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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第50話】「皇室と非課税」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第50話】 「皇室と非課税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「ウーン・・・1億5,250万円を貰わないのか・・・」 中尾統括官は、新聞を広げて、熱心に記事を読んでいる。 「・・・この一時金は、元皇族の品位保持のために支給されるものといわれているが・・・所得税法では、非課税になっているはずだ・・・」 と言いながら、手元の税務六法を開く。 「確か、非課税所得として、所得税法9条1項12号に皇室経済法が載っていたように思うが・・・」 中尾統括官が条文を見つめる。 「眞子さまの一時金は、皇室経済法6条1項の皇族費の規定に書かれている・・・」 皇室経済法は、ポケット六法には載っていないので、パソコンを開いて、グーグルで条文を検索する。 「何を熱心に見ているのですか?」 浅田調査官がニヤニヤしながら、中尾統括官の傍らに立っている。 パソコンの画面には、皇室経済法の条文が映っている。 「眞子さまの一時金を調べているのですか?」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「いや、別に・・・税務上の取扱いについて、どうなっているか調べているだけ・・・」 中尾統括官は、広げられた新聞を畳んで、机の片隅に置く。 「・・・ところで、この皇室経済法って・・・何でしたっけ・・・」 浅田調査官が頭を掻きながら、尋ねる。 「・・・皇室経済法は・・・皇室の財政・財務に関する事項について定めているものだが・・・もともと、憲法8条と88条の規定を受けて、定められた法律だ」 そう言うと、中尾統括官は、ポケット六法を開いて、2つの条文を読む。 「憲法は・・・税法と違って、条文が短いし、文章自体、分かり易いね・・・税法もこれぐらいにしてくれれば、読むのに楽なのだが・・・」 中尾統括官は、そんな愚痴を言いながら、憲法の説明をする。 「憲法8条は・・・皇室に富が集中しないように、また、特定の者と皇室が経済的に結びつかないようにするため、国会の議決に基づかなければならないと規定している・・・また、同法88条は、同様の趣旨であるが、さらに、皇室として品位を保つために必要な費用を、国が負担することを定めている・・・」 浅田調査官は、説明を聞きながら、条文を見ている。 「・・・憲法88条に規定している『皇室財産=国』であるということは・・・天皇には財産がないということなのですか?」 浅田調査官が尋ねる。 「いやいや、全くないということはない・・・」 中尾統括官は、大きく頸を振る。 「君は、平成生まれだから、知らないかもしれないが、昭和天皇が御崩御されたとき、相続税が発生したと、税務署の先輩から聞いている・・・」 「へえ・・・天皇陛下も相続税が課せられるのですね・・・」 浅田調査官は、驚いたように、中尾統括官を見る。 「昭和天皇の相続税の申告は、申告期限である平成元年7月7日までに行われ、相続財産総額は、18億6,900万円、相続税は約3億円らしい・・・ほとんどが金融資産らしい・・・それは、戦後、天皇家に残された現金1,500万円を運用したものといわれている・・・」 「そうなんですか・・・天皇も人間宣言されていますからね・・・」 浅田調査官は、納得した顔になる。 「ところで・・・3種の神器はどうなんですか・・・八咫鏡(やたのかがみ)と草薙劔(くさなぎのつるぎ)と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)ですが・・・これって、天皇の所有物なのですか?」 浅田調査官は、更に尋ねる。 「・・・あれは、天皇が所有していることになっているが・・・相続税法12条1項1号で非課税となっている」 中尾統括官は、税務六法を開く。 「なるほど、皇室に対して、税法で非課税の手当を十分にしているのですね」 浅田調査官は、頻りに感心する。 (つづく)

#No. 443(掲載号)
#八ッ尾 順一
2021/11/04

《速報解説》 会計士協会、「「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」を公表~分析結果から以降の記載をより有意義なものとするための留意事項も指摘~

《速報解説》 会計士協会、「「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度 (2021年3月期)事例分析レポート」を公表 ~分析結果から以降の記載をより有意義なものとするための留意事項も指摘~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年10月29日、日本公認会計士協会は、「「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」を公表した。 これは、2021年3月期決算の上場会社のうち、2021年6月30日までに有価証券報告書を提出した会社2,342社(連結財務諸表作成の会社2,102社及び個別財務諸表のみ作成の会社240社)を対象として、日本における「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters)」(以下「KAM」という)の強制適用初年度の状況を分析したものである。 「「監査上の主要な検討事項」の強制適用初年度(2021年3月期)事例分析レポート」のほか、付録、別紙、サマリーが公表されている。 併せて、KAMの2021年3月期の監査人の対応について関係する日本公認会計士協会の会員向けアンケートの結果も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ KAMの強制適用初年度の全体像 強制適用初年度となった2021年3月期の事業年度は、新型コロナウイルス感染症拡大による緊急事態宣言の発令(2020年4月)や外出自粛・テレワークの推奨等、国内外の経済社会が大きく変化した時期であったことから、連結財務諸表作成の会社2,102社のうち635社(30%)及び個別財務諸表のみ作成の会社240社のうち59社(25%)が、KAM区分の「内容及び決定理由」において新型コロナウイルス感染症について言及していた。 連結財務諸表の監査報告書に記載されたKAMについて、監査領域別に示すと次のようになる。詳細は分析レポートの「【図表5】業種及び監査領域」をお読みいただきたい。   Ⅲ KAMの個数に関する分析 KAMの個数に関する分析の全体像は次のとおりである。   Ⅳ KAMとした理由 KAMと決定した理由について、次のものが記載されている。   Ⅴ 監査上の対応 「監査人による手続の結果に関連する記述」又は「当該事項に関する主要な見解」が記載されている事例はなかったとのことである。 監査上の対応として、次のものが記載されている。   Ⅵ 特徴的な事例 特徴的な事例として、次のものが記載されている。   Ⅶ 早期適用事例の年次比較 2020年3月期の事業年度までにKAMを記載した監査報告書を公表した事例について、KAM導入2年目の変化を分析している。 2021年3月期の連結財務諸表の監査報告書に追加されたKAMはすべて、2021年3月期の事業年度内に新たに生じた事由(事業譲渡、権利の譲受け、社内制度の改訂、M&Aなど)に関連するものであった。 2020 年3月期(前期)の監査報告書に記載されたKAMのうち、2021年3月期の連結財務諸表の監査報告書に記載されず、削除されたKAMとして、前期中に生じた事由に関連する事例、前期の監査報告書に記載されたKAMに係る事案が当期中に解消した事例などがあったほか、のれんの範囲が異なるために別KAMとなり、前期のKAMが削除されたとみなされる事例もあった。 例えば、富士通(株)では「前連結会計年度において監査上の主要な検討事項としていた「有形固定資産及び無形資産の減損」についてはリスクが低減したため当該検討事項からは除外し、当連結会計年度の連結財務諸表の監査において、以下の事項を監査上の主要な検討事項とした。」と記載されている。   Ⅷ 会社法上の監査報告書におけるKAMの記載 現在、会社法上の監査報告書へのKAMの記載は任意であるが、強制適用初年度において、会社法上の監査報告書にKAMを記載した事例が2社あった。   Ⅸ 有価証券報告書 株主総会前に有価証券報告書を提出した事例(26社)があった。 有価証券報告書の「監査の状況」でKAMに言及した事例が、連結財務諸表作成の会社で360社、個別財務諸表のみ作成の会社で24社あった。 次のような記載である。   Ⅹ KAMの記載をより有意義なものとするための留意事項 分析レポートを作成した分析チームから、強制適用初年度のKAMの「監査上の対応」の記載はおおむね、平易かつ丁寧な記載であったと考えられるなどの肯定的な評価が見られる一方、次のようなKAMの記載をより有意義なものとするための留意事項も指摘されている。 監査論上、「ボイラープレート」は「どの会社でも同じ」であることを意味するが、KAM導入2年目以降の課題として、ボイラープレート化の回避が議論される際には、「毎年同じ」という意味に置き換わってしまっていることがあるとのことである。 しかしながら、KAMは、監査の透明性及び監査報告書の情報価値を高める目的で導入されたものである。いいかえれば、KAMは、どの会社の監査報告書をみても型押しされたかのように同じであるという状況を打開するために導入されたものであり、KAMの制度は、KAM導入2年目以降、「毎年同じ」KAMが記載されることを織り込み済みであると考えられるとのことである。 監査報告書に記載するKAMの選定を毎期検討するにあたって、会社や会社を取り巻く環境が変化すれば、それらの変化にあわせて、選定されるKAMも変化するはずである。いいかえれば、会社や会社を取り巻く環境が変化しない限り、監査報告書に記載されるKAMは変化しない可能性が高いと考えられる。 同じ会社で、環境が変わらなければ、経年で同じような記載となることがあると考えられ、経年で同じKAMを記載していること自体が情報価値をもつこともありえるとのことである。 そして、各監査人が所属する監査事務所で準備された記載例や他社事例をそのまま利用することは慎むべきであり、各社の固有の状況が反映されたものになるよう留意する必要があると記載されている。 (了)

#No. 442(掲載号)
#阿部 光成
2021/11/02

《速報解説》 国税庁がインボイス制度の「申請手続」ページを更新し、e-Taxによる申請マニュアルを追加~税理士による代理送信に係るQ&A等も公表~

《速報解説》 国税庁がインボイス制度の「申請手続」ページを更新し、 e-Taxによる申請マニュアルを追加 ~税理士による代理送信に係るQ&A等も公表~   税理士 石川 幸恵   本日(令和3年11月1日)の午前10時より、適格請求書発行事業者公表サイトでの「登録番号の検索」が可能となった。 これに先立ち、令和3年10月25日に、国税庁ホームページの「特集インボイス制度」における「申請手続」のページが更新され、下記の4つのマニュアルが新たに公表された。 今回の更新では、e-Taxを利用した登録を推進していること、税理士による代理送信についての問い合わせが多くあることがうかがえる。以下、役に立つと思われる機能を紹介する。   1 メールアドレスの登録の活用 e-Taxにおいて、メールアドレスの登録自体は、以前から登載されている機能であるが、「〈インボイス制度〉メールアドレス・宛名登録マニュアル~登録通知データをすぐに確認するために~e-Taxソフト(WEB版)ver.」は、登録通知データの格納をすぐに知りたいというニーズに対応するためのマニュアルと思われる。 インボイス制度が導入される令和5年10月1日から登録を受けるための申請書の提出期限は、原則として、令和5年3月31日なので(インボイスQ&A問7)、登録を焦る必要はないが、制度の開始に先立って取引先より登録番号の問い合わせを受けているなど、登録されたらすぐに知りたい、というケースもあろう。 申請書を提出してから登録の通知を受けるまでの期間は、e-Taxで登録申請書を提出した場合、2週間程度を見込んでいるが、一時期に多量に登録申請書が提出されるなどの事情によっては処理期間に影響がある場合も考えられる(インボイスQ&A問4)。 このような場合に備えて、メールアドレスを登録するのは有効である。メールアドレスは3つまで登録できるので、関与先のメールアドレスと税理士のメールアドレスを登録しておくことにより、登録通知データが格納されたことを、遅滞なく知ることができる。 なお、税理士による代理送信の場合は、通知メールがどのクライアント宛のものかわからなくなるので、宛名の登録も忘れず行いたい。   2 委任関係の登録やメッセージ共有の設定は不要 登録通知データは関与先の「送信結果・お知らせ」内の「通知書等一覧」にのみ格納される(e-Taxソフト(WEB版)を利用した代理送信に関するよくある質問Q5)。 個人納税者については、「メッセージボックス」や「通知書等一覧」を閲覧するためには納税者本人の電子証明書が必要であるが、適格請求書発行事業者の登録通知データは、電子証明書がなくても、確認することができる(e-Taxソフト(EWB版)を利用した代理送信に関するよくある質問Q7)。 このため、個人納税者の「申告のお知らせ」や「受信通知」を税理士が閲覧するための委任関係の登録による転送設定やメッセージ共有の設定は不要である。   3 お問合せの多いご質問(令和3年10月26日掲載)の公表 申請手続のページの更新のほか、令和3年10月26日には、「お問合せの多いご質問(令和3年10月26日掲載)」も公表された。 こちらはインボイスQ&Aからの抜粋がほとんどであるが、問8(インボイス制度に関する登録申請書等の入手方法)のみがインボイスQ&Aにはない内容である。回答は、様式へのリンクのほか、e-Taxによる提出を促すものだ。   (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 442(掲載号)
#石川 幸恵
2021/11/01

《速報解説》 会計士協会が「財務諸表のレビュー業務」の非営利法人への適用に関する研究報告を公表~レビュー実施時の非営利法人特有の留意事項や文例等示す~

《速報解説》 会計士協会が「財務諸表のレビュー業務」の非営利法人への適用に関する研究報告を公表 ~レビュー実施時の非営利法人特有の留意事項や文例等示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年10月14日付けで(ホームページ掲載日は2021年10月28日)、日本公認会計士協会は、「保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」の非営利法人への適用に関する研究報告」(非営利法人委員会研究報告第42号)を公表した。 これは、保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」を非営利法人に適用する場合の留意点を整理したものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 研究報告は、保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」及び監査基準委員会研究報告第5号「保証業務実務指針2400に係るQ&A」に基づき非営利法人に対してレビュー業務を実施する際に理解が必要と思われる事項に関する留意点を記載している。 非営利法人には、公益社団・財団法人及び一般社団・財団法人、社会福祉法人、医療法人、労働組合、消費生活協同組合、農業協同組合及び特定非営利活動法人など様々な法人形態がある。 次の付録も記載されている。 レビューの実施に際しての非営利法人特有の留意事項として、次のものを記載している。 (了)

#No. 442(掲載号)
#阿部 光成
2021/10/29

《速報解説》 厚生労働省、令和3年度税制改正を踏まえ、「セルフメディケーション税制に関するQ&A」を更新~新たに対象・対象外となる医薬品の詳細が明らかに~

 《速報解説》 厚生労働省、令和3年度税制改正を踏まえ、 「セルフメディケーション税制に関するQ&A」を更新 ~新たに対象・対象外となる医薬品の詳細が明らかに~   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   セルフメディケーション税制は、令和3年度税制改正において、対象となる医薬品の範囲等が見直された上、適用期限が5年間延長された。 改正の概要については、拙稿「《速報解説》 令和3年度税制改正におけるセルフメディケーション税制の見直し対象となる医薬品が明らかに~経過措置適用期限は令和7年12月31日~」をご参照いただきたい。 本改正を踏まえ、厚生労働省ホームページに公開されている「セルフメディケーション税制に関するQ&A」が更新された。 以下、更新された主なQ&Aを取り上げる。   【1】 適用期限の延長(Q1) 適用期限が平成29年1月1日~令和8年12月31日までとなり、5年間延長された。   【2】 対象医薬品の見直し(Q5~Q9、Q29、Q39) (1) 対象外となる医薬品、対象に加えられた医薬品(Q5) (※1) これらの成分を有効成分として含有するスイッチOTC医薬品のうち、令和3年12月31日以前に新規発売されたものは令和7年12月31日まで税制の対象、令和4年1月1日以降に新規発売されたものは税制の対象外となる⇒Q39 (※2)・抗ヒスタミン薬の効能又は効果を有すると認められるスイッチOTC医薬品以外の一般医薬品について、税制対象製品と税制対象外製品がある⇒Q7 ・催眠鎮静薬(対象成分ジフェンヒドラミン塩酸塩を含む「スリーピン」、「スヤットミン」、「ドリエル」等)は税制の対象外となる⇒Q8 ・漢方薬(「ジリュウ」、「マオウ」、「ナンテンジツ」)は税制対象成分として追加されており、これらを含有することでかぜ薬及び鎮咳去痰剤としての効能効果を有する医薬品は税制の対象となる⇒Q9 ・支払日が令和4年1月1日以降である場合に対象となる⇒Q29 (2) 対象医薬品の識別方法(Q6) 対象となる医薬品については、「共通識別マーク」が包装上に表示され、レシート(領収書)上にも税制対象医薬品であることが明記される。 〈共通識別マーク〉 (出典) 厚生労働省「セルフメディケーション税制に関するQ&A(令和3年10月7日更新)」6ページ なお、令和3年度税制改正により対象となる医薬品が見直されたことにより、令和4年1月1日以降の一定期間は、「共通識別マーク」の印字切替が行われる。よって、税制の利用に際しては、レシートの表示を確認することが必要となる。   【3】 提出書類の見直し(Q11、Q13、Q21~Q24) 本制度の適用を受けるには、確定申告書に「セルフメディケーション税制の明細書」を添付することとされている。 なお、令和3年分の確定申告書を令和4年1月1日以後に提出する場合には、「一定の取組」を行ったことを明らかにする書類の添付は不要となっている。ただし、税務署長は、確定申告期限等から5年間、取組を明らかにする書類の提示又は提出を求めることができるとされているので、当該書類を保管しておく必要がある。 Q21からQ24では、税務署から「一定の取組」を行ったことを明らかにする書類の提出や提示を求められたときの対応(どのような書類を準備するか等)について詳細に示されている。 (了)

#No. 442(掲載号)
#篠藤 敦子
2021/10/29

《速報解説》 国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~

《速報解説》 国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表 ~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~   公認会計士・税理士 霞 晴久   国税庁は、2021年10月25日、同HP『お知らせ』において、「最高裁判所令和3年3月11日判決を踏まえた利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当の取扱いについて」を公表した。 このお知らせ(以下「本件お知らせ」という)は、最高裁判所令和3年3月11日判決(以下「本件最判」という)において、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(以下「混合配当」という)が行われた場合における「株式又は出資に対応する部分の金額」の計算方法の規定について、一定の限度において、違法なものとして無効である旨判示されたことを契機とするものである。 本件は、内国法人であるX(連結親会社)が、外国子会社(米国デラウエア州法に基づき設立されたLLC)から、それぞれの決議を別にする混合配当を受け、同配当のうち資本剰余金部分については法人税法(平成27年法律第9号による改正前のもの。以下、「法」という)24条1項3号(注:現行法24条1項4号)の資本の払戻しの一形態である「剰余金の配当(資本剰余金の額の減少に伴うものに限る。)」に、利益剰余金部分については法23条1項1号にいう「剰余金の配当(・・・資本剰余金の額の減少に伴うもの・・・を除く。)」に該当することを前提に連結事業年度の連結確定申告をしたところ、所轄税務署長から、これらの剰余金の配当は、それぞれの効力発生日が同じ日であることなどから、その全額が法24条1項3号の資本の払戻しに該当するとして法人税の更正処分を受けたため、当該更正処分の一部の取消しを求めた事案である。 本件最判では、次のような判断が示された。 今後は、本件最判に従い、現行の法施行令23条1項4号及び同様の規定である所得税法施行令61条2項4号について、混合配当があった場合に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限として取り扱うこととされた。 本件お知らせでは、上記取扱いが今後どのように法施行令の改正の文言に反映されていくかについては具体的に示されていないが、改正施行令の施行を待たず、過去に遡って上記取扱いが適用されるものとして一般に告知されたものと解される。したがって、本件お知らせでは、上記取扱いにより直前払戻等対応資本金額等の再計算を行った結果、過去に行った申告内容等に異動が生じ、納付税額等が過大となる株主等納税者は、国税通則法の規定に基づき所轄の税務署に更正の請求を行うことができる(※)としている。 (※) ただし、本件お知らせでは、法定申告期限等から5年を経過している法人税又は所得税については、減額更正を行うことはできない(国税通則法23条1項本文)として注意喚起している。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 442(掲載号)
#霞 晴久
2021/10/28

プロフェッションジャーナル No.442が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年10月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.442を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/10/28

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第7回】「税法の文理解釈における「一般人の理解」の意義と限界」-レーシングカー「普通乗用自動車」事件・最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第7回】 「税法の文理解釈における「一般人の理解」の意義と限界」 -レーシングカー「普通乗用自動車」事件・最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁-   大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 税法の解釈について、租税法律主義の下では、文理解釈が原則であることはこれまでにも述べてきたが(第4回Ⅰ、第6回Ⅲ1参照)、今回は、レーシングカー「普通乗用自動車」事件・最判平成9年11月11日訟月45巻2号421頁(以下「本判決」という)を素材にして、文理解釈の意義と限界を検討することにする。 その前に、税法における文理解釈の原則について、もう一度確認しておこう(①は清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)35頁、②は金子宏『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)123頁)。   Ⅱ 文理解釈における「一般人の理解」の重要性 文理解釈の意義について、その理解・表現には論者によって異なるところもあるが、それは「法令の文章や用語を通常の意味に理解すること、あるいは字義どおりに解釈すること」(金子宏「租税法解釈論序説―若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈のあり方」同ほか編『租税法と市場』(有斐閣・2014年)3頁)であると定義することに特に異論はなかろう。そして、ここで「通常の意味」とは、「法規の文字・用語は、言語慣用に従って、普通の常識的な意味に解するのが原則である」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)467頁)といわれる場合の「普通の常識的な意味」をいうことについても同様に特に異論はなかろう。 ただ、以上においていわれる「通常の」ないし「普通の」をどのように捉えるかについては、裁判官によっても判断が分かれることがある。その例として、ここでは本判決を取り上げることにする。本判決はレーシングカー(いわゆるフォーミュラータイプに属する競走用自動車)の「普通乗用自動車」(物品税法(昭和63年法律第108号により廃止)別表課税物品表第二種の物品七号2)該当性について次のとおり判示した(下線筆者)。 これに対して、尾崎行信裁判官の反対意見は次のとおり説示した(元原利文裁判官同調。下線筆者) このように、「普通乗用自動車」の意義について、多数意見は「人の移動という乗用目的のために使用されるもの」と定義し、反対意見は「一般人の理解」に従い「人間を運搬することから得られる効用を主目的とするもの」と定義している。両者の定義をみると、多数意見の定義は「一般人の理解」からすると、特に「普通」という文言に関して「非常識」なものであると考えられる(本件第一審・京都地判平成5年1月29日シュト377号18頁がその「普通」について示した「特殊な自動車でないとの意味をもつ」との解釈は妥当である)。この点について、金子宏教授は次のように述べておられる(同・前掲論文9頁。下線筆者。なお、佐藤英明「最高裁判例に見る租税法規の解釈方法」山本敬三=中川丈久編『法解釈の方法論-その諸相と展望』(有斐閣・2021年)341頁、347頁も多数意見の解釈を「背後に課税の必要性の判断を控えた拡張解釈」とみている)。 そもそも、税法の解釈においても、法解釈一般におけると同様、まずは、法規の法文及び文言を重視しなければならない。しかもそれが日本語という自然言語で書かれている以上、その「通常の意味」ないし「普通の常識的な意味」を「一般人の理解」に従って解明しなければならない。そうすることで、税法の規定の意味内容について、広く納税者の間に共通の理解が成立し、しかも解釈の「客観化」や予測可能性・法的安定性の保障にも資することになろう。このことは、民主主義国家、特に申告納税制度、における税法の解釈のあり方として、望ましいことである(以上について拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【44】参照)。   Ⅲ 文理解釈の「適正化」 Ⅰで引用した2つの文献からも明らかなように、税法の解釈において、文理解釈こそが租税法律主義の下での厳格な解釈の要請に最もよく適合することに異論はなかろう。もっとも、このことは、文理解釈が著しく不当・不合理な結果をもたらすものでない場合、換言すれば、当該租税法規が「租税立法の質」の観点からみて特段問題のない場合を前提にして、いえることである(前掲拙著【44】参照)。 ここで「租税立法の質」に関して「質の良い租税立法」とは、規定の趣旨・目的が妥当・合理的であり、かつ、これと当該規定の文言との間にズレ・乖離がない租税立法のことをいうのであるが、そうでない「質の悪い」租税法規についていくら文理解釈を「一般人の理解」に従って行ってもその結果が不当・不合理なものになるのは当然ではないか、文理解釈が租税法律主義の下での厳格な解釈の要請に適合するといえるためには「租税立法の質」の改善が必要ではないか、と以前から考えてきたところである。 この間そのような問題意識に基づき文理解釈の「適正化」について研究を行い、その成果を論文にまとめた(拙稿「租税法律主義と司法的救済保障原則-裁判官による文理解釈の『適正化』のための法創造根拠理由の研究-」税法学586号(日本税法学会創立70周年記念号・本年11月末発行予定)所収)。この論文の副題にいう「根拠理由」という表現は同義語反覆的であるように思われるかもしれないが、この論文では、「根拠」と「理由」のニュアンスの違いを踏まえ「法創造根拠理由」という場合これを、法創造の拠りどころとなる法の原理・原則、特別の事情等の個別的救済理由の総称として用いることにした。ここでは、この論文の概要を示すために目次を以下に掲げておく。 この論文の内容とりわけ結論は、前掲拙著(今月刊行)の改訂(第7版)において同【44】に採り入れた。その際、文理解釈の「適正化」を以下のとおり2つの場合に分けて述べた。少し長くなるがその部分を以下に引用しておく。   Ⅳ おわりに 今回は、税法の文理解釈における「一般人の理解」の意義と限界について検討した。税法の文理解釈において「一般人の理解」を基準としてこれに従うことは重要であるが、ただ、それだけでは、文理解釈の結果が常に正当かつ合理的なものになるとは限らない。文理解釈の結果が正当かつ合理的なものになるようにするためには、むしろ、その前提として「租税立法の質」の改善を図らなければならないと考えるところである。 「質の悪い」租税法規をいくら文理解釈によって「一般人の理解」に従って解釈してもその結果が不当・不合理なものになるのは当然であるが、その結果が課税権者たる国家にとって著しく不当・不合理なものである場合は国家が自ら立法権を行使して当該法規の質の改善を図るべきであるのに対して、その文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合は、納税者としては裁判を受ける権利を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまる以上、裁判官が法創造によってでもその結果を除去し納税者の権利を救済すべきである。そうすることによって、裁判を受ける権利が実質化され実効的に保障されることになろう。 裁判を受ける権利の実質化・実効的保障を実現しようとする司法的救済保障原則は、違法な課税による納税者の権利侵害に対する救済を裁判所に要請するものであるが、この要請は、租税法律主義の目的(恣意的・不当な課税から国民の財産・自由を保護すること。前掲拙著【11】参照)からの帰結であると同時に、法の存立のための最低限の要請あるいは法が法として最低限満たすべき要請という意味での「法の支配」の諸要素のうち、国家機関の活動に対する独立の裁判所によるコントロールの確立という要素の、税法の領域における現れでもある(前掲拙著【27】参照)。 (了)

#No. 442(掲載号)
#谷口 勢津夫
2021/10/28

〈検証〉PGM事件 国税不服審判所裁決

〈検証〉 PGM事件 国税不服審判所裁決    公認会計士・税理士 佐藤 信祐   1 事実の概要 令和2年11月2日にPGM事件に対する国税不服審判所の裁決が下された(現在、東京地裁で係争中)。 PGM事件は、A社が保有する繰越欠損金を完全支配関係があるB社に適格合併(第一次合併)で引き継いだ後に、完全支配関係がなく、支配関係のみがあるC社に適格合併(第二次合併)で引き継いだ事件である(第一次合併と第二次合併は同日に行われている)。A社を被合併法人とし、C社を合併法人とする適格合併を行わなかった理由は、A社に事業がないことから、事業継続要件(法法2十二の八ロ(2))を満たすことができないからである。 上記のほか、本事件では、(1)買収後にA社から新会社に対して分社型分割をした後に株式譲渡をすることにより譲渡損失を実現させ、上記の繰越欠損金が構成されていること、(2)支配関係発生日から5年を経過するまで待ってから合併したこと、(3)合併前に優先株式を取得することにより完全支配関係が成立していること、といった事実関係を踏まえたうえで、A社の繰越欠損金をC社に引き継がせることを目的に行われた租税回避であると認定されている。 上記のような事実関係に対して事業目的が十分に認められるかどうかについては、裁決書だけでは判断しかねるが、多くの税理士が本事件で最も注目しているのは、TPR事件と同様に完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定(法法132の2)が適用される余地があるのかという点であろう。ただし、本稿では、平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例に係る制度趣旨について何ら争われていないという点にも注目したい。原処分庁は二段階組織再編成を行ったことが不自然であると認定しているが、そうであるならば、二段階組織再編成の特例を認めた制度趣旨に反すると主張すべきであるにもかかわらず、そのような主張がなされていない。そうなると、PGMからすれば、正面から堂々と制度趣旨が争われたのではなく、搦手から制度趣旨が争われたともいえる。 本事件で注目されるべきは、①PGMの行った一連の組織再編成に事業目的が認められるかどうか、②完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるのかどうか、③PGMの行った一連の組織再編成が平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するのか否か、の3点である。 このうち、①については、東京地裁判決においてより細かな内容が明らかになると思われる。そして、②については、簿外債務を管理するという「受動的な業務」が組織再編成に関する税制において想定されている「事業」ということができると納税者が主張していることからも、争点になっていないということがいえる。すなわち、東京地裁において納税者が勝訴したとしても、完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるという前提で東京地裁判決が下されるため、税務訴訟で争う場合はともかくとして、保守的に実務を行うという観点からは、完全支配関係内の組織再編成であっても事業単位の移転が必要であるという前提でストラクチャーを構築せざるを得ないということがいえる。 本稿では、上記①~③のうち、③PGMの行った一連の組織再編成が平成15年度税制改正により導入された二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するのか否かについて検討を行うこととする。   2 二段階組織再編成の特例 税制適格要件の判定では、円滑な組織再編成を行えるようにするために、適格合併により解散することが見込まれている場合には、税制適格要件に抵触しないという特例が設けられている(法法2十二の八ロ、法令4の3②二、㉕など)。 PGM事件では、第一次合併における被合併法人及び合併法人の発行済株式の全部が同一の者によって保有されていたが、第一次合併に係る合併法人を被合併法人とする適格合併により解散することにより、第一次合併における完全支配関係継続要件に抵触しないこととなっている。すなわち、第一次合併が完全支配関係のある法人との適格合併であり、第二次合併が支配関係のある法人との適格合併である場合において、二段階組織再編成の特例を認めた制度趣旨に反するのかが問題となる。 同一の者による完全支配関係のある法人間の合併に係る二段階組織再編成における完全支配関係継続要件の特例は、同一の者が適格合併により解散することが見込まれている場合には、第二次合併後も第二次合併に係る合併法人による完全支配関係の継続が要求されているのに対し(法令4の3㉕)、第一次合併に係る合併法人が適格合併により解散することが見込まれている場合には、第二次合併の直前の時まで完全支配関係の継続が要求されるに留まり、第二次合併後の完全支配関係の継続は要求されていない(法令4の3②二)。 PGM事件を租税回避であると認定するのであれば、第二次合併が完全支配関係のある法人との間の適格合併である場合に限定して二段階組織再編成の特例を設けるべきであったということもいえる。これに対し、完全支配関係のある法人との間で組織再編成を行った後に、共同事業を行うための適格合併により解散することが見込まれているような事案に対応するためには、そのような制限を設けるべきではなかったということがいえる。『平成15年版改正税法のすべて』『平成29年版改正税法のすべて』ではそこまで明確に記載されていないが、そのような意図があったとすれば、完全支配関係のある法人との間で組織再編成を行った後に、支配関係のある法人との間の適格合併により解散することも制度上は当然に想定されていたと考えられる。 もちろん、PGMの行った二段階組織再編成では、通常の組織再編成と異なり、事業継続要件が課されない形で、完全支配関係がなく、支配関係のみがあるC社に繰越欠損金が引き継がれてしまっているという問題がある。この点については、「組織再編税制、グループ法人税制及びグループ通算制度の現行法上の問題点と今後の課題」【第1回】で解説したように、完全支配関係内の適格組織再編成だけでなく、支配関係内の適格組織再編成をも認めてしまった弊害であり、立法論の立場としては、両者を統合したうえで、発行済株式等の3分の2以上の適格組織再編成に構築し直すべきであると考えられる。 これに対し、解釈論の立場からすれば、円滑な組織再編成を認めるために二段階組織再編成の特例が設けられたにもかかわらず、二段階組織再編成を行ったことが不自然であるというのは、やや乱暴な理論構成であるようにも思われる。その一方で、二段階組織再編成の特例において、共同事業を行うための適格合併により解散することも認められているのであるから、なおさら支配関係内の適格合併により解散する場合であっても、二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反しないということにもなり、原処分庁としては、二段階組織再編成の特例についての制度趣旨に反するという主張をすることができなかったという背景があったようにも思われる。 そうであるならば、納税者としても、二段階組織再編成の特例を前面に押し出したうえで、一連の組織再編成について不自然なものではなく、法人税法が想定している通常の組織再編成であるという主張もできたようにも思われる。   3 結び 本稿では、PGM事件の国税不服審判所裁決について解説を行った。前述のように、完全支配関係内の合併であっても事業単位の移転がない場合には、包括的租税回避防止規定が適用される余地があるという前提で争われていることから、たとえ納税者が勝訴したとしても、今後の実務においては、完全支配関係内の組織再編成であっても事業単位の移転が必要であるという前提でストラクチャーを構築せざるを得なくなる。もちろん、条文上、事業単位の移転が必要であるという点が明確化されれば、そのような対応もやりやすいのであるが、包括的租税回避防止規定で対応されるとなると、税務専門家としては、どのようなアドバイスをすべきであるかという点が悩ましいところである。 上記の点を含め、現行の組織再編税制には様々な問題があることから、抜本的な組織再編税制の見直しをすべきであると考えられる。 (了) ↓お勧め連載記事↓

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#佐藤 信祐
2021/10/28

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第3回】「持分会社の資本等取引」

組織再編成・資本等取引の税務に関する留意事項 【第3回】 「持分会社の資本等取引」   公認会計士 佐藤 信祐   1 資本金の額の減少 (1) 会社法上の取扱い 合同会社と異なり、合名会社及び合資会社には無限責任社員がいることから、本来であれば、会社法上、資本金の額を定める必要性が乏しい。これは、無限責任社員の存在する合名会社及び合資会社と有限責任社員のみの合同会社を一括して規制したことによるものであると思われる。 そのような理論上の問題点があることから、会社計算規則30条2項に定められている資本金の額が減少する事由は、合同会社とそれ以外の持分会社で大きく異なっている。なお、そもそも持分会社は準備金の額を計上することができないことから、準備金の額の減少に係る規定は存在しない。 〈持分会社の資本金の額の減少事由とその減少額〉 このように、合同会社では、持分の払戻し、出資の払戻し又は損失のてん補に充てる場合において、会社法627条の規定による手続(債権者異議手続)をとったときに限り、資本金の額を減少することが認められている。 これに対し、合名会社及び合資会社では、会社法627条の規定による手続を行わずに資本金の額を減少させることができる。さらに、持分の払戻し、出資の払戻し又は損失のてん補に充てる場合だけでなく、資本剰余金の額を増加させるために資本金の額を減少させる場合であっても、会社法627条の規定による手続が不要とされているのである。 また、合同会社では資本金の額が登記事項とされているのに対し(会社法914五)、合名会社及び合資会社では資本金の額が登記事項とされていない(会社法912、913)。このように、合名会社及び合資会社にとって資本金の額というのは、何の意味もない数字に過ぎないのであるが、合同会社と一括して規制したことにより、資本金の額を定めざるを得なくなったということがいえる。 (2) 税務上の取扱い 資本金の額を減少することにより、剰余金の額を増加させた場合であっても、社員における課税上の影響はない。そして、発行法人でも、資本金等の額及び利益積立金額が変動しないことから(法令8①十二)、資本金の額を減少させることにより中小法人に該当させることができるといった影響はあり得るものの、原則として、法人税の課税所得の計算への影響はない。 そして、資本金の額を減少させ、欠損填補を行ったとしても、資本金等の額が変動しないことから、原則として、住民税均等割及び事業税資本割を減らすことができない。なお、株式会社の場合には、資本金の額を減少させて、その他資本剰余金の額を増加させてから1年以内にその他利益剰余金のマイナスと相殺することにより欠損填補を行った場合には、住民税均等割及び事業税資本割の計算上、当該欠損填補を行った金額を資本金等の額から控除することが認められている(地法23①四の五イ(3)、72の21①三、地規1の9の6②③、3の16②③)。 ただし、住民税均等割及び事業税資本割の特例は、会社法446条に規定する剰余金に限定されているところ、同条は株式会社の規定であることから、持分会社に対して本特例を適用することはできない(※1)。 (※1) 渡邊泰大「都道府県民税関係-法人住民税」月刊 税72巻12号52頁(ぎょうせい、平成29年)。 2 出資の払戻し又は持分の払戻し (1) 会社法上の取扱い 持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しをする場合には、資本金及び資本剰余金の額を減少させることになる(計規30②一、二、31②一、二)。なお、退社を伴わない払戻しを「出資の払戻し」といい(会社法624)、退社に伴う払戻しを「持分の払戻し」という(会社法611)。 持分会社が資本剰余金の額を減少させる場合には、出資の払戻しに該当することから、資本剰余金の額を原資として配当をするという考え方は採用されていない(※2)。そのため、後述するように、税務上も、その他資本剰余金の配当ではなく、自己株式の取得に準じた処理を行うこととされている。 (※2) 相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』596-597頁(商事法務、平成18年)。 なお、持分の払戻しを行う場合には、払戻財産の帳簿価額のうち払戻しを受けた社員に係る資本金及び資本剰余金の合計額を上回る部分は利益剰余金を減少させることとなるが(計規32②二)、出資の払戻しをする場合には、既に払込み等をした金銭等の払戻しであることから、利益剰余金を減少させることはできない(計規32②但書)(※3)。そのため、出資の払戻しではなく、社員が利益の配当を請求したことに伴って(会社法621)、利益剰余金を減少させることになると思われる。 (※3) 会社法626条2項では、「出資の払戻しのために減少する資本金の額は、第632条第2項に規定する出資払戻額から出資の払戻しをする日における剰余金額を控除して得た額を超えてはならない」と規定されているが、この場合における「剰余金額」とは資本剰余金の額のことをいうため(会社法626④、計規164)、出資払戻額から資本剰余金の額を控除した金額が資本金の減少額になる。ただし、他の社員に帰属していた資本剰余金の額を払戻しに充当し、資本金の額を当該他の社員に振り替えることにより、全体としての資本金の額を減少させないことも可能であると解されている(相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』598頁(商事法務、平成18年))。 株式会社の場合には、出資の払戻し又は持分の払戻しと同様の取引をするためには、資本金又は資本準備金の額を減少させ、その他資本剰余金の額を増加させた後に、自己株式の取得又はその他資本剰余金の配当を行う必要がある。これに対し、持分会社の場合には、その他資本剰余金を増加させることなく、出資の払戻し又は持分の払戻しをすることになる。 株式会社と異なり、持分会社においては、資本金、資本剰余金及び利益剰余金が社員ごとに管理されているということを前提にすると、出資の払戻し及び持分の払戻しについて理解しやすいと思われる。 (2) 税務上の取扱い 持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しを行った場合には、法人税法施行令23条1項6号及び所得税法施行令61条2項6号において、株式会社による自己株式の取得と同様の取扱いがなされることが明らかにされている。 具体的には、法人税法施行令23条1項6号イ及び所得税法施行令61条2項6号イにおいて、「口数の定めがない出資を発行する法人を含む」と規定されていることから、出資の払戻し及び持分の払戻しにおける税務上の取扱いは、二以上の種類の株式を発行していない場合における自己株式の取得と同様の取扱いになることが分かる。そして、同項1号において、出資総額を「発行済株式等」の用語に含め、出資を「株式」の用語に含めていることから、1円に相当する出資金の額を1株に相当する株式として自己株式の取得を行った場合と同様の計算を行うことになる。 なお、非上場株式における相続株主からの自己株式を取得した場合には、みなし配当として取り扱わず、株式の譲渡収入として取り扱うという特例が定められている(措法9の7)。ただし、この特例は、株式会社が自己株式を取得する場合にのみ認められており、持分会社が出資の払戻し又は持分の払戻しをする場合には認められていない(※4)。 (※4) 国税不服審判所裁決平成3年1月23日裁決事例集No.41-246頁参照。   (了)

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