〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第23回】 「国境を越えた電子商取引に係る消費税の課税に関するQ&Aの公表について」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社は国内に本店を有する法人です。海外メーカーと取引契約を締結し、その商品を日本国内の消費者に販売しています。販売方法は、次の3つです。 なお、(1)の商品は海外メーカーへファックスで注文して輸入し、(2)及び(3)は海外メーカーから購入者へ商品を直送しています。 令和8年7月15日に国税庁より公表された「国境を越えた電子商取引に係る消費税の課税に関するQ&A」のうち、当社が確認しておくべき問はありますか。 【A】 はい。今回公表されたQ&Aには62題が掲載されていますが、「少額輸入貨物(課税価格の合計額が1万円以下の輸入貨物で一定のもの)」を通信販売の方法により譲渡する場合の取扱いをはじめ、内国法人向けにも実務上参考となる問が含まれています。 下記の【解説】にて、令和10年4月1日以後、内国法人が質問のような取引を行う場合に確認しておきたい問を紹介します。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ 令和8年度税制改正では、課税の公平の観点から「国境を越えた電子商取引に係る課税の見直し」が盛り込まれた。改正の背景や概要は本誌掲載の下記拙稿も参照されたい。 (1) 実店舗での対面販売 貴社は輸入者の立場であるが、当質問のように海外メーカーへファックスで注文して商品を仕入れる取引は通信販売の方法による少額輸入貨物の取引には該当せず、店舗での消費者への販売は通常の国内取引であるため、今回の改正の影響はない。 輸入時に支払った輸入消費税等については、仕入税額控除の適用を受けることができる。なお、「通信販売の方法」の意義については、問2で解説されている。 (2) 自社サイトでの販売 ① 特定少額資産の譲渡について 譲渡が行われた時の資産の所在場所が国外であるため、令和8年度税制改正前においては課税の対象とはされていなかった。改正により特定少額資産の譲渡に該当する場合には、国内において行われた資産の譲渡として、消費税の課税対象とされる(問1)。特定少額資産は一の資産について対価の額が1万円以下とされているが、「一の資産」の詳細については問3~9を参照されたい。 また、簡易課税制度により仕入控除税額を計算する場合、特定少額資産の譲渡に係る課税売上高はみなし仕入率を乗ずる対象となる課税売上高に含まれない。この点については、問10で示されている。 ② 特定少額資産販売事業者について 貴社が特定少額資産販売事業者の登録を受けると、輸入者は保税地域からの引取りに係る消費税が免除される(問14)。 この登録は任意である(問15)。ただし、登録を受けた場合は事業者免税点制度が適用されない(問27)。 (3) ECモールによる販売 オンラインマーケットプレイスなどのデジタルプラットフォームを提供している事業者のうち、一定の要件を満たし、国税庁長官から指定を受けたプラットフォーム事業者を第二種プラットフォーム事業者という。第二種プラットフォーム事業者が提供するデジタルプラットフォームを介して行う次の資産の譲渡で、その第二種プラットフォーム事業者を介してその対価を収受するものについては、その第二種プラットフォーム事業者がその資産の譲渡を行ったものとみなして、消費税の申告・納税を行うこととされた。 ②は内国法人にも関係するため、確認しておきたい(問29)。 (4) 事業者免税点制度に関する経過措置 令和10年4月1日を含む課税期間については、当該課税期間においては、特定少額資産の譲渡が課税対象となるが、その基準期間においては課税の対象ではない。納税義務判定にあたっては、特定少額資産の譲渡を含めて(ただし、プラットフォーム課税の対象となる取引は含めないで)計算するよう経過措置が設けられているので、注意されたい(問59~60)。この経過措置は、国外事業者に限らず内国法人にも適用される。 (了)
〈最短で理解する〉海外取引の税務実務ガイド 【第3回】 「海外進出の入口」 -進出形態の選択と、初期段階で見落としがちな税務リスク、コスト- 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 吉本 壮介 Q 顧問先から「海外進出を考えている」との話がありました。 会社の事業部門は販売戦略や現地パートナー選定などに目下集中しているようですが、顧問税理士として最初におさえるべきポイントは何でしょうか。 A 海外進出における税務は、日本と現地国という二つの税務当局を見据えて設計する必要があります。その一つに進出形態の選択があります。 海外進出は、一般的に、駐在員事務所、支店、現地法人(子会社)の形態が考えられます。どの形態を選択するかによって、現地で法人税等の申告が必要になるのか、どの範囲で本社が責任を負うのか、親子間取引の論点は何か、さらには撤退時にどの程度の手続きやコストが発生するのかが変わってきます。 顧問税理士としては、進出形態、進出先の税率、現地での活動内容、維持管理コスト、撤退時の負担、現地当局の動向まで含めて、事業計画の前提を確認する視点をもつことが重要です。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ 1 進出形態の「三択」と税務の分かれ道 海外進出の形態は、(1)駐在員事務所、(2)支店、(3)現地法人(子会社)の3つが一般的です。重要なのは、これは単なる法的形式の違いではなく、「どこで税金が課されるのか」「どのような管理体制が必要になるのか」を左右する経営上の選択であるという点です。 (1) 駐在員事務所 ― 軽い形態だが「PE(Permanent Establishment)認定」が論点に ― 駐在員事務所は、市場調査、情報収集、広告宣伝などの活動を目的として設置されることが一般的です。通常、現地では売上を計上せず、契約締結や販売活動も行わないことが前提とされ、比較的簡易な形態として利用されます。 活動内容が市場調査などにとどまる限り、現地で法人税の課税対象とはならず、駐在員事務所で生じた経費は日本法人の経費として処理されることが一般的です。 一方、実務上は「営業していないつもり」がリスクになりえます。 現地駐在員が顧客と価格交渉を行っていたり、契約締結に向けた重要な役割を果たしていたりする場合、現地当局から営業拠点、すなわち「PE(恒久的施設:所法2八の四、法法2十二の十九、OECDモデル租税条約5)」と認定される可能性があります。 PEとは簡単に言えば、企業が海外で事業を行うための現地拠点です。 国際税務では「PEなければ課税なし」という考え方が根底にありますが、PE認定されてしまうと、現地で法人課税などが生じうることになります。 PEの有無は課税に大きな影響を及ぼす分水嶺であり、この論点は次回以降あらためて解説します。 実務上のチェックポイント 駐在員事務所については、現地で行う活動の範囲、契約交渉への関与度合い、承認フローなどをあらかじめ明確にし、実態を説明できる資料を整備するのが望ましいでしょう。 (2) 支店 ― 設立は比較的簡易だが、所得帰属や費用配賦に注意 ― 支店は、日本法人の一部として現地で事業を行う形態です。独立した法人ではなく、日本本社と同一の法人格のまま海外で事業を行うため、現地法人と比較すると設立手続きが比較的容易であると言われています。 一方で、支店は現地で事業を行うことを前提としていることが多く、通常はPEに該当し、現地で法人税等の申告が必要となります。また、支店が負った債務については、最終的に日本本社で責任を負うことになります。 税務上は、現地支店に帰属する所得は日本国でも課税対象となり、現地と日本で二重課税が生じるため、外国税額控除などの二重課税排除措置を検討すべきでしょう(支店が赤字であれば日本本社の所得から控除されます)。 支店課税で問題になりやすいのは、所得の帰属や経費の認定です。 このうち経費認定については、例えば、日本本社が人事、経理、IT、管理部門等の共通機能を提供している場合、本社費用の一定額を支店へ配賦することがあります。 この場合、現地当局からは、 などといった点をシビアに確認されることがあります。 実務上のチェックポイント 支店を設置する場合には、本社費用の配賦基準、支店の損益管理、現地申告体制を事前に整理しておくことが重要です。日本側で合理的と考えられる処理であっても、現地当局が納得しなければ、損金性を否認されるリスクがあります。 (3) 現地法人(子会社) ― 本格展開の典型だが、親子間取引の管理が重要に ― 現地法人(子会社)は、独立した法人格をもち、営業活動、人材採用、許認可取得などの企業活動を幅広く行うことができるため、本格的な海外展開を行う企業に広く利用されています。 また、原則として責任は現地法人に限定されるため、親会社とのリスク分離(遮断)という観点でもメリットがあります。もっとも、現地法人を設立したからといって、日本親法人から税務上切り離されるわけではなく、設立後は日本親会社と現地法人との取引が新たな税務論点の芽になります。 例えば、商品販売、役務提供、ロイヤルティ、貸付、出向者負担金などが発生する場合には、移転価格税制、寄附金課税、源泉税、租税条約の適用などを検討する必要が出てきます。 立上げ期には、 といった対応が行われることがあります。 しかし、税務上は、親子間取引であっても、「第三者間であればどうなるか」という視点で検証されますので、子会社に対する収益計上もれ、あるいは寄附金として認定されるリスクがあります。また、現地子会社の赤字や低利益率が継続すれば、現地当局から移転価格課税などを受けるリスクもあります。 実務上のチェックポイント 現地法人を設立する場合には、設立時点から親子間取引の内容、契約書、価格設定根拠、役務提供の実績記録、利益率の検証などを行い証憑を整備することが重要です。 2 進出コストの予算化 海外進出の事業計画では、売上予測や設備投資額に目が向きがちですが、設立以後の維持コスト等を事前に想定し見積もることが望ましいです。 (1) 専門家費用 海外では会計、税務、法務などはタイムチャージとなるケースも多く、相談、契約書レビュー、当局対応、決算申告、監査、登記更新、給与税務などの費用が積み上がります。その他、銀行口座開設などに付随するコスト、現地居住役員の報酬が必要になる場合もあります。 (2) 駐在員コスト 駐在員を派遣する場合には給与以外にも、住宅費、社会保険、医療保険、子女教育費、一時帰国費用などに加え、会社が現地所得税を負担する場合には、いわゆるグロスアップ計算により負担額が想定以上に大きくなることがあります。 (3) 撤退コスト 撤退は、海外進出では入口段階で考慮すべきコストです。 現地法人の清算や支店の閉鎖には一定の時間と手続きが必要であり、そのための専門家コストに加えて通常の維持費もかかります。 国によっては、税務当局の厳格な調査や確認が行われ、想定以上に膨大な時間やコストがかかるケースがあります。 実務上のチェックポイント 海外進出では、設立時よりも、維持費や撤退時のコストが長期的に重い負担になりやすく、事前に概算コストを想定しておくべきでしょう。 3 まとめ 以上のように、海外進出にはコストの事前予測と税務視点の事業計画への織り込みが重要です。また、進出形態如何により、税務論点やコスト負担が大きく変わります。 顧問税理士としては、海外進出の入口である設計段階から状況を把握し、現地税務当局の執行姿勢や課税実務も踏まえて対応策を練ることが望ましいものと言えるでしょう。 海外進出(入口)チェックリスト ☑ 駐在員事務所、支店、現地法人における税務上の論点を理解したか ☑ 現地で予定している活動内容(営業、契約、在庫管理など)を明確に整理したか ☑ 契約交渉、署名権限、承認フローなどを確認したか ☑ 本社費用の配賦基準や証憑を確認したか ☑ 親子間取引の概要、契約書、価格設定根拠、利益率の根拠などを確認したか ☑ 法人税以外の負担(給与課税、社会保険、VAT・GST等)を確認したか ☑ 専門家費用を設立時だけでなく維持費として見積もっているか ☑ 駐在員関連コスト(住宅費、教育費、税負担等)を事業計画に織り込んでいるか ☑ 撤退時の手続きやコストについてリスクとして把握し織り込んでいるか ☑ 税務、経理部門が事業計画の初期段階から関与し、意思決定に参画できているか ☑ 日本当局だけでなく、現地当局の課税の動向や論点にも配意しているか 次回も引き続き、海外進出に関連するテーマを取り上げる予定です。 (了)
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第7回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅱ 戦略技術領域型の研究開発税制の創設 1 改正の概要 国家として戦略技術分野の試験研究を促進する観点から、新たに「重点産業技術試験研究費に係る税額控除制度(戦略技術領域型)」を創設し、産業技術力強化法の改正法の施行日から、令和11年3月31日までの間に産業技術力強化法の認定を受けた計画に基づく対象分野への試験研究費について、以下の措置を講じる(措法42の5)。 対象分野 AI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙 税額控除率 ① 認定計画に従って行う対象分野に係る試験研究費の額(重点産業技術試験研究費の額):40% ② ①のうち、産業技術力強化法の認定研究開発機関との共同・委託試験研究費の額(特別重点産業技術試験研究費の額):50% なお、戦略技術領域型の対象とした試験研究費については、既存制度との重複は不可。 控除上限率 既存制度とは別枠で①②合計で、法人税額の10%。 繰越税額控除限度超過額は、3年間の繰越控除が可能となる。 なお、[重点産業技術試験研究費に係る税額控除制度(戦略技術領域型)]について定める租税特別措置法第42条の5は、執筆日現在、未施行(産業技術力強化法の一部を改正する法律の施行の日に施行予定)となっている。また、それに関連する租税特別措置法施行令、租税特別措置法施行規則、地方税法は公布されていない。 (出典) 経済産業省「経済産業関係 令和8年度税制改正について(令和7年12月)」 2 グループ通算制度における取扱い 重点産業技術試験研究費に係る税額控除制度(戦略技術領域型)について、グループ通算制度における取扱いは以下のとおりとなる。 1 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 2 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とする。 3 通算法人の繰越税額控除額の計算方法 4 別表添付要件 重点産業技術試験研究費に係る税額控除制度(戦略技術領域型)については、一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型)と同様となる(措法42の5③二・⑥、42の4⑨)。 また、重点産業技術試験研究費に係る繰越税額控除制度(戦略技術領域型)については、中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除制度(中小企業技術基盤強化税制の繰越控除制度)と同様となる(措法42の5③二・⑦、42の4⑩)。 5 重点産業技術試験研究費に係る税額控除の遮断措置(戦略技術領域型の遮断措置) 重点産業技術試験研究費に係る税額控除額について、一般試験研究費に係る税額控除の遮断措置と同様の取扱いとなる(措法42の5③二、42の4⑧四・五・六・七・⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑱)。 また、重点産業技術試験研究費に係る繰越税額控除額について、中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除の遮断措置と同様の取扱いとなる(措法42の5③二、42の4⑧十四・十五・十六・⑫⑬⑰⑱)。 (続く)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第76回】 「外国子会社に多額の含み益がある場合」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私は、P社の経理担当取締役Aです。当社は同族オーナーのB社長がすべての株式を保有しており、長男であるC専務に贈与又は相続で株式を承継することを予定しています。 つい先日、相続対策についてメインバンクに相談したところ、当社が10年前に設立したベトナム子会社S社の業績が好調で内部留保が急激に積みあがっている結果、次の2つの問題があることを指摘されました。 このことをB社長とC専務に報告したところ、P社が株式等保有特定会社に該当しても、事業承継税制(相続税の納税猶予)を使えば無税になるわけだから影響ないだろうと、お二人には真剣に取り合っていただけません。 P社が株式等保有特定会社に該当しても事業承継税制を適用すれば自社株式に関する相続税が猶予されるので、P社やS社の株価については気にしなくてもよいのでしょうか。それとも、S社株式の評価額を引き下げて、P社が株式等保有特定会社に該当しないように対処すべきでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 非上場会社が保有する外国法人株式の評価 P社が保有する国外財産であるS社株式についても他の資産と同様に財産評価基本通達に定める評価方法により評価することになりますが、外国法人の株式については類似業種比準価額を算定することが困難であることから、純資産価額方式に準じて評価を行うことになります(財産評価基本通達5-2)。 純資産価額方式により評価する場合、内部留保の蓄積が株式評価額の上昇に直結することになりますので、P社が株式等保有特定会社(※)に該当することがないように留意が必要です(下記〈図1〉参照)。 (※) 株式等保有特定会社:課税時期において評価会社の有する各資産を財産評価基本通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式、出資及び新株予約権付社債の価額の合計額の割合(株式等保有割合)が50%以上である評価会社をいいます(財産評価基本通達189(2)、189-3)。 S社の純資産価額が上昇することを抑制するためには、S社からP社に対して配当を行うなど、S社の純資産価額を引き下げる対策が必要となります。 〈図1〉外国子会社が株式等保有割合に及ぼす影響 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 [2] 外国子会社がある場合の事業承継税制 法人版事業承継税制(贈与税・相続税の納税猶予)は、雇用の確保・維持などを条件に日本国内の中小企業者の円滑な事業承継を支援することが目的の制度であるため、対象会社(P社)が外国子会社等(S社)を有している場合には、雇用確保の要件が通常よりも加重されると同時に、外国子会社等の価値相当が納税猶予額の計算から除外されることになります。 したがって、P社株式の評価額のうちS社株式の評価額に相当する部分については法人版事業承継税制を適用しても納税猶予の対象とはならず、C専務に贈与税又は相続税の負担が生じることになります。 (1) 対象会社の従業者数要件 法人版事業承継税制を適用するには、承継会社の常時使用従業員の数が1人以上であることが必要となりますが、対象会社(P社)の特別子会社(S社)が外国会社に該当する場合には、P社の常時使用従業員の数が5人以上であることが必要となります(措法70の7②一、70の7の2②一、70の7の4②一、70の7の5②一、70の7の6②一、70の7の8②二)。 (2) 納税猶予額の計算 対象会社(P社)が外国会社の株式等を有しているときは、納税猶予分の贈与税または相続税の計算の基となる当該特例受贈非上場株式等の価額は、P社がS社の株式等を有していなかったものとして計算した価額とされます(措法70の7②五、70の7の2②五、70の7の4②四、70の7の5②八、70の7の6②八、70の7の8②四)。 [3] 結論 P社株式について法人版事業承継税制を適用する場合でも、S社株式の評価額に相当する部分については納税猶予額の計算から除外されることになるため、S社株式の評価額を引き下げておく対策が必要です。 P社が保有するS社株式は、純資産価額方式に準じて評価を行うことになるため、たとえば、S社がP社に対して配当を行うことで、P社が保有する資産に占めるS社株式の割合(株式等保有割合)を引き下げることが可能となります(下記〈図2〉参照)。 P社が株式等保有特定会社に該当しなくなれば、「一般の評価会社」として類似業種比準価額と純資産価額方式の折衷法によることが可能になり、P社株式の相続税評価額を引き下げることができるでしょう。 〈図2〉S社からの配当による保有資産の組み替え ただし、P社がS社から配当金を受領することで、P社の類似業種比準価額における比準要素、具体的には「1株当たりの年利益金額」、「1株当たりの純資産価額」が増加し、P社の類似業種比準価額が上昇することが想定されますので、S社から配当を実行する前に配当実施後の相続税評価額への影響を分析したうえで実施することが必要です。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
〔実務で差がつく!〕 相続時精算課税制度Q&A 【第8回】 「相続時精算課税適用財産の相続税での債務控除の取扱い」 税理士 徳田 敏彦 【Q】 子Bは父Aから平成30年に土地3,500万円の贈与を受けた。子Bはその贈与について、相続時精算課税制度を選択した。 令和8年3月に父Aに相続が発生し、父Aの相続財産は現金1,000万円と借入金1,500万円だった。 父Aの相続税の債務控除は相続時精算課税適用財産の価額からも控除が可能か。 【A】 相続時精算課税適用財産から債務控除することが可能である。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ ◎債務控除について 相続税の計算における債務控除は、相続や遺贈によって取得した財産の価額から控除することができる。 ただし、相続開始前7年以内の贈与財産に対して相続税で純資産価額に加算される「暦年課税分の贈与財産価額」からは控除することができない。 一方で、相続時精算課税制度による贈与財産は相続財産の前渡しとしての性格を持つため、相続財産に持ち戻して相続財産と同様に課税が行われる。そのため相続税の課税価額に加算される「相続時精算課税適用財産の価額」からは債務控除することができる(相法21の15②、21の16①)。 相続時精算課税適用者が相続又は包括遺贈により財産を取得した場合には、その者が無制限納税義務者、制限納税義務者のいずれでも債務控除することができる(相基通13-9)。 (了)
期中会計基準を学ぶ 【第3回】 「原則的な会計処理、期中特有の会計処理など」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 期中財務諸表の作成のために採用する会計方針は、原則として年度の財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠するが、期中特有の会計処理及び簡便的な会計処理も認められている(期中会計基準9項)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計方針、会計方針の継続適用及び会計方針の変更 期中財務諸表の作成のために採用する会計方針は、期中特有の会計処理を除いて、原則として年度の財務諸表の作成にあたって採用する会計方針に準拠しなければならない(期中会計基準9項)。 ただし、期中財務諸表の開示対象期間に係る企業集団又は企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する財務諸表利用者の判断を誤らせない限り、簡便的な会計処理によることができるとされている(期中会計基準9項)。 期中財務諸表作成のための特有の会計処理は、原価差異の繰延処理及び税金費用の計算とされている(期中会計基準14項)。 次のことに注意する(期中会計基準10項~12項)。 Ⅲ 期中特有の会計処理 期中財務諸表作成のための特有の会計処理は、原価差異の繰延処理及び税金費用の計算である(期中会計基準14項~16項)。 項目 会計処理 原価差異の繰延処理 標準原価計算等を採用している場合において、原価差異が操業度等の季節的な変動に起因して発生したものであり、かつ、原価計算期間末までにほぼ解消が見込まれるときには、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産又は流動負債として繰り延べることができる(期中適用指針の「[設例1]原価差異の繰延処理」)。 税金費用の計算 ① 親会社及び連結子会社の法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金(以下「法人税等」という)については、期中会計期間を含む年度の法人税等の計算に適用される税率に基づいて、原則として年度決算と同様の方法により計算し、繰延税金資産及び繰延税金負債については、回収可能性等を検討した上で、期中貸借対照表に計上する(なお、期中適用指針において、「年度決算と同様の方法による税金費用の計算における簡便的な取扱い」、「繰延税金資産の回収可能性の判断における簡便的な取扱い」が規定されている(期中適用指針16項~18項))。 ② ただし、税金費用については、期中会計期間を含む年度の税引前当期純利益に対する税効果会計適用後の実効税率を合理的に見積り、税引前期中純利益に当該見積実効税率を乗じて計算することができる(期中適用指針において、「税引前期中純利益に年間見積実効税率を乗じて計算する期中特有の会計処理」が規定されている(期中適用指針19項、20項))。 この場合には、期中貸借対照表計上額は未払法人税等その他適当な科目により流動負債として(又は繰延税金資産その他適当な科目により投資その他の資産として)表示し、前年度末の繰延税金資産及び繰延税金負債については、回収可能性等を検討した上で、期中貸借対照表に計上する。 (※) 期中適用指針では、「重要性が乏しい連結会社における簡便的な会計処理」、「期中連結財務諸表における法人税等の会計処理」なども規定されている(期中適用指針22項~25項)。 Ⅳ 一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理 期中適用指針は、期中会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高は、次のように算定することができるとして、簡便的な会計処理を規定している(期中適用指針3項)。 Ⅴ 有価証券の減損処理 1 有価証券 期中会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れについては、期中洗替え法によるとし、期中洗替え法によることを原則としている(期中適用指針4項、BC13項)。 従来、「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)では、有価証券の減損処理に係る方法として継続適用を条件に四半期切放し法と四半期洗替え法の選択適用を認めていたが、期中適用指針では、期中洗替え法を原則としている(期中適用指針BC11項)。 ただし、次のように、一定の条件のもとに、期中切放し法の適用も例外的に認められている(期中適用指針4項、BC16項)。 これは、従前から期中会計期間末に切放し法を適用していた企業においては、これまで会計方針の選択にあたり年度と同様の会計方針を採用していたものであり、期中洗替え法が原則となるとしても、これまでの会計方針の選択の判断が必ずしも否定されるものではないなどの理由による(期中適用指針BC14項、BC15項)。 2 市場価格のない株式等 市場価格のない株式等について、発行会社の財政状態の悪化により実質価額(通常は、1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じることにより算定される)が著しく低下したときは相当の減額を行わなければならない(期中適用指針5項)。 財政状態が悪化しているかどうかの判断にあたっては、期中会計期間末までに入手し得る直近の財務諸表を使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明した場合には、直近の財務諸表に当該判明した事項を加味することが望ましいとされている(期中適用指針5項)。 3 「金融商品会計に関するQ&A」の改正 「金融商品会計に関するQ&A」(移管指針第12号)Q31には次の記載があったが、期中会計基準等の公表を反映し、削除されている。 4 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」の改正 「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第6号)145-2項では、期中会計基準において「有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法」について洗替え法を原則とすることとしたが、固定資産の減損会計について洗替え法の採用を求めるものではないことが記載されている。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2026年7月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年7月1日から7月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ◎ 改正企業会計基準第27号「法人税等に関する会計基準」等 (内容:法人税等に関する原則的な定めを置くこととし、具体的な税金を特定しない方法に見直すもの) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ◎ コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定 (内容:成長投資の促進、取締役会の機能強化、有報の定時株主総会前の開示等について記載している) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「品質管理レビュー基本方針(2026年度~2028年度)」及び「2026年度品質管理レビュー方針」 (内容:品質管理レビューの方針を示すもの) ② 「2025年度 品質管理レビュー事例解説集Ⅰ部・Ⅱ部」 (内容:繰延税金資産の回収可能性、棚卸資産の評価、収益認識などについての改善勧告事項について解説している) ③ 監査事務所検査結果事例集(令和8事務年度版) (内容:公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) ④ 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正 (内容:報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応するもの) (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第33回】 「申立て書類について理解しよう(その2)」 ~戸籍謄本・住民票等、登記されていないことの証明書、親族関係図について~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 前回の解説で「本人情報シート」や「医師の診断書」についてのポイントは理解できました。 その他の書類についてもポイントを教えてもらえますか。 【A】 家庭裁判所への後見開始の審判の申立てに必要になる書類等については前回も解説しましたが、円滑に申立てを進めるために知っておいた方がよいポイントが他にもいくつかあります。 今回は、本人や候補者の「戸籍謄本・住民票等」や、「本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書」、「親族関係図」について解説をします。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 戸籍謄本・住民票等 後見開始の審判申立てには、本人の戸籍謄本や住民票、成年後見人候補者の住民票等の公的書類が必要になりますが、住民票についてはマイナンバー表示のないものを取得する必要があります。また、期限が定められており、申立前から3か月以内のものである必要があります。期限については、「成年後見人等の登記がされていないことの証明書」などにも設けられているため、個別にチェックが必要になります。 一般的に前回解説をした「本人情報シート」や「医師の診断書」の発行には時間がかかるところ、発行を待っている間に先に取得した戸籍謄本等の期限が経過してしまい、取り直しが必要になるということがあります。なかなか診断書等が発行されず、ヤキモキしてしまうこともありますが、どのような順番で必要書類を取得していくべきかを整理しておくとよいでしょう。 2 本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書 「本人の成年後見人等の登記がされていないことの証明書」については、各地の法務局の本局に出向いて取得するか、東京法務局に郵送して取得することになります。 申立書の書式は以下の通りですが、「証明事項」の欄についていずれにチェックすべきかが間違えやすいため注意が必要です。「成年被後見人、被保佐人、被補助人、任意後見契約の本人とする記録がない。」にチェックを入れる必要があります。 代理人が取得をする場合には委任状が必要になりますが、委任事項としては「登記されていないことの証明書〇通の申請及び受領に関する一切の権限」というように記載をします。 (※) 東京法務局ホームページより転載(筆者において一部加工) 発行される「登記されていないことの証明書」のひな形は以下のとおりです。 (※) 東京法務局ホームページより転載 3 親族関係図 本人の親族関係を説明するために「親族関係図」を作成することになります。書式は裁判所の所定のものが用意されており、記載例も紹介されています。親族関係図には、本人、申立人、後見人候補者について記載をするほか、推定相続人やその他の親族についてもわかる範囲で記載をしていくことになります。 後見開始の申立てには親族の意見書も添付する必要がありますが、この親族関係図が意見書を取り付けるべき親族の参考となります。もし連絡が取れないことがわかっている親族や健康状態により意見書の取り付けができない親族がいる場合には、その旨を記載しておくとスムーズでしょう。 (了)
〈執筆:編集X〉 書く論 第8回 「文才は天才か」 法律をもとにした難しい内容とはいえ、実務の解説に書かれている文章にも「分かりやすいもの」と「分かりづらいもの」があります。 著者の先生からいただいた原稿を読ませていただき、その流れるような解説にうっとりすることもあれば、「あぁ・・・(これはなかなか大変そうだ)・・・」と、これからの道のりに心を曇らせることもあります。 特に、ほとんど初めて実務の原稿を書いたという方の文章が分かりやすいものだったら、編集者としてはそれだけで「長くお付き合いしたい」(いろんなテーマをご提案したい)とすら考えてしまいます。 原稿を依頼するとき、その人の文章が上手いかどうかは、編集者は、正確には分かりません。過去に著作のある方であったとしても、分かりづらい箇所などは出版に際し手直しされますので、その方の本来の文章(原稿)がそのまま掲載されないケースもあります。このため、発刊された書籍を読ませていただき、その名文に惚れ込んで原稿を依頼した人から、なかなかに読みづらい原稿をいただいたとき、その奥にいる、その書籍の編集者の存在に思いをはせたりします(遠い目・・・)。 また、人前で話すのを得意とされ、数多くのセミナー講師をされている方が、筆力も高いとは限りません。逆に普段から口頭で内容を補足することに慣れておられるせいか、原稿全体がレジュメのように見出しと大きな図で構成されており、文章による解説が圧倒的に不足しているケースもよく見られます。ジャンルに限らず良書とは、ある意味「挫折せず最後まで読み終えることのできる本」とも言えますので、1つ1つの解説を階段とした場合に、その段差が大きい(または階段自体がない)ものは、読者をゴールまで導くのは大変難しい。 ちなみに、これは文章力とは異なりますが、かつて本を出したい(原稿を書きたい)という方の一定数が「普段からブログ(今でいうnote)を書いているので、原稿を書く自信はあります」とおっしゃる方でした。ただ、行間も広くコンテンツごとの内容・分量もシンプルな当時のWeb媒体に比べ、一般的な実務書に求められる文字数の多さと緻密さに、途中で筆が止まることも多かったです。書き上げる「胆力」とでもいうのでしょうか、そういう力も文章力と言えるのかもしれません。 このように文章力は人によって異なるのですが、「努力すれば何とかなる」かというと、これもまた、意外と難しいのです。 真面目で、でも、どうしても分かりづらい文章を書いてしまう方が、何とか目の前にあるご自身の原稿と格闘し、分かりやすくしようとしても、逆にどんどんよく分からない内容に陥ってしまうケースを、何度も目の当たりにしてきました。僭越ながら参考にしてもらえるよう、編集Xが少し手直しさせていただいたとしても、改善される様子は見られず、原稿完成まで長い道のりを歩むこともしばしば。 「・・・。文才って実は、天からの授かりものなのか?」 そういう考えが頭をよぎったこともあります。ただ、それは誤りでした。 あるとき、『○○税理士法人を卒業された税理士さんは、皆さんけっこうな確率で(生まれながらのような?)文章力がある』と気づきました。 そして、複数の方にそれとなく「なぜ先生は、そんなに文章がお上手なのですか」と伺ったところ、「その税理士法人に所属しているときに、『書く』業務を割り当てられ、かつ、文章について先輩から厳しく指導されまして・・・」とのご返事が。 やはり、鍛錬が必要なのだなと、実感した瞬間でした。 じゃあどのようにすれば、文章力が身につくのでしょうか。 おそらくそれは、「自分には文章を書く力が、思ったほどない」と自覚し、法律を学ぶように、「文章の書き方を学ぶ」のを意識することから始めると、よいのではないでしょうか。 なんでもSNSの時代、誰もが手軽に、『著者』になれます。ただし、「自身の書いた文章を公にできる=自分には文章力がある」わけではないのは、意図が伝わらず誤解を与える表現のまま投稿し、燃えてしまうニュースが後を絶たないことから、明らかだと思います。 普段から、実務の解説をよく(×10)読み、その肌感覚を身に付けたうえで、この連載でお伝えしたような などを意識し、アウトプットを続けていくことが必要なのかもしれません。 最後に、編集X自身も若かりし頃、文章を書くことにコンプレックスがあり、いろいろ修行を重ねていたところ、新聞社の編集委員をされていたSさんにお会いしました。Sさんの「文章には悲しみが必要」という言葉には学ぶべきことが多く、故人となられた今も師と仰いでいます。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
B PJ Bookmark ── August 2026 ── ◇ 退職金の支給、 見落としはありませんか? 夏季賞与の支給を終え、それを区切りに職場を去る人が増えてくる時期になりました。 退職金は、制度をどう設計するか、いくら支給するか、どう会計処理するか、そして退職時の手続をどう処理するか・・・関わる分野が税務・会計・労務・経営と広く、それぞれに見落としやすい論点が潜んでいるテーマではないでしょうか。 今回は「退職金」をめぐる実務を、制度・税務・会計・手続の各場面から5本の記事でたどってみます。 〇 退職金、それぞれの場面で何を見落とさないか 退職金の実務は、まず「どんな制度にするか」という設計から始まります。基本給連動型・定額型・ポイント型など方式ごとに性格が異なり、選び方が後々の運用を左右します →1本目。 経営 退職金制度の作り方 【第2回】「退職金制度の種類」 執筆:なりさわ社会保険労務士事務所 代表/特定社会保険労務士 成澤 紀美 退職金制度といっても、その仕組みは一通りではありません。本記事は、基本給連動型・定額型・ポイント型・別メニュー型という4つの方式を、それぞれの長所と短所を対比させながら整理しています。たとえばポイント型は貢献度を反映しやすい一方、ポイント単価の引下げが不利益変更の問題につながりうるなど、方式選びが後の運用にどう響くかが見えてくる内容です。制度設計の入口で全体像をつかんでおきたいときに参考になりそうです。 この記事を読む 制度が決まれば、次は支給時の課税です。従業員の退職所得は退職所得控除と1/2課税が基本ですが、勤続年数が短い場合には近年の改正で扱いが変わっています →2本目。役員の場合はさらに論点が増え、過大役員退職給与や分掌変更といった、否認リスクと隣り合わせの判断が求められます→3本目。 税務 〔令和3年度税制改正における〕退職所得課税の適正化 【第1回】「退職所得課税の基本と『短期退職手当等』の取扱い」 執筆:公認会計士・税理士 新名 貴則 退職所得は、退職所得控除を差し引いた残額に1/2を乗じるのが基本ですが、勤続年数が短いケースではこの1/2が制限される点に注意が必要です。本記事は、平成24年度改正の「特定役員退職手当等」に続いて導入された「短期退職手当等」を取り上げ、勤続5年以下の従業員について、控除後の残額のうち300万円を超える部分には1/2を適用しない仕組みを、改正前後の計算例を並べて解説しています。数字で効果を追えるので、従業員の退職所得を計算する場面で押さえておきたい内容です。 この記事を読む 税務 中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第12回】「役員退職金をめぐる税務の基本と使い途」 執筆:税理士法人トゥモローズ 役員退職金は、従業員の退職所得とは別の論点を抱えています。本記事は、過大役員退職給与の判定で実務上一般的な功績倍率法、分掌変更による退職給与の取扱い(給与のおおむね50%以上の減少が一つの目安とされる点)、死亡退職金のみなし相続財産と非課税枠まで、法人税・所得税・相続税の三面から基本を押さえています。あわせて、相続資金や株価対策といった「使い途」にも触れられており、オーナー経営者への助言を念頭に読んでおきたい一本ではないでしょうか。 この記事を読む 支給額が固まれば、今度は会計処理です。中小企業では簡便法による退職給付引当金の計上が選択肢になりますが、適用できる範囲や算定方法にいくつかの分岐があります →4本目。 会計 フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第25回】「退職給付引当金(簡便法)」 執筆:仰星監査法人/公認会計士 西田 友洋 退職給付引当金は原則として数理計算によりますが、中小企業では簡便法が選択肢になります。本記事は、簡便法を採用できるか(原則として従業員300人未満)の判断から、退職一時金制度・企業年金制度・併用の場合それぞれの退職給付債務の算定方法、引当金・費用の計算、注記までを、フロー・チャートに沿って順を追って示しています。どの分岐をたどればよいかが図で確認できるので、自社やクライアントがどの方法に当てはまるかを整理するのに役立ちそうです。 この記事を読む そして見落とされがちなのが、退職時の社会保険料の処理です。退職日が月末か月末でないかによって、控除すべき保険料の月数が変わってきます →5本目。 労務 誤りやすい[給与計算]事例解説 【第4回】「退職時の社会保険料控除」 執筆:税理士・社会保険労務士 安田 大 退職金の支給と同じタイミングで処理が必要になるのが、最後の給与からの社会保険料控除です。本記事は、月末退職の場合に資格喪失日が翌月1日となり、退職月分まで保険料の負担が生じる仕組みを、誤りやすい事例として取り上げています。締め日と支給日の関係で退職月に給与支給がないと、最後の給与から2ヶ月分を控除する必要が出てくるケースなど、退職日が月末か否かで結論が分かれる点が具体的に整理されています。退職処理の最後で取りこぼしを防ぐために確認しておきたい内容です。 この記事を読む Afterword 今回は「退職金」を切り口に5本の記事をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。制度の設計から、従業員・役員それぞれの課税、会計処理、そして退職時の手続まで、一つのテーマでも関わる分野は驚くほど広く、それぞれに確認しておきたい論点があることが見えてきたように思います。 4本目にご紹介した西田友洋公認会計士の連載「フロー・チャートを使って学ぶ会計実務」は、2026年7月に書籍化されました。膨大な会計基準のうち主要な論点に絞って、実務での件順序がわかるようフローチャートを示して重点的に解説されています。もしご興味があればぜひ手に取って見てください。 Profession Journal (了)