《速報解説》 会計士協会、東証の有価証券上場規程に定める レビュー業務に関する2つの実務指針案を公表 ~被合併会社等の財務諸表等及び部門財務情報に対するレビュー業務について留意事項等示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月22日、日本公認会計士協会は、次の公開草案を公表し、意見募集を行っている。 これは、保証業務実務指針2400「財務諸表のレビュー業務」(2016年1月26日)等の公表を受けたものであり、従来の東証意見表明業務に関する従来の監査・保証実務委員会研究報告第12 号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める被合併会社等の財務諸表等に対する意見表明業務(中間報告)」及び同第14号「東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対する意見表明業務(中間報告)」に代わるものである。 意見募集期間は2021年2月22日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 東京証券取引所の有価証券上場規程に定める被合併会社等の財務諸表等に対するレビュー業務 1 適用範囲 株式会社東京証券取引所の「有価証券上場規程」及び有価証券上場規程施行規則に基づいて、新規上場申請会社が、上場前の一定期間に重要な合併、子会社化・非子会社化等を行った場合における当該被合併会社、子会社化・非子会社化された会社等(以下「被合併会社等」という)の財務諸表及び連結財務諸表に対して、公認会計士又は監査法人が業務実施者として実施するレビュー業務に係る実務上の指針である。 2 レビュー業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 Ⅲ 東京証券取引所の有価証券上場規程に定める部門財務情報に対するレビュー業務 1 適用範囲 株式会社東京証券取引所の有価証券上場規程及び有価証券上場規程施行規則に基づいて、新規上場申請会社が作成する部門財務情報に対して、公認会計士又は監査法人が業務実施者として実施するレビュー業務に係る実務上の指針である。 「部門財務情報の作成基準」は、東京証券取引所における確立された透明性のあるプロセスに従って作成され、東京証券取引所の規則として定められているものである。また、承継する事業又は事業の譲受けもしくは譲渡の対象となる部門の財政状態及び経営成績を表示するために我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準を基礎として必要な修正を加えたものとなっている(21項)。 このため、「部門財務情報の作成基準」は、特別目的の財務報告の枠組み及び準拠性の枠組みとして受入可能なものとして推定される(21項)。 2 レビュー業務を実施する上での留意事項 次の事項に関する留意点が記載されている。 (了)
《速報解説》 経産省、「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示FAQ(制度編)」を公表 ~一体的開示・一体開示を進めるに際してのメリット・課題等をとりまとめる~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月18日、経済産業省は、「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示FAQ(制度編)」を公表した。 これは、2018年12月28日に公表した「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」を踏まえたものであり、一体的開示に関して、企業からの質問が多かった事項を整理したものである。 なお、同日、日本公認会計士協会から、「監査・保証実務委員会研究報告「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」」(公開草案)が公表され、意見募集が行われている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な項目は次のとおりである。 以下では主なものについて解説する。 1 一体的開示と一体開示 「一体的開示」とは、 会社法に基づく事業報告及び計算書類と金融商品取引法に基づく有価証券報告書という2つの開示書類を、 開示を行うことをいう。 「一体開示」とは、会社法に基づく事業報告等と金商法に基づく有価証券報告書を一体の書類として、同時に開示を行う方法であり、事業報告等と有価証券報告書が1つの書類として一体化することであり、一体的開示の最終形である。 なお、一体開示の取組について検討中の企業はあるが、現時点で一体開示を行っている企業はないとのことである。 2 現行法制下での一体開示 現行法制下でも、会社法と金商法の両方の要請を満たす書類(以下「一体書類」という)を作成して、事業報告等として株主総会に報告するとともに、有価証券報告書として提出する一体開示を行うことができる。 この場合、開示書類は「有価証券報告書兼事業報告書」という書類名にすることが考えられる。 3 一体開示の課題 事業報告等と有価証券報告書を一体の書類として作成する一体開示を行う場合、現状の開示書類(法定開示・任意開示)作成のスケジュールや業務分担の見直しが必要になり移行コストが追加的に発生すること、スケジュール見直しの結果、特定の期間に作業が集中し、株主総会招集通知発送前の作業負荷が増大する懸念などがあげられている。 一方、一体開示のメリットとして、開示書類作成の効率化、合理化により、非財務情報の充実等のより質の高い開示に人材と時間を活用することが可能となることなどがあげられている。 (了)
《速報解説》 事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対し、 監査人が作成する監査報告書の文例を示す研究報告案が、 会計士協会から公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月18日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会研究報告「事業報告等と有価証券報告書の一体開示に含まれる財務諸表に対する監査報告書に関する研究報告」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 「事業報告等と有価証券報告書の一体的開示のための取組の支援について」(2018年12月28日)が公表されている。これを踏まえて、研究報告は、一体書類に含まれる財務諸表に対して、監査人(会社法監査における会計監査人を含む)が作成する監査報告書の文例を示すものである。 意見募集期間は2021年2月1日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 一体書類に含まれる財務諸表は、会社法上の計算書類等と金融商品取引法上の財務諸表を一体的に開示する際の最終形として、会社法の計算書類等と金融商品取引法の財務諸表の双方の要求を満たす一体の書類として作成されている。 これに対応して、監査報告書に関しても一体の書類としての監査報告書(以下「一体監査報告書」という)として作成することが考えられる。 1 一体監査報告書 研究報告は、一体監査報告書を作成する場合の考察及び文例を示しているが、文例は1つの例示である。 一体監査報告書においては、会社が作成した一体書類に含まれる財務諸表を不可分なものとして取り扱い、それぞれの監査においても財務諸表全体に対して監査意見を述べることとしている。 2 一体監査報告書と内部統制監査報告書 有価証券報告書提出会社が内部統制報告書を提出している場合には、監査人は内部統制報告書に対する監査意見を表明するために内部統制監査報告書を作成する。 作成方式には財務諸表監査に係る監査報告書と一体として作成する方式と個別に作成する方式があるが、通常は、一体として作成している。 有価証券報告書提出会社が会社法及び金融商品取引法に基づき一体書類を作成する場合であっても、財務諸表監査に係る監査報告書と内部統制監査報告書を一体として作成することを妨げる重要な理由が見当たらないことから、研究報告では一体として作成している。 (了)
《速報解説》 会計士協会から「監査報告書の文例」等の改正案が公表される ~「その他の記載内容」につき監査人の手続の明確化と監査報告書に必要な記載を求める~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年1月19日、日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会実務指針第85号「監査報告書の文例」等の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「監査基準の改訂に関する意見書」(2020年11月6日、企業会計審議会)及び「監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正について(公開草案)」(2020年10月21日)等を受けたものである。 意見募集期間は2021年2月19日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 「監査基準の改訂に関する意見書」において、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容、すなわち「その他の記載内容」について、監査人の手続を明確にするとともに、 監査報告書に必要な記載を求める改訂が行われた。 監査報告書では、「その他の記載内容」又は他の適切な見出しを付した区分を設けて記載する(監基報720第20項)。 「その他の記載内容」には、監査報告書日以前に監査人が入手したその他の記載内容、監査意見の対象にはその他の記載内容は含まれておらず、監査人は意見を表明するものではなく、また、表明する予定もない旨などの所要の事項を記載する。 各文例において、「その他の記載内容」の文例を示すとともに、文例6として、「監査報告書日以前に全てのその他の記載内容を入手し、またその他の記載内容に関して重要な誤りが存在すると結論付けた場合における、無限定適正意見の監査報告書」が追加されている。 Ⅲ 適用時期等 2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る監査から適用する。 ただし、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る監査から適用することができる。 (了)
2021年1月21日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.403を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第87回】 「2度目の緊急事態宣言下での対応」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 新年早々、11都府県(対象都府県)に緊急事態宣言が発出された。まず、1月8日から2月7日の31日間が、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、続いて1月14日から2月7日の25日間が、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県である。これらの対象都府県では、本稿執筆時点(2021年1月19日)において新規感染報告が過去最多を記録し続け、医療体制がひっ迫している状況である。 1月18日に招集された第204回国会の菅総理の施政方針演説では、次のような方針が表明された。 一方、企業のうち、12月決算会社においては、すでに年度決算作業が開始しており、また3月決算会社においても第3四半期の作業が行われているところである。昨年の経験も踏まえ、現状、決算作業に著しい滞りは見られないが、政府においては制度的対応が着実に進められている。 〇有価証券報告書等の提出期限の延長 金融庁は、1月8日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発出されたことを受け、「新型コロナウイルス感染症に関連する有価証券報告書等の提出期限について」を公表した。 金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書等)について、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていること等が示されている。 〇みなし提供 法務省は、昨年12月4日、株主総会資料としての単体計算書類等のWEB開示によるみなし提供を可能とする「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表した。 昨年の定時株主総会においては、新型コロナウイルス感染症の影響で監査等の作業に遅れが生じる可能性を考慮し、時限的措置として株主総会資料としての単体計算書類貸借対照表及び損益計算書並びに事業報告の一部記載事項のWEB開示によるみなし提供を可能とする措置がなされたが、この措置はすでに昨年11月15日に失効となっており、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大の状況等を踏まえ、再度同措置を可能とするための会社法施行規則及び会社計算規則の改正を行うものである(本年9月30日までの時限的措置)。 〇ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施事例集の公表 経済産業省は、昨年12月23日、ハイブリッド型バーチャル株主総会の更なる実務への浸透を図るため、株主総会における実施事例や実際の運用における考え方等を示した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集(案)」を公表した。 この事例集では、映像通信なしの音声通信のみによる開催の事例、役員や議長のオンラインでの出席の事例、総会の録音・録画・転載の禁止の事例の他、通信障害が発生した場合でも、通信障害の防止のために合理的な対策を取っていた場合には、決議取消事由には当たらないと解することも可能であるとして具体的な対応策を例示し、第三者によるなりすましへの対応については、基本的にはID、パスワード等を用いたログイン方法が相当としその他の方法についても例示をする等、コロナ禍での今年の株主総会運営に参考となる考え方が示されている。 〇テレワーク補助金の所得税法上の取扱い 国税庁は、1月15日、在宅勤務に係る費用を会社が負担した場合に、従業員に対する給与として課税する必要があるか否か等の取扱いを示したFAQを公表した。 FAQによると、従業員が家事部分を含めて負担した通信費・電気料金のうち、「業務のために使用した部分」として合理的に計算した金額を精算する方法により従業員に対して支給する一定の金銭については、従業員に対する給与として課税する必要はないこととされている。 その「業務のために使用した部分」の合理的な計算方法として、次の算式が、通信費、電気料金それぞれについて示されている。 【通信費】 【電気料金】 〇税務手続きのデジタル化 令和3年度税制改正では、国・地方公共団体を通じたデジタル・ガバメントの推進による行政手続コストの削減、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により顕在化した課題への対応等の観点から、納税環境のデジタル化が一挙に進められることとなった。 税務署長に提出する国税関係書類において、実印及び印鑑証明書を求めている手続(例えば、担保提供関係書類、遺産分割協議書)を除き押印義務が廃止される。 また、電子帳簿保存制度における手続きが抜本的に簡素化される。 税務署長の承認制度が廃止されるとともに、これまで必要とされた記録の真実性及び可視性の確保に係る次の要件のうち、訂正等履歴要件・相互関連性要件・検索要件は不要となる一方、ダウンロード要件(国税庁等の当該職員の質問検査権に基づくその国税関係帳簿書類に係る電磁的記録のダウンロードの求めがある場合には、これに応じることとすること)が加えられる。 地方税においても、地方税共通納税システムの対象税目に固定資産税・都市計画税・自動車税種別割・軽自動車税種別割が追加され(令和5年度分以後)、給与所得者に係る特別徴収税額通知(納税義務者用)の電子的送付も可能となる(令和6年度以後の年度分の個人住民税について適用)。 (了)
令和2年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 (最終回) 「令和2年分からの適用で判断に迷う事項Q&A」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 最終回は、令和2年分の確定申告から適用される事項のうち、判断に迷う事項を中心として5項目を取り上げ、Q&A形式でまとめることとする。なお、本稿では特に指定のない限り、令和2年分の確定申告を前提として解説を行う。 〈ひとり親控除、寡婦控除の適用〉 【Q1】 次の居住者は、ひとり親控除又は寡婦控除の適用を受けることができるか。なお、表中の「合計所得金額」は令和2年分の金額であり、「子」及び「扶養親族」は居住者と生計を一にしているものとする。 【A1】 ①のケースは寡婦控除、③のケースはひとり親控除の適用を受けることができる。 -解説- 第1回【5】で解説したとおり、令和2年度税制改正により、ひとり親控除が創設され、寡婦控除の見直しが行われた。 居住者がひとり親又は寡婦である場合には、ひとり親控除(35万円)又は寡婦控除(27万円)の適用を受けることができる(所法80、81)。 ひとり親、寡婦とは、次の要件を満たす人をいう(所法2①三十、三十一、所令11、11の2)。 〈ひとり親の要件〉 (※) 総所得金額等が48万円以下で、他の人の同一生計配偶者又は扶養親族となっていない子に限られる。 〈寡婦の要件〉 以上より、①から⑤のケースについて、ひとり親又は寡婦に該当するか検討する。 〈所得金額調整控除の適用〉 【Q2】 夫(個人事業主)の合計所得金額は1,100万円、妻(給与所得者)の合計所得金額は900万円である。夫婦の子(17歳、所得なし)は、夫の控除対象扶養親族とされている。妻は年末調整で所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けていない。妻は、確定申告により所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができるか。 【A2】 妻は、年齢23歳未満の扶養親族を有しているので、確定申告において所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができる。 -解説- 第1回【4】で解説したとおり、令和2年分の所得税から所得金額調整控除が適用される。 2つの所得金額調整控除のうち、「子ども等を有する場合の調整」は、給与等の収入金額が850万円を超える居住者のうち、次の(ア)から(ウ)のいずれかに該当するものに適用される(措法41の3の3①)。 2人以上の居住者の扶養親族に該当する者がある場合には、その者は、いずれか1人の居住者の扶養親族にのみ該当するものとみなされる(所法85⑤)。よって、本ケースでは、年齢17歳の子は、夫の控除対象扶養控除とされているので、妻の控除対象扶養親族には該当しない(妻は扶養控除の適用を受けることはできない)。 一方、所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用では、上記と異なり、いずれか1人の居住者の扶養親族にのみ該当するとはみなされず、2人以上の居住者がいずれも扶養親族を有することとなる(措通41の3の3-1)。 したがって、年齢17歳の子は、夫と妻いずれの扶養親族にも該当するので、妻は所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受けることができる。 〈助成金等に対する課税〉 【Q3】 飲食業を営む個人事業主である。新型コロナウイルス感染症の影響を受け経営状況が大幅に悪化し、持続化給付金と雇用調整助成金の支給を受けた。これらは、所得税の課税対象となるのか。 【A3】 個人事業主が支給を受けた持続化給付金と雇用調整助成金は、いずれも所得税の課税対象となる。 -解説- 新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、国や地方公共団体から個人に対して助成金や給付金(以下、「助成金等」という)が支給されることがある。 給付された助成金等の課税関係は、次のとおりである。 (1) 所得税が非課税となる助成金等 (2) 所得税が課税される助成金等 なお、国税庁ホームページに、助成金等の課税関係が例示されているので参考にされたい。 〈白色申告者の災害による損失の取扱い〉 【Q4】 飲食店を営む白色申告者である。緊急事態宣言の発令に伴い臨時休業を実施したこと等により、食材の廃棄損が多額に計上された。また、感染を防止するため消毒液や空気清浄機等を多数購入しており、事業所得は大幅な損失となった。この損失は、所得税の計算においてどのように扱われるのか。 【A4】 純損失の金額(損益通算をしても、なお控除しきれない部分の金額)のうち、「被災事業用資産の損失の金額」に該当するもの(食材の廃棄損、感染を防止するための物品の購入費等)については、翌年以後3年間にわたって繰越控除することができる。 -解説- 青色申告書を提出している場合、純損失の金額は翌年以後3年間にわたって繰越控除することができる(所法70①)。一方、白色申告の場合、純損失の金額のうち繰越控除できるのは、「変動所得の金額の計算上生じた損失の金額」と「被災事業用資産の損失の金額」のみである(所法70②)。 「被災事業用資産の損失の金額」とは、棚卸資産又は事業用の固定資産等に生じた災害による損失の金額をいい、その災害に関連するやむを得ない一定の支出も含まれる(所法70③、所令203)。 新型コロナウイルス感染症に関連した「被災事業用資産の損失の金額」については、次のとおり取り扱って差し支えないものとされている。 (参考1)事業用資産に生じた災害による損失等の取扱い 今般の新型コロナウイルス感染症に関連した「事業用資産に生じた災害による損失等」については、次のとおり、取り扱って差し支えありません。 〔災害により生じた損失等(翌年以後に繰り越される損失等)に該当する・・例〕 ・飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損 ・感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損 ・施設や備品などを消毒するために支出した費用 ・感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気洗浄機等の購入費用 ・イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損 ※ 「災害により生じた損失等」とは、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するために緊急に必要な措置を講ずるための費用が該当します。 〔災害により生じた損失等(翌年以後に繰り越される損失等)に該当しない・・・例〕 ・客足が減少したことによる売上げ減少額 ・休業期間中に支払う人件費 ・イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料 ※ 上記のように、棚卸資産や固定資産に生じた被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用とは言えないものについては、「災害により生じた損失等」に該当しません。 (※) 国税庁「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」38ページより抜粋。 したがって、本ケースの場合、食材の廃棄損や感染を防止するための物品の購入費は、「被災事業用資産の損失の金額」に該当するものとして、繰越控除の対象となる。 なお、白色申告の場合、純損失の繰戻しによる還付の請求をすることはできない(所法140①)。 〈確定申告書の記入方法〉 【Q5】 2社から支給されている給与等の収入金額を合計すると900万円である。夫の控除対象扶養親族となっている年齢17歳の子がいることから、確定申告において所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用を受ける。確定申告書第二表の「配偶者や親族に関する事項」はどのように記入するのか。 【A5】 子(扶養親族)の氏名、続柄、生年月日を記入し、「その他」欄の「調整」に〇をつける。なお、子のマイナンバーを記入する必要はない。 -解説- 第2回【2】(2)で解説したとおり、令和2年分の第二表には、「配偶者や親族に関する事項」欄が設けられている 。 「その他」欄の「調整」に〇をつけるのは、所得金額調整控除(子ども等を有する場合の調整)の適用がある場合で、「配偶者(特別)控除の対象とならない同一生計配偶者で特別障害者に該当する人がいる場合」と「控除対象扶養親族、16歳未満の扶養親族の対象とならない特別障害者又は23歳未満の扶養親族がいる場合」である。 具体的には、次のようなケースが想定される。 (連載了)
給与計算の質問箱 【第13回】 「テレワークの費用負担の取扱い」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 当社ではテレワークをする従業員の携帯代や自宅の水道光熱費等の一部を負担することを検討しています。 在宅勤務手当として一定額を支給する方法と経費精算する方法が考えられますが、所得税が課税となるか非課税となるかご教示ください。 A それぞれの方法に係る課税関係について計算例を交えて、以下解説する。 * * 解 説 * * 1 在宅勤務手当として一定額を支給する方法 この場合、所得税は課税(給与所得課税)となる。 〈例:25歳、扶養親族0人、在宅勤務手当20,000円(2021年1月から支給)のケース〉 2 経費精算する方法 (1) 消耗品 会社が従業員に仮払いし、従業員が消耗品を購入し、領収書を会社へ提出して仮払いとの差額を精算する場合や、従業員が消耗品を購入し、領収書を会社へ提出して精算する場合、所得税は非課税である。 (2) 通信費 下記の算式により計算した通信費を支給する場合や、算式によらずにより精緻な方法で業務に使用した通信費を算出して支給する場合、所得税は非課税である。 (出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」) 〈例:25歳、扶養親族0人、2021年1月の在宅勤務日数15日、従業員の携帯代8,000円のケース〉 (3) 水道光熱費 下記の算式により計算した水道光熱費を支給する場合や算式によらずにより精緻な方法で業務に使用した水道光熱費を算出して支給する場合、所得税は非課税である。 (出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」) 〈例:25歳、扶養親族0人、2021年1月の在宅勤務日数15日、従業員の自宅の電気代8,000円、業務に使用した部屋の床面積10㎡、自宅の床面積30㎡のケース〉 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第13回】 「家屋とその敷地の譲渡先が異なる場合」 -居住用家屋の敷地の一部の譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、11年前に取得した家屋とその敷地を居住の用に供していました。 本年1月、その家屋と敷地を売却しましたが、多額の譲渡損失が発生しました。 なお、その売却にあたっては、買主側の都合により、家屋はAに譲渡し、その敷地はBに同時に譲渡しました。買主であるAとBは親子とのことです。 他の適用要件が具備されている場合に、Xは当該譲渡ついて、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 居住用家屋とその敷地の譲渡が同時に行われたものであれば足り、その譲渡先が異なっても差し支えありません。 また、居住用家屋とその敷地の譲渡が同時である場合において、居住用家屋の庭として利用していた部分の土地の譲渡先と、居住用家屋及びその敷地の用に供されている部分の土地の譲渡先が異なるときも、「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます(措通41の5-9(居住用家屋の敷地の一部の譲渡)(1))。 なお、この取扱い規定は、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても準用されます(措通41の5の2-7(居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例に関する取扱い等の準用))。 (了)
相続税の実務問答 【第55回】 「生前贈与の加算と贈与税の期限後申告」 税理士 梶野 研二 [答] お兄様は、令和元年分の贈与税の期限後申告書を提出したうえで、お父様から贈与を受けた200万円を相続税の課税価格に加算した相続税の申告書を提出します。期限後申告により納付することとなった贈与税(本税)の額は、相続税額から控除することになりますが、無申告加算税や延滞税は相続税額から控除することはできません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続開始前3年以内の贈与財産の加算と贈与税額の控除 相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前3年以内に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その者は、その贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなして相続税額を計算することとなります(相法19)。この場合、その贈与について課せられた贈与税があるときは、相続税法の規定に従って算出したその者の相続税額からその贈与税額を控除した金額が、納付すべき相続税額となります(注1)。 (注1) 配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除、相次相続控除又は外国税額控除を適用することができる場合には、それらの金額を控除した後の相続税額が、その者の納付すべき相続税額となります。 2 贈与税の申告がされていない場合 贈与により財産を取得した者は、相続税法の規定に従って計算すると贈与税額が算出されるときは、その年の翌年2月1日から3月15日までの間に、贈与税の課税価格、贈与税額その他一定の事項を記載した贈与税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならないこととされています(相法28①)。 贈与税の申告書の提出期限内に申告書を提出しなかった場合には、税務署長による決定処分がされますが、決定処分がされるまでは、贈与税の期限後申告書を提出することができます(通法18①)。期限後申告書を提出した場合又は決定処分を受けた場合には、原則として無申告加算税が課されることとなります(通法66①)(注2)。 (注2) 期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税は課されません。なお、贈与税を納付すべき日までに納付しなかったことにより、延滞税が発生します(通法60①)。 3 贈与財産の価額の相続税の課税価格への加算と贈与税額控除 相続税法の規定によれば、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産の価額は、相続税の課税価格に加算するとともに、その財産に対する贈与税額を相続税額から控除することとされていますが、相続税の申告の際に贈与税の申告がされていないことに気がついた場合には、あらためて贈与税の申告をすることなく、この贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算し、贈与税額控除は適用しないとの簡便的な処理も、相続税と贈与税を併せた税負担が変わらないのであれば、許容されるのではないかと考える向きもあるかもしれません(注3)。しかしながら、相続税法は、そのような選択を認めていません。 (注3) いわゆる暦年贈与(相続時精算課税適用者以外の者が受けた贈与)に係る贈与税額については、相続税額の計算上控除しきれない金額があったとしても、この控除しきれない贈与税額の還付を受けることはできません。したがって、仮に、このような簡便的な処理をした場合、相続税と贈与税とを併せた税負担は、正しい処理を行った場合の税負担額とは異なることとなってしまいます。 したがって、相続税の申告に当たり、その価額が相続税の課税価格に加算される贈与があり、その贈与について贈与税の申告及び納税が必要であるにもかかわらず、その申告及び納税がされていない事実が確認された場合には、速やかに贈与税の期限後申告及び納付をする必要があります(相基通19-6)。この期限後申告により確定した贈与税額は、相続税法第18条までの規定により算出された相続税額から控除します。 なお、贈与税の期限後申告に伴い、原則として無申告加算税が賦課され、また法定納期限までに贈与税が納付されなかったことにより延滞税が発生しますが、これらの附帯税については、相続税額から控除することはできません(相法19①かっこ書き)。 4 ご質問の場合 お兄様は、令和元年中にお父様から200万円の贈与を受けており、贈与税の申告及び納付の義務がありますので、お兄様がお父様の相続が開始したことにより相続又は遺贈により財産を取得するかどうかにかかわらず、速やかに贈与税の期限後申告及び納付を行う必要があります。 ご質問の場合には、遺産分割協議の結果、お兄様はお父様の財産を取得することとなったとのことですから、お父様の相続開始前3年以内にお父様から贈与を受けた200万円は、相続税の課税価格に加算するとともに、相続税額の計算上、この200万円に係る贈与税の額を控除します。なお、無申告加算税及び延滞税は、控除することができる贈与税の額には含まれません。 (了)