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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第10回】「インボイスの交付を受けることが困難な取引の取扱い」~中古車の買取り~

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第10回】 「インボイスの交付を受けることが困難な取引の取扱い」 ~中古車の買取り~   税理士 石川 幸恵   【Q】 インボイス制度導入後も、中古自動車販売業者が消費者などから中古車を買い取るときは仕入税額控除ができると聞きました。仕入税額控除を受けるための要件と気を付けるべきことを教えてください。 〔ポイント〕 (1) 適格請求書等の保存は不要ですが、帳簿の記載事項が追加されます。 (2) 仕入税額控除ができるのは棚卸資産の取得のみです。 (3) 適格請求書発行事業者からの買取りであっても、家事用資産を棚卸資産以外の事業用資産として買い取るのは仕入税額控除不可です。 *  *  * 【A】 (1) 適格請求書等の保存は不要で、帳簿の記載事項が追加 ① インボイスの交付を受けなくても仕入税額控除可 古物営業を営む者が、消費者など適格請求書発行事業者でない者から古物(棚卸資産に限る)を購入する場合については、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められます(新消法30⑦、新消令49①、インボイスQ&A問107)。 したがって、中古自動車販売業者が消費者から中古車を買い取るときは、インボイスの交付を受けることはできませんが、仕入税額控除ができます。 ② 帳簿の記載事項 上記①の仕入税額控除を受けるための帳簿の記載事項は次のとおりです(新消法30⑦⑧、新消令49①、インボイス通達4-7)。 表の①~④が古物台帳に記載されている場合には、古物台帳と総勘定元帳を合わせて保存することで帳簿の保存要件を満たすことができます。   (2) 仕入税額控除できるのは棚卸資産のみ 古物営業を営む者が、消費者など適格請求書発行事業者でない者から古物を購入する場合に、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められるのは棚卸資産に限られています(新消令49①)。買い取った中古車を代車や社用車として使用する場合は、仕入税額控除はできません。   (3) 仕入明細書を作成して適格請求書発行事業者から家事用の中古車を事業用に購入する場合(「令和4年度税制改正の大綱」による見直し) ① 売り手の確認を受けた仕入明細書はインボイスに該当 インボイス制度では、買い手が作成した仕入明細書等で、売り手の確認を受けたものについては、インボイスとして取り扱うことができ、買い手で仕入税額控除が可能です(インボイスQ&A問85)。 ② 適格請求書発行事業者から家事用の中古車を購入する場合 中古自動車販売業者が消費者から社用車として使うために購入した中古車は、上記(2)のとおり、仕入税額控除はできないのですが、現行の規定では、売り手が適格請求書発行事業者の登録を受けた個人事業者であれば、買い手が上記①のように仕入明細書を作成し、売り手の確認を受けることで、家事用の自動車の買取りであっても仕入税額控除が可能になります。 ただし、令和3年12月24日に閣議決定された「令和4年度税制改正の大綱」によると、仕入明細書の保存での仕入税額控除は、売り手において課税資産の譲渡等に該当するもののみに見直される(※)とされていますので、今後の動向には注意が必要です。 (※) この仕入明細書の保存での仕入税額控除に関する見直しは、中古自動車販売業者に限られず、全ての課税事業者に及びます。 (了)

#No. 452(掲載号)
#石川 幸恵
2022/01/13

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第19回】「2以上の居住用宅地等がある場合の特定居住用宅地等の特例」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第19回】 「2以上の居住用宅地等がある場合の特定居住用宅地等の特例」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は、下記の通りAマンション、B宅地及び家屋、Cマンション、Dマンションを所有していましたが、このうち、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例を受けることができるのはどの宅地でしょうか。 甲の相続人は、生計を一にしている配偶者である乙、生計を一にしている長男である丙(大学生)、生計を一にしている二男である丁(大学生)の3人です。土地及び家屋については、全て乙が相続で取得しています。 甲、乙、丙及び丁の宅地の利用状況は、下記の通りです。 [A] B宅地とC及びDマンションの敷地については、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができますが、Aマンションの敷地については、特例の適用を受けることができません。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等の意義 被相続⼈⼜は当該被相続⼈と⽣計を⼀にしていた当該被相続⼈の親族(以下「被相続人等」という)の居住の⽤に供されていた宅地等(当該宅地等が2以上ある場合には、政令で定める宅地等に限る)で、当該被相続⼈の配偶者⼜は一定の要件を満たす当該被相続⼈の親族(当該被相続⼈の配偶者を除く)が相続⼜は遺贈により取得したものをいいます(措法69の4③二)。 上記の政令で定める宅地等とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれに定める宅地等とされています(措令40の2⑪)。   2 一の宅地等の判定(生活の本拠の判定) 被相続⼈等の居住の⽤に供されていた宅地等が2以上ある場合には、当該被相続⼈等が主としてその居住の⽤に供していた⼀の宅地等に限られます。「主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限る」の制限は、平成22年度の税制改正によって、改正されたものです。改正前においても相続人の居住の継続という制度趣旨から主として居住の用に供されていた一の宅地等に限るものと解されていましたが、法令で明文化されていなかったため、平成22年度の改正で明確化されました。 具体的な判断基準は、法令や通達に明文化されていませんが、国税庁質疑応答事例において、「被相続人等の居住の用に供されていたかどうかは、基本的には、被相続人等が、その宅地等の上に存する建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判定すべきものと考えられ、その具体的な判定に当たっては、その者の日常生活の状況、その建物への入居目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して判定する」とされています。 この国税庁質疑応答事例は、所得税法における居住用家屋の範囲を定めた租税特別措置法関係通達31の3―2(居住用家屋の範囲)と同意義であり、その通達の方が詳細に記載されていますので、以下で確認しておきましょう。   3 本問への当てはめ 本問の場合には、甲、乙、丙及び丁の生活の本拠がどこであるのかが問題となりますが、それぞれ下記の通りとなります。 したがって、被相続人等の居住の⽤に供されていた宅地等は、上記1③ロに記載のとおり、被相続⼈が主としてその居住の⽤に供していた⼀の宅地等(B宅地)及び生計を一にしていた親族が主としてその居住の用に供していた⼀の宅地等(B宅地、C及びDマンション敷地)が特例の対象地となります。B宅地は生計を一にする配偶者の居住の用に供している宅地等にも該当することになりますので、被相続人及び生計を一にする配偶者の居住の用に供されている宅地等に該当します。 なお、生計を一にする親族が2⼈以上ある場合には、当該親族ごとにそれぞれ主としてその居住の⽤に供していた⼀の宅地等を判定する点にも注意をしておきましょう。 本問の場合には、配偶者が土地及び家屋を取得しており、配偶者は居住要件等がありませんので、B宅地、C及びDマンションの敷地の全てについて、限度面積の範囲内で特例を受けることができます。   ★実務上のポイント★ 生活の本拠の判断は、実務上、迷うことも少なくないですが、被相続人等の日常生活の状況、その建物の入居目的、その建物の構造及び設備の状況、生活の拠点となるべき他の建物の有無等を確認することが重要となります。   (了)

#No. 452(掲載号)
#柴田 健次
2022/01/13

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第9回】「国税不服審判所の本部と支部の組織」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第9回】 「国税不服審判所の本部と支部の組織」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 執行機関からの独立 国税不服審判所は、国税庁の特別の機関として、執行機関である国税局や税務署から分離・独立した機関として設けられている。 しかし、令和2年4月1日現在の定員471人のうち、裁判官・検察官といった法曹出身者、弁護士・税理士・公認会計士といった民間出身者などからなる税務行政部外からの任用者は計65人であり、職員の多くは、執行機関である国税局や税務署などからの任用(出向)者(いわゆる国税プロパー職員)で占められている。 そうはいっても、上記の税務行政部外からの出身者は、国税不服審判所の本部・支部の枢要なポスト又は裁決判断に重要な役割を占めるポストに配置されており、人数としては少数であっても、それ以上の影響力を発揮しているといって差し支えない。   2 本部の組織 (1) 本部と支部の関係 国税不服審判所は、全国を管轄する1つの組織である。 しかし、審査請求人の便宜及び審査請求事件の能率的な処理を行うために、その事務の一部を取り扱う「支部」が全国に12ヶ所設置され、その支部に対応する中央の組織を「本部」と呼んでいる。 本部は国税庁のある東京に置かれ、支部は各国税局の所在地に置かれている。支部の管轄区域は国税局と同一であり、その名称は、例えば東京支部ならば「東京国税不服審判所」という。また、沖縄支部の場合は沖縄国税事務所の所在地に置かれ、管轄区域は沖縄国税事務所と同一で、その名称は「国税不服審判所沖縄事務所」という。 国税不服審判所長が審査手続上有している権限は、原則として支部の首席国税審判官(東京支部の場合には「東京国税不服審判所長」)に委任されており、ほとんどの審査請求に係る事件については支部で調査、審理がされている。 (2) 本部の組織 本部には、所長、次長の下に、審判部、管理室の機構がある。 所長は、財務大臣の承認を経て国税庁長官が任命するが、歴代にわたり裁判官出身者が法務省から出向することにより着任しており、税務行政部内ではなく司法出身者をトップに据えていることで執行機関からの独立に配慮しようとしている。 また、審判部は、税目別の審判官(副審判官)や審査官が配置され、支部からの個別事件の相談対応、支部から発出された裁決の事後的レビューなどを行っている。 特に、審判部にはリーガル担当の審判官として検察官出身者が配置されており、この者が司令塔となって(裁判官出身者である)所長の意向を汲んで各支部の主要な事件を管理していることからしても、執行機関からの独立が担保されているといえるだろう。   3 支部の組織 (1) 規模はさまざま 規模は120人を超える東京支部から7人の沖縄支部までさまざまであり、陣容によって組織体系は異なるが、機構は概ね首席審判官、次席審判官(東京・大阪・名古屋)、審判部、管理課によって構成されている。 (2) 首席審判官 歴代にわたり、東京支部は検察官出身者、大阪支部は裁判官出身者が法務省から出向することにより着任し、それ以外の支部は国税プロパー職員(国税庁のキャリア又はノンキャリの採用者)が着任している。 (3) 審判部 審判部は合議体の所属する部門と法規審査担当者が所属する部門に分かれ、東京支部・大阪支部などの比較的大規模な支部は法規審査部門で1つの部が構成されるが、比較的小規模の支部は審判部の中に両者の機能が併存している。   4 個別事件の審理体制 (1) 担当審判官等の指定 支部所長は審査請求に理由があるかどうかについての調査及び審理を行わせるため、担当審判官1人と参加審判官2人を指定する。 担当審判官は審判官から選任されなければならないが、参加審判官については、副審判官からも選任される。 このほかに、担当審判官を補佐する分担者として審査官が1名指名される。 (2) 審判部の各部門の構成員 東京支部の審判部の各部門は、概ね以下の5名の構成であることが多い。 例えば、この部門に2つの事件が配付されたとした場合、A事件については、担当審判官は主任審判官、事件主任として副審判官、参加審判官は民間出身審判官の計3人で合議体を構成し、審査官2人のうち1人が分担者として補佐することになる。 また、別のB事件については、担当審判官は民間出身審判官、参加審判官は主任審判官と副審判官の計3人で合議体を構成し、審査官2人のうちのもう1人が分担者となる。   5 審理の実際 (1) 民間出身審判官は少数意見か 合議体の3人の過半数の議決によって、審査請求が棄却(納税者負け)か取消し(納税者勝ち)かが決まることになるが、主任審判官が国税プロパー職員であることはいうまでもないとして、副審判官も全てが国税プロパー職員であり、結果として合議体の構成は、「国税プロパー職員2」対「民間出身者1」となることが多い(1部門が6人で「1対2」になることもある)。 そうすると、税理士・弁護士・税法学者から見ると、「何だ、民間出身者がいるといっても結局は少数意見として議決に反映されないではないか」という印象を持たれるのではないかと推察されるが、現実にはそうともいえない。 (2) 「棄却主張の国税プロパー職員」VS「取消し主張の民間出身者」ではない 筆者の勤務経験として、国税プロパー職員の中には、身内(後輩)のした税務調査に批判的な者は案外多かった。 しかし、大概は、 という考え方ではなく、 というものである。 一方、民間出身者が、上記の国税プロパー職員の意見に対して、 とコメントするといった、対外的な両者の立場が逆転しているような議論が交わされることもある。 結局のところ、「国税プロパー職員が棄却(納税者負け)の立場で、民間出身者が取消し(納税者勝ち)の立場で討議をしている」といった対外的な審判所に対するイメージはそのまま当てはまらないのが審理の実際である。 (了)

#No. 452(掲載号)
#大橋 誠一
2022/01/13

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第3回】

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【第3回】   公認会計士・税理士 霞 晴久   《疑問点4》 そもそも外国法人の資本金等の額及び利益積立金の額は算定可能か (1) 株主に対する「資本金等の額」の通知義務を負わない外国法人 内国法人が外国法人から剰余金の配当等を受ける場合の外国法人には、①外国上場会社の場合、②内国法人の外国子会社等の場合の2つが一般的であろう。法人税法24条1項のみなし配当を計算する場合、金銭その他の資産を交付する外国法人の設立以来の全ての払込資本の増減を反映させるものとして、同法人の「資本金等の額」(法令8各号参照)の把握が不可欠であるが、「資本金等の額」は我が国法人税法上特有の資本概念(※24)であり、そもそも外国法人が我が国の法人税法に従って「資本金等の額」を計算する義務はなく、又当然に、外国法人には法人税法施行令23条4項が規定するような法人株主に対する「資本金等の額」の通知義務は課せられていない。 (※24) 渡辺徹也『スタンダード法人税法』弘文堂(2018年)172頁は、「資本金等の額は、法人税法上の資本概念であり、その内容は、所得課税の根幹をなす原資(あるいは元本)を示すものである。会社法から借用したものとは別に、法人税法独自の資本概念が必要となる理由は、法人から株主への金銭等の払出し等があった場合に、当該払出しの『出所』を確定しておかねばならないからである。すなわち、『原資』に相当する部分と、法人が設立後に獲得した『利益』に当たる部分のうち、どちらから払出しが行われたかを区別するために、法人税法上の資本概念が必要となるのである。」と述べている。 したがって、①外国上場会社からみなし配当を受領した場合に、同社の「資本金等の額」からみなし配当の金額を計算することは事実上不可能であると断言できる(ただし、過去の他の裁判例における取扱いについては次回の《疑問点5》参照)。法人税法24条1項には、みなし配当に該当するものとして、「合併(適格合併を除く。)」(同1号)、「分割型分割(適格分割型分割を除く。)」(同2号)、「株式分配(適格株式分配を除く。)」(同3号)、「資本の払戻し(剰余金の配当(資本の剰余金の額の減少に伴うものに限る。)のうち分割型分割によるもの及び株式分配以外のもの並びに出資等減少分配をいう。)又は解散による残余財産の分配」(同4号)、「自己の株式又は出資の取得」(同5号)、「出資の消却」(同6号)及び「組織変更」(同7号)の組織再編行為が列挙されている。内国法人が投資する外国上場会社がこのような組織再編行為等を行うことは十分考えられる(※25)ため、当該内国法人がそのような行為を行った外国上場会社から金銭その他の資産の交付を受けた場合、実務上どのように処理するか大きな問題となろう。 (※25) 国税庁HP文書回答事例には、適格合併の事例ではあるが、「英国子会社がオランダ法人と行う合併の取扱いについて」が掲載されている。 他方、②の内国法人の外国子会社等の場合は、当該外国子会社等の決算を我が国の法人税法上の規定に引き直すことで、我が国の法人税法が要求するものに対応できる可能性がある。本件では、Xに剰余金の配当を行ったKPC社はXの100%子会社(米国デラウエア州法人)であり、現地には、米国会計基準に準拠した財務報告書類と、連邦所得税法に準拠した税務申告の各データしか存在しなかったと思われる。筆者は、本件について、日本の親会社であるXが、KPC社から必要な情報を入手し、同社の設立以来の会計帳簿を我が国法人税法に全て引き直して得られた数値を基に、益金不算入となる外国子会社からの配当及び株式譲渡損を計算し、連結確定申告書(※26)を作成・申告したのではないかと考えている。 (※26) Xは、連結納税制度適用会社ではあるが、KPC社はXの100%子会社であっても内国法人ではないため、当然のことながら、Xの連結納税の範囲には含まれない。 しかしながら、日本の親会社の100%子会社であっても、他から買収した子会社の場合や社歴が相当古い子会社等、現実問題として、我が国法人税法にいう「資本金等の額」や「利益積立金の額」を計算するためのデータが入手不能なケースも想定されるので、我が国税法基準に引き直すのは容易ではないと思われる。この間の事情について、日本公認会計士協会租税調査会研究報告第17号『国外における組織再編等に係る国内税法の適用関係について(中間報告)』(平成21年2月17日。以下「中間報告」という)12頁は、 と述べている。 (2) 純粋で混じり気のない資本金等の額と利益積立金の額の分配 ところで、払い出すその他の資本剰余金が、純粋に資本部分のみで構成されているとしたらどうだろうか。理屈としては敢えてプロラタ計算するまでもない、ということになろう。上記(1)のとおり、筆者は、Xが、KPC社の会計帳簿を全て我が国法人税法基準に引き直したと考えているので、現地のデラウエア州法に準拠した配当決議が実際どのようなものだったかによるものの(※27)、【第1回】の〔表1〕のとおり、その他の資本剰余金として払い出された100,000,000米ドルは、全て前期期末の資本金等の額211,057,771米ドルを原資としていると見ることも不可能ではない。もしそうであれば、本件において、資本剰余金減少部分はその全体が資本の払戻しとして株式又は出資に対応する部分、利益剰余金減少部分は全て剰余金若しくは利益の配当として受取配当金の益金不算入の対象となるというXの主張以外の結論はありえないことになる。 (※27) とはいえ、前期期末の資本金等の額とその他の資本剰余金の減少額の大小関係から、配当決議をしたKPC社は、同減少額が全て資本部分から構成されていることを意図していたと見るのが自然であろう。 そもそも、法人税法が、資本部分と利益部分が混在しているものに対してプロラタ計算で両者を切り分ける制度設計をしているところ、純粋に資本部分しか存在しない場合にまで厳格にプロラタ計算を適用することは、その結果算定された計算結果が不合理なものとならざるを得ないのである。現実の配当決議に反し、残余の資本金等の額まで全て払い出されたとする処分行政庁の更正処分が不当なのは、この点からも指摘できる。あくまで、私法上の法律関係に基づいて課税関係を判断するという税法の原則に立ち返るべきである。 本件最判に従い、今後行われるであろう法人税法施行令の改正(※28)では、《疑問点2》で指摘した中間持株会社を利用した資金還流スキームへの対応に加え、資本部分と利益部分が混在していない・・・・・・・その他の資本剰余金の払出しへの対応もその俎上に載せるべきではないかと考える。 (※28) 拙稿「《速報解説》 最判令和3.3.11を受けた資本の払戻しに係るみなし配当の額の計算方法等の見直し~令和4年度税制改正大綱~」参照。   (続く)

#No. 452(掲載号)
#霞 晴久
2022/01/13

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第121回】「2021年における調査委員会設置状況」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第121回】 「2021年における調査委員会設置状況」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   本連載では、個別の会計不正に関する調査報告書について、その内容を検討することを主眼としているが、本稿では、「第三者委員会ドットコム」が公開している情報をもとに、各社の適時開示情報を参照しながら、2021年において設置が公表された調査委員会について、調査の対象となった不正・不祥事を分類するとともに、調査委員会の構成、調査報告書の内容などを概観し、その特徴を検討したい。 第三者委員会ドットコムが公開しているデータを集計したところ、2021年において、調査委員会の設置を公表した会社は61社であり、2020年の52社を上回っているものの、2018年(68社)、2019年(67社)よりも少なくなっている。61社のうち、複数の調査委員会設置を公表した会社は下表のとおり7社であり、この結果、設置が公表された調査委員会の数は69となる(設置を公表した後に、設置をしなかった1社を含む)。 上記の会社については、会社数としてはそれぞれ「1社」とカウントする一方、委員会の構成については委員会ごとに、不正・不祥事の分類はその区分ごとに集計しているため、一部、合計数が合わないことをお断りしておく。 調査委員会設置を公表した61社のうち13社については、本稿執筆時点(令和4年1月7日)において、まだ調査報告書(その概要を含む)を公表していない。このうち5社については、調査委員会の設置そのものが11月又は12月であり、まだ調査が終わっていないと考えられる。   【市場別分類】 市場別分類では、東証1部上場会社が42社と約69%を占めた(複数市場に上場している会社は東証1部又は2部に含めている)。上場会社数は2021年12月31日現在。 主たる市場以外では、日本証券取引所が、「国内外のプロ投資家に新たな投資機会を提供すること」(※1)などを目的に運営しているTOKYO PRO Marketに上場する株式会社ひかりホールディングスと札幌証券取引所に上場する株式会社北弘電社が、それぞれ調査委員会の設置と調査報告書を公表している。 (※1) 日本取引所グループ「TOKYO PRO Marketの概要」参照。   【会計監査人別分類】 会計監査人別の分類では、いわゆる大手4大監査法人の監査を受けていた上場会社が40社、中堅以下の監査法人の監査を受けていた会社が21社となり、昨年に比べて中堅以下の監査法人のクライアントの比率が若干減少している。 大手4大監査法人のなかでは、EY新日本有限責任監査法人のクライアントで調査委員会の設置を公表した会社が15社と最も多く、有限責任監査法人トーマツのクライアントが14社、有限責任あずさ監査法人のクライアントが10社であった一方、PwCあらた有限責任監査法人のクライアントは1社(株式会社東芝)となっている。 なお、中堅以下の監査法人で複数のクライアントが調査委員会を設置したのは、太陽有限責任監査法人が6社で最も多く、監査法人アリアが3社、PwC京都監査法人が2社となっている。   【調査委員会の構成による分類】 一部、委員名を非公表としている委員会を含めた調査委員会の構成ごとの分類では、日本弁護士連合会が2010年に公表した「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠していると明言している調査委員会及び明言はしないまでもその趣旨に沿って外部の委員を選定していると認められる調査委員会は30社と、過半数を下回る水準であった。 また、2018年からの傾向であるが、調査委員会の構成や委員名について、非公表とする会社があり、2021年は5社が「非公表」、1社が「未設置」となっている。「未公表」の5社のうち4社は、調査報告書についても公表しないか、概要を公表するにとどまっている。「未設置」となったパス株式会社は、取締役会が定時株主総会議案すべての上程を中止したことについて、独立した外部専門家からなる調査委員会を設置することを公表したものの、定時株主総会において、株主代表の議長により修正動議が提出されて決議されたことにより、取締役全員が異動となったことから、調査委員会の設置を中止するという、異例の展開となっている(※2)。 (※2) パス株式会社「代表取締役の異動および定款の変更に関するお知らせ」   【調査委員会を設置することとなった不正・不祥事の分類】 調査対象となった不祥事別にこれを分類すると次表のとおりとなる。なお、分類上、経営者や従業員の不正であっても、決算修正等、公表している決算報告書に影響を及ぼす可能性のあるものについては、「会計不正」としている。   【会計不正の態様】 次いで、「会計不正」に分類された39件について、それぞれの不正の態様を見ておきたい。 「会計不正」と分類できる内容で設置された調査委員会は39となる(上述のとおり)が、OKK株式会社は2つ、アジア開発キャピタル株式会社が3つの調査委員会を設置しているため、下に掲げる一覧では36社となる(赤字は本連載で取り上げた報告書)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 452(掲載号)
#米澤 勝
2022/01/13

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2021年12月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2021年12月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年12月1日から12月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会社法施行規則及び会社計算規則関係 2021(令和3)年12月13日、「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(法務省令第45号)が公布されている。 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、事業報告に表示すべき事項の一部並びに貸借対照表及び損益計算書に表示すべき事項をいわゆるウェブ開示によるみなし提供制度の対象とするためのものである。 上記に関連する次の事項についてもお読みいただきたい。   Ⅲ 記述情報の開示関係 金融庁から「記述情報の開示の好事例集2021」(サステナビリティ情報に関する開示)が公表されている。 これは、「サステナビリティ情報」に関する開示の好事例を取りまとめたものである。   Ⅳ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第62号(実務対応報告第40号の改正案))が公表され、意見募集が行われている(意見募集期間は2022年2月24日まで)。 金利指標置換後の会計処理に関する取扱いの適用期間を米ドル建LIBORとそれ以外の通貨建てのLIBORを分けることなく、一律に2024年3月31日以前に終了する事業年度まで延長することなどが提案されている。   Ⅴ 監査役等による監査関係 日本監査役協会から次のものが公表されている。 ① 「「監査役監査基準」等及び「内部統制システムに係る監査の実施基準」等の改定」(内容:会社法の改正及び改正会社法に係る法務省令の改正、コーポレートガバナンス・コードの改訂等に対応) ② 「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における検討プロセスに対する監査役等の関与について」(内容:KAM強制適用初年度となる2021年3月期決算の監査役等の監査対応を記載) ③ 「企業におけるコロナ禍の影響および監査役等の監査活動の変化について」(内容:コロナ禍における監査の視点の在り方や監査手法及び監査の課題を記載)   Ⅵ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査手続などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準委員会報告書580「経営者確認書」の改正(内容:「収益認識に関する会計基準」などに対応する改正) ② 監査・保証実務委員会報告第83号「四半期レビューに関する実務指針」の改正(内容:監基報580「経営者確認書」の改正に対応) ③ 法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正(内容:合意された手続業務契約書等の作成例などを改正) ④ 「銀行等取引残高確認書について(お知らせ)」(内容:金融機関からの要請を受けて、十分な回答期間を確保することなどについて注意喚起) ⑤ IT委員会研究報告「監査データ標準化に関する留意事項とデータアナリティクスへの適用」(公開草案)(内容:監査データの標準化の動向などを解説) (了)

#No. 452(掲載号)
#阿部 光成
2022/01/13

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第22回】「男性社員に対するセクハラ事案への対処法」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第22回】 「男性社員に対するセクハラ事案への対処法」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社は女性社員の割合が高く、女性の管理職も少なくありません。そのためか、いわゆる「女子会トーク」のような会話が職場でなされることもあり、当社はこれを黙認してきましたが、先日、某部門の男性社員から、「部門の女性社員同士で、自分たちの身体の特別な部分について生々しい話をしているのが聞こえてくる。中には、自分の身体の特別な部分について具体的に描写したうえで意見を求めてくる女性社員もおり、不快だし、困惑している。これはセクハラではないのか」との指摘がありました。 このような女性社員の言動はセクハラに当たるのでしょうか。また、女性社員に対して懲戒処分をした方がよいのでしょうか。 【Answer】 少なくとも女性社員の言動の一部についてはセクハラに該当すると判断することができると思います。 もっとも、懲戒処分については、今までそのような言動を黙認してきたという事情に照らし、今回は懲戒処分を見送って、このような言動がセクハラに該当することを全社的に周知したうえで、今後、同様の言動があった場合に懲戒処分の対象とするという方針をとることも考えられると思います。   1 男性に対するセクハラの判断基準について (1) 男性に対するセクハラの判断を女性に対するものと同じ基準で行ってよいのか セクハラ事案の多くは男性を加害者とし、女性を被害者とするものであるが、女性から男性に対するもの、同性間のもの、LGBTに対するものもセクハラに該当する(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号)2(1))。 問題は、男性に対する言動がセクハラに該当するか否かについて、女性に対するものと同じ基準で判断してよいのかという点である。この点、職場におけるセクシュアルハラスメントは、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり(対価型)、「性的な言動」により就業環境が害されることであるが(環境型)、「労働者の意に反する性的な言動」や「就業環境が害される」ことについては、以下のように考えられている。 (※) 厚生労働省「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)より。拙稿【第1回】参照。なお、下線は筆者による。 これに照らすと、ある言動が女性に対してなされた場合と男性に対してなされた場合とで、当該言動がセクハラに該当するか否かに差が生じる場合もあるということになる。セクハラにも様々なタイプやレベルのものがあり、被害者に対する性行為を伴うもの、被害者の身体(特に胸、臀部、足など)への接触を伴うものといった物理的なものもあるし、性的な言動についても、被害者本人に向けられたものもあれば、被害者本人に向けられたものではないが、被害者がこれを耳にした結果、性的な不快感を覚えるものもある。 被害者への性行為や臀部などの身体への接触を伴うものについては、平均的な男性労働者の感じ方を基準としても、「労働者の意に反する性的な言動」であり「就業環境を害される」ものであるといえることから、セクハラに該当すると考えるべきである(例えば、学校法人M学園ほか(大学講師)事件(千葉地裁松戸支判平成28年11月29日・労判1174号79頁)は、男性学生が男性講師の臀部を触った行為をセクハラと認定した)。 (2) 被害者が男性か女性かでセクハラに該当するか否かの結論が異なる場合 一方、被害者に対する性行為や被害者の臀部などへの接触を伴うものではないタイプの言動については、被害者が男性か女性かで結論が異なる場面もあると思われる。 例えば、日本郵政公社(近畿郵政局)事件判決においては、女性管理職が局内の男性用浴室の扉を開けて、脱衣所にいた男性職員に話しかけた行為がセクハラに該当するかが争われ、一審判決(大阪地判平成16年9月3日・労判884号56頁)はセクハラに該当すると認めたのに対し、二審判決(大阪高判平成17年6月7日・労判908号72頁)はセクハラに該当しないとの判断を示した。 一審判決は、女性管理職が、男性用浴室の扉の表示が「使用中」になっていたにもかかわらず、ノックもせずに扉を開け、上半身裸で脱衣所に立っていた男性職員に対して「ねえ、ねえ、何してるの」などと質問したとの事実認定をベースにして、セクハラへの該当性を認めた。 これに対し、二審判決は、女性管理職は、男性用浴室の扉をノックせずに開けたが、浴室内の電灯が点灯されていることに気づき、一旦浴室の扉を閉めて、扉の表示が「空室」になっていることを確認したうえで、ノックをして浴室の扉を開けて入室したところ、男性職員が着衣して脱衣所にいたため、なぜ勤務時間中に風呂に入っているのかと問いかけたという事実認定に基づいて、セクハラへの該当性を否定している。 かかる事実認定の違いが両判決の結論の違いに繋がったものと思われるが、本件浴室の扉の表示を「使用中」にしていたとの男性職員の主張について、二審判決は、「本件浴室は男性専用であったのであるから、あえてそのような表示をする必要があったかは疑問である」と述べてこれを排斥している。このことに照らすと、一般に男性は(女性に比べて)他人に裸を見られることに抵抗がないという認識が前提にあり、それが結論に影響を及ぼしたのではないかとも思われる。   2 本件における言動について 本件において問題となっている女性社員の言動は、被害者に対する性行為や被害者の臀部などへの接触を伴うタイプのものではない。しかし、少なくとも、「自分の身体の特別な部分について具体的に描写したうえで意見を求めてくる」といった言動については、平均的な男性労働者を基準にしても、「労働者の意に反する性的な言動」であり「就業環境を害される」ものであるといえる場合が多いであろうことから、セクハラに該当すると判断してもよいのではないかと思われる。 では、当該女性社員を懲戒処分の対象とすべきであろうか。まず、懲戒処分を行うに際しては、就業規則に懲戒事由と懲戒の種類が定められており、かつ、非違行為が懲戒事由に該当しなければならない(労働基準法89条9号)。この点、多くの企業においては、被害者の性別の区別なくセクハラ行為を懲戒事由として定めていると思われることから、本件においても懲戒事由該当性は満たされると思われる。 もっとも、懲戒処分は従業員に対する「制裁罰」に該当することから、処罰に対する従業員の予測可能性を担保する必要があるところ、この会社においては、問題の言動は黙認されており、これを突如として処罰の対象にすることは従業員の予測可能性を害する恐れがある。 また、原則として、同じ内容・程度の非違行為については同じ内容・程度の懲戒処分がなされるべきであり(平等取扱いの原則)、かかる原則に反してなされた懲戒処分は無効となる可能性がある。従前と異なる程度の懲戒処分を科す場合には、事前にその旨を従業員に対して周知する必要がある。 よって、今回は警告や指導に留めて、このような言動がセクハラに該当し、許されないということを全社的に周知したうえで、今後、同様の言動があった場合に懲戒処分の対象とするという方針をとることも考えられる。 (了)

#No. 452(掲載号)
#柳田 忍
2022/01/13

《速報解説》 外形標準課税対象法人に係る法人事業税所得割の軽減税率を廃止~令和4年度税制改正大綱~

 《速報解説》 外形標準課税対象法人に係る法人事業税所得割の軽減税率を廃止 ~令和4年度税制改正大綱~   Profession Journal編集部   事業年度終了の日における資本金の額又は出資金の額が1億円を超える普通法人については、法人事業税の外形標準課税が適用され、「付加価値割額」「資本割額」「所得割額」の合計で法人事業税額が算出される。 このうち所得金額を課税標準とする「所得割額」には、上記の通り資本金の額1億円超であっても、各事業年度の所得のうち年800万円以下の金額について軽減税率(以下の①②)が設けられている(地方税法72の24の7①一)。 (注1) ただし三以上の都道府県において事務所又は事業所を設けて事業を行う法人で、資本金の額又は出資金の額が1,000万円以上のものが行う事業に対する所得割については、軽減税率は適用されない(地方税法72の24の7④)。 (注2) 括弧内は特別法人事業税相当額(所得割額×260%)を含む。 (注3) 東京都の場合、①年400万円以下の金額について0.495%、②年400万円を超え年800万円以下の金額について0.835%、③年800万円を超える金額について1.18%の超過税率が適用される。 令和4年度税制改正大綱では、上記の軽減税率(0.4%及び0.7%)を廃止する(標準税率1%とする)ことが明記された(大綱P56)。 この見直しによる税負担増は、最大でも1社あたり約13万円/年(注4)とされ、令和4年4月1日以後開始事業年度から適用される。 (注4) ①の軽減分(400万円×0.6%=24,000円)+②の軽減分(400万円×0.3%:12,000円)+特別法人事業税((①+②)×260%=93,600円)=129,600円 (了)

#No. 451(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/01/12

《速報解説》 東京局、市街地再開発事業により貸付事業が中断された場合の小規模宅地等特例の判定に関する文書回答事例を公表~新たに貸付事業の用に供された宅地等の範囲に注意~

 《速報解説》 東京局、市街地再開発事業により貸付事業が中断された場合の 小規模宅地等特例の判定に関する文書回答事例を公表 ~新たに貸付事業の用に供された宅地等の範囲に注意~   税理士 柴田 健次   1 はじめに 平成30年度税制改正により、相続開始直前に賃貸用不動産の購入などをして金融資産を不動産に変換し、小規模宅地等の特例を適用する節税手法を防止するため、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされた。ただし、特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされた(措法69の4③四、措令40の2⑲)。 特定貸付事業とは、貸付事業のうち、準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付その他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)以外のものをいう(措令40の2①⑲)ので、例えば、5棟10室以上の規模で事業として不動産の貸付を行っている場合には、特定貸付事業となり3年以内の問題はないが、マンションの2室のみを所有し賃貸している場合には、事業とはいえず特定貸付事業には該当しないため、3年の判定が必要となる。 なお、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、平成30年3月31日までに貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しないものとする経過措置が設けられている(附則118④、措通69の4-24の8)が、実務的には、この経過措置の対象案件も少なくなってきたため、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等に該当していないか、注意が必要となる。 これに関連して、市街地再開発事業により中断した貸付事業を再開した場合に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するか否かについての文書回答事例が、令和3年12月24日に東京国税局より公表された。 文書回答事例の概要は、下記のとおりである。   2 事前照会の内容 被相続人甲は、下記のとおり、平成25年以前までA市所在の建物(以下「従前建物」という)及びその敷地を所有し、その建物の一部を被相続人甲の次男家族に使用賃貸により使用させていたほかは、被相続人甲の同族会社(以下「乙社」という)に賃貸していたが、A市の都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業により貸付事業を中断している。 甲は、その再開発事業に係る権利変換により平成30年3月30日に区分所有建物の1階の1室(以下「本件店舗」という)及び35階の1室(以下「本件住戸」という)の所有権と敷地権の引渡しを受けた。本件店舗については、平成30年4月1日に乙社に賃貸(乙社は第三者に賃貸)し、本件住戸については、引渡し後に速やかに賃借人の募集を行い、平成30年12月に第三者に賃貸している。 その後、被相続人甲は、令和3年2月に死亡している。 上記の場合には、相続開始時点において賃貸していた本件店舗及び本件住戸の敷地の用に供されていた宅地のうち、権利変換前において従前建物に係る乙社に賃貸していた部分については、市街地再開発事業によって、やむを得ず貸付事業の用に供することができなかったものであるため、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないと考え、貸付事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下単に「特例」という)の適用を受けることができると解してよいか。   3 示された見解 本件について東京国税局は、貴見のとおりで差し支えない旨を示している。 下記の理由から相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないため、他の要件を満たせば特例の適用対象になる。   4 文書回答事例のポイントと実務上の留意点 なお、文書回答事例が特例の対象になるためのポイントは、下記の3つである。 (1) ①について 法令の規定に基づき、土地所有者に対し、土地利用の制約が及ぶなどのやむを得ず貸付事業が一時的に中断された場合をいうのであって、例えば、単に資産の買換えを行うために土地建物を売却して、新たに土地建物を購入し賃貸の用に供した場合には、これに該当しないため、原則として「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになる。 なお、建物の建替えについては、建て替え後に速やかに新たな賃借人の募集が行われ、賃貸されたときは、「何らの利用がされていない場合」に該当しないことから、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」には該当しないこととされており(措通69の4-24の3)、買換えと建替えでは取扱いが異なる点に留意する。 (2) ②について 速やかに募集をしていない場合には、「何らの利用がされていない場合」に該当するため、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになる。貸付事業の継続の観点から、事情が解消された際に速やかに賃借人の募集が行われていることが前提となる。 (3) ③について 特例の対象になるのは、権利変換前後において貸付事業を継続している部分のみが対象になる。したがって、権利変換後において貸付事業の用に供しない部分があると認められる時は、その部分は特例の対象にならず、文書回答事例のように本件店舗及び本件住戸の敷地の用に供されていた宅地の全てが対象となるのではなく、あくまでも従前建物に係る乙社に賃貸していた部分に対応するもののみが特例の対象になる。 *  *  * 実務上は、「新たな貸付事業の用に供された宅地等」の判断に迷うことも少なくないため、条文や通達、公表された情報を基に確認することが重要となる。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 451(掲載号)
#柴田 健次
2022/01/11
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