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《速報解説》 会計士協会、「グループ監査における特別な考慮事項」の改正に伴い「経営者確認書」など関連する監査基準報告書、実務指針等を修正

《速報解説》 会計士協会、「グループ監査における特別な考慮事項」の改正に伴い 「経営者確認書」など関連する監査基準報告書、実務指針等を修正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年2月8日付けで(ホームページ掲載日は2024年2月9日)、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」に伴う監査基準報告書等の改正」を公表した。 これにより、2023年12月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対しては、特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」(2023年1月12日改正)に伴って、監査基準報告書580「経営者確認書」などを改正するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 監査基準報告書580「経営者確認書」 経営者確認書の記載例のうち、「2.金融商品取引法に基づく監査の経営者確認書(連結財務諸表)の記載例」及び「3.金融商品取引法に基づく中間監査の経営者確認書(中間連結財務諸表)の記載例」について、「当社」を「当社グループ」に修正する。   Ⅲ 監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」 次の修正を行う。   Ⅳ 監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」 「財務諸表監査における監査人の責任」について、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」の規定に合わせて修正する(20項及び各文例)。   Ⅴ 監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」 監査人の責任の記載内容に関し、監査基準報告書600「グループ監査における特別な考慮事項」を参照している箇所について修正する(Q1-1)。   Ⅵ 適用時期等 2024年4月1日以後開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。 公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事業年度に係る財務諸表の監査及び同日以後開始する中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用する。 ただし、それ以前の決算に係る財務諸表の監査及び中間会計期間に係る中間財務諸表の中間監査から適用することを妨げない。 監査基準報告書560実務指針第2号「訂正報告書に含まれる財務諸表等に対する監査に関する実務指針」の改正については、2024年4月1日以後に監査報告書を発行する訂正後の財務諸表に対する監査に適用する。 (了)

#阿部 光成
2024/02/13

《速報解説》 JICPA及び日税連から「会計参与の行動指針」の改正が公表される~中小企業会計指針の改正に対応して倫理規則等見直し~

《速報解説》 JICPA及び日税連から「会計参与の行動指針」の改正が公表される ~中小企業会計指針の改正に対応して倫理規則等見直し~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年2月7日付で(ホームページ掲載日は2024年2月8日)、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会は、「「会計参与の行動指針」の改正について」を公表した。 これは、「中小企業の会計に関する指針」の改正に対応した見直し等を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 倫理規則 公認会計士(監査法人を含む)は、日本公認会計士協会の倫理規則を遵守しなければならない。 会計参与に就任している公認会計士(監査法人を含む)が違法行為又はその疑いに気付いた場合の対応については、倫理規則セクション260の規定が適用となる。 倫理規則セクション260では、上級の職にある組織所属の会員はそれ以外の会員と比べてより一層の対応が求められており、会計参与は上級の職に該当することに留意する。 2 「中小企業の会計に関する指針」確認一覧 次の事項に関して記載している。 (了)

#阿部 光成
2024/02/09

プロフェッションジャーナル No.555が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年2月8日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.555を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/02/08

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第128回】「消費税法上の実質行為者課税の原則(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第128回】 「消費税法上の実質行為者課税の原則(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 所得税法や法人税法には実質所得者課税の原則が設けられているが、消費税法にも類似の規定が存在する。すなわち、消費税法13条《資産の譲渡等又は特定仕入れを行った者の実質判定》1項は、「法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。」とし、2項は、「法律上特定仕入れを行ったとみられる者が単なる名義人であって、その特定仕入れに係る対価の支払をせず、その者以外の者がその特定仕入れに係る対価を支払うべき者である場合には、当該特定仕入れは、当該対価を支払うべき者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。」と規定する。 かかる規定の適用について論じられた事例として、⼤阪地裁平成25年6⽉18⽇判決(税資263号順号12235)がある。この事件を素材として、消費税法上のいわゆる実質行為者課税の原則について考えることとしよう。   Ⅰ 素材とする事案 1 概観 本件は、大阪市中央卸売市場A場において、出荷者から販売の委託等を受けて牛枝肉等の卸売業を営むX(原告)が、牛枝肉等の販売先に対する債権が貸倒れとなったことについて、同貸倒れに係る消費税額の控除等について規定した消費税法39条《貸倒れに係る消費税額の控除等》1項に基づき、貸倒れに係る消費税額の控除をしてその課税期間に係る消費税及び地方消費税(両税を併せて、以下「消費税等」という。)の確定申告をしたのに対し、処分行政庁において、同貸倒れに係る消費税額の控除は認められないとして、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件各処分」という。)をしたため、国Y(被告)を相手取って本件各処分の各取消しを求めた事案である。 2 前提事実 (1) 当事者 Xは、大阪市が開設したA場において牛枝肉等の卸売を行う卸売会社として昭和56年12月17日に設立され、昭和59年4月1日に市場法15条1項(当時)の規定に基づき農林水産大臣の許可を受けて業務を開始した法人である。 Xは、出荷者から販売の委託等を受けて、大阪市中央卸売市場業務条例34条に基づく取引方法(以下「本件条例」という。なお、本件条例は、平成13年4月1日条例第43号による改正前の平成12年4月1日条例第46号(同年6月1日施行)によっても改正されており、同改正前の33条において、同改正後の本件条例34条と同趣旨の内容の規定がされていたところ、以下では、同改正の前後を問わず、同改正後の本件条例に基づいて記載することとする。)に従って、牛枝肉等の売買への参加について大阪市長から許可を受けた仲卸業者及び大阪市長から承認を受けた売買参加者(両者を併せて、以下「買受人」という。)を相手に牛枝肉等を販売していた。 (2) 受託契約約款の定め XがA場において行う卸売のための販売の委託の引受に関して、市場法、卸売市場法施行規則、本件条例、大阪市中央卸売市場業務条例A場施行規則その他関係諸法令によるほか、委託者との間に特約がない限り、大阪市A場食肉部卸売業者受託契約約款(以下「本件受託契約約款」という。)によるものとされている。 本件受託契約約款には、以下のような定めがされている。 ア 指値等の条件 委託者は、委託物品の販売について、指値その他の条件を付すことができることとするが、その場合には、送り状又は発送案内等に付記するか、当該物品の販売準備着手前までにその旨をXに通知しなければならないこととする。 イ 指値等の条件がある場合において販売不成立の場合の処理 Xは、委託物品の販売につき指値その他の条件がある場合において、その条件どおり委託物品を販売することができないときは、遅滞なくその旨を委託者に通知し、その指図を求めることとする。 ウ 委託手数料 Xが委託者から収受する委託手数料は、卸売金額の100分の3.5とする。 エ 売買仕切書の送付及び売買仕切金の支払 Xは、委託物品の卸売をしたときは、その卸売をした日の翌日までに、当該卸売をした物品の品目、等級、価格、数量、価格と数量の積の合計額、当該合計額の5パーセントに相当する金額、控除すべき委託手数料及び費用の金額並びに差引仕切金額(売買仕切金)を記載した売買仕切書を委託者に送付するものとする。また、売買仕切金の送付は、委託物品の販売をした翌日(その日が土曜日に当たるときは、その翌々日とする。)までに行うこととする。 (3) A場における牛枝肉取引の流れ ア 出荷者からの出荷の申込み 出荷者から、Xに対し、電話又はファクシミリで出荷の申込みがあると、Xは、と畜可能頭数を見た上で、出荷者との間で入荷日の調整を行う。その後、出荷の前日までに、出荷者からXに対し、出荷通知書がファクシミリ送信される。出荷通知書には、出荷形態(生体・枝肉)、頭数、内訳、産地、品種、体重、個体識別番号、出荷日、と畜予定日等が記載されている。 イ 入荷からせり売まで 牛の生体が入荷されると、計量等がされた後、大阪市がXから牛の生体を受け入れ、と畜解体し、枝肉、内臓、原皮等に分け、内臓と皮はA場内の内臓業者と原皮業者に直接引き渡され、枝肉は大阪市からXに引き渡される。同枝肉は、Xが大阪市から賃借する冷蔵庫に保管された後、せり売の当日、公益社団法人Bによる全頭格付を経て、Xにより卸売場に陳列され、買受人が下見をする。 牛枝肉のせり売は午前10時30分から実施され、買受人は、電子掲示板を見ながら応札し、せり単価と買受人が決定され、せりの後、牛枝肉はXから買受人に引き渡される。 ウ 売買仕切書の交付及び売買仕切金の支払 Xは、せり売の結果を電算処理して売買仕切書を作成し、各出荷者に発送又は手渡しをする。 エ 買受人との決済手続 Xは、せり売の結果を電算処理して販売伝票を作成する。販売伝票は、買受人に対する請求書を兼ねるものとして、原則としてせり売の当日、買受人に交付される。販売伝票の交付を受けた買受人は、原則としてその日のうちにXに対して代金を支払う。ただし、買受人は、あらかじめXとの間で代金支払猶予特約を締結し、同特約で定められた期限内に代金を支払うことができる。 オ Xと買受人との債権債務の残高確認 Xは、買受人に対し、定期的に売掛金の残高確認を行い、買受人から同売掛金の未決済残高に相違ない旨の回答を入手する。また、買受人からXに対する買掛金の残高確認依頼があった場合は、Xは、買受人がXに買掛債務を負っていることを確認する。 カ Xと出荷者との債権債務の残高確認 Xから出荷者に対する買掛金の残高確認は行っていない。なお、出荷者からXに対する売掛金の残高確認の依頼がされることはある。 (4) 買受人との間の約定の締結 ア Xは、A場において、出荷者からの委託を受けて、大阪市長から売買参加者として承認されたC及びD(Cと併せて、「本件各買受人」という。)に対し、牛枝肉等の卸売を行った(以下、Xが平成10年10月30日から平成12年7月3日までの間に本件各買受人に対して販売した牛枝肉等を「本件牛枝肉」といい、本件牛枝肉に係る販売取引を「本件牛枝肉取引」という。)。 イ Xは、A場における物品の売買代金の決済、債務の保証等に関し、Cとの間では平成10年10月6日に、Dとの間では平成11年9月20日に、それぞれ「代金の支払いに関する約定書」を締結している(これらXと本件各買受人との間の約定を、以下「本件各約定」という。)ところ、本件各約定には、以下のような定めがされている。 (5) 債権の貸倒れに至る経緯 ア Xは、平成10年10月30日から、平成12年6月16日までの間、Cに対し、牛枝肉等を販売した。Xは、Cとの取引の最終日である同日時点で、Cに対し、9億4,642万3,153円の債権(利息ないし損害金等を除く。以下同様)を有していた。その後、Xは、Cから差し入れられていた担保物件を処分して充当した結果、Cに対する貸倒れとなった債権の額は、9億1,584万392円となった(以下「本件Cに係る債権」という。)。  Cは、平成17年9月7日、大阪地方裁判所岸和田支部から破産決定を受け、同年11月11日、同裁判所から免責許可決定を受けた。  Xは、そのころに本件Cに係る債権は実質的に回収不能になったとして、Xの平成17年4月1日から平成18年3月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)において、上記債権金額を貸倒れとして経理処理した。 イ Xは、平成12年4月12日から同年7月3日までの間、Dに対し、牛枝肉等を販売した。Xは、Dとの取引の最終日である同日時点で、Dに対し、2,848万4,259円の債権を有していた。  その後、Dの資産状態や支払能力等が悪化したことから、Xは、同年12月14日以降、Dとの取引を停止し、平成13年9月17日にDから差し入れられていた担保物件を処分して充当した結果、Dに対する貸倒れとなった債権の額は、2,547万7,766円となった(以下「本件Dに係る債権」といい、本件Cに係る債権と併せて「本件各債権」という。)。  Xは、本件Dに係る債権につき、本件課税期間に消費税法施行規則18条《貸倒れの範囲》3号に規定する備忘価格1円を控除した後の金額2,547万7,765円を貸倒れとして経理処理した。 3 争点 本件の争点は、本件各債権の貸倒れに対する消費税法39条1項の適用の可否であり、具体的には、本件各債権が、Xが「課税資産の譲渡等」を行ったことにより取得した債権に当たるか否かである。 4 判決の要旨 (続く)

#No. 555(掲載号)
#酒井 克彦
2024/02/08

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第23回】「国税通則法65条(~67条)」-附帯税(2) 過少申告加算税とその加重及び減免-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第23回】 「国税通則法65条(~67条)」 -附帯税(2) 過少申告加算税とその加重及び減免-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法65条(過少申告加算税)   1 加算税の意義と種類 加算税は、附帯税(税通2条4号)のうち制裁目的で課される金銭的負担であり、行政罰の一種である(前回1参照)。加算税の対象は、申告納税方式(税通16条1項1号)による国税については納税申告義務に対する違反、源泉徴収等による国税(同2条2号)については源泉徴収及び特別徴収に係る義務(徴収納付義務)に対する違反である。加算税は、それらの行政上の義務について適正な履行を間接的にあるいは心理的に強制し、もって適正な履行を担保しようとする措置(行政上の義務履行担保措置)である。 加算税は、「昭和22年4月に所得税、法人税及び相続税(いわゆる直接国税)について申告納税制度が全般的に採用されるのを契機として、『追徴税』の名称で創設された」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)3526頁)ことから、「申告納税制度の落し子..........」(石倉文雄「加算税制度の沿革と目的」日税研論集13号(1990年)3頁、4頁。傍点原文)といってよかろう。つまり、「加算税制度は、申告納税制度の採用にあたり、その担保的機能を果たすものとして登場した」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])I153頁[北野弘久=波多野弘執筆])のである。なお、昭和22年4月には「加算税」の制度も創設されたが、その「加算税」は現行の延滞税に相当する遅延利息の性質をもつものであった(武田監修・前掲書3526頁等参照)。 ①納税申告義務違反に対して課される加算税としては、過少申告加算税(税通65条)及び無申告加算税(同66条)並びに重加算税(同68条1項・2項。過少申告重加算税・無申告重加算税)があり、②徴収納付義務違反に対して課される加算税としては、不納付加算税(同67条)及び重加算税(同68条3項。不納付重加算税)がある。加算税の納税義務は、上記①については法定申告期限(税通2条7号)の経過の時に、上記②については法定納期限(同条8号)の経過の時に、それぞれ成立し(同15条2項14号・15号)、賦課課税方式(同16条1項2号)により賦課決定に基づき確定される(同条2項2号、32条1項3号参照)。 今回は、これらの加算税のうち主として過少申告加算税を取り上げ、その趣旨や加重措置及び減免措置について検討することにする。なお、重加算税も加重措置の一種ではあるが、これについては次回検討することにする。   2 過少申告加算税の趣旨 過少申告加算税の趣旨については、既にその意義として述べたところであるが、判例においては、最判平成18年4月20日民集60巻4号1611頁が過少申告加算税の減免に係る「『正当な理由』の意義についての一般論」(川神裕「判解」最判解民事篇(平成18年度(上))579頁、604頁)を下記のとおり判示する(下線筆者)に当たってその前半の段落で説示したところが、その後も踏襲され判例の立場として確立されている(最判平成18年4月25日民集60巻4号1728頁、最判平成18年10月24日民集60巻8号3128頁、最判平成24年1月16日判タ1371号125頁、最判平成27年6月12日民集69巻4号1121頁、最判令和5年3月6日民集77巻3号440頁、最判令和5年3月6日判タ1511号104頁等)。 判例では、過少申告加算税の趣旨に関する上記判示において「過少申告による納税義務違反」を問題にしているが、これは、過少申告について租税の納付義務違反に着目するものではなく納税申告義務違反に着目するものと解される。というのも、国税通則法が過少申告加算税を定めるに当たって租税の納付義務違反に着目していたとすれば、過少申告加算税を敢えて無申告加算税と区別して規定する必要は必ずしもなかったであろうと考えられるからである。 そもそも、納税申告義務は①法定申告期限内に納税申告書を提出する義務と②納税義務の存否又は範囲を法律の規定に従って正しく確定する義務とが結合した義務であるが(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【123】参照)、国税通則法は過少申告加算税と無申告加算税が特に上記①の義務の点で決定的に異なることを考慮して、両者を区別して規定したものと考えられるのである(中川=清永編・前掲書I194(-196)-I197頁[北野=波多野執筆]も参照)。   3 過少申告加算税の加重 (1) 申告漏れ割合が大きな場合における加重措置 もっとも、国税通則法は納税申告義務のうち前記②の義務の観点から、申告漏れ割合が大きな場合、すなわち、修正申告又は更正に係る増差税額(修正申告又は更正が複数回されたときは累積増差税額[税通65条3項1号]を加算した金額)が期限内申告税額(同項2号)又は50万円のいずれか多い金額を超える場合は、その超える部分の金額の5%に相当する金額が、「その修正申告又は更正に基づき第35条第2項(申告納税方式による国税等の納付)の規定により納付すべき税額」(同条1項)すなわち通常の過少申告加算税の額に加算され、その分だけ過少申告加算税の負担が加重される。 この加重措置は、前記②の義務の観点からみて、申告漏れ割合が大きな場合については通常の過少申告加算税と無申告加算税との較差(10%と15%)が大きくなり過ぎることから、「このような較差をなくすために、過少申告の場合に、その申告漏れの割合により加算税の実質負担に差をつけ、申告漏れ割合が大きくなるに従って、過少申告加算税の実効割合が無申告加算税に近づくようにすることにより、その申告水準を向上させようとするもの」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)799頁。武田監修・前掲書3547の3頁も同旨)である。 なお、無申告加算税についても同様の加重措置(期限後申告若しくは決定又はその後の修正申告若しくは更正に基づき納付すべき税額が大きな場合における加重措置)が定められている(税通66条2項・3項)。これも、前記②の義務の観点から納税申告義務違反の程度の大きさ(上記納付すべき税額の大きさ)を考慮する措置である。 (2) 記帳水準の向上に資するための加重措置 納税申告義務とりわけ前記②の義務の適正な履行を可能にする基礎的条件として記帳義務(取引記録としての帳簿書類の備付け及び保存の義務)が重要な意味をもつが(前掲拙著【130】参照)、令和4年度税制改正では、そのことを考慮して、一定の帳簿に記載・記録すべき事項に関して申告漏れがあった場合において、税務職員による当該帳簿の提示・提出の求めに納税者が全く又は不十分にしか応じなかったときは、過少申告加算税の負担を原則として10%加重することとされた(税通65条4項。なお、無申告加算税については同66条5項)。 この加重措置の整備について、財務省「令和4年度税制改正の解説」757頁はその背景について(ⓐ)、同762頁はその趣旨について(ⓑ)それぞれ次のとおり解説している。 (3) 補論:短期間に無申告を繰り返した場合における無申告加算税の加重措置 なお、無申告加算税については、以上とは別の趣旨に基づく加重措置も定められている。それは、短期間に繰り返して無申告が行われた場合、すなわち、過去5年以内に無申告加算税を賦課された者が同一税目につき再び調査を受けて期限後申告・修正申告を行い又は更正・決定を受けた場合は、賦課割合が10%加算され、その分だけ負担が加重される(税通66条6項。無申告重加算税については同68条4項参照)。この加重措置は次のとおり(財務省「平成28年度税制改正の解説」874-875頁)平成28年度税制改正で創設されたものであるが、近時のいわゆる「厳罰化」の一環として位置づけられるべきものである。   4 過少申告加算税の減免 (1) 自発的修正申告の場合における減免措置 修正申告がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、これを自発的修正申告とみて、「申告納税制度の普及を図るため自発的な修正申告等を奨励する目的」(財務省「平成28年度税制改正の解説」873頁)で、自発的修正申告に係る増差税額については過少申告加算税の負担を減免することとされていたが、平成28年度税制改正により、自発的修正申告を調査通知(税通65条5項[現行6項]括弧書、同令27条3項[現行4項]参照)の前後で区別し、調査通知を受ける前の自発的修正申告については、調査通知を受けた後の自発的修正申告に係る過少申告加算税の減免(税通65条1項括弧書)を更に減免する措置(同条5項[現行6項])が講じられた(過少申告重加算税への両措置の適用については同68条1項括弧書参照。なお、自発的期限後申告の場合の無申告加算税の減免については同66条1項括弧書、同条6項[現行7項]参照。また、自発的納付の場合の不納付加算税の減免については税通67条2項参照)。 この改正の趣旨等について、財務省「平成28年度税制改正の解説」873頁は次のとおり解説している。 自主的修正申告該当性(いわゆる更正予知の有無)の判断基準(時)については、不足額発見時説・不適正把握説、調査着手時説・外部調査着手時説、端緒把握時説・客観的確実性説、調査開始後予知推定説等の諸説がある(各説については武田監修・前掲書3543-3543の3頁参照)ところ、東京高判昭和61年6月23日行集37巻6号908頁は、下記のとおり、加算税制度の趣旨及び関連規定の趣旨・文言に照らして、調査着手時説・外部調査着手時説ではなく端緒把握時説・客観的確実性説の立場に立つことを明らかにしているが、その後これを支持する判例(最判平成11年6月10日訟月47巻5頁1188頁等)や学説(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)907頁等)がみられる。 (2) 正当な理由があると認められる場合等における減免措置 過少申告加算税は、修正申告又は更正に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、「その正当な理由があると認められる事実に基づく税額」を、その修正申告又は更正に基づき納付すべき税額から、控除して計算した残額に対して、課される(税通65条5項1号。なお、無申告加算税については同66条1項柱書但書・7項、不納付加算税については同67条1項但書参照)。つまり、「その正当な理由があると認められる事実に基づく税額」に対応する分だけ、過少申告加算税の負担が減免されるのである。 ここで「正当な理由があると認められる」場合とは、確立した判例(前記2参照)によれば、「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」をいうと解されているが、その意義を申告納税制度の趣旨及び構造(納税者・税務官庁役割分担構造)に照らして検討し直すものとして、谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第34回Ⅲ参照。 また、修正申告又は更正前に減額更正があった場合における過少申告加算税の減免措置(税通65条5項2号)は、最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第30回参照)を受けた平成28年度税制改正による「延滞税負担の適正化」(同61条2項)に合わせて、同税制改正により整備されたものである(前回2参照)。 これら2つの減免措置が重複して適用される場合には、修正申告又は更正に基づき納付すべき税額から、「その正当な理由があると認められる事実に基づく税額」(税通65条5項1号)と「当該期限内申告書に係る税額(還付金の額に相当する税額を含む。)に達するまでの税額」(同項2号)のうちいずれか多い税額を控除して、減免額を計算することとされている(同令27条1項3号)。 (了)

#No. 555(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/02/08

〔令和6年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】「研究開発税制の見直し」

〔令和6年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第1回】 「研究開発税制の見直し」   公認会計士・税理士 新名 貴則   令和5年度税制改正における改正事項を中心として、令和6年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は「研究開発税制の見直し」について解説する。   ◎ 研究開発税制の見直し 研究開発税制とは、青色申告書を提出している法人において試験研究費が発生する場合に、その金額の一定割合について税額控除が認められる制度である。 令和5年3月期までは、基本の税額控除である「一般型(中小企業者等においては中小企業技術基盤強化税制)」とその上乗せ措置、及び「オープンイノベーション型」が設けられていた。 【令和5年3月期における研究開発税制のイメージ】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 これが令和5年度税制改正によって見直されており、その主なポイントは次の通りである。 ① 「一般型」の税額控除率の見直しと延長(令和8年3月31日まで) 研究開発投資の増加インセンティブを強化するため、税額控除率の見直しが行われている。試験研究費の増減割合に応じて税額控除率が変動するが、改正前は増加率9.4%を基準点として税額控除率が変動した。改正後は増加率12%が基準点となるため、12%を超えて試験研究費を増加させるほど税額控除率が上昇することになる。 税額控除率の下限が2%から1%に引き下げられたが、中小企業者等においては変化はない。 中小企業者等以外においては税額控除率が10%を超える部分(中小企業者等においては12%を超える部分)は、時限措置での上乗せ部分となるが、これが令和8年3月31日まで3年間延長されている。 ② 「一般型」の控除限度額の上乗せの見直しと延長(令和8年3月31日まで) 「一般型」の控除限度額は法人税額の25%となっているが、売上高試験研究費割合(平均売上高に対する試験研究費の割合)が10%を超える場合には、その割合に応じて控除限度額が上乗せ(法人税額の0~10%)されることとなっていた。この上乗せ措置が3年間延長されている。 また、中小企業者等においては、試験研究費増加率が9.4%を超える場合は、控除限度額に法人税額の10%を上乗せする措置が設けられていた。これが、試験研究費増加率が12%を超える場合に適用されることと改正された。 ③ 「一般型」の控除限度額上乗せの追加の廃止 「一般型」「中小企業技術基盤強化税制」ともに、基準年度(令和2年2月1日前に最後に終了した事業年度)と比較して、売上高が2%以上減少しながらも試験研究費を増加させた場合は、税額控除額の上限に5%上乗せすることとされていた。 しかし、令和5年4月1日以後に開始する事業年度については、この控除限度額上乗せの追加は廃止された。 ④ 「一般型」の控除限度額の増減特例措置の導入 「一般型」の控除限度額は法人税額の25%であるが、令和5年4月1日から令和8年3月31日までの間に開始する事業年度においては、増減試験研究費割合が4%を超えるか、マイナス4%を下回る場合は、控除限度額が加減算される措置が導入された。 この控除限度額の加算と、②の控除限度額の上乗せのどちらも要件を満たす場合は、いずれか有利な方を適用することになる。 ⑤ 「オープンイノベーション型」の拡充 「オープンイノベーション型」の対象となる研究開発型スタートアップの範囲が下記の通り拡大された。 また、オープンイノベーション型の類型に、新規高度研究従事者(博士号保有者や他社での研究業務経験者)に対する人件費が追加された(税額控除率20%)。 ⑥ 試験研究費の範囲の見直し 次の通り試験研究費の範囲が見直されている。 【令和6年3月期における研究開発税制のイメージ】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 555(掲載号)
#新名 貴則
2024/02/08

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第35回】「令和5年分は2割特例、令和6年分は本則課税として申告することの可否と注意点」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第35回】 「令和5年分は2割特例、令和6年分は本則課税として 申告することの可否と注意点」   税理士 石川 幸恵   【Q】 個人事業者です。インボイス制度開始前は免税事業者でしたが、適格請求書発行事業者の登録を受けたことにより、令和5年10月より課税事業者となりました。消費税課税事業者選択届出書や消費税簡易課税制度選択届出書は現時点(令和6年2月)では提出していません。 令和6年中に店舗兼住宅(店舗部分のみの価額が税抜1,000万円以上)の取得を予定しているため、課税売上高以上の課税仕入れが生ずると見込んでおり、令和6年分については本則課税が有利になると考えています。そこで、令和5年分は2割特例、令和6年分は本則課税を適用することは可能ですか。 〔ポイント〕 (1) 2割特例には2年継続適用の制限はありません。 (2) 高額特定資産を取得し、本則課税で申告を行った場合、取得した年の翌年と翌々年は2割特例の適用を受けることはできません。 (3) 2割特例の経過措置終了後(個人事業者は令和9年分)について簡易課税制度の適用を希望する場合、消費税簡易課税制度選択届出書の提出期限に注意が必要です。 *  *  * 【A】 2割特例には「2年継続適用」の要件はありませんので、令和5年分について2割特例の適用を受け、令和6年分につき本則課税で計算することは可能です。 ただし、令和6年に高額特定資産を取得し、本則課税で申告した場合、いわゆる「3年縛り」により翌年(令和7年)及び翌々年(令和8年)は本則課税が強制適用となります。   (1) 2割特例は2年継続適用の制限なし 2割特例は簡易課税制度のように事前の届出や継続して適用しなければならないという制限はありません(インボイスQ&A問114)。したがって、令和5年分につき2割特例により計算し、令和6年分は本則課税で計算をすることは可能です。 なお、本則課税はインボイス等の保存と帳簿の記載が仕入税額控除の要件ですので、事務処理負担の増加には注意が必要です。   (2) 「高額特定資産を取得した場合の3年縛り」の復習と2割特例の制限 ① 高額特定資産を取得した場合の3年縛りとは 事業者が、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に高額特定資産の課税仕入れを行った場合には、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から、その高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間においては、事業者免税点制度は適用されません(※)。 (※) 国税庁「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」、「No.6502 高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例」 ② 2割特例の制限 ①により事業者免税点制度の適用が制限される課税期間は2割特例を適用することができません(インボイスQ&A問115)。 〈図解〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   (3) 令和9年分の申告の準備 令和8年分につき本則課税で申告した場合で、令和9年分につき簡易課税の適用を希望するときは、令和8年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。 これは、令和8年分について2割特例の適用を受けていないので、令和9年中に消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば令和9年から簡易課税の適用を受けられるという経過措置(28年改正法附則51の2⑥、インボイスQ&A問117)の適用がないためです。   (了)

#No. 555(掲載号)
#石川 幸恵
2024/02/08

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第17回】「まとめ」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第17回】 (最終回) 「まとめ」   公認会計士 佐藤 信祐     19 租税回避として否認されやすい事案 本連載で解説したように、すでに租税回避として否認されている事案がいくつか公表されている。過去の否認事例から分析すると、以下のものについては、租税回避として否認されやすいと考えられる。 (1) 迂回取引、多段階取引 迂回取引、多段階取引は、典型的な租税回避であるといわれている。例えば、グループ法人税制における譲渡損益の繰延べが、制度の簡便化のために、グループ外の者への転売だけでなく、グループ内の他の内国法人への転売であっても、譲渡損失が実現するという制度になっていることを悪用するという事案が考えられる(法法61の11②)。具体的には、100%子会社(A社)に資産を譲渡した後に、当該100%子会社(A社)から他の100%子会社(B社)に当該資産を転売することにより譲渡損失を認識した場合には、A社に譲渡した後にB社に譲渡をしたのではなく、A社を経由せずにB社に譲渡をしたものとして、譲渡損失の実現を認めないという否認が行われる可能性が考えられる。 (2) 時価と異なる取引価額 組織再編税制は時価で取引が行われることを前提としており、時価と異なる取引価額を採用した場合には、それ自体が租税回避であると認定される可能性がある。時価と異なる価額により第三者割当増資を行ったことにより否認を受けた事例として、最三小判平成18年1月24日判タ1203号108頁(オーブンシャ・ホールディングス事件)、名古屋高判平成14年5月15日税資252号(相互タクシー事件)、東京高判平成13年7月5日税資251号(日本スリーエス事件)がある。 (3) 過去の否認事例があるもの 裁判例として、繰越欠損金の引継ぎを利用したもの(ヤフー事件、TPR事件。なお、現在、地方裁判所で争われている事件が3件ある。)、税制適格要件を外したもの(IDCF事件)、裁決例として完全支配関係を外したもの(国税不服審判所裁決平成28年1月6日TAINSコード:F0-2-629参照。)が公表されている。また、裁判及び裁決に至っていないものの新聞報道されているものとして、パチンコ店約40グループが適格現物出資を繰り返すことにより含み損を三重、四重に発生させたもの(Sスキーム事件)が公表されている(読売新聞朝刊平成24年2月12日など)。こういった前例のあるものに対しては、課税当局としても、包括的租税回避防止規定を適用しやすいと考えられる。 それ以外にも、いくつか否認事例が公表されているものの、裁判又は裁決に至ったものを除き、具体的なスキームが新聞報道からは明らかではない。新聞報道から明らかでないということは、必ずしも前例として有効ではなく、反論の余地があるということになる。さらにいえば、税務調査においては、税務調査に立ち会った税理士のアドバイスが不十分であるという理由により、税務訴訟で勝訴の余地があっても、修正申告を受け入れてしまう事案も想定される。Sスキーム事件については、組織再編税制を専門とする税理士のほとんどが否認リスクを感じているため例外的ではあるが、それ以外の組織再編成については、仮に税務調査で否認された事例として新聞報道で公表されていたとしても、裁判又は裁決に至っていない以上、前例と捉える必要はないと思われる。 すなわち、①濫用的な手法により繰越欠損金を引き継ぐ行為、②濫用的な手法により税制適格要件を満たす行為又は外す行為、③濫用的な手法により完全支配関係又は支配関係を満たす行為又は外す行為、④濫用的な手法により譲渡損失を二重に発生させる行為(※58)にそれぞれ包括的租税回避防止規定が適用される可能性があるといえる。 (※58) 厳密には、譲渡損失を二重に発生させる行為については、制度趣旨に反するとまではいえない事案や事業目的が十分に認められる事案が多いことから、包括的租税回避防止規定の適用が困難なものが多い。しかしながら、譲渡損失を三重、四重に発生させようとする納税者は稀であることから、ここでは、二重に発生させる行為とした。   20 租税回避に対する意見の表明 令和に入ってから、税務調査において包括的租税回避防止規定が議論になることが増えており、実際に否認された事例もあると聞いている。平成の時代には、当事務所でも包括的租税回避防止規定の検討を積極的に行っていたが、最近では慎重に対応せざるを得ない事案が増えている。 もちろん、クライアントが虚偽の説明をしてしまうと、税理士からの回答が無意味になってしまうため、そのようなことをするとは思えないが、税理士から都合の良い意見をもらうために、無意識に説明の強弱をつけてしまう可能性は否めない。すなわち、税理士又は弁護士に税務意見書の作成を依頼してしまうと、税務調査において、税務意見書に書かれていない事実を発見することにより、税務意見書を無効にしようとする動機が働きやすい。それだけでなく、税理士又は弁護士に税務意見書の作成を依頼したということは、納税者が税務リスクを認識していたという証拠になりやすく、税務意見書の作成を依頼することにより税務調査で否認を受けるリスクを高めてしまうということになりかねない。 すなわち、ストラクチャーを実行する前に税務意見書の作成を依頼するのは、金融機関からの資金調達のために必要であるとか、ストラクチャーにおける税務上の論点をまとめた資料が取締役会で必要であるといった、税務調査対応とは別の理由がある場合に限られるべきである。税務調査で対応するために、事前に税務意見書を入手しておくというのは、税制適格要件や繰越欠損金の引継ぎといった個別規定に関しては問題にならないが、包括的租税回避防止規定や同族会社等の行為又は計算の否認に関しては、そもそも依頼する納税者にとってもリスクであるし、税務リスクを高めかねないということになると、税務意見書を書きにくいと感じる税理士又は弁護士も少なくないように思われる。 そうなると、ストラクチャーの実行段階においては、包括的租税回避防止規定や同族会社等の行為又は計算の否認に関する税務意見書をもらわなければならないようなストラクチャーの実行そのものを控えるべきであると考えられる。そうはいっても、最近の税務調査の傾向を見ると、かつては包括的租税回避防止規定が適用される可能性が低いと思われていた事案に対しても、包括的租税回避防止規定の適用が検討されたという話も聞いており、そのような検討が行われたタイミングであれば、税務意見書の作成は有効であろう(※59)。ただし、税務調査期間中における税務意見書の作成ということになると、時間的な制約はかなり大きいことから、納税者としても早いタイミングで税理士又は弁護士に依頼しておく必要があるし、税理士又は弁護士としてもスピード感のある対応が求められる。 (※59) 税務調査期間中における税務意見書の作成については、西中間浩『税務意見書の書き方』15-17頁(中央経済社、令和5年)参照。なお、西中間氏は弁護士が税務意見書を作成する場合と税理士が税務意見書を作成する場合とに分けて説明されているが、ストラクチャーを担当した税理士や税務申告書を作成した税理士とは別の税理士による税務意見書の作成についてはあまり想定されていないようである。税務調査で多額の追徴を受けそうな場合には、複数の税理士に相談することで、反論の余地があるかどうかを探ることは珍しいことではなく、結果的に、税務調査における否認を免れた事案もある。そのため、税務調査期間中に税理士に税務意見書の作成を依頼することに意味はあると思われるが、税理士の立場としても、税務調査で否認されないための税務意見書の依頼となると、税務調査で否認された場合に、報酬が回収できなくなるという懸念が生じることになる。この点については、トラブルが生じないように、契約書をきちんと交わすだけでなく、税務意見書を提出したら報酬を速やかに回収する必要があるといえる。   21 まとめ ヤフー事件が公表される前に、佐藤信祐『組織再編における包括的租税回避防止規定の実務』(中央経済社、平成21年)を出版したが、当時に比べると、税務調査において包括的租税回避防止規定が議論になることが増えてきた。そして、令和4年4月19日、同月21日と最高裁判決が立て続けに下されたことで、実務上、租税回避に該当するかどうかについて、検討せざるを得ない場面が増えてくると思われる。 現時点では、東京国税不服審判所裁決令和2年11月2日(PGM事件)、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日、名古屋国税不服審判所裁決令和4年3月25日などがそれぞれ地方裁判所で争われているが、これらの地裁判決及び高裁判決の公表に伴って、租税回避の定義はより明確になっていくと思われる。 しかしながら、租税回避と節税の境界線については、論者によって見解が異なることから、必ずしも正しい答えが導きだせるものではない。さらにいえば、時代の変遷によって変わっていく可能性もあることから、常に情報をアップデートする必要がある。 本連載では、上記の地裁判決及び高裁判決が公表されていないことから、やや不十分なところもあったかもしれないが、それなりに有益な情報を提供できたと考えている。もちろん、これらの地裁判決及び高裁判決が公表されれば、より有益な情報が提供できることから、本連載とは別に解説したいと考えている。 本連載が、読者のお役に立つことができれば幸いである。 (連載了)

#No. 555(掲載号)
#佐藤 信祐
2024/02/08

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第39回】「貸付金及び非上場株式を同族会社である発行法人に遺贈した場合の非上場株式の価額計算における留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第39回】 「貸付金及び非上場株式を同族会社である発行法人に遺贈した場合の 非上場株式の価額計算における留意点」   税理士 柴田 健次   Q 甲は昭和40年にA社を設立し、パンの製造業を営んでいましたが、令和2年に代表取締役を辞任し、甲の甥である乙が新たに代表取締役に就任しました。A社の株主は甲のみで甲は発行済株式数200株を所有していましたが、同年に乙にA社株式20株を相続税評価額で売却するとともに下記の遺言書を作成しています。甲は、代表取締役辞任後、相続開始まで引き続きA社の会長として役員になっています。 ■遺言書の内容 令和5年10月5日に相続が発生し、相続開始直前における財産は、下記の通りとなります。甲の相続人は長男のみとなります。 ■相続開始直前における甲の財産 ■A社株式の所有状況の推移 甲の相続に伴い、甲、A社及び乙のそれぞれの課税関係はどのようになりますか。 また、甲の相続財産の課税価格の合計額はいくらになりますか。 A社株式の法人への遺贈は、甲が法人にA社株式を譲渡したものとみなされることになりますが、この場合のA社株式の価額算定にあたっては、所得税基本通達59-6の定めにより財産評価基本通達を準用するものとします。 A社の会社の規模区分は中会社の大に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。また、A社は9月決算であり、直前期末時点(令和5年9月30日)と相続開始時点(令和5年10月5日)において甲のA社に対する貸付金に変動はないものとします。純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 A社は9月決算であり、遺贈前の令和5年10月5日時点における取引相場のない株式(出資)の評価明細書の第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。なお、A社は土地及び上場有価証券は有していません。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 遺贈前におけるA社株式の1株当たりの価額並びに甲及び乙が所有している株式の相続税評価額は、下記の通りとなります。 A ■甲の課税関係 1株当たりの価額588,850円(427,700円 × 50% + 750,000円 × 50%)で100株を法人に譲渡したものとみなされ、株式の譲渡所得53,885,000円(588,850円 × 100株 - 50,000円 × 100株)として所得税が課税され、甲の相続人である長男が納税義務を負うこととなります。なお、交付金銭等の額はないため、みなし配当金額はありません。 ■A社の課税関係 債務免除益50,000,000円が益金に算入され法人税等が課税されます。A社株式の取得は資本等取引に該当し、A社の課税関係は発生しません。 ■乙の課税関係 甲から遺贈により取得したA社株式80株に対して相続税が課税され、かつ、乙が相続開始前から所有していた20株については、遺贈によりA社株式の価値が増加していますので、その価値増加部分に対して、甲から乙に遺贈があったものとして相続税が課税されます。 A社株式の相続税評価額は、遺贈後で計算を行うことになり、遺贈後における1株当たりの相続税評価額は1,020,840円(932,600円 × 90% + 1,815,000円 × 10%)となります。 乙が甲から遺贈により取得したA社株式80株の相続税評価額は81,667,200円(1,020,840円 × 80株)となり、乙が所有していた20株についての価値増加部分は、下記の通り11,218,200円となります。 〈20株の価値増加部分の計算〉 したがって、乙に対して課税される相続財産は92,885,400円(81,667,200円 + 11,218,200円)となります。 ■甲の相続財産の課税価格の合計額  ◆  ◆  ◆ ① 法人に遺贈を行った場合の課税関係 (1) 被相続人の課税関係 譲渡所得の起因となる資産を法人へ遺贈した場合には、被相続人が相続開始時の価額でその資産を法人に譲渡したものとみなされ、被相続人の譲渡所得の課税対象とされます(所法59①)。譲渡所得の起因となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、金地金などは含まれますが、貸付金や売掛金などの金銭債権は除かれます。 本問の場合には、A社株式の遺贈が譲渡所得の対象となり、この場合における1株当たりの価額は、所得税基本通達59-6の定めに基づき算定することになります。財産評価基本通達を準用する場合には、下記の点に留意する必要があります。 ❶ 株主判定と評価方式 株主判定は譲渡(遺贈)前の議決権数に基づきその判定を行うことになります。甲は譲渡直前において中心的な同族株主に該当することになりますので、所得税基本通達59-6(2)の適用により小会社に該当するものとして計算することになります。 したがって、類似業種比準価額の使用割合であるLの割合は50%となり、「類似業種比準価額 × 50% + 純資産価額 × 50%」で計算することになります。 ❷ 類似業種比準価額の算定 類似業種比準価額を求める際の斟酌割合は小会社としての斟酌割合(0.5)ではなく、A社の会社規模区分(中会社)としての斟酌割合(0.6)となりますので、類似業種比準価額は427,700円となります(令和2年9月30日国税庁資産課税課情報第22号)。 ❸ 純資産価額の算定 所得税基本通達59-6(3)及び(4)の定めにより、土地及び上場有価証券は相続税評価ではなく時価により算定し、法人税額等相当額の控除もしない価額となります。本問の場合には、土地及び上場有価証券はありませんので、評価替えを行う資産項目はありません。 なお、甲に対する借入金50,000,000円については、遺贈により消滅することになりますので、その借入金50,000,000円は負債として計上して問題ないかを検討する必要があります。 令和3年5月21日の東京地裁(TAINSコード:Z271-13567)は、遺言により株式と貸付金が同時に法人に遺贈された場合、当該株式について所得税法59条1項の「その時における価額」を純資産価額方式で算定するに当たり、法人に対する貸付金を負債に計上するべきか否かが争われた事件となりますが、東京地裁は、下記のとおり負債に計上すべきと判示しました。 (下線部は筆者による) 上記の東京地裁により、株式の価額は、譲渡(遺贈)が行われる直前の資産及び負債の価額に基づき計算がなされますので、役員借入金は純資産価額の計算上、負債に計上することになります。 したがって、本問の場合には、1株当たりの価額588,850円(427,700円 × 50% + 750,000円 × 50%)で法人に株式を売却したものとみなされ、株式の譲渡所得53,885,000円(588,850円 × 100株 - 50,000円 × 100株)として所得税が課税され、甲の相続人である長男が納税義務を負うこととなります。なお、甲は令和6年1月1日時点に存命ではありませんので、譲渡所得に対する住民税は発生しないことになります。 (2) 法人の課税関係 A社は、貸付金及び株式を遺贈により取得していますが、貸付金については混同により消滅し、債務免除益50,000,000円として益金に算入されることになります。一方でA社株式の取得は、自己株式の取得となり、資本等取引に該当し課税関係は発生しません(法法22②③④⑤)。 (3) 乙の課税関係 ❶ 80株に対する相続税の課税 乙は、被相続人から遺贈を受けた80株について相続税が課税されます。この場合のA社株式の相続税評価額は、遺贈後で計算を行うことになり、遺贈後における1株当たりの相続税評価額は1,020,840円(932,600円 × 90% + 1,815,000円 × 10%)となります。 したがって、80株の相続税評価額は81,667,200円(1,020,840円 × 80株)となります。 ❷ 遺贈後におけるA社株式の相続税評価額の算定上の留意点 実際の遺贈後における取引相場のない株式(出資)の評価明細書第4表「類似業種比準価額等の計算明細書」及び第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」は、それぞれ下記の通りとなります。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ※画像をクリックすると別ページでPDFが開きます。 ❸ 20株の価値増加部分に対する相続税の課税 乙は相続前から所有していた20株については遺贈後に株式の価値が増加しているため、その価値増加部分について被相続人から乙に対し遺贈があったものとみなされ、相続税が課税されることになります(相法9)。 1株当たりの価値増加部分の計算は、遺贈後における1株当たりの価額から遺贈前における1株当たりの価額を控除した金額となり、20株の価値増加部分は、下記の通り11,218,200円となります。 〈20株の価値増加部分の計算〉 ❹ 乙に対して課税される相続財産 乙に対して課税される相続財産は92,885,400円(81,667,200円 + 11,218,200円)となります。   ② 甲の相続財産の課税価格の合計額 相続税の納税義務者は、遺贈を受けた個人である乙及び相続人である長男の2人となりますので、それぞれが取得した相続財産等の合計額が課税価格の合計額となります。遺贈により財産を取得した普通法人(法法2九)であるA社は、相続税の納税義務者にはなりませんので、相続税が課税されることはありません(相法1の3、66)。 したがって、課税価格の合計額は、下記の通り計算されます。 〈甲の相続財産の課税価格の合計額〉   ☆実務上のポイント☆ 所得税におけるみなし譲渡の適用については、売主に課税されるため譲渡直前の状況に基づき株式価額を計算するのに対して、相続税の株式価額の計算においては、相続税の納税義務がある株式取得者に課税されるため、遺贈を受けた直後の状況に基づき株式の価額を計算することになります。 (了)

#No. 555(掲載号)
#柴田 健次
2024/02/08

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第94回】「農地売主相続事件」~最判昭和61年12月5日(訟務月報33巻8号2149頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第94回】 「農地売主相続事件」 ~最判昭和61年12月5日(訟務月報33巻8号2149頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 555(掲載号)
#菊田 雅裕
2024/02/08
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