〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第27回】 「グローバル・トレーディング事件(東裁平20.7.2)(その1)」 ~租税特別措置法施行令39条の12第8項、OECDレポート(Report on the Attribution of Profits to Permanent Establishments)Part III~ 大阪芸術大学教授・米国公認会計士 原 光代 〈本件の概要(図)〉 1 グローバル・トレーディング グローバル・トレーディングとは、金融機関等が行う世界規模での金融商品等の取引をいう。ここでいう世界規模での取引とは、3つの主要な時間帯(ニューヨーク、ロンドン、東京又は香港)に跨って行われるものを指す。OECDの「金融商品のグローバル・トレーディングを実施する企業のPEに帰する利益についてのディスカッション・ペーパー(※1)」によれば、グローバル・トレーディングとは、24時間顧客の注文に応じて世界市場で金融商品を売買する金融機関等の活動とされ、取り扱う金融商品は債券、株式、金融先物や金融派生商品等多岐にわたり、利益の形態も株式貸与(※2)やレポ取引からの利子、証券ブローカーとしての手数料等様々である。 (※1) Discussion Draft on the Attribution of Profits to Permanent Establishments(PES: Part III(Enterprises Carrying on Global Trading of Financial Instruments), B-1 Definition of global trading of financial instruments. (※2) 「証券会社は、信用取引において、投資家に資金(=買い建てる場合の買付代金)や株券(=売り建てる場合の売付株式)を貸すが、制度信用取引において、投資家に貸すべきものを調達できない場合には、証券金融会社から売付株式や買付代金を借り入れる。」(野村證券ホームページ「野村證券用語解説集:貸借取引」より抜粋) 同ペーパーが示すグローバル・トレーディングの機能は、(1)販売とマーケティング、(2)トレーディングと日々のリスク管理、(3)資本/リスク引受け及び(4)サポート(バックオフィス)の4つ(※3)に分かれる。この他、グローバル・トレーディングの構成要素として、金融取引の基本方針を指示するマネージメント(※4)機能もあげられている。 (※3) Ibid. Discussion Draft, B-3 Functional analysis: a) Sales and Marketing Functions, b) Trading and Day to Day Risk Management, c) Treasury, d) Support (※4) 宮武敏夫「グローバル・トレーディング」金子宏編『国際課税の理論と実務:移転価格と金融取引』(有斐閣、1997年)、275頁 2 本件概要 本件請求人(納税者)は、A国に本店を置き日本国内の支店を通じてグローバル・トレーディング事業を実施しており、その事業所得を国内源泉所得として日本で法人税の確定申告を行っている。本請求人に加え、A国法人α社、B国法人β社の国外関連者は、顧客との間でα社を契約当事者としてエクイティ・デリバティブ(※5)の売買等(以下「本件事業」)を行っていた。本件事業に係る損益は契約当事者であるα社に計上(book(※6))されるため、請求人は、本件事業に係る自己の役務提供の対価を、「ヘッジファンドにおける利益分割割合」を用いた利益分割法により算定した独立企業間価格でα社に請求していた(※7)。 (※5) 株式の値動きをヘッジするストックオプションなど。 (※6) 「全世界24時間取引型のグローバルトレーディングでは、それぞれの金融機関がブック(book)というものをもつ。ブックとはinventory of financial productsで、自分の持っているファイナンシャル・プロダクツを一つの在庫表としてコンピュータの中に記録しているものである。例えば、ニューヨークの取引時間中に、そのブックはニューヨークが管理している。ニューヨークの取引時間がクローズになって次に東京に移そうという時、そのコンピュータはもちろん東京の支店なり子会社につながっているから、コンピュータによってその管理を東京に渡す。」前掲(※4)書(黒澤利武)、274頁 (※7) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20−4)参照 請求人が本件各事業年度の法人税について確定申告書を提出したところ、原処分庁は、本件事業には「トレーダーの人件費」を分割要因とした利益分割法を用いるのが合理的とし、この方法により独立企業間価格を算定すべき旨を主張、平成17年6月29日付で、所得の金額及び翌期に繰り越す欠損金の額を修正する各事業年度の法人税の各更正処分並びに平成14年11月期及び平成15年11月期の過少申告加算税の各賦課決定処分がなされた。請求人はこれらの処分を不服として、平成17年8月29日に審査請求を行った(※8)。 (※8) 前掲(※4)書(伊藤剛志・水島淳)、178頁 その結果、国税不服審判所は、本件に係る独立企業間価格の算定方法は、請求人が用いた方法も原処分庁の主張する方法も合理性に欠けるとした上で、(1)トレーダーの人件費、(2)α社が本件事業に係る取引を計上(Book)するために金融当局に義務付けられる規制資本にかかる利子相当額の2つを分割要因とする利益分割法が合理的であると結論し、この方法で独立企業間価格を算定したところ国外移転所得が原処分の額を下回るため、原処分はその一部を取り消すべきであると裁決した(※9)。 (※9) 国税不服審判所裁決要旨(平20.7.2東裁(法)平20–4)参照 ((その2)へ続く)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第6回】 「従業員がiDeCoに加入! 会社が対応すべきこと」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇従業員のiDeCo加入 年々加入者が増加している「iDeCo(個人型確定拠出年金)」ですが、従業員が始める際には、会社から証明書を発行する必要があります。また、社内にiDeCoの加入者が1人でもいると、会社は年に1回届けを出す必要があります。必要に応じて、掛金の天引き処理を行うこともあり、私的年金とはいえ従業員のiDeCo加入に際しては、会社として対応しなければならないことが複数あります。 iDeCoが普及してきたとはいえ、まだまだ上記のような手続きが必要であることを知らない会社も少なくありません。筆者は、「会社に必要書類を持っていったけれども、対応してくれなくてiDeCoに加入できず困っている」というような相談を受けることもあります。このような手続きを会社が行うことは「努力義務」として国に定められていますので、今回はトラブルにならないように会社が行うべき手続きについて解説します。 〇そもそもiDeCoとは iDeCoとは、自分でつくる年金として国が整備した個人年金制度です。加入は任意で、希望する人はそれぞれが金融機関で手続きを行います。掛金は全額所得控除、運用益非課税、受取り時も特別な控除の対象となるなど税金面でのメリットが大きく、将来への備えとして加入者も増えています。 iDeCoの掛金は、公的年金制度に紐付いているため、被保険者区分等により上限額が異なります。第1号被保険者は月68,000円、第3号被保険者は月23,000円が掛金の上限です。ただし第2号被保険者については、勤め先の企業年金制度等によって上限額が異なります。そのため第2号被保険者だけは、加入の際に掛金上限額を確認するための証明書を会社が発行しなければならないのです。 〇iDeCo加入時の必要書類 以下の書類は「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」という名称で、iDeCo加入の手続きの際に、従業員が金融機関から受け取ります。会社は、この書類の「事業主」欄の事項を確認したうえで記入します。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (出典) iDeCo公式サイト 会社が記入する項目❹~❾について、詳しく見ていきましょう。 「事業主」欄の項目❹には事業主情報として事業所名、住所、電話番号、代表者名などを記入します。ここはスタンプで問題ありません。 項目❺には企業年金制度等の加入状況を記載します。この時は別添のフローチャートを見ながら該当する番号を記入します。フローチャートでは、事業所に企業型確定拠出年金制度があるか、あるとしたらマッチング拠出を選択しているか、事業主掛金が年単位拠出になっているかの確認があります。とはいえ、企業型確定拠出年金を導入している企業であれば、従業員がiDeCoの書類を持ってきて戸惑うということはないでしょうから、ここはないものとして説明を進めます。 同時にこのフローチャートでは、企業型確定拠出年金制度以外の企業年金についても質問があります。例えば厚生年金基金に加入しているか、確定給付企業年金(DB)に加入しているかです。もし加入している場合、その従業員のiDeCoの掛金上限額は月12,000円となります。 企業年金制度は何もないという会社は、「00」の「他に企業年金制度なし(厚生年金にのみ加入)」を選択します。その場合、従業員のiDeCo掛金上限額は月23,000円になります。退職金制度や中退共に加入している場合はどうしたらよいのかと聞かれることもありますが、それらは企業年金ではないので、やはり「00」を選びます。 項目❻は、申出者の所属が別の厚生年金適用事業所の場合に記入します。具体的にそういうケースがあるのか想像できませんが、通常ここは空欄で問題ないでしょう。 項目❼は連合会への事業所登録の有無を聞いています。もし従業員がその会社で始めてのiDeCo加入者であれば、ここは「いずれの登録もない」になります。この書類が提出されることで国に対し「事業所登録」が行われ、国民年金基金連合会からその会社の登録番号が発行されます。その後については、郵送されてきた登録事業所番号を記載します。 ここで戸惑うのが「事業主払込」と「個人払込」とは何かという点です。事業主払込は、従業員のiDeCo掛金を会社が給与天引きで預かり、会社の口座からその掛金が国民年金基金連合会により引き落とされるシステムです。こちらを選択すると、給与天引きと同時に、給与において源泉する際に掛金分を差し引いて計算する必要が出てきます。 「個人払込」は、従業員自らの口座から掛金が引き落とされるシステムです。この場合、従業員がiDeCoの所得控除に関するはがきを提出しますので、年末調整にて手続きを行います。これは生命保険料控除の要領と同じです。 よって、会社としての管理および手間を考えると、「個人払込」の方が面倒でない選択肢となります。従業員にとっては、どちらを選んでも税金のメリットは同じですから、ここは会社が選択して構いません。 項目❽で、なぜ「個人払込」にするのかが問われますが、ここは「❷申出者が希望しているため、「個人払込」とする」を選んでもらって問題ありません。仮に「❸申出者は「事業主払込」を希望しているが、「個人払込」とする」を選んだ場合は、「事業主払込」が困難な理由として、「①「事業主払込」を行う体制が整っていないため」を選んでいただければ結構です。特にペナルティーはありません。 項目❾には、退職金制度がある、中退共に加入している等の情報を記載します。ここについては会社が控えていると思いますので、問題はないでしょう。 〇証明書提出後の対応 証明書提出後は、年に1回、国民年金基金連合会から「現況届」という手続きが求められます。これはオンラインで行われますが、基本的には企業年金加入の状況に変化がないかといった確認です。またiDeCoに加入している従業員が在籍しているかどうかの確認もあります。 このような手続きは、あらかじめ心づもりがあれば問題なく進められると思いますので、参考にしていただけましたら幸いです。 (了)
《速報解説》 国税庁、取引相場のない株式等の評価明細書に係る改正通達を公表 ~端数処理の取扱いにつき意見公募を受け改正案から一部変更~ 税理士 柴田 健次 令和5年8月1日、「相続税及び贈与税における取引相場のない株式等の評価明細書の様式及び記載方法等について」の一部改正(案)が公表され、意見公募(パブリックコメント)が行われました。そして意見公募の結果を踏まえ、令和5年9月28日付で(ホームページ掲載日は令和5年10月6日)法令解釈通達が公表されました。 1 改正の概要 取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等について、表示単位未満の金額に係る端数処理の取扱いが改正されます。例えば、類似業種比準価額の計算における1株当たりの資本金等の額が0円となる場合には、現状においては類似業種比準価額が0円となり、株式価額が適切に反映されないため、端数処理の見直しが行われることになりました。 2 改正の時期 令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価に適用されます。 3 意見公募の改正案から変更された評価明細書の記載方法等 意見公募(パブリックコメント)の結果、寄せられた意見には下記のものがあり、この点について評価明細書の記載方法等が変更されました。 上記の結果として、各明細書に記載されていた端数処理の取扱いは、評価明細書の記載方法等の1頁目のまた書き及び(注1)に集約がなされ、小数点未満の端数処理については、同頁の(注2)において課税時期基準と直前期末基準の区分を設けて、内容が整理されました。少数点の端数処理に関する記載ぶりについては、意見公募時の改正案では、「株式数の桁数に1を加えた数に相当する数の位以下の端数を切り捨て」とされていましたが、意見公募の結果、「株式数の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨て」に変更されました。 また、自己株式がある場合には、その自己株式数を控除した株式数の桁数を基に端数処理が行われることになりました。 なお、評価明細書の記載方法等の変更ではありませんが、意見公募の結果を受けて、通達前文中の「合名会社等」は「持分会社」に変更されました。 【「取引相場のない株式(出資の評価明細書)の記載方法等」の1頁目一部抜粋】 4 改正前の端数処理で計算した場合 例えば、下記の前提事項及び第4表、第5表の記載がある場合において、乙の相続により丙が株式を相続した場合には、第3表において原則的評価方式による価額が0円、配当還元方式による価額も0円となり、株式の価額が0円となるため、丙が取得した株式評価は0円となります。 ◆前提事項 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第3表(一部抜粋)〕 5 改正の内容 (1) 計算結果により0円となった場合に分数又は課税時期における発行済株式数の桁数で端数を処理(課税時期基準) 第5表における1株当たりの純資産価額や1株当たりの純資産価額の80%相当額の算定、第3表における中会社又は小会社の1株当たりの価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の課税時期における発行済株式数(第1表の1①の株式数(評価会社が課税時期において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第5表の⑪欄、⑫欄の金額及び第3表の⑥欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 課税時期の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 28,150,000/35,000,000 × 8/10 = 225,200,000/350,000,000 小数点表示 0.80428571 × 8/10 = 0.64342856 (※3) 分数表示 426/1,750(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 225,200,000/350,000,000 × 0.5 = 426/3,500 + 225,200,000/700,000,000 = 310,400,000/700,000,000 小数点表示 0.24342856(第4表の㉖(下記(2)参照))× 0.5 + 0.64342856 × 0.5 = 0.44342856 (2) 計算結果により0円となった場合に分数又は直前期末における発行済株式数の桁数で端数を処理(直前期末基準) 第4表における類似業種比準価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や1株当たりの比準価額の算定、第3表における配当還元価額の計算をする場合における1株当たりの資本金等の額の算定や配当還元価額の算定等において、計算結果により0円となった場合には、分数表示をするか、評価会社の直前期末における発行済株式数(第4表の②の株式数(評価会社が直前期末において自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの))の桁数に相当する数の位未満の端数を切り捨てたものを記載します。 第4表の④欄、第4表の㉖欄の金額、第3表の⑬欄の金額及び第3表の⑲欄の金額については、下記のいずれかで記載をすることになります。なお、分数表示に決まりはありませんので、約数で表示しても問題はありません。 (※1) 直前期末の発行済株式数は35,000,000株であるため、8桁未満の端数を切り捨て (※2) 分数表示 14.2 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 426,000,000/1,750,000,000 = 426/1,750 小数点表示 14.2 × 0.85714285/50 = 0.24342856 (※3) 分数表示 2.5/0.1 × 30,000,000/35,000,000 × 1/50 = 750,000,000/1,750,000,000 = 75/175 小数点表示 2.5/0.1 × 0.85714285/50 = 0.42857142 上記により原則的評価方式による価額は310,400,000/700,000,000(0.44342856)円(第3表の⑥)となり、配当還元価額方式による価額は75/175(0.42857142)円となり、丙が取得した株式の評価金額は、2,142,857円(5,000,000株×75/175(0.42857142)円)となります。 6 別表ごとの改正の端数処理 今回の改正で端数処理に影響がある部分を評価明細書ごとに表示すると、下記の通りとなります。課税時期基準と直前期末基準で、使い分けがされていますので、課税時期と直前期末において発行済株式数(自己株式を有する場合には、その自己株式の数を控除したもの)が異なる時には注意が必要となります。 〔第3表〕 〔第4表〕 〔第5表〕 〔第6表〕 〔第7表〕 〔第8表〕 (了)