国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第4回】 公認会計士・税理士 荒井 優美子 10 課税事業年度等 法人は各課税事業年度の基準法人税額に対して、当分の間、防衛特別法人税を課される(防衛財確法9)。課税事業年度は2026年4月1日以後に開始する各事業年度(法人税法第13条及び第14条に規定する事業年度)とされ、通算子法人については別途規定が設けられている(※1)(防衛財確法10)。納税地は法人税法の納税地と同一である(防衛財確法12)。 (※1) 通算親法人の2026年4月1日以後に開始する事業年度の期間内に開始する通算子法人の事業年度 11 課税標準と基準法人税額 (1) 課税標準法人税額 防衛特別法人税の課税標準は、各課税事業年度の課税標準法人税額とされ(防衛財確法12①)、課税標準法人税額は、法人が留保金課税がある場合とない場合とで計算が異なる。留保金課税がない場合は、各課税事業年度の基準法人税額から基礎控除額を控除した金額が課税標準法人税額とされる(防衛財確法12②一)。 【図表5】留保金課税がない法人の課税標準法人税額 各課税事業年度の基準法人税額には、留保金課税を受けた場合の留保税額(※2)を含む金額として計算されるが、この場合の課税標準法人税額は以下の金額の合計とされる(防衛財確法12②二)。 (※2) 基準法人税額のうちに特定同族会社の特別税率(留保金課税)により加算された金額 (注1) 基準法人税額から留保税額を控除した金額 (注2) 基準法人税額のうち留保税額 (注3) 基準法人税加算額から上記①で控除しきれなかった基礎控除額 【図表6】留保金課税がある法人の課税標準法人税額 (2) 基準法人税額の計算 法人税の計算過程と防衛特別法人税における基準法人税額の計算過程(地方法人税の基準法人税額の計算と同様である)は下記の【図表7】に示すとおりである。 内国法人の基準法人税額は、法人税の課税標準である各事業年度の所得の金額につき、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定(以下の規定を除く)により計算した法人税の額である(防衛財確法10一)。すなわち、基準法人税額は、【図表7】の①から②を控除し、③~⑥を加算し、⑦を控除せずに計算される。外国法人の基準法人税額は、恒久的施設の有無により、各事業年度の国内源泉所得に係る所得の金額の区分ごとに、法人税法その他の法人税の税額の計算に関する法令の規定(所得税額控除等の規定を除く)により計算した法人税の額の合計額である(防衛財確法10二)。 【図表7】内国法人に係る法人税の計算過程と防衛特別法人税における基準法人税額の計算過程との関係 *1 戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置による税額控除(措法42の12の6⑥⑦)、控除対象所得税額等相当額の控除(措法66の7④・66の9の3③) *2 通算法人の仮装経理に基づく過大申告の場合等の法人税額(措法42の14①④)のうち戦略分野国内生産促進税制のうち特定産業競争力基盤強化商品に係る措置による部分 (出典:財務省ホームページ「令和7年度税制改正の解説」を基に筆者作成) (3) 基礎控除額 基礎控除額は、年500万円とされ(防衛財確法13③一)、課税事業年度が1年に満たない法人は月数で按分する(1月未満の端数は切上げ)(防衛財確法13⑧⑨)。通算法人の場合には、500万円を各通算法人の基準法人税額又は加算前基準法人税額の比で配分した金額とされる(防確法13③二)。 (続く)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例149(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆国、地方公共団体、公共・公益法人等の仕入控除税額の計算の特例 国、地方公共団体、公共・公益法人等(人格のない社団等を含む)は、本来、市場経済の法則が成り立たない事業を行っていることが多く、通常は租税、補助金、会費、寄附金等の対価性のない収入を恒常的な財源としているのが実態である。 このような対価性のない収入によって賄われる課税仕入れ等は、課税売上げのコストを構成しない、いわば最終消費的な性格を持つものと考えられる。また、消費税法における仕入税額控除制度は、税の累積を排除するためのものであることから、対価性のない収入を原資とする課税仕入れ等に係る税額を課税売上げに係る消費税の額から控除することは合理性がない。 そこで、国、地方公共団体、公共・公益法人等については、通常の方法により計算される仕入控除税額について調整を行い、補助金等の対価性のない特定収入により賄われる課税仕入れ等に係る税額について、仕入税額控除の対象から除外することとされている。 ◆特定収入の意義(消基通16-2-1) 国、地方公共団体等に対する仕入れに係る消費税額の計算の特例に規定する「特定収入」とは、資産の譲渡等の対価に該当しない収入のうち、次の特定収入に該当しないものに掲げる収入以外の収入をいうのであるから、例えば、次の収入がこれに該当する。 ◆特定収入に該当しないもの(消令75) 資産の譲渡等の対価以外の収入で、次のようなものは特定収入に該当しない。 ◆特定収入がある場合の仕入控除税額の調整 国、地方公共団体、公共・公益法人等が簡易課税制度を適用せず、原則課税により仕入控除税額を計算する場合で、特定収入割合が5%を超えるときは、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額から一定の方法によって計算した特定収入に係る課税仕入れ等の消費税額を控除した残額を、その課税期間の仕入控除税額としなければならない。 ただし、国、地方公共団体、公共・公益法人等が簡易課税制度を適用している場合又は特定収入割合が5%以下である場合には、この仕入控除税額の調整をする必要はなく、通常の計算方法によって算出した仕入控除税額の全額を、その課税期間の仕入控除税額とすることができる。 ◆特定収入割合 特定収入割合は、その課税期間中の特定収入の合計額を、その課税期間中の税抜課税売上高、免税売上高、非課税売上高、国外売上高の合計額(=資産の譲渡等の対価の額の合計額)及び特定収入の合計額の総合計額で除して計算する。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第20回】 「非居住者に対して講演謝金を支払う場合 (来日講演又はオンライン講演)の税務上の留意点」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学術集会の際に、海外の研究者(非居住者)に講演してもらうケースはよくあるが、その際、来日して講演してもらうケースと海外からオンラインで講演してもらうケースでは、税務上の取扱いが異なるため留意が必要である。 1 来日講演の場合 (1) 消費税 来日講演の場合、国内で講演してもらうため、国内の課税取引となる。そのため、仕入税額控除を行うためには、原則としてインボイスが必要となるが、海外の研究者が適格請求書発行事業者であるケースは考えにくいため、通常、仕入税額控除が制限されるものと考える。 インボイスの少額特例が適用可能な学会の場合、インボイスがなくても1万円未満であれば仕入税額控除を適用することが可能であるが、海外の研究者に対する講演謝金は、通常1万円以上であるケースが多いため、仮に少額特例が適用可能な学会であっても、海外の研究者に対する講演謝金に適用できるケースは多くないと思われる。 なお、令和11年9月30日まではインボイスの経過措置期間であるため、区分記載請求書の記載要件を満たした講演謝金に関する領収書(又は支払通知書)を保存しておけば、一定割合(80%・50%)について仕入税額控除が可能である。 (2) 源泉所得税 来日講演した非居住者に対する講演謝金は、原則として源泉徴収の対象となり、報酬額の20.42%を源泉徴収する必要がある。ただし、租税条約による免除規定の適用を受ける場合は免税となる。 〈講演料の支払と源泉〉 租税条約による免除規定の適用を受けるためには、講演謝金の支払い前に学会の所轄税務署に租税条約に関する届出書を提出する必要があり、講演者及び学会において一定の事務負担が生じることになる。そのため、実務においては、仮に租税条約の適用が可能な場合であっても、手続せずに20.42%で源泉徴収しているようなケースも見受けられる。 2 海外からのオンライン講演 (1) 消費税 海外からのオンライン講演は、国外から電気通信の利用を通じて役務の提供を受けていることになるため、事業者向け電気通信利用役務の提供に該当すると考えられる。そのため、当該取引はリバースチャージの対象となるが、一般的に学会では非課税売上となる取引は少なく、課税売上割合が95%以上(リバースチャージの適用対象外)の学会が大部分であると考えられるため、仕入税額控除の対象外となるケースが多いと考える。 (2) 源泉所得税 非居住者が海外からオンラインで講演を行う場合、国外源泉所得になると考えられるため、源泉徴収は不要である。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第52回】 「重ダンプは人や物の運搬を主たる目的とする車両及び運搬具と断定できず、機械及び装置に該当しないといえないから、中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除等の適用が認められた事例」 税理士 菅野 真美 ▷車両運搬具と機械及び装置 機械及び装置や車両及び運搬具は 減価償却資産の種類の1つであるが(法法2二十三)、税法上明確な定義がなされていない。 そこで一般的な定義を国語辞典である「大辞林第四版」で調べると「機械」及び「装置」は次のようになる。 (※1) 松村明編 『大辞林第四版』(2019、三省堂)634頁 (※2) 松村編 前掲 1577頁 車両運搬具として掲載されていないことから「車両」、「運搬」並びに「具」に分解して定義を調べると次のようになる。 (※3) 松村編 前掲 1265頁 (※4) 松村編 前掲 277頁 この3つから、車両運搬具とは、人や物を運ぶ手段であると考えられる。 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)の車両及び運搬具の中の特殊自動車は(この項には、別表第二に掲げる減価償却資産に含まれるブルドーザー、パワーショベルその他の自走式作業用機械並びにトラクター及び農林業用運搬機具を含まない)と定められている。つまり、自走式作業用機械は、機械及び装置に該当するから車両及び運搬具には該当しない。 また、耐用年数の適用等に関する取扱通達では、特殊自動車に該当しない建設車両等について次のように定められている。 ところで、重ダンプトラックというトラックの一種がある。これはどのようなものかJIS工業用語大辞典によると次のように定義されている。 (※5) 日本規格協会編『JIS工業用語大辞典 第5版』(2001、日本規格協会)948頁 この重ダンプトラックは、車両及び運搬具なのか、それとも機械及び装置に該当するものとして、中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除や、中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除を適用することができるのか。この点で争われた裁決事例を検討する。 ▷どのような事案か 納税者は、採掘加工販売等を営む法人であり、措置法42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)又は42条の12の4(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)で定められた中小企業者等で、かつ、納税者の営む事業は、上記法令で規定された指定事業に該当する。 納税者は、平成27年3月期、平成28年3月期、平成29年3月期に取得した重ダンプが、機械及び装置に該当するものとして措置法42条の6を適用して申告をした。また、平成30年3月期、平成31年3月期に取得した重ダンプについては、機械及び装置に該当するものとして措置法42条の12の4を適用して申告をした。 課税庁は税務調査を行い、上記特別控除を適用した重ダンプは、車両及び運搬具に該当するものとして更正処分等を行ったところ、この課税処分に不服な納税者が審査請求したのが本件である。 ▷争点 争点は2つあったが、本稿では各重ダンプが「機械及び装置」に該当するものとして、措置法42条の6(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)又は42条の12の4(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除)に規定する「機械及び装置」に該当するかを検討する。 ▷裁決 裁決は、課税庁の処分のうち、法人税額の特別控除を不適用とした部分は違法であるとして処分の一部又は、全部取消しを行った。 要旨は以下である。 (※6) ■■■等は裁決書の記載である。 本件各重ダンプが行う主たる役務が運搬であると断定することができず、「車両及び運搬具」に該当するとまでは認められないことから、更正すべき理由はなく、措置法42条の6又は42条の12の4の規定に基づく法人税額の特別控除を不適用とした部分は違法である。 このように納税者の重ダンプは、特別控除が認められた。車両及び運搬具又は機械及び装置に該当するための判断基準は、主たる目的が、人や物を運搬することか、作業現場で作業することかである。本件の場合は、主たる目的が■■■等の運搬であるとは判断できなかった。このような車両について機械及び装置として特別控除を受けるためには、主たる目的が運搬ではないということを証明できることが重要である。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第78回】 「定期傭船契約付き船舶の評価方法が争われた事例 (地判令2.10.1)(その2)」 ~相続税法22条~ 税理士 大野 道千 2 検討 【船舶の評価】 (1) 判断順序 本件では、「被告が本件各処分の適法性の根拠として本件各船舶の価格につき原処分庁鑑定価格(・・・)を主張している(・・・)ことから、以下においては、まず、原処分庁鑑定における評価対象船舶の価格評価が合理的に行われたものであるか否かについて検討し、その合理性が否定される場合に、原告鑑定における価格評価を採用することができるか否かについて検討することとする」とし、まず被告の船価方式について合理性の検討が行われ、その合理性が否定される場合に原告鑑定の検討に移るという順序で検討が行われている。 つまり、処分庁である被告鑑定に不合理な点がなかった場合は納税者である原告鑑定について検討が行われなかった可能性がある。 当判決が「(・・・)船価鑑定に一定の実績を有する訴外各専門業者からのヒアリング結果(・・・)からも明らかなように、船価鑑定の具体的な手法は精通者の間においても一様ではなく、鑑定方式の選択や価格形成要因の評価等の取扱いが異なっている(・・・)」と述べるように複数の評価額があり得る場合において原処分庁側の鑑定結果が優先的に採用される点については検討の余地がある(※1)。そこで、建替えを予定する不動産の財産評価において、評価通達によらない評価と評価通達による評価、それぞれの価額が検討された東京高判平成27年12月17日を基に検討を行う。 (※1) 渋谷雅弘は「このような判断過程においては、原処分庁鑑定の合理性が認められた場合には、X鑑定の合理性や、両者のどちらが優れているかといった点は検討されないことになる。その結果として、一応合理的であると認められる財産評価方法が複数存在する場合には、課税庁がそれらの中から優先的に評価方法を選ぶことができるということになる」とし、「納税者と課税庁との鑑定評価にまで優先劣後の関係を持たせることには、法的根拠を見出し難いように思われる」と疑問を呈している(渋谷雅弘「定期傭船契約付き船舶の評価方法」ジュリ1563号11頁(2021))。 (2) 平成27年12月17日東京高裁判決の事案の概要 贈与により建替え予定のある老朽化した不動産を取得した原告らが、不動産鑑定士の鑑定評価による当該不動産の価額を基礎として課税価格を計算し各々贈与税の申告をしたところ、各処分行政庁から、当該各不動産の価額は財産評価基本通達に定められた評価方式により評価したものとすべきであるとして、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を受けたため、本件各更正処分のうち原告らの申告に係る課税価格及び納付すべき税額を超える部分並びに本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 原告らは鑑定評価による価額が時価であり、評価通達による評価はこの時価を大きく上回っている旨主張した。原審は、不動産の建替えが実現する蓋然性が高かったにもかかわらず、蓋然性が高くなかったことを前提として評価した鑑定評価はその評価の前提を欠くものであって、評価通達による評価額が本件各贈与時における不動産の時価を上回っていたと認めることはできないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却。控訴人らがこれを不服として控訴した。 (3) 平成27年12月17日東京高裁判旨 相続税法22条は、贈与等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される(・・・)。(・・・)相続税法は(・・・)、財産が多種多様であり、時価の評価が必ずしも容易なことではなく、評価に関与する者次第で個人差があり得るため、 納税者間の公平の確保、納税者及び課税庁双方の便宜、経費の節減等の観点から、評価に関する通達により全国一律の統一的な評価の方法を定めることを予定し、これにより財産の評価がされることを当然の前提とする趣旨であると解するのが相当である。(・・・)。同法の上記趣旨を受けて、国税庁長官は財産評価基本通達を定め、この通達に従って実際の評価が行われている。 同法の上記趣旨に鑑みれば、評価対象の不動産に適用される評価通達の定める評価方法が適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであり、かつ、当該不動産の贈与税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、上記課税価格は、その評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情の存しない限り、贈与時における当該不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認するのが相当である(・・・)。 (・・・)本件各贈与時にはAの建替えが実現する蓋然性が高かったというべきであるから、本件各贈与時においてAの建替えの実現性に不透明な部分があったということはできず、評価通達が定める評価方法によっては適正な時価を適切に算定することができない特別の事情が存在したということはできない。 したがって、上記建替えを前提として評価通達が定める評価方法に従って本件各不動産を評価して決定された課税価格は、贈与時における本件各不動産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認される。 そうすると、本件各贈与時においてAの建替えの実現性に不透明な部分があるとして上記建替え前の客観的な交換価値を算定する本件各鑑定評価額は、その前提を欠くというべきであるから、(・・・)本件各不動産につき評価通達による評価方法によっては適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情をいうに足りないことは明らかである。 3 考察 (1) 財産の評価額 相続税法22条は、財産の価額はその取得の時における時価と定め(※2)、取得の時とは、相続税の場合は被相続人等の死亡の日、贈与税の場合は贈与によって財産を取得した日をいい(※3)、「取得の時」より後に何らかの理由で財産の価格が低落した場合も課税価格の基礎となる財産の価額は、原則的には相続時又は贈与時のその財産の時価であるとされる(※4)。財産の時価については、相続税法において一部の財産のみ規定するほかは解釈適用に委ねられているが、これを客観的に評価することは困難であり、納税者間の公平性の観点から、実務上は当該一部の財産を除いて国税庁が定める財産評価基本通達に従って行われている(※5)。 (※2) 相続税法22条は、「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による」と定める。 (※3) 金子宏『租税法〔第24版〕』734頁(弘文堂、2021)。 (※4) 同上[金子]。 (※5) 同上[金子]。 (2) 参考判例における判断順序 参考判例が概ね引用した原審判決では、「評価通達に定められた評価方式が贈与により取得した財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合においては、(・・・)納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、相続税法22条の規定の許容するところである」とした上で、(ⅰ)評価通達に定められた評価方式における合理性の有無、(ⅱ)評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情の有無①鑑定評価が時価を表すものであるか否か、②評価通達に定められた評価方式による評価額が時価を上回っているか否かの順に検討が行われている。 上記(ⅱ)の検討理由として、原審は「原告らは、本件各鑑定評価額が本件各贈与時における本件各不動産の時価であり、評価通達に定められた評価方式によって本件各不動産の価額として算定された金額は上記の本件各贈与時における本件各不動産の時価を上回っていると主張しており、本件各不動産について評価通達に定められた評価方式によっては適正な時価を適切に算定することのできない特段の事情がある旨を主張しているものと解されるので、これについて検討する。」と判示している。 (3) 本判決における納税義務者の主張及び検討 判決資料(別紙4「第2 原告の主張の要旨」)による原告の主張は次の通りである。 曰く、「被告は、被告評価額は、精通者である原処分庁鑑定業者の意見価格(原処分庁鑑定価格)を参酌して評価されたものであり、かかる評価方法によって適正な時価を適切に算定することのできない特別な事情もうかがわれないから、被告評価額は本件係争船舶の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと推認されると主張する。しかし、(・・・)原処分庁鑑定における鑑定方法は合理性を欠くものであって、上記の特別な事情が認められることになるから、被告評価額について適正な時価を上回るものではないとの推認は及ばないというべきである。 他方、精通者である原告鑑定業者が用いた鑑定方法は、(・・・)合理的なものであるから、原告鑑定業者の意見価格(原告鑑定価格)を参酌して評価した本件係争船舶の価額(・・・)をもって、本件贈与日時点における本件係争船舶の価額と認めるのが相当である。 そして、原告評価額及び当事者間に争いのない本件売却船舶の評価額を前提にすれば、本件株式の価額は0円であり、原告について平成21年分の贈与税の課税価格に係る贈与税額はないということになるから、原告に対してされた本件各処分は違法であって、取消しを免れない」。 本判決で双方が採用した方法はいずれも評価通達に認める評価方法であり、いずれも合理的であれば特段の事情について言及する必要はないように思われる。参考判例のように、原告側の評価通達に定める評価方式が合理的であり、評価額が適正時価である、との主張をした場合、本判決の判断過程は変わっただろうか。 財産の評価は納税者の利害に大きく影響することを考慮すれば、申告納税制度の下、納税義務者が自ら採用した評価通達に定める評価方式による評価額より処分庁における評価額の妥当性の検証を優先したことはいささか乱暴であったように受け取れる。 (4) 実務上の意義 船価鑑定の具体的手法が一様ではなく、船価鑑定における鑑定方式の選択や価格形成要因の評価等の取扱いが異なっている状況下で評価方式及びその合理性の認定過程が示されたことについての実務上の意義は大きい。しかしながら、通達において複数評価方法を認めつつ課税庁側の評価を優先的に取り扱う旨の判示は、確信的な自己申告を困難にする恐れがある(※6)。また、相続税法が定める「時価」の追求という意味では納税者側の評価の検討という視点もあろう(※7)という点で、特に評価手法の定まらない船舶の評価において「まず、原処分庁鑑定における評価対象船舶の価格評価が合理的に行われたものであるか否かについて検討し、その合理性が否定される場合に、原告鑑定における価格評価を採用することができるか否かについて検討することとする」とした本件判旨に反対である。 (※6) 碓井光明は申告納税制度が真に機能するための前提として納税者が自己の財産を自ら評価できる状態が必要であるとし、この前提が満たされない場合は申告内容に確信が持てず不安状態に陥るとしている(碓井光明「相続税・贈与税における資産評価-土地の評価を中心として」日税7号9頁(1988))。 (※7) 相続税法が定める「時価」の追求は、租税法律主義に基づいた判断に対する国民の期待に応えるものであると考える。金子宏は現実的には通達が法源と同様の機能を果たしているといえる実際的な重要性に鑑み、通達の内容が法令に抵触するものであってはならない、すなわち、法令が要求している以上の義務を通達によって納税者に課すことがあってはならない(同時に法令上の根拠なしに通達限りで納税義務を免除したり軽減することも許されない)とする(前掲(※3)116頁)。 なお、参考判例では建替えの蓋然性について、本判決では傭船契約継続の蓋然性が評価額に影響している。財産の価額はその取得の時における時価とされているものの、そこには将来見込まれる収益価値も蓋然性によっては考慮する必要があるとされた点に注意が必要である。 (了)
新リース会計基準における実務対応 -会計処理と申告調整のポイント- 【第1回】 公認会計士 鈴木 慧史 1 リースとは ●リース会計基準の改正 令和6年9月、企業会計基準委員会から「リースに関する会計基準」(以下、リース会計基準)が公表されました(令和9年4月1日以後に開始する事業年度から適用)。従来のリース会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース取引」と「オペレーティング・リース取引」の2種類に分類し、前者は売買処理、後者は賃貸借処理を行うこととされていました。 新たに公表されたリース会計基準では、借り手の会計処理についてこの分類を廃止し、すべてのリースにつき同一の会計処理を適用することとされました。一方、貸し手の会計処理は従来どおり、2種類に分類し、会計処理を定めています。 ●リースの識別が重要 リース会計基準では、借り手の全てのリースについてオンバランス処理が求められるため、契約がリースに該当するか否かの判断が非常に重要になります。 リース会計基準では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」と定義しています。この定義に該当するか否かを判断するに当たっては、以下の2つの要件に照らして検討することとされています。 この2つの定義に該当する契約は、契約の名称を問わずリースに該当するとされます。例えば、オフィスや倉庫などの不動産の賃貸借契約について、通常は契約の対象となる物件が特定されており(要件①)、その使用方法を借り手が自由に決定することができる(要件②)ため、リースに該当するとされます。このように、リース会社との間で締結するいわゆるリース契約のほかにも、賃貸借契約やレンタル契約など幅広い契約がリース会計基準の対象となります。 2 リースの会計処理 (1) 借り手の会計処理 ●リース期間の決定 借り手の会計処理の前提として、リース期間を決定する必要があります。リース期間とは、リースの対象となる資産を使用する期間のことですが、契約書に記載された契約期間を単純に使用すればよいというわけではなく、以下の期間の合計とされます。 不動産の賃貸借契約を例に説明します。建物の賃貸借契約で、契約期間は2年、契約期間満了後に借り手は契約期間の延長が可能、3ヶ月前に通知することにより、借り手は契約を解約できるものとします。この場合、借り手は3ヶ月前に通知することによりいつでも解約できるため、①契約上の解約不能期間は3ヶ月となります。 また、契約期間満了後、契約期間の延長が可能であるため、②延長オプションを有していることになります。このため、リース期間の決定に当たっては、解約不能期間である3ヶ月と、延長オプションとして見込まれる期間の合計として算定することとなり、例えば延長オプションを含めて5年間、賃貸借契約が継続すると見込まれる場合には、リース期間は5年となります。 このように、契約書に記載された契約期間を単純に使用すればよいわけではなく、契約の更新または中途解約も想定した上でリース期間を決定することが必要となります。 ●リース開始時の会計処理:使用権資産とリース負債を計上 借り手のリースの会計処理は、従来のファイナンス・リース取引とほぼ同様になります。リース開始日において、リース料総額から利息相当額を控除した金額を、資産・負債として計上します。この場合、借方は使用権資産、貸方はリース負債という勘定科目を使用します。 ●リース期間中の会計処理:減価償却および利息相当額の配分 使用権資産を有形固定資産または無形固定資産として計上した上で、毎期、減価償却費を計上します。減価償却費はリース期間を耐用年数、残存価額を0とし、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定します。 なお、対象資産の所有権が借り手に移転すると認められるリースについては、耐用年数を経済的使用可能予測期間、残存価額を合理的な見積額とし、対象資産を自ら所有していた場合に適用する減価償却と同一の方法により算定します。 リース負債はリース料の支払時に取り崩しますが、その際にリース料総額から控除した利息相当額について、原則として利息法により配分します。 設例1 ×1年4月1日に次のリース契約を締結した場合の仕訳は、以下のとおりです。 〔仕 訳〕 ×1年4月1日 使用権資産およびリース負債の計上 (※) 使用権資産およびリース負債の金額は、以下のように計算します。 10,000千円÷1.02+10,000千円÷1.022+10,000千円÷1.023+10,000千円÷1.024+10,000千円÷1.025=47,135千円 ×2年3月31日 使用権資産の償却 (※) リース期間を耐用年数とし、残存価額を0として計算します。 47,135千円÷5年=9,427千円 ×2年3月31日 リース料の支払い (※) 支払利息を以下のように計算し、残額をリース負債元本の返済として処理します。 47,135千円×2%=943千円 ●簡便的な取扱い 以上の原則的な会計処理に対して、リース会計基準では借り手の会計処理について、次の(ⅰ)および(ⅱ)の簡便的な取扱いが認められています。 (ⅰ) 利息相当額の配分方法 使用権資産の総額に重要性が乏しいと認められる場合、以下のいずれかの方法を適用することができます。 (※) 重要性が乏しい場合とは、次の割合が10%未満であることとされています。 設例2 設例1のリース契約について、上記の簡便法を採用した場合の仕訳は次のとおりです。 〔仕 訳〕 〇簡便法(a)の場合 ×1年4月1日 使用権資産およびリース負債の計上 (※) 利息相当額を控除しないため、リース料総額でオンバランスします。 ×2年3月31日 使用権資産の償却 (※) 50,000千円÷5年=10,000千円 ×2年3月31日 リース料の支払い (※) 支払リース料の全額がリース負債の返済となります。 〇簡便法(b)の場合 ×1年4月1日 使用権資産およびリース負債の計上 ×2年3月31日 使用権資産の償却 ×2年3月31日 リース料の支払い (※) 支払利息をリース期間で均等に按分します。 (50,000千円-47,135千円)÷5年=573千円 (ⅱ) 少額または短期リース 以下のリースについては、使用権資産およびリース負債を計上せず、賃貸借処理によることができます。なお、②と③はいずれかの方法を選択適用します。 この場合、リース開始時の仕訳はなく、リース料の支払時に次の仕訳を行います。 (続く)
連結会計を学ぶ(改) 【第3回】 「連結の範囲に関する適用指針①」 -親会社と子会社- 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)では、連結財務諸表に含まれる子会社の範囲を、支配の概念にもとづいて基本的な規定を設けている。 より具体的な指針としては、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第22号。以下「連結範囲適用指針」という)が公表されている。 今回(第3回)と第4回及び第5回では、連結範囲適用指針にもとづいて連結の範囲を解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 親会社と子会社 1 議決権割合の算定 連結会計基準では、「他の企業の意思決定機関を支配している企業」として、他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有している企業と規定している(連結会計基準7項(1))。 子会社の判定に係る議決権の所有割合は、原則として、次の算式によって算定する(連結範囲適用指針4項、36項)。 上記算式の議決権については次の事項に注意する(連結範囲適用指針4項~7項)。 ① 議決権は、期末における議決権である。 ② 他の会社が関連会社に該当するかどうかの判定において、持株関係が複雑であり、行使し得る議決権の総数の把握が困難と認められる場合には、議決権の所有割合の算式における分母を、行使し得る議決権の総数に代え、直前期の株主総会招集通知に記載されている総株主の議決権の数により算定することができる。 ③ 行使し得る議決権の総数は、株主総会において行使し得るものと認められている総株主の議決権の数である。 したがって、次の株式に係る議決権については、いずれも行使し得る議決権の総数には含まれないこととなる。 (a) 自己株式(会社法308条2項) (b) 完全無議決権株式(株主総会のすべての事項について議決権を行使することができない株式。会社法108条1項3号) (c) 会社法308条1項による相互保有株式 ④ 所有する議決権の数は、行使し得る議決権の総数のうち自己及び子会社の所有する議決権の数による。 ⑤ 議決権の所有割合を算定するにあたっては、議決権のある株式又は出資の所有の名義が役員等自己以外の者となっていても、議決権のある株式又は出資の所有のための資金関係、当該株式又は出資に係る配当その他の損益の帰属関係を検討し、自己の計算において所有しているか否かについての判断を行う必要がある。 2 緊密な者及び同意している者 緊密な者及び同意している者が存在している場合には、子会社の判定について用いられる議決権の所有割合は、原則として、次の算式によって算定する(連結範囲適用指針8項)。 「緊密な者」とは、自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者である(連結範囲適用指針8項)。 「同意している者」とは、契約や合意等により、自己の意思と同一内容の議決権を行使することに同意していると認められる者である(連結範囲適用指針8項、10項)。 緊密な者に該当するかどうかは、両者の関係に至った経緯、両者の関係状況の内容、過去の議決権の行使の状況、自己の商号との類似性等を踏まえ、実質的に判断する(連結範囲適用指針9項)。 例えば、次に掲げる者は一般的に緊密な者に該当するものと考えられている(連結範囲適用指針9項)。 ① 自己(自己の子会社を含む)が議決権の100分の20以上を所有している企業 ② 自己の役員又は自己の役員が議決権の過半数を所有している企業 ③ 自己の役員もしくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めている当該他の企業 ④ 自己の役員もしくは使用人である者、又はこれらであった者で自己が他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、代表権のある役員として派遣されており、かつ、取締役会その他これに準ずる機関の構成員の相当数(過半数に満たない場合を含む)を占めている当該他の企業 ⑤ 自己が資金調達額(貸借対照表の負債の部に計上されているもの)の総額のおおむね過半について融資(債務保証及び担保の提供を含む)を行っている企業(金融機関が通常の取引として融資を行っている企業を除く) ⑥ 自己が技術援助契約等を締結しており、当該契約の終了により、事業の継続に重要な影響を及ぼすこととなる企業 ⑦ 自己との間の営業取引契約に関し、自己に対する事業依存度が著しく大きいこと又はフランチャイズ契約等により自己に対し著しく事業上の拘束を受けることとなる企業 上記以外の者であっても、出資、人事、資金、技術、取引等における両者の関係状況からみて、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者は、「緊密な者」に該当する(連結範囲適用指針9項なお書き)。 自己と緊密な関係にあった企業であっても、その後、出資、人事、資金、技術、取引等の関係について見直しが行われ、自己の意思と同一の内容の議決権を行使するとは認められない場合には、緊密な者に該当しない(連結範囲適用指針9項また書き)。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第14回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】資産除去債務関係から棚卸資産関係の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 資産除去債務関係 資産除去債務について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社の分も含めて注記が必要であることから、連結子会社の情報も収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表における注記は不要である。 【事例:(株)ミツウロコグループホールディングス 2025年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)近鉄百貨店 2025年2月期の有価証券報告書】 2 賃貸等不動産関係 賃貸等不動産関係について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社の分も含めて注記が必要であることから、連結子会社の情報も収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表における注記は不要である。 【事例:阪神阪急ホールディングス(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 3 公共施設等運営事業関係 公共施設等運営事業関係について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社の分も含めて注記が必要であることから、連結子会社の情報も収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表における注記は不要である。 4 収益認識関係 収益認識について注記が求められている。連結の注記であるため、連結子会社の分も含めて注記が必要であることから、連結子会社の情報も収集する必要がある。 また、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合、下記1一及び三については、個別財務諸表における注記は不要である。また、下記1二については、連結財務諸表において同一の内容が記載される場合には、その旨を記載し、当該事項の記載を省略することができる。 【事例:中外炉工業(株) 2025年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)サンドラッグ 2025年3月期の有価証券報告書】 5 棚卸資産関係 市場価格の変動により利益を得る目的をもって所有する棚卸資産については、金融商品に関する注記の規定(連結財務諸表規則第15条の5の2。【第11回】の「2 金融商品関係」1三参照)に準じて注記する。ただし、重要性の乏しいものについては、注記を省略することができる。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第27回】 「管理監督者と労働時間等の管理」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 管理監督者は、労働時間、休憩時間等の規制がありませんが、年次有給休暇の付与、欠勤控除、遅早控除等が可能かどうかが問題となることがあります。 今回は、管理監督者の労働時間等の管理について解説します。 * * 解 説 * * 1 管理監督者とは 「管理監督者」とは、労働基準法第41条2号で「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」と規定され、労働時間、休憩及び休日が適用除外とされています。 管理監督者として認められるためには下記の要件を満たす必要があります。課長、部長、支店長等の管理職の名称で判断するものではありません。 2 管理監督者の勤怠関係 (1) タイムカード等による時間管理 管理監督者は労働時間の規定が適用除外とされていますが、タイムカード等による労働時間の把握と管理は必要です(労働基準法第108条及び同法施行規則第54条等)。労働時間の把握義務は、労働衛生安全法(第66条の8の3等)にも規定されていて、長時間労働よる健康障害防止等もその目的の1つです。企業には、管理監督者に対しても一般労働者と同様に安全配慮義務があります。 (2) 遅刻早退による賃金控除 管理監督者は、労働時間が自らの裁量に委ねられているため、遅刻早退時の賃金控除の対象外となります。仮に管理監督者に対し、遅刻早退時に時間単位での賃金控除を行うことは、労働時間について制限を受けていると判断されて、管理監督者性が否定されてしまいます。 (3) 欠勤による賃金控除 管理監督者であっても、出勤義務がないわけではありません。傷病などの理由により終日出勤せず、労務の提供がないということであれば、ノーワーク・ノーペイの原則により、欠勤控除を行うことは可能です。 しかし、数日の欠勤で管理監督者としての職務遂行に影響がないのであれば、欠勤控除を行わなくても問題はありません。 3 管理監督者に対する賃金の支払い等 (1) 時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金 管理監督者は、労働基準法で定められている労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されませんので、法定労働時間(1日8時間・1週40時間以内)を超えた場合や法定休日に勤務した場合であっても、時間外労働割増賃金、休日労働割増賃金の支払いは必要ありません。 (2) 深夜労働割増賃金 労働基準法における「深夜労働割増賃金」は、夜22時から翌朝5時の時間帯に働いた場合、通常の労働時間の賃金に25%以上割増しされて支払われるもので、同法第37条第4項に規定されています。時間外労働とは別規定ですので、この規定については、管理監督者にも適用されます。深夜労働があった場合には、深夜労働割増賃金の支払いが必要になります。 (3) 年次有給休暇 管理監督者に適用されないのは、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」であって、休暇は含まれていませんので「年次有給休暇」の規定(労働基準法第39条)については、管理監督者にも適用されます。一般労働者と同様、年次有給休暇の付与義務が課せられています。付与日数等の条件も一般労働者と同様です。 4 就業規則での規定 管理監督者の要件や労働基準法上の規制は上記のとおりですが、事前に就業規則や雇用契約書等で明確にしておくことがトラブルの防止につながります。下記就業規則例を参考にしてください。 〈就業規則の規定例〉 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第7回】 「アルバイトのシフト削減の可否」 〈流通・小売業・卸売業〔Q2〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 織田 康嗣 【Q】 当店では、アルバイトを多く採用していますが、毎月の労働日や労働時間はシフト制によって定めています。あるアルバイトが問題行動を起こしているため、そのアルバイトのシフトを減らしたいと考えているのですが、可能でしょうか。 【A】 シフト決定権限の濫用に当たらないよう、シフトを削減する合理的な理由を整理できなければなりません。アルバイトの問題行動に対しては、まずは厳重注意や懲戒処分をもって改善を促すべきです。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 シフト制 アルバイト労働者やパートタイム労働者を中心に、労働契約の締結時点では、労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間ごとに作成される勤務割やシフト表等によって、具体的な労働日や労働時間が確定するような形態が採られることがある(いわゆるシフト制)。 シフト制による働き方は、社会的に広まっている制度であり、飲食店や小売業においてもよく見られる働き方である。シフト制は、労働者にとって、その時の状況に応じて、柔軟に労働日や労働時間を設定できるというメリットがある一方、使用者側の都合により、労働日がほとんど設定されなかったり、反対に労働者の希望を超える労働日数が設定されること等により、トラブルになることもある。 シフト制に関しては、厚生労働省から、「いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」(令和4年1月7日)が発出されており、その内容に留意する必要がある。 2 シフトの削減について シフトの削減(シフトカット)の問題は、①シフトが確定する前か後か、②(シフトが確定する前であったとしても)労働契約上で所定労働日数等の合意があるか否か、③(所定労働日数等の合意がないとしても)シフト決定権限の濫用に当たらないかを検討する必要がある。 (1) シフトが確定した後の場合 一度、シフトが確定した場合には、確定したシフトは労働日ということになるので、シフトを使用者側の都合で一方的に削減し、当該日の出社を認めない場合には、休業手当の支払が必要になる。 すなわち、当該日に労働義務が生じているにもかかわらず、使用者側の都合によって、労働者からの労務提供を拒むことになるため、危険負担の法理に基づき、「使用者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったとき」(民法536条2項)または「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合」(労働基準法26条)に該当するものとして、賃金全額(民法526条2項の場合)か休業手当(労働基準法26条の場合)を支給する必要がある。 民法526条2項か、労働基準法26条のいずれを適用すべきかは、使用者の帰責性の程度による。労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」の方が広いと解されており、民法526条2項の場合は、使用者の故意・過失または信義則上これと同視すべき事由を指す一方、労働基準法26条の場合には、使用者側に起因する経営・管理上の障害も含まれる(ノースウエスト航空事件・最判昭和62年7月17日労判499号6頁)。 (2) 所定労働日数等の合意がある場合 シフトが確定する前であったとしても、労働契約上、所定労働日数や所定労働時間の合意がなされている場合には、契約内容となった所定労働日数や所定労働時間の変更を行うためには、労働者の同意を得る必要がある。仮に労働者の同意なく、契約内容を下回る変更を行い、労働者に予定された労務提供を拒むことになる場合には、(1)で述べたような休業手当を支払う必要がある。 シフト制において、いかなる場合に所定労働日数や所定労働時間の合意があるといえるかであるが、労働契約上でそうした条件が明記されている場合は問題になりにくいものの、具体的な定めがない場合に特に問題となる。 裁判例では、「本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、上記各契約書の記載のみにとらわれることなく、本件請求期間より前の控訴人(筆者注:従業員)の勤務実態等の実情も踏まえて、契約当事者の意思を合理的に解釈して認定するのが相当である。」とした上で、「本件請求期間より前である平成29年以前は、おおむね週4日勤務していたものと推認されるから、本件雇用契約における所定労働日数に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、週4日であったと認めるのが相当である。」として所定労働日数を認定した事例もある(ホームケア事件・横浜地判令和2年3月26日労判1236号91頁)。 反対に、労働者が週3日勤務を主張した事案において、雇用契約書には「シフトによる」という記載があるのみであり、週3日であることを窺わせる記載はなく、勤務開始当初の2年間においても、必ずしも週3日のシフトが組まれていたとは認められないこと、他の職員との兼ね合いからも、1ヶ月の勤務日数を固定することは困難であるとして、所定労働日数の合意を否定した事例もある(シルバーハート事件・東京地判令和2年11月25日労判1245号27頁)。 所定労働日数や所定労働時間の合意については、使用者と従業員との間で、明示・黙示の合意が成立していないか、慎重に判断する必要がある。 (3) シフト決定権限の濫用 使用者と従業員との間で、所定労働日数等の合意が認められないとしても、シフトの一方的な削減が、使用者のシフト決定権限濫用と評価される場合がある。 前掲シルバーハート事件では、「シフト制で勤務する労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するものであり、労働者の不利益が著しいことからすれば、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用に当たり違法となり得ると解され、不合理に削減されたといえる勤務時間に対応する賃金について、民法536条2項に基づき、賃金を請求し得ると解される。」と判示している。 使用者との間で所定労働日数等の合意が成立しないとしても、合理的な理由なく、シフトを大幅に削減した場合には、シフト決定権限の濫用があったとして、不合理に削減されたシフト時間につき、賃金請求することが可能となる(民法536条2項)。 3 設問の場合 アルバイトが問題行動を起こしている場合には、シフト削減の合理的な理由になることもあり得るが、前述のとおり、そもそもシフトが確定した後であったり、所定労働日数等の合意が成立している場合には、一方的なシフト削減を行った場合、賃金支払義務または休業手当の支払義務が生じることになる。 所定労働日数等の合意がなく、シフト決定権限の濫用の問題のみであるとしても、従業員の問題行動に対しては、厳重注意や懲戒処分によって、対処することも可能である。こうした日々の従業員への指導・教育が不十分な状況下において、シフト削減によって対処することに合理的な理由があるといえるかは、慎重に判断しなければならない。一般的には、まずは、段階に応じた厳重注意や懲戒処分を行い、本人に改善の機会を与えることが必要であると考えられる。 なお、シフトの削減は、感染症の拡大の場面や経営上の理由など、様々な場面で検討されることがある。これらの場合でも同様に、賃金または休業手当の支払義務が生じないか、シフト決定権限の濫用に該当しないか(シフト削減の合理的な理由があるか)、慎重に検討しなければならない。 (了)