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《速報解説》 会計士協会、「監査報告書の電磁的方法による発行のための承諾に関する同意書」の文例を公表~公認会計士法改正に伴い、監査報告書が電磁的方法により発行可能となることに対応~

《速報解説》 会計士協会、「監査報告書の電磁的方法による発行のための承諾に関する同意書」の文例を公表 ~公認会計士法改正に伴い、監査報告書が電磁的方法により発行可能となることに対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2021年8月4日付けで(ホームページ掲載日は8月6日)、日本公認会計士協会は、「公認会計士法改正に伴う「監査報告書の電磁的方法による発行のための承諾に関する同意書」の文例」を公表した。 これは、公認会計士法の改正により、被監査会社の承諾を得た場合に、監査報告書の発行を電磁的方法で行うことが可能となることに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公認会計士法の改正 公認会計士法の改正(2021年9月1日施行)により、被監査会社の承諾を得た場合に、監査報告書の発行を電磁的方法で行うことが可能となる(デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律8条による改正後の公認会計士法25条3項、34条の12第3項)。 被監査会社の承諾は、口頭ではなく、書面又は電磁的方法によることが必要である(公認会計士法施行規則12条の2第1項、24条の2第1項)。 監査報告書を電磁的方法で発行するための被監査会社の承諾を得るに当たって、監査人は、「電磁的方法の種類及び内容」を被監査会社に示す必要がある(公認会計士法施行規則12条の2第1項、24条の2第1項)。 「監査報告書の電磁的方法による発行のための承諾に関する同意書の文例」が示されている。 2 電磁的方法の種類及び内容 「電磁的方法の種類及び内容」とは、具体的には次のことを意味する(公認会計士法施行規則12条の2第4項、24条の2第4項)。 (了)

#No. 430(掲載号)
#阿部 光成
2021/08/10

《速報解説》 JICPAより経営研究調査会研究資料第8号「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」が公表される~直近5年間の会計不正傾向を示す~

《速報解説》 JICPAより経営研究調査会研究資料第8号 「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」が公表される ~直近5年間の会計不正傾向を示す~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2021年7月29日付けで経営研究調査会研究資料第8号「上場会社等における会計不正の動向(2021年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、最初に公表された2018年版との比較を行うことによって、この間の会計不正の動向の変化についても検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、これらの定義については2018年版からの変更はないが、列挙されている「粉飾決算」の例示において、2018年には記載のなかった次の項目が、2020年版から追記されている。   2 会計不正の動向 研究資料において集計、分析を行っている項目は、次の9つに分類されている。 この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2017年3月期から2021年3月期までの5年間で159社となり、2014年3月期から2018年3月期までの5年間(146社)より増加傾向にあるが、2020年3月期に46社と急増したことが影響している。なお、2021年3月期における会計不正の公表者数は25社であった。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2021年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が81.8%となり、2018年3月期までの5年間の平均である76.7%より増加傾向が見られる。ただし、2021年3月期においては、件数ベースで77.1%が「粉飾決算」となっていることから、右肩上がりで増加しているわけではなく、年度によってバラツキが見られる。 なお、粉飾決算の公表が8割を超えていることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に則って公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、2021年3月期までの5年間で、サービス業が22社でトップ、以下、卸売業19社、電気機器18社と続き、2018年3月期までの5年間では最多であった情報・通信業(20社)は14社へと減少している。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2021年3月期においては、東証第1部:18社、東証第2部:2社、ジャスダック:2社、マザーズ:3社となり、前年度と比較すると、東証第2部、ジャスダックに分類される会社において、会計不正の発覚が大きく減少している。 また、東証第1部及び東証第2部と新興市場との間で、「上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しており、(中略)不正の発生割合は変わらなかった」ということであり、「新興市場に上場している会社の会計不正が多い」という一般的な先入観は否定されている。 (5) 会計不正の発覚経路 2021年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、内部統制等が43社、当局の調査等が27社、公認会計士監査と内部通報が各22社となっており、2018年3月期までの5年間と同じ順位で、それぞれの会社数が少しずつ増加している。 一方、発覚経路の「記載なし」、つまり未公表としている会社が22社あり、2018年3月期までの5年間の実績29社からは減少しているものの、この点について研究資料は、「発覚経路の記載は、調査報告書の利用者が不正の未然防止や早期発見を考える上で重要な情報であるため、積極的に公表することが望まれる」とコメントしている。 こうした指摘は、2018年版以降、若干表現に差異は見られるものの、繰り返し表明されているところである。 (6) 会計不正の関与者 2021年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラツキが見られるものの、役員と管理職については共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が91社、単独が22社)、非管理職については、単独22社、共謀20社と、単独での会計不正が共謀をわずかながら上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2021年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社、国内子会社及び海外子会社別に分類して集計した結果、上場会社本体が3,878社、国内子会社が48社、海外子会社が38社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が50%、中国を除くアジアと北米・南米がそれぞれ16.7%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2021年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、23社(2018年3月期までの5年間では44社。以下、かっこ書き内の数字は2018年3月期までの5年間の実績を表している)、73社(43社)、61社(52社)となった。 件数的には、「社内人員のみで構成される調査体制」を採用する会社が減少していることが明らかになっている。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(45.5%)、「資産の流用」では「社内のみ」で調査に当たる会社が多くなっている(20%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2021年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴い過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は71社であった。訂正を行った会社のうち66社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 430(掲載号)
#米澤 勝
2021/08/06

プロフェッションジャーナル No.430が公開されました!~今週のお薦め記事~

2021年8月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.430を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2021/08/05

monthly TAX views -No.103-「「税務行政の将来像2.0」の先を読む」

monthly TAX views -No.103- 「「税務行政の将来像2.0」の先を読む」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   本年6月11日、国税庁から「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」が公表された。 いよいよ国税の現場にも、デジタルを活用して税務手続きや業務のあり方を抜本的に見直す(つまりDXの)時代が来たということで、大変意義深いものだと考えている。 *  *  * 内容は、「納税者の利便性の向上」と「課税・徴収の効率化・高度化」という2本柱を前提に、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に向けた将来構想を示している。 そこでは、「確定申告に必要なデータ(給与や年金の収入金額、医療費の支払額など)を申告データに自動で取り込むことにより、数回のクリック・タップで申告が完了する仕組みの実現を目指します。」とされている。 マイナポータルからログインして「確定申告」を選択し、「自動で計算」を選択すれば、申告に必要な各種データが確定申告書等作成コーナーに自動的に反映され、本人が確認すれば申告が終了する「日本型記入済み申告制度」で、既に始まっているものを更に充実させていくということである。 残る課題としては、申告に必要な給与データ(勤務先から入手する年間収入金額)や事業所得・雑所得のデータをどう入手していくかという点があげられる。 給与の源泉徴収票については、令和4年1月以降、「所定のクラウドに保存する方式による提出が可能となる予定」とされ、さらに令和4年からの予定として「確定申告書等作成コーナーにおいて、スマートフォンのカメラで源泉徴収票を読み取ること」による対応も記されている。 *  *  * より大きな課題としては、個人の事業所得や雑所得のデータの入手がある。筆者は、欧米で導入されているような、デジタル時代で大きな役割を発揮する「プラットフォーマー」から情報を入手できる方法・仕組みを考えるべきだと提言してきた。例えば「デジタルエコノミーと税制」(デジタルエコノミーと税制研究会、2020年11月)である。 この点に関して注目すべき動きがOECDで見られる。OECDでは、「シェアリング・ギグエコノミーと所得税の透明性確保のプロジェクト」が続けられており、本年6月22日には、プラットフォーマーから当局への報告のモデルルールが合意されている。 “ Model Rules for Reporting by Platform Operators with respect to Sellers in the Sharing and Gig Economy ” プラットフォームを通じて宿泊施設を提供したり、輸送や人的役務を提供したりした場合の役務提供者の収入情報について、プラットフォーマーから税務当局への提供の義務付けを行うものである。その上でこれらの情報は、納税者サービスとしての記入済み申告制度に活用される。 デジタル時代、わが国の税務分野でのDXは始まったばかりだ。今後のさらなる進化が期待される。 (了)

#No. 430(掲載号)
#森信 茂樹
2021/08/05

令和3年度税制改正における寄附金控除の見直し~出資に関する業務に充てられることが明らかな寄附金の除外~

令和3年度税制改正における寄附金控除の見直し ~出資に関する業務に充てられることが明らかな寄附金の除外~   公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香   令和3年度税制改正において、特定公益増進法人に対する寄附金制度における寄附金の範囲等が見直された。本稿では改正の内容について解説を行う。   1 法人税法第37条第4項の改正 現行の制度においては、公益の増進に著しく寄与する一定の法人(以下「特定公益増進法人」という)に対する寄附金で、その特定公益増進法人の主たる目的である業務に関連する寄附金を支出した個人又は法人については、その寄附金に対し一定の税制上の恩恵を受けることが可能となっている。 この寄附金の範囲から、出資に関する業務に充てられることが明らかな寄附金が除外されることになった。 「出資に関する業務に充てられることが明らかなもの」とは、例えば次のようなものが該当する(法人税基本通達9-4-7の2)。   2 改正の理由 特定公益増進法人に該当する法人は、例えば、①独立行政法人、②地方独立行政法人、③公益社団法人及び公益財団法人、④学校法人及び準学校法人、⑤社会福祉法人、⑥更生保護法人、⑦特別法により設立された法人で一定のもの(日本赤十字社等)がある。 昨今、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律の改正により、研究成果の活用を促進する事業を実施する者等に対する出資を行うことができる研究開発法人が27法人に拡大し、加えて地方独立行政法人法の改正により、試験研究地方独立行政法人も研究成果の活用を促進する事業を実施する者等に対する出資を行うことが可能になった。 これらの独立行政法人及び地方独立行政法人は特定公益増進法人に該当するため、当該法人の出資先関係者等が独立行政法人等に出資業務に使途を特定して寄附を行い、当該寄附金を特定された使途に従い出資させることで、制度の趣旨から外れた方法で寄附金の税制上の優遇措置を享受することが可能となる。 これは税制の公平性の観点から問題があるとみなされ、出資業務に使途を指定した寄附金及び使途を出資業務に限定して募集される寄附金については、特定公益増進法人に対する寄附金の優遇措置の対象外としたところである。すでに同様の除外対応は、国立大学法人等のTLO(技術移転機関)に対する出資業務に充てることを目的とする寄附について行われている。 なお、出資に関する業務に充てられるかどうかが寄附時点で不明確なものについては、今回の改正の対象外と考えられる。   3 寄附金控除を受けるための書類 令和3年度税制改正に伴い、財務省令に規定する寄附者が寄附金の特例を適用する場合に保存することとされる書類(寄附金が特例対象の寄附金に該当することを証する書類)についても、法人税法施行規則第24条第3号においては、「その寄附金が特定公益増進法人の主たる目的である業務に関連する法人税法第37条第4項に規定する寄附金である旨のその特定公益増進法人が証する書類」に改正された。また、所得税法施行規則第47条の2及び租税特別措置法施行規則第19条の10の5における寄附金控除や所得税額控除の確定申告の際に添付等が必要となる書類においても同趣旨から改正された。 この結果、改正の施行後、特定公益増進法人に対する寄附については、各特定公益増進法人において、受け入れた寄附が主目的業務に関連する寄附であるかどうかの確認のほか、その寄附が以下のような寄附金ではないかどうかも確認の上、証明書を寄附者に交付することとされた。 なお、確認の具体的な実務としては、例えば、「寄附を募集するチラシやHP等で出資業務に充てることを示していないこと」や、「寄附者から寄附の使途を出資業務に充てることと指定されていないこと」を確認することが想定されている。 また、当該証明書へ記載する文言として、以下のような記載例が、文部科学省高等教育局私学部私学行政課から各文部科学大臣所轄学校法人担当課・各都道府県私立学校主管部課あて、及び内閣府大臣官房公益法人行政担当室から公益社団・財団法人あてに事務連絡として示されている。   4 法人税法第37条第5項の改正 公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄附金の額とみなすこととされている。これをみなし寄附金制度という。 ただし、令和3年度税制改正により、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、当該みなし寄附金制度を適用しないこととされた。 従来、公益法人等が、収益事業に係る収入を収益事業以外の事業に係る収入に仮装して経理する等の不正行為により課税所得を過少に計上していたとしても、外形的には収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額となるため、事後に修正申告等の場面でもみなし寄附金制度の利用が可能であった。 しかし、このような不正行為の場合にまで税制上の優遇措置を適用することは、そもそもの制度の趣旨から逸脱しており、適正公平な課税を妨げる誘因となり得ると考えられ、不適用へと改正されたものである。   5 適用関係 特定公益増進法人に対する寄附金の範囲から、出資に関する業務に充てられることが明らかな寄附金が除外される改正は、令和3年4月1日以後に支出する寄附金の額について適用される(改正法附則10①、改正法令附則2、改正法規附則3)。 また、みなし寄附金制度の改正は、公益法人等が令和3年4月1日以後に支出する金額について適用される(改正法附則10②)。 (了)

#No. 430(掲載号)
#中村 友理香
2021/08/05

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第1回】「近年の遺贈寄付の高まりと税理士の役割」

遺贈寄付の課税関係と実務上のポイント 【第1回】 「近年の遺贈寄付の高まりと税理士の役割」   税理士・中小企業診断士・行政書士 脇坂 誠也   1 遺贈寄付が注目される背景 今、遺贈寄付が注目されている。遺贈寄付とは、遺言により学校法人、社会福祉法人、公益法人、特定非営利活動法人などの非営利団体や国、地方公共団体(以下「非営利法人等」とする)に財産の全部又は一部を寄付することや、相続人が相続財産の全部又は一部を非営利法人等に寄付することをいう。 遺贈寄付が注目されている要因はいくつかある。 1つ目は人々の社会貢献意欲の高まりである。内閣府が毎年実施している「社会意識に関する世論調査」によれば、「社会への貢献意識」について、1974年の調査開始から、右肩上がりで上昇しており、2020年の調査では、63.4%になっている。また、民間団体による調査によれば、社会の役に立つために、自分の遺産の一部を寄付したいと思う人は4人に1人程度で存在するというアンケート結果もある。 2つ目は、社会構造の変化である。今後は、将来未婚や配偶者を亡くした「おひとりさま」の高齢者が増加することが予想される。相続人がなく、遺言がない場合、遺産は国庫に帰属されるが、その総額は、年間600億円を超え、わずか4年で1.4倍に増加している。 民間団体による調査によれば、配偶者と子供の有無別に「遺贈寄付に前向き」な割合は、直系卑属がいる「ひとり親」では21.0%、「父母子」では21.9%であるのに対し、直系卑属がいない「独身」では50.0%、「ふたり夫婦(子供なし)」では46.8%となっている。相続人がいなかったり、相続人がいても、配偶者や子供がいなければ、自身の遺産は社会の役に立つことに寄付をしたいと考える人が増加することが予想される。 3つ目は、遺贈寄付の受け入れ態勢が充実しつつあることである。特定非営利活動法人「国境なき医師団日本」が行っている「遺贈寄付意識調査」によると、遺贈寄付の障害になることとして、「遺贈の方法(どんな手続きが必要か不安、など)」が36.2%で最も高く、「寄付する団体選び(詐欺にあわないか不安、など)」が33.0%と続いている。 現在、全国のコミュニティ財団を中心に遺贈寄付の相談窓口の設置が進んでおり、民間の事業者も、遺贈寄付希望者の希望に合わせた寄付先や方法を紹介するサービスが始まっている。また、遺贈寄付を受ける非営利法人等も、遺贈寄付に積極的に取り組む法人が増加している。   2 遺贈寄付の現状 それでは、実際に遺贈寄付をする方はどれくらいいるのであろうか。 わが国における遺贈寄付の正確な統計はないが、相続税の申告をした人については、国税庁から公表されている。平成30年の数字の集計(認定NPO法人シーズ・市民活動を支える制度をつくる会が国税局に開示請求して集計)では、遺言による寄付は99件で約56億円、相続人による相続財産の寄付は579件で約410億円となっている。 相続税の申告に係る被相続人が116,341人、相続人が258,498人(国税庁『平成30年分 相続税の申告事績の概要』より)であるから、遺言による寄付は0.1%以下、相続人による相続財産の寄付が0.2%程度であり、非常に少ない。まだ、大部分の人が、遺贈寄付について考えたとしても、実行をしている人はほとんどいないことがうかがい知れる。 ただし、件数や金額は、ここ数年、徐々に増えてきている。また、雑誌や新聞の広告等で遺贈寄付が取り上げられることが増えており、一部の公益法人等では遺贈寄付について大幅に増加していることも報告されている。   3 遺贈寄付における税理士の役割 遺贈寄付をしたいと思っている人は増えているが、実際に実行するためにはハードルは高い。その原因は何であろうか。 『遺贈寄付に関する実態調査』(2020年、一般社団法人日本承継協会)によれば、「遺贈寄付に興味がある」と回答した方の半数以上が寄付の手続きや方法を相談したいと思っているが、どこに相談していいのかわからないと答えている。遺贈寄付を実行するためには、それをサポートする人が必要なのである。そのサポート役として税理士は相応しいのではないだろうか。遺贈寄付には、税務の問題は切り離せない。また、日頃から中小企業のオーナーや資産家、あるいは確定申告などに関わっている税理士は、これらの方たちの身近で信頼できる相談相手として、最適である。海外の調査によれば、専門家などが資産承継の1つの手段として遺贈寄付という方法もあるということを触れることで、遺言で遺贈寄付をする人の割合が大幅に上昇するという調査も報告されている。 一方で、税理士がクライアント等に遺贈寄付について相談を受けたり、アドバイスをするためには、遺贈寄付の課税関係について正確に理解をする必要がある。 次回から、遺贈寄付をいくつかの種類に分けたうえで、税務上どのような取扱いになるのか、どのような点に注意をすべきかについて見ていくことにする。 (了)

#No. 430(掲載号)
#脇坂 誠也
2021/08/05

令和3年度税制改正における『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】「人材確保等促進税制・所得拡大促進税制への見直し・延長」

令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第6回】 「人材確保等促進税制・所得拡大促進税制への見直し・延長」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   [5] 人材確保等促進税制・所得拡大促進税制への見直し・延長 令和3年度税制改正では、大企業向けの賃上げ・投資促進税制について、ウィズコロナ・ポストコロナを見据え、新規の雇用を促進することを目的とした「人材確保等促進税制」に変更している。 また、中小企業者の所得拡大促進税制についても適用要件を一部見直し、簡素化して、適用期限を2年延長している。 連結納税制度における人材確保等促進税制及び所得拡大促進税制は、次の点で単体納税制度と異なる取扱いとなる。 連結納税制度における人材確保等促進税制及び所得拡大促進税制の取扱いは、次のとおりとなる(新措法68の15の6、新措令39の46の2)。 なお、令和3年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(令和3年所法等改正法附則1、43)。 1 人材確保等促進税制 2 所得拡大促進税制(中小企業者向け)   (了)

#No. 430(掲載号)
#足立 好幸
2021/08/05

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例32】「修繕費の損金計上のタイミングと仮装行為」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例32】 「修繕費の損金計上のタイミングと仮装行為」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、東北地方において農機具製造業を営む株式会社A(3月決算法人)において総務部長を務めております。東北地方は戦後一貫して米作や果樹栽培を中心とした農業が盛んな土地柄で、いわゆる専用機・作業機メーカーに分類されるわが社も、そのような東北地方で農業を営む農家を主たるターゲットに農機具を製造・販売してきました。 しかし、国内における農家数の減少を受け、農機具の出荷台数は近年概ね減少傾向にありますが、一方で、わが国の農機具はアジアでは高性能との評価を受けており、輸出金額は年々増加しております。 そのような厳しい販売環境の中、A社としても市場のニーズに合った新製品をタイムリーに投入することが生き残りの必須条件と考え、生産設備への新規投資を行うとともに、既存の設備のオーバーホールや修繕を積極的に行うことで、農機具の生産能力の維持・拡大を図っております。 ところが、先日来受けている税務調査で、既存設備のオーバーホールや修繕に関する支出が問題視されており、困惑しております。調査官によれば、わが社は既存設備のオーバーホールや修繕に関し、その施工を行ったB社の担当者と結託して、本来損金として計上すべき事業年度ではなく、その一期前の事業年度に行ったかのように偽装し、それとつじつまを合わせるように請求書の納品日を翌事業年度の日付となるよう記載させたのであるから、当該修繕費の損金計上は、通謀虚偽表示による仮装行為に該当すると言ってきました。 確かに、オーバーホールや修繕が完了したタイミングを前倒しで計上したかどうかについては、恐らく調査官の主張の方にやや分があるような気がしますが、取引先と通謀して請求書を仮装したと認定し、当該認定に基づいて重加算税の賦課を行うという言い分は受け入れ難く、およそ容認できるものではありません。修繕費の期ずれ及び仮装行為に基づく重加算税の賦課処分の妥当性につき、見解をお聞かせください。 〇 修繕費の計上のタイミング 【A】 オーバーホールや修繕が完了したタイミングを前倒しで計上したかどうかについては、事実認定の問題となりますが、例えば、既に修繕を担当する施工業者がその事業年度(X1事業年度)中に施工の準備に取り掛かっているケースにおいては、実際の施工そのものが翌事業年度(X2事業年度)に行われているとしても、その事業年度(X1事業年度)中の日付で請求書や納品書を発行しても不自然とまではいうことはできないため、その事業年度(X1事業年度)中の日付で請求書や納品書を発行しているという事実だけをもって「仮装行為」であると認めることはできないと考えられます。 そのため、仮に本件が、修繕費をX2事業年度に計上すべき事案であるとしても、X1事業年度中の日付で請求書や納品書を発行しても不自然とまではいうことはできない場合には、重加算税の賦課要件である「仮装又は隠蔽」の行為があったということもできず、重加算税を課されることはないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 修繕費に係る損金計上のタイミング 修繕費のような費用の計上のタイミングは、法人税法上一般に、費用の年度帰属の問題とされている(※1)。その考え方によれば、償却費以外の費用は、債務の確定を待って初めて損金に計上することができるとされる(法法22③二カッコ内)。当該債務の確定については、実務上は、法人税基本通達2-2-12の3要件である、①債務の成立、②債務に基づき具体的な給付をすべき原因となる事実の発生、③金額の合理的な算定、のすべてに該当するかどうかが判断基準となっている(※2)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)366頁。 (※2) 当該債務確定の要件は通達ではなく明文化(法令化)すべきであるとの主張につき、一高龍司「損金の算入時期に関する基本的考察」金子宏監修『現代租税法講座 企業・市場』(日本評論社・2017年)165頁参照。 なお、債務の確定について近年の法人税法は、従来よりもその範囲を限定的に考える傾向にあり、例えば、引当金について、債務の確定が不確実な費用又は損失の見積りであり極力その計上は抑制すべきとして、平成10年度の税制改正で大幅に廃止・縮小されている。   (2) 重加算税の賦課の適否 重加算税とは、一般に、納税者が隠蔽・仮装といった不正な手段を用いた場合に、これに対して「特別に重い負担」を課すことによって、申告納税制度の基盤が失われることを防止する目的で置かれた規定であると解されている(※3)。 (※3) 金子前掲(※1)890頁。 このような重加算税の賦課要件は、過少申告加算税の規定に該当する場合で、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の税額の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき、である(通法68①)。したがって、申告内容に関し事実の隠蔽・仮装がない場合には、重加算税の賦課はないこととなる。 事実の隠蔽・仮装とは、裁決事例(国税不服審判所平成22年1月19日裁決・TAINSコード: J79-1-08)によれば、「『事実を隠ぺいした』とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、『事実を仮装した』とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。」とされている。それぞれの態様を具体的に言えば、事実の隠蔽とは、売上除外、証拠書類の破棄等を指し、事実の仮装とは、架空仕入、架空契約書の作成、他人名義の利用等を指すと解されている(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)890-891頁。 重加算税の賦課に関する国税通則法の文理解釈は上記の通りであるが、一方で税務調査の現場では、事実認定に関し微妙な事案も少なくなく、納税者の署名有の「質問応答記録書」の記載内容が「事実」であるとして、それを根拠に重加算税が賦課されるケースがみられるところである。   (3) 重加算税の賦課が取り消された事例 本件と同様に、損金の計上のタイミングについて争いがあり、かつ、そのタイミングにつき仮装行為があったとして重加算税の賦課があったことについて争われた裁決事例(国税不服審判所令和2年3月10日裁決・TAINSコード:J118-1-03) があるので、以下でみていくこととしたい。 ① 事案の概要 本件は、不動産売買業及び不動産管理業を営む法人である審査請求人が、建物の修繕工事に係る費用を事業年度終了の日付で修繕費に計上し、当該修繕費を損金の額に算入して法人税の確定申告をしたところ、原処分庁が、請求人の代表取締役は、当該修繕工事が事業年度終了の日までに着工すらしておらず、当該修繕費を損金の額に算入できないことを認識した上で、当該修繕工事の施工業者(H社)に請求書を発行させることによって損金の額に算入したのであるから、その行為は事実の仮装に当たるとして法人税等の重加算税の賦課決定処分等をしたのに対し、請求人が、仮装の事実はないとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。 ② 本件の争点 請求人が本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入したことに、国税通則法第68条第1項に規定する仮装に該当する事実があるか否か。 ③ 審判所の判断 (※5) 2018(平成30)年3月30日を意味すると考えられる。 ④ 本裁決事例からいえること 本件は、請求人が修繕費を本件事業年度(実際に修繕を行った事業年度の前事業年度)の損金の額に算入したことに、国税通則法第68条第1項に規定する仮装に該当する事実があったのかが争われた事案であるが、審判所は「本件請求書の『納品日』欄に記載されている『3.30』については、(中略)、H社の請求書発行に係るシステムの便宜上『3.30』と入力されたにすぎない可能性も否定できない」とし、また、「請求人代表者に、本件修繕費を本件事業年度の損金の額に算入できないことの認識や過少申告の意図があったとは認められない」として、仮装の行為があったことを否定している。そのため、重加算税の賦課決定処分が取り消されている。 本件において、請求人である法人がその修繕費の計上のタイミング(事業年度)を誤っていたことは事実であるが、それはいわば「うっかりミス」に過ぎず、当該誤りを仮装行為に基づくものであるとした課税庁の認定には相当無理があったということであろう。 ところで、仮装行為に対する重加算税の賦課が争われた同様の裁決事例に、国税不服審判所令和元年7月2日裁決(TAINSコード:F0-2-913)がある。当該事案は、石油の輸出入業、精製業及び販売業等を目的とする法人である審査請求人C社が、手書の図面を外部の業者D社に委託して電子データ化する費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該電子データ化が完了していないにもかかわらず、相手方と通謀して虚偽の証憑書類を作成し、当該費用を損金の額に算入したことが事実の仮装の行為に当たるとして、法人税等の重加算税の各賦課決定処分をしたのに対し、請求人C社が、委託先であるD社と通謀して虚偽の証憑書類を作成した事実はないとして、同処分のうち過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求めたものであり、請求人C社には国税通則法第68条第1項に規定する事実の仮装があったか否かが争点となった。 審判所は以下のように判断して事実の仮装があったことを否定している。 税務調査実務においては、重加算税の賦課に関する事実認定に関しやや荒っぽい判断がなされる傾向にあり、その一部が審査請求の対象となり、審判所により賦課決定処分が取り消される事案が散見される。 ここで実務上問題となり得るのが、「質問応答記録書」の取扱いである。質問応答記録書は任意の文書であるが、一旦そこに納税者が署名押印を行うと、その内容を後の裁判や審判で取り消したり撤回することは、一般に極めて困難と言わざるを得ない。課税庁にとって納税者の署名押印済みの質問応答記録書は重加算税賦課の有力な根拠ないし証拠となるため、調査の結果(少なくとも調査担当者レベルで)、重加算税を賦課する方針であるときには、署名押印をたびたび迫ってくる場合もあるだろう。 もちろん、当該署名押印は任意であり(通法152①)、仮に納得がいかない場合には、後日の撤回が事実上困難であることを考慮し、やはりそれに応じることを拒否すべきものと考えられる。   (4) 本件へのあてはめ オーバーホールや修繕が完了したタイミングを前倒しで計上したかどうかについては、基本的に事実認定の問題となるが、例えば、既に修繕を担当する施工業者がその事業年度(X1事業年度)中に施工の準備に取り掛かっているケースにおいては、実際の施工そのものが翌事業年度(X2事業年度)に行われているとしても、その事業年度(X1事業年度)中の日付で請求書や納品書を発行しても不自然とまではいうことはできないため、その事業年度(X1事業年度)中の日付で請求書や納品書を発行しているという事実だけをもって、施工業者との通謀に基づく「仮装行為」であると認めることはできないと考えられる。 そのため、仮に本件が、修繕費をX2事業年度に計上すべき事案であるとしても、X1事業年度中の日付で請求書や納品書を発行しても不自然とまではいうことはできない場合には、重加算税の賦課要件である「仮装又は隠蔽」の行為があったということもできず、重加算税を課されることはないものと考えられる。 (了)

#No. 430(掲載号)
#安部 和彦
2021/08/05

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第9回】「寄与度利益分割法において関連当事者間の一方が計上した営業損失の取扱い」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第9回】 「寄与度利益分割法において関連当事者間の一方が計上した営業損失の取扱い」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 寄与度利益分割法において、関連当事者間の一方が計上した営業損失はどのように取り扱うべきでしょうか。 〔A〕 分割対象利益である「所得」には、営業損失は当然に含まれます。 ●●●〔解説〕●●● 1 寄与度利益分割法 我が国で利益分割法といえば、一般に、寄与度利益分割法を指すといわれている(※1)が、この方法は、国外関連取引に係る分割対象利益を、その発生に寄与した程度を推測するに足りる国外関連取引の当事者に係る要因に応じてこれらの者に配分することにより独立企業間価格を算定する方法であり、比較対象となる非関連者間取引を見出す必要がないという特徴を有している。 (※1) 藤森康一朗『実務ガイダンス移転価格税制(第5版)』(中央経済社・2017年)211頁。 そこで問題となるのは、利益分割法の適用、特に分割要因の選択において、分割対象損失が計上されている場合の取扱いである。この場合、分割対象が利益の場合と同様に取り扱うべきかどうかについて、『移転価格税制の適用に当たっての参考事例集(※2)』(以下「事例集」) は、「分割対象利益等は、国外関連取引に参加した全ての関連者に生じた当該取引に係る損益(原則として営業損益)の総和と解されることから、これには営業損失も含まれることになる(措置法通達66の4(5)-1)」と述べている。 (※2) 事例集【事例7】「(参考)分割対象利益等について」(40頁)。 一方、OECD移転価格ガイドライン(以下「ガイドライン」)は、その2010年版の取引単位利益分割法に関する指針の中で、「『利益』への言及は、損失にも同様に適用されるものとして扱われるべきである」(2010年版パラ2.108)と明確に述べていたところ、OECDが2014年12月16日に公表したPublic Discussion Draftでは、特定の事業において計上される損失には注意深い配慮(careful consideration)が求められる旨の記述(同パラ53)があり、その後の動向が注目されていた(※3)。しかし、同ガイドラインの2017年版では、先の「『利益』への言及は、損失にも同様に適用されるものとして扱われるべきである」(2017年版パラ2.114)という文言がそのまま維持され、現在に至っている。 (※3) 藤枝純・角田伸広『移転価格税制の実務詳解(第2版)』(中央経済社・2020年)338頁。   2 過去の判例・裁決例 過去の判決及び裁決例で、寄与度利益分割法の適用に際し営業損失の取扱いが争われたものには次の2つがある。 《国税不服審判所平成19年2月27日裁決》(※4) (※4) 裁決事例集第73集376頁、TAINSコード:J73-3-21。 (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、請求人の海外子会社から器具を輸入する取引について、利益分割法により算定した独立企業間価格で行われたものとみなされるとして法人税の更正処分等をしたところ、請求人が、原処分庁の採用した独立企業間価格の算定方法には誤りがあり同処分等は違法であるとして、その全部の取消しを求めた事案である。 請求人が海外に所在する100%子会社J社から輸入する器具の販売は営業損失を計上していたところ、J社の営業利益との合計額はプラスとなっていた。かかる状況において、営業損失は租税特別措置法施行令39条の12第8項の「所得」に含まれるか否かが争われた。 (2) 請求人の主張と審判所の判断 請求人は、利益分割法は、事業活動の直接の結果である所得、すなわち、純資産の増加を対象にして独立企業間価格を算定する方法であるところ、営業損失は、純資産の減少をもたらすものであり、租税特別措置法施行令39条の12第8項の解釈通達である租税特別措置法関係通達66の4(4)-1(当時)は、利益分割法における分割の対象を営業利益とする旨定めているから、同法施行令39条の12第8項の「所得」には、営業損失は含まれないと主張した。 これに対し、審判所は、「移転価格税制は、このように法人と国外関連者との取引に係る対価の額に着眼するものであり、国外関連取引により利益が生じているか否かを直接の問題としているわけではないから、基本三法により独立企業間価格が算定できる場合には、たとえ、当該取引により損失が生じていたとしても、同法により独立企業間価格を算定すべきこととなる(※5)。(中略)、利益分割法により独立企業間価格を算定せざるを得ない国外関連取引について、単に損失が生じているというだけで、同法の適用を除外し、その結果として、移転価格税制の適用自体をも排除されるとすれば、納税者間の課税の公平を著しく損なうこととなる。そして、それは、企業グループ内の価格操作により、国外関連者に過分の利益が生じ、わが国において法人税の納税義務を負う法人に損失が生じている場合において、特に顕著である。」とし、「措置法施行令39条の12第8項の『所得』とは、国外関連取引に参加したすべての関連者に生じた当該取引に係る損益(原則として営業損益)の総和をいうと解するのが相当である(下線筆者)」と判示して、請求人の主張を排斥した。 (※5) 当時は、基本三法が優先的に適用されるべきとされていたが、平成23年6月の改正で、独立企業間価格の算定方法の適用上の優先順位が廃止され、「最も適切な方法(ベスト・プラクティス)を事案に応じて選択する仕組みへと移行した(措法66の4②柱書)。 《パシフィック・フルーツ・リミテッド事件》(※6) (※6) 第一審は、東京地裁平成24年4月27日判決(平成21年(行ウ)第581号・税資第262号-94順号11944、TAINSコード:Z262-11944)、控訴審は、東京高裁平成25年3月28日(平成24年(行コ)第229号・税資第263号-63順号12187、TAINSコード:Z263-12187)。 (1) 事案の概要 本件は、バハマ法人であるB社(国外関連者)からエクアドル産バナナを輸入したX(原告・控訴人)が、当該輸入取引(国外関連取引)について、原処分庁が、寄与度利益分割法を用いて独立企業間価格を算定したこと、寄与度利益分割法を用いるに当たり、日本市場の特殊要因により生じたXの営業損失を分割対象利益から除外しなかったこと、原告とB社が支出した販管費の額の割合により分割対象利益を分割したこと等を不服とし、その処分の取消しを求めた事案である。 (2) Xの主張と裁判所の判断 Xは、寄与度利益分割法を用いるに当たっては、国外関連取引の当事者が支配できない市場の特殊要因による営業利益への影響を排除すべきであるとの主張を前提として、Xが計上した営業損失は、バナナの輸入量が急増した後の需要の大幅な減少や競合品であるフィリピン産バナナの輸入量の急増等により日本市場におけるエクアドル産バナナの浜値(※7)が大幅に下落したこと及び顧客が原告との取引を減少させたことなどの当事者が支配できない日本市場の特殊要因により生じたものであるから、移転価格税制を適用するに当たり、これらの日本市場の特殊要因により生じた営業損失は、日本側の輸入業者である原告に帰属させる必要があると主張した。 (※7) 「はまね」と読み、海産物などが水揚地で取引される価格をいう。 この点について東京地裁は、「そもそも原告が主張するような市場における需給の増減や競合品との競争等による市場価格の変動やそれに伴う損益の発生は、市場主義経済の下では常に生じ得るものであるから、そのような損失をもって、直ちに市場の特殊要因により生じた損失とはいい難い。また、日本市場の特殊要因により生じた営業損失を日本側の輸入業者である原告に帰属させる必要があるとする点についても、通常の独立企業間の取引であれば、一方の市場における需給等の状況に大きな変化が生じたことにより、一方の当事者のみに多額の営業損失が生じるような場合、取引価格を改定し、取引量を減少させ又は取引自体を終了させるなどすることなく、従前の条件のままで漫然と取引を継続することは通常は考え難いから、その影響は少なからず他方の当事者にも及ぶものと考えられるところ、その損失を専ら日本側の輸入業者である原告に帰属させるべきとする合理的根拠も不明であるといわざるを得ない(下線筆者)」と判示し、「Xが計上した営業損失は、日本市場の特殊要因により生じたものであって、本件国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであるとの原告の主張は、法令上の根拠を欠くものであって、その理由として述べるところもいずれも採用することはできない」と結論付けた。 なお、本件の控訴審判決でXは、「多額の分割対象損失が生じた理由は、Xの輸入したエクアドル産バナナの需要急減に伴う浜値の大幅な急落等にあり、販管費との関連性は全く存在しない。『販管費は、一般的に、企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている』という販管費と営業利益についての一般論から、販管費に基づき営業損失を分割することが合理的であるという結論を導き出すことはできない」などと主張し、その根拠を種々述べた。 この主張には、上記1のOECDによるPublic Discussion Draftでの議論が背景にあるものと解される。しかし、これらの主張に対し東京高裁は、「いずれも分割要因(販管費)と分割対象損益(営業利益)との間に関連性を要するとのXの主張を前提とするものであるから、いずれにしろ、その前提を欠くものであり、失当である。控訴人は、OECD報告書を根拠に、利益分割と損失分割では異なった配慮が必要であると主張するが、同報告書が直ちに、我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない」と判示し、Xの主張を退けた。 (了)

#No. 430(掲載号)
#霞 晴久
2021/08/05

租税争訟レポート 【第56回】「事業所得の意義~大学名誉教授が執筆した原稿料の所得区分(国税不服審判所令和元年6月14日裁決)」

租税争訟レポート 【第56回】 「事業所得の意義~大学名誉教授が執筆した原稿料の所得区分 (国税不服審判所令和元年6月14日裁決)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【事案の概要】 本件は、複数の大学等で名誉教授や顧問等を務める医師である審査請求人が、救命救急医療等に関する専門技術・知識の教授又は指導等(以下「本件役務」という)を行い、給与を得ていた一方、執筆等に係る業務(以下「本件業務」という)を行い、本件業務から生じる所得が事業所得に該当することを前提に、事業所得における損失の金額を給与所得の金額から控除して所得税等の確定申告をしたところ、原処分庁が、本件業務から生じる所得は雑所得に該当するから、当該損失の金額を給与所得の金額から控除することはできないなどとして、所得税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が本件業務から生じる所得は事業所得であるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 裁決書によれば、審査請求の対象となった各年分において、請求人は1,700万円を超える給与を得る一方で、本件業務に係る報酬は100万円に満たないものであった。また、請求人は、妻を経理事務等に従事させ、支払った給与を青色事業専従者給与として、事業所得の金額の計算上必要経費に算入していた。請求人の確定申告においては、事業所得に係る損失の金額が、本件業務に係る総収入金額の約3倍から約4倍となっていた。   【裁決の概要】 1 原処分庁による賦課決定処分 原処分庁は、平成30年7月18日付で、請求人に対し、原処分庁所属の調査担当職員による調査に基づき、 などとして、各年分の所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。 2 争点 本件業務から生じる所得は、所得税法第27条第1項に規定する事業所得又は同法第35条第1項に規定する雑所得のいずれに該当するか。 3 争点に関する主張 裁決書では、後述する国税不服審判所による「事業所得該当性」の判断基準である、次の6項目に分類して、原処分庁と請求人の主張を比較している。 (1) 原処分庁 原処分庁は、上記の諸要素を総合的に考慮して、社会通念に照らして判断すれば、本件業務から生じる所得は雑所得に該当すると主張したうえで、請求人による「本件役務と本件業務とを全体として、事業性の有無を判断すべきである」旨の主張については、所得税法においては、得られる所得の性質や発生の態様ごとに、所得を区分して計算するのであるから、請求人が得ることになる収入についても、その収入の性質や発生の態様を基に所得区分を判断すべきであり、本件役務と本件業務とを全体としてみるべきではないと反論している。 (2) 審査請求人 審査請求人は、上記の諸要素を総合的に考慮して、社会通念に照らして判断すれば、本件業務から生じる所得は事業所得に該当するとしたうえで、本件役務と本件業務が、契約形態は異なるものの、その内容はいずれも独立性を保持して行う専門技術・知識の教授業であって、両者は一体不可分・相互依存関係にあり、同一のものといえることに加えて、本件役務には事業の性格を有するものが含まれていることに照らし、本件役務と本件業務とを全体としてみるべきであると主張した。 4 国税不服審判所の判断 国税不服審判所の判断は、次のとおりであり、結論として、審査請求人が得た原稿料等の収入については、「雑所得」に該当するとして、請求を棄却した。 (1) 事業所得の意義 審判所は、最高裁判所昭和56年4月24日第二小法廷判決を引用して、事業所得とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」をいうと定義したうえで、ある所得が当該事業所得に当たるか否かについては、①営利性及び有償性の有無、②反復継続性の有無、③自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、④その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、⑤人的及び物的設備の有無、⑥その者の職業、経験、社会的地位及び生活状況等を総合的に考慮し、所得税法等の趣旨及び目的に照らし、社会通念によって判断すべきであると解するのが相当であると判示した。 (2) 審査請求人の主張に対する反論 上述のとおり、審査請求人は、本件役務と本件業務が、契約形態は異なるものの、その内容はいずれも独立性を保持して行う専門技術・知識の教授業であって、両者は一体不可分・相互依存関係にあり、同一のものといえることに加えて、本件役務には事業の性格を有するものが含まれていることに照らし、本件役務と本件業務とを全体としてみるべきであると主張した。 この主張に対し、審判所は、所得税法が、所得区分と所得ごとに所得の金額を計算する規定を定めているのは、所得はその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立って、租税負担の公平の観点から、各種の所得について、担税力の相違に応じた計算方法を定め、また、態様に応じた課税方法を定めるという趣旨に基づくものであり、ある所得の所得区分を判断するに当たり、当該所得と所得区分を異にする所得を併せて所得区分を判断することはできないというべきあるという判断を示したうえで、本件業務から生じる所得の所得区分を判断するに当たり、本件業務から生じる所得(本件においては給与所得以外の所得)と所得区分を異にする本件役務から生じる所得(給与所得)を併せて判断することはできないから、本件役務と本件業務とを全体としてみるべきという請求人の主張は採用することができないとして、その主張を退けた。 (3) 本件業務から生じる所得が事業所得又は雑所得のいずれに該当するか 審判所は、上記(1)の①から⑥の判断基準について、それぞれ、次のように判示した。 そのうえで結論として、審判所は、本件業務は必要な人的及び物的設備を有し、有償性及び反復継続性についても一応認めることができるものの、営利性や自己の危険と計算においてする企画遂行性は乏しく、安定した収益を得られる可能性も低かったことや、本件業務を行うに当たり請求人の精神的及び肉体的労力の程度は限定的であったことなどの事情を総合的に考慮し、社会通念によって判断すると、本件業務から生じる所得が事業所得に該当するということはできないため、本件業務から生じる所得は、雑所得に該当するという判断を示した。   【解説】 大学の名誉教授の肩書を有する医師が、大学での講義などで多額の給与収入を得る一方、原稿執筆で得ていた報酬は「事業所得」と「雑所得」のいずれに該当するのか。国税不服審判所が下した判断は「雑所得」であった。事業所得で青色申告が承認されていれば、 といった特典があり、本件の審査請求人も、(2)及び(3)の特典を享受することによって、節税を企図していたものと考えられる。 本稿では、事業所得該当性をどのように担保すべきかという観点から、「事業所得であるという主張を認めさせるためには何が必要だったか」及び「会社員の副業を事業所得として認定させるために必要な要件」について、検討したい。 1 所得区分の定義 本件では、審査請求人が得た原稿料等の収入について、その所得区分が問題となったわけだが、ここで、あらためて、審査請求人に関係する所得区分について、それぞれの定義を確認していきたい。引用する定義は、全て、金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年)に拠っている(一部の文章を省略し、又は補っていることをお断りしておく)。 (1) 事業所得(※1) 事業所得とは、各種の事業から生ずる所得のことであり、事業とは、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行われる活動のことである。 (※1) 金子宏『租税法(第23版)』(弘文堂、2019年、239頁)。 事業と非事業との区別の基準は必ずしも明確ではなく、ある経済活動が事業に該当するかどうかは、活動の規模と態様、相手方の範囲等、種々のファクターを参考として判断すべきであり、最終的には社会通念によって決定するほかはない。 (2) 給与所得(※2) 給与所得とは、俸給・給料・賃金・歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいい、勤労性所得(人的役務からの所得)のうち、雇用関係又はそれに類する関係において使用者の指揮・命令のもとに提供される労務の対価を広く含む概念であり、非独立的労働ないし従属的労働の対価と観念することもできる。 (※2) 前掲(※1)242頁。 (3) 雑所得(※3) 雑所得とは、他の所得区分のいずれにも該当しない所得のことであり、公的年金等とその他の雑所得からなる。その他の雑所得とは、他の種類の所得のように統一的なメルクマールがなく、積極的に定義することは不可能である。事業に該当しない場合の動産の貸付による所得、著作権・特許権等の使用料、原稿料、講演料(中略)等、性質の異なる種々の所得が含まれる。 (※3) 前掲(※1)300頁。 2 大学などでの講義を「事業所得」としていれば、審判所の判断は変わっただろうか 国税不服審判所が認定した事実関係によれば、請求人は、本件各年分において、複数の学校法人や公益財団法人などに対し、救命救急医療等に関する専門技術・知識の教授又は指導等を行い、給与を得て、全ての勤務先から「給与所得の源泉徴収票」の交付を受けていたということである。 この項では、こうした「給与所得」が、「事業所得」に該当する余地はなかったかどうかを検討してみたい。上述の定義どおり、給与所得は、「雇用関係又はそれに類する関係において使用者の指揮・命令のもとに提供される労務の対価を広く含む概念」であることから、審査請求人が「名誉教授」の肩書を得ている大学等における授業や指導については、「給与所得」であることはいうまでもない。 一方、公益財団法人などから依頼を受けて講義を行う場合などは、「雇用関係にある」とはいえないという考えも成り立つのではないか。例えば、依頼された講義を「請負契約」に基づいて行う場合、これは「給与所得」には該当しないため、「事業所得」又は「雑所得」に区分されることとなるはずである。 であるとすれば、審査請求人は、雇用関係に基づかない講義や指導に関する依頼を受ける際に、請負契約によることで依頼者と合意して、事業所得に係る収入金額に計上したうえで確定申告を行っていれば、「安定した収益を得られないことを理由に事業該当性を否定される可能性が減殺できたのではないか」と思料する。 3 給与所得者の副業は事業所得に該当するかどうか 日本型雇用慣行に守られてきた会社員の多くは、その代償として、「副業・兼業禁止」という就業規則に従ってきた。近年、これまでの雇用慣行が変容していく中、2019年にみずほフィナンシャルグループが副業・兼業を解禁する見解を公表して以来、「副業容認」の流れは、徐々に浸透しているようである。さらに、新型コロナウイルス感染症の影響によるテレワークの推進もまた、「副業容認」を加速していると伝えられている。 副業を始めた給与所得者は、この裁決を、どのように読み解けばいいのだろうか。副業が事業所得として認められるために必要な条件は何かについて、国税不服審判所が示した6つの考慮すべき事情に即して検討したい。 「事業該当性」については、その区分基準は必ずしも明確ではなく、最終的には、「社会通念」によって決定されるものであるとすれば、日本型雇用慣行が崩壊しつつあり、雇用の流動化が進み、多様な働き方が容認される社会へと変容している現在の日本社会においても、40年前の最高裁判所判決が有効に機能しているのかどうかは、議論の分かれるところかもしれない。   (了)

#No. 430(掲載号)
#米澤 勝
2021/08/05
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