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《速報解説》 四半期決算短信の一本化に伴い、東証が「四半期開示の見直しに関する実務の方針」を公表~1Q・3Qの四半期決算短信の監査人によるレビューは原則任意~

《速報解説》 四半期決算短信の一本化に伴い、 東証が「四半期開示の見直しに関する実務の方針」を公表 ~1Q・3Qの四半期決算短信の監査人によるレビューは原則任意~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年11月22日、東京証券取引所は、「四半期開示の見直しに関する実務の方針」(以下「実務の方針」という)を公表した。 「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が2023年11月20日に成立し、2024年4月1日以後に開始する四半期から四半期報告書が廃止され、半期報告書の提出が義務付けられることとなる。 金融商品取引法上の四半期報告書(第1・第3四半期)は廃止され、四半期開示については、原則として、東京証券取引所の規則に基づく四半期決算短信に一本化されることとなるので、上記の方針が公表されたところである。 今後、制度要綱を公表のうえ、パブリック・コメント手続を実施する予定であり、その際には、改めてお知らせするとのことである。 また、金融庁、企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会などの関係者において、今回の見直しに伴う必要な検討が進められていることから、それらの動向を踏まえ、本実務の方針の一部を変更して取引所の規則改正等の手続を進める可能性があるとのことである。 なお、日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 1Q・3Q決算短信の開示内容 1 サマリー情報 サマリー情報の内容として次の記載がある。「サマリー情報の変更イメージ」が記載されている(実務の方針14ページ)。 2 財務諸表及び注記事項など(添付資料) 連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書を開示する。 キャッシュ・フロー計算書は、投資判断に有用な情報として、投資者ニーズに応じた開示を要請する。 「財務報告の枠組みのイメージ」が記載されている(実務の方針13ページ)。 現行の注記事項に「セグメント情報等の注記」「キャッシュ・フローに関する注記」を追加し、次のようにする。 次の事項の開示についても記載されている。 「投資判断に有用と考えられる情報」の具体例が示されている。   Ⅲ 1Q・3Q決算短信の開示タイミング 1Q・3Qは、短信に一本化されることから、決算短信において開示を予定している事項(義務付けられる事項(実務の方針10ページ)のほか、投資判断に有用な情報として開示する事項(実務の方針11ページ)を含む)が定まった場合に開示する。   Ⅳ レビューの一部義務付け 1Q・3Qの四半期決算短信については、監査人によるレビューは、原則として任意とする。 監査人のレビューが行われる場合、レビュー対象は四半期連結財務諸表及び注記と記載されている(実務の方針13ページの※3を参照)。 ただし、会計不正等により、財務諸表の信頼性確保が必要と考えられる場合には、監査人によるレビューを義務付けるとし、義務付けの要件が記載されている(実務の方針16ページ)。 レビュー(任意でのレビューを含む)は、準拠性に関するレビューを基本としつつ、新制度の財規等に準拠し、開示を省略しない場合には、適正表示に関するレビューとすることも考えられるとのことである。 「新制度の財規等」については、実務の方針13ページを参照していただきたい。 また、「適正表示の枠組み」と「準拠性の枠組み」の定義、保証水準及びレビュー報告書の文言イメージは、実務の方針17から19ページに記載されている。 「適正表示の枠組み」と「準拠性の枠組み」の相違などについては、非常に分かりにくいとの意見が多く聞かれたとのことから、日本公認会計士協会は、前述の「東京証券取引所「四半期開示の見直しに関する実務の方針」の公表について(お知らせ)」を公表し、図表などを用いて詳細に解説している。   Ⅴ エンフォースメント 取引所における開示に係る審査にあたっては、上場会社への確認が基本となるが、取引所において、エンフォースメントをより適切に実施していくため、監査人との連携を強化し、会計不正の概要を早期に把握できる仕組みを構築する。 法令上の不公正取引(風説の流布)の禁止についても、適切に理解されるよう周知を行う。   Ⅵ 見直し後の2Q・通期決算短信の取扱い 2Q・通期は、法定開示が存続することから、2Q・通期の決算短信については、現行の取扱いを維持し、法定開示(半期報告書・有価証券報告書)に対する速報という位置付けも変わらない。 2Q・通期の短信は、レビュー・監査の対象外とする(1Q・3Qにおいて、規則によりレビューが義務付けられる場合も同様)。 1Q・3Q短信との連続性を踏まえて、「中間決算短信」等ではなく、「第2四半期(中間期)決算短信」とする。 開示内容については次のとおりである。   Ⅶ 事業環境の変化に関する開示のポイントなど 事業環境の変化の発生後速やかに、影響の見込まれる領域の事業規模や利益感応度等の投資判断の前提となる客観的な事実を開示することや、影響を把握次第、その影響に関する定性的又は定量的な情報について適時に開示することが望まれるとのことである。 開示が望まれる事項の例、期待される開示のタイミングなどが記載されている。 また、バスケット条項の補足的説明の見直し(イメージ)が記載されている(実務の方針29ページ)。   Ⅷ 四半期開示の見直しに伴う監査及び四半期レビュー契約書への影響 冒頭で述べたとおり、2023年10月20日に開会した第212回臨時国会において、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が11月20日に成立している。 金融商品取引法(以下「金商法」という)の改正事項のうち、四半期報告書制度の廃止(金商法24条の4の7、24条の4の8の削除)は、2024年4月1日以降に開始する四半期から施行される(金融商品取引法等の一部を改正する法律附則1条3号、2条1項)。 上場会社(12ヶ月決算の場合を想定)との間の監査及び四半期レビュー契約書について、2023年10月1日以降に開始する事業年度に係るものが、当該改正の影響を受けるとのことである。 次の例が記載されている。 このため、上場会社との間で、2023年10月1日以降に開始する事業年度に係る監査及び四半期レビュー契約書を締結する場合、例えば、法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」様式1~3の契約書において、「1.本業務の目的及び範囲」や「4.監査報告書等の提出時期」等の記載の調整や、場合によっては法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正後に覚書等で内容を追加することが必要となるとのことである。 (了)

#阿部 光成
2023/11/27

《速報解説》 国税庁、インボイス制度に関し「多く寄せられるご質問」全13問を公表~従業員立替や出張旅費の取扱いなど、一部柔軟な対応が可能であることが明らかに~

《速報解説》 国税庁、インボイス制度に関し「多く寄せられるご質問」全13問を公表 ~従業員立替や出張旅費の取扱いなど、一部柔軟な対応が可能であることが明らかに~   税理士 石川 幸恵   令和5年11月13日、国税庁はホームページで、適格請求書等保存方式(以下「インボイス制度」)に関し「多く寄せられるご質問」全13問を公表した。 今回の公表資料では、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(以下、「インボイスQ&A」)」のうち、「問合せの多いQ&A TOP10」とそのリンクのほか、「多く寄せられるご質問」として追加問や既存問の改訂である合計13問が収録されている。「多く寄せられるご質問」はインボイス制度が開始されて1ヶ月半という時期を反映し、実務に寄り添った問が中心となっている。特に下記の4点に関しては、制度開始前から運用面での困難が予想されていた事項について、柔軟な対応が可能であることが明らかとなった。   ◆買手による適格請求書等、区分記載請求書の記載事項の修正 適格請求書等の記載事項に誤りがあったときは、売手が修正した適格請求書等の交付をするのが原則であり、買手が正しい事項を記載した仕入明細書を作成して売手の確認を受ける方法も可能とされてきた。そのため、架電により修正事項を伝えてお互いに適格請求書や適格請求書の写しに加筆・修正することは不可と考えられてきた。 問⑥では、受領した適格請求書に買手が自ら修正を加えたものであったとしても、その修正した事項について売手に電話等で修正事項を伝え、売手が保存している適格請求書の写しに同様の修正を行ってもらえば、その書類を保存することで仕入税額控除の適用を受けることとして差し支えないとされた。 ただし、連絡により売手・買手両者が修正さえすれば、どの記載項目についても追記・修正が可能なのかはまだ疑義が残るところである。 区分記載請求書については、今後も「軽減対象資産の譲渡等である旨」と「税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額」について受領者が自ら請求書等に追記して保存することが認められる。   ◆適格請求書発行事業者が交付する適格請求書としての記載を満たさない書類の扱い 適格請求書発行事業者から交付を受けた登録番号のない請求書等についても仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置の適用を受けられることが示された。 特に10月初旬の制度開始直後には、適格請求書発行事業者の登録番号は書かれているものの、消費税率や消費税額の記載が漏れているなど適格請求書としての記載事項を満たさない領収書やレシートが見受けられた。売手に連絡をして修正を受けることが難しい場合は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置の適用を受けることになろう。   ◆従業員立替 経費を立て替えてもらった場合は、立替払いをした者宛の適格請求書及び立替払いをした者が作成した立替金精算書を保存することで仕入税額控除が可能とされている(インボイスQ&A問94、消基通11-6-2)。 このため、従業員が小売店などで事業に必要なものとして消耗品を購入した際に、適格簡易請求書の宛名が会社ではなく従業員本人となっていた場合には立替金精算書が必要と考えられてきたが、従業員の名簿等(電子データによる名簿も含む)の保存が併せて行われていれば、従業員が宛名となった適格簡易請求書の保存により仕入税額控除が認められることが確認された。   ◆実費精算の出張旅費 従業員に支給する出張旅費、宿泊費、日当等のうち、通常必要であると認められる部分の金額については、適格請求書の交付を受けることが困難な取引として一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる(消令49①、消規15の4)。旅費に関しては、旅費規程で、概算払いではなく交通機関やホテルから交付される領収書等の提出を必要とする実費精算としている企業も多く、適格請求書ではない新幹線の利用票やホテルの宿泊予約の資料が提出された場合には仕入税額控除ができないのではないか、という疑義があったが、問⑪にて、実費精算に係るものであっても、その旅行に通常必要であると認められる部分(所得税法基本通達9-3に基づき判定)の金額については帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能であることが確認された。 なお、出張旅費につき帳簿保存のみで仕入税額控除を受ける場合は、帳簿に「帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨」の記載が必要(インボイスQ&A問110)となることにも注意されたい。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#石川 幸恵
2023/11/24

プロフェッションジャーナル No.545が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年11月22日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.545を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/11/22

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第32回】「納税申告義務の履行担保措置としての加算税」-「つまみ申告」重加算税賦課肯定判例と二重処罰禁止違反否定判例-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第32回】 「納税申告義務の履行担保措置としての加算税」 -「つまみ申告」重加算税賦課肯定判例と二重処罰禁止違反否定判例-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は租税手続法の領域における税法基本判例として、申告納税制度の下で、納税義務の確定手続の最初の段階にある納税申告について、その効力に関する判例を取り上げ検討したが、今回は、納税申告義務という私人の公法上の義務の履行を担保するための措置としての加算税(税通65条以下。以下では国税の納付義務違反に対する不納付加算税は検討の対象としない)について、特に重加算税(同68条)の賦課要件の解釈適用をいわゆるつまみ申告に関して検討することにする。 「つまみ申告」とは、「主に課税実務で用いられている言葉で、納税者が自己の所得の一部を抽出して(つまんで)、税額を過少に申告すること」をいう(小貫芳信「判批」法務省訟務局内行政判例研究会編『平成6年行政関係判例解説』(ぎょうせい・1995年)110頁、112頁。同じ内容は同「連載課税訴訟研究 附帯税をめぐる訴訟(1)~重加算税の賦課要件を中心として」税理38巻14号(1995年)198頁、201頁以下にも収録されているが、以下の引用・参照は上記「判批」によることにする)。 つまみ申告は、特に会計帳簿を備え付けている納税者を念頭に置く場合には、「納税者において、正確に記載された会計帳簿に基づく真実の所得金額とは異なることを知りながら、所得金額又は収入の一部をつまみ出し(『つまみ行為』という。)、殊更過少に記載した納税申告書を提出する行為」(川神裕「判解」最判解民事篇(平成6年度)586頁、589頁。下線筆者)と表現され、「殊更の過少申告」と呼ばれることもある。なお、この点については、「『つまみ申告』等については、事実行為として理解し得るのであるが、『ことさらの過少申告』という用語にはそれ自体作為的な概念を有し、法68条に規定する『隠ぺい・仮装』との異同が問題となる。従って重加算税の賦課要件を論じるに当たっては、『ことさらの過少申告』というような中間的概念をあえて使用する必要もないように考えられる。」(品川芳宣「判批」TKC税研情報5巻6号(1996年)1頁、7頁)との指摘もある。 殊更の過少申告は、最判昭和48年3月20日刑集27巻2号138頁(以下「昭和48年最判」という)によって、所得税の逋脱罪の構成要件である「偽りその他不正の行為」に該当すると判断されたが、最判平成6年11月22日民集48巻7号1379頁(以下「平成6年最判」という)は、「前記会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したこと」が殊更の過少申告として重加算税の賦課要件である「税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合」に該当すると判断し、この判断に関して昭和48年最判を参照した。 つまみ申告ないし殊更の過少申告は、従来から、「不申告・虚偽申告・虚偽答弁等」の「必ずしも積極的な不正工作を伴わない行為」のカテゴリーに属する行為として重加算税の賦課要件を充足するか否かが議論されてきた(この議論については差し当たり品川芳宣『附帯税の事例研究〔初版〕』(財形詳報社・1989年)264頁以下参照。なお、同書264頁は見出しを「不申告・虚偽申告・虚偽答弁等」としていたが、平成6年最判の後改訂された同書の新版(1996年)279頁では見出しを「不申告・虚偽申告・つまみ申告・虚偽答弁等」としてその中に「つまみ申告」を明記するようになった。第4版(2012年)349頁も同じ)。 当時の議論の状況は、平成6年最判に関する調査官解説の中で次のように整理されている(川神・前掲「判解」594頁。小貫・前掲「判批」113-114頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)3643の5-3643の7頁も参照)。 ここでは、上記の各見解を説く論者及び文献として上記の調査官解説が注で参照しているもののうち、以下の叙述との関係で必要な限りにおいて、(1)の見解については碓井光明「重加算税賦課の構造」税理22巻12号(1979年)2頁、5頁、(2)の見解については品川・前掲書(初版)283頁、(3)の見解については小貫・前掲「判批」116頁を挙げておこう。 他方、国税の課税実務や国税不服審判所の裁決例、さらには判例はつまみ申告につき重加算税の賦課要件該当性を肯定し積極説の立場を採ってきたが(川神・前掲「判解」594-597頁、岩橋健定「判批」法学協会雑誌114巻4号(1997年)462頁、466頁等参照)、そのような状況の下で、平成6年最判の原審・大阪高判平成5年4月27日訟月40巻4号856頁は、消極説の立場から次のとおり判示し、「右租税実務取扱を正面から否定するとともに、隠ぺい・仮装行為と過少申告との間に因果関係が主張・立証されなければならないという新しい判断を示した点で注目され」(岩﨑政明「判批」ジュリスト1069号(1995年)153頁、154頁)、「大きな話題」(岩橋・前掲「判批」467頁)となった。 この判断を受けて、最高裁はこの問題にいわば本腰を入れ、最判昭和52年1月25日訟月23巻3号563頁や最判昭和63年10月23日税資166号370頁のような単なる原審判断是認のいわゆる例文判決ではなく、平成6年最判で明示的に理由を示して積極説の立場を判示し、さらに最判平成7年4月28日民集49巻4号1193頁(以下「平成7年最判」といい、平成6年最判と合わせて「『つまみ申告』重加算税賦課肯定判例」という)で積極説に関する一般論を判示した。 「つまみ申告」重加算税賦課肯定判例については、「過度に厳格な解釈をすることにより重加算税制度の趣旨に反する結果となることを避けるため、文理に完全には反しない限度で国税通則法68条1項の合目的的解釈をしたものと解されるが、他方、その趣旨とするところを超えて重加算税の賦課対象が安易に拡大されることは避けなければならないであろう。」(川神・前掲「判解」607頁。下線筆者)と解説されているところであるが、以下では、この解説を踏まえてそれらの判決を検討することにしたい。 すなわち、この解説は、重加算税の賦課要件について「文理解釈」(川神・前掲「判解」597頁)、「実質論」(同599頁)及び「ほ脱罪との関係」(同600頁)に関する議論をみた後、「以上の議論を前提として、文理上の問題点を意識しつつ、文理に反しない限りで、重加算税制度の制度趣旨等に照らして妥当な解釈が考えられないかどうかが問題となる。」(同601頁)として問題を設定した上で、行われたものであることをも踏まえて、以下では、税法の解釈論の観点から平成6年最判と平成7年最判を比較検討した上で、両判決を重加算税と刑罰との併科が二重処罰の禁止に違反しないものとする判例(最大判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁、最判昭和45年9月11日刑集24巻10号1033頁等。以下「二重処罰禁止違反否定判例」という)との関係で位置づけ、それらの射程を明らかにすることにしたい。   Ⅱ 「つまみ申告」重加算税賦課肯定判例の解釈論 1 平成6年最判の立場 まず、平成6年最判の判決理由は次のとおりである(下線筆者)。 この判決理由については、前記Ⅰでみた議論状況を踏まえて、次の解説がされている(川神・前掲「判解」604-605頁)。 この解説(特に「少なくとも」以下)は、平成7年最判に関する調査官解説の中で平成6年最判と合わせて「『事実関係総合判断説』とでもいうべき見解・・・・・・に近い見解を示したもの」(近藤崇晴「判解」最判解民事篇(平成7年度)471頁、481頁)と解する解説と基本的に同じ内容を説くものと解される。ここでいう「事実関係総合判断説」は前記の(3)の見解であり、その主唱者は次のように説いている(品川・前掲書(初版)283頁、同(第4版)380頁。伊藤暢男「判批」月刊税務事例25巻5号(1993年)27頁、30頁も参照)。 平成6年最判の前記判決理由については、事実関係総合判断説に基づく理解を前提にして次のような厳しい批判が加えられた(岡村忠生「判批」民商法雑誌113巻1号(1995年)96頁、108-109頁。下線筆者)。平成6年最判の本質的問題点を鋭く抉り出す批判であるから、少し長くなるが主な部分を引用しておこう。 この批判の核心にあると解される重加算税賦課判断の「主観化」は、平成6年最判が先に引用した判決理由の末尾の括弧書で昭和48年最判を参照しているところからも、窺い知ることができる。この点について次の指摘(住田裕子「判批(下)」商事法務1420号(1996年)9頁、11頁)は正鵠を射たものといえる(川神・前掲「判解」611頁(注24)も参照)。 平成6年最判は、このように重加算税賦課の判断を「主観化」し、もってつまみ申告をもその対象に取り込み重加算税の賦課対象を拡大したものと解されるが、ただ、そのための一般論まで示すものではなく、その判断は「本件事案に応じた事例判断」(川神・前掲「判解」605頁)すなわち事例判決と解されている(岩﨑・前掲「判批」155頁は「本判決によっては、右の論争点に関する最高裁としての具体的見解ないし方針が示されているとは解されないのである。」とする)。 2 平成7年最判の立場 これに対して、平成7年最判は、次の「三」のとおり重加算税の賦課要件の解釈に関する「一般論」(近藤・前掲「判解」481頁)を判示し、税理士による確定申告書の作成・提出の事案ではあるが広い意味でつまみ申告に属する事案(「税理士に対する秘匿行為の評価」については同484頁、住田・前掲「判批(下)」13頁参照)について、次の「四」のとおり重加算税の賦課要件該当性を肯定した。 平成7年最判が判示した上記の「一般論」については次の解説(近藤・前掲「判解」481-482頁。下線筆者)が加えられている(川神・前掲「判解」606-607も参照)。 この解説によれば、「本判決[=平成7年最判]は、重加算税の賦課要件について一般論を示してはいるが、既に述べたとおり完結的にその必要十分条件を明らかにしているものではなく、基本的には、〔判例④=最三小判平成6・11・22民集48巻7号1379頁〕と同様に事例判決の性質を有するものである。」(近藤・前掲「判解」485頁)ということになろうが、その点はともかく、平成7年最判が示した一般論は、同最判が基本的には平成6年最判と同じく事実関係総合判断説に近い立場に立ちつつも、重加算税賦課判断の「主観化」に対して一定の歯止めをかけようとしたものであると解される(そうであるからこそ、平成7年最判は、基本的には同じくつまみ申告の事案でありながら、平成6年最判を参照しなかったのではないかと考えられる)。 その歯止めは、第1に、「重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。」という判示に見出すことができる(岡村忠生「判批」税法学534号(1995年)110頁、114頁参照)。ここでは、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」(これは「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為」に限らない)と「過少申告行為」は別の行為として把握され、しかも後者は前者に「基づき」されたものであることまでは要しないものの「合わせた」ものであることを要するものとされている。 第2の歯止めは、平成6年最判が強調した「真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図」がある場合を、「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」(下線筆者)と表現し直すことによって、「その意図」を推認するための総合判断の対象を「特段の行動」に限定し(住田・前掲「判批(下)」11頁参照)、かつ、「その意図」と「過少申告」との因果関係を要求したものと解される点に、見出すことができる。この点について補足しておくと、平成7年最判が前記の「合わせた」という表現を用いたのは、「過少申告」が「基づく」のが「特段の行動」(これは「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」を意味すると解される)ではなく「その意図」であるという論理構成に基づき、重加算税の賦課要件としての因果関係(「基づき」)について、「・・・・ような場合には」という表現とも相俟って、「いたずらに厳格な解釈」(近藤・前掲「判解」482頁)ではなく「国税通則法68条1項の合目的的解釈」(同頁)を行った結果であると解される。 問題は、平成7年最判が平成6年最判の打ち出した重加算税賦課判断の「主観化」の方向に対して一定の歯止めをかけようとしたのはなぜかである。この問題を解く手がかりは、重加算税と逋脱罪との関係をどのように考えるかにあるように思われるので、その関係について次のⅢで検討することにする。   Ⅲ 重加算税賦課判断の「主観化」に対する二重処罰禁止違反否定判例の意義 平成6年最判に関する調査官解説では、「ほ脱罪との関係について」(川神・前掲「判解」600頁)次のように述べられている(同601頁。下線筆者)。 この解説の最後の1文は、つまみ申告の重加算税賦課要件該当性に関する消極説に反対する論拠として「両者の均衡」と「重加算税制度の趣旨」を援用しているが、前者すなわち「偽りその他不正の行為」と「隠ぺい・仮装」との均衡は、事実関係総合判断説に基づく重加算税賦課判断の「主観化」を支持する論拠となり得るかもしれない。というのも、「偽りその他不正の行為」に関する判例において「逋脱の意図」(最大判昭和42年11月8日刑集21巻9号1197頁等)という主観的要素を重視する傾向が定着してきた中で、重加算税賦課判断の「主観化」及びこれによる重加算税の賦課対象の拡大は、「偽りその他不正の行為」と「隠ぺい・仮装」との均衡の観点からみると、次の見解(佐藤英明『脱税と制裁〔増補版〕』(弘文堂・2018年)397-398頁[初出・2000年]。傍点原文、下線筆者)の説くように、「自然なこと」、「必然的なもの」であるという理解も論理的には成り立ち得るからである(もっとも、後述するように、そのような理解は妥当でないと考えるところである。なお、次の引用文中の「制度としての統一性と一体性」は、同391頁にいう「脱税に対する租税制裁制度の統一性」と同義であり、加算税と租税犯を「『脱税に対処するための制度』として統一的に考察する」(同13頁[初出・1989年])「『租税制裁法』という機能的な考察の枠組み」(同14頁)に基づく観点である)。 これに対して、後者すなわち「重加算税制度の趣旨」は、事実関係総合判断説に基づく重加算税賦課判断の「主観化」に対して一定の歯止めをかける論拠と考えるべきである。というのも、「重加算税制度の趣旨」は、二重処罰禁止違反否定判例において次の判示(最判昭和45年9月11日刑集24巻10号1033頁。下線筆者)のとおり刑罰との併科による二重処罰の禁止違反を否定する論拠(の1つ)として援用されていることからすると、重加算税賦課判断の「主観化」を、逋脱犯に関する「逋脱の意図」という主観的要素重視の傾向の延長線上に展開するための論拠とすることはできず、むしろそのような傾向とは異なる意味であるいは一線を画する形で展開するための論拠とすべきであると考えられるからである。 重加算税賦課判断の「主観化」を上述のような意味あるいは形で展開するものと解される見解として、その「主観化」を重加算制度と過少申告加算税制度との区分(実質上・制度趣旨上の区分と要件上の区分)の文脈で展開する次の見解がある(①=住田裕子「判批(上)」商事法務1419号(1996年)2頁、5頁、②=同6頁。下線筆者)。 この見解は、重加算税と過少申告加算税とを実質上・制度趣旨上は過少申告の認識・意図(故意)の有無により区分しながら、要件上は「納税者の過少申告の意図を外部からうかがい得る特段の行動」、「過少申告の意図を認定・推認し得る客観的事実」、「過少申告の意図を推認し得る間接事実としての行為」(以上は住田・前掲「判批(下)」11頁)の有無により区分するものと解される。この見解は上記②の引用にもあるように「故意不要説」と自称しているが、それは、「その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない」(最判昭和62年5月8日裁判集民151号35頁)とする判例の立場を踏まえたものと解される(住田・前掲「判批(上)」5頁、同「判批(下)」11頁等参照)。 以上のように検討してくると、このⅢの冒頭で取り上げた調査官解説の「消極説のように、申告前の帳簿操作等がない限り一切『隠ぺい』には当たらないと解することには、両者の均衡、重加算税制度の趣旨に照らして首肯し難い面があることは否定できない。」(下線筆者)という1文は、二重処罰禁止違反否定判例との関係を重視し「両者の均衡」よりも「重加算税制度の趣旨」に重点を置いた上で、理解するのが妥当であると考えられる。そして、そのような理解に基づき、前記の見解(住田裕子説)を重加算税賦課判断の「主観化」に対する歯止めの論拠として支持しておきたい。 もっとも、租税法律主義の下での税法の解釈論(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】以下参照)の観点からは、侵害規範である租税法規の中でも制裁の要素が強い重加算税の賦課要件については特に厳格な解釈が要請されることを考えると、重加算税賦課判断の「主観化」とこれによる重加算税賦課範囲の拡大に対しては、解釈上の歯止めだけでなく、むしろ手続的統制(差し当たり佐藤・前掲書403頁以下参照)も含め立法による歯止めこそが必要であると考えるところである(前掲拙著【128】参照)。   Ⅳ おわりに 今回は、納税申告義務の履行担保措置としての加算税のうち重加算税の賦課要件の解釈適用をつまみ申告に関して検討することとし、平成6年最判が重加算税賦課判断の「主観化」の方向を打ち出したこと、平成7年最判がこれに一定の歯止めをかけたこと及びその歯止めについては二重処罰禁止違反否定判例が重要な意味をもつことを明らかにした。 最後に、平成7年最判に関する調査官解説で従来の最高裁判例を総合して示された「判例理論」を以下に引用しておこう(近藤・前掲「判解」480頁。下線原文。判例①=最判昭和45年9月11日刑集24巻10号1333頁、判例②=最判昭和58年10月27日民集37巻8号1196頁、判例③=最判昭和62年5月8日裁判集民151号35頁、判例④=平成6年最判、判例⑤=昭和48年最判)。 この「判例理論」では平成7年最判が考慮されていないが、これを「判例⑥」として、「納税者が、・・・・・・ような場合には、殊更の過少申告として重加算税の賦課要件が満たされる〔判例④⑤〕。そして、どのような場合に殊更の過少申告として重加算税の賦課要件が満たされるかについては、」の部分を、「納税者が、・・・・・・ような場合には、重加算税の賦課要件が満たされる〔判例④⑤〕。ただし、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に限る〔判例⑥〕。そして、それが具体的にはどのような場合であるかについては、」と加筆修正することによって、平成7年最判が重加算税賦課判断の「主観化」に一定の歯止めをかけたことを明示すべきであろう。 (了)

#No. 545(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/11/22

〈もうすぐ適用開始〉令和6年1月から適用される加算税の加重措置 【第1回】「これまでのインセンティブ措置の傾向と帳簿不提出に係る加重措置」

〈もうすぐ適用開始〉 令和6年1月から適用される 加算税の加重措置 【第1回】 「これまでのインセンティブ措置の傾向と帳簿不提出に係る加重措置」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   はじめに 加算税は、申告納税制度の定着と発展を図るため、申告義務が適切に履行されない場合に課されるものであり、一種の行政制裁的な性格を有するものとされている。 昨今の加算税に係る税制改正の特徴として、インセンティブとしての効果がより表れるように、誠実に申告義務を履行しようとしている者については軽減を、相対的に悪質と認めるものについては加重をそれぞれ志向するという傾向にある。 本稿では、令和6年1月から適用されることが法定されている令和4年度及び令和5年度の税制改正における加算税の加重措置を中心に、最近の加算税に係る税制改正の概要と特徴を確認することにしたい。 *  *  * 1 加算税の概要 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (出典:財務省ホームページ「納税環境整備に関する基本的な資料」の「加算税の概要」) 上記の図表の(注)が最近の税制改正において増加しているインセンティブ措置である。   2 加算税に係る最近の税制改正の概要 (1) 国外財産調書制度の創設 国外財産の捕捉を進めるために、平成24年度税制改正において国外財産調書制度が創設されるとともに、提出期限までに提出された調書に記載のある国外財産に係る申告漏れの場合には5%軽減、そうでない場合には5%加重の措置が設けられた。 (2) 財産債務調書制度の創設 これまでの「財産債務明細書」の提出率が芳しくなかったことから、平成27年度税制改正において財産債務調書制度が創設されるとともに、上記(1)に類似したインセンティブ措置が設けられた。 (3) 調査通知以後・更正決定予知前の段階における区別 税務調査の過程でいきなり多額の修正申告又は期限後申告を行うことにより加算税の賦課を回避する事例が散見されていたことから、平成28年度税制改正において調査通知以後・更正決定予知前の段階を区別することにより、従前よりも5%ずつ加重する措置が設けられた。 (4) 繰り返しの無申告・仮装隠ぺいに対応した加重措置 加算税の税率は無申告・仮装隠ぺいの回数にかかわらず一律であり、納税者がこれらを繰り返す事例がみられたことから、行政制裁としての牽制効果を高めるため、平成28年度税制改正において、過去5年以内に無申告加算税又は重加算税を課せられた者が再び無申告等を行った場合には、10%加重する措置が設けられた。 (5) 国外財産に係る書類を提出しない場合の加重措置 国外財産は、把握に時間的・物理的な制約が加わり、更正決定の期間制限により捕捉に制約が生じるといった特徴があることから、より納税者による自主的な資料の提出を促すために、令和2年度税制改正において、国外財産に係る資料を所要の日数までに提出しない場合には、従来の上記(1)の5%加重を更に5%加重する措置が設けられた。 (6) 電子帳簿保存法に関係する加重措置 令和3年度税制改正において、優良な電子帳簿の水準における帳簿保存を普及するために、優良な電子帳簿に記録された事項に関して生じた申告漏れについて過少申告加算税を5%軽減するとともに、痕跡が残りにくいことが特徴のスキャナ保存が行われた電磁的記録に記載された事項に関して仮装隠ぺいがあった場合に重加算税を10%加重する措置が設けられた。   3 記帳水準の向上に資するための過少申告加算税等の加重措置 (1) 加重措置創設の議論 納税者が信頼性のある記帳をしない場合には、 その取引実態を確認するための反面調査等の追加的な対応が税務調査において必要となる。 また、記帳や帳簿保存義務を果たさなくても、その記帳や帳簿保存が不十分であることのみでは仮装隠ぺいの事実に該当しないことから重加算税の賦課が困難となる場合があり、記帳義務不履行に対する経済的な不利益が少ないことが記帳の動機付けを乏しくさせているという問題が国税当局において問題視されていた。 (2) 加重措置の概要 納税者が調査担当職員から帳簿の提出を求められたにもかかわらず、収入金額(売上)について以下に該当するときには、過少申告加算税又は無申告加算税を10%加重する。 なお、収入金額の3分の1以上(5割未満)について不記載であった場合には、加重措置は5%となる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (出典:財務省ホームページ「令和4年度税制改正の解説」の「国税通則法等の改正」762頁) (3) 収入金額(売上)を基準とした趣旨とその具体的な範囲 例えば、所得については、日々の記帳段階ではその具体的な額を予見することが困難である(決算段階になって初めて把握できる)ことから基準に採用されなかった。 また、経費については、通常は税額を圧縮するものであることから収入に比して事業者の自主的な記帳が期待できるほか、その計上にあたっては、減価償却費の計算や資本的支出に該当するかどうかの判断など、一定水準以上の税・会計の知識が必要となる点などを踏まえつつ、税務当局における税務調査の執行可能性にも配意して基準に採用されなかった。 そこで、本措置の適用要件である上記(2)の①又は②に掲げる場合に該当するかどうかの判断にあたっては、売上を用いることとなった。 なお、 事業者ごとの会計リテラシーの違い等に配慮する観点から、売上に含まれない収入金額(損益計算書上の営業外収益、特別損益に係る収入等の営業に直接関係のないもの)については、対象外とされている。 また、本措置は「帳簿に記載すべき事項等」であることが前提とされており、例えば、消費税法上の事業者が保存しなければならないこととされる帳簿については、その帳簿に記載すべき事項に含まれない国外売上(不課税取引)は含まれないことになる。 (4) 適用時期 令和6年1月1日以後に法定申告期限等が到来する国税について適用される。 したがって、例えば、通常、所得税については令和5年分から、法人税については10月決算法人の場合には令和5年10月決算期分から、それぞれ適用される場面が生じ得ることになる。 なお、収入金額(売上)についての不記載・不記帳を課税要件とするため、所得税、法人税の他に、課税売上を扱う事業者の消費税も対象になると考えられる。 (了)

#No. 545(掲載号)
#大橋 誠一
2023/11/22

〈令和5年分〉おさえておきたい年末調整のポイント 【第2回】「各種控除と所得要件の整理」

〈令和5年分〉 おさえておきたい 年末調整のポイント 【第2回】 「各種控除と所得要件の整理」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   本連載第1回では、令和5年分の年末調整に影響する改正事項として、控除対象となる国外居住親族の範囲の見直し等を取り上げた。第2回(今回)は、各種控除について所得要件を中心に整理する。   【1】 所得金額調整控除 所得金額調整控除には、①子ども等を有する場合の調整と②給与所得と公的年金等に係る雑所得の両方がある場合の調整の2つがある(措法41の3の3①②)。 これらの調整はいずれも確定申告で適用されるものであるが、①の調整は、年末調整においても適用を受けることができる(措法41の3の4①)。 ①の調整の適用があるのは、所得者本人のその年中の給与等の収入金額が850万円を超え、かつ下記のいずれかに該当する場合である。 年末調整で①の調整を適用する場合において、給与等の収入金額が850万円を超えるかどうかは、年末調整の対象となる主たる給与等のみを対象として判定する。すなわち、年末調整の対象とならない従たる給与等(主たる給与等の支払者以外の給与等の支払者から支払を受けた給与等)は含めずに判定することになる。   【2】 配偶者控除、配偶者特別控除 配偶者控除と配偶者特別控除の適用を受けるには、所得者本人及び配偶者の所得要件があり、控除額は所得者本人の合計所得金額に応じて段階的に縮小する(所法2①三十三の二、83①、83の2①)。 配偶者控除及び配偶者特別控除における、所得者本人と配偶者の所得要件は、次のとおりである(所法2①三十三の二、83①、83の2①)。なお、所得者本人に所得金額調整控除の適用がある場合には、適用後の金額をもとに合計所得金額を算出する(措法41の3の3①②)。 (注) 配偶者控除の対象となる配偶者を控除対象配偶者という(所法2①三十三の二)。 所得者本人の合計所得金額に応じた配偶者控除及び配偶者特別控除の控除額は、次のとおりである(所法83①、83の2①)。 〈配偶者控除〉 (※) 国税庁タックスアンサー「No.1191 配偶者控除」より抜粋 〈配偶者特別控除〉 (※) 国税庁タックスアンサー「No.1195 配偶者特別控除」より抜粋   【3】 扶養控除 居住者が控除対象扶養親族を有する場合には、扶養控除が適用される(所法84)。 控除対象扶養親族とは、扶養親族(所得者本人と生計を一にする親族のうち、合計所得金額が48万円以下の者)のうち、次に該当する者をいう(所法2①三十四、三十四の二)。   【4】 障害者控除 所得者本人が障害者である場合、同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合には、障害者控除が適用される(所法79)。 同一生計配偶者とは、生計を一にする配偶者のうち合計所得金額が48万円以下の者をいう(所得者本人の所得要件はない)(所法2①三十三)。   【5】 寡婦控除、ひとり親控除 寡婦控除及びひとり親控除の適用を受けるには、所得者本人の合計所得金額が500万円以下でなければならない(所法2①三十、三十一)。 また、離婚した女性が寡婦控除の適用を受けるには、扶養親族を有することが要件となる(所法2①三十イ(1))。ひとり親控除の適用を受けるには、生計を一にする総所得金額等が48万円以下の子を有することが要件となる(所法2①三十一イ、所令11の2②)。   【6】 勤労学生控除 勤労学生控除の適用を受けるには、所得者本人の合計所得金額が75万円以下(うち、非勤労所得10万円以下)でなければならない(所法2①三十二)。   【7】 基礎控除 基礎控除は、合計所得金額が2,400万円を超えると段階的に縮小し、2,500万円を超えると適用されない(所法86①)。 合計所得金額に応じた基礎控除の額は、次のとおりである。   【8】 各種控除と所得要件のまとめ (1) 所得金額調整控除 (2) 所得控除 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 総所得金額等 *  *  * 次回(最終回)は、実務上の留意点をQ&A方式で解説する予定である。   (了)   

#No. 545(掲載号)
#篠藤 敦子
2023/11/22

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第35回】「同族株主である個人が株式を個人又は法人に売却する場合の課税関係と時価算定の留意点」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第35回】 「同族株主である個人が株式を個人又は法人に売却する場合の 課税関係と時価算定の留意点」   税理士 柴田 健次   Q 甲は昭和40年にA社を設立し建設業を営んでいましたが、令和5年に代表取締役を辞任し、甲の甥である乙が新たに代表取締役に就任しました。甲はA社の株式を100%保有しており、乙に株式の承継を検討していますが、その方法として下記のいずれかの方法を考えています。 上記のそれぞれの場合において、相続税法7条又は9条のみなし贈与の課税問題、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題が発生しないように売却を検討していますが、1株いくらで売却すればいいでしょうか。 所得税及び法人税の時価の算定にあたっては、財産評価基本通達を準用するものとします。 A社の発行済株式総数は10,000株であり、1株につき1議決権を有しているものとします。A社株式は、創業以来、売買されたことはなく、A社と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額もありません。 A株式の1株当たりの類似業種比準価額と純資産価額は、次の通りとなります。 なお、A社の会社の規模区分は大会社に該当し、A社は特定の評価会社には該当しません。 A 買主が個人であるか法人であるかによって、下記の通りとなります。 (1) 甲が乙に株式を売却した場合 1株14,000円で売却することにより、相続税法7条のみなし贈与課税はされないことになります。 (2) 甲がB社に株式を売却した場合 1株42,000円(14,000円×50%+70,000円×50%)で売却することにより、所得税法59条1項のみなし譲渡課税、B社における法人税の受贈益の課税、B社株主である乙の相続税法9条のみなし贈与課税はされないことになります。  ◆  ◆  ◆ ① 個人から個人に売却する場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 個人から個人に非上場株式を売却した場合には、売買価額が資産の譲渡対価として取り扱われ、譲渡所得の課税対象となります。著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡(所法59①)の適用はありませんので、売買価額が資産の譲渡対価として取り扱われますが、譲渡損が発生した場合には、その譲渡損はなかったものとみなされます(所法59②、所令169)。 (2) 買主の課税関係 買主である個人は、著しく低い価額で譲り受けた場合には、時価と対価との差額に対して贈与税の課税がなされます(相法7)。みなし贈与課税の場合の「時価」は、原則として、財産評価基本通達を基にその算定がなされます。これは、個人間の売買においては、所得税法59条1項の適用がなく、相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価による旨を定め、財産評価基本通達1項(2)(時価の意義)では、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」とされているため、相続税法7条の時価も、原則として、財産評価基本通達に基づき算定されることになります。 ただし、土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされています(個別通達「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について(平成元年3月29日付直評5・直資2-204、[改正]平成3年12月18日付課資2-49(例規)・課評2-5・徴管5-20)」、以下「負担付贈与通達」という)。したがって、土地等及び家屋等を著しく低い価額で譲り受けた場合には、「通常の取引価額に相当する金額」と対価との差額に対して贈与税が課税されることになります。 なお、相続税法7条は、「著しく低い価額」で譲り受けた場合には、贈与税課税されることになりますが、「著しく低い価額」でない場合には、贈与税課税はされないことになります。ただし、時価のどれぐらいの割合までが「著しく低い価額」に該当するかついては、明確になっていませんので、注意する必要があります。 平成19年8月23日の東京地裁判決(TAINSコード:Z257-10763)は、土地を親族間において財産評価基本通達により評価した金額で売買したことについて、相続税法7条の「著しく低い価額」の対価による譲渡に該当するか否かが争点となった事案ですが、東京地裁は、下記の通り判示しています。 上記の東京地裁は、不動産取引の事例であり、非上場株式の事例ではありませんので、そのまま80%という基準を非上場株式に当てはめることは不適切であると考えられます。すなわち、路線価は公示価格の8割になるように設定されていますので、相続税評価額は土地を取引する上での重要な指標になりますが、非上場株式の場合には、「取引としての時価」と「相続税評価額」の関係性は不動産取引に比べて希薄となり、80%基準をそのまま採用することはできません。 他の基準を考察すると有利発行有価証券の取扱いが参考になります。有利発行とは新株を発行する場合において、払込金額が新株の引受人にとって通常要する価額に比して有利な金額で株式等を発行することをいいます。有利発行により新株を取得した場合には、「所得税又は法人税における株式等の時価」と払込金額との差額に対して所得税又は法人税が課税されることになります(所法36②、所令84③、法法22②、法令119①四)。有利発行有価証券に該当するか否かについては、「所得税又は法人税における株式等の時価」と払込金額との差額がおおむね10%相当以上かどうかで判断するとされています(所基通23~35共-7、法基通2-3-7)ので、「所得税又は法人税における株式等の時価」の90%超の払込金額であれば有利発行有価証券に該当しないことになります。 上記の90%基準については、所得税と法人税における取扱いとなりますので、あくまでも参考となりますが、1つの指標になるとは考えられます。   ② 個人から個人に売却する場合の税務上の時価算定 個人から個人に非上場株式を売却した場合において、課税上問題となるのは買主のみなし贈与課税となります。売主にとっては、売買価額が譲渡対価とされるため、課税上問題になることはありませんので、個人から個人に非上場株式を売却する場合には、買主の立場で売買価額を考えることになります。そして、非上場株式の場合には、負担付贈与通達の適用はありませんので、時価は原則として、財産評価基本通達の価額となります。したがって、非上場株式の場合には、財産評価基本通達の178から189-7までの定めより時価を算定することになります。   ③ 個人から法人に売却する場合の課税関係 (1) 売主の課税関係 個人から法人に著しく低い価額で譲渡した場合(時価の1/2未満の対価の額により譲渡した場合)には、みなし譲渡の適用がありますので、時価が資産の譲渡対価として取り扱われることになり、時価と取得価額等の差額に対して譲渡所得の課税がされることになります(所法59①、所令169)。 時価の1/2以上の対価で譲渡した場合には、通常の売買と同様に譲渡対価と取得価額等の差額が譲渡損益として課税されます。ただし、法人に対する譲渡が所得税法157条の同族会社の行為又は計算の否認等の規定に該当する場合には、時価で譲渡したものとみなされます(所基通59-3)。 上記の時価は、所得税法の時価となりますので、所得税基本通達59-6に基づき算定することになります。 (2) 買主の課税関係 法人における取得価額は、その時における価額となりますので、時価と対価との差額については、受贈益として法人税が課税されることになります(法法22②)。この場合における時価は、あくまでも法人税法上の時価となりますので、法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に基づき算定することになります。 (3) 法人株主の課税関係 著しく低い価額で法人に資産を譲渡したことにより、その法人の株式の価値が増額することから、譲渡をした者からその法人の株主に対して贈与税が課税されることになります(相法9、相基通9-2)。この場合における著しく低い価額についても相続税法7条と同様に明確な基準がありませんので、注意する必要があります。明確な基準ではありませんが、上記①で解説した有利発行有価証券の90%基準は、1つの指標になるかと思います。 なお、「著しく低い価額」ではなく、単に「低い価額」として相続税法9条のみなし贈与課税を免れたとしても、上記(2)の法人税の受贈益の課税はされる点については、注意が必要となります。 昭和53年5月11日の大阪地裁判決(TAINSコード:Z101-4190)は、A会社がB会社の株主からB会社株式を時価よりも低い価額で譲り受けた場合において、A社の受贈益課税とA社株主の贈与税課税が問題となった事案となります。 大阪地裁は、法人税と贈与税の課税について下記の通り判示しています。 したがって、時価よりも単に「低い価額」で取引をした場合においては、贈与税の課税問題はありませんが、法人税の受贈益課税の問題はありますので、課税実務においては、法人税における時価で取引を行う必要があります。 なお、上記の大阪地裁は、贈与税課税における「著しく低い価額」とは、時価の75%未満の額を指すと解するのが相当であると判示しています。ただし、この事例は昭和40年、41年及び42年当時の株式の時価が問題となっており、その当時、法人税の時価算定方法が定まっておらず、鑑定等を利用した特殊な時価算定により大阪地裁が時価を算出していますので、75%基準は他の事例でそのまま当てはめることはできないかと考えられます。   ④ 個人から法人に売却する場合の税務上の時価算定 個人から法人に売却した場合には、所得税におけるみなし譲渡課税の問題や法人税における受贈益課税の問題もありますので、所得税及び法人税における時価をそれぞれ算定する必要があります。 (1) 所得税における時価 個人から法人に売却する場合の所得税における時価は、下記の所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」)により算定することになります。 所得税基本通達59-6(株式等を贈与等した場合の「その時における価額」) (下線部は筆者による) 上記の通達の定めによれば、「その時における価額」は、所得税基本通達23~35共-9に準じて算定した価額とされており、非上場株式の「その時における価額」は、次の手順で算定することになります。 (2) 法人税における時価 法人税における時価については、法人税基本通達9-1-13及び9-1-14に基づき算定することになります。 時価算定の手順は、上記に記載した所得税における時価の求め方と同様になりますので、売買事例もなく、事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額がない場合には、純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額により求めることになります(法基通9-1-13)。実務的には、時価純資産価額又は一定の条件により財産評価基本通達を準用して算定した価額を使用することになります。 一定の条件については、下記の法人税基本通達9-1-14の(1)から(3)の通りとなります。所得税基本通達59-6の定めとほぼ同様ですが、株主判定が異なりますので注意が必要です。所得税基本通達59-6は、譲渡前の議決権数に基づきその判定を行うことになりますが、法人税基本通達9-1-14については、その定めがありません。法人税では、その取扱いが明確になっていませんが、株式の取得価額が問題となる場合には、譲渡後の議決権数に基づきその判定を行います。これは、所得税は譲渡所得課税で資産の値上がりにより売主に帰属する増加益を所得していることから、売主の会社への支配力の程度に応じて評価をするべきであるのに対して、法人税では、取得側の法人の受贈益課税が問題になっていることから、購入後の買主法人の会社への支配力の程度に応じて評価をするべきとする考え方によるものです。 法人税基本通達9-1-14(市場有価証券等以外の株式の価額の特例) ■B社への売買価額 本問の場合には、所得税の時価と法人税の時価が同額であるため、B社は420,000,000円(42,000円×10,000株)で株式を購入した場合には、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題は発生しないことになります。 なお、時価純資産価額である700,000,000円(70,000円×10,000株)も所得税及び法人税の時価となりますので、その価額で取引しても同様に課税上の問題は発生しませんが、本問の場合には、財産評価基本通達を準用して所得税及び法人税の時価を求めることとしていますので、420,000,000円を採用しています。 法人税法上の時価で取引をしていれば、当然、相続税法9条のみなし贈与課税の問題も発生しませんので、420,000,000円での取引はみなし贈与課税の観点からも問題がない価額となります。   ☆実務上のポイント☆ 非上場株式の売買価額の算定においては、相続税法7条又は9条のみなし贈与の課税問題、所得税法59条1項のみなし譲渡の課税問題及び法人税の受贈益の課税問題が発生しないように検討する必要があります。個人に売却する場合と法人に売却する場合で税務上の時価が異なることは、納税者には理解し難い点となりますので、時価算定と課税関係については、十分に説明する必要があります。 (了)

#No. 545(掲載号)
#柴田 健次
2023/11/22

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例128(法人税)】 「保育園事業を開始するに当たり、一般社団法人の非営利型で設立すれば法人税等が課税されないところ、営利型で設立したため、法人税等が課税されてしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例128(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆一般社団法人 一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立される法人であり、構成員として社員を必要とする。社員は出資者ではなく、単なる決議機関であり、一般社団法人に属する財産が社員に配当されることや、払戻しされることは想定されていない。ただし、目的には制限がなく、一般法人のように営利事業を行うこともできる。一般社団法人には営利型と非営利型があり、非営利型にはさらに完全非営利型と共益型の2種類がある。 ◆営利型法人 営利型の一般社団法人は普通法人に該当し、全ての所得に対して法人税が課税され、適用される法人税率も一般法人と同様である。 ◆非営利型法人(法2九の二) 非営利型の一般社団法人には、特定の者に利益を与えない完全非営利型と、会員共通の利益を図る活動を行う共益型の2種類があり、限定列挙された34種類の事業のみ法人税が課税される。 ◆完全非営利型法人(法令3) 完全非営利型法人は、次の要件の全てを満たした法人をいう。 ◆収益事業の範囲(法令5) 収益事業とは次に掲げる34種類の事業(その性質上その事業に付随して行われる行為を含む)とする。       (了)

#No. 545(掲載号)
#齋藤 和助
2023/11/22

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第32回】「土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について鑑定評価額に基づく按分が認められた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第32回】 「土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について 鑑定評価額に基づく按分が認められた事例」   税理士 菅野 真美   ▷土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分 土地・建物一括譲渡の場合において、そのうち土地部分・建物部分の価額が明確でないケースもあるため、何らかの基準で按分する必要がある。 【第24回】で解説した大阪地方裁判所令和2年3月12日判決においては、契約で定められた建物と借地権の価額について課税庁が否認し、固定資産税評価額に基づく按分に基づいて更正処分を行った。この処分に不服な納税者が訴訟を起こしたが、裁判においても課税庁の主張が支持された。これは、土地・建物の買手である法人が、築年数のかなり経過した建物について、固定資産税評価額の約42.86倍の価額(借地権は約1.35倍の価額)を売買価額としており、おそらく消費税の節税のための極端事例であったことが、裁判所の判断の根底にあると考える。 それでは、土地と建物の価額の按分比率について、固定資産税評価額に基づく場合と鑑定評価額に基づく場合で、大きく異なる場合はどのように判断されるのか。 今回は、土地・建物一括譲渡の場合における対価の区分について、課税庁が主張する固定資産税評価額に基づく按分比率ではなく、鑑定評価額に基づく按分比率に基づく価額が認められた事例を検討する。   ▷どのような事案か 不動産貸付業を営む納税者が、平成28年8月19日、土地売買契約により土地・建物を合計1,005,000,000円(消費税等相当額含む)で売却した。所有権移転は同月31日に行われた。なお、土地・建物にかかる消費税額は記載されておらず、この建物の各区画は事務所・店舗として賃貸されていた。 平成29年3月15日、納税者は消費税の確定申告をしたが、代金総額に占める土地の価額と建物の価額は次のとおりである。 これに対して課税庁は更正処分をしたが、その場合の土地の価額と建物の価額は次のようになる。 課税庁側の根拠は、平成28年度の固定資産税評価額(土地246,027,000円、建物197,186,000円)の合計額に占める各々の固定資産税評価額の割合で算定したものとなる(比率は、土地:建物 = 55.51:44.49)。 この処分に不服な納税者が審査請求をしたが、棄却されたため裁判所に提訴した。なお、納税者は裁判においては鑑定を申し出て、裁判所が採用し、これにより取消しを求める金額が減額されている。 鑑定評価額は原価法(価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、これに原価修正を行って対象不動産の積算価格を試算する方法)と収益還元法(直接還元法。対象不動産に係る一定期間の純収益を求め、この純収益に対応した還元利回りによって、対象不動産の収益価格を求める方法)に基づき、算定結果は以下の通りである。 争点は、建物の譲渡に係る消費税の課税標準は、固定資産税評価額の比率に基づくか、鑑定評価額の比率に基づくかである。   ▷地裁の判断は 地裁は、次のように述べて課税処分の一部を取り消し、課税庁の主張する固定資産税評価額比率による按分法ではなく、鑑定評価額比率による按分法を援用するのが相当と判断した。 *   *   * このように、本事案では、課税庁の主張する固定資産税評価額比率による按分が否定された。裁判所が納税者の申出により鑑定したものだから、裁判所としても否定はできない面もあると考えられる。しかし、裁判所に鑑定を申し出れば、鑑定評価額比率に基づく按分が常に税務上認められるとなると実務に与える影響が大きい。本件は鑑定評価額比率による按分が認められるべき特殊なケースであったのかどうか。この事案は確定しているが、今後の裁判等の動向を注視したい。 (了)

#No. 545(掲載号)
#菅野 真美
2023/11/22

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第30回】「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第30回】 「武田薬品工業事件-無形資産の形成による移転価格税制の影響-(大裁平25.3.18)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項~   税理士 中野 亘     3 争点 ◎ 臨床試験費用のうち請求人が負担した費用の取扱いについて ① 無形資産の法的所有関係について ◆原処分庁の主張 ※本件裁決書は一部マスキング処理がされているため、■部分の後の括弧書きは筆者が文脈から予測して追記している(以下同様)。 ◆請求人の主張 (※5) 納税者の100%外国子会社は、著しく低い価額による第三者割当を納税者の関係会社に対して行った。納税者の有する外国子会社の資産価値の減少部分は、納税者が外国子会社に対する寄附金課税と認められたが、外国子会社が有する非上場株式の評価額について持分比率や課税上の弊害について審理判断することなく、時価純資産価額方式(法人税額等相当額控除前)により評価すべきという結論を導いていることを問題視し、更に各論点の審理を尽くすべきとして原判決(高裁判決)を破棄差し戻しし、一部取消し確定となった(オウブンシャホールディング事件)。 ② 意思決定、費用負担及びリスク管理の主体について ◆原処分庁の主張 (※6) 事務運営要領2-11は、「無形資産の使用許諾取引等について調査を行う場合には、当該無形資産の法的な所有関係のみならず、当該無形資産を形成し、維持、発展させるに当たり法人又は国外関連者の行った貢献の程度も勘案するにことに留意する。」とし、この内容を補足する現行の事務運営要領2-12のなお書きは、「なお、無形資産の形成等への貢献の程度を判断するに当たっては、当該無形資産の形成等のための意思決定、役務の提供、費用の負担及びリスクの管理において法人又は国外関連者が果たした機能等を総合的に勘案する。」と定めている(事務運営要領は平成25年3月18日時点のもの。現在は3-13)。 ◆請求人の主張 ((その3)へ続く)

#No. 545(掲載号)
#中野 亘
2023/11/22
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