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教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置について 【第2回】「制度の主な内容(手続規定を除く)とその留意点」
教育資金の一括贈与に係る 贈与税非課税措置について 【第2回】 「制度の主な内容(手続規定を除く)と その留意点」 ミレニア綜合会計事務所 代表税理士 甲田 義典 1 はじめに 前回は、平成25年度税制改正で創設された「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」(以下「本制度」という)の創設の背景と概要について解説した。 本稿では、税法の規定に基づく本制度の主要な内容(手続規定を除く)とその留意点について解説する。 2 本制度の主な内容(措法70の2の2①) 平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、金融機関と「教育資金管理契約」を締結する日に30歳未満の個人(受贈者である子・孫。以下「受贈者」)が、教育資金に充てるために、その直系尊属(贈与者である両親・祖父母等)から教育資金管理契約に基づき以下①~③により金融資産を取得した場合には、その金融資産のうち1,500万円までの金額(既に本制度を利用して贈与税の課税価格に算入しなかった金額がある場合には、その金額を控除した残額)は、贈与税が非課税とされている。 税法で定めている上記「教育資金」「教育資金管理契約」の定義の概要は、下記【図表2-1】のとおりである(措法70の2の2②⑪)。 【図表2-1】 「教育資金」・「教育資金管理契約」の主な内容 3 本制度の留意点 (1) 非課税限度額の範囲(措法70の2の2①、⑪括弧書) 本制度の非課税限度額は、上述のとおり1,500万円であるが、「学校等以外の者に支払われる金額」の非課税限度額は500万円である。 この非課税限度額の考え方は、下記【図表2-2】のように、あくまで総額で1,500万円が限度となるため、留意が必要である(「文科省QA」Q1-5)。 また、本制度の非課税限度額は、受贈者ごとに1,500万円となる。 したがって、【図表2-3】に示すように、たとえ祖父及び祖母のそれぞれから1,500万円を贈与により取得した場合(合計で3,000万円を取得した場合)であったとしても、非課税限度額は1,500万円が限度となり、差額の1,500万円については、その贈与により取得した年分の贈与税の課税対象となるため留意が必要である(「国税庁QA」Q2-3)。 【図表2-3】 教育資金として祖父及び祖母のそれぞれから1,500万円の贈与を受けた場合 (2) 直系尊属となる贈与者の範囲 「直系尊属」とは、例えば、受贈者の父母、祖父母及び曽祖父母をいう。 したがって、民法727条に規定する養子縁組による親族関係がある場合を除き、受贈者の配偶者の直系尊属(例えば、受贈者の妻の父母、祖父母。つまり受贈者からみれば義理の父母、祖父母)は含まれないため、留意が必要である(「国税庁QA」Q2-2)。 【図表2-3】 直系尊属の範囲 (了)
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会社分割と自己株式の移転
会社分割と自己株式の移転 税理士 竹内 陽一 1 平成18年会社法改正と自己株式の承継 会社分割とは、会社が行う事業に関して有する権利義務の承継とされ、営業の承継から事業に関して有する権利義務の承継とされた。この権利の一つとして自己株式の承継が考えられる。 分割会社が有する自己株式については、吸収分割においては、吸収分割契約書に記載することで、分割会社の自己株式が、承継会社に承継されて、承継会社において他社株として取得できることになった(会社法758条3号)。この自己株式の承継は吸収分割に限られ、新設分割では自己株式の承継に関する規定がないので、新設分割設立会社への自己株式の承継はできないと考えられる。 他方で承継会社は、交付対価として、承継会社株式を、分割会社に交付できる。仮にこの分割で、分割会社の承継資産が自己株式のみで、承継会社の交付対価が承継会社株式のみとすると、分割会社と承継会社の間で株式の交付を相互に行ったことになり、相互持合いの形成となる。 分割会社が交付を受けた承継会社株式を、剰余金の配当として分割会社の株主に交付することもできる。この場合は、承継会社においては分割会社株式を取得し、この部分について等価の、承継会社株式を、分割会社に交付し、分割会社はこの承継会社株式を、分割会社の株主に割り当てることになる。 このことは、分割会社の株主から見れば、保有する分割会社株式については、承継会社が株主に加わった分、その価値が減少し、他方でその価値減少分と等価の承継会社株式を取得したことになる。 以上の事情から、分割比率(分割型分割)を計算する場合、下記の分割比率の算式の分子について、このように、自己株式を承継させる場合は、承継後の事態を想定して、承継会社=他社が取得した自己株式の価額を分子に計上し、分母の分割会社の発行済株式数において、自己株式数を加算した株数で計算することが合理的と考えられる。 2 分割会社からの自己株式の承継の会計 この会社法の改正に対応して、会社計算規則40条には、吸収分割会社の自己株式の処分の場合の会計処理が規定されている。 この考え方は、交付を受ける承継会社からの対価に付すべき帳簿価額のうち、自己株式に係る額である。分かりやすくするために、処分する自己株式の帳簿価額を100(時価100)、この自己株式の係る額として、交付を受ける承継会社株式に付すべき帳簿価額を時価による100とすると、 分割会社の自己株式処分に係る会計仕訳は、 承継会社株式 100 自己株式 100 となり、 差額が生じたときは、その他資本剰余金の額で調整することになる。 3 分割法人からの自己株式の移転の税務(分社型分割) この分割法人からの自己株式の移転について、法人税法は平成18年度改正において、自己株式の譲渡に該当し、法人税法施行令(以下「法令」)8条1項1号に該当すると考えられる。しかし、法令8条1項1号ホに、適格分社型分割と適格現物出資については、この自己株式の譲渡について、同項1号を適用しないこととされた。したがって、非適格分社型分割については、同項1号を適用し、適格分社型分割については、適格分社型分割に係る適格組織再編税制の条文を適用することになる。 平成18年度改正において、自己株式は有価証券から除かれ、税務上の帳簿価額は0とされた。この定義を置いたときに、本件のように移転して他社株となる自己株式、他社株であるが移転して自己株式となる場合に、これらの自己株式について有価証券とみなして処理する規定を置く必要があると考えられる。適格分社型分割については、分割法人は法令119条1項7号が適用されると考えられ、移転する自己株式を有価証券とみなして、 上記2の分割会社の会計仕訳については、税務上は、適格分社型分割は 承継法人株式 0 有価証券(自己株式) 0 となり、 承継法人については、移転を受けた分割法人株式について帳簿価額はゼロなので、 分割法人株式 0 資本金等の額 0 となる。 非適格分社型分割については、この分割法人の自己株式の移転は、自己株式の譲渡に該当するため、法令8条1項1号が適用され、交付を受ける承継法人株式の時価で、資本金等の額を増加させることになる。 分割法人においては、交付される承継法人株式の時価を100とすれば、 承継法人株式 100 資本金等の額 100 となり、 承継法人においては、分社型分割において承継法人の増加資本金等の額の規定(適格・非適格共通)である法令8条1項7号が適用されると考えられ、 分割法人株式 100 資本金等の額 100 となり、非適格分社型分割については、 まさに、相互に株式交付を行った場合と同じ処理となり、分割法人、承継法人ともに資本金等の額を増加させることになる。 表1 分社型分割 4 分割法人からの自己株式の移転の税務(分割型分割) 適格分割型分割については、税務上は、この自己株式の移転は自己株式の帳簿価額による引継ぎであるため、自己株式の譲渡の場合の規定である法令8条1項1号の適用はない。 分割法人においては、法令8条1項15号、法令9条1項10号が適用され、移転する自己株式を有価証券とみなして、 となり、 承継法人においては、移転を受けた分割法人株式の帳簿価額はゼロなので、 となる(法令8①六、9①三)。 分割法人株主においては、分割純資産移転割合が0であるため、 旧分割法人株式の帳簿価額の改定はなく、他方で承継法人株式について、帳簿価額=0で所定の株数を取得することになる。 非適格分割型分割での分割法人からの自己株式の移転は、自己株式の譲渡に該当するために、分割法人については、法令8条1項1号の適用になる。この交付された承継法人株式の株主への割当てについて、分割法人で法令8条1項15号と法令9条1項9号を適用すべきかとの疑問が生じるが、これらの規定は、分割受入資産(交付株式等)をそのまま株主に払い出すことに対応して、純資産の額を減算させる規定である。分割法人として受入資産の株主移転を前提にしない8条1項1号とは整合しない。ここで法令8条1項1号と組み合わせるべきは、交付株式を株主に割り当てる法令9条1項8号等の適用と考えられる。 したがってこの場合、通常の利益剰余金の配当に伴う減算規定である法令9条1項8号の適用が考えられ、分割会社が資本剰余金の配当とした場合は法令8条1項16号と法令9条1項11号の適用と考える。 したがって分割法人においては、仮にこの剰余金の配当を利益剰余金の配当で処理した場合、 となると考えられる。 なお、分割法人の株主については、この場合、株主適格とすると帳簿価額で計算される移転純資産割合が0であるため、旧株の改定はないが、非適格の場合はみなし配当相当額が取得した承継法人株式の帳簿価額となる。 表2 分割型分割 (了)
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経理担当者のためのベーシック税務Q&A 【第2回】「生産活動と税金」―試験研究費の税務―
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第2回】 「生産活動と税金」 ─試験研究費の税務─ 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 企業会計の取扱い 試験研究費とは、試験及び研究のために要する費用です。企業が支出する費用を機能別に分類した場合の費用項目であり、原材料費、労務費、経費等を含む複合費です。 企業会計では、試験研究費を含む研究開発費は、発生時にすべて期間費用として処理することを原則としているため、企業会計の実務においては、研究開発部門で発生した費用の全額を、試験研究費として処理している例がみられます。 2 試験研究費と税務 税務上の取扱いの相違から、試験研究費は、その内容や性質等により次の4つに区分されます。 3 試験研究費と税額控除 企業の試験研究を税制面から助成するため、試験研究活動の費用に関しては、一定の要件を満たせば一定の範囲内で納付すべき法人税額を軽減する以下(1)~(4)の4つの税額控除制度が設けられています。 また、税額控除の対象となる試験研究費とは、製品の製造又は技術の改良、考案もしくは発明に係る試験研究のために要する費用で、次に掲げる費用をいいます(措法42の4⑫一、措令27の4⑥)。 ただし、試験研究に充てるために他の者から支払いを受ける金額がある場合には、その金額を控除します。 (1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度 青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。ただし、税額控除額が当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)を超える場合は、その30%相当額が限度とされています(措法42の4①)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額となります(下記4参照)。 (2) 特別試験研究に係る税額控除制度 青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する特別試験研究費の額がある場合に、当該特別試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。 なお、特別試験研究費の額とは、試験研究費の額のうち、国の試験研究機関又は大学と共同して行う試験研究、国の試験研究機関又は大学に委託する試験研究、その用途に係る対象者が少数である医薬品に関する試験研究などに係る試験研究費の額をいいます。 ただし、特別試験研究税額控除額が、当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)から試験研究費の総額に係る税額控除制度により控除された金額を控除した残額を超える場合は、その残額が限度とされています(措法42の4②)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額から試験研究費の総額に係る税額控除制度により控除された金額を控除した残額となります(下記4参照)。 (3) 中小企業技術基盤強化税制 中小企業者等である青色申告法人が、事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合に、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。ただし、上記「(1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度」又は「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」との重複適用はできません。 なお、一般的には、試験研究費の税額控除においては、中小企業者等に該当した場合には、中小企業技術基盤強化税制を選択することが有利と考えられます。ただし、中小企業者等税額控除額が当該事業年度の法人税額の30%相当額(注)を超える場合は、その30%相当額が限度とされています(措法42の4⑥)。 (注) 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、税額控除限度額は、当該事業年度の法人税額の20%相当額となります(下記4参照)。 (4) 試験研究費の額が増加した場合等の税額控除制度 青色申告法人が、平成20年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度において損金の額に算入する試験研究費の額がある場合で、一定の要件を満たすときに、上記(1)、(2)及び(3)の制度とは別枠で、当該試験研究費の額の一定割合の金額をその事業年度の法人税額から控除することができます。 ただし、試験研究費の増加額に係る税額控除額が当該事業年度の法人税額の10%相当額を超える場合は、その10%相当額が限度とされています(措法42の4⑨)。 4 平成25年税制改正事項について (1) 税額控除限度額の拡大 上記3で述べた「(1) 試験研究費の総額に係る税額控除制度」「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」「(3) 中小企業技術基盤強化税制」における税額控除の上限は、平成24年3月31日までの間に開始する各事業年度においては時限措置で法人税額の30%相当額となっていましたが、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に開始する事業年度においては、法人税額の20%相当額に引き下げられていました。 それが平成25年税制改正により、2年間の時限措置として、平成25年4月1日から平成27年3月31日までの間に開始する各事業年度においては、控除税額の上限が法人税額の30%相当額に再度引き上げられています(改正後措法42の4の2一)。 (2) 特別試験研究費の範囲の拡大 上記3の「(2) 特別試験研究に係る税額控除制度」における特別試験研究費の額に、一定の契約に基づき企業間で実施される共同研究に係る試験研究費等が追加されました(改正後措法42の4⑫三)。 (了)
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例2(法人税)】 「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例及び貸倒損失を計上して繰戻し還付を行わなかったことにつき損害賠償請求を受けた事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例2(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 甲社の業績悪化に伴い、金融機関からの借入金返済のため、連帯保証人となっていた代表者一族の所有する不動産を売却する必要が生じた。 平成22年に代表取締役であるA氏が所有する福岡の物件を売却し、うち1億4,000万円を甲社の借入金返済に充当した。 さらに平成24年に、A氏の実母であり甲社の役員であるB氏が底地を所有しA一族のグループ会社である乙社が建物を所有する東京のビルを売却し、B氏の売却代金の一部9,000万円を甲社の借入金返済に充当し、乙社の売却代金1億7,000万円を甲社に貸し付けた。 税理士は、平成22年分及び平成24年分のこれらの譲渡取引につき「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項)」を適用せずに申告した。さらに、甲社の平成24年9月期の法人税において、甲社に貸し付けた売却代金につき、貸倒処理をせずに申告を行った。 A氏が別の税理士に相談したところ、一連の取引については納税の必要がないと言われ、その税理士が平成22年分、平成24年分の所得税申告についてはそれぞれ更正の申出、更正の請求を、平成24年9月期の乙社の法人税申告については平成25年3月期(決算期を3月に変更)で貸倒処理をして繰戻し還付を行ったところ、そのすべてが認められた。 そこで、これら一連の取引について回復できなかった税額(具体的には、乙社の繰戻し還付ができなかった地方税額1,200万円)の賠償及び甲社及び乙社の顧問料500万円の返還並びに別の税理士に支払った報酬1,000万円の返還請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 ・税理士はグループ全体の顧問税理士であった。 ・甲社は土地を所有しており、売却された場合には約2億円の売却益が発生する見込みであった。 ・甲社は、乙社の借入金を毎月100万円返済していた。 ・税理士は、確定申告時点において求償権行使不能と判断されない場合であっても、その後、求償権が行使不能な状況に陥ったときには更正の請求等が可能となることを知らなかった。 ・別税理士は、成功報酬で更正の請求並びに繰戻し還付請求業務のみを請け負っていた。 《基礎知識》 ◆保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項) 保証債務を履行するために資産を譲渡した場合で、保証債務の履行に伴う求償権を行使することができないこととなったときは、その行使不能額については、譲渡所得の金額の計算上、譲渡がなかったものとみなされる。 ◆金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ(法人税基本通達9-6-1) 甲社が「債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる」場合には、貸倒損失の計上が認められる。 ◆欠損金の繰戻しによる還付(法人税法80条) 法人が欠損金の生じた事業年度において、青色申告書を提出している場合で一定の要件に該当する場合には、前1年以内の事業年度に納付した法人税の繰戻し還付を受けることができる。ただし、法人地方税には繰戻し還付の適用がない。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 これら一連の取引については、更正の請求等及び税務調査により認められていることから、何ら処理をしなかった被保険税理士に責任があると思われる。 しかし、継続的に会社をみている顧問税理士と、単発で還付申告等を請け負う税理士とでは自ずと立場が違う。 顧問税理士の立場においては、関与先に既に支払能力がないとの判断はしづらく、自力更生を信じて決算を組んだであろうことは想像できる。 一方、単発で業務を請け負う税理士の立場においては、前後のつながりなく、依頼通りの申告を行い、成功報酬を得られれば良いことになる。 したがって、貸倒処理が認められたことは別税理士だからできた等の事情も捨てきれず、顧問税理士にすべて責任があるとはいえないと考える。 《予防策》 [ポイント①] 更正の請求等の利用 「保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の所得税の特例(所得税法64条2項)」の能否判定は、所得税基本通達51-11~16によるが、確定申告時点において、求償権行使不能と判断されない場合であっても、その後、求償権が行使不能な状態に陥ったときには、更正の請求等ができる。 したがって、このようなケースにおいては、絶えず会社の業績を把握し、いつでも求償権行使の能否判定ができるようにしておく必要がある。 [ポイント②] コミュニケーションをとる 今回の事例は、依頼者が顧問税理士の関与内容に不満を持ち、別税理士に相談したことから始まったものである。 顧問税理士がどのように考えて貸倒処理をしなかったのか、また、どのような理由で求償権が行使可能と判断したのか等を説明し、依頼者の要望等を汲み上げ、これに沿った処理を行っていれば防げた部分もあることから、依頼者とのコミュ二ケーションを密にとり、関係を友好に保つことが何よりも重要である。 (了)
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企業不正と税務調査 【第9回】「従業員による不正」 (3)不正の防止・早期発見のための対策
企業不正と税務調査 【第9回】 「従業員による不正」 (3) 不正の防止・早期発見のための対策 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 本連載第2回で「不正発生のメカニズム」として、「不正のトライアングル」という仮説を紹介した。その際に、いかにして「機会」を減らすかが、不正抑止の決め手であることも強調している。 【不正のトライアングル】 そして「機会」を減らすためには必要なことが適切な職務分掌であり、周囲の監視であることはこれまでの不正事例で見てきたとおりである。 1 不正防止のための仕組み作り まずは、従業員が不正行為をしないよう、仕組みを作ることから始めたい。 (1) 基本は適切な職務分掌 機械装置商社の老舗・椿本興業株式会社が5月8日付で公表した「第三者委員会の報告書受領と当社の対応方針について」というリリースでは、顧客本位の営業体制として、営業担当者に、仕入先の選定から発注、納入の立会い、検品、仕入先に対する支払いの指示などの購買業務権限を与え、債権管理までを含めた職務権限が集中させており、これを悪用されたことなどが不正の原因とされている。 この事例からも明らかなように、不正防止の決め手は不正の「機会」を減少させるための適切な職務分掌の実施である。経理部門であれば、出納担当者とは別にネットバンキングの入力・送信処理を行う者を置くとか、営業部門と購買部門を分離するなど、また、営業部門のなかでも、顧客と折衝する者と債権管理を行う者を分離するなど、業務が一人の社員では完結しない体制を作ることが第一歩であることは間違いない。 管理部門の人員に余裕がない中小企業にあっては、こうした職務分掌の一端は、経営者自身が担うべきであろう。 (2) モニタリング機能 次に、監査部門を有する会社であれば監査部門が、中小企業であれば、社長自身が、社員の業務内容を監視しなければならない。 その際には、他社で起こった不正事例を検証して自社の状況に置き換え、業務プロセスのどこにリスクがあるのか、従業員が不正を行うとすればどのような手口が考えられるかを意識して、モニタリングを行うことが肝要である。特に職務分掌が十分に行えない組織である場合には、事後的に、業務内容をチェックし、確認していることを担当者に知らしめておく必要がある。 従業員に対し、「不正をやったらばれてしまう可能性が高い」という意識を持たせるだけで、不正抑止効果は期待できるものである。 中小企業においては、顧問税理士を活用することによって、こうしたモニタリング機能を実現することが可能である。 (3) 商談ごとの採算管理、部門ごとの損益管理を明確化する 前回見たように、営業部門・購買部門従業員による不正は、架空発注により支払われた代金を仕入先から還流させるという方法で成立する。このときに選ばれる商談は、採算性の高いものが多い。なぜなら、通常、赤字商談については厳しく管理をしても、黒字商談については、当初見込みとの乖離が大きくない限り、事後的に問題になることは少ないからである。 不正実行者は、こうした採算管理の裏をついて巧みに架空発注を紛れ込ませ、金員を騙し取っているのである。 そこで、商談ごとの損益管理を厳格化し、受注時の見込損益と差異が出ている商談については、差異の発生原因を分析させ、報告させる仕組みが必要になる。同時に、受注時の見込損益計算が適正に行われているかどうかも検証されなければならない。 また、部門単位で損益を把握し、部門長に責任を持たせることによって、部門内の不正を防止するインセンティブを与えることも可能である。ただし、これが行き過ぎると、部門長自ら架空売上などの不正に手を染めることにつながりかねないというのもまた、他社事例が教えるところである。 (4) 内部通報制度 課内のベテラン従業員や上司の不正に気付く社員は少なくない。不正調査報告書でも、「気付いていても言い出せる雰囲気ではなかった」とか「通報しても改善されない」といった理由で、内部通報制度が機能していない事例が多い。 こうした社内の風潮を改善するために、弁護士などの専門家に依頼して外部通報窓口を開設し、通報者保護を明確に示すことが必要である。また、経営者自らが、「おかしいと思ったことはなんでも相談すること」を社員に求め、その際に「相談内容に誤解があってもその責任は問わないこと」や「相談者の匿名性は守ること」などを繰り返し説明することによって、気になったことを他の従業員と共有できる社内にしていくことが大切である。 2 不正発見のための施策 (1) 経理部門担当者による不正 出納業務を一人で担当する従業員が行う不正の手口は、取引先からの請求書を偽造又は変造して支払金額を増やし、増額部分を自身で管理する口座に振り込むというもので、請求書原本と振込内容を一件ごとに突合すれば、容易に見分けられる場合が多い。 問題はその作業を誰が行うかであるが、最も適役なのは経理部門の責任者又は経営者自身である。毎回突合する必要はないし、送金処理前に行う必要もない。送金処理後に、請求書とネットバンキングから出力させた送金一覧表(できれば監視監督者自身が出力することが望ましい)をじっくり照合すれば、不審な点はその場で発覚しよう。 不定期であっても、こうした照合作業を行うという事実は、出納担当者の不正抑止に大きな効果があることは間違いない。 (2) 営業部門担当者による不正 営業部門の不正事件の特徴の一つは、個々の商談だけを見れば、適切な処理が行われているように見えても、その担当者が取り扱う商談全体を見た場合に、不審な点が浮かび上がってくるところにある。 したがって、不正発見においては、一人の担当者の商談すべてを、請求先・金額、仕入先・金額、回収(支払)条件、粗利益率などに注目して分析する必要がある。 また、営業部門の不正事件は、必ず社内・社外の共犯者を必要とする。不正発見のためには、営業担当者の人間関係を知り、特定の仕入先との癒着がうかがわれるような事象はないか、把握することが望ましい。 なお、社内サーバに保存されたe-mailのデータ解析を行う場合には、刑事告訴を前提にした証拠保全を行う必要があることから、顧問弁護士、専門のデジタル・フォレンジック業者に依頼をした上でとりかかるべきであることは、不正調査を行う者の常識として知っておかなくてはならない。 (3) 購買部門担当者による不正 購買部門担当者の不正は、購買発注業務の一部に架空・水増し発注を紛れ込ませることから、営業部門による事前見積損益よりも粗利益が減少していたり、発注先が変更されていたりして、営業部門が不信感を抱いたことがきっかけで発覚することが多い。 こうした不正を防ぎ、発見するためには、商談ごとの採算管理と部門ごとの損益管理の導入は必須であろう。そして、経理部門が算出した実績をもとに、購買部門と営業部門が予実分析を行う体制ができれば、購買部門の不正は抑止できるし、仮に不正な発注があった場合でも、翌月には発見することが可能となる。 ただし、営業部門の担当者と購買部門の担当者が共犯関係にある場合には、こうした相互監視による牽制機能は働かないので、営業部門責任者による損益管理と経理部門・監査部門による商談別・部門別損益分析により異常点を発見し、仮説を立て、これを検証していくという作業は欠かせない。 3 顧問税理士による従業員不正の発見 経営者が自ら不正を行っている場合に、顧問税理士として不正を発見することは簡単ではなく、したがって、不正発見よりも不正をさせないことに重点を置くべきであることは、本連載【第6回】で解説したとおりである。 一方、従業員による不正に関しては、顧問税理士は職業的懐疑心を発揮して、不正リスクを検討し、不正の兆候を見抜き、顧問先に損害を発生させないことが求められる。上記2で説明した「不正発見のための施策」を経営者任せにするのではなく、経営者と一緒になって、こうした仕組みを構築し、運用していくことが求められている。 そのためには、公表された不正事例については、顧問先企業の状況に照らして、同様の不正が発生するリスクはないか、不正リスクを低減させるためには何をすべきかを常に意識することが必要である。 もちろん、一義的に顧問税理士が不正発見義務を負うということではないが、税務調査で従業員不正が発覚したとき、毎月顧問料をもらっている顧問税理士が何も気付いていなかったというのでは、顧問先の信用は一気に失墜してしまうのではないだろうか。 4 まとめ-従業員を犯罪者にしないために 営業部門、管理部門は人員削減の方針であり、職務分掌なんて考えられない。まして、人事ローテーションをするほど、大きな会社じゃない-中小企業の経営者や小さな組織の責任者は、そう言い訳しながら、特定の者に業務が集中することを「効率化」であると正当化し、本来してはならない権限移譲を「信頼」と呼び替えてはいないだろうか。 従業員による不正を許すことは、会社に損害をもたらす以上に、大事な従業員を犯罪者にしてしまうことを意味する。そういう事態を引き起こさないためには、組織の責任者自らが、不正防止システムの一翼を担っていく気構えが必要である。決して難しいことではない。請求書と振込内容を一件ずつ突合していれば、出納担当者による不正は未然に防止できるし、商談ごとの採算管理を行っておれば、架空発注は不審な数字として浮かび上がってこよう。 まずは、基本的な確認手続を疎かにしないで、継続すること、である。 * * * 次回からは、「粉飾決算」について、その代表的な手法である「棚卸資産の架空・過大計上」と「架空売上」について、これまでに発覚した事例を中心に手口を解説するとともに、いかにしてこうした粉飾決算を発見するかについて検討していきたい。 (了)
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組織再編税制における不確定概念 【第9回】「損失の二重利用①」
組織再編税制における不確定概念 【第9回】 「損失の二重利用①」 公認会計士 佐藤 信祐 法人税法上、損失が二重に利用できるケースが存在し、実務においても活用されるケースが多い。 損失の二重利用を行うためだけにストラクチャーを組むことは少ないが、事業目的のために選択したストラクチャーの結果として、損失が二重に利用できてしまうケースも少なくない。 そこで本連載では、第9回目と第10回目の2回に分けて、このような損失を二重に利用するケースについて、租税回避行為として認定されるか否かについて解説を行う。 1 問題の所在 たとえば、10億円で設立した子会社において、9億円の赤字が発生した場合には、当該子会社において9億円の繰越欠損金が発生することになる。しかし、それだけではなく、親会社が保有する子会社株式についても9億円の含み損が発生することになる。 【損失の二重発生】 当該子会社株式のすべてを譲渡した場合には、親会社において9億円の子会社株式譲渡損が発生するとともに、子会社においては9億円の繰越欠損金が存在し、損失が二重に存在することになる。 2 子会社株式の譲渡+合併による損失の二重利用 (1) 個人に対する子会社株式の譲渡 このように、子会社株式譲渡損と子会社の繰越欠損金といった二重に損失が発生するという問題はあるが、子会社において繰越欠損金を使用できるだけの収益力がない場合には、実質的に、子会社において繰越欠損金を使用できないことから、二重に損失が利用できてしまうという点については、それほど大きな問題にはならない。 しかしながら、平成13年度税制改正により導入された組織再編税制においては、適格合併による繰越欠損金の引継ぎを認めているため、グループ内で子会社株式を譲渡することにより、損失を二重に計上する場合も考えられる。 具体的には、以下の事例を参照されたい。 【個人に対する子会社株式の譲渡】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 このような場合には、P社の保有するA社株式の帳簿価額が10億円であるのに対し、1億円で譲渡を行っていることから、9億円のA社株式譲渡損が計上されることになる。 さらに、B社はA社を吸収合併することにより、本件合併が適格合併に該当し、かつ、繰越欠損金の引継制限が課されない場合には、A社の繰越欠損金(9億円)をB社に引き継ぐことが可能になる。 すなわち、本事例においては、単純化のために、A社株式の含み損とA社で発生した繰越欠損金の金額を一致させている。 このような場合には、過去においてA社で発生した繰越欠損金(9億円)について、株主であるP社で認識するとともに、合併法人であるB社に引き継ぐことが可能になっていることから、損失を二重に認識することが可能になっている。 なお、X氏がA社及びB社の発行済株式総数の50%を超える数の株式を直接又は間接に保有する関係(以下「支配関係」という)が生じてから5年が経過していない場合には、繰越欠損金の引継制限が課されるが、5年を経過している場合には、繰越欠損金の引継制限が課されないことになる。 このような場合に、A社株式を譲渡したことが、損失の二重利用のための行為で、経済人として不合理不自然な行為であるとして、包括的租税回避防止規定(法法132の2)を適用することがあり得るか否かであるが、P社がA社株式を譲渡しない場合には、P社がB社株式を取得することになってしまい、今まで、X氏のみがB社の株主だったのにかかわらず、P社とX氏がB社の株主になることから、資本関係が歪になるという問題が生じる。 このような資本関係の歪さが事業活動に悪影響を与えるか否かという点については、同じX氏グループの傘下であることから、それほど大きな影響はないというのが実態ではあるものの、B社における経営意思決定をスムーズに行うために、資本関係の歪さは解消しておきたいというニーズは少なからず存在する。 すなわち、B社株式を譲渡しなければならない絶対的な理由はないものの、B社株式を譲渡してはいけない絶対的な理由もなく、譲渡してもかまわないなら譲渡しておきたいという程度のニーズであることがほとんどであると思われる。 このような状況下において、B社株式を譲渡するための経済合理性としては弱いのではないかと感じられるかもしれないが、包括的租税回避防止規定を適用するためには、経済人として不合理不自然な行為であることが必要となるが、「譲渡してもかまわないなら譲渡しておきたい」という程度の理由であっても、譲渡したことが、経済人として不合理不自然な行為であると言えるわけがなく、さらに、資本関係の歪さを解消するためにグループ内で株式を譲渡するということは日常的に行われており、包括的租税回避防止規定を適用できるだけの異常性は存在しない。 なお、このストラクチャーにおいては、適格合併の前にグループ内で株式譲渡が行われていることから、支配関係発生日をどの時点で捉えるのかという点が問題となっていた。 この点については、平成22年度税制改正により、グループ内で株式譲渡を行ったとしても、支配関係が洗い替えられないことになったため、現行法上は、特に問題にはならない。 (2) 完全支配関係のある内国法人間で子会社株式を譲渡した場合 なお、上記の事例と異なり、完全支配関係のある内国法人間で株式を譲渡した場合にどのように取り扱われるのかという点も問題となる。 具体的には以下の事例を参照されたい。 【完全支配関係のある内国法人に対する子会社株式の譲渡】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 上記の事例では、P社が保有するA社株式をB社に譲渡したとしても、グループ法人税制が適用され、譲渡損失が繰り延べられるように思えるのかもしれない。 しかしながら、B社がA社を吸収合併したことにより、A社株式が消滅することから、その時点で譲渡損失が実現することになる。 なお、譲渡損益の繰延べについては、譲渡法人又は譲受法人が適格合併により解散する場合には特例が定められているが(法法61の13⑤⑥)、譲渡損益の繰延べの対象になった譲渡損益調整資産が適格合併により消滅した場合についての特例は定められていないため、上記の適格合併により、譲渡損益が実現するという結論になる。 この点については、平成24年8月3日に札幌国税局が回答した「グループ法人税制における譲渡損益の実現事由について」において明らかにされている。 (3) 否認され得る事例 これらのケースと異なり、否認され得る事例としては、以下のものが考えられる。 【損失の二重計上】 〈現状〉 〈ステップ1:A社株式の譲渡〉 〈ステップ2:合併〉 この事例においては、事前にP社が保有するA社株式を譲渡してから合併を行う場合と、そのような株式譲渡を行わず、いきなり合併を行う場合とで、合併後の資本関係は何ら変わらない。 すなわち、たとえば、合併の1ヶ月前にP社が保有するA社株式をB社に譲渡した場合には、P社においてA社株式譲渡損を計上するためだけに行った行為であり、経済合理性がないと認められることから、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用され、納税者の行為を引き直した(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)上で、事前に株式を譲渡しなかったものとして、P社において発生したA社株式譲渡損が否認される可能性は否めない。 ただし、実務上、A社をB社の直接子会社とすることで、A社の株主総会、取締役会はB社が支配することになるため、いきなり合併を行うよりも、A社株式を譲渡し、A社をB社の子会社にすることで、両社の統合がうまくいくという事業目的があることも少なくないと考えられる。 そのような場合には、事前にA社株式を譲渡する行為については、経済人として不合理不自然な行為であるとは言い難く、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)
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鵜野和夫の不動産税務講座 【連載2】「贈与税の税率と住宅取得等資金贈与の特例~若い世代へ『資金』移転して経済の活性化を(下)」
鵜野和夫の不動産税務講座 【連載2】 贈与税の税率と住宅取得等資金贈与の特例 ~若い世代へ『資金』移転して経済の活性化を (下) 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 [直系尊属からの住宅取得等資金の贈与税]の特例が適用される住宅の要件は 図表-3 平成24年「住宅取得等資金の非課税」の添付書類一覧(新築又は取得用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 図表-4 平成24年「住宅取得等資金の非課税」の添付書類一覧(増改築等用) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 工事費100万円以上の増改築、大規模な修繕などにも適用 受贈者本人が所有し、居住している家屋になされた工事であること 受贈者の親族などからの住宅取得や工事は制限されているが 贈与者の3年以内に死亡したときの相続税の課税価格の算入は 相続時精算課税制度という特例もある-これも次世代への資産移転促進制度だが (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【11】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その4)
税務判例を読むための税法の学び方【11】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その4) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 (前回はこちら) (4 主文の主要素を見極める方法) ④ 併合的接続詞「及び」「並びに」による段階構造の分析 法令文において語句を併合的に結び付ける併合的接続詞には、「及び」と「並びに」が用いられる。すなわち、前回の選択的に結び付ける語は英語の「or」に相当するものであるが、併合的に結び付ける「及び」「並びに」は、英語の「and」に相当するものである。 両者は、文字的意味の上では同じものであり、日常用語としては同じような意味で区別せずに使われている。しかし、法令用語としての「及び」と「並びに」は、明確に使い分けられている。 単純に並列的に並ぶだけのときには、「及び」が使われ、語句が3つ以上であっても、同じ段階で並べるときは、最初の接続は「、」でつなぎ、最後の部分を「及び」で結ぶ。すなわち、「A及びB」や「A、B及びC」「A、B、C及びD」というふうに表現される。 例えば、所得税法第22条第1項は、「居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。」とある。ここでは「総所得金額」「退職所得金額」「山林所得金額」が同じ段階で並べられている。 このように語句を単純に並列するだけのときには「及び」のみを使うが、結合される語句に意味の上で上下があるような場合には、「及び」のほかに「並びに」を使ってその違いを文言の上で明らかにすることになる。大きな意味の併合的接続詞には「並びに」を用い、小さな意味の併合的接続詞には「及び」を用いる。 すなわち、「AもBもCも・・・・・・である」というときでも、「AとB」との結び付きが「C」との結び付きよりも一段階強いときには「A及びB」としてそれを一組にし、さらにその「A及びB」のグループと「C」とを「並びに」を使って結び付けて、「A及びB並びにC」と表現し、この間の関係を明らかにするのである。 前々回に紹介した所得税法第10条後半の「この項の規定の適用を受けようとする旨、その者の氏名、生年月日及び住所並びに障害者等に該当する旨その他必要な事項を記載した書類を提出したとき」を再び図で示せば、次のようになる。 なお、先に「最後の部分を「及び」で結ぶ」と書いたが、併合的接続の要素の中で最後に「その他~」がある場合には、「その他~」の直前の要素の前に「及び」や「並びに」が入る。なおこれは選択的接続である「又は」「若しくは」の場合も同様である。 この併合的接続が3段階になるときは、一番小さい段階の接続だけに「及び」を用い、その上の接続にはいくつ段階があってもすべて「並びに」を用いる。最も大きい接続に用いる「並びに」を「大(おお)並びに」と呼び、それよりも小さい接続に用いる「並びに」を「小(こ)並びに」と呼んでいる。 この「大並びに」も「小並びに」も、共に「並びに」と表示されているだけなので、どちらが「大並びに」でどちらが「小並びに」かは、列挙されている語句の意味により解釈しなければならない。 さらに条文の中には、この併合的接続が4段階以上にわたる場合も出てくる。そのような場合も、一番小さい段階の接続に一回だけ「及び」を使い、それ以外のところについては、「並びに」を何回も使うことになる。すなわち「小並びに」が2段階以上になるのであるが、その場合も語句の意味により解釈するしかない。 もう一つ、別の例で示そう。 所得税法第23条第1項には、「利子所得とは、公社債及び預貯金の利子(略)並びに合同運用信託、公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託の収益の分配(略)に係る所得をいう。」とある。 この下線部を図で示せば、次のようになる。 次に、「大並びに」「小並びに」の例を示そう。 国税通則法第50条は、「国税に関する法律の規定により提供される担保の種類は、次に掲げるものとする。」とあり、その第4号には、「建物、立木及び登記される船舶並びに登録を受けた飛行機、回転翼航空機及び自動車並びに登記を受けた建設機械で、保険に附したもの」とある。 この下線部を図で示せば、次のようになる。 次に、接続要素の組み合わせについて書く。すなわち「A及びB・・・・・・(に係る)・・・・・・C及びD」という表現で、タスキ掛けの組合せがある場合とない場合とがあることは、「又は」の場合と同様である。 すなわち、その組合せは「A(に係る)C」、「A(に係る)D」、「B(に係る)C」及び「B(に係る)D」の4通りがあり、通常、これらのすべての組合せを含んでいる(いわゆるタスキ掛けあり)と解される。 しかし、なかには、「A(に係る)C」と「B(に係る)D」」の2通りの組合せのみ(いわゆるタスキ掛けなし)を意味する場合もある。 これがタスキ掛けとなるかどうかを内容から判断しなければならない点は、前回の選択的接続詞の場合と同様である。 なおここで、他の併合的接続詞についても触れておく。 ◆「かつ」 「かつ」は、大きな接続のために用いられるほか、接続される言葉が互いに密接不可分であって、一体として意味が完全に表されるような場合に用いられる。また、「かつ」を用いて加重的要件を示す場合もある。すなわち「かつ」の後に続けて規定される内容が、「かつ」の前に述べられている内容と共に必要とされる要件であることを示す場合である。 所得税法第2条第4号は非永住者の内容を規定しているが、「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人をいう。」とある。ここでは日本の国籍を有していないことの他にさらに「過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である」という要件を加えている。 ◆「・・・・・・と・・・・・・と」 次に、「・・・・・・と・・・・・・と」というのは、名詞を連結するのが通例である。したがって、条文の中に名詞の次に「と」があった場合には、次の名詞(又は名詞句)で「と」を伴うものを探し出し、これらの両者を併合し、あわせてどういう連結となっているかを考えるとよい。 所得税法第201条第1項2号イ号は、その支払う退職手当等とその支払済みの他の退職手当等がいずれも一般退職手当等に該当する場合の源泉徴収額を定めており、「その支払う退職手当等の金額とその支払済みの他の退職手当等の金額との合計額から退職所得控除額を控除した残額の2分の1に相当する金額」とある。この下線部は、「その支払う退職手当等の金額」と「その支払済みの他の退職手当等の金額」との合計額となる。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載21〕 合併に伴い合併法人の役員報酬を増額した場合の取扱い
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載21〕 合併に伴い合併法人の役員報酬を 増額した場合の取扱い 日本税制研究所研究員 朝長 明日香 1 「役員給与に関する質疑応答事例」(国税庁 平成18年12月)の問4の取扱い 平成18年度の税制改正において、役員給与に関する取扱いの大幅な改正が行われたことは、周知のとおりである。 役員報酬に関しては、事業年度中の支給額が毎月同額であるものを「定期同額給与」と位置付ける一方、①期首から3月以内の改定及び②業績の著しい悪化に伴う減額改定の場合において、改定前の各支給時期における支給額と改定以後の各支給時期における支給額がそれぞれ同額であるときは、これらの改定を行った役員報酬についても「定期同額給与」に該当するものとされた。 平成18年12月に国税庁から公表された「役員給与に関する質疑応答事例」は、この平成18年度の税制改正を受けて作成されたものである。 この「役員給与に関する質疑応答事例」の問4(合併に伴う定期給与の増額)では、被合併法人の役員と合併法人の役員とを兼務していた者が合併(期首から3月経過後に行われたもの)によって合併法人の業務に従事することとなり、合併法人が、その役員に対し、被合併法人が支給していた報酬の額を合わせた金額を支給することとしたケースについて、その役員に対する報酬が「定期同額給与」に該当するのか否かということに対する回答を示している。 このケースに対する当局の回答は、次のとおりである。 この問4のケースは、上記①及び②のいずれにも該当しない改定であるが、上記の回答のとおり、国税庁は、このケースの役員報酬を「定期同額給与」と認めている。 2 「臨時改定事由」による改定の創設 平成19年度の税制改正においては、①期首から3月以内の改定及び②業績の著しい悪化に伴う減額改定に、新たに、③「臨時改定事由」による改定が追加され、これら3つのいずれかに該当する改定を行っても、役員報酬は「定期同額給与」に該当することとされることとなった。 この「臨時改定事由」による改定は、法人税法施行令69条1項1号ロにおいて次のように規定されている。 そして、平成19年12月には、この法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改定事由」に関する解釈として次の法人税基本通達が制定されている。 このように、法人税法施行令69条1項1号ロの規定は、役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更、及び、これらに類するやむを得ない事情のいずれかが生じている場合に適用されることとなるわけであるが、「その他これらに類するやむを得ない事情」(同前)にどのような内容のものが含まれるのかということについては、個々の事例に即して検討する必要がある。 現在、上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」は国税庁ホームページから削除されているが、同質疑応答事例は平成19年度の税制改正前の法令を基に作成されたものであり、同改正によって創設された規定の取扱いに含まれることとなり、不要となったものと考えられる。 財務省の解説によれば、「臨時改定事由」による改定に関しては、「事業年度開始の日から3月経過日等までには予測しがたい偶発的な事情等によるもので、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないもの」(財務省『平成19年度 税制改正の解説』331頁)とされている。この解説からすると、「利益調整等の恣意性」があるのか否かが「臨時改定事由」に該当するのか否かの判断基準として重要であると解される。 このような平成19年度の税制改正の考え方や上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」が平成19年度の税制改正に合わせて削除されていることからすると、上記問4のケースは、「臨時改定事由」による改定に該当する、と整理されているものと考えられる。 3 本件の取扱い 上記1の「役員給与に関する質疑応答事例」の問4のケースは、本件とは異なる事由によるものであるが、同ケースが「臨時改定事由」による改定に該当すると整理されていることからすると、法人税法施行令69条1項1号ロの「臨時改定事由」は、「役員の職制上の地位の変更」や「役員の職務の内容の重大な変更」(同前)に限定されたものではなく、これらの他にも多くの事由が「臨時改定事由」に該当するものと考えられる。 合併があったことを理由として恣意的に行った改定が「臨時改定事由」に該当しないことは言うまでもないが、本件は、被合併法人の報酬水準に合わせるために合併法人の役員の報酬の改定を行ったものであり、「利益調整等の恣意性」が全くないことが明らかであることから、「臨時改定事由」による改定として取り扱ってよいものと考える。 (注) 平成19年度の税制改正においては、3月経過日等後にされる改定のうち「特別の事情」(法令69①一イ括弧書)があると認められるものは通常の3月以内の改定に含めることとされたが、これは「継続して毎年一定の時期に行われる改定」(財務省『平成19年度 税制改正の解説』330頁)を前提とした取扱いであるため、本件は、これに該当しない。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕【第8回】株式会社クロニクル・ 過去の会計処理の訂正に係る「第三者委員会調査報告書(最終報告)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第8回】 株式会社クロニクル・ 過去の会計処理の訂正に係る 「第三者委員会調査報告書(最終報告)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【株式会社クロニクルの概要】 株式会社クロニクル(以下「クロニクル」という)は昭和55年、宝石貴金属製品の卸売業者として創業。平成12年から投資事業を開始。その他の事業として子会社においてWEB情報事業を手がける。連結売上高2,108百万円、連結経常損失△697百万円。従業員49名(数字はいずれも2012年9月期)。平成16年12月JASDAQ上場。 【報告書のポイント】 1 調査結果により判明した事実 (1) 営業貸付金等 平成20年6月、前代表取締役会長が中心となって進めた会社買収に絡み、契約書を作成することなく、買収予定会社及びその親会社に対して608百万円の貸付金が発生することとなった。 クロニクルは、買収予定会社の株式を親会社が売却した代金300百万円を受け取り、残額を債権放棄することで合意していたにもかかわらず、当該損失を平成21年9月期に計上することを避けるため、日付を遡って金銭消費貸借契約書を作成し、会計監査人からの残高確認依頼に対しては虚偽の返信を行わせた。 その上で、平成23年9月期に貸付金308百万円に対して個別引当で全額につき貸倒引当金を設定すべく、債務免除を依頼する書面を作成させた。 その結果、本来、平成21年9月期に計上すべき債権放棄による損失308百万円が貸付金として計上されたまま、有価証券報告書が作成された。 (2) 営業出資金 前代表取締役会長は、シンガポールにおいて組成したファンドに、クロニクルから出資させ、当該ファンドから自らに資金を流して私的に流用することを計画し、懇意にしていたファンドマネージャーにファンドの組成を依頼し、合計約904百万円の投資をさせた。 ファンドマネージャーは、受け入れた資金について運用を行わず、前代表取締役会長の指定する口座に送金する一方、ファンドの投資内容について定期的に報告書を提出して投資実体があるかのように装い、評価損の計上を免れていた。 クロニクルがファンドへ送金した資金については、営業出資金ではなく、前代表取締役会長に不法に領得されたものであり、ファンドへの送金時点で財産上の損害が生じており、当該年度に損失を計上すべきであった。 (3) 預在庫 子会社における時計販売において委託販売を行っているところ、帳簿上の預在庫として計上されている商品のうち410百万の商品について実在性がないことが判明した。 その原因は、以下のとおり前代表取締役会長が主導したものであるが、実務処理は、現代表取締役社長及び取締役(子会社の代表取締役)が担当していた。 2 関係者に対する厳しい処分の提言 最終報告書は「第4 改善策」の冒頭において、関係者に対する厳しい処分を提言している。 クロニクルの会計処理の訂正を要する可能性がある事象については、いずれも、平成23年8月3日に死亡した、前代表取締役会長が主導して行ってきたものであり、現任の取締役4名も平成23年12月に就任した1人を除いて、その行為に加担又は実務処理を行い、前代表取締役会長の行為に異議を唱えたり、止めたりすることはなかったものである。 前代表取締役会長の行為の一部には、業務上横領罪又は特別背任罪が成立しているものもあると考えられ、同人に対する損害賠償請求権が発生しているが、同人はすでに死亡し、死亡時点においての正味財産はなかったものと推察されることから、損害賠償請求権に対する未収入金は現時点では計上せず、請求金額の実現可能性が高まった時点での認識を行うことが妥当であると考えられる。 〔関係者の処分の提言内容〕 3 会計監査に対する問題点の指摘 会計監査人は、以下の対応を実施すべきであったとし、「会計監査が調査対象事項のような事象への抑止力につながらなかったこと自体は否定しない」として、問題点を指摘した。 4 調査報告書の特徴 現任の取締役4名のうち3名、監査役3名全員に対して、「辞任のうえ報酬の自主返納」を迫る非常に厳しい報告書が公表された事案である。 また、3月26日には、証券取引等監視委員会が、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、クロニクルに対し6,443万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行った。 法令違反の事実は、以下の「重要な事項につき虚偽の記載がある」有価証券報告書等を、関東財務局長に対し、提出したものである。 証券取引等監視委員会が虚偽記載と認めた事実は、調査委員会の報告とも一致しており、クロニクルも異議を申し立てていないことから、有価証券報告書等の虚偽記載は事実として認めているようである。 そうすると、第三者調査委員会が提言を行った「関係者の処分」についても、クロニクルの見解が出されるべきではないかと思料するのだが、本稿執筆時点においては、調査委員会の提言に対する反論はもちろん、辞任するかどうかも含めて、何らコメントは出されていない。 一方、訂正報告書をめぐっては、監査法人との間で協議がまとまらず(3月14日付リリース)、その後、会計監査人の異動が発表され(4月5日付リリース)、「早急に提出する予定で作業を進めて」いる(4月19日付リリース)ということであるが、こちらも本稿執筆時点においては、訂正報告書は出されていない。 (了)