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《編集部レポート》 日本税理士会連合会第17代会長に太田直樹氏が就任~価値観の多様性への対応に向け「都市圏と地方の連携・融合」を提唱~

《編集部レポート》 日本税理士会連合会第17代会長に太田直樹氏が就任 ~価値観の多様性への対応に向け「都市圏と地方の連携・融合」を提唱~   Profession Journal 編集部   日本税理士会連合会は2023年7月27日(木)、帝国ホテルにおいて第67回定期総会を開催し、第17代会長として太田直樹氏を選任した。 (第17代会長に就任した太田直樹氏) 総会後に行われた記者会見の席において、太田氏は会長就任に伴う挨拶を述べ、今後の重点施策や日税連のインボイス対応等に係る質問に答えた。 太田氏は、価値観の多様性へ対応できる税理士会の構築のため「都市圏と地方の連携・融合」を提唱し、これを支える3つの柱として、①国民・納税者との更なる信頼関係の構築、②民主的な会務運営及び都市圏と地方の連携・融合、③組織的、戦略的な施策を積極的に実施することを掲げるとともに、実現のための重点施策として、以下の8項目を明らかにしている。 *  *  * なお、既報のとおり、先般創設された「日本税理士会連合会・金子宏賞」及び第46回「日税研究賞」の贈呈式も行われた。 (令和5年度「日本税理士会連合会・金子宏賞」の贈呈式の様子) (了)

#No. 530(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2023/08/03

《速報解説》 監査役協会より「主要監査業務のポイントと事例研究(中間報告)」が公表される~監査の実効性と効率性の向上を目指し、実務上の課題に対応した工夫事例にも言及~

《速報解説》 監査役協会より「主要監査業務のポイントと事例研究 (中間報告)」が公表される ~監査の実効性と効率性の向上を目指し、実務上の課題に対応した工夫事例にも言及~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年7月20日付で(ホームページ掲載日は2023年8月1日)、日本監査役協会 本部監査役スタッフ研究会は、「主要監査業務のポイントと事例研究-監査の実効性と効率性の向上を目指して-(中間報告)」を公表した。 これは、監査役スタッフの誰もが関わる重要業務を対象にして、その趣旨・目的、業務上のポイント及び留意点、実務上の課題に対応した工夫事例について研究したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 次のテーマを取り扱っている。 以下では、主なものについて解説する。 1 役職員からの定例報告聴取 趣旨・目的として、監査役等は、取締役の職務の執行を監査するため、代表取締役と定期的に会合し、監査役等の監査に必要な情報収集を行うほか、経営上の懸念事項を伝達し対処を求め、相互に意見交換を行う必要があることなどを記載している。 業務上のポイント及び留意点として、事業部門役職員からの定例報告聴取の例が記載されており、例えば、善管注意義務・忠実義務、法令遵守、株主からの受託責任についての認識が記載されている。 実務上の課題に対応した工夫事例として、例えば、事前に質問事項を知らせずに、当日その場で回答させることで、対象者の生の声を聞きだすようにしていることが記載されている。 2 重要書類等の閲覧 重要書類等の閲覧は、会社法381 条2項の業務財産調査権に基づく、監査役の基本的かつ重要な監査の方法の1つであるとし、重要な決裁書類等について取締役会等へ付議すべき事項が稟議・決裁だけで済まされていないかを確認することなどが記載されている。 実務上の課題に対応した工夫事例として、例えば、稟議・決裁手続がシステム化されており、承認後に常勤監査役及び監査役スタッフに通知メールが届くようになっている報告体制について記載されている。 3 社外取締役との連携 監査役と社外取締役との連携の目的について、業務執行に対する監督機能を担う社外取締役との間で、監査上の重要課題等に関する認識共有を図り、監査役監査活動に活かすことをあげている。 一方、監査役にとっては社外取締役も監査役監査の対象であり、監査役は社外取締役の監督義務の履行状況の監査を行う必要があり、その点からも意見交換の実施は重要であるとしている。 実務上の課題に対応した工夫事例として、例えば、社外取締役、社外監査役は常勤監査役と比較して業務執行状況の情報取得機会が少ないため、常勤監査役と監査役スタッフが中心となって情報共有を進めていることが記載されている。 4 内部監査部門との連携 内部監査部門のレポートラインを、業務執行ラインだけではなく、監査役も報告先とすること(デュアルレポートライン)も推奨されるとしている。 特に、経営陣の関与が疑われる問題が生じた場合には、監査役への報告を優先するように社内規程に定めておくことが望ましいとしている。 実務上の課題に対応した工夫事例として、例えば、内部監査部門から監査役に往査の報告をする際には、部門長だけではなく往査担当者からも現地で見聞きしたこと、雰囲気等を報告してもらい、報告書に記載されない情報を得るようにしていることが記載されている。 5 会計監査人の監査報酬等の同意 実務上の課題に対応した工夫事例として、例えば、次のことが記載されている。 (了)

#阿部 光成
2023/08/02

《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向」の2023年版を公表~スタンダード及びグロース市場の会社において会計不正の発覚が増加傾向~

《速報解説》 会計士協会、「上場会社等における会計不正の動向」の2023年版を公表 ~スタンダード及びグロース市場の会社において会計不正の発覚が増加傾向~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2023年7月28日付けで経営研究調査会研究資料第10号「上場会社等における会計不正の動向(2023年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている、この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2019年3月期から2023年3月期までの5年間で171社となっている。当該5年間では、2020年3月期の46社が最大であり、2023年3月期における会計不正の公表社数は34社で、前年同期の33社を上回った。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2023年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が79.4%となっている。2023年3月期においては、件数ベースでは75.0%が「粉飾決算」で、前年同期の80.4%から減少しており、年度によってばらつきが見られるものの、75.0%から83.5%の範囲内に分布している。 粉飾決算の公表割合が80%程度で推移していることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場会社等が適時開示基準にのっとって公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、ほぼ同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合については5年間平均で37.6%、2023年3月期は38.1%であり、前年同期の48.9%を大きく下回っている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2023年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が31社でトップ、以下、卸売業22社と上位2業種の順位に変動はなかったものの、3番目に情報・通信業17社と続き、前年までは3番目であった電気機器は14社で、建設業の16社に続き5番目となった。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2023年3月期においては、東証プライム市場10社(前年同期15社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証スタンダード市場16社(11社)、東証グロース市場7社(4社)、その他1社(3社)となり、前年度と比較すると、スタンダード市場及びグロース市場に分類される会社において、会計不正の発覚が増加傾向にある。 また、東証において市場区分の見直しが行われた後の上場会社数の割合と会計不正発覚会社の割合を図示すると、次のとおりである。 昨年までは、東証第1部及び東証第2部(本則市場)と新興市場との間で、上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しているという分析が記されていたが、この記述は、2023年版では削除されている。 (5) 会計不正の発覚経路 2023年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、内部統制等が38社、当局の調査等が32社、取引先からの照会等が24社、内部通報が22社、公認会計士監査が18社となっていて、前年との比較では、取引先からの照会等が17社から24社に増加している。また、内部通報により発覚するケースは、2022年3月期までの4年間平均が13.7%であったのに対して、2023年3月期は26.1%と増加しており、研究資料は、「内部通報制度は、職制ルートによらない不正の早期発見、未然防止の有効な手段とされており、今後も一層の利用促進が望ましい」としている。 (6) 会計不正の関与者 2023年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が89社、単独が31社)、非管理職については、共謀17社、単独28社と、単独での会計不正が共謀を上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2023年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社(本社)、国内子会社及び海外子会社の別に分類して集計した結果、上場会社本体が85社、国内子会社が61社、海外子会社が31社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2021年3月期及び2022年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数(8社及び15社)を国内子会社(14社及び17社)が上回った状態が続いていたが、2023年3月期は上場会社本体が18社、国内子会社が10社と逆転している。一方、海外子会社における会計不正の件数は、2021年3月期以来、少ない状態が続いている。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が46.9%、北米・南米が21.9%、中国を除くアジアが18.8%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2023年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、21社、71社、72社となった。2022年3月期及び2023年3月期は、「外部専門家のみ」の調査委員会設置数が61社中32社と過半数を超えている。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(47.5%)、「資産の流用」では「社内のみ」または「社内+外部専門家」で調査に当たる会社が多くなっている(それぞれ39.1%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2023年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は71社であった。訂正を行った会社のうち65社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 内部統制報告書の訂正割合の変化に注目すると、2019年3月期の48.5%をピークに、2021年3月期は28.0%まで減少していたものの、2022年3月期には42.4%に増加していた。2023年3月期は38.2%となり、前年よりは4.2%減少している。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#米澤 勝
2023/07/31

プロフェッションジャーナル No.529が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年7月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.529を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/07/27

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第28回】「課税要件としての「帰属」の意義」-冒用登記事件・最判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第28回】 「課税要件としての「帰属」の意義」 -冒用登記事件・最判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 本連載は、基本的には、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)で参照している(あるいは参照する予定の)判例の中から、同書における叙述の順に従って「税法基本判例」を取り上げ検討するものであるが(第1回Ⅰ参照)、前回までで同書第1編(税法の基礎理論)の参照判例の検討を一先ず終えて、今回からは同書第2編(税法通則)の参照判例の中から「税法基本判例」を取り上げ検討していくことにする。 今回は、前掲拙著第2編第1章(租税実体法)においていわゆる課税要件総論として検討した課税要件としての「帰属」の意義(前掲拙著【92】参照)に関して、冒用登記事件・最判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁(以下「本判決」という)を検討することにする。   Ⅱ 課税要件としての「帰属」の意義 1 自己責任の原則との関係 「帰属」という言葉は、税法では、所得概念に関して「帰属所得」(前掲拙著【185】以下参照)、期間税の課税時期に関して「課税物件の年度帰属」(所得税・法人税については同【334】以下、【403】以下参照)といった概念の中でも用いられることがあるが、課税要件としての「帰属」は、「課税要件としての納税義務者と課税物件の結びつき」(同【92】)を意味する概念である。これを単に「課税物件の帰属」というと、「年度帰属」と混同されるおそれがあること(その「混同」には理由があり、むしろ両者を関連づけて理解すべきことについては前掲拙著【232】【336】参照)から、「人的帰属」ということもある。 ところで、税法はなぜ課税要件(その種類については前掲拙著【89】参照)の1つとして帰属(人的帰属)を要求するのであろうか。税法は帰属という課税要件についてはそれ自体に関する独立した明文の規定を定めておらず、それを法文中で「の」(格助詞/連体修飾格)・「有する」・「取得した」等の所有関係を示す語によっていわば「ひっそりと」定めているにすぎないが、このような規定態様ないし規定振りに鑑みると、帰属を納税義務者及び課税物件と並ぶ独立の課税要件とすることに、どのような意味があるのであろうか。 この点について、「いわゆる帰属の関係を主体的要件[=納税義務者]および客体的要件[=課税物件]のほかに存する第三の要件であるとするヘンゼルの説は誤りである」(須貝脩一『税法総論Ⅰ』(有信堂高文社・1978年)142頁)と説く論者もいるが、しかし、その論者も「所得税法の場合についても、課税物件は、実は、所得の所有、所得の帰属ということである」(同)との理解を前提にしてそのように説いていることからすると、実質的には、帰属が課税要件であることを否定するものではないと考えられる。 ともかく、税法において納税義務の成立を観念するには、納税義務の主体と客体との間に、当該客体に対する納税義務を当該主体に対して成立させることを根拠づける一定の「結びつき」が存在しなければならないことが「暗黙の前提」となっているように思われる。それは、現代の税法も近代法の基盤の上に構築された法であることを「暗黙の前提」としているからであるように思われる。 「近代法の構造というものは、すべて個人の意思を中心に構成されている」(伊藤正己『近代法の常識〔第3版〕』(有信堂・1992年)163頁)といわれるが、「すべての人は・・・・・・自己の自由な意思にもとづいて行動したことについては、その責任をとらなければならない」(石井金一郎『近代法入門』(法律文化社・1963年)18-19頁)という考え方が、現代の税法においても「暗黙の前提」となっているように思われるのである。 そのような考え方は「近代法の意思主義」(石井・前掲書19頁)から導き出されるものであり「自己責任の原則」と呼ぶことができようが、それは、自己の行為に関しては過失責任主義と重なるが、より広く、他人の行為その他の原因によって生じた結果については責任を負わないという原則を含むものである(波多野敏「近代法史からみた『自己責任』」法学セミナー561号(2001年)40頁のほか、拙著『税法創造論』(清文社・2022年)145頁[初出・2021年]参照)。なお、ここでいう「責任」には、今日では、自己の行為に基因・関連して法律によって課される責任も含まれ、これには納税義務も含まれると考えることができよう。 税法の定める課税要件は「私法上の債務関係の成立に必要な意思の要素に代わるもの」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)156頁)であるが、税法は租税法律主義の下で、納税義務を意思主義に基づく約定債務ではなく課税要件に基づく法定債務として構成する(前掲拙著『税法基本講義』【88】参照)一方で、自己責任の原則についてはこれを排除せず「暗黙の前提」として、帰属(人的帰属)を課税要件として要求したものと考えられる。 要するに、課税要件としての帰属は、近代法上の自己責任の原則の、税法における現れであり、その意味で「課税要件の根幹」ともいうべきものである(本判決は、後でみるとおり、「課税要件の根幹についての重大な過誤」を問題にしたものである)。 2 財産権保障との関係 帰属が「課税要件の根幹」であることは、憲法の財産権保障(29条)の観点からも、いえることである(前掲拙著『税法基本講義』【92】参照)。このことは、大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁における谷口正孝裁判官の補足意見の次のような考え方の中で、示唆されているように思われる。 この考え方は、いわゆる「所得なきところに所得課税なし」の原則を憲法の財産権保障から導き出すものと解されるが(前掲拙著『税法基本講義』【25】参照)、この原則は所得概念に関してだけでなく所得の帰属(人的帰属)に関しても重要な意味をもつものと考えられる(前掲拙著『税法創造論』450-451頁[初出・2007年]参照)。つまり、所得が担税力の増加をもたらす経済的利得を意味する以上、これが帰属しない者に対して所得税を課税することは、不当・不合理な財産権侵害に該当することになろう。 このことは、所得という課税物件についてだけでなく課税物件一般についていえることである。すなわち、課税物件は一般に「担税力の存在を推認させる対象物、行為または事実」(前掲拙著『税法基本講義』【91】)であるから、これが帰属しない者に課税すれば、その者の財産権に対する不当・不合理な侵害をもたらすことになるといえるのである。   Ⅲ 冒用登記事件=人違い課税事件 さて、今回取り上げる「冒用登記事件」については、筆者は別の機会に、「人違い課税事件」と称して「事実は小説より奇なり」との副題の下でその事案を簡略化し、次のように述べたことがある(共著『基礎から学べる租税法〔第3版〕』(弘文堂・2022年)87頁)。 本判決は、下記のとおり判示し(下線・傍点筆者)、課税処分の無効に関する規範を定立し(ⓐ)、本件課税処分について当該規範を適用して(ⓑ)、「原審認定の事実関係のみを前提とするかぎり」においては本件課税処分の無効(当然無効)を認め、もって原判決(東京高判昭和42年4月17日民集27巻3号653頁)を破棄した上で、原審に差し戻した。なお、差戻原審・東京高判昭和49年10月23日行集25巻10号1262頁は原判決を取り消し本件課税処分の無効を確認した。 本判決は、このように、課税処分の無効の判断について、「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等」(前記ⓐの第1下線部)を一般的考慮事由として、「課税要件の根幹についての重大な過誤をおかした瑕疵」(前記ⓑの第1下線部)を(取り消し得べき瑕疵と区別される)無効の瑕疵と認め、課税処分の無効を根拠づける「例外的な事情」(前記ⓐの第2下線部)とこれを阻却する「特段の事情」(前記ⓑの第2下線部)とで構成する判断枠組み(前掲拙稿『税法基本講義』【146】参照)を示した。 ここで上記の一般的考慮事由にいう「等」については、「租税実体法上理由のない利得の保有を国および地方団体に認めることは正義・公平の観点から見て適切でないこと」(金子・前掲書921頁)ないし「その[課税処分の]公定力を否認しないと、租税債権という金銭債権の不存在による不当利得の享受を国に認容することになり、正義・公平の原則に反すること(『未必所得』課税額不当利得返還請求事件・最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁も参照)」(前掲拙稿『税法基本講義』【146】)が、これに当たると考えられる。 本判決に関する調査官解説(可部恒雄「判解」最判解民事編(昭和48年度)532頁)は行政処分の無効の瑕疵について判例の立場を次のとおり述べ(544-545頁。下線筆者)、その上で、本判決の結論(破棄差戻)について「その理由は、当該課税処分を無効とすべき『例外的事情のある場合』にあたるか否か、さらに本判決指摘の〝特段の事情〟の有無につき審究すべきものと見たが故である。」(545頁)と述べている。 この調査官解説によれば、「本判決によって、形式的、カテゴリー的『重大明白』理論は退けられたみることができる」(塩野宏「判批」別冊ジュリスト120号(1992年)・租税判例百選〔第3版〕156頁、157頁)が、とはいえ、「この事件は、やや特別な事情の下にあるものなので、最高裁判所が一般的に明白性の要件の必要性を否定したということはできない」(同『行政法Ⅰ〔第6版〕行政法総論』(有斐閣・2015年)182頁)とみるべきであろう。 このようにみてくると、「瑕疵の明白性につき真にリーディング・ケースの名に値するもの」(可部・前掲「判解」541頁)とされる最判昭和36年3月7日民集15巻3号381頁は、「いわば悪意の者による無効主張を排除しようとする文脈で、瑕疵の明白性に言及している・・・・・・、『不可争的効果による不利益を甘受させること』が著しく酷であるとはいえない場面についての判示」(中川・丈久「判批」別冊ジュリスト178号(2005年)・租税判例百選〔第4版〕200頁、201頁)であると解されることから、この判決と本判決とを「統合的に捉える見方」(同頁)により、「本件昭和48年最判こそが、無効の判断基準の全体像を示したものであり、昭和36年最判はその1つの現れ方であると位置付ける」(同頁。下線筆者)のが妥当であろう。このような理解によれば、本判決の立場はいわゆる「重大説」ではなく「明白性補充要件説」(塩野・前掲書181頁)というのがより正確であろう。 本判決を以上のように理解すると、熊本ネズミ講[法人税]事件・最判平成16年7月13日訟月51巻8号2116頁が次のとおり判示して(下線筆者)、本判決の立場に従ったものと解される原審判断を否定したのも、本判決にいう「特段の事情」(前記ⓑの第2下線部)の存在を認定したからであると解される。   Ⅳ おわりに 以上、今回は、課税要件としての「帰属」について、その意義を明らかにした後、これに関して本判決の判断枠組み及び位置づけを検討した。 帰属(人的帰属)は、課税要件の1つとされながら実定税法上はいわば「ひっそりと」定められているにすぎないが、「課税要件の根幹」として重要な意義を有するものと考えられ、判例上、帰属に関する判断の過誤は「課税要件の根幹についての重大な過誤」として課税処分を無効ならしめる瑕疵(無効の瑕疵)であるとされている。 ただ、本判決が課税処分の無効を根拠づける「例外的な事情」がある場合を認めつつも、同時に、これを阻却する「特段の事情」を認めたのは、課税要件としての帰属を、近代法上の自己責任の原則の、税法における現れとして(前掲拙著『税法創造論』146頁参照)、無効の瑕疵の明白性をめぐる「相対立する要請の調和、利益衡量」(可部・前掲「判解」544-545頁)の中で、考慮した結果であるとも解される。このことも、本連載において重視する「税法の基礎理論」的思考(第1回Ⅰ参照)の成果であると考えるところである。 (了)

#No. 529(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/07/27

〈事例で学ぶ〉法人税申告書の書き方 【第45回】「別表6(26) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(26)付表一 給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」

〈事例で学ぶ〉 法人税申告書の書き方 【第45回】 「別表6(26) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」及び「別表6(26)付表一 給与等支給額及び比較教育訓練費の額の計算に関する明細書」   税理士 柴田 知央   Ⅰ はじめに 今回は、実務でも適用する企業が多いと思われる、いわゆる「賃上げ促進税制」のうち中小企業向けの記載の仕方を取り上げる。 令和5年度税制改正では、当該制度内容の改正は行われていないが、別表番号がそれぞれ「6(31)、6(31)付表一」から「6(26)、6(26)付表一」に変更され、「連結事業年度」の文言が削除されている。   Ⅱ 制度の概要 本制度は、青色申告書を提出する法人が、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して支給する給与等を増額した場合、一定の要件を満たすときは、その増加額の一部を法人税額から控除することができる制度である(措法42の12の5)。 租税特別措置法第42条の12の5では、大企業向けの措置である第1項と中小企業向けの措置である第2項が規定されている。 (1) 適用対象者 中小企業向けの措置の適用対象者は、青色申告書を提出する中小企業者又は農業協同組合等である(措法42の4④、⑲七・八・九、措令27の4㉕)。 中小企業者とは、下記に掲げる法人をいう。 また、中小企業者に該当することとなっても、前3事業年度の所得金額の平均額が15億円超である適用除外事業者に該当する場合には、中小企業向けの措置は適用できない。 (2) 適用要件 適用要件は、下記の①及び②の要件である。 「雇用者給与等支給額」は、適用年度の損金の額に算入される国内雇用者に対する所得税法第28条第1項に規定する給与等の支給額から給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額(雇用安定助成金額を除く)を控除した金額をいい、「比較雇用者給与等支給額」は、前事業年度における雇用者給与等支給額をいう。 (3) 税額控除限度額 税額控除限度額は、下記により計算した金額が法人税額から控除される。ただし、控除額の上限は法人税額の20%相当額となる。 「控除対象雇用者給与等支給増加額」は、雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を差し引いた金額である。ただし、調整雇用者給与等支給増加額が上限となる。 また、控除率は、雇用者給与等支給額の増加割合及び教育訓練費の額の増加割合により、控除率が上乗せされる。 なお、本制度の詳細は、中小企業庁ウェブサイトの「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック」を参照いただきたい。   Ⅲ 「別表6(26)」及び「別表6(26)付表一」の書き方と留意点 (1) 設例 (2) 今回の別表が適用される事業年度 令和5年4月1日以後終了する事業年度。 (3) 別表の記載例 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (4) 別表の各記載欄の説明 〇適用可否の判定 まず、別表6(26)〔1欄〕から〔3欄〕までに本制度が適用できる法人か否かの判定を行う。 〇適用事業年度の雇用者給与等支給額等の計算 続いて、別表6(26)付表一の〔1欄〕から〔5欄〕で適用事業年度の雇用者給与等支給額等を計算する。 〇比較雇用者給与等支給額等の計算 別表6(26)付表一の〔6欄〕から〔12欄〕で比較雇用者給与等支給額等を計算する。 〇比較教育訓練費の額の計算 別表6(26)付表一の〔20欄〕から〔24欄〕で比較教育訓練費の額を計算する。 ちなみに、〔13欄〕から〔19欄〕までは、租税特別措置法第42の12の5第1項を適用する場合に記入。 〇雇用者給与等支給増加割合の計算 別表6(26)に戻り、〔4欄〕から〔7欄〕で雇用者給与等支給増加割合を計算する。 〇調整雇用者給与等支給増加額の計算 別表6(26)〔8欄〕から〔10欄〕で調整雇用者給与等支給増加額を計算する。 〇教育訓練費増加割合の計算 別表6(26)〔15欄〕から〔18欄〕で上乗せ措置の適用を受けるための教育訓練費の増加割合を計算する。 〇税額控除限度額の基礎となる差引控除対象雇用者給与等支給増加額を計算 別表6(26)〔19欄〕から〔21欄〕で、税額控除限度額の基礎となる差引控除対象雇用者給与等支給増加額を計算する。 〇中小企業者等税額控除限度額の計算 租税特別措置法第42条の12の5第2項の適用を受ける場合には、別表6(26)〔25欄〕から〔27欄〕で税額控除限度額を計算する。 〔25欄〕と〔26欄〕は、それぞれ上乗せ措置の適用がある場合に記入。 〇法人税額の特別控除額の計算 別表6(26)〔28欄〕から〔32欄〕で、特別控除額を計算する。 〇適用額明細書の記載 本措置を適用した場合の適用額明細書への記載は次のとおりである。   (了)

#No. 529(掲載号)
#柴田 知央
2023/07/27

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第27回】「〔第1表の1〕自己株式を取得及び処分した場合の株主判定と所得税基本通達59-6の適用の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第27回】 「〔第1表の1〕自己株式を取得及び処分した場合の 株主判定と所得税基本通達59-6の適用の留意点」   税理士 柴田 健次   Q A社の取締役である乙は退職に伴い、A社の株式10株を配当還元価額(1株25,000円)で発行法人であるA社に売却し、同日、自己株式の処分として、配当還元価額(1株25,000円)で丙が取得をしました。 乙は甲の同族関係者ではありませんが、丙は甲の長男で甲の同族関係者に該当します。 発行済株式総数は200株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。 乙はA社の株式を配当還元価額(1株25,000円)で取得しており、同額で売却していますので、課税関係は生じないと考えていいでしょうか。なお、1株当たりの資本金等の額は50,000円となります。 また、自己株式の処分は、資本等取引に該当するため、丙についても課税関係は生じないと考えていいでしょうか。 A社株式は最近において売買されたことはなく、A社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額はないものとします。 A社株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は次の通りです。 なお、A社の会社の規模区分は大会社に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。 A ■ 乙の課税関係 乙がA社株式を売却する場合の1株当たりの価額25,000円は、税務上の適正時価となり、低額譲渡に該当せず、みなし配当金額も生じませんので、譲渡所得金額は0円(250,000円 - 250,000円)となり課税関係は生じません。 ■ 丙の課税関係 丙がA社株式を取得する場合の1株当たりの税務上の適正時価は、4,200,000円(1,400,000円 × 50% + 7,000,000円 × 50%)となり、丙が取得した株式の税務上の適正時価は42,000,000円(@4,200,000円 × 10株)となります。丙は取得対価250,000円(@25,000円 × 10株)で42,000,000円相当の株式を取得していますので、その差額41,750,000円(42,000,000円 - 250,000円)に対して経済的利益を享受していることになります。この経済的利益は、役員としての地位に基づき享受していることから、役員に対する給与等として所得税の課税対象となります。  ◆  ◆  ◆ ① 発行法人に株式を売却した場合の税務上の取扱い 発行法人に株式を時価よりも著しく低い価額で売却した場合には、みなし譲渡(所法59①二)の問題や譲渡した者から既存株主への贈与税の課税問題(相基通9-2)が生じることになりますので、税務上の適正価額で売却する必要があります。 自己株式等の時価は、所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定するものとされており、低額譲渡の判定は、株主等に交付された金銭等の額が著しく低い価額の対価であるかどうかにより判定することになります(措通37の10・37の11共-22)。具体的には、株主等に交付された金銭等の額が譲渡の時の自己株式等の時価の2分の1に満たない場合には、低額譲渡に該当することになります(所令169)。 発行法人に株式を売却した場合の株主判定については、【第26回】で解説をしていますが、譲渡前の株主状況に基づき判定することになります。譲渡直前における筆頭株主グループの議決権割合は95%(190株/200株)となり、50%超の区分に該当することになります。譲渡直前における乙の属する同族関係者グループの議決権割合は、5%(10株/200株)となりますので、乙は特例的評価方式が適用される株主に該当することになります。 したがって、税務上の適正な時価で売却されたことになりますので、みなし譲渡の課税関係は生じないことになります。なお、乙は交付金銭等の額(250,000円)からその株式に対応する資本金等の額(500,000円)を控除した部分についてはみなし配当の金額とされます(所法25①)が、その金額がマイナスとなりますので、みなし配当金額は生じないことになります。 また、交付金銭等の額からみなし配当の金額を控除した部分(250,000円)については、株式等に係る譲渡所得等に係る収入金額とみなされます(措法37の10③)が、株式の取得価額(250,000円)と同額であるため、譲渡所得の課税関係も生じないことになります。   ② 発行法人から株式を取得した場合の税務上の取扱い A社にとって自己株式の処分は、実質的には増資と同様であり、資本等取引に該当するため、発行法人に課税関係は生じないことになります(法法22②)。 一方の丙にとっては株式の取得として低額で取得していれば、時価と対価との差額部分について経済的利益を享受したものとして課税がされることになります(所法36①②)。その経済的利益が役員としての地位に基づき享受されていれば、給与所得課税(所法28①)の範囲となります。 なお、新株の引受権が株主の親族に与えられ、株式の価額より自己株式の処分価額が低い場合には、下記のとおりみなし贈与の適用範囲になります(相基通9-4)が、本問の場合には、役員としての地位に基づき利益を享受していますので、役員に対する給与等として所得税の課税対象となります。 相続税基本通達9-4(同族会社の募集株式引受権)   ③ 発行法人から株式を取得した場合の「その時における価額」の算定について 所得税基本通達36-36は、使用者が役員又は使用人に対して支給する有価証券については、その支給時の価額により評価するとし、この場合における支給時の価額は、所得税基本通達23~35共-9及び財産評価基本通達の8章2節(公社債)の取扱いに準じて評価する旨を規定しています。 財産評価基本通達8章2節は公社債の取扱いであり、取引相場のない株式は、8章1節(株式及び出資)の範囲となりますので、所得税基本通達36-36の定めによれば、非上場株式の「その時における価額」について財産評価基本通達の準用の定めはないことになります。 したがって、所得税基本通達23~35共-9に基づき非上場株式(公開途上にある株式を除く)の「その時における価額」は、次の手順で算定することになります。 本問の場合には、売買実例もなく、事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額もないため、「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により求めることになります。 「1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」の具体的な算定方法については、所得税基本通達59-6に定めがありますので、同通達を参考として財産評価基本通達を準用することになります。 もっとも、所得税基本通達59-6の定めは、みなし譲渡の課税局面で適用されるものとなり、自己株式の処分が行われた場合の「その時における価額」については適用されないとする意見もあります。この点について、令和4年2月14日の東京地裁判決(TAINSコード:Z888-2419)では、自己株式の処分がされた時の「その時における価額」が問題となりましたが、裁判所は「基本通達36-36は、基本通達23~35共-9及び評価通達の第8章第2節の取扱いに準じて評価する旨を規定するのみで、明文をもって、一定の条件を付した上で、評価通達178から189-7までに定める例によって算定する旨を規定していない。しかしながら、この基本通達は、法規命令ではなく、文理解釈の原則がそのまま妥当するものではないし、取引相場のない株式の価額につき、その準用する基本通達23~35共-9の(4)ニ所定の『その株式の発行会社の1株又は1口当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額』の解釈又は当てはめをするに当たって、問題状況が類似する基本通達59-6等の規定を参照することに問題があるとは解されない」と判示していることから所得税基本通達59-6の準用は、所得税の課税局面においては参照すべきことになります。 しかしながら、同通達は、個人から法人に売却する場合における譲渡所得課税の適用場面として売主としての株式価額の適正時価を反映させるために、譲渡前の議決権数に基づき株主判定を行うことになりますが、自己株式の処分については、株式を取得した者の株式価額の適正時価を考える必要がありますので、取得後の議決権数に基づき判定することになります。 したがって、本問の場合のように同族株主がいる場合の株主判定は、相続や贈与の株主の判定と同様に取得後の議決権数に基づき、下記の通り行うことになります。 【同族株主がいる場合の株主判定の手順】 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。本問の場合には、取得後で株主判定を行うことになりますので、丙及び甲が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。本問の場合には、丙の同族関係者には甲が含まれます。 ▷中心的な同族株主 課税時期において同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である会社を含む)の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の25%以上である場合におけるその株主をいいます(評価通達188(2))。 本問の場合には、取得後で中心的な同族株主の判定を行うことになりますが、甲及び丙の判定は次の通りとなります。 甲:95% + 5% = 100% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する 丙:5% + 95% = 100% ≧ 25% ∴中心的な同族株主に該当する ◆本問の場合における株主判定と「その時における価額」 筆頭株主グループの議決権割合は100%となり、50%超の区分に該当することになります。 丙は、取得後の議決権割合は、5%以上所有していますので、原則的評価方式が適用される株主に該当し、かつ、中心的な同族株主に該当することになります。 丙は株式取得後において中心的な同族株主に該当することになりますので、所得税基本通達59-6(2)の適用により小会社に該当するものとして計算することになります。したがって、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、「類似業種比準価額 × 50% + 純資産価額 × 50%」で計算することになります。 この場合の類似業種比準価額を求める際の斟酌割合は小会社としての斟酌割合(0.5)ではなく、A社の会社規模区分(大会社)としての斟酌割合(0.7)となりますので、採用する類似業種比準価額は1,400,000円となります(令和2年9月30日国税庁資産課税課情報第22号)。 また、純資産価額は、所得税基本通達59-6(3)及び(4)の定めにより、土地及び上場有価証券は相続税評価ではなく時価により算定し、法人税額等相当額の控除もしない価額(7,000,000円)となります。 したがって、1株当たりの価額は4,200,000円(1,400,000円 × 50% + 7,000,000円 × 50%)となります。   ☆実務上のポイント☆ 発行法人に株式を譲渡した者については、譲渡直前の株主状況に基づき株主判定を行いますが、自己株式を処分した場合における株式取得者については、取得後の株主状況に基づき株主判定を行います。 (了)

#No. 529(掲載号)
#柴田 健次
2023/07/27

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例124(所得税)】 「代替資産の取得価額が見積額を超えたため、4ヶ月以内に更正の請求をしなければならないところこれを失念したため、見積超過額部分につき「収用等の圧縮記帳の特例」の適用ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例124(所得税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法33①) (1) 概要 個人の有する一定の資産を収用等により譲渡し、収用等のあった日の属する年の12月31日までにその補償金等で代替資産(原則として収用された資産と同種、同区分の資産をいう)を取得したときは、その選択により、その補償金等の額が代替資産の取得価額以下であるときは、資産の譲渡はなかったものとし、その補償金等の額が代替資産の取得価額を超えるときは、その超える部分に相当する部分の譲渡があったものとして譲渡所得の金額の計算をすることができる。 (2) 代替資産の取得期間(措法33③) 収用等の圧縮記帳の特例は、収用等のあった日の属する年の翌年1月1日から収用等のあった日以後2年を経過した日までの期間内に代替資産の取得をする見込みであるときについて準用する。 (3) 申告要件(措法33⑥⑦) 収用等の圧縮記帳の特例の適用を受けようとする場合には、収用等のあった年の確定申告書の「特例適用条文」欄に「措法33」と記載するとともに、一定の書類を添付して申告しなければならない。 なお、代替資産の取得予定日が収用等のあった年の翌年以後の場合には、「買換(代替)資産の明細書」に買換(取得)予定の資産の明細(取得価額の見積額、取得予定年月日等)を記載して提出しなければならない。 (4) 収用等に伴い代替資産を取得した場合の更正の請求(措法33の5④) 収用等のあった年の翌年以後に代替資産を取得する見込みで、「収用等の圧縮記帳の特例」の適用を受けた後、収用等に伴う補償金等で取得した代替資産の取得価額が、取得価額の見積額を超えるときは、当該代替資産の取得をした日から4ヶ月以内に、納税地の所轄税務署長に対し、その収用等のあった日の属する年分の所得税についての更正の請求をすることができる。       (了)

#No. 529(掲載号)
#齋藤 和助
2023/07/27

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第21回】「今治造船移転価格事件(地判平16.4.14、高判平18.10.13、最判平19.4.10)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項、2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第21回】 「今治造船移転価格事件 (地判平16.4.14、高判平18.10.13、最判平19.4.10)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、2項~   税理士 水野 正夫   3 検討 (1) 本件各取引にCUP法を用いることの適否 本判決は、本件国外関連取引が個別性の強いものであったとしても、国際的な船舶請負建造取引には取引相場が存在しており、一定の価格水準なるものを観念することができることから、本件国外関連取引に係る船価を他の取引と比較することによって独立企業間価格を算定することが一般的に不合理であるということはできないとした。 控訴人は、CUP法を否定する根拠として、船舶請負建造取引が個別性の強い取引であることを主張しているが、そのことのみによって直ちにCUP法の適用を否定すべきことにならないのは本判決の判示するところであろう。また、本判決のいうとおり、①国際的な船舶の価格については、取引相場が存在しており、それを参考として価格交渉が行われていること、及び、②本件比較対象取引が「内部」取引価格比準法を採用しており、現実に控訴人が同種の船舶を販売する比較対象取引が選定できること、を鑑みるとCUP法を否定できるまでの主張の根拠が弱かったように思われる。 CUP法が適用できるかどうかについては、その比較可能性の要件である「同種の棚卸資産」及び「同様の状況の下で」の要件に該当するかどうかが論点となる。 本判決は、「同種の棚卸資産」及び「同様の状況の下で」の意義について「同種の棚卸資産」と認められるためには、「資産の性状・構造・機能等の面で、物理的・化学的な相当程度の類似性が必要となり、」また、「同様の状況の下で」された取引と認められるためには、「取引の段階、数量、時期、引渡条件、支払条件、取引市場等について類似性が必要」となるものと解されるとしている。 控訴人は、非関連者船と国外関連者船とでは、各建造原価、販売費及び一般管理費を含む総原価が相違していることが明らかであり「同種の棚卸資産」とはいえない取引を比較対象取引としており、違法であると主張したところ、本判決は「同種の棚卸資産」か否かの判断において、総原価の多寡など各取引相手方ごとに変動する要素を考慮することは予定されていないとして、控訴人の主張を排斥している。 また、この論点は「同種の棚卸資産」に該当するかどうかについて議論されているが、控訴人の主張する総原価が明らかに相違している事象は、「同種の棚卸資産」に該当するかどうかではなく、非関連者船と関連者船において「同様の状況の下で」行われておらず、差異を調整しなければ、比較可能性が担保できないということが論点だったのではないかと思われる。 また、本件では論点になっていないが、非関連者に対しては販売機能のコストがかかっているが、関連者に対しては、販売活動のコストがなく、差異が存在し調整すべきという主張もあり得たのではなかろうか。仮に検証対象取引と比較対象取引との間には販売機能に明らかに差異が認められる事実があれば、実務的には差異調整が行われていることが多いところ(※3)、厳密な比較可能性を求められるCUP法においては差異調整が認められた可能性もあったのではないかと思われる。 (※3) 販売活動に係る差異の調整を実施している事案として、日本圧着端子事件(大阪高判平成22年1月27日(判例集未搭載)、TAINSコード:Z260-11370)がある。 (2) 差異の調整の要否 本判決は、「調整対象となる差異」には、「対価の額の差」を生じさせ得る全てが含まれると解すべきではなく、「対価の額に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるものに限られるものというべき」(下線筆者)であると述べ、調整が必要となる事情を限定的に捉えているように思われる。 しかしながら、価格というのは様々な事情を勘案して第三者間で決定されるものであり、事情ごとに対価の額が分解され、客観的な値段が付されているものではない。このような実務に鑑みると、「対価の額に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるものに限られるものというべき」とする要件はいささか厳格過ぎ、非関連者取引と関連者取引との差異があるにもかかわらず、全く調整が行われないまま課税処分が行われるような事態も懸念される(※4)。 (※4) 太田=北村前掲(※1)書90頁は、「本判決の上記判示からは必ずしも明らかではないが、仮に、上記判示が、上記の場合に、納税者に対して、納税者が主張する事情(差異)が比較対象取引の『対価の額に影響を及ぼす』ものであることに加えて、『具体的な対価の影響額』についてまで主張立証する責任を負わせる趣旨であるとすれば、行き過ぎであろう」と述べる。 特に本件で採用されているCUP法においては、厳格な比較可能性が要求されるため、可能な限り非関連者取引と関連者取引の差異の調整を施すことによって、比較可能性の精度を高める努力が必要とされるのではなかろうか。 筆者は、納税者の売り手としての機能に差異が明確にあり、定量的に把握できるものについては、その合理性を判定した上で、客観的に価格へ影響を及ぼしていることが明らかでなくとも、調整する努力をすべきと考える。 本件にあてはめると、控訴人が主張する債権回収の確実性を確保するための信用調査や担保の設定等の監視費などについては、明らかに本件国外関連取引と比較対象取引とで差異が生じており、定量的に把握することも可能であると思われることから、比較可能性を高めるために調整を施すことも合理的な差異の調整として認められてしかるべきと思われる。 一方、取引数量に起因する差異については、本判決が判示するとおり、建造請負契約はいずれも1隻ごとの建造契約であり、取引数量に差異があるとはいえず、また、非関連者に対してボリュームディスカウントを行った事実がない限りにおいては、定量的に把握することもできないと思われる。 (3) 独立企業間価格の「幅」について 控訴人は、幅の主張にあたり、控訴人が過去23年間において非関連者に売却した船舶の船主別の契約金額と市況指標との間での回帰分析を行い、その相関が確認された場合には残差を観察することで、幅を主張した。本判決は、この分析は、CUP法の「同種の棚卸資産」「同様の状況の下」という要件を無視しており、解釈論として失当であるとし、独立企業間価格にばらつきが存在することを統計学的に示すためには、「①同種同様という要件を満たす、②最も比較可能性の高い、③同等の比較可能性を有する比較対象取引の分布状況(ばらつき)を明らかにする必要がある」とし、上記分析は差異の調整を行わず、同種同様の要件を満たさず、独立企業間価格の分布状況を示すものとはいえない、としている。 控訴人は、独立企業間価格の幅として議論するのであれば、契約日が近い同種の複数の非関連者船の調整された価格幅などを示し、実際の取引価額がその幅に入っていると主張するための詳細な分析が必要だったように思われる。   4 おわりに 移転価格税制の理論的支柱となる独立企業原則は、いわゆる経済的合理性を税法に取り込み、課税要件化したものとして捉えることができる。すなわち、移転価格税制における独立企業原則は、競争市場を前提として成立する考え方であり、競争市場における通常の取引条件との比較において関連企業の価格を調整するものとして経済的合理性を要件化し、所得移転の防止という目的を達成するものとして捉えるのである(※5)。 (※5) 水野正夫「国外関連者に対する寄附金と相互協議」税法学581号153頁(2019年)参照。 したがって、独立企業原則は、あくまでも独立企業間での競争市場における経済的合理性であり、企業グループとしての租税を軽減し税引後利益を最大化するというような経済的合理性ではないことはいうまでもない。 本件においては、控訴人の「事業戦略」の差異調整の根拠として、不況時には、市場価格よりも高めの取引価格を設定して、国外から国内に所得を移転し、好況時には、市場価格よりも低めの取引価格を設定して、国内から国外に所得を移転し、グループ全体として、最大限の利益を確保することを目指していたという事実が原審判決において認定されている。 判決文からは閲覧制限がかかっており、必ずしも明らかではないが、本判決の判示事項では、「空き船台で国外関連者船を建造することにより船台の完全操業を実現するという控訴人会社独自の事業戦略に基づくものであるから、それによる差異を調整すべきであるとの控訴人会社の主張」に対し、判決は「控訴人会社の事業戦略の目的は、関連者を含めたグループ全体の利益を最大化するための、グループ全体の利害調整であり、しかも、これは関連者との間の特殊な関係を基礎としなければ成立しないものというべきであって、独立企業間では実現困難であり、移転価格税制の目的を考えると、控訴人会社の事業戦略は、国外関連者との関係を利用して通常の対価とは異なる船価を設定し、国外関連者との間で所得移転を繰り返すものであり、それはまさしく移転価格税制が問題にしている『所得の国外移転』にほかならないから、事業戦略に基因する差異の調整は要しない」、として企業グループとして租税を軽減し、税引後利益を最大化するような経済的合理性を否定し、控訴人の主張を排斥している。私見ではこの点が裁判所の判断に大きく影響し、控訴人の主張する事業戦略の差異の調整のみならず他の差異調整も認められなかったようにも思われる。 したがって、筆者はこの事案を事例判決として捉えることにしたい。差異の調整は事案によって様々である。移転価格税制が、私的自治ないし契約自由の原則と抵触することになりやすい(※6)ことを鑑みれば、移転価格税制の執行においては、真の独立企業間価格にできる限り近付けるような差異の調整について、課税当局は納税者の主張に真摯に耳を傾け対話を尽くすことによって、両当事者の理解を深め、独立企業間価格の適正性を確保することが求められるであろう。 (※6) 金子宏「移転価格税制の法理論的検討-わが国の制度を素材として-」同『所得課税の法と政策〈所得課税の基礎理論/下巻〉』所収(有斐閣・1996年)364-365頁[初出、1993年]参照。 (了)

#No. 529(掲載号)
#水野 正夫
2023/07/27

リース会計基準(案)を学ぶ 【第2回】「リースの定義」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第2回】 「リースの定義」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、リースの定義について解説する。 定義については、次のように規定されている(リース会計基準(案)BC18項)。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ リースの定義 リース会計基準(案)では、「リース」を次のように定義している(リース会計基準(案)5項)。 「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)は、「リース取引」に係る会計処理を定めており、「リース取引」を次のように定義している(企業会計基準第13号1項、4項)。 このように、「リース取引」から「リース」の用語に改正され、会計基準の名称も、「リース取引に関する会計基準」から「リースに関する会計基準(案)」へ改正することが提案されている。 リース会計基準(案)等の開発に際して、次の契約についても審議されたが、いずれの契約においてもサービスの要素を区分した後に、リースの定義を満たす部分が含まれる場合があるとし、当該部分についてリースの会計処理を行うことについて記載されている(リース会計基準(案)BC26項)。 これらについては、今後、本連載で解説する予定である「リースの識別」(リース会計基準(案)23項~28項等)の理解が重要になる。   Ⅲ 契約 前述のとおり、「リース」は、契約又は契約の一部分と定義されている。 このため、「契約」の定義も規定されており、「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいい、契約には、書面、口頭、取引慣行等が含まれるとされている(リース会計基準(案)4項)。 契約は、通常、契約書という書面の形式で締結され、取引の内容については、当事者間において明確にされていると考えられる。 リース会計基準(案)では、契約がリースを含むか否かの判断を行う(リースの識別の判断)ことになり、契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断するとされている(リース会計基準(案)23項~25項)。 また、複数の契約は、区分して会計処理を行うか単一の契約として会計処理を行うかにより結果が異なる場合があるとし、それぞれのリースにおける収益及び費用の金額及び時期を適切に計上するため、複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理することが必要となる場合があると規定されていることにも、注意が必要である(リース会計基準(案)BC20項)。 このため、リース会計基準(案)の適用に際しては、契約に関する法令の知識も必要になると考えられる。   Ⅳ 原資産、使用権資産など 「リース」の定義では、原資産を使用する権利と規定されていることから、原資産などの定義に注意が必要である。「リース」のほかに、例えば、次の用語が定義されている(リース会計基準(案)4項~22項)。 リース会計基準(案)で用いられている用語については、現行の実務においてなじみのないものがあるので、リース会計基準(案)の適用に際しては、定義に注意する必要があると考えられる。   Ⅴ 借地権、セール・アンド・リースバック取引、サブリース取引など 定義については、リース適用指針(案)に規定されているものもある。 例えば、次の定義である(リース適用指針(案)4項、89項)。 このため、現行の「リース取引に関する会計基準」(企業会計基準第13号)等に規定されていなかった項目についても、リース会計基準(案)等の適用対象となる項目として規定されるものがあることに注意する必要があると考えられる。   (了)

#No. 529(掲載号)
#阿部 光成
2023/07/27
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