日本の企業税制 【第109回】 「防衛費の倍増と財源の確保」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 わが国を取り巻く安全保障環境は、中国、北朝鮮、ロシアによる軍事活動の活発化等によって、急速に厳しさを増している。 今年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(いわゆる「骨太の方針」)で、ロシアによるウクライナ侵略などを踏まえ、新たな国家安全保障戦略等の検討を加速し、国家安全保障の最終的な担保となる防衛力を「5年以内に抜本的に強化する」こととされた。また、「骨太の方針」では、北大西洋条約機構(NATO)諸国が国防予算を対GDP比2%以上とする基準を満たすという誓約へのコミットメントを果たすための努力を加速することと、防衛力強化について改めて合意がなされたことにも言及されている。 また7月の参院選で自民党は、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」ことを公約に掲げた。 こうした状況の下、政府は、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱(防衛大綱)、中期防衛力整備計画のいわゆる「三文書」の策定作業が進められている。 〇「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の設置 現在のわが国の防衛費は対GDP比で約1%であり、これを2%にすると現在5兆円規模の防衛費が10兆円規模に拡大するということになり、その規模感が先行して取りざたされていたが、必要となる防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握、財源の確保を一体的に検討するために、9月に入って政府に、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」が設置された。 11月9日に開かれたこの有識者会議の第3回会合では、財務省から財源確保の基本的な考え方が提示された。歳出改革を進めてもなお不足する財源については税制上の措置を含め多角的に検討し、令和5年度予算編成・税制改正において所要の結論を得るとされ、その視点として次のような考え方が挙げられている。 この考え方を示した財務省の資料には、かつての湾岸戦争における資金貢献や東日本大震災の復興の財源フレームも紹介されているが、いずれも巨額とはいえ一時的な歳出に対応する時限的な措置であり、今回の防衛費の増額のように恒久的になる可能性が高い歳出の財源確保とは性質が異なっていることにも注意が必要であろう。 〇東日本大震災の復興財源フレーム 平成23年3月11日に発生した東日本大震災の復興財源をめぐっては、当初は、所得税・個人住民税均等割・たばこ税・法人税が財源とする案が提示されていた。 具体的には、所得税については、税額の4%を復興特別所得税とし、平成25年1月から10年間続けることとされていた。また、個人住民税均等割も年500円の増税で、平成26年度から5年間、実施することとされていた。 たばこ税、地方たばこ税については、個人所得課税における負担を軽減する観点から、それぞれ1円/本の増税が行われることとなっており、たばこ税の増税については復興特別たばこ税として平成24年10月から10年間、地方たばこ税の引上げは平成24年10月から5年間の措置とされていた。 法人税については、平成23年度税制改正法案における法人実効税率の5%引下げと課税ベースの拡大を平成24年4月1日以後開始事業年度から適用した上で、平成24年度から法人税額の10%の復興特別法人税を3年間上乗せすることとされていた。 その後、同年11月10日、自民、公明、民主三党の税調会長間の協議で合意が成立し、復興財源確保特別措置法案(東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法)の修正法案として、復興特別所得税の課税の対象となる期間を、平成25年から25年間に、また復興特別所得税の税率を100分の4から100分の2.1に改め、復興特別たばこ税に係る規定を削除するほか、復興債等の償還期間の変更(25年)、決算剰余金の償還費用の財源への活用、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図り復興債の償還を適切に管理するため、特別会計を2012年度に設置等を措置することとされた。 復興特別法人税については特段の修正はなく、平成24年4月1日以後に開始する事業年度から、基準法人税額に対して10%の税率を3年にわたって実施することとなった。平成23年度税制改正における法人税率の引下げと復興特別法人税とを合わせると、法人実効税率は、40.69%から38.01%へ引き下げられる結果となった。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第5回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 (2) 暗号資産の贈与・低額譲渡に関する規定 棚卸資産の贈与等の場合の総収入金額の算入について、次の①の事由により、居住者の有する棚卸資産の移転があった場合には、次の②の金額相当額は、その者のその事由が生じた日の属する年分の事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入する(所法40①)。 (※1) 相続人に対する贈与で被相続人である贈与者の死亡により効力を生ずるものを除く。 (※2) 包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈を除く。 例えば、棚卸資産を贈与したり、著しく低い価額の対価で譲渡したりした場合には、この規定が適用されて、その棚卸資産の価額(通常販売価額であるが、実務上は、事業者が、通常販売価額のおおむね70%以上、かつ、取得価額以上の金額をもって帳簿に記載し、これを事業所得の金額の計算上総収入金額に算入しているときは、当該金額でも認められる。所基通39-1、39-2)相当額が総収入金額に算入されることになる。 この場合の著しく低い価額の対価とは、実務上、その棚卸資産の価額(通常販売価額)のおおむね70%に満たない額をいうものとされている(所基通40-2)。著しく低い価額の対価による譲渡をした場合には、その対価の額と譲渡時のこの価額との差額のうち実質的に贈与をしたと認められる金額が、総収入金額に算入される(所法40①)。 この場合の実質的に贈与をしたと認められる金額とは、上記資産の価額のおおむね70%相当額からその対価の額を控除した金額として差し支えないとされている(所基通40-3)。 ただし、実務上、著しく低い価額の対価による譲渡について定める上記所得税法40条1項2号の規定の趣旨は、たとえ譲渡の形式をとっている場合でも、実質的に部分的な贈与をしたと認められる行為は、その実質に着目して課税処理をすることにあるから、棚卸資産を著しく低い対価で譲渡した場合であっても、商品の型崩れ、流行遅れなどによって値引販売が行われることが通常である場合はもちろん、実質的に広告宣伝の一環として、又は金融上の換金処分として行うようなときには、この規定の適用はないとされている(所基通40-2(注))。 また、注意すべきことに、居住者が上記贈与、遺贈又は低額譲渡により取得した棚卸資産を譲渡した場合において、その事業所得、山林所得、譲渡所得又は雑所得の金額の計算上、その居住者が、その棚卸資産について、贈与又は遺贈の場合には上記②の価額、低額譲渡の場合にはその譲渡の対価の額と②の価額との合計額をもって取得したものとみなされる(所法40②)。 もちろん、贈与等を受けた者も個人である場合には贈与税、贈与等を受けた者が法人である場合には法人税の課税関係の検討も必要となる。 上記所得税法40条が適用される棚卸資産には、事業所得の基因となる山林、所得税法39条に規定する資産(本連載第4回参照)、有価証券で事業所得の基因となるものに加えて、所得税法48条の2第1項に規定する暗号資産、すなわち資金決済法上の暗号資産が含まれる(所法40、所令87)。 含み益のある暗号資産はその元の保有者である贈与者、遺贈者又は譲渡人において所得(未実現の利益)が発生していると観念し得ること、含み益のある暗号資産を譲渡することにより、利益を移転することができることなどを考慮すると、暗号資産に対して元の保有者の段階でその含み益に課税するような制度を採用することにも一定の理解が寄せられよう。 しかしながら、留意しておくべき点がある。現行所得税法2条1項16号は、棚卸資産の定義から暗号資産を除いており、このことは、暗号資産が棚卸資産に該当し得ることを認めていることを暗に示している(本連載第4回参照)。 他方、暗号資産を贈与等した場合には、上記所得税法40条1項の適用がないのではなく、むしろ、暗号資産に対しては、棚卸資産の性質を有するか否かを問わず、つまり販売用であるか、事業所得の基因となるものかという保有目的を問わず、同項が適用されるような仕組みが採用されている(所法40①、所令87)。 このような観点から眺めると、暗号資産に対しては通常の資産よりも、納税者にとって厳しい課税の仕組みが採用されているといえる。 なお、この所得税法40条1項の規定は、事業所得の金額又は雑所得の金額の総収入金額に関する定めであるが、その規定ぶりからすると、暗号資産に係る所得の所得区分を事業所得又は雑所得に限定する趣旨までも含むものではないと解される。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第44回】 「代表者の長男が同伴した海外渡航費について損金算入が認められなかった事例」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 役員の親族が同伴する海外渡航費の取扱い 法人の役員や使用人の海外渡航に関して、その海外渡航が法人の業務の遂行上必要なものであり、かつ、当該渡航のため通常必要と認められる部分の金額であれば、旅費として損金算入が可能である(法基通9-7-6)。このうち、役員に関しては、法人の業務の遂行上必要ではなかったり、通常必要と認められる部分の金額を超過したりした場合において、当該旅費を損金算入するには事前確定届出給与の適用を受ける他ないと考えられ、実務上は定期同額給与に該当しない役員給与として損金不算入とされる。 この点、当該役員の海外渡航に配偶者などの親族が同伴するケースを想定して、課税庁は法人税基本通達9-7-8を用意している。 法人税基本通達9-7-8では、役員の海外渡航に際し、その親族等を同伴させて法人が旅費を負担した場合について、原則的にはその役員の給与となる旨を示すと共に、以下のように、明らかにその海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められる場合に限り給与とされない旨が示されている。 【海外渡航の目的を達成するために必要な同伴と認められる場合の例示】 「目的を達成するために必要な同伴と認められる場合」の判断につき、ダイレクトに上記例示に当てはまる事情があればよいが、その是非について悩むケースもあるかもしれない。 (2) 代表者の長男が同伴した海外渡航費について判断が示された事例 ここで、代表者の長男が同伴した海外渡航費について、裁判所が法人税基本通達9-7-8に触れながら判断を示した事例として、横浜地裁平成17年1月19日判決がある(※1)。以下にその概要について触れる。 (※1) 税務訴訟資料255号順号9899、TAINS:Z255-09899。なお、本件の裁決例として、国税不服審判所平成15年2月13日裁決がある(裁決事例集65集414頁、TAINS:J65-3-30)。 本件は、小学生であった代表者夫妻の長男の同伴につき、納税者は以下のように主張し、法人税基本通達9-7-8に鑑みて損金算入されるべきであると主張した。 裁判所は、これらの納税者の主張に対し、当該会議について同席しただけでは業務上必要な行為とはいえず、出席して発言したという客観的な証拠もないとした。そして、長男が小学生であったことに鑑み、納税者と取引先の経営者家族相互の信頼関係の醸成に資するということができるとしても、それ以上に、納税者の現在の業務の円滑な遂行上の必要性があるものとまでは認め難い旨を示した。 また、法人税基本通達9-7-8の趣旨について、「海外渡航費が損金の額に算入されるかどうかは、国際会議への出席等という名目だけではなく、当該国際会議の性質や配偶者の同伴が必要な事情を個別的、実質的に検討して、あくまでも当該法人の業務の遂行上必要な費用であるかどうかによって判断されるべきもの」であると示している。 (3) 本件裁判例に鑑みた実務上の対応 上記裁判例の意義は、親族等が役員に同伴して海外渡航する場合の渡航費に係る損金算入性の判断について、その渡航があくまでその時点で法人の業務に資するかどうかとすべき点を明確にした点にある。当時小学生であった長男がその時点で法人に資する要素や行動があったかどうかという点で、大いに疑問符が付くことは当然の判断といえるため、裁判所が示した判断は妥当だと考える。さらに、備えておくべきエビデンスに言及したことにも意義があるといえよう。 法人税基本通達9-7-8の解説によると、法人の業務上必要な会議への出席について配偶者を同伴することが要件とされるケースを例として、このようなやむを得ない事情で海外渡航をする場合にまで海外渡航費を給与とすることは実情からみて適当ではない旨が示されていることから(※2)、当該通達による損金算入はその渡航時点の現況によって、限定的に判断すべきだと思われる。 (※2) 髙橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説 十訂版』(税務研究会出版局、2021)1093頁。 これに対して、海外出張に役員の親族が同伴することはビジネス上あり得ることでもあるため、そのような場面に直面した場合には、当該通達の文言にもある「その海外渡航の目的」が何であったのかをヒアリングするとともに、海外で行われた会議の議事録や行程表、海外出張報告書や取引先等からの招待状等を確認した上で、渡航時点の現況により損金算入を行うか否かを慎重に判断したい。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第46回】 「適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱いについて解説します。 1 被現物分配法人の繰越欠損金額の使用制限 (1) 内容 適格現物分配の場合、現物分配法人の資産を簿価で譲渡することにより、含み損益が被現物分配法人に移転するため、被現物分配法人側で含み益を実現させ、被現物分配法人の欠損金を使用することが可能となります。したがって、そのような租税回避行為を防止するために、被現物分配法人の欠損金について一定の使用制限が課されています。 適格現物分配のうち、次のいずれにも該当しない適格現物分配については、被現物分配法人の未処理欠損金額の使用が制限されます(法法57④、法令112⑨⑩)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています(法令112④⑨)。 (2) みなし共同事業要件 適格現物分配は、資産を移転するもので、事業の移転を前提としたものではないため、適格合併等と異なり、みなし共同事業要件によって使用制限が課されないこととなる措置は設けられていません。 2 繰越欠損金の使用制限の対象金額 (1) 内容 被現物分配法人の繰越欠損金額について使用制限が課された場合には、以下の繰越欠損金額を使用することができません(法法57④、法令112⑤⑪)。 (※) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額については、前9年内事業年度とされています。 制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 (2) 特定資産譲渡等損失額 「特定資産譲渡等損失額」とは、支配関係事業年度開始の日において被現物分配法人が有していた資産の譲渡損失等のことをいいます。なお、特定資産譲渡等損失額については、次回詳しく解説します。 3 時価評価した場合の特例 (1) 内容 被現物分配法人において、含み益が生じている資産を多額に有しており、かつ、欠損金が生じているケースでは、仮に含み益を実現させれば、欠損金のうち含み益部分は自社で利用することが可能であり、租税回避行為ではないため、欠損金を制限する必要はないと考えられます。 したがって、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113)。 (2) 時価純資産超過額 「時価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)を超える場合のその超える部分の金額をいいます。 (3) 簿価純資産超過額 「簿価純資産超過額」とは、時価純資産価額(資産の時価評価額の合計から負債の時価評価額の合計を減算した金額)が簿価純資産価額(資産の帳簿価額の合計から負債の帳簿価額の合計を減算した金額)に満たない場合のその満たない部分の金額をいいます。 (4) 時価純資産超過額がある場合の特例 被現物分配法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額以上の場合には、欠損金の制限はありません。 被現物分配法人の支配関係事業年度の前事業年度終了時における時価純資産超過額が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、支配関係前欠損金額のうち、その満たない部分の金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 (5) 簿価純資産超過額がある場合の特例 簿価純資産超過額が支配関係事業年度以後に生じた特定資産譲渡等損失額に満たない場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額の全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、簿価純資産超過額のみ制限されます。 時価評価した場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 4 移転資産の含み損益がある場合の特例 (1) 内容 事業を移転しない適格現物分配の場合、移転資産の含み益に対応する欠損金の使用を制限すれば、租税回避行為に十分対応できます。 したがって、移転資産の含み損益に応じた欠損金の制限対象金額の計算の特例が設けられています(法令113)。 (2) 移転資産に含み損がある場合の特例 移転資産に含み損がある場合には、欠損金の制限はありません。 (3) 移転資産に含み益がある場合の特例 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額に満たない場合には、移転資産の含み益に相当する金額のみ欠損金が制限され、支配関係事業年度以後の未処理欠損金額については制限されません。 移転資産の含み益が支配関係前事業年度末の未処理欠損金額を超える場合には、支配関係事業年度前の未処理欠損金額の全額が制限対象となり、支配関係事業年度以後の事業年度の未処理欠損金額については、移転資産の含み益から支配関係前欠損金額を控除した金額に達するまでの金額のみ制限されます。 事業の移転がない場合の特例を適用したときの制限対象金額をまとめると、下図のとおりとなります。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 5 被現物分配法人株式のみを現物分配する場合の特例 現物分配法人が被現物分配法人株式のみを現物分配する場合、つまり、子会社が保有する親会社株式を現物分配する場合には、被現物分配法人の欠損金の使用制限はありません。この場合、時価評価した場合の特例や移転資産の含み損益がある場合の特例と違い、申告要件は課されていません。 今回詳しく説明できなかった「特定資産譲渡等損失額」については、次回解説します。 ◆適格現物分配があった場合の繰越欠損金の取扱いのポイント◆ 租税回避防止のため、被現物分配法人の欠損金について使用制限規定が設けられています。 合併等と違い、みなし共同事業要件を満たす場合の措置が設けられていません。 欠損金の制限対象金額の計算には、時価評価した場合の特例が設けられています。 適格合併と違い、適格現物分配の場合には、欠損金の制限対象金額の計算には、移転資産の含み損益がある場合の特例や被現物分配法人株式(親会社株式)のみを現物分配する場合の特例が設けられています。 (了)
相続税の実務問答 【第77回】 「葬式費用の範囲②(2ヶ所で葬式を行った場合)」 税理士 梶野 研二 [答] お父様の御葬儀は、お父様の活動の中心だった東京と出身地であるQ市の2ヶ所で行われたとのことですが、そのいずれも亡くなられたお父様を葬る儀式である葬式と認められます。したがって、いずれに要した費用も相続税の課税価格の計算上、葬式費用として、控除することができると考えられます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 葬式費用の控除 前回説明しましたように、相続人(無制限納税義務者に限ります)が負担した被相続人に係る葬式費用は、その相続人の相続税の課税価格の計算上、控除することができます(相法13①二)。 葬式費用とは、死者を葬る儀式に要した費用をいい、次に掲げる金額の範囲内のものとされています(相基通13-4)。 葬式の方式は、被相続人や家族の信仰する宗教、地域の慣習や社会環境、その家族の考え方によりさまざまであり、その時代背景によっても変化します。また、葬式は、故人の生前の活動の中心であった場所で行うこともあれば、菩提寺のある出身地などで行うこともあります。死亡後、すぐに葬式をすることができない場合や、遠方で葬式を行う場合には、先に火葬を行うこともあります。さらには、上記通達にも定められていますように、仮葬式と本葬式が行われることもあります。 このように葬式の形態も一様ではありませんので、その費用が葬式費用に該当するかどうかの判断は、具体的な個々の事案ごとに、社会通念に従って判断することになります。 2 告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについての文書回答事例 被相続人の住所地や活動の場と親戚や知人の多い出身地が離れているような場合には、2ヶ所で葬式を行うこともあります。告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについては、次のような照会がなされ、平成22年11月5日付で名古屋国税局審理課長から照会者の意見のとおりで差し支えない旨の回答がなされています。 ○照会及び回答の要旨 (※) 「事前照会の趣旨」、「事前照会に係る取引等の事実関係」及び「事前照会者の求める見解となることの理由」の全文については、国税庁ホームページの文書回答事例「告別式を2回に分けて行った場合の相続税の葬式費用の取扱いについて」を確認してください。 3 ご質問の場合 ご質問の場合、お父様の生前の活動の中心だった東京と出身地であるQ市の2ヶ所でお父様の告別式を行っていますが、文書回答事例の場合と同様に、いずれもが亡くなられたお父様を葬る儀式としての葬式であると認められます。 したがって、いずれに要した費用についても、相続税の課税価格の計算上、葬式費用として控除することができると考えられます。 (了)
〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第60回】 「事業の全部を転業した場合の特定事業用宅地等の特例の適用と 個人版事業承継税制の適用の可否」 税理士 柴田 健次 [Q] 被相続人である甲は飲食店(中華料理屋)の事業を40年間営んでいましたが、令和4年10月9日に相続が発生しました。甲の飲食店の事業の用に供していたA宅地及び建物(いずれも甲が100%所有)及びその他財産の全てを長男である乙が相続しました。甲は開業以来、青色申告者として事業を営んでいました。相続開始時の甲の年齢は80歳で乙の年齢は50歳となります。 乙は相続開始前までは他の会社で喫茶店の従業員として勤務していましたが、相続後は、会社を退職し中華料理屋の事業を廃止し、A宅地及び建物で喫茶店業を行っています。乙は令和4年12月までに、甲の所轄税務署に青色申告で準確定申告書の提出を行い、乙の所轄税務署に開業届出及び青色申告の承認申請書の提出を行っています。 上記の場合には、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。また、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] A宅地については、小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることはできませんが、個人版事業承継税制の相続税の納税猶予の適用については、他の要件を満たせば受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定事業用宅地等の特例の適用の適否 (1) 特定事業用宅地等の事業継続要件 特定事業用宅地等の要件として、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(貸付事業を除く、以下1において同じ)の⽤に供されていた宅地等を相続又は遺贈により取得した被相続人の親族が次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たす必要があります(措法69の4③一)。 なお、特定事業用宅地等の意義については、【第11回】で解説しています。 (2) A宅地の事業継続要件の判断 A宅地については、(1)の①被相続人の事業を承継した場合の宅地に該当しますので、宅地等を取得した親族が被相続人の事業を引き継ぎ、かつ、申告期限までその事業を営んでいることが要件とされています。本問の場合には、被相続人の事業を申告期限まで営んでいませんので、特例の適用を受けることはできません。 なお、被相続人の事業(中華料理屋)が飲食店業であり、乙の事業(喫茶店業)も飲食店業であることから事業の同一性が全くないわけではありませんが、下記の日本標準産業分類(平成25年10月改定・平成26年4月1日施行)の小分類では、中華料理店が小分類番号762の専門料理店であるのに対して、喫茶店は小分類番号767の喫茶店であるため、小分類が異なっています。 (※) 総務省ホームページ「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」より一部抜粋、赤文字加工は筆者による。 事業の同一性の判断については、明確な基準があるわけではありませんが、1つの判断基準として日本標準産業分類の小分類が参考となります。もっとも、被相続人の事業と転業する事業との関連性や営業許可基準が同一であるか否かによっても判断が分かれることもありますので、あくまでも日本標準産業分類の小分類も含めて総合勘案して判断する必要があります。 なお、事業の同一性の判断については、本連載【第12回】でも解説しています。 2 個人版事業承継税制の適用の可否 (1) 個人版事業承継税制の適用要件 第一種相続認定(先代事業者から後継者への相続認定)の後継者及び被相続人については、それぞれ下記の要件を満たす必要があります。 ① 後継者の要件(措法70の6の10②二、円滑化規則6⑯八) (※) 「⻘⾊申告の承認」を受けるためには、相続の開始を知った⽇の時期に応じて、それぞれに定める期間内に納税地の所轄税務署⻑へ申請を⾏う必要があります(所法144、所基通144-1)。 ② 被相続人の要件(措令40の7の10①一、円滑化規則6⑯八) (2) 後継者の事業従事要件 贈与の場合には、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり、相続の場合には、相続開始の直前に特定事業用資産に係る事業又は事業に準ずるものとして同種又は類似の事業に係る業務に従事していたことが必要となります。 この場合における「特定事業用資産に係る事業と同種又は類似の事業」に該当するかどうかの判定は、日本標準産業分類に掲げる中分類(中分類がない場合には大分類)に基づき行うこととされています。また、その後継者が従事していた事業が中分類上、特定事業用資産に係る事業と異なるものに分類される場合であっても、後継者がその事業において従事していた業務がその特定事業用資産に係る事業において行われる業務と同種又は類似のものであるときは、特定事業用資産に係る事業に従事していた場合に該当するものとされています(措通70の6の8-20、70の6の10-20)。 したがって、先代事業者の事業が中華料理屋で、後継者の事業が喫茶店である場合には、いずれの場合においても中分類は飲食店業であるため、同種又は類似の事業に該当することになります。つまり、本問の場合には後継者の事業従事要件は満たされていることになります。 (3) 後継者の事業供用要件 後継者は、「特定事業用資産に係る事業」を引き継ぎ、相続税の申告書の提出期限まで引き続き当該特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していることが必要とされています。上記(2)で解説のとおり、相続開始前の後継者の従事していた業務が「特定事業用資産に係る事業」において行われる業務と同種又は類似のものである場合には、「特定事業用資産に係る事業」に従事していたものとして取り扱われることとされており、「特定事業用資産に係る事業」と同種又は類似の事業に該当するかどうかの判定は、日本標準産業分類に掲げる中分類(中分類がない場合には大分類)に基づき行うこととされていますので、本問の場合における「特定事業用資産に係る事業」とは、飲食店としての事業を意味するものと考えられます。 したがって、乙は飲食店として、「特定事業用資産に係る事業」を引き継ぎ、相続税の申告書の提出期限までA宅地及び建物を自己の事業の用に供していますので、事業供用要件は満たされることになります。 3 特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税制の事業の同一性の考察 特定事業用宅地等の特例については、上記1で解説のとおり、被相続人の事業を承継し、相続税の申告期限までその被相続人の事業を継続することが要件となっています。本問の場合のように事業を転業している場合には、被相続人の事業と転業した事業が同一であるか否かが問題となります。この場合の事業の同一性について明確な基準がないため、実務上は、日本標準産業分類の小分類等を参考にして判断を行います。 これに対して、個人版事業承継税制については、上記2で解説のとおり、特定事業用資産を相続又は遺贈により取得した後継者が相続の開始の直前において特定事業⽤資産に係る事業⼜はこれと同種若しくは類似の事業に従事し、相続後にその特定事業用資産に係る事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していることが要件となっています。本問の場合のように乙の相続開始前及び相続開始後の事業が被相続人の事業と同一であるかどうかが問題となりますが、事業の同一性については、日本標準産業分類の中分類によることが租税特別措置法関係通達70の6の8-20、70の6の10-20により明らかにされています。 特定事業用宅地等の特例が相続という一時点の事業承継の問題であるのに対して、個人版事業承継税制は、先代事業者の特定事業用資産の円滑な承継を促進するため、贈与を主軸とした一定期間の事業承継の問題であるため、後者の方がより幅の広い事業承継に対応した制度となっています。また、特定事業用宅地等の特例が宅地等のみの減額特例であるのに対して、個人版事業承継税制については、特定事業用資産(本連載【第59回】で解説)を対象としている点についても、後者の方が幅の広い事業承継に対応しているといえます。 したがって、事業の同一性の範囲についても特定事業用宅地等の特例よりも個人版事業承継税制の方が幅が広いと解釈することができます。 もっとも、特定事業用宅地等の特例の事業の同一性について何らかの明確な基準が望まれることになりますので、今後の税制改正等の情報には、注視すべき内容となります。 ★実務上のポイント★ 特定事業用宅地等の特例と個人版事業承継税については選択適用とされていますが、それぞれ要件が異なるため、特定事業用宅地等の特例を受けられない場合でも個人版事業承継税制の適用を受けることができる場合もありますので、それぞれの要件の確認と適用の可否を判断する必要があります。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第4回】 「米国デラウェア州LPSの法人該当性 (地判平23.12.14、高判平25.1.24、最判平27.7.17)(その1)」 ~米国デラウェア州法201条(b)、所得税法2条1項7号等、租税特別措置法41条の4の2、民法33条、36条~ 税理士・米国公認会計士 金山 知明 1 事案の概要 (1) 概要 本件の納税者(居住者X)は、信託銀行との信託契約を介して米国デラウェア州法により設立されたリミテッド・パートナーシップ(以下「LPS」)(※1)が行う不動産賃貸事業にリミテッド・パートナーとして参加した。Xは、本件LPSは日本の租税法上の法人には該当しないので、本件LPSが行う不動産賃貸に係る所得はパス・スルー課税(※2)されて、自己の不動産所得になるとして、減価償却費等による不動産所得の損失金額を他の所得と損益通算して所得税の確定申告を行った。 (※1) デラウェア州法第6編第17章(以下「州LPS法」)101条(11)によれば、リミテッド・パートナーシップとは、1名以上のジェネラル・パートナーと、1名以上のリミテッド・パートナーにより組成されるパートナーシップである。なお、ジェネラル・パートナーはLPSの債務について無限責任を負い、リミテッド・パートナーは基本的にはLPSの債務について責任を負わない(州LPS法303条(a)及び403条(b))。 (※2) 日本の税法上「パス・スルー課税」の定義は規定されていないが、一般に、事業体に生じた損益をその事業体の所得として課税することなく、出資者などの構成員に直接生じた所得として課税する(構成員課税)方式をいう。米国の内国歳入法典(以下「IRC」)1366(b)によれば、事業体に生じた損益をあたかも出資者により直接実現されたように出資者に帰属させることとされている。 これに対し課税庁Yが、本件LPSは租税法上の法人に該当し、その法人から受けた所得(損失)は納税者の不動産所得(の損失)には当たらないとして、Xの平成13年分から平成17年分までの損益通算を否認し、更正処分等を行ったため、Xがこれを不服として訴訟を提起した。 (2) 本件のスキーム 本件スキームでは、本件LPSに出資し、出資1口(2,000万円)当たり、各年の不動産所得につき約2,100万円の損失を4年間(約8,500万円)生じさせること(経費は主に中古資産の耐用年数による減価償却費)により、各年につき税額を約1,050万円節減し、4年間で合計4,200万円の税額を減少させることができる。ただし、このような税務効果が生じるのは、個人の適用限界税率が50%(所得税37%、住民税13%)で、損益通算をすることができる所得がおよそ3,600万円以上ある場合とされている。 なお、出資期間7年間で受け取ることができるキャッシュの総額は、出資1口(2,000万円)当たり約902万円である。したがって、この投資によるキャッシュ・フローはマイナスであることが予定されているが、最初の4年間の節税額を考慮すると、3,000万円超のリターンを期待できる(プロモーターである証券会社が作成した資料による情報)。 (3) 争点 本件LPSが法人でない場合は上記スキームの損益通算は肯定され、法人に該当する場合は否定されるという関係になることから、主たる争点は、本件LPSが所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否か(本件LPSの租税法上の法人該当性)である。 Yは、法人とは「自然人以外の者で権利義務の帰属主体となるもの」をいうが、外国の法令によって設立された事業体の法人該当性については、設立準拠法の内容のみならず、実際の活動実態、財産や権利義務の帰属状況等を考慮した上で、わが国の私法において法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否かにより判断すべきとしている。そのうえで、当該事業体が、 に基づいて判断すべきであるとし、本件LPSは、「separate legal entity」と規定されている(州LPS法201条(b))ため、権利の主体となり当事者能力を有する独立した法主体であり、上記3要件のすべてを満たすと主張した。 これに対してXは、Yが挙げる法人該当性を判定するための3要件は、事業体が「法人」とされたことにより生じる「効果」を述べるに過ぎないと述べ、本件LPSは損益が帰属する主体ではなく、州LPS法における「separate legal entity」とは、わが国の民法上の組合と同じ取扱いを受けられるという程度の意味を有するにすぎず、法人格が与えられたことを意味するものではないとして、本件LPSは法人には該当しないと主張した。 2 名古屋地裁判決(平成23年12月14日)についての検討 (1) 法人法定主義についての地裁の判示(民法の法人法定主義の尊重) 名古屋地裁はまず、法人の成立(法人格の付与)は、法律の定めによってのみ認められることを定めた民法33条(現民法33条1項)を挙げ、法人法定主義を確認している。また、租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には、本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当であるから、わが国の租税法上の「法人」も、その準拠法によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されたものをいうと解すべきであるとした。 また、民法36条1項の「外国法人」とは、外国の法令に準拠して法人格を付与された団体をいうと解されるから、外国の法令に準拠して組成された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かも、基本的には、当該外国の法令の規定内容から、その準拠法である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否かにより判断されるべきであると説示した。 そのうえで、本件LPSがわが国の租税法上の法人に該当するか否かについても、基本的にはその準拠法である当該外国の法令によって法人とする旨を規定されていると認められるか否かを検証するのが相当であるとの判断をしている。すなわち、内国法人と外国法人のいずれについても、法人該当性の判断基準は同一であるとの理解から、民法上の法人法定主義を尊重する考え方を示したことになる。 (2) 設立準拠法により法人格が与えられているか否かについての地裁の判示(州LPS法は本件LPSに法人格を与えていない) 名古屋地裁は上記の法人法定主義の観点から、州LPS法がLPSに法人格を与えているかどうかについて、詳しく検討をしている。まず、州LPS法の規定内容によれば、同法に準拠して組成されたLPSが法人である旨を明示的に定めた規定はないが、州LPS法に基づき組織されたLPSは、独立した法的主体(separate legal entity)となる旨の規定〔201条(b)〕がある点に言及する。そこで、そのような州LPS法にいう「separate legal entity」が法人を意味する概念であると解されるのか否かを検討している。 その結果、州LPS法の規定や米国の法学者の見解も参考にしたうえで、州LPS法201条(b)の「separate legal entity」との文言は、LPSがジェネラル・パートナーとは区別されたものであることを意味するに止まり、この中の「separate」という語には、何ら法的な重要性はないと判断した。 そして、州LPS法に基づいて組成されたLPSは、本質的にはパートナー間の契約関係であり、明確な法人格が認められたコーポレーション(corporation)と同一の機能を有するとか、それと同義であるとは解することができないとした。こうして名古屋地裁は、本件LPSは租税法上の法人ではないとのXの主張を認めた。 (3) 検討 名古屋地裁は以上のように判示し、本件LPSはわが国の租税法上、法人には当たらないとしてYの更正処分を取り消した。その判示の根拠としては、上記に挙げたもののほか、本件の発生より後の平成17年になって初めて、米国のGPSやLPSを含む一定の組合事業から生ずる損失を利用した租税回避行為を防止する租税特別措置法規定(41条の4の2)が制定されたことは、LPSが法人でないという前提を示唆していることや(※3)、米国租税法上のチェック・ザ・ボックス規則(※4)において、LPS等が課税方式を何ら選択しない場合には、デフォルト・ルールとして、パス・スルー課税が行われることに言及している。 (※3) このほか同判決は、英米法におけるリミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ(LLP)をモデルに平成17年に制定された有限責任事業組合契約に関する法律においても、有限責任事業組合は「法人」とはされていないことを挙げている。 (※4) この規則は財務省規則(Treasury Regulations)§301.7701-3に規定されており、1997年1月より施行されている。この規則によれば、§301.7701-2(b)で法人として限定列挙される事業体以外の事業体を適格事業体(eligible entity)と呼び、適格事業体は、選択届出書を提出することにより、パートナーシップ課税か法人課税かを選択することができる。 しかし、地裁判決の要点はやはり、法人該当性の判断は、設立準拠法が法人格を与えているか否かによりなされるという評価にあると考えられる。地裁は、Yが法人該当性の判断基準として主張した①独自の財産を所有できるか否か、②独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か、③訴訟当事者となり得るか否かという点につき、いずれも法人格が付与されることによって認められる法人の属性にすぎず、これらを満たせば法人に該当するという立論に法的な根拠はないと述べ、その主張を退けている。 租税法上の「法人」が借用概念である限り、法的安定性、予測可能性の観点から、その意味内容は民法上の法人法定主義に従って決せられるべきであり、外国法人であっても、準拠法により「法人」とされているかどうかにより法人該当性を判断するという判示に不自然さは感じられない(※5)。 (※5) 伊藤公哉「判批」大阪経大論集66巻6号234頁。 また、本件のような米国のLPS制度は、日本の会社とは全く性質を異にし、もともと所得のパス・スルーを前提に構築されたことに鑑みると、本件LPSを日本の租税法上の法人には当たらないとした地裁判決に妥当性を認め得る(※6)。なお、控訴審の名古屋高裁判決(平成25年1月24日)も、地裁判決を支持してXに対する課税処分を違法としている。 (※6) 金子宏『租税法(第24版)』弘文堂(2021年)554頁。 ((その2)へ続く)
給与計算の質問箱 【第35回】 「令和5年分源泉徴収税額表の変更点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和5年分源泉徴収税額表は、令和4年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 源泉徴収税額表自体の変更点はない。 ただし、令和5年分源泉徴収税額表の課税退職所得金額の算式の表(17頁)及び注記事項(19頁の「(注)1、3」、20頁の「(注)6」)が変更になっているため、以下で解説する。 * * 解 説 * * 1 課税退職所得金額の算式の表(17頁) 課税退職所得金額の算式の表の内容は同じであるが、形式が変更になっている。 《令和4年分》 (国税庁「令和4年分源泉徴収税額表」17頁の「課税退職所得金額の算式の表(令和4年分)」より抜粋) 《令和5年分》 (国税庁「令和5年分源泉徴収税額表」17頁の「課税退職所得金額の算式の表(令和5年分)」より抜粋) なお、課税退職所得金額の算定にあたっては、下記を確認しておきたい。 2 「(注)1」における記載事項の追加(19頁) 令和5年分では日額表の記載が追加されている。 《令和4年分》 (国税庁「令和4年分源泉徴収税額表」19頁抜粋) 《令和5年分》 (国税庁「令和5年分源泉徴収税額表」19頁より抜粋) 3 「(注)3」における記載の細分化(19頁) 令和5年分では「イ 扶養親族が居住者の場合」と「ロ 扶養親族が非居住者の場合」とに分けて記載されている。 《令和4年分》 (国税庁「令和4年分源泉徴収税額表」19頁より抜粋) 《令和5年分》 (国税庁「令和5年分源泉徴収税額表」19頁より抜粋) 4 「(注)6」における記載事項の追加(20頁) 令和5年分では「2 親族関係書類」と「3 留学ビザ等書類」が追加されている。 《令和4年分》 (国税庁「令和4年分源泉徴収税額表」20頁より抜粋) 《令和5年分》 (国税庁「令和5年分源泉徴収税額表」20頁より抜粋) なお、上記注記事項の変更については、令和2年度税制改正において令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等の適用要件の見直し等を反映していると思われる。 (了)
マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第10回】 (最終回) 「これから目指すべき目標は?」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔登場人物〕 ● ● ● 同じ利益を獲得できるならば、そのための元手は少ないほうが効率的です。企業経営において元手に対する利益の比率(資本効率性)を表す指標としては、ROE(Return on Equity:自己資本当期純利益率)やROA(Return on Asset:総資産利益率)が広く利用されています。特に、2014年に公表された通称「伊藤レポート」において、日本企業が達成すべきROEの目標値として8%という具体的な値が示されて以来、ROEは非常に重視されてきました(企業経営とメンタルアカウンティング〜管理会計で紐解く“ココロの会計”〜【第17回】参照)。 ● ● ● ● ● ● 多くの企業がROE向上を経営目標の1つに掲げ、実際に近年における日本の上場企業のROEは上昇傾向にあるという調査結果がありますが、その一方で、ROEはいくつかの限界を抱えています。 ROEは、「自己資本」すなわち株主資本を元手と考え、その元手を使って、株主に帰属する「当期純利益」をどれくらい獲得できたかを示す指標です。分母を自己資本としているため、複数の事業を営む企業において、自己資本を各事業部に分割して事業部別のROEを算定するのは難しい場合があります。 また、分母を自己資本とすることは、ROEの構成要素に財務レバレッジが含まれることを意味します。 つまり、本来的な営業活動の収益性(=利益率)や効率性(=資産回転率)が改善しなくても、負債の利用を高めたり、自己株式の取得などによって自己資本を圧縮したりすることによって、ROEを上昇させることが可能です。財務レバレッジの調節によってROEを高めたとしても、それは本業の成果ではなく、企業価値を本質的に高めることにはつながりません。 ● ● ● ● ● ● ROEの限界を補う指標として、ROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)があり、近年、これを活用する事例が増えています。 ROICの特徴は、分母に「投下資本」を用いる点にあります。ROICは、有利子負債と株主資本の合計を元手として捉え、その元手を使って、株主と債権者に帰属する「税引後営業利益(NOPAT:Net Operating Profit After Taxes)」をどれくらい獲得できたかを表す指標です。 ● ● ● ● ● ● ROICの分母である「投下資本」は、裏返せば「事業資産-事業負債」なので、各事業部の事業資産と事業負債を把握することで、事業部ごとのROICを算定することができます。 また、ROICは、「有利子負債と株主資本の合計」を元手と考える指標なので、「加重平均資本コスト率(WACC:Weighted Average Cost of Capital)」(=負債コスト率と株主資本コスト率の加重平均)と比較することによって、資本効率性を的確に評価することができます。 ● ● ● ROICを分解すると、 となり、財務レバレッジの影響は含まれません。したがって、ROICを向上させる取り組みは、企業の本質的な価値を高めることにストレートにつながります。 また、目標ROICを達成するための営業利益率と投下資本回転率を、さらに細かく分解すれば、現場レベルの目標として利用することが可能です。 【ROICの分解例】 上記の運転資本回転率は、「売上債権回転率と棚卸資産回転率を高く、仕入債務回転率を低くする」ことで上昇させることができます。回転率は回転期間の逆数ですから、これは、「売上債権回転期間と棚卸資産回転期間を短くし、仕入債務回転期間を長くする」ことと同義です。つまり、【第9回】で取り上げたキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の短縮は、ROIC上昇に貢献するのですね。 ● ● ● ● ● ● ROICを細かく分解しても、単にそれぞれの数値目標を掲げただけでは、現場レベルでそれを意識した具体的な行動を起こすことにはつながりにくいと考えられます。そのため、現場の担当者がイメージしやすい具体的な指標に変換し、現状を把握して改善に取り組むと効果的です。 (例) ・材料費率改善のための指標:A材料のロス率(現状△△% ➡ 目標〇〇%) ・棚卸資産回転率改善のための指標:受注から出荷までの日数(現状△日 ➡ 目標〇日) ● ● ● ● ● ● 企業という組織は、会計上の数値には表せない多くの「人」から成り立っています。ROICに限らず、管理会計は定量的な数値情報を扱うもので、こうした情報は企業経営に役立つものではありますが、人による活動の全てを数値で図ることはできません。 新型コロナウイルス感染症の流行を機にリモートワークやオンライン会議などが浸透した結果、企業で働くメンバー間の直接のコミュニケーションは大幅に減ってしまいました。しかし、その一方で、不確実な将来に対してポジティブかつ柔軟に向き合うには、企業という組織を構成するメンバーのコミュニケーションと、そこから生み出されるアイデアや組織力などが欠かせません。数値に管理されるのではなく、数値をうまく活用し、それを共通軸としてメンバーがコミュニケーションを取り協働できる仕組みを作ることが、これからの企業においては一層大きな強みとなるでしょう。 ● ● ● (連載了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第134回】 株式会社ソフィアホールディングス 「独立調査委員会答申書(開示版)(2022年8月12日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社ソフィアホールディングス独立調査委員会の概要】 【株式会社ソフィアホールディングスの概要】 株式会社ソフィアホールディングス(以下「SHD」と略称する)は、1975年8月設立(設立時の社名は株式会社ソフィアシステムズ。2007年4月、持株会社体制に移行して、現商号に変更。株式等の保有を通じた企業グループの統括・運営等を主たる事業とする。連結子会社では、インターネット関連事業、通信事業及び調剤薬局事業を主たる事業内容とする。売上高11,783百万円、経常利益889百万円、資本金2,358百万円。従業員数209名(2022年3月期連結実績)。株式会社E-BONDホールディングスが間接所有分を含めて、72.74%の議決権を有しており、同社取締役副社長の飯塚秀毅氏が、2020年6月、SHD代表取締役社長に就任している。本店所在地は神奈川県横浜市。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は監査法人アヴァンティア。 代表取締役社長及び取締役1名の計2名が逮捕された連結子会社であるソフィアデジタル株式会社(以下「SDI」と略称する)は、2010年2月設立。通信事業を行う中核事業会社の一社で、売上高3,600百万円、経常利益488百万円。取締役3名、従業員数は13名。本店所在地は東京都千代田区。 【独立調査委員会による答申書の概要】 1 独立調査委員会設置の経緯 2022年6月8日、SHDの連結子会社であるSDIの代表取締役社長であったf氏及び取締役であったg氏が、B社(答申書の内容から、アルテリア・ネットワークス株式会社であることが判明しているため、以下の表記は「アルテリア社」とする)の従業員であるb氏や複数の代理店の役職員ら等と共謀の上、C社(新聞報道などから、株式会社NTTドコモであることが判明しているが、本稿では、答申書の表記に従い、「C社」とする)から接続料金を騙取することを目的とする組織として、2021年3月頃、アルテリア社から仕入れたIP電話番号に対して所謂「機械呼」と呼ばれる方法(以下「本件方法」という)で機械的連続発信をすることによりC社をしてアルテリア社に対して接続料金を支払わせて接続料金を騙取したとして、組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)の疑い(本件被疑事件)で警察に逮捕された。 SHDは、本件被疑事件に関してSDI代表取締役らが逮捕されたことを受けて、2022年6月17日、本件被疑事件の事実関係の調査、本件被疑事件に類似する事象の存否及びそれらのSHDの連結決算への影響などについて調査を行うため、外部専門家を起用の上、独立調査委員会を設置した。 2 SDI役職員の関与・認識 f氏は、本件被疑事件に係る共謀の事実その他一切の関与を否認しており、独立調査委員会に対しても、刑事弁護人を介して、同じ趣旨の回答をしている。 一方、g氏は、独立調査委員会に対して、多数ある代理店との取引の1つとして本件被疑事件の事件関係者との取引の存在は認識していたが、f氏が単独で進めていたため、本件被疑事件の事件関係者に係る事実は把握していなかったと説明している。 さらに、独立調査委員会は、SDIの全役員のメールデータに対するフォレンジック調査も実施したが、これらの回答や説明を覆すに足るメールは不見当であったとしている。 3 過年度会計処理の問題等 独立調査委員会は、SDIが着信課金サービス事業に係る取引を通じて得た利益を過年度に遡及して取り消す必要があるかどうかについて、次のような理由を述べた上で、過年度に遡って取り消す必要はないという結論を述べている。 一方、独立調査委員会は、SHDの連結財務諸表に正常な企業活動における稼得収益という範疇には含まれない可能性がある取引に基づく利益が含まれている可能性が内包されていることに関しての説明責任を果たすべく、慎重な検討を行うことが望ましいとして、例えば、SHDの連結損益計算書における当該収益の表示区分の取扱いについて、引き続き売上高に含めることが妥当か否か、あるいは売上高に含めたとしても、そのような可能性が内包されている点に関して追加情報の注記という形での補足説明を行うべきか否かといった観点からの検討が必要であるという見解を示している。 4 原因究明(本件被疑事件を契機に顕在化した問題点)(答申書44ページ以下) 独立調査委員会は、原因究明(本件被疑事件を契機に顕在化した問題点)として次の6項目を挙げている。 独立調査委員会は、原因究明の冒頭、「SDIは、株式会社であるが、その事業遂行体制に照らすと、「個人事業主の寄り合い」であり、本件調査・答申の結果浮かび上がったガバナンス上の問題点のほとんどは、「個人事業主の寄り合い」であったSDIを、SHDが十分に監督できなかったことに起因する」と結論を述べている。原因究明で上げた6項目は、大きく分けて、(1)、(2)及び(5)はSDI単独における問題点であり、(4)及び(6)は親会社であるSHDによる子会社管理体制の不備、(3)はSDI・SHD双方で露見した問題点であるといえよう。 まずは、(1)属人的事業遂行体制について、独立調査委員会の原因分析を参照したい。 独立調査委員会による調査の結果、SDIの組織は、3人の役員が完全に分業する縦割りの体制を敷いており、SDIにおける着信課金サービスに係る業務遂行体制は、f氏がすべての案件を直接把握し、ビジネス上の判断を行うとの前提で構槃されているため、SDIの代理店網の構築は、f氏の裁量に委ねられてブラックボックス化していたことが判明している。 独立調査委員会は、SHDによる子会社の監視・監督における不備について、こうした報告書ではめずらしく、「社外取締役」について触れているので、(4)社外取締役の不活用についても、分析内容を見ておきたい。 独立調査委員会は、SHDにおいて、社外取締役をサポートする体制・情報提供のルートが十分に機能しなかったことが、社外取締役がその期待された役割を十分に果たすことができなかったことに繋がった可能性があると指摘し、その例示として、社外取締役のサポートを行う専従人員が存在しなかったこと、社外取締役が参加するグループ役員会が毎月1回開催されるものの、並行して、経営会議が毎月2回以上開催されていることから、経営会議で報告・審議された事項がグループ役員会における報告・審議事項から割愛されることとなりがちとなり、グループ役員会において社外取締役へ適切な情報(モニタリングのために必要な情報)が遍く報告されるという運用はなされていなかったことを挙げている。 5 再発防止策の提言(顕在化した問題点の是正に向けた提言)(答申書53ページ以下) 独立調査委員会は、答申の最後に、再発防止策の提言として次の6項目を挙げている。 独立調査委員会による提言のうち、「社外取締役の活用」について、その内容を見ておきたい。SHDの社外取締役2名はともに弁護士であり、社外監査役2名は公認会計士と弁護士が各1名という体制であり、表面的には、コーポレートガバナンスに配慮したものとなっている。しかし、独立調査委員会は、SHDでは、社外取締役を活用する体制が十分に整っていなかったことを指摘した上で、外部の目線から、あるべきグループ経営管理体制や業務運営の方法について継続的に監視・助言を行う存在があることが望ましく、社外取締役が、社外の知見を活用しつつ、継続的に経営を監督し、時宜に適った助言を行うことができるようにすることで、SHDのグループ経営管理体制の実効性をより高めることが可能となることから、社外取締役にその本来の機能を十分に発揮してもらうための仕組み作りが急務であるという提言に繋げている。 次に確認しておきたいのが、サプライチェーンマネジメントにおけるリスク再検証という提言である。独立調査委員会は、日本取引所自主規制法人が、2018年3月に公表した「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の[原則6]及び6-2を引用しているので、まずは、「プリンシプル」に掲げられた内容を示しておきたい。 その上で、独立調査委員会は、SHDは、SDIをして、BIS事件(本件前哨事件)を契機に解約した3社の代理店を除いても、15社もの多数の代理店を選定して、およそ7,000もの膨大なIP電話番号を卸販売して着信課金サービスを大規模に展開するサプライチェーンを構築していることから、そのような「サプライチェーンを展望した責任感」を再確認して、本件被疑事件が生じたことを重く受け止め、本件被疑事件の帰趨にかかわらず、本件取引に関係した代理店固有の問題であると短絡的に考えず、むしろ、着信課金サービス事業を展開する「当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める」必要があるという提言をまとめている。 そして具体的には、「契約上の責任範囲のみにとらわれず」、SDIが展開する着信課金サービス事業に係る代理店網の全体像と自社の位置・役割を再確認し、本件被疑事件を経て潜在することが明るみになった事業リスクを踏まえ、万一、本件被疑事件のような有事が今後生じた場合にも、迅速かつ適切な対応によりステークホルダーヘの的確な説明責任を履行することができるよう備えるべきであるとまとめている。 【答申書の特徴】 NTTドコモに対する組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕された14人の中には、上場会社であるアルテリア・ネットワークスの社員と別の上場会社であるソフィアホールディングスの連結子会社社長が含まれていたという衝撃的な事件を受けて、設置された独立調査委員会による答申書である。 調査は、逮捕・勾留されているSDI代表取締役社長が本件被疑事件に係る共謀の事実その他一切の関与を否認しており、独立調査委員会に対して、刑事弁護人を介して、同じ趣旨の回答をしていることから、独立調査委員会も、被疑事件については、それ以上の判断には踏み込んでいない。また、過年度売上高の修正についても、取り消す必要はないという結論を導きつつも、追加情報の追記等の検討を示唆している。SHDは、答申書に基づき、「正常でない取引が含まれている可能性がある旨を追加情報として注記」する訂正を行っている(2022年8月15日「過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出に関するお知らせ」)。 1 2021年7月に発覚したBIS事件との関係 独立調査委員会が、答申書の中で繰り返し不備を指摘しているのが、2021年7月に発覚したBIS社による組織犯罪防止法違反事件に対するSHD・SDI両社の対応である。 すなわち、今回逮捕・起訴されたSDI代表取締役は、BIS事件に際しても任意同行を求められるとともに、SDI社と自宅が家宅捜索の対象となっており、さらに、代理店のうち3社とは契約を打ち切るなど、大きな影響を受けた事件であったにもかかわらず、SHDでは、経営会議での一度限りの報告にとどまり、グループ役員会やSHDの取締役会での検討事項となることはなかったことから、独立調査委員会は、関係会社管理規程で定められた経営会議、グループ役員会及び取締役会の位置づけが適切に機能しない運用に陥っていたと判断した。 その理由として、規程では、構成員の異なる経営会議、グループ役員会及び取締役会の各会議体で、三段階にわたり、「経営に重大な影響を与える可能性のあるリスクについての評価・見直し」や「事業及び不正のリスクについての評価・見直し」がなされることになっており、こうした会議体が機能していれば「経営に重大な影響を与える可能性のあるリスクについての評価・見直し」や「事業及び不正のリスクについての評価・見直し」については、社外取締役の第三者的な視点からの評価がなされるなど多角的な検証がなされるはずであったことを挙げている。 2 SDI社の着信課金サービス事業からの撤退 SHDは、2022年9月28日、「連結子会社の一部事業からの撤退及び通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」をリリースして、SDIの着信課金サービスについては、SDI役員の逮捕後、事業を停止していたところ、サービスの再開にあたっては、正常でない取引が含まれる可能性を根絶することが必要であるとの認識から、今後のサービス提供のあり方を検討してきたものの、機械等を利用した不正な通信を排除するためにモニタリング等を行うことについても通信の秘密の制限に抵触してしまう可能性が高いことから、着信課金サービスから撤退するべきと判断するに至ったものであることを説明している。 同リリースによれば、SDIによる着信課金サービスに係る売上高は3,312百万円、売上総利益は644百万円であり(2022年3月期実績)、事業からの撤退日は9月30日。同日付で、SDI代表取締役高橋和男氏は、代表取締役及び取締役を辞任することも、公表されている。 3 SHDによる再発防止策 2022年10月26日、SHDは、「再発防止策等に関するお知らせ」をリリースして、独立調査委員会の答申書を踏まえた上で、再発防止策の概要を公表した。 再発防止策の中で、多くの項目(7項目)が列挙されているのが「取締役会における子会社管理に関するリスク評価及び監督機能の強化」であるため、この項目について具体策を見ておきたい。 〈当社取締役会における子会社管理に関するリスク評価及び監督機能の強化〉 (了)