税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第39回】 「事業用不動産の賃料はどのように求めるか」 ~相場がつかみにくい施設の場合~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 事業用不動産の賃料評価が難しい理由 本連載でも賃料の評価に関連する内容を取り上げたことがありますが、そこでは、マンションやオフィスビル、倉庫等をはじめ、周辺に類似する物件の賃貸事例があり、その地域での相場がひととおり把握できるということを暗黙の前提としていました。 しかし、なかには汎用性の低い建物施設で、それと類似する物件の賃貸事例を探すのが困難なものがあります。 例えば、ホテル等の宿泊施設、ゴルフ場等のレジャー施設、病院・有料老人ホーム等の医療・福祉施設、百貨店や多数の店舗により構成されるショッピングセンター等の商業施設がこれに該当します(※1)。 (※1) 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」Ⅴ.1.(4)③アによります。 これらの施設は所有者が直営で事業を行っている場合もあれば、不動産の賃借人が事業経営を行っている場合もあります。後者の場合、その賃料を決めるにしても類似物件の賃貸事例がつかめなければ検討の指標そのものが存在しません。 不動産の鑑定評価においては、上記のようなケースにも対応すべく、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産のうち、その収益性が当該事業(賃貸用不動産にあっては賃借人による事業)の経営動向に強く影響を受けるものを特に「事業用不動産」として位置付け、その支払賃料等相当額を、売上高をベースに求める方法が試みられることがあります。しかし、適用に当たってのハードルが高いことも事実です。 今回は、理論的にはきわめて合理性が認められるものの、実務的には適用が難しいことの多い事業用不動産の賃料評価について解説していきます。 2 事業用不動産のイメージ 事業用不動産の一例は既に述べたとおりですが、これを一般の賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産と区分してイメージを表わしたものが〈資料1〉です。 〈資料1〉不動産の区分イメージ (出所) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)。 なお、工場や物流倉庫も、そこで事業が行われていることには相違ありませんが、鑑定評価の上では「一般企業用不動産」として位置付けられており、(少々紛らわしいのですが)ここにいう事業用不動産とは区分されている点に留意が必要です。 さらに、事業用不動産の特性として運営形態の多様性が認められ、(上記1で述べた内容と一部重複しますが)その所有者の直営による場合、外部に運営が委託される場合、当該事業用不動産が賃貸される場合等多様なケースがあり、このような運営形態の相違により純収益の把握の仕方等が異なる場合があることが、賃料評価の難しさに一層の拍車をかけている要因といえます。 3 事業用不動産の賃料を求めるに当たって 事業用不動産については、その利用方法において個別性が高く、賃貸借の市場が相対的に成熟していないため、賃貸借の事例をもとに適正な賃料を把握することが困難な場合が多いといえます。そのため、事業用不動産において、賃貸以外の事業の用に供する不動産及び賃貸用不動産のうち賃借人により賃貸以外の事業に供されている不動産について不動産の総収益を求める場合は、売上高をベースに算定することとなります。 〈資料2〉は、数ある事業形態のうち、賃貸・運営委託方式(=不動産の賃借人が事業経営を行い、運営をマネジメント会社に委託する方式)を前提とした場合に、賃借人の売上高から推してどれだけの賃料の支払いが可能か(=負担可能賃料はどこまでか)を試算する流れを表わしたものです。 〈資料2〉事業用不動産の賃料を求める手法(考え方) このように、事業用不動産の場合、事務所ビルや共同住宅等の典型的な賃貸用不動産と比較して賃貸借の市場が相対的に成熟していないため、その収益性は当該不動産を利用して行われる事業の採算性をもとに把握する必要があります。 そのため、〈資料2〉の一連の流れの中には販売費・一般管理費だけでなく、経営者利益相当額、運営委託会社に対するマネジメントフィー、不動産以外の資産帰属利益等をはじめ、経営分析に関する様々な指標を反映することが必要となります。また、不動産関連経費控除前営業利益(GOP)を求めるためにも、通常の会計区分とは異なる金額の集計作業が必要となることも考えられます。 したがって、このような方法の適用が可能となるためには、鑑定評価の依頼者等から事業実績や事業計画等の提供を受けることが必須となりますが、実務的に難しい点は、(仮に提供を受けられた場合においても)当該資料のみに依拠するのではなく、当該事業の運営主体として通常想定される事業者の視点から、当該実績・計画等の持続性や実現性について十分に検討しなければならない(※2)とされているところにあります。 (※2) 「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」Ⅴ.1.(4)③イ(イ)によります。 また、事業の属性が同一の事業用不動産であっても、例えば、 により、事業の特性や事業収支の内容が大きく異なること(※3)にも留意しなければなりません。 (※3) 「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成26年不動産鑑定評価基準改正部分について-」(令和3年11月一部改正)(公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 鑑定評価基準委員会)の解説部分によります。 4 まとめ 今回は、鑑定実務のなかでもデータ収集やその適用が制約される評価手法について取り上げました。今回紹介した手法が適用できるための前提としては、賃貸以外の事業の用に供されている不動産について、売上高、売上原価、販売費・一般管理費等が把握でき、各種経営指標による統計データに基づく平均的な指標が入手可能となることがあげられます。 しかし、汎用性の低い建物施設に関しては賃貸事例の比較に基づく賃料評価が難しいこともあり、不動産鑑定士としては評価の精度を上げ、説得力を高めるためにも事業用不動産の賃料評価手法の向上が図れればと願う次第です。 今回は「評価が難しい」という話題に終始しましたが、容赦ください。 (了)
《速報解説》 国税庁、中小企業向け賃上げ促進税制の適用に係る 別表6(31)の記載誤り等について注意喚起 Profession Journal編集部 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(措法42の12の5)、いわゆる賃上げ促進税制は平成30年度税制改正の大幅改組により大企業向け措置・中小企業向け措置に分かれて以降、令和2年度、令和3年度、令和4年度の各税制改正において、それぞれ制度の見直しが続いている。 特に令和3年度税制改正にてコロナ禍を受け新規雇用者給与等支給額の増加率が適用要件とされたことは、各投資促進税制がおおむね2年ごとに制度が見直されている税制改正の流れからするとイレギュラーであったといえよう。このため本制度は2期連続して適用を受ける場合でも、前事業年度で検討した要件がそのまま適用されるとは限らず、注意が必要となっている。 このような中、このほど国税庁は3月決算・申告時期を前に「別表六(三十一)を使用するに当たっての注意点(中小企業向け賃上げ促進税制の適用に当たっての注意点)」を公表、中小企業向けの賃上げ促進税制(措法42の12の5②)の適用に当たって、別表の記載に誤りがあり税額控除額が適正に算出されていない事例が見受けられるとして、注意喚起を行っている。 例えば下図のように、(令和4年4月1日以後終了事業年度分の)法人税申告書の別表6(31)(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)の「5」欄(比較雇用者給与等支給額)には、適用年度と適用年度の前事業年度の月数が異なる場合や組織再編成を行っている場合などに該当しない限り前事業年度における雇用者給与等支給額を記載することになるが、その前事業年度に退職した従業員に対する給与等の支給額を差し引いて記載する等の誤りにより、本来であれば本税制の適用を受けることができないにもかかわらず本税制の適用を受けている事例や、誤って算出された金額に基づいて本税制の適用を受けている事例が見受けられるとしている。 (※) 国税庁ホームページより なお、適用にあたって使用する別表様式も事業年度ごとに異なり、既報のとおり令和4年の様式改正では大企業向け措置・中小企業向け措置で使用する別表が統一されるなどの変更も行われているので合わせて注意が必要だ。 国税庁は「本税制は累次の改正が行われ、制度の適用要件につき順次見直しがなされておりますので、適用年度の適用要件を十分にご確認の上、別表を記載するようにしてください」としており、日本税理士会連合会もホームページ上で注意を呼びかけている。 本制度に係る本誌上の連載記事は下記より参照されたい。 ◆BOOK◆ 『賃上げ促進税制の実務解説-適用要件の判定からデータ集計、申告事例まで』 好評販売中 (了)
2023年3月9日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.510を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第117回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その11)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅸ 節税商品取引に係る情報提供の重要性 1 問題関心~税務当局からの情報提供 課税上の取扱いが必ずしも明確ではないところには、アグレッシブな節税商品の開発者による市場開拓が展開され得る。別の見方をすれば、節税商品が多く広まるのは、課税上の取扱いが不明確であるからという側面もあろう。すなわち、課税上の取扱いのグレーゾーンは、いわば節税商品開発のブルーオーシャンといってもよいかもしれない。 節税商品取引における消費者被害を未然に防止するためには、行政当局による注意喚起も必要であるが、その点についての論述は後に譲るとして、ここでは、そもそも課税上の取扱いのグレーゾーンを少なくする方策を検討してみたい。 別言すれば、課税上の取扱いについての情報が明確にされていることが、いわば節税商品取引を巡る消費者ないし投資者被害の未然防止にもなり得るということができよう。これは、課税上の取扱いに関する不明確性の排除、すなわち、予測可能性の担保という問題である。 そこで、この点について考察を加えることとするが、(1)第一に、行政当局による情報提供の仕方として、アドバンスルーリングの取扱いがこの辺りの問題解決に有用ではなかろうか。具体的にいえば、わが国の国税庁が取り組んでいる文書回答手続がそれに当たる(※1)。(2)次に、行政当局による注意喚起としての情報提供、いわば広報活動についても考えてみたい。 (※1) 文書回答手続に関する拙稿として、酒井克彦「事前照会に対する文書回答手続の在り方」税大論叢44号463頁(2004)、同「ソフトローによる予測可能性の担保-文書回答手続の改正を契機に-」税務事例54巻1号1頁(2022)、同「予測可能性の担保と文書回答手続」税のしるべ令和4年1月17日号4面(2022)、同「事前照会に対する文書回答手続をめぐる考察と提言(上)(中)(下)」税理50巻15号50頁(2007)、同51巻2号52頁、同51巻3号104頁(2008)、同「文書回答手続の改正にみる適用対象の拡大」税理65巻3号190頁(2022)、同=中戸川誠「〔対談〕文書回答手続20年の歩みとこれから」税理65巻2号130頁(2022)など参照。 2 文書回答手続 (1) 予測可能性の確保 金子宏東京大学名誉教授は、租税法律主義の機能を、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性を与えることにあると説明され(※2)、次のように述べられる(※3)。 (※2) 金子宏『租税法〔第24版〕』79頁(弘文堂2021)。 (※3) 金子・前掲(※2)、79頁。 これは租税法律主義の要請であるから(※4)、当然ながら、ここでは、「法律」あるいは法律の委任を受けた行政命令などの「法律の定める条件」(施行令、施行規則)をもって、予測可能性が担保されることが念頭に置かれていることはいうまでもない。しかしながら、果たして、予測可能性は「法律」又は「法律の定める条件」のみで十分に担保されているとみるべきであろうか。 (※4) これに対して、法的安定性・予測可能性を保障するという機能を果たすから遡及立法禁止原則が租税法律主義の内容を構成する、と論じることは妥当ではないとする見解として、渕圭吾「租税法律主義と『遡及立法』」フィナンシャル・レビュー129号93頁(2017)。 ここに、佐藤英明教授による興味深い指摘がある。同教授は、租税法律主義の内容の一つである課税要件明確主義の位置付けに関する検討として(※5)、同主義は、課税要件法定主義を補完するものとして位置付けられるとともに、予測可能性の確保という観点からも重視されるべきとされ、「これら2つの観点から求められる内容は必ずしも一致しない」と指摘する(※6)。 (※5) 佐藤英明教授は、租税法律主義が多様な内容を持つものとして発展してきたのは、法による行政の原理とは異なり、罪刑法定主義の類推によるものとの南博行教授の指摘を踏まえた上で(南「租税法と行政法」租税11号1頁(1983))、そこでの中心的な考慮要素は予測可能性の確保であるとされる(佐藤英明「租税法律主義と租税公平主義」金子宏『租税法の基本問題』60頁(有斐閣2007))。 (※6) 佐藤・前掲(※5)、61頁。 前者からは、恣意的な課税を許さない程度に課税要件が明確にされていなければならないという帰結を導出できるのに対して、後者については、「予測可能性の確保の要請から考えれば、課税要件が明確に示されている限りその形式は特に問題となるものではなく」、形式的な意味での法律のほか、政令によっても充足し得るとされるのである(※7)。 (※7) 佐藤・前掲(※5)、61頁。 これは、行政命令による実質的な課税要件の明確性までを許容することを意味するものであるといえよう。さらに進めれば、ソフトローによる情報提供も考えられる。すなわち、全ての予測可能性が法律によって担保できていればよいのであるが、形式を問わず情報入手のチャネルを確保することができれば、実質的な意味で予測可能性が担保され得るであろう。 (2) 文書回答手続 予測可能性の担保のために国税庁は文書回答手続を整備している(※8)。この手続について、国税庁のHPから確認しておこう(※9)。 (※8) 国税庁HPは、「国税庁では、事前照会に対する文書回答手続に関する事務運営指針に基づき、納税者の皆様の予測可能性の一層の向上に役立てていただくため、特定の納税者の個別事情に係る事前照会について、一定の要件に該当しない限り、文書による回答を行っています。」と説明している(国税庁「事前照会に対する文書回答手続」〔令和5年2月27日訪問〕)。 (※9) 国税庁「税務上の取扱いに関する事前照会に対する文書回答について」〔令和5年2月27日訪問〕。 ただし、次に示すような一定のものについては、文書回答手続の対象から除外されている。 このように、一定のものについては文書回答手続の対象とされていないが、文書回答手続によって、課税上の取扱いの不明確性が一定程度排除され、納税者の予測可能性が担保される仕組みとして構築されているのである。 次回は、このような文書回答手続が、具体的に節税商品取引における課税上の取扱いに係るグレーゾーンを排除することに資するかという点について考えてみたい。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第12回】 「国税通則法23条(1)」 -総説- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法23条(更正の請求) 1 制度と沿革 納税義務の確定は、既に述べたように(第10回4参照)、課税要件の充足により法律上当然に成立した納税義務(抽象的・客観的納税義務)について、納税者がその履行を行い、又は税務官庁がその履行の請求を行うために、納税者又は税務官庁が行う当該納税義務の具体的・主観的確認である。 申告納税制度は、第一次的には、納税者が各税法の規定に従って納税義務の存否又は範囲を法定申告期限内に正しく確定することを、建前としている(前回2参照)。しかし、納税者にその建前どおりの納税申告を常に期待することは、現実には困難である(申告納税制度の建前と現実の乖離)。では、納税義務の確定が各税法の規定に従っておらず誤っていると事後に納税者が判断した場合、納税者はその誤りをどのような手続(過誤是正手続)によって修正することができるであろうか。 そのような過誤について、国税通則法は、課税処分に対する争訟手続(第8章)は別にして、申告納税方式(16条1項1号)による納税義務の確定手続(第2章第2節)においては、先行する納税義務の確定が過少確定(税額の過少、純損失等の金額の過大等を内容とする確定)であると納税者が判断した場合は修正申告(19条)の手続による是正を定め、他方、先行する納税義務の確定が過大確定(税額の過大、純損失等の金額の過少等を内容とする確定)であると納税者が判断した場合は更正の請求(23条)の手続による是正を定めている。換言すれば、先行する納税義務の確定を納税者の「不利に」修正する場合は、納税者自身が修正申告によって修正することを認める一方、納税者の「有利に」修正する場合は、納税者が更正の請求によって税務官庁による減額更正(24条)を請求することを認めるにとどめているのである。 ところで、先行する納税義務の確定に係る過誤是正手続に関する上記の二本立て制度は、わが国の税法が申告納税制度を導入した当初から、採用されてきたものである。このことは、特に更正の請求に関して次のとおり述べられている(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(加除式・第一法規)1424頁)。 更正の請求制度は、このように、当初は個別税法に基づいて定められていたが、その後(所得税法については昭和22年3月、相続税法については昭和25年3月、富裕税法については同年5月、法人税法については昭和34年)、その適用範囲を徐々に拡大していった(武田監修・前掲書1424頁参照)。このような過程を経て、税制調査会は「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月)において更正の請求を「申告納税に係るすべての税目について認めるものとする」(9頁)と提言し、この点について次のとおり説明していた(同『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)54頁。下線筆者)。 この答申は現行国税通則法23条の基本的骨格及び内容を創設したものであるが、同条については、その後今日までに、大きな改正が2度行われた。1度目は昭和45年改正であるが、これについて税制調査会「税制簡素化についての第三次答申」(昭和43年7月)53-54頁(下線筆者)は「更正の請求の期限」の延長及び「期限の特例」の拡張を次のとおり提言した。 2度目は平成23年改正である。同改正について「平成23年度税制改正大綱」(平成22年12月16日閣議決定)33頁は、次のとおり「更正の請求期間の延長」を説いている(下線筆者)。 この説示からすると、かつて法人税法が昭和34年に更正の請求を導入する以前の状態について述べられていた、「従来は法人が税務官庁にその事実を申出(一般には歎願書又は陳情書によって申出がされる)て、それが相当である場合には、税務官庁は進んで減額の更正・・・・・を行うことによって問題を解決していたのである。」(武田昌輔『会社税務精説』(森山書店・1962年)905頁。傍点原文)という実務慣行は、更正の請求の導入後も、更正の請求期間と減額更正期間との(前者が後者より短いという)ズレの故に解消されていなかったのである。 以上のように更正の請求制度の沿革を概観してくると、更正の請求は、手続的保障原則及び租税法律主義の実現に資する手続として、形成されてきたといえよう。手続的保障原則は、納税者と税務官庁との手続法上の関係を対等・対称的な権利義務の関係(法律関係)として構成することを要請する、租税法律主義における適正手続保障の原則であるが(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【27】参照)、とりわけ、更正の請求に係る請求可能期間を減額更正に係る通常の除斥期間(税通70条1項)と一致させたことは、手続的保障原則すなわち納税者・税務官庁間の関係の対等性・対称性の観点からみて、また、申告納税制度における納税者と税務官庁との相互チェック構造(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)855-856頁[初出・1995年]参照)に照らしても、高く評価すべきであろう。 2 意義と趣旨 更正の請求は、前述のとおり、先行する納税義務の確定が過大確定であると納税者が判断した場合に、当該確定について減額更正を請求する手続である(税通23条1項柱書・2項柱書参照)。国税通則法23条は、「更正の請求」という見出しの下で第1項と第2項という2つの条文を定めているので、一見すると、「更正の請求」には2種類のものがあるかのように思われるかもしれないが、しかし、同条2項は「同項[=同条1項]の規定による更正の請求」を定めているので、同条が定める「更正の請求」に異なる種類のものがあるのではない。この点については、次回、国税通則法23条1項と2項との関係を検討する際に、改めて確認することにする。 更正の請求の趣旨については、前記1の冒頭で述べた「申告納税制度の建前と現実の乖離」(これも間接的には更正の請求の趣旨であるが)を踏まえて理解する必要があるが、その場合、まず、先行する納税義務の確定に係る過誤是正手続に関する前記の二本立て制度を国税通則法が定めている理由、換言すれば、国税通則法が申告納税制度において納税義務の確定につき納税者に第一次的確定権及び第一次的確定義務を定めている(前回2参照)にもかかわらず、先行する納税義務の過少確定・過大確定を問わず過誤是正手続を修正申告に一本化しないのはなぜか、を明らかにしておく必要がある。 現行国税通則法上の前記の二本立て制度に対しては、「減額修正は財政収入減となるから、納税者の任意には委ねられないが、増額修正は財政収入増となるものであるから、納税者の任意に委ねてよい、という不当な徴税政策的配慮」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E365頁[新井隆一・中川一郎執筆])による国庫主義的な制度であるという批判もある(同E161-162頁[新井隆一・波多野弘執筆]、同E266-268頁[同]も参照)。 しかし、「減額修正申告」を認めると、それが納税者にとって有利な修正であるだけに、いきおいそのような修正がしばしば行われ、租税法律関係が著しく不安定になるおそれがあること、そうすると実質的には申告期限を延長したのと同様の結果を生ずるおそれがあること、いったん正しい納税申告をした納税者でも、後に資金繰りの都合等によって、これを減額修正する場合などのように、納税者が自己の主観的利益のために、納税義務の確定を修正し、納税申告義務の適正な履行が確保できなくなるおそれがあること等を考慮すると、過大確定については更正の請求により、税務官庁による審査を経て、その請求に理由があるときに減額更正による是正を行うものとすることには、合理性があると考えられる(志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解(令和4年改訂・17版)』(大蔵財務協会・2022年)355-356頁、武田監修・前掲書1429-1430頁、前掲拙著『税法基本講義』【133】参照)。更正の請求の趣旨は直接的にはこの点に認められよう。 3 機能 更正の請求は、申告納税方式による納税義務の確定手続において、先行する納税義務の確定について納税者のイニシアティブに基づき行われる過誤是正の手続であることから、その本来的機能は納税義務の確定の適法性を保障することにあると考えるのが相当である(更正の請求の適法性保障機能。前掲拙著『税法基本講義』【132】参照。以下の叙述については同【131】も参照)。 また、更正の請求は、自己賦課制度(self-assessment system)と呼ばれる申告納税制度における納税者のいわば「自己賦課による権利侵害」(勿論、行訴9条にいう「法律上の利益」の侵害の問題ではない)に対する権利救済手続としての機能(更正の請求の権利救済機能)をも有している。この機能は、更正の請求による納税義務の確定の適法性保障のいわば反射的効果として観念することができる機能であることから、更正の請求の派生的機能ということができよう。その意味でも、更正の請求は争訟手続とは異なり正式の権利救済手続ではなく、せいぜい、国税通則法が税務官庁による「更正をすべき理由がない旨」の通知(23条4項)の通知を「国税に関する法律に基づく処分」である拒否処分として取消争訟の対象とすること(75条1項1号、115条1項本文参照)によって、正式の権利救済手続に接続することを予定している手続にすぎない。納税義務の確定に係る手続的違法が更正の請求の理由とされていない点でも争訟手続とは異なる。 そのほか、更正の請求の権利救済機能を正しく理解するには、後述するように、更正の請求の原則的排他性の正確な理解が不可欠である。ここで更正の請求の原則的排他性とは、過大申告の是正は、錯誤無効の場合を除き、原則として更正の請求の手続によらなければならないという判例法の考え方(最判昭和39年10月22日民集18巻8号1762頁の次の判示参照)をいう。 更正の請求の原則的排他性は、取消訴訟の原則的排他性(差し当たり芝池義一『行政救済法』(有斐閣・2022年)16頁等参照)に準えて用いられてきた観念であるが、更正の請求について観念される「排他性」は、これとは異なり、訴訟手続のレベルでの排他性(訴訟法的排他性)ではなく、納税義務の確定手続のレベルでの排他性(確定手続法的排他性)である。したがって、更正の請求の排他性は、これを理由に正式の権利救済手続を排除することをも、その射程内に取り込むべきものではないのである。 例えば、更正の請求の排他性を理由に義務付け訴訟(行訴3条6項、特に37条の2)の許容性を一般的に否定することは許されず(反対の立場に立つと解される裁判例として広島高判平成20年6月20日訟月55巻7号2642頁参照)、また、更正の請求の排他性を前提にして、納税者が更正の請求をしなかったという一事をもって、更正処分のうち申告額を超えない部分の取消しを求める訴えの利益を否定する見解(条件付却下説)は許容されない(反対の立場に立つと解される裁判例として東京高判平成18年12月27日訟月54巻3号760頁、大阪地判平成21年1月30日訟月57巻2号344頁、名古屋地判平成26年9月4日訟月62巻11号1968頁等参照。条件付却下説については前掲拙著『税法創造論』1022頁以下[初出・2016年]参照)。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第24回】 「インボイス制度の導入に伴う「特定収入に係る課税仕入れ等の税額の計算」の改正」 税理士 石川 幸恵 【Q】 インボイス制度の導入に伴って、国や地方公共団体の特別会計等の消費税額の計算に新たな調整計算が加わると聞きました。計算式の概要を教えてください。 〔ポイント〕 (1) 国や地方公共団体の特別会計等には仕入控除税額の計算に特例があります。 (2) インボイス制度の導入に伴い、特例計算に新たな計算が加わります。 * * * 【A】 (1) 国や地方公共団体の特別会計等には仕入控除税額の計算に特例がある 国、地方公共団体、公共・公益法人等は、租税、補助金、会費、寄附金等の対価性のない収入を恒常的な財源としています。 このような対価性のない収入により賄われる課税仕入れ等に係る税額まで仕入控除税額に含めるのは合理的ではないので、国や地方公共団体の特別会計等の一定の事業者については、仕入控除税額の計算に特例が設けられています。 この特例の対象には、一般社団法人や社会福祉法人、宗教法人や学校法人、人格のない社団等も含まれます(消法60④、消法別表3)。 (2) 特例計算の概要 ① 特例計算が必要となる条件 収入を次のように区分し、特定収入が一定割合以上となる場合(※)に、特例計算が必要となります(消法60④、消令75①、③)。 ② 仕入控除税額の計算方法の概要 (※) ここでは簡素な解説とするため、仕入控除税額の計算方法は全額控除、標準税率対象の課税仕入れのみであることを前提とします。 特例計算では、通常の方法により計算した仕入控除税額から、特定収入により賄われた課税仕入れ等の税額(調整税額)を差し引きます。調整税額は次のAとBの合計です(消令75④一)。 調整割合は、下記算式により計算されるものです。 計算式の意味するところは、Aにより課税仕入れ等にのみ使途が特定されている特定収入で賄われた課税仕入れ等に係る税額を算出、Bにより使途不特定の特定収入で賄われた課税仕入れ等に係る税額を算出しているということです。 特定収入の内容や特例計算の詳細については、国税庁資料「国、地方公共団体や公共・公益法人等と消費税」等をご参照ください。 (3) インボイス発行事業者以外の者からの仕入れに係る調整 ① 調整税額が過大となる理由 調整税額の計算の基礎となるのは、「特定収入のうち課税仕入れ等にのみ使途が特定されているもの」であり、「特定収入のうち『インボイス発行事業者からの』課税仕入れ等にのみ使途が特定されているもの」とはされていません。このため、インボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れは、通常の方法により計算した仕入控除税額に含まれていないにもかかわらず、調整税額には含まれてしまうこととなり、調整税額が過大となります。 そこで、令和4年度税制改正において、控除し過ぎた調整税額を足し戻す計算規定が新たに設けられました(令和4年改正消令75⑧)。 ② 計算方法(令和4年改正消令75⑧一) 次の算式で計算した金額を課税仕入れ等の税額に加算します。 上記の計算は、課税仕入れ等に使途が特定された特定収入のうち、5%超をインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れに充てた場合に適用されます(令和4年改正消令75⑨)。 (了)
〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第6回】 「適格分社型分割による損失の二重計上」 公認会計士 佐藤 信祐 8 適格分社型分割による損失の二重計上 (1) 基本的な取扱い 実務上、後継者に事業の一部を先行的に移管することが考えられる。そのための手法として、事業譲渡や現金交付型分割(分社型分割)が採用されることがあるが、分割法人に分割承継法人株式のみを交付し、当該分割承継法人株式を後継者に譲渡するという手法が選択されることがある。このような場合には、オーナーと親族である後継者を合算すると完全支配関係が継続していることから、完全支配関係内の適格分社型分割として取り扱われる(法法2十二の十一、法令4の3⑥二、4の2②、4)。 適格分社型分割を行った場合には、分割法人が保有する資産又は負債を分割承継法人に簿価で譲渡したものとして取り扱われる(法法62条の3①)。すなわち、分割承継法人が資産又は負債を簿価で取得したものとみなされ(法令123の4)、分割承継法人に移転した資産又は負債に係る簿価純資産価額により分割法人が取得する分割承継法人株式の取得価額の計算を行うことになる(法令119①七)。その結果、分割法人における移転資産の含み損益は分割承継法人株式の含み損益に振り替えられる。すなわち、移転資産に含み損がある場合には、分割法人では分割承継法人株式の含み損に振り替えられ、分割承継法人では移転資産の含み損として認識することから、含み損が二重に生じる結果になる。 【適格分社型分割】 〈ステップ1:新設分社型分割〉 〈ステップ2:分割承継法人株式の譲渡〉 上記のケースでは、分割法人から後継者に分割承継法人株式を譲渡しているが、内国法人から内国法人への譲渡ではないことから、譲渡損益の繰延べに係る規定は適用されない(法法61の11①)。すなわち、分割承継法人株式の譲渡により株式譲渡損益が計上されることになる。 さらに、適格分社型分割は、簿価で資産又は負債を譲渡したものとみなすと規定しているだけで、分割承継法人株式の時価が簿価純資産価額であることまでは規定していない。すなわち、このような適格分社型分割により取得した分割承継法人株式であっても、後継者に対して時価で譲渡する必要がある。そのため、分割承継法人に移転した資産に含み損がある場合には、分割法人が分割承継法人株式を後継者に譲渡した段階で分割承継法人株式に係る譲渡損失が生じることになる。 その結果、分割法人において分割承継法人株式の譲渡損益が実現し、移転資産を譲渡した時点で、分割承継法人において資産の譲渡損益が実現することから、二重の譲渡損益が生じてしまうことも考えられる。具体的には、帳簿価額1,000百万円、時価100百万円の資産を適格分社型分割により分割承継法人に移転させた場合には、分割法人における分割承継法人株式の帳簿価額が1,000百万円、分割承継法人における資産の帳簿価額が1,000百万円になり、両社において含み損を抱えることになることから、将来における株式の譲渡や移転資産の譲渡により、両社において900百万円の譲渡損が生じることになる。 【分割法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【分割承継法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈資産の含み損の処理〉 (2) 否認され得るケース このように、通常であれば、二重に損金が生じるという問題があるにせよ、経済合理性のある取引であると認められるケースも多いと考えられる。しかしながら、適格組織再編成を繰り返すことにより、繰越欠損金を有する法人を数珠並びにすることができるという問題がある。具体的には、以下の事例を参照されたい。 【適格分社型分割】 〈ステップ1:新設分社型分割〉 〈ステップ2:分割承継法人株式を現物出資対象資産とする新設現物出資〉 〈ステップ3:分割承継法人株式の譲渡〉 〈ステップ4:X社株式の譲渡〉 上記のストラクチャーでは、分割承継法人に含み損のある資産を移転させるだけでなく、当該分割承継法人株式を現物出資対象資産としてX社に移転することにより、含み損が三重になっている。上記のストラクチャーにおける分割法人、X社及び分割承継法人の仕訳は、以下の通りである。 【分割法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈現物出資〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【X社の仕訳】(単位:百万円) 〈現物出資〉 〈株式の譲渡(グループ内)〉 【分割承継法人の仕訳】(単位:百万円) 〈分社型分割〉 〈資産の含み損の処理〉 上記では、適格現物出資による手法を前提としたが、分割承継法人株式を分割対象資産とする適格分社型分割による手法であっても同様の効果が生じる(※14)。さらに、後継者にそれぞれの法人の株式を譲渡する前に、X社株式を現物出資対象資産としてY社を設立、Y社株式を現物出資対象資産としてZ社を設立といったことを繰り返せば、繰越欠損金を無限に増殖させることができてしまう。 (※14) 分割承継法人を株式移転完全子法人とする単独株式移転を行った場合には、株式移転後に株式移転完全親法人と株式移転完全子法人との間に当該株式移転完全親法人による完全支配関係が継続することが見込まれないことから、非適格株式移転に該当してしまうため、株式移転による手法は利用できない(法令4の3㉒)。 しかしながら、このようなストラクチャーは、最初の分社型分割はともかくとして、その後の現物出資については何ら経済合理性がなく、繰越欠損金を有する法人を作り出すためだけに行われたストラクチャーであることから包括的租税回避防止規定が適用されるべきであり、同様の事例として、パチンコ店チェーン約40の企業グループに対する否認事例が公表されている(※15)。 (※15) 平成24年2月12日読売新聞朝刊。 (3) 否認されるかどうかにつき意見が分かれる事例 前述のように、分割承継法人株式を現物出資するなどの行為により、三重、四重と繰越欠損金を増殖させることについては、包括的租税回避防止規定が適用されるという点に争いはないと思われる。 これに対し、適格分社型分割を行うだけであれば、分割承継法人株式の譲渡により損失が計上され、かつ、分割承継法人が保有する資産の含み損を実現することにより損失が計上されるものの、事業目的がないとはいい難いことから、包括的租税回避防止規定が適用されるかどうかについては、税務専門家の間でも意見が分かれている。 この点については、分割承継法人が適格分社型分割により資産及び負債を取得したことについては、移転資産に対する支配が継続していると認められる限り、制度趣旨に反することが明らかであるということはできない。そのため、分割法人が分割承継法人株式を簿価で取得しながらも、グループ内の株式譲渡により譲渡損を実現させたことが制度趣旨に反するかどうかが問題となる。 まず、税制適格要件における支配関係継続要件が、損失の二重計上を防ぐための規定であるという見解があるが(※16)、「組織再編税制の適格要件は、移転資産に対する支配の継続を要件化したものであり、損失の2回控除の防止が目的ではありませんが、事業の継続見込みを適格要件とすることによって、結果的に損失の2回控除が起きる蓋然性が低くなっていると考えられます。」(※17)とされていることから、そのような解釈は成り立たない。支配関係継続要件が課されていることにより損失の二重計上が生じる事案を減らす効果はあるものの、損失の二重計上を防ぐことを目的にはしていないのである(※18)。 (※16) 白井一馬・関根稔『組織再編税制をあらためて読み解く』78-79頁(中央経済社、平成29年)。 (※17) 藤田泰弘ほか「連結納税制度の見直しに関する法人税法等の改正」『令和2年度税制改正の解説』939頁(令和2年、財務省HP参照)。 (※18) 例えば、減価償却費の計上により自己金融効果が生じると説明されることがあるが、減価償却の目的は費用収益対応の原則により利益を適正に計算するためである。このように、「効果」と「目的」は異なるものであり、混合してはならないのである。 もちろん、損失の二重計上を積極的に認めるような制度を想定しているはずがないことから、損失の二重計上を目的とした組織再編成に対しては包括的租税回避防止規定を適用すべきである。ただし、分社型分割のタイミングで分割承継法人株式を譲渡することは想定していたものの、分割承継法人が資産の譲渡損を計上することを想定しておらず、2~3年後に結果的に資産の譲渡損が生じたような場合には、分割承継法人株式に係る譲渡損の計上を積極的に否定する規定がない以上は、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる(※19)。 (※19) もちろん、【第4回】で解説したように、完全支配関係を外したうえで、完全支配関係のあった内国法人に分割承継法人株式を譲渡することについては、包括的租税回避防止規定が適用される余地がある。 なお、結果的に損失の二重計上が生じているのであれば、制度趣旨に反するものとして積極的に包括的租税回避防止規定を適用すべきとする考え方もあり得る。この点については、グループ通算制度の離脱又は終了に伴う時価評価が損失の二重計上を防ぐために設けられた規定であり、「その行う主要な事業について継続の見込みがない場合」「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」にのみ時価評価が行われることとされている(法法64の13①)。すなわち、適格分社型分割による損失の二重計上に対して包括的租税回避防止規定を適用するにしても、上記のいずれかに該当するものに限定すべきである。そして、「その行う主要な事業について継続の見込みがない場合」に該当することは稀であるため、「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」に該当する場合にのみ包括的租税回避防止規定を適用すべきであると考えられる。 すなわち、結果的に損失の二重計上が生じているのであれば、制度趣旨に反するものとして積極的に包括的租税回避防止規定を適用すべきとする考え方を採用したとしても、分社型分割のタイミングで分割承継法人株式を譲渡することは想定していたものの、分割承継法人が資産の譲渡損を計上することを想定しておらず、2~3年後に結果的に資産の譲渡損が生じたような場合には、「資産の譲渡等による損失を計上することが見込まれている場合」には該当しないことから、包括的租税回避防止規定を適用すべきではないと考えられる。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第51回】 「一般社団法人を活用した株式の買い集め」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子 相談内容 私は電子部品製造業を営む非上場会社X社の社長です。X社は私の曾祖父が創業し、祖父、父と社長を引き継ぎ、私で4代目です。X社の株式は、曾祖父の相続からそれぞれの子供たちに引き継がれ、今では遠縁の親族である株主が多数存在しています。このままでは親族の相続に伴い株主が増えていくことになり、会社経営に支障が出る可能性があるため、私の代で株式の集約を図りたいと考えています。 私個人が株式を買い取ることも考えましたが、できるだけ低い価額で買い取りたいと顧問税理士に相談したところ、従業員の福利厚生活動を目的とした一般社団法人を設立して、株式を買い取ることを提案されました。この場合に注意する点などがあれば教えてください。 なお、弊社はこれまで第三者との株式の売買実績はありませんし、株主のうち役員に就任しているのは私だけです。 〈X社の株主構成〉 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 株式の売買価格 親族から自社株を買い取る際には、税務上の時価を考慮して価額を決定する必要があります。税務上の時価は売主・買主の議決権の状況により異なります。下図をご参照ください。 X社の場合には、社長と社長の姉妹は原則的評価方式、その他の親族と新たに設立する一般社団法人は配当還元方式による評価額を時価とみなします。一般的には原則的評価方式による評価額の方が配当還元方式による評価額よりも高くなる傾向にあります。 (※1) 評価会社の株主のうち、課税時期において株主の1人及びその同族関係者(法令4)の有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%(50%超のグループがある場合は50%)以上である場合におけるその株主及びその同族関係者。 (※2) 同族株主とその配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族(一定の法人を含む)の議決権割合の合計が25%以上である場合のその株主。 [2] 売買価額が時価と異なる場合の課税関係 (1) 個人売主から個人買主への譲渡 「売買価額<時価」の場合、その差額について、個人売主から個人買主への贈与があったものとみなされます。 社長が親族から原則的評価方式よりも低い価額で買取りを行った場合には、その差額について社長に贈与税が課税される可能性があります(相法7)。 (2) 個人売主から法人買主への譲渡 個人が法人に対して時価の1/2未満で譲渡を行った場合には、時価により譲渡があったものとみなされ、譲渡所得税が課税されます(所法59①二、所令169)。 法人サイドでは、時価と譲渡価額の差額は受贈益として法人税の課税対象になります。 ご相談の場合、一般社団法人は同族株主以外の株主のため、配当還元方式が適用されますので、社長の姉妹以外の親族から配当還元方式による低い価額で株式を買い取ったとしても、みなし譲渡所得や受贈益の課税は発生しません。 一方、社長の姉妹は中心的な同族株主に該当するため、原則的評価方式が適用されます。このため、原則的評価方式による株価の1/2以上の価額で譲渡を行わなければ、課税問題が発生します。 [3] 一般社団法人による買取り (1) 一般社団法人の設立 一般社団法人は、主たる事務所所在地において登記を行うことにより設立できます。 定款において社員の資格をX社の従業員及び役員とし、法人の主たる事業目的を社員のための福利厚生活動やその他の公益活動として、非営利型法人の要件を満たす設計にしておきます。 従業員の福利厚生活動を目的とした非営利事業として、具体的に、例えば、表彰金の支給や従業員を対象とした奨学金支給、従業員の部活動の支援、レクリエーション活動の補助、などが考えられます。 また、理事にはX社の役員が就任し、運営実務はX社が担う設計にしておけば、永続的に安定した運営を行うことができます。 一般社団法人の独立性の観点から、社団の役員(理事)に社長又は社長の親族が就任することは避けたほうが良いでしょう。 (2) 非営利型法人の要件 ① 非営利性が徹底された法人(法法2九の二イ、法令3①) 一般社団法人のうち、その行う事業により利益を得ること又は得た利益を分配することを目的としない法人で、次の要件を満たす法人をいいます。 ② 共益的活動を目的とする法人(法法2九の二ロ、法令3②) 一般社団法人のうち、会員からの会費により、会員に共通する利益を図るための事業を行う法人で、次の要件を満たす法人をいいます。 一般社団法人の運営をX社の配当金で賄う場合には①の「非営利性が徹底された法人」の要件を、会費を徴収して行う場合には②の「共益的活動を目的とする法人」の要件を満たすように設計することが考えられます。 ③ 非営利型法人の課税範囲 非営利型一般社団法人に対しては、販売業、製造業その他34種の収益事業についてのみ法人税が課税されます(法法2十三、6、法令5)。 設立する法人を非営利型の一般社団法人にしておくことによって、仮に時価よりも低い価額で株式を買い取った場合でも、受贈益に対して法人税は課税されないことになります。 また、買い受けた株式の配当収入については、20.42%の源泉所得税が課税されますが、法人税法上の収益事業には該当しないため、法人税は課税されません。 ④ 株式の購入資金 一般社団法人での株式購入資金や事業に必要な資金は、当初はX社からの寄附とし、X社からの配当が相当程度の水準に達した後は、配当金を株式の買取りや事業資金に充てるのがよいでしょう。 寄附を行う場合に、X社においては限度額の範囲内で法人税の計算上損金に算入できますが、社長が寄附をした場合には、個人の所得税の計算上、寄附金控除の適用はありません。 [3] 結論 親族に分散された株式をそのままにしておくと、相続を繰り返す度に益々分散してしまいます。縁が薄くなれば交渉も難しくなるため、早いうちに株式を集約することが肝要です。 X社の場合、社長個人やX社が低い価格で株式を買い取る場合には、社長個人や株主間での贈与税の課税問題が発生する可能性がありますが、非営利型一般社団法人で買取りを行う場合には、課税問題は回避できると考えられます。 福利厚生を目的とした非営利活動を行う法人が買い受けるということで、買取交渉の際に説明がしやすくなることも期待できます。 ただし、一般社団法人の運営については、株式を買い取ったら終わりではなく、継続的に運営していく必要がありますので、会社や一部従業員の負担は増えます。社団の目的に沿って、X社や社長に対する特別な利益供与をしないように注意しながら運営していかなければなりません。 実際の具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第84回】 「愛知交通事件」 ~最判昭和45年12月24日(民集24巻13号2243頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)
〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第3回】 「税務調査手続によって課税処分が違法になるレベル」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 税務調査手続法定後に争点化するケースが増加 平成23年12月改正で、国税の調査の開始から終了までの手続が国税通則法に法定化され、平成25年1月1日以後の質問検査等に適用されている。 筆者は、平成26年7月に特定任期付職員として大阪国税不服審判所神戸支所国税審判官に任官されたが、その当時は、法定化された税務調査手続の運用が始まって間もなくの時期であり、導入によって調査現場の負担が増加したからか、一時的に審査請求件数が鍋底状に減少した時期である。 法定化後は、これまでの「苦情」という水準を超えて、税務調査手続違法が正面から取り上げられるケースが増加したという印象を抱いていたが、これは、審査請求人(又は代理人である弁護士・税理士)側が、はじめから税務調査手続違法を意識して主張を展開し、担当審判官による主張整理の結果、争点化されるケースが増加してきたのではないかと考えられる。 そうであるとはいえ、調査手続違法のみを主張するのではなく、それと各実定法における争点(2の事案については「相続税における被相続人の配偶者名義の財産の計上の要否」)がセットになっていることがほとんどである。 2 名古屋国税不服審判所令和4年2月15日裁決における税務調査手続違法の法令解釈 3 法令解釈の出所 (1) 税務調査手続の法定化前の考え方 法定化前は、質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解されており(最高裁昭和48年7月10日第三小法廷決定)、調査手続の単なる瑕疵は更正処分に影響を及ぼさないというのが原則的な考え方であった。 ただし、例外として、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものとの評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当である(東京高裁平成3年6月6日判決)と判断されてきた。 (2) 法定化後で原処分の取消しの判断要素の変化 ここで、この「重大な違法」という判断要素は、「調査により」更正決定するとしている国税通則法第24条等の解釈から導き出されるものであるが、これら規定は改正されていないため、この判断要素は税務調査手続の法定化後においても引き続き有効と考えられ、上記2の③においても引き継がれているといえるだろう。 しかし、最近はこれに修正が加えられる判断もなされてきており、東京高裁令和4年8月25日判決は、国税通則法第74条の11の規定の趣旨に反する場合については原処分の取消事由になり得る旨を判示している。 4 原処分の取消しが意識される税務調査手続 (1) 手続は違法となるが「重大な違法」ではなく原処分が取り消される可能性が低い場合 (2) 手続が違法となり「重大な違法」に該当して原処分が取り消される可能性が顕在化する場合 5 上記2の裁決における「理由付記」の趣旨 (1) 法令解釈 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解されるから、当該処分の理由が、上記の趣旨を充足する程度に具体的に明示するものであれば、同項本文の要求する理由の提示として不備はないものと解するのが相当である。 (2) 理由の記載の当否は不服申立てにおいて審理されるべき 審査請求事件について、税務調査手続とは別に、原処分通知書の「処分の理由」欄に記載された事項の事実認定の誤りや記述の不十分さをもって原処分の取消しを求める主張がなされることがある。 しかし、その記載の当否は審査請求の過程において審理されるべきものであり、仮に記述に矛盾や不足があった場合には、その過程において担当審判官が適切に原処分庁に対して求釈明を行うべき(又は審査請求人が担当審判官に対して質問検査の申立てをすべき)ものであるから、「理由の記載内容(事実認定)が誤っている」という理由のみで原処分の取消事由に該当するものではないと考えられる。 (了)