《速報解説》 令和7年度税制改正大綱が公表される ~年収103万円の壁は基礎控除・給与所得控除の引上げで令和7年分から123万円へ~ Profession Journal編集部 12月20日(金)、自由民主党・公明党は「令和7年度税制改正大綱」(いわゆる与党大綱)を公表した。 議論の焦点となっていた年収103万円の壁は、令和7年分以後の所得税より ことで、123万円へ引き上げられることが明記された。 ※その他、続報・詳報は例年通り、追って本誌速報解説にて解説、メールマガジンにて公開をお知らせしますので、ブラウザページ右からのメルマガ登録をお勧めします。 (了)
2024年12月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.599を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第68回】 「定期同額給与と宿日直手当等」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 定期同額給与と諸手当の支給 役員に対する人件費については、いわゆるお手盛り防止や恣意性の排除の観点から定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の制度が税務上設けられており、これらに該当しなければ損金算入が認められないのは周知のとおりである。その中でも定期同額給与は代表的な論点であるため、その考え方は実務に深く浸透しているといえる。 それでは、今回の質問にあるような医師である医療法人の役員を対象として、宿直手当や日直手当を支給する場合には、どのように判断すればよいのだろうか。この点について具体的に示された事例として松江地裁令和3年2月8日判決があるため(※1)、以下に概要を紹介する。 (※1) 税務訴訟資料271号順号13521、TAINS:Z271-13521。評釈として、林仲宣・高木良昌「定期同額給与・医療法人の理事長の宿日直手当」税務弘報71巻(2023)12号158頁、小仙健太郎「医療法人の理事に支給した宿日直手当等の『最低月額部分の損金算入の可否』と『定期同額給与該当性』」税務事例56巻(2024)10号70頁等がある。 (2) 役員に対する宿日直手当等について定期同額給与に該当しないとされた事例 本件は、医療法人の役員に対する「基本給部分」ではなく、諸手当についての定期同額給与該当性が争われた事例である。納税者は、土曜日直手当や回数手当については理事自らが宿日直等を行ったことに対する所定の基準に基づいており、月々の変動はほとんどなく、恣意性や利益調整性は全くないことを主張した。 また、国税庁が公表している「役員給与に関するQ&A」にて、役員給与の増額改定が行われた場合、その年度における定期給与の全額を損金不算入とするのではなく、改定による差額部分のみを損金不算入とする解釈を示していることから、本件宿日直手当等のように、あらかじめ定められた支給基準に基づき毎月支給される給与の最低月額部分を損金に算入するとの解釈も可能である等の主張も行っている。 これに対し裁判所は、法人税法34条の趣旨が役員給与の支給の恣意性を排除することにある点に触れた。そのうえで、法人税法施行令69条1項1号に掲げる改定以外の改定で「役員給与に関するQ&A」で国税庁が示すような解釈が可能であるのは、増額改定前の額に改定による増額分を上乗せしていると解すことが可能であるからであると示し、本件宿日直手当等の支給が、毎月一定額を支給したものでも給与改定を行ったものでもなく、本件宿日直手当等は「給与の支給そのもの」であるため経済的利益にも該当しないとしている。 (3) 本件裁判例の意義 冒頭で確認したように、定期同額給与は、役員給与の支給について、納税者の恣意性を排除するための規定である。本件裁判例は、諸手当等の形で多少といえども毎月支給額が変動する支給が定期同額給与に該当し得ることが法人税法34条の文理からは読み取れず、損金算入は認められないということを改めて示したという点に意義があると思われる。 仮に、医療法人の役員が宿直等を行い、それに報いるための支給を考える場合、一定額の手当を最低限として支給したうえで変動手当は別途計算することで、固定手当については定期同額給与に該当する可能性を指摘する意見もある(※2)。 (※2) 林・高木・前掲(※1)159頁。 このような役員に対して宿日直手当等を支給する例を見かけることはほとんどないと思われるが、仮に宿日直手当等見合いの金銭の額を損金算入したいと考える場合、定期同額給与の額を決定する際の判断要素として加味したうえで事前に決定し、定期同額給与に該当するようにするべきであるといえるだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第71回】 (最終回) 「スクイーズアウトの適格要件」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、スクイーズアウトの適格要件について解説します。 1 スクイーズアウトの適格要件 株式交換等に該当する全部取得条項付種類株式、株式併合、株式売渡請求を用いたスクイーズアウトの適格要件は次の4つです。 金銭等不交付要件を除き、支配関係がある場合の株式交換と同様の内容となります(【第58回】参照)。 2 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、株式交換等完全子法人の株主に株式交換等完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十七)。 ただし、スクイーズアウトにより、少数株主に対して、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 3 支配関係継続要件 支配関係継続要件とは、支配関係がある法人同士の株式交換等の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3⑲)。 (1) 当事者間の支配関係 株式交換等前に株式交換等完全子法人と株式交換等完全親法人との間にいずれか一方の法人による支配関係がある場合には、株式交換等後に株式交換等完全子法人と株式交換等完全親法人との間にいずれか一方の法人による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換等後は、C社(株式交換等完全子法人)とB社(株式交換等完全親法人)との間にB社(いずれか一方の法人)による支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 株式交換等前に株式交換等完全子法人と株式交換等完全親法人との間に同一の者による支配関係がある場合には、株式交換等後に株式交換等完全子法人と株式交換等完全親法人との間に同一の者による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換等後は、B社(株式交換等完全親法人)とC社(株式交換等完全子法人)との間にA社(同一の者)による支配関係が継続することが求められます。 (3) 株式交換等後に適格合併が予定されている場合の要件 「支配関係がある場合の適格株式交換等」があった場合も「完全支配関係がある場合の適格株式交換」と同様に、株式交換等完全子法人、株式交換等完全親法人、同一の者が適格合併で解散することが見込まれている場合の特例が設けられています。 4 従業者継続要件 (1) 「従業者継続要件」とは 「従業者継続要件」とは、株式交換等直前の株式交換等完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式交換等後に株式交換等完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十七ロ(1))。 (2) 株式交換等完全子法人の業務について ① 株式交換等完全子法人と完全支配関係にある法人がある場合 株式交換等完全子法人の業務には、株式交換等完全子法人との間に完全支配関係がある他の法人の業務も含まれます。 上図のように、従業者が株式交換等完全子法人の業務だけでなく100%グループ内の法人(A社、B社)の業務に従事していれば、80%判定に含めてもよいとされています。 ② 株式交換等後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式交換等後に行われる適格合併により株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う主要な事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 株式交換等完全子法人を分割法人又は現物出資法人とする適格分割又は適格現物出資により株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う主要な事業がその適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人に移転することが見込まれている場合には、その適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人の業務についても含まれます。 上図のC社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 従業者とは 「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、株式交換等の直前において株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人が選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。 5 事業継続要件 (1) 事業継続要件とは 「事業継続要件」とは、株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う主要な事業が株式交換等後に株式交換等完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十七ロ(2))。 ① 株式交換等完全子法人と完全支配関係がある法人がある場合 株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う主要な事業が株式交換等完全子法人との間に完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 株式交換等後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式交換等後に行われる適格合併等により主要な事業がその適格合併等に係る合併法人等に移転することが見込まれる場合には、その適格合併等に係る合併法人等において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 (2) 「主要な事業」とは 株式交換等完全子法人の株式交換等前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定します。 ◆スクイーズアウトの適格要件のポイント◆ スクイーズアウトによる少数株主への金銭の交付は、金銭等不交付要件に抵触しません。 支配関係継続要件は合併と異なり、株式交換等完全子法人は消滅しないため、当事者間の支配関係がある場合でも求められます。 株式交換等完全子法人の株式交換等直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が引き続き株式交換等完全子法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 株式交換等完全子法人の主要な事業が株式交換等後に株式交換等完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 従業者継続要件、事業継続要件については、合併や分割と異なり、株式交換等後に適格分割や適格現物出資があった場合の特例が設けられています。 (連載了)
相続税の実務問答 【第102回】 「遺産分割協議により取得した財産の価額以上の「代償金」を交付した場合」 税理士 梶野 研二 [答] 一般的に、遺産分割の結果取得することとなった財産の価額が法定相続分相当額を超えたとしても、法定相続分相当額を超える額の財産を取得した者が、法定相続分相当額を下回る額の財産しか取得しなかった相続人から法定相続分相当額を超える金額の贈与を受けたとは考えません。遺産分割が、現物分割、換価分割又は代償分割のいずれの方法で行われたとしても、このことに変わりはありません。 しかしながら、代償分割と称して、遺産分割協議の結果取得することとなった財産の価額を超える額の「代償金」の交付が行われた場合には、少なくとも交付した金額のうち遺産分割により取得することとなった財産の価額を超える部分については、当該金額を交付した者から当該金額の交付を受けた者に対する贈与又はみなし贈与があったものとして、贈与税が課されることとなります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続分とは異なる割合の遺産分割 民法には、複数の相続人がいる場合における各相続人の遺産に対する権利義務の割合として、「相続分」が定められています(民法900条以下)。例えば、相続人が、配偶者と子2名の場合には、各相続人の相続分は、配偶者が2分の1、子は各4分の1となります(ただし、特別受益者又は寄与者がある場合には、調整が必要になります)。 この民法に定められた相続分は、遺産分割において各相続人が主張することができる限度であって、実際に遺産を分割する場合、相続人全員の合意があるのであれば、この相続分の割合とは異なる割合により遺産を取得することとなったとしても、民法に定められた相続分の割合よりも多い割合の財産を取得した者が、当該割合よりも少ない割合の財産を取得した者から、当該割合を超える額の贈与を受けたとして贈与税が課されることはありません(【第14回】「法定相続分とは異なる割合による遺産分割」参照)。 2 「代償分割」による代償金の授受 現物分割をすることが困難である場合や、現物分割をすることにより相続財産の価値が低下してしまうような場合には、相続財産の全部又は一部を相続人のうちの1人又は数人に相続させるとともに、その者から他の相続人に対して一定の金銭等を交付する代償分割の方法により遺産分割が行われることがあります。 代償分割の結果、各相続人が取得する額(代償金を交付した相続人については、実際に取得した相続財産の価額から交付した代償金の額を控除した額、代償金の交付を受けた相続人については、当該代償金の額)が遺産総額に占める割合が、相続分とは異なる割合となったとしても、上記1のとおり、その差額について、贈与税が課されることはありません。 (注) 代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算については、【第10回】「代償分割が行われた場合の相続税の課税価格の計算」を参照。 しかしながら、遺産の全部又は一部を取得することとなった相続人が、自己が取得する遺産の額を超えて、他の相続人に「代償金」を交付した場合には、遺産分割を契機として、遺産の全部又は一部を取得することとなった相続人から他の相続人に対して、少なくとも自己が取得する遺産の額を超える金額の贈与が行われたものとみられ(贈与契約の存在が認められない場合には、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合」に該当するものとみられ)、その額が贈与税の課税対象となります。 (注) 自己が取得する遺産の額を超える額の「代償金」の交付が行われたかどうか、又は当該超える額がいくらとなるのかの判断に当たっては、「代償金」を交付する相続人が取得する遺産の価額を評価しなければなりません。この場合の評価額は、相続税評価額ではなく、当該遺産の通常の取引価額を基に考えるべきでしょう。また、贈与税の課税に当たっては、特別受益や寄与分の有無など、遺産分割の成立に至った経緯などについても総合的に検討する必要があります。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、遺産分割協議により、ご自宅の土地建物の4分の3をお母様、残りの4分の1をあなたが取得したとのことです。話を単純化するために、その他の財産はないものとしますと、あなたは、あなたの相続分4分の1に相当する財産を取得しましたが、同じく4分の1の相続分を有していた弟さんは、遺産を取得していません。そこで、あなたから、相続分の取得をしない弟さんに代償金を交付することとしたとのことです。 遺産分割において、遺産の全部又は一部を取得した相続人が他の相続人に代償金を交付し、その結果、各相続人が取得することとなった財産の価額のその合計額に占める割合が民法に定められた相続分とは異なる場合であっても、それが遺産分割の中で行われたものである限り、通常は問題とはなりません。しかしながら、遺産分割の結果取得することとなった財産の額を超えて、代償金を交付するということになれば話は別です。 ご質問の場合においては、お父様の遺産であるご自宅の土地建物の通常の取引価額は8,000万円とのことですので、あなたが取得したご自宅の共有持分である4分の1の価額は2,000万円となります。最大でその4分の1相当額である2,000万円を代償金の額とするのであれば、一般的には贈与税の課税問題は生じないと考えられますが、あなたから弟さんに「代償金」として交付した金額は2,500万円とのことです。 このため、あなたが弟さんに「代償金」として交付した2,500万円のうち、あなたが取得したご自宅の土地建物の価額である2,000万円を超える額、つまり500万円は、少なくとも遺産分割による代償金の交付とは別に、あなたから弟さんに利益を与えるものであり、贈与又は相続税法第9条に該当するみなし贈与とみられ、贈与税が課されることとなります(実際の贈与税の課税に当たっては、特別受益や寄与分の有無、対象財産の価額の算定方法、その他の相続財産の状況など遺産分割成立に至る諸々の要素をも勘案し、贈与又はみなし贈与の有無及びその金額について慎重に検討する必要があります)。 (了)
給与計算の質問箱 【第60回】 「退職金にかかる個人住民税」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 退職金を支給する際、所得税とともに個人住民税も源泉徴収しますが、個人住民税の計算方法などについてご教示ください。 A 所得税は、退職者が「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出するかしないかで源泉所得税の計算方法が異なる。一方、住民税は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出の有無にかかわらず、計算方法は同じである。 * * 解 説 * * 1 退職所得控除額 (1) 勤続年数(1年未満切上)が20年以下の場合 (2) 勤続年数が20年超の場合 (※) 障害者になったことにより退職する場合は、(1)、(2)の金額に100万円加算する。 2 退職所得 (1) 勤続年数5年以下の役員等に支払われる退職手当等 (※) 退職所得金額に1,000円未満の端数がある場合は、切り捨てる(以下同様)。 (2) 勤続年数5年以下の役員等以外に支払われる退職手当等 〈退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した金額が300万円以下の場合〉 〈退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した金額が300万円超の場合〉 (3) 上記以外 3 個人住民税 4 納期限 退職金の支給日の翌月10日までに納付する。 5 納付先 退職金の支給日の属する年の1月1日に退職者の住民登録があった市区町村に納付する。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第61回】 「日産自動車事件-外国子会社合算税制の非関連者基準-(地判令4.1.20、高判令4.9.14、最判令6.7.18)(その1)」 ~旧租税特別措置法68条の90、旧租税特別措置法施行令39条の117第8項5号~ 税理士 中野 亘 1 事実 自動車、産業用車両及びその他の輸送用機器等の開発、製造、売買、賃貸借及び修理等を目的とする内国法人である日産自動車株式会社(原告)の関連者であるメキシコ法人NRFM(※1)は、原告の企業グループが製造する自動車を割賦で購入しようとする者(以下「本件各顧客」という)との間で、購入資金を貸し付けることを内容とする契約(以下「本件クレジット契約」といい、本件クレジット契約に基づく貸金債権を「本件クレジット債権」という)を締結していた。 (※1) NR Finance Mexico, S.A de C.V. SOFOM ER(以下「NRFM」という)。原告は、NRFMの2015(平成27)年1月1日から同年12月31日までの事業年度及び2016(平成28)年1月1日から同年12月31日までの事業年度の各終了の時において、NRFMの発行済株式の総数を間接保有していた。 本件クレジット契約では、クレジット債権の未償還残高に利息等を加えたものを保障する生命保険であり、NRFMを最優先の受益者として指定しなければならないものであった。また、自己の責任において本件各顧客が保険として他の保険に加入しない場合、保険業を営むメキシコ法人AVM(※2)との本件元受保険契約(※3)に加入させることとしていた。 (※2) Assurant Vida Mexico, S.A.(以下「AVM」という)。AVMは、原告との資本関係はなく、本件NGRE事業年度において原告の関連者には該当しない。 (※3) NRFMは、AVMとの間で、保険期間を2014(平成26)年8月6日から2015(平成27)年8月5日までとする「債務者の死亡と失業に関する保険契約」及び同一の内容で保険期間を同月6日から2016(平成28)年8月5日までに更新する保険契約(以下、併せて「本件元受保険契約」という)を締結した。 本件元受保険契約の保険契約者・保険金の優先受益者はNRFMであり、被保険者は本件各顧客であった。NRFMはAVMとの本件役務提供契約(※4)に基づき、本件各顧客から、本件元受保険契約に係る保険料に相当する金額を徴収し、同保険料をAVMに支払っていた。またAVMは保険業を行うバミューダ法人NGRE(※5)との間においてAVMが本件元受保険契約において引き受ける全保険リスクの70%をNGREに対して再保険に付し、NGREが同リスクを引き受けることを内容とする再保険契約(以下「本件再保険契約」という)を締結し、再保険料を支払っていた。 (※4) NRFMは、2014(平成26)年7月1日、AVMとの間で、本件元受保険契約に付随する両当事者の義務等を定める役務提供契約を締結しており、契約には「(ア)「被保険者」とは、AVMが発行した保険により保障を受けるNRFMの顧客をいう。(イ)NRFMが被保険者から本件元受保険契約の名目で代金を徴収する場合、この金額はAVMが定める保険料の額と一致しなければならない。いかなる場合も、NRFMは、本件各顧客から、保険料を上回る金額又はこれと異なる金額を徴収してはならない。(ウ)NRFMは、本件元受保険契約に関連して被保険者から金銭を徴収する場合、当該金銭がAVMに送金されるまで、当該金銭の受託者として行為する。」とあった。 (※5) Nissan Global Reinsurance,Ltd.(以下「NGRE」という)。NGREは原告の2016(平成28)年4月1日から2017(平成29)年3月31日までの連結事業年度(以下「本件連結事業年度」という)における特定外国子会社等に該当する。本件NGRE事業年度について、バミューダの法令によりNGREに対して課される法人税に相当する税はなく、NGREのバミューダにおける所得に対する租税の負担割合は0%であった。 処分行政庁は、NGREについて、本件再保険契約に係る収入保険料は、租税特別措置法施行令(平成28年政令第159号による改正前のもの。以下同じ)39条の117第8項5号(※6)に規定する「関連者以外の者から収入するもの」に該当せず、同号に規定する割合が100分の50を超えないこととなる結果(※7)、非関連者基準を満たさないとして、外国子会社合算税制を適用し、課税処分を行った。原告は課税処分の取消し(非関連者基準を満たす)を求めて提訴した。 (※6) 租税特別措置法施行令39条の117第8項5号「保険業:当該各事業年度の収入保険料の合計額のうちに当該収入保険料で関連者以外の者から収入するもの(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限る。)の合計額の占める割合が100分の50を超える場合」(下線は著者加筆) (※7) 本件NGRE事業年度におけるNGREの収入保険料の総額は5億2,521万4,976米ドル(〔1〕)であったところ、そのうちAVMを除く非関連者から受領した収入保険料は2億5,318万3,120米ドル(〔2〕)であり、AVMから受領した本件再保険契約に基づく収入保険料は1,149万3,075米ドル(〔3〕)であった。上記〔2〕の金額は上記〔1〕の金額の100分の50を超えないが、上記〔2〕の金額に上記〔3〕の金額を加算すると、上記〔1〕の金額の100分の50を超えることとなる。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2 争点 NGREの収入保険料のうちAVMから受領した本件再保険料が租税特別措置法施行令39条の117第8項5号括弧書きにいう「(当該収入保険料が再保険に係るものである場合には、)関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料(に限る。)」(括弧は著者追加、以下「本件括弧書き」という)に該当する(外国子会社合算税制の適用除外要件のうち、いわゆる「非関連者基準」を満たす)かどうか。 実質的には、本件再保険に係る本件元受保険契約が「本件各顧客の生命や身体」を保険の目的とする保険であるか又は「NRFMが有する本件クレジット債権」を保険の目的とする保険であるかどうかが争点となった。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ((その2)へ続く)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第9回】 「炭素の足あとをたどる旅・・・カーボンフットプリントって何?」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔PNパッケージ社の登場人物〕 * * * 近年、カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Product)という用語を見聞きする機会が増えました(※1)。 (※1) たとえば、イオントップバリュ株式会社は、2024年度中にプライベートブランドの10アイテムについてカーボンフットプリントを算出する目標を掲げている。 イオントップバリュ株式会社「CFP(カーボンフットプリント)とは?」 カーボンフットプリントは、製品やサービスに関し、原材料の調達から生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルといったライフサイクルの各段階において排出された温室効果ガスの総量を指します。 * * * * * * (※2) 最終製品であれば①~⑤(Cradle to Grave)を対象としてCFPを算定するが、中間製品では、下流での利用を想定し①~②(Cradle to Gate)を対象としてCFPを算定することもある。 * * * * * * サプライチェーン排出量(【第3回】参照)は、「サプライチェーン全体」という大きな単位の温室効果ガス排出量の合計を求めるものであるのに対し、カーボンフットプリントは、「製品やサービス」という単位について、そのライフサイクル全体の排出量の合計を求めるものです。 * * * * * * カーボンフットプリントという用語は、製品単位の排出量をわかりやすく表示・開示するという意味合いを含んでいることもあります。カーボンフットプリントの開示により、その製品が低炭素であることを顧客にアピールすることにつながります。 * * * * * * 政府は、カーボンニュートラルを実現するための方策の1つとして、低炭素製品が選択されるような市場の創出を支援しています。そのための基盤として、製品単位の排出量が可視化されるカーボンフットプリントに関する取組みを推進しています(※3)。 (※3) 経済産業省は、カーボンフットプリントの現状や課題などを整理した「カーボンフットプリント レポート」を公表するとともに、カーボンフットプリントの算定指針となる「カーボンフットプリント ガイドライン」を環境省との連名で公表している。 経済産業省「「カーボンフットプリントレポート」及び「カーボンフットプリントガイドライン」を取りまとめました」 また、環境省は、カーボンフットプリントの算定・表示に取り組む企業などを支援するモデル事業を展開している。 環境省「「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」への参加企業・業界団体等の公募について」 また、国や自治体は、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(いわゆる「グリーン購入法」)によって、物品やサービスを調達するにあたり、可能な限り環境に負荷をかけないものを指定することとされています。このグリーン購入法の基本方針でも、カーボンフットプリントの指標が活用されています(※4)。 (※4) グリーン購入法に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」は2023年に見直され、一部の物品についてはカーボンフットプリントの算定が要件とされている。 多くの大企業もグリーン調達(※5)に取り組んでおり、自社の調達方針の中で、カーボンフットプリントを考慮事項の1つとして挙げる事例も見られます。 (※5) 原材料や部品などを調達するにあたって、環境負荷の少ない製品・サービスを優先的に選択したり、環境配慮に積極的に取り組む企業を優先的に採用したりすること。 * * * * * * たとえば、電気自動車とガソリン車の環境への負荷を評価しようとする場合、「走行」というステージのみに注目すれば、ガソリン車の二酸化炭素排出量が突出して多くなります。しかし、「製造」というステージのみに注目すると、電池製造の影響により、電気自動車の二酸化炭素排出量のほうが多いことが明らかにされています(※6)。 (※6) 環境省「令和3年度自動車リサイクルにおける2050年カーボンニュートラル実現に向けた調査検討業務報告書」 つまり、両者の環境への負荷を正確に評価するには、ライフサイクルの中の特定のステージだけを対象とするのではなく、ライフサイクルの全てのステージを通じた環境負荷を対象とする必要があるのです。 こうした考え方に基づき、製品のライフサイクルを通じた環境への影響を定量的に評価する手法が、ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)です。カーボンフットプリントは、このライフサイクルアセスメントの観点から、製品の温室効果ガス排出量を算定する手法にあたります。 * * * * * * 企業がカーボンフットプリントを算定するメリットの1つとして、製品の排出実態を捕捉することで、排出量の多い原材料や排出量の多いステージが特定され、排出量を削減するための方策を具体的に講じることができる点が挙げられます。 * * * * * * また、カーボンフットプリントの算定は、サプライチェーン排出量をより正確に算定することにも役立ちます。特にScope3排出量(【第6回】参照)は、実態に即した精緻な算定が難しい場合が多く、いくつもの仮定を設けて概算されることも少なくありません。カーボンフットプリントの算定を通じ、原材料の調達や製品の使用・廃棄などにおける間接排出の実態がつかめれば、Scope3排出量の算定精度を上げることにつながります。 * * * * * * カーボンフットプリントを算定するには、多くの手間やコストがかかります。特に、サプライチェーン内の多数の企業から製品単位の排出データを入手することは難しい場合も多く、データを得るための新たなしくみを作るとすれば、大きなコストが生じることも想定されます。 それにもかかわらず、カーボンフットプリント算定の取組みが広がる背景には、欧州を中心にカーボンフットプリントの指標を利用した気候関連の政策や規制が進められつつあるという事情もあるようです。 たとえば、EUは、2023年にEUバッテリー規則を公布し、バッテリー製品についてライフサイクル全体におけるさまざまな規制を定めています。その規制の1つとして、バッテリーのカーボンフットプリントの開示が段階的に義務付けられることになっています(※7)。また、EUの炭素国境調整措置(【第7回】参照)でも、対象品についての排出量、すなわちカーボンフットプリントの報告が求められています。 (※7) 「REGULATION (EU) 2023/1542 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 12 July 2023 concerning batteries and waste batteries, amending Directive 2008/98/EC and Regulation (EU) 2019/1020 and repealing Directive 2006/66/EC」 * * * * * * Q カーボンフットプリントって何? A カーボンフットプリントは、製品やサービスに関し、原材料の調達から生産、流通・販売、使用・維持管理、廃棄・リサイクルといったライフサイクルの各段階において排出された温室効果ガスの総量を指します。カーボンフットプリントはさまざまな局面で利用が進み、算定の取組みが広がりつつあります。 (了)
〈ベテラン社員活躍のための〉 高齢者雇用Q&A 【第5回】 「定年後再雇用制度から定年延長への切替え」 Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 飯野 正明 ― 解 説 ― 1 再雇用制度と定年延長の違い 再雇用制度とは、定年退職後に「改めて雇用契約を締結する」ということです。つまり、これまで通り「正社員」としての雇用を継続するのではなく、定年退職後は、「嘱託社員」などの名称で、労働条件を見直したうえで「有期雇用契約」として再雇用(契約)をします。 一方、定年を延長した場合には、「正社員」として「雇用を継続する年齢を引き上げる」ということになります。 それぞれの制度の違いとしては、以下のものが挙げられます。 2 定年延長の現状 厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」によると、2023年の時点で、65歳までの雇用確保措置として「定年の引上げ」を実施しているのは全企業の26.9%となっており、前年から1.4ポイント増加となっています。 また、定年制度における定年年齢は、60歳が66.4%(1.7ポイント減少)、65歳が23.5%(1.3ポイント増加)、70歳以上が2.3%(0.2ポイント増加)となっており、少しずつですが、65歳以上としている企業が増えてきているようです。 企業規模で見ると、規模が小さい企業の方が、定年年齢を65歳以上としている割合が高くなっています(下図参照)。 【図表】企業における定年制の状況 (出所) 厚生労働省「令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します」 3 定年を延長するにあたって まずは、自社の状況を把握する必要があります。 「今後、定年退職となる社員がどれくらいいるのか」「その方たちが抜けることで業務にはどのくらいの影響が出るのか」「採用による補充は可能なのか」など、人材確保の面からの影響を確認しましょう。 次に、人件費への影響は、企業が最も気になるところでしょう。通常、定年年齢を引き上げた場合には報酬水準が上昇しますので、その原資の捻出方法も考える必要があります。捻出方法としては、社員全体の賃金カーブの見直し、現状支払っている諸手当の見直し、退職金制度の見直しなどが考えられます。 また、シニア世代の社員のモチベーションを上げることで、若い社員にマイナスの影響が出ることも予想されます。例えば、「自分たちの昇進、昇格の機会が失われるのではないか」といった不安です。場合によっては、役職定年制度の導入などを検討してもよいでしょう。 制度を変えるということは、社員にとっては「自分はどうなるのか」といった不安がつきものです。このようなマイナス面もあることに目を向けたうえで、自社の状況を把握し、定年延長の必要性について丁寧に検討する必要があります。 4 過去の事例から 定年延長に関して、以前筆者が受けた相談をご紹介します。 社員の中には、現状の定年年齢で退職したいと考えている方がいる可能性もあります。制度変更時には、移行期間を設けることで、社員が現行の制度と新制度のどちらかを選択できるようにするとよいでしょう。 シンプルな運用を望むのであれば、これまで通りの制度を定年延長の対象となった社員にも適用するというのがよいでしょう。これまでと同様に評価を行い、賃金、賞与を決めていくということです。 ただし、シニア世代の社員が多く人件費の抑制を考える必要がある場合には、60歳の前後で社員に対する処遇を変える(1つの会社に2つの制度を設ける)ことも可能です。なお、その場合でも、社員の処遇は、定年後の職務に応じて変更するようにしてください。 社員にとって、「給与」というのは重要な労働条件であり、働くモチベーションにも影響を及ぼすものです。再雇用社員の方からの不満としてよく聞くのは、「これまでと仕事内容はあまり変わらないのに、給与が下がってしまった。これではモチベーションが保てない」ということです。先日は、再雇用社員に仕事を頼んだら「こんな難しい仕事は、給与の高い方がやるもんだ」と言って仕事を断られたという話を聞きました。 せっかく定年延長をするのであれば、対象者には高いモチベーションを持って働いてもらいたいものです。 5 まとめ ご質問にもある通り、多くの企業にとって、「人手不足」は喫緊の課題となっています。社員を募集しても、なかなか希望通りの人材が集まらないというのは、どちらのお客様からも聞くお話です。すでに日本の人口は、ピークを過ぎて減少傾向に入っています。今後はさらに加速度的に減少していくと考えられており、2040年までに、およそ1,100万人の労働供給不足になるという説もあります。 つまり、将来と比較すれば、今が1番人手は多いはずなのです。それでも現状「人手不足」であることからも、これまでの人事戦略を見直す必要があるのは明白です。 人口が減少していく中で増えているのは「シニア層」となっています。となれば、解決策の1つとして、「定年延長」は有効であると考えます。 それを踏まえると、60歳で定年退職をして、給与を下げて再雇用で働いてもらうというのではなく、少なくとも65歳までは(場合によってはそれ以降においても)、これまで通りの働き方でバリバリ仕事をしてもらうという発想を持ってもよいのではないでしょうか。定年年齢の引き上げに伴って、色々な課題が出ることも予想されますが、前向きに検討してほしいと考えます。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第60回】 「港湾法の適用を受ける土地の評価」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 今回は、「港湾法の適用を受ける土地」のように、あまり耳慣れない特殊な部類に属する土地の評価について取り上げます。 このような土地は、土地そのものが特殊な形状をしている、物理的にみて特別の条件が求められるという性格のものではありませんが、土地の利用規制が著しく強いものとなっている点に特徴があります。 以下、その特徴を述べるとともに、不動産鑑定士が価格の試算に当たり注意を払っている事項について解説していきます。 2 港湾法における「臨港地区」とその制限 港湾に面した土地が連たんしている地域では、都市計画法上の用途地域の規制の他に、港湾法に基づく「臨港地区」という地区の指定が行われ、厳しい土地利用制限が課されていることがあります。また、臨港地区に指定された区域内では、港湾の有する多様な機能を土地利用計画に反映させるため、その中で地区をさらに細分化して分区というものを指定し、分区ごとの用途制限を課しているケースが多く見受けられます。 このように港湾法には特有の地区分類があるため、不動産鑑定士はその特徴を十分踏まえた上で地域分析及び個別分析を行い、価格形成要因の的確な把握に努めています。 ところで、港湾は物流の拠点であるとともに、生産施設の立地基盤でもあり、また景観上からも重要な機能を果たしています。港湾がこのように多様な機能を有することから、港湾管理者が水域と一体的に管理する必要のある陸域について、範囲を定めて指定したものが臨港地区です(そのため、水際線の背後の陸域について指定されます)。 なお、港湾法では、都市計画法の規定による臨港地区だけでなく、同法第38条の規定により港湾管理者が定めた地区も臨港地区に該当する旨定めています(同法第2条第4項)。 3 臨港地区における具体的な規制 あるまとまりが臨港地区に指定された場合、港湾法第38条の2により臨港地区内で一定規模以上(床面積の合計が2,500㎡以上又は敷地面積が5,000㎡以上) の工場又は事業場の新設や増設をする場合、水域施設、運河、廃棄物処理施設の建設や改良等をはじめとする一定の行為をする場合には、工事の開始の60日前までに届出が必要となります。 工場又は事業場の新設や増設をする場合の記載事項は次のとおりです。 上記アないしウの内容が、港湾計画に照らして適切でない場合や港湾の利用・保全に著しく支障がある場合には計画の変更を求められることがあります。 また、港湾法の規制は厳しく、あるまとまりの地域が臨港地区に指定された場合、その区域内では目的の異なる建物が無秩序に建築されることを防止するため、さらに細かな分区の指定が行われることがあることは既に述べたとおりです。 4 分区の指定について 港湾法では、分区の指定について以下の規定を置いています。 5 臨港地区に指定された土地の鑑定評価に当たって 不動産鑑定士がこのような土地の鑑定評価を依頼された場合、次の事項に注意を払っています。 (1) 臨港地区(分区)の価格水準の検討 臨港地区(分区)指定の有無は港湾管理者(港務局又は県・市等の担当部署)にて確認しますが、臨港地区(分区)の指定を受けていることによる利用制限(用途制限)の影響は地域の価格水準に反映されているのが一般的と考えられます。 その意味で、いわゆる地域相場の把握は重要です。 (2) 分区内における建築物や構築物等の規制の把握 分区内においては、各分区の目的を著しく阻害する建築物その他の構築物であって、港湾管理者としての地方公共団体の条例で定めるものを建築してはならないこととなっています(港湾法第40条第1項)。 そのため、港湾管理者である地方公共団体(県や市など)が独自に条例を制定し、そのなかで建築可能な建築物等の規制を行っています。したがって、臨港地区内における建築可能な用途等については、分区ごとの規制内容を各地方自治体の条例に照らして確認する必要があり、価格水準も条例による制限の強弱等を反映しているといえます。 6 おわりに 上記のとおり、一概に臨港地区といっても、そのなかに指定され得る分区の対象は広いものとなっています。例えば、商港区や工業港区もあれば、マリーナ港区というものもあります。 港湾法や臨港地区が土地の評価に関連して登場してくるのは工業専用地域の場合が通常であり、その意味では税理士の方々にとってそれほど馴染みのあるものとはいえないと思われます。しかし、法人相手の(しかも、港湾に面した土地を保有する企業を相手とする)業務に携わっている方にとっては、港湾法の制限を受ける土地の時価がどれほどであるか等について相談を受ける機会もないわけではありません。 (了)