収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第71回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (6) 棚卸資産の引渡しの日の判定(法人税基本通達2-1-2) ア 概要 棚卸資産の販売に係る収益の額は、原則として、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する(法法22、22の2①)。平成30年度改正前は、かかる引渡基準を明定する条文は存在しなかったが、旧法人税基本通達2-1-1《棚卸資産の販売による収益の帰属の時期》は、「棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しがあった日の属する事業年度の益金の額に算入する」と定めていた。 法人税基本通達2-1-2は、平成30年度改正後における棚卸資産の引渡しの日の具体的な判定について、次のように定めている。旧通達2-1-2も並べておく。比較しやすいように、適宜、改行し又は下線を引いている。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 引渡しの日の判定基準は「棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日による」としており、新旧通達で変わっていない。 その具体例に関する記述を見ると、新通達では旧通達と比べて、「船積みをした日」、「相手方に着荷した日」が追加された一方、「検針等により販売数量を確認した日」が削除されていることがわかる。 引渡しの日の判定基準は、棚卸資産の種類等に応じて柔軟かつ弾力的に収益計上基準の選択適用をできるような定めになっており、かかる取扱いの法的根拠はどこにあるのか、という問題がある。この点は色々と議論のあるところであるが、法人税法22条の2第1項の引渡しという語そのものに柔軟性・弾力性がビルトインされているという解釈論を候補として示しておく(泉絢也「法人税法と収益認識会計基準(1)-収益の計上時期を決する諸原則(引渡基準と権利確定主義・無条件請求権説・実現主義・管理支配基準)-」千葉商大論叢58巻3号19頁以下参照)。 他方、法人税法22条の2第2項が定める近接日の判定基準について、法人税基本通達は具体例を示すにとどまる(本連載第22回参照)。 通達の立案担当者は、「近接する日の幅とはどの程度なのかということを聞かれたりするのですけれど、取引がさまざまある中で、どこまでだったら近接する日で、どこまでだったら近接する日ではないのかというのを示すのが非常に難しかったので、その幅は示せておりません。そこは個別に判断していくしかないと思っております。ただ、今までやってきた会計処理が認められなくなるというようなことは考えておらず、従来の取扱いは改正後も引き続き適用できます。」と説明している(髙橋正朗「平成30年度法人税基本通達等の一部改正について」租税研究832号19~20頁)。 イ 本通達の趣旨 本通達の趣旨は要旨次のとおりである(趣旨説明39頁以下)。 《企業会計の状況》 まず、企業会計の状況である。 企業会計原則においては、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」(企業会計原則第二の三B)とされ、この「実現」に関する会計上の証拠は、原則として企業の生産する財貨又は役務が外部に販売されたという事実に求められるので、いわゆる販売基準によって収益計上すべきものとされている。 販売基準による収益の発生の時点は、財貨又は役務の移転に対する現金又は現金等価物の取得の時点であるとされているが、実務上は、出荷基準、引渡基準又は検収基準等が採用されている。 収益認識会計基準においては、企業は約束した財又はサービス(資産)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識することとされ、また、資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてであるとされている(基準35)。 資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む)をいうこととされている(基準37)。 支配の移転を検討する際には、例えば、企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること、顧客が資産に対する法的所有権を有していること、企業が資産の物理的占有を移転したこと、顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること、顧客が資産を検収したことといった指標を考慮することとされている(基準40)。 したがって、顧客が資産を検収したことの指標に従えば、検収日を履行義務の充足の時とする向きもあろうが、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(例えば顧客による検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができることとされている。 この場合の商品等の出荷時から商品等の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいう(指針98)。 これは、これまで我が国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には、比較可能性を損なわせない範囲で代替的な取扱いを追加するという開発方針に基づいて手当されたものである(基準97)。 《法人税法の状況》 次に法人税法の状況である。 平成30年度改正前の法人税法においては、商品の販売等に係る収益の帰属の時期については明確な規定は設けられていなかったが、企業会計原則においていわゆる販売基準によって収益計上すべきものとされていること及び判例においても販売基準により収益計上することが支持されており、これと同旨のものとして、その引渡しの日の属する事業年度の益金の額に算入することとしていた(旧法基通2-1-1)。 具体的に棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、広く企業会計上も採用されている出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日等を例示し、当該棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち法人が継続してその収益計上を行うこととしている日によるものとしていた(旧法基通2-1-2)。 平成30年度改正において、収益認識会計基準の導入を契機として、収益の認識時期について、法令上通則的な規定が設けられ、資産の引渡し又は役務の提供の時点を収益認識の原則的な時点とする従来の考え方が踏襲された。 資産の販売等による収益の額は、目的物の引渡し又は役務提供の日の属する事業年度の益金の額に算入することが原則とされた(法法22の2①)。 また、従来の取扱いを踏まえ、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ってその資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供に係る契約の効力が生ずる日その他の引渡し又は提供の日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、その経理した事業年度の益金の額に算入することが明確化された(法法22の2②)。 このため、棚卸資産の販売による収益の額は、その引渡しの日の属する事業年度の益金の額に算入することとする旧通達2-1-1《棚卸資産の販売による収益の帰属の時期》の取扱いを削除することとした。 また、従来の取引慣行からしても課税に最も適する時期と認められる「目的物の引渡しの日」については、旧通達2-1-2の前段の取扱いを維持することとした。加えて、従来から会計慣行として認められる船積日基準や、収益認識会計基準適用指針において明示された着荷基準についても引渡しの日の例示としてふさわしいと考えられるため、平成30年度改正を契機として追加することとした。 ウ 法人税法22条の2第1項の引渡概念との関係 旧通達で引渡基準の範疇に含めていた検針日基準を除外する本通達のような解釈ないし取扱いが法人税法22条の2第1項の解釈として合理的であるとすれば、少なくとも、同項は、これまで旧通達が採用してきた引渡概念ないし引渡基準をそのまま法律化したものではないということになる。 検針日基準について、改正後の通達2-1-4で法人税法22条の2第2項の近接日基準として認められていることも考慮すると、同通達2-1-2の背後には、「検針」のように引渡し本来の語義(差し当たり、民法上の引渡概念を想定)からの乖離が許容値を超えるようなものを引き続き解釈論で引渡しの範疇に含めることには無理があるという考えがあったのかもしれない。 このことは、引渡概念が法人税法に明文化された以上、それは、より法的なものへと純化していく、さらにいえば法人税法固有の概念としての性格が色濃くなっていく可能性を示唆している(泉・前掲論稿参照)。 (了)
〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第23回】 「中小M&Aに向けた事前準備」 ~良き相談相手を得る~ 公認会計士・税理士 荻窪 輝明 《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの売り手における事前準備段階の理解を深める。 売り手企業 ⇒M&Aの検討段階において良き相談相手を探すためのヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒売り手の相談段階のニーズを知り、支援機関ごとに助言や支援に活かす。 その他の対象者 ⇒売り手の対支援機関の視点を通じて対象企業の見方・見られ方のポイントをつかむ。 1 会社規模に応じた相談相手 中小企業において、M&Aの売り手が、自らM&Aの必要性を実感して計画的に準備を進めるケースは決して多くなく、売り手の状況を知る誰かに勧められるか、日頃から付き合いのある相談相手に助言を求めてから、M&Aを検討するケースが多いと思われます。 検討が遅れると、必要に迫られて、M&Aをしなければならない段階になってはじめて検討せざるを得ないので、後継者不在や、廃業のリスクを背負わなくてもいいように、事業承継上の課題があれば、経営者1人で、あるいは、親族だけで悩みを抱え込まないようにしたいものです。 以下は、規模別にみたM&Aの主な相談相手をまとめた資料です。かかりつけ医のように、日頃から、経営に関する様々な相談をしやすい相手がいれば、M&Aを検討すべきかどうかの率直な意見を得やすいと思いますが、普段は本業で忙しく、会社外部の関係者との接点を十分に持てずにいる場合もあると思います。以下を参考に、会社規模にあった相談相手や、M&Aの準備にあたって適切な助言を受けられそうな相手を今から探しておくのもM&Aに向けた大切な準備の1つとなります。 (出典) 中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂検討会(第1回)配布資料」の「資料3 事務局説明資料」37ページ。 この資料によれば、相対的に会社規模が大きい場合だと、助言や情報を得る相手として、顧問をはじめとする「士業専門家」や、「取引金融機関」、「他社の経営者」などが頼りになりますし、準備の後押しを望む段階では、より具体的なアクションを支援できる士業専門家や取引金融機関の存在が期待できそうです。一方で、小規模になると、「商工会・商工会議所」といった商工団体の存在感が際立ちます。 相談相手としてこの資料に登場する「民間M&A仲介業者」や「事業引継ぎ支援センター」は、実際のM&A検討・実行段階で関わる主要なプレイヤーですが、民間M&A仲介業者は相対的に大きな規模の会社で、事業引継ぎ支援センターは相対的に小規模な会社で関わるケースが多くなりそうです。 2 売り手にとって良き相談相手とは 中小企業のM&Aでは、売り手や買い手といったM&Aの当事者がもつノウハウや知識が、M&Aの支援機関がもつそれに比べて圧倒的に少ないために、当事者にとって納得、満足のいくM&Aに至らない恐れがある点がリスクです。 M&Aの譲渡側(売り手)の目的は、調査結果によると以下のとおりであり、多くの売り手経営者、なかでも高年齢の経営者ほど、会社そのもの、人材、設備といった経営資源の存続と維持を望んでいます。 また、M&Aという手段によって承継相手(買い手)と手を結ぶことで、事業の再建、浮上、成長への期待も膨らんでいます。 (出典) 中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂検討会(第1回)配布資料」の「資料3 事務局説明資料」28ページ。 支援機関としてはこれらのニーズを外さないのが売り手視点での優先事項であり、逆に売り手からすれば、支援機関がこうしたニーズを軽視して成約ありきになっている場合は、相談相手を直ちに変えるべきです。 通常、売り手は統合後のわが社の行方を心配します。それに対して、支援機関の多くは統合までの関与にとどまりますので、そもそも興味や関心の時点が異なるかもしれません。ですから、売り手にとって譲れない考えがあれば(社名の存続、従業員の雇用の維持、創業の地にとどまるなど)、売り手自らが積極的に支援機関へ伝える熱意や根気も必要です。 この意味で、M&A後も関与が継続すると予想される士業専門家や取引金融機関がいれば、これらのプレイヤーの多くは、関与の継続による報酬の継続や融資の継続も期待できるので、決して自身の利益のためだけに動くわけではないですが、力になってくれやすい存在だといえます。 3 主な支援機関別の相談段階における留意点 以下では、中小企業のM&Aにおいて、売り手の相談段階から継続して売り手に直接関与し続ける可能性の高い主な支援機関(「士業専門家」と「取引金融機関」)について、相談段階におけるそれぞれの機関の留意点について触れたいと思います。 (1) 士業専門家 M&Aの相談段階から売り手に関わっている士業専門家は、顧問として関与する税理士、公認会計士が大半と思われます。 決算書の内容を中心に、過去から会社経営全般について理解がある場合が多く、M&Aにあたって頼りになるケースが多いですが、なかには士業専門家がM&Aにあたってのデメリット、障害になるかもしれません。 (2) 取引金融機関 廃業による地域経済の衰退を防ぎ、持続可能な地域づくりに貢献する地域金融機関にとって、M&Aは重要な手段の1つですので、売り手の相談にも快く応じてくれる場合が多いと思いますが、次の点に留意します。 士業専門家も、取引金融機関も、自らの数字を背負っていますから、完全に売り手の意向を汲んだ動きを期待するのは無理があります。それでも、明らかに売り手の意向に反する考えや行動が示される場合は、売り手の良き相談相手にはなってくれません。こうした場合には、M&Aの検討や相談の段階から、各商工団体、M&A専門業者、事業引継ぎ支援センターを頼る方が円滑に進むかもしれません。 将来M&Aが必要になる状況を想定して、今のうちからネットワークを広げるのも得策です。 (了)
収益認識会計基準を学ぶ 【第22回】 「開示②」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 【第21回】に続いて、「開示(表示及び注記事項)」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 注記事項の概要 1 重要な会計方針の注記 顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、次の項目を注記する(収益認識会計基準80-2項)。 上記以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する(収益認識会計基準80-3項、164項)。 収益認識会計基準80-2項(2)の「企業が当該履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」は、通常は同じであると考えられる。 しかしながら、例えば、収益認識適用指針98項における代替的な取扱い(出荷基準等の取扱い)を適用した場合には、両時点が異なる場合がある。そのような場合には、重要な会計方針として「収益を認識する通常の時点」について注記する(収益認識会計基準163項)。 2 会計方針の変更 収益認識会計基準80-2項及び80-3項に従って重要な会計方針として注記した内容を変更する場合、「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号)4項(5)及び「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号)8項に従って、会計方針の変更に該当するか否かの検討が必要になる(収益認識会計基準165項)。 3 開示目的 収益認識会計基準は、開示目的を規定しており、それは、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである(収益認識会計基準80-4項)。 4 収益認識に関する注記 収益認識に関する注記として、次の項目を注記する(収益認識会計基準80-5項)。 ただし、次の項目に掲げている各注記事項のうち、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載しないことができる(収益認識会計基準80-5項、167項)。 5 注記事項に関する留意事項 収益認識に関する注記に際しては、次の事項に注意する(収益認識会計基準80-6項~80-9項、167項~173項)。 (了)
対面が難しい時代の相続実務 【第10回】 (最終回) 「相続実務とオンラインの“これから”」 クレド法律事務所 弁護士 栗田 祐太郎 今回は最終回として、今後の相続実務における見通しにつき、筆者が思うところをざっくばらんに述べて本連載を閉じたいと思う。 1 オンライン化を検討する際の考え方 (1) オンライン化はあくまで手段 相続実務における各種業務のオンライン化が注目されるのは、それが、①実務家自身の利便性・効率性を高めるだけでなく、②顧客の利便性や満足度を高めることにもつながるからである。 このように、非対面化・オンライン化というのはあくまで手段・方法論に過ぎず、「対面」と「非対面・オンライン化」のどちらかが一方的に優れているという議論ではない。オンライン化が1つの大きなトレンドであることに間違いはないが、それ自体が目的化してしまっては、本末転倒である。 本連載では相続実務における様々な場面を取り上げて解説してきたが、業務の内容や場面、依頼者・相手方の属性、そして実務家自身のITスキルや物理的な環境等によって、対面・非対面の方式をうまく使い分けていくことが現実的な対応である。 (2) 「効率性」と「効果性」という2つの視点 日々の業務にどこまでオンラインを取り入れるか、また顧客からのオンライン化の要望にこたえるか等を検討するにあたっては、「効率性」と「効果性」の2つの視点を念頭に置くのがよいと思われる。 〔「効率性」の視点〕 まずは、「効率性」に関して、「当該業務をオンライン化することが、業務の効率性をアップさせることにつながるか」を検討することになる。 たとえば、関係者が多く、しかも遠方に居住しているという事案の場合には、逐一リアルで面談するよりも、オンラインにて打合せや協議を手軽に行えたほうが効率的であるといえる。 しかし、関係者の大半が高齢で、PCやオンライン機器の取扱いに不慣れであるといった場合もある。そのようなケースでもわざわざ非対面でのオンライン化を導入しようとすることは、関係者に対してIT機器の導入や使い方の説明から始めなければならないことになり、むしろ双方にとって多大な労力が生じる。これではわざわざオンライン化する意味がない。 したがって、当該業務や打合せをオンライン化することが、全体として見て本当に業務の効率性を高めることにつながるかを慎重に検討する必要がある。 〔「効果性」の視点〕 次に、「効果性」に関して、「当該業務をオンライン化することが、顧客満足の度合いを高めることにつながるか」を十分に検討するべきである。 実務家の側では、内容的に見てオンライン又は電話での打合せで十分足りると考えていても、顧客のほうではそれを望まず、対面での打合せを希望するケースも少なくない。これは、普段は仕事などでオンラインや電話での打合せの経験を豊富に有している相談者・依頼者の場合にも、このような希望が出ることは少なくない。 筆者が感じるに、これはおそらく、これから案件を依頼しようとする相談相手の人物を見極めたい(信頼できる専門家であるかどうかを実際に会って確かめたい)という気持ちや、重要な内容を打ち合わせる際には、質疑応答をはさみながら自分の率直な気持ちをストレートに伝えたいといった心情に基づくものと思われる。 このようなケースでは、実務家の一方的な都合で対面での対応に難色を示し、無理にオンラインや電話での対応を押し付けることは、顧客との信頼関係を失わせることにもなりかねず、顧客満足の度合いも低下させる。 したがって、オンライン化と「効果性」という視点も、念頭においておく必要がある。 以上で述べたような「効率性」と「効果性」という2つの視点を持って、各場面での非対面化・オンライン化のあり方を考える必要があろう。 2 非対面化・オンライン化へのシフトは、今後より一層進む 新型コロナウイルスの感染拡大も、いわゆる第5波がピークアウトした2021年秋頃からは終息に向かうと思われたが、同年12月中旬以降、今度はオミクロン株の拡大により再び感染者数が急増している。 新型コロナウイルスの問題が表面化した2020年初頭からこれまでの状況の推移を見れば、今後も当面は、感染者数の増加と収束との波が随時繰り返されていくものと思われる。 そうすると、新型コロナウイルスへの対応を直接の契機とした非対面化・オンライン化の要請は、上記のような社会情勢を見る限りは、少なくとも今後当面は変わるところはないといえる。 他方で、近時よく目にする「電子契約」、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、「リーガルテック」、「裁判のIT化」といったキーワードも、すべて法律実務のオンライン化を志向しており、時代は確実にこの方向で進んでいる。 さらにいえば、コロナ禍の実務の現場で、オンラインの導入による利便性を一度体験してしまった我々としては、このような便利な道具を手放すことはもはやできない。我々は、もう元には戻れないのである。 そうしてみると、今後、新型コロナウイルスの感染拡大がどのように推移するか、あるいは終息するかとはもはや直接関係せずに、この先の将来もより一層、相続実務が非対面化・オンライン化へとシフトしていくことはまず間違いないと思われる。実務家においても、この流れに抗うことはもはや不可能である。 実際に、本稿執筆の2022年1月時点でも、これまでは当事者の出頭が要求されていた「離婚調停成立に際しての意思確認」も、ウェブ会議の方式にて行えるよう法改正される予定であると報道されている。 本連載で紹介した取り組みは、ごく平均的なITスキルしか持たない筆者の、最低ラインの実践例を紹介したものにすぎない。 本連載の内容が、読者の皆様の日々の業務の非対面化・オンライン化を考える上での少しのヒントにでもしていただければ幸いである。 (連載了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第53話】 「逋脱犯と重加算税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・何を・・・読んでいるのですか?」 昼食後、浅田調査官は、中尾統括官の傍らにやって来る。 「うーん・・・」 中尾統括官は、新聞を見ながら渋い顔をしている。 「脱税事件ですか・・・」 浅田調査官は、中尾統括官が手にしている新聞を覗く。 「これって・・・理事長の自宅で1億円以上の現金が発見されたと報道されていたのですが・・・」 中尾統括官は、軽く頷く。 「大学の関連業者らから受け取ったリベート収入を除外するなどして、2018年と2020年の所得、約1億1,800万円を隠蔽し、約5,200万円の所得税を免れたとして起訴されたということなのだが・・・」 「凄い金額ですね・・・しかも、家宅捜査で現金そのものが見つかっていることから、脱税の言い逃れは難しいですね」 浅田調査官は、少し興奮して、新聞記事を読む。 「所得税法違反となっているけれど・・・所得税法238条1項に該当するということですか?」 浅田調査官は、傍らにある税務六法を捲りながら、条文を読む。 「・・・これは、逋脱犯ともいわれ、納税義務者又は徴収納付義務者が、偽りその他不正の行為により租税を免れ、又は還付を受けたことを構成要件とする典型的な犯罪だよ」 中尾統括官は、厳しい表情で説明を続ける。 「・・・この・・・偽りその他不正の行為とは・・・最高裁昭和42年11月8日判決では・・・逋脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能もしくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うこと・・・と述べている」 中尾統括官は、再び、新聞記事に目を向ける。 「当初は・・・妻に全てを任せていて、自分はそのカネの受取りについては、知らないと理事長は供述していたらしいが・・・」 新聞記事では、現金の流れは、おおよそ、次のように説明されている。 「・・・でも、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金というのは少し重くはありませんか・・・」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「そんなことはないだろう・・・今回の理事長の脱税金額は、1億1,800万円で、それだけの金額を納税者として申告しなかったのだから・・・」 中尾統括官は、憮然と答える。 「ところで・・・この事件では・・・これだけ巨額な脱税ですから、重加算税も当然、賦課決定されているでしょう・・・もっとも、重加算税については・・・偽りその他不正の行為ではなく、隠蔽・仮装が課税要件になっています・・・これって、どう違うのですか?」 浅田調査官は、頭を掻きながら、訊ねる。 「なかなか良い質問だ」 中尾統括官は、ニコニコしながら答える。 「・・・解釈論としては・・・逋脱犯の場合、『故意』がその過少申告自体に必要であるのに対して、重加算税の場合、隠蔽・仮装の行為の認識で足りるという考え方がある・・・この考え方を採るならば、重加算税の課税要件の方が、逋脱犯のそれよりも広いと解することが可能になる・・・もちろん、両者は、重複する部分が多いが・・・」 中尾統括官は、机の上にある罫紙に簡単な図を描く。 「そして、そのように解釈する方が、逋脱犯に対する罰則が、行為の反社会性、反道徳性に着目して、厳格に課税要件が適用されることから妥当なように思う・・・もっとも、異なる考え方もあるが・・・」 そう言い終わると、中尾統括官は、新聞を畳んで、ポンと机上に置く。 (つづく)
《速報解説》 各省庁等連名で「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」を公表 ~全7問のQ&A及び事例等を示し、違反とならない取引価格の設定方法等を明らかに~ 税理士 石川 幸恵 令和4年1月19日、「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(以下「Q&A」という)が、財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省の連名で公表された。 インボイス制度が導入されると、免税事業者からの課税仕入れにつき、仕入税額控除が制限される(※)ことを踏まえて、免税事業者本人の取引への影響や、自身は課税事業者であるが、仕入先が免税事業者である場合の対応に関する考え方について、Q&Aが全7問示され、1月24日には(参考)として下請法等の考え方の2事例、建設業法上の考え方の1事例を提示して解説している。 (※) 免税事業者からの課税仕入れについては、経過措置としてインボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされている。 特に、自身は課税事業者で仕入先が免税事業者である場合に、取引価格の交渉はどこまで可能なのかについて関心が高いと思われるが、「(参考)インボイス制度後の免税事業者との取引に係る下請法等の考え方」の【事例1】によれば、「『報酬総額11万円』で契約を行った」が、「取引完了後、インボイス発行事業者でなかったことが請求段階で判明したため、下請事業者が提出してきた請求書に記載された金額にかかわらず、消費税相当額の1万円の一部又は全部を支払わないことにした」のは、下請法違反であると明示している。 また、「(参考)インボイス制度後の免税事業者との建設工事の請負契約に係る建設業法上の考え方」の事例でも、建設業の元請負人と下請負人の取引について、同様に消費税相当額の一部又は全部を免税事業者である下請負人に支払わないこととするのは、建設業法違反としている。 一方、Q&AのQ7では、免税事業者からの課税仕入れについて仕入税額控除が制限される分について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、独占禁止法上問題となるものではない、としている。 独占禁止法では、自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の事業者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることが優越的地位の濫用として問題となる。 既に、一部の企業では仕入先に対して、適格請求書発行事業者の登録をするかどうかを聞き取っているようであるが、インボイス導入前の準備段階から交渉を進めて、取引価格の改定を行っていくことが重要であると考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」の研究を JICPA協力のもと理研が実施 ~10年後、主査業務の34.7%がAIに代替されるとの推計も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月26日付けで(ホームページ掲載日は2022年1月27日)、国立研究開発法人理化学研究所が実施し、日本公認会計士協会がその実施に協力した研究「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」(以下「研究報告書」という)が公表された。 日本公認会計士協会は、会員に対して、「理化学研究所による研究報告書「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」の公表を受けて」も公表している。 これは、人工知能(Artificial Intelligence:AI)等のテクノロジー(以下「AI」という)によって公認会計士業務の中核的な業務とされる監査業務の代替可能性、代替されうる具体的な業務などを調査したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 AI等のテクノロジーによる代替可能性 監査の役割分担は、監査責任者、主査、補助者などに分担される。 監査責任者、主査、補助者で負っているタスクが異なるので、各役職でのタスク分類を考慮して、代替可能性等を推計している。 ただし、研究報告書では、調査の対象から監査責任者は除外し、監査業務のタスクが特定しやすい主査と補助者を対象としている(9ページ)。 監査責任者については、経営層とのコミュニケーション等、AIに代替不能な業務が大半を占めているという仮説は自明であるとして、特段の調査項目は設定していない(11ページ)。 研究報告書は、10要素に分解した主査と補助者の業務について、AI等のテクノロジーによる代替可能性を評価しており、日本公認会計士協会の会員向けの「理化学研究所による研究報告書「AI等のテクノロジーの進化が公認会計士業務に及ぼす影響」の公表を受けて」の2ページでは、平均して、主査業務については30年後に45.6%、補助者業務については30年後に60.6%がAIに代替されると予測されるとしている。 また、10年後には、主査業務で34.7%、補助者業務で50.5%がAIに代替されると推計されている。 10要素に分解した主査の業務内容とは、クライアントとの調整(交渉、議論、報告等にかかる各種コミュニケーション)、企業環境の理解及び監査リスクの評価など)などである(13ページ)。 10要素に分解した補助者の業務内容とは、クライアントとの調整(交渉、議論、報告等にかかる各種コミュニケーション)、証憑突合、帳簿突合、分析的手続、表示チェックなどである(13ページ)。 2 人事評価 研究報告書は、今回の調査対象である主査、補助者の各業務に対する人事評価との紐づけを通じて、代替可能性と生産性の評価とを結びつけた推計を行っている。 研究報告書は、主査と補助者が実施する業務を10項目(上記を参照)に分類し、どの業務(属性)が昇進という観点から重要であるかを評価している。 その結果、主査への評価項目に関しては、代替可能性の低い業務項目について人事上高い評価がされており、特に「⑧監査上の重要事項に係る検討及び判断」が突出して高い評価となっている(18ページ)。 補助者への評価項目に関しては、最も代替可能性の低い「②クライアントとの調整」が、人事評価上も最も重要である(22ページ)。 ただし、代替可能性が最も高いと評価されている「⑦証憑突合等」に関しては、人事評価上も一定程度重要である。 3 生産性分析 監査業務の一部をAIに代替させた場合を仮定し、人事評価に関する分析と組み合わせた結果、主査業務については10年後に32.0%、30年後に42.5%生産性が向上する可能性があると評価されている(24ページ)。 また、補助者業務については10年後に48.4%、30年後に58.0%生産性が向上する可能性があると評価されている(24ページ)。 4 結論 研究報告書の結論としては、すべての業務がAIに代替される可能性は低いものの、AIに代替可能な業務も存在する(2、26ページ)。 AIに代替可能な業務の一部は、監査法人での昇進のための重要な要素となっていることから、監査法人の人事評価にも影響することになる(2、3ページ)。 主査については、AIによって代替される領域が一定程度存在するのは事実であるものの、人事評価の過程において、代替可能性が低い業務が重視される傾向にあるため、代替可能性が高い業務については積極的にAIのテクノロジーに代替し、代替可能性が低い業務に注力するインセンティブが働くであろうと述べている(26ページ)。 補助者は主査と比較して全体的にAI等による代替可能性の高い業務を担っている。人事評価との関係では、最も代替可能性の低い「①クライアントとの調整」が、人事評価上も最も重要であるものの、代替可能性が最も高い「⑦証憑突合等」に関しては、人事評価上も一定程度重要であると捉えられている(26ページ)。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」を公表 ~令和3年度税制改正の国税関係書類の電子的な保存の要件緩和における留意点も示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月26日付けで(ホームページ掲載日は2022年1月27日)、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針第104号「イメージ文書により入手する監査証拠に関する実務指針」」を公表した。これにより、2021年11月19日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対するコメント対応も公表されている。 これは、令和3年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しに伴い、スキャナ保存制度について要件緩和がなされたことや電子取引に係る電子情報の保存が義務付けられたことを受けて、今後、企業の取引情報の電子化の一層の加速が見込まれることなどに対応し、監査人が監査証拠を電子データの一種であるイメージ文書で入手する場合の実務上の指針を提供するものである。 実務指針においては、電子帳簿等保存制度を参考とすることが多いが、企業の電子帳簿等保存制度への準拠や適合の状況に関する監査人の対応について直接に取り扱うものではないとのことである(10項)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 適用範囲 監査人は、観察や質問等によって得る情報に加えて、書面又は電磁的記録(以下「電子データ」という)により監査証拠を入手するが、実務指針の適用範囲は、電子データのうち、書面の取引証憑と同等の記載内容を保っているPDF等のイメージ文書である(2項)。 「イメージ文書」とは、情報システムの使用により可読性のある電子データであり、書面の取引証憑と同等の記載内容を保っているデータをいう(12項(5))。 ファイル形式としては、PDFファイルや他の画像ファイル(BMP、TIFF、JPEG、PNG等)が想定されている(12項(5))。 電子データであっても、EDI(Electronic Data Interchange)取引等によって情報システムで生成される一覧型のシステム取引データは、イメージ文書とは異なる監査上のリスクを考慮する必要があり、従前からの監査手続により対応が図られていることから、実務指針の対象としていない(2項)。 実務指針は、次の両方のイメージ文書を対象としている(2項)。 さらに、原本である書面を電子化する場合には、企業が関連する法令等に従って電子化する場合と、監査の過程で監査人が依頼したことで電子化される場合があり、実務指針はこの両方を対象としている(2項)。 次の付録も記載されている。 2 原本 「原本」とは、イメージ文書に変換する前の元になったものであり、書面又は情報システムから出力された可読性のある電子データをいう(12項(6))。 実務指針は、監査の過程で監査人が監査証拠として入手する可能性のあるイメージ文書を取り扱っているため、原本という用語をイメージ文書と対比する目的で、上記のように定義している。 実務指針では、イメージ文書の作成を前提としていない書面等についての原本を定義することを目的としていないため、他の法令等における定義とは異なる場合があるとのことである(12項(6))。 監査人は、イメージ文書の元になった原本が被監査会社の管理下に存在し、それが監査の目的に関連する情報であり、監査人が監査証拠として必要と判断する場合には、経営者に対し当該原本の提供を求めることがある(14項)。 公開草案に対するコメントとして、公開草案全体からは、可能な限り書面の原本を廃棄してほしくないというようなトーンがうかがえるが、必ずしも監査人の立場から書面の原本の廃棄を禁止するものではない旨を冒頭部分等において明確にした方がよいのではないか、また、実務指針は、スキャナ保存に係る内部統制の整備及び運用を強制するものではないという理解でよいかとのコメントが寄せられた(コメントNo.1)。 これに対して、実務指針では、書面の原本の廃棄を禁止したり、被監査会社に要請したりするといった立場ではないこと、また、被監査会社にイメージ文書の真正性確保に関する内部統制の整備及び運用を強制するわけではないことが記載されている。 全体として、イメージ文書に取り込む前の原本の方が、証拠力が高いというスタンスではないかとの受けとめに対しても、コメントを踏まえ全体を見直し原本を確かめる必要性を強調しないよう修正しているとのことである(コメントNo.3)。 3 イメージ文書に係るリスクの識別と評価 監査人は、電子取引において受領又は交付したイメージ文書が複製であることのみを理由に監査証拠として十分かつ適切ではないと判断する、又は、情報の信頼性を何ら検討せずにイメージ文書が複製元の原本と全く同一の記載内容であると判断する、といった先入観を持たず、入手したイメージ文書が有する証明力並びに監査証拠としての十分性及び適切性を適切に評価して対応する(20項)。 監査人は、入手したイメージ文書に対して、重要な虚偽表示リスクの程度が高いと評価し、より確かな心証が得られる監査証拠を入手する場合には、監査証拠の量を増やすことや、より適合性が高く、より証明力の強い監査証拠を入手することがある(42項、43項)。 後述のように、スキャナ保存に関しては、令和3年度(2021年度)税制改正により、スキャナ保存後直ちに書面の原本を廃棄することが可能となっている。 そのため、監査人は、監査上必要と判断する一定金額以上の契約書など、重要な監査証拠となり得る記録や書面の原本の取扱いに関して被監査会社と事前に十分に協議し、例えば、次のような対応を検討することが考えられるとしている(64項)。 4 令和3年度(2021年度)税制改正による監査への影響 令和3年度(2021年度)税制改正により、国税関係書類の電子的な保存のための要件が緩和されており、イメージ文書の保存に関して以下に留意する(32項)。 5 内部統制 監査人は、監査に関連する内部統制を理解する際に、監査基準委員会報告書315「企業及び企業環境の理解を通じた重要な虚偽表示リスクの識別と評価」第12項に従い、内部統制のデザインを評価し、これらが業務に適用されているかどうかについて、企業の担当者への質問とその他の手続を実施して評価する(34項)。 イメージ文書の作成、受領及び保管に関する内部統制(IT全般統制を含む)を理解するに当たってのポイントなどが記載されている(37項ほか)。 Ⅲ 適用時期等 実務指針は、2022年1月1日以後に開始する事業年度に係る監査及び同日以降に開始する中間会計期間に係る中間監査から適用する。 ただし、それより前の決算に係る監査から実施することを妨げない。 なお、実務指針の公表により、2022年1月26日付けで、次のものが廃止されている。 (了)
《速報解説》 「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」のQ&Aが改正される ~リモートワーク普及に伴う新たなリスクへの対応等について設問を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2022年1月13日付けで(ホームページ掲載日は2022年1月26日)、日本公認会計士協会は、「IT委員会研究報告第34号「IT委員会実務指針第4号「公認会計士業務における情報セキュリティの指針」Q&A」の改正」を公表した。これにより、2021年11月17日から意見募集していた公開草案が確定することになる。 これは、リモートワークの定着化により想定される課題への対応等について述べたものである。 公開草案に対するコメントは寄せられなかったとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ リモートワーク関連技術・対策のQAの追加など 1 電子データ授受に関する方針を定める上での留意点(Q22) 電子データ授受に関する方針を定める上での留意点を追加し、主に次の事項を記載している(Q22)。 2 リモート会議の実施に対する主なリスクの例示(Q35) リモート会議の実施に対する主なリスクの例示を追加している(Q35)。 例えば、次の事項である。 3 リモートワークの導入に当たってのセキュリティ対策(Q36) リモートワークの普及に伴い、総務省から、リモートワークの導入に当たってのセキュリティ対策についての考え方や対策例を示した「テレワークセキュリティガイドライン」が公表されている(Q36)。 Ⅲ リスクアセスメントの例示の更新 「付録2:業務の局面におけるリスクとリスク対応例」を更新している。 Ⅳ 予防のみならず被害を受ける前提の早期検知・対策(Q7、27) 近年のサイバーセキュリティ攻撃は巧妙になってきており、これを予防的に防ぎきることは難しくなってきている。このため、早期の検知を行えるような組織やシステム運用上の仕組みを導入することや、影響の特定早期化や対応の早期化など被害の最小化につながる取り組みを行っていくことも大事であるとしている(Q7)。 また、サイバー攻撃等のインシデントが発生したことを想定し、外部業者等セキュリティに関して相談できる窓口等について事前に確認したり、セキュリティベンダー等に日頃の対策について意見を求めたりするなどの対応が有効と考えられるとしている(Q27)。 Ⅴ クラウドサービス等外部委託先を利用することを前提とした記載の強化(Q9、11、12) 業務の実行やIT機能は外部に移転することが可能だが、説明責任は移転することができないことから、外部にどのような作業や業務を委託するのかによって、扱う情報も異なることを前提にリスクに応じた対策を行うことが肝要であるとしている(Q9)。 そのほか、Q11、Q12についても改正している。 Ⅵ PC等からの情報漏洩を避ける日常的な防止策の例示の追加(Q25) 重要な情報を取り扱うファイルサーバや仮想デスクトップ等の場合は、ディスク障害や保守メンテナンス時に重要なデータが保存されたHD、SSDを返却せずに、自社で保管又は処分が可能な「ディスク返却不要オプション」を用意している機器ベンダーもあるので、自社で情報漏洩のリスクを完全にコントロールできるサービスがあれば積極的に検討することが望ましいなどの記載が行われている(Q25)。 (了)
2022年1月27日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.454を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。