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〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第4回】「DXの推進は内部監査・内部統制の業務にどのような影響をもたらすのか」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第4回】 「DXの推進は内部監査・内部統制の業務に どのような影響をもたらすのか」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 ビジネス界で進むDX 以下は、データとデジタル技術を駆使して新たな価値を見出すDXの好例である。   2 社内で進むDX (1) リアル業務のデジタル化 テレワークが全面的に導入された企業では、対面の打ち合わせは、オンライン会議に変わった。紙媒体の決裁文書、伝票や帳票をはじめとする稟議文書は、全てPDFを使ったデジタルデータに変換され、メールで決裁に回される流れが、今や常態化している。 このような状況では、内部監査と内部統制の業務も同様に変化せざるを得ない。評価や監査の対象となるエビデンスや文書は、リアルから映像かPDFに変換され、精査されることとなる。これまで行ってきたリアルの業務をデジタル化する動きは、コロナ禍で本格化し、より一層進んでいる。 (2) 日常業務に見るDX リアルの業務情報をデジタル情報に転換するに留まらず、紙媒体の帳票や証憑による情報を、初めからシステムに入力し、加工、処理する段階をデジタルで行う、これが新たに社内で進むDXである。 例えば、紙媒体の請求書を手作業で作成して承認、押印したものをPDFに加工することが、これまで行われていたデジタル化である。 これに対し、DX化の典型例は以下の通りである。システムに登録された顧客リストによって請求書が自動作成され、顧客のアドレスに電子データとして自動送信される。また社内の稟議は、決裁システム上で担当者が作成し、手続上の権限者はシステム上で承認した後、最終的に決裁履歴はデータで保管される。業務に関する情報は、稟議書など手に取れる書類ではなく、全て電子情報としてシステムに落とし込まれる。そのため上席による決裁を求めてわざわざ出社する必要はなくなる。 クラウドサービスを上手く活用した、こうした試みがさかんに行われている。 (3) DXを後押しする法改正 デジタル化には取り組んでいても、システムの業務基盤が十分でない、IT投資に過度の負担感があるなどの理由から、日常業務のDXにまで手が回らない会社もあり、取組みの程度にはばらつきがある。 しかし、昨今の電子帳簿保存法の改正のように、リアル情報を単に電子化するだけでなく、国が主体となってDXの趨勢を取り入れる動きも目立つ。 【電子帳簿保存法の改正】 令和3年度の税制改正により、紙媒体による保存が義務づけられていた国税関係帳簿が、電磁的記録で保存できるようになった。改正前は、電磁的記録により保存するためには事前に税務署長の承認を得る必要があったが、改正により不要となった。 電磁的記録による保存方式は、主に以下の3種類に区分できる。   3 内部監査や内部統制の変化 日常業務のDX化により、従来の内部監査や内部統制の姿は大きく変化する。内部監査や内部統制の主役は、紙媒体の伝票や証憑等の情報から、システムに保管される電子データに取って代わるだろう。 (1) 情報リテラシーと情報セキュリティ 内部監査や内部統制を円滑に進めるために、情報リテラシーは必須である。リアルの伝票や証憑を使う評価や監査の時代は、今や去りつつある。システムの構成を理解し、どこにいかなる電子情報があり、評価や監査の対象としてどう解釈するか、ITに関わる専門的な知識が試される。 更に、社内の電子データのセキュリティは企業のアキレス腱となる。不当なアプローチやウイルス感染等による改ざん、漏えいに対しても十分な情報防衛が必要である。 (2) 監査アプローチの変化 コロナ禍で常態化したオンライン監査では、時間に制約がある。そのため、監査前のデータ分析により、あらかじめ異常値を探って監査ポイントを絞り込むアプローチが求められている。 DX化が進めば、こうした傾向は一層色濃くなる。データ分析専用ソフトを使う会社がある一方で、エクセル機能をフル活用して分析を試みる会社も目立つ。いまや監査部門では、監査に着手するメンバーを支援するために、データ支援部門を置くところが多くなっている。データ管理の徹底が進めば、サンプル抽出に基づく試査ではなく、全件を対象とした監査が実施できるようになる。 (3) 内部統制評価・監査の変化 DXの浸透によって、内部統制評価・監査のアプローチが変わる。プロセスの焦点となるキーコントロールを再検討したり、評価や監査の対象である帳票や証憑のサンプル数も劇的に変わったりする可能性がある。 ① ビジネスプロセスの焦点が変わる 売上プロセスを例にとると、システムに売上を入力する行為や紙媒体の請求書を承認する行為が、収益認識の大切なポイントであり、キーコントロールである。しかし、DXが進むと、収益認識の大切なポイントが変わることが想定される。 例えば、納品の完了と同時に、システム上の顧客リストに従い請求書が自動生成され、顧客にデータが転送されるようになると、正確な収益認識のための大切なポイントは異なってくる。つまり、売上計上や紙媒体の請求書の承認に代わり、顧客リストの正確な作成や納品の完了を誤りなくシステムに入力する行為こそが、収益認識上とても重要になり、キーコントロールになるはずである。こうしてプロセスの焦点が移り変わることになる。 ② 評価・監査に必要なサンプル数が変わる IT全般統制でシステムの有効性さえきちんと評価できれば、自動化統制を評価・監査する時に求められるサンプル数は1件である。DXが進めば、自動化による統制を行う場面がますます増え、評価や監査も効率化できると考えられる。 他方でデータの管理の仕方によっては、容易に全件を評価することも可能になる。例えば、顧客からの注文書を承認するのではなく、システムを使って権限者が承認入力するというキーコントロールがある場合、管理対象は紙媒体による注文書ではなくデータなので、膨大な注文書からサンプルを抽出する試査でなく、システム上の全件データを対象に検証することができる。 (了)

#No. 471(掲載号)
#打田 昌行
2022/05/26

不動産の電子契約化に関する改正ポイント 【第1回】「不動産業界における電子化の現況と改正の概要」

不動産の電子契約化に関する改正ポイント 【第1回】 「不動産業界における電子化の現況と改正の概要」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 司法書士 奥村 圭祐    1 はじめに 令和3年5月12日、社会のデジタル化を促進するために関連する法律の改正を行う「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(以下「デジタル改革法」という)が成立し、同月19日に公布された。デジタル改革法では、個人情報の取扱いルールの整備や、マイナンバーを活用した行政手続の効率化、各種の手続において電子化を進めるための押印・書面交付義務の廃止などを改正の内容としている。 原則的な施行日は令和3年9月1日とされているが、不動産契約等の電子化を可能とする宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)及び借地借家法の改正に関する部分は令和4年5月18日に施行された。本改正は不動産会社や不動産オーナーに与える影響も大きく、顧問を務める税理士・公認会計士としても、内容を把握しておく必要があるだろう。 本稿は、デジタル改革法による宅建業法及び借地借家法の改正を中心に、税理士等が知っておくべきポイントについて、できるだけ簡潔に解説を試みるものである。 2 不動産業界における電子化の取組み 不動産業界では、トラブルを防止する趣旨から、宅建業法等により重要事項説明書や売買契約書などの書面の作成や押印が義務付けられてきた。こうした厳格な取組みが不動産業界の健全性の向上と、取引の安全に寄与してきたことは確かであるといえる。一方、不動産取引の現場では、生活にITの活用が浸透していくなかで、変化に対応していくため、書面や押印を前提とした規律を見直すべきではないかという機運が高まっていた。 例えば、東京在住の会社員が大阪に転勤になり、大阪の賃貸物件を探す場合、インターネットを利用して探すことが大半だと思われる。こうした場合に、関連する手続をインターネット上で完結できれば、顧客の利便性が格段に向上することになる。このような時代の変化を背景に、不動産業界では様々な取組みを進めてきた。   3 IT重説の導入 不動産会社などの宅建業を営む者は、不動産の売買や賃貸の媒介等を行うに際して、重要事項説明書を交付して説明を行う必要があるとされている(宅建業法第35条)。重要事項の説明は、対面によることが原則とされていた。 そこで、不動産業界ではまず対面原則を見直し、オンライン上での重要事項の説明(IT重説)を可能とするために、平成27年から社会実験を実施してきた。賃貸取引に関するIT重説については平成29年10月から、売買取引に関するIT重説については令和3年3月から本格運用されている。 IT重説はあくまで重要事項の「説明」をオンライン上で可能とするものであり、別途書面として「重要事項説明書」を作成し、顧客に交付する必要があった。オンラインによる不動産の取引を促進させるためには、こうした書面の交付や押印義務を見直す必要があり、今回の改正で、不動産取引のオンライン化が促進されることとなった。   4 デジタル改革法による改正点 デジタル改革法による主な改正点について、宅建業法に関するものと借地借家法に関するものに分けてまとめると、次の通りである。 【宅建業法の主な改正点】 (※1) 実務上、売買契約書や賃貸借契約書に宅建業法第37条で求められる情報を記載している。 (※2) 書面による場合でも押印は不要。 (※3) 書面により媒介契約書を作成した場合には、記名押印は必要となる。 重要事項説明書などを電磁的方法によって作成し提供する場合には、交付を受ける相手方の承諾が必要である。具体的な提供方法や承諾を得る方法については、電子メールやウェブページ上でのやりとりによるなど、国土交通省「重要事項説明書等の電磁的方法による提供及びITを活用した重要事項説明実施マニュアル」において詳細が示されている。 【借地借家法の主な改正点】 借地借家法の改正は、一般の不動産オーナーにも直接影響が及ぶ改正である。一般定期借地契約など、書面によることが必要とされてきた契約が、電子契約サービスなどの電磁的方法により行うことが可能となった。電磁的方法によることで契約書に貼付していた印紙代の節約にもつながるため、負担が大きい不動産オーナーから相談が寄せられることも考えられる。 定期建物賃貸借契約に際して求められる事前説明書の交付については、宅建業法の各書面と同様に事前の承諾を得て、電磁的方法により提供することができる。 なお、事業用定期借地権(借地借家法第23条)の契約については、今回の改正の対象ではないため、従来通り「公正証書」により作成する必要がある。 次回は不動産契約の電子化を進めていくためのポイント等について解説を行う。 (了)

#No. 471(掲載号)
#北詰 健太郎、奥村 圭祐
2022/05/26

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第6回】「新設された所有不動産記録証明制度の概要と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第6回】 「新設された所有不動産記録証明制度の概要と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 新たに創設された「所有不動産記録証明制度」について教えてください。 【A】 相続登記の漏れを防止する観点から、被相続人が所有権の登記名義人となっている不動産を相続人が一覧的に確認することができる所有不動産記録証明制度が創設された。 -《解説》- 1 所有不動産記録証明制度の概要 所有者不明土地の「発生の予防」のためには、相続登記申請の手続き負担を軽減する必要がある。この軽減のためにはそもそも自身(又は自身の被相続人)が所有している不動産を正確に把握する仕組みが求められる。そこで、所有不動産の情報を把握しやすくすることで、相続登記の漏れを防止し、相続登記の申請義務の実効性を確保するために、「所有不動産記録証明制度」が創設されることとなった(不動産登記法第119条の2)。 具体的な内容は以下のとおりである。 〈改正前後でどう変わるか〉   2 制度創設後の不動産の把握漏れ防止のための名寄帳取得の意義 相続税の申告実務に携わる税理士は、相続対象の不動産の把握漏れを防ぐために名寄帳を取得することが多いと思われる。今回の所有不動産記録証明制度の創設により名寄帳取得の意義は薄れるのだろうか。 結論としては、名寄帳を取得する意義は当分薄れないだろう。しばらくの間、名寄帳と所有不動産記録証明制度を共に取得することをお勧めする。 なぜなら、本稿公開時点では、所有不動産記録証明制度の対象に、表題部所有者が含まれず、将来の課題とされているからである。そもそも、自己資金のみで建築した建物は、表題部=表示に関する登記のみで、権利部=権利に関する登記まではなされていないことが多い。そうはいっても、表題部のみの建物も財産的価値を持ち、当然ながら相続の対象となる。この表題部のみの建物は所有不動産記録証明制度の対象に本稿公開時点では含まれていないのである。そのため、表題部のみの建物が相続財産から漏れないようにするには、依然として名寄帳の取得が必要となる。 また、登記簿に記録されている所有権の登記名義人の氏名又は名称及び住所の更新がされていない場合、検索結果として抽出されず所有不動産記録証明制度から漏れてしまう。このように所有不動産記録証明制度の網羅性に関しては技術的な限界がある。この観点からも、不動産の把握漏れを防ぐために名寄帳取得の意義は存在する。 〈表題部のみの登記事項証明書の例〉 (※) 平成28年6月8日付法務省民二第386号「不動産登記記録例の改正について(通達)」より抜粋。 (了)

#No. 471(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/05/26

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例71】株式会社吉野家ホールディングス 「当社役員の解任に関するお知らせ」 (2022.4.19)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例71】 株式会社吉野家ホールディングス 「当社役員の解任に関するお知らせ」 (2022.4.19)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社吉野家ホールディングス(以下「吉野家ホールディングス」という)が2022年4月19日に開示した「当社役員の解任に関するお知らせ」である。取締役会において同社執行役員および子会社である株式会社吉野家常務取締役の伊東正明氏の取締役解任を決議したという内容だ。 解任の理由は、「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することの出来ない職務上著しく不適任な言動があったため」とされている。新聞などの報道によると(2022年4月19日付日本経済新聞など)外部の社会人向け講座で女性蔑視の発言をしたとのことである(恥ずかしながら、筆者は「生娘」という言葉を知らなかった。おそらく学校では習わなかったと思うし、使用する場面に遭遇したこともない)。 なお、「吉野家が取締役を解任」という報道を目にした際「取締役の解任は株主総会で行うので、実際は辞任してもらったのかな?」と思ったのだが、伊東氏は、吉野家ホールディングスではなく、同社の完全子会社である株式会社吉野家の取締役であった。   2 今後の対応 吉野家ホールディングスは、今回の開示と同時に「役員報酬の減額に関するお知らせ」も開示している。「当社および当社子会社元役員の職務上著しく不適任な言動によってステークホルダーの皆様に多大なるご迷惑をおかけしたことを重く受けとめ」、2022年の4月から6月までの3ヶ月間、代表取締役社長の固定報酬を30%減額するとしている。 また、今回の開示には、今後の対応について次のように記載されている。 「コンプライアンス研修」とは、どのような内容なのだろうか。「不適切な発言をしないように気を付けましょう」といった研修なのだろうか。発言に気を付けることも必要だとは思うが、果たしてそれだけでよいのだろうか。また、そうした研修を行うとしても、「当社及び当社グループ役員」に対してだけでよいのだろうか。   3 発言の背景 吉野家ホールディングスの役員構成は、取締役が5名、監査役が4名だが、そのうち女性は社外取締役の明石伸子氏1名のみである。社内出身の女性役員はゼロなので、おそらく同社には女性の管理職も少ないように思われる。 今回役員を解任された方の不適切な発言は、本人の個人的な資質によるものかもしれない。しかし、同社の現状(おそらく女性が活躍できていない状況)を見ると、もしかするとそうした不適切な発言が許容される雰囲気があったのではないかと思われてしまう。 なお、同社の有価証券報告書には、ただ1人の女性役員である明石氏について、「男女共同参画等の女性活躍推進を中心とした企業経営環境に関する深い見識を有しております」と記載されている(第64期有価証券報告書)。同氏は2019年5月に取締役に就任しているが、その「深い見識」は同社の経営に未だ活かされていないようである。   4 意識を変えるには 意識が変わらない限り、非公式な場では不適切な発言が繰り返されるだろう。ネット上にも、匿名で投稿された酷い表現があふれている。そのような環境に慣れてしまっていると、いくら発言に気を付けたとしても、ふとした拍子に不適切な表現が出てしまうだろう。 意識を変えるのは難しいが、意識が変わるように環境を変える努力は必要なはずである。吉野家ホールディングスは、今回の件への対応として、「コンプライアンス研修」を実施するだけでなく、もっと女性が活躍できる環境を整備するよう努める必要があるのではないだろうか。今後、そのための施策を考え、具体的な内容について開示した方がよいのではないだろうか。今回の開示では、「コンプライアンス研修」の内容すら分からない。 なお、2022年5月7日付の日本経済新聞に「資生堂、首位返り咲き 日経ウーマン『女性が活躍する会社』、上位管理職の層厚く」という記事があった。記事によると、「女性が活躍する会社」のランキングで資生堂が1位になったのだが、同社の女性管理職比率は2022年1月時点で37.3%だという。資生堂でさえ、管理職のうち女性は未だ3分の1に過ぎないというのは驚きである。 (了)

#No. 471(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/05/26

プラス思考の経済効果 【第3回】「新型コロナウイルス感染症の流行による旅行・観光業界への影響」

プラス思考の経済効果 【第3回】 「新型コロナウイルス感染症の流行による旅行・観光業界への影響」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 新型コロナウイルス感染症の流行による日本経済への影響 新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という)の流行により、2020年、2021年の日本経済は大きな打撃を受けました。特に、旅行・観光業界、飲食業界、百貨店業界、アパレル業界などは売上や利益の大幅な減少に直面しました。 今回は、大きな打撃を受けた旅行・観光業界について「ゴールデンウィークの経済効果」を中心にして、2019年から時系列的に分析してみましょう。   2 旅行・観光業界の規模 日本における旅行・観光業界の規模はかなり大きいといえます。観光庁の「旅行・観光消費動向調査」(2020年4月)によると、新型コロナ流行以前の2019年の日本の旅行消費額は、国内及び海外に旅行する日本人旅行者と訪日外国人を合わせて約27兆9,000億円で、このうち日本人の国内旅行での消費額は、宿泊、日帰りを含めて約21兆9,312億円でした。 ところが、新型コロナの流行により売上や利益が激減しました。海外からの訪日はビジネスや留学を目的とする場合に若干認められたものの、観光客はほぼ全滅の状態でした。そこで、本稿では国内旅行に限定して経済効果について分析することにします。 観光庁の「旅行・観光消費動向調査」によると、2019年以後の日本の国内旅行消費額は【第1表】の通りです。 【第1表】 国内旅行消費額 出所:観光庁「旅行・観光消費動向調査」 新型コロナ流行以後の国内旅行の消費額は、新型コロナ流行以前の半分にも満たないことがわかります。 他の産業に目を転じてみると、日本のスーパーとコンビニエンスストアの売上高は【第2表】のようになっています。 【第2表】 スーパーとコンビニの売上高 出所:日本チェーンストア協会「チェーンストア販売統計」(スーパーの売上高) 日本フランチャイズチェーン協会「コンビニエンスストア統計データ」(コンビニの売上高) 【第1表】と【第2表】を比べると、新型コロナ流行以前の2019年において、国内旅行の消費額は、スーパーとコンビニの売上高の合計額に匹敵していました。しかし、2021年にはスーパーとコンビニの売上高の合計額の38%でしかありません。つまり、国内旅行の消費額の落ち込みは非常に大きいといえます。   3 ゴールデンウィークの経済効果 毎年4月末から5月上旬にかけての「ゴールデンウィーク」は、日本の旅行観光業界にとっては文字通りの「ゴールデンウィーク」、稼ぎ時でした。この原稿を書いている時点は2022年のゴールデンウィーク前ですが、株式会社JTBから「2022年ゴールデンウィーク(4月25日~5月5日)の旅行動向」が発表されましたので、その値に基づいて今年の経済効果を推計し、新型コロナ流行前と比べてどの程度の水準になるかを予想してみましょう。 2020年、2021年のゴールデンウィークは、新型コロナによる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の影響で、日本国内の旅行・観光業界は大打撃を被ってきました。しかし、今年のゴールデンウィークはそれらの規制も解かれて、多くの人々は巣ごもり生活に飽きて観光・旅行に出かけるだろうと、旅行・観光業界は期待しています。 国内旅行が一番多いのはお盆休みや学校が約40日休みとなる夏休みの7~8月の2ヶ月ですが、たった10日間ほどのゴールデンウィークの国内旅行の集中度はその密度において夏休みを上回っているといえます。 国内旅行に関する2019年から2021年までの実績値と2022年の予測値を【第3表】に示しています。この計算は、株式会社JTBが毎年発表するゴールデンウィークの旅行動向に基づいています。 【第3表】 2019年から2022年のゴールデンウィークの経済効果 2022年のゴールデンウィークの国内旅行の経済効果は約1兆1,923億円となり、昨年の約1.8倍で、久しぶりに1兆円の大台を超えることになります。しかし、ピークであった2019年の1兆8,618億円と比べると約64%でしかありません。 【第3表】の最下段の欄は2019年の経済効果の値を100%とした時の毎年の経済効果の値の比率です。【第3表】を見ると、新型コロナ流行後は2019年と比べて旅行者数が激減しているだけでなく、旅行単価(平均費用)も低下していることがわかります。つまり、新型コロナの流行により人々の旅行・観光への関心、興味が減少したと考えられます。 *  *  * 旅行・観光業界はこれからの日本経済を支える重要な産業の1つです。小売業界のスーパーやコンビニが新型コロナの流行を乗り越えて売上高を増やしている一方、旅行・観光業界は元の水準に戻っておらず、今年も新型コロナ流行前の半分を超える程度の経済効果しかないのです。 今後は旅行・観光業界が新型コロナの流行を乗り越えて益々発展し、日本経済の成長を支える大きな柱となっていくことを期待したいものです。 (了)

#No. 471(掲載号)
#宮本 勝浩
2022/05/26

《速報解説》 国税庁、「申告書等情報取得サービス」の提供を開始~書面提出の場合もe-Tax通じ個人の申告書等データが取得可能に~

《速報解説》 国税庁、「申告書等情報取得サービス」の提供を開始 ~書面提出の場合もe-Tax通じ個人の申告書等データが取得可能に~   Profession Journal編集部   国税庁は、税務行政のデジタル・トランスフォーメーション推進の一環として、令和4年5月23日付で新たに「申告書等情報取得サービス」を開始したことをアナウンスした。 「申告書等情報取得サービス」とは、書面によって所得税の確定申告書等を提出している場合でもPC・スマートフォンからe-Taxソフト(Web版・SP版)を介して、次の申告書等のうち、直近3年分(令和2年分以降)を対象として、PDFファイルを無料で取得(※)及び閲覧できるサービス。 (※) 取得したPDFファイルのダウンロード・印刷も可能。 本サービスの開始により、納税者は自身の申告事績をより簡便に確認することが可能となる。 なお、本サービスの利用に当たっては、マイナンバーカードが必要となるほか、次のような注意点もアナウンスされている。 【「申告書等情報取得サービス」の一連の流れ】 (出所) e-Taxホームページ「申告書等情報取得サービス」 また、本サービス利用に当たっての詳しい操作方法等についてはe-Taxホームページ上の「申告書等情報取得サービス」から確認が可能。次のとおりQ&Aも示されているため、利用に当たっての参考とされたい。 (出所) e-Taxホームページ「申告書等情報取得サービスについてよくある質問」(令和4年5月24日時点) (了)

#No. 470(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/05/24

《速報解説》 非財務情報開示の国際的なニーズの高まりを受け、「我が国におけるサステナビリティ及びその他EERに対する保証業務に関するガイダンス(試案)」の公開草案をJICPAが公開

《速報解説》 非財務情報開示の国際的なニーズの高まりを受け、 「我が国におけるサステナビリティ及びその他EERに対する 保証業務に関するガイダンス(試案)」の公開草案をJICPAが公開   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年5月23日、日本公認会計士協会は、「「我が国におけるサステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務に関するガイダンス(試案)」について」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 近年、統合報告書の開示や気候変動への取組を契機としたESG(Environment Social Governance)投資の促進によって、非財務情報への注目度が高まる中、拡張された外部報告(Extended External Reporting:EER)やEER報告書のニーズが高まっており、併せてEER保証業務に関するニーズについても同様に高まっている。 このような非財務情報の開示に対する最近の国際的な動向を受け、わが国において、サステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務に関して、研究資料(公開草案)として公表するものである。 ただし、更なる検討課題が識別されていることもあり、研究資料として公表することが有益かどうかも含めて、意見募集している。 意見募集期間は2022年6月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 「《別紙》「我が国におけるサステナビリティ及びその他の拡張された外部報告(EER)に対する保証業務に関するガイダンス(試案)」」の主な内容は次のとおりである。 目次を含めて136ページあるので、以下では主なものについて解説する。 1 EERの性質など EERの性質などに関して、次のことが記載されている(6項~13項)。 2 適切な適性及び能力の適用 より範囲が広い、又はより複雑なEER保証業務の場合もしくは主題の測定又は評価に専門技能が必要な場合において、業務実施者は、適切な保証業務に関する適性及び1名以上の業務実施者の利用する専門家で構成される複合的なチームによる業務実施が必要と判断する場合がある(30項)。 例えば、次のケースが考えられる(31項)。 3 職業的専門家としての懐疑心及び判断の行使 不正又は誤謬によるものかを問わず、以下に起因して重要な虚偽表示リスクが高まるため、想定利用者の利益のための職業的専門家としての懐疑心の重要性が高まる(57項)。 4 前提条件の決定及びEER保証業務の範囲についての合意 依頼されたEER保証業務に係る、保証業務実務指針3000「監査及びレビュー業務以外の保証業務に関する実務指針」(以下「保証実3000」という)21項から30項までの保証業務契約の新規の締結及び更新に関する要求事項の適用についてのガイダンスを提供している(67項)。 役割・責任の適切性(適切な当事者の負うべき役割と責任が適切である)、規準の適合性(規準が業務の状況に照らして適合している)などについて記載している。 EER報告書に含まれる情報のうち、保証が容易な部分又は企業を好ましくみせる部分のみを選択することは、一般的に適切ではない(94項)。 5 報告事項を識別するための企業内プロセスの考慮 EER 保証業務に関して、以下の場合がある(126項)。 上記のような状況では、企業は通常、想定利用者の情報ニーズを考慮に入れて、報告事項を識別するためのプロセスを確立する必要がある(127項、135項)。 6 規準の適合性及び利用可能性の決定 制度として確立された規準には、想定利用者の情報ニーズに関連する場合、透明性のある正当な手続を通じて権限のある又は認められた専門家団体によって公表された規準が含まれる(170項)。 財務報告の基準は通常、制度として確立された規準であり、それらに組み込まれている認識、測定、表示及び開示の基準は、企業が適用する会計方針の基礎である(170項)。 財務報告の基準と比較して、EERフレームワークは、多くの場合、以下についての指示が少ない。 必要となる詳細さを欠いている、又はそれ自体で適合する規準を構成するには十分に包括的でないEERフレームワークを適用する場合、企業は、他の利用可能な1つ以上のEERフレームワークから規準を選択するか、又は独自に企業が開発した規準を使用することもできる(172項)。 7 主題情報の作成に利用されたプロセス又は主題情報の作成に係る内部統制の考慮 主題情報の作成に利用されたプロセスを考慮する際又は業務に関連する主題情報の作成に係る内部統制を理解する際のガイダンスを提供している(222項)。 EER情報の管理及び報告に関する企業のガバナンスの仕組は、財務実績の管理及び報告に関するガバナンスの仕組ほどには確立していないか、又は業務の中に組み込まれていない可能性がある(232項)。 極めて精緻なプロセス又は充実した内部統制システムを備えていることが、保証業務の前提条件というわけではないが、企業のEER情報作成プロセスは、主題情報に関する合理的な基礎を企業に提供できる程度に十分なものでなければならない(239項)。 8 アサーションの利用 保証実3000はアサーションを利用することを求めてはいないが、アサーションは、業務実施者が、発生し得る虚偽表示の潜在的な種類を考慮し得る方法の1つである(251項)。 アサーションは、明示的か否かにかかわらず、主題情報に体現される形で企業により表明されるものであり、業務実施者が発生し得る様々な潜在的な虚偽表示の種類を考慮する際に利用する(253項)。 ここでは、業務実施者が以下の事項を目的としてアサーションをどのように利用できるかに関するガイダンスを提供している(250項)。 9 証拠の入手 限定的保証業務と合理的保証業務のいずれにおいても、業務実施者はリスクを考慮して全体として十分な心証の程度を備えた証拠を入手することを目指す(270項)。 次のことに注意する(270項)。 10 虚偽表示の重要性の考慮 EER保証業務の実施中に、業務実施者がEER情報内に虚偽表示を識別した場合、業務実施者はその虚偽表示が重要かどうかの判断を下す必要がある(294項)。 EER保証業務の範囲が、いくつかの指標又はKPIであり、それぞれが異なる主題に関連している場合、業務実施者は、(1)異なる指標ごとに、虚偽表示に対する想定利用者の許容度も異なる可能性があり、(2)虚偽表示を集計する共通の基礎がない可能性があるため、異なる指標(主題情報の側面)ごとに個別に虚偽表示の重要性を評価することがある(308項)。 11 定性的EER情報への対応 EERフレームワーク及び規準には、定量的EER情報の測定方法に関する指示が記載されている場合があるが、定性的情報の評価方法に関しては同等の水準の指示が記載されていない可能性がある(325項)。 そのため、そのような定性的情報は、定量的EER情報の場合よりも作成者の見解が反映されやすく、また作成者の見解によって変化しやすいと考えられる(325項)。 企業のガバナンス構造、ビジネスモデル、ゴール又は戦略的目標は、定量的な開示情報により補足されることもあるが、定性的に説明される場合がある(329項)。 定性的情報は主に文章で示されることが多いが、EER報告書では、その他の形式、例えば埋め込み動画や音声録音等によって示されることもある(330項)。 作成者が適合する規準を適用せずに得た定性的情報(すなわち、主題情報ではない)の変更に応じようとしない場合、業務実施者は、当該情報をEER報告書から削除するか又は当該情報が保証の対象ではない「その他の記載内容」であると明示するかもしくは主題に関する規準を追加で開発し、保証を受けることができる主題情報を作成するよう作成者に要請することがある(336項)。 12 将来志向のEER情報への対応 将来の状況又は結果を予想又は予測する主題情報は、まだ発生しておらず、発生しない可能性がある、又は発生済みであるが今後の進展の予測がつかない事象及び活動に関連するものである(367項)。 規準が、企業の将来の戦略、目標又はその他の計画についての記載(明示的なアサーション)を要求しているとき、業務実施者は、当該戦略、目標又は計画が達成されるか否かについての証拠を入手できない、又はその結果について結論を出すことができない可能性が高い(374項)。 それでもなお、業務実施者は、誤解を生じさせる可能性のある主題の側面を除外するために、以下の事項を評価するための手続を立案することがある(374項)。 適切な証拠は、例えば、報告された戦略又は他の計画が企業の実際の内部向けの戦略又は計画と整合しているか否かについて、ガバナンスに責任を有する者の会議内容を記録した文書や経営者が当該戦略の採用又は当該目標への同意を得るために既に取り組んでいる活動を記録した文書の形式で入手できると考えられる(375項)。 目標が達成されるかどうかという点に関して、保証を提供することはできない一方で、業務実施者は、仮定を形成するプロセス、システム、統制及びそれらの基礎データを考慮すること等により、作成者が将来の活動又は事象について行っているアサーションが合理的な基礎に基づいているか否かに関する証拠を入手するための手続を立案することができる(376項)。 13 保証報告書における効果的な伝達 保証報告書において業務実施者が効果的に情報を伝達する方法についてのガイダンスを提供している(394項)。 ガイダンスは、想定利用者の理解を促すために業務実施者が効果的に情報を伝達する際の一助となりうるものであり、以下の事項について取り扱っている(396項)。 (了)

#No. 470(掲載号)
#阿部 光成
2022/05/23

プロフェッションジャーナル No.470が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年5月19日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.470を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/05/19

日本の企業税制 【第103回】「本年度末で適用期限を迎える「長期保有土地等の買換え特例」」

日本の企業税制 【第103回】 「本年度末で適用期限を迎える「長期保有土地等の買換え特例」」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   本年度末(令和5年3月31日)で適用期限切れとなる法人税関係の主要な租税特別措置のうち、試験研究を行った場合の法人税額の特別控除(研究開発税制)と並んで減税規模の大きい措置として、所有期間が10年を超える国内にある土地等、建物又は構築物から、国内にある一定の土地等、建物又は構築物への買換え特例(以下、「長期保有土地等の買換え特例」)がある(措法65の7①四)。 本年1月25日に国会へ提出された令和2年度の法人税関係租税特別措置の適用実態調査結果をまとめた報告書によれば、令和2年度における長期保有土地等の買換え特例の適用件数は902件、適用額は3,854億円にのぼり、主な適用業種は不動産業(35.9%)、金融保険業(14.2%)、運輸通信公益事業(11.5%)である。   〇特例措置の概要 特定の資産の買換えの場合の課税の特例(措法65の7)とは、法人が、昭和45年4月1日から令和5年3月31日までの間に、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合又は供する見込みである場合に、買換資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる制度である。 圧縮記帳の対象となる買換えは、かつては20種類を超えていた時期もあったが、本稿執筆現在では、次の5種類である(措法65の7①一~五)。 これらの買換えのうち最大の減税規模となっているのが、今回取り上げる④(長期保有土地等の買換え特例)である。 上記①から⑤の圧縮限度額は、「圧縮基礎取得価額(買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡対価の額のうちいずれか少ない金額)× 差益割合 × 80/100」とされているが、④の場合には、譲渡資産が地域再生法に規定する集中地域以外の地域内にあり、かつ、買換資産が次の地域内にある場合には、乗じる割合(圧縮割合)は80/100ではなく、それぞれ次の割合とされている(措法65の7⑭)。   〇特例措置の変遷 特定の資産の買換えの場合の課税の特例は、昭和38年度税制改正により、事業用の土地、建物及び機械設備等を譲渡し、その対価として又はその対価によりそれらの資産を取得した場合に、圧縮記帳の方法により譲渡所得の課税の特例が設けられたことに始まる。 しかし、適用範囲が極めて広範であったことから、企業による値上がりを期待した不要不急の土地の取得が見られたり、過密地域内部又は過密地域外から過密地域内への買換えが目立ったことなど土地政策上の問題点が指摘されるに至り、昭和44年度税制改正において買換え地域の限定など制度の整理合理化が行われた。 その後、昭和61年度税制改正の中で、当時の財政事情や特例の対象とならなかった法人との負担の格差の観点から、それまで100%であった圧縮割合が80%に縮減されることとなった。 しかし、バブル経済の中、平成3年度税制改正では、長期所有土地等の買換え特例については、地域の限定がないため他の買換え特例が利用されないといった弊害や、将来の設備投資の資金に充てるために余分の土地を取得し、値上がり益を期待するといった行為を助長するなどの弊害が見られること等にかんがみ、廃止されることとなった。 ところが、制度廃止の直後、バブル経済の崩壊に伴う厳しい経済情勢に対応することが必要となり、数次にわたり経済対策が講じられたが、土地税制についても、その基本的枠組みを維持しつつ、適切な対応を図ることとされ、平成6年度税制改正において、企業の長期保有資産を利用した設備投資の拡大を図るため、時限的な(平成6年1月1日から平成7年3月31日までの間に行われる買換え)措置として、長期所有の土地等から建物等への買換えが広く認められることとなった(圧縮割合は80%)。 ただし、大都市機能の地方分散という国土政策に合致しない「既成市街地等の外から既成市街地等内への買換え」及び「既成市街地等内における買換え」は適用対象にならないなど、買換資産について一定の制限が設けられた。 このように、経済対策の一環として復活したこの制度は、平成7年度税制改正で圧縮率が60%に引き下げられたものの、その後各年度の改正で1年ずつ適用期限が延長されていたが、平成10年度税制改正では、長期にわたる地価の下落、土地取引等の土地を巡る状況や厳しい経済情勢にかんがみ、土地の有効利用の促進や土地取引の活性化のために思い切った対応を図る必要があるとの観点から、土地税制の大幅な緩和が検討され、その一環として、長期所有の土地等から建物等への買換え特例について拡充が行われた。 まず買換資産の範囲については、「既成市街地等以外の地域内にある」との地域限定が外され、既成市街地等の「内→内」、「外→内」の買換えも適用対象とされたことのほか、買換資産の範囲に土地及びその上に存する権利も加えられた。この結果、昭和44年度税制改正以来認められてこなかった既成市街地等内の土地への買換えが認められることとなった。また譲渡資産の範囲については、所有期間10年超のもの(改正前は昭和56年年12月31日以前に取得したもの)に緩和された。さらに圧縮割合も60%から80%に引き上げられた。 平成24年度税制改正では、買換資産の土地等の範囲について、事務所等の一定の建築物等の敷地の用に供されているもので、その面積が300㎡以上のものに限定された。さらに平成27年度税制改正では、譲渡資産が地域再生法に規定する集中地域以外の地域内にあり、かつ、買換資産が東京都の特別区の存する区域にある場合には70/100、地域再生法の集中地域(東京都の特別区域を除く)にある場合には75/100にそれぞれ圧縮割合が引き下げられ、現在に至っている。 (了)

#No. 470(掲載号)
#小畑 良晴
2022/05/19

これからの国際税務 【第31回】「ミニマム税とEUにおける今後の法人税改正の方向性」

これからの国際税務 【第31回】 「ミニマム税とEUにおける今後の法人税改正の方向性」   千葉商科大学大学院 客員教授 青山 慶二   1 直近のミニマム税をめぐるEUの動向 EUの経済・財務閣僚理事会(ECOFIN)は近年、パンデミック後の加盟国の経済回復に向けた予算を中心議題として協議し続けている。しかし、昨年12月に、第2の柱に基づくグローバルミニマム税構想を実現するためのEU指令案が、欧州委員会から提案されてからは、ECOFINは、全加盟国の合意が必要な同指令の成立に向けた協議にも焦点を当てている。 今年3月の定例会で、4ヶ国(ポーランド、スウェーデン、エストニア、マルタ)の反対で物別れになった同指令案(注1)は、その後、議長国フランスによる下記改定提案の提示を受けて、4月の定例会では、ポーランド以外の3ヶ国の合意を取り付けることができた。 (注1) 3月以前のEUの状況については、本連載【第30回】(3月公開)を参照いただきたい。 (参考)フランス改定案の内容 ポーランドは、提案されたミニマム税が、巨大多国籍企業による最も有利な国での利益計上を防止する新ルールがないまま、執行されてしまう可能性(第1の柱と第2の柱の同時執行を法的に義務付ける要件を欠いていること)に懸念を有している旨、その反対理由を述べている。現在、本提案の決着は、5月24日開催予定の定例ECOFINに繰り延べられている。 ところで、EUにおけるミニマム税に関する制度設計は、長期的には、EUの共通法人税構想の一部をなすものである。そこで、本稿では、昨年5月に欧州委員会によって開示された政策文書「21世紀の事業課税」(注2)の概要を紹介して、長期的なEUの構想との関連を確認する。 (注2) 欧州委員会の政策文書“Brussel,18.5.2021 COM(2021)251final”のタイトル“Business Taxation for the 21st Century”による。   2 EUが目指す「21世紀の事業課税」 (1) 2050年に向けたEUのあるべき税目構成の摸索 加盟国の予算は、社会保険拠出を含めた労働課税に重く依存しており、EU27ヶ国では全税収の50%超に達している。しかし、人口高齢化と非定型職種の増加は、労働課税による税収源を縮小することになる。なお、現状、他の課税では、付加価値税(VAT)が全税収の15%超を占めるが、その他の税目は相対的に貢献度が少ない(環境税6%、資産税5%、法人税7%)。 気候変化や労働市場のデジタル変革のような巨大変化が、EU加盟国の将来の税目構成に影響を及ぼすことになる。まず、VATについては、金融危機以後増税されてきたために、税率は、現在すでに歴史的な高さにある。非効率な軽減税率や非課税取引の利用によって、VATが当初目的とした政策効果の実現が妨げられており、まず、それらを制限することにプライオリティを置くべきである。 将来を保証できる税目構成としては、個人及び法人の双方からの資本所得に対する公平で効率的な課税が求められる。その際には、執行の複雑さを削減する簡素化施策も必要である。不動産についての毎年の課税は、相対的に効率的な税目であるが、資産評価に関する執行上等の課題がある。欧州委員会は2022年に「2050年に向けたEU税目構成の在り方」についての税制シンポジウムで広範な検討に着手する。 (2) 現時点での法人税の在り方の検討 ① 内外の環境への対応 経済のデジタル化が、租税計画スキームによって、従来の法令を逋脱する新しい機会をもたらし、多くの租税スキャンダル、国家補助ルールの厳格な執行、そして金融危機後の歳出ファイナンスの必要性の中で、国際的な法人税枠組みの改革に関する議論が2010年代前半に加速化し、BEPSプロジェクトへ引き継がれた。EUでは、2015年合意の内容を、租税回避防止指令(ATAD)を通じて実行に移した。 現在、課税権の再配分と最低水準の実効的課税が提案されているが、これらの議論の実質は、EUの今後に向けた事業課税のアジェンダの形成に影響を与える。 米国等の国際的なパートナー国は、今後に向けた彼らの事業課税アジェンダを形作る計画をすでに公表しており、中には、国際合意を超えるものもある。英国等では、パンデミック後の法人課税構想を公表している。 これらを踏まえると、EUの法人税は、歳入需要に対応した、頑強で効率的かつ公平な税構造を必要としており、同時に、公平・持続可能・かつ雇用が十分にある成長と投資に貢献する環境を創造するものであり、その結果、復興とグリーンでデジタルな構造変革を支援できるものでなければならない。 ② 包括的なEU指針との整合性の確保 事業課税に対するEU措置も、包括的なEU指針(「EU グリーン政策」、「欧州委員会デジタル指針」、「欧州新産業政策」、「資本市場同盟」など)と整合性の取れたものでなければならない。その際の留意点は以下の通り。 ③ ミニマム課税合意と既存のEU指令との間の調整 第2の柱の合意実行によって、ATAD下の現行ルール、特にCFCルールとの適用関係の整理が必要となる。 また、第2の柱の導入では、2011年以来ECOFINでペンディングとなっている利子・ロイヤルティ指令案(IRD)を合意するための道を整備する必要もある。ミニマム税指令案の目的は、グループ企業間の国境越え利子及びロイヤルティ支払いへの源泉徴収負担を撤廃するというIRD指令の便益を、仕向地国で課税に服している利子に限って適用するというものである。加盟国のうち数ヶ国は、IRDの適用をさらに進めて、仕向地国における最低レベルの課税水準を、源泉徴収免除の条件とすべきとの意見を表明していた。ミニマム税合意は、このような差異を解消してくれる。 また、欧州委員会は、第2の柱を、第3国がEUの非協力リスト判定過程での評価のために利用する基準の中に導入することを提案する。それは、第3国に国際合意に参加させるインセンティブを供与するためである。これは、国際的に合意された行動規範を促進するための、EUの現行の非協力リスト判定過程の利用とも整合している。 (3) OECDによる国際合意の先への事業課税の進め方 ここでは、「事業所得課税のための新しい枠組み(BEFIT)」と呼ぶ中長期策が提案されている。そこに至る手順は、次の通りとされている。 ① 検討の手順 ② BEFITの内容 以上を踏まえたBEFIT構想は、ペンディングになったままの共通連結法人税課税標準(CCCTB)提案に代替するものであり、CCCTB提案はこれにより撤回される。BEFITの概要は、以下の通り。 なお、BEFITは、多国籍企業のEUメンバーの各利得を1つの課税ベースに統合し、その後、フォーミュラに従って各国に配分して、最後に各国の法人税率で課税されるというものとなる。その中心課題としては、多国籍企業が事業を行う市場国の重要性を反映するために、売上高にどのようなウェイト付けをするか、及び、異なる経済プロファイルを持つ各加盟国に調和のとれた法人税収配分をするために、無形資産を含む資産と給与を含む労働コストをどのように反映すべきか、についての検討が挙げられている。 (了)

#No. 470(掲載号)
#青山 慶二
2022/05/19
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