《速報解説》 経産省から「会社法の改正に関する報告書」が公表される ~従業員・子会社の役職員に対する株式の無償交付や 事業報告等と有報の一体開示等に関し検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年1月17日、経済産業省に設置された「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」から、「会社法の改正に関する報告書」が公表された。 報告書は、企業の成長投資を後押しする会社法の改正の方向性を述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 上記の事項に関して、例えば、次のことを述べている。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「監査報告書に係るQ&A」の改正案を公表 ~報酬依存度に関する取扱いの理解促進のための補足等行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年1月17日、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、報酬依存度に関する取扱いが十分に理解されていないことなどについて補足するものである。 意見募集期間は2025年1月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 会計検査院、賃上げ促進税制の上乗せ措置に関し見直しを求める報告書を公表 ~教育訓練増加額を上回る税額控除を受ける法人が9,812社にのぼる~ Profession Journal編集部 会計検査院は1月15日(水)、会計検査院法第30条の2に基づき、国会及び内閣へ下記の随時報告を行った。 今回検証の対象となったのは、平成25年度税制改正における創設後も延長・見直しが繰り返され本誌でもたびたび解説記事を掲載してきた「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」、いわゆる賃上げ促進税制(措法42の12の5)のうち、教育訓練費の増加割合に応じた税額控除率の上乗せ措置に係る部分。本制度は令和6年度税制改正における令和9年3月31日までの3年延長に伴い、中堅企業枠の新設や中小企業向けの繰越控除、税額控除率の見直しに加え、新たに両立支援(くるみん)・女性活躍(えるぼし)認定ごとの上乗せを設けるなど大幅な見直しが行われた(詳しくは下記連載を参照されたい)。 報告書で対象とされた事業年度は上記改正前の「平成30事業年度から令和3事業年度」であり、この3事業年度に賃上げ促進税制を適用し電子申告を行った法人のうち、教育訓練費に係る上乗せ税額控除を適用した12,861法人(大企業:2,180法人、中小企業者等:10,681法人)を調査したところ、その76.2%にあたる9,812法人(大企業:1,456法人、中小企業者等:8,356法人)が教育訓練費増加額を上回る税額控除を受けており、さらにこの9,812法人のうち8,130法人については、教育訓練費支出額自体を上回る税額控除を受けていたとしている。 報告書によると財務省は、教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、政策目的に波及効果があるとされる支出額があることなどを適用要件として政策目的に直接関連した支出額の一部を税額控除できる他に例のない仕組みであり、上記のような状況については想定されるものの、教育訓練により生産性を向上させ、給与等を増加させることが政策目的であるとしていた。 このため会計検査院が「教育訓練費の増加が給与等の増加に及ぼす影響」について検証するため、経済産業省及び中小企業庁がその論拠とする各研究と実際の申告に係る数値とを比較したところ、教育訓練費が増加した場合の給与等支給増加額については研究に基づく結果が実際の額に比べて小さく、実際の上乗せ税額控除の額の合計額は研究に基づく結果に比べて大きく157億円の開差があるとした。 また、政策評価法に基づく評価や税制改正要望の際の検証にあたり、効果がどの程度あるかについて評価されていない、検証可能な数値目標及び要望措置の妥当性についての記載がないこと等を指摘した上で、次の点に留意して、その効果及び要望措置の妥当性を検証して、その検証結果を基に経済産業省等において見直しを検討することが重要であると結論付けた。 その上で会計検査院としては、今後とも本制度の適用状況、経済産業省等及び財務省による検証状況等について引き続き注視していくとしている。 なお、教育訓練費に係る上乗せ税額控除については、令和6年度税制改正において「教育訓練費が国内雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に限り適用可能」とする条件が追加されているが、今回調査対象となった12,861法人について、仮に同条件が追加されていたとしても、教育訓練費に係る上乗せ税額控除が適用できなくなるものは大企業延べ196法人(8.9%)及び中小企業者等延べ1,484法人(13.8%)にとどまっていたとしている。 (了) ↓お薦め連載記事↓
2025年1月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.602を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第33回】 「国税通則法74条の2《補論》」 -国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権) 1 はじめに 国税通則法74条の2は「当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権」という見出しの下、所得税、法人税又は地方法人税及び消費税に関する税務職員の調査に係る質問検査権を規定しているが、第28回の1では、「消費税は、『課税標準等又は税額等』の計算において[課税売上げと課税仕入れとの]差引計算を要素とする点で、所得税や法人税と共通の性格をもつといえよう。」と述べた上で、次のとおり述べた。 上の叙述では、消費税を「営業利益税的な性格をもつ一種の企業税」として捉えて、消費税に関する質問検査手続が所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続とされていることに対する理解を述べたが、ただ、それは、消費税の「課税標準等又は税額等」の計算構造に着目して示した理解であって、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)の負担内容、、、、に着目して示した理解ではなかった。そこで、今回は、第28回に関する「補論」として、後者の理解を中心に消費税に関する質問検査手続について検討することにする。 2 国税通則法上の「納税義務」 消費税法は消費税の課税要件について、同法4条1項が「国内において事業者が行つた資産の譲渡等及び特定仕入れ」を課税の対象(課税物件)として、同法5条1項が「事業者」を納税義務者として、同法28条1項及び2項が「課税資産の譲渡等の対価の額」及び「特定課税仕入れに係る支払対価の額」を上記の課税の対象に係る課税標準としてそれぞれ定め、そして同法29条が税率を定めている。課税要件のうち帰属については、同法4条1項が課税の対象を、事業者「が行つた」資産の譲渡等及び特定仕入れとして規定するという形で、課税の対象を納税義務者と結びつけることによって、定めている。 以上の課税要件が全て充足されると消費税の納税義務が成立するが(税通15条1項参照)、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)は、上記の成立した納税義務について仕入税額控除等の税額控除(消税30条以下)という「成立した納税義務の消滅原因の1つである免除のうち、納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【95】)を行った後の「納付すべき税額」(税通2条6号ニ)を意味する、あくまでも国税通則法(租税手続法)上の「消費税の納税義務」、すなわち、「納付すべき税額の確定」の対象となる納税義務(同15条1項、16条参照)であると考えるところである。 つまり、国税通則法が消費税を営業利益税的な性格をもつ一種の企業税として捉えた上で消費税に関する質問検査手続を所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続として定めていることについて第28回で述べた理解は、国税通則法上の「消費税の納税義務」について述べたものである。 3 消費税法上の「納税義務」 では、国税通則法(租税手続法)上の「消費税の納税義務」の基礎にある消費税法(租税実体法)上の「納税義務」に着目すると、消費税に関する質問検査手続をどのように理解すべきであろうか。この問題を検討するに当たっては、消費税の納税義務者としての「事業者」が消費税を「負担」することを消費税法の立法者が「予定」していないことをどのように考えるかが重要な意味をもつように思われる。 消費税法上の消費税も、他の「消費税(一般概念としての)」すなわち「物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)801頁)の多く(ゴルフ場利用税のような直接消費税以外の消費税)と同じく、間接税すなわち「法律上の納税義務者と租税の実際の負担者とが一致しないことを立法者が予定する租税」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)8頁)であるが、消費税法上の消費税は、立法者がそのような租税負担の転嫁を単に黙示的に「予定」するにとどまるのではなく、その「予定」を「法律」で明示的に定め、かつ、その「予定」を具体化するための措置を講ずることを「法律」で定めた点で、他の現行税法上の間接税と顕著に異なる間接税である。その「法律」が、消費税法(昭和63年12月30日法律第108号)と同時に制定された税制改革法(昭和63年12月31日法律第107号)である。 税制改革法は消費税について下記の定めを置いている(下線筆者)。 税制改革法のこれらの規定の趣旨及び内容を理解する上で、同法制定当時の大蔵省主税局長の次の回想録(水野勝『主税局長の1300日 税制抜本改革への歩み』(大蔵財務協会税のしるべ総局・1993年)246-247頁。下線筆者)は有益である。 また、同じ論者は別の論文でも次のとおり述べている(水野勝「わが国における一般的な消費課税の展開」碓井光明ほか編『金子宏先生古稀祝賀 公法学の法と政策 上巻』(有斐閣・2000年)189頁、214頁。下線筆者)。 以上でみてきた税制改革法の規定やその趣旨及び内容からすると、消費税法上の「納税義務」は、消費税の「負担」(租税負担)を内容とする実体的負担を伴わない「納税義務」というべきものである。もっとも、その「納税義務」には、消費税に係る納税事務の「負担」(事務負担)は伴うが、これは、税法の観点からすると、手続的負担である。 要するに、消費税法上の「納税義務」は、所得税法や法人税法が定める所得税や法人税の「負担」を内容とする実体的負担を伴う納税義務ではなく、消費税に係る納税事務の「負担」という手続的負担を伴う「納税義務」であり、その意味では、質問検査手続も消費税に係る納税事務の一環を成す以上、国税通則法上の「消費税の納税義務」すなわち「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)と内容上整合的に接合し得るといえよう。したがって、質問検査の相手方のうち「消費税法の規定による消費税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者」(税通74条の2第1項3号イ)については、「税務調査受忍義務」(清永・前掲書64頁)というような事務負担を伴う一種の協力義務を措定する必要はないことになろう。消費税法上の「納税義務」については、納付義務それ自体が「納税代行機関となる事業者」(水野・前掲論文214頁)にとって同じく一種の協力義務というべきものである。 4 憲法30条の「納税の義務」 以上において、国税通則法上の「消費税の納税義務」のほか消費税法上の「納税義務」も、租税負担(実体的負担)を伴わず事務負担(手続的負担)のみを伴う「納税義務」であることを明らかにしてきた。最後に、そのような「納税義務」が憲法30条の「納税の義務」に該当するかどうか検討しておくことにする。 憲法30条の「納税の義務」について大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(以下「大嶋訴訟・最大判」という)は次のとおり判示している。 この判示にいう「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであ[る]」という「見地」は、「民主主義的租税観」(金子・前掲書22頁、前掲拙著【14】)と呼ばれるが、大嶋訴訟・最大判は、民主主義的租税観の下で憲法30条及び84条を捉えている。その後に「それゆえ」で接続された「課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である」との判示は租税法律主義(ここでは課税要件法定主義・課税要件明確主義)を意味するものである。したがって、以上の2つの判示は、憲法が租税法律主義を財政民主主義(83条)の収入面での具体化として定めているという理解(租税法律主義の民主主義的再構成。これについては拙著『税法創造論』(清文社・2022年)10頁以下[初出・2020年]参照)に基づくものと解される。 前記の1つ目の判示によれば、憲法30条の「納税の義務」も民主主義的に再構成された義務であるということになろう。このことを「納税の義務の民主主義的再構成」ということにすると、それは、憲法は租税法律主義を課税権者たる国家の側から(84条)だけでなく被課税者たる国民の側からも(30条)定めているという理解(前掲拙著『税法基本講義』【10】参照)からもいえることである。 納税の義務の民主主義的再構成を明治憲法からの「法律」の意義の転換に照らしていえば、明治憲法21条の「納税ノ義務」を定める「法律」が、「臣民義務ノ性質ハ忠誠奉公ノ精神ヲ以テ国家ノ命スル所ニ従順ナルニ在リ。」(穂積八束『憲法提要 上巻〔4版〕』(有斐閣書房・1912年)385頁)といわれる天皇主権下の臣民義務を定める「法律」であったのに対して、憲法30条の「納税の義務」を定める「法律」は、国民主権下の国民の義務を定める「法律」であり「その[=国民の]総意を反映する租税立法」(大嶋訴訟・最大判)である。 このように民主主義的に再構成された「納税の義務」は、大嶋訴訟・最大判によれば、民主主義的租税観の下では、「国家の維持及び活動に必要な経費」を「租税」として「自ら負担すべきもの」という実体的負担(租税負担)を伴う「納税義務」であると考えられる。 そうすると、消費税法上の「納税義務」は、憲法上の国民主権・民主主義原理の観点からは、憲法30条の「納税の義務」には該当しないというべきであろう。消費税については、国民の「総意」が、消費者への「転嫁」を前提にして事業者に「納税義務」を課すことにある以上、憲法原理上は、憲法30条の「納税の義務」を負うのは消費者とすべきであろう。そうすると、消費税について事業者だけでなく広く消費者一般が強い関心を持っていると考えられる現状は、憲法30条の理念からみて好ましい状況として肯定的に評価すべきであろう。 ただし、憲法30条の「納税の義務」については、「憲法自体は、その内容について特に定めることをせず、これを法律の定めるところにゆだねている」(大嶋訴訟・最大判)と解される以上、立法者が、民主主義的租税観の下に税制改革の理念・基本政策を定める税制改革法という「基本法」を制定し、消費税について、その実体的負担(租税負担)を事業者による消費者への「円滑かつ適正な転嫁」に委ね(税制改革法11条1項)、かつ、「国は、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとする。」(同条2項)と宣明するとともに、消費税法という「通常の法律」に基づいて、事業者に消費税に係る手続的負担(納税事務負担)を伴う「納税義務」を課す、というような方法で憲法30条の「納税の義務」を具体化することも、立法裁量の範囲内にあり許容されると考えられる。 例えば、立法者は、消費税法上の「納税義務」が実体的負担(租税負担)を伴う納税義務でないが故に、上記の立法裁量の範囲内で難なく、リバースチャージ方式を採用し、もって特定仕入れを課税の対象(課税物件)とし(消税4条1項)特定課税仕入れを行った事業者を納税義務者とする(同5条1項)ことができたものと考えられる。ここに、消費税の課税要件の徴税技術性・便宜性が現れているように思われる(前掲拙著『税法創造論』703-704頁[初出・2017年]参照)。 要するに、前記のような立法裁量の範囲内で、立法者は消費税法上の「納税義務」を定め、これと同じ性質の義務(一種の協力義務)として国税通則法上の「消費税の納税義務」すなわち質問検査手続との関係では「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)を定めたものと考えられ、したがって、いずれの「納税義務」も正しく法律の創造物であるといえよう。 (了)
国際課税レポート 【第10回】 「令和7年度税制改正・国際課税関係の主要項目」 税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員 令和7年度税制改正では、OECD「第2の柱」の措置の法制化など、デジタル国際課税に関して重要な改正が行われる見込みだ。現時点での情報は限られているほか、法案審議も残されているが、関心が高いテーマであることから、本稿では主な項目についてポイントを説明することとしたい。また、諸外国の議論を紹介し、参考として供したい。 国際課税関係主要項目 ◆与党税制改正大綱 令和6年12月20日に自由民主党・公明党がとりまとめた「令和7年度税制改正大綱」(以下「与党大綱」という)は、具体的には次について述べている。 〈令和7年度税制改正・国際課税関係の主な項目(与党大綱による)〉 (注) 「項目」「考え方」は、便宜上筆者が整理したもので与党大綱における記述ではない。「」内は大綱からの引用を示す。 (出所) 自由民主党ホームページ「令和7年度税制改正大綱」(令和6年12月20日)より抜粋の上、筆者作成。 ◆税制改正大綱 令和6年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正大綱」では、主に次のとおり述べている。 ① UTPR、QDMTTの創設 ② CFC税制の見直し 諸外国の議論等 令和7年度税制改正で検討されている項目について、諸外国ではどのような議論があるか、簡単に紹介することとしたい。 ◆UTPR UTPR(国際最低課税残余額に対する法人税)は第2の柱の15%のグローバルミニマム課税を構成する3つの構成要素(※1)の1つであり、わが国は令和5年度改正で所得合算ルール(IIR)を導入し、UTPRとQDMTTは令和6年度改正以降の法制化を検討するとしていたものである。 (※1) 所得合算ルール(IIR)、軽課税所得ルール(UTPR)、国内ミニマム課税(QDMTT)のこと。わが国は令和5年度改正でIIRを導入済み。 EUでは2024年12月31日以降開始する事業年度からUTPRの適用を開始する方針だ。しかし、UTPRはネクサスや支配関係がなくても“域外適用”されることから、ポリシーの問題に加え、法的な問題が顕在化している。 ベルギーは、2023年12月にEU指令に従ってUTPRを国内法に導入し、2025年に適用することとした。これに対し、アメリカ商工会議所等(複数の団体が訴訟参加)はUTPRが憲法やEU基本法等に反する違法な立法であるとして訴訟を提起している(ベルギーでは、新法について、憲法適合性等についての訴訟を提起する制度がある)。 議会多数派である米国共和党議員はこの訴訟に支持を表明し、UTPRを課している国に対して報復することを目的とした法案を提出するにまで至っている。 シンガポール、マレーシア、スイスはUTPRを国内法に導入しないこととしており、スイスはその理由について潜在的な法的リスクをあげている。 ◆利益B 利益Bは、単純な販売子会社との取引について移転価格税制の適用の簡素化を目指したものであり、2024年2月にOECD移転価格ガイドラインの一部となっている(※2)。 (※2) 本連載【第3回】「OECD声明と米・伊財務相発言から読み解く利益Aと利益B」参照 ポイントは、TNMMによる独立企業間価格の算定を前提とし、販売子会社について、産業区分、売上高の営業費用に対する比率、売上高の営業資産に対する比率、といった要素からなるマトリクスが示す「売上高利益率」(Return on Sales)を独立企業間価格とすることを認めるというものである。 〈利益B移転価格プライシング・マトリクスの概要(売上高利益率%)〉 (注) 関連者から有形財を仕入れ、非関連者に卸売販売等する取引が対象。サービス(デジタルサービスを含む)は含まない。 (出所) 「利益Bレポート」Inclusive Framework on BEPS「Pillar One -Amount B」Table 5.1 「Pricing Matrix (return on sales %) derived from the global dataset」を一部改変して筆者作成。 2024年2月に公表されたOECD移転価格ガイドラインは、利益Bの扱いは各国の任意であり、各国は①導入しない、②納税者の選択適用、③強制適用の3つのオプションから選択できる。1つに絞り切れなかったのは、加盟国間の意見対立があったためと伝えられる。 企業の立場からは、移転価格税制の簡素化に資するものとして期待がある。このことは、近年のOECDのデジタル国際課税改革に反発することの多かった米国、そして米国企業が、利益Bを支持し、むしろ利益Bを適用できる事業の範囲の拡大を訴えていたことにも表れている。 各国の反応はどうか。ニュージーランド、オランダ等は、この枠組みを採用する予定がないことを明らかにしてきている。米国の租税専門誌(2025年1月6日)は、日本も利益Bを採用しない国として報じている。 一方、米国は利益Bの採用に積極的だ。IRSは今後、利益Bについての規則を制定する予定でるあることを明らかにしている。また、当面の間、米国企業は利益BについてのOECD移転価格ガイドラインに依拠できることとしている(2024年12月18日IRS通達2024-05)。 感想 ◆UTPR 米国の租税専門誌(2025年1月6日)は、「UTPR に対する疑念があるにもかかわらず、日本を含むいくつかの管轄区域では、この措置を推進する動きが続いている」と伝えている。 UTPRによる課税はネクサス(恒久的施設や支配)を必要としないことなどから、従来の租税条約や国際課税原則の枠組みで正当化できるか疑問があることについてはこれまでも指摘があった。ここへきて地政学的な不確実性(米国の反発)、法的な不確実性(ベルギーでの訴訟提起)が改めて顕在化しているようにも見える。 不確実性の背景の1つには、OECDからの情報不足もある。OECDは「GloBEルールは租税条約に適合するように設計されている」と“宣言” (※3)するだけにとどまり、具体的な根拠や議論が十分に示されないまま今日まできているように思われる。 (※3) OECDが2023年2月に公表した第2の柱執行ガイドライン6頁。 OECDがこれまでに公表してきた膨大な量のガイドラインに従ってUTPRを国内法で立法した国や、そうした国の企業が法的リスクにさらされないようにするためにも、このタイミングで法的な懸念についてはOECDからもう1歩踏み込んだ対応が検討されてもよいのではないだろうか。 ◆利益B 利益Bについては、世界一の多国籍企業の母国である米国の企業・政府(バイデン政権は、利益Bを利益A多国間条約署名の必須条件と主張した)の反応や対応をみても、予測可能性や紛争解決・回避の観点からメリットが期待できることがわかる。日本に投資を呼び込む観点から、海外の投資家に安心感を与える上でメリットもあるだろう。 利益Bを導入する際、強制適用と企業の選択適用のオプションがあるが、IRSが2024年12月18日に公表した通達(Notice 2024-5)は、企業の選択適用を認める内容であり(強制適用については引き続き検討中としている)、2025年1月から適用されている。この方向性は、企業にとって自由度があり、歓迎できるものだ。通達の内容はコメントを踏まえ、今後財務省規則に反映される予定だ。今後の展開を期待をもって注視しておきたい。 OECDは、2024年12月に利益Bの「あらまし」(fact sheet)及び、関連する計算を援助するためのエクセルシートの提供をホームページでするなど、利益Bの制度の理解と活用を促進する努力を積極的に行っており、こちらも歓迎できる。 日本は米国に次ぐ多国籍企業大国であり、米国の判断は参考になるはずだ。本連載【第3回】では、金銭的な損得はマトリクスの率を高いとみるか低いとみるかに左右されうることを指摘した。資本輸出国の場合、低いほうが有利になりうる。しかし、今回公表されたIRSの通達(今後の財務省規則案)は強制適用ではなく企業の選択を認めるものであり、米国(IRS)は自国の金銭的な得失より制度の簡素や予測可能性・紛争回避に重点をおいたと理解できないだろうか。そうであれば、国際課税制度の議論をけん引してきた国として、責任ある態度といってよいようにも感じる。 利益Bは簡素化されているとはいえ、れっきとした独立企業間利益でもある。米国の動きを参照し、今後前向きに検討される機会が訪れることを期待しておきたい。 (注) 本稿で取り上げた内容は、今後情報が集積されるのを待って、機会があれば改めて整理することとしたい。 (了)
令和6年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「特に注意したい事項Q&A」 -定額減税及び暗号資産に係る税務上の取扱い等- 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 本連載最終回は、定額減税に関する取扱い等、確定申告において注意が必要と考えられるもののうち、過去に取り上げていない5項目をQ&A形式でまとめることとする。 なお、本稿では、特に指定のない限り令和6年分の確定申告を前提として解説を行う。 〈令和6年分の確定申告書の様式〉 【Q1】 令和6年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告において、定額減税が適用される。申告書にどのように記載するのか。 【A1】 第一表の㊹に「令和6年分特別税額控除」欄が設けられている。ここに減税額の計算に含めた人数(納税者本人を含む)及び減税額を記入する。 また、第二表の「配偶者や親族に関する事項」欄に記入された者のうち、減税額の計算に含めた同一生計配偶者及び扶養親族については、「その他」欄に「2」と記入する。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 また、実際の記載例については下記をご参照いただきたい。 〈給与と公的年金の両方から減税を受けている場合〉 【Q2】 給与等と公的年金等の支給を受けており、それぞれの源泉徴収税額から定額減税の額が控除されている。重複している減税分について、確定申告で精算する必要があるか。 【A2】 給与等に係る源泉徴収税額と、公的年金等に係る源泉徴収税額の両方から定額減税の適用を受けていることだけをもって、(精算のために)確定申告をする必要はない。 -解説- 給与等と公的年金等の支給を受けている場合には、給与等に係る源泉徴収税額と、公的年金等に係る源泉徴収税額の両方において定額減税の適用を受けている可能性がある。しかし、このことのみをもって、確定申告が求められることはない。 従来どおり、以下に該当する場合は、確定申告をする必要はない。 (※) 公的年金等のすべてが源泉徴収の対象となっている場合に限られる。 ただし、上記に該当していても、還付を受ける等の理由で確定申告を行う場合には、重複した減税額を精算することとなる。 〈扶養控除と定額減税〉 【Q3】 次の扶養親族は、扶養控除の適用と定額減税の計算においてどのように扱うのか。 【A3】 -解説- (1) 控除対象扶養親族の範囲 扶養控除の対象となる者を控除対象扶養親族という。控除対象扶養親族の範囲は、親族が居住者か非居住者かによって年齢要件等が異なる(所法2①三十四の二)。 〈表1〉控除対象扶養親族の範囲 (2) 減税額の計算 次に、令和6年分として措置された減税額は、〈表2〉の金額の合計額である(措法41の3の3②)。減税額計算の基礎となるのは、控除対象扶養親族ではなく扶養親族の人数である(ただし、居住者に限定)。 〈表2〉減税額 (3) 判定の時期 配偶者や親族が同一生計配偶者や扶養親族、控除対象扶養親族に該当するかどうか、また、配偶者や親族が居住者に該当するかどうかは、その年の 12月31日の現況で判定する(所法85③)。なお、年の中途で本人又は配偶者や親族が死亡した場合には、死亡の日の現況で判定する(所法85③)。この判定方法は、定額減税の減税額の計算においても同様である。 (4) 各ケースの検討 以上より、①から④のケースについて検討する。 ①の子は、〈表1〉「扶養親族が非居住者の場合」(ア)に該当するので、控除対象扶養親族に該当する。しかし、年の中途で出国し、令和6年12月31日の現況で非居住者に該当することから、減税額の計算には含まれない。 ②の子は、16歳未満であることから、控除対象扶養親族に該当しない。しかし、12月31日の現況で扶養親族(居住者)に該当するので、減税額の計算には含まれる。 ③の父は、死亡の日の現況で扶養親族(居住者)に該当するので、控除対象扶養親族に該当し、かつ、減税額の計算にも含まれる。 ④の母は、〈表1〉「扶養親族が非居住者の場合」(イ)の(c)に該当するので、控除対象扶養親族に該当する。しかし、非居住者であるため減税額の計算には含まれない。 〈暗号資産による寄附〉 【Q4】 暗号資産により認定特定非営利活動法人に寄附を行った。この寄附は、当該法人の特定非営利活動に係る事業に関連するものである。所得税の取扱いはどのようになるのか。 (※) BTC・・・ビットコイン 【A4】 寄附した暗号資産の時価10,000,000円は、認定特定非営利活動法人に対する寄附金の額となる。 また、寄附したBTCの取得価額7,000,000円と寄附金の額10,000,000円との差額3,000,000円は、暗号資産の譲渡に係る利益の額(事業所得又は雑所得)として課税の対象となる。 -解説- 暗号資産による寄附を行った場合には、その寄附をした時における暗号資産の時価が寄附金の額(※)となる。 (※) 取引相場に大きな変動が認められない場合には、価格等公表者によって公表されたその受領した日の前日の最終の売買の価格により計算した金額も認められる(FAQ1-4)。 なお、個人が認定特定非営利活動法人に対して一定の寄附金を支出した場合には、支出した年分の所得控除として寄附金控除の適用を受けるか、支出した年分の税額控除の適用(※)を受けるか、いずれか有利な方を選択することができる(所法78②、措法41の18の2)。 (※) 確定申告書に税額控除を受ける金額についての記載があり、かつ、「認定NPO法人等寄附金特別控除額の計算明細書」と寄附金の額及び受領年月日等を証する書類(寄附者の住所、氏名が記載されたもので、電磁的記録印刷書面を含む)を確定申告書に添付する必要がある(措規19の10の4)。 また、個人が贈与により暗号資産を他の個人又は法人に移転させた場合には、事業所得又は雑所得として課税の対象となる(※)。したがって、保有する暗号資産を法人へ寄附した場合には、寄附をした時の暗号資産の時価を総収入金額、その暗号資産の取得価額を必要経費として事業所得又は雑所得を計算することとなる(FAQ1-4、2-10)。 (※) 暗号資産の所得区分については、以下の拙稿をご参照いただきたい。 〈暗号資産交換業者から受け取った補償金〉 【Q5】 取引をしていた暗号資産交換業者が不正送金被害に遭い、預けていた暗号資産を返還することができなくなったとして補償金の支払を受けた。補償金の額は、預けていた暗号資産の数量と返還できなくなった時点の時価に基づいて計算されている。この補償金は、課税の対象となるのか。 【A5】 当該補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となる。 -解説- 不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害について受ける損害賠償金や、心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料等は、非課税所得に該当する(所法9①十八、所令30二)。しかし、損害賠償金として支払われる金銭であっても、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益が賠償される場合には、非課税とはならない。 顧客から預かった暗号資産を返還できないことにより支払われる補償金は、返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる金銭であり、補償金の額で暗号資産を売却したのと同じ結果となる。よって、補償金には、本来所得となるべきもの又は得られたであろう利益が含まれていると考えられる。 したがって、当該補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となる(※)。 (※) 受け取った補償金の額よりも取得価額の方が高い場合には、その損失の額を他の雑所得の金額と通算することができる。 (連載了)
〈適切な判断を導くための〉 消費税実務Q&A 【第5回】 「外国人旅行者向け免税制度の見直しに関するシステム対応」 税理士 石川 幸恵 【Q】 令和6年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正大綱」(以下「大綱」という)において外国人旅行者向け免税制度の見直しの詳細が示されました。 「実務上、消費税相当額を含めた価格で販売し、出国時に持ち出しが確認された場合に輸出物品販売場を経営する事業者から免税購入対象者に対し消費税相当額を返金する」(大綱59頁)というリファンド方式になりますが、どのような仕組みで返金されるのでしょうか。経理の注意点として考えられることも併せて教えてください。 【A】 (1) 返金の仕組み リファンド方式で免税購入対象者である外国人旅行者に消費税相当額を返金するのは、国税当局ではなく免税店です。返金にあたり、免税店の経営者が自ら空港に赴いて外国人旅行者に消費税相当額を手渡しする、外国人旅行者の銀行口座に振り込むというのは手間や手数料、銀行口座を持っていない場合の対応など様々な観点から現実的ではありません。 この点、大綱において「税関長は、輸出物品販売場を経営する事業者(承認送信事業者(※)を含む。)に対し、購入記録情報ごとに、国税庁の免税販売管理システムを通じて税関確認情報を提供する」とされており、システムによって購入情報のほか出国情報や消費税の情報の連携、返金の手続きまでを行うことになると考えられます。 (※) 承認送信事業者は税務署長の承認を受けて免税販売手続に関するシステムの提供を行っている事業者をいいます。詳しくは、「輸出物品販売場に関するQ&A」(問104等)を参照ください。 返金は免税店から委託を受けた承認送信事業者が担うことが想定されていますが、承認送信事業者、外国人旅行者、輸出物品販売場の経営者それぞれの間の決済方法を定めておく必要もあります。 (2) 経理の注意点 免税店において販売したときは課税売上げとして計上します。外国人旅行者が出国した情報から購入記録等を特定し、消費税の課税区分を輸出売上げに変更することになります。食品の免税販売も認められていますので、税率や税額についても管理しておく必要があるでしょう。 購入日から90日以内に税関で確認を受けなかった場合は免税を受けられず、課税売上げが確定しますので、経過日数の管理も必要と思われます。また、決算日をまたいで返金された場合についても考慮しておかなければなりません。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ リファンド方式は、免税店での販売時に課税売上げとし、空港で返金して免税売上げに転換する仕組みとなる。この方式を実現するには、外国人旅行者の出国をどのように把握するか、誰が返金を担うのかといった情報やお金の流れに関して課題がある。この課題に対し、免税販売手続が令和3年10月に完全に電子化されていたことはリファンド方式への移行を容易にする一因となったと思われる。 以下、免税販売手続の電子化の概要とリファンド方式に関して会計データに影響しそうなシステムの変更ポイントについて取り上げる。 (1) 輸出物品販売場の電子化 令和3年10月1日より、輸出物品販売場における免税手続が完全に電子化された。これまで書面により行われていた購入記録票の作成、旅券への貼付・割印等の手続きが廃止され、購入記録情報をインターネット回線等により国税庁に送信することとされた。 購入記録情報の送信にあたっては、輸出物品販売場を経営する事業者が自らシステムを作成して送信する「自社送信」と承認送信事業者を介して送信する「他社送信」がある。 ※国税庁「免税販売手続の電子化への対応はお済みですか?」より抜粋 輸出物品販売場を経営する事業者は自社送信と他社送信のいずれの方法により購入記録情報を送信するか、あらかじめ「輸出物品販売場における購入記録情報の提出方法等の届出書」により届け出を行う必要がある(「輸出物品販売場制度に関するQ&A」問53)。 いずれの方式にしてもインターネット回線等の通信回線とシステム対応(書面不可。購入記録情報をエクセル等で作って電子メールで送信するなどシステムを利用しない方法も用意されていない)が必要となり、対応しなければ免税店の経営はできない。 (2) 出国確認、返金、返金済み情報の共有等でシステム改修が必要 下図では、他社送信の場合にリファンド方式のために変更が必要と考えられる箇所を赤字で示している。ただし、これはシステムの専門家ではない立場からの見解であることをご承知おきいただきたい。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 購入した日から90日以内の出国に関して消費税が免除されることとなっているので、購入記録について購入日からの経過日数の管理なども必要となろう。 (3) Visit Japan Web 「Visit Japan Web」はデジタル庁が提供しているウェブサービスで、スマートフォン上の二次元コードを使用して入国審査や税関申告ができる。利用には事前に旅券、航空券、メールアドレスを登録してアカウントを作成する必要がある。このサービスは現在、免税購入手続にも活用されており、リファンド方式の導入にあたっては、旅行者の利便性向上、空港等の混雑防止のため、税関記録情報の登録への利用が検討されている。 免税販売手続の電子化においては「(経過措置は設けた上であるが)システム対応が困難であれば免税店の経営は認めない」という厳格な姿勢が取られた。この対応が今回のリファンド方式のシステム対応を可能にした背景と考えられる。このように事業者に対してシステム対応を必須とする取り組みが他の税務手続にも波及するのか、今後の動向に注目したい。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第50回】 「〔第5表〕定期借地権の賃料の一部を前払いとして一括で支払った場合における前払地代及び定期借地権の評価」 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲(令和6年9月1日相続開始)が所有しているA土地は、甲が100%保有している甲株式会社に賃貸していますが、その概要は下記の通りです。甲の相続人である後継者乙は、甲株式及びA土地を相続しています。 【A土地の借地権契約及び評価情報】 【甲株式会社における直前期末時点における帳簿価額】 (注) 甲株式会社は12月決算法人であり、土地賃貸借契約から直前期末時点までで9年分の地代を支払っています。前払地代として支払った50,000千円については、前払費用として処理を行い、毎年1,000千円の前払地代を支払地代として経費に振替処理を行っています。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する前払費用及び借地権の相続税評価額及び帳簿価額は、それぞれいくらになりますか。 なお、純資産価額の計算においては、直前期末方式(直前期末の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 また、甲の貸宅地として評価するべき金額はいくらになりますか。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の相続税評価額及び帳簿価額による純資産価額は、下記の通りとなります。 甲の貸宅地として評価するべき金額は、52,302,914円となります。 ◆ ◆ ◆ ① 甲株式会社の資産の部における財産評価 (1) 定期借地権の評価 定期借地権等の価額は、原則として、課税時期において借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって評価するとされていますが、例外として、課税上弊害がない限り、その定期借地権等の目的となっている宅地の課税時期における自用地としての価額に、次の算式により計算した数値を乗じて計算した金額によって評価することができるとされています(財産評価基本通達27-2)。実務的には、課税上の弊害がない限り、例外の方法によって評価を行います。 上記算式中の「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」の計算に当たっては、「定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、権利金、協力金、礼金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要しないものとされる金銭の支払い(略)がある場合」には、「課税時期において支払われるべき金額」を当該経済的利益の額とすると定められています(財産評価基本通達27-3(1))。 本問の場合には、定期借地権等の設定時において支払われた前払地代の金額を返還を要しないものとして、上記に記載の経済的利益の総額に含めて計算していいかどうか判断に迷う部分となります。 この点については、平成17年7月7日付けの文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて」(以下「定期借地権の文書回答事例」という)において、下記の通り記載がなされており、前払賃料の金額を経済的利益に含めて扱う旨が明記されています。 したがって、本問の場合における定期借地権の評価は、下記の「定期借地権等の評価明細書」の通り37,697,086円となります。 ただし、課税時期時点において賃貸しているため、貸家建付定期借地権の評価として財産評価を行う必要があります。よって、借地権として計上すべき金額は下記の通りとなります。 (2) 前払費用の財産評価 前払費用の財産評価は財産性を有するものについては、資産の部の相続税評価に計上を行う必要があります。 ただし、本問の場合における前払費用については、借地契約の終了の時にはその未経過分相当額は零となり返還を受けることができないものであること及び定期借地権の計算において経済的利益の総額に含めて定期借地権の金額を計算しているため、前払費用は定期借地権の評価を構成していることから資産の部の相続税評価額に計上は不要となります。 定期借地権の文書回答事例においても、下記の通り明記されています。 ② 甲の相続財産としての財産評価 (1) 相続財産として計上する貸宅地の評価 定期借地権等の目的となっている宅地の価額は、原則として、その宅地の自用地としての価額から、財産評価基本通達27-2《定期借地権等の評価》の定めにより評価したその定期借地権等の価額を控除した金額によって評価します。ただし、上記により評価した定期借地権等の価額が、その宅地の自用地としての価額に次に掲げる定期借地権等の残存期間に応じる割合を乗じて計算した金額を下回る場合には、その宅地の自用地としての価額からその価額に次に掲げる割合を乗じて計算した金額を控除した金額によって評価を行います(財産評価基本通達25(2))。 したがって、原則評価の金額とただし書きの評価(以下「簡易評価」という)のいずれか低い金額を採用することになります。 本問の場合には、前掲の「定期借地権等の評価明細書」における定期借地権等の目的となっている宅地の評価に記載の通り、原則評価(52,302,914円)< 簡易評価(72,000,000円)となり、いずれか低い金額を採用することになりますので、52,302,914円が貸宅地の評価となります。 (2) 前受地代の債務計上 相続開始時点において現に債務として存するものは債務計上する必要があります。甲は賃貸借締結時において50,000千円を前受収益に計上し、毎年1,000千円を地代収入に振り替えているため、準確定申告における貸借対照表の負債の部に未経過分に相当する前受収益が計上されていることになります。 この未経過分に相当する前受収益が負債計上できるか否かについてですが、借地契約の終了の時にはその未経過分相当額は零となり返還を要しないものであること及び定期借地権の計算において経済的利益の総額に含めて定期借地権の金額を計算しているため、定期借地権の評価を構成しており、貸宅地の評価としては既に減額されていることから前受収益は債務計上の対象にはなりません。 定期借地権の文書回答事例においても下記の通り記載がされています。 ☆実務上のポイント☆ 評価対象法人が定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括で支払っていた場合には、前払地代が資産の部に計上されていますが、定期借地権の評価に含めて評価することになるため、前払地代の金額を資産の部の相続税評価額に計上しないように注意しましょう。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第59回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 イ 紙片を発行せずに振替式を利用する定めのある外国信託も含まれるとする見解①(規定の趣旨との関係) 前回のような規定の趣旨に関する議論を前提とすると、「財産法上の権利義務に関する記載のされた紙片」が発行されていなくとも、例えば、振替式によって、割合的単位に細分化された信託の受益権が転々流通することが想定される場合には、受益者が信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなすことは、実態上適当でなく、実務上も計算が困難になることが予想されるため、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」にいう「証券」は紙片の発行の有無を問わない概念として捉える方が、その趣旨に合致するという見方が出てくる。 紙片を発行せずに振替式を採用していることは、一般に流通することを予定していないわけではなく、むしろ紙片を発行しない方が受益権の円滑な流通に資すると考えられていることを指摘できる。 日本では、社債、株式その他の有価証券に表示されるべき権利について、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社債等振替法」という)に基づく振替制度が採用されている。同制度については次のような説明がなされている。 そうすると、法人税法には前回の外国為替及び外国貿易法6条1項11号のように紙片の発行の有無を問わないことは明記されてはいないものの、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」には、少なくとも社債等振替法の振替制度に類似した振替式を採用し、(電子的方式を含む電磁的方式により)受益権を発行する定めのある外国信託も含まれるというような解釈を採用することに一定の合理性を認めることは可能である。 ペーパーレス化やデジタル化、そして、外国信託への適用関係(※)をも考慮すると、「証券」を物理的な紙片に限定して解釈することの妥当性を問うこともできよう。受益権を表示する物理的な紙片としての証券を発行する旨の定めがあるかどうかで課税関係を分けることは、少なくとも上記の趣旨との関係では、得心がいかない。 (※) ここで外国信託に限定するような表現を採用しているのは、社債等振替法が適用されないこと、受益権を表示する紙片の不発行が原則となっていることもありうること及び日本と外国における証券等の概念が異なりうることなどを念頭に置いたことによる。 また、本連載第57回で確認したとおり、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」を法人課税信託に含めている点について、法人に対する課税との公平を確保することを主たる趣旨であると解する見解が存在する。 このような見解との関係では、受益者の立場が会社における株主等の立場と類似するか否かという観点に着目した場合、やはり、受益権を表示する物理的な紙片としての証券を発行する旨の定めがあるかどうかで課税関係を分けることに合理性があるとは思われない。会社法はすでに株券の不発行を原則としていることを指摘できる(会社214)。法人に対する課税との公平という趣旨との関係においても同様である。 本信託との関係では、本信託は振替式によって、割合的単位に細分化された信託の受益権が転々流通することが想定されるものであるといえるから、本信託が法人課税信託に該当しない場合には、受益者が信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなすことは、実態上適当でなく、実務上も計算が困難であるという見方もありえよう(※)。また、本信託の持分所有者は本信託に関して一定の議決権を有しているから、その立場は株主等の立場に類似する。 (※) 本信託における受託者は、持分所有者が受益者等課税信託に該当する場合に必要な一定の情報を提供するようである。なお、本信託よりも複雑なビットコインETFも存在する。例えば、本信託とは別の商品であり、ビットコイン先物ETFからビットコイン現物ETFに転換したHashdex Bitcoin ETFは、ファンド資金の95%以上がビットコインになるようにするとしつつ、ビットコイン先物契約をビットコインと交換することが難しい場合は同契約の保有を継続するとし、同契約への配分比率を毎日決定するなど、本信託よりも複雑な仕組みとなっている(Hashdex Bitcoin ETF の目論見書26頁参照) 以上のような議論に対して、信託法上の信託受益権が振替制度の対象となり、受益権を表示する紙片を発行せずに振替受益権として流通していくものがあることを理解していたにもかかわらず、法人税法では、あえて信託法(信託185①③)と同じ「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」という文言が選択されたのであるから(※)、法人税法2条29号の2イの規定の趣旨には、別段の定めのない限り、受益権を表示する紙片を発行する定めのない信託を法人課税信託から排除することが含まれているという反論も考えられる。 (※) 「受益権を表示する証券」という文言は、投信法上の受益証券を定義する同法2条7項と同じ表現であるが、改正の経緯等からすれば信託法の規定を意識して作られたものと解される。なお、この投資信託に係る受益権についても、社債等振替法により、社債の振替について定める同法第4章の規定を準用するという建付けがとられているが、法人税法は、投資信託については受益証券を発行する旨の定めがあることを要件として明記していないことから、受益権を表示する紙片を発行しないで社債等振替法の適用を受ける場合の投資信託であっても、法人税法2条29号の2ニの投資信託に該当する(この点は集団投資信託に係る法人税法2条29号ロも参照)。 すなわち、信託法上の受益証券発行信託の受益証券は金融商品取引法2条1項の有価証券とされ(金商2①十四、②柱書)、広く流通する可能性があることを前提として、平成18年12月15日に公布された信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律61条の規定による社債等振替法の一部改正によって、同法に受益証券発行信託の受益証券の振替に関する章が設けられ、受益証券発行信託の受益権も振替制度の対象とされた(弥永真生『条解 信託法』〔道垣内弘人編著〕819頁(弘文堂、2017)参照)。 同日に公布された新しい信託法に対応するために平成19年度税制改正で信託税制が刷新され、その際に「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」の規定を含めた法人課税信託の制度が作られた。このような立法経緯と規定の文言を踏まえて、別段の定めのない限り、受益権を表示する紙片を発行する定めのない信託を法人課税信託から排除するというのが法人税法2条29号の2イの規定の趣旨であると反論するのである。 信託法との関連性については、平成19年1月19日に閣議決定された平成19年度税制改正の要網4頁においても、「特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託については、その受託者に対し、信託財産に係る所得について、当該受託者の固有財産に係る所得とは区別して法人税を課税する。」としている。同要綱は、法人税法2条29号の2イの「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」とは信託法上の受益証券発行信託を意識して作られたものであることをうかがわせるような表現を採用しているのである。 もっとも、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」という文言は、外国信託を包摂する意図の表れであろうか、信託法を引用しておらず、そうであれば、必ずしも日本の信託法上の受益証券発行信託のみを前提としたものであるとはいえない。 そうすると、上記の要綱の記載振りを強調することは難しくなるし、上記文言については、受益権を表示する紙片を発行せずに(発行する旨の定めを設けずに)振替受益権として流通していくような外国信託を積極的に除外する趣旨までも読み込むことができるのかという疑問も惹起される。 (了)