《速報解説》 国税庁が「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」を公表 ~システム修正費用が修繕費又は資本的支出かの法人税法上の取扱いの判断基準を示す~ 税理士 石川 幸恵 国税庁は、令和4年12月9日、「消費税のインボイス制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」をQ&A形式で公表した。 当該ページは、国税庁ホームページの消費税インボイス制度特設サイトの「Q&A」からもリンクを辿ることができる。 このQ&Aでは、法人が自社の固定資産であるPOSのレジシステム等のプログラムにつき、適格請求書等保存方式に対応するための修正を行った場合に、その修正に要する費用は修繕費か、資本的支出かという法人税法上の取扱いの判断基準を示している。 「修繕費か、資本的支出か」は、法人税基本通達7-8-1で「固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となる」として建物の避難階段などを例示している。 〇法人税基本通達7-8-1 今回公表されたQ&Aでは適格請求書等保存方式に対応するためのシステムの改修につき、修繕費に該当するもの、資本的支出に該当するものを次のように具体的に示している。法人が適格請求書等保存方式に対応するためのシステムの改修を行った場合は、作業指図書等を基に、いずれに当てはまるかを検討することになろう。 (了) ↓お勧め連載記事↓
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酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第114回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その8)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 Ⅶ 最近の節税商品取引と租税リテラシー 前回の「Ⅵ 租税法の不知・誤解」では、節税商品取引等の勧誘を受ける側の租税リテラシーのレベルに関する問題について、いくつかの事例を確認した。本節においても引き続きこの点に着目してみたい。 1 節税マンション投資 例えば、いわゆるレオパレス21事件の一つに岐阜地裁令和2年2月28日判決(判例集未登載)がある。高齢者であるAは、レオパレス21(被告)の担当者から、Aが金融機関から融資を受けて所有地上に共同住宅を建築し、被告が同共同住宅を一括して借り上げて転貸するといういわゆるサブリース事業の勧誘を受け、建築した共同住宅を、被告に対し、契約期間30年、当初10年間は賃料額固定(その後は2年ごとに協議)等の約定で賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、被告から賃料(管理費等は控除)を受領していた。 原告(Aの相続人)は、被告が、平成22年頃から、業績回復のため、オーナーに対し賃料の減額等を迫る活動(通称「終了プロジェクト」)を全国的に開始し、手段を選ばず、賃料の減額ありきで、強引に賃料の減額を求めていたところ、被告の担当者は、誤った説明(減額に応じなければ被告が賃貸借契約を解除できる等)をしたり、長時間自宅に居座ったり、威圧的な言葉遣いをしたりして、強引に賃料の減額に応じさせており、現に、Aは、被告の担当者が突然同契約の解約を通告してきたため、やむなく減額合意に応じることになったと主張した。 本件では、かかる減額合意が錯誤によるものであるか否かが争点となった。 被告は、オーナーの節税対策としても活用されることが多いサブリース取引では、「事業の収益性だけが考慮されているわけではない」のであるから、「本件賃貸借契約の期間満了後の事情は、本件において考慮されるべき要素とはなり得ない。」などと主張した。 これらの主張に対し、同裁判所は、本件減額合意が「錯誤により無効である」と判断した。 このように、不動産購入による節税効果が強調される事例は枚挙に暇がない。例えば、確定申告をすればその節税効果も高いなどと、マンション投資のメリットが強調されてマンションの購入が勧誘されるケースにおいて損害賠償請求が争点とされる事例などがある(請求が一部認容された例として、東京地裁平成31年4月17日判決・先物取引裁判例集82号165頁など。請求が認容されなかった例として東京地裁平成28年9月5日判決・判例集未登載など参照)。 一昔前には、いわゆる変額保険訴訟が数百件にものぼったが、同様の事例はその後も頻発しているとみてよかろう。 2 税務署・国税局を名乗るメール 近時、しばしば税務署や国税局などを名乗る偽装メールが横行しているようである。 「税金の滞納があるから、ご連絡ください」などといった趣旨の次のようなメールが国税庁を名乗る発信者から届き、安易にかかるメールを開いてしまうことが危惧されている。このような危険性が広く国民一般に十分に共有されているであろうか。 国税庁は、上記のような偽装メールについて、次のような注意喚起をホームページ等(※)で行っている。 (※) 国税庁「国税局・税務署をかたった不審なメールにご注意ください」〔令和4年11月27日訪問〕 すなわち、「国税局・税務署をかたった不審なメールにご注意ください」とし、「最近、・・・国税局・税務署をかたった不審なメールが送信されております。国税局・税務署では、電子メールで納税に関する催告を行っておりません。指定されたURLをクリックしないようお願いします。」とする。また、「ご不審な点がある場合には、最寄りの税務署(総務課)までお問い合わせください。」ともしており、情報収集にも努めているように思われる。 かような詐欺的な行為に対して、行政が注意喚起を行うことは非常に重要であると思われるが、それ以前の問題として、国民に一定の租税リテラシーがあれば、かような詐欺に騙されることはないのではなかろうか。例えば、上記の例でいえば、自分の納税額がいくら程度であって、それが納付済みであるはずだなどという点についての理解があれば、稚拙な詐欺的行為に翻弄されることはないであろう。 しかしながら、以前、東京税理士会内に設けられた「成人向け租税リテラシー教育検討委員会〔座長:筆者〕」が行った国民向けアンケート調査の結果からして、自分がいくらの所得税を納税しているかをしっかりと認識している者の数は必ずしも多くないということが判然とした。 そのごく一部をここに紹介しよう。 ※ なお、アンケート調査のサンプル数は、一般サラリーマンのみ、年代ごとにサンプル数を確保する方法を採用し、他のカテゴリーより多いサンプルを収集した。すなわち、経営者1,000人、一般社員から部長クラスの給与所得者につき、20代300人、30代300人、40代300人、50代300人、60代300人の合計1,500人、自営業者1,000人の総計3,500人を対象に行った。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (出典) 東京税理士会租税教育推進部「平成30年度 租税リテラシー教育研究報告書」18頁 このように、所得税を納めていることは分かっているが金額までは分からないという者の数が、35.7%にも及んでいるのが現状なのである。 上記の不動産建築に係る勧誘にしても、偽装メールにしても、個々の法的対応などの重要性に加えて、事故防止という意味での予防法学的視角からは、成人の租税リテラシーの底上げが重要であると思われるのである。 3 成人向け租税リテラシー教育の重要性 かような消費者保護ないし投資者保護問題が発生する理由の一つに、消費者ないし投資者側の租税リテラシーの欠如を挙げることができるのではなかろうか。さすれば、「成人向け租税リテラシー教育」としての租税教育が改めて見直されてもよいように思われるのである。すなわち、そこにあるのは、安易なうまい節税話に騙されない「生きる力」の醸成を目的とした成人教育の必要性である。 (続く)
谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第9回】 「国税通則法12条(~14条)及び22条」 -書類の送達と提出- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 国税通則法12条(書類の送達) 国税通則法22条(郵送等に係る納税申告書等の提出時期) 1 税務行政による書類の送達に係る到達主義の意義と問題 送達とは、「訴訟上の書類を一定の方式により当事者その他の訴訟関係人に了知させることを目的とする裁判権の作用」(角田禮次郎ほか編『法令用語辞典〔第10次改訂版〕』(学陽書房・2016年)501頁)をいうが、国税通則法はこれに「準じた送達の規定」(同頁)を定めている。すなわち、12条で「書類の送達」の通則について、13条で「相続人に対する書類の送達の特例」について、14条で書類の送達ができない場合の「公示送達」についてそれぞれ定めている。 送達は、単なる通知とは異なり、「一定の法効果がこれに結びつけられているのが普通である」(高橋和之ほか編集代表『法律学小辞典〔第5版〕』(有斐閣・2016年)816頁)といわれている(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])D503頁[須貝脩一・村上義弘執筆]参照)。このように送達には一定の法効果が伴うことから、租税法律主義の下では、送達には法律の根拠が必要であると考えられるので、国税通則法の規定にいう送達は、「国税に関する法律の規定に基づいて税務行政官庁またはその職員が発する書類が、相手方に交付されて、その内容が了知され、または了知の機会が与えられることを確保するための、法定の方法による手続」(中川=清永編・前掲書D503頁)と定義するのが相当である。「特定の相手先に対して、行政処分等の内容を知らしめるためにする法定の形式による命令的及び公証的行為」(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)952頁)といってもよかろう。 送達について、租税法律主義の観点からは、「国税に関する法律の規定に基づいて、税務官公署が行う納税者等への通知が行政処分等の内容をその当事者に知らせるものであることにかんがみ、その通知が相手先に到達したかどうかにより、その行政処分等の効力の発生の時点を明確にする必要がある」(武田監修・前掲書952頁。下線筆者)ことから、国税通則法12条1項は、同法制定前の国税徴収法5条1項と同旨(到達主義)の規定を、「国税の賦課徴収、還付又は再調査若しくは審査に関する書類」についてだけでなく、「国税に関する法律の規定に基づいて税務署長その他の行政機関の長又はその職員が発する書類」について一般的に、送達の方法(郵便又は信書便による送達と交付送達)とともに定めている。 ただ、書類の送達の方法として「通常の取扱いによる郵便又は信書便」による送達が採用された場合について、国税通則法12条2項は、基本的には同法制定前の国税徴収法5条4項と同じく、その郵便物又は信書便物は「通常到達すべきであつた時に送達があつたものと推定する。」と規定している。この規定にいう「推定」については、「その時より遅く送達があつたとか、送達の事実がなかつたという反証があれば、その推定はくつがえされることになる。」(武田監修・前掲書968頁。下線筆者。志場喜徳郎ほか共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年)240頁も同旨)と解説されているが、この解説はこの立法技術を法律上の(事実)推定として性格づけながら、税務訴訟においては書類の送達に関する証明責任は国が負うことを前提にして、法律上の(事実)推定に基づく証明責任の転換(一般の民事訴訟ではこれが認められることについては伊藤眞『民事訴訟法〔第7版〕』(有斐閣・2020年)389頁参照)までは認めないものと解される。 この推定規定については、その次の項(税通12条3項)を含め、「税務官庁の発する書類のように多数の納税者に対し、しかも手続的な面から回数的にも数多く送達すべきもの(・・・・・・)を個々に交付送達したり、書留郵便等で送達することは、煩雑にたえないし、費用もかかると同時に、近時における郵便組織は整備され、確立しているので、極力国及び納税者等にとって簡便な手法で書類の送達の効果を確保しようとする趣旨に基づくものである。」(志場ほか共編・前掲書234頁)と解説されている。 この解説の説くところに一定の合理性があることは確かである。ただ、「この推定規定の背後にある思想」を問題視する次の見解(中川=清永編・前掲書D507頁[須貝・村上執筆])の説くところにも傾聴すべき点はある。 この見解の説くところは、一見すると、極論であるかのように思われるかもしれないが、しかし、よく考えてみると、前記の推定規定という「窓」を通して国税通則法の本質的問題を鋭く看破するものであるように思われる。それは、書類の送達についていえば、「当事者間における意思の伝達」(磯邊律男『研修国税通則法』(新都心文化センター・1984年)45頁)という観点なり考え方が国税通則法には希薄であるという問題であり、その問題は、根本的には、国税通則法が租税実体法と租税手続法との目的従属的関係に基礎を置く体系的構造(第1回3参照)に対する配慮をほとんど欠いていることに基因すると考えられる。そのような構造の下では、国(課税権者)と納税者との租税手続法上の法律関係も、租税実体法上の対等な法律関係(租税債権債務関係)を基礎にして、原則として対等な関係として構成されるべきであるが、このことは国税通則法では特段顧慮されてはいないように思われる。 2 納税者による書類の提出に係る発信主義の意義と展開 国(課税権者)と納税者との租税手続法上の法律関係は、税務行政による課税処分等の行為や納税者による納税申告等の行為が相手方の支配圏内に入りその了知し得る状態におかれること(「到達」の意義については最判平成11年10月22日民集53巻7号1270頁、山本敬三『民法講義Ⅰ 総則〔第3版〕』(有斐閣・2011年)129頁等参照)によって、成立することから、納税者による納税申告書等の書類の提出も、税務行政による書類の送達と同じく、到達主義によることに原理的には問題はない。 この点について、税制調査会『国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)』(昭和36年7月)10頁は、「申告書の提出については、到達主義によることを明らかにする。ただし、申告書を郵便で提出した場合については、郵送に要した日数は算入しないものとする。」と述べていたが、国税通則法は、同法制定前の国税徴収法で「一般には民法の原則によりいわゆる到達主義を採るべきものと解釈されてい[た]」(税制調査会『国税通則法の制定に関する答申の説明(答申別冊)』(昭和36年7月)55頁)ことを踏襲し(磯邊・前掲書45頁参照)、税務行政による書類の送達とは異なり到達主義に関する明文の規定を定めなかった。 ただし、「この到達主義による運用も、申告納税方式の諸税について画一的にされているとはいえず」(税制調査会・前掲答申別冊55頁)、これに加え、「現在の郵便事情の下では、必ずしも通常の場合の郵送日数内に目的地に到達することが保証できない状況にあること、また、訴願法においても郵送日数を訴願期間に算入しないこととしていること等にかえりみ」(同頁)、国税通則法22条の規定が定められた(現行税通23条7項、31条2項、77条4項も参照)。立法者はこの規定によって、「この[到達主義の]原則を郵送による納税申告書等の提出にも厳格に適用するときは、納税者と税務官庁との地理的条件に基づく不公平が生ずるのではないか・・・・・・(税務署から遠隔の地にある納税者は、実質的に、申告期限が早く到達することとなる。)」(磯邊・前掲書45-46頁)という問題を解決しようとしたのである。 国税通則法22条は、郵便物・信書便物の通信日付印により表示された日等にその提出がされたものと「みなす」という立法技術(擬制)によって発信主義を定めているが、平成18年度税制改正では、「民法の到達主義の原則を維持しつつ、納税者と税務官庁との地理的間隔の差異に基づく不公平を是正し、納税者の利便の向上と円滑な申請ができるような環境を整備するため、従来の納税申告書等に加えて、後続の手続に影響を及ぼすおそれのない書類として、別途、国税庁長官が定める書類についても、通則法22条の適用を受けること」(青木孝徳ほか『改正税法のすべて〔平成18年版〕』(大蔵財務協会・2006年)658頁)とされた(平成18年3月31日国税庁告示第7号、国税庁ホームページ「発信主義の適用範囲を定める告示の制定」・「税務手続に関する主な書類の提出時期の一覧」参照)。 国税通則法22条は、同法12条2項がなお到達主義の枠内に位置づけられるべき規定であり、しかも法律上の推定規定であるのに対して、発信主義を定める擬制規定であることからすると、前述の「当事者間における意思の伝達」(磯邊・前掲書45頁)の点では、税務行政よりも納税者を有利に取り扱っているという見方もできるかもしれない(同46頁は税通22条について「これにより、到達主義の原則を維持しつつ、納税申告書等については実質的に発信主義に準ずる利益を納税者が受けることとなる。」と述べている)。 しかし、納税者と税務行政との「当事者間における意思の伝達」に関する租税手続法上の法律関係を、租税実体法上の対等な法律関係(租税債権債務関係)を基礎にして対等な法律関係として構成しようとする場合には、そもそも、租税が「国・・・・・・が、収入を得ることを目的にして、法令に基づく一方的義務として課す、無償の金銭的給付」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)2頁)である以上、納税者による書類の提出について発信主義を定めることは、納税者間の公平の観点からだけでなく、国家と納税者との衡平の観点からみても、妥当である。しかもそうすることは、前記1の最後で述べた国税通則法の本質的問題の是正にも資することになろう。 このように考えてくると、納税者による書類の提出については発信主義こそが原則であると考えるべきであろう。その意味では、国税通則法が納税者による書類の提出について到達主義に関する明文の規定を定めなかったのは、結果論ではあるが、賢明な選択であったように思われる。 なお、近時、電子申告が普及してきたが(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル行政推進法)6条、法人税に関する義務化については法税75条の4第1項参照)、電子申告については、デジタル行政推進法6条3項が次のとおり定める到達主義が適用される(法税75条の4第4項も同旨)。 確かに、電子申告については到達主義を採用しても、国税通則法22条が考慮した地理的間隔の差による納税者間の不公平の問題は生じず、しかも電子データの「送信」は「到達」と通常は事実上同視することができるので、納税者による書類の提出について発信主義を原則とする立場からも、特に問題にする必要はないであろうが、ただ、通信回線・システムの混雑等による不具合が生ずる可能性は排除できないことから、電子申告に関する到達主義に関する規定については立法技術として擬制ではなく法律上の推定を定めるのが妥当であろう。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第21回】 「課税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出しなかった場合」 税理士 石川 幸恵 【Q】 当社は消費税の課税事業者です。適格請求書発行事業者については、まだ、事業者の多くが登録をしていないようなので、当社としてもどうするべきか迷っています。 このまま当社が適格請求書発行事業者の登録をしなかった場合、当社の売上先にとっては免税事業者から仕入れをしたのと同じ扱いになるのでしょうか。 売上先において免税事業者から仕入れたのと同じなのであれば、当社は消費税を納める義務はなくなりますか。 〔ポイント〕 (1) 課税事業者で適格請求書発行事業者の登録をしていない事業者からの課税仕入れは、免税事業者からの課税仕入れと同様の取扱いとなります。 (2) 課税事業者が適格請求書発行事業者の登録をしなかった場合でも、納税義務は免除されません。 (3) 課税事業者は、適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し、登録されれば、登録日から適格請求書発行事業者となります。 * * * 【A】 貴社の売上先にとっては、適格請求書発行事業者以外からの仕入れとなりますので、仕入税額控除を受けられません。ただし、令和11年9月30日までは、免税事業者からの課税仕入れについての経過措置の適用があります(インボイスQ&A問99、28年改正法附則52、53)。 適格請求書発行事業者の登録をしなかった場合、納税義務の判定は、事業者免税点制度に従います。したがって、適格請求書発行事業者ではないという理由で、納税義務が免除されるということにはなりません。 (1) 適格請求書発行事業者の登録申請状況 国税庁によれば、令和4年10月末現在の適格請求書発行事業者の登録件数は1,433,500件となっています。一方で、令和2年の消費税等の納税申告と還付申告の合計は3,176,805件です。 仮に、適格請求書発行事業者の登録をした143万件すべてが令和2年時点で納税申告又は還付申告をした者に含まれるとしても、課税事業者のうち半数以上がまだ適格請求書発行事業者の登録をしていないと考えられます。まして、免税事業者で適格請求書発行事業者の登録をした事業者も一定数いるはずですから、課税事業者で登録していない事業者はさらに多いことになります。 (2) 適格請求書の保存が仕入税額控除の要件 適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの仕入れについては、仕入税額控除のために必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません(インボイスQ&A問99、新消法30⑦)。 (3) 適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの経過措置 適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています(インボイスQ&A問99、28年改正法附則52、53)。 (4) 消費税申告 ① 納税義務判定 納税義務の判定は消費税法第9条から第12条の4までの規定によります。適格請求書発行事業者ではないという理由で納税義務が免除されることはありません。 ② 納付税額の計算 イ 売上にかかる消費税額の計算 適格請求書の保存がなければ、売上にかかる消費税額の計算について、積上げ計算は適用できません(インボイスQ&A問100)ので、適格請求書発行事業者の登録をしなければ、積上げ計算ができないことになります。 ロ 仕入税額控除 適格請求書発行事業者の登録をしなくても、自社が仕入税額控除を受けるためには適格請求書等の保存が必要となります(簡易課税の適用がある場合を除きます)。 (5) インボイス制度開始後に課税事業者が登録する場合 課税事業者が適格請求書発行事業者の登録をするときは、「課税期間ごと」の縛りはありません。適格請求書発行事業者の登録申請書を提出し登録を受けた場合、登録日より適格請求書発行事業者となります(インボイスQ&A問6)。 (了)
〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第3回】 「第三者間の非時価取引」 公認会計士 佐藤 信祐 5 第三者間の非時価取引 (1) 資産調整勘定 一般的にM&Aは第三者間取引であることから、その間で合意された価額は時価と推定されるため、寄附金又は受贈益の問題が生じるはずがないように思われる。ただし、実務上、第三者間取引であっても、非時価取引であると疑われる事案も想定される。 例えば、P社がA社の発行済株式の全部を保有している場合において、P社が行っている一部の事業とA社株式を譲渡するような場合には、A社株式の時価を引き下げるとともに、P社が行っている事業の時価を引き上げることにより、資産調整勘定(税務上ののれん)の金額を引き上げようとすることが考えられる。 すなわち、本来であれば、A社株式を1,000百万円、P社が行っている事業を500百万円で譲渡すべきところ、A社株式を300百万円、P社が行っている事業を1,200百万円で譲渡することにより、買収会社側における資産調整勘定の償却による節税メリットを引き上げようとすることが考えられる。このような場合には、税務調査において、A社株式の取得価額を引き上げるとともに、資産調整勘定の金額を引き下げるように指摘を受ける可能性が高い。 さらに、A社株式の時価を引き下げるとともに、買収後のP社グループとの取引価額を調整することにより、買収会社において損金の額を発生させようとすることが考えられる。このような事実があった場合には、非時価取引に該当することから、取得価額の配分又は寄附金若しくは受贈益の問題が生じることになる。 (2) 国際的な不正取引 クロスボーダーの取引では、日本国外の取引が見えにくいことから、時価と異なる価額で株式が譲渡されている事案も想定される。例えば、日本国内において時価が1,000百万円であるA社株式を100百万円で譲渡している場合において、X国において900百万円の財産が引き渡されている事案が想定される。もちろん、このような事案についても、寄附金又は受贈益の問題が生じることになる。 このような国際的な不正取引が行われる場合には、日本国内における税務上の問題もあるが、日本国外における税務上の問題もある。例えば、H氏がX国で生まれ育った後に日本国籍を有するようになった場合又は日本の永住権を取得した場合には、X国において財産を保有していることが考えられる。そのような場合に、H氏の保有しているX国の財産が、有価証券や土地のようにわかりやすい資産であれば、X国において適正な納税をし、日本においても外国税額控除を適用した後の税額が納税されるが、任意組合の持分のようなわかりにくい資産であった場合には、X国において適正な納税がされておらず、かつ、日本の課税当局もX国における財産の存在を把握できていないことが考えられる。 このように、第三者間取引については、その間で合意された価額が時価と推定されるものの、明らかに違和感のある価額で取引がなされている場合には、その取引とは違うところで不正な取引が行われていることがある。そのため、第三者間取引であったとしても、その取引価額の妥当性についての検証は必要になると考えられる。 〈時価と異なる価額による株式譲渡〉 (3) 第三者割当増資と非時価取引 第三者割当増資についても、非時価取引が行われることが考えられる。例えば、不当に高い金額で第三者割当増資を行いながらも、被買収会社から買収会社のグループ会社に多額の経費を支出することにより、被買収会社において多額の損金の額を発生させようとすることが考えられる。もちろん、このような経費は損金の額に算入することが認められない可能性が高い。 (4) 第三者割当増資と国際取引 さらに、クロスボーダーの取引では、日本国外の取引が見えにくいことから、第三者割当増資又は自己株式の取得を時価と異なる価額で行いながらも、日本国外で不正な取引が行われることが考えられる。 例えば、時価が100百万円であるにもかかわらず、1,000百万円で第三者割当増資を行い、2~3年後に100百万円で買い戻すことが考えられる。すなわち、下図にあるように、発行法人(A社)からH氏又はB社に対して100百万円を貸し付けた後に、H氏又はB社が100百万円でA社株式を買い戻し、その後、発行法人(A社)に自己株式として買い取らせるということが考えられる。このような取引が可能なのは、差額の900百万円に相当する財産が日本国外で引き渡されているからであり、当初から買い戻すことを予定していることから、I氏又はC社に議決権を渡さないために、種類株式(会社法108)や属人的株式(会社法109②)を利用することも考えられる。 一般的に、法人税法は時価による取引を前提として規定されていることから、時価と異なる価額による資本等取引により法人税の負担を不当に減少させることについては、制度趣旨に反するものとして同族会社等の行為計算の否認(法法132)が適用される可能性がある。そのため、上記のような事案については、同族会社等の行為計算の否認が適用され、差額の900百万円に対する受贈益がA社(発行法人)又はB社(発行法人の既存株主)に生じる可能性が高いと思われる。 そして、前述(2)で解説したように、日本国外(X国)に日本の課税当局が把握していない財産がある場合には、X国における取引に対して適正な納税がなされていないことが考えられる。さらに、X国が相続税のない国である場合には、X国の取引を日本の課税当局に隠蔽していることから、将来的な相続税を免れようとすることも考えられる。そのため、第三者間取引であったとしても、その取引価額の妥当性についての検証は必要であり、明らかに違和感のある取引価額である場合には、その取引とは違うところで不正な取引が行われていることを疑う必要がある。 なお、公認会計士又は税理士の立場として留意が必要なのは、自己株式の取得に係る株価算定報告書の作成を依頼される可能性があるという点である。自己株式の取得だけを見れば、時価で取引がされているように見えるため、過去の第三者割当増資まで考慮しないと不正な取引であることが分からない。また、納税者の立場としても、第三者割当増資から自己株式の取得まで一定の期間を置く場合には、自己株式の取得に係る株価算定報告書を根拠として時価による取得であると税務調査で主張しようとするため、株価算定報告書が不正行為に利用される恐れがある。自己株式の取得に係る株価算定報告書を作成する場合には、①自己株式の取得の対象となる株式を株主が取得した時期及び②その取得価額の根拠を把握したうえで、自己株式の取得との整合性についても検討する必要があるという点にご留意されたい。 (注) 実務上、第三者割当増資をDCF法による評価額である1,000百万円で行い、自己株式の取得を時価純資産価額である100百万円で行うといった不正行為も想定される。さらに、第三者割当増資に係る株価算定を公認会計士Aに依頼し、自己株式の取得に係る株価算定を公認会計士Bに依頼することにより、事実関係の一部を隠匿したうえで外部専門家を利用するという行為も考えられる。株価算定に慣れている公認会計士に聞いてみると、(ⅰ)書類保存期間が経過していることから、第三者割当増資に係る株価算定報告書が存在しない場合、又は(ⅱ)取得時における株価との整合性がなかったとしても差し支えない旨の説明ができる場合を除き、取得時における株価との整合性を配慮する必要があることから、公認会計士Bが第三者割当増資に係る株価算定報告書を入手することが多いとのことである。税務調査が3年又は5年を対象として行われていることから、3年又は5年を経過すれば、過去の取引との整合性について配慮する必要がないという誤解が見受けられるが、上記のような問題があることから、会社法及び租税法上の書類保存期間が経過していない限り、自己株式の取得に係る株価算定報告書を作成する外部専門家は、第三者割当増資に係る株価算定報告書を入手しておく必要がある。 〈時価と異なる価額による第三者割当増資と自己株式の取得〉 (5) 小括 このように、第三者間取引であっても、時価と異なる価額で取引がなされることが考えられる。親族間取引と異なり、時価と異なる価額で取引をした場合には、その取引とは異なるところで不正な取引が行われている可能性があるため、第三者間取引であっても、時価についての検証が必要になるという点にご留意されたい。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第48回】 「負担付贈与・負担付遺贈の課税関係」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 公認会計士・税理士 岩丸 涼一 相談内容 私A(85歳)は賃貸用不動産を所有しています。妻には先立たれ子供は2人います。 かねてより日常の身の回りの世話をしてくれる娘B夫婦には感謝していて、娘婿C(法定相続人ではない)からは資産運用等についてアドバイスをもらっていますので、賃貸用不動産及びその不動産が担保となっている銀行借入金を娘婿へ承継したいと思っています。 不動産を負担(銀行借入金)付きで承継する方法は、贈与契約による負担付贈与や遺言による負担付遺贈などがあると聞きましたが、両者について課税上の留意すべき点を教えてください。 なお、対象の財産・債務の状況は次のとおりです。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 負担付贈与と負担付遺贈 負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させる贈与契約をいいます。負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約(当事者の双方が相互に対価的な債務を負担する契約)に関する規定が準用され(民法553)、同時履行の抗弁権、危険負担、解除の適用があります。 負担付遺贈とは、受遺者に一定の債務を負担させる遺贈であり、負担付遺贈を受けた者は、受贈物の価額の範囲内において、負担した義務を履行する責任を負います(民法1002①)。 なお、負担付贈与・負担付遺贈いずれの場合も、債務引受けは債権者の同意なしにはできませんので、債権者との間では免責的債務引受けを行う必要があります。 [2] 負担付贈与による場合 (1) 贈与税 不動産等の負担付贈与を行った場合は、不動産の時価と負担額(銀行借入金等)の差額が贈与税の課税対象となります(相基通21の2-4、相法7)。 なお、負担付贈与における不動産等の評価額は、相続税評価額ではなく通常の取引価額である不動産等の時価によらなければなりません(※1)。 (※1) 平成元年3月29日 直評5 直資2-204「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(法令解釈通達)の1 (2) 譲渡所得税 負担付贈与を行った場合、贈与者側では、贈与財産を受贈者に負担させる債務金額で譲渡したとみなして譲渡所得を認識します。 贈与者は、受贈者の債務引受けによる債務消滅の経済的利益を不動産譲渡の対価として受贈者に譲渡したと考え、当該対価と取得費との差額に対して譲渡所得を認識し(所法36①②)、受贈者は当該負担額を受贈資産の取得価額とします。 負担額が著しく低い価額(※2)で、かつ負担額(不動産譲渡対価)が取得費よりも低い場合は、譲渡損が生じますが、この場合、譲渡損はないものとみなされ、受贈者は贈与者の取得価額及び取得日を承継します(所法59②、60①ニ)。 (※2) ここでいう「著しく低い価額」は、時価の2分の1未満をいいます(所法59②、所令169)。 (3) 流通税 流通税については、贈与による所有権の移転は、遺贈による場合と比較して不利となります。 [3] 負担付遺贈による場合 (1) 相続税 相続人でない者が負担付遺贈により取得した財産の価額は、負担がないものとした場合における当該財産の価額(相続税評価額)から当該負担額(当該遺贈のあった時において確実と認められる金額に限る)を控除した価額によります(相基通11の2-7)。受遺者の負担付遺贈による課税対象金額が債務超過となる場合、当該債務超過額を他の相続財産価額から控除することはできません。 これは、相続人でない特定受遺者は相続人と同一の権利義務を有しないので(民法990)、遺贈を受けた財産の相続税評価額が負担相当額の控除限度となるためです。 一方で、相続人に対して負担付遺贈を行う場合は、不動産等を相続税評価額で認識し、債務については他の相続財産価額から債務控除することが可能です。 相続人は通常被相続人の権利義務を承継します(民法896)ので、被相続人の債務を相続又は遺贈により財産を取得した相続人(又は包括受遺者)が負担する限りにおいては債務控除が認められます(相法13、14)。 (2) 譲渡所得税 相続人でない者が、負担付遺贈により被相続人の債務を引き受け被相続人の債務が消滅した場合、当該経済的利益は被相続人が不動産等を譲渡した対価として認識され、取得費との差額に対して被相続人に譲渡所得が生じること等は(所法36①②)負担付贈与と同様です。 一方で、相続人が負担付遺贈の受遺者である場合、相続人は債務を承継する立場であるため、被相続人の債務が消滅したという経済的利益を不動産の譲渡対価とは考えず譲渡所得は生じません。 [4] 結論 ご相談の場合、負担付贈与、負担付遺贈についてそれぞれ以下のとおりの課税関係となります。 (1) AからC(もしくはB)に対して負担付贈与を行う場合 (2) AからCに対して負担付遺贈を行う場合 (3) Aから相続人のBに対して負担付遺贈を行う場合 以上より、「(3) Aから相続人のBに対して負担付遺贈を行う場合」が財産承継の税効率は最も良い結果となります。 ただし実際には、負担付贈与と負担付遺贈では時期が異なるため、時価や借入金残額等が異なること、賃貸不動産の収益性が高くAの余命期間における多額のインカムゲインが相続財産を構成することを考慮すると、贈与を通じた財産移転が有利となる場合もあるため事例に応じた分析が必要です。 実行についての具体的な判断は、税理士等の専門家と相談の上、決定されることをお勧めします。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第63回】 「貸付事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制との有利選択」 税理士 柴田 健次 [Q] 甲は個人事業主で事業を行っていましたが、令和4年11月30日に相続が発生しました。甲の相続人は、長男である乙と二男である丙の2人となります。相続後、甲の個人事業は乙が承継しています。乙及び丙が下記のとおり甲の財産を相続した場合において個人版事業承継税制を優先的に適用した方がいいのか、それとも小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した方がいいのか、どのように判断すればよいのでしょうか。 特定事業用資産の内訳は、下記のとおりです。 上記のA土地は、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の要件を満たし、B土地は、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の要件を満たしています。 [A] 個人版事業承継税制と小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例は併用可能ですが、限度面積の調整がありますので、どちらを優先的に適用するかを選択する必要があります。したがって、どちらを優先的に適用するかについて比較する必要があります。 下記の表のとおり、乙の納付税額は個人版事業承継税制を優先的に適用した方が有利となりますが、丙の納付税額は貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した方が有利となります。相続税の納付税額の合計額については、貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した方が有利となります。 また、猶予税額も小さい方が猶予税額を納付することとなった場合の利子税の負担も少なくなりますので、貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した方が税金負担は抑えられることになります。実務的には、下記の表のとおりそれぞれの場合の乙及び丙の税金負担について説明を行い、遺産分割の調整も必要になってくるかと考えられます。例えば、相続税を控除した後の遺産額が公平になるように代償金で調整する方法が考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 限度面積の調整 小規模宅地等の種類が特定事業用宅地等以外の特例対象宅地等(特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等又は貸付事業用宅地等)である場合には、相続又は遺贈により取得した特定事業用資産について個人版事業承継税制との併用をすることができます。 この場合における限度面積は、貸付事業用宅地等の特例の適用があるか否かに応じて、下記のとおりとなります(措法70の6の10②一、措令40の7の10⑦、措通70の6の10-17)。 限度面積の調整については、本連載【第61回】で解説をしています。 【限度面積の調整(個人版事業承継税制の適用がある場合)】 本問の場合の選択面積は、それぞれの場合で下記のとおりとなります。 (1) 貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した場合 貸付事業用宅地等の特例の適用ありの区分で考えることになります。貸付事業用宅地等の特例がある場合には、全体を100%とした場合にそれぞれの特例で何%部分を適用したのかを考えると分かりやすいと思います。本問の場合には、B土地の貸付事業用宅地等の特例で適用したことにより50%部分(100㎡/200㎡(貸付事業用宅地等の特例の限度面積))を適用し、残りの50%部分について個人版事業承継税制で適用することになりますので、A土地については200㎡(400㎡×50%)が選択面積となります。 A土地の選択面積の具体的な計算式は、下記のとおりとなります。 〈A土地の選択面積の計算〉 (2) 個人版事業承継税制を優先的に適用した場合 A土地で個人版事業承継税制を優先的に適用したことにより100%(400㎡/400㎡(特定事業用資産に係る土地の限度面積))適用したことになりますので、貸付事業用宅地等の特例の適用面積は0㎡となります。 2 本問の場合の納付税額と猶予税額の計算 貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した場合と個人版事業承継税制を優先的に適用した場合の乙の納付税額、猶予税額及び丙の納付税額は、それぞれ下記のとおりとなります。個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の計算については、本連載【第62回】で解説しています。 (1) 貸付事業用宅地等の特例を優先的に適用した場合 ステップ1 通常の計算 ステップ2 乙が相続税の納税猶予の適用を受ける特定事業用資産のみを取得したものとして計算(乙の猶予税額) ステップ3 後継者乙の納付税額 (2) 個人版事業承継税制を優先的に適用した場合 ステップ1 通常の計算 ステップ2 乙が相続税の納税猶予の適用を受ける特定事業用資産のみを取得したものとして計算(乙の猶予税額) ステップ3 後継者乙の納付税額 ★実務上のポイント★ 相続の場合には、都道府県の認定申請を相続の開始の⽇の翌⽇から8ヶ月以内に申請する必要もあり、遺産分割協議をそれまでにまとめる必要があります。納付税額の負担も考慮した遺産分割を行うためには、早めに財産債務の評価を確定し、小規模宅地等の特例の適用面積も決定する必要があります。 (了)
〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第20回】 (最終回) 「審判官経験者から見た税理士代理人の特徴」 公認会計士・税理士 大橋 誠一 1 自らが持てる武器を知らない (1) 審査請求人に認められた権利を行使しない これまでの回で解説したように、審査請求人には自らの主張立証活動に資するための各種権利が認められており、その行使をすれば、担当審判官は基本的にはそれを拒むことはできない。 しかし、これらの権利を経験上行使しない審査請求人の割合が高く、必要がないから敢えて行使しないのではなく、代理人も含めた不服申立制度の理解不足によって行使しないと思しきケースもある。 (2) 担当審判官の心証形成に敏感でない また、審査請求人は、裁決までの一連の手続の中で、担当審判官の着眼点を推し量り、自らの主張が認容される可能性を占う場面がある。 しかし、「担当審判官が原処分を取り消してくれる」と信じて疑わない審査請求人は、以下の場面において、「担当審判官が棄却(審査請求人負け)の環境設定をしているのではないか」と勘づく機会を失い、効果的な反論・反証提出の機会を逸することがある。 2 不利益処分をされたことに負い目を持っている (1) 大方は当初申告から関与している 税理士が代理人を務めるケースは、最近でこそ筆者のような民間出身の国税審判官経験者が不服申立て段階から関与するケースはあるが、通常は、当初申告段階から顧問税理士として関与し、税務調査において非違を指摘され、修正申告書の提出に承服できずに不利益処分を受けて、不服申立ての代理人に就任しているケースが多い。 もちろん、原処分が違法又は不当であるとの確信をもって救済を求めている税理士も多いのであるが、中には、当初申告における自らの結果的な誤指導又は指導不足が原因として非違を指摘されたことは認識しているものの、納税者の手前それを承服することができずに納税者に不利益処分を受けさせて、いわゆる「負け戦」を覚悟で不服申立てに臨んでいるのではないかと思しきケースがある。 (2) 顧問先をコントロールできていない また、顧問先をコントロールできない顧問税理士が、「社長、不服申立てまでやってダメだったらもう無理ですよ」と納税者に観念させるために、主張立証のモチベーションの低い状態で審査請求の代理人を受任している(いわゆる「お付き合いしている」)のではないかと思しきケースもある。 請求人面談においては担当審判官(筆者)と代理人の関係ではあったが、その立場を離れれば同じ税理士であり、その代理人税理士がどういった事情を抱えて(又は本音を隠して)面談に臨んでいるのかについては、同じ税理士として、ある程度推し量ることができた。 3 主張の矛盾に気付かない 例えば、ある税理士が「代表取締役から平取締役になった役員に役員退職慰労金を支給して、その損金性を否認する更正処分を受けて、その取消しを求めた事案」の審査請求人法人の代理人であったとして、担当審判官からその役員に対して質問調査をしたい旨の要請があり、その役員を連れて請求人面談に臨んだとする。 担当審判官は、その役員に対して以下の質問をしたとする。 平取締役になられてからの、あなたの会社への関与の状況について答述されたい。 そして、その役員は、要旨以下の答述をしたとする。 一部の役員だけが出席する「経営会議」に毎週出席して、これまでの長年の経営経験に基づく意見を言っていた。 通常の取締役会では開催頻度が少なく機動的な意思決定ができないため、この週次の「経営会議」が実質的な会社の意思決定機関だった。 しかし、これは、請求人法人にとっては不利な答述であり、請求人法人にとっては、その役員が、いかに法人の「主要な地位(実質的な意思決定)から外れて、名目的な取締役であったか」について強調するような答述をすべきだっただろう。 仮に、その役員の横に控える代理人に、代理人としての適性・経験があれば、その役員の答述を遮り、以下のように繕ってその場を収めたかもしれない。 この答述には誤解が含まれているようなので撤回させてほしい。 もう一度回答内容を整理して書面で回答する。 しかし、代理人がその役員の答述をメモする程度で特に発言を遮ろうとしなければ、その答述はそのまま質問調書に録取され、担当審判官の判断における証拠として採用されるだろう。 もしかすると、面談終了後、担当審判官は執務室に戻り以下の印象を抱いたかもしれない。 面談までは、「処分取消し」もあると考えていたのに、あんな答述をされたら「審査請求棄却(原処分維持)」で裁決書案を起案せざるを得ないではないか。 横に控えていた代理人は、なぜ役員の答述を止めなかったのだろうか。自分達に不利な答述であることを理解できなかったのか。事前に質問予定事項を送付しているというのに打ち合わせもしなかったのだろうか。 毎週欠かさず経営会議に出席していたのがその役員の真実の行動であるならば、審査請求棄却でも致し方ないだろうが、墓穴を掘っていることに気付かなければ、審査請求人の代理ができているとはいえないのかもしれない。 4 不服申立てに納税者を巻き込ませないのも税理士の役割 これまで、実際に不利益処分を受けた場合に不服申立てを行う場合の留意点について述べてきた。 しかし、不服申立てはあくまで事後救済手続であって、現実に納税者が不利益処分を受けてしまったことに変わりはない。 筆者は、民間出身の国税審判官を経験して、不服申立制度を効果的に活用することも大事ではあるが、少なくとも税理士は、不服申立てに至る前段階(すなわち税務調査段階)において納税者を無用な税務リスクに巻き込ませないように行動すべきと考えているし、それが納税者の税理士に対する期待でもある。 そのためには、税理士には、税務調査段階において、「調査官の指摘をこのまま突っぱねた場合にこの納税者にどのような道が待ち構えているのか」を見通す能力が求められる。 その見通しもないままに、ただ突っぱねていては、納税者を救済可能性の低い(経済的・精神的・時間的な負担ばかりが圧し掛かる)道に誘うことになりかねないからである。 (連載了)
さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第82回】 「税理士による隠ぺい・仮装事件」 ~最判平成18年4月20日(民集60巻4号1611頁)~ 弁護士 菊田 雅裕 (了)