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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年11月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年11月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年11月1日から11月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 『経団連ひな型』の改訂 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)を改訂している。 これは、株主総会資料の電子提供制度が始まることなどに対応するものである。   Ⅲ 企業内容等開示関係 金融庁は、「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表し、意見募集を行っていた(意見募集期間は2022年12月7日まで)。 これは、有価証券報告書等において、サステナビリティに関する企業の取組みの開示及び人的資本・多様性に関する開示、コーポレートガバナンスに関する開示などを行うものである。 改正後の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の規定は、2023(令和5)年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用する予定である。 (了)

#No. 498(掲載号)
#阿部 光成
2022/12/08

社員の不妊治療をサポートする会社環境整備のポイント 【前編】

社員の不妊治療をサポートする会社環境整備のポイント 【前編】   Be Ambitious社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士  飯野 正明   現在、「社員の定着」を課題としている会社が多い中で、会社の働き方の環境整備の充実が求められています。このような背景において、近年の晩婚化等により不妊治療を受ける夫婦が増加しており、社員の不妊治療に伴う職場の環境整備も求められています。厚生労働省の調査によると仕事と不妊治療との両立ができず、約16%の人が離職しています。 そこで本稿では、職場の環境整備を行うために必要となる不妊治療に関する基礎的な知識をはじめ、それを踏まえた会社の制度構築について、前後編の2回にわたって解説していきます。   1 不妊治療の現状 まず、不妊治療の現状について、いくつかのデータをご紹介します。1つ目は、「全出生児に占める生殖補助医療による出生児の割合」です。2019年に日本で生まれた全出生児(865,239人)のうち、60,598人(7.0%)が生殖補助医療により誕生しており、その割合は約14.3人に1人となっています(出典:生殖補助医療による出生児数:公益社団法人日本産科婦人科学会「ARTデータブック(2019年)」、全出生児数:厚生労働省「令和元年(2019)人口動態統計(確定数)の概況」)。 次に、「不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の割合」ですが、不妊を心配したことがある夫婦は35.0%となり、夫婦全体の約2.9組に1組の割合となっています。また、実際に不妊の検査や治療を受けたことがある、又は現在受けている夫婦は18.2%となっており、実に約5.5組に1組の夫婦が不妊治療・検査を受ける時代となっています(出所:国立社会保障・人口問題研究所「2015年出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」など)。 「そんなに多いのか」と思われた方も多数いらっしゃるのではないでしょうか。本稿を執筆している際に筆者も以前に数人の友人たちから「実は、不妊治療を受けていたんだよね」といった告白を聞いたことを思い出しました。 これだけ多くの夫婦が「不妊治療」を検討している現状を踏まえて国は、2022年4月から保険適用の範囲を拡大し、人工授精や体外受精を用いた不妊治療をその対象としました。これをきっかけに、今後不妊治療を望む方は益々増えてくることが予想されます。 そうなると、「働きながら不妊治療ができるのか?」といった疑問が出てくるでしょう。つまり、「仕事と不妊治療の両立」です。不妊治療をしたことがある(又は予定している)労働者のうち、「仕事との両立ができず仕事を辞めた」とした人の割合は15.8%、「両立できず不妊治療をやめた」とした人の割合は10.9%、「両立できず雇用形態を変えた」とした人の割合は7.9%となっており、「仕事との両立ができなかった」人の割合は実に3割を超える34.7%となっています(出所:厚生労働省平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業調査結果報告書」以降のデータ別途断りのない限り同様)。 不妊治療は経済的な負担も少なくありません。そういった中で、会社を辞めてしまう、雇用形態を変えるということは、経済的な面にとどまらず、キャリア形成から見ても本人たちにとってデメリットとなります。もちろん、会社にとっても優秀な「人財」を失うこととなれば、大きな損失となります。特に、近年出産年齢が高齢化していく中では、管理職、管理職候補の方が「不妊治療」と仕事の両立に悩まれている可能性もあり、不妊治療を受けながら働き続けることができる環境づくりを会社は求められています。 つまり、会社が「不妊治療」のサポ-トをし、安心して労働者が「仕事と不妊治療」の両立を可能とするように支援する必要が出てきているのです。   2 不妊治療のこと、ご存じですか? 皆さんは「不妊治療」について、どのくらいのことをご存じでしょうか。 労働者に「不妊治療に係る実態(不妊の検査や治療を受けたことがある割合、全出生児のうち、生殖補助医療で誕生した子の割合、不妊治療による副作用について、不妊治療には、一定の頻度で通院が必要となること)を知っているか」と尋ねたところ、「ほとんど知らない」、「全く知らない」といった回答の割合は77%となっており、逆に「全て知っている」との回答は3%となっています。男女別に見てもこの数字は大きな変化がなく、ほとんどの人は不妊治療についての知識を持ち合わせていないようです(〈図表1、2〉参照)。 〈図表1〉 不妊治療に係る実態を知っているか (出所:厚生労働省平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業調査結果報告書」以降の図表も断りのない限り同様) 〈図表2〉 不妊治療に係る実態を知っているか(男女別) 不妊治療のことを知らなければ、会社としてどういった配慮をする必要があるのかも分かりませんし、相談を持ちかけられても対応できないといったことになってしまいます。そのためまずは、不妊治療のことを知る必要があります。 そもそも「不妊」とはどういった状況のことをいうのでしょうか。公益社団法人日本産婦人科学会では「妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないもの」としており、この一定期間は「1年というのが一般的である」と定義しています。 「不妊」というと女性の問題ではないかと考える方も多いと思われますが、WHO(世界保健機関)では、男性の精子数が少ないなど約半数は男性に原因があるとしています。もっとも、検査をしても原因が分からないこともあり、検査するだけでも大きなストレスを感じている方が多くいらっしゃるようです。 検査によって、不妊治療の原因となる疾患が分かった場合は、薬による治療や手術を行いますが、原因がはっきりとしない場合であっても、不妊治療を行うことがあります。この不妊治療は、加齢により妊娠しにくくなることを考慮すると、年齢が若いうちに開始した方が1回当たりの妊娠・出産に至る確率は高い傾向があります。治療を始めてすぐに妊娠する場合もあれば、何年も治療を続ける場合もあり、いつまで治療を続けるのかを明らかにすることは難しいようです。 不妊治療に必要な通院日数の目安は、〈図表3〉のとおりですが、あくまでも目安であり、医師の判断、個人の状況、体調等により通院日数は増減することがあります。 〈図表3〉 通院日数の目安 (出所:厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」) 体外受精(精子と卵子を採取した上で、体外で受精させ、子宮に戻して妊娠を図る技術)、顕微授精(体外受精のうち、人工的に注射針等で精子を注入するなど人工的な方法で受精させる技術)を行う場合には、女性は頻繁な通院が必要となります。また、タイミング法(排卵のタイミングに合わせて性交を行うよう指導する)や人工授精(精液を注入器で直接子宮に注入し、妊娠を図る技術)を行う一般不妊治療については、排卵周期に合わせた通院が求められるため、前もって治療の予定を計画することが難しい場合もあります。 さらに、不妊治療は身体的・精神的・経済的な負担を伴い、ホルモン刺激療法等の影響で体調不良等が生じることもあり、腹痛、頭痛、めまい、吐き気等の他、仕事や治療に関するストレスを感じることがあります。もちろん、男性も女性の周期に合わせた通院や治療への参加が求められることもありますし、精神的な負担やストレスを感じることもあるようです。   3 職場で求められる配慮 さて、不妊治療について学んだところで、会社としてどういった配慮をする必要があるのかを考えてみましょう。 実は、不妊治療をしていることについて「職場に一切伝えていない(伝えない予定)」としている人の割合は、約58%となっています。前述のとおり特に女性にとっては頻繁に「治療を受ける時間」が必要であるのに、職場に伝えていないのが実態となっています。 では、なぜ職場に伝えていないのでしょうか。 その理由は、「不妊治療をしていることを知られたくないから」が最も多い理由となっています。他では「周囲に気づかいをして欲しくないから」「不妊治療がうまくいかなかった時に職場に居づらいから」といった理由が多く挙げられています。 〈図表4〉 職場への共有状況 〈図表5〉 職場で伝えていない理由 言葉を選ぶ必要がありますが、不妊治療については、必ずしも望み通りの結果が伴わないことも考えられます。治療中の方はこういったことも頭にあって「知られたくない」「気づかいをして欲しくない」ということなのかもしれません。確かに、前述の私の友人たちもお子さんが生まれた後の告白でした。もちろん、この辺りは個人のプライバシーの問題もあり、難しいところですが、安心して「不妊治療」が行えるように会社からの支援を求めるのであれば、やはり、伝えてもらわなければ、支援のしようがないのかなと思います。 「会社に伝えやすい環境」に一番重要なのは、一緒に仕事をしている職場の同僚たちの理解です。治療によって休むことも多くあるかもしれません。また、治療後の体調が良くないこともあるでしょう。多くの人員を抱えている部署ばかりではありませんから、思わず「いっぱい休めていいね~」なんて言葉が出てしまうかもしれません。こちらは冗談のつもりでも、職場での発言で傷ついてしまうこともあります。親しい間柄でも発言には注意をしなければなりません。 ある顧問先で聞いた話ですが、女性社員が上司に「不妊治療をしているため、急に休んだりすることもあるので事前にお知らせしておきます」といった相談をしたところ、文章にすることをはばかられるような発言があったとのことです。相談した女性社員が傷ついただけでなく、周りにいた他の社員も「あり得ない発言」とのことでした。その上司は部下からの指摘もあり、謝罪したとのことでしたが、相談の対象となるべき上司がこれでは会社に伝えたくないと思われても仕方ありません。 厚生労働省では、会社内で不妊治療に関する研修を行う際の資料や「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのマニュアル」「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック」などを作成し、「不妊治療と仕事の両立について」のサポートを行っています。 このような資料を用いて、研修を実施することも「職場での理解」を深めるためには必要です。定期的に婦人科医の先生に「不妊治療」についての講演を実施している会社もあるようです。このような研修は、今悩まれている方でだけでなく、広い範囲を対象とするのがよいでしょう。少しでも早いタイミングで「不妊治療」について知ることが、自分自身のことを考えるきっかけになるからです。「不妊治療」を開始する際に「もっと、早く知っていれば・・・」という声も多く聞かれるようです。 また、相談を受けた方には注意してほしいことがあります。前述のとおり、不妊治療していることを知られたくない方も多くいるのです。不妊治療についての相談を受けても、本人の了承無く、他人に知らせたりすることは、慎んでいただくことです。なかなか言い出せない中で思い切って相談している可能性もありますので、慎重にご対応ください。 なお、上司が相談を受けた場合には、安心して治療を受けることができるようにするためにも、不妊治療によりどの程度仕事に影響がありそうなのか、今後の治療の見通し、本人のニーズなどを把握する必要があります。また、会社としてどういった制度などで支援することが可能なのかについて、人事部などに確認するなどして伝えてあげることも重要です。もちろん、会社としてできることとできないことがあることも理解してもらう必要があります。 労働者からの不妊治療の申出を行う際に使える「不妊治療連絡カード」も前述の厚生労働省のホームページに用意されていますので、こちらもぜひご活用ください。 (【後編】へ続く)

#No. 498(掲載号)
#飯野 正明
2022/12/08

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第33回】「ハラスメントが認められない場合のフィードバックの注意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第33回】 「ハラスメントが認められない場合のフィードバックの注意点」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の社員Aから、「上司Bからハラスメントを受けた」との申告を受けましたが、調査の結果、上司Bの社員Aに対するハラスメントは認められないという結論に達しました。 調査結果をフィードバックする際の注意点を教えてください。 【Answer】 被害者に対するフィードバックについては、被害者がフィードバックにより精神的損害を被ったなどとして会社の損害賠償責任を追及したり、会社の調査結果に不満を抱いて裁判を提起したりすることを避けるといった観点から、慎重に実施する必要があります。 調査協力者や加害者に対するフィードバックにおいては、被害者が殊更に虚偽の事実を申告したなどという誤解を招かないよう、表現等に十分に注意する必要があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 ハラスメント被害者(申告者)へのフィードバック ハラスメントの調査が終了したら、被害者(申告者)に対して調査結果等をフィードバックすることになる。この点、ハラスメントの被害を申告する者は、自分がハラスメントの被害者であり、会社もそのことを認めてくれると信じている場合が少なくない。 そのような「被害者」(以下、本稿においては、ハラスメントの被害を申告した者を「被害者」、加害者として申告された者を「加害者」と呼ぶ)に対して、ハラスメントが認められなかったと告げるのだから、慎重なコミュニケーションを心がけるべきことは言うまでもない。 具体的には、 といった観点から、以下の点に注意してフィードバックを行うべきである。 (1) 冒頭で感謝を述べる まず、フィードバックの冒頭で、会社の職場環境について問題提起をしてくれたことについて感謝を述べることが推奨される。仮にハラスメントの事実こそ認められないにしても、被害者の申告をきっかけに職場環境の問題点が見つかることは多い。このように、会社の職場環境について問題提起をする従業員がいるからこそ、会社の職場環境の改善の機会を得ることができるという側面もある。 また、被害者に対して、自分の経験や申告は無駄ではなかったのだと感じてもらうことにより、上記①及び②といった効果が期待できる可能性もある。 (2) フィードバックの進め方等について医師等の専門家に相談する ハラスメントの被害者は、ハラスメント(と本人が感じた言動)に起因する精神的な傷病等を抱えていることが多い。そこで、産業医等の専門家に対して、被害者の精神的傷病の内容等を説明したうえで、フィードバックの内容や進め方等について相談することも推奨される。 なお、弊職は、以前、産業医に相談した際に、「個人としての柳田さんと、弁護士としての柳田さんの立場を分けてフィードバックを行ってはどうか」とのアドバイスを受けて、被害者に対して、「私個人としては、あなたの気持ちは大変よくわかる。しかし、弁護士として、法律の専門家として、本件において違法なハラスメントを認定することはできない」といったフィードバックを行ったことがある。このように、例えば、法務担当者・人事担当者において、「私個人としては~。しかし、法務担当者・人事担当者としては~」といった流れでフィードバックを行うことも考えられる。 (3) 口頭で行う 被害者から、書面でフィードバックしてほしいと求められることがあるが、フィードバックは口頭で行った方がよいのではないかと考える。 対面で(ないしウェブ会議で)被害者の反応を見つつ言葉を選びながら進めた方が、被害者の納得を得やすいのではないかと思われるし、ハラスメント事案は少なからず関係者のプライバシーに関わることから、書面の形にして万が一流出した場合には大きな問題となり得るためである。   2 調査協力者に対するフィードバック ハラスメントの事実調査等に際しては、関係者に事情聴取を行うなど、調査に協力してもらうことがあるが、かかる調査協力者からフィードバックを求められることもある。 調査協力者は、当該ハラスメントの加害者や被害者と同じ部署に所属しているなど、加害者や被害者と身近な関係にあることが多く、特に、調査協力者が加害者の部下である場合、加害者がハラスメントを行ったか否かは調査協力者にとっても重大な関心事である。 また、ハラスメントが認められた場合のフィードバックとは異なり、加害者の処分内容等のプライバシー事項を開示するわけではないし、加害者のハラスメントが認められなかったことを説明して加害者の名誉を回復する必要もあることから、求めに応じてフィードバックを行うという判断もあり得ると考える。 ただし、被害者が殊更に虚偽の事実を申告したなどという誤解を招かないよう、表現等には十分に注意する必要がある。   3 ハラスメント加害者に対するフィードバック 同僚や部下からハラスメントの加害者であると申告されることは、加害者にとっても大変な心理的負荷を与えられるものである(※)。 (※) アンシス・ジャパン事件判決(東京地判平成27年3月27日・労働判例1136号125頁)は、「二人体制で業務を担当する他方の同僚からパワハラで訴えられるという出来事(トラブル)は、同僚との間での対立が非常に大きく、深刻であると解される点で、客観的にみても原告に相当強い心理的負荷を与えたと認めるのが相当」であるとして、そのようなトラブルの再発を防止し、加害者(原告)の心理的負荷が過度に蓄積することがないよう、会社は適切な対応をとるべきであったと判示した。 よって、加害者に(ハラスメント行為は認められないものの)問題行為が認められる場合はもちろんのこと、そのような行為が認められない場合においても、加害者に対して調査結果のフィードバックを行うことが望ましい。 この場合、被害者が殊更に虚偽の事実を申告したなどという誤解を招かないよう、表現等に十分に注意する必要があることは、調査協力者に対するフィードバックの場合と同様である。 (了)

#No. 498(掲載号)
#柳田 忍
2022/12/08

プロフェッションジャーナル No.497が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年12月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.497を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/12/01

monthly TAX views -No.119-「いつまで住民税非課税世帯基準を使うのか」

monthly TAX views -No.119- 「いつまで住民税非課税世帯基準を使うのか」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   新型コロナウイルス感染症に関連して様々な給付金が支払われている。最近では、1世帯当たり10万円の「臨時特別給付金」、電力、ガス、食料品などの価格高騰に対する支援として1世帯当たり5万円の「緊急支援給付金」がある。 問題は、これらの給付の対象者が、「住民税非課税世帯」というアナログ的な基準によって判断される点だ。 *  *  * どこに問題があるのか。 第一に、住民税非課税世帯の多くが高齢の年金受給世帯で、必ずしも生活困窮者ではないという点だ。非課税かどうかという基準は「所得」なので、給与所得者より高水準の公的年金等控除がある年金受給者は、勤労者より高水準の「収入」でも住民税非課税になる。 具体的には、夫婦2人世帯で、年金受給者の課税最低限は208万円、給与所得者の課税最低限は168.8万円と年金受給者有利になっている(具体的な金額は自治体によって異なる)。とりわけ65歳以上の者については、110万円という控除の最低保証がある。世代間の公平に反しているともいえよう。 そもそも高齢者は若者と比べて「資産」を保有している割合が圧倒的に多いが、これが考慮されていないというのも問題だ。 この結果、住民税を負担しているが困窮している勤労世帯が給付から外れることになる。単身の給与所得者は年収100万円が住民税課税ラインだが、厚生労働省調査での貧困ライン(等価可処分所得の中央値の半分、平成21年)は 112万円となっている。 次に、給付が世帯当たりで一律の金額となっており、世帯の人数が給付額に反映されていないことだ。4人世帯と1人世帯では、困窮度が異なるはずだが、その点は考慮されていない(住民税非課税かどうかの判定には考慮されている)。 このように、住民税非課税世帯基準では、困窮度の高くない高齢年金世帯が給付を受ける一方で困窮世帯が外れるなど財源の無駄遣いや不公平が生じている。 *  *  * 下図は、米国のコロナ関連給付金だが、世帯の人数と所得という2つの判断基準できめ細かく給付されている。 (出典) Tax Foundationホームページより筆者加工。 このようなことを解決するには、マイナンバー制度を活用して、所得と給付とを連動させることが必要だ。マイナンバー制度導入の理念は、「より公平・公正な社会の実現、社会保障がきめ細やかかつ的確に行われる社会の実現」のはずだ。 問題は、所得と給付の連動に関して、将来像すら政府部内で共有されていないことだ。以下は筆者が、デジタル庁や内閣府の有識者会議で提言しているコンセプトである。 国税庁や日本年金機構が取得した所得情報をデータ化し、他の機関が利活用できる情報集約データベース(データ・ハブ)を国が作る。サラリーマン、年金受給者、個人事業者などの収入情報がデータとして提供され、プラットフォーム経由で報酬を得るギグワーカーについてはプラットフォーマーから、フリーランスについては発注主から収入情報をデータで送付させる。これにより大半の勤労者の収入情報をカバーすることができる。 こうすれば、住民税非課税世帯というアナログ基準に頼ることなく、社会保障やコロナ給付などの対象者を見つけて、きめ細かい給付が可能になる。「106万円の壁」を打破するためのきめ細かな給付も可能になるなど、計り知れないメリットがある。 政府は、他国と比べ遅れている「デジタル・セーフティネット」の構築を急ぐ必要がある。 (了)

#No. 497(掲載号)
#森信 茂樹
2022/12/01

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第6回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第6回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (3) 暗号資産を譲渡した場合の計算に関する規定 ア 棚卸資産と売上原価の計算 棚卸資産を譲渡した場合には、総収入金額から、これに対応する売上原価等を控除して、所得を算出する(所法27、36、37)。 棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法について、所得税法47条は、要旨次のとおり定めている。 これを受けて、政令では、次のような規定が整備されている。 このような規定が整備されていることから、棚卸資産の売上原価の計算は、おおむね次ののようなもの(※3)であると解されている(なお、棚卸資産に準ずる資産に係る売上原価の計算については、所基通47-15参照)。 【棚卸資産の販売による所得金額の計算】 上記の(※3)の売上原価の算式のうち、①の「前年末の棚卸資産評価額」(期首棚卸評価額)は前年末の数字をそのまま使用できる、②の「当年中の棚卸資産仕入額」は帳簿上明らかであるから、問題は③の「当年末の棚卸資産評価額」ということになる。 上記の所得税法47条が評価方法等を定めているのはまさにこの部分である。 さて、この場合の棚卸資産からは暗号資産が除外されているため(所法2①十六)、上記の各規定は暗号資産には適用されない。その代わりに、暗号資産を譲渡した場合の計算に関する規定が別途、整備されている。 イ 暗号資産の譲渡原価の計算 暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法について、所得税法48条の2は、要旨次のとおり定めている。 この所得税法48条の2の規定は、事業所得の金額又は雑所得の金額の必要経費に関する定めであるが、その規定ぶりからすると、暗号資産に係る所得の所得区分を事業所得又は雑所得に限定する趣旨までも含むものではないと解される。 細かい規定については後で確認するが、条文を見比べてもわかるとおり、暗号資産の譲渡原価の計算方法は、棚卸資産の売上原価の計算方法と同様である。 【暗号資産の譲渡による譲渡原価の計算】 上記③の当年末の暗号資産評価額は、「当年末時点の1単位当たりの取得価額 × 当年末時点の保有数量」で算出することができる。ここでは暗号資産の「取得価額」がポイントとなり、2つの種類の「取得価額」を観念しておくとわかりやすい。 1つは、「当年末時点の1単位当たりの」取得価額である。 これは、移動平均法又は総平均法によって算出されるものであり、この算出した取得価額をもって当年末の暗号資産(期末暗号資産)の評価額とされる(所令119の2)。 もう1つは、上記の暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額である。 これは、暗号資産を取得する取引ごとに観念されるものであり、例えば、暗号資産を購入する取引であれば、購入の代価と購入のために要した費用である。 なお、ここで所得税法は、暗号資産の譲渡による譲渡原価を算定する際に、期末に保有する暗号資産(③当年末の暗号資産)を一定の方法により「評価」すると表現していることに留意する必要がある。この視点は、法人税法において、期末に法人が有する暗号資産を時価で「評価」する規定との対比で理解しておく必要がある(詳細は後述)。 ウ 暗号資産の取得価額 暗号資産の評価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額、すなわち年末時点での1単位当たりの取得価額の計算の基礎となる暗号資産の取得価額は、その取得の方法に応じて、それぞれ次のように定められている(所法40、所令119の6、国税庁FAQ「1-4 暗号資産の取得価額」)。 (※) 暗号資産同士の交換、マイニング(採掘)、フォーク(分裂・分岐)などによる取得がこれに該当するが、フォーク(分裂・分岐)により暗号資産を取得した場合の取得価額はゼロ円と考えられている(国税庁FAQ「1-5 暗号資産の分裂(分岐)により暗号資産を取得した場合」)。 対価を支払って暗号資産を購入した場合の取得価額は、購入の代価に、購入手数料その他その暗号資産の購入のために要した費用の額を加算した額となる。 したがって、上記例では、取得価額は10,000,330円(税抜経理方式を採用している場合は、10,000,300円)となる。 なお、消費税法上、暗号資産の譲渡は非課税であるが(消法6①、別表第一・第二、消令9④)、上記のような暗号資産交換業者に対して取引の仲介料として支払う手数料は、仲介に係る役務の提供の対価に該当し、消費税の課税対象になる(国税庁FAQ「1-4 暗号資産の取得価額」)。 贈与又は遺贈により暗号資産を取得した場合(③の場合を除く) におけるその取得した暗号資産の取得価額は、贈与又は遺贈の時の価額(時価)である。 したがって、上記例では、取得価額は10,000,000円となる。 なお、個人が、贈与又は遺贈により暗号資産を取得した場合(③の場合を除く)により、暗号資産を移転させた場合には、その個人(すなわち贈与者又は遺贈者)の所得税の計算上、その贈与又は遺贈の時における暗号資産の価額(時価)を総収入金額に算入する必要があることに注意が必要である(本連載第5回参照)。 (了)

#No. 497(掲載号)
#泉 絢也
2022/12/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例47】「経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例47】 「経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、東海地方において工作機械を製造・販売する株式会社Xで経理部長を務めております。あらゆる機械やその部品類は基本的に当社が扱うような工作機械によって製造されるため、工作機械は一般に「機械を作る機械」「(和製英語ですが)マザーマシン」といわれており、有力な自動車製造会社が複数存在する東海地方においては、伝統的に工作機械メーカーが多数立地しています。戦後創業した当社もその一角として、これまで順調に事業活動を展開してきました。 しかし、近年、当業界においても中国メーカーの台頭などもあって国際的な競争が激しくなり、事業再編の話がひっきりなしに飛び交っています。そんな中、数年前に、東海地方にある有力な自動車部品メーカー甲の子会社のうちの一社(乙)に関する事業譲渡の話が当社に持ち込まれました。すなわち、乙社は従業員の高齢化によりここ数年経営成績が低迷しており、甲のグループ企業再編の一環で整理する必要に迫られていたものの、甲に対して自社製造の工作機械を納入し、またそのメンテナンスを行ってきたため、今後も確実な売上が望めるという話でした。 そこで、当社は甲から乙の株式全部の譲渡を受けることとなりました。その株式譲渡価格の算定においては、乙の簿価純資産価額がほぼゼロであることを考慮しつつ、甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権があることを斟酌し、後者の価値を過去の実績から1億2,000万円と見積もりました。 当社は乙の株式の譲渡を甲から受けたのち、乙の甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を営業権と認定して、その価格1億2,000万円を3年間にわたって均等償却し、各事業年度において損金に算入していました。 ところが先日受けた税務調査で、税務署の調査官から、甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権なるものは実体がなく、営業権と呼べるものではないため、償却費の損金算入は認められないと言い渡されました。調査官の当該主張には到底承服できないのですが、法人税法上どのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。 【A】 法人税法上、無形の減価償却資産である営業権とは一般に、企業の超過収益力を指し、当該企業の長年にわたる伝統や社会的信用、特殊の製造技術や取引関係の存在等に基づき生じる、他の企業を上回る収益を稼得することを可能とする無形の財産的価値を有する事実関係をいうものと解されます。 したがって、本件のように、経営譲渡契約に伴い第三者に支払った金銭が営業権の対価であるといえるかどうかは、その実体において、譲り受けた法人乙が甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を今後保持し続けているなど、経済的価値を認定できるかどうかにかかっているものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 法人税法上の営業権の意義 営業権とは一般に会計学上の用語で、無形固定資産に分類されるが(企業会計原則第三の四(一)B)、会社法上はのれん(暖簾)と称され、得意先関係、営業上の秘訣(ノウハウ等)など、法的権利とは認められていないが、経済的価値のある事実関係であると解されている(※1)。のれんは営業権の中核をなし、企業の超過収益力をいうものと一般に解される(※2)。 (※1) 江頭憲治郎『株式会社法(第8版)』(有斐閣・2021年)677頁。 (※2) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)394頁。 平成21年改正の会社計算規則においては、会社は吸収型再編、新設型再編又は事業の譲受けをする場合において、適正な額ののれんを資産又は負債として計上することができるとされている(会規11)。 一方、法人税法において、営業権は減価償却資産で無形固定資産に分類されるが(法令13八ワ)、判例上、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係である、と解されている(最高裁昭和51年7月13日判決・訟月22巻7号1954頁)。   (2) 工作機械業界の動向 機械は、素材を削ったり、穴をあけたりして作られる部品や金型によって作られる部品により構成されるが、そのような部品類を精密かつ効率的に製作するために必要な機械である工作機械は、一般に、「機械を作る機械」ないし「マザーマシン(和製英語)」といわれている。狭義の工作機械は、主として金属の不要な部分を削り取って所要の形状に仕上げる機械(金属切削工作機械)を指し、広義の工作機械は、金属切削工作機械に加えてプレス(鍛圧)機械や木工機械も含めることとなる。 また、工作機械は更に、作業者がハンドルを回すなどマニュアルで操作する汎用工作機械と、コンピュータ等による数値制御で自動運転を行うNC(Numerically Control)工作機械とに分けることがある。現在、わが国における工作機械に占めるNC工作機械の割合は約9割である。 工作機械に関する数値制御の技術は、戦後アメリカで開発されたものであるが、わが国のメーカーはいち早くその技術を導入し応用開発に取り組んだことから、1982年には世界一の生産国となった。その後その地位を30年近く保持したものの、2009年以降中国にその座を譲り、現在はドイツと2位を争っているところである。 わが国における工作機械需給状況の推移を図で示すと以下の通りとなる。 〈工作機械需給状況の推移〉 (出典) 日本工作機械工業会HPより筆者作成。   (3) 経営譲渡契約に基づき発生する営業権の償却費に係る損金性 本件のように、経営譲渡契約に基づき第三者に支払った営業権の償却費について、その損金性が争われたものとして、大分地裁平成17年3月24日判決・判タ1217号218頁(TAINSコード:Z255-09969)があるので、以下でみていきたい。 ① 事案の概要 本件は、砂利採取販売業、生コンクリートの資材販売業等を営む株式会社である原告が、経営譲渡契約に基づき第三者に支払った5,430万円を3事業年度にわたって営業権にかかる償却費として損金経理処理をしたところ、被告である日田税務署長が、同金額を営業権の対価と認めず、法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、原告がこれを不服として取消しを求めた事案である。 株式会社Bは、平成3年7月1日に設立された法人で、生コンクリート等の製造販売を主な事業としている。平成7年9月1日当時のBの発行済み株式の総数は100株、資本の額は1,000万円であり、株式会社Cは、Bの全株式を所有し、親会社の立場にあった。 なお、Cと株式会社Dとはグループ会社であり、平成14年4月にCはDに吸収合併され、解散した(以下、Cが解散するまでのDとCを併せて「E」という)。 なお、原告、B、Eは、平成7年10月6日付けで本件譲渡契約書の変更等についての確認書を作成し、本件譲渡契約書第2条に定める原告からEに支払う営業権の対価を5,430万円と改めた。 原告は、本件譲渡契約に基づいてEに支払った5,430万円は資材納入権及び事業用動産の対価であり、法人税法第2条第23号及び同法施行令第13条第8号ル(当時)に規定する営業権に該当するとして、平成11年6月期において3,290万円、平成12年6月期において1,892万円、平成13年6月期において248万円をそれぞれ営業権にかかる償却費として損金経理処理をした。 一方、被告・税務署長は、原告に対し、本件損金処理金員が、原告がBの発行済株式の全株式を取得することにより、Bの事業活動のすべてを支配下に置き企業支配を行うための支出であり、営業権の対価とは認められず、当該株式の取得価額を構成するものであること、Eから原告に対する動産の譲渡は実際には行われていないことなどを理由として、原告の確定申告における営業権の各償却費を損金として認めず、各償却費分を各事業年度の所得金額に加算し、法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 ② 本裁判例の争点 本件損金処理金員が、法人税法等所定の営業権の対価及び動産取得に要した費用に該当するのか、それとも株式の取得価額を構成するものかであり、要は、本件譲渡契約の譲渡対象は何か、である。 ③ 裁判所の判断 ④ 本裁判例からいえること 本裁判例は、原告・納税者側が、セメント業界において観念されている「資材納入権」という権利関係が営業権に含まれると主張したのに対し、裁判所がそれを否定した事例である。資材納入権というのものが、例えば市場価格よりも高い価格で独占的に他社に資材を納入できる権利であるとすれば、財産的価値のある営業権であると認定される余地があることから、資材納入権が営業権に含まれるか否かは、正に具体的事実ごとに判断されるべき問題であるといえよう(※3)。 (※3) 金子前掲(※2)書386~387頁参照。 本裁判例において裁判所は、原告の主張する資材納入権は、譲渡契約書上その内容が曖昧であり、また、経営権とは離れた独立の権利であるかどうか疑わしいことから、仮に譲渡契約において、資材納入権が譲渡対象とされていたとしても、Bの経営権譲渡におけるいわば付け足しであって、独自に価格評価がなされたものとは到底考えられないため、営業権には含まれないと判断している。本件における資材納入権には、他の企業を上回る企業収益(超過収益力)を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係というように認定され得る要素がなかったということであり、営業権を認識することは困難ということであろう。   (4) 本件へのあてはめ 法人税法上、無形の減価償却資産である営業権とは一般に、企業の超過収益力を指し、当該企業の長年にわたる伝統や社会的信用、特殊の製造技術や取引関係の存在等に基づき生じる、他の企業を上回る収益を稼得することを可能とする無形の財産的価値を有する事実関係をいうものと解される。 したがって、本件のように、経営譲渡契約に伴い第三者に支払った金銭が営業権の対価であるといえるかどうかは、少なくともその実体において、譲り受けた法人乙が甲に対する工作機械の納入・メンテナンスの優先的な契約権を今後保持し続けているなど、経済的価値を認定できるかどうかにかかっているものと考えられる。 (了)

#No. 497(掲載号)
#安部 和彦
2022/12/01

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第62回】「特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制との有利選択」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第62回】 「特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制との有利選択」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲は個人事業主で事業を行っていましたが、令和4年11月22日に相続が発生しました。甲の相続人は、長男である乙と二男である丙の2人となります。相続後、甲の個人事業は乙が承継しています。乙及び丙が下記のとおり甲の財産を相続した場合において個人版事業承継税制を適用した方がいいのか、それとも個人版事業承継税制を適用しないで小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用をした方がいいのか、どのように判断すればよいのでしょうか。 特定事業用資産の内訳は、下記のとおりです。 (※) 特定事業用宅地等の特例の要件、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の要件のいずれも満たしています。 [A] 個人版事業承継税制と小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例は選択適用とされていますので、それぞれの場合で相続税の納付税額の計算を行い比較する必要があります。 下記の表のとおり、乙の納付税額については個人版事業承継税制の適用を受けた方が有利となりますが、丙の納付税額については、個人版事業承継税制を適用しない方が有利となります。全体の相続税の納付税額の合計額については、個人版事業承継税制の適用をした方が有利となりますので、特定事業用宅地等の特例を適用しないことによる丙の納付税額の増加部分については、乙及び丙に説明を行うとともに、遺産分割の調整や乙から丙への金銭贈与を行う等の配慮も必要になります。 また、税額比較の他に納税猶予適用後の期限確定事由や免除事由の可能性、納税猶予適用時と適用後における税理士等の報酬も含めて、最終的に個人版事業承継税制を適用した方がいいかどうかを検討する必要があります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の計算 個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の具体的な計算方法は、下記の3ステップにより計算することになります。 〈個人版事業承継税制を適用する場合における相続税の計算〉 (出典) 国税庁ホームページ「個人の事業用資産についての贈与税・相続税の納税猶予・免除(個人版事業承継税制)のあらまし(令和4年5月)」9頁 ■ ステップ1 の計算 通常の相続税の計算と同様に相続人等が取得した全ての財産に基づき相続税の総額を算出し、それぞれの相続人等が実際に取得した正味の遺産額の割合に応じて按分し、各相続人等の算出税額等を計算します。 ■ ステップ2 の計算 後継者の相続税の猶予税額を計算します。相続税の猶予税額は、相続税の課税価格の計算において相続税の納税猶予の適用を受ける特定事業用資産(以下「特例事業用資産」という)の価額(後継者が債務・葬式費用を承継負担している場合には、特定債務額(※)を控除した残額。以下「特定価額」という)と他の相続人等が取得した全ての財産の価額の合計額を課税価格とみなして計算した相続税の総額のうち特定価額に対応する税額(相続税額の2割加算の適用がある場合及び暦年課税分の税額控除の適用がある場合にはその適用後の金額)が相続税の猶予税額となります(措法70の6の10②三、措令40の7の10⑨⑩⑪)。 ■ ステップ3 ステップ1で計算した後継者の税額とステップ2で計算した後継者の猶予税額との差額が後継者の納付税額となります。   2 本問の場合の納付税額と猶予税額の計算 個人版事業承継税制の適用の有無の場合で乙の納付税額、猶予税額及び丙の納付税額は、それぞれ下記のとおりとなります。 (1) 個人版事業承継税制の適用あり(特定事業用宅地等の特例の適用なし) ステップ1 通常の計算 ステップ2 乙が特定事業用資産のみを取得したものとして計算(乙の猶予税額) ステップ3 後継者の納税額 (2) 個人版事業承継税制の適用なし(特定事業用宅地等の特例の適用あり)   ★実務上のポイント★ 相続の場合には、都道府県の認定申請を相続の開始の⽇の翌⽇から8ヶ⽉以内に申請する必要もあり、遺産分割協議をそれまでにまとめる必要もありますので、検討時間に余裕がないことも想定されます。したがって、早めにシミュレートを行い、検討を進める必要があります。   (了)

#No. 497(掲載号)
#柴田 健次
2022/12/01

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第25回】「外国パートナーシップ持分の現物出資の適格要件とは」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第25回】 「外国パートナーシップ持分の現物出資の適格要件とは」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 外国法人に対する現物出資が適格と判定されるための要件である「対象資産が国内にある事業所に属する資産に該当しないこと」は、どのように判断すべきでしょうか。 〔A〕 本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、当該資産が国内又は国外の事業所のいずれの帳簿に記帳されているかにより判定するという基準に沿って検討するのが相当であり、外国パートナーシップ持分は、パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであり、同持分の管理が行われていた事業所とは、外国パートナーシップの事業用財産の管理が行われていた事業所であるとされています。 ●●●〔解説〕●●● 1 外国パートナーシップ持分の現物出資 (1) 我が国の組織再編税制と国際租税 平成13年度税制改正により導入された我が国組織再編税制は、現在、①合併、②分割型分割、③分社型分割、④現物出資、⑤現物分配、⑥株式分配、⑦株式交換、⑧全部取得条項付き種類株式に係る取得決議、⑨株式の併合、⑩株式の売渡請求に係る承認、及び⑪株式移転の11類型が制度化されており、それぞれにおいて適格組織再編成の要件を満たせば、移転する資産に係る譲渡損益の課税の繰延べが認められる。 国際租税の分野においても、当然に、適格組織再編成適用の是非が問われる局面が存在し、今回はその中でも、外国法人に対する現物出資について検討する。 (2) 適格現物出資の概要 現物出資とは、法人への出資に際して、金銭以外の財産をその出資の目的とすることをいい(会社法28、199他)、土地・建物といった資産単体のみならず、事業単位の現物出資もあり得る。適格現物出資とは、〈1〉完全支配関係がある法人間で行う現物出資(法法2十二の十四イ、法令4の3⑬)、〈2〉支配関係にある法人で行う現物出資(法法2十二の十四ロ、法令4の3⑭)、及び〈3〉共同事業を行うための現物出資(法法2十二の十四ハ、法令4の3⑮)のいずれかに該当する現物出資で、現物出資法人(法法2十二の四)に被現物出資法人(法法2十二の五)の株式のみが交付されるものに限られるが、現物出資法人が行う適格現物出資については、移転する資産の譲渡損益の計上が繰り延べられる(法法62の2①)。 ただし、上記〈1〉ないし〈3〉に該当するものであっても、被現物出資法人が外国法人であり、当該外国法人に国内にある含み益を有する資産の現物出資を行った場合、その含み益に対する我が国課税権が確保されないと、課税機会の喪失に繋がるため、次の①~④に掲げるものについては、適格現物出資から除外することとされている(法法2十二の十四括弧書き、法令4の3⑩⑪⑫)(以下「適格現物出資の除外要件」という)。 今回は、英領ケイマン諸島において設立された特例有限責任パートナーシップ(Exempted Limited Partnership:ELP)の持分を現物出資した場合の適格性が問題となった裁判例を取り上げる。   2 過去の裁判例 《塩野義事件》(※4) (※4) (第一審) 東京地裁令和2年3月11日判決・TAINSコード:Z270-13394 (控訴審) 東京高裁令和3年4月14日判決・TAINSコード:Z888-2369 (1) 事案の概要 本件は、内国法人である納税者(原告X)が、米国法人との間でジョイントベンチャーを形成する契約を締結し、ケイマンにおいて特例有限責任パートナーシップであるCILPを設立し、そのCILPのパートナーシップ持分全部をXの英国完全子会社に対し現物出資により移転した上で、当該現物出資は適格現物出資に該当するとして確定申告をしたところ、課税庁(被告Y)から、本件現物出資は「国内にある事業所に属する資産」に該当し、適格現物出資に該当しないとして更正処分等を受けたため、処分の取消しを求めた事案である。 主たる争点は、本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かであった。 (2) 裁判所の判断 本件の第一審である東京地裁は、まず、本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かの判断基準である法人税基本通達1-4-12(本件通達)を引用し、資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するという基準に沿って検討するのが相当であるとした。 次に、本件現物出資の対象資産は本件CILP持分で、その内実はCILPの事業用財産の共有持分と有限責任パートナー(LP)としての契約上の地位とが不可分に結合された資産で、これらが全て結合された1個の資産とみて、その管理が行われていた事業所を特定するのが相当であると判示し、その管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でも主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当であり、その事業所は米国その他の我が国以外の地域に所在していたと認定し、本件CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとし、Yの処分を取り消した。 Yは第一審の結果を不服として控訴したが、控訴審である東京高裁は、若干の独自解釈を交えながらもほぼ原審の判断を踏襲し、本件現物出資の対象資産であるCILP持分は、パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであり、CILP持分の管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所とした。 その上で、CILPの事業用財産が現金、知的財産のライセンス及び治験データ等で構成されていたことから、これらが我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていた点を考慮し、本件持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとし、その結果、本件は適格現物出資の要件を満たすとして、Yの控訴を棄却した。本件は、Yが上告等を行わなかったため高裁で確定している。 (3) 外国パートナーシップ持分の管理の場所に関する考察 本件でX及びYは、本件通達に従い、主として、現物出資対象資産の管理の場所がどこであるかについて主張(※5)し、裁判所もその主張に沿って審理した。しかしながら、仮に現物出資対象資産が国外にある資産と認定されたとしても、現物出資後に、Xが資本関係を有する外国法人が当該現物出資対象資産を保有している限りにおいて、当該資産の含み益は、結局、被現物出資法人の株式に転換されてXの手元に残ることになるのではないかと考えられる。 (※5) 本件において、Yは、本件CLIP持分は国内の事業所で記帳され経常的に管理されているとして国内資産等に該当すると主張したのに対し、Xは、CLIPの事業用財産は米国の事業所で記帳され経常的に管理されており、国内資産等に該当しないと主張していた。 裁判所の認定事実によれば、CILPに対する出資については、Xの本社の経理財務部において管理されている帳簿に勘定科目を「投資有価証券」として記帳されており、Xが本件を適格現物出資として確定申告したことから、本件現物出資後は同じ「投資有価証券」としてのXの英国子会社株式勘定に勘定振替されたと思われる。すなわち、本件現物出資の対象資産である本件CILP持分が、本件現物出資によって、英国子会社の株式に(帳簿価額を維持しながら)転換されたというべきであり、本件CILP持分が有していた「含み益」相当分は、Xにおいて実現することなくそのまま英国子会社の株式として維持されたと考えられる(※6)。 (※6) 西中間浩「最新判例・係争中事例の要点解説」税経通信(2020年9月)182頁は、「本件は原告の英国所在の完全子会社への現物出資であったため、同完全子会社の株式の含み益という形で日本の課税権は確保されているとの見方も可能である。」と述べている。 以上を踏まえると、パートナーシップの事業用資産の所在がどこかに関わりなく、結果的に、内国法人が有する(可能性のある)含み益が国外に流出していないと考えられる場合、我が国課税権の確保という制度趣旨から、現物出資の適格性には問題がないことになる(※7)。すなわち、本件の結論を導くに当たり、現物出資対象資産の管理地の所在の議論は決定的なものでなかった可能性がある。 (※7) 西中間・前掲(※6)182~183頁は、「立法論になるかも知れないが、出資割合25%以上の持分については、国外におけるLPS等の各種事業体をも含めた組織の再編成を妨げることのないように、法人税法施行令4条の3第9項(現10項)の例外規定を適用ないし準用させ(同令4の3(現②二ロ)で同条の『株式』については『出資』を含むとされている)、国内にある持分の現物出資であっても適格扱いすればバランスの取れた解決が図れると考えられる。」と述べている。 (了)

#No. 497(掲載号)
#霞 晴久
2022/12/01
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