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〈判例評釈〉相続マンション訴訟最高裁判決-相続税の節税目的で取得したマンションに対する評基通6項適用の可否が問われた事例- 【後編】

〈判例評釈〉 相続マンション訴訟最高裁判決 -相続税の節税目的で取得したマンションに対する評基通6項適用の可否が問われた事例- 【後編】   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦     3 本件判決への評価と実務対応 (1) 抜かないが故の「伝家の宝刀」 本件判決に接して真っ先に思ったのは、課税庁は日頃から「伝家の宝刀」を抜かないで済むための対応を怠るべきでないということである。ここでいう伝家の宝刀とは評基通6項のことであるが(※4)、なぜ抜くべきでないかといえば、評基通6項とは通達による評価の「否認」、すなわち自らが規定した評価方法(本件の場合は路線価による評価、評基通11)に「欠陥」があることを認めることにつながりかねず、その行為は「自己矛盾」というべきものであるからである。 (※4) 新聞でも、独自に評価をやり直せる例外規定である評基通6項のことを「伝家の宝刀」と称している。2022年4月19日付朝日新聞及び2022年2月28日付日本経済新聞参照。 本件においてなぜ伝家の宝刀を抜いたかと課税庁に問えば、恐らく、目に余る租税回避行為に対処するためであり、路線価による評価に欠陥があるわけではないからとの回答があるだろう。確かに、財産評価基本通達における土地の評価は、それがストックの状態であることが前提に定められているため(※5)、売買がなされているケースのようなフローの状態の評価額とで差異が生じるのはやむを得ず、それに乗じて納税者が租税回避行為を行った場合には、適切に対処するのが課税庁の役割という見解にも一理あるだろう。 (※5) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)740頁参照。 しかし、後述するように、本件のようなマンションの評価方法に構造的な欠陥がある場合、その欠陥を是正せずに評基通6項を用いて課税処分を行うのは、執行機関のあり方として妥当とは到底思えないところである。残念ながら、この点については最高裁までの判決文において一切触れられていないのである。 (2) 路線価評価の構造的な問題点 上記(1)の観点からいえば、本件の本質的な問題点として、例えばタワーマンションの事例(※6)のように、路線価による敷地の評価額が売買実例等に基づく「時価」よりも相当程度低いという状況が一定年数持続している事例が少なからず存在するという点(※7)が挙げられよう。 (※6) この問題点については、例えば、拙著『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(中央経済社・2021年)293-303頁参照。 (※7) マンション評価の困難性については、品川芳宣・緑川正博『徹底討論 相続税財産評価の論点』(ぎょうせい・1997年)107-111頁及び大淵博義「著名税務判決の判例理論とその不整合性(Ⅰ)」『租税訴訟』第13号82-84頁参照。 国税庁によれば、路線価は原則として「時価(公示価格水準)」の8割程度を目途に評価されている(※8)ことから、それを上回るような乖離が生じることは(高い場合も低い場合も)望ましくないといえる。仮にそのような乖離が生じている場合には、課税庁はその乖離を縮減すべく速やかに適切な路線価を設定すべき責任を負っているものと考えられる。 (※8) 品川・緑川前掲(※7)76頁。なお、地価税の実施を機に従来の70%から引き上げられたとされる。金子(※5)739頁脚注8参照。 そうすると、例えば、特定の年度において路線価と売買実例等に基づく「時価」との間にたまたま乖離が生じていても、それをもって直ちに路線価の設定に問題があるということはできないものの、それが数年にわたって継続しているような場合には、課税庁による路線価の設定に問題があるということになるのではないだろうか。 これが正しいとすれば、時価の8割という水準から相当程度乖離した「問題のある」路線価を是正せず放置している課税庁は、妥当な路線価を設定するという責任を果たさなかったという意味において、不作為の責めを負うこととなるものと考えられる(※9)。特に本件においては、甲・乙不動産共に路線価に基づく評価額は鑑定評価額(時価)のわずか25%程度にすぎず、その乖離の程度は著しいといわざるを得ないことから、路線価の設定そのものに不備があるという指摘は、課税庁に対して決して酷なものとはいえないであろう。 (※9) 筆者はこの点について既に別稿にて指摘している。拙稿「路線価と時価とが乖離した不動産に対する評基通6項の適用基準」『税理』2020年11月号147-148頁参照。 最高裁は、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反する」という旨を指摘しているが、それでは、本件のような場合、いずれも借入れによる取得をしているケース(※10)で、取得後一定期間を経過している者には路線価による評価額を認める一方で、相続直前(※11)に取得した者には路線価による評価額を認めないことも十分あり得るのであるが、そのような場合の公平性は無視してよいといえるのであろうか(※12)。 (※10) そもそも、借入れによる取得を殊更に問題視するのも妥当とはいえないのではないだろうか。相続税の財産評価で問われるべきは、評価額そのものの妥当性であり、評価額の乖離が借入れによる取得という租税回避行為の「呼び水」となっているのであるから、取得の経緯を過大視すべきではないと考えられる。 (※11) 「直前」をいつまでとみるのかも問題となり得る。私見では、長くて精々1年程度とみるべきであろう。拙稿前掲(※9)論文147頁参照。 (※12) 以前にも指摘したことであるが、マンションと一戸建てとの間の評価の公平性も考慮されなければならないであろう。拙稿前掲(※9)論文148頁注11参照。 私見では、このような場合、路線価を迅速に引き上げるといった対応(※13)により、両者間の公平性についても十分重視すべきであるし、それが課税庁の責務であると考えるところである。本件において、この点が裁判所において特に審理されることがなかったのは、残念としかいいようがない。 (※13) タワーマンションの場合、路線価を引き上げることで低層階の評価額につき時価の8割水準まで持っていくことができても、高層階は引き続き時価を相当程度下回る水準にとどまるケースも想定される。ここではまず、第一段階において早急に路線価を引き上げ、第二段階として低層階と高層階の較差を是正する評価法を検討するというステップを経ることでよいのではないかと考えられる。 (3) 収益還元法の位置づけ 本件において注目されるのが、課税庁が通達に拠らない課税を行う際の評価額として採用したのが、不動産鑑定士による鑑定評価額であり、当該評価額は収益還元法(DCF法及び直接還元法)による収益価格を用いたという点である。 相続税法上の不動産の「時価(相法22、客観的交換価値)」を算定する際、土地の収益性に着目して評価する収益還元法を採用することは、近年、裁判例においても認められているところである。例えば、東京地裁平成15年2月26日判決・税資253号順号9292(TAINSコード:Z253-9292)では、「土地の客観的な交換価値を算定する際には、当該土地によりどの程度の収益が得られるかを考慮することは意義のあるものであり、土地の収益性に着目してその価値を算定する収益還元法は、その算定に著しい困難性や不合理性がない限りにおいて、できる限り斟酌されるのが相当であるというべき(下線部筆者)」と判示されている。 これは、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行う際に参照される「不動産鑑定評価基準」において、収益還元法は、「文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるもの(※14)」と位置付けられていることを反映しているためと考えられる。また、平成14年7月3日に全面改正された同評価基準においては、収益性を重視した鑑定評価をさらに充実させるために、従来の直接還元法に加え、DCF法が導入されるに至っており、収益還元法は、土地の客観的交換価値を的確に把握する評価の手法として、確固たる地位を築いているものと考えられる。 (※14) 国土交通省「不動産鑑定評価基準(平成26年5月1日)」27頁。 そのため、本件のような時価と路線価との乖離を利用した租税回避事案に対して、課税庁は、まずは調査において相続開始直前の取引価格が路線価と乖離していることを把握しそれを問題視するのであろうが、課税処分に当たっては、相続開始時点と直前の取引のあった時点とが1年を超えているような場合(※15)には、取引価格をもって「時価」とすることは困難であるため、より妥当な時価を算定するため、当該収益還元法による評価額を採用することとなるだろう。そのため、相続税を扱う税理士は、今後、不動産鑑定評価における収益還元法の基本的な手法についても知識を仕入れておくことが必要になるのではないかと考えられる。 (※15) 前掲(※11)参照。 さらにいえば、商業地にあるビルの敷地やタワーマンションの敷地など、収益性が高く(現行の)路線価との乖離が生じやすい不動産については、財産評価基本通達においても収益還元法による評価を基本とすべく改正を行うべきものと考えられる。 (4) 通達による評価の問題点 相続税実務において、財産評価基本通達による財産の評価は広く定着しており、それによる評価額が明らかに「時価」よりも高いといえる場合のような例外的なケースを除き、当該通達により評価額を算定するのが通例である。 このような財産評価基本通達は、上級行政庁が法令の解釈を下級行政庁に対してなす命令(法令解釈通達)であるため、一般には、裁判所や裁判官を拘束し判決理由となり得る「法源」には該当しないと考えられているが、例えば、市街地的形態を形成する地域にある宅地には路線価を適用するなどというケース(評基通11(1)参照)は、その内容が長きにわたり不特定多数の納税者に対し継続的・反覆的に適用されている実態があることから、法源としての「行政先例法」に該当すると解される余地がある(※16)。 (※16) 金子前掲(※5)740頁参照。 そうなると、そのような機能を持ち、かつ実務上の重要度が極めて高い財産評価基本通達が、そもそも法源や裁判規範としての地位が曖昧な「通達」のままでよいのかという疑問が生じ得る。租税実務においては、リース通達(※17)や債権償却特別勘定(※18)など、かつては通達の規定であったものが、その後法令に「昇格」するケースも稀ではない。財産評価基本通達の主要な規定が行政先例法といえるような内実を伴っているといえるのであれば、むしろ積極的に法令への昇格を真剣に検討すべきであるといえる。 (※17) リース通達は平成10年度の税制改正で政令化し、さらに平成19年度の税制改正で法律(所法67の2、法法64の2)となった。 (※18) 従来通達によって認められてきた個別の金銭債権についての貸倒引当金をこのように呼んでいたが、平成10年度の税制改正で法制化されている(法法52①)。 仮に、法令化後の財産評価に関する規定に基づく評価額(※19)と「時価」との間に乖離が生じた場合には、なぜ現行の規定では時価との間に乖離が生じることとなるのかにつき、本件よりもさらに突っ込んだ審理がなされたのではないかと考えられ、これこそが本件において裁判所が果たすべき役割だったものと考えられる。 (※19) 仮に法令化がなされたとしても、路線価等の設定には現在と同様に課税庁の職員の関与があるものと想定される。 (5) 実務上の留意点 本件最高裁判決は、上記でみてきたような重要な事項に関し判断を下していないという意味で、問題があるといえよう。しかし、仮にそうだとしても、最高裁の判決が実務に与える影響は小さくなく、実務家としては、それへの対処を怠ってはならない。さしあたり、以下が留意点となるだろう。 まず評基通6項の適用要件であるが、売買価格等の時価と乖離している路線価が付されているマンションの敷地については、今後も当該条項の適用可能性は十分にあると覚悟すべきである。その場合、税理士として、以下の点が検討項目となるであろう。 ① 不動産を取得してから相続発生時までの経過期間 不動産を取得した時点が相続発生時に近接していればいるほど、土地がフローの状態に入っていると考えられることから、現行の評価通達に基づく路線価ではなく取引価額(ないしそれに類する収益還元法等)によるべきとの判断に傾くであろう(※20)。 (※20) 金子前掲(※5)740頁。 ② 被相続人が不動産を取得した経緯 これは、最高裁が「被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる」という旨指摘している通り、相続税負担軽減の意図の有無が問われるということである。 ③ 時価と路線価による評価額との乖離度合 路線価が時価の8割程度ということを踏まえると、8割を下回ったら直ちに問題となるというのは少し行き過ぎであり、あえて数値を示せば、路線価が時価の50%以下となった場合というのが1つの目安となるのではないだろうか(※21)。 (※21) 拙稿前掲(※9)論文146-147頁参照。 ④ 不動産鑑定評価及び収益還元法の採用 次に評価方法であるが、上記①~③の要件に当てはまりそうな不動産については、現行通達の評価方法以外に、収益還元法による評価方法も「押え」で行っておく必要があるだろう。その場合、残念ながら現状、税理士の行った収益還元法による評価方法により相続税の申告を行ったとしても、課税庁がそれを容認する可能性は低いと思われるため、代替的に、不動産鑑定士の鑑定評価額に基づき申告を行うしかないであろう。税の専門家でありながら、税理士が課税物件の価額算定の枠外に押しやられてしまうのは誠に残念な事態ではあるが、今回の最高裁判決を踏まえた実務対応という観点からは、やむを得ないといえよう。 ただし、一方で、これまでも不動産鑑定士の評価額が時価と認められなかった裁判例は少なくない(※22)。税理士としても、本件のような事例への対応の観点から、不動産鑑定士に評価を丸投げするのではなく、評価方法の妥当性について検証できるよう、収益還元法による評価方法(※23)についての基礎知識を習得すべきといえそうである。 (※22) 例えば、名古屋地裁平成16年8月30日判決・判タ1196号60頁では、いずれも不動産鑑定士の評価に関し、1つ目の土地において課税庁側の鑑定には、道高架の隣接による減価要因の無視や容積率の認定誤りという重大な問題点があり、2つ目の土地においても課税庁側の鑑定には、接道条件の誤認ないし無視という重大な問題点があったが、裁判所側の鑑定評価にはいずれの問題点もなかったため、課税庁側の評価方法は採用されず、納税者勝訴となった。なお、納税者側の鑑定評価が斥けられた裁判例として、東京地裁平成28年7月15日判決・税資266号-104順号12882がある。 (※23) DCF法のような将来キャッシュフローベースの評価方法は、相続税のみならずM&Aや移転価格税制に関する法人税の取扱いにも応用できるため、その技法の取得は有意義といえよう。 (連載了)

#No. 473(掲載号)
#安部 和彦
2022/06/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第42回】「取引先の上場会社が持つ株式の買取り」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第42回】 「取引先の上場会社が持つ株式の買取り」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 日野 有裕   相談内容 私(L)は70歳で製造業(R社)を経営しています。私が所有するR社株式については、後継者である私の子供へ承継する目途がつきました。ところで、今般、取引先のF社(上場会社)より、F社が所有する私の会社(R社)の株式を買い取ってほしいとの相談がありました。 F社には、関係強化を目的に30年間にわたってR社株式の4%を保有してもらっていました。10年前までは多くの取引がありましたが、近年の取引額は減少傾向にあります。当時の簿価純資産価額が1株当たり約600円だったR社株式を、私から額面金額(50円)でF社へ売却したので、私としては額面金額でR社に自己株式として買い戻したいと思っています。どのように交渉すればよいでしょうか。 ちなみに、R社は額面金額の10%前後の安定配当を毎年出してきたので、F社は投資額を十分に回収できているはずです。例えば、時価純資産価額ということになると額面金額の50倍以上になり、全く経営に関与していない少数株主にその金額を支払うことには納得できません。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 株価の考え方 (1) 評価方法 非上場株式の株価については、様々な算定方法がありますが、原則として第三者間で協議して合意した金額は「時価」となります。 税法においては相続発生時に非上場株式の評価ができるよう、財産評価基本通達にその評価方法が定められています。 財産評価基本通達による評価方法では、決算書や法人税の申告書があれば計算できますので、株価の交渉前に通達に沿って配当還元価額、時価純資産価額、類似業種比準価額を算出してみるのがよいと考えます。 一方、会社のM&Aなどにおいて一般的に用いられるディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)は、通常、将来にわたるキャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算出した後に、純有利子負債利子を控除して算出します。 この手法は会社の将来予測に全面的に依存しているため、株価を交渉する当事者が計算するのではなく、通常は第三者機関である外部のコンサルタント等が計算を行います。 外部のコンサルタントが計算すると当然ながら報酬が発生しますので、当初から外部のコンサルタントに依頼するのではなく、まずは会社自身又は顧問税理士が財産評価基本通達上の計算をする方がコストを抑えられます。 実務上も、財産評価基本通達による株価で取引が成立することは多々あります。 (2) 上場会社のスタンスの変化 東京証券取引所により公表されたコーポレートガバナンスコードにより、上場会社が保有する政策保有株式について、以下の通り対応すべき原則が公表されています。また、ホームページにおいて政策保有株式の取扱い方針を掲載している大手企業も見受けられます。 2010年頃までは「今までお世話になったので」ということで、配当還元価額のような安い株価で買い戻せる事例もあったように思います。 しかし、近年、上場会社は株主、社外取締役へ取引価額の説明が求められるようになりましたので、非上場株式であっても会社の財務内容を反映しない価額での取引はできないと考えたほうがよいでしょう。   [2] 裁判ではどのような結果となるか 株価について両社が折り合わずに裁判になったとき、どのように判断されるかについて、ご相談の場合と類似した裁判例があります(札幌高等裁判所平成16年(ラ)第88号株式価格決定に対する抗告事件(抗告棄却)【判例タイムズ1216号272頁】、TAINSコード:Z999-6030)。   [3] 結論 ご相談の場合、例えば、配当還元価額をベースにして、純資産・類似業種比準価額等を一部加味した低い金額から先方と交渉するのはいかがでしょうか。F社も自らが少数株主ということは理解していると思いますので、交渉のテーブルにはつくと予想されます。 今回は買取義務が生じていないようなので、価格で折り合わない場合は無理に買い取る必要はないと考えます。一方で、どうしても今回買い取りたいときは、従業員持株会を設立してそこへ配当還元価額で譲渡してもらうという方法もあります(従業員持株会への譲渡の場合には配当還元価額での売却に応じてくれる可能性があります)。 注意点としては、交渉は従業員任せにせずL氏がしっかりコミットすることです。 実際の手続きに際しては、税理士等の専門家に相談することをお勧めします。   (了)

#No. 473(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2022/06/09

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第40回】「準事業と特定貸付事業を相続した場合の貸付事業用宅地等の判定(新たに貸付事業の用に供された宅地等がある場合の判定手順)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第40回】 「準事業と特定貸付事業を相続した場合の貸付事業用宅地等の判定 (新たに貸付事業の用に供された宅地等がある場合の判定手順)」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲は令和4年6月3日に相続が発生し、その所有するAマンション、Bマンション、Cマンションを配偶者である乙が相続しました。 不動産の利用状況は、下記のとおりです。 なお、甲は所得税の確定申告において令和2年まで青色申告特別控除10万円の適用を受けていましたが、Bマンションを相続により取得した後は、5棟10室基準を満たすことになったため、令和3年以後は、事業的規模として65万円の青色申告特別控除の適用を受けています。 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く)」が除かれることになりましたが、Bマンション及びCマンションは、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当し、かつ、甲が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていないため、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の対象にならないと考えていいでしょうか。 Bマンション8室が事業的規模以外であった場合と事業的規模であった場合のそれぞれについて、Bマンション及びCマンションの小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適否を教えてください。 [A] ① Bマンションが事業的規模以外であった場合 Bマンションの敷地は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しませんので、小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の対象となります。 Cマンションの敷地は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当し、かつ、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていないため、特例の対象になりません。 ② Bマンションが事業的規模であった場合 Bマンションの敷地は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しませんので、特例の対象となります。 Cマンションの敷地は、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当し、かつ、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた場合の被相続人の貸付事業の用に供されていた敷地に該当しますので、特例の対象になります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 貸付事業用宅地等の意義 貸付事業用宅地等とは、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下「被相続人等」という)の事業(不動産貸付業その他駐⾞場業、⾃転⾞駐⾞場業及び準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)とする。以下「貸付事業」という)の⽤に供されていた宅地等で、次に掲げる場合の区分に応じていずれかを満たすその被相続⼈の親族が相続⼜は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業⽤宅地等を除く)をいいます。 なお、平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。ただし、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち、準事業以外のものをいう)を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2①⑦⑲)。   2 相続開始前3年以内に相続又は遺贈により貸付事業を承継していた場合 被相続人が相続開始前3年以内に開始した相続又はその相続に係る遺贈により貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、下記の2つの取扱いがありますので、注意する必要があります。 (1) 新たに貸付事業の用に供された宅地等の判定 被相続人が相続開始前3年以内に開始した相続又はその相続に係る遺贈により貸付事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後その宅地等を引き続き貸付事業の用に供していた場合におけるその宅地等については、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないこととされています(措令40の2⑨⑳)。 (2) 特定貸付事業を行っていた期間の合算の取扱い 特定貸付事業を⾏っていた被相続⼈(以下「第⼀次相続⼈」という)が、その第⼀次相続⼈の死亡に係る相続開始前3年以内に相続⼜は遺贈(以下「第⼀次相続」という)によりその第⼀次相続に係る被相続⼈の特定貸付事業の⽤に供されていた宅地等を取得していた場合には、その第⼀次相続⼈の特定貸付事業の⽤に供されていた宅地等に係る特例の適用については、その第⼀次相続に係る被相続⼈がその第⼀次相続があった⽇まで引き続き特定貸付事業を⾏っていた期間は、その第⼀次相続⼈が特定貸付事業を⾏っていた期間に該当するものとみなされます(措令40の2㉑)。これを図式化すると下記の通りとなります。   3 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」がある場合の判定手順 相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」がある場合には、下記の手順で特例の対象になるかどうかを判定することになります。 【上記❶の判定の留意点】 相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するかどうかの判定の留意点は、【第37回】で解説しています。 なお、貸付事業用宅地等の特例対象から除外する平成30年度の税制改正は、平成30年4月1日以後に新たに貸付事業の用に供された宅地等から適用されます。同日前に新たに貸付事業の用に供された宅地等については改正前の要件のみ確認することになりますので、上記の判定は不要となります(附則118④、措通69の4-24の8) 【上記❷の判定の留意点】 特定貸付事業の3年超の判定は、被相続人の貸付事業、生計一親族の貸付事業ごと(被相続人の生計一親族が2人以上ある場合には、それぞれの生計一親族の貸付事業ごと)に判定を行い、期間は相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていたかどうかを確認することになります(措通69の4-24の6、本連載【第38回】で解説)。 なお、特定貸付事業に該当するのか準事業に該当するかについては、本連載【第39回】で解説しています。   4 本問への当てはめ 上記の判定手順に従い判定すると、Bマンション及びCマンションの特例の適否は、下記の通りとなります。 〔Bマンションについて〕 上記2(1)の取扱いにより、Bマンションは被相続人の父から相続により承継していますが、父の相続時点においては「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えず、父の貸付事業開始時点(平成10年6月1日)まで遡って3年の判定を行うことになります。したがって、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになりますので、事業的規模であるか否かに関わらず、特例の対象になります。 〔Cマンションについて〕 Cマンションは、相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しますので、甲が相続開始の日まで3年を超えて特定貸付事業を行っていたかどうかを確認することになります。甲が特定貸付事業を行っていたかどうかは、Bマンションが事業的規模であるか否か(被相続人の父が特定貸付事業を行っていたか否か)で下記の通り、取扱いを異にします。   ★実務上のポイント★ 相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」がある場合には、本問で解説した判定手順を踏まえて、【第37回】から【第39回】の各論の留意点も確認して判定を行いましょう。複雑である場合には、被相続人、生計一親族ごとに線表を書くといいでしょう。   (了)

#No. 473(掲載号)
#柴田 健次
2022/06/09

〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第15回】「請求書に税抜価額と税込価額が混在する場合のインボイスの記載方法」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第15回】 「請求書に税抜価額と税込価額が混在する場合のインボイスの記載方法」   税理士 石川 幸恵   【Q】 当社はIT関連の事業をしていて、大手システムインテグレーター(SIer)の協力会社という位置付けです。SIerと取り交わした準委任契約に基づき、当社のシステムエンジニアがSIerに常駐してシステム開発に従事しています(いわゆるSystem Engineering Service = SES)。 SIerのオフィスに常駐で作業しているため、エンジニアの通勤費もSIerに請求する契約となっています。当社が作成する請求書には、慣習上、エンジニアによる役務提供の税抜価額の合計額とそれに対する消費税額を記載、交通費は税込価額のみを記載しています。 インボイス制度導入にあたって、請求書の書き方を変えなければいけないのでしょうか。 〔ポイント〕 エンジニアによる役務提供の対価は税抜価額で記載、交通費は税込価額で記載しているので、インボイス制度導入後は、一の適格請求書に税抜価額と税込価額が混在することになります。 このような場合は、いずれかに統一して「課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額を税率ごとに区分して合計した額」を記載するとともに、これに基づいて「税率ごとに区分した消費税額等」を算出して記載する必要があります。 *  *  * 【A】 (1) SESにおける区分記載請求書 ① SESとは? システム開発では、システムそのものの作成を受注して納品する契約のほか、SESというエンジニアの労働の提供をする契約があります。 スキルごとに1ヶ月当たりの単価をSIerと協力会社の間で取り決め、SIer側からの求めに応じた各スキルの人員を供給する契約を交わして、月締めなどで請求します。 SESでは、エンジニアがSIerの指定する場所に常駐することがほとんどで、筆者の経験上ですが、交通費もSIerが負担する契約となっていることが多いです。 ② SESにおける区分記載請求書等の例 SESにおける請求書(区分記載請求書)では、エンジニアによる役務提供の税抜請求額、その合計額に対する消費税額、交通費の実費を税込金額で記載して請求合計額を算出しているものが多くなっています。   (2) SESにおける適格請求書 インボイスQ&A問57では、 とされています。問57は適格簡易請求書を対象としていますが、適格請求書でも違いはないと考えられます。 また、令和4年4月のQ&Aの改正で、 という部分が追記されました。 交通費が「法令・条例の規定で定められているか」についてですが、運賃については鉄道事業法に規定があり、上限を定めて、国土交通大臣の認可を受けなければならないとされています。また、地方自治体で運営されている交通機関については条例にて定められているのでやや悩ましいところではありますが、「『税込みの小売定価』が定められている商品」とまでは言えないと思われます。 そこで、SESの適格請求書では、 の記載が必要となると考えられます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。   (3) 立替金を請求する場合の手続き SIerの地方出張に協力会社のリーダーがSIerの一員として同行し、電車代、宿泊費を協力会社側が立て替えて後日精算するというケースもあります。 この場合、SIerにおいては、電車代や宿泊費の適格請求書と協力会社が作成した立替金精算書を保存しなければ仕入税額控除ができませんので、協力会社はこれらを提出できるよう用意しておく必要があります。 ただし、令和4年4月のインボイスQ&A問92の改訂で、3万円未満の公共交通機関の利用については、適格請求書と立替金精算書は必要ないことが明記されました。   (了)

#No. 473(掲載号)
#石川 幸恵
2022/06/09

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第76回】「旭川市国民健康保険条例事件」~最判平成18年3月1日(民集60巻2号587号)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第76回】 「旭川市国民健康保険条例事件」 ~最判平成18年3月1日(民集60巻2号587号)~   弁護士 菊田 雅裕   ※本稿では、本件賦課処分に関する論点に絞って解説を行う〔追記:2022/6/9〕。 (了)

#No. 473(掲載号)
#菊田 雅裕
2022/06/09

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第14回】「請求人提出証拠の提出の仕方」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第14回】 「請求人提出証拠の提出の仕方」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 弁論主義と職権探知主義 (1) 請求人証拠の提出の規定 国税不服審判所が裁決をするに当たり、事実関係を明らかにするために証拠を評価することになるが、この証拠の提出について、国税通則法は以下のように規定している。 第96条は当事者である審査請求人又は原処分庁が証拠を提出することを、第97条は担当審判官が職権で証拠を収集することを規定しているが、この証拠収集の主体については、訟務において「弁論主義」と「職権探知主義」の両者の考え方がある。 (2) 弁論主義 必要な証拠の申出を当事者(審査請求人及び原処分庁)の権能と責任とする考え方をいう。これによると、判断機関は、権利関係を直接に基礎付ける事実は当事者による主張がなされない限りこれを判決の基礎とすることができず、職権で証拠調べをすることができないことになる。 (3) 職権探知主義 判断の基礎となる事実の確定に必要な資料の探索を当事者の意思のみに委ねず、判断機関も職責を負う考え方をいう。これによると、判断機関は、証拠調べをする際に、当事者の申し出た証拠のほかにも、職権で他の証拠を調べることができる。 (4) 職権探知主義を採用する根拠 国税を含む我が国の行政不服審査においては職権探知主義が採用されており、これを具現化した規定が国税通則法第97条である。 職権探知主義を採用する根拠について、学説は以下の点を挙げている。 (出典) 伊藤吉美「審査請求における対審制の在り方について-職権探知主義との関連を中心に-」『税大論叢』72号(2012)41頁 (5) 受け身の姿勢では救済は受けられない たとえ国税の不服申立てが職権探知主義によるといっても、「審査請求書さえ提出すれば、後は国税不服審判所が自らの権利救済のために自己に有利な証拠を職権で提出してくれるだろう」と構えているだけでは、満足な救済を受けることができない。 担当審判官の職権で自己に有利な証拠を収集してほしい場合には、【第7回】において解説した「質問、検査等を求める旨の申立書」の提出を検討したい。 また、自己に有利な証拠については、早期に自発的に提出することによって、積極的な主張立証活動を行うべきである。   2 証拠説明書 審査請求人が自己の主張を裏付けるため又は原処分庁の主張の反論のために証拠を提出する場合には、以下の「証拠説明書」を表紙に添付することになる。 (出典) 国税不服審判所「提出書類一覧」   3 証拠の提出場面 (1) 審査請求書の提出時 審査請求書の様式には添付書類を明記する欄があり、下記の「3 審査請求の趣旨及び理由を計数的に説明する資料」が証拠に当たる。 文言からすると帳簿などが想定されるところ、それにこだわることなく、自己の主張を裏付けるため又は原処分通知書に記載された「処分の理由」に対する反論のために有用な資料を積極的に添付すべきであろう。 例えば、法人税の使用人兼務役員の賞与の損金不算入に係る審査請求事件の場合には、審査請求書に、関係者(代表者と該当役員)に対して行ったヒアリングの録取書を添付するといったことが想定される。 (出典) 国税不服審判所「提出書類一覧」 (2) 反論書・意見書の提出時 審査請求書を提出すると、原処分庁がその回答である答弁書を提出し、その中で「調査の結果、次の事実が認められる。」として、原処分庁が認定した事実が記載されるが、その反証となる証拠があれば、反論書とともに提出することになる。 また、反論書に対する原処分庁からの意見書に対してなお反論がある場合には、審査請求人意見書とともに必要な証拠を提出することになる。 (3) 担当審判官による「質問事項」の回答時 ① 質問事項の例 上記は審査請求人が自らの判断で自主的に提出する証拠であるが、担当審判官がその職権調査の一環として、審査請求人が保有しているであろう証拠の提出を求めることがある。 担当審判官による「質問事項」について、上記(1)の法人税事件を例にすると、以下のような形式が考えられる。 ② 担当審判官の着眼点を窺う 担当審判官は、審査請求事件の全体的把握のために質問事項を発することもあるが、例えば、上記①の「質問事項」の例の3.のようにピンポイントで照会する場合もある。 担当審判官は、請求人面談時に口頭で仔細な事項を確認することとは異なり、上記のように書面で質問事項を発する場合、敢えて関係が薄いと想定される質問はしないことが通常であり、書面で質問を発すること自体、その質問の回答が事件審理にある程度の影響を与えるかもしれないと考えているものと想定される。 その点で、審査請求人は、担当審判官の一挙手一投足に敏感になるべきであり、以下の事項を代理人と検討しながら応答していくことが望まれる。 (了)

#No. 473(掲載号)
#大橋 誠一
2022/06/09

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第80回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第80回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q4〉 出荷基準と引渡基準・近接日基準の関係 出荷基準が法人税法22条の2第1項の引渡基準に含まれる場合と、2項の近接日基準に含まれる場合とで、どのような差異が生じるのか。 〈A4〉 出荷基準が法人税法22条の2第1項の引渡基準に含まれる場合には、法人が一定の要件を満たして出荷日以外の日による2項の近接日基準の採用を選択しない限り、引渡基準としての出荷基準による収益計上が認められる。 逆に、出荷基準が引渡基準ではなく近接日基準に含まれる場合には、法人が上記の一定の要件を満たして出荷日による近接日基準の採用を選択しない限り、近接日基準としての出荷基準による収益計上は認められない。 上記の一定の要件とは、基本的には、法人が、契約の効力が生ずる日を含む近接日基準を採用し、その日の属する事業年度の確定決算で収益経理し、かつ、それが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従っていることである。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 法人税法22条の2第2項は、一定の要件を満たした場合には、1項の規定によらずに(引渡・役務提供基準によらずに)、目的物の引渡日又は役務提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 同項の要件と法律効果を整理すると次のようになる(本連載第19回参照)。 このうち、①と④の要件は1項と共通する。よって、1項との比較において特筆すべき2項の要件は②と③になる。このうち、③の要件は、近接日要件と確定決算収益経理要件に細分化して、説明することも可能である。 したがって、出荷基準が引渡基準に含まれる場合には、②と③の両要件を満たさない限り、原則どおり、引渡基準としての出荷基準による収益計上が認められると考えてよい。もちろん、④の別段の定めに該当する場合はこの限りではない。 他方、契約の効力が生ずる日を含む近接日基準を採用し、その日の属する事業年度の確定決算で収益経理することを選択したならば、それが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従っている限り、近接日基準による収益計上が強制される。確定決算による収益経理ではなく、法人税法22条の2第3項経由の申告調整により、近接日基準を採用する場合も同様である。 よって、出荷基準が引渡基準ではなく近接日基準に含まれる場合には、法人が上記①~④の要件を満たして出荷日による近接日基準の採用を選択しない限り、近接日基準としての出荷基準による収益計上は認められない。 なお、課税処分や修正申告時には1項の引渡・役務提供基準の採用が基本となると考えられる。もっとも、例えば、引渡しの日又は役務提供の日の候補として合理的なものが複数存在する場合に、引渡し又は役務提供の日として、どの日又はどの基準が採用されるのかという点についての国税庁の見解は明らかではない。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)

#No. 473(掲載号)
#泉 絢也
2022/06/09

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年5月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年5月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年5月1日から5月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律の公布 令和4年5月18日、「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(法律第41号)が公布された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「金融商品取引法監査における監査役等とのコミュニケーション(監査の最終段階)について」(内容:金融商品取引法監査における監査役等との適時かつ適切なコミュニケーションの実施の重要性について注意喚起するもの) ② 「「我が国におけるサステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務に関するガイダンス(試案)」について」(公開草案)(内容:非財務情報の開示に対する最近の国際的な動向に対応するもの) (了)

#No. 473(掲載号)
#阿部 光成
2022/06/09

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第27回】「ハラスメントハラスメント(ハラハラ)の予防策」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第27回】 「ハラスメントハラスメント(ハラハラ)の予防策」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社の従業員Aは、パフォーマンスが低く、勤務態度も良くないのですが、上司から注意を受けるたびに「パワハラだ」と騒ぎ立てるため、上司が従業員Aの指導を行うことを嫌がっています。どうしたらよいでしょうか。 【Answer】 従業員Aの行動はハラスメントハラスメント(ハラハラ)に該当する可能性があります。ハラハラは、対象となる上司だけでなく、会社にとっても様々なリスクを有するものですので、会社は、上司に対して部下への接し方をガイダンスしたり、その他の社員に対してハラハラの行為者が負う責任について説明したりして、ハラハラの予防に努めるべきです。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 ハラハラとは ハラハラとは、他人の言動について不快感を覚えた場合に過剰に反応し、ハラスメントであると主張することを指すとされている。 近年、一般にハラスメントに対する意識が高まったことや、各種ハラスメントについて企業に対して防止措置義務が課されたことなどから、ハラスメント被害を申告しやすい環境が整備されてきている。 ハラスメント被害申告のハードルが下がることはハラスメント防止の観点から望ましいことではあるが、一方で、ハラハラが増え、特にパワハラとの関係で、上司が適切な指導を行うことができないといった事態も増えてきており、筆者もしばしばそのような相談を受ける。そこで、本稿では、パワハラに関するハラハラへの対処法を解説する。   2 ハラハラにより生じるリスク ハラハラにより生じうるリスクは、以下のとおりである。   3 ハラハラの予防策 上記のとおり、対象となる上司だけでなく企業にとっても様々なリスクを抱えるハラハラであるが、その予防策は以下のとおりである。 (1) 上司(管理職等)に対する予防策 上司に対しては、上司が部下に対してパワハラであると誤解されたり、言いがかりをつけられたりするおそれのある言動を行わないよう、大要以下のとおりのガイダンスを行うべきである。なお、部下の指導を行うのは管理職に限られないことから、場合によっては、管理職以外の従業員に対しても以下のガイダンスを行うべきである。 ① 感情的にならない パワハラとは、①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為である(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。 一般に、感情的になればなるほど相手に精神的・身体的苦痛を与える言動を行いがちである。もっとも、パフォーマンスや勤務態度が悪い部下を相手に平常心を保つことが難しい場合もある。また、部下が上司の言動を録音してパワハラの証拠にするために、あえて挑発的な言動を行うこともある。 多くの企業において、コロナ禍以前よりも部下と対面でコミュニケーションを行う機会が減っていると思われるが、メールなどで指導を行う場合は、指導の内容がデータとして残ることから、より慎重になる必要がある。これは筆者も業務上心がけていることではあるが、メールなどで指導を行う際に自分が感情的になっていることを自覚した場合には、すぐに送信せず、しばらくしてから見返してみると、自分の言動を客観的に評価することが可能となり、リスクのある発言を避けることができる。 ② 指導の際には部下を褒めたり感謝の意を示したりする一言を追加する 部下に対する指導を行う際には、何かしら部下を褒めたり、感謝の意を伝えたりする文言を追記すると良い。上記のとおり、パワハラは、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為であるが、厳しい指導を受けても、同時に褒められたり感謝の意を伝えられたりすると、一般的に精神的苦痛が和らぎ、パワハラに該当する可能性が低くなると思われるし、また、相手の精神的苦痛を和らげることは、相手からクレームをつけられる可能性を低下させる効果もある。もっとも、あまり褒めすぎると、いざ低い業績評価をつけた際に、当該業績評価が不当であることの根拠として引用されるおそれがあるため、注意する必要がある。 ③ 指導の際のトークスクリプトやメール案を複数名で共有する。 指導の際のトークスクリプト(口頭で指導を行う場合)やメール案において、問題のある言動がないか、複数名(当該上司の上司や人事部、法務部等)でダブルチェックを行うべきである。さらに、トークスクリプトやメール案は、可能であれば弁護士のレビューを得ておくとより安全である。 筆者も何度か、上司から部下に対するハラスメントが問題となった後に当該上司が当該部下に送信したメールなどを確認することがあるが、なぜこのようなメールを送ってしまったのか、と驚くようなものが多く、社内での確認だけではダブルチェックとして不十分であるとしばしば感じるためである。 (2) その他の従業員に対する予防策 ① ハラスメントに対する正確な知識をガイダンスする ハラスメントの一因は、加害者・被害者双方のハラスメントに対する知識不足にあるといわれていることから、まずは、従業員に対して、ハラスメントについて理解させるべきである。 特に、「被害者が嫌だと思ったらハラスメントになる」といった、必ずしも正確でない理解が一般にまん延していることも、ハラハラの一因であると思う。ハラスメントに該当するか否かについては、被害者の主観も加味されるが、基本的には、パワハラについては、平均的な労働者の感じ方を基準とし、セクハラについては、平均的な女性労働者の感じ方(被害者が女性の場合)や平均的な男性労働者の感じ方(被害者が男性の場合)を基準とするのであり、従業員にこのことを理解してもらうことがハラハラの予防に繋がると思われる(※)。 (※) 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針・令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)及び「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)参照。 もっとも、平均的な労働者の感じ方をしない人は、自分の感じ方が平均的でないことに気づいていないことが多い。よって、平均的な労働者の感じ方を理解してもらうため、ハラスメント研修などにおいてグループディスカッション等を実施し、従業員間で意見交換を行わせることが有益である。 ② 虚偽のハラスメント申告により法的責任を問われたり懲戒処分の対象になったりする可能性があることを説明する ハラハラを行う者の中には軽い気持ちでこれを行う者もいる。しかし、ハラハラは、犯罪に該当したり、損害賠償責任を問われたり、懲戒処分の対象となったりするなど、ハラハラを行う者に対しても重大な影響を及ぼしうるものである。 よって、従業員に対して、ハラハラを行う者に対する責任についても理解させることが有益である。ただし、これによりハラスメントの申告が妨げられることのないよう、ハラスメントの申告がハラハラに該当するとして法的責任を問われたり懲戒処分の対象となったりするのは悪質な場合に限られる旨説明するなどの工夫をすべきである。 (了)

#No. 473(掲載号)
#柳田 忍
2022/06/09
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