リース会計基準(案)を学ぶ 【第1回】 「基本的な考え方と適用範囲」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年5月2日、企業会計基準委員会は、企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」(以下「リース会計基準(案)」という)等を公表し、意見募集を行っている。 意見募集期間は2023年8月4日までである。 リース会計基準(案)は、リースの識別をはじめ、これまでとは異なる実務上の対応を求めることとなる部分もあることから、実務への適用に際しては、十分な理解が必要となる。 本シリーズは、公開草案の段階ではあるものの、リース会計基準(案)について基本的な理解に資するように解説を行うものである。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 基本的な考え方 1 開発にあたっての基本的な方針 借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準の開発にあたって、次の基本的な方針を定めている(リース会計基準(案)BC12項、BC34項)。 また、「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下「リース適用指針(案)」という)では、「開発にあたっての基本的な方針」について次のように規定している(リース適用指針(案)BC4項、BC5項)。 2 主な特徴 リース会計基準(案)は、次の特徴を持つものと考えられる。 また、「開発にあたっての基本的な方針」に基づいて、リース会計基準(案)及びリース適用指針(案)は、次の内容から構成されていると考えられる。 したがって、リース会計基準(案)の適用に際しては、規定の内容をよく検討する必要があると考えられる。 Ⅲ 適用範囲 リース会計基準(案)は、契約の名称などにかかわらず、本会計基準の範囲に定めるリースに適用する(リース会計基準(案)BC13項)。 リース会計基準(案)は、次の(1)から(4)に該当する場合を除いて、リースに関する会計処理及び開示に適用する(リース会計基準(案)3項)。 なお、地上権(リース適用指針(案)4項(3))の開示については「企業会計原則」に定めがあるが、当該地上権を含む借地権の設定に係る権利金等(リース適用指針(案)4項(9)、24項)に関する開示については、リース適用指針(案)を優先して適用する。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第143回】 株式会社ジオコード 「調査委員会調査報告書(2023年5月26日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社ジオコード調査委員会の概要】 【株式会社ジオコードの概要】 株式会社ジオコード(以下「ジオコード」と略称する)は、2005年2月に有限会社ジオコードとして設立。翌年5月、株式会社へ組織変更。Webマーケティング事業及びクラウドセールステック事業(クラウド業務支援ツールの提供サービス)を主たる事業とする。売上高3,453百万円、経常利益196百万円、資本金351百万円。従業員数117名(2022年2月期実績)。創業者で代表取締役社長の原口大輔氏(以下「原口社長」と略称する)と同氏の個人資産管理会社である株式会社ディーグラウンド(東京都新宿区)が発行済株式の61.9%を保有する筆頭株主である。本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は2022年2月期までEY新日本有限責任監査法人東京事務所(以下、「新日本監査法人」と略称する)、2023年2月期からはアーク有限責任監査法人(以下「アーク監査法人」と略称する)。 【調査委員会による調査報告書の概要】 1 調査委員会の設置経緯 ジオコードは、2023年2月期の決算発表を2023年4月14日に行うべく準備を進めていたが、決算作業の過程で、制作部門所属の1名の従業員(以下「A氏」という)が担当した一部の取引について、取引が未完了であるにもかかわらず、売上を不適切に前倒し計上している可能性を認識した。これは売上の期間帰属の適正性に疑義が生じるものであり、ジオコードは事実関係の把握、取引状況の詳細及び財務諸表等に与える影響額の確認等を直ちに開始したが、公正かつ透明性が担保された形で本件前倒し計上に係る事実関係の背景・実態を正確に調査・把握すべきであると判断し、4月7日付で調査委員会を設置した。 なお、A氏は報告書によれば、2021年に入社し2023年3月1日付で課長に昇格したが、4月1日付で休職し、5月1日付で課長職を解除(降格)された後、退職している。 2 調査委員会による調査の概要 (1) 調査委員会が認定した事実の概要 調査委員会は、A氏による売上前倒し計上について、次のように事実認定を行った。 (2) A氏による不正行為の実態 調査委員会は、A氏による不正行為の実態を次のようにまとめている(一部抜粋)。 (3) A氏による具体的な不正の手法 調査委員会は、A氏による不正行為の手法を次のようにまとめている(一部抜粋)。 3 原因分析(報告書47ページ以下) 調査委員会による原因分析は次のとおり、多岐にわたっている。 入社早々のA氏が不正を行った背景の1つとして、調査委員会は、「前任者からの引継ぎ不足、入社時における会社ルール及び業務手順伝達の未実施」を挙げているので、その詳細を見ておきたい。 このような指摘は、「慢性的な人材の不足」や「上司の業務管理・マネジメント不足」、「事業部門における内部統制機能の脆弱性」など、挙げられた他の原因とも密接に関わっていると思料する。 4 再発防止の提言(報告書56ページ以下) 調査委員会は、再発防止策の提言の冒頭において、ジオコードが、以下に掲げる再発防止策のうち特に制作部門の「Web制作(請負)取引」に関する1及び2の各項目を重点的かつ優先的に講じることにより、本件事象のような事態が2度と発生し得ない業務体制を構築すること、それがひいては、全社的な業務の改善及び内部統制の改善・強化、並びにジオコードの中長期的な成長基盤の確立に寄与することを期待するものであると述べたうえで、次のように再発防止策を提言している。 提言の最後に置かれた「監査役会及び内部監査室に要請される事項」の中で、調査委員会は、監査役会に対して、本報告書でなされた再発防止策の提言を踏まえ、ジオコードが策定する再発防止策が提言に沿った有効なものであるかを確認することを求めるとともに、ジオコードが策定した再発防止策を有効に実行・実施しているかを継続的に確認し監督することを求めている。 【調査報告書の特徴】 ジオコードにおいて、制作部門の課長に昇進したばかりのA氏による書類の偽造が発覚したきっかけは、売掛金の回収遅延と残高確認状の不一致だった。調査報告書20ページの記述を抜粋して引用する。 この経緯を読むと、本件は、A氏が、過去の会計不正事案でよく見られたように「残高確認状を顧客から回収したうえで、偽造して返送する」という仮装・隠蔽工作を講じていなかったことから、容易に不正の端緒が見つかったものである。そもそもA氏は「検収書」を顧客から回収することを怠ってこれを偽造していた類型(調査委員会は「検収の怠業」と名付けている)が多いことからも、悪意をもって売上の前倒し計上を行っていたというよりは、中途入社してすぐに課長職に昇進する中で、上長による統制が不十分であることを利用して、予算達成のプレッシャーから不正に及んだものであると評価することができると思料する。 調査委員会の調査で明らかになったように、A氏による不正(書類の偽造・改ざん)は決して高度なテクニックを使用したものではなく、上長による牽制機能が効いていたり、確立した業務フローに基づき統制ができていたりすれば、不正行為そのものができない程度のものであった。 1 社外取締役・社外監査役主導の調査委員会 調査委員会は5名で構成されており、社外取締役1名、社外監査役2名、常勤監査役1名が調査委員として参加している。その就任時期を一覧にすると次表のとおりとなる。 常勤監査役の森崎稔氏を除くと、就任後4年以上の期間がたっており、取締役会への出席や監査役監査を通じて、調査委員会が原因分析の中で指摘したジオロードに特有の事情、例えば、売上目標逹成に対するプレッシャーや慢性的な人材の不足、また、事業部門におけるマネジメント意識の希薄さ、内部統制の脆弱性などに気づいていてもおかしくはなかったと思料するのだが、社外取締役又は社外監査役としての職務執行については、当然のことながら、調査報告書に記述はない。 また、調査委員会が提言した再発防止策の1及び2については、不正が発生することを防止又は抑止する観点からも、内部統制システム機能強化の一環として、もっと早期に取り組むべきであったはずであり、機能強化が図られていれば、A氏は不正をしようと考えなかった可能性が高いのではないか。この点について、社外取締役及び社外監査役がどのように考えていたかについても、調査報告書には記述がない。 2 会計監査人の異動 2022年2月期決算を公表した当日の2022年4月14日、ジオコードは、「会計監査人の異動に関するお知らせ」をリリースして、上場前から会計監査人である新日本監査法人が任期満了となることから、アーク監査法人が会計監査人に就任することを公表した。ジオコードは、「異動の決定又は異動に至った理由及び経緯」として、以下のように説明している。 調査報告書を読む限り、会計監査人の異動が売上前倒し計上の発覚に寄与したものかどうかの記載はないが、新日本監査法人が会計監査人であった当時から、Webサイト制作に係る売上高の期間帰属については、「監査上の主要な検討事項」となっており、以下の「監査上の対応」が行われていたことが独立監査人の監査報告書に明記されている。 なお、2022年2月期において調査委員会が認定したA氏による売上高の前倒し計上(不正)は、件数は1件で金額は50万円であり、検収書を偽造したものであった。 3 ジオコードによる再発防止策 6月30日、ジオコードは「再発防止策の策定及び役員報酬の一部自主返上等に関するお知らせ」をリリースして、同日付の取締役会で決議した再発防止策を公表した。 その内容は次のとおりである。 なお、同じリリースで、原口社長以下3名の取締役について役員報酬の一部自主返上と関係する従業員の社内処分実施も公表された。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年6月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年6月1日から6月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 「企業買収における行動指針(案)」の公表 経済産業省は、次のものを公表し、意見募集を行っている(意見募集期間は2023年8月6日まで)。 上場会社の経営支配権を取得する買収を巡る様々な論点を取り扱っている。 〇 「企業買収における行動指針(案)―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて―」 Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正及び倫理規則研究文書「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」」(公開草案)(内容:会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すもの。意見募集期間は2023年7月6日まで) ② 監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正(内容:「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)などの改正や、2022年7月の倫理規則の改正に対応し、多くの様式を見直している) ③ 「2022年度 品質管理レビューの概要」等(内容:のれんの評価・固定資産の減損会計に係る改善勧告事項等を解説している) ④ 「品質管理レビュー基本方針(2023年度~2025年度)」及び「2023年度品質管理レビュー方針」(内容:上場会社等監査人登録制度の導入や、改訂品質管理基準の適用を踏まえて、品質管理レビューの3ヶ年及び単年度の方針を明文化するもの) ⑤ 「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」(内容:上場会社等の監査を行う監査事務所が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示す) (了)
ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第40回】 「取締役によるハラスメントについて他の取締役が負う責任」 弁護士 柳田 忍 【Question】 私は当社の取締役を務めています。先日、当社を退職した従業員Aから、取締役Bからセクハラを受けたとして損害賠償を求める内容の通知書が内容証明郵便で届きました。当該通知書においては、取締役B以外の取締役に対しても、取締役として取締役Bのセクハラの責任を負うべきであるとして、損害賠償を求められています。私は取締役Bのセクハラについて知りませんでしたし、当社の従業員は1,000人を超えており、事業活動も広範囲にわたっていて、取締役の担当分野も相当程度細分化されていますので、他の取締役が何をやっているのかを把握することは事実上困難です。私は取締役BのセクハラについてAに対して損害賠償責任を負わなければならないのでしょうか。 【Answer】 質問者は取締役Bのセクハラについて知らなかったとのことですし、貴社の規模に照らすとこれを知らなかったことに重大な過失が認められない可能性は高いと思われますので、基本的には取締役BのセクハラについてAに対して損害賠償責任を負わないと思われます。ただし、貴社においてセクハラ防止体制が適切に構築されていないような場合などには質問者もAに対して損害賠償責任を負う可能性があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 総論 ある取締役がハラスメントを行った場合に、他の取締役はかかるハラスメントの被害者に対して損害賠償責任を負うのだろうか。 取締役は職務の執行に際して善管注意義務・忠実義務(会社法330条、民法644条、会社法355条)を負っており、これを悪意又は重大な過失により怠って第三者(従業員を含む)に損害を与えたときは、当該第三者に対して損害賠償責任を負う(会社法429条1項)。よって、取締役Bによるハラスメントについて、他の取締役に悪意又は重過失による善管注意義務違反・忠実義務違反が認められる場合には、当該取締役は被害者Aに対して損害賠償責任を負うことになる。 2 取締役Bによるハラスメントを他の取締役が知っていた場合、又は、知り得た場合 では、どのような場合に取締役に悪意又は重過失による善管注意義務違反・忠実義務違反が認められるか。 この点、取締役がハラスメントを行った場合は、当該取締役自身が責任を負うのはもちろんのこと、会社も、使用者責任(民法715条1項)や、職場環境配慮義務違反・安全配慮義務違反(労働契約法5条)の責任を負う可能性がある。また、会社は、労働施策総合推進法や男女雇用機会均等法等に基づいてパワハラ防止措置やセクハラ防止措置を講じる義務等を負っているが、取締役がハラスメントを行った場合、これらの違反が認められる可能性もある。取締役には、会社がこれらの義務を遵守する体制を整えるべき善管注意義務・忠実義務があると考えられることから、取締役のハラスメントを他の取締役が知っていた場合、又は、知り得たにもかかわらず、何ら有効な対策をとらなかった場合には、当該取締役は被害者に対して損害賠償責任を負う可能性がある(以下裁判例参照)。 【サン・チャレンジほか事件(東京地判平成26年11月4日)】 飲食店店長が、長時間労働及びパワハラにより精神障害を発症して自殺した事案において、裁判所は、当該飲食店を経営する会社Y1、パワハラを行った上司Y2及びY1の代表取締役Y3に対して連帯して損害を賠償するよう命じた。 Y3の責任について、裁判所は以下のとおり判示した。 3 取締役Bによるハラスメントを他の取締役が知らなかった場合、かつ、知り得なかった場合 一方、他の取締役が取締役Bによるハラスメントを知らなかった場合、かつ、知り得なかった場合はどうか。 取締役は、取締役会に上程された事項だけでなく代表取締役や業務担当取締役の業務執行全般について監視義務を負うとされている(最判昭和48年5月22日)。取締役は、違法ないし不適正な業務執行を知り、又は、知り得る場合はともかく、常に積極的に個別具体的な業務執行を監視する義務を負うわけではないとされているため(札幌地判昭和51年7月30日等)、他の取締役が取締役Bによるハラスメントを知らなかった場合、かつ、知り得なかった場合には、当該他の取締役は原則として取締役Bのハラスメントについて責任を負わないということになりそうである。 しかし、「取締役は、違法ないし不適正な業務執行を知り、または、知り得る場合はともかく、常に積極的に個別具体的な業務執行を監視する義務を負うわけではない」ことは、業務執行の適正さを確保するための内部統制システムが整備されていることを前提とするというべきであるとする見解がある(岩原紳作編「会社法コンメンタール9 機関(3)」(商事法務、2014年)255頁)。 内部統制システムとは、企業の業務執行を適法・適正に行うために企業が整備すべき体制のことであり(会社法362条4項6号)、ハラスメントの防止体制もこれに含まれている。よって、上記見解に照らせば、ハラスメント防止の体制整備がなされていない会社においては、他の取締役のハラスメントを知らず、また、知り得ない場合であっても、取締役は被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があることになる(※)。 (※) 会社法上、内部統制システムの構築が義務づけられているのは、大会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社であるが(会社法362条5項、399条の13第1項1号ロ、ハ、416条1項1号ロ、ホ等)、上記見解の趣旨、すなわち、適法・適正な業務執行を確保するための体制が整備されている場合に限って取締役が積極的に個別具体的な監視義務を負うわけではないと考えられるという見解の趣旨は、内部統制システムの構築義務が課されていない会社においても当てはまると思われる。 (了)
《編集部レポート》 日税連、男女共同参画社会に向けて理事選出を対象としたクオータ制を導入 ~金子宏賞の創設・2023 AOTCA東京会議の開催も明らかに~ Profession Journal 編集部 2023年7月7日(金)、日本税理士会連合会(神津信一会長)は、記者会見を開き、男女共同参画社会に向けたクオータ制の導入及び「日本税理士会連合会・金子宏賞」の創設、そして2023 AOTCA東京会議の開催を明らかにした。 〇日税連役員のクオータ制導入 女性理事を増やすためのポジティブアクションの1つであるクオータ制は、理事の女性枠を強制的に設定することで、日税連において現在5%程度にとどまっている女性役員のうち、女性理事の割合を20%まで増やす取組み。今回の取組みにより指導的立場に立つ女性税理士が増えることで、女性にとって更に働きやすい業界としていくことを目指すとしている。 〇「日本税理士会連合会・金子宏賞」の創設 昨年8月に逝去された東京大学名誉教授の故金子宏氏の名を冠した賞として「日本税理士会連合会・金子宏賞」が創設された。この賞は、租税制度に係る学術研究の発達に貢献し、ひいては申告納税制度や税理士制度の発展に寄与した者に贈るものとされ、記念すべき第1回受賞者として、税理士の小池正明氏が選定された。 〇AOTCA東京会議が今秋開催 アジア・オセアニアタックスコンサルタント協会(AOTCA)は、日税連の提唱でアジア・オセアニア地域における税務専門家のための国際組織として1992年11月に設立され、2023年3月末において16ヶ国・地域の21団体にまで発展。AOTCAは毎年1回定時総会を開催しているが、2023年については日税連主催として東京での開催が決定したとのこと。2023年の10月31日から11月3日の4日間にかけて、ヒルトン東京お台場にて開催が予定されている。 (了)
《速報解説》 国税庁が暗号資産に関する法人税基本通達の一部を改正 ~特定自己発行暗号資産の要件の明確化等行う~ 弁護士 下尾 裕 国税庁はこのほど「法人税基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」を公表した。 本項においては、このうち、暗号資産に関連する通達改正について、その概要を説明する。 1 活発な市場を有する暗号資産に関する時価評価益課税についての令和5年度税制改正 内国法人又は恒久的施設を有する外国法人(以下単に「法人」という)が事業年度末において活発な市場を有する暗号資産(資金決済法上の暗号資産。同条1項参照)を自己の計算において保有する場合には、当該暗号資産につき事業年度末で時価評価を行い、直近の帳簿価格との間で評価損益を認識することとされている。 令和5年度税制改正においては、かかる活発な市場を有する暗号資産に関する時価評価益課税につき、「特定自己発行暗号資産」が対象から除外された(法法61②・同法142②)。そのうえで、当該法人の保有する暗号資産が「特定自己発行暗号資産」に該当しないこととなった場合は、その時点において暗号資産を譲渡し、かつ取得したものとみなして法人の所得計算を行うものとされた(法法61⑦)。 この「特定自己発行暗号資産」は、法人が発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産のうち、以下のいずれかの方法により発行時から継続して譲渡についての制限その他の条件が付されているものをいう。 2 法人税基本通達の改正 今回の法人税基本通達の改正は、主に上記令和5年度税制改正に関するものであり、具体的には以下のような定めが新設されている。 3 留意点 今回の法人税基本通達の改正により、特定自己発行暗号資産の要件がある程度明確化されたが、具体的な適用関係については、今後、国税庁においてさらに詳細な例示等がなされることが期待される。 (了)
《速報解説》 東京国税局が文書回答事例にて、 定年延長の際に一部の従業員に対してその延長前の定年に達したときに支払う一時金は退職所得に該当するとの回答示す 税理士 菅野 真美 東京国税局は、令和5年6月26日(ホームページ公表は令和5年7月4日)に、定年延長に伴い打切支給の退職金の支給を受けた従業員が、定年延長期間中に確定給付企業年金から支給を受ける選択一時金について退職所得に該当するかの事前照会を受けたが、この件については、退職所得として差し支えないという回答をした。以下において、この文書回答について検討する。 ▷どのような事案か 照会をした会社の退職金制度は、退職一時金、確定給付企業年金、確定拠出年金から構成されている。そして照会会社は労働協約を改定して、満60歳に達した月の末日としていた従業員の定年(旧定年)を満60歳から満65歳までの間で従業員が選択したいずれかの年齢に達した月の末日(選択定年年齢)に延長し、選択定年年齢に達した月の翌月末までに退職一時金を支払うこととした。しかし、定年制度の延長前に入社した従業員のうち、希望する従業員については、選択定年年齢にかかわらず、満60歳に達した月の翌月までに一時金を支払うこととした。この一時金は、退職所得として取り扱って差し支えないかというのが照会事例である。 ▷法令・通達はどのように定められているか 退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与であるが(所基通30-1)、引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、次に掲げるものでその給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、上記通達にかかわらず、退職手当等とするとされている。 所得税基本通達30-2(5) ▷本事案にあてはめると 本事案は次の2点が退職所得と認められたポイントではないかと考える。 (了)
《速報解説》 国税庁、税制適格ストックオプション要件の株価算定ルールを整備した改正通達を公表 ~あわせて「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂、新問6問追加~ Profession Journal編集部 既報のとおり、税制適格ストックオプションの要件の1つである権利行使価額要件(措法29の2①三)に関し、取引相場のない株式については株価算定ルールが明示されていないこと等からこれらを整備した改正通達案が5月30日付でパブリックコメントに付されていたが(意見募集は6月30日まで)、国税庁は7月7日付でこれらの改正通達を発遣した。 本改正通達は通達の発遣日(7/7)以後に新株予約権の行使を行う場合について適用することとされ(「経過的取扱い」)、後日改正通達の解説が公表されることも予告されている。 改正案からの変更はなく原案通りとなったが、寄せられた意見に対しては「意見公募の結果ページ」において国税庁の見解が示されており、その中で言及されたとおり本改正通達による具体的な株価の算定方法を解説したQ&Aが、去る5月30日に信託型ストックオプションの課税関係について見解を示した「ストックオプションに対する課税(Q&A)」を改訂するかたちで公表された。 今回の改訂によって追加された問答は下記6問。上述のとおり改正通達を踏まえた具体的な株価の算定方法を解説したものの他、問12では信託型ストックオプションが税制適格ストックオプションと認められるための要件が示されている。 なお、問4(源泉所得税の納付について)において、発行会社がストックオプションの行使に係る経済的利益について源泉所得税を納付していなかった場合のその源泉所得税について、ストックオプションを行使した者に求償しないこととした場合の取扱いについて注記が追加されるなど、既存の問答にも一部情報が追加されているため、留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2023年7月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.526を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.125- 「進む税務行政のDXと日本版記入済み申告制度」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 6月23日、国税庁から「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像 2023-」が公表された。 令和3年6月に公表していた「税務行政の将来像2.0」をアップデートしたものだが、目指すべき方向性や最新の取組内容等が盛り込まれており、ここまで進んだのかと評価できる内容である。 中でも筆者が評価するのは、「納税者の利便性の向上」の面で、令和3年6月に「税務行政の将来像2.0」に掲げた「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に大きく近づいたことである。 令和4年から地震保険料、ふるさと納税、医療費(保険診療分)が、令和5年から公的年金収入、社会保険料控除等が、マイナンバー制度のマイナポータルを通じて情報連携(自動入力)が行われ、e-Taxが使いやすくなっているが、令和6年の確定申告から、給与所得情報(源泉徴収票)についても自動⼊⼒の対象となる。 自動⼊⼒の対象となるのは、企業・事業者から国税庁に源泉徴収票がオンライン提出されている場合に限られるが、今後、雇⽤者、各企業・事業者による源泉徴収票のオンライン提出は進んでいくだろう。 この点、デジタル庁の「河野大臣記者会見(令和5年4月21日)」が参考になる。 また、源泉徴収票の提出義務のない給与等の支払金額が年間500万円以下の者については、国と地方の情報連携(eLTAX)を通じて令和9年からの自動入力が可能になる。地方公共団体に提出された給与支払報告書のデータが国税に連携されることになる。 筆者は、マイナンバー制度のマイナポータルを活用して、欧州諸国が導入している記入済み申告制度のわが国への導入を提案してきたが、ほぼ完成することになる。国税庁の資料にも「『日本版記入済み申告書』(書かない確定申告)」と明記されている。 * * * 今後は、フリーランスやギグワーカーの事業所得や雑所得などの税務情報をどのようにマイナポータル経由で入手していくかが課題となる。国税庁も、その点は「実施時期未定」としている。本来的には法律改正により、法定調書制度に基づく情報入手を進めていくということであろう。 しかし、法律改正には時間がかかる。一方マイナポータルへの情報連携は、民間同士のやり取りなので、原則当事者同士が合意すれば可能だ。そこで、個人事業者(納税者)は、自らの収入先(発注先や場合によってはプラットフォーマー)から、データによるAPI連携により自らのマイナポータルで情報を受け取り、それを申告につなげる方策も考えられる。 これは、国税庁の立場という観点からではなく、本人の申告利便の向上という視点から進めることが必要だ。さらには、彼らのセーフティネットに活用するという視点も必要である。つまり、今後フリーランス・ギグワーカーなどへのセーフティネットの拡充が考えられるが、その際に必要となる収入(報酬)の情報を自ら正確に収集するという観点である。 また、仮想通貨取引やシェアリングエコノミーについても、法定調書の対象にする方向での検討と並行して、仲介者(仮想通貨交換業者、プラットフォーム事業者等)と納税者の間で(いわば民間同士で)情報入手を行い、それを申告につなげるという手法も広げていく必要がある。 * * * いろいろとトラブルが続いているマイナンバー制度だが、国民の不安を払しょくしつつ、納税利便を高めるためのマイナポータルの活用は大いに進めていく必要がある。 (了)