状況におかれていることは間違いないのである。妥協を許さず、自らの違和感を信じて調べていくことにより、真実に辿りつくのである。すなわち、不正会計の発見に至るのである。 当然のことながら、この過程で関係者から真実の告白が得られない場合もある。その場合には、違和感が残ったままとなるが、当該端緒に気がついた立場によって、それぞれの対応が考えられる。取締役、社外取締役、監査役、内部関係者、監査人等のそれぞれの立場によってできることがあると考えられる。この点についてはここでは省略せざるを得ないが、不正会計は完全犯罪ではなく、不正会計の影響が大きければ大きいほど、その端緒は必ず関係者の目に触れるのである。その時にどのように考えていくのか。これが不正会計を発見できるか否かの分水嶺となるのである。 不正会計の早期発見は、問題意識を有する人のみが行えるものである。問題意識は、健全な懐疑心となり、不正会計の端緒が目の前に現れた時に違和感を覚える。 なぜ、このようになるのだろうか。 なぜ、このような取引が行われるのだろうかと。 なぜ、という疑問が生じた時に、その疑問を曖昧なままにせず、その合理的な根拠を確かめる。この繰り返しが、不正会計の早期発見につながるのである。もちろん、「言うは易し、行うは難し」である。しかし、「言う」余地があるのであれば、変えられた可能性もあるのである。 オリンパス事件では、マイケル・ウッドフォード氏がオリンパスを変えた。では、彼の立場に立てば、誰でもオリンパスを変えられたであろうか。 答えは「否」であろう。 しかし、我々は、一人一人が変えられる者にならなければならないのである。証券市場における不正会計は、自社のみならず、市場に与える影響は大きい。ゆえに市場関係者の継続的な努力によって、不正会計の未然防止・早期発見がなされなければならない。 最後に。この注記の金額の記載がでこぼこになっているのにお気づきであろうか。穿った見方をすれば、のれんの金額208,450百万円が目立たないように記載しているかのようにも見える。当事者たちは、有価証券報告書の利用者の目をそこまで気を使っていたのかもしれないのである。 (了) 【参考】 拙著 『不正会計─早期発見の視点と実務対応』清文社(2012年)
会計
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財務会計
退職給付会計
改正「退職給付会計」の要点と実務上のポイント【第3回】「適用時の実務・検討ポイント」
改正「退職給付会計」の要点と 実務上のポイント 【第3回】 「適用時の実務・検討ポイント」 有限責任監査法人トーマツ 堀田 晃裕 2012年5月17日に企業会計基準委員会より、企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」が公表された。改正後基準(前述の会計基準及び適用指針を総称してこう呼ぶことにする)の改正前基準からの主な変更点は5点あり、以下のとおりである。 今回は第1回で取り上げた上記(1)の「会計処理」、第2回で取り上げた上記(3)の「年金数理計算」に関し、それぞれの改正適用時の実務について述べる。 なお、本記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではないことをあらかじめお断りしておく。 「会計処理」(未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用の処理方法)の改正適用時の実務 会計処理に関する部分の改正は、「平成25年4月1日以降開始する事業年度の年度末」に係る財務諸表から適用することとされている。したがって3月決算の企業は「平成26年3月31日」の貸借対照表で初めてこれを反映させることになる。 適用方法については、「過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しない」こととされ、「適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、純資産の部における退職給付に係る調整累計額(その他の包括利益累計額)に加減する」となっている。3月決算の企業では、平成26年3月31日現在の未認識数理計算上の差異及び未認識過去勤務費用(会計基準変更時差異の未処理額の残高がある場合はその金額も含める)を、税効果を調整の上で、純資産の部における「退職給付に係る調整累計額」に計上することとなる。この際、損益計算書及び包括利益計算書を経由せず、貸借対照表の純資産の部に直接計上することとなる。 なお、個別財務諸表においては本改正は適用されず、連結財務諸表にのみ適用されることに留意する必要がある。 「年金数理計算」(退職給付債務及び勤務費用の計算方法)の改正適用時の実務 年金数理計算に関する部分の改正は、「平成26年4月1日以降開始する事業年度の期首」から適用することとされている。したがって、3月決算の企業は「平成26年4月1日」の貸借対照表に退職給付債務の計算方法の改正に伴う影響額を反映させることになる。 適用方法については、「過去の期間の財務諸表に対しては遡及処理しない」こととされ、「適用に伴って生じる会計方針の変更の影響額については、期首の利益剰余金に加減する」となっている。3月決算の企業では、改正前基準に基づく平成26年3月31日時点の退職給付債務と、改正後基準に基づく平成26年4月1日時点の退職給付債務の差額を、利益剰余金に加減することとなる。この際、損益計算書及び包括利益計算書を経由せず、貸借対照表の純資産の部を調整することとなる。 「年金数理計算」に関する検討ポイント 前述のとおり、「会計処理」の改正適用については、未認識項目を税効果を調整の上で純資産の部に計上するだけなので、その影響額を把握することは難しくない。その一方、「年金数理計算」の改正適用については、企業が(年金数理人の助言を受けて)検討すべきポイントがいくつかあり、かつ影響額を把握するためには年金数理人の助けを借りる必要がある。 「年金数理計算」に関して企業が検討すべきポイントのうち、特に重要なのは以下の2点である。 「期間帰属方法」に関する検討 第2回でも述べたが、改正後基準では、退職給付見込額の期間帰属方法として、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかの方法を選択適用する必要がある。給付算定式基準とは「退職給付制度の給付算定式に従って各勤務期間に帰属させた給付に基づき見積もった額を、退職給付見込額の各期の発生額とする方法」であり、国際的な会計基準と同様な方法であるとされている。 今回の改正が国際的な会計基準とのコンバージェンスを意図していることや、期間定額基準、給付算定式基準のいずれかを採用した後は原則として継続して適用しなければならないことを踏まえれば、改正前基準と同じ期間定額基準を使い続ける理由はあまり見当たらず、多くの企業は給付算定式基準を選択するものと思われる。 ただし、給付算定式基準といっても、制度内容によってはその適用方法が必ずしも明らかではない場合もあるし、「勤務期間の後期における給付算定式に従った給付が、初期よりも著しく高い水準となるときには、当該期間の給付が均等に生じるとみなして補正した給付算定式に従わなければならない」といういわゆる“均等補正”を行うべきかどうかについても検討しなくてはならない。そういった観点で、やはり年金数理人の助言が必要になる。 「割引率」に関する検討 割引率に関しては、改正後基準では退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した「単一の加重平均割引率」を使用する方法や、退職給付の支払見込期間ごとに設定された「複数の割引率」を使用する方法が含まれるとされている。 「複数の割引率」を使用する方法では、支払見込期間ごとの金額を、それぞれ対応する期間のスポットレート(割引債の利回り)で割り引くこととなる。期間の異なるスポットレートの集合を「イールドカーブ」と呼ぶ。このようなイールドカーブは市場データのユニバースから金利期間構造モデルを用いて推定されるため、専門家である年金数理人(計算受託機関)から提供されるものを使用するべきである。 「単一の加重平均割引率」を使用する方法では、「退職給付の支払見込期間及び支払見込期間ごとの金額を反映した」期間を求め、その期間に対応するイールドカーブ上のスポットレートを使用することが考えられる。 「期間」について、改正前基準では「従業員の平均残存勤務期間」を使用することを認めていたが、改正後基準ではこの内容が削除されているので、「退職給付債務のデュレーション」や「退職給付の金額で加重した平均期間」などを用いることが考えられる。 「利回り」について、従来の実務では財務省が公表している国債の利回りや、日本証券業協会のホームページに記載されている格付マトリクス表を参照することが広く行われてきたが、「複数の割引率」の場合と同様に、年金数理人から提供されるイールドカーブを参照すべきである。 このように、割引率に関しては従来とかなり異なる実務となることが予想される。また「単一の加重平均割引率」か「複数の割引率」かは、計算の精度、スケジュール、計算コストなどの点で一長一短あり、こちらも年金数理人の助言を受けて採用する方法を決定すべきである。 期間帰属方法や割引率に関しては、日本年金数理人会・日本アクチュアリー会が2012年9月25日に公表した「退職給付会計に関する数理実務基準」の案及び「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の案も参考になる。現在、両会のホームページで公開草案が公表されており、2012年11月30日までコメントを受け付けている。 (了) 【参考】社団法人 日本年金数理人会(JSCPA) 「「退職給付会計に関する数理実務基準」の案、及び、「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」の案の公表」
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IFRSは今、どうなっているのか?【後編】
IFRSは今、どうなっているのか? 【後編】 公認会計士 乾 隆一 IFRSの議論は、2012年6月に開催された企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議を最後にストップした。同会議で、金融庁事務局が挙げた11項目に対する委員からの意見聴取が終わったからであろう。 では、この会議後、IFRSにはどのような動きがあったのであろうか。 結論から言うと、大きな動きは何もなかった。 2011年7月にIASBの議長が代わり、会計基準の完成・修正のペースが遅くなったことが定着し、IFRS適用時期が不明なままの日本国内でのIFRS熱は、すっかり冷却した。 しかし、IFRSに動きがなくとも、IFRSの適用企業は着実に増えている。 2014年3月期からは三菱商事や三井物産などの大手商社、武田薬品工業や第一三共などの大手製薬会社が、さらに、2015年3月期からは東芝やエプソンなどのメーカーがIFRSを適用するようである。 また、IFRSの適用表明はしていないが、横浜ゴムや花王などは決算期を変更している。IFRSは親会社と子会社の決算日の統一を日本基準よりも厳しく求めているため、それへの対処だと思われる。 さらに、IFRS関連のソフトウェアを販売しているディーバとPCAは、IFRS適用の条件(連結財務諸表規則1条の2)を満たしていない上場企業であるが、自主的にIFRSに基づく財務諸表を公表している。 上場企業は約3,600社ある。そのうち、IFRSを適用している、あるいは適用を表明している企業は10社余りしかない。つまり、IFRSを適用している上場企業は、上場企業の1%にも届かないのが現状である。 しかし、特に国際的に活動している企業では、IFRS導入プロジェクトが着実に進んでいるらしいと聞こえてくる。 今後も、IFRSに関する議論は遅々として進まないであろう。 IFRSもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)同様に、政治の影響を色濃く受けるようになってしまったからである。 日本も米国も、来年以降にイニシアティブをとる政治家・政党が不透明な今、少なくとも向こう1年間は、IFRS適用の判断はなされないと思われる。 しかし、IFRS適用企業自体は着実に増えている。 また、in-outでのM&Aを検討している企業にとって、アメリカ以外の企業を買収対象にした場合、その企業がIFRSを採用している、あるいはIFRSに近い会計基準を採用している可能性が高い。そうなると、比較する上で、自社の財務諸表にIFRSを適用するケースも出て来るであろう。 今、IFRS適用に向かっていない企業は、急いでIFRS適用を検討する必要はない。 しかし、IFRSの動向はウォッチしておく必要がある。 また、M&AなどでIFRSに基づく財務諸表を目にする機会が増えてくる。 そこで、IFRS適用が不透明な間は、IFRSに基づく財務諸表で財務分析できるように準備しておくことを筆者はおススメしたい。 (連載了)
労働基準関係
労務
労務・法務・経営
廃止予定の「受給資格者創業支援助成金」について─今年度末までの事前届出が必要─
廃止予定の 「受給資格者創業支援助成金」について ─今年度末までの事前届出が必要─ 社会保険労務士 佐藤 信 1 事前届の提出は平成25年3月31日まで 雇用保険の受給資格者が創業したときに支給される「受給資格者創業支援助成金」は、平成25年3月31日までに法人等設立事前届を提出した者が対象となり、その後は助成対象としないこととされた。 現に失業している者又はこれから退職を予定している者で、当該助成金を活用しながら創業を考えている場合は注意を要する。 2 助成金の概要 雇用保険の受給資格者自らが創業し、創業後1年以内に雇用保険の適用事業の事業主となった場合に、創業に要した費用の一部を最大150万円まで助成し、失業者の自立を支援するもの。 3 支給要件変更の概要 4 助成対象となるものの例 5 経費に関する注意点 6 支給額 対象経費の1/3(上限150万円) ※創業後1年以内に雇用保険の一般被保険者を2人以上雇い入れた場合は、50万円の上乗せあり。 (了) 【参考】① 厚生労働省ホームページ 「各種助成制度 受給資格者創業支援助成金」 【参考】② 厚生労働省ホームページ リーフレット「受給資格者創業支援助成金のご案内」 ※PDFファイル 【参考】③ 厚生労働省ホームページ (手続きの詳細等) ※PDFファイル
労務・法務・経営
法務
福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(1)
福岡魚市場株主代表訴訟 ~判決から読む会社経営者の子会社管理責任(1) 弁護士 中西 和幸 1 はじめに 近年、株主代表訴訟において役員責任が認められる判決が目立つようになってきた。その中で、(株)福岡魚市場(以下「魚市場」)の株主代表訴訟(福岡地裁、高裁では役員が敗訴し、上告中である)に注目したい。この判決では、子会社である(株)フクショク(以下「フク社」)に不祥事があったとしてフク社取締役を兼任していた取締役(代表取締役Y1、専務取締役Y2)及びフク社監査役を兼任していた取締役(常務取締役Y3)の責任が地裁及び高裁において認められたが、その内容については、他の事業会社においても参考になることが多い。 そこで、今回は地裁の認定(高裁もほぼ同様の認定)を紹介し、次回で、実務的な観点を検討する。 2 不正取引の概要 魚市場の100%子会社であるフク社は、「ダム取引」及び「グルグル回し取引」(以下「簿外取引」という)と称する取引(取引の詳細はスペースの関係上省略する)を、魚市場やその他の仕入業者との間で行ってきた。 この取引の概要は、仕入業者が一定期間在庫を預かって順次在庫を売却し、売れ残った在庫をフク社が買い取る取引である。「ダム取引」は仕入業者が商品を新たに輸入することから始まる取引であるのに対し、「グルグル回し取引」は、ダム取引等の終了により一度フク社が買い取った商品を仕入業者(当初輸入した業者に限らない)に買い取ってもらい、一定期間経過後売れ残った在庫をフク社が買い戻す取引である。 この簿外取引を継続することで、売れ残った在庫は商品としての価値を失う一方、簿外取引により生じた手数料等については、フク社が売却時に商品価格に転嫁することができず、特定の在庫商品の価格に上乗せしていたため、その在庫商品の原価が高額となり、フク社が表面化しない損失を被ることになった。 これらの取引は、フク社A取締役兼営業本部長の独断で行われており、フク社取締役会の承認は得られていなかった。また、フク社の帳簿にも取引形態が適切に反映されていなかった。 3 不正取引発見後の対応 Y1らは、不正在庫等の徴候をつかみ、又は発見したことから、以下のとおり対応を行った。 (1) 平成11年の調査 平成11年1月、フク社取締役が異常に高額な在庫評価額を発見し調査した結果、疑わしい在庫が約3,400万円相当であることを認識したが、簿外取引の停止等の手段を講じなかった。 (2) 魚市場による連帯保証 平成15年3月、フク社が仕入業者Mと継続的取引契約を締結する際、フク社の債務につき魚市場が連帯保証した。このとき、当該連帯保証を承認した常勤取締役会(Y1,Y2,Y3とも出席)においては、フク社のMに対する買掛債務の残高を調査せず、極度額を定めずに連帯保証した。 (3) 魚市場によるフク社の不正在庫の調査 平成15年3月上旬、不正在庫が存在する可能性があることを認識したY1とY2が、協議の上調査委員会を設立して調査をさせた。ただし、その調査が不十分であり、また、Y1ら自身は調査が適正だったかどうかを確認しなかった。 (4) 魚市場によるフク社に対する貸付 上記調査に基づき、フク社が魚市場に対して特別損失額を14億8,000万円とする再建計画(当初の損失額は13億7,829万円。再調査により約2ヶ月後に増額修正)を受け、銀行と交渉の上、魚市場が銀行から融資を受け、魚市場が、取締役会決議に基づきフク社に対する20億円の融資枠を設定し、平成16年6月29日から同年12月29日まで、計19億1,000万円を貸し付けた(当初融資)。 (5) 損失不足の発覚と債権放棄 平成16年12月29日頃、フク社から魚市場に対して、含み損の金額が当初報告した14億8,000万円ではなく、実際には22億6,242円である旨報告され、平成17年2月17日、同額を踏まえた再建計画書が提出された。これを受けて、魚市場は、同月24日、15億5,000万円の債権放棄を取締役会において決議した。 (6) 再融資 また、魚市場は、同年3月末日までにフク社から貸付金のうち3億6,000万円の回収を受けると、同年4月に合計3億3,000万円をフク社に貸し付けた(再融資)。 4 裁判所が認定した役員の責任 (1) 役員の責任を認めなかった行為 ① 平成14年11月18日以前の調査等を行わなかった不作為 ② 簿外取引発覚後の行為のうち、正確な損失額が判明した後に行われた15億5,000万円の債権放棄 ③ 同時期に行われた3億3,000万円の再融資 (2) 役員の責任を認めた行為 ① 簿外取引に対する監視・監督義務のうち、遅くとも平成14年11月18日の公認会計士からの指摘を受けた時点で具体的かつ詳細な調査を行わなかったという不作為 ② 簿外取引発覚後の連帯保証契約 ③ 簿外取引発覚後の当初融資 (3) 役員が負った損害賠償額 18億8,000万円 当初融資19億1,000万円のうち、実際に回収不能である、債権放棄分15億5,000万円と再融資額3億3,000万円の合計額が取締役が責任を負うべき損害額と認定した。なお、簿外取引による監視・監督義務違反は損害額の立証がないとして、また、連帯保証契約についてはこれによる損害がないとして、いずれも、義務違反があるものの損害の発生を認めなかった。 なお、高裁では損益相殺等が問題となったが、いずれの役員側の主張も認めていない。 5 責任の有無を分けた分水嶺 (1) 事実認識の誤りと調査不足 本判決において判決が注目したのは、被告取締役自身が具体的な法令等に反する行為を行っていなかったことから、経営判断原則を適用し、そのうち、事実認識における誤りの有無を問題にしたと読みとることができる。 すなわち、忠実義務・善管注意義務に反しないと判断した事実は、債権放棄及び再融資である。これらは、いずれも、簿外取引及びフク社について、損失額等を正確に把握した上での意思決定であるとして違反を認めていない。 これに対し、簿外取引発覚後の連帯保証契約及び当初融資については、緊急の必要性がないにもかかわらず調査内容や調査手法を十分吟味せず、その結果、誤った調査結果を基にして意思決定をしたものとして、違反を認めている。 このように、多額の融資や連帯保証等の会社に負担が生じる場合には、緊急性がない限り十分な調査が不可欠であり、また、調査を部下等に命じた場合には、調査方法等を確認するなどの検証をし、情報が正確かどうかを確認する必要があると判示している。 また、この判決では、上記調査義務以外に、公認会計士の指摘を受けた段階で詳細な調査をすべきであったとも指摘している。 (参考文献:金融商事判例1367号41頁、1399号24頁、旬刊商事法務1970号15頁) (了)
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事例で学ぶ内部統制【第2回】「内部統制を有効に運用する年間スケジュールとは?」
事例で学ぶ内部統制 【第2回】 「内部統制を有効に運用する 年間スケジュールとは?」 株式会社スタンダード機構 代表取締役 島 紀彦 はじめに 前回は、内部統制報告制度の開始からこれまでを振り返り、5年目に入った今、企業が制度全般に対して抱える疑問や個別具体的に抱える実務課題を、筆者主催の実務家交流会で意見交換された事例に即して紹介した。 今回は、個別具体的な実務課題の中から、内部統制を有効にまわしていく1年間のスケジュールを取り上げる。 内部統制は社内外に関係する役者が多いため、スケジュールの巧緻が、制度の有効運用を左右するといっても過言ではない。現場が抱える課題と解決のための創意工夫を見てみよう。 内部統制の年間作業 やや古い話だが、平成21年12月、日本公認会計士協会は、監査法人に所属する監査責任者に対し実施した内部統制監査に関するアンケート調査結果を公表した。 それによれば、監査法人が2年目以降の内部統制について経営者に要望した事項として、最も多かった「さらなる内部統制の整備・構築」(21%)に次いで2番目に挙げたのが、「評価作業のスケジュールの策定」(15%)であった。 実際に交流会でも、次のようなやりとりがあった。 参加企業Aは、「内部統制監査が終わった時、監査法人からの総評として、いろいろな作業が遅れた原因の一部はわが社のスケジュール不足にあり、今のままでは監査計画が立てづらいので、しっかりスケジュールを策定してほしいと要望された」(外食サービス会社)と話した。 参加企業Bも、「監査法人から、経営層との協議時間の多くが、内部統制の内容の話でなく、作業の進捗状況などのスケジュールに割かれたのはもったいないと指摘された。評価作業が遅れないようにスケジュール策定をすれば、経営層と内容面の話を深められるとの要望を受けた」(情報通信会社)と、経営層ミーティングの見直しを迫られていた。 内部統制報告書を提出するまでに、企業がこなす作業を時間軸で並べると の6つが挙げられる。 企業が行う内部統制評価は、毎年これらの作業の繰り返しとなる。問題は、これらの作業を配分する1年間のスケジュールだ。以下、参加企業が3月決算と仮定して話を進める。 各作業のスケジュール事例 複数の参加企業が、「評価範囲の決定は、前年実績数値に基づき6月まで、文書化は8月まで、整備状況の評価は、文書化の時期に併せて9月まで、運用状況の評価は12月まで、ロールフォワードは3月まで、開示すべき重要な不備の判断は5月までに終える」と報告した。 これに対して、主に次の点が議論になった。 (1) 評価範囲の決定 参加企業Cは、「評価範囲の決定を当期に入ってから始めるのでは、後に続く評価や判断の時間が足りなくなる。わが社は、前期の3月までに予算数値で決定して作業を進めている。念のため、当期の6月に前期の実績数値に基づき、評価範囲の妥当性を検証している」(運輸)と話した。 参加企業Dも、「わが社も評価範囲の決定を前期末に完了する点は同じだ。C社さんと違うのは、当期に入り四半期毎の決算数値で、設定した評価範囲が大丈夫かを監査法人と協議して確認している点だ」(部品メーカー)と、モニタリングの重要性を加えた。 (2) 文書化 多数派は、「統制内容に変更がある場合や新しく評価範囲に含まれた統制内容があれば、評価範囲の決定後に随時文書化に着手する。それがなければ、文書化せず、いきなり整備評価に入る」と話した。 しかし、参加企業Eは、「恥ずかしい話だが、業務のやり方が頻繁に変わるたびに、内部統制の文書を更新していたため、文書化の完了が12月まで遅れる有様だった。しかし、業務のやり方が変わっても、アサーションという視点で見れば、重要なコントロールは影響を受けないことに気づいてから、文書の頻繁な変更は減り、文書化の完了を6月まで早めることが可能となった」(情報通信会社)と、文書化をめぐり毎年スケジュールを改善してきた事例を報告した。 (3) 整備状況の評価 「統制内容に変更がなければ、整備状況の評価を省略している」と、文書化と平仄を合わせるのが多数派だった。 これに対して、複数の参加企業は、「統制内容が変わらなくても、特に意味もなく毎年8月まで整備状況の評価を続けていた。監査法人からの提案はなく、省略する発想がなかった。今後、省略の方向で監査法人と相談したい」と話した。 (4) 運用状況の評価とロールフォワード 参加企業Fが、「ロールフォワードは、運用状況の評価が12月までに完了した場合のみ、期末時点で内部統制の有効性が継続していることを証明するため、3月までに1件のサンプルを抽出して行う」(商社)と報告した。 これに対して参加企業Gは、「運用状況の評価の対象サンプル抽出が第4四半期にずれ込んでも、3月までにロールフォワードを行っている。しかし、F社さんのやり方に見直したい」(部品メーカー)と話した。 その他スケジュールをめぐる課題 実務では、全社レベルの内部統制(ELC)、プロセスレベルの内部統制(PLC)、ITによる統制が含まれている場合は、対象となるITアプリケーションにより自動化された内部統制(ITAC)、IT全般統制(ITGC)について6つの作業を進めるが、主に次の点が議論になった。 (1) ELCとPLCの評価 ELCの評価結果が良好であれば、PLCの評価を簡便な手法で済ますなど、ELCとPLCの評価を連携させるのが、日本基準が謳うトップダウン型リスクアプローチの思想である。 参加企業Hは、「それを実践するために、ELCをPLCに先立って評価している。しかし、そうすると、8月に出てくるELCの評価結果を受けて、PLCの評価に着手できないことになり、結果としてPLCの評価時間が短くなり逼迫してしまうのが悩ましい」(情報通信会社)と、問題提起した。 しかし、多数派は、「理論上はそのとおりだが、実務上は、ELCとPLCの連携にこだわらず、両者を並行して進めており、この妥協に監査法人は何も言わない」と、トップダウン型リスクアプローチを放棄している。 もっとも、少数の参加企業は、「ELCは会社の経営基盤そのものだから、同じ会社のELCの評価結果が毎年激変することは少なく、むしろ年を重ねる毎に一定レベルに収斂するはずだ。わが社では、PLC対象連結子会社ごとに、過去複数年度のELCの評価結果から、ELCのレベルを判断し、その子会社の当期のPLCの評価手法に反映したいと考えている」と、ELCとPLCの連携を模索していた。 (2) 決算財務報告プロセス(FSCP)の評価 多くの参加企業が、「FSCPの評価は、慌しい決算繁忙期にならないと評価の対象サンプルがとれないため、決算事務の負荷と財務諸表監査への対応の負荷の2つと重なり、とても苦労している。下手をすると、有価証券報告書承認直前まで終わらない可能性がある」と、スケジュール管理や作業負荷軽減に妙手がなく苦労していた。 対応策として、複数の参加企業が、 「当期末のサンプルを待つのでなく、前年度の期末決算業務のサンプルを評価対象にした。そのため、繁忙期の3月でなく、8月から9月までに行うことができている」 「わが社は、当期のサンプルを評価対象にするが、スケジュールの前倒しと、監査法人との評価対象サンプルの共有によって、できるだけ12月の四半期決算までのサンプルを評価対象に経営者評価、監査法人レビューを完了し、3月の負荷を軽減している」 などの工夫を報告していた。 次回は、監査部の独立性に係る事例について紹介したい。 (了)
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《速報解説》 租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について
《速報解説》 租税特別措置(相続財産に係る 譲渡所得の課税の特例)の 適用状況等について 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 会計検査院より、財務大臣宛てに、平成24年10月19日付けで、「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」と題する意見の表示が行われた。 これは、会計検査院が、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税相当額を取得費に加算する制度(租税特別措置法39条))の適用状況等について検査した結果、同特例については、平成5年の改正後の状況変化を踏まえて、制度の見直しなどの改善措置が必要であるとの意見を表示するものである。 2 本特例の概要と平成5年改正 今回の意見表示の対象となった特例は、相続税と譲渡所得税の課税の調整を図る(相続財産の譲渡による課税の二重負担を解消する)ことを目的として、昭和45年の税制改正によって創設されたものである。 その内容は、個人が相続財産を取得した後、短期間に当該相続財産を譲渡した場合に、譲渡所得の計算上、当該相続財産に係る相続税相当額を取得費に加算する(その結果、相続税相当額が譲渡所得の金額から控除される)ことを認めるものである。 その後、本特例は幾次の改正を重ねて、平成5年に、当時の地価の高騰等に伴う土地関連の税負担の増大を背景として、取得費に加算される相続税相当額の範囲について、譲渡した土地等に対応する相続税相当額のみならず、相続したすべての土地等に対応する相続税相当額をも対象とするように拡大された。 その結果、実際には譲渡していない土地等に対応する相続税相当額についても、譲渡所得の計算上、取得費に加算されることとなった(下記図参照)。 その後も、本特例については種々の改正を経ているものの、上記の基本的な制度は維持されたまま、現在に至っている。 3 本意見の概要と評価 今回の会計検査院の意見は、平成5年の改正当時から現在に至るまでに、地価は大幅に下落し、土地関連の税負担は大幅に軽減されるなど、状況が大きく変化していることを踏まえて、取得費加算の範囲を拡大する措置は必要性が著しく低下しているとして、制度の見直しが必要であるとの見解を示したものである。 具体的には、本特例の適用に関する確定申告書等の資料が分析された結果、本特例の適用を受ける者については、相続によって取得した土地等のごく一部を譲渡し、大幅な取得費加算を受けることで、税負担が著しく軽減される者が多数に上っているとの実態が把握され、地価の高騰等を背景とした平成5年改正の趣旨からは乖離している現状について論証がなされている。 このように、本意見は、平成5年の改正当時から現在に至るまでの背景事情の変化を踏まえて、具体的なデータをもとにして検査がなされたものであり、説得力を有するものと考えられる。 4 税制改正の見通し 以上のとおり、本意見は説得力を有するものであり、また、会計検査院の意見表示は、法律(会計検査院法36条)の規定に基づいてなされるものであり、財務大臣に対する一定の拘束力を有するものと解される。 そこで、本意見を踏まえて、近い将来において、取得費加算の範囲の見直しを含め、本特例の改正がなされる見込みは十分あると考えられる。特に本年10月19日からは、政府の税制調査会において平成25年度の税制改正に関する議論が開始されており、今後の動きについて注視が必要である。 (了) 【参考】会計検査院ホームページ 「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」
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〔改正〕継続雇用制度の実務対応
〔改正〕継続雇用制度の実務対応 特定社会保険労務士 佐竹 康男 「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され(9月5日公布)、平成25年4月1日以降は、希望者全員を65歳まで雇用しなければならなくなった。 これは、来年度以降60歳になる人(昭和28年4月2日生まれ以降)から老齢厚生年金の支給開始年齢が61歳以降(男性の場合)に引き上げられることに対応し、定年後の一定期間無収入になる人を防止することを目的としている。 1 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律では、高年齢者雇用確保措置として定年を65歳未満に定めている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次のいずれかの措置を取ることが義務づけられている。 継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときは、その高年齢者を定年後も引き続いて雇用する制度をいうが、現行の法律では、継続雇用の対象者を限定する基準(健康状態、能力、経験等)を労使協定で定めることができる。 今回の改正によってこの仕組みが廃止され、平成25年4月1日からは、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが必要になる。 ただし、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢に到達した以降の人を対象に、基準を引き続き利用できる経過措置が設けられている。 〈厚生年金保険の支給開始年齢(男性の場合)〉 ※例えば、昭和28年度に生まれた人は、61歳(平成26年度)から老齢厚生年金が支給される。したがって、企業もこの年齢から従来の基準を適用できる。 また、厚生年金保険は、男女で支給開始年齢に差があるが、高年齢雇用確保措置は、男女の年齢による区別はなく、老齢厚生年金の男性の支給開始年齢に対応させている。 (1)企業の対応 ① 労使協定により、継続雇用の対象者を限定する基準を定めている企業は、就業規則の改定が必要になる。 ◎就業規則例 ② 人件費の増加が予想されるため、賃金及び退職金制度の見直しが必要になる。 ③ ワ-クシェアリング等、柔軟な働き方を進めていく必要がある。 (2)労働者に与える影響 ① 必ずしも本人が希望する職種等で勤務できるわけではないのだが、65歳又は少なくとも老齢厚生年金の支給開始年齢までは働くことができる。 ② 人件費の増加を抑制するため、定年年齢に達する前から、賃金・退職金の減額、退職勧奨を行う企業が増加する可能性がある。 ③ 高齢者の雇用の増加により、若年者の雇用が抑制される可能性がある。 2 継続雇用先企業の範囲拡大 高年齢者の継続雇用先を自社だけでなく、グループ内の他の会社(子会社や関連会社など)まで広げることができるようになる。子会社とは、議決権の過半数を有しているなど支配力を及ぼしている企業(関連会社とは、議決権を20%以上有しているなど影響力を及ぼしている企業)である。この場合、継続雇用についての事業主間の契約が必要になる。 詳細は、厚生労働省令で規定される。 3 違反企業に対する企業名公表規定の導入 高年齢者雇用確保措置を実施していない企業は、労働局等が指導・勧告を行い、なお違反が是正されない場合は企業名が公表される場合がある。 (了)