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事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第28回】「会社清算の注意点」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第28回】 「会社清算の注意点」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) シニアマネジャー 税理士 佐藤 達夫   相談内容 私は、飲食業を営んでいるY社(非上場会社)の社長Aです。Y社の株式は私が40%、私と妻が所有するX社が60%を所有しています。私には子供がいないため事業を親族内で承継せず、外部に売却しようと考えていましたが、会社の業績が新型コロナウイルスの影響により急激に悪化してしまい、今の状況では買い手が見つかりません。Y社の体力が少しでもあるうちに飲食業を廃業し、Y社を清算しようと検討し始めたところ、幸いにも、従業員は、知り合いの会社に転職できることとなりました。私自身は残ったX社からの役員報酬で生活していく予定です。 Y社を清算する際の注意点として、どのようなことがあるかご教示ください。 【図1】現在の資本関係とY社の財務状況 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 清算した場合の税コスト (※1) みなし配当=交付金銭等の額-資本金等の額×株式所有割合   =41,000千円×40%-1,000千円×40%   =16,000千円 (※2) みなし配当=41,000千円×60%-1,000千円×60%   =24,000千円 (※3) X社とY社は、A氏及び配偶者により、発行済株式総数のすべてを所有されているため、X社にとってY社からの配当金は完全子法人からの配当金となり、受取配当金の益金不算入規定により配当金の全額が益金不算入となります。 (※4) 株式譲渡損益=資本金等の額×株式所有割合-A氏所有のY社株式簿価   =1,000千円×40%-400千円   =0円 (※5) 1,000千円×60%-600千円=0円 (※6) 株式譲渡損益課税は、株主が残余財産の分配を受けた場合に生じます。本事例では、株主が会社設立時よりY社株式を有しているため、Y社の資本金等の額と株主のY社株式の簿価の合計額が一致するため、株式譲渡損益課税は生じません。   [2] 清算時の課税関係のまとめ (1) 株主の取扱い 次のとおり、個人株主・法人株主とで課税関係が異なります。 (2) 清算法人(Y社)の取扱い 清算時の検討すべき主な事項は、次のとおりです。 ① 事業年度 解散日をもって事業年度が区切られ、新たに定款に事業年度を定めることになります。解散の決議を行った場合には、解散の日の属する事業年度開始日から解散日まで、解散日の翌日から定款に定めた事業年度終了日までがそれぞれ1つの事業年度とされます(法法14①一)。 ② 欠損金の繰戻還付 解散をした法人(Y社)が青色申告書を連続して提出している場合において、解散の日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は解散日の属する事業年度において欠損金が生じており、その欠損金の生じた事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度において所得が発生し、法人税を納付しているときは、欠損金の繰戻還付の規定により法人税の還付を受けることができます。この欠損金の繰戻還付の適用を受けるためには、解散日から1年以内に、「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を所轄税務署長へ提出する必要があります(法法80①④)。 なお、この規定は、法人税法のみの規定であり、道府県民税、市町村民税及び事業税には、このような規定はありません。そのため、Y社に欠損金が生じた場合には、事業税においては株式所有割合に応じた欠損金をX社に引き継ぐことになります(地法72の23、地令20の3)。 ③ 残余財産確定時の事業年度における事業税 残余財産確定時の事業年度において課される事業税は、残余財産確定時の事業年度の法人税の所得の金額の計算において、損金の額に算入することができます(法法62の5⑤)。 ④ 金銭以外の資産による残余財産分配を行った場合の譲渡損益課税 金銭以外の資産を分配した場合には、分配時における時価により譲渡をしたものとして課税されます(法法62の5①)。ただし、残余財産の分配時に、株主が内国法人のみであり、株主である内国法人と残余財産を分配する内国法人とに完全支配関係がある場合には、その分配資産の簿価により譲渡をしたものとされます(法法62の5③)。この分配資産の簿価により譲渡された場合には、金銭以外の資産の分配を受けた法人(X社)は、金銭以外の資産の分配をした法人(Y社)との間に、金銭以外の資産の分配を受けた日の属する事業年度開始日の5年前の日、X社の設立日、Y社の設立日のいずれか遅い日から継続して支配関係がない場合には、X社の有する繰越欠損金に使用制限が生じます(法法57④)。 また、分配を受けた内国法人(X社)は、分配資産の簿価を引き継ぐこととなり、その簿価相当額の全額を益金不算入とすることができます(法法62の5④)。 ⑤ 繰越欠損金の引継ぎ 内国法人(X社)との間に完全支配関係のある法人(Y社)の残余財産が確定した場合において、法人(Y社)の残余財産が確定した日の翌日以前10年以内に開始した各事業年度において生じた繰越欠損金があるときは、内国法人(X社)は、法人(Y社)の繰越欠損金を引き継ぐことができます。その引き継ぐ繰越欠損金は、「繰越欠損金の額×株式所有割合を乗じた金額」となります(法法57②)。 ただし、内国法人(X社)との間に完全支配関係のある法人(Y社)が、残余財産の確定日の翌日の属する事業年度開始日の5年前の日、X社の設立の日、Y社の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がない場合には、Y社の繰越欠損金の引継ぎにあたり、X社に引継ぎ制限が生じます(法法57③)。   [3] 結論 会社を清算する場合においては、次の点を考慮し、清算時の税コストを検討する必要があります。 本事例においては、仮に、A氏が所有するY社株式をX社に売却した後、Y社を清算した場合には、清算時に負担する税コストは、A氏のY社株式売却時の時価が16,400千円(時価純資産41,000千円×40%)とすると譲渡益16,000千円に対して3,250千円(16,000千円×20.315%)に抑えることができます。 そのため、A氏が所有するY社株式をX社に売却し、株主をX社に集約することも選択肢の1つと考えられます。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 414(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2021/04/08

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第51回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第51回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (12) 立案担当者の見解の要旨 『平成30年度 税制改正の解説』の記述から、法人税法22条の2第4項又は5項の規律内容を理解するために参考となる立案担当者の見解を抽出してみたい。なお、立案担当者の解説は、文字どおり、あくまで立案担当者の解説にすぎないため、これに盲従することは妥当ではないが、実際には、他に有力な立法関係資料がないことと相まって、改正規定の趣旨を理解するための1つの重要な手掛かりとなる。 ア 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか① 法人税法22条の2第4項に関して、『平成30年度 税制改正の解説』は次のとおり解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 ここで注目しておきたいのは、「収益認識に関する会計基準に基づく会計処理も、『一般に公正妥当と認められる会計処理の基準』に従った計算に該当し得る」という考え方を出発点としていることである。 収益認識会計基準が法人税法22条4項の公正処理基準に該当する可能性があることを前提とすると、同項を通じて、同基準の規律が法人税法においても通用する可能性が出てくる。同基準が入り口(穴)を通って、法人税法の世界に流れ込んでくるイメージである(本連載第45回参照)。 このような理解に基づいて、改正の必要性が検討されたことになる。「収益認識に関する会計基準に従った収益の額の計算のうち、法人税の所得の金額の計算として認めるべきでない部分があれば、その部分を明示する必要が生ずる」というのである。 本連載第17回で見たように、立案担当者によれば、収益認識会計基準の導入を契機として収益の計上「額」に係る規定(法人税法22条の2第4項)を定めることがまず必要とされ、次いで、かかる規定の整備に伴い、収益の計上「時期」に係る規定(法人税法22条の2第1項等)の制定にまで切り込んだという説明が成り立ちそうである イ 収益認識会計基準の導入に対応する形で、法人税法の改正を行うべきか② 『平成30年度 税制改正の解説』は、次のとおり、資産の販売等に係る収益の額は、資産の販売等により受け取る対価の額ではなく、販売等をした資産の価額をもって認識すべきという考え方を法人税法が採用しているとする。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 法人税法22条の2第4項との関係では、資産の販売等に係る収益の額について、資産の販売等に係る取引においてインプットされるもの(インフローないし取引上の対価、売掛金等の額をイメージ)とアウトプットされるもの(アウトフローないし販売した資産の価額をイメージ)のいずれに着目して決定すべきかという点が問題となる。 『平成30年度 税制改正の解説』は、上記のとおり、資産の販売等に係る収益の額は、資産の販売等により受け取る対価の額ではなく、販売等をした資産の価額をもって認識すべきという考え方を法人税法が採用していることからすると、収益認識会計基準のように取引上の対価の額を基礎として益金の額を計算する方法は採用できないことを明言する。 その上で、次のとおり、法人税法において「価額」すなわち時価とは、一般的には第三者間で取引されたとした場合に通常付される価額とされていることを前提として、この意味での価額は、結局のところ対価の額に落ち着く可能性に言及する(この点は次回のウも参照)。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 値引きや割戻し、貸倒れ見込みや返品権付きの販売については、次のとおり説明している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270頁 上記下線部分については平成30年度改正法に明記されたわけではなく、次のような疑問を残すことになる。 明確な立法措置をとらなかったことによって、立案担当者の説明にあるような解釈を条文から読み取ることができるのかという点が今後問題となる可能性を残してしまったことは残念である。 結局、『平成30年度 税制改正の解説』は次のようにまとめている。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』270~271頁 下線①については法人税法22条の2第5項で明記された一方、下線②については条文に明記されておらず、法人税基本通達2-1-1の11という通達レベルでの対応となっている。やはり、租税法律主義の原則の面前において、かかる通達の内容が関係法規から導き出すことができるかという点が問われることになろう。せめて、法律から政令に委任して、政令レベルで細則的規定を設けるべきではなかったか。   (了)

#No. 414(掲載号)
#泉 絢也
2021/04/08

金融・投資商品の税務Q&A 【Q62】「特定口座及びNISA口座開設等の手続に関する電磁的方法の利用」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q62】 「特定口座及びNISA口座開設等の手続に関する電磁的方法の利用」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 特定口座の開設手続 (1) 特定口座の利用にあたっての選択肢 特定口座では、上場株式等に関する通常の譲渡のほか、信用取引又は発行日取引に係る差金決済取引を行うことができます。特定口座内で管理する上場株式等に関する取引は、それ以外の上場株式等に係る取引と区分して、上場株式等の譲渡による譲渡所得等の金額を計算することとされています。 そして、利用者の選択により、特定口座を開設する証券会社等に対して、その年における特定口座内で管理する上場株式等の譲渡益と信用取引等に係る差金決済により生じた差損益を合計し、その合計額(源泉徴収選択口座内調整所得金額)に対して20.315%の税率で源泉徴収することを依頼することができます(源泉徴収選択口座)。 源泉徴収選択口座を保有する場合、当該源泉徴収選択口座内で管理する上場株式等の配当等(源泉徴収選択口座内配当等)についても、それ以外の上場株式等に係る配当等と区分して配当所得等の金額を計算することができます。この源泉徴収選択口座内配当等の金額は、源泉徴収選択口座内で生じた上場株式等に係る譲渡損失及び信用取引等に係る差金決済により生じた損失の金額がある場合は、それらの損失金額と通算した上で、源泉徴収されます。 (2) 必要な手続 特定口座の開設、源泉徴収選択口座の選択、源泉徴収選択口座への配当金の受入れに際しては、それぞれ下記の書類の提出が求められます。 上記の届出書は、証券会社等の窓口で書面にて提出することに代えて、電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法)によることも法令上認められています。具体的には、各証券会社のウェブサイトで入力画面が用意されていますので、それらを利用することになります。 また、これまでは、上記の届出書を提出する際には、窓口で書面を提出する場合も電磁的方法による場合も、その都度、住民票の写しなど本人確認書類を提示する必要がありましたが、令和3年度の税制改正により、すでに本人確認書類が提示された特定口座に関する届出書については、その提示を要しないこととされました。 つまり、特定口座開設届出書の提出時に本人確認書類を提示するため、その後に、特定口座源泉徴収選択届出書や源泉徴収選択口座内配当等受入開始届出書を提出する際には、本人確認書類を再度提示する必要はなくなりました。   2 NISA口座の開設手続 NISA口座では、上場株式等(公募株式投資信託等を含みます)を保有し、5年間の非課税措置の適用を受ける(一般NISA)か、又は、非課税累積投資契約を締結することにより、一定の公募等株式投資信託を保有し、20年間の非課税措置の適用を受けることができます(つみたてNISA)。 令和6年には制度改正が予定され、一般NISAは2階建て構造(安定的な資産形成を目的とした1階部分には、つみたてNISAに認められる一定の公募等株式投資信託等を組み入れ、成長資金の供給拡大等を目的とした2階部分には、上場株式等を組み入れます)となります。 一般NISAもつみたてNISAも、口座の開設時には、非課税口座開設届出書を提出することが必要です。これについても、証券会社等の窓口で書面にて提出することに代えて、電磁的方法によることが認められています。 また、NISA口座についても、特定口座と同様に、令和3年度の税制改正により、すでに本人確認書類が提示された口座に関する追加的な届出書(金融商品取引業者等変更届出書など)については、本人確認書類の再提出は不要とされました。   (了)

#No. 414(掲載号)
#西川 真由美
2021/04/08

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第70回】「課税処分と信義則事件」~最判昭和62年10月30日(集民152号93頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第70回】 「課税処分と信義則事件」 ~最判昭和62年10月30日(集民152号93頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 414(掲載号)
#菊田 雅裕
2021/04/08

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第24回】「居住したことのある生計を一にする親族の居住用家屋を譲渡した場合」-生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第24回】 「居住したことのある生計を一にする親族の居住用家屋を譲渡した場合」 -生計を一にする親族の居住用家屋の譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xは、8年前に取得した家屋に、6年前まで母と共に居住していましたが、Yと結婚したことから、その家屋に母を残して、妻と共に賃貸マンションで暮らしていました。 転居後も、母はその家屋に引き続き居住し、母の生活を維持するために生活費を毎月送金してきました。 その母が高齢となったことなどから、Xは、このほど、その家屋とその敷地を売却し、銀行に住宅ローンを組んで新居を購入する予定です。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 譲渡資産であるその所有する家屋が、措通31の3-2(居住用家屋の範囲)に定める家屋に該当しない場合であっても、措通31の3-6(生計を一にする親族の居住の用に供している家屋)に定める次の全ての要件を満たしているときは、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 ただし、その家屋の譲渡、その家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等の譲渡、又は、災害により滅失(措通31の3-5(居住用土地等のみの譲渡)に定める取壊しを含みます)をしたその家屋の敷地の用に供されていた土地等の譲渡が上記(2)の要件を欠くに至った日から1年を経過した日以後に行われた場合には適用できないこととされています 本事例の場合のXは、上記(1)~(4)の要件の全てを満たし、生計を一にする母親が譲渡直前まで居住の用に供していることから、「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)

#No. 414(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/04/08

2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第5回】

2021年3月期決算における会計処理の留意事項 【第5回】 (追補)   RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋   ◎ グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)の公表 2020年3月27日に「所得税法等の一部を改正する法律」(令和2年法律第8号)が成立し、 2022(令和4)年4月1日以後最初に開始する事業年度から「連結納税制度」から「グループ通算制度」に移行することになる。 【連結納税制度とグループ通算制度の主な相違点】 (※) SRLYルールとは、「開始・加入前に発生した欠損金は、その欠損金が発生した法人の所得とのみ相殺できる」ことをいう。 (出所:経済産業省「令和2年度(2020年度)経済産業関係税制改正について」P.16) 現在、連結納税制度に関する税効果の会計基準としては、以下がある。 しかし、グループ通算制度への移行に際し、グループ通算制度を適用する場合の税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定める必要があるため、ASBJより2021年3月30日に実務対応報告公開草案第61号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(案)(以下、「実務対応報告第61号案」という)が公表された。 (1) 通算税効果額の授受を行わない場合の取扱い 通算会社(グループ通算制度を適用する企業)が申告納付を行う税額は、通算前所得に対して通算グループ内の他の通算会社との損益通算や欠損金の通算を行った後の課税所得を基に算定されたものであり、当該通算による税額の減少額を通算税効果額(※)として、通算会社間で金銭等の授受が行われることが想定されている。ただし、授受を行うか否かは任意である(実務対応報告第61号案36)。 (※) 通算税効果額とは、法人税法第26条第4項に規定する通算税効果額をいい、損益通算、欠損金の通算及びその他のグループ通算制度に関する法人税法上の規定を適用することにより減少する法人税及び地方法人税の額に相当する金額として、通算会社と他の通算会社との間で授受が行われた場合に損金又は益金の額に算入されない金額をいう(実務対応報告第61号案5(10))。 連結納税制度においても個別帰属額の授受を行うことは任意であったが、大半の企業は授受を行っており、グループ通算制度においても通算税効果額の授受を行うことが想定される(実務対応報告第61号案37)。 また、通算税効果額の授受が行われない場合の取扱いの検討には一定の困難性があるものと考えられる。したがって、実務対応報告第61号案では通算税効果額の授受を行うことを前提として会計処理及び開示を定め、通算税効果額の授受を行わない場合の会計処理及び開示については、実務対応報告第61号案では、連結納税制度における取扱いを踏襲するか否かも含め取り扱わない(実務対応報告第61号案3、37)。 (2) 会計処理及び開示の基本的な方針 連結納税制度とグループ通算制度とでは、全体を合算した所得を基に納税申告を親法人が行うか、各法人の所得を基にそれらを通算した上で納税申告を各法人が行うかなどの申告手続は異なるが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じである。 そのため、基本的な方針として、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号等の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲する(実務対応報告第61号案39)。 以上から、基本的には、連結納税時と同様に(又は同様の考え方で)会計処理及び開示を行う必要がある。 (3) 適用時期 適用時期は以下のとおりである(実務対応報告第61号案31、65)。なお、2021年3月期では、実務対応報告第61号案は適用されないため、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い(以下、「実務対応報告第39号」という)」に従い、連結納税を前提として会計処理することができる。詳細は、「2021年3月期決算における会計処理の留意事項」の【第1回】を参照されたい。 (4) 経過措置 ① 連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度へ移行する場合 連結納税制度を適用している企業がグループ通算制度に移行する場合、税制の変更による影響と会計方針の変更による影響が生じると考えられるが、実務対応報告第61号案は実務対応報告第5号等の会計上の取扱いを踏襲しており、会計方針の変更によって重要な影響は生じないと考えられることから、会計方針の変更による影響はないものとみなす(実務対応報告第61号案32(1)、66)。 なお、実務対応報告第39号の特例的な取扱いを採用している企業は、実務対応報告第61号案の適用前においては税制の変更による影響が考慮されておらず、実務対応報告第61号案の適用によって考慮することになることから、実務対応報告第61号案の適用時において、税制の変更による影響を損益、その他の包括利益又は評価・換算差額等として計上することとなる(実務対応報告第61号案66)。 ② 単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度へ移行する場合 通常、グループ通算制度を新たに適用する場合、グループ通算制度の適用の承認があった日を含む年度から、翌事業年度よりグループ通算制度を適用するものとして税効果会計を適用する(実務対応報告第61号案21)。 しかし、単体納税制度を適用している企業がグループ通算制度へ移行する場合、税法におけるグループ通算制度への移行が行われる年度においては一定の準備期間を要するため、当該定めによらず、原則適用及び早期適用の時期(上記(3)参照)から適用する(実務対応報告第61号案32(2)、67)。 ③ 連結納税制度を適用している企業が単体納税制度に移行する場合 実務対応報告第61号案第31項(上記(3)参照)にかかわらず、グループ通算制度を適用しない旨の届出書を提出した日の属する会計期間(四半期会計期間を含む)から、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度より単体納税制度を適用するものとして税効果会計を適用する(実務対応報告第61号案33)。 (5) 廃止 実務対応報告第5号、実務対応報告第7号、実務対応報告第39号については、実務対応報告第61号案の適用により、これらの実務対応報告を適用する企業が存在しなくなった段階で廃止する(実務対応報告第61号案34)。 (連載了)

#No. 414(掲載号)
#西田 友洋
2021/04/08

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第112回】ネットワンシステムズ株式会社「外部調査委員会調査報告書~ガバナンス・企業文化の観点から~(開示版)(2021年3月18日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第112回】 ネットワンシステムズ株式会社 「外部調査委員会調査報告書~ガバナンス・企業文化の観点から~(開示版)(2021年3月18日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【ネットワンシステムズ株式会社外部調査委員会の概要】   【ネットワンシステムズ株式会社の概要】 ネットワンシステムズ株式会社(以下「ネットワン」と略称する)は、1988(昭和63)年2月設立。情報インフラ構築と関連サービスの提供を主たる事業とする。売上高186,167百万円、経常利益16,563百万円、資本金12,279百万円、従業員数2,431名(いずれも2020年3月期連結実績)。本店所在地は東京都千代田区。東京証券取引所1部上場。会計監査人は有限責任監査法人トーマツ(以下「トーマツ」と略称する)。 ◎循環取引の端緒発覚から本調査報告書公表に至る経緯   【調査報告書の概要】 2020年11月2日に設置された外部調査委員会は、調査対象となった事案に関する事実関係についての調査結果を12月16日に公表したものの、当該報告書には、「原因分析」と「再発防止策の提言」についての記述がなかった(本連載【第109回】参照)。 本報告書は、12月16日に開示された報告書に係る事実認定を基に、外部調査委員会が、ネットワンにおいて不適切な事案が繰り返される原因についての役職員の意見を確認するとともに、役職員の声も踏まえたうえで実効的な再発防止策を提言するために設けた「目安箱」に寄せられた役職員からの意見を踏まえて、「原因分析」と「再発防止策の提言」をまとめたものである。 1 「外部調査委員会調査報告書~ガバナンス・企業文化の観点から~」の目次 調査報告書は200ページを超える膨大なものであるため、はじめに、目次に着目することにより、外部調査委員会が問題視し、再発防止のために必要と考えている点を概観しておきたい。 (※1) 報告書では、ネットワンのことを「NOS」と略称しており、本稿でも、報告書を引用する部分では、「NOS」の略称をそのまま用いることがある。 外部調査委員会が原因分析として採用した「視点」は、「内部統制・内部通報・企業文化」、「三様監査」、「過去調査に基づく再発防止策の不徹底等」及び「ガバナンス」の4つであった。以下では、これらの視点に基づく原因分析の中から、いくつかをピックアップして、外部調査委員会の分析結果を検討したい。 2 第1ライン、第2ラインの問題点と三様監査 外部調査委員会は、営業部門である第1ライン及びリスク管理部門である第2ラインについては、「問題点」を指摘しているが、第3ラインである内部監査室については、経営陣による内部監査室の軽視と「三様監査」の問題であると捉えているようである。 (1) 第1ラインの問題点 外部調査委員会は、不正が発覚した東日本第1事業本部第1営業部における業務を分析した結果として、第1ラインには、「リスクオーナーとしての自覚の欠如」という問題点があることを指摘している。すなわち、当事者である営業部門の担当者においては、案件を円滑に遂行するためには、ルールを破ってもやむを得ないとする意識があり、営業部門の上席役職者や技術部門の担当者には、営業担当が適正に業務を行っているかを確認する意識というものがなかったことを挙げ、リスクオーナーである第1ラインが、相互に牽制あるいは支援していくという意識を持っていないこと、リスクオーナーとしての自覚の欠如が、本件案件の原因となってしまったと論じている。 (2) 第2ラインの問題点 外部調査委員会は、ネットワンの第2ラインにおけるリスク管理、コンプライアンス活動及び経理部によるチェック体制に関して、一定の体制構築及び業務実態が認められるものの、本件案件のような会計不正に係る不正事案の発生防止及び不正探知の見地からは、本来求められるべき水準には達していなかったものといわざるを得ないとまとめている。とりわけ、第2ラインの中でも経理部の体制について、紙数を割いて言及しているので、見ておきたい。 外部調査委員会は、経理部の課題として、「売上計上の適正化」があり、会計監査人対応のほか、営業部による売上計上について会計基準から見た妥当性をチェックすることや、売上計上ルールの周知を行うことが掲げられていたこと、職務分掌規程では、経理部は、全ての取引を会計処理し、財政状態及び経営成績の把握並びに情報開示を行うとともに、グループ事業を支援することについて責任を有し、制度会計、決算、税務等の業務を行うとされていることを挙げたうえで、経理部において、全ての営業部門における事業内容や実務を把握したうえで、会計に係る不正リスクを意識した適切な会計判断や営業部門への調査等を実効的に行い、併せて営業部門への指導や支援等まで業務を遂行していける人員体制となっていたかについては疑問が残ると指摘している。 その理由として、経理部の体制の問題(2020年における人員は16名に過ぎない)のみならず、経理部の職員において会計不正リスクに対する意識や感度が高くはなく、実際に起こりうるリスクとしては具体的には意識されていなかったことや、営業部門に対しては購買部が牽制をかけてくれるだろうといった「人任せ」の意識、「基本的には営業部門の言うことが正しい」との考えがあり、それゆえ、営業部門に対して数字の説明を求めたとしても、疑うという観点ではなく、エビデンスを求めるでもなく聞いた話をそのまま信じてしまっていたという実態がヒアリングにおいても認められるとして、第2ラインが、会計不正に係る不正事案の発生防止及び不正探知の見地からは、本来求められるべき水準には達していなかったとの結論を導いている。 (3) 3ラインの重要性についての認識の不十分性(リスク管理体制の構築・運用に係る「他人事」の姿勢)(調査報告書106ページ以下) 外部調査委員会は、ネットワンの経営陣は、3ラインの重要性を十分に認識していなかったために、営業部門・技術部門・購買部門(第1ライン)、管理部門(第2ライン)及び内部監査部門(第3ライン)を基軸としたリスク管理体制の脆弱性を認識しながら、その是正のための取組を行ってこなかったことを指摘して、経営トップを中心とする経営陣が、いわば「他人事」としてリスク管理体制の改善のための十分な取組を行ってこなかったことが、本件案件が発生する一因であると断じている。 特に、第3ラインである内部監査室については、社長直轄の部署として、専門的知識を有した人材が内部監査の重要性を認識したうえで意欲的に業務に取り組むことができるように、適切な人材を配置するとともに、内部監査室からの報告内容をもとに、不備等の原因を分析し、再発防止のための措置を検討する必要があったにもかかわらず、経営陣は、内部監査部門を義務的に設置しているコスト部門としてのみ捉え、その存在意義を十分に理解しておらず、その結果、内部監査室の質を改善するための実効的な措置は講じられてこなかったうえ、内部監査の結果報告された異例とも思える件数の不備・注意についても、是正するための具体的な対応が取られることはなかったと批判している。 (4) 三様監査(調査報告書56ページ以下) 外部調査委員会は、報告所のうち36ページを「三様監査」の分析に費やしている。その結果、内部監査室による内部監査、並びに、経営陣と内部監査、監査役監査及び会計監査との各連携等において、様々な問題を指摘し、中でも、内部監査においては、毎年多数の不備等を指摘しながらも、フォローアップの不十分性、被監査部署との関係性等から、指摘件数、割合が非常に高い水準のままになってしまっていたことを問題視し、その原因として、内部監査室員の意識・気構え、内部監査室の組織としての能力の問題であると同時に、経営陣に、第3ラインの重要性の認識が不十分であり、被監査部署に対する指導を含む、抜本的な改善策を行わずにそのままにしていたことを挙げている。一方、連携の問題点については、「監査役や会計監査人においても内部監査室との連携をより緊密に取ることが期待された」と述べるにとどまっている。 3 過去調査に基づく再発防止策の不徹底等 外部調査委員会は、調査の結果、次のとおり、過去の2つの会計不正事案に係る再発防止策の不徹底などが本件案件の間接的な原因になっていたと認定した。 (1) 2013年事案(調査報告書93ページ以下) (※2) 詳細は本連載【第6回】を参照いただきたい。 2013年事案の再発防止策について、外部調査委員会は、次のように評価した。 (2) 2014年事案(調査報告書103ページ以下) 外部調査委員会は、2014年事案については、社内での周知は行われておらず、ヒアリングによっても、2014年事案の存在やその概要を認識していたのは、当時の調査に関わった者などの一部の職員に限られていたことを批判し、仮に当時、2014年事案を職員に周知していたとすれば、IT業界において不正が広まっており、1年前に発覚した2013年事案が一過性の偶発的な事案ではないことや、架空取引が不正であること、プール金が不正の温床となりやすいこと等の当然の認識を、改めて職員に惹起する契機となり得たことは否定できないと結論づけて、不正行為に対する職員のリスク・コンプライアンス意識を醸成するための1つの有益な機会を失ったと考えられるとまとめている。 4 再発防止策の提言(調査報告書173ページ) 外部調査委員会は、多角的な原因分析に対応する形で、27ページに及ぶ再発防止策の提言をまとめているが、本稿では、再発防止策の冒頭に置かれた「企業の在り方の抜本的見直しの必要性」に注目したい。 外部調査委員会は、「組織の在り方の見直しの必要性について」、原因の根底には、ネットワンの組織の在り方がビジネスモデルや経営環境の変化等に対応しきれていないことがあるとして、個別の再発防止策の実施にとどまらない抜本的な組織改革が急務であると強調している。 具体的には、従来は、ネットワーク機器の仕入販売を行うというビジネスモデルが中心であったが、現在は、技術や商品を利用したネットワークシステムの構築から高付加価値サービスの提供まで広く取り扱うとともに、顧客の多様化も進んでいることから、非定型化・複雑化したビジネスモデル及び経営環境の下では、従来のように1人の営業担当の責任の下で案件を遂行することは現実的でなく、「非定型化・複雑化したビジネスモデルにチームで対応できる健全な組織づくり」を行う必要があることをまず挙げている。 そのためには、「いかにして顧客に最良のソリューションを提供するか」を最優先事項として、 を求めたうえで、このような組織づくりを実効的に行うためには、役職員全体の意識改革、すなわち企業文化の改革が必要となることは言うまでもないとして、経営トップをはじめとする経営陣がリーダーシップをもってその取組を徹底することが必要であると結んでいる。   【調査報告書の特徴】 外部調査委員会による調査も終盤に入っていたと思われる2021年3月10日、「ネットワン社元社員を逮捕 PC代1,500万円詐取容疑」というニュースが報じられた。以下、毎日新聞の記事を引用する(一部、かっこ書き等を省略している)。 この記事を読んで驚いたことが3つあった、1つ目は、逮捕された元従業員の年齢が42歳であったこと。IT関連各社の営業担当を仕切って大規模な循環取引を首謀したとされる者について、もう少し年齢が上だという印象を持っていた。2つ目は、PC代金の詐取という事案は、これまで開示されたどの報告書にも言及がなかったこと。3つ目は、2011年にPC代金の詐取を始めていたということは、2008年に中途入社した牟田容疑者は、その3年後、まだマネージャーに昇格する前に、こうした不正を実行できる立場になっていたということである(※3)。 (※3) 「特別調査委員会の中間報告書受領及び公表に関する説明会質疑応答(要旨)〈2020年2月13日(木)15:30開催〉」の中で、A氏(牟田容疑者)について、2008年入社の中途採用で、2014年にマネージャーになったことが説明されている。 1 元従業員の逮捕容疑 新聞報道を受けて、ネットワンは、「当社元従業員の逮捕について」というリリースを出した。 懲戒解雇した理由は「納品実体のない取引を実行したこと」であり、逮捕容疑の詐欺ではないことが読み取れるが、ネットワンが刑事告訴していた「容疑」について言及がない。PC代金の詐取は、いつの時点で把握されていたのか、これまで公表された報告書に開示がなかったのはどういう理由によるものか、2020年12月14日付報告書で事実の解明がされた架空・水増し発注による仕入代金のプライベートカンパニーへの流出事案は、事件全体の中で、どこに位置づけられるのか、まだまだ不明な点が多い。 2 会計監査人はなぜ不正を見抜けなかったのか 調査報告書には、「経営陣及び会計監査人の間のコミュニケーションについて」との項目が設けられ(調査報告書92ページ)、以下のような記述がある(一部省略)。 ネットワンの会計監査人は、1996年の株式店頭登録以来ずっとトーマツが務めているが、過去のネットワンの不正事案について、トーマツが積極的に改善策や再発防止策を提言したという記述は、これまで公開された報告書には見当たらない。この報告書では、2019年循環取引事案のうちの複数の取引が会計監査で問題となり、トーマツが経営者確認書の提出を求めたうえで、監査覚書に以下のように記載した(調査報告書141ページ)。 こうした一連の会計監査人の対応について、外部調査委員会は、会計監査人が納品確認を徹底していれば、「実体のない取引であることが判明した可能性がある」としながらも、「監査覚書の記載は、取引の具体的な疑義を示すものというよりは、直送案件については実在性の確認を徹底すべきことを一般的に指摘するものとも解される」としたうえで、会計監査人が実体のない取引に気づかなかった原因を追及するのではなく、当時代表取締役会長であった吉野孝行氏(以下「吉野氏」と略称する)について、経営者確認書による確認が求められたことがある状況を踏まえ、吉野氏としては、会計監査人からの指摘を踏まえて、社内で実在性に疑義のある取引が行われるリスクがあることを強く認識し、より慎重な確認や注意喚起をすることがより望ましかったとも考えられると結んでいる。 3 ネットワンによる再発防止策 ネットワンによる再発防止策については、同社が、3月19日に行った「外部調査委員会の提言、及び、当社の今後の対応説明会」における資料から引用したい。 4 取締役及び監査役の辞任 ネットワンは、上記3で引用した説明会において、代表取締役社長荒井透氏、取締役会長吉野孝行氏、取締役(常務執行役員東京第1事業部長)平川慎二氏及び常勤監査役の松田徹氏が、2021年3月31日をもって取締役及び監査役を辞任して経営体制の刷新を図る旨を申し出たことから、これを受理したことを公表した。 荒井氏及び吉野氏にあっては、ネットワンの過去の不正事案発覚の過程で常に取締役の地位にありながら、役員報酬の自主返納という、「取締役の経営責任及び監督責任を適切に反映したものであったかには疑問が残る(調査報告書171ページ)」処分で済ませていたものであるが「不正事案によって毀損したステークホルダーの皆様の信用を早期に回復する」ために、自ら辞任を申し出たということである。 一方の松田氏は、2013年事案における再発防止策の一環である「内部監査の強化」を図るため、当時、総務部長であった同氏を内部監査室長に異動させ、その後、2015年6月からは監査役を務めており、唯一の常勤監査役でもあったことから、責任を取ったものとみられる。なお、後任の常勤監査役には社外監査役である須田秀樹氏が就任するということであり、次の株主総会までの緊急的な就任であるとは理解できるものの、1943年生まれのご高齢に加えて、会社の情報を把握しづらい社外監査役という立場で、再発防止策の1つである「監査体制の抜本的な見直し」の中で挙げられている「監査役の体制強化」につながるのかどうか、疑問を感じるところである。 (了)

#No. 414(掲載号)
#米澤 勝
2021/04/08

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第13回】「不倫がセクハラに発展した場合の注意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第13回】 「不倫がセクハラに発展した場合の注意点」   弁護士 柳田 忍 【Question】 当社のセクハラ相談窓口に対して、社員A(女性)から「上司B(男性・既婚)に意に沿わない交際を強要された挙げ句、Bにつきまとわれていて困っている」との申告がありました。 当社において事実関係の調査を行ったところ、実は、AとBは不倫関係にあったが、Aが一方的に関係を解消したところ、Bが復縁を求めてAにつきまとっていたという事実が判明しました。Bの行為はセクハラに当たるのでしょうか。また、Bに対して懲戒処分を実施すべきでしょうか。 【Answer】 Bの行為はセクハラに該当する可能性があります。その場合、Bに対して懲戒処分を行うことは可能ですが、それが妥当な解決策であるか否かをよく検討する必要があります。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 1 不倫とセクハラ まず、一見、ただの不倫関係のように見える場合でも、実は上司・部下の関係を背景に性的関係を強要されている場合がある。セクハラとは、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けたり、その性的な言動により当該労働者の就業環境が害されたりすることを指すことから(拙稿第1回参照)、このような性的関係の強要はセクハラに当たる。 また、元交際相手に対するつきまとい行為がセクハラに該当する場合がある。Y(男性上司)が、X(女性部下)との肉体関係を伴う交際関係が解消された後、Xに約3ヶ月間つきまとうなどしたため、XがY及び会社に対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案において、Yは単に復縁のためにXに接触していただけであると主張したが、YのXに対するセクハラが認められた(イビデン事件高裁判決(名古屋高判平成28年7月20日労判1157号63頁))。 本件においては、調査結果によると、AとBとの関係自体は合意に基づく不倫関係に過ぎないとのことである。従業員の恋愛関係は私的領域に属する事項であり、それが社内不倫であっても、原則として懲戒処分の対象とすることはできない。よって、本件においても不倫関係を理由にBの懲戒処分を行うべきではない。一方、Bが復縁を求めてAに接触した行為については、接触の態様、回数、期間等にもよるが、Bを懲戒処分の対象とすることは可能である。   2 不倫がセクハラに発展した場合の対応策 もっとも、このようなケースにおいては、単にBの行為が懲戒処分に値するか否かを検討すれば良いというものではないように思う。Bに対する懲戒処分が譴責や戒告程度であれば別論、減給、出勤停止、解雇などになると、Bの妻が本件ハラスメントについて認識する可能性が生じる。 その結果、本件ハラスメントの被害者であるAが、Bの妻から不倫行為等を理由とした損害賠償請求を受ける可能性がある。仮にAがかかるリスクを認識しないままに被害申告を行っているとすると、実際にBの妻がAに対して損害賠償を請求した場合に、会社とAの間でトラブルに発展するおそれがある。よって、Bの行為が懲戒処分相当であるとの判断に至ったとしても、Bの懲戒処分を決定する前に、まずは、Aに対して上記のようなリスクがあることを説明すべきである。場合によっては、Aの了解を得たうえで、「Bによる言動は懲戒事由に該当するものの、Bが今後はAに対して接触しないことを約束するのであれば、会社の温情により、今回は懲戒処分を科さない」といった対応も考えられるかと思われる。 もっとも、Bの行為が懲戒処分相当の行為である場合は、懲戒処分を科したか否かという事実や懲戒処分の種類について会社の前例となることになる。公平性を欠く懲戒処分は無効となる場合があるため、Bの行為が懲戒処分相当であるにもかかわらず、懲戒処分を科さない場合には、今後、似たような事件が発生したときに厳重な処分を行うことが難しくなる可能性がある点について留意する必要がある。 また、通常の人事上の措置の一環として、AとBの職場を分けるなど、事実上、AとBの関係を絶つための配慮を行うということも考えられる。 (了)

#No. 414(掲載号)
#柳田 忍
2021/04/08

〔一問一答〕税理士業務に必要な契約の知識 【第16回】「税理士の説明義務とそれにまつわる注意点」

〔一問一答〕 税理士業務に必要な契約の知識 【第16回】 「税理士の説明義務とそれにまつわる注意点」   虎ノ門第一法律事務所 弁護士 川上 邦久   〔質 問〕 ①説明義務が認められる法的根拠は何ですか。 ②説明義務の実質的根拠は何ですか。どのような場合に問題となりますか。 ③契約書での対応としてはどのようなものがありますか。 〔回 答〕 ①委任契約において受任者が法律上当然に負う善管注意義務(民法644条)の一形態として「助言・指導義務」「調査・確認義務」などと並んで認められます。 ②顧客に自己決定の機会を与えるということが実質的根拠とされています。「選択の余地のある税務処理をする場合」に、顧客から、きちんと説明を受けていれば別の選択をしていたと結果的に思われてしまった場合に問題となります。 ③いわゆる免責規定を設けることには懸念点がありますが、少なくとも委任事務の対象を特定することで、説明義務が生じる対象を限定することが考えられます。 ◆◆◆◆ 解 説 ◆◆◆◆ 1 善管注意義務の一形態としての説明義務 税理士と顧客との間で締結される税務顧問契約その他の業務委託契約は、原則として委任契約と考えられている(本連載【第14回】参照)。 委任契約において、受任者は、法律上当然に「委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務」(いわゆる善管注意義務)を負う(民法644条)。 受任者の善管注意義務は、受任者が「委任事務の処理」を行う全ての局面で問題になるが、どのような局面を想定するかによって、受任者に求められる義務の具体的な中身は異なる。本稿で扱う説明義務も、(広義の)善管注意義務の一形態ということになる。 ここで、税理士による「委任事務の処理」の流れを単純化すると、以下のように整理することができる(なお、実際には、各段階がこのように明確に区別できるわけではないし、各段階で問題となる義務の呼称についても、用法が確立しているわけではないので、あくまでも1つの整理としてご参照いただきたい)。 (1)は、いわゆる「事前税務相談」である。これは、どのような事実を発生させれば顧客にとって有利となるかを助言・指導するというもので、未発生の事実を対象とした委任事務であるという点で、既発生の事実を前提とした(2)以下の委任事務と区別されることになる(税理士職業賠償責任保険でも、「事前税務相談」に関する保険は「特約」として設計されている)。ここで問題となるのが「助言・指導義務」である。 (2)については、税理士においてどのような資料・情報が必要になるかを指示する必要はあるが、基本的には顧客の責任で行うべきものである。顧客が資料・情報を提供しなかったために顧客に損害が生じたとしても、原則として税理士が責任を負うことはない。 (3)について問題となるのが「調査・確認義務」である。必要な資料・情報の提供は、原則として顧客の責任で行うべきものであるが、「顧客から提供された資料・情報」に誤り・虚偽があることに税理士が気づいており、あるいは容易に気づくことができた場合には、税理士においても調査・確認を行う義務があるとされることがある。 (4)は、税理士による「委任事務の処理」の根幹であり、ここで税理士が果たすべき義務を指して単に「善管注意義務」ということもある。確定された事実を前提として、適法かつ顧客の利益となるように法律を適用し税務処理を行うことは、税務専門家である税理士に当然に求められる責務である。 (5)は、税務処理を行うにあたって付随的になすべき事項であり、ここで問題となるのが本稿で扱う「説明義務」である。   2 説明義務が問題となる場面 「説明義務」とは、税務処理の内容について顧客に説明し、その承諾を得る義務である。 この点、もちろん「顧客サービス」として顧客への説明を行うことが望ましいことは理解できるが、日々の研鑽を怠らず、税法や通達の改正にもキャッチアップし、税務専門家として「誤り」のない処理をしてさえいれば、顧客への説明を「法的な義務」とする必要まではないのではないか、との疑問も生じるかもしれない。 しかしながら、税務処理の結果に対する評価は、絶対的に定まるものではなく、相対的なものである。 すなわち、ある面で顧客に有利な税務処理であっても他の面では不利になることもあれば(例えば、課税の繰延は一般的には顧客に有利な処理といい得るが、それでさえ、ライフサイクル等に照らして早期の課税を希望する顧客にとっては不利な処理になり得る)、顧客に関する将来の見通しによって有利不利が決まることもある(例えば、消費税の還付を受けることができるのであれば、免税事業者となることは不利である。消費税課税事業者選択届書の提出に関する裁判例は非常に多い)。 税務処理の結果により利益を享受し、不利益を被るのは顧客本人であるから、顧客に自己決定の機会が与えられるべきである。しかしながら、税務の素人である顧客本人は、そもそも判断するために必要な情報を持っていない。したがって、専門家である税理士から顧客に情報を提供させることで、顧客に自己決定の機会を与えるべきである。これが「説明義務」の実質的な根拠である。 このように、客観的に見て税務処理が「誤り」であったとまではいえなかったとしても、顧客からその税務処理が「誤り」であった(説明を受けていれば別の選択をしていた)と結果的に思われてしまうと、「説明義務」違反が問題となり得ることになる。 特に、「否認リスクがある税務処理をする場合」は危険である。否認リスクがあるものの税務上有利な税務処理をとるか、税務上不利であっても否認リスクのない税務処理をとるか、という「選択の余地のある税務処理をする場合」にあたるうえ、結果的に否認された場合には、顧客に損害が発生したことが分かりやすいためである。 大阪高判平成10年3月13日判例時報1654号54頁(TAINSコード:Z999-0018)で問題となったのは、バブル崩壊後における異常な経済状態を理由に基本通達と異なる確定申告をすることを積極的に指導した結果、更正処分を受け、過少申告加算税を賦課されたという事案である。 同判決は、「確定申告をするに当たり形式上基本通達に反する税務処理をすることが直ちに許されないというものではない」として、「基本通達に反する税務処理」自体が客観的に「誤り」であるとはしなかった。 そのうえでなお、同判決は、「税務行政が基本通達に基づいて行われている現実からすると、当該具体的事案について基本通達と異なる税務処理をして確定申告をすることによって、当初の見込に反して結局のところ更正処分や過少申告加算税の賦課決定を招くことも予想されることから、依頼者にその危険性を十分に理解させる義務がある」として税理士の説明義務違反を認めたのである。 こうした危険を避けるために、「否認リスクがある税務処理をする場合」や、その他の「選択の余地のある税務処理をする場合」には、各選択の内容及びリスクを顧客に説明したうえで、その承諾を得ることとし、その経過をできる限り記録に残すべきである。   3 契約書の規定について 最近では、契約書にも、説明義務に関する規定が含まれていることが多い。日本税理士会連合会が提供している業務契約書のひな形にも、以下のような規定が含まれている。 この規定は、①「とるべき処理の方法が複数存在し、いずれかの方法を選択する必要があるとき」、あるいは②「相対的な判断を行う必要があるとき」の説明義務を定めるものである。顧客に対して説明を行い、顧客がこれを承諾した場合には免責されるというもので、基本的には法律上当然の事柄を定めたものといえる。 さらに一歩進めて、契約書において、説明義務を排除することができるか、ということについては、消費者契約法との関係等が問題となる。 消費者契約法では、故意又は重過失がある場合の免責は一切認められておらず、軽過失しかない場合であっても、一部の免責しか認められていない。したがって、「損害賠償の額は、対応する期間の業務委託料を上限とする。ただし、故意又は重過失のある場合はその限りではない」といった規定であれば、消費者契約法上は許容されることになる。 ただし、税理士が締結する契約書に関しては、このような規定は一般的なものではないと思われ、このような規定を入れることが顧客との関係に悪影響を及ぼす懸念もある。また、結局は、重過失の有無が争いになるだけで、紛争予防につながらない、という懸念もある。さらに、税理士職業賠償責任保険が存在する状況で、顧客の保護をあえて限定するべきなのかという問題もある。 現実的な対応としては、少なくとも、個別の事案ごとに委任事務の対象をしっかり特定することで、説明義務が生じる対象を限定することが考えられる。 (了)

#No. 414(掲載号)
#川上 邦久
2021/04/08
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