〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第102回】 「アジレント事件(高判令5.2.16)(その1)」 ~所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とルクセンブルク大公国との間の条約10条1項、2項、3項~ 税理士 大野 道千 1 判例 (1) 当事者等 (2) 事実の概要 ルクセンブルク大公国に本店を置くX社(被控訴人)は、日本国内に恒久的施設を有さない外国法人である。X社は、2014年4月29日に事業年度を11月1日から翌年10月31日とする内国法人A社およびB社の株式をそれぞれ100%取得しX社の完全子会社とした。内国法人A社およびB社(以下「各子会社」という)は、2014年8月1日に会社分割を行い、その対価として譲り受けた分割承継法人(C社およびD社)の出資持分をX社に剰余金の配当として分配した(非適格分割型分割)。 このうち配当とみなされる部分については、各子会社に源泉徴収義務が生じるため、各子会社は2014年9月8日に20.42%の税率による金額を所得税及び復興特別所得税として源泉徴収し納付した。2015年4月7日、X社は、各子会社を通して、当該みなし配当は「所得に対する租税及びある種の他の租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とルクセンブルク大公国との間の条約(以下「日蘆租税条約」という)」10条2項(a)の適用を受ける旨の届出をし、20.42%と10条2項(a)が定める5%との差額について還付請求したが、各所轄税務署長から10条2項(b)の適用を受ける旨の見解を受けて、2016年3月7日、20.42%と10条2項(b)が定める15%との差額について還付請求し、還付を受けた。 2019年9月6日、X社はYに対して、10条2項(a)の要件をいずれも満たし、その税率は、所定の限度税率である5%となると主張して、15%と5%の差額(A社約11億2,196万円、B社約2億7,252万円の合計約13億9,448万円)の還付及び還付加算金の支払を求めた事案。原審は、被控訴人の請求を全部認容、これを不服とした控訴人が控訴した。 (3) 争点 請求金額の還付請求権の存否(日蘆租税条約10条2項(a)の保有期間要件を充足しているか否か)が争点となった。 日蘆租税条約10条1項では、配当について、源泉地国と居住地国のいずれも租税を課することができるとしつつ、同条2項は、源泉地国の税率について、「(a)当該配当の受益者が、利得の分配に係る事業年度の終了の日に先立つ六箇月の期間を通じ、当該配当を支払う法人の議決権のある株式の少なくとも二十五パーセントを所有する法人である場合には、当該配当の額の五パーセント(政府訳文)」、「(b)その他のすべての場合には、当該配当の額の十五パーセント(政府訳文)」と定め、保有期間要件と保有割合要件から税率を制限している。本件では、X社と各子会社は完全支配関係にあり、保有割合要件は満たすものの、分割日8月1日の約3ヶ月前に各子会社株式を取得していることから、保有期間要件が問題となった。「the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place(利得の分配に係る事業年度の終了の日)」を各子会社の期末10月31日とした場合、保有期間は6ヶ月以上となり要件を充足する一方、「利得の分配に係る事業年度の終了の日」を分割日の前日7月31日とした場合には保有期間は6ヶ月に満たず要件を充足しないことになる。そこで、「利得の分配に係る事業年度の終了の日」の解釈が争われた。 【関連法令】 (4) 当事者の主張 “the end of the accounting period for which the distribution of profits takes place(利得の分配に係る事業年度の終了の日)”について、X社は、「配当を支払う法人がその配当の原資である所得を一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する会計期間の末日」(10月31日)と解すべきと主張したのに対して、国は「配当の受領者が特定される時点」すなわち、分割型分割の日の直前7月31日であると主張した。 (5) 判旨 認容。 ((その2)へ続く)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第190回】 株式会社イーエムネットジャパン 「第三者委員会調査報告書(開示版)(2026年3月27日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社イーエムネットジャパン第三者委員会による調査の概要】 【株式会社イーエムネットジャパンの概要】 株式会社イーエムネットジャパン(以下、「EMネットジャパン」と略称する)は、2007年に日本支社を設立しインターネット広告事業を展開していたEMNET.INCが、日本での更なる事業展開のため、2013年4月設立。インターネット広告事業を主たる事業とする。2018年9月、東京証券取引所マザーズ市場に株式を上場。2021年5月にソフトバンクと資本業務提携契約を締結するとともに、同年6月に連結子会社となった。 売上高1,594百万円、経常利益180百万円、当期純損失△449百万円、資本金328百万円、従業員数130人。ソフトバンク株式会社が発行済み株式の40.91%を所有している(いずれも2025年12月期有価証券報告書による)。 本店所在地は東京都新宿区。東京証券取引所グロース市場上場。会計監査人は、2023年3月23日までPwC Japan有限責任監査法人、その後、現在まで有限責任監査法人トーマツ東京事務所(以下、「監査法人トーマツ」と略称する)。 【第三者委員会による調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 EMネットジャパンでは、2026年1月5日、常務取締役CFOであった村井仁氏(以下「元 CFO」という。)が、会社資金を元CFO名義の口座に送金する等の方法により不正に支出(以下「本件不正行為」という)した疑いが判明した。これを受け、EMネットジャパンは、同月11日開催の臨時取締役会において、本件不正行為に関する事実関係の解明及び類似事象の有無の調査を行い、原因分析及び再発防止策の策定を行うため、第三者委員会を設置することを決議し、さらに、同月19日開催の臨時取締役会において、第三者委員会の委員を選任した。 2 第三者委員会による調査結果の概要――不正の手口について 第三者委員会は、調査の結果、元CFOによる不正行為を2つに分類している。元CFOによる不正行為の手口はきわめて単純であり、自らの職務権限に基づき、会社資金を流用したものであった(不正のトライアングル仮説における「機会」)。 (1) 本件不正行為類型①「会社名義のキャッシュカードを使い、会社の銀行口座から現金を引き出して自己のために流用する行為」 元CFOが、EMネットジャパンの金庫内に保管されていた会社名義のキャッシュカードを用い、ATMから出金して自己のために流用するという手口により、当社の資金が元CFOによって私的に流用されたものであり、元CFOは、電子メール等により部下に指示し、現金実査表に記入させることにより、実際には存在しないにもかかわらず、引き出した現金が当社の金庫内に保管されているかのように装っていた。 (2) 本件不正行為類型②「会社の銀行口座から自己名義の銀行口座へ振込送金して自己のために流用する行為」 元CFOが、銀行取引システムを用い、会社名義の銀行口座から元CFO名義の銀行口座に振込送金するという手口により、会社資金を私的に流用したものであり、元CFOは、銀行取引システムに係る自己のアカウントの権限を特権承認者権限(送金指示とその承認を一人で行える権限)とすることにより、他の役職員を関与させることなく、独自に上記振込送金を行っていた。 元CFOは、この手口により振込送金を行う都度、EMネットジャパンの代表印を冒用して、貸主をEMネットジャパン、借主を元CFOとする金銭消費貸借契約書を偽造し、財務及び経理を担当する従業員に提示していた。 3 第三者委員会による調査結果の概要――隠蔽工作と発覚の経緯について 第三者委員会は、調査報告書において、元CFOによる隠蔽工作について詳細な調査を行ったことを記述している。元CFOは、大手監査法人で会計監査実務の経験があることから、監査法人トーマツによる会計監査や親会社のソフトバンクによる業務監査に際して、どうすれば自らの不正を隠すことが可能かについては熟知していたと思われ、たとえば、上記2(1)の段階であれば、現金実査に際して手持ち現金を準備して、現金の実際残高と帳簿残高を一致させたり、上記2(2)の不正の隠蔽策としては、期末日に不正に送金した資金をいったん会社口座に戻して預金残高を一致させたうえで、翌期首に、会社資金を不正に自己の口座に送金したり、期中においては銀行預金残高証明書を偽造したりするといった方法で、監査の目を逃れてきた。 しかし私的流用した金額が増加するにしたがって、こうした隠蔽工作は限界に達していたものと考えられる。財務担当マネージャーは、2026年1月5日、2025年12月30日を返済期限とする4億6千万円の借入金について返済の確認ができていないことから、詳細の共有を求めるメールを元CFOに送信する際、管理統括部部長をC.C.に加えるとともに、代表取締役社長の山本臣一郎氏(以下、「社長」と略称する)をB.C.C.に加えたことから、社長が、元CFOによる会社資金の借入れ=私的流用の事実を認識することとなり、発覚した。 4 原因分析(調査報告書75頁以下) 第三者委員会は、元CFOによる不正行為の原因を、次の7項目に分けて分析している。 第三者委員会は、原因分析の冒頭、EMネットジャパンでは、管理統括部に関する全ての権限が常務取締役CFOであった元CFOに集中しており、これが本件不正行為を許した最大の要因であると述べている。上記の7項目を見ても、「元CFOへの権限の集中」の結果、「管理統括部内における牽制機能」や「内部監査部門による牽制機能」の欠如を招くとともに、「内部通報制度」は実効性に欠けるものであったことから、結果的に、「元CFOに対して意見を言えない・言わない組織風土」ができあがっていたことが理解できる。そこに、「監査等委員会監査」と「親会社のソフトバンクによる内部監査」を軽視する姿勢が加わって、元CFOによる不正行為を防止することができず、発覚まで長期間を要したものであったと言えよう。 第三者委員会は、EMネットジャパンの特殊性として、取締役8名のうち業務執行を担当しているのは社長及び元CFOの2名のみであり、管理統括部における経理、財務、総務、人事、法務等の業務は全て元CFOの所管となっていたことを挙げている。その結果、元CFOの職務執行に対する牽制機能は存在していなかった。内部監査部門についても状況は同じであり、第三者委員会は、内部監査部門の体制・権限が脆弱であり、かつ、内部監査部門に対しても元CFOが実質的に影響力を及ぼしていたため、元CFOの不正に対して内部監査部門による牽制が全く機能していなかったと評価している。 本来、取締役の職務執行を監視監督する立場の監査等委員による監査についても、第三者委員会は、EMネットジャパンにおいては、内部監査部門には元CFOの影響力が強く及んでおり、社外取締役である常勤監査等委員である西村訓仁氏(報告書上の表記は「E氏」。以下、西村常勤監査等委員という)が要請しても資料をなかなか提供しないなど、監査等委員会による監査のサポート機能を全く果たしていなかったうえ、元CFOの態度は、監査を受ける立場にある業務執行取締役が監査等委員に対して圧力をかけていると評価されてもやむを得ないところがあり、元CFOのE氏に対する態度が影響して、管理統括部の担当者らは元CFOの不正疑惑を西村常勤監査等委員に相談しても解決しないという印象を受けていた可能性があると評価している。 さらに、内部通報制度の問題点について、第三者委員会は、EMネットジャパンでは、コンプライアンス管理規程に基づき、内部通報制度が設置されていたが、統括責任者は元CFOであり、コンプライアンス相談窓口宛に送付された情報は元CFOに確認される仕組みになっていたことを指摘して、経営陣から独立した通報窓口や外部窓口は設置されていないこと、ソフトバンクグループとしての内部通報窓口も設置されていなかったことから、元CFOの行為等に関する通報があった場合には、通報内容は元CFOに報告されてしまい、適切な調査が実施される保証はなく、従業員とすれば、元CFOを対象とする内部通報をしたくても、することができない状況となっており、実効性を欠くものであったと評価している。 5 再発防止策の提言(調査報告書83頁以下) 第三者委員会は、上記の原因分析を踏まえて、次の4項目の再発防止策を提言している。 EMネットジャパンの管理体制、とくに元CFOに対する権限集中が特殊であることから、第三者委員会による再発防止策については、他社事例として参考にできる項目はあまりない。元CFOが辞任してしまった以上、その権限は分散せざるを得ないし、EMネットジャパンが注力すべきは、再び特定の役職員に権限を集中させてしまわないよう、内部統制システムを根本から見直すことに尽きるのではないだろうか。 専任者がいない内部監査部門がどうやって監査等委員と連携するのか、ソフトバンクから派遣されている取締役は、業務執行取締役に対してどのように監督機能を果たすのか、第三者委員会による提言を実行することは、容易ではないと思料する。 【調査報告書の特徴】 社長と二人三脚で上場を果たし、業務執行取締役として社長と二人で経営を担ってきた常務取締役CFOが、多額の資金を横領していたことが判明する。大手監査法人でキャリアを積んだ公認会計士有資格者が、なぜ、会社資金の横領という、「必ず発覚する不正行為」を行ってしまったのか。職務権限が集中し、監査の目を潜り抜ける方法も熟知していた元CFOが、どこで道を踏み外してしまったのか。報告書の内容を掘り下げたい。 なお、元CFOの村井仁氏のプロフィールについて、STARTUP DBというサイトでは、次のように説明されている。 1 元CFOによる不正の動機はどこまで解明できたのか 第三者委員会による報告書で気になった点として、元CFOによる不正の動機を挙げることができる。第三者委員会は、元CFOが、「FX取引で損失を重ねたことで自己の資金繰りが悪化し、会社資金に手を付けた」と供述していること、また、「早くFXで利益を出して会社に資金を戻さないといけないという意識があり、レバレッジをかけて、近視眼的な取引を続けて負けを重ねてしまった」こと、「会社資金に手を付けることはバレると思っていたが、常識的な思考ができずに泥沼にはまってしまった」などの供述を紹介している。 そのうえで、第三者委員会は、不正行為により取得した会社資金の多くが継続的にFX口座に送金され、FX取引により損失が拡大している取引記録から、FX取引で出した損失をFX取引で取り戻そうとする悪循環に陥っていたことを認定して、元CFOは自身の資金不足を補う手段として不正行為により会社資金に手を付けたと結論づけている。 筆者が気になったのは、なぜ、元CFOがFX取引に手をつけたのかという点である。有価証券報告書で役員報酬の金額を確認すると、代表取締役と元CFOの2人で59,946千円という記載があり、配分はわからないものの、仮に代表取締役が2、元CFOが1の比率であっても、約2,000万円の報酬を得ていることとなる。元CFOが役員報酬以外にも金銭が必要だったのかどうか。第三者委員会による調査では、FX取引にのめりこんで損失が拡大し、横領する資金額が増加したことに関する動機は解明されているが、そもそもFX取引を始めた理由を追及することなしには、真の動機の解明にはならないのではないかと思料する。 2 特別損失の計上 EMネットジャパンは、2026年3月31日、「特別損失の計上に関するお知らせ」をリリースして、元CFOによる不正行為による私的流用額460,000千円を「長期未収入金」として貸借対照表に計上するとともに、回収不能見込額298,274千円を貸倒引当金繰入額として特別損失に計上したこと、第三者委員会による調査費用及び追加で発生した監査報酬等の見積額156,890千円についても訂正関連費用引当金繰入額として特別損失に計上したことを公表した。 3 EMネットジャパンによる再発防止策 EMネットジャパンは、2026年5月13日、「再発防止策に関するお知らせ」をリリースして、原因分析及び再発防止策の基本方針と再発防止策の概要を公表した。 まず、「原因分析及び再発防止策の基本方針」について、全文を引用したい。 次いで、「再発防止策の概要」については、次の項目を挙げている。 EMネットジャパンが、モニタリング機能が十分でなかったことは、第三者委員会の指摘を待つまでもないところであり、ここで掲げた再発防止策を実行していくことは、上場を維持するうえでも不可欠であると考える。 ただ、内部通報制度に関して、気になるところがあり、指摘しておきたい。EMネットジャパンは、「顧問弁護士宛の社外専用窓口を設置する」ことを挙げているが、顧問弁護士は会社側の利益を一義的に考える存在であり、社長をはじめとする経営者不正の通報先としては相応しくないというのが、昨今の流れである。内部通報制度の実効性を担保するという視点からは、より経営陣から独立した窓口を設置すべきではないだろうか。 4 東京証券取引所による改善報告書の徴求及び公表措置 東京証券取引所は、2026年5月19日、「改善報告書の徴求及び公表措置」をリリースして、EMネットジャパンに対して、「開示された情報の内容に虚偽があり、上場規則に違反し、改善の必要性が高いと認められる」ことを理由に改善報告書を徴求するとともに公表措置を行った。理由の詳細は、次のとおりである。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第39回】 「死因贈与について理解しよう(その2)」」 ~死因贈与の注意点、配偶者居住権について~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 前回は死因贈与の概要等について解説した。死因贈与は遺言よりも緩やかな要件のもと、遺贈のような効果を実現することができ、相続の実務で利用されることがある。 一方で、特に不動産登記に関連しては特有の注意点があるため、慎重に対応しなければトラブルに発展する可能性もあるので、本稿においてポイント等について解説する。 1 贈与者の相続人全員の協力が必要 死因贈与を原因とする不動産の所有権移転登記は、贈与者の相続人(登記義務者)と受贈者(登記権利者)による共同申請が原則となる。前回、死因贈与契約が成立した場合には、始期付所有権移転仮登記を申請できると解説をしたが、当該仮登記を本登記にする場合も同様である。 もし贈与者の相続人のなかに登記に協力をしない者がいる場合には、別途訴訟等を提起して登記を実現しなければならないことになる。このことが注意点の1つである。 2 死因贈与の執行者を定めた場合 死因贈与には、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用されるため(民法554条)、遺言執行者についての定めも準用され、死因贈与契約において執行者を定めることができる。 死因贈与の執行者を定めていた場合には、死因贈与を原因とする不動産の所有権移転登記は執行者が登記義務者となり、受贈者が登記権利者となって共同申請をすることになる。よって、執行者を定めておけば贈与者の相続人の協力を得ることなく所有権移転登記が可能となるため、メリットが大きいといえる。 ただし、登記の添付書類について注意点がある。死因贈与契約が公正証書で締結されている場合には、執行者の権限を証する書面として当該公正証書を添付すればよいとされている。ただし、死因贈与契約が当事者の用意した書面(私署証書)によって締結されている場合には、贈与者の印鑑証明書の添付や贈与者の相続人全員の証明文(承諾書)と印鑑証明書の添付が必要とされており、厳格な取り扱いとなっている。 死因贈与の執行者は、受贈者自身を指定することも可能とされており、その場合は事実上、受贈者の単独申請ということになる。遺言よりも緩やかな要件で認められる死因贈与において、安易に単独申請を認めれば不正行為を誘発する原因にもなると考えられているためである。 3 配偶者居住権の登記 令和2年4月1日から制度が施行された配偶者居住権については、節税につながるという議論もあり、税理士にとっても認知が広まっていると思われる。 配偶者居住権は、民法の条文上、配偶者が被相続人の財産に属した建物に相続開始時に居住した場合において、「遺産分割」又は「遺贈」によって配偶者居住権を取得するとされているが(第1028条1項)、被相続人と配偶者の間で締結した配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の死因贈与契約によっても成立することは理解しておくとよいだろう。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第80回】 「不動産鑑定評価基準に規定のない「場所的利益」の概念」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 鑑定実務に長年携わっていると、不動産鑑定評価基準には何ら規定がないものの、不動産鑑定士としての意見を求められ、あるいは鑑定評価そのものを依頼される案件もあります。このような案件に遭遇した場合、実務的な判断の拠り所を過去の判例に求めることが多くあります。 今回取り上げる「場所的利益」という概念はこれに該当する典型的な例であり、借地借家法に基づき借地権者(借主)から借地権設定者(貸主)に建物買取請求がなされた場合の建物の時価に土地の利用価値相当分が含まれるかという点をめぐって、従来から考え方が分かれていたものです(ただし、現時点では考え方に一つの方向性が見出されています)。 なお、「場所的利益」という概念は鑑定実務に登場しますが、税務では登場せず、判例の生み出した産物ともいうべきものです。 2 「場所的利益」という概念はどこから生じたか 借地借家法第13条及び第14条(旧借地法第10条)では、借主(借地権者)から貸主(借地権設定者)に対する建物買取請求に関し、次のように定めています。 〇借地借家法 ここで、上記条文に規定されている借地権者の請求権が建物買取請求権と呼ばれるものです。そして、判例によれば、「借地上の借地人所有の建物について借地人が借地法第10条(注1)に基づく買取請求権を行使したときは、その時に右建物につき売買契約が成立し、同時に所有権移転の効力を生ずるとともに両当事者は互に同時履行の抗弁権(注2)を有するものと解すべきである」(最高裁昭和30年4月5日判決、民集9巻4号439頁)とされてきました。 (注1) 筆者注。判決当時適用されていた旧借地法を指します。 (注2) 筆者注。同時履行の抗弁権とは、双務契約(例えば、代金支払請求と目的物引渡請求のような反対債務が互いに結び付けられている契約)において、当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができるとする権利です(民法第533条)。 また、上記最高裁昭和30年4月5日判決の内容は、建物買取請求権が形成権(当事者の一方からの意思表示のみによって法律的な効果を生ずるもの)の性格を有することを意味するものと受け止められています。 なお、建物買取請求権が行使されるタイミングとしては、上記条文に規定されているとおり、借地権の存続期間が満了した場合(借地借家法第13条第1項)又は借地権設定者が賃借権の譲渡又は転貸を承諾しない場合(同法第14条)が考えられます。 ただし、いずれにしてもこのような場合には、借地権者は借地上で引き続き建物を利用する権利を失った状態と化してしまいます。そのため、理論の上だけで考えれば、借地権者には最早、借地権を有することによる経済的利益は生じておらず、借地権設定者の買取価格は建物自体の時価だけで足りるということもいえそうです。 しかし、従来の判例ではこのようなケースについても、建物が存在することにより当該建物の所有者が事実上利益を受けることに着目し、当該利益相当額を別途算定の上、これを建物の時価に含めて捉えています(最高裁の判例では「場所的環境を参酌する」旨の表現をしていますが、「場所的利益」と同じ意味で捉えられています。そのため、以下、便宜上「場所的利益」という表現を用いることとします)。 このような考え方は、最高裁昭和35年12月20日判決を契機に芽生えてきたといわれていますが、これが特に鮮明に表れたのが最高裁昭和47年5月23日判決です。 3 「場所的利益」とその算定基準 上記最高裁昭和47年5月23日判決の趣旨は以下のとおりです。 〇最高裁昭和47年5月23日判決 ~建物買取請求権が行使された場合における建物の買取価格と場所的環境の参酌 なお、「場所的利益」の算定基準に関しては不動産鑑定評価基準に規定はなく、上記の判例においても、例えば「場所的利益」相当額が更地価格の何%位かというような画一的な判断基準は示されていません。 しかし、その後に表れた裁判例の傾向をおおまかにみれば、「場所的利益」とは借地権の価格ではないものの、(同じような目線でみれば)更地価格の10%程度を相当としている例が多く見受けられます。 4 おわりに 以上述べてきたとおり、いわゆる「場所的利益」そのものは借地権の価格ではなく、かといって貸主が使用貸借契約を消滅させるために借主に支払う補償金のような金銭とも意味合いが異なります。 「場所的利益」という概念は、明確な基準が存在しないところに不動産鑑定士にとっても悩みの種がありますが、評価の客観性をできる限り担保するためには、過去の判例の傾向分析を十分に行うことが不可欠となっています。 (了)
〈税務ライター・鈴木まゆ子の〉 ここがヘンだよ日本の税制 第6回 新・青色申告特別控除75万円、案外ハードル低い? なぜ国税庁はイケズなのか 税理士・税務ライター 鈴木 まゆ子 しばらくお休みしていました。申し訳ありません。気を取り直して、今月から元気に税制を斬って(?)まいります。 さて今回は、税制そのもの・・・ではなく、国税庁の姿勢に焦点を当てます。みなさまご存じの通り、令和8年度税制改正で青色申告特別控除が最大75万円に引き上げられました。要件の1つが「優良な電子帳簿保存」とあるので、ほとんどの税理士の方は「うわ・・・ウチの関与先には無理だわ。あきらめよう」と思っておいでかもしれません。ですが、実はそんなに大変ではないのです。しかしなぜか、国税庁のパンフレットなどではハッキリと教えてはくれません。なぜでしょうか。 今回は青色申告特別控除75万円の本当のしくみを解説し、国税庁がなぜ積極的にアナウンスしないのかを考察します。 新・青色申告特別控除、国税庁のパンフレットはどうなっているか 最初に、令和9年分から新たに始まる青色申告特別控除についての国税庁のパンフレットを見てみましょう。 引用元:75 万円の青色申告特別控除|国税庁 といったことが書かれています。 このほか、次のようなパンフレットも出ています。 引用元:電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?|国税庁 こちらは「デジタルシームレス保存か優良な電子帳簿保存をすれば、青色申告特別控除75万円を受けられますよ」というアナウンスがメインです。 ちなみに、優良な電子帳簿保存やデジタルシームレス保存については事細かく書いていますが、青色申告特別控除75万円の要件はあまり細かく触れていません。 この2つの案内を見ていると、筆者は「国税庁、青色申告の75万円控除、本当にさせたいの? どちらかというと過少申告加算税5%コースの優良な電子帳簿保存をさせたいのでは?」と思ってしまうのです。 新・青色申告特別控除75万円のしくみ 「は? 何を言っているんだ・・・鈴木まゆ子は」。そう思った方が多いかと思います。ここで令和9年から始まる青色申告特別控除75万円のしくみについて説明しましょう。 ●青色申告特別控除75万円には「優良な電子帳簿保存」か「デジタルシームレス保存」のどちらかが必要 これまでの65万円・55万円・10万円控除が今年いっぱいで終わり、来年分からは75万円・65万円・10万円控除になることは、ほとんどの税理士先生がご存じかと思います。 そして、75万円は「複式簿記+e-Taxで期限内申告」に加え、次の2つのいずれかの要件を満たすことが求められます。 いずれも届出が必要です。提出すべき届出書は次のようになっています。 ●優良な電子帳簿保存でなぜ届出が2つなのか ここで一瞬、混乱するかと思います。 「なぜ優良な電子帳簿保存に2つ届出があるの? 『または』って? どちらが何を意味するの?」 実はこの2つの届出は、次のようになっています。 つまり「ベースとなる税法が何か」で届出書が変わるのです。そして、青色申告特別控除75万円を受けたいだけなら、実はそうハードルは高くありません。 「青色申告特別控除75万円のみ」か、「青色申告特別控除75万円+加算税5%軽減」か 結論から言いましょう。 青色申告特別控除75万円だけを受けるなら、優良な電子帳簿保存にすべき対象は「総勘定元帳」「仕訳帳」の2つだけで十分なのです。実際、措置法ベースの届出書は次のようになっています。 引用元:国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書|国税庁 ※令和9年分以降「65万円→75万円」となる予定 「G01」の欄に「1」と書けば青色申告特別控除75万円のみ、「2」と書けば青色申告特別控除75万円と過少申告加算税5%軽減の両方が受けられることになります。 そして、目をこらして見ていただきたいのが、届出書に書かれている「優良な電子帳簿保存の対象となる帳簿の範囲」です。青色申告特別控除だけを受けたいなら、総勘定元帳と仕訳帳だけでよいのです。「加算税5%軽減も受けたい!」となったとき、はじめて他の帳簿も優良な電子帳簿保存にしなければいけないこととなります。 引用元:はじめてみませんか?青色申告|国税庁 ※赤字、オレンジの文字の部分は筆者作成 「総勘定元帳と仕訳帳だけ優良な電子帳簿保存にしておけば、最大の青色申告特別控除を受けられる」という制度は、すでに現存しています。65万円控除の「優良な電子帳簿保存」の要件です。 こちらは、紙申告であっても優良な電子帳簿保存をしているなら65万円控除を受けられるわけですが、この「優良な電子帳簿保存」の対象となるのは総勘定元帳と仕訳帳のみでよい、とされています。 しかし現存している制度であるにもかかわらず、このハードルの低さはあまり知られていません。背景には、電子帳簿保存法があまりに複雑であること、優良な電子帳簿保存が旧来かなりハードルが高かったこと、そして「国税庁が積極的にアナウンスしようとしない」ことにあるかと思われます。 わかりやすいパンフレットで75万円控除は広がるはず!だが・・・ ここで、最初に見た国税庁のパンフレットを拡大して見てみましょう。 引用元:75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!(令和8年6月)|国税庁 ※赤字は筆者 書いてあると言えば書いてあるのですが、さらっと一文に入れてあるだけです。これではなかなか気づきません。 さらに注意したいのが「記帳のサイクル」です。実はこの優良な電子帳簿保存、個人事業主あるあるの「年1回、まとめて記帳して決算・申告」というのが許されません。 引用元:電子帳簿保存法一問一答【電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係】(令和8年7月)|国税庁 ※赤い下線は筆者 Q&Aなど、なかなか一般の人は見ないものです。言い換えると、よほど関心を持つか、意識するかでないと2か月のサイクルに気づかず、年1回の記帳・決算・申告にとどまってしまうのです。このほか、課税期間の最初から優良な電子帳簿保存の要件を満たしていることも必要となります。 個人事業主が使う会計ソフトは、優良な電子帳簿保存が求める要素を通常、満たしています。あとは、国税庁が「対象は総勘定元帳と仕訳帳だけでいい」「最低でも2か月に1度は記帳してね」「1月1日から優良な電子帳簿保存にしてね」と明確にアナウンスを出せば、青色申告特別控除75万円はできそうです。 しかし、国税庁は積極的なアナウンスをしていません。これが「75万円控除?・・・いや、やめとくよ。怖いし、65万円控除でいいわ」と個人事業主と税理士に言わしめる原因となっているように思われます。「ちょっと意識すれば75万円控除を受けられそうな個人事業主もいる」にもかかわらず、です。 「75万円控除=オール優良な電子帳簿保存」の誤解が個人事業主のデジタル化を阻む なぜ国税庁はもっとわかりやすく、ポイントをおさえて青色申告特別控除75万円控除のアナウンスをしないのでしょうか。 ●国税庁「最初から完璧な『すべて優良な電子帳簿保存』を狙いたい」 筆者の私見ですが、国税庁はこう言いたいように感じられます。 だから「青色申告特別控除75万円」にも2パターンがあり、75万円控除だけならば要件は比較的シンプルだ、と明確に言わないのではないか・・・と思われます。 ●個人事業主の会計ソフト利用率は34%程度にすぎない では、個人事業主の実情はどうなのでしょうか。残念ながら「総勘定元帳と仕訳帳だけを優良な電子帳簿保存にすることだけでも、彼らにとってハードルが高い」と言わざるを得ません。令和の現在でも、個人事業主の会計ソフト浸透率は、そう高くないのです。 引用元:青色申告を行わない理由|内閣府 このグラフを見ると、クラウド型・インストール型含めての会計ソフト利用率は2020年4月段階で34%弱しかありません。逆に、会計ソフトを利用してない層が60%近くいます。 このような状況で「あらゆる自社の帳簿を優良な電子帳簿保存で完璧に対応にしないと、75万円控除はできない」と、個人事業主たちが誤解していたらどうでしょう。 「面倒くさそう」と、個人事業主たちは逃げ腰になり、相変わらず会計ソフトを使うことなく、Excelか小遣い帳で済ませ続けることになるのではないでしょうか。会計ソフトを使っている個人事業主でも、まめな記帳をせず、年明けにあわてて記帳するクセが直らないままで終わるように思います。 ●優良な電子帳簿保存は徐々に行うべし 何事も順番や段取りが大切です。恋愛・結婚で考えてみましょう。一目惚れした女性にいきなり「結婚してください」と言う男性はいません。アラブの石油王か超イケメンの人気俳優でない限り、警戒されるに決まっています。まずは友達付き合いから始め、徐々に2人だけの時間を作り、そのあと手をつないだりして物理的・心理的距離を詰めていくのが王道です。税務・会計のデジタル化も、王道にのっとって徐々に進めていくべきです。 優良な電子帳簿保存については、度重なる税制改正で多くの税理士が「複雑でめんどくさい」と感じています。また、令和3年度税制改正で電子帳簿保存等の税務署長の事前承認制度が廃止されましたが、廃止されるまでが長かったせいか、優良な電子帳簿保存については「ハードルが高い」という印象がいまだに根強くあります。 補助簿を含めた完璧な「優良な電子帳簿保存」の宣伝をいったん弱め、まずは「75万円を目指して総勘定元帳・仕訳帳だけでも優良な電子帳簿保存でまめに記帳しませんか」と言った方が、個人事業主の記帳の習慣が変わりやすくなると思います。 (了)
《速報解説》 ASBJ、資金決済法等の改正受け、 特定の電子決済手段の会計処理等に関する当面の取扱い(案)を公表 ~外国信託型第4号電子決済手段の会計上の取扱いを第1号から第3号電子決済手段と同様に~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年8月17日、企業会計基準委員会は、「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第74号。以下「公開草案」という)等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「資金決済に関する法律の一部を改正する法律」(令和7年法律第66号)による資金決済法及び関連する法令等の改正、2026年6月に施行された「電子決済手段等取引業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(令和8年内閣府令第47号)に対応するものである。 意見募集期間は2026年10月19日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 上記の法令等の改正を受け、第3号電子決済手段に関する会計上の性格について改めて検討を行い、また、第4号電子決済手段(以下「外国信託型第4号電子決済手段」という)の会計上の取扱いについて検討を行い、次のように取扱いを示している。 Ⅲ 適用時期等 公表日以後適用し、特段の経過的な取扱いを定めないことを提案している(公開草案15-2項、BC47項)。 (了)
《速報解説》 国税庁、令和8年熊本地震を受けて 地域指定による国税の申告・納付期限延長を決定 ~被害を受けた場合の税制上の措置(手続)等をまとめた特設ページも設置~ Profession Journal編集部 国税庁は令和8年8月12日付けで、7月28日に発生した令和8年熊本地震を受け、国税通則法施行令第3条第1項に基づき、下記の通り、地域指定による国税の申告・納付等の期限延長を行うこととし、8月12日の官報に掲載し公示した。 また、上記の国税の申告・納付期限延長の情報をはじめ、今回の地震で被害を受けた場合の税制上の措置(手続)等をまとめた特設ページが国税庁にて開設されているので、今後の情報の更新につき留意したい。 (了)
2026年8月13日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.681を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
-国税庁レポート2026等から読み解く- 今後の税務執行・税務調査の動向 後編 「課税の効率化・高度化と税務調査の動向」 公認会計士・税理士 荒井 優美子 1 「国税庁実績評価実施計画」等 国税庁が達成すべき目標の設定とこれに対する実績の評価を分析した「令和8事務年度 国税庁実績評価実施計画」等(2026年6月30日公表)によれば、実績目標(大)の一つである「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収」では、実績目標(小)として、①税務行政の適正な執行、②税務行政のデジタル・トランスフォーメーション、③納税者サービスの充実、④適正な調査・徴収等の実施及び納税者の権利救済、⑤国際化への取組を挙げている。 ②税務行政のデジタル・トランスフォーメーションは、前編で解説した通り、オンラインによる税務手続の推進やデジタルの活用による業務の効率化・高度化、事業者のデジタル化促進を業績目標とするものである。①税務行政の適正な執行は、関係法令の適正な適用と迅速な処理や税務行政の透明性の確保及び個人情報の適切な取扱い等、税務執行における適正かつ迅速な処理や税務職員の対応や行為規範に関連するものである。 ③納税者サービスの充実では、広報・広聴活動等の充実や納税者からの相談等への適切・迅速な対応が業績目標とされる。 ④適正な調査・徴収等の実施及び納税者の権利救済の中でも、税務調査に関連した業績目標としては、有効な資料情報の収集、効果的・効率的な調査事務運営の推進、大法人の税務コンプライアンスの維持・向上、大口・悪質な不正事案等への的確な対応、国際化や新分野の経済活動への的確な対応、悪質な脱税者に対する査察調査の的確な実施等が挙げられている。 (※) 消費税事案、無申告事案、国際事案及びその他社会的波及効果が高いと見込まれる事案 ⑤国際化への取組は、経済取引のグローバル化・デジタル化の進展により、新たな取引形態が拡大する中で、国際的な租税回避行為への対応や税務上のコンプライアンスの維持・向上などの課題に的確に対応するため、外国税務当局との知見の共有や協力関係の強化等がこれまでも推進されてきた。共通報告基準(CRS)に基づく金融口座情報の情報交換の的確な実施、国別報告事項(CbCR)の情報交換の的確な実施は、国際取引への諸外国との協力により調査対応の強化として業績目標に挙げられてきたものである。 2 税務行政のDXと課税の効率化・高度化 課税の効率化・高度化の取組みは、スマート税務行政の時代から大きく変容している。スマート税務行政の時代は、情報システムの高度化を基に情報の利活用による課税の効率化が図られることに重点が置かれてきたが、税務行政のDXの時代となり、情報の利活用の徹底を図ることを第一の目標とするも、調査におけるオンラインツール等の活用や金融機関等関係機関への照会等のデジタル化も併せて取組の対象とされている。 Web会議システムを用いたリモート調査は、一部の大規模法人を対象に試行的に実施されており、税務調査において求められた書類は、e-Taxやオンラインストレージサービスを利用した提出(PDF又はCSV)も可能となっている。 (出典:国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-(2023 年6月23日)」) AIの活用による申告漏れリスクの高い納税者の判定は、収集した様々なデータを、BAツール・プログラミング言語を用いて統計分析・機械学習等の手法により分析し、過去の調査事績等の傾向から、申告漏れの可能性が高い納税者を判定するものである。 国税庁が2025年12月に公表した「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」では、AI・データ分析の活用による追徴事例が紹介されている。 ※ BA(Business Analytics) ツール:統計学や機械学習等の技術を用いてデータ分析を行うツール。 (出典:国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-(2021年6月11日)」) 3 「令和6事務年度法人税等の調査事績の概要」による法人税等の調査事績の概要 「令和6事務年度法人税等の調査事績の概要」によれば、令和6事務年度では、調査必要度の高い法人を的確に抽出した実地調査の結果、実地調査件数は対前年比7.4%減であるにもかかわらず、追徴税額(法人税・消費税)の総額は3,407億円で、直近10年で最高値となり、調査1件当たりの追徴税額は直近10年で2番目の高水準となったことが報告されている。 単年度の比較のみで判断することは難しいが、AI・データ分析の効果が調査結果に表れているということであろう。 (出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」) (出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」) 海外取引等に係る実地調査による申告漏れの追徴は、国際化への取組の一環として調査の重点課題に挙げられているものであるが、税制が複雑であることから、企業の経理担当者の不知が申告漏れとなる場合も少なくない。海外取引については、コンプライアンス体制の整備がより重要となっていることの認識が必要であろう。 (出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」) (了)
社長からの無理難題の 断り方・かわし方 第8回 土地と建物の対価の按分 〈JUN税会〉 公認会計士・税理士 桝井 康弘 * * 解 説 * * 1 事実関係の把握 社長へのヒアリングと現状確認により、以下の事実が確認されました。 2 法的論点の整理 (1) 土地と建物の按分についての法規定 課税資産(建物)と非課税資産(土地)を同一の者に対し同時に譲渡し、その譲渡対価の額が課税資産と非課税資産に合理的に区分されていない場合は、次のとおりとなります。 【上記計算式を用いる場合の具体的な按分方法】 (国税庁タックスアンサー(No.6301)より) (2) 土地と建物の按分についての課税庁の考え方 東京地裁令和4年6月7日判決(TAINS:Z272-13726)で、課税庁は次のように主張しています。 全てのケースに当てはまるとは限りませんが、課税庁の基本的な考え方として参考になるでしょう。 (3) 固定資産税評価額の決定方法 (※) 天災、火災その他の事由により損耗の状況が、経年による損耗の状況に比べ大きい場合、経年減点補正率に代えて「損耗減点補正率」を適用します。 不動産鑑定士の3つめの評価手法として、純収益を還元利回りで割り戻す収益還元法があります。 固定資産税評価額の決定方法には、この収益還元法の考え方が織り込まれていないため、収益物件の場合、市場性が反映されにくいという問題があります。 (4) 固定資産税評価額を按分に用いるのが合理的でない場合 ① 建物の築年数が浅いとき、固定資産税評価額が時価より低くなる傾向がある (参考)固定資産評価基準 別表第9 木造家屋経年減点補正率基準表 ② 建物の築年数が古い(法定耐用年数を経過しているなど)とき、固定資産税評価額が時価より高くなる傾向がある (5) 時価についての裁判所の考え方 ① 契約書で土地と建物の価額が区分されていない場合 競売取得物件について、原告は、土地については路線価を、建物等については類似物件を参考とした再調達価格に基づき按分を行い申告しました。これに対し課税庁は、固定資産税評価額の比率で処分を行いました。これを不服とした原告が、裁判所が選任した不動産鑑定士による鑑定を申し出ました。 裁判所は下記のとおり、裁判所鑑定の比率での按分を合理的と判示しています。 一方、同じ鑑定評価額でも、原告が当初主張していた原告依頼の鑑定評価額は、合理的な価額とは認められませんでした。 ② 契約書で土地と建物の価額が区分されているが、これと異なる按分を行った場合 (ⅰ) 売買契約書での区分が合理的 納税者が一括購入した土地と建物について、売買契約書では、固定資産税評価額を基に区分されていました。納税者がこれと異なる不動産取得税の概算税額の比で按分した申告に対し、課税庁は売買契約書の金額に基づくべきとして更正処分を行い、これを不服とした納税者は訴えを提起しました。 裁判所は、不動産取得税の概算税額の比での按分の合理性には触れず、固定資産税評価額比での按分計算により決定された価額について、 (※) A:納税者の取引相手方である売主 として、納税者の訴えを退けました。 (ⅱ) 売買契約書での区分が合理的でない 土地付きの中古住宅を仕入れて建物のリフォームを行い販売を行う事業者が、次のような割合で土地・建物の販売価額の按分を行っていました。 これに対し課税庁は、土地及び建物の仕入金額を基にリフォーム費用等を建物の価額に反映させた按分比率で更正処分を行いました。 納税者は、売買契約書に基づく区分等での按分を主張し、訴えを提起しました。 裁判所は、売買契約書において土地及び建物の対価が区分されていたとしても、その区分が合理的でなければ、消費税法施行令45条3項により時価での按分が適用される。また納税者が主張する建物価額は、リフォームによる付加価値の増加を反映していないので合理的でないとして、納税者の訴えを退けました。 3 本件事例へのあてはめ (1) 固定資産税評価額を基にした按分 (2) 不動産鑑定評価額を基にした按分 (3) 結論 本事例では、(1)と(2)で、仕入税額控除額の差は63万円ですが、建物の取得価額で700万円以上の差がありますので、今後の減価償却費計上による法人税減少効果に鑑み、不動産鑑定費用60万円を負担し、鑑定評価額を用いることとしました。 4 実務上の対応 (1) 契約締結前の情報収集 関与先の不動産購入情報は、なるべく早めに取得するようにしましょう。簡易課税適用事業年度に建物を取得した場合など納税額が不利になってしまう可能性があります。 (2) 契約書に土地と建物の区分を入れるかどうかの判断 契約書で定められた価額の区分は、売買当事者の法的な意思表示として取り扱われ、後にこれと違う価額で申告を行うことは困難です。 またインボイス制度開始後は、適格請求書の要件を満たしていないと、原則として仕入税額控除が出来なくなりました(※4)。したがって、取得の場合、売買契約書で建物価額及びその消費税額について区分記載の必要があります。一方で譲渡の場合、契約時点で売買価額の区分が間に合わない時は、あえて区分しないという選択肢もありえましょう(買主が一般の個人の場合、比較的容易だと思われます)。 (※4) 適格請求書がない場合について、仕入税額控除の経過措置があります。 宅地建物取引業を営む者(不動産業者)が、棚卸資産として建物を取得する場合を除きます。