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《速報解説》 ASBJ、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を公表~税効果会計適用にあたりグローバル・ミニマム課税制度の影響の反映と開示求めず~

《速報解説》 ASBJ、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を公表 ~税効果会計適用にあたりグローバル・ミニマム課税制度の影響の反映と開示求めず~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年2月8日、企業会計基準委員会は、「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第64号)を公表し、意見募集を行っている。 これは、令和5年度税制改正において、グローバル・ミニマム課税に対応する法人税が創設される予定であるが、グローバル・ミニマム課税制度を前提として税効果会計を適用することについては、実務上困難であるとの意見があることから、必要と考えられる特例的な取扱いを示すものである。 仮にグローバル・ミニマム課税に関する改正法人税法が2023年3月31日までに成立した場合には、成立後、2023年3月31日までに実務対応報告を公表することを想定している。 意見募集期間は2023年3月3日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 範囲 「税効果会計に係る会計基準」が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(2項)。 実務対応報告を適用する範囲については税効果会計基準が適用される連結財務諸表及び個別財務諸表に適用することとし、グローバル・ミニマム課税制度の適用が見込まれるか否かについての判断を企業に求めない(7項)。 2 会計処理 企業会計基準委員会が実務対応報告の適用を終了するまでの間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第28号)の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこととする(3項)。 グローバル・ミニマム課税制度を前提とした税効果会計については、「税効果会計に係る会計基準の適用指針」の定めにかかわらず、特例的な取扱いを一律に適用する(13項)。 「税効果会計に係る会計基準の適用指針」44項では、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法(以下、法人税等の納付税額の計算方法が規定されている我が国の法律を総称して『税法』という。)に規定されている方法に基づき第8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」としている。 3 国際会計基準審議会(IASB)の公開草案との比較 国際会計基準審議会(IASB)の公開草案「国際的な税制改革-第2の柱モデルルール(IAS第12号の修正案)」(2023年1月公表)では、経済協力開発機構(OECD)が公表した第2の柱モデルルールの適用から生じる繰延税金資産及び繰延税金負債の会計処理に関して、国際会計基準(IAS)第12号「法人所得税」の要求事項からの一時的な例外を設け、一定の事項の開示を提案している。 しかしながら、実務対応報告は主として2023年3月期決算に向けた短期的な対応をその目的としていることから、開示については求めない(6項、15項)。   Ⅲ 適用時期等 実務対応報告は、公表日以後適用する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/02/10

プロフェッションジャーナル No.506が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年2月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.506を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/02/09

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第116回】「節税商品取引を巡る法律問題(その10)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第116回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その10)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   4 金融リテラシー教育との協調 前回は、近時の成人向け教育がリスキリングの波に飲み込まれてしまっているのではないかという懸念について述べた。リスキリングが攻めの教育・学習であるとすれば、租税リテラシー教育は守りの教育・学習であると思われるところ、本節では金融リテラシー教育との関係性に焦点を当ててみたい。 (1) 金融リテラシー OECD(経済協力開発機構:Organization for Economic Co-operation and Development)は、金融教育一般を次のように定義する。 また、金融庁金融研究センターに設置された金融経済教育研究所による「金融経済教育研究会報告書」では、金融教育の意義・目的を以下のように捉える。 このように、金融教育は、国民が経済活動を行う際に誤った意思決定を行わないようにするという視角から、その必要性が議論されてきている。 そのような点から、令和元年12月に金融庁が発表した「金融経済教育について」は、「国際的にみても、日本の金融リテラシーの水準は決して高いとは言えない状況」としており(※1)、「国民一人一人が安定的な資産形成を実現し、自立した生活を営む上では、金融リテラシーを高めることが重要である一方で、そのための機会が必ずしも十分とは言えない」ことから(※2)、金融経済教育の推進・拡充が必要と訴えていたところである。 (※1) 金融庁「金融経済教育について(2019年12月13日)」3頁〔令和5年1月31日訪問〕。 (※2) 金融庁・前掲(※1)、2頁。 かような議論を受けて、我が国では、令和4年4月から、金融教育が高等学校の家庭科において教科化されることとなった。このような金融リテラシー教育の充実が消費者教育的視座に立ったものであるところ、成人向け租税リテラシー教育においてもかような視座からの議論が成り立ち得るのではなかろうか。 (2) 金融リテラシー教育の充実 令和4年開始となる新学習指導要領の策定に向けた動きは、平成28年12月に示された中央教育審議会の答申から始まったといわれている。そこでは、「これからの社会で求められる力」として、次のように論じられている(※3)。 (※3) 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」参照。 ここでは、「生きる力」というメルクマールが注目されるところであった。また、高等学校の家庭科については、次のように答申されているのである(下線筆者)。 すなわち、「生きる力」としての「生涯の生活を設計するための意思決定」こそが金融教育を意味するということであろう。そして、「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編(文部科学省)」(※4)では、家庭科の目標として次のように説明されている。 (※4) 「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 家庭編(文部科学省)」は、「平成 28 年 12 月の中央教育審議会答申を踏まえ、 1.教育基本法、学校教育法などを踏まえ、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を生かし、生徒が未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成することを目指す。その際、求められる資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する『社会に開かれた教育課程』を重視すること。 2.知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成とのバランスを重視する平成21年改訂の学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質を更に高め、確かな学力を育成すること。 3.道徳教育の充実や体験活動の重視、体育・健康に関する指導の充実により、豊かな心や健やかな体を育成すること。 を基本的なねらいとして行った。〔下線筆者〕」とする。 また、「家計管理」については次のように示されたのである。 (3) 生きる力としての租税リテラシー教育 このように、金融教育は、「生きる力」の醸成という観点から導出されたものであることが判然とするところ、租税教育については、どのように導出されてきたのであろうか。結論から言えば、両者の議論は大きく異なる背景を有しているように見受けられる。 すなわち、これまでの租税教育は、民主主義教育ないし主権者教育の文脈として、税を通じて社会を知る教育という考え方が背景にあった。この視座自体は明確なものであり、「租税」の本質論にも接続する適切なものであるといえよう。 他方で、民主主義教育ないし主権者教育という観点とは別に、「生きる力」という文脈で租税教育を考える可能性についての示唆を、金融教育から得ることができるのではなかろうか。これまで必ずしも明確に議論されてこなかった視角として、消費者教育なり投資者教育という側面を租税リテラシー教育が含有しているという点に関心を寄せるべきであると思われる。 本稿のⅠないしⅢ(その1〜4)で概観したとおり、我が国においても節税商品過誤訴訟(タックスシェルター・マルプラクティス)が頻発している中にあって(※5)、一般の消費者ないし投資者が租税に関する一定のリテラシーを身に付けることが詐欺的な勧誘に対する予防となるという観察がそこには所在する。「節税」を謳い文句として多くの被害者を出した変額保険訴訟を例に上げたが、ここに、消費者ないし投資者のリスクヘッジとしての租税リテラシー教育を正面から議論するインプリケーションとして、金融リテラシー教育との協調を検討すべきではなかろうか。 (※5) 節税商品過誤訴訟については、酒井克彦「節税商品取引における税理士の役割―我が国における節税商品過誤訴訟と適正公平な課税の実現―」税大論叢47号536頁(2005)も参照。 (続く)

#No. 506(掲載号)
#酒井 克彦
2023/02/09

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第11回】「国税通則法17条(~22条)」-申告納税制度の体系的把握と実定的把握-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第11回】 「国税通則法17条(~22条)」 -申告納税制度の体系的把握と実定的把握-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法17条(期限内申告)   1 はじめに 前回は納税義務の確定の意義と方式について概説し、その方式については同4でとりわけ自動確定方式の性格を中心に検討したが、今回は、「国税の一般的確定方式」(廣瀬正『国税通則法要義』(新日本法規・1985年)33頁)とされる申告納税方式を取り上げ、納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)294頁、武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)1204頁)とされる期限内申告を中心に、納税申告について「総論的に」検討することにする(なお、税通22条については第9回2参照)。 期限内申告を定める国税通則法17条については、期限後申告を定める同法18条及び修正申告を定める同法19条との対比において、次のような解説がされている(志場ほか共編・前掲書294-295頁。下線筆者。ほかに、大蔵省主税局税制第二課編『国税通則法とその解説』(大蔵財務協会・1962年)18頁、廣瀬・前掲書35頁、武田監修・前掲書1203頁も同旨)。 この解説は、国税通則法17条が同法18条及び19条とは「趣きを異にし、実質的内容をもった規定ではな[い]」と述べる点でミスリーディングのおそれがあるものの、「申告納税制度の体系的な把握を容易にする観点」を含んでいることを指摘する点では、重要な意味をもつと考えられる。 確かに、国税通則法17条が「期限内申告に関する事項(提出義務者及び提出すべき場合、提出期限、当該申告書の記載事項及び添付書類等)」を定める規定でないことは前記解説の説くとおりである。しかし、そのような事項を定める規定を「実質的な内容をもった規定」というのであれば、同法18条及び19条も同じく「実質的な内容をもった規定」ではないというべきである。 この点に関連して、国税通則法18条及び19条について、「期限内申告についての参照規定たる性格を有する法第17条とは、その性格[質]を異にするもの」(志場ほか共編・前掲書312頁[321頁]、武田監修・前掲書1251頁。同1283頁も同旨)と説かれることがあるが、それらの規定も、期限内申告を念頭に置きながらこれと異なる限りにおいて期限後申告及び修正申告についてそれぞれ独自の内容を定めるという意味では、「期限内申告についての参照規定たる性格」を有するということもできよう。 いずれにせよ、期限内申告と期限後申告及び修正申告との性格の差異ないし異質性を殊更に強調するのは、「申告納税制度の体系的な把握」を誤った方向に導くおそれがある。むしろ、「申告納税制度の体系的な把握を容易にする観点」からは、期限内申告を納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」として位置づける点を重視すべきであろう。この点については、次の2で引き続き検討することにする。   2 申告納税制度の体系的把握 では、なぜ期限内申告を納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」として位置づけるべきなのであろうか。それは、既にみたように、申告納税制度の体系的把握のためである。以下では、この点について敷衍しておくことにする。 申告納税制度の体系的把握は、繰返しになるが、期限内申告を納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」として位置づけることによって可能になり容易になるが、それは、「申告納税方式においては、まず、納税者が行う確定手続として納税申告がある。その基本は期限内申告であり、例外的に期限後申告及び修正申告がある。」(萩野豊『実務国税通則法』(大蔵財務協会・1994年)115頁)と理解することを意味している。 そのような理解(申告納税制度の体系的把握)は、次の解説(磯邊律男『研修国税通則法』(新都心文化センター・1984年)90頁。下線筆者)の説くように、申告納税制度の本旨・趣旨に基づくものである。 この解説は、期限内申告が申告納税制度の「基本」であり、期限後申告及び修正申告はその特例(「特に提出を認められている納税申告書」)であるという理解を示すものであるが、その理解は「申告納税制度の本旨」に基づくものである。ここでいう「申告納税制度の本旨」は、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)48頁で「申告納税方式の基本的性格」に関して次のとおり述べられている考え方を意味するものと解される(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【121】参照)。 ここで述べられている考え方は「民主的な租税思想」ないし「民主的納税思想」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)56頁、941頁)ということができようが、これを基礎に置いて「申告納税方式の基本的性格」ないし「申告納税方式の特色」(志場ほか共編・前掲書277頁)を捉えると、申告納税方式(税通16条1項1号)は、「申告納税制度の精神-納税義務の存否若しくは範囲について納税義務者に認められている第一次的判断権の尊重-」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)244頁)を体現ないし具体化するものであると解される。 およそ民主主義国家においては民主主義の担い手として、自己の権利のみならず義務についても自律的かつ自主的な判断に基づき行使・負担する「国民」が想定される以上、租税の場面での「国民」すなわち納税者は、「民主的な租税思想」ないし「民主的納税思想」に基づく申告納税制度においては、「納税義務の存否若しくは範囲について納税義務者に認められている第一次的判断権」すなわち第一次的確定権を有し、かつ、これを各税法の規定に従って正しく行使する義務(第一次的確定義務)を負っていると考えるべきである。 ここで「第一次的確定義務」とは、①納税義務の存否又は範囲を各税法の規定に従って正しく確定する義務と②各税法が国税の納税申告について一般的に定める期限(法定申告期限。税通2条7号)までに正しく納税申告書(同条6号)を提出する義務という2つの義務が結合した義務、すなわち、各税法の規定に従って納税義務の存否又は範囲を法定申告期限内に正しく確定する義務をいうが、納税者がこの義務を履行することができるのは期限内申告によってのみである。期限後申告及び修正申告についても、上記①の義務は解除されていないが、当然のことながら、上記②の義務は観念されない。この意味で、期限内申告は義務的申告であるのに対して、期限後申告及び修正申告は(上記②の義務が観念されないという意味では)任意的申告であるということができよう(以上について前掲拙著【123】のほか、志場ほか共編・前掲書285-286頁、磯邊・前掲書90頁も参照)。 このように、第一次確定権及び第一次確定義務が全面的に実現されるのは、期限内申告によってだけであることから、期限内申告は納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」として位置づけられる。申告納税制度において期限内申告をこのように位置づけることによって申告納税制度の体系的把握が可能になり容易になるのである。 以上で述べてきた申告納税制度の体系的把握は、納税義務の確定の場面において第一次的確定権及び第一次的確定義務の内容・位置づけを明確にする点で、「基本的租税法律関係の明確化」という「租税基本法的要請」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E16頁[須貝脩一・清永敬次執筆]。前回2参照)に応えるものであり、その意味で国税通則法の体系的構造(第1回3参照)に整合的に接合すると考えられる。   3 申告納税制度の実定的把握 ところで、申告納税制度の趣旨については、前記のような民主主義的な観点からの解説(税制調査会・前掲答申別冊からの引用にいう「民主主義国家における課税方式としてふさわしいもの」)と並んで、次のとおり(金子・前掲書941頁。下線筆者)、租税徴収の観点からも解説されることがある(前掲拙著【121】も参照)。 しかも、後者の観点の方を重視する次のような解説(中川=清永編・前掲書E152頁[新井隆一・波多野弘執筆]。下線筆者)もみられるところである。 この解説にみられる「課税権者のための租税の賦課徴収手続の便宜と経済という問題」は、第二次世界大戦後における申告納税制度の導入に関する次の発言(平田敬一郎ほか共編『昭和税制の回顧と展望 上巻』(大蔵財務協会・1979年)278-279頁[「昭和22年の大改正」に関する前尾繁三郎発言])にみられる、(前年実績賦課課税から変更した)「予算課税」のための税収の早期確保(「ことしの税金をことしとる」)の問題を意味しているものと解される。 このような租税徴収の観点からみても、期限内申告を納税申告のうち「原則的かつ基本的なもの」として位置づけることはできる。法定申告期限の遵守は税収の早期確保にとっても必要条件であるからである。 ただし、そのような位置づけは、納税義務の確定の場面において第一次的確定権及び第一次的確定義務の内容・位置づけを必ずしも明確にすることにはならないので、前記2の最後で述べたような国税通則法の体系的構造に整合的に接続する、申告納税制度の体系的把握を可能にし容易にするものとはいえないであろう。むしろ、国税通則法の実定的構造(第1回3、前回4参照)と同じく、「基本的租税法律関係の明確化」という「租税基本法的要請」(前記2参照)に応えるものではなく、租税徴収の観点から行われる位置づけであることから、「申告納税制度の実定的把握」と呼ぶのが適当であろう。   4 修正申告の効力 申告納税制度の実定的把握は、修正申告の効力を定める国税通則法20条において、その意味を具体的に認識することができる。同条は次のとおり規定している。 この規定は、修正申告(税通19条1項)のうち「既に確定した納付すべき税額を増加させるもの」(同項1号)の効力が増差税額についてのみ追加的に生ずることを定めているが、これは、納税申告・更正等の行為相互間の関係の捉え方について国税通則法制定前から存在した次の【㋐】の2つの考え方(税制調査会・前掲答申別冊62頁)の「折衷説」(中川=清永編・前掲書E296~298頁[新井・波多野執筆])ともいうべき、次の【㋑】の「基本的な考え方」(税制調査会・前掲答申別冊63頁)に基づくものである。 要するに、修正申告については、その申告行為は先行の納税申告と一体化して1つの納税申告となるものの、その効力は先行の納税申告の効力とは切り離して、増差税額についてのみ生ずるとされているのである。前回4で述べたように、一般に、納税義務の確定は「一応の確定」(清永・前掲書228頁)にとどまり、それが正しくされない場合は「重畳的確定」(磯邊・前掲書83頁、廣瀬・前掲書28頁、武田監修・前掲書1129頁)がされるが、修正申告の効力に関してだけは「重畳的確定」ではなく「追加的確定」というべきである。 このような修正申告の効力を「追加的確定効」と呼ぶことにすれば、国税通則法20条が修正申告に追加的確定効のみを認めたのは、先行する納税申告に基づく租税の納付・徴収の効力の安定を図るためである。つまり、修正申告の追加的確定効は、租税徴収の観点から定められたものであるが、そうであるが故に、申告納税制度の実定的把握は、修正申告の追加的確定効を定める国税通則法20条の規定において、その意味を具体的に認識することができるのである。 なお、前記【㋐】の(b)の考え方について若干付言しておくと、納税者が修正申告をする場合には、修正申告によって先行の納税申告に係る税額を増額するだけでなく、その税額の計算の基礎となった事実(課税要件事実)の内容を変更し課税標準の中身を入れ替える場合(例えば最判平成2年6月5日民集44巻4号612頁の事案のように、収入の計上漏れに伴う当該収入の計上と、錯誤に基づく概算経費選択の意思表示の撤回に伴うより高額の実額経費の計上がされる場合。金子・前掲書981頁、前掲拙著【147】も参照)もあることを考えれば、その(b)の考え方は、租税実体法・課税要件法の観点からみると妥当な考え方であり、その意味では修正申告の効力に関しては国税通則法の体系的構造(第1回3参照)に適合するものといえよう。 (了)

#No. 506(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/02/09

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第23回】「短期前払費用の取扱い」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第23回】 「短期前払費用の取扱い」   税理士 石川 幸恵   【Q】 当社(3月決算法人)は、所有する事務機器について毎年3月に翌事業年度(4月から翌年3月まで)の保守契約を締結し、同月中に1年分の保守料を支払っています。この1年分の保守料の取扱いですが、法人税の申告においては、支払った日の属する事業年度において損金の額に算入(法基通2-2-14)し、消費税においても支出した日の属する課税期間において課税仕入れを行ったものとして取り扱っています(消基通11-3-8)。 インボイス制度導入後もこの取扱いに変更はありませんか。 〔ポイント〕 (1) 短期前払費用の課税仕入れの時期の取扱いは、インボイス制度においても変更はありません。 (2) 短期前払費用の期間が令和5年10月1日をまたぐ場合、保守サービス事業者が令和5年10月1日より適格請求書発行事業者となるよう登録をしていないときは、令和5年9月までの保守料と10月以降の保守料で取扱いが変わる可能性も考えられます。 *  *  * 【A】 短期前払費用の課税仕入れの時期は、インボイス制度においても現行制度と同様、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱います(インボイスQ&A問96)。 保守サービス事業者が令和5年10月1日より適格請求書発行事業者となるよう登録をしていない場合の令和5年10月以後の保守料については、短期前払費用の趣旨である重要性の原則により全額を仕入税額控除の対象とするのか、仕入税額相当額の80%を控除する経過措置の対象となるのか明らかではありません。 この場合の考え方については、「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【具体的事例編】」の「問7(短期前払費用として処理した場合の仕入税額控除)」が参考になると考えられます。   (1) 短期前払費用の課税仕入れの時期 短期前払費用の取扱いについては、インボイス制度においても現行制度と同様、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱います。適格請求書の受領が翌課税期間になっても構いません(インボイスQ&A問96)。   (2) 短期前払費用の期間が令和5年10月1日をまたぐ場合の取扱い ① 保守サービス事業者が適格請求書発行事業者の登録をしている場合 保守サービス事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者の登録をしている場合については、令和5年3月の属する課税期間の消費税申告において、前払費用の全額について仕入税額控除を行います。翌課税期間にその短期前払費用について改めて処理をする必要はありません。 ② 保守サービス事業者が適格請求書発行事業者の登録をしていない場合 保守サービス事業者が令和5年10月1日から適格請求書発行事業者となるような登録をしていない場合については、「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置の取扱いQ&A【具体的事例編】」の「問7(短期前払費用として処理した場合の仕入税額控除)」を参考に、次のような取扱いが考えられます。 〈パターン1〉 〈パターン2〉 以上のように契約期間が令和5年10月1日をまたぐ場合には、仕入税額控除の額や課税仕入れの時期に影響があるかもしれません。契約締結前に、相手先に適格請求書発行事業者の登録の予定を確認しておくことをお勧めします。 (了)

#No. 506(掲載号)
#石川 幸恵
2023/02/09

〔令和5年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】「「オープンイノベーション促進税制の拡充と延長」 「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」「みなし配当の額の計算方法等の見直し」「寄附金の損金不算入制度の見直し」」

〔令和5年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第2回】 「「オープンイノベーション促進税制の拡充と延長」 「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」「みなし配当の額の計算方法等の見直し」「寄附金の損金不算入制度の見直し」」   公認会計士・税理士 新名 貴則   令和4年度税制改正における改正事項を中心として、令和5年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第1回】は、「人材確保等促進税制の見直し(大企業)」及び「所得拡大促進税制の見直し(中小企業者等)」について解説した。 【第2回】は「オープンイノベーション促進税制の拡充と延長」、「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」、「みなし配当の額の計算方法等の見直し」及び「寄附金の損金不算入制度の見直し」について解説する。   1 オープンイノベーション促進税制の拡充と延長 「オープンイノベーション促進税制」とは、青色申告書を提出する法人が、一定のベンチャー企業に対して出資を行う場合に、その投資額の25%相当額の所得控除を認める制度である。ベンチャー企業に積極的に投資することを後押しする制度として、令和2年度税制改正において創設された。 ただし、株式取得の日から一定期間内に当該株式を売却等した場合は、その部分を益金に参入することになるので注意が必要である。 令和4年度税制改正において次のように見直された上で、令和6年3月31日まで2年間延長されている。 ① 対象法人 適用対象となる法人の要件について、次のように見直しが行われている。 (※) 当該法人が主体となるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)による出資も対象。 ② 出資対象となるベンチャー企業 出資対象となるベンチャー企業の主な要件は次の通りであるが、一部に見直しが行われている。 ③ 特定株式 対象法人が取得する特定株式には、主に次のような要件を満たすことが求められる。この点について変更はない。 ④ 税制優遇措置 税制優遇措置の内容は次の通りであり、この点について変更はない。 特定株式の取得価額の25%以下の金額を特別勘定として経理した場合、特別勘定として経理した金額の合計額を損金に算入できる。ただし、その事業年度の所得の金額を上限とする。 また、1件当たりの取得価額の上限額は100億円であり、一事業年度の損金算入限度額は125億円とされている。 ⑤ 特別勘定の取崩し 特定株式の取得から 3年(令和4年度税制改正により、5年から3年に期間が短縮されている)を経過するまでに、特別勘定の取崩し事由に該当することとなった場合は、その事由に応じた金額を取り崩して益金に算入する。具体的には、次のような場合である。 この改正は、令和4年4月1日から令和6年3月31日までの間に特定株式を取得した場合に適用されるため、令和5年3月期決算申告には適用されることになる。   2 大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し 所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資に消極的である大企業については、研究開発税制等の税額控除が適用できない制度が設けられている。令和4年度税制改正により、一定の大企業を対象として適用要件が厳格化された。 この改正は令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、令和5年3月期決算申告には適用されることになる。 (※1) 税額控除と特別償却の選択適用が認められている場合は、特別償却の適用は可能。 (※2) 令和4年度税制改正により、「資本金10億円以上かつ従業員数1,000人以上で、前期が黒字の法人」については、下記の要件に厳格化された。 ➡当期の継続雇用者の給与等支給額 ≧ 前期の継続雇用者の給与等支給額 ×100.5% (令和6年3月期以降は101%)   3 みなし配当の額の計算方法等の見直し 令和3年3月11日の最高裁判決を受けて、令和4年度税制改正において、利益剰余金と資本剰余金の両方を原資として行われた剰余金の配当(混合配当)について、「株式又は出資に対応する部分の金額(減資資本金額)」の計算方法の見直しが行われた。 具体的には、「減資資本金額」について、実際に減少した資本剰余金の額を上限とするとされた。 この改正は令和4年4月1日以後に行われる払戻し等から適用されるので、令和5年3月期決算申告においては適用が開始されている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。   4 寄附金の損金不算入制度の見直し 令和2年度税制改正により、寄附金の損金不算入制度における、損金算入限度額の算定基礎となる資本金等の額は、「資本金の額+資本準備金の額」とされた。 この改正は令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、令和5年3月期決算申告には適用されることになる。 (了)

#No. 506(掲載号)
#新名 貴則
2023/02/09

〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第5回】「玉突き型の組織再編成」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第5回】 「玉突き型の組織再編成」   公認会計士 佐藤 信祐     7 玉突き型の組織再編成 (1) TPR事件 子会社の繰越欠損金を親会社に引き継ぐために、親会社と子会社の統合を考えるのが一般的であるが、稀に繰越欠損金だけを移転することができないかという相談を受けることがある。 すなわち、分社型分割又は事業譲渡により子会社の事業を新会社に移転し、抜け殻になった子会社を被合併法人とし、親会社を合併法人とする吸収合併を行った場合には、繰越欠損金のみを親会社に移転することができる。 【適格新設分社型分割+適格合併】 〈ステップ1:適格新設分社型分割〉 〈ステップ2:適格合併〉 しかし、子会社が抜け殻になってしまうようなストラクチャーは、繰越欠損金を移転するだけで、それ以外の事業目的が認められないことから、包括的租税回避防止規定が適用される可能性がある。そして、平成13年度税制改正により組織再編税制が導入された当初から、めぼしい資産を合併により親会社に引き継いでおらず、単純に親会社に資産を譲渡したほうが容易である場合には、事業目的が十分に認められないと判断される可能性があるといわれていた。 さらに、TPR事件(東京高判令和元年12月11日Westlaw Japan 文献番号2019WLJPCA12116002)では、事業に係る工場等の建物及び製造設備が合併により親会社に引き継がれていることから、本来であれば事業目的が認められるといわれていた事案であったが、①税負担減少の意図があったこと、②税負担の減少目的が事業目的を上回っていたことから、従来に比べて厳しい判断が下されている。 (2) 適格分社型分割+適格合併 東京高判令和元年12月11日の第一審(東京地判令和元年6月27日Westlaw Japan 文献番号2019WLJPCA06278001)では、「組織再編成税制は、完全支配関係がある法人間の合併についても、他の2類型の合併と同様、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定しているものと解される。」「法人税法57条2項についても、合併による事業の移転及び合併後の事業の継続を想定して、被合併法人の有する未処理欠損金額の合併法人への引継ぎという租税法上の効果を認めたものと解される。」としており、東京高裁も同様の判断を行っている。 すなわち、新会社に事業を引き継ぐにしても、子会社に事業の一部を残しているのであれば、事業単位の移転により合併法人に繰越欠損金を引き継いだと認定する余地が生じることから、包括的租税回避防止規定を適用するにしても、TPR事件とは異なる根拠が必要になってくる。 例えば、子会社が10店舗の飲食業を営む法人であり、1店舗のみを残し、9店舗を新会社に移転させた後に、1店舗のみが残った子会社を被合併法人とし、親会社を合併法人とする吸収合併を行ったものとする。この場合には、1店舗のみを事業譲渡又は分割型分割により親会社に移転することに合理性があり、わざわざ適格分社型分割+適格合併という手法を用いる理由はないという事案が想定される(※12)。すなわち、税負担の減少目的が事業目的を上回っている可能性が高いことから、制度趣旨に反する場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地が生じるのである。 (※12) もちろん、適格分社型分割+適格合併という手法を用いる合理的な理由がある事案も想定されるため、個別の事案に応じて柔軟な判断が必要になる。 それでは制度趣旨に反するかどうかについて検討すると、前述のように、事業単位の移転であることから、TPR事件を参考にすることはできない。これに対し、適格分社型分割により新会社に繰越欠損金を引き継ぐことを認めなかったために、適格合併により親会社に繰越欠損金が引き継がれていることから、適格合併についてのみ繰越欠損金の引継ぎを認めた制度趣旨に反するということが明らかであれば、包括的租税回避防止規定が適用できそうである。 この点については、「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」において、「分割型の会社分割の場合には、移転する事業に係る繰越欠損金の計算の困難性を考慮し、その引継ぎについては、実務的に慎重な検討を行う必要がある。」としていることから、理論上は、適格合併以外の組織再編成でも、事業の移転先に繰越欠損金を引き継がせるべきであったが、制度の簡素化のために、適格合併の場合にのみ繰越欠損金を引き継ぐことができる制度になったと考えることもできる。すなわち、制度の簡素化のために制度趣旨に反する行為が可能になっていることを利用して、法人税の負担を不当に減少させたのであれば、包括的租税回避防止規定を適用すべきであるという考え方はあり得る。 しかしながら、適格合併及び適格分割型分割のいずれも「帳簿価額による引継ぎ」と規定されているのに対し(法法62の2①②)、適格分社型分割、適格現物出資、適格現物分配及び適格株式分配では、「帳簿価額による譲渡」と規定されている(法法62の3①、62の4①、62の5③)。そして、「合併又は分割型分割による資産等の移転が原則どおり資産等の『譲渡』と『取得』とされる場合には、基本的には、各種引当金や準備金などの計算上の数額は引き継がれませんが、資産等の移転が特例として資産等の『引継ぎ』とされる場合には、基本的には、これらの計算上の数額も引き継がれることとなります。」(※13)とされていることから、簿価による引継ぎをした場合には、繰越欠損金を引き継ぐという考え方はあり得るが、簿価による譲渡をした場合には、繰越欠損金を引き継ぐという考え方は成り立たない。そのため、適格合併以外の適格組織再編成で繰越欠損金を引き継ぐべきだったものは、適格分割型分割のみであり、制度の簡素化のために、適格分割型分割であっても繰越欠損金の引継ぎを認めなかったと解さざるを得ない。 (※13) 朝長英樹ほか「法人税法の改正」『平成13年版改正税法のすべて』150頁(大蔵財務協会、平成13年)。 すなわち、大部分の事業又は資産をグループ会社に移転させた後に、適格合併により繰越欠損金を合併法人に引き継ぐことについては、事業又は資産の移転先に繰越欠損金を引き継がせようとした法人税法57条2項の制度趣旨に反するという考え方はあり得る。しかしながら、適格分社型分割により分割承継法人に繰越欠損金を引き継がないことが制度の簡素化によるものであり、適格分社型分割により大部分の事業又は資産をグループ会社に移転させた場合に分割承継法人に分割法人の繰越欠損金を引き継がないようにしたことが制度趣旨に反するとまではいえない。そのため、現状では包括的租税回避防止規定を適用すべきとも、適用すべきではないとも判断できないことから、今後の研究を重ねることにより、自分なりの考えを公表する予定である。 (3) 非適格分社型分割+適格合併 それでは、事業譲渡又は非適格分社型分割により含み損を実現させてから適格合併により繰越欠損金を引き継いだ場合はどうであろうか。 この場合には、資産及び負債が時価で譲渡されていることから、事業譲受法人又は分割承継法人に繰越欠損金を引き継ぐ理由は存在しない。すなわち、子会社にもともと存在していた繰越欠損金及び事業譲渡若しくは非適格分社型分割により生じた繰越欠損金を事業単位の移転を伴う適格合併により親会社に引き継ぐことについては、制度趣旨に反しないということになる。 例えば、子会社が10店舗の飲食業を営む法人であり、1店舗のみを子会社に残し、9店舗を支配関係のある他の子会社に事業譲渡した場合を想定したい。この場合には、完全支配関係がないことから、グループ法人税制は適用されないため、事業譲渡により9店舗に係る含み損が実現することになる。そして、当該含み損の実現により生じた繰越欠損金が適格合併で親会社に引き継がれることになるが、1店舗が残っていることから、事業単位の移転であることを否定することはできない。 もちろん、事業譲渡又は非適格分社型分割であることから、グループ外に事業を譲渡してから適格合併をする場合には、上記のように1店舗のみがM&Aの対象から除外され、除外された1店舗を適格合併により引き継ぐということが考えられるため、経済合理性が十分に認められる事案も存在すると思われる。ただし、事業譲渡又は非適格分社型分割により大部分の事業を譲渡する手法は、被買収会社の簿外債務の遮断のために行われることが多いのに対し、支配関係のある法人との間で上記のストラクチャーが行われる場合には、そのような理由が存在しないことから、他の合理的な事業目的が存在しない限り、税負担の減少目的が事業目的を上回っていると認定される可能性があると考えられる。 ただし、現行法上は、【第4回】で解説したように、完全支配関係を外した行為が不自然・不合理であれば、包括的租税回避防止規定が適用される可能性はあるものの、それ以外の場合には、事業譲渡又は非適格分社型分割により含み損を実現させることも、適格合併により繰越欠損金を引き継ぐことも、制度趣旨に反することが明らかであるとはいい難く、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)

#No. 506(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/02/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第50回】「株式交換における配当還元価額への影響」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第50回】 「株式交換における配当還元価額への影響」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 佐藤 達夫   相談内容 私はX社(不動産賃貸業)及びY社(製造業)の社長です。X社の株式は、私が2株(100%)所有しており、Y社の株式は、私が102株(51%)、従業員や取引先49名で98株(49%)を所有しています。X社とY社は、ともに非上場会社です。 X社が所有する不動産をY社の工場として賃貸していますので、将来的な経営統合を見据え、株式交換によりY社をX社の子会社とすることを考えています。この株式交換により、従業員や取引先が所有する株式の評価額に影響が出ないか心配です。株式交換における株価への影響や留意点をご教示ください。 なお、株式交換は、次の内容とする予定です。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 株式交換による株式交換完全子法人の受入れについて (1) 子法人株式の取得価額 株式交換完全親会社が取得をした株式交換完全子法人株式の取得価額は、次のとおりとされています(法令119①十)。 ご相談の場合、Y社の株主数は50人であるため、法人税法上、X社におけるY社株式の受入仕訳は、次のとおりになります。 (2) 資本金等の額 株式交換により、株式交換完全親会社において増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①十)。 (※) 会社法その他の法令により増加した資本金、資本準備金、その他資本剰余金   [2] 株式交換による配当還元価額への影響 (1) 配当還元価額の計算方法 配当還元価額は、次のとおり計算します(財基通178本文ただし書、188、188-2)。 (※) 直前期末以前2年間の剰余金の配当金額から、将来毎期継続することが予想できない配当金額を控除した金額の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式数(1株当たりの資本金等の額が50円以外の金額である場合には、直前期末における資本金等の額を50円で控除して計算した数)で除して計算した金額。ただし、この計算によって求めた金額が2円50銭未満及び無配である場合には、2円50銭とします。 (2) 本件事例における影響 従業員や取引先が所有する株式の配当還元価額は、株式交換前後で、次のとおり変動します。 〈株式交換前(Y社)〉 (※1) 年配当金額(過去に配当金を支払ったことがないため、2円50銭) (※2) 1株当たり資本金等の額(20百万円/2,000株=10,000円) 〈株式交換後(X社)〉 (※1) 年配当金額(過去に配当金を支払ったことがないため、2円50銭) (※2) 1株当たり資本金等の額(20,020百万円/2,200株=9,100,000円) 株式交換により、X社の資本金等の額が増加(20百万円→20,020百万円)したため、配当還元価額が910倍となり、X社株式を保有する従業員や取引先の取引価額や相続・贈与時の相続税・贈与税が増加することとなってしまいます。   [3] 結論 ご相談の事例では、Y社の株式交換前の株主数が50名のため、Y社を株式交換完全子法人とする株式交換を実施した場合、X社の増加する資本金等の額が、株式交換完全子法人の適格株式交換等の日の属する事業年度の前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額となります。そのため、Y社を株式交換完全子法人とする株式交換を実施した場合、X社の資本金等の額が大幅に増加することになり、配当還元価額が株式交換前と比較して910倍になります。 仮に、株式交換前の株式交換完全子法人の株主数を整理して50人未満とした場合においても、株式交換完全子法人の株主の帳簿価額を引き継ぐことになるため、過去から利益が蓄積されている会社で、株式交換完全子法人の株主が他の株主から株式の買取りをしている場合には、株式交換完全子法人の株主の帳簿価額が高額になる可能性もあります。 ご相談の場合、株式交換を実行してからでは、配当還元価額が高額になるからといって、株式交換をなかったことにすることはできません。 このような株式交換をはじめとする組織再編を実施する場合には、事前に税理士等の専門家と相談のうえ、シミュレーションをしたうえで実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 506(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/02/09

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第12回】「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その4)」-建蔽率①-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第12回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その4)」 -建蔽率①-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 第10回及び第11回において、容積率を確認しました。今回は、容積率と並んで重要な項目である建蔽率について確認してみることにします。 建蔽率とは、建築物の建築面積(注1)が当該建築物の敷地の用に供されている宅地の面積である敷地面積(注2)のうちに占める割合をいいます。これを算式で示すと、次のとおりとなります。 (算式) また、上記の建蔽率の計算事例を示すと、次のとおりとなります。 上記で求めた建蔽率の割合(数値)が高い(当然のことではありますが、その上限値は理論的に100%となります。)ほど、敷地部分の空間が少ないこととなります。 建蔽率の規定を設けることで、次のような目的が達せられます。   解決への指針 (1) 建蔽率(建築基準法第53条(建蔽率)第1項に規定する建蔽率(原則的な建蔽率)) 建築基準法第53条(建蔽率)第1項の規定では、建築物の建築面積を算定するに当たっては、用途地域ごとに建蔽率が指定されています。これを表にまとめると、次のとおりになります。(以下、この表の規定によって適用される建蔽率を「原則的な建蔽率」といいます。) (2) 建蔽率(建築基準法第53条(建蔽率)第3項に規定する建蔽率(特例的な建蔽率)) 建築基準法第53条(建蔽率)第3項の規定では、上記(1)に掲げる原則的な建蔽率について、一定の要件を充足する場合には、上記(1)により求められた建蔽率に1/10又は2/10を加算したものを建蔽率とするものとしています。(以下、この規定によって求められた建蔽率を「特例的な建蔽率」といいます。)上記に掲げる一定の要件をまとめると、次の表のとおりになります。 上記の特例的な建蔽率の計算事例を示すと、次のとおりとなります。 (了)

#No. 506(掲載号)
#笹岡 宏保
2023/02/09

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第71回】「受益権が複層化された信託に関する権利を取得した場合における小規模宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第71回】 「受益権が複層化された信託に関する権利を取得した場合における 小規模宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲は、自己が所有するA土地(アスファルト舗装がされた月極駐車場)において貸付事業を行っています。甲はA土地以外で貸付事業を行っていませんので、事業的規模以外の貸付事業に該当します。 甲は、最終的にはA土地を長男である丙に承継させたいと考えていますが、配偶者である乙の老後の生活資金等のため、A土地の賃料収入は、甲の死亡後は、乙に帰属させるため、下記の遺言信託を令和3年10月に締結しました。 【遺言信託の内容】 【相続関係図】 甲は令和4年10月1日に相続が発生しています。 遺言信託により、乙は令和4年10月からの賃料等を収受していますので、令和4年10月から12月分までの賃料等を不動産所得として、令和4年分の確定申告を行っています。 令和4年における不動産の評価は、下記のとおりとなります。 【A土地の相続税評価】 上記の前提事項である場合に甲の死亡時におけるA土地に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の減額金額はどのようになりますか。 また、乙が平均余命年数である10年よりも先に相続が発生した場合には、信託は終了し、収益受益権に対して丙が相続税の課税を受けることになると思いますが、この場合には貸付事業用宅地等の特例の適用を受けることはできるのでしょうか。   [A] 甲の死亡時におけるA土地に係る相続財産の種類、相続税評価及び小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)の減額金額は下記のとおりとなります。 なお、乙の相続時において収益受益権の評価額がある場合には、その収益受益権に属する土地について、特例適用を受けることができると考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 信託受益権がある場合の相続財産の種類 信託に関する権利又は利益を取得した者は、信託財産に属する資産及び負債を取得したものとみなされますので、信託に属する資産が土地である場合には、土地を取得したものとみなされます(相法9の2⑥)。 収益受益権と元本受益権の定義は、信託法において規定されていませんが、相続税法基本通達9-13において、下記のとおり定められています。 収益受益権、元本受益権はいずれも受益権が派生したものとなりますので、乙及び丙は受益権に属する土地を取得したものとみなされます。   2 信託受益権の評価 信託受益権の評価は、財産評価基本通達202に基づき、下記のとおり評価します。 財産評価基本通達202(信託受益権の評価) (括弧書き部分は筆者追記) 本問の場合のように収益受益者(乙)と元本受益者(丙)が異なる場合には、原則として上記(3)により評価を行うことになります。まず上記(3)ロにより収益受益権の価額を求めることになります。収益受益権の価額算定においては、受益の期間の求め方や推算した利益の価額算定について明確な求め方が定まっていませんので、合理的な方法によって算定する必要があります。受益の期間については、通常、乙の平均余命年数に基づき計算することが合理的な方法になるかと思います。また、推算した利益の価額を算定する際には、相続開始時点における賃貸借契約書や過去の賃料等に基づき合理的に算定されていれば問題ないかと考えます。 本問の場合には、設問の前提事項により収益受益権の価額は28,000千円となりますので、元本受益権の価額は72,000千円(100,000千円-28,000千円)となります。 元本受益権の価額は、信託財産の価額から収益受益権の価額を控除して求めることになりますので、次の算式が成り立ちます。 乙が取得した収益受益権の価額は、時の経過と共に減少していき、10年(甲の死亡時における乙の平均余命年数)経過後に0となります。反対に丙が取得した元本受益権については、時の経過と共に増加していくことになります。これを図式化すると下記のとおりとなります。 【収益受益権と元本受益権の関係】 10年以内に乙に相続が発生した場合には、丙が収益受益権を取得することになりますので、乙死亡時における収益受益権に対して相続税が課税されることになります(相法9の2④)。これに対して10年経過後に乙に相続が発生した場合には、丙が収益受益権を取得しますが、収益受益権の価額は0となりますので、収益受益権に対しての相続税の課税は発生しないことになります。 また、本問の場合には、受益者連続型信託には該当しませんが、仮に受益者連続型信託に該当した場合には、相続税法基本通達9の3-1の定めにより、甲の死亡時においては、元本受益権の価額が0で評価されますので、収益受益者である乙に100,000千円が課税され、乙死亡時に丙に信託財産の全部の価額(路線価等に変動がなければ100,000千円)が課税されることになります。 相続税法基本通達9の3-1(受益者連続型信託に関する権利の価額) 受益者連続型信託の定義については、本連載【第70回】で解説しています。   3 信託に関する権利がある場合の小規模宅地等の特例の適用 小規模宅地等の特例は、相続開始の直前において、被相続人又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業の用又は居住の用に供されていた「宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう、以下同じ)」を対象としています(措法69の4①)。あくまでも宅地等を小規模宅地等の特例の対象としていますので、信託に関する権利は小規模宅地等の特例の適用対象にならないのではないかとの疑問もあるかと思います。 しかしながら、信託に関する権利又は利益を取得した者は、信託財産に属する資産及び負債を取得したものとみなされますので、信託に属する資産が土地である場合には、土地を取得したものとして、特例の適否を考えます(相法9の2⑥、措令40の2㉗)。 したがって、特例の対象になるものとして、個人が相続又は遺贈により取得した信託に関する権利が含まれますが、次に掲げる信託に関する権利は除かれます(措通69の4-2)。 本問の受益権が複層化された信託については、上記で除外されている信託には該当しませんので、要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例の対象となります。   4 貸付事業用宅地等の意義 貸付事業用宅地等とは、被相続人等の事業(不動産貸付業その他駐⾞場業、⾃転⾞駐⾞場業及び準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)とする。以下「貸付事業」という)の⽤に供されていた宅地等で、次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たすその被相続⼈の親族が相続⼜は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業⽤宅地等を除く)をいいます。 本問の場合には、甲の貸付事業の用に供されていた宅地等を乙及び丙が取得していますが、貸付事業を承継した親族のみが特例対象者となります。乙は収益受益権を、丙は元本受益権を取得していますが、貸付事業を承継した者が誰であるのかが問題となります。   5 貸付事業を承継した者の検討 貸付事業は、不動産貸付業その他駐⾞場業、⾃転⾞駐⾞場業及び準事業をいうとされていますが、用語の意義を整理すると下記のとおりとなります。 〈貸付事業、準事業、特定貸付事業の整理〉 被相続人等の貸付事業が準事業に該当するかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で当該貸付事業が行われていたかどうかにより判定することとされていますが、具体的には、次に掲げる貸付事業の区分に応じて、下記のとおり判定を行うことになります(措通69の4-24の4、所基通27-2)。 本問の場合には、駐車場業・自転車駐車場業のうち自己の責任において他人の物を保管しないもので不動産所得を生ずべき事業以外の準事業に該当することになりますので、その準事業を誰が引き継いでいるかが問題となります。 準事業とは、上記記載のとおり『相当の対価を得て継続的に行うもの』とされています。『相当の対価を得て継続的に行うもの』については、本連載【第42回】で解説をしていますが、相当の対価とは、収入から必要経費を引いて、なお相当の利益が生じるような対価を得ているかどうかにより判定を行い、継続的か否かの判断は、貸付契約時にその貸付けが相当期間継続して行われることが予定されているかどうかで判定することになります。 信託財産の管理及び運用によって生ずる利益は収益受益者に帰属することになりますので、収益受益者である乙は相当の対価を継続的に受けることになります。一方の元本受益者については、利益(所得)の帰属者ではありませんので、相当の対価を得ていないと考えられます。 したがって、甲の死亡時において貸付事業を承継した者は、乙であり、丙ではないと考えられます。そして乙の死亡時においては、相続開始の直前において乙は準事業を行っていたことになり、乙の死亡により丙がその準事業を承継したことになります。 上記の解釈については、あくまでも筆者の私見であり、法令や通達等において明らかにされていない部分ですので、信託契約の内容や下記6の所得税の取扱いにも留意しながら、個々の事例に応じて慎重に検討する必要があります。   6 所得税の取扱い 所得税法の取扱いにおいては、信託の受益者は信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、その信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなされます(所法13①)。そして、受益者が2以上ある場合には、それぞれの受益者の権利の内容に応じて信託財産を有するものとし、その信託財産に帰せられる収益及び費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとするとされています(所令52④)。 受益権が収益受益権と元本受益権に複層化された場合に、所得計算をどのように行うかについては、明確化されていませんが、実質所得者課税の原則(所法12)からすれば、所得は収益受益者に帰属することになると考えられます。   7 本問の場合の当てはめ (1) 乙について 乙は甲の死亡時において収益受益権を取得していますので、収益受益権の価額が相続税評価額となります。被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等を取得し、被相続人の貸付事業の継続要件を満たすことになりますので、他の要件を満たせば特例の対象となります。 特例の減額金額は200㎡まで50%減額となりますので、14,000千円(28,000千円 × 50%)となります。 なお、適用面積の求め方に明確な規定はありませんが、元本受益権の価額と収益受益権の価額の比で求めることが合理的かと考えます。 (2) 丙について ① 甲の死亡時の取扱い 丙は甲の死亡時において元本受益権を取得していますので、元本受益権の価額が相続税評価額となります。被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していますが、被相続人の貸付事業の継続要件は満たしていないと考えられますので、特例の適用を受けることはできないことになります。 ② 乙の死亡時の取扱い 丙は乙の死亡時において収益受益権を取得していますので、乙死亡時における収益受益権の価額が相続税評価額となります。乙の収益受益権に属する貸付事業の用に供されていた宅地等を取得し、貸付事業の継続要件を満たすことになりますので、他の要件を満たせば特例の対象になると考えられます。   ★実務上のポイント★ 受益者連続型信託に該当しない複層化された信託については、収益受益権の価額を合理的な方法で求める必要があります。複層化された信託の場合の小規模宅地等の特例の適用については、その取扱いが明らかにされていませんので、信託契約の内容を確認しながら、特例の適用要件を満たしているかどうかを慎重に検討する必要があります。   (了)

#No. 506(掲載号)
#柴田 健次
2023/02/09
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