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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第54回】「役員給与の損金不算入と同族会社の行為計算否認規定」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第54回】 「役員給与の損金不算入と同族会社の行為計算否認規定」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 同族会社の行為又は計算の否認 同族会社は、株主が一族に集中しているため、非同族会社では不可能な取引を行うことが事実上可能であり、これが税負担の軽減に利用される場合も想定される。そこで、法人税法は132条1項において以下のような規定を定めている。 同族会社の取引の選択肢は無数にあるため、法人税法の個別規定では対処できなくなるようなケースも想定される。そこで、法人税の税負担を不当に減少させる結果となると認められた場合には、正常な取引が行われたものとして更正処分等を行うことができるとする規定が用意されたと思われる。すなわち、実際にこの規定を根拠とした更正処分を行う場合には、その行為が「不当」である必要があるが、「不当」の解釈には2つの異なる傾向があるとされる(※1)。これによれば、 という2つの考え方を示しつつ、①は何がその行為にあたるのかという判断が困難であるとして、②が妥当である旨が示されている。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)542頁。 この「不当」の解釈に関する詳細な議論は他に譲るが、役員給与に関する事例において同族会社の行為計算否認が適用されたのは、過大役員給与として否認された東京高裁昭和34年11月17日判決(※2)、法人から代表者の妻に対する支出を交際費と偽ったことに対して適用された東京高裁平成22年8月26日判決(※3)等、いくつかの事例が見られるのみである。 (※2) 税務訴訟資料29号1176頁、TAINS:未登載。 (※3) 税務訴訟資料260号順号11497、TAINS:Z260-11497。 このように、役員給与の損金算入を対象に同族会社の行為計算否認が実際に適用された例は数少なく、これらの事例をみても、同族会社の行為計算否認が適用された直接の理由が判然としていない。例えば、同様の比較的新しい事例として以下のようなものがある。   (2) 役員給与の支給につき同族会社の行為計算否認が適用された事例 同族会社の行為計算否認が適用されて役員給与の損金算入が認められなかった比較的新しい事例として、長崎地裁平成21年3月10日判決がある(※4)。以下にその概要について紹介する。 (※4) 税務訴訟資料259号順号11153、TAINS:Z259-11153。 本件は、更正処分等の対象となった期間中に従業員から役員へ立場が変わった代表者長男乙への支給について、従業員である期間は「使用者の指揮命令に服して継続的ないし断続的に労務又は役務を提供できる常況にあるとは認められない」として、役員である期間は「勉学の傍ら海外において納税者の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況にあるとは認められない」として、課税庁によって、同族会社の行為計算否認規定を根拠に、それぞれ損金算入が否認されたものである。 裁判所は、上記の通り課税庁の判断を支持しており、同族会社の行為計算否認が適用される「不当」と判断した理由について、「乙に対する本件給与等の支給は、その全額が、甲が同族会社であり、乙が甲代表者の子であることから可能であったということができ、これを甲の所得の計算上損金として認めることは、純経済人の行為として不自然、かつ不合理な行為又は計算であって、それによって甲の法人税の負担が減少するといわざるをえない」と示している。 この点、あたかも役員の業務の対価として役員報酬を支給していたことからすれば、隠ぺい仮装事案とみることもできる他、法人税法34条あるいは同法22条3項を根拠とすることもできたのではないかという指摘がある(※5)。これによれば法人税法132条1項を直接の根拠としたことは判然としないが、過去の先例(最高裁平成11年1月29日判決・税務訴訟資料240号407頁、TAINS:Z240-8327)に従ったと推測している。 (※5) 酒井克彦『裁判例からみる法人税法(三訂版)』(大蔵財務協会、2019)414頁。 なお、ここで先例とされた最高裁平成11年1月29日判決は、就学中の未成年への役員報酬の支給を損金算入していたところ、実質的には代表者への報酬であるとして、課税庁が更正処分段階では役員給与の損金不算入の規定により否認しつつ、係争段階では同族会社の行為計算否認規定に差し替えて主張したことが認められたというものである(※6)。 (※6) 税務訴訟資料240号407頁、TAINS:Z240-8327。 ここで、例えば法人税法34条の役員給与の損金不算入の規定が根拠となって損金算入が認められなかった事例として、代表者の妻の実態は非常勤役員に過ぎないことを認定し、同業類似法人の非常勤役員の水準に照らして判断された東京高裁平成23年2月24日判決がある(※7)。裁決例を見ても、同様のケースとして国税不服審判所平成17年12月19日裁決(※8)、国税不服審判所平成9年9月29日裁決(※9)等があるが、通常はこちらのロジックにより否認されるケースの方が大半であるように思われる。 (※7) 税務訴訟資料261号順号11623、TAINS:Z261-11623。 (※8) 裁決事例集70集215頁、TAINS:J70-3-14。 (※9) 裁決事例集54集306頁、TAINS:J54-3-16。   (3) 実際に同族会社の行為計算否認が持ち出される可能性はほとんど無い このように、役員給与の損金算入性について否認される場合、法人税法132条1項を直接の根拠とされるケースは僅少であると思われる。翻せば、勤務実態のない取締役に対する役員報酬について損金算入を否認しようとする場合、上記のように通常の役員給与の損金不算入の規定によって処理されるケースが多いからであり、特に税務調査段階で決着しているものが多いだろうことは想像に難くない。 また、(2)の通り、同族会社の行為計算否認が実際に適用されたケースにおいても、隠ぺい仮装と認定したり、法人税法34条等で対処したりすることができた旨の指摘があるように、実務上、役員給与の損金算入性を対象として同族会社の行為計算否認が適用されるケースはほぼ考えにくいのではないかと思われる。 実務においては、少なくとも、役員給与の損金算入性の判断について、対象となる役員が「納税者の常況を把握し、業務決定の意思決定に参加できる常況」にあるかどうかを確認することで、損金算入性に関する論拠を整えておくべきだろう。   (了)

#No. 540(掲載号)
#中尾 隼大
2023/10/19

基礎から身につく組織再編税制 【第57回】「適格株式交換(完全支配関係)」

基礎から身につく組織再編税制 【第57回】 「適格株式交換(完全支配関係)」   太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太   前回は組織再編税制における「株式交換」に関する基本的な考え方を解説しました。今回からは数回にわたり適格株式交換に該当する場合の要件について整理していきます。 今回は「完全支配関係がある場合」の適格株式交換の要件について確認します。 なお、完全支配関係の定義については、本連載の【第2回】を参照してください。   1 完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件 完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件は、次の2つです。   2 金銭等不交付要件 金銭等不交付要件とは、株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十七)。 ただし、次の①から④を交付しても金銭等不交付要件には抵触しません。 以下で1つずつ確認していきましょう。 ① 剰余金の配当としての金銭 剰余金の配当として金銭その他の資産を株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ② 反対株主の買取請求に基づく対価としての金銭 買取請求に基づく対価として金銭その他の資産を株式交換に反対する株主に交付しても、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ③ 1株未満の端株相当の金銭 株式交換により交付する株式交換完全親法人株式に1株未満の端数が生じたために、その1株未満の株式の合計数に相当する数の株式を他に譲渡し、又は買い取った代金として交付したときは、1株未満の株式に相当する株式を株主に交付したこととなり、金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 ただし、交付された金銭が、交付の状況その他の事由を総合的に勘案して実質的にその株主に対して支払う株式交換の対価であると認められるときは、株式交換の対価として金銭が交付されたものとして取り扱います(法基通1-4-2)。 ④ 株式交換完全支配親法人株式 株式交換完全子法人の株主に株式交換完全支配親法人株式を交付しても金銭等不交付要件に抵触しないこととされています。 (※) 「株式交換完全支配親法人株式」とは、株式交換の直前に株式交換完全親法人と株式交換完全親法人以外の法人との間にその法人による直接完全支配関係があり、かつ、株式交換後に株式交換完全親法人とその法人(親法人)との間にその親法人による直接完全支配関係が継続することが見込まれている場合におけるその親法人の株式をいいます。平成31年度税制改正前は直接保有に限定されていましたが、改正後は間接保有の株式交換完全支配親法人株式を対価として交付する場合についても適格株式交換となります(法令4の3⑰)。 なお、下図のように株式交換完全支配親法人株式を交付する株式交換を「三角株式交換」といいますが、株式交換完全支配親法人株式の1株未満の端数相当の金銭についても④と同様に取扱います(法令139の3の2④)。   3 完全支配関係継続要件 完全支配関係継続要件とは、完全支配関係がある法人同士の株式交換の場合に、再編後においても完全支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法法2十二の十七イ、法令4の3⑱)。 (1) 当事者間の完全支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に株式交換完全親法人による完全支配関係がある場合には、株式交換後にも株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に株式交換完全親法人による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後は、C社(株式交換完全子法人)とA社(株式交換完全親法人)との間にA社(株式交換完全親法人)による完全支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 株式交換前に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合には、株式交換後に株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式交換後は、B社(株式交換完全親法人)とC社(株式交換完全子法人)との間にA社(同一の者)による完全支配関係が継続することが求められます。 (3) 株式交換後に適格合併が予定されている場合の要件 ① 当事者間の完全支配関係 (ア) 適格合併で株式交換完全親法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を株式交換完全親法人とみなして完全支配関係を継続する見込みがあることが求められています。 平成31年度税制改正により、株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人、株式交換完全子法人を合併法人とする適格合併を行う場合には、適格合併の直前の時まで完全支配関係が継続すれば、適格合併に該当することとなりました。 (イ) 適格合併で株式交換完全子法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全子法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、株式交換の時からその適格合併の直前の時まで完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 ② 同一の者による完全支配関係 (ア) 適格合併で株式交換完全親法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全親法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を株式交換完全親法人とみなして合併法人と株式交換完全子法人の間に合併法人による完全支配関係が継続する見込みがあることを求められています。 (※) 同一の者との完全支配関係は、適格合併の直前まで継続する見込みがあることが求められています。ただし、同一の者と合併法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合には、適格合併後も株式交換完全子法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められます。 (イ) 適格合併で株式交換完全子法人が被合併法人となる場合 株式交換後に株式交換完全子法人を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、株式交換の時からその適格合併の直前の時まで株式交換完全子法人と株式交換完全親法人との間に同一の者による完全支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 (ウ) 適格合併で同一の者が被合併法人となる場合 株式交換後に同一の者を被合併法人とする適格合併を行うことが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人を同一の者とみなして完全支配関係を継続する見込みがあることが求められています。   ◆完全支配関係がある場合の適格株式交換の要件のポイント◆ 金銭等不交付要件において、原則として株式交換完全親法人株式以外の対価を交付しないことが求められています。 完全支配関係継続要件は、合併の場合と異なり株式交換完全子法人が消滅しないため、当事者間の完全支配関係がある場合でも求められます。 株式交換後に合併が見込まれている場合には留意が必要です。   (了)

#No. 540(掲載号)
#川瀬 裕太
2023/10/19

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第27回】「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その1)」~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第27回】 「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その1)」 ~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~   大阪芸術大学教授・米国公認会計士 原 光代   〈本件の概要(図)〉   1 グローバル・トレーディング グローバル・トレーディングとは、金融機関等が行う世界規模での金融商品等の取引をいう。ここでいう世界規模での取引とは、3つの主要な時間帯(ニューヨーク、ロンドン、東京又は香港)に跨って行われるものを指す。OECDの「金融商品のグローバル・トレーディングを実施する企業のPEに帰する利益についてのディスカッション・ペーパー(※1)」によれば、グローバル・トレーディングとは、24時間顧客の注文に応じて世界市場で金融商品を売買する金融機関等の活動とされ、取り扱う金融商品は債券、株式、金融先物や金融派生商品等多岐にわたり、利益の形態も株式貸与(※2)やレポ取引からの利子、証券ブローカーとしての手数料等様々である。 (※1) Discussion Draft on the Attribution of Profits to Permanent Establishments(PES: Part III(Enterprises Carrying on Global Trading of Financial Instruments), B-1 Definition of global trading of financial instruments. (※2) 「証券会社は、信用取引において、投資家に資金(=買い建てる場合の買付代金)や株券(=売り建てる場合の売付株式)を貸すが、制度信用取引において、投資家に貸すべきものを調達できない場合には、証券金融会社から売付株式や買付代金を借り入れる。」(野村證券ホームページ「野村證券用語解説集:貸借取引」より抜粋) 同ペーパーが示すグローバル・トレーディングの機能は、(1)販売とマーケティング、(2)トレーディングと日々のリスク管理、(3)資本/リスク引受け及び(4)サポート(バックオフィス)の4つ(※3)に分かれる。この他、グローバル・トレーディングの構成要素として、金融取引の基本方針を指示するマネージメント(※4)機能もあげられている。 (※3) Ibid. Discussion Draft, B-3 Functional analysis: a) Sales and Marketing Functions, b) Trading and Day to Day Risk Management, c) Treasury, d) Support (※4) 宮武敏夫「グローバル・トレーディング」金子宏編『国際課税の理論と実務:移転価格と金融取引』(有斐閣、1997年)、275頁   2 本件概要 本件請求人(納税者)は、A国に本店を置き日本国内の支店を通じてグローバル・トレーディング事業を実施しており、その事業所得を国内源泉所得として日本で法人税の確定申告を行っている。本請求人に加え、A国法人α社、B国法人β社の国外関連者は、顧客との間でα社を契約当事者としてエクイティ・デリバティブ(※5)の売買等(以下「本件事業」)を行っていた。本件事業に係る損益は契約当事者であるα社に計上(book(※6))されるため、請求人は、本件事業に係る自己の役務提供の対価を、「ヘッジファンドにおける利益分割割合」を用いた利益分割法により算定した独立企業間価格でα社に請求していた(※7)。 (※5) 株式の値動きをヘッジするストックオプションなど。 (※6) 「全世界24時間取引型のグローバルトレーディングでは、それぞれの金融機関がブック(book)というものをもつ。ブックとはinventory of financial productsで、自分の持っているファイナンシャル・プロダクツを一つの在庫表としてコンピュータの中に記録しているものである。例えば、ニューヨークの取引時間中に、そのブックはニューヨークが管理している。ニューヨークの取引時間がクローズになって次に東京に移そうという時、そのコンピュータはもちろん東京の支店なり子会社につながっているから、コンピュータによってその管理を東京に渡す。」前掲(※4)書(黒澤利武)、274頁 (※7) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20−4)参照 請求人が本件各事業年度の法人税について確定申告書を提出したところ、原処分庁は、本件事業には「トレーダーの人件費」を分割要因とした利益分割法を用いるのが合理的とし、この方法により独立企業間価格を算定すべき旨を主張、平成17年6月29日付で、所得の金額及び翌期に繰り越す欠損金の額を修正する各事業年度の法人税の各更正処分並びに平成14年11月期及び平成15年11月期の過少申告加算税の各賦課決定処分がなされた。請求人はこれらの処分を不服として、平成17年8月29日に審査請求を行った(※8)。 (※8) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、178頁 その結果、国税不服審判所は、本件に係る独立企業間価格の算定方法は、請求人が用いた方法も原処分庁の主張する方法も合理性に欠けるとした上で、(1)トレーダーの人件費、(2)α社が本件事業に係る取引を計上(Book)するために金融当局に義務付けられる規制資本にかかる利子相当額の2つを分割要因とする利益分割法が合理的であると結論し、この方法で独立企業間価格を算定したところ国外移転所得が原処分の額を下回るため、原処分はその一部を取り消すべきであると裁決した(※9)。 (※9) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20–4)参照 ((その2)へ続く)

#No. 540(掲載号)
#原 光代
2023/10/19

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2023年10月】第2四半期決算(2023年9月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2023年10月】 第2四半期決算(2023年9月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第2四半期決算(2023年9月30日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。基本的に2023年7月1日から9月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会のホームページに、次のものが掲載されている。 〇 「税制適格ストック・オプションに係る会計上の取扱いについて照会を受けている論点に関する解説」(内容:ストック・オプションに関連する税務上の取扱いの改正を踏まえ、ストック・オプションに係る会計上の取扱いに関する照会についての解説)   Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第66号)(内容:新規公開(IPO)の公開価格設定プロセス等について見直すものであり、上場承認前届出書の記載事項に関する改正) ② 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)(内容:有価証券報告書等における「重要な契約」の開示に関する改正案。意見募集期間は2023年8月10日まで)   Ⅳ 内部統制関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するための体制に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(2023(令和5)年6月30日、内閣府令第57号)(内容:企業会計審議会の意見書を受けて所要の改正を行うもの) ② 「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表(内容:「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)などを受けた改正) ③ 「「内部統制報告制度に関するQ&A」等の改訂について」(内容:企業会計審議会の意見書の公表を受けて改訂する。金融庁) ④ 財務報告内部統制監査基準報告書第1号周知文書第1号「「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月)等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書」(内容:改訂内部統制基準及び内部統制実施基準等に基づく内部統制監査業務を実施するに当たって、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資するもの。日本公認会計士協会)   Ⅴ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「「監査事務所検査結果事例集(令和5事務年度版)」の公表について」(内容:公認会計士・監査審査会による監査事務所の検査で確認された指摘事例等を取りまとめたもの) ② 監査基準報告書700実務指針第1号「監査報告書の文例」及び監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正並びに「公開草案に対するコメントの概要及び対応」の公表(内容:報酬関連情報(監査報酬、非監査報酬及び報酬依存度)の開示の記載例を示す) ③ 業種別委員会研究資料「Web3.0関連企業における監査受嘱上の課題に関する研究資料」(公開草案)(内容:暗号資産やNFT(Non-Fungible Token)などのトークン(電子的な記録・記号)を活用するWeb3.0ビジネスに関連する監査受嘱について記載。意見募集期間は2023年10月6日まで) ④ 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正、倫理規則研究文書第1号「倫理規則に基づく報酬関連情報の開示に関するQ&A(研究文書)」 及び「公開草案に対するコメントの概要及び対応」(内容:会計事務所等が改正倫理規則に基づいて報酬関連情報の集計、算定及び開示を行う際の実務上の参考となる考え方を示すもの)   Ⅵ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「主要監査業務のポイントと事例研究-監査の実効性と効率性の向上を目指して-(中間報告)」(内容:監査役スタッフの誰もが関わる重要業務を対象にして、その趣旨・目的、業務上のポイント及び留意点、実務上の課題に対応した工夫事例について研究したもの) ② 「監査報告のひな型の改定について」(内容:「監査役(会)監査報告のひな型」などのひな型の改定)   Ⅶ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2023年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「電子記録移転有価証券表示権利等の発行及び保有の会計処理及び開示に関する取扱い」(2022年8月26日、実務対応報告第43号)(内容:「金融商品取引業等に関する内閣府令」における電子記録移転有価証券表示権利等の発行・保有等に係る会計上の取扱いを示すもの。2023年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用する。ただし、実務対応報告の公表日(2022年8月26日)以後終了する事業年度及び四半期会計期間から適用することができる) ② 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日、改正企業会計基準第27号)等(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果についての取扱いを示すもの。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) (了)

#No. 540(掲載号)
#阿部 光成
2023/10/19

給与計算の質問箱 【第46回】「特例措置対象事業場の残業代」

給与計算の質問箱 【第46回】 「特例措置対象事業場の残業代」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社は役員1名、従業員1名、合計2名の飲食店です。当社の給与計算の締め日は末日、支給日は翌月25日です。 従業員の9月末締め10月25日支給の給与計算をしようとタイムカードを確認したところ、1日の労働時間が8時間を超える残業はなく、午後10時以降の深夜残業もありませんでしたが、週の労働時間が40時間を超えている週がありました。この場合の残業代の計算についてご教示ください。 なお、給与計算に関する情報は以下のとおりです。 〈従業員のタイムカードの一部〉 A 質問の場合、飲食店、かつ、従業員が10人未満であり、「特例措置対象事業場」に該当するため、週44時間を超える労働時間について残業代を支給する必要がある。 * * 解 説 * * 1 「特例措置対象事業場」とは 法定労働時間は、原則1日8時間、週40時間だが、「特例措置対象事業場」に該当する場合、1日8時間、週44時間となる。 「特例措置対象事業場」とは、次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場をいう。   2 残業代の計算 就業規則等に定めがなければ、週の労働時間の起算日は日曜日となる。特例措置対象事業場では、日曜日から土曜日までの労働時間の合計が44時間までの場合、残業代は不要となる。 図表の上段の週は、48時間勤務しているので「48時間-44時間=4時間分」の残業代が発生する。 4時間分の残業代の計算は、以下のとおりである。 図表の下段の週は、42時間の勤務であり、44時間を超えていないので残業代は発生しない。 (了)

#No. 540(掲載号)
#上前 剛
2023/10/19

《税理士のための》登記情報分析術 【第5回】「権利部「乙区」の見方」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第5回】 「権利部「乙区」の見方」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   1 権利部「乙区」について 不動産に関する登記記録の権利部「乙区」には、不動産に設定された所有権以外の権利について登記される。乙区を分析することで、不動産の利用状況などを詳しく知ることができる。   2 登記される権利 乙区に登記される権利には様々なものがあるが、実務においてよく見かける権利は次のとおりである。 (1) 抵当権 抵当権とは、特定の貸金債権などを担保するために不動産に設定される担保権である。住宅ローンなどの際によく利用され、担保の対象となった債権が完済されると抵当権も消滅することになる。 【記載例:抵当権設定の登記記録】 (2) 根抵当権 根抵当権とは、根抵当権者と債務者との間で発生する一定の取引範囲に属する債権を、極度額という金額の枠内で担保するために不動産に設定される担保権の一種である。抵当権と異なり、仮に担保している債権をすべて完済されても、根抵当権を抹消する必要がない(※1)。不動産を活用して継続的に金融機関から融資を受けたい場合は、担保の設定費用が節約できるメリットがある。主に事業性の融資に利用される。 (※1) 「根抵当権の元本確定」といって、一定の事由により根抵当権の担保すべき債権が確定した場合には、担保すべき債権が返済されると根抵当権は消滅することになる。 【記載例:根抵当権設定の登記記録】 【図表:根抵当権のイメージ】 (3) 賃借権・地上権 不動産を利用する権利としてよく利用されるのが、賃借権と地上権である。賃借権は土地や建物を対象に設定することができる。実務でよくあるのは、飲食店などが地主との間で事業用定期借地権を設定し、借り受けた土地の上に店舗を建設して運営するようなケースである。地上権については、太陽光発電事業者が地主との間で土地に地上権を設定して、太陽光発電事業を行っている事例を目にする。 賃借権と地上権の違いは様々あるが、賃借権は譲渡する場合に、原則として賃貸人である地主の承諾が必要であるのに対して、地上権は譲渡が自由となっている。そのため太陽光発電事業のように投資として土地の活用をするような場合に適しているといえる。 【記載例:賃借権設定(事業用定期借地権)の登記記録例】 【記載例:地上権設定の登記記録例】   3 乙区に引かれた下線の意味 乙区では所有権に関する事項が登記された甲区ではあまり見ることのない、下線が引かれた登記事項を目にすることがある。下線が引かれている箇所については、すでに権利の消滅などにより登記が抹消されていることを意味する。 登記制度には「先に登記された権利が、後に登記された権利よりも優先する」というルールがあり、乙区のなかにおいては、順位番号が先のものが優先されることになる。例えば、順位番号1番と順位番号2番で抵当権が設定された不動産が競売された場合には、まず順位番号1番で設定された抵当権の抵当権者が配当を受け、余剰がある場合に順位番号2番の抵当権者が配当を受けることになる。自らの権利を確保するためには、正確に登記記録を読み解くことが重要といえる。 【記載例:下線が引かれた登記記録】 ※この登記記録例では、順位番号1番で登記された抵当権(抵当権者 株式会社XYZ銀行)が抹消されており、順位番号3番で登記された抵当権(抵当権者 株式会社ABC銀行)が実質的に順位番号1番抵当権となる。   4 税理士として乙区の分析力を高める意味 税理士としても乙区の分析力を高めることで、顧客からの信頼を獲得することにつながるだろう。企業の顧問先が多いのであれば、抵当権と根抵当権の違いについては、質問される可能性がある。また投資を行っている顧客からは太陽光発電所への投資の際に、地上権と賃借権の違いについて説明を求められるかもしれない。こうした質問を受けた際に、さわりの部分だけでも説明できるようにしておくと、頼りになる専門家だと顧客から感じてもらえるのではないだろうか。 (了)

#No. 540(掲載号)
#北詰 健太郎
2023/10/19

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第46回】「最有効使用の捉え方」~「更地」と「建物及びその敷地」では最有効使用が異なる場合がある~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第46回】 「最有効使用の捉え方」 ~「更地」と「建物及びその敷地」では最有効使用が異なる場合がある~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 前回、「不動産の価格に関する諸原則」の解説を行うなかで、鑑定実務に特にかかわりの深い最有効使用の原則、適合の原則及び均衡の原則についてその概要を紹介しました。 なかでも、最有効使用の原則は、不動産鑑定士が鑑定評価を行うに際し、以下の点を判定する上できわめて重要な位置付けをなしています。 例えば、対象不動産の価格を査定する際に、これと比較する他の不動産が住環境に適合しており快適性に富むなどその利用価値を最大限に発揮しているにもかかわらず、対象不動産がそのような状況にないという場合、対象不動産は最有効使用の状態にあるとはいえず、その分だけ減価の要因となります。 このような意味から、不動産鑑定士は、「対象不動産の最有効使用は何か」とともに「対象不動産は最有効使用の状態にあるかどうか」という視点を常に念頭に置きつつ鑑定作業を進めています。しかし、鑑定評価書を読む立場からみて紛らわしいのは、「建物及びその敷地」の鑑定評価書のなかに、「更地としての最有効使用」と「建物及びその敷地としての最有効使用」という項目が登場するため、これらの関係が読み取りにくいところにあるものと思われます。 そこで、今回は、「更地」及び「建物及びその敷地」としての最有効使用の意味と、ケースによっては両者が一致しない場合があることを具体的に述べた上で、その根拠となる考え方を解説しておきます。   2 更地としての最有効使用 不動産鑑定評価基準(以下、「基準」と呼びます)では、「更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう」と規定しています(総論第2章第2節Ⅰ)。 このように、更地とは建物等の定着物がない状態の土地を指すことはもちろんですが、それだけでは更地とは呼ばれず、所有者による使用収益を制約する他人の権利が付いていない宅地であることが要件となります。 例えば、対象地上に建物等が存在しなくても、その土地の全部に通行地役権が設定されていれば、所有者は自由に土地の利用形態を変更すること(例えば、その土地上に建物を建てる等)ができません。また、その土地に賃借権が設定されている場合も、所有者は自由にその土地を使用できないため、更地とはいえません。 このようなことを裏返せば、更地の場合には、所有者が自分で自由に使用・収益・処分ができることから、(都市計画法や建築基準法等による制限の範囲内で)その土地上にいつでも最有効使用の建物を建築できる状態にあるといえます。すなわち、近隣地域における標準的な使用方法が戸建住宅の敷地であれば、対象地上に戸建住宅を建築して最有効使用を実現する等です(標準的使用の内容に関しては、近隣地域の土地利用状況のいかんによって、店舗の敷地、事務所の敷地など、それぞれ異なります)。 鑑定評価書に登場する「更地としての最有効使用」の欄には、このように更地がいつでも最有効使用を実現できる状態にあることから、近隣地域の土地利用状況を踏まえて最も利用価値を発揮できる利用方法が記載されています。   3 建物及びその敷地としての最有効使用 基準では、「建物及びその敷地の類型は、その有形的利用及び権利関係の態様に応じて、自用の建物及びその敷地、貸家及びその敷地、借地権付建物、区分所有建物及びその敷地等に分けられる」としています(総論第2章第2節Ⅱ)。 例えば、自用の建物及びその敷地については、「建物所有者とその敷地の所有者とが同一人であり、その所有者による使用収益を制約する権利の付着していない場合における当該建物及びその敷地をいう」と規定しています(同)。 更地の場合と異なり、建物及びその敷地という類型で捉える場合、敷地上には既に建物が存在し、特定の用途に供されています。そのため、既に存在する建物の用途が更地としての最有効使用と同じ状況にある場合もあれば、異なる場合もあります。 鑑定評価書に記載されている「建物及びその敷地としての最有効使用」の用途が「更地としての最有効使用」の用途と異なる場合があるのは上記の理由によります。   4 更地としての最有効使用と建物及びその敷地としての最有効使用が一致する場合 例えば、規模の大きな土地(建物付き)があり、近隣地域の土地利用状況から「更地としての最有効使用」は区分所有建物の敷地と判定されたとします。その土地上には現実に区分所有建物が建築されており、築年数及び現況から判断しても十分な利用価値が見込める場合、「建物及びその敷地としての最有効使用」も区分所有建物の敷地であると判定されます。実際に依頼される鑑定評価の案件にはこのようなケースが多いといえます。   5 更地としての最有効使用と建物及びその敷地としての最有効使用が一致しない場合 鑑定評価の依頼案件のなかにはこのようなものもあり、判断に迷うことが多いのはこれに該当するケースです。 例えば、近隣地域の標準的使用が戸建住宅の敷地(対象地の周辺一帯が同じような利用状況)であるところ、そのなかに規模の大きい共同住宅が建っていたとします(築年数はかなり経過しているものの、建物は賃貸に供されており入居率も50%以上あります)。 このような場合、「更地としての最有効使用」は戸建住宅の敷地と判定されますが、「建物及びその敷地としての最有効使用」も戸建住宅の敷地と判定してよいかどうかが判断の大きな分かれ目となります。 感覚的にいえば、対象地上に建っている建物の築年数がかなり経過していることからこれを撤去し、戸建住宅の敷地として活用する(敷地内に道路を新設して区画を分割する)ことが最有効使用の方法であると考えるのも一理ありそうです。しかし、最有効使用を実現するために多額の費用(例えば、更地価格を相当に上回る建物撤去費用、賃借人に支払う立退料、用途変更に要する工事費用ほか)が発生し、費用対効果の観点から建物の取壊しや用途変更を行うことが経済合理性にそぐわない場合があります(最有効使用を実現させるために大きな損失が生じる場合です)。 本稿で取り上げている設例が仮にこのようなケースに該当するとすれば、対象不動産の最有効使用は、以下のうち、最も高い経済価値を実現できる(イ)の使用方法となり(=(ア)の方法を選択した場合には大きな損失が生じる)、更地としての最有効使用と建物及びその敷地としての最有効使用は一致しないということになります。 このような場合、建物及びその敷地の鑑定評価に当たっては、建物の取壊しを前提とした価格ではなく、現行用途の継続を前提とした価格を求めることとなります。   【参 考】 基準では、建物及びその敷地としての最有効使用の判定に当たっては、次の事項に留意すべきであるとしています。 また、国税不服審判所の裁決事例のなかにも、このような考え方を反映した事案が見受けられるため、税理士の方にとっても留意が必要と思われます(下記事案はその一例です)。 〇国税不服審判所平成31年2月20日裁決(一部抜粋) (了)

#No. 540(掲載号)
#黒沢 泰
2023/10/19

《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第6回】「従業員がiDeCoに加入! 会社が対応すべきこと」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第6回】 「従業員がiDeCoに加入! 会社が対応すべきこと」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   〇従業員のiDeCo加入 年々加入者が増加している「iDeCo(個人型確定拠出年金)」ですが、従業員が始める際には、会社から証明書を発行する必要があります。また、社内にiDeCoの加入者が1人でもいると、会社は年に1回届けを出す必要があります。必要に応じて、掛金の天引き処理を行うこともあり、私的年金とはいえ従業員のiDeCo加入に際しては、会社として対応しなければならないことが複数あります。 iDeCoが普及してきたとはいえ、まだまだ上記のような手続きが必要であることを知らない会社も少なくありません。筆者は、「会社に必要書類を持っていったけれども、対応してくれなくてiDeCoに加入できず困っている」というような相談を受けることもあります。このような手続きを会社が行うことは「努力義務」として国に定められていますので、今回はトラブルにならないように会社が行うべき手続きについて解説します。   〇そもそもiDeCoとは iDeCoとは、自分でつくる年金として国が整備した個人年金制度です。加入は任意で、希望する人はそれぞれが金融機関で手続きを行います。掛金は全額所得控除、運用益非課税、受取り時も特別な控除の対象となるなど税金面でのメリットが大きく、将来への備えとして加入者も増えています。 iDeCoの掛金は、公的年金制度に紐付いているため、被保険者区分等により上限額が異なります。第1号被保険者は月68,000円、第3号被保険者は月23,000円が掛金の上限です。ただし第2号被保険者については、勤め先の企業年金制度等によって上限額が異なります。そのため第2号被保険者だけは、加入の際に掛金上限額を確認するための証明書を会社が発行しなければならないのです。   〇iDeCo加入時の必要書類 以下の書類は「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」という名称で、iDeCo加入の手続きの際に、従業員が金融機関から受け取ります。会社は、この書類の「事業主」欄の事項を確認したうえで記入します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (出典) iDeCo公式サイト 会社が記入する項目❹~❾について、詳しく見ていきましょう。 「事業主」欄の項目❹には事業主情報として事業所名、住所、電話番号、代表者名などを記入します。ここはスタンプで問題ありません。 項目❺には企業年金制度等の加入状況を記載します。この時は別添のフローチャートを見ながら該当する番号を記入します。フローチャートでは、事業所に企業型確定拠出年金制度があるか、あるとしたらマッチング拠出を選択しているか、事業主掛金が年単位拠出になっているかの確認があります。とはいえ、企業型確定拠出年金を導入している企業であれば、従業員がiDeCoの書類を持ってきて戸惑うということはないでしょうから、ここはないものとして説明を進めます。 同時にこのフローチャートでは、企業型確定拠出年金制度以外の企業年金についても質問があります。例えば厚生年金基金に加入しているか、確定給付企業年金(DB)に加入しているかです。もし加入している場合、その従業員のiDeCoの掛金上限額は月12,000円となります。 企業年金制度は何もないという会社は、「00」の「他に企業年金制度なし(厚生年金にのみ加入)」を選択します。その場合、従業員のiDeCo掛金上限額は月23,000円になります。退職金制度や中退共に加入している場合はどうしたらよいのかと聞かれることもありますが、それらは企業年金ではないので、やはり「00」を選びます。 項目❻は、申出者の所属が別の厚生年金適用事業所の場合に記入します。具体的にそういうケースがあるのか想像できませんが、通常ここは空欄で問題ないでしょう。 項目❼は連合会への事業所登録の有無を聞いています。もし従業員がその会社で始めてのiDeCo加入者であれば、ここは「いずれの登録もない」になります。この書類が提出されることで国に対し「事業所登録」が行われ、国民年金基金連合会からその会社の登録番号が発行されます。その後については、郵送されてきた登録事業所番号を記載します。 ここで戸惑うのが「事業主払込」と「個人払込」とは何かという点です。事業主払込は、従業員のiDeCo掛金を会社が給与天引きで預かり、会社の口座からその掛金が国民年金基金連合会により引き落とされるシステムです。こちらを選択すると、給与天引きと同時に、給与において源泉する際に掛金分を差し引いて計算する必要が出てきます。 「個人払込」は、従業員自らの口座から掛金が引き落とされるシステムです。この場合、従業員がiDeCoの所得控除に関するはがきを提出しますので、年末調整にて手続きを行います。これは生命保険料控除の要領と同じです。 よって、会社としての管理および手間を考えると、「個人払込」の方が面倒でない選択肢となります。従業員にとっては、どちらを選んでも税金のメリットは同じですから、ここは会社が選択して構いません。 項目❽で、なぜ「個人払込」にするのかが問われますが、ここは「❷申出者が希望しているため、「個人払込」とする」を選んでもらって問題ありません。仮に「❸申出者は「事業主払込」を希望しているが、「個人払込」とする」を選んだ場合は、「事業主払込」が困難な理由として、「①「事業主払込」を行う体制が整っていないため」を選んでいただければ結構です。特にペナルティーはありません。 項目❾には、退職金制度がある、中退共に加入している等の情報を記載します。ここについては会社が控えていると思いますので、問題はないでしょう。   〇証明書提出後の対応 証明書提出後は、年に1回、国民年金基金連合会から「現況届」という手続きが求められます。これはオンラインで行われますが、基本的には企業年金加入の状況に変化がないかといった確認です。またiDeCoに加入している従業員が在籍しているかどうかの確認もあります。 このような手続きは、あらかじめ心づもりがあれば問題なく進められると思いますので、参考にしていただけましたら幸いです。 (了)

#No. 540(掲載号)
#山中 伸枝
2023/10/19

《編集部レポート》 第49回日税連公開研究討論会が名古屋で開催される

《編集部レポート》 第49回日税連公開研究討論会が名古屋で開催される Profession Journal 編集部   2023年10月13日(金)、日本税理士会連合会(太田直樹会長)は、第49回日税連公開研究討論会を名古屋で開催した。 本年も昨年に続き、会場での開催と同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリッド形式となった。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 今回は、東海税理士会が担当した第1部「ライフイベントと税」では離婚に伴う財産分与に譲渡所得税が課される点や、いわゆる“負動産”をめぐる諸問題についてドラマやサブステージを使った演劇を交えつつ発表が行われた。また、名古屋税理士会による第2部「改正民法等が招いた税理士実務への影響について」では「遺留分制度をめぐる法務と税務の論点」「配偶者居住権をめぐる法務と税務の論点」について討論形式で発表が行われた後、同会と友好協定を締結しているドイツ・ミュンヘン税理士会との意見交換の様子を披露した。 研究発表後は伊川正樹名城大学法学部教授、田中治大阪府立大学名誉教授より、それぞれ講評がなされた。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果へ熱心に耳を傾け、来賓として大村秀章愛知県知事が来場、祝辞を述べられたほか、ドイツ連邦税理士会会長・ミュンヘン税理士会会長のProf.Dr.ハルトムート・シュワーブ氏による挨拶も行われた。 (東海会の発表の様子) (名古屋会の発表の様子) (了)

#No. 540(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2023/10/19

《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書に係る改正通達を公表~端数処理の取扱いにつき意見公募を受け改正案から一部変更~

《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書に係る改正通達を公表 ~端数処理の取扱いにつき意見公募を受け改正案から一部変更~   税理士 柴田 健次   令和5年8月1日、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正(案)が公表され、意見公募(パブリックコメント)が行われました。そして意見公募の結果を踏まえ、令和5年9月28日付で(ホームページ掲載日は令和5年10月6日)法令解釈通達が公表されました。   1 改正の概要 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等について、表示単位未満の金額に係る端数処理の取扱いが改正されます。例えば、類似業種比準価額の計算における1株当たりの資本金等の額が0円となる場合には、現状においては類似業種比準価額が0円となり、株式価額が適切に反映されないため、端数処理の見直しが行われることになりました。   2 改正の時期 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。   3 意見公募の改正案から変更された評価明細書の記載方法等 意見公募(パブリックコメント)の結果、寄せられた意見には下記のものがあり、この点について評価明細書の記載方法等が変更されました。 上記の結果として、各明細書に記載されていた端数処理の取扱いは、評価明細書の記載方法等の1頁目のまた書き及び(注1)に集約がなされ、小数点未満の端数処理については、同頁の(注2)において課税時期基準と直前期末基準の区分を設けて、内容が整理されました。少数点の端数処理に関する記載ぶりについては、意見公募時の改正案では、「株式数の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨て」とされていましたが、意見公募の結果、「株式数の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨て」に変更されました。 また、自己株式がある場合には、その自己株式数を控除した株式数の桁数を基に端数処理が行われることになりました。 なお、評価明細書の記載方法等の変更ではありませんが、意見公募の結果を受けて、通達前文中の「合名会社等」は「持分会社」に変更されました。 【「取引相場のない株式(出資の評価明細書)の記載方法等」の1頁目一部抜粋】   4 改正前の端数処理で計算した場合 例えば、下記の前提事項及び第4表、第5表の記載がある場合において、乙の相続により丙が株式を相続した場合には、第3表において原則的評価方式による価額が0円、配当還元方式による価額も0円となり、株式の価額が0円となるため、丙が取得した株式評価は0円となります。 ◆前提事項 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第3表(一部抜粋)〕   5 改正の内容 (1) 計算結果により0円となった場合に分数又は課税時期における発行済株式数の桁数で端数を処理(課税時期基準) 第5表における1株当たりの純資産価額や1株当たりの純資産価額の80%相当額の算定、第3表における中会社又は小会社の1株当たりの価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の課税時期における発行済株式数(第1表の1①の株式数(評価会社が課税時期において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第5表の⑪欄、⑫欄の金額及び第3表の⑥欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 課税時期の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 28,150,000/35,000,000 × 8/10 = 225,200,000/350,000,000 小数点表示 0.80428571 × 8/10 = 0.64342856 (※3) 分数表示 426/1,750(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 225,200,000/350,000,000 × 0.5 = 426/3,500 + 225,200,000/700,000,000 = 310,400,000/700,000,000 小数点表示 0.24342856(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 0.64342856 × 0.5 = 0.44342856 (2) 計算結果により0円となった場合に分数又は直前期末における発行済株式数の桁数で端数を処理(直前期末基準) 第4表における類似業種比準価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や1株当たりの比準価額の算定、第3表における配当還元価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や配当還元価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の直前期末における発行済株式数(第4表の②の株式数(評価会社が直前期末において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第4表の④欄、第4表の㉖欄の金額、第3表の⑬欄の金額及び第3表の⑲欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 直前期末の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 14.2 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 426,000,000/1,750,000,000 = 426/1,750 小数点表示 14.2 × 0.85714285/50 = 0.24342856 (※3) 分数表示 2.5/0.1 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 750,000,000/1,750,000,000 = 75/175 小数点表示 2.5/0.1 × 0.85714285/50 = 0.42857142 上記により原則的評価方式による価額は310,400,000/700,000,000(0.44342856)円(第3表の⑥)となり、配当還元価額方式による価額は75/175(0.42857142)円となり、丙が取得した株式の評価金額は、2,142,857円(5,000,000株×75/175(0.42857142)円)となります。   6 別表ごとの改正の端数処理 今回の改正で端数処理に影響がある部分を評価明細書ごとに表示すると、下記の通りとなります。課税時期基準と直前期末基準で、使い分けがされていますので、課税時期と直前期末において発行済株式数(自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの)が異なる時には注意が必要となります。 〔第3表〕 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第6表〕 〔第7表〕 〔第8表〕 (了)

#柴田 健次
2023/10/19
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