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金融・投資商品の税務Q&A 【Q77】「特定口座で保有する上場外国株式の配当に係る外国源泉税と外国税額控除の適用可否」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q77】 「特定口座で保有する上場外国株式の配当に係る外国源泉税と外国税額控除の適用可否」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 特定口座で保管する株式に係る配当と外国税額控除の関係 (1) 国内の証券会社を経由して外国株式の配当を受領する場合の源泉徴収 所得税法上、居住者たる個人が、国外において発行された上場株式の配当で国外において支払われるものについて、国内の証券会社(支払の取扱者)を通じて支払いを受ける場合には、配当に対して20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)の税率による源泉徴収(水際源泉徴収)が行われます。 この際、配当について支払国において外国所得税が源泉徴収されている場合には、日本における源泉徴収税額は、その外国所得税を控除した後の配当金額を基礎として計算されます。 (2) 外国税額控除と特定口座 居住者たる個人が外国所得税を納付することとなる場合には、原則として、その年分の所得税の額からその外国所得税の額を控除することとされています(外国税額控除)。したがって、国内の証券会社を経由して受領する外国株式の配当について課された外国所得税についても、外国税額控除の適用を受けることが考えられますが、配当の課税方式によって制限を受けることがあるため注意が必要です。 特定口座内で生じる所得に対しては源泉徴収されることを選択することができます(源泉徴収選択口座)が、同時に上場株式等の配当等に係る申告不要の特例を適用することも可能です。この申告不要の特例は、原則として、上場株式等の配当等の額ごとに行うこととされていますが、源泉徴収選択口座においては、口座単位で選択する必要があります。これは、源泉徴収選択口座内で配当等と譲渡損失との損益通算が行われた結果、配当等の額と源泉徴収税額が比例的にならなくなることを避けることへの対応と解されています。 また、上場株式等の配当等について申告不要の特例を適用する場合、上場外国株式の配当は内国法人から支払いを受けるものとみなされ、支払国において源泉徴収された外国所得税の額は外国税額控除の対象となる外国所得税の額には該当しないものとみなされます。つまり、申告しないこととした配当について源泉徴収された外国所得税は、外国税額控除が適用できません。この取扱いは、源泉徴収選択口座においても同様です。   2 本件へのあてはめ 源泉徴収されることを選択した特定口座で上場外国株式を保有されているということですので、その源泉徴収選択口座において、上場株式等の配当等に係る申告不要の特例を適用しているか否かを確認する必要があります。 申告不要の特例を適用している場合には、上場外国株式の配当は内国法人から支払いを受けるものとみなされ、支払国において源泉徴収された外国所得税の額は外国税額控除の対象となる外国所得税の額には該当しないものとみなされることから、外国税額控除の適用は受けられないことになります。 一方、申告不要の特例を適用していない場合には、確定申告することにより外国税額控除の適用を受けることが可能です。 (了)

#No. 509(掲載号)
#西川 真由美
2023/03/02

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第12回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第12回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解③」   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     問4 購入したNFTを第三者に転売した場合(二次流通)   1 二次流通の場合の所得区分 FAQの解説では、次のとおり、二次流通の場合の所得区分についても触れられている。 問4は、マーケットプレイスを通じて、NFTの製作者等からNFTを購入し、転売するような二次流通の場面である。上記解説にあるとおり、FAQは、「デジタルアートの閲覧に関する権利」の譲渡に該当することを前提としている。 経済的価値があり、譲渡ないし取引可能な権利を譲渡しているため、所得税法33条1項の資産の譲渡に該当し、その所得は譲渡所得になりうるということであろう。ただし、棚卸資産・準棚卸資産の譲渡又は営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡に該当する場合には、事業所得又は雑所得になるというのである(所法33②一)。 そうすると、上記と前提を同じくする二次流通の場面におけるNFTの譲渡による所得の所得区分として、①譲渡所得、②事業所得、③雑所得(さらにいえば、③-1業務に係る雑所得、③-2その他雑所得。問1「4 一次流通の場合の所得区分」参照)を候補に挙げることができる。 これらの区分の判断基準は、もともと様々な考慮要素に基づく総合判断であり、納税者からすればブラックボックスで課税リスクがつきまとうものであったが、所得税基本通達35-1・35-2の改正によって法的根拠が明らかでない取扱いを採用したために、法令のみから判断することがさらに難しくなっている。   2 譲渡所得金額の計算 FAQの解説では、譲渡所得になる場合の金額の計算について、次のとおり説明している。 上記(注1)では、転売収入はトークンの時価となるが、そのトークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できないなどの理由により、時価の算定が困難な場合には、転売したNFTの市場価額(市場価額がない場合には、転売したNFTの取得費等)をそのトークンの時価と取り扱って差し支えないとしている。 いわば入ってきたもの(トークン)の時価を直接的に算定することが困難な場合に、出ていったもの(NFT)の時価で間接的に算定する方法を提示しているのである。 この部分は、「トークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できない」からといって、直ちに「転売したNFTの市場価額(市場価額がない場合には、転売したNFTの取得費等)をそのトークンの時価」とすることを認めているわけではない。 「トークンが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できない」こと以外の他の理由も含めて、「トークンの時価の算定が困難な場合」に該当するかどうかを判断する必要がある。 また、市場性のある暗号資産と間接的に交換できるのであれば、通常は、時価の算定が困難であるとはいえないと指摘されるかもしれない。 「時価と取り扱って差し支えない」という記載振りからすれば、トークンの時価がゼロであると認められるのに、転売したNFTの市場価額等をもって、当該トークンの時価をゼロとすることは認めないという取扱いはなされないように思われる。 ところで、上記の算式にあるとおり、特別控除額(最大50万円)を控除することができるし、5年超保有してから譲渡したNFTは、これに加えて、長期譲渡所得として2分の1課税の恩恵を受けることができるため(所法22②二)、NFTを売らないで保有し続ける者が増えて、NFTの価格は下げ止まりする可能性があるし、やがて、5年を超えた途端に高額で売る者が続出してNFTの価格を押し上げる可能性もある。   3 「デジタルアートの閲覧に関する権利」という前提 デジタルアートの閲覧「に関する」権利という表現がとられていることにより、FAQの想定している権利がどこまで広げられるかは定かではないが、少なくとも、誰でも閲覧ができるNFTであれば、それに関する権利や対価の支払というのは観念し難いし、実際にも一般のNFT取引で取引の対象とされているものではないであろう(問1「2 「デジタルアートの閲覧に関する権利」が前提とされたことに伴うリスク」参照)。 このようにFAQは複数の箇所で「デジタルアートの閲覧に関する権利」を前提として回答や解説を記載しているため、納税者は自身のNFT取引がFAQが想定している取引にうまく当てはまるのかという点を検討しなければならない。 例えば、PFP(Profile Picture)といわれるTwitterのプロフィール画像などで使用されるNFTの取引の場合は、NFT購入者が有することとなる権利等について当事者等の間で明確にされていないケースも少なくない。 このような場合にNFT保有者の権利ないし地位の譲渡と認定できるのか、このような取引に係る所得をもって、資産の譲渡による所得(所得税法33条の譲渡所得)といえるのか、という疑問があった。 このような疑問を前提とすると、やはり、納税者は自身の取引がFAQの射程範囲に入るのかどうかを慎重に検討する必要があると注意喚起せざるを得ない。   4 法人税の取扱い 法人税の取扱いについて、FAQは、次のとおり解説している。 上記解説にいう「転売をした日」とは、収益の計上時期を定める法人税法22条の2第1項のうち、その資産の販売等に係る「目的物の引渡しの日」に該当すると解しているのであろう。このことは、関係法令等として同項が示されていることからも裏付けられる。 ここでは、法人税に係るNFT取引の収益計上時期については、今後、色々な議論が起こりうることを指摘しておくにとどめる。   (了)

#No. 509(掲載号)
#泉 絢也
2023/03/02

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第28回】「個人に係る外国子会社合算税制」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第28回】 「個人に係る外国子会社合算税制」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 個人にも外国子会社合算税制が適用されると聞きましたが、その場合、当該個人による租税回避の目的や、税負担の不当な軽減の意図が問題とされるのでしょうか。 〔A〕 租税回避の目的の有無や、税負担の不当な軽減となる実体の有無等については、外国子会社合算税制の適用又は適用除外の要件として定めていないのであるから、その趣旨・目的に鑑みても、居住者等による外国法人の実質的な支配や株式の分散保有による租税回避の意図等の明文にない要件を加える解釈によることはできないという判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 所得税法における外国子会社合算税制の概要 移転価格税制とは異なり、我が国に居住する個人に対しても、外国子会社合算税制が適用される。所得税法上、居住者の所得はその性質に応じて10種類に分類されるが、外国子会社合算税制においては、その課税対象金額等は雑所得として総収入金額に算入される(措法40の4①)。現行の外国子会社合算税制は、平成29年度の税制改正により大きく見直しが行われたため、以下では、改正後の制度について要約する。 (1) 外国子会社合算税制の適用を受ける居住者 以下のいずれかに該当する居住者(措法40の4①、措令25の19①) (※1) 実質支配関係については、租税特別措置法(以下「措置法」)40条の4第2項、租税特別措置法施行令25条の21を参照。 (2) 外国関係会社 外国関係会社とは次のものをいう。 平成29年度の税制改正により、外国関係会社の租税負担割合(いわゆる「20%のトリガー税率」)で合算課税の適用の有無を判断する方法から、一定の要件に該当する外国関係会社を、(i)ペーパー・カンパニー等の「特定外国関係会社」と、(ii)従来の特定外国子会社等に該当する「対象外国関係会社」の2つに分類して判断することとなった(措法40の4②二、措令25の19の3①~⑫、措規18の20①~⑰)。 (※2) 現行の経済活動基準には、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、及び④非関連者若しくは所在地国基準があり、従来の適用除外基準と実質的に同一である。 なお、外国関係会社が経済活動基準を全て満たす場合であっても、配当や利子等の受動的所得がある場合には、「部分対象外国関係会社」として合算課税の対象となる(措法40の4⑥)。 以下では、平成29年度税制改正前の事例ではあるが、居住者に対する外国子会社合算税制の適用の是非が争われた事例について取り上げる。   2 過去の裁判例 《個人の外国子会社合算税制適用事件》(※3) (※3)(第一審)東京地裁令和3年7月20日判決(平成29年(行ウ)第426号)〈確定〉 (1) 事案の概要 日本の居住者である原告Xは、平成24年分及び平成25年分の所得税等の確定申告に際し、香港で設立された外国法人A1社及びA2社が、平成23年及び同24年事業年度(本件各事業年度)において、措置法40条の4第1項に定める特定外国子会社等に該当しないとして申告したところ、所轄税務署長から、平成23年12月末時点の両社及び平成24年12月末時点のA1社が特定外国子会社等に該当するとして更正処分を受けたため、これを不服として本件訴えを提起した。 (2) 前提事実(A1社及びA2社の資本関係等) ① A1社について A1社は、株式の保有及び子会社への管理サービス業を営む香港で設立された会社であり、本件各事業年度末において、同社の発行済株式の約41.15%をX及びその親族6名が保有し、また、内国法人であるA22社が、約15.97%を保有していた。以上から、我が国居住者等が有する直接・間接の株式の保有割合は57.12%となるため、A1社は措置法にいう外国関係会社に該当する。 Xは、A1社の発行済株式総数の約14.66%を保有し、措置法にいう居住者に該当する。 A1社の本件事業年度の所得に対して課される租税の占める割合はそれぞれ、16.1%、16.2%であり、当時のトリガー税率20%を下回るのは明らかであった。 A1社の本件各事業年度における各収入金額と総収入金額に占める割合は以下のとおり。 ② A2社について A2社は、A1社が発行済株式総数の100%を保有する内国法人A10社から原材料等を仕入れ、中国子会社に販売し、同中国子会社が制動した製品を仕入れてA10社等に販売するという、いわゆる進料加工(※4)を目的とした卸売業を営んでいた。A2社の2011(平成23)事業年度の終了時における発行済株式総数のうち、居住者等が有する直接・間接の株式保有割合は約53.69%であり、A2社は外国関係会社に該当する。 (※4) 原材料等を有償で支給する点が、来料加工と異なる。 Xは、A2社の発行済株式総数の約13.78%(2011(平成23)事業年度の終了時)を保有し、A2社との関係でも居住者に該当する(同上)。 A2社の2011(平成23)事業年度の所得に対して課される租税の占める割合は0%であった。 ③ A1社が自己の費用負担によりグループ各社に提供する管理契約の概要 (※5) タイに所在するグループ会社。 (※6) 子会社への原材料販売によるものは除く。 (3) 裁判所の判断 ① A1社及びA2社の特定外国子会社該当性について 東京地裁は、A1社及びA2社いずれも措置法が定める形式基準を満たすことから、両社について、「措置法40条の4第1項の特定外国子会社等に該当し、かつ、本件各確定申告書に適用除外記載書面の添付がなかったことにより本件適用除外規定は適用されず、この点を措く(※7)としても本件適用除外要件のすべてを満たすものとはいえないから、本件各処分は適法であり、Xの請求はいずれも理由がなく棄却すべきもの」と判示した。 (※7) 本件では、確定申告書への適用除外記載書面の添付の有無についても争点とされていた(本稿では省略)。 その上で、Xの「タックス・ヘイブン対策税制においては、同税制及び各種関連規定の趣旨・目的を踏まえた法解釈を要し、外国関係会社に該当するためには、措置法の規定文言に形式的に該当するのみでは足らず、租税回避を推認することができるような居住者等による外国法人の実質的支配や株式の分散保有による租税回避の意図の存在を要するものと解するべきである。」という主張に対し、「措置法40条の4は、内国法人がタックス・ヘイブン(括弧内省略)に設立した会社に所得を留保することにより我が国における租税の負担を回避しようとする事例に対処し、税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものであるが、かかる目的の下にその適用要件を具体的に規定するに当たり、特定外国子会社等の要件については(中略)外国法人の発行済株式総数のうちに居住者等の保有株式が占める割合等によるものとした上で(1項)、これに該当する外国法人であっても、独立企業としての実態を備え、その本店所在地国等において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性を有する場合があり得ることを考慮して、本件適用除外要件(3項)を定めた上で、これらをすべて満たす場合には、1項の規定を適用しないこととしているものである。このように、措置法40条の4は、1項及び3項の各要件に係る判断を通じて上記目的の実現を図ることとしているものであり、租税回避の目的の有無や、税負担の不当な軽減となる実体の有無等については、その適用又は適用除外の要件として定めていないのであるから、同条の趣旨・目的に鑑みても、Xが主張するような、居住者等による外国法人の実質的な支配や株式の分散保有による租税回避の意図等の明文にない要件を加える解釈によることはできないものというべきである。(下線筆者)」と判示し、Xの主張を斥けた。 ② A1社の適用除外要件にいう事業基準該当性について 東京地裁は、事業基準における「主たる事業」の判定、すなわち本件でいえばA1社の主たる事業が株式の保有業でなく管理サービス業であるといえるか否かについて、「約定の管理料による収入が総収入に占める割合を配当収入のそれと単純に比較するのではなく、A1社が実際に上記3社(筆者注:A14社、A10社及びA2社をいう)に対して本件各管理契約に基づく管理業務を行っているか否か、行っている場合には、その内容・程度に照らし、その業務が客観的に見て約定の管理料との対価性を有するものといえるか否かを考慮して、これが当該事業年度におけるA1社の事業活動全体のうちに大きな比重を占めるものといえるか否かという観点から判断すべきである。」という見方を示し、A1社による本件各管理契約に基づく業務として、A14社から得られる管理料は月額500米ドルというわずかなものであり、A10社との関係では技術開発に寄与するような情報提供があったとは認められず、A2社との関係でも新製品開発期間に照らして情報提供の内容は限定的であったとし、結局のところ、A1社に管理料収入をもたらす対価性のある業務はA2社に関する与信等管理業務のみであったと判示し、A1社の主たる事業は、Xの主張する管理サービス業ではなく、株式保有業であり事業基準を満たしていないと結論付けた。 (4) 本判決の意義 過去の裁判例において、個人の外国子会社合算税制該当性について争われた事例はほとんどなく、本判決は、課税実務において参考とすべき重要な意義があると思われる。   (了)

#No. 509(掲載号)
#霞 晴久
2023/03/02

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第11回】「ワールドファミリー事件-移転価格税制における機能分析の考え方-(地判平29.4.11)(その2)」~租税特別措置法66条の4第1項、第2項1号ロ、第8項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第11回】 「ワールドファミリー事件 -移転価格税制における機能分析の考え方- (地判平29.4.11)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第1項、第2項1号ロ、第8項~   税理士 中野 亘   (2) 争点 ① 租税特別措置法66条の4第2項に基づく課税処分の適法性 (ア) 売手又は買手の果たす機能における差異の有無並びに差異調整の可否及び適否 被告は旧租税特別措置法関係通達66の4(2)-3の規定する「12のテスト」(※8)を用いて、再販売者の果たす機能その他における差異については「その差異により生ずる割合につき必要な調整ができる」としてDWE取引との関係で比較対象性を有しているとした。それに対して原告は「取引及び市場参入に係る時期」において差異があるとし、また取引に共通の無形資産を保有している等の「内部取引の信憑性」の観点から原告の選定した内部比較対象取引(DME取引)の比較対象取引としての合理性を主張している。 (※8) 12のテスト:再販売価格基準法における比較対象性に関する旧租税特別措置法関係通達66の4(2)-3において例示された12の要素〔1〕棚卸資産の種類、役務の内容等、〔2〕取引段階、〔3〕取引数量、〔4〕契約条件、〔5〕取引時期、〔6〕売手又は買手の果たす機能、〔7〕売手又は買手の負担するリスク、〔8〕売手又は買手の使用する無形資産、〔9〕売手又は買手の事業戦略、〔10〕売手又は買手の市場参入時期、〔11〕政府の規制、〔12〕市場の状況により比較対象性の検討を行う。 判決では、「DWE取引におけるDWEの販売方法と本件各比較対象取引における教材の販売方法は①いずれも外交員による戸別の訪問販売であること、②DWEと本件各比較対象取引の棚卸資産である教材はいずれも仕入先が開発し製造したもの(完成品)であり、原告及び比較対象法人は製造機能を有していない」と被告が選定した比較対象について「売手の果たす機能」においては本質的な差異があるとは認められないとした。 「原告は、・・・地方に固定的な営業拠点を有しておらず、平成13年以降に一部地方に営業拠点を置くようになったにすぎないのに対し、・・・本件各比較対象法人は全国に支社、営業所、支店あるいは支店と称する外交員の拠点を置いていた」として規模の差異(営業拠点に係る賃料負担や減価償却等(の売上げに対する割合)に差を生じさせるもの)により売上総利益率に差を生じさせるものであって、通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかなものであると認められる、本件比較対象法人のうち、2社は売上原価に外交員報酬が含まれていること、1社についてはイベントに係る原価が含まれており、顧客リストは外交員が独自に開拓し作成していること、1社については外交員報酬から信販手数料が控除されていること、DWE取引ではDWEを購入した顧客の約70%が一括払いとしているのに対し、比較対象法人3社はそれぞれ約80%、97~98%、97~98%が信販契約による分割払いとしていることから、広告宣伝の方法及び内容や外交員の構成及び報酬制度の差異があり、この差異はそれぞれの取引の売上総利益率に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるとして、DWE取引と本件各比較対象取引との間には、売手の果たす機能における通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかな差異があるものと認めた。 (イ) 売手又は買手の使用する無形資産における差異の有無並びに差異調整の可否及び適否 OECDガイドラインでは、「特殊な無形資産を伴う取引の場合には、製品の類似性は一層重要であり、比較が有効性を確保するため、類似性に対し特別の注意が払われるべきである」とされ、新事務運営指針3-2(本件各更正処分等(平成16年11月24日付け)が行われた後の平成19年6月25日付けで改正されたものであるが、解釈上の参考になるものと解される)でも、「無形資産の使用を伴う国外関連取引に係る比較対象取引の選定にあたっては無形資産の種類、対象範囲、利用態様等の類似性について検討することの必要性が指摘されており、この新事務運営指針に併せて改められた新事務運営指針の参考事例集でも・・・売手又は買手の使用する無形資産に特に着目して比較可能性の検討を行う必要があり、この場合において、比較対象取引の選定に当たり、無形資産の種類、対象範囲、利用態様等の類似性に係る検討を行うように留意するもの」とされているとし、「取引に無形資産が使用されている場合、それが棚卸資産の販売価格、売上高、広告宣伝費、販売費用、売手との交渉力、ロイヤリティ等の様々な要素に影響を与えるため、使用する無形資産により生ずる売上総利益率の差を的確に把握することが難しく、その調整が困難である」とした。 そうすると、「取引に使用するキャラクター(無形資産)の人気や知名度の差異は、ロイヤリティの支払金額に反映されるとして、その知名度や顧客に対する訴求力の差異によって生ずる売上総利益率の差を基本的にロイヤリティ割合の差として把握することが可能であるという被告の主張については、併せて販売経費率によっても調整するという点から考慮しても、にわかに採用し難いというべきであ」り、「DWEと本件各比較対象取引とが比較対象性を有しないことを端的に示すものであるということもできる。」にもかかわらず、本件比較対象取引については「使用される無形資産に係るロイヤリティやロイヤリティ割合が把握されていないのみならず、被告の主張及び本件調査担当者の供述等によっても、本件各比較対象取引の棚卸資産である子供を対象とする学習教材に使用するキャラクターが明らかではないため、DWE取引に使用するキャラクターと本件各比較対象取引の棚卸資産に使用するキャラクターとの間の知名度や顧客に対する訴求力等の違いが明らかではなく、・・・本件各比較対象取引に使用するキャラクター(無形資産)については、その棚卸資産に絵や模様が描かれているということを確認した程度にとどまるようであり、守秘義務の点から本件各比較対象取引に使用するキャラクターを具体的に明らかにすることができないという点を考慮したとしても、・・・十分な検討(本件各比較対象取引の個別の検討)やDWE取引に使用するディズニー・キャラクター等との具体的な比較がされたとは認められない。」と被告が無形資産を考慮した比較可能性の検討不足を指摘した。 そうすると「DWE取引と本件比較対象取引との間には、使用するキャラクター(無形資産)の知名度や顧客に対する訴求力の差異があり、この差異は通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるところ、これによって生ずる売上総利益率の差について、ロイヤリティ割合の差と販売経費率の差によって調整することができるという被告の主張は採用することができないというべきである。」とした。 (ウ) 無形資産を考慮した後の比較対象性の有無 上記内容を踏まえたうえで「市場の状況における差異の有無並びに再調整の可否及び適否」については、市場の状況について通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかな差異を認めることができないとし、12のテストによる「本件比較対象取引の比較対象性の有無及び差異調整の適否」については「本件各比較対象取引は、使用するキャラクター(無形資産)の知名度や顧客に対する訴求力の差異により生ずる売上総利益率の差を適切に調整することができないため、DWE取引との比較対象性を有するものとは認められない。また、売手又は買手の果たす機能(販売拠点の採用により生じる売上総利益率の差)について・・・適切な差異調整がされていないものと認められる。」とDWE取引と本件比較対象取引との間には、使用するキャラクター(無形資産)の知名度や顧客に対する訴求力の差異があり、この差異は通常の利益率の算定に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるとしたうえで、ロイヤリティ割合の差と販売経費率の差によって調整することができるという被告の主張は採用できないとし、被告による差異調整が適切でないとして移転価格税制の適用(租税特別措置法66条の4第1項の適用要件の充足の有無)を否定した。   3 考察・まとめ 本事例では販売形態等の事業内容としての比較可能性があるとされたが、取り扱っている商品に付随する無形資産における経済的影響力が大きく、重要な無形資産に匹敵するキャラクターによる商品を取り扱っている比較対象法人がないとして機能分析によって比較可能性がないとされた。 また、本事例はベストメソッドルールや重要な無形資産(特定無形資産)についての適用がないためRP法の選定についての適否が論点となったが、現在のベストメソッドルールの下では重要な無形資産(特定無形資産)を含む場合として租税特別措置法66条の4第8項が検討され、(残余)利益分割法の適用が第一選択になる可能性が高い事例と考えられる。 しかし、本事例はベストメソッドルールの下でも2017年OECD移転価格ガイドラインが残している、基本三法が適用できる余地がある場合には基本三法を優先するという「ラストリゾート」という考え方を維持し、安易に利益分割法を選択しないためにも重要な事例であると考える(※9)。また、2018年6月の「利益分割法の適用に関する改定ガイダンス」では利益分割法の適用につき比較可能性がある場合には(取引単位)利益分割法が最適な方法とならないことも示唆している(para 2.143)(※10)。 (※9) 租税特別措置法66条の4第8項ただし書きにおいても基本三法が適用できる場合には基本三法を優先する「ラストリゾート」を残していることを示唆している。 (※10) OECD(2018),”Revised Guidance on the Application of the Transactional Profit Split Method : INCLUSIVE FRAMEWORK ON BEPS:ACTIONS 10” 本稿において「機能」とは「経営の意思決定及び経済活動に寄与する原因となるもの」とすることができた。また、機能分析は移転価格税制の適用、独立企業間価格の算定方法の選択及び利益分割法の分割指標を決定付けるものとして重要な項目であるといえる。更に無形資産の構築の過程で、構築に関する当事者の機能分析は必須であるとも考えられる。   (了)

#No. 509(掲載号)
#中野 亘
2023/03/02

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第36回】「売り手にとって良い第三者の条件とは」~より良い買い手を見つけてくれる第三者の選び方~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第36回】 「売り手にとって良い第三者の条件とは」 ~より良い買い手を見つけてくれる第三者の選び方~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒売り手にとって良い第三者の条件を参考に、第三者探しに役立てる。 売り手企業 ⇒売り手にとって望ましい第三者像を探し当てるためのヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒売り手に相応しい第三者になるためのヒントを得て、M&Aの助言に役立てる。 その他の対象者 ⇒売り手にとって良い第三者の条件を知って、実務に役立てる。   1 「情報」と「ノウハウ」のある第三者が安心 中小企業に限らず、M&Aにおいて、売り手自身が買い手を見つけて、株式譲渡や事業譲渡の交渉を自ら進めるというケースはほぼなく、誰かしらの第三者が介在して成立するのが通常です。このため、M&Aを通じて売却を望む売り手が検討の初期段階で接触する相手は、多くの場合、買い手ではなく、その仲介をする第三者となります。 では、売り手にとってどのような第三者が望ましく、心強いでしょうか。 M&A仲介会社をはじめとする第三者の組織的な能力にフォーカスすると、「情報」と「ノウハウ」が、その判断基準になりえると思います。 「情報」は情報源や情報力と置き換えてもよいもので、要は買い手候補の社数をどれだけ多く抱えているか、豊富な品揃えかという意味です。この数が多いほど、売り手にマッチする会社を紹介できる可能性が高く、母集団が多いという点での安心感もあります。 転職の人材紹介会社や、賃貸物件を紹介する不動産販売会社と同じような理屈ですが、もし、1社しか紹介対象がなければ買い手を選びようがありません。しかし、紹介対象が多数あれば、その中から魅力的な候補を探せる可能性が上がるわけです。もちろん、数と情報の質とが比例するわけではないので、数が少なくたって少数精鋭という場合もありますが、やはり数は情報量の魅力として無視できません。ですから、売り手が第三者探しをする際に、「情報」をどれほど多く持っているかは第三者探しの大きな判断基準の1つになります。 「ノウハウ」は組織の沿革、創業者や代表者の経験・略歴・プロフィールといったウェブサイトから得られる情報によって入手、判断ができそうな項目の1つです。 売り手が特殊な業界に属している場合や、特殊なビジネスに携わっているならば、ウェブサイトから得られる内容のみでは判断がつかないかもしれません。ですが、創業から相当程度の年数が経過した第三者であれば、様々な業界での成約実績があるはずですから、それほど心配する必要はないと思います。第三者の社歴、これまでに成立した件数といった蓄積される情報に加えて、得意な業界などの参考情報も得られるようなら事前にキャッチします。   2 1社にこだわる必要はない 売り手が関わる第三者は1社がよいか、といわれれば、イエスでもあり、ノーでもあります。第三者が1社であっても、満足のいく情報、紹介が得られ、担当者との相性も良く、良い買い手が見つかる可能性はあるからです。 ところで、M&Aは中小企業の売り手にとって、会社の生涯において一度あるかないかの、超がつくほどのビッグイベントですので、M&Aの過程で何か欠けている要素が1つでもあると、売り手に良からぬ結果を招く可能性もあります。 この点を踏まえると、1社に固執せず、だからといって無理に複数と付き合う(登録する)こともなく、参考程度に複数の第三者を候補、視野に入れながら第三者探しを進めるのが良いと思います。探すうちに、良いな、と思える第三者が複数いれば最初から複数と付き合うのも良いでしょうし、特になければ、当初は1社と付き合いながら、興味や関心に応じて付き合う社数を増やすなどのパターンが考えられます。 いずれにしても、納得のいくM&Aにするためには売り手にとって第三者が何社必要か、というセオリーはありません。   3 担当者の属人性 ここまでは組織そのものにフォーカスした説明をしましたが、実際のM&Aの現場で関わるのは「担当者=人」です。残念ながら、組織の良し悪しと、担当者の良し悪しが必ずしもリンクするとはいえず、良い第三者だと思っても、良い担当者に恵まれるとは限りません。担当者の属人性を理解する際のポイントは次のとおりです。 (1) 売り手のビジネス、業界への知見と関心 売り手がなぜM&Aを望むのか、何が売り手にとっての優先事項なのか、M&Aが果たして売り手にとって現時点で最も良い手段と考えられるのか、といったニーズを汲み取る力や問題解決能力といったいわゆるスキル面は、担当者のヒアリング(インタビュー)能力、コンサルティング能力、経験値、人格、情報収集力をはじめとする個人が有する能力にかなり依存します。といっても、売り手がM&AのリピーターであることはほぼなくM&A実務にも長けているわけではないので、通常、売り手側からは、第三者の担当者の能力の良し悪しをわかりづらいはずです。 売り手のおかれた状況によって、売り急ぎたい気持ちがあるかもしれませんが、第三者はM&Aの成否のカギを握る当事者ですから、できる限り、売り手から担当(予定)者に対する質問や、意見・情報交換を通じて、人となり、能力の有無について確認するために時間を割くのをお勧めします。最低限、売り手のビジネスを理解したうえで提案するか、業界への知見はあるかなど、売り手が第三者を信用するに足る情報、回答くらいは入手されると良いでしょう。 (2) 提案の狙い 買い手、第三者を信用してM&Aに臨める環境が一番ですが、必ず各当事者には思惑があります。買い手の思惑は、他の回に委ねた内容ですので、本稿では第三者の思惑について触れたいと思います。 といった第三者にとってM&Aを急ぎたい理由がある場合には、言い過ぎかもしれませんが、売り手に伝えるべき情報をあえて伝えない、という懸念があります。 第三者の全て、担当者の全てが信用ならないわけではないですが、まずもって売り手に対して完全なる善意で接する人などいないのかもしれません。担当者の組織内の評価、生活への意識がある以上、懸念を完全に払拭するのは難しいです。売り手としては、どのような提案であっても、どんな担当者であっても、一歩引いてみる、割り引いて考えるのが鉄則といえます。 こうした第三者特有の状況や、担当者の属人性を踏まえると、当初の相談相手が増えて煩雑になりますが、検討初期段階では1社よりも複数社、複数の担当者から広く話を聞いて、望ましい第三者を選ぶ、絞るのが近道だと思います。消去法で選ばざるを得ない場合でも、なるべくましな第三者を探すことができれば、望ましい買い手との接点を得る機会に恵まれやすくなります。 (了)

#No. 509(掲載号)
#荻窪 輝明
2023/03/02

電子書類の法律実務Q&A 【第6回】「タイムカードを廃止して労働時間管理を電子化できるか」

電子書類の法律実務Q&A 【第6回】 「タイムカードを廃止して労働時間管理を電子化できるか」   弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕   〔Q〕 当社は、タイムカードにより従業員の労働時間を管理していますが、集計業務の効率化と不正打刻防止のため、ICカードの導入を検討しています。このような労働時間の管理方法に問題はないでしょうか。 また、ICカードを導入した場合、ICカードに記録された入退室時間をそのまま労働時間として、残業代を支払わなければならないのでしょうか。ICカードの導入をしていても、勤怠管理システムで労働時間を管理する場合、勤怠管理システム上の始業終業時刻に基づき残業代を支払うことは可能でしょうか。 〔A〕 従業員の「労働時間の状況」を把握するのは法律上の義務ですが、タイムカードを廃止して、ICカードにより「労働時間の状況」を把握することも可能です。ICカードにより労働時間を記録する場合、ICカードに記録された入退室時刻のデータを少なくとも3年間、保存しなければならないことに注意が必要です。 ICカードを導入した場合、ICカードに記録された入退室時間に基づき労働時間を管理して、残業代を支払うのが原則です。ただし、ICカードの導入をしていても、勤怠管理システムに基づき労働時間を管理する場合、勤怠管理システム上の始業終業時刻に基づき残業代を支払うことは可能です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 「労働時間の状況」の把握は企業の義務 前提として、法律上の労働時間管理義務について説明しよう。 労働安全衛生法66条の8の3により、企業は、雇用する従業員(高度プロフェッショナル制度の適用対象者を除く)の「労働時間の状況」を把握しなければならないとされている。 「労働時間の状況」の把握とは、労働時間そのものの把握ではなく、従業員がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供できる状態にあったかを把握するものである。具体的には、入退室時刻、出退勤時刻、パソコンの使用時間の把握により、「労働時間の状況」を把握することになる。「労働時間の状況」の把握が求められているのは、長時間労働により従業員の健康が損なわれないようにするためだ。 裁判所でも、企業側に労働時間の状況を把握する義務があることがはっきりと示されている。 例えば、長時間労働により勤務中に従業員が死亡した事案では、実態に即した労働時間の状況を把握すべき注意義務を怠ったことを理由に企業の損害賠償責任が認められている(広島高判平成31年3月7日)。   2 ICカードで「労働時間の状況」を把握することも可能 では、「労働時間の状況」をどのような方法で把握すればいいのだろうか。 労働時間管理のツールとして、タイムカードを導入している企業が多いと思われる。また、一部では「タイムカード以外の方法で労働時間を管理できない」という誤解もある。 結論としては、「労働時間の状況」の把握をタイムカード以外の方法で行うことは可能だ。法律上も「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」とされていて、タイムカード以外の客観的な方法も認められている(労働安全衛生法施行規則52条の7の3第1項)。 そのためICカードを読み取り機にかざすなどの方法により、従業員に入場と退場の時刻を記録させ、「労働時間の状況」を把握することも可能である。 このように、タイムカードを廃止して、ICカードにより従業員の労働時間の状況を把握することは可能だ。   3 労働時間の記録の保存 出勤簿やタイムカード等の労働時間の記録に関する書類については、労働基準法109条に基づき、3年間保存しなければならないとされている(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」4頁)。 労働基準法109条によれば「書類を保存」とされているが、プリントアウト可能な形式であれば、電子データの形式で保存することも可能だ(平成17年3月31日 基発0331014号)。 ICカードにより労働時間を記録する場合、ICカードに記録された労働時間のデータを少なくとも3年間は保存しなければならない。記録の保存義務に違反した場合、30万円以下の罰金の対象になるとされているので、注意が必要だ(労働基準法120条1号)。 また残業代の時効は3年間なので、労働時間のデータを保存していないと、裁判になった際に有効な反論ができなくなってしまう可能性がある。 例えば、大阪高判平成17年12月1日では、タイムカード等客観的な方法により従業員の出退勤管理が行われていない事案で、労働時間管理を行うのは企業の責任であり、管理がなされていなかったことをもって従業員に不利益に扱うべきではなく、全証拠から総合判断してある程度概括的に時間外労働を推認するとして、1年2ヶ月の間に982時間の残業があったと判断されている。 なお、保存期間については現在の法律では、当面の間は3年間とされているが、将来的に5年間保存しなければならなくなる(労働基準法143条1項)。   4 ICカードの入退室の時間がそのまま労働時間になるか ICカードを導入した場合、ICカードの入退室の時間がそのまま残業代の支払対象となる労働時間になるのだろうか。 ICカードは、単に従業員が社内にいた時間を示すもので、その中には新聞を読んだり、夕食を取る時間など、仕事をしていない時間が含まれている。 しかし、裁判所では、ほかに有力な証拠がない限り、ICカードの入退室時間がほぼそのまま労働時間と判断されることが多い(横浜地判令和2年6月25日等)。そのため、タイムカードに代えてICカードを導入した場合、ICカードの入退室時間に基づき残業代の支払いを行わなければならないケースが多いだろう。   5 ICカードを導入している企業が勤怠管理システムで労働時間を管理する場合 ただし、ICカードを導入していても、ICカードとは別の方法で労働時間管理をしていた場合、ICカードの入退室の時間がそのまま労働時間にならないケースもある。 例えば、大阪地判平成31年3月13日では、勤怠管理システムへの入力により時間外労働の申請及び承認が行われていた場合、勤怠管理システムにより管理された労働時間を認定すべきであり、ICカードによる打刻時間は、職場に滞在していた時間に過ぎず、労働時間ではないと判断されている。 このように勤怠管理システムで労働時間を管理していた場合、ICカードの入退室の時間によらず、勤怠管理システムで残業代支払の対象となる労働時間を管理することもできる。 以下では、ICカードを導入している会社が勤怠管理システムで労働時間を管理する場合の注意点を述べる。 まず、就業規則に①ICカードは、入退場時刻の記録に過ぎず労働時間の管理のためのツールではないこと、②労働時間は、始業時刻と終業時刻を勤怠管理システムに記録する方法で記録しなければならないこと、を明記すべきである。 次に上記3で述べた労働基準法109条により、勤怠システムに記録された始業終業時刻のデータを3年間保存しなければならない。 サービス残業問題での労使トラブルを避けるために、ICカードによる入退室時刻と勤怠管理システムによる始業終業時刻のかい離が大きい場合、その理由を確認しておいた方がよいだろう。   (了)

#No. 509(掲載号)
#池内 康裕
2023/03/02

空き家をめぐる法律問題 【事例48】「所在等が不明な共有者がいる場合の共有関係の解消方法」

空き家をめぐる法律問題 【事例48】 「所在等が不明な共有者がいる場合の共有関係の解消方法」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 次の事情がある場合に、空き家の共有関係を解消して当該共有者の持分を取得するためには、どのような方法によることができるでしょうか。 ① 共有者のうちXが外国籍の者で、登記簿上の住所も海外の住所となっており、当該外国住所宛に手紙を送付しても返信されてきた場合のXの持分 ② Xの相続(相続人はB、C)が10年前に発生し、遺産分割協議が行われないうちにCの相続(相続人はD、E)も発生した場合のDの持分(ただし、Dの所在は不明なものとする)   1 はじめに 共有不動産は権利者が複数存在するため、所在の不明な共有者がいると、当該不動産の利用や管理に支障が生じる。そこで所在の不明な共有者との共有関係の解消を図る方法について、令和5年4⽉1⽇から施⾏される予定の改正⺠法も踏まえて検討する。なお、便宜上、改正前・後の⺠法を「改正前民法」「改正後⺠法」と表記する。   2 共有物分割請求訴訟による方法と外国における送達の問題 共有物分割請求訴訟は固有必要的共同訴訟であるため、共有者全員を訴訟の当事者にする必要がある。訴えを提起するにあたって、訴状等の訴訟上の書類を被告に送達する必要があるところ、外国への送達は、民事訴訟法第108条に基づいて、外国の権限を有する当局や当該国に駐在する日本国の大使、公使、領事に嘱託して行うことになる。 民事訴訟法第108条の外国における送達を行う前提として、各種の条約や司法共助の取決めのように相手国の応諾が必要となり、相手国と締結している条約の種類や司法共助の有無によって、嘱託の手続が異なる。また、外国における送達は、関係機関が複数関与するため、1年以上要することもある。一方で、民事訴訟法第110条第1項第3号は「外国においてすべき送達について、第108条の規定に・・・によっても送達をすることができないと認めるべき場合」には、公示送達によることができる旨規定している。 外国にいる共有者については、現在の住所等を把握できない場合があり、登記簿等から把握できた過去の外国の住所宛に郵便物を送付しても配達できないこともある。このような状況が当初から見込まれる場合にまで、外国における送達を求めることは、訴えを提起しようとする者にとって少なくない負担となる。 そこで問題となるのは、外国における最後の住所宛への郵便物の送付ができないことを理由に、訴え提起の時点から民事訴訟法第110条第1項第3号による公示送達が認められるかである。 この問題に関して、訴訟の相手方の手続保障の観点から、外国の住所に郵便物を配達できないとしても、原則として、そのことを理由に直ちに公示送達は認められず、外国における送達を一度試みるべきものとされている。 もっとも、例外的に、「相当以前に日本を去り、以後来日したことがない者については同人にあてた手紙等が不送達になり返送されている事実及び受送達者の近親者や知人等の陳述書あるいは証明書等を総合して、所在不明であるとの要件が証明されたと判断される」場合には、公示送達を認める余地があるものとされている(以上につき、裁判所書記官実務研究報告書「民事訴訟関係書類の送達実務の研究-新訂-」(司法協会・2006年)181頁等)。 このように、所在の不明な外国の共有者に対して共有物分割請求訴訟を提起することには相当の制約がある。手続的には煩瑣であるが、特別代理人(民事訴訟法第35条)の選任要件を満たす場合には、特別代理人の選任を申し立てた上で訴訟を行うことや、当該共有者の不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人との間で共有物分割手続(訴訟含む)を行うことが妥当と考えられる。   3 改正後民法による方法-所在等不明共有者の持分の取得手続の創設 (1) 手続の概要 改正後民法は、所在の不明な共有者がいる場合に訴訟によらずに共有関係の解消を行うための手続を創設した。すなわち、共有者が「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき」に、裁判所の裁判に基づいて当該他の共有者(以下「所在等不明共有者」という)の持分を取得することができることになった(改正後民法第262条の2第1項)。 所在等不明共有者の持分を取得したい共有者は、裁判所による公告と届出期間の経過等を経て、供託命令に従って供託金を納付した場合に、所在等不明共有者の持分の取得の裁判を受けることになる。申立人となった共有者は、当該裁判が確定すれば、所在等不明共有者の持分を取得することができる。 所在等不明共有者に該当するかは、必要な調査を尽くしても、共有者の氏名や名称、所在を知ることができないかどうかによって判断される。自然人の場合には、少なくとも公的書類(戸籍、住民票、登記簿)に記載された住所の調査を行うことになる。外国の住所しか判明しないような場合には、その外国の住所宛の郵便物の送付、関係者からの事情聴取、外国籍の者の場合は外国人登録原票の調査を行うことなどが考えられる。 (2) 数次相続が発生している場合の取扱い 所在等不明共有者の持分の取得手続は、遺産共有の場合であっても適用される。もっとも、相続人の具体的相続分による遺産分割への期待を保護するため、所在等不明共有者の持分権が相続財産に属する場合には、相続開始の時から10年を経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分取得の手続を利用できない(改正後民法第262条の2第3項)。 所在等不明共有者が生じる事例においては、数次相続が発生していることも少なくない。このような数次相続の事例においては、改正後民法第262条の2第3項に規定する「相続開始の時」を、いつの相続を基準にして10年の経過を判断するかが問題となりうる。 改正後民法の立法段階の議論によると、一次相続から10年経過し、二次相続から5年経過した数次相続の事例を題材にして、以下の【数次相続の場合の整理表】のように、所在等不明共有者の持分が誰の相続財産と評価できるかによって判断しているように思われる。 (出所) 法務省ホームページ「法制審議会民法・不動産登記法部会第17回会議」の「蓑毛幹事提供資料」から抜粋 【数次相続の場合の整理表】 (※) E及びFが所在等不明共有者の前提   4 本件について (1) ①の場合 Xを被告として共有物分割請求訴訟を提起する場合、訴えの提起時点から公示送達を利用できるような例外的事情がなければ、共有物分割請求訴訟による方法は相当の時間と労力を要することになり妥当ではない。 そこで、Xに相続が発生しており、相続人が存在しないと認められるような事情がある場合には、特別代理人の選任の申立てによって対応するべきであろう。また、特別代理人の選任が難しいようなときは、Xの不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人との間で共有物分割協議を行うこと、所在等不明共有者の持分の取得手続によってXとの共有関係を解消することも考えられる。 (2) ②の場合 Dの所在が不明のため、不在者財産管理人の選任を申し立て、当該管理人及び他の共有者との間で遺産分割協議を行うことが考えられる。なお、Cの相続開始の時から10年を経過していないため、Dの持分を取得するために、所在等不明共有者の持分取得の手続は利用できない。 (了)

#No. 509(掲載号)
#羽柴 研吾
2023/03/02

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第66話】「実質所得者課税の原則」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第66話】 「実質所得者課税の原則」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   浅田調査官は、先ほどから中尾統括官の机の前に立っている。 「これって、父親の所得だと思うのですが・・・」 昨日、浅田調査官は、甲の税務調査をしているときに、父親である甲が子供(乙)に甲所有のA土地を無償で貸与し、そのA土地を乙が第三者に駐車場として貸与している事実を把握した。 浅田調査官は、中尾統括官に自分で描いた図を見せながら、昨日の税務調査の報告をしている。 「もちろん、子である乙は、不動産所得を申告はしているのですが・・・こんな方法を安易に認めれば、所得の分散なんか、簡単にできるじゃないですか・・・」 浅田調査官は、少し興奮した口調になっている。 中尾統括官は、黙って聞いている。 「・・・要は、不動産所得が誰に帰属するかということで・・・不動産所得の申告それ自体が漏れているということではないのだな」 中尾統括官は、浅田調査官を見る。 「ええ、そうですが・・・しかし、父親は資産家で、不動産を多く所有しており、高額所得者ですから、税金は・・・父親の所得とする方が多く徴収できます・・・」 浅田調査官は、頭を搔きながら苦笑いする。 「・・・このケースでは、親が子にA土地をそのまま無償で貸し付け、子がA土地から賃料を得るということだが・・・例えば、子がその土地の上に銀行から借入れをして、賃貸マンションを建て、不動産所得を得た場合、税務署は、土地の地代相当分を親の所得として区分(認識)しないし、したがって、子が賃貸マンションから得る収入を不動産所得として申告していればよく・・・それに対して特に税務署は是正を求めない」 中尾統括官は、机の上で、図を描きながら、ハッキリと言う。 「・・・例えば、マンションの年間の賃料が5,000万円あり、その土地に係る地代相当分が1,000万円だとすると、地代相当分の1,000万円は、父親に帰属する不動産所得として認定しないのですか?」 浅田調査官は尋ねる。 「・・・税務署は、そのような更正処分をしない」 中尾統括官は、強い口調で言う。 「・・・何故なんですか?」 浅田調査官は、食い下がる。 「・・・所得税では、建物から得た所得と土地から得た所得を正確にそれぞれ按分することが困難であるということもあり・・・要は・・・全ての所得が漏れなく、申告されていれば良いということなのだろう・・・もっとも、これは僕の考えだが・・・」 中尾統括官は、笑い顔になる。 「・・・ということは・・・子が銀行から借入れをし、賃貸マンションを建て、土地の付加価値を増価させ、更に、子がビジネス上のリスクも負うということですから、所得税では、賃貸マンションのすべてを子の所得としてもかまわないということですか・・・」 浅田調査官は、思案顔になる。 「そうだな」 中尾統括官は、頷く。 「・・・ところで、先ほどの税務調査の件に戻りますが・・・子は親から無償で貸与された土地をそのまま第三者に駐車場として賃貸して、年間600万円の不動産所得を得ていたのです・・・これも父の不動産所得と認定することは難しいのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を覗く。 「・・・所得税法12条の『実質所得者課税の原則』の問題だな・・・」 中尾統括官は、そう言いながら条文を捲る。 「・・・ということは、子は『単なる名義人』であって、『その収益を享受せず』であれば、所得税法12条で、親の所得とすることができるということですか?」 浅田調査官は、所得税法12条を見ながら、言葉を続ける。 「・・・しかし、甲と乙の親子間で・・・書面でA土地の使用貸借契約を締結していることから・・・法律上は、子にA土地の使用収益権があることになり、子は『単なる名義人』であるといえないのでは・・・それに・・・子は・・・第三者との賃貸契約に基づいて、年間600万円の賃料を直接得ているので・・・『その収益を享受せず』には該当しないと考えられますが・・・」 浅田調査官は、残念そうに呟く。 「・・・ただ、必ずしもそのような解釈が・・・絶対的なものでもないように思えるのだが・・・」 中尾統括官は、考えながら言う。 「・・・親子で形式的な使用貸借契約を締結していれば・・・直ちに使用収益権が子にあるともいえない・・・それを認めると、所得分散を簡単に認めてしまうことになるので・・・課税実務上、使用貸借契約に至った経緯、目的等を総合的に勘案して、『単なる名義人』であるか否かを判断しなければならない・・・」 中尾統括官は、言葉を続ける。 「・・・また、『その収益を享受せず』についても・・・賃料を直接受け取らなくても、最終的に当該金員を誰が享受するかによって判断することから、子が直接賃料を第三者から受け取ったとしても、必ずしも享受していることにはならない・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の言葉に大きく頷く。 「分かりました・・・明日、もう一度、調査で確認してきます」 浅田調査官は、中尾統括官に一礼をすると、足早に席に戻る。 (つづく)

#No. 509(掲載号)
#八ッ尾 順一
2023/03/02

プロフェッションジャーナル No.508が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年2月22日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.508を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/02/22

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第23回】「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」-ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第23回】 「租税回避の個別的否認規定と個別分野別一般的否認規定との適用関係」 -ヤフー事件最判による「重畳的」適用とTPR事件東京高判による制定法踰越的法創造-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 前回は異なる個別分野別一般的否認規定(法税132条1項と132条の2)の不当性要件について統一的解釈(個別分野別不当性要件の統一的解釈)に基づく検討を行ったが、今回は個別分野別一般的否認規定について個別的否認規定との適用関係を検討する。 その検討の素材としては、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)57条3項と132条の2との適用関係に関する未処理欠損金額引継規定濫用[ヤフー]事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁(以下「ヤフー事件最判」という)と同[TPR]事件・東京高判令和元年12月11日訟月66巻5号593頁(以下「TPR事件東京高判」という)を取り上げることにする。なお、TPR事件東京高判は、原審・東京地判令和元年6月27日訟月66巻5号521頁をほぼそのまま引用し控訴審における当事者の主張に対する判断を付加するにとどまるものであるから、以下では、引用部分については「原判決引用」と付記することにする。 法人税法57条3項と132条の2との適用関係については、TPR事件東京高判に関するある評釈の中で次の見解が示されている(平川雄士「TPR事件判決はPGM事件裁決の批判的検討-法人税法57条2項の趣旨の理解は正しいのか-」週刊税務通信3720号(2022年)15頁、18-19頁)。 確かに、TPR事件東京高判は法人税法132条の2について上記見解にいう「入口」段階で止まらず「実体判断」に立ち入ってその適用を肯定し、これに対する上告受理申立てを最高裁は不受理と決定したが(週刊税務通信3662号(2021年)8頁参照)、そうである以上、同条の適用に当たっては、上記見解の説くように、「入口」段階ではなく「実体判断」段階が「主戦場」となるということが「司法の立場」として固まっているといえるかもしれない。 しかしながら、そのように結論づけるのは早計ではないかと思われる。その前に次のような疑問の解明が必要であるように思われるからである。すなわち、TPR事件における法人税法132条の2の適用上「入口」要件ともいうべき特定資本関係5年超要件は、ヤフー事件ではそもそも問題になっておらず、同法57条3項が同要件不充足を前提として定めるみなし共同事業要件のうち特定役員引継要件の充足の有無が、いきなり・・・・、同法132条の2の「実体判断」段階で争われたが、両事件の事案の違いを前提とするこのような要件判断の違いは、同条の適用において意味をもたないのであろうか。 換言すれば、ヤフー事件最判が判示した制度濫用基準(前回Ⅲ参照)は、「組織再編税制に係る各規定」の「租税回避の手段として」の「濫用」の有無を法人税法132条の2の判断基準とするものであるが、そこでいう「組織再編税制に係る各規定」には同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件の規定も含まれるところ、ヤフー事件においてはそもそも同要件が充足されていない事案であったが故に同要件規定の「濫用」は問題にならなかったのに対して、TPR事件においては同要件が充足されている事案であったが故に、同要件の充足が同要件規定の「濫用」として同法132条の2によって否認されない限り、同法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無という「実体判断」には、同項の規定の文理からしてもその構造からしても、立ち入ることはできないはずであるが、それにもかかわらず、TPR事件東京高判はヤフー事件最判を「平成28年最判」として参照しながら次のとおり(下線筆者)判示したのはなぜであろうか。 以上のような疑問について検討するに当たって、まず、次のⅡで法人税法57条3項と132条の2との適用関係に関するヤフー事件最判の考え方を明らかにし整理しておこう。 なお、今回の検討は、基本的には、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第31回及び第32回で既に検討したところをベースにし、その後の検討も加味しつつ、行うものである。   Ⅱ 法人税法57条3項と132条の2との「重畳的」適用 ヤフー事件最判は、法人税法132条の2の解釈により定立した制度濫用基準への事案の当てはめに関する判示の中で、「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る各規定」として、次のとおり(下線筆者)、①法人税法57条2項、②同条3項及び③同法施行令112条7項5号の各規定を挙げている。 この判示から明らかなように、②法人税法57条3項は①同条2項の例外規定(適用除外規定)であるが、③同法施行令112条7項5号(の定める特定役員引継要件を含むみなし共同事業要件を定める同項)は、次の判示(下線筆者)から明らかなように、②同法57条3項の例外規定(適用除外規定)とされている。 要するに、未処理欠損金額引継ぎに関する「組織再編税制に係る各規定」は、①法人税法57条2項について②同条3項が例外規定(適用除外規定)として定められ、②同条3項については③同法施行令112条7項5号が例外規定(適用除外規定)として定められる、という規定構造を形成しているのである。 これを規定内容の観点からみると、①法人税法57条2項は被合併法人等の未処理欠損金額の引継ぎを定める課税減免規定であり、②同条3項は①の濫用による租税回避の否認規定であり、③同法施行令112条7項5号は特定資本関係5年超要件不充足の場合における①の濫用による租税回避の否認規定であるといえよう。 ②法人税法57条3項と③同法施行令112条7項5号は、このように、結論的には、同じく①同法57条2項の濫用による租税回避の否認規定であるといえようが、しかし、論理構成の点では、否認の意味を異にする。この点についてヤフー事件最判に即して次のとおり敷衍しておこう。 税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の場合において濫用される「課税減免規定」には、ヤフー事件に即していえば、未処理欠損金額の引継ぎを認める①法人税法57条2項(以下「本来的課税減免規定」という)が該当するほか、同規定の濫用による租税回避を否認する②同条3項について適用除外要件を定める③同法施行令112条7項5号も該当する。というのも、その適用除外要件は、いわば「否認緩和要件」として、本来的課税減免規定の濫用による租税回避が否認される場合に比べて、「課税減免」の効果をもたらすからである。その意味で、そのような「課税減免」の効果をもたらす適用除外要件(否認緩和要件)を定める③同法施行令112条7項5号は、「派生的課税減免規定」ということができよう。要するに、ヤフー事件最判は、税法上の本来的課税減免規定の濫用による租税回避それ自体を否認したのではなく、税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避を否認したのである。 税法上の派生的課税減免規定の濫用による租税回避に対する法人税法132条の2の適用を筆者は、②同法57条3項との「重畳的」適用と呼んできた(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)236頁[初出・2015年]参照)。そのような呼称は、「個別防止規定の潜脱」に関して述べられている、法人税法57条3項と132条の2との次のような適用関係(斉木秀憲「組織再編成に係る行為計算否認規定の適用について」税務大学校論叢73号(2012年)1頁、78-79頁。下線筆者)を念頭に置いたものである。   Ⅲ 制定法踰越的法創造に基づく法人税法132条の2の適用 1 TPR事件東京高判の租税回避手段論 ヤフー事件では、特定資本関係5年超要件が充足されていないことは事実関係から明らかであり当事者間でも争われていなかったので、最高裁は②法人税法57条3項の定める要件のうち特定資本関係5年超要件についてその濫用の有無を判断することなく、いきなり、③同法施行令112条7項5号の特定役員引継要件についてその濫用の有無を判断したものと解される。これに対して、TPR事件では、逆に、特定資本関係5年超要件が充足されていることについて当事者間に争いがなく、裁判所もそのことを前提として法人税法132条の2の適用について判断しこれを肯定した。 ここで注目されるのは、ヤフー事件最判が「租税回避の手段として濫用」される「組織再編税制に係る規定」の1つとして②法人税法57条3項を挙げており、かつ、TPR事件東京高判がヤフー事件最判を参照しているところ、それにもかかわらず、同東京高判が同法132条の2の適用を判断するに当たって、②同法57条3項の定める特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無について判断しなかったことである。このことを換言すれば、特定資本関係5年超要件規定も派生的課税減免規定の1つであるから、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、特定資本関係5年超要件規定の濫用による租税回避に対しても法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったのである。 この点について、TPR事件東京高判がその検討をしなかった理由は、②法人税法57条3項に関する次の判示(原判決引用。下線筆者)から、読み取ることができるように思われる。 この判示は、②法人税法57条3項について「未処理欠損金額を利用したあらゆる租税回避行為をあらかじめ想定して網羅的に定めたものとはいい難く」と述べているところに端的に表現されているように、租税回避の類型(第20回Ⅲ参照)のうち税法(組織再編税制)上の課税減免規定の濫用による租税回避について、「租税回避の手段」として組織再編成に係る私法上の形成可能性を想定したものと解される。このことは、法人税法132条の2に関するTPR事件東京高判の次の判示(原判決引用。下線筆者。前記Ⅰで引用した判示も参照)に相呼応したものと解される。 この判示にいう「租税回避の手段」は、ヤフー事件最判が法人税法132条の2の「趣旨及び目的」に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」と同じく、組織再編成に係る私法上の形成可能性を意味すると解されるが、しかし、ヤフー事件最判が不当性要件について定立した制度濫用基準に関する判示の中で述べた「租税回避の手段」、すなわち、「組織再編税制に係る各規定」は意味しない(ヤフー事件最判における2種類の「租税回避の手段」については第20回Ⅰの引用判示参照)。つまり、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避に関する筆者の租税回避手段論の用語法(前回Ⅲ3参照)によれば、TPR事件東京高判の前記判示やヤフー事件最判の前者の「租税回避の手段」は、租税回避の間接的手段であり、ヤフー事件最判の後者の「租税回避の手段」は、租税回避の直接的手段である。 以上の整理によれば、TPR事件東京高判は、②法人税法57条3項と132条の2との適用関係について判断するに当たって、ヤフー事件最判とは異なる「租税回避の手段」を想定して検討を行ったことになる。そうであるからこそ、ヤフー事件最判の考え方に従うならば、「租税回避の手段」(直接的手段)としての特定資本関係5年超要件規定の濫用に対して法人税法132条の2を「重畳的に」適用することを検討すべきであったところ、TPR事件東京高判はその検討をしなかったと考えられるのである。 2 TPR事件東京高判の制定法踰越的法創造 もし仮にTPR事件東京高判が法人税法132条の2の適用(「重畳的」適用)を検討する前に、②法人税法57条3項のうち特定資本関係5年超要件規定の濫用の有無を判断しようとしていたとすれば、本件合併が「形式的には」特定資本関係5年超要件を充足するものの、特定資本関係5年超という「実質」を備えているとはいえないかどうかを判断しなければならなかったであろうが、しかし、そのようにはいえない場合は短期の超過期間を人為的に作出する場合等ないわけではないものの、TPR事件東京高判はそのような判断を介在させないまま、直ちに、②法人税法57条3項の定めるみなし共同事業要件(のうち事業継続要件)規定の濫用の有無に関する判断に立ち入ったのである。 その際、TPR事件東京高判は「同条[=法人税法57条]3項が特定資本関係5年以下の組織再編成と5年超の組織再編成を区別して規定しているからといって、特定資本関係5年超の組織再編成について一般的否認規定の適用が排除されているとはいえない」(原判決引用)と判示したが、この論法によれば、同東京高判は、法人税法132条の2の適用に当たって、特定資本関係5年超要件の充足の有無にかかわらず、すなわち要するに同要件を無視して、制度濫用基準により(法文上は特定資本関係5年以内の組織再編成について定められた)みなし共同事業要件規定の濫用の有無を判断したことになろう。 このことは、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を法創造により創設したことを意味するが、そのことの根本的な問題は、そのような法創造(司法的立法)が租税法律主義の下で許容されるかどうかである。この問題を検討するに当たって、まず、②法人税法57条3項の制定の経緯及び趣旨をみておこう。 組織再編税制の立案段階では、「合併の場合には、租税回避行為を防止するための措置を講じた上、被合併法人の繰越欠損金を引き継ぐことが適当である。」(税制調査会「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」(平成12年10月3日)の(別紙)一 法人税における諸制度の基本的な取扱い〔繰越欠損金〕(1))という基本的考え方が確認された後も、当初は、「やはり租税回避防止というものを考えると、グループ内再編という怪しげなことが行われやすいこと」(阿部泰久「改正の経緯と残された課題」江頭憲治郎=中里実編『企業組織と租税法』(別冊商事法務252号・2002年)88頁)から、「共同で行うときには繰越欠損金を引き継ぐが、グループ内でやるときはだめだ」(同頁)という考え方が出されていたものの、共同事業による合併とグループ内再編とで「順序が違うと扱いが違う」(同89頁)という「実務的に非常に困ること」(同88頁)が明らかになったことから、次のような議論(同89頁。下線筆者)がなされ、みなし共同事業要件が定められることになった。 以上の経緯を経て定められた②法人税法57条3項について、「未処理欠損金額の引継ぎ等に係る制限措置を講ずる趣旨」は、「一定期間内に資本関係を有することとなった法人間で組織再編成が行われた場合に、その繰越欠損金等について制限を行うもの」であり、「企業グループ内の組織再編成については、共同で事業を営むための組織再編成に比べて適格組織再編成に該当するための要件が緩和されていることから、例えば、繰越欠損金等を有するグループ外の法人を一旦グループ内の法人に取り込んだ上で、グループ内の他の法人と組織再編成を行うこととすれば、容易に繰越欠損金等を利用することも可能となってしまうこと等が勘案されたもの」であると解説されている(中尾睦美ほか『平成13年版 改正税法のすべて』(大蔵財務協会・2001年)199頁。下線筆者)。 要するに、法人税法57条3項は、グループ内再編による繰越欠損金の引継ぎの制限のために、まず、「タイムラグ」ないし「一定期間」として「5年」という期間を設定し特定資本関係5年超要件を規定し、「5年超」であれば未処理欠損金額の引継ぎを認め(武田昌輔監修『DHCコンメンタール法人税法』(第一法規・加除式)3461の3頁も参照)、次に、「5年以内」であればみなし共同事業要件を充たす場合にのみ未処理欠損金額の引継ぎを認める、という二段階の構造を実定法化したものであり、同項の文言・法文はそのような構造を正確に表現していると考えられる。 以上の考察に基づきTPR事件東京高判の根本問題を総括すると、特定資本関係5年超の組織再編成についてみなし共同事業要件を創設するという法創造(司法的立法)は、「制定法の元々の構想では定められていなかった新たな法制度を創設」する制定法踰越的法創造(Gesetzesübersteigende Rechtsfortbildung. K. Larenz, Methodenlehre der Rechtswissenschaft, 6. Aufl., Berlin 1991, 413)であるといえよう。これは、制定法の「構想に反した不完全さ(planwidwige Unvollständigkeit)」である制定法の欠缺(Gesetzeslücke)を補充する制定法内在的法創造(Gesetzesimmanente Rechtsfortbildung. S. K. Larenz, oben, 370ff.)とは異なり、租税法律主義の下で許容される余地はないと考えられる(制定法内在的法創造が許容される余地については、前掲拙著119頁以下、特に132頁以下[初出・2021年]、拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【46】【49】参照)。   Ⅳ おわりに 今回は、TPR事件東京高判の根本問題を、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造に基づく同法132条の2の適用に認めたが、その問題の原因は、同東京高判がヤフー事件最判における両規定の「重畳的」適用の考え方を正解していなかったことにあるように思われる。 そのことについては、TPR事件東京高判が引用する原判決を対象として、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第32回Ⅲ(その見出しは「TPR事件東京地判にみられる誤解・不可解」)で述べたので繰り返さないが、ここでは、そのこと(「誤解・不可解」)に影響を与えたのではないかと思われる、同東京高判による法人税法57条3項の性格づけについて簡単に整理しておくことにする。同東京高判は同項を「個別的な否認規定」(原判決引用)として性格づけているが、そのような性格づけが、以下に述べるように、同項と132条の2との関係に関する正確な理解を妨げているように思われる。 法人税法57条3項は、確かに、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る本来的課税減免規定(同条2項)に限定・特定されているという意味では、「個別的否認規定」といえるが、しかし、租税回避の間接的手段の観点からみると、納税者が本来的課税減免規定の適用を受けるために行使する、組織再編税制に係る私法上の形成可能性を限定・特定せずそれらを一般的に否認する規定であるという意味では、組織再編成という個別分野における「一般的否認規定」というべきである。 もし仮にTPR事件東京高判が法人税法57条3項を上記の前者の意味で「個別的否認規定」と性格づけていたとすれば、同項の適用をヤフー事件最判による同法132条の2との「重畳的」適用に整合的に接合することができたであろうが、しかし、実際には、同法57条3項を租税回避の間接的手段の観点からみながら、それにもかかわらず「個別的否認規定」と性格づけた上で、同法132条の2との適用関係について判断したところにも、その判断の混乱(「誤解・不可解」)の原因があるように思われる。 これに関連して法人税法132条の2の性格づけについて付言しておくと、この規定は一般には個別分野別の「一般的否認規定」と性格づけられているところ、これは租税回避の間接的手段の観点からの性格づけであって、租税回避の直接的手段の観点からは「個別的否認規定」と性格づけられるべきである。というのも、この規定では、租税回避の直接的手段が組織再編税制に係る派生的課税減免規定(本来的課税減免規定の濫用否認規定に係る適用除外要件規定=否認緩和要件規定)に限定・特定されているからである。 最後に、今回の検討に関連して次の2つの点を指摘しておく。 1つには、法人税法57条3項との関係でヤフー事件最判が認めた同法132条の2の「重畳的」適用に相当するような考え方は、ドイツ税法においても租税回避の一般的否認規定(租税基本法42条)を「個別租税法律(特別法)上の濫用否認規定の濫用」について適用するという形で議論されている。そのような議論については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第33回を参照されたい。 もう1つには、TPR事件東京高判は、法人税法57条3項に関する制定法踰越的法創造によって、同事件の「入口」段階で特定資本関係5年超要件を無視し、同要件充足の場合についてもみなし共同事業要件を創設したと解されるが、さらにその「実体判断」の段階でも、「組織再編税制は、組織再編成により資産が事業単位で移転し、組織再編成後も移転した事業が継続することを想定しているものと解される。」(下線筆者。原判決引用判示も同旨)と判示し、完全支配関係にある法人間の適格合併についても事業継続要件を創設したと解される。このような制定法踰越的法創造はいずれにせよ租税法律主義の下では許容されないと考えるところであるが、この点については、次の見解(吉村政穂「繰越欠損金の引継ぎと組織再編成に係る行為計算否認規定の適用」税務事例研究177号(2020年)1頁、13-14頁。下線筆者)は傾聴に値する妥当な内容のほか、租税回避の一般的否認規定の適用における裁判官による法創造に関して更なる検討を要する課題も含んでいるように思われる。 (了)

#No. 508(掲載号)
#谷口 勢津夫
2023/02/22
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