《速報解説》 JICPAが「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正(確定)を公表 ~「監査業務編」を新設し収益認識の不正リスクに係る着眼点を明示~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026年8月6日、日本公認会計士協会は、「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正を公表した。これにより、2026年6月15日から意見募集されていた公開草案(会員及び準会員向け)が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 このガイドラインは、レビューチームが、適格性の確認のために品質管理レビューを行うに当たり、登録申請者又は登録上場会社等監査人が、上場会社等の財務書類に係る監査証明業務を公正かつ的確に遂行するに足りる体制を備えているかどうかを判断するに当たっての着眼点及び判断基準を示すことを目的としている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 ガイドラインの判断基準において示されている不備の程度は、あくまでも一つの目安であり、【重要な不備事項】とされる状況も、監査事務所の状況によりその不備の程度が重大であると捉えられる場合には、【極めて重要な不備事項】として判断することもあるとのことである。 Ⅲ 適用時期等 2026年8月6日改正のガイドラインは、2026年8月6日以後現場作業を開始する品質管理レビューから適用する。 上記以外の適用時期について詳細に規定されている。 (了)
2026年8月6日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.680を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.162- 「評価されないリフレ派の「骨太の方針2026」」 東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹 7月21日、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(以下、骨太)が閣議決定された。内容は、国が音頭をとって民間の投資を引き出し強い経済を目指すという国家資本主義思想の下、官民投資370兆円を柱とするバラ色の経済を描くもので、今後の高市政権のマクロ経済政策の柱となるものだ。 驚かされたのは、エコノミスト、経済学者、マスメディアの評価が極めて低いことだ。大方の評価は、政府が投資分野を選別することへの批判、財政規律の弛緩が引き起こす金利上昇によるクラウディングアウト(民間投資の減少)などを指摘するものだ。 閣議決定前にひと騒ぎがあった。6月30日に原案が公表されたが、日銀の金融政策へのけん制や「財政健全化」という文言の削除などの内容となっており、長期金利を2.8%と30年ぶりの高水準に押し上げ、「骨太ショック」と言われ、文面の修正を余儀なくされた。 マーケットを無視できない状況に追い込まれた中での閣議決定だが、文言を変えただけで市場の信認が取り戻せるというわけではない。わが国は今、国民生活に大きな打撃となるインフレ経済の真っただ中にいるのだが、政府の認識はいまだ「デフレへの後戻りを阻止する」というもので、近々自民党で正式決定する消費税実質ゼロもこの一環だ。 * * * 筆者が最も注目する点は、骨太の第3章「責任ある積極財政に基づく『中長期経済財政計画』」の以下の記述である。 「『強い経済』の実現と『財政の持続可能性』を両立する観点から、国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下を中核に位置付ける。」 「PB(プライマリーバランス)については、債務残高対GDP比の低下に向けて確認する指標とし、その安定的低下と整合するよう複数年で管理する。」 つまり、従来からの財政目標のうち、フローの目標であるPBの黒字化を落とし、ストックの基準であるGDP比債務残高の低下一本にしたことだ。なぜこれが問題か、予算編成の実務を踏まえて説明したい。 * * * 債務残高GDP比は、金利やインフレ率など「政府のコントロール外の要因」により左右されやすい。つまり政府のコントロール外の指標を唯一の財政目標にしたのである。 物価上昇(インフレ)により名目GDPという分母が拡大し債務残高(対GDP)は一見改善する。この改善が、実質成長が伴ったものかどうかの判断は難しい。輸入物価や円安を理由とするインフレにより名目GDPは膨らむが、物価上昇に賃金や預金金利の上昇が追い付かなければ国民の実質購買力が改善しているとは言えない。所得や金融資産の実質価値は低下しているのである。 タイムラグの問題もある。物価や賃金の上昇は時差を伴って社会保障、公共事業、人件費などの財政支出を増加させる。また金利上昇は毎年の国債の借換えごとに新たな金利で借り換えるので、後年連続的に利払費を増加させる。分母を押し上げるインフレの効果は一時的であるのに対し、歳出と利払費への波及は後からくる上、持続的・連続的である。 このように、GDP比債務残高目標一本では、財政目標として十分とは言えないのである。そこで必要となるのが毎年の予算におけるPB(当年度の歳入と当年度の歳出の差額)の黒字化という目標で、これは「政府が予算編成時にコントロール可能な指標」である。 * * * PBが均衡しても、過去の借金の利払費を賄う余力はないので利払費分だけ債務残高は増加していく。個人に例えれば、その年の生活費は賄えても過去のローンの利払はできない。このような状況から脱出するには、PBの黒字化を確保してその分で利払費を支払っていく必要がある。 財務省の試算では、金利が1%上がれば2年後に利払費の増加分は2.1兆円、3年後には3.4兆円と、毎年累積的に増加していく。2026年度13兆円の利払費が10年後の2035年度には36兆円程度の利払費になる(2030年度以降金利は3.6%と仮定)。地道にPB黒字を続け、利払返済に充てて債務残高GDP比を引き下げていくことが必要ということだ。 繰り返しになるが、PB黒字目標は、当年度の歳入と歳出を見計らいながら予算編成を行うという意味で、「唯一政府が管理・コントロールできる基準」で、貴重なブレーキである。そして予算編成が終わった時点で、直ちに判明する。 一方、債務残高GDP比は、前述のように政府のコントロールができないGDPや金利を反映したもので、GDPが判明するのは1年以上経過してからである。それでは検証・評価は遅れてしまう。 ブレーキのない自動車は、暴走する(インフレが抑えられなくなる)恐れがある。財源のめどなく消費税減税も行うこととなりそうだ。 骨太がきっかけで、今後高金利、インフレが進めば、「骨太ショック」が「サナエショック」になりかねない。 (了)
-国税庁レポート2026等から読み解く- 今後の税務執行・税務調査の動向 前編 「税務行政の方向性」 公認会計士・税理士 荒井 優美子 1 はじめに 2026年6月30日、国税庁レポート2026(以下、「国税庁レポート」)が国税庁ホームページで公開され、「令和8事務年度国税庁実績評価実施計画及び実績評価の事前分析表」が財務省から公表された。 税務行政のデジタル・トランスフォーメーションによる税務執行・税務調査の見直しが公表されてから5年が経過した。本号と次号では、近年の国税庁レポート等から、税務執行・税務調査の最近の動向についての概要を解説する。 2 国税庁レポートの公表 国税庁レポートは、国税庁の取組みや税務行政(※)の現状の周知のために作成・公開されている年次報告書であり、近年では、①納税者の利便性の向上、②課税・徴収事務の効率化・高度化等、③事業者のデジタル化促進を、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」の柱として掲げている。税務行政のデジタル・トランスフォーメーションは、デジタルの活用による国税の手続や業務の抜本的な見直しを掲げた「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」(2021年6月)以後、税務行政の目標とされている。 (※) 税務執行の他に制度の策定等も含むより広範な概念である。 2021年までは、ICT(情報通信技術)の活用による「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱とする「スマート税務行政」を目指し、様々な取組が進められてきた。この背景には、ICT・AIの進展、マイナンバー制度の導入とマイナポータルの本格運用、経済取引のグローバル化の他に、国税職員の減少と申告の増加や調査・徴収の複雑・困難化があるとされていた。 ※画像をクリックすると、別ページに遷移します。 (出典:国税庁「国税庁レポート2020」) ※画像をクリックすると、別ページに遷移します。 (出典:国税庁「国税庁レポート2023」) 3 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション 税務行政のデジタル・トランスフォーメーション(以下、「税務行政のDX」)は、2020年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で目標とされた、デジタル社会の形成に向けた取組(①ネットワークの整備・維持・充実、データ流通環境の整備、②行政や公共分野におけるサービスの質の向上、③国と地方が連携し情報システムの共同化・集約等を推進、④データ流通に係る国際的なルール形成への主体的な参画、貢献等)の一環として進められているものである。 「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」(2021年6月)では、「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」を2本の柱として、税務行政のDXが進められたが、2023年6月に、将来像2.0 が改定され、従前の「納税者の利便性の向上」、「課税・徴収の効率化・高度化等」に、新たに「事業者のデジタル化促進」を加えた3つの柱とされた。 「納税者の利便性の向上」は、所得税の確定申告におけるマイナンバーカードを利用した自宅からのe-Taxの利用拡大や、キャッシュレス納付の利用拡大、「課税・徴収事務の効率化・高度化等」では、簡易な誤りの自発的な見直しを促す行政指導、AIを活用したデータ分析、オンラインツール等の活用(リモート調査)などの取組の推進が行われている。「事業者のデジタル化促進」は、税務手続のデジタル化だけでなく、事業者の会計・経理等の業務を一貫してデジタル化することで、帳簿書類等の正確性向上や業務効率化につながり、社会全体の生産性向上と社会全体のDXが推進されるとの考えに基づくものである。電子帳簿保存制度やデジタルインボイス制度、Peppol(ペポル)(※)は、事業者のデジタル化促進のための制度として存在する。 (※) デジタルインボイスなどの電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書の仕様」、「運用ルール」、「ネットワーク」に関する世界標準規格。 なお、中小企業や小規模事業者のデジタル化には、デジタル化・AI導入補助金制度の適用を受けることができる。 4 OECD報告書「税務行政3.0」(2020)と「シームレスな税務に向けて」(2022) スマート税務行政から税務行政のDXへの取組の変遷は、OECDが2020年に公表した「税務行政3.0」(OECD, Tax Administration 3.0)(以下、「税務行政3.0」)で報告された税務行政のトレンドの変化を反映したものと思われる。税務行政3.0では、デジタル技術の進展等を背景として、過去20年でOECDにおける税務行政のトレンドは大きく変化し、焦点を当てる対象が申告情報から事業者の日常業務や第三者の有する情報へと変わり、税務行政の手段も税務調査の実施から日常業務に税務が組み込まれるような環境整備や第三者の情報も活用した新たな納税者サービスの提供に移り、税務調査の目的が税務コンプライアンスを支援するとともに、よりリスクベースに変化していることを指摘している。 税務行政3.0では、税務行政のDXが進んだ社会の姿として、税に関する手続が納税者の日常の生活や業務の延長線上に組み込まれていく構想を描き、こうしたことが実現できれば、税務手続の簡便化、手続的な負担の軽減、誤りの防止、税務コンプライアンスの向上、官民双方のコスト削減、生産性の向上が期待できることを示しており、これを受けて各国においても税務行政のDXの取組が進められている。 ◆「税務行政3.0」の描く世界 (出典:国税庁「税務行政の現状と課題(2022年11月18日)」) 更に、2022年には「シームレスな税務に向けて」(OECD, Towards Seamless Taxation: Supporting SMEs to Get Tax Right)を公表し、税務行政の方向性を示した。 ◆「シームレスな税務に向けて」で示された方向性 (出典:内閣府「第4回経済社会のデジタル化への対応と納税環境整備に関する専門家会合(2025年11月13日)」資料1) 「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」は、このようなOECDの動向を受けて、取りまとめられたものと考えられる。 (【後編】に続く)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例88】 「親会社の貸倒引当金計上を回避するために行われた 子会社に対する債権放棄の損金性」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、近畿地方のとある県庁所在地に本社を置き、旅客自動車運送事業を営む株式会社X(資本金5,000万円で3月決算)において、経営企画部長を務めております。 わずか数年前は、わが国のインバウンド向け観光業(運輸、宿泊、飲食業など)はコロナ禍で深刻な打撃を受け、青色吐息でしたが、コロナ禍明け後は急速に回復し、わが社のテリトリーである近畿地方でもここ数年は非常に好調に推移しております。わが社の主力事業は、乗車定員10人以下の自動車を貸し切って旅客を運送する一般乗用旅客自動車運送事業、いわゆるタクシー事業です。現在のわが国におけるタクシー事業を取り巻く環境は、政府・国土交通省がいうところの、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスである、モビリティのサービス化(Mobility as a Service, MaaS)や自動運転分野の発展を背景に目まぐるしく変化しており、また、乗務員の不足感が強まっていることから、いかにその確保を行うかが厳しい業界内競争を勝ち抜く上でのカギとなっております。 さて、そのような中、わが社は先日から定例の税務調査を受けております。そこで現在問題となっているのは、経営不振の子会社に対して有する債権を放棄した場合、その金額が損金に算入されるかどうかです。子会社の貸借対照表上は債務超過であり、事実上破産状態であることから、債権放棄を行って経営を立て直すのは親会社して合理的な経営判断であると考えられますが、税務署は、子会社の有する土地を時価評価すれば債務超過ではないとして、当該債権放棄は時期尚早であり、その金額は寄附金として扱われ、損金に算入されない金額が一部生ずると主張しております。税務署のやり方は土地の評価額に関し客観性の欠ける手法を用いており、恣意的な課税方法であると思いますが、税法上どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 親会社が子会社に対して有する債権につき債権放棄を行った場合、当該債権放棄が業績不振による倒産を防止するために行ったというような経済合理性があるときには、当該債権放棄は、一般に、客観的に見て法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用として、その損金算入を認めるべきものと考えられます。 本件の場合、 仮に、子会社の有する土地を適正に時価評価したときにおいて、当該子会社の財務状態が債務超過ではないと判断される場合には、当該子会社に対する債権放棄は時期尚早であり、その金額は寄附金として扱われ、損金に算入されない金額が一部生ずるという税務署の主張には、一定の合理性があるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 寄附金の意義 法人税法上の寄附金とは、その名義の如何を問わず、公共又は公益のための拠出ないし提供(charitable contribution)にとどまらず、金銭その他の資産又は経済的利益の贈与又は無償の供与のことを指す(法法37⑦)。ここでいう「無償」とは、一般に、対価又はそれに相当する金銭等の流入を伴わないということを意味するものと解されている(※)。 (※) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)418頁参照。 また、資産の譲渡又は経済的利益の供与がその時価相当額よりも低い対価で行われた場合において、その差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれる(法法37⑧)。 (2) 子会社に対する債権放棄と寄附金課税 ただし、子会社に対する債権放棄等を行った場合には、それが無条件で寄附金と扱われるわけではない。すなわち、法人と当該債権放棄の相手方との間に、資本関係、取引関係、人的関係、資金関係等において関連性が存する場合(子会社等)で、業績不振による倒産を防止するために当該法人が債権放棄を行った場合等、当該債権放棄に経済合理性がある場合にあっては、当該債権放棄は、一般に、客観的に見て法人の収益を生み出すのに必要な費用又は法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用として、その費用性が明白なものであると認められるものと解され、一律に損金算入を認めないこととすると、かえって法人税法の趣旨に反する結果になることから、その損金算入を認めるべきものと考えられる。 このことは、法人税基本通達9-4-1、9-4-2においてその旨が具体的に明らかにされている。 (3) 親会社の貸倒引当金計上を回避するために行われた子会社に対する債権放棄の損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、親会社の貸倒引当金計上を回避するために行われた子会社に対する債権放棄の損金性が争われた事例(東京地裁平成27年2月24日判決・税資265号-23(順号12606)、TAINSコード:Z265-12606)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、一般乗用旅客自動車運送事業(法人タクシー業)を主たる目的として、昭和14年9月に設立された株式会社である原告が、平成21年4月1日から平成22年3月31日までの事業年度の法人税について、その完全子会社であるC株式会社(一般乗用旅客自動車運送事業及び自動車整備事業等を目的として、昭和25年3月に設立された株式会社)に対して行った債権放棄の額を所得金額に加算せずに確定申告をしたところ、処分行政庁から、本件債権放棄の額は法人税法第37条の「寄附金の額」に該当するため、損金算入限度額を超える部分を損金に算入することができず、これを所得金額に加算すべきであるとして、本件法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたことに対し、本件更正処分に係る更正通知書には理由付記の不備があり、また、本件債権放棄の額は寄附金の額に該当しないため、本件各処分は違法であるなどと主張して、本件各処分の一部の取消しを求めている事案である。 ② 事案の争点 本件債権放棄の額が法人税法第37条第1項に規定される「寄附金の額」に該当するかどうかである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されることなく確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本件において原告は、監査法人から、子会社に対する未収の債権額が多額となっているため、その回収可能性に懸念が生じているとして、これを貸倒引当金として計上しなければ本件事業年度の決算について適正意見が出せないとの指摘を受けたことから、これを踏まえ、貸倒引当金の計上を回避するために本件債権放棄をしたものであると主張している。また、原告は、当該貸倒引当金を計上した場合、事業年度末において配当可能原資となる剰余金が枯渇することが懸念され、投資家や金融機関の信用を失うことになりかねなかった旨も指摘している。 この点につき、裁判所は、「原告の配当可能原資となる剰余金が枯渇することにより投資家等の信用を失うとしても、それが原告にとって経済的な損失を直接生じさせるものであるとは直ちにいうことができず、そうした信用失墜を回避すべきであることが経営判断の一つとしては考えられ得るものであるとしても、これを経済合理性の問題であると捉えるのは適切でないというべきである。」として、「原告が、本件監査法人からの指摘を受けて、本件子会社に対して有する債権について貸倒引当金を計上することを回避するために本件債権放棄をしたとの判断について、原告の指摘する事情を踏まえても、客観的に見て経済合理性のあるものであったと認めることはできず、上記の経緯により、本件債権放棄の必要性があったということはできない。」と判断している。 本件において、上場企業である原告(大和自動車交通(株))は、定期的に監査法人の監査を受けることとなるが、原告は当該監査法人の監査意見を根拠に債権放棄の正当化を図ろうとしたものの、裁判所には認められなかったところである。法人税法の解釈は会計処理の手法に左右されるものではないため当然と言えるが、税務調査の現場においては、納税者側が監査法人の意見を盾に自己の会計処理の正当性を主張することがあるが、それが法人税法の解釈として妥当であるのか、別途考える必要があるものといえよう。 (4) 本件へのあてはめ 親会社が子会社に対して有する債権につき債権放棄を行った場合、当該債権放棄が業績不振による倒産を防止するために行ったというような経済合理性があるときには、当該債権放棄は、一般に、客観的に見て法人がより大きな損失を被ることを避けるために必要な費用として、その損金算入を認めるべきものと考えられる。 本件の場合、 仮に、子会社の有する土地を適正に時価評価したときにおいて、当該子会社の財務状態が債務超過ではないと判断される場合には、当該子会社に対する債権放棄は時期尚早であり、その金額は寄附金として扱われ、損金に算入されない金額が一部生ずるという税務署の主張には、一定の合理性があるものと考えられる。 (了)
令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第6回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 5 試験研究費の繰越税額控除の遮断措置 中小企業者の試験研究費に係る繰越税額控除についても、遮断措置が設けられている。 具体的には次の取扱いとなる(措法42の4⑧十四・十五・十六・⑫⑬⑰⑱、措令27の4③⑤)。 なお、通算法人の繰越税額控除限度超過額は、「❶グループ通算制度の繰越税額控除限度超過額(通算繰越控除限度超過帰属額)」と「❷単体納税の繰越税額控除限度超過額(グループ通算制度に持ち込んだ繰越額)」の合計額となるが、遮断措置が適用されるのは「❶通算繰越控除限度超過帰属額」となる。 (1) 通算繰越控除限度超過帰属額の遮断措置 通算法人で修更正事由が生じた場合、他の通算法人の通算繰越控除限度超過帰属額に影響させないため、以下の通算繰越控除限度超過帰属額の遮断措置が適用される。 修更正が生じた事業年度 (通算法人の超過額発生事業年度) 遮断措置の内容 i 措法42の4⑧ 十四 当初申告通算繰越控除限度超過額が過少となっていた場合(再計算後の通算繰越控除限度超過額 ≧ 当初申告通算繰越控除限度超過額) 通算繰越控除限度超過帰属額が当初申告通算繰越控除限度超過帰属額と異なる場合に限る。 当初申告通算繰越控除限度超過帰属額をその超過額発生事業年度の通算繰越控除限度超過帰属額とみなす。 ii 措法42の4⑧ 十五 当初申告通算繰越控除限度超過額が過大となっていた場合(再計算後の通算繰越控除限度超過額 < 当初申告通算繰越控除限度超過額) その満たない部分の金額が当初申告通算繰越控除限度超過帰属額以下である場合に限る。 当初申告通算繰越控除限度超過帰属額からその満たない部分の金額を控除した金額をその超過額発生事業年度の通算繰越控除限度超過帰属額とみなす。 上記の仕組みとしては、過去の適用事業年度に修更正事由が生じた通算法人で、他の通算法人の計算要素を当初申告額に固定し、自社の計算要素だけを正当額に直して再計算した通算繰越控除限度超過額(通算グループ全体の控除限度超過額の正当額)が通算繰越控除限度超過額の当初申告額に満たない場合は、満たない金額をその通算法人の通算繰越控除限度超過帰属額の当初申告額から控除することになる。つまり、修更正事由が生じた通算法人で過大額を丸被りする遮断措置となる(ただし、繰越額の計算のため、その適用事業年度では追加納付は生じない)。 一方、再計算した通算繰越控除限度超過額(通算グループ全体の控除限度超過額の正当額)が通算繰越控除限度超過額の当初申告額を超える場合は、当初申告額のままとする。 これらの取扱いは、試験研究費の税額控除の遮断措置と同様の仕組みとなる。 (2) 通算繰越控除限度超過帰属額の全体再計算 一方、試験研究費の税額控除の遮断措置を適用しないで計算した通算繰越控除限度超過額(通算法人全社の計算要素の正当額により全体再計算した金額)が次の条件に該当する場合、各通算法人の通算繰越控除限度超過帰属額を正当額に修正する。 つまり、通算繰越控除限度超過帰属額については、上記(1)の遮断措置が適用されるが、それとは別に全体再計算を行うこととなり、その意味で、通算法人間で完全に遮断が実現するわけではない。 修更正が生じた事業年度 (通算法人の超過額発生事業年度) 全体再計算の内容 i 措法42の4⑧ 十六 当初申告通算繰越控除限度超過額が、試験研究費の税額控除の遮断措置及び上記(1)の ⅰ、ⅱの遮断措置を適用しないものとして計算した場合における通算繰越控除限度超過額を超えるとき 当初申告通算繰越控除限度超過額は、各通算法人の上記(1)の ⅱの適用がある場合、上記(1)の ⅱの満たない部分の金額の合計額を控除した金額とする。 通算繰越控除限度超過帰属額の計算について、試験研究費の税額控除の遮断措置及び上記(1)の ⅰ、ⅱの遮断措置は、適用しない。 なお、この全体再計算の適用による修正申告書の提出又は更正後の通算繰越控除限度超過帰属額の遮断措置の適用については、この修正申告書又は更正通知書に記載された金額を当初申告額とみなすこととする。 (3) 欠損金増加合計額がある場合の進行事業年度における通算繰越控除上限額の上乗せ措置 試験研究費の繰越税額控除の遮断措置についても、試験研究費の税額控除の遮断措置と同様に「欠損金増加合計額がある場合の進行事業年度における通算繰越控除上限額の上乗せ措置」が適用される。 この場合、通算法人では、調整前法人税額の25%(中小企業技術基盤強化税制の控除上限率の加算措置の適用がある場合、加算率を加算した割合)に欠損金増加合計帰属額×法人税率×控除上限率を加算した金額を基礎にして通算繰越控除上限額を計算する。 ここで、各通算法人の欠損金増加合計帰属額は、各欠損金増加額に欠損帰属割合を乗じて計算した金額の合計額とする。 各欠損金増加額とは、非特定欠損金額が当初非特定欠損金額を超えることとなった各通算法人のそれぞれその超える部分の金額をいう。 欠損帰属割合とは、以下の割合をいう。これは、通算対象欠損金額を求めるための割合となる。 (注1) その過去適用等事業年度に係る各欠損金増加額があるもの(欠損増加法人)については、損益通算の遮断措置(法法64の5⑤)を適用しないものとする。 (注2) 欠損増加法人以外の法人については、損益通算の遮断措置(法法64の5⑤)を適用するものとする。 なお、この上乗せ措置についても当初申告固定措置が適用される(全体再計算を含む)。 (4) 濫用防止に係る遮断措置の不適用 損益通算及び繰越欠損金の通算について、濫用防止に係る遮断措置の不適用の規定が適用される場合(法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるため、遮断措置を適用せずに税務署長が再計算する場合)には、試験研究費の繰越税額控除の遮断措置は適用されない。 また、この場合においては、この調整を前提とした欠損金増加合計額がある場合の進行事業年度における通算繰越控除上限額の上乗せ措置(措法42の4⑫⑬)についても適用されない。 試験研究費の繰越税額控除の遮断措置の計算例は次のとおりとなる。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (続く)
租税争訟レポート 【第86回】 「消費税「確定申告書作成コーナーにおける課税仕入れの入力誤り」 (第1審:神戸地方裁判所令和6年9月19日判決、 控訴審:大阪高等裁判所令和7年3月18日判決)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【判決の概要】 〈神戸地方裁判所令和6年9月19日判決の概要〉 〈大阪高等裁判所令和7年3月18日判決の概要〉 【事案の概要】 ■■販売店を経営する個人事業者である原告は、平成31年1月1日から令和元年12月31日までの課税期間に係る消費税及び地方消費税の確定申告をした際、従業員の給料賃金を課税仕入れに係る支払対価の額に該当するものとして計上した。処分行政庁は、上記給料賃金が課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないなどとして、本件課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税3万5,000円の賦課決定処分(本件付加決定処分)をした。 本件は、原告が、①給料賃金を課税仕入れに係る支払対価の額に該当するものとして計上したことには、国税通則法65条4項1号所定の「正当な理由」がある、②上記計上には錯誤〔民法95条〕があるから無効であると主張し、被告に対し、本件賦課決定処分の取消しを求める事案である。 【争点】 本件の争点は、処分行政庁が、令和4年7月1日付けで、原告に対して行った消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分の違法性である。 【神戸地方裁判所の判断】 1 争点に対する原告の主張 (1) 過少申告につき「正当な理由」(通則法65条4項1号)があること 原告は、龍野税務署の確定申告会場パソコンコーナーにおいて、龍野税務署の担当職員の立会いの下、職員と同じ画面を見ながらパソコンに申告内容を入力した。原告は、税務署が用意したパソコン操作に不慣れなこと、給与賃金を課税取引と入力した場合にエラーとはならない仕組みであったことから、個票においては「課税取引にならないもの」と記載していた給与賃金を課税取引として入力してしまった。その際、職員は、原告が見ているのと同じ画面を注視していたが、原告に対して入力の誤りを指摘しなかった。原告は、職員に対し、入力後に画面をスクロールし、「これでいいですか」と尋ね、入力に誤りがないことを確認して入力を終えた。 このように、本件申告が過少申告となったことは税務署職員の誤誘導に原因がある上、入力の誤りがあったのも1箇所のみであるから、通則法65条4項1号にいう「正当な理由があると認められる」場合に当たる。 (2) 本件申告が錯誤により無効であること 原告は、確定申告書を作成する際に、誤って給料賃金の額を課税取引として入力しており、表示上の錯誤がある。原告には重大な過失があるものの、上記(1)の経過や龍野税務署の職員が個票を持っていたことによれば、処分行政庁は原告に錯誤があることを知り又は重大な過失により知らなかったといえる。 e-Taxによる確定申告に関し、税務署が納税者の操作ミスを回避する又は注意喚起をするなどの措置を講じていなかった場合、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律を類推し、民法95条ただし書が適用されないと解すべきである。 2 争点に対する被告の主張 (1) 過少申告につき「正当な理由」(通則法65条4項1号)がないこと 本件申告が過少申告となったのは、原告が、確定申告書作成用パソコンへの入力を誤ったことが原因であり、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められない。 原告が主張する龍野税務署職員の原告に対する助言は、一応の参考意見を示すものにすぎず、最終的にどのような納税申告をすべきかは納税義務者の判断と責任に委ねられているから、「正当な理由」の存在を基礎付けるものではない。 (2) 原告の錯誤無効の主張が許されないこと 本件について、錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情は認められない。龍野税務署の職員が、原告の錯誤を知っていたか、共通の錯誤に陥っていたという原告の主張は争う。 3 神戸地方裁判所の判断 第1審である神戸地方裁判所は、結論として、原告の請求は理由がないからこれを棄却するという判決を言い渡した。その理由は次のとおりである。 (1) 「正当な理由」(通則法65条4項1号)の有無 神戸地方裁判所は、龍野税務署職員による確定申告書作成コーナーでの支援について、税務署が納税義務者等から受ける申告書の作成に関する相談は、納税申告の一助となるように一応の参考意見を示す行政サービスにすぎないから、税務相談において税務職員が指導・助言を行ったとしても、それが税務署長その他責任ある立場にある者の正式な見解の表示であると受け取られるような特段の事情のない限り、最終的にどのような納税申告をすべきかは、依然として納税義務者の判断と責任に委ねられているというべきであるという判断の枠組みを示した。 そのうえで、原告が陳述するように職員が入力内容に誤りがないと述べたとしても、それは入力の形式上明白な誤りがないことを伝えたにすぎないというべきである原告の主張を斥けた。また、職員の発言の趣旨が、原告が入力した内容は原告の事業に係る全事情に照らして適法かつ適切といえる税務処理内容であると伝えたというものであったとしても、税務署長その他責任ある立場にある者の正式な見解の表示であると受け取られるような特段の事情があると評価することはできないことから、原告は、自らの判断と責任により本件申告を行ったものと評価するのが相当であると判示した。 結論として、神戸地方裁判所は、本件誤申告について、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないという判断を示し、本件誤申告が「正当な理由があると認められる」場合に当たるとは認められないとした。 (2) 錯誤無効の主張が許されるか否か 神戸地方裁判所は、錯誤無効について、消費税等の確定申告書の記載内容が納税義務者の内心と合致しない場合であっても、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合に限り、修正申告等の法定の方法によらないで錯誤無効を主張することが許されるというべきであるという判断の枠組みを示した。 そのうえで、神戸地方裁判所は、原告の陳述内容を前提としても、原告は自らの判断と責任により本件申告を行ったものと評価でき、法の定めた方法以外にその是正を許さないならば、原告の利益を著しく害すると認められる特段の事情があるとはいえないことから、原告が本件訴訟において錯誤無効を主張することは許されないとした。 (3) 本件賦課決定処分の適法性 結論として、神戸地方裁判所は、本件更正処分に伴って賦課される過少申告加算税の額は、本件更正処分における納付すべき消費税等の額35万200円から、1万円未満の端数金額を切り捨てた後の金額である35万円に100分の10の割合を乗じて算出した3万5,000円となり、本件賦課決定処分により原告に賦課された過少申告加算税の額はこれと同額であるから、本件賦課決定処分は適法であるとの判断を示した。 【大阪高等裁判所の判断】 大阪高等裁判所は、当裁判所も、本件賦課決定処分は適法であるから、原告の請求を棄却すべきであると判断するという結論を述べ、その理由として次のように原判決を補正し、または、補足説明を付加した。 1 控訴人(第1審原告)による追加主張 控訴審において、控訴人は、控訴人に対する税務調査について、龍野税務署の調査担当者は、①令和3年7月16日の事前通知では、調査対象年度を過去3年としていたのに、実際の税務調査では、7年間遡って調査し(調査対象期間の不当な延長)、②税務調査当日、控訴人の自宅2階に立ち入り、③帳簿等の留置きを行ったことについて、これらの調査行為は、公序良俗に反する違法なものであり、その違法性の重大性に鑑み、後の本件賦課決定処分の取消事由になるというべきであるとの主張を追加した。 2 原判決の補正 大阪高等裁判所は、パソコンコーナーに配置されていた龍野税務署の職員は、既に申告内容に関する相談等を経て個票の作成を終えた申告者に対し、パソコンの操作及び入力作業に関する相談に応じてこれを補助するために配置されていたにすぎないことから、通常、そのような職員は、税務署としての正式な見解を表示する立場にはなく、その権限もないのであり、同職員が、申告内容が適正であるかどうかを確認したり誤りを指摘したりする役割を担い、その義務を負っていたとは認められないとしたうえで、原告が陳述するとおり、パソコンコーナーにおいて、原告が入力後の画面をスクロールして、これでいいかと尋ねたのに対し、配置されていた職員が、それでいいと述べ、特に誤りを指摘しなかったとしても、それは通常、入力の形式面で漏れや明白な誤りはないという趣旨で返答したものにすぎないと解されるとの判断を示した。 そのうえで、控訴人は、自ら個票を作成した後、自ら誤った内容の入力を行って確定申告書を作成し、これを提出したのであって、自らの判断と責任により申告を行ったものといわざるを得ないから、誤申告について、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるとはいえないとして、誤申告が「正当な理由があると認められる」場合に当たるとは認められないと結論づけている。 3 原判決の補足説明 (1) 正当な理由 大阪高等裁判所は、申告納税制度においては納税義務者が自己の判断と責任で税額を計算し、適正な申告を行うことが予定されていることや、確定申告会場のパソコンコーナーに職員が配置されていたのは、パソコン操作等を補助するためにすぎないことなどは、原判決の認定説示のとおりであって、申告が誤ったものであったことにつき「正当な理由」があるとは認められないとしたうえで、控訴人による確定申告会場で提供されていた申告用ソフトが、給与賃金を課税仕入れの箇所に入力できないように設計されていなかったという指摘については、被控訴人(第1審被告)及び龍野税務署において、そのようなシステム設計にしておくべき義務があったとまではいえないことから、控訴人の主張は採用することはできないと判示した。 (2) 錯誤無効 大阪高等裁判所は、控訴人による、申告について錯誤無効の主張を認めるべき特段の事情があるという主張について、原判決の認定説示のとおり、控訴人は、自ら誤った入力を行うなどしたために誤申告をしたのであって、龍野税務署の職員の誤った指導等により誤申告を行ったものであるなどとは認められないから、特段の事情があるとはいえない。原告の上記主張は採用することができないとしてこれを斥ける判断を示した。 4 控訴審における控訴人による主張について 大阪高等裁判所は、控訴人による、税務調査担当者による調査行為は公序良俗に反する違法なものであり、その違法性の重大性に鑑み、後にされた本件賦課決定処分の取消事由となるという追加の主張に対して、税務調査担当者が、①本件調査の調査対象期間を延長したとは認められないし、②何らの必要もなかったのに原告の自宅2階へ立ち入ったとか、③何らの必要もなかったのに帳簿等の留置きを行ったなどとも認められないことから、控訴人指摘の各行為について公序良俗に反する重大な違法性があったなどとは認めらないという判断を示して、控訴人による主張も採用することができないとしてこれを斥けた。 【判決の特徴】 TAINSのデータベースで今回取り上げた判決に添付されているPDFを見ると、本判決中で「個票」と呼称されている「別紙2」には、原告の手書きによる数字で、「給与賃金」決算額2,653,030円、課税取引にならないもの2,653,030円と記入されており、このままe-Taxに入力していれば、問題はなかったことが理解できる。ただ、e-Taxの消費税申告システム上は、決算額に入力した数字は、「課税取引にならないもの」欄に入力をしない限りは、そのまま、「課税取引金額」欄に転記されてしまう仕様となっており、本件も、原告が誤入力したのではなく、「課税取引にならないもの」欄への入力を漏らしたことにより、発生したものであると思料する。 一方、控訴審で、第1審原告が指摘した「給与賃金を課税仕入れの箇所に入力できないように設計されていなかった」ことを正当な理由に該当するという主張は、納税者の入力負担の軽減を考慮する観点からは、的を射たものであると評価できる。現行システムでも、「水道光熱費」「修繕費」「消耗品費」などは、「課税取引に該当しないもの」欄への入力ができない仕様になっており、また、「損害保険料」は、決算額に入力した数値がそのまま「課税取引に該当しないもの」欄に転記される仕様になっていることからすれば、e-Taxシステムの仕様をもう少し細かく設定することは可能であるといえるだろう。ただ、控訴審では、「そのようなシステム設計にしておくべき義務があったとまではいえない」と退けられている。 本件は、3万5,000円の過少申告加算税の賦課決定処分を控訴審まで争ったものであるが、国税庁が提供するe-Taxにおける消費税の申告支援ソフトウエアの仕様の問題をもっと争点化して、裁判所の見解を引き出してもらえればという感想を筆者としては持った次第である。 1 国税不服審判所の裁決について 第1審判決の「前提事実」でも触れられているように、本件は、訴訟提起の前に、国税不服審判所に対して審査請求を行い、令和5年5月22日付で、原告の審査請求を棄却する旨の裁決が出されているので、その裁決要旨を引用しておきたい(一部、括弧書き等を省略している)。 2 税務署における確定申告書作成コーナーの運用について あくまで筆者の経験、しかも東京都内の一部の税務署に限ったことかもしれないが、税務署における確定申告書作成コーナーで、納税者の誘導や指導に当たっている職員の中には、確定申告時期だけ臨時採用されて、主に、PC入力の補助を行う契約社員も一定数配置されている。PC入力前に納税者の申告相談に当たっている職員は、税務署職員であることはほぼ間違いなく、本件で言えば、「個票」の作成段階までは、税務署の正職員が指導を行い、PC入力については臨時採用の契約社員が入力の補助を行っていた可能性もあるかもしれない。 龍野税務署の職員配備がどうなっていたのかは判決からはわからないが、控訴審における、「配置されていた職員が、それでいいと述べ、特に誤りを指摘しなかったとしても、それは通常、入力の形式面で漏れや明白な誤りはないという趣旨で返答したものにすぎない」という判断は、確定申告書作成コーナーの現行運用に沿った見解であると言えるだろう。 3 税理士による確定申告無料相談会場での誤指導や入力ミス 税理士会によっては、税務署における相談会場とは別に、税理士による確定申告無料相談会を実施しているところも多く、会場では、税務署から貸与されたPCを使って、税理士が納税者の隣に座って、確定申告書作成コーナーでe-Taxシステムを利用して申告書の作成と電子送信を行っている。 こうした相談会場の運用であれば、本件のような入力ミス(実際には入力漏れ)が発生する可能性をかなり低減することが期待できる。その一方で、万一、税理士による指導や入力支援にミスがあった場合には、相談に当たった個々の税理士が責任を問われる可能性もありそうである。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第98回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (3) 暗号資産の損益計算の困難性 ア 概要 民間企業が提供する暗号資産の損益計算ソフトを利用したとしても、一般に、暗号資産の損益計算は難しく、海外CEX、DEX、プライベートウォレットを複数利用している場合、「正確に」計算することは困難である。 また、少なくとも日本においては、複数のCEXとプライベートウォレット等を利用する事例や複雑な取引をしている事例に係る損益計算に対応できる税理士は限られている。 その結果、納税者側では、損益計算に要する時間的・人的コストや専門家報酬が暗号資産取引から得られた利益を上回るケースもある。 これに対して、国内CEXでは取引履歴の提供等のインターフェースが整備されており、DEXやウォレットを利用している場合でもトランザクションの記録はブロックチェーン上で公開されているため、これらを入手することで暗号資産の損益計算を正確に行うことが可能ではないかと疑問に思う者もいるであろう。 確かに、前回(2)で示した知識やスキルをある程度有していれば、国内CEXのみを利用し、暗号資産を月に数回程度、売買しているようなケースの損益計算を行うことは難しくない。 しかしながら、海外CEX、DEX、プライベートウォレットを利用している場合には、データの取得や取込みが困難であるという問題に直面する可能性がある。 また、DEXやプライベートウォレットを利用している場合には、ブロックチェーンエクスプローラー等を用いたトランザクションの分析が必要となる場合があるため、損益計算の難易度が上がる。 このようなケースでは「正確な」損益計算を行うことは不可能なことが多いというのが暗号資産にある程度精通している税理士や国税調査官に共通する理解であろう。 イ 各段階で生じる問題 暗号資産の損益計算の①~④(前回参照)の各段階において、次のような問題が存在しており、このことが暗号資産の損益計算を一層困難なものにしている。 なお、次に示す問題は、納税者が複数のDEXやプライベートウォレットを利用している場合にはさらに深刻化する。とりわけ、取引経路が分散しているほど、取引履歴の連続性が断絶しやすく、取得価額や保有数量の一貫性が損なわれるリスクが高まる。 ① 取引所やブロックチェーンからデータを取得等 「CEXやブロックチェーンごとにデータの取得方法等が異なる場合」があることに注意を要する。 「海外CEXやDEXによっては、日本語のサポートがなく、日本の税法に基づく損益計算にも対応していない場合」もある。このような場合には、データの取得等に手間取る可能性がある。 より深刻なのは「データを取得できない場合」があるという問題である。その要因として次のようなものがある(※1)。 (※1) CEXの本人確認手続が厳格化され、利用者において完了した本人確認手続のレベルに応じて、過去の取引データへのアクセスが制限される場合もあるが、この場合は本人確認手続のレベルを進めて完了することにより、データへのアクセスが可能となる。 (※2) 藤本剛平「暗号資産(仮想通貨)の税金計算までの流れと所得区分」税経通信80巻2号(2025)62-66頁参照。 特に、 CEXの破綻やアカウント凍結等により履歴が消失した場合、納税者側で合理的説明資料を用意できなければ、取得価額や保有数量の立証が困難となり、適正な損益計算そのものが不可能となるおそれがある。結果として、税務当局による推計課税や不利な認定を受けるリスクも増加する。 このような場合、実務上は、銀行口座の入出金履歴、ブロックチェーン上の送金ログ、ウォレット残高履歴、当時の取引画面や資産管理画面のスクリーンショット、約定メール、当時の市場価格データなどを確認し、それぞれの資料が示している事実を時系列に並べ直していくことになる。 例えば、次のような資料をつなぎ合わせることで、一連の取引の流れを具体的に説明する。 さらに、可能な限り、年末時点のウォレット残高やブロックチェーン上の残高を証明し、数量の整合性を検証することで、取得・移転・保有の連続性を補強する。 このように、単一の資料だけで完結させるのではなく、複数の資料を組み合わせて「いつ・いくらで取得し・どこへ移転し・年末にどのくらい保有していたのか」を具体的かつ合理的に示していくことが実務上のポイントである。 もっとも、このような推算はあくまで「合理的説明」にとどまるため、資料の保存状況や整合性の程度によっては、税務当局との見解の相違が生じる余地がある。 なお、暗号資産の売買による収入金額の5%相当額を取得価額として計算する方法を採用する場合には注意が必要である(本連載第9回参照)。 (了)
《税務必敗法》 【第14回】 「電子申告義務の判定を誤った」 公認会計士・税理士 森 智幸 【事例】 株式会社A社は資本金3億円の製造会社である。A社の決算期は3月であり、申告期限は法人税・消費税ともに1か月延長の適用を受けている。なお、A社はグループ通算制度適用法人ではない。 A社は業績不振のため×8年6月24日の定時株主総会で減資することを決議し、減資後の資本金は9,000万円となった。 併せて、税務顧問料節減のため、×8年7月より、税務顧問を準大手税理士法人から地元のX会計事務所へ切り替えた。 しかし、引継ぎに際して、X会計事務所の担当税理士甲は、6月の減資決議を受けて資本金が9,000万円となったA社は大法人ではなくなったと誤認してしまった。 また、X会計事務所はこれまで大法人の申告経験がなかった。税金の申告については電子申告を行っているものの、会計ソフトと申告ソフトが別ベンダーであり、財務諸表については、電子データで作成すると工数がかかるうえ、入力ミスのリスクもあるため、書面で別途郵送する方式を採っていた。 翌×9年6月下旬、A社の定時株主総会終了後、甲は申告期限までに法人税及び消費税の確定申告書を電子申告し、財務諸表は他の顧問先と同様、所轄の国税局の業務センターへ書面で郵送した。 しかし、×9年7月上旬、所轄税務署からX会計事務所に電話があり、以下の内容を告げられた。 「A社は×8年度開始時点で資本金が1億円を超えていましたので、×8年度は電子申告義務対象法人です。今回、財務諸表を書面で郵送いただいていますが、財務諸表も電子提出をお願いします。」 この時点で甲は、A社は×8年度も大法人であり、添付書類も電子提出しなければならないことに初めて気付いた。 甲はA社に対して経緯を説明したうえで謝罪した。すると、A社の経理担当役員から次のようなクレームを受けた。 「無申告扱いにならなかったとはいえ、こういったことは事前に確認できなかったのでしょうか。当社も先生と相互に確認しなかった点に落ち度はあると思います。しかし、『安かろう悪かろう』とは申しませんが、もう少し品質管理を徹底していただきたいと思います。」 その後、A社との顧問契約は継続したものの、翌年の契約更新前、A社から契約解除を告げられた。 1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「電子申告義務の判定を誤った」である。 資本金の額等が1億円超の株式会社など一定の内国法人は電子申告が義務化され、電子申告義務がある法人は、申告書だけでなく、財務諸表、勘定科目内訳明細書などの添付書類もすべて電子提出する必要がある。 また、電子申告義務の要件となる資本金の額等は、事業年度開始の時点で判定する。 これらの点は国税庁が2025年7月に公表した「大法人等の皆様!!電子申告義務化に対応できていますか?」というリーフレットにも記載されているので参照されたい。 本稿では、①電子申告義務の判定のタイミングを誤る失敗、②添付書類の電子提出の体制が未整備であることに起因する失敗の2つの視点から論じる。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。 2 電子申告義務の概要 令和2年4月1日以後に開始する事業年度及び課税期間から、一定の法人は電子申告義務が課されることになった(法人税法75条の4、消費税法46条の2など)。 対象税目は法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税であり、対象法人は資本金の額等が1億円を超える法人やグループ通算制度適用法人などである。 3 電子申告義務の対象となる書類 電子申告義務がある法人は、申告書に加えて、財務諸表・勘定科目内訳明細書・会社事業概況書なども電子提出しなければならない。 なお、財務諸表などはPDF形式での提出は認められていないので注意が必要である。 4 資本金額の判定のタイミング 電子申告義務の対象法人には、資本金の額等が1億円を超える法人やグループ通算制度適用法人などがあるが、資本金の額等は事業年度開始の時で判定する。 つまり、期首時点で資本金の額等が1億円超であれば、期中で減資をして資本金の額等が1億円以下となっても、その事業年度及び課税期間は電子申告義務があるので注意する必要がある。 なお、外形標準課税の場合は事業年度終了の日における資本金の額等で判定する。他の制度と混同して思い違いをしないよう、会計事務所内でも内部チェックを行っておくことが望まれる。 5 電子申告義務を履行しなかった場合の影響 (1) 無申告加算税の対象 申告書を申告期限までにe-Taxではなく書面で提出した場合、無申告として取り扱われる。そのため、無申告加算税の対象となる。 (2) 青色申告の承認の取消対象 2期連続で無申告となると、青色申告の承認の取消対象となる(法人税法127条1項4号、事務運営指針「法人の青色申告の承認の取消しについて」4)。 (3) 顧問先からの信頼失墜と契約解除のリスク 無申告扱いとなった場合はもちろん、事例のように大法人に対応できないと判断された場合にも、顧問契約の解除につながる恐れがある。 6 添付書類のみの電子提出漏れの取扱い ここで、【事例】のように、申告書は電子申告しているものの、添付書類を書面提出してしまった場合はどうなるのか、気になる読者もいらっしゃるだろう。この点については国税庁のサイトを見ても明確な記載はない。 筆者の経験では、契約前、申告書本体は電子提出していたものの、財務諸表は法令上認められていないPDF添付で提出していた大法人があったが、無申告扱いにはなっていなかった。 あくまで一事例に基づく私見であるが、申告書本体を電子提出していれば、添付書類を誤って書面で提出しても、現状は無申告扱いにはならない運用のようである。 もっとも、これは制度の建付けと実際の運用に乖離があるともいえ、今後、厳格化される可能性は十分にある。仮に、添付書類の電子提出漏れも無申告扱いとなれば、無申告加算税の対象となりうる。添付書類も含めてすべて電子提出できる体制を早期に整備しておきたいところである。 また、【事例】のように、無申告とはならない場合でも、会計事務所が大法人に対応できない体制と見られると、信頼を失い契約解除となる可能性もある。 7 税理士職業賠償責任保険との関係 前述のとおり、無申告扱いとなった場合、無申告加算税が課される可能性がある。しかし、無申告加算税に相当する損害は、税理士職業賠償責任保険の保険金の支払い対象とはならない。そのため、損害相当額は自己負担となってしまうので、その点も注意されたい。 8 対策 (1) 電子申告義務対象法人の範囲を事務所内で管理する 前述の国税庁のリーフレットでも「特に多い誤り」として「そもそも、自社が電子申告義務化対象法人であることを認識していない。」という点が指摘されている。 会計事務所においても、顧問先が電子申告義務対象法人であるか否かを、担当者任せにしないで、会計事務所内で一元的に管理することが望まれる。 (2) 引継ぎ時のチェックリストを整備する 新規契約する際には、資本金の額を確認することもチェックリストに入れるとよいであろう。具体的には、株主資本等変動計算書などの財務諸表、別表一の資本金の欄、履歴事項全部証明書の資本金の推移を確認することが考えられる。 (3) 添付書類も電子提出できる体制を整備する 現在は、大法人等が電子申告義務の対象となっているが、今後、対象範囲が拡大することも考えられる。財務諸表を書面提出している会計事務所も一定数存在すると思われるが、対象拡大も想定して、徐々に電子化へシフトしていくとよいであろう。 (4) 互換性のある会計ソフトが多い申告ソフトを導入する 会計ソフトと申告ソフトが同一ベンダーであれば、財務諸表の電子作成は容易だが、別ベンダーの場合、データのインポートや直接入力が必要となる。 特に、直接入力は工数がかかり、しかも入力ミスのリスクがあるので、なるべく避けたいところである。申告ソフトの選定にあたっては、互換性がある会計ソフトが多いものを選ぶとよいであろう。 9 終わりに 今回は、電子申告義務の対象となる法人とその判定のタイミングに関する留意点を述べた。 国税庁は税務行政のDX化を推進している。将来、電子申告義務の対象範囲が拡大した場合や、添付書類の電子提出漏れに関する運用が厳格化された場合であっても対応できるよう、体制を整備しておきたいところである。 加えて、無申告加算税は税理士職業賠償責任保険の対象外であることも認識しておいていただきたい。 本稿が皆様の実務のご参考になれば幸いである。 (了)
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第66回】 「キャプティブ再保険に係る非関連者基準の収入保険料の範囲」 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 外国子会社合算税制の非関連者基準を満たすか否かの判断に当たり、キャプティブ再保険の契約当事者が、外国の監督官庁の承認を得た上で、再保険契約等の内容を遡及的に修正することにより非関連者基準を満たすとすることは認められるのでしょうか。 〔A〕 令和7年6月5日の裁決事例では、非関連者基準の判断は外国関係会社の事業年度ごとに行うこととされており、変更後再保険契約が締結されたのは当該外国関係会社の事業年度終了後であり、各事業年度において有効に存在していたのは変更前の再保険契約であることから、変更前の再保険契約に基づいて、当該外国関係会社の収入保険料の金額を判断するのが合理的であるという考え方が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 非関連者基準 「非関連者基準」とは、各事業年度において、主たる事業が、卸売業、銀行業、信託業、金融取引業、保険業、水運業又は航空運送業又は物品賃貸業(航空機の貸付けを主たる事業とするものに限る。)のいずれかに該当する外国関係会社について、その事業に係る一定の取引を、主として関連者以外の者(非関連者)との間で行っていることを要件とするものである。 これらの事業にこの基準を適用することとされたのは、その事業活動の範囲が必然的に国際的にならざるを得ず、これらの事業を営む特定外国子会社等に対して、地場経済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには無理があり、それよりもその事業の大宗が関連者以外の者との取引から成っているかどうかで判断するのが適当であろうと考えられたためである。その事業を専ら関連者との取引に頼っているような場合においては、その地に所在していることについての税以外の経済的合理性は極めて希薄であると考えられ、この基準は、租税負担割合の低い国又は地域を利用した租税回避が関連者取引を通じて行われることが通例であり、また、諸外国の立法例においても関連者取引が課税要件の重要な構成要素となっていること等が背景となって設けられたものである(※1)。 (※1) 高橋元監修「タックス・ヘイブン対策税制の解説」(清文社、昭和54年1月)134頁参照 外国関係会社の関連者以外の者との取引の判定には、業種別に基準が示されており、保険業については、収入保険料の合計額のうち、関連者以外の者から受ける収入保険料の割合が50%以上であることとされている(措令39の14の3㉘五)。なお、ここでいう収入保険料が、再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限られる(※2)(措令39の14の3㉘五イ括弧書き)。 (※2) 日産自動車事件に係る本稿第32回及び第44回参照 以下では、非関連者基準の判定において、収入保険料の範囲が争われた裁決例を検討する。 2 裁決例 《国税不服審判所令和7年6月5日裁決(TAINSコード:J139-3-07)》 (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に係る外国関係会社は、その主たる事業が保険業であり、いわゆる非関連者基準を満たさないことから、請求人に係る対象外国関係会社に該当し、外国子会社合算税制の適用があるなどとして法人税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁が前提とした法律関係を変更する旨、関係当事者が合意したことなどから、当該外国関係会社は非関連者基準を満たし、請求人に係る対象外国関係会社に該当しないため、外国子会社合算税制の適用はないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 取引の概要は下図のとおり。 請求人の自社キャプティブ保険会社である米国法人K社(外国関係会社)は、スポンサードキャプティブ保険会社(M社)を通じて(※3)、非関連者である各U社と請求人に係る保険リスクを引き受ける再保険契約(契約②)を締結し、請求人の特定の保険リスクについてM社を通じて非関連者であるR社に譲渡し(契約③)、R社により引き受けられた非関連者のリスクと交換する契約を締結した(契約④)。契約③では、契約②の保険責任の81%(又は51%(※4))をR社に出再することとされていた。 (※3) 裁決書には、「(米国ハワイ)州法上、K社は直接保険リスクを引き受けることができず、本件参加合意書によってM社を通じて一部の保険リスクを引き受けることになる」という記述がある。 (※4) 平成元年元受保険契約に係る保険責任の割合。他の年度は81%。 本件に係る事業年度終了の後、M社は、K社のため、契約②により引き受ける保険責任を19%(又は49%)とする修正に合意した(変更後再保険契約)。同時に、R社は、各U社との間で、契約②によりM社がK社のために引き受ける保険責任の81%をR社が譲り受ける旨合意した。 (2) 争点と請求人の主張 K社各事業年度において、K社は、非関連者基準を満たすか否か。具体的には、本件各K社事業年度におけるK社の収入保険料のうちに、K社の非関連者から収入する収入保険料の額の占める割合が100分の50を超えるか否か(他の争点は省略)。 請求人は、(1)契約②及び契約③によれば、K社は、請求人に係る保険リスクのうち19%(又は49%)を引き受け、その割合に相当する経済的利益が帰属する、(2)関係当事者が真に意図していたのは、最終的にK社は請求人に係るリスクのうち一部のみを引き受けるものであった、及び(3)請求人に係る保険リスクの一部をR社に移転するための保険料を除いた金額を前提として非関連者基準を判断すべきであると主張した。 (3) 審判所の判断 審判所は、M社は、K社のために各U社との間で、契約②を締結しているところ、契約②に係る各COVER NOTE(筆者注:保険で損害が担保されることを証明する書類)には、契約②により各U社が譲渡する保険責任の割合やその対価である再保険料の金額が明示されており、契約②により移転する保険責任の割合やその対価である保険料の金額が一部であることを示す記載は見当たらず、契約の各締結日において、COVER NOTEの記載どおりの合意が成立し、その合意が、変更後再保険契約の締結まで存続していたと認められると事実認定した。 そして、非関連者割合の判断は外国関係会社の事業年度ごとに行うこととされており、変更後再保険契約が締結されたのは、K社事業年度の終了後であって、本件各K社事業年度において有効に存在していたのは変更前の各COVER NOTEの記載どおりの契約②であるとした。その上で、「このことは、(中略)各K社事業年度の後にハワイ州保険局が契約②の変更を承認したとしても変わるものではない。加えて、変更前の契約②による法律関係を基礎とすることが不当であると認められるような特段の事情も認められないことからすれば、本件においては、変更前の契約②に基づいて、K社事業年度におけるK社の収入保険料の額を判断するのが合理的と認められ、請求人の主張は理由がない。」と説示し、請求を棄却した。 (4) 検討 本件はその後、東京地裁に提訴され、令和8年5月14日付で判決が下された。 東京地裁は、非関連者基準にいう「収入保険料の合計額」は、保険業を営む外国関係会社が、当該保険業に基づいて収受する保険料の総額をいうものという考え方を示し、K社が各U社との間で締結した契約②と、R社との間で締結した契約③は別個の契約であり、その保険料の支払義務又は請求権も別個に発生するものであるとした(下線筆者)。以上の事実から、各U社再保険料は、契約②に基づき、その全額がK社に帰属し、K社各事業年度の収入保険料を構成するものと認めるのが相当であり、契約④及びこれに基づく再保険料の帰属は、上記認定を左右するものではないと判示し、その結果K社の収入保険料のうちにR社再保険料(非関連者に係るもの)の占める割合は50%以下となり、K社は非関連者基準を満たさないと結論付けた(※5)。 (※5) T&Amaster No.1124(2026年6月1日)40~41頁参照 なお、かかる第一審で原告は、①キャプティブ保険子会社の保険料収入の過半は、関係者以外の保険リスクにかかる再保険料収入が占めるとの趣旨の事前説明を受けていた、②スポンサードキャプティブ保険会社は、ハワイ州の保険当局に対し、各U社からK社への直接の出再を内容とする契約内容変更の承認を事後的に申請し、合意書を作成していたなどと主張したが、地裁は、上記の事前の説明や事後の変更承認の申請及び合意書の作成は、これらの各契約の経済的効果が、K社の引き受けた原告の関係者に係る保険リスクの一部をR社が引き受け、当該保険リスクを分散したものであったことを示すに過ぎないとして、これを排斥している(※6)(下線筆者)。 (※6) 同上(※5) (了)