社長のためのメンタルヘルス 【第4回】 「メンタルヘルスにおける予防の考え方」 特定社会保険労務士 第一種衛生管理者 産業カウンセラー 寺本 匡俊 1 今回の趣旨 本連載は今回まで総論的なテーマを取り上げ、次回より具体的な各論に入る予定である。今回はメンタルヘルスにおける予防の考え方を題材とする。他の病気やケガの予防に関しても、同様の考え方で臨み得る。 さらに健康管理と離れて、交通事故、ハラスメント、組織の不祥事などの事件・事故にも準用できる。英語では、「予防」も「防止」も“prevention”という同じ単語を使う。 傷病の診断・治療は、医師法の定めにより、医師でなければ行えない。ただし、自宅での絆創膏レベル等の手当は、危険性の程度に鑑み、解釈上、それに該当しないとされる(厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」参照)。 予防は、コロナ禍での手洗いやマスクのように、基本的に医師免許を要するものではなく、また、医療職でなくても個々人が行うべきものでもある。本連載では読者が医療従事者ではないという前提で、誰もができるような予防策を検討する。 労災防止が典型例であるが、労働法における経営の安全配慮義務に含まれるところ、社長におかれては自身の予防と、従業員の予防の双方に配慮することになる。個々人による予防例については、次回以降の各論で言及する予定であり、今回は組織的な検討、実施に資するであろう「3つの予防」、「4つのケア」という考え方を取り扱う。 2 3つの予防 本稿では後段の「4つのケア」と組み合わせて把握しやすいように、「3つの予防」と仮称しているが、通常は「一次予防・二次予防・三次予防」と表現される。 厚生労働省の通達、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、インターネットでも公表されており、「メンタルヘルス指針」とも呼ばれる。念のため、類似名の通達が複数あることや、それらがしばしば改訂されることにご留意願いたい。 この通達を「リーフレット形式」で、一般向けに解説している資料(厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」、以下「リーフレット」という)も公開されているので、今回はそちらを参照する。なお、行政通達における「指針」という用語は、英語の「ガイドライン」と同様、「必ず守るべきこと」というより、「できる限り、こうしてほしいこと」を意味する。 リーフレットには「3つの予防」の概説が掲載されており、「4つのケア」についても詳しく説明されている。「4つのケア」は、このメンタルヘルス指針が定めたオリジナルの概念である。 これに対し、「一次予防・二次予防・三次予防」は国連のWHO(世界保健機関)が提唱してきた国際的な用語で、メンタルヘルスに限らず、医療・介護の領域で広く使われている。リーフレットの該当箇所を以下に掲載する。 (参考) 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」4ページ。 一次~三次は、個々の出来事における予防の目的を段階的に示したものである。当然ながらメンタルヘルスと、内科や外科とでは、同じ一次予防でも、具体策は異なる。また、各段階の目的も、資料により定義が異なるが、概ね一次は未然防止、二次は早期発見・早期対処、三次は再発・再燃の防止という表現をよく見る。官庁・企業で不祥事が起きた際、記者会見で「再発防止に努める」などというのは、三次予防を指している。 再発(治ったはずの症状が、また出る)・再燃(治りかけていたものが、また悪化する)は、うつ病などの精神疾患や、ガンに多いのは周知のことであり、病気休職などの後も細心の注意を要する。三次予防の重要な手法の1つが、リハビリテーションである。 法定の定期健康診断は、厚生労働省が主に二次予防であると位置付けている。血圧や血糖値が高い、レントゲンに影があるというような情報から、早期に精密検査や保健指導などの対処を行い、ときには治療に移行する。他方、前回受診時との数値の比較のような、一次あるいは三次の要素も含んでいる。「3つの予防」も「4つのケア」も血液型とは異なり、複数の類型にまたがるときもある。 メンタルヘルスに限らず、一次予防(病気を防ぐ)が、使用者と労働者とを問わず、何より重要であることはいうまでもない。一方で、かつて東京都港区にある「中央労働災害防止協会(中災防)」という公的機関でお聞きした話では、たいていの企業は、三次予防でさんざん「痛い思い」をし、一次・二次の重要性を認識するようになるとのことだった。 1人の患者や1つの事故に対処する三次と異なり、一次・二次は対象者が多く(例えば全従業員)、漏れなく行うため、準備と実施に大変な手間暇と予算がかかる。一次予防が、えてして後回しになりがちなのは、切迫感も含め、この大変さが原因であろう。メンタルヘルスやハラスメント防止の一次予防を単独で取り組むだけでなく、例えば新人研修・管理職研修等に組み込む等の手段を導入して負担を減らしたい。 3 4つのケア 上掲のリーフレットに詳細な解説があるが、若干の補足説明及び個人的な見解も申し添える。「4つのケア」とは行政用語で、(1)セルフケア、(2)ラインによるケア、(3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア、(4)事業場外資源によるケア、とある。 (1)セルフケアは、繰り返しになるが、労働法令で守られていない使用者にとっても不可欠のものである。例えば、社長が無理な会議や接待を繰り返していて大変そうだというような事態に、部下がストップをかけるのは容易ではない。法定の有給休暇も介護休業もない。多忙や心労が、私生活にもしわ寄せが及びそうな立場でもある。次回からの各論もご参考にしていただき、まずは我が身からお守り願いたい。万一のことがあると、全社員にも顧客にも家族にも影響が及ぶ。 (2)ラインによるケアは、「管理監督者による」とされるが、社長自身のケアにも、従業員に対するケアも、これだけでは不十分であると考える。(3)及び(4)に「事業場」という用語があるが、これは概ね地理的・場所的に一体である職場と考えてよく、例えば大阪本社と東京支社は別の事業場である(労働保険番号も異なり、両方に産業医が必要など)。 これは、就業日にはたいてい一緒に働いている、ということが、メンタルヘルスには非常に重要な予防の環境であることを示している。部下にも上司の不調が分かる。つまりこれは、同僚同士によるケアであると、広く考えたほうが良いと思う。この点、コロナ禍を機に広がりつつあるテレワークは、感染症対策に有効であるが、ラインによるケアの機会は制限される。すでに「コロナうつ」という新語ができた。これにどう対処するかは、産業界、医学会の今後の大きな課題であるとともに、それぞれ異なる職場環境下での具体策を、現場で考える必要がある。 (3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア、及び(4)事業場外資源によるケアは、言葉が今一つ浸透していないが、リーフレットには下記のように例示されている。 〈事業場内産業保健スタッフ等の役割〉 (参考) 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」7ページ。 〈事業場外資源の例〉 (参考) 厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」11ページ。 つまり、(3)事業場内産業保健スタッフ等によるケアは社内の責任部署によるもの、(4)事業場外資源によるケアは社外のプロによる支援である。(3)には、社長も人事も、ケアを行う当事者として含まれる。(3)と(4)は、医療へのアクセスを検討すべき段階にきている。 最後に、「3つの予防」と「4つのケア」を縦軸・横軸に並べれば、合計12コマのマトリックスができ上がる。これに具体策をあてはめながら、人事・健康管理の事業計画や予算措置に使うことも可能である。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第20回】 「相続税の財産評価における鑑定評価の位置付け」 ~「特別の事情」という大きな壁~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 評価通達による評価方法とこれによらない方法との関係~特別の事情の有無 これらの関係につき、過去の国税不服審判所裁決事例には一貫した考え方が登場してきますが、例えば、平成30年10月17日付裁決事例(※1)には下記(1)から(3)の趣旨が掲げられています(下線は筆者によります)。 (※1) 同審判所ホームページ掲載資料によります。TAINSコード:J113-4-10。 これらをまとめれば、相続税の財産評価に用いる時価は、 ということになります。 そして、例外的な評価方法が認められる根拠は、「評価通達6」に以下のとおり規定されています(「国税庁長官の指示を受けて評価する」という部分がポイントです)。 なお、ここにいう「著しく不適当」であることと「特別の事情」とは同じ意味で捉えられています。 2 特別の事情とは それでは、「特別の事情」とは一体どのような内容を指すのでしょうか。 評価通達では、「特別の事情」とは何かにつき格別の定義や規定を置いていません。そこで、これを検討するために、「評価通達6」に関する裁判例に集約された考え方が拠り所となると考え、先行研究を参考にしました。 山田重將論文(※2)によれば、評価通達に関して紛争となった裁判例を分析した上で、「特別の事情」が適用されるための判断基準として次の4点が指摘されています(それぞれが個別の基準として存在するのではなく、相互に関連のある基準として存在することも併せて指摘されています)。 (※2) 山田重將「財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について-裁判例における「特別の事情」の検討を中心に-」国税庁ホームページ掲載資料によります。 〇「特別の事情」が適用されるための判断基準 なお、これらの判断基準に該当するケースを例示すれば以下のとおりです。 相続税の財産評価においては、上記の判断基準や個別的な事情を踏まえ、評価通達によらないことが正当であると認められる「特別の事情」があるにもかかわらず、評価通達によって評価を行った場合に、はじめて「著しく不適当と認められる」という考え方が適用されることとなると推察されます。 これを裏返せば、評価通達によらないことが正当であると認められる「特別の事情」がない限り、評価通達以外の評価方法(鑑定評価を含めて)が受け容れられる可能性は低いと考えられます。 3 「特別の事情」の認否に関する裁決事例等と鑑定評価の位置付け 「特別の事情」の認否に関する過去の裁決事例や裁判例のなかには、相続税の財産評価における鑑定評価の扱いについてより鮮明に位置付けたものもあります。 例えば、国税不服審判所平成18年3月15日裁決(※3)によれば次のように示しています(下線は筆者によります)。 (※3) 同審判所ホームページ掲載資料によります。TAINSコード:F0-3-207。 また、東京地方裁判所平成31年1月18日判決(※4)では次のように判示しています。 (※4) TAINSコード:Z888-2268。 過去の裁決事例や裁判例を分析すれば、その多くに上記の傾向がみられるものの、なかには「特別の事情」の存在を根拠付けるものとして鑑定評価の結果が活用されているケースも見受けられます。最近の裁判例では東京地方裁判所令和元年8月27日判決(相続した不動産の時価について評価通達の定めによることなく鑑定評価額によって評価することが許されるとした事例)(※5)があります。 (※5) 金融・商事判例No.1583(2020年2月1日号)、TAINSコード:Z888-2271。 この裁判例では、相続物件の実際の売却価額が通達評価額を著しく上回ったという事実が存在すること、その背景に相続税対策のための多額の借入行為が存在し、売却代金から借入金を返済していることが、課税庁からみて評価通達の定める評価方法以外の方法によって評価すべき特別の事情があると判定されています(上記2の(その4)が深く関連していると推察されます)。 4 まとめ 「特別の事情」(=評価通達6にいう「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる」場合)についての具体的判断基準が評価通達等に記載されていないことから、その解釈をめぐってグレーゾーンが存在していることも事実です。また、「特別の事情」の存在が認められない限り、相続税の財産評価における鑑定評価の受け容れ場面は限られたものとならざるを得ないのが実情のようです。 しかし、「特別の事情あり」と認められた場合には、鑑定評価の結果が時価を表わす指標として重要な位置付けにあることは、上記東京地方裁判所令和元年8月27日判決からも明らかです。 (了)
《速報解説》 会計士協会及び日税連が「会計参与の行動指針」の改正を公表 ~「中小企業の会計に関する指針」の改正に伴い、補償契約、違法行為への対応等見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年8月3日付で(ホームページ掲載日8月16日)、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会は、「「会計参与の行動指針」の改正について」を公表した。 これは、「中小企業の会計に関する指針」の改正に対応した見直し等を行うものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 下記のほか、「Ⅳ 参考」の「5.「中小企業の会計に関する指針」確認一覧表」の「(2)計算書類に関する表示」において、「会計上の見積りに関する注記」を追加するなどが行われている。 1 補償契約 補償契約(会社法430条の2)や会計参与を被保険者に含む役員等賠償責任保険(会社法430条の3)の締結が会計参与に就任するに当たって必要と判断する場合には、これらの契約の締結について会社と相談する。 2 違法行為への対応など 公認会計士(監査法人を含む)については、日本公認会計士協会の倫理規則19条の2において、「依頼人に対する専門業務の実施において、違法行為又はその疑いに気付いた場合には、別に定める「違法行為への対応に関する指針」に従って、職業的専門家として対応しなければならない。」とされている。 「違法行為への対応に関する指針」には、「会計事務所等所属の会員」向けの規定と「企業等所属の会員」向けの規定がある。 会計参与は、「企業等所属の会員」に対する規定(第2部第1章総則及び第2章上級職の規定)が適用となることに留意する。 税理士(税理士法人を含む)については、会計参与が不正経理に協力した場合はもちろん、不注意で不正を見逃して善管注意義務に違反したものと判定された場合にも、税理士法上の信用失墜行為として行政処分の対象となり得ることに留意する。 (了)
《速報解説》 改元や会社計算規則の改正に伴い 「中小企業の会計に関する指針」が改正される ~注記項目に「会計上の見積りに関する注記」と「収益認識に関する注記」を追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年8月3日付で(ホームページ掲載日8月16日)、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、日本商工会議所、企業会計基準委員会は、改正「中小企業の会計に関する指針」を公表した。 これは、本文中の和暦に西暦を併記するなどの技術的な改正が主なものである。なお、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)の考え方を「中小企業の会計に関する指針」に取り入れるかどうかは、同会計基準が上場企業等に適用された後に、その適用状況及び中小企業における収益認識の実態も踏まえ、検討することを考えているとのことである(注記を含む)。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 西暦表示の併記など 改元に伴い、本文中の和暦に西暦を併記している。 また、各計算書類の例示について元号を平成から令和に変更している。 2 会社計算規則の改正に伴う見直し 令和2年(2020年)8月12日に公表された会社計算規則の改正に対応し、「個別注記表」の注記項目に、次のものを追加している。 「会計上の見積りに関する注記」は、会計監査人設置会社以外の株式会社においては注記を要しないとされている。 「収益認識に関する注記」は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)に基づく会計処理を行う場合に注記が必要となるものである。 また、令和2年(2020 年)11月27日に公表された会社計算規則の改正により、【関連項目】に記載の会社計算規則の号数を変更している(「金銭債権」)。 (了)
《速報解説》 ASBJが「グループ通算制度を適用する場合の 会計処理及び開示に関する取扱い」を確定 ~税効果会計の会計処理等に関する経過的な取扱いも規定されており、適用時には注意を~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年8月12日、企業会計基準委員会は、「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第42号)を公表した。これにより、2021年3月30日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、2020年3月27日に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することとされたことに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 1 グループ通算制度 連結納税制度は企業グループ全体を1つの納税単位とする制度であるのに対して、グループ通算制度は次の特徴をもつ(実務対応報告39項)。 2 実務対応報告の基本的な方針 グループ通算制度を適用する場合の実務対応報告の開発にあたっては、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除いて、次のものを踏襲している(実務対応報告40項)。 また、実務対応報告は、実務対応報告に定めのあるものを除いて、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号。以下「法人税等会計基準」という)又は「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という)等の定めに従うこととし(実務対応報告6項、8項)、グループ通算制度に特有の会計処理及び開示のみを示している(実務対応報告41項)。 3 適用範囲 グループ通算制度を適用する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表並びに連結納税制度から単体納税制度に移行する企業の連結財務諸表及び個別財務諸表に適用する(実務対応報告3項)。 実務対応報告は、通算税効果額の授受を行うことを前提としており、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については取り扱っていない(実務対応報告3項)。 4 法人税及び地方法人税に関する会計処理 次のとおりである(実務対応報告6項、7項)。 5 税効果会計に関する基本的な会計処理 次のとおりである(実務対応報告8項)。 6 企業の分類に応じた繰延税金資産の回収可能性 個別財務諸表において次のとおりである(実務対応報告13項)。 連結財務諸表における将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性については、通算グループ全体について回収可能性適用指針6項から34項に従って判断を行い、個別財務諸表において計上した繰延税金資産の合計額との差額は、連結上修正する(実務対応報告14項)。 7 投資簿価修正 投資簿価修正による他の通算会社の株式等の帳簿価額の修正額は、投資簿価修正が行われる年度の課税所得を増額又は減額する効果を有することから、期末時点における他の通算会社の株式等の帳簿価額と税務上の簿価純資産価額との差額は、一時差異と同様に取り扱うとし、個別財務諸表及び連結財務諸表の会計処理が規定されている(実務対応報告19項、20項)。 8 適用時、加入時及び離脱時の取扱い グループ通算制度を新たに適用する場合の取扱い、株式の取得等によって新たに通算子会社となる場合の取扱い(加入)、株式の売却等によって、通算子会社でなくなる場合の取扱い(離脱)が規定されている(実務対応報告21項から23項)。 Ⅲ 適用時期等 税効果会計の会計処理及び開示に関する経過的な取扱いなどが規定されているので、実際の適用に際して注意する(実務対応報告32項、33項)。 (了)
2021年8月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.431を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第98回】 「節税義務が争点とされた事例(その1)」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 税理士が職務上の注意義務を怠り同族会社の留保金額に対する特別の法人税の申告を失念したとの債務不履行による損害賠償責任が争点とされた事例として、神戸地裁平成5年11月24日判決(判時1509号114頁)がある(※)。 (※) この事例を扱った論稿として、酒井克彦・税務弘報52巻14号90頁(2004)も参照。 今回は、この事例を検討することとしよう。 Ⅰ 事案の概要 本件は、X社(原告)が、税理士であるY(被告)を相手取り、税務相談を内容とする契約に基づいてYが教示した税務処理が誤っていたことから、依頼者であるX社に節税の機会を失わせ損害を受けたとして、Yの債務不履行に基づく不納付加算税や延滞税相当額等について損害賠償請求を行った事例である。以下、X社の請求原因を中心に事案の背景を確認する。 どちらもRが代表取締役を務めるX社と訴外会社では、訴外会社の業績が振るわなかったことからX社が資金援助を行っており、X社は訴外会社に対して貸金債権を有していた。Rは両会社を解散して引退したいと考え、Yに対し、X社を解散して有利に残余財産の分配を受け得るに必要な方法の相談、すなわち、X社の訴外会社に対して有する貸金債権を貸倒損失として損金算入し、これとX社の所有不動産の売却によって発生する譲渡益とを相殺することが許されるかにつき相談を行った(なお、X社とYとの間の税務顧問契約を、以下「本件契約甲」という。)。 詳細は割愛するが、その後Rは、いくつかのYの教示に従って、訴外会社を解散し、X社の所有不動産の売却と解散などの手続きを行った。 ここでは、「資産の買換えの場合の課税の特例」(以下「買換特例」という。)の利用を前提としていたところ、Yから、「K税務署と話し合いがつき、昭和62年度にX社を解散した場合には、その解散確定申告において、本件欠損金を損金算入し、利益控除に利用できることとなったから、買換資産の買収を中止し、直ちにX社を解散してもよい。」との教示がなされたことから買換特例の利用を取りやめたほか、Yが代行した本件解散確定申告は、同族会社の留保金額に対する税額の申告を忘れていたため税務当局より修正申告を求められたこと、X社がRに対し支給した退職金に関して源泉徴収所得税を納付しなければならなかったにもかかわらず、Yがその源泉徴収税額及び納付期限を教示しなかったために納付期限を経過しA税務署長より納税告知を受けたことなどがあった。 そこで、X社は、適正な税務処理をした場合、すなわち昭和62年度中に解散をせず、同年度に発生した所有不動産の売買差益中の法定額を特別勘定に繰入れ、昭和63年度になって繰入額全額を繰戻した場合に課税される税額と、誤った税務処理をすることによって課税された税額との差額が、Yの誤った教示によってX社が被った損害となるとして、Yに対し損害賠償請求を行った。 Ⅱ 争点 税務相談を内容とする契約に基づいて税理士がなすべき適正な税務処理を教示する債務の不履行があったとして、Yに対する損害賠償請求が認められるか否か。 Ⅲ 判決の要旨 1 欠損金の繰越し機会を喪失した件 神戸地裁は、まず、欠損金の繰越し機会の喪失に関して次のように示す。 そして、X社の業績が悪く、解散がなくても本件欠損金を控除する余地はなかったから、X社に被害はない旨のYの抗弁については失当であるとする。 続けて、Yの職務上の義務について次のように述べる。 また、「K税務署と話し合いがつき、昭和62年度にX社を解散した場合には、その解散確定申告において、昭和61年度に発生した本件欠損金6,619万7,142円を損金算入し利益控除に利用できることとなった」旨のYの説明について、上記のYの義務には何ら影響はないとする。 そして、結論として、次のとおり、Yの損害賠償責任を認めている。 2 同族会社の留保金課税申告に関する件 神戸地裁は、同族会社の留保金課税申告に関する件に関しても次のように判示して、Yの責任を認めている。 3 源泉徴収義務の納期限徒過に関する件 また、神戸地裁は、源泉徴収義務の納期限徒過に関する件に関してもYの責任を認めている。 Ⅳ コメント 本件は、税理士が、❶誤った教示を行ったという不完全な履行をし、それによってX社は土地売買差益の繰延べができなくなったこと、❷Yが代行するX社の申告において、同族会社の留保金課税に関する申告を失念したことから延滞税を負担することとなったこと、❸源泉徴収義務の納付期限に関する教示をしなかったことから、X社が不納付加算税及び延滞税の負担をしたことなどについて、相当因果関係がある損害を受けたと認められるとして損害賠償責任が認定された事例である。 これらの損害賠償責任は共通して、本件契約甲に基づき、YがX社に対し適正な税務指導をなすべき債務を負担していたことが前提とされており、また、X社が被ることとなった損害とYの行為との間に相当因果関係があることが認定されたものである。 本件における税務顧問契約である「本件契約甲」とは、「Yは、X社につき、税務代理、税務書類の作成、税務相談及びそれらの業務に附随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行をする。」というものであった。この契約にいう税務代理、税務書類の作成、税務相談及び付随業務の代行から、いかにして、①「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」ことが導出されるのであろうか。これは、裁判所の判示にいう②「Yの職歴および税理士としての資格・経験等に鑑みると、Yには、前記法人税法及び租税特別措置法の各規定の法意を十分理解しておくべき職務上の義務があったというべきである。」という点が根拠になるのであろうか。 Yの職務上の義務はあくまでも税理士としての職務上の一般的な義務というべきものであって、本件契約甲に由来する適正な税務指導をなすべき債務とは別のものと捉えることも可能であるように思われるが、判決の説示が、② ➡ ①の順になされていることに注目すれば、神戸地裁は①の「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」ことと、税理士の一般的な専門家としての義務とを、別のものとして議論していないことが判然とするのである。 したがって、①の「適正な税務指導をなすべき債務を負担していた」には、本件税務顧問契約の締結がなされる前提として、かかる契約が、②にいう一般的な税理士の義務を前提として締結されているもので、それによって締結された契約上の義務には、税理士に期待される義務履行が付着したものと解されているのであろう。 もっとも、そこまでの整理を行い得たとしても、他方で、①「適正な税務指導をなすべき債務」から節税指導をどのように導出するのかについて、この判決は必ずしも明確に示していないようにも思われるのである。 (了)
〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第5回】 「適格請求書発行事業者が免税事業者になるための手続きと注意点」 税理士 石川 幸恵 【Q】 税理士事務所の監査担当者として、クライアントの消費税の納税義務には、常に注意を払ってきました。 適格請求書発行事業者の登録後は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となっても事業者免税点制度が適用されないので、基準期間における課税売上高に注意を払う必要はなくなると考えてよいでしょうか。 〔ポイント〕 (1) 適格請求書発行事業者は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下となっても自動的に免税事業者になることはありません。 (2) 適格請求書発行事業者の登録の取消しをすれば、事業者免税点制度(消法9)の適用があります。 * * * 【A】 適格請求書発行事業者をやめることによって、事業者免税点制度の適用を受けられます。税理士事務所の監査担当者としては、クライアントの基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合は、適格請求書発行事業者をやめることのデメリット(連載【第1回】参照)と納税事務負担を比較して、適格請求書発行事業者をやめて免税事業者になるという選択肢があることと、その手続きの方法を示す必要があると思われます。 なお、インボイス制度が始まっても、簡易課税制度には変更がありませんので、「簡易課税制度選択届出書」を過去に提出している場合には、基準期間における課税売上高が5,000万円以下か5,000万円超か、納付税額の試算、設備投資の予定などに注意を払う必要があります。 (1) 事業者免税点制度の不適用 適格請求書発行事業者は、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下となった場合でも免税事業者となりません(インボイスQ&A問18、消法9①、インボイス通達2-5)。 (2) 適格請求書発行事業者が事業者免税点制度の適用を受けるには? 適格請求書発行事業者が事業者免税点制度の適用を受けるには、適格請求書発行事業者の登録を取りやめることが必要です。 ① 登録の取りやめ 適格請求書発行事業者の登録を取りやめるには、納税地を所轄する税務署長に「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」(以下「登録取消届出書」といいます)を提出します(インボイスQ&A問14、消法57の2⑩一)。 ② 「登録取消届出書」の提出期限 「登録取消届出書」は、適格請求書発行事業者の登録の取消しをしたい課税期間の前課税期間の末日から起算(末日を「1日前の日」としてカウント)して30日前の日の前日までに提出しなければなりません(インボイスQ&A問14、インボイス通達2-5)。 ③ 「課税事業者選択届出書」を過去に提出している場合 「課税事業者選択届出書」を過去に提出している場合には、課税事業者選択の適用を受けることをやめようとする課税期間の初日の前日までに、「課税事業者選択不適用届出書」を提出しなければなりません(消法9⑤)。 ④ その他配慮すべき事項 実務上、継続取引においては、取引の買い手は、取引開始時あるいはインボイス制度開始時に一度、売り手が適格請求書発行事業者かどうかを確認し、以後は継続して適格請求書発行事業者であるという前提で処理をすると考えられます。適格請求書発行事業者でなくなる場合には、速やかに買い手に通知するのがベターです。 (3) 2年継続の規程はない 「登録取消届出書」の提出にあたっては、課税事業者選択や簡易課税制度選択のような2年継続適用の制限はありません。また、「登録取消届出書」を提出した事業者が再度、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する際にも2年継続の制限はありません。 (了)
事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第32回】 「所在不明株主の株式売却制度による株式集約」 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳 相談内容 私は東北地方で警備会社や運送会社などを束ねるEグループホールディングス(以下「E社」といいます)の総務部長をしております。 当社は、地域の有力企業との結びつきが非常に重要な業種柄、新たに進出する地域の有力者や取引関係者に出資をお願いすることで関係強化を図り、業容を拡大してきました。 先代経営者が従業員にも自社株式の保有を推奨していたため、当社には取引関係者や元従業員を中心に300名を超える株主が存在し、A社長一族の株式保有割合が非常に低い水準となっています。 〈E社の株主構成〉 A社長は今年で70歳になり、息子であるB常務への事業承継が近づいています。2代目経営者であるA社長は株主からの信頼が厚く、株式保有割合が低くても株主との間でトラブルが発生したことはありませんが、3代目となるB常務への経営承継に向けて、A社長一族や従業員持株会の株式保有割合を高め、B常務が自由度の高い経営ができるような株主構成にしていきたいと考えています。 当社は5年程前に従業員持株会を設立し、買取りの要請があった株主から会員規約に定めた価格(配当還元価額と同額)で株式を取得してきました。従業員持株会への譲渡をお願いする書面を株主総会の招集通知に同封するなど株式集約に向けた対策を積極的に行い、この5年で50名程の株主から10%近い株式を買い集めることができました。 ところで、当社は毎年株主総会を適切に開催していますが、出席いただける株主が非常に少なく、定足数を満たすことに大変苦労しています。株主総会の招集通知が返送されてくる株主も一定数存在しますし、創業時の従業員で年齢的にもご存命でない可能性が高い株主もいますので、相続人の方から株式を買い取るなどの対応をしたいと考えていますが連絡先もわかりません。 このように連絡のつかない株主からB常務や従業員持株会が株式を買い取れる何か良い方法はないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 所在不明株主の株式売却制度 (1) 所在不明株主 株式会社は、所在不明株主が保有する株式を競売し、非上場株式については、裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することが可能です。売却する株式の全部又は一部を発行会社が自己株式として取得することも認められます(会197)。 所在不明株主とは、次のいずれにも該当する株主をいいます。通知又は催告は実際に郵送で行われることが必要ですが、配当については、無配の場合でも配当を受領しなかったものと解されています。 (2) 公告及び個別催告 所在不明株主が保有する株式を競売又は売却する場合には、所在不明株主その他の利害関係人が一定の期間内(3ヶ月以上)に異議を述べることができる旨の公告を行い、かつ、当該株主に個別に催告しなければなりません(会198①、会規39)。 〈公告事項〉 (3) 裁判所への株式売却許可申立 所在不明株主の保有する株式を競売せずに売却する場合は、競売に代えて売却することの相当性、売却価格の相当性といった点を記載した申立書に以下の疎明資料を添付して裁判所に提出します。 〈疎明資料〉 (出所) 「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A」(東京地方裁判所)を筆者加工。 株主に対してする通知又は催告が5年以上継続して到達しなかった事実の疎明においては、5年以上の期間にわたる株主総会の招集通知及び返戻封筒の実物を提出することが求められます。代表取締役の陳述書などの代替書面によることは認められていませんので、株主総会の招集手続きを適切に行い、返戻封筒を会社で保管しておくことが重要です。 株式の売却代金は、発行会社が株主に交付する日、又は、時効により消滅する日まで発行会社が負債に計上することになります。発行会社は売却代金を供託することによってその債務を免れることも可能です(民法494)。 [2] 株式の売却価格 市場価格のない株式について裁判所に売却の許可を得る際には、第三者機関による株価鑑定書を提出し、売却価格の相当性を疎明しなければなりません。 裁判所における株価の考え方として、支配株主や発行会社が株式を取得する場合には、DCF法や純資産価額などを加味した比較的高い株価、少数株主が株式を取得する場合には、ゴードンモデル(配当還元法)などの比較的低い株価が採用される傾向がありますが、少数株主間の取引事例が一定数存在していれば、税法基準による配当還元価額であっても売却価格として認められています。 所在不明株主の株式売却制度においては、申立ての時期や株式の売却先を発行会社が任意に決定することができ、株価の鑑定評価書も発行会社が第三者機関に依頼して作成してもらうことが可能です。したがって、比較的低い株価による売却が認められそうな売却先を選定したり、一定数の取引実績を用意したうえで取引価格事例法による売却許可を申し立てるなど、裁判所の許可を得るための工夫がしやすい制度といえます。 [3] 経営承継円滑化法の特例 令和3年8月2日に施行された「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う経営承継円滑化法の改正により、中小企業者の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じている場合であって、当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者に円滑に承継させることが困難であると経済産業大臣の認定を受けた者(特例株式会社)については、通知又は催告の期間が「5年以上」から「1年以上」に、剰余金の配当の期間が「5年間」から「1年間」に、それぞれ短縮されることになりました(経営承継円滑化法12①一ホ、15)。 これまでは、株式売却に向けた準備を開始してから5年以上の期間を要していた手続きが、定時株主総会の招集通知が2回分到達しないことで所在不明株主として認められるようになりました。代表者が継続的かつ安定的に経営を行うことが難しい状態の中小企業は、円滑な承継を行うためにも積極的に制度の活用を検討すべきでしょう。 [4] 結論 長期にわたり所在不明となっている株主が存在する場合、裁判所の許可を得て経営陣に都合の良い相手に株式を売却することが可能です。 本事例のように、従業員持株会が外部株主から、配当還元価額と同額で株式の買戻しを行ってきた実績がある企業では、取引価格事例法を採用した株価鑑定書を提出して、税法基準による配当還元価額による売却が認められています。したがって、所在不明株主からの買取りを検討されている法人においては、少数株主間の取引実績を一定数用意してから裁判所に売却許可の申立をすることをお勧めします。 経営承継円滑化法の改正により、一部株主が所在不明であるため事業承継が困難となっている旨の認定を受けた中小企業者に限り、所在不明株主からの株式買取り等の手続きに必要な期間が5年から1年に短縮されることになりました。経済産業大臣の認定を受けることができれば、短期間での株式売却が可能となりましたので、これまで株主総会の招集手続きを適切に行っていなかった法人や、これから準備を始める法人であっても株主対策のソリューションとしての活用が視野に入ってくるのではないでしょうか。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。 (了)
令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第7回】 (最終回) 「「大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の見直し・延長」 「株式対価M&Aを促進するための措置の創設」 「中小企業経営資源集約化税制の創設」 「中小法人の法人税の軽減税率の延長」」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 [6] 大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の見直し・延長 大企業が、前期より所得が多いにも関わらず、一定の賃上げと設備投資を行わなかった場合、研究開発税制など一部の租税特別措置を適用させないという規制がある。 これを『大企業に対する租税特別措置の適用除外措置』という。 連結納税制度においても単体納税制度と同様に大企業に対する租税特別措置の適用除外措置があるが、連結納税制度の場合、次の点で単体納税制度と異なる取扱いとなる(新措法68の15の8⑥~⑨、新措令39の48⑤~⑬)。 令和3年度税制改正では、この大企業に係る税額控除制度の適用除外措置の適用期限が3年延長された(平成30年4月1日から令和6年3月31日までの間に開始する連結親法人事業年度に適用される。新措法68の15の8⑥)。 また、本措置の規制対象にカーボンニュートラル投資促進税制及びDX投資促進税制が加わっている(新措法68の15の8①十六・⑥)。 さらに、継続雇用者給与等支給額が継続雇用者比較給与等支給額を超えることとの要件を判定する場合に雇用調整助成金及びこれに類するものを控除しない取扱いに見直している(新措法68の15の8⑥一)。 なお、人材確保等促進税制又は所得拡大促進税制では、継続雇用者の抽出、設備投資要件の判定が不要になるが、本措置については、継続雇用者の抽出、設備投資要件の判定が必要となる点は改正後も変わらない。 なお、令和3年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(カーボンニュートラル投資促進税制及びDX投資促進税制の適用除外措置は産業競争力強化法の改正法の施行日(令和3年8月2日)から適用される。令和3年所法等改正法附則1、43、65)。 [7] 株式対価M&Aを促進するための措置の創設 令和3年度税制改正では、買収会社(株式交付親会社)の自社株式等を対価とするM&Aに係る対象会社(株式交付子会社)の株主について、会社法の見直しにより新たに創設された「株式交付制度」を活用した機動的な事業再構築を促すため、譲渡した対象会社株式(株式交付子会社株式)に係る譲渡損益の計上を繰り延べる株式交付税制が創設されている。 連結納税制度においても、連結法人が株式交付子会社の株主となる場合に、その譲渡した株式交付子会社株式に係る譲渡損益の計上を繰り延べることになる(新措法68の86①)(注1)。 (注1) 対価として交付を受けた資産の価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合に限ることとし、株式交付親会社株式以外の資産の交付を受けた場合には株式交付親会社株式に対応する部分の譲渡損益の計上を繰り延べる。 この場合、交付を受けた株式交付親会社株式の取得価額は、株式交付子会社株式の譲渡直前の帳簿価額に株式交付割合(注2)を乗じて計算した金額とする(新措令39の110①)。 (注2) 株式交付割合とは、交付を受けた株式交付親会社株式の価額が交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額(剰余金の配当として交付を受けた金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額を除く)のうちに占める割合をいう。 また、連結法人が株式交付親会社となる場合に、株式交付制度で取得した株式交付子会社株式の取得価額は、①株式交付子会社株式を50人未満の株式交付子会社の株主から取得をした場合、その株主が有していた株式交付子会社株式のその取得の直前における帳簿価額に相当する金額とし、②株式交付子会社株式を50人以上の株式交付子会社の株主から取得をした場合、株式交付子会社の前期期末時(株式交付子会社の取得の日を含む事業年度の前事業年度)の税務上の簿価純資産価額にその取得した株式交付子会社株式の持株割合を乗じた金額とする(新措令39の110②、新措規22の73の2)(注3)。 (注3) 対価として交付した資産の価額のうち株式交付親会社株式の価額が80%以上である場合に限ることとし、株式交付親会社株式以外の資産の交付をした場合には、①又は②の金額に株式交付割合を乗じた金額にその株式以外の資産の価額を合計した金額とする。なお、株式交付子会社株式の取得価額に対応して資本金等の額が増加することになる(新措令39の110②)。 なお、令和3年4月1日以後に行われる株式交付について適用される(令和3年所法等改正法附則1、69)。 [8] 中小企業経営資源集約化税制の創設 令和3年度税制改正では、M&A実施後に発生する中小企業の特有のリスク(簿外債務、偶発債務等)に備える観点から、M&Aに関する経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が、株式譲渡によってM&Aを実施する場合(取得価額が10億円以下の場合に限る)において、株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積立金額を損金算入できるという中小企業経営資源集約化税制を創設している(計画の認定期限:令和6年3月31日)。 この準備金は、据置期間終了後、原則として、5年間で均等額を取り崩して益金算入されることになる。 連結納税制度においても中小企業経営資源集約化税制が創設されており、各連結法人ごとに、以下の取扱いとなる(新措法68の44、新措令39の73)。 なお、連結親法人又はその連結子法人のうち、次に掲げる連結法人については、この措置は適用されない(新措法68の44④)。 [9] 中小法人の法人税の軽減税率の延長 連結親法人が中小法人(適用除外事業者を除く)に該当する場合の年800万円以下の連結所得に対する軽減税率(本則19%)を15%にする措置について、令和5年3月31日までの間に開始する連結事業年度まで延長する(新措法68の8①)。 (連載了)