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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第16回】「経済活動基準のうちの実体基準にいう「固定施設」とは何か」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第16回】 「経済活動基準のうちの実体基準にいう「固定施設」とは何か」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 経済活動基準のうちの実体基準にいう「固定施設」とは、どのようなものを指すか、具体的にご教示ください。 〔A〕 固定施設は、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要があります。 ●●●〔解説〕●●● 1 実体基準 租税特別措置法66条の6第2項3号ロは、外国関係会社がその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していることを要件とするもので、物的な側面から独立した企業としての活動の実態を有するかを判定する基準(※1)である。なお、経済活動基準における実体基準は、ペーパーカンパニーの判定における実体基準(措法66の6②二イ(1))とは異なり、固定施設が本店所在地国(※2)に所在することが要件とされている。 (※1) 国税庁「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」平成30年1月(平成30年8月・令和元年6月改訂)8頁参照。 (※2) 我が国の税法では、内国法人の定義について、いわゆる本店所在地主義(設立準拠法主義)を採用しており、英国などのように、伝統的に事業の管理・支配の場所を基準とするいわゆる管理支配地主義を採用する国とは異なっている(ただし、現在英国は、両方式の併用である)。したがって、本店又は主たる事務所の所在する国といった場合には、その法人が設立に際し準拠した法令の施行地が、その本店所在地国ということになる。 ここでいう固定施設とは、単なる物的設備ではなく、そこで人が活動することを前提とした概念であるため、外国関係会社の事業活動を伴った物的設備である必要がある。例えば、外国関係会社が主たる事業として不動産賃貸業を行っている場合における賃貸不動産は、実体基準における固定施設には該当しない。 また、この場合における「人の活動」は、必ずしも外国関係会社に雇用された者によるものに限定されない。例えば、発電事業を主たる事業として行っている外国関係会社が、その有する発電所の運営をこれを専門とする他の会社に委託している場合のその発電所は、主として委託先である他の会社の役員又は使用人が利用する物的設備となるが、その発電所は、外国関係会社の発電等といった物的設備と共にそれを動かすための人を一体とした事業活動を伴ったものであるため、実体基準における固定施設に該当すると考えられる(※3)。 (※3) 前掲・「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」8頁。 以上から、主たる事業を行うために必要と認められる事務所等の判定に際しては、次の2つに留意することとされている(措基通66の6-6)。 過去の判例において、実体基準の具体的な当てはめが問題となった事例はいくつかあるが、本稿では、比較的最近の次の事例を検討する。   2 過去の裁判例 《レンタルオフィススペース事件》(※4) (※4) 第一審は、東京地裁平成24年10月11日判決(平成22年(行ウ)第725号・TAINSコード:Z262-12062)。控訴審は、東京高裁平成25年5月29日判決(平成24年(行コ)第421号・TAINSコード:Z263-12220)。 (1) 事案の概要 本件は、シンガポールにおいて設立されたA社の発行済株式総数7,800株のうち7,799株を保有するX(原告・被控訴人)が、所轄税務署長Yから、A社は租税特別措置法40条の4第1項(※5)に規定する特定外国子会社等に該当し、外国子会社合算税制の適用があるとして、A社の課税対象留保金額に相当する金額をXの雑所得に算入することを前提に、平成16年分から平成18年分までの各所得税の更正処分等(本件各処分等)を受けたため、A社は外国子会社合算税制の適用除外要件を満たすから、本件各処分等は違法であると主張して、Yに対し、本件各処分等の取消しを求めた事案である。 (※5) 株主Xは日本の居住者(個人)であるため、適用されたのは改正前租税特別措置法40条の4の規定であった。 A社は、内国法人B社及びその関連会社であるC社の製造する精密ねじ等の製品を東南アジアの日系企業に販売するために平成12年2月3日にシンガポールにおいて設立された株式会社である。Xは、A社の取締役2名のうちの1名であり、B社の常勤専務取締役であった(平成20年5月29日以降は、B社の代表取締役)。 また、A社の発行済株式総数7,800株のうちの1株を保有する乙は、A社の取締役であり、シンガポールに居住していた。他方乙は、昭和63年にシンガポールで設立されたD社のマネージングディレクターであり、同社の業務委託・経営コンサルタント部門は、シンガポールにおいて、事務所設備の賃貸、業務サポートサービスの提供及び営業担当者の派遣を行っていた。A社は、A社の設立時に、D社との間で、A社の周辺事務業務(経理・総務・営業事務)等につき業務委託契約を締結していた。 (2) 実体基準の趣旨 本件の第一審である東京地裁は、実体基準の趣旨について、次のとおり判示した。 (3) 裁判所の判断 本件の実体基準該当性について、東京地裁は、次のとおり事実認定した。 東京地裁は、以上から、「A社が使用していたD社のレンタルオフィススペース及び乙の専用執務室、Eの倉庫スペースは事務所及び倉庫としては必要な規模と考えられ、A社は主たる事業である精密機械部品等の卸売業を行うために十分な固定施設を有していたものと認められ、実体基準を満たしているものと認められる」と判示して、Yの主張を退けた。Yはこの判決を不服として控訴したが、東京高裁は原審を支持し、Y(国側)の敗訴が確定した。   (了)

#No. 459(掲載号)
#霞 晴久
2022/03/03

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第26回】「介護のために同居した場合の特定居住用宅地等の特例の適否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第26回】 「介護のために同居した場合の特定居住用宅地等の特例の適否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年3月1日)は、A土地及び家屋を所有し1人で居住していましたが、介護が必要となり、長男である乙は、相続開始の1年前から週の半分ぐらいはA土地及び家屋に寝泊まりするようになり、住民票もA土地及び家屋に移しました。 乙は甲の相続開始の5年前に会社を退職し、Bマンションを購入し、乙及び乙の配偶者と居住していました。乙は甲の介護をするようになってから週の半分ぐらいはA宅地及び家屋に寝泊まりしていましたが、残りの半分ぐらいはBマンションで家族と過ごし、乙への郵送物についてもBマンションに郵送されていました。乙の配偶者は、A宅地及び家屋には寝泊まりしておらず、Bマンションに居住していました。 乙は甲の相続によりA宅地及び家屋を相続し、相続税の申告期限までは、引き続き週の半分ぐらいはA宅地及び家屋で寝泊まりしていましたが、相続税の申告期限後にA宅地及び家屋を売却し、住民票もBマンションに戻しています。 乙は甲の同居親族に該当し、取得者の要件も満たしていますので、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の対象になると考えていいでしょうか。 [A] 乙は、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができないと考えられます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の意義 被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る。「第19回で解説」)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。 一定の要件を満たす被相続人の親族は、下記の(1)~(3)のいずれかを満たす親族をいいます。 (1) 同居親族 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物(当該被相続⼈、当該被相続⼈の配偶者⼜は当該親族の居住の⽤に供されていた部分として政令で定める部分に限る)に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該建物に居住していること。 政令で定める部分とは、次に掲げる場合の区分に応じてそれぞれに定める部分をいいます(措令40の2⑬、措通69の4-7の4)。 (2) 別居親族 当該親族が次に掲げる要件の全てを満たすこと(措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 (3) 生計一親族 当該親族が当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること。   2 生活の拠点の判定 本問の場合には、乙は上記1(1)の同居親族の要件を形式的には満たすことになるかと思いますが、小規模宅地等の特例の趣旨は、居住の継続の保護であり、その趣旨からすると、相続前後のみの一定期間のみ被相続人の居住用宅地等に居住していた相続人にまで本特例を認めるべきではないことになります。 平成28年6月6日の国税不服審判所の裁決(TAINSコード:F0-3-485)では、同居親族の要件について、相続人が被相続人の居住用家屋に居住していたかどうかが争点となりましたが、下記の通り判示しています。 したがって、生活の拠点がどこにあったのかが重要となります。生活の拠点の判定にあたっては、所得税法における居住用家屋の範囲を定めた租税特別措置法関係通達31の3-2(居住用家屋の範囲)も参考となりますので、確認しておきましょう。   3 本問への当てはめ 本問の場合には、乙の生活の拠点がA宅地及び家屋にあったかどうかを判定することになります。乙は介護のためのみの一時的な利用を目的としていたこと、乙及び乙の配偶者の居住状況からBマンションが生活の基盤になっていると考えられること、介護の期間についてもBマンションに居住している事実があること等を総合勘案すれば、乙の生活の拠点はBマンションにあったと考えるのが相当です。 本問について上記1の要件判定をすると、下記の通りとなります。 〔同居親族の要件判定〕 上記1(1)の同居親族は、「被相続⼈の居住の⽤に供されていた⼀棟の建物に居住していた者」であり、かつ、「相続開始時から申告期限まで引き続き居住していること」が要件になっています。 しかしながら、乙は生活の拠点としてA宅地及び家屋に居住していたとは認められないことになりますので、要件を満たさないことになります。 〔別居親族の要件判定〕 上記1(2)④の要件を満たしませんので、別居親族の要件には該当しません。 〔生計一親族の要件判定〕 乙が生計を一にしていた者であったとしても、上記1(3)の生計一親族は、「相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を⾃⼰の居住の⽤に供していること」という要件を充足する必要があります。しかしながら、乙は生活の拠点としてA宅地及び家屋に居住していたとは認められないことになりますので、要件を満たさないことになります。 なお、居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円の特別控除(措法35①)の居住用財産に該当するかどうかの判定は、上記記載の租税特別措置法関係通達31の3-2(居住用家屋の範囲)に基づき乙の生活の拠点がA宅地及び家屋にあったかどうかで判定を行う(措通35-6)ことになり、考え方は同様になりますので、A宅地及び家屋の譲渡は、乙の居住用不動産の譲渡とは認められないことになります。 また、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の3,000万円の特別控除(措法35③)については、「当該相続の開始の直前において当該被相続人以外に居住をしていた者がいなかったこと」及び「当該相続の時から当該譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと」等が要件となっていますので空き家の3,000万円控除の特例も認められないことになります。 したがって、本問の場合には、譲渡所得の3,000万円の控除の特例も受けることができないことになります。   ★実務上のポイント★ 住民票だけでは特例の判定をすることはできませんので、相続人等の生活の拠点がどこにあったのかを相続人等からヒアリングして確認することが重要となります。   (了)

#No. 459(掲載号)
#柴田 健次
2022/03/03

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第8回】「不動産や株式等を遺贈寄付した場合の取扱い(その2)」~居住用財産の特別控除、相続空き家の特例、寄付金控除を利用する場合~

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第8回】 「不動産や株式等を遺贈寄付した場合の取扱い(その2)」 ~居住用財産の特別控除、相続空き家の特例、寄付金控除を利用する場合~   税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也   前回から、不動産や株式など(以下「不動産等」とする)の現物資産を遺贈寄付した場合の課税上の取扱いについて解説している。 不動産等の現物資産を遺贈寄付した場合には、みなし譲渡所得税が課税される可能性があることを前回述べた。 みなし譲渡所得税は寄付をした不動産等に含み益がある場合に課税されるが、含み益があれば必ず課税されるわけではない。含み益があっても課税されないケース、あるいは課税されても課税額が少なくなるケースについて今回は確認していくことにする。   1 居住用財産を遺贈寄付した場合 居住用財産に係る譲渡所得の3,000万円特別控除(以下「居住用財産の特別控除」とする)の適用を受ける不動産を遺贈寄付した場合には、みなし譲渡所得税部分について、特別控除の適用を受けることができるので、含み益があっても、結果的に課税が発生しない可能性がある。 例えば、寄付者がお亡くなりになる直前まで住んでいた不動産を、相続人で引き継ぐ人がいないので、地元で活動するNPO法人等に寄付をするとする。みなし譲渡所得税の非課税特例を適用するという方法も考えられるが、特例を使うためには、寄付を受けた不動産等をNPO法人等が公益目的事業に直接供する必要があり、そのような使い道がない不動産等であれば、譲渡するか、他の人に賃貸するしかなく、そのような場合には、非課税の特例を受けることはできない。 しかし、居住用財産の特別控除の適用要件を満たしていれば、みなし譲渡所得についても、3,000万円までは特別控除を受けることができ、結果的に税額が発生しないという可能性もある。 居住用財産の特別控除の適用要件は、以下のとおりである(措法35)。 〈居住用財産の特別控除の適用要件〉 2 相続人が相続により取得した不動産等を遺贈寄付した場合 相続人が相続により取得した不動産等を寄付した場合にも、その不動産等に含み益があればみなし譲渡所得税が課税される可能性がある。 仮に、被相続人が、生前に居住していた不動産であっても、相続人が相続により取得した不動産に居住していなければ、居住用財産の特別控除の適用はない。しかし、相続により空き家になった不動産を相続人が寄付をした場合には、適用要件を満たしていれば、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得3,000万円特別控除の特例(以下「相続空き家の特例」とする)の適用を受けることができる(措法35③)。 相続空き家の特例の適用要件は以下のとおりである。 〈相続空き家の特例の適用要件〉   3 寄付金控除を受ける場合 寄付先が認定NPO法人や特定公益増進法人である場合には、寄付金控除を受けることができる。これは、不動産等の現物寄付であっても同様である。その場合に、寄付金控除の対象となる金額(特定寄付金の額)は、寄付をした時の、その寄付をした資産の価額(時価)によるので、みなし譲渡課税におけるその資産の価額(時価)と同額が特定寄付金の額となる。 ただし、寄付金控除は、特定寄付金の額のうち、「総所得金額等の40%が限度」となっている(所法78①)。したがって、被相続人にみなし譲渡による所得以外の所得が少ないか、存在しないような場合には、みなし譲渡所得のうち寄付金控除では相殺できない金額が発生する可能性があり、その場合には、その相殺できない金額に課税される。 以下、具体例を示す。   (了)

#No. 459(掲載号)
#脇坂 誠也
2022/03/03

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第73回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第73回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (8) 固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期(法人税基本通達2-1-14) ア 概要 法人税基本通達2-1-14は、固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期について定めている。その内容を図表で示すと次のようになる。 (※1) 固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、通達2-1-2の例による(本通達注書)(第71回参照)。 (※2) 農地や工業所有権等については、通達2-1-15、2-1-16を参照。 本通達ただし書は、当該契約効力発生日は近接日に該当するものとして、法人税法22条の2第2項の規定を適用すると述べるのみで、当該契約効力発生日の属する事業年度で益金算入するとまでは述べていない。 本通達ただし書に該当する場合においても、同項の他の要件を満たしていないなどの理由で同項の適用が認められない可能性があることを想定しているのかもしれない。 イ 本通達の趣旨 本通達ただし書は、法人税法22条の2第2項の近接日基準の適用を想定している。 本通達ただし書が認める契約効力発生日基準による収益の計上が、法人税法22条の2第2項の適用により認められるためには、少なくとも、①同基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当し、かつ、②目的物の引渡日に「近接する日」の属する事業年度の確定決算において収益として経理したものであることを要する(本連載第22回参照)。 ②について、同項は、「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日」として、わざわざ契約効力発生日基準を明記しており、少なくとも固定資産の譲渡に係る収益の計上時期について同基準の採用を認めていた旧通達2-1-14を意識した規定であるといえるかもしれない。 国税庁における本通達の趣旨説明によれば、本通達は次のとおり、上記①及び②を満たすものであると考えられていることがわかる(趣旨説明44~45頁)。   (了)

#No. 459(掲載号)
#泉 絢也
2022/03/03

計算書類作成に関する“うっかりミス”の事例と防止策 【第39回】「会計上の見積りの注記はここでミスする」

計算書類作成に関する “うっかりミス”の事例と防止策 【第39回】 「会計上の見積りの注記はここでミスする」   公認会計士 石王丸 周夫   1 「会計上の見積りに関する注記」のミス事例 計算書類にはうっかりミスがつきものです。 実際、こんなミスが起きています。 【事例39-1】 見積り計上された科目の残高が間違っている。 (出所) 株式会社フュートレック「第21期定時株主総会招集ご通知」 2021年3月期から、【事例39-1】のような「会計上の見積りに関する注記」が開示されるようになりました。「会計上の見積りに関する注記」というのは、見積りの影響を受ける財務数値について、その科目名と金額、そして理解に資する情報を記載するという注記です。近年、決算書において、見積りによる会計処理の重みが増してきたことを背景に、会計基準で定められたものです。 【事例39-1】も、その定めに従って、必要な事項を記載した注記となっていましたが、残高の金額を間違えてしまったというわけです。この事例の会社は2021年6月7日に記載内容の一部訂正を公表していますが、それによると、373,633ではなく350,782が正しかったとわかります。しかし、単なる入力ミスにしてはずいぶん違う数値です。どうしてこんなミスが起きてしまったのでしょうか。   2 同じパターンのミスが繰り返し起こる 間違って入力されていた373,633という数字ですが、実は、何の関係もない数字というわけではありません。【事例39-1】は、計算書類(個別決算)の注記なのですが、間違って入力されたこの数字は、連結貸借対照表の無形固定資産の残高だったのです。個別決算の数字を記載すべきところに連結決算の数字を記載してしまったというわけです。 「会計上の見積りに関する注記」は、連結でも個別でも記載が求められています。まず、連結計算書類の注記を作成し、その後に、コピペをして計算書類の注記を作成したのではないでしょうか。この連載で何度も取り上げてきたミスのパターンです。過去の事例としては以下のようなものがあります。 また、類似事例としては以下のような事例もありました。   3 ミスを予想できるようになろう 以上のとおり、同じパターンのミスが何度も繰り返されていることが、改めてよくわかります。会計上の見積りの開示に関する注記は2021年3月期から導入された注記ですが、新しい注記であっても、そこで起こるミスのパターンは定番のものだというわけです。 上記でリンクを貼った過去事例を参考にすると、会計上の見積りの開示に関する注記では、【事例39-1】のミス以外に次のようなミスが起こると予想されます。 いずれも読めばわかることであり、重大なミスではありませんが、こうした細かい部分の丁寧さが、開示実務のレベルアップにつながります。過去の事例を学んで、ミスを予想できるようになりましょう。   〈今回のまとめ〉 新たに導入された注記であっても、そこで起こるミスは定番のパターンであることが多いです。過去のミス事例を参考に、ミスを予想できるようになりましょう (了)

#No. 459(掲載号)
#石王丸 周夫
2022/03/03

収益認識会計基準を学ぶ 【第24回】「開示④」

収益認識会計基準を学ぶ 【第24回】 「開示④」 (最終回)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 最終回となる今回も【第21回】から【第23回】に続いて、「開示(表示及び注記事項)」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報 1 契約資産及び契約負債の残高等 履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるように、次の事項を注記する(収益認識会計基準80-20項、192項)。 過去の期間に充足(又は部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益(例えば、取引価格の変動)がある場合には、当該金額を注記する(収益認識会計基準80-20項、収益認識適用指針192項)。 契約資産及び契約負債の残高の変動の例として、次のものがある(収益認識適用指針106-8項)。 なお、当期中の契約資産及び契約負債の残高の重要な変動を注記するにあたり、必ずしも定量的情報を含める必要はない(収益認識適用指針106-8項)。 これは、例えば、契約資産及び契約負債の残高の重要な変動が1つの要因で発生している場合に、金額的な影響額を開示しなくても、当該要因が重要な変動の主要因であることを開示することにより、財務諸表利用者に有用な情報が開示される場合もあると考えられるため、当該注記には必ずしも定量的情報を含める必要はないこととしたと説明されている(収益認識適用指針192項)。 2 残存履行義務に配分した取引価格 既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額及び時期について理解できるように、残存履行義務に関して次の事項を注記する(収益認識会計基準80-21項)。 3 残存履行義務の注記に含めないことができる事項(実務上の便法) 次のいずれかの条件に該当する場合には、収益認識会計基準80-21項の注記に含めないことができる(収益認識会計基準80-22項、195項、198項~202項)。 収益認識会計基準80-22項(1)(上記の①)の実務上の便法を採用するかどうかは任意であり、企業が収益認識に関する開示目的に照らして、当初に予想される契約期間が1年以内の契約も含めて注記することがより有用であると判断する場合には、当初に予想される契約期間が1年以内の契約も含めて注記することが望ましいと考えられる(収益認識会計基準198項)。 4 残存履行義務の注記に含めていないものがある場合の注記 収益認識会計基準は、収益認識会計基準80-21項における残存履行義務の注記に含めていないものがある場合に、企業間の比較可能性を担保し、残存履行義務の注記に含まれている金額の理解に役立つように、一定の注記を行うこととしている(収益認識会計基準203項)。 収益認識会計基準80-23項は、顧客との契約から受け取る対価の額に、取引価格に含まれない変動対価の額等、取引価格に含まれず、結果として収益認識会計基準80-21項の注記に含めていないものがある場合には、その旨を注記すると規定している(収益認識会計基準54項、80-23項、203項)。 収益認識会計基準80-24項前段は次のように規定しており、収益認識会計基準80-22項(1)から(3)の実務上の便法を使用した場合の注記を求めるものである(収益認識会計基準203項)。 5 残存履行義務の注記に含めるか否かを判断する単位 残存履行義務の注記は、長期の契約を有している事業を有する企業を評価するにあたって重要な情報である(収益認識会計基準196項)。 しかしながら、企業は複数の事業を営んでいる場合があり、事業により日常的に長期の契約を締結している場合もあれば、そうでない場合もある。 このため、開示目的(収益認識会計基準80-4項)に照らして収益認識会計基準80-21項の注記に含めるか否かを決定するにあたっては、収益認識会計基準80-10項における収益の分解情報を区分する単位(分解区分)ごと(複数の分解区分を用いている場合には分解区分の組み合わせ)又はセグメントごとに判断することも考えられる(収益認識会計基準205項)。 特定の分解区分(特定の分解区分の組み合わせ)又は特定のセグメントに関する残存履行義務についてのみ収益認識会計基準80-21項の注記に含めることとした場合には、収益認識会計基準80-21項の注記に含めた分解区分等を注記することが考えられる(収益認識会計基準205項)。   Ⅲ 終わりに 「収益認識会計基準を学ぶ」は、今回の【第24回】で終了することとなる。 収益認識会計基準は、原則として、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されている新しい会計基準であり、実務上、判断に迷うことも多いところである。 本連載が少しでも実務に役立てば幸いである。   (連載了)

#No. 459(掲載号)
#阿部 光成
2022/03/03

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第24回】「売り手企業に対する見方の失敗」~失敗事例から学ぶ回避策~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第24回】 「売り手企業に対する見方の失敗」 ~失敗事例から学ぶ回避策~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの売り手を見る際の留意点を知る。 売り手企業 ⇒M&Aによる統合後の失敗を回避するためのヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒売り手に対する見方のポイントと留意点を知りM&Aの助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒売り手に対する視点を通じて対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。 中小企業における事業承継の手段として活用されるケースを含めて、M&Aの浸透度は中小企業においても高まっています。 一方で、統合後にリスクが顕在化する可能性もあるため、ブームだから、M&Aが手段として有効に考えられそうだから、といった理由だけではM&Aを安易に選択できません。特に、買い手は、資金を出して売り手を譲り受ける大きな投資をしますので、売り手に対する見方の失敗を避けたいところです。 そこで今回は、中小企業M&Aにおいて、買い手が対売り手の見方を誤る可能性といった観点から、売り手に対する見方の留意点を考えます。   〈ケース1〉価額は安いが統合後のコストは高かった 程度の多少はありますが、中小企業のM&Aでは、比較的想定される事態の1つです。 M&Aの買い手は、売り手の魅力、シナジー効果、買い手にない事業などに期待してM&Aを検討しますが、やはり、譲渡価額が買い手の判断に影響するのは言うまでもありません。安いと思って、価額以外の要素をよく見ないで決断してしまうと、M&Aをしてから痛い目を見る可能性があります。 たとえば、 といった事項について、M&A後を見据えて、M&Aの検討段階から備えておかなければなりません。 M&Aによって、偶発債務や簿外債務がM&A後に顕在化する恐れを考慮して、「中小企業事業再編投資損失準備金」制度が創設されたのは記憶に新しいところです。 中小企業事業再編投資損失準備金制度について、詳しくは、以下の拙稿をお読みください。 このように、M&Aの失敗は、譲渡価額に目を奪われる隙に、他の重要な事項を見落とすことで起こり得る点に留意します。   〈ケース2〉M&Aに耐え得る能力が買い手になかった どちらかというと、買い手の売り手に対する見方というよりも、買い手自身の能力不足が招いてしまったケースですが、〈ケース1〉と同様に、このケースも程度の多少はあっても中小企業のM&Aでは比較的見られるものです。 買い手の文化は、買い手自身の中で時間をかけて育ててきたものですから、経営方針をはじめとして浸透しきっていますが、新たに加わる売り手は、売り手の文化の中で育っています。ですから、途中から買い手のグループに加わっても、売り手の文化がすぐに消えるわけはなく、買い手主導にするには相当な腕が必要になります。 ところが、通常、中小企業のM&Aでは、買い手の社内にM&Aに精通した経験者がいるのは稀ですから、簡単には売り手をコントロールできません。結果として、売り手を放置せざるを得ず、何のためのM&Aだったのか、と後悔する場合がないわけではありません。 一例ですが、下記の手段の1つか複数を講じることで、M&Aの失敗を回避できる可能性が高まります。 たかがM&A、1社加わるだけではないか、などとは思わずに、買い手自身に対する見方も、売り手に対する見方も疎かにしないのが、M&Aの成否のコツでありポイントです。 (了)

#No. 459(掲載号)
#荻窪 輝明
2022/03/03

空き家をめぐる法律問題 【事例36】「隣地の使用等に関する民法改正」

空き家をめぐる法律問題 【事例36】 「隣地の使用等に関する民法改正」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 隣地の木の枝が境界線を越えて伸びており困っています。隣家の方に枝を切るようにお願いしていたのですが、枝を切り取ることなく引越しをされ、隣家は空き家となっています。 隣家の方は「自分としては対応したい気持ちはあるけれど、樹木の他の共有権者の意見を聞いてみないと対応できない。」といって、対応してくれない状況が続いていました。このような場合に、私の判断で枝を切り取ることはできるでしょうか。   1 相隣関係に関する民法の改正と施行時期 主として所有者不明土地問題に対応するための民法等の改正が行われ、令和3年4月28日に公布された。改正の範囲は、民法だけを見ても、相隣関係、共有制度、所有者不明土地・建物管理制度、管理不全土地・建物管理制度、相続制度に及ぶ広範なものとなっている。これらの改正の中には、空き家問題の対応に役立つものも含まれている。 改正された民法等は原則令和5年4月1日から施行されることになっているが、本連載では、改正法を前提として説明をする。なお、便宜上、改正前の民法を「改正前民法」と表記し、改正後の民法を「改正後民法」と表記する。   2 隣地の使用に関する改正 (1) 隣地の使用権への変更 所有権者は自由に所有物の使用、収益、処分をすることができるが、民法には、土地の所有権者間の相互の利用を調整するための「相隣関係」が規定されており、その中に隣地の使用に関する規定がある。 改正前民法第209条第1項は、境界等において建物等を築造・修繕するために必要な範囲で「隣地の使用を請求することができる」旨規定していた。これに対して、改正後民法第209条第1項は、「隣地を使用することができる」と改め、承諾を請求する権利から隣地を使用する権利(以下「隣地使用権」という)に法的性質を変更した。つまり、民法の規定する実体的要件を満たすことによって、所有権者は隣地使用権を当然に取得するということになる。 もっとも、隣家が住家の場合、隣家の所有権者のプライバシー等を保護する必要がある。改正前民法第209条第1項ただし書は、隣地使用が住家への立入りを伴う場合、「隣人の承諾」を要件としていたが、改正後民法でも同趣旨の規定が設けられている。改正後民法第209条第1項ただし書では、「住家については、その居住者の承諾がなければ」と改めており、隣地の所有者や隣地上の建物所有者が居住していない場合には、住家には当たらないため承諾を得る必要のないことが明らかにされている。 (2) 隣地を使用できる場合の明確化 改正前民法第209条第1項は、隣地使用を求めることのできる場合を、境界等において建物等を築造・修繕する場合に限定しているかのように読める規定となっていた。しかし、これ以外の場合でも隣地を使用する必要があったため、改正後民法第209条第1項では、上記の場合(同項第1号)のほかに、境界標の調査又は境界に関する測量(同項第2号)、民法第233条第3項の規定による枝の切取り(同項第3号)を行う場合も規定し、隣地使用権が認められる場合の明確化を図った。 なお、同項第3号の場合は、隣接する土地間に高低差があり、枝を切り取る場合に、隣地に入って作業する場合が念頭におかれたものとされている。 (3) 手続的要件としての通知 上記(1)のとおり、民法第209条第1項の法的性質が隣地使用権に変更されたため、隣地の使用を希望する所有権者は、同項の要件を満たすことによって隣地使用権を取得し、権利を行使できることになるはずである。しかし、隣地の所有権者にとっては、所有地の権利行使を制限されることになるので、隣地使用権を行使するための手続的要件として、事前の通知をすることが義務付けられた(同条第3項)。 もっとも、隣地の所有権者を調査をしても明らかにならない場合のように、あらかじめ通知をすることが困難な場合もあるので、このような場合は、使用開始後に遅滞なく通知をすれば足りるものとされている(同項ただし書)。あらかじめ通知をすることが困難な場合に該当するためには、一定の調査を尽くすことが前提となっているが、所有権者が隣地を使用する必要性や緊急性に応じて、調査の程度には差異が生じるものと思われる。   3 越境した枝の取扱いに関する改正 (1) 枝を自ら切り取ることができる場合の法定化 土地の所有権者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えているときは、その竹木の所有権者に枝の切除を請求することが認められていた(改正前民法第233条第1項)。これに対して、根が境界線を越えているときは、土地の所有権者は自ら根を切り取ることができた(改正前民法第233条第2項)。このような差異が設けられていたのは、①枝の場合は竹木の所有権者が自らの土地の範囲内で作業できることや、②枝が根に比べて経済的価値が高いことにあるなどとされていた。 この差異に合理的な理由があるかは争いのあるところだが、改正後民法は、土地の所有権者が竹木の所有権者に対して枝の切取りを求める構成を維持している。その上で、①竹木の所有権者が切取りを催告したにもかかわらず相当期間内(おおむね2週間程度)に応じない場合、②竹木の所有権者を知ることができず、又は所在不明の場合、③急迫の事情がある場合に、土地の所有権者が自ら枝を切り取ることができる権利を認めた(改正後民法第233条第3項各号)。これによって、土地の所有権者は、枝の切取りを求めたにもかかわらず対応してもらえないような場合でも、訴訟提起をして強制執行をする必要がなくなった。 (2) 竹木が共有されている場合の取扱い 隣地の竹木の所有権が相続等によって共有されている場合もある。このような場合には、竹木の各共有権者に枝を切り取るかどうかの判断をする機会を保障する必要もあるので、全員に対して枝の切取りを催告する必要があると考えられている。もっとも、竹木の共有権者の調査をしても全員の所在等が明らかにならない場合もある。このような場合には、土地の所有権者が自ら枝を切り取ることができるかは、所在等の判明している竹木の共有権者との関係は改正後民法第233条第3項第1号によって判断され、所在等の不明な共有権者との関係は同項第2号によって判断されることになる。 他方、竹木の共有権者にとって、枝の切取りが共有物の変更(改正後民法第251条第1項)に該当すると、共有権者全員の同意が要件となる。そうすると、土地の所有権者は、共有権者間の意見がまとまらないと、枝の侵入を受忍させられることになってしまう。そこで、改正後民法第233条第2項は、竹木が共有物である場合、各共有権者が単独で枝を切り取ることができることを明らかにしている。そのため、土地の所有権者は、竹木の共有権者の一部から承諾を得ることによって、枝を切り取ることもできる。 なお、枝の切取りに要する費用は、竹木の所有権者が土地の所有権を侵害していると考えられるので、竹木の所有権者が負担するのが相当と考えられる。   4 本件について 本件の竹木は共有されているようなので、共有権者の一部が切取りに同意しているのであれば、その者から承諾を得て自ら枝を切り取ることが考えられる。しかし、「樹木の他の共有権者の意見を聞いてみないと対応できない。」との回答は、他の共有権者が承諾をするまで切取りには同意しないことを意味しているとも考えられる。 この場合、土地の所有権者は、竹木の共有権者の所在調査や催告等を行い、改正後民法第233条第3項第1号又は第2号を満たす場合には枝を自ら切り取ることができる。なお、このような手続を経る時間的余裕のない窮迫の事情がある場合(同項第3号)にも枝を自ら切り取ることができる。 本件の隣家は空き家となっており住家ではないので、土地の所有権者が枝を切り取るために隣地・隣家に立ち入る必要がある場合でも(改正後民法第209条第1項第3号)、隣地・隣家の所有権者から承諾を得る必要まではない。ただし、手続的要件として、事前又は事後の通知(同法第209条第3項)は必要となるので留意が必要である。 (了)

#No. 459(掲載号)
#羽柴 研吾
2022/03/03

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第54話】「電磁的記録等の保存の猶予措置」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第54話】 「電磁的記録等の保存の猶予措置」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「こんな法律は・・・最初から無理だと思っていたのだが・・・」 中尾統括官は、令和4年度税制改正大綱を見ながらつぶやく。 大綱には、次のように記載されている。 「・・・大綱では、このように仰々しく書いているけれど・・・やむを得ない事情について、具体的に説明をしなくてもかまわないということで・・・納税者は、電子データの保存・検索等の対応ができないと伝えるだけでよいということなのだろう」 中尾統括官は、傍らにいる浅田調査官の顔を見る。 「令和3年度税制改正で、承認制度の廃止など一部見直しが行われ、帳簿のデータ保存の要件、請求書等のスキャナ保存の要件、電子取引のデータ保存の要件が緩和化されたけれども・・・それでも、多くの納税者にとって、まだ、ハードルが高く、この法律への対応はできないと思う・・・」 浅田調査官は、中尾統括官の持っている大綱を覗きながら言う。 「・・・結局、電帳法、電帳規(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律、施行規則)では、次の要件がまだ必要になっています」 更に、浅田調査官は、令和3年度税制改正を見ながら、電帳法、電帳規で求められている要件の内容を伝える。 ① 帳簿のデータ保存の要件 ② 請求書等のスキャナ保存の要件 ③ 電子取引のデータ保存の要件 「そうだなあ・・・緩和化されたと言っても、電子取引に係る取引情報(請求書等)を検索要件等の保存要件を満たす形で電子データのまま保存しなければならないこととされていること自体・・・中小企業や個人事業者は十分に対応できないと思う」 中尾統括官は、腕を組んで、頸を傾げる。 「そこで、電子データをプリントアウトした出力書面の保存を可能とする猶予措置が2年間設けられたのですが・・・しかし、2年間で大丈夫なのでしょうか?」 浅田調査官も腕を組みながら、思案顔になる。 「もともと、納税者ができないようなレベルの法律を定めても、当然、納税者に法律を守らせることはできないし、法律自体、ワーク(機能)しない・・・」 浅田調査官は、不満そうに言う。 「ところで、君は、100メートルを何秒で走る?」 突然、中尾統括官は、浅田調査官の顔を見る。 「正確には覚えていませんが・・・14秒ぐらいかな・・・」 「ほう、それは早いね・・・しかし、それを電帳法で12秒で走らなければならないという規則を作ったようなものだ・・・もちろん、我々、税務職員は、合法性の原則によって、その法律は守らなければならないけれど・・・」 中尾統括官は、苦笑いをする。 「今回の改正では、電子取引に係る宥恕措置(電帳規4③)に規定しているやむを得ない事情等について、読み替えをするという」 そう言うと、中尾統括官は「改正電帳規附則2③」を読む。 「こうして、納税者は、2年間の準備期間が与えられたのだけれど、2年後、本当に大丈夫なのかな?」 中尾統括官は、もう一度、不安を口にする。 (つづく)

#No. 459(掲載号)
#八ッ尾 順一
2022/03/03

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案」が国会に提出される~企業財務書類の信頼性向上を目的に、上場会社等の監査に係る登録制度導入などの措置を講ずる~

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案」が国会に提出される ~企業財務書類の信頼性向上を目的に、上場会社等の監査に係る登録制度導入などの措置を講ずる~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和4年3月1日、第208回国会に「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律案」が提出された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。 なお、今回の改正にあたっては、令和4年1月4日に金融庁より公表された「金融審議会公認会計士制度部会報告」がベースになっていると思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公認会計士法の一部改正 次の改正を行う。 2 金融商品取引法の一部改正 上場会社等は、その財務計算に関する書類及び内部統制報告書について、上場会社等監査人名簿に登録を受けた公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこととする。   Ⅲ 施行期日 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとする(経過措置に注意する)。 (了)

#No. 458(掲載号)
#阿部 光成
2022/03/02
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