経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第164回】 収益認識基準⑨ 「重要性等に関する代替的な取扱い」 仰星監査法人 公認会計士 渡邉 徹 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:円) ◆X1年1月31日 〔一般顧客Aへの食料品の販売〕 ◆X1年2月28日 〔一般顧客Bへの食料品の販売〕 (※) 5,000円(食料品)+ 100円(配送料) ◆X1年3月31日 〔給食センターCへの食料品の出荷〕 〈会計処理の解説〉 1 会計処理 収益認識に関する会計基準の適用指針では、収益認識基準における重要性等に関する代替的な取扱いが定められています。本設例においては、以下の規定に基づいて会計処理をしています。 上記②、③、⑥の論点についての原則的な取扱いと代替的な取扱いを整理すると以下のようになります。 2 設例へのあてはめ (1) X1年1月31日(一般顧客Aへの食料品の販売) 顧客Aに発行した次回以降の買い物で使用できる割引クーポンについても、顧客との契約において約束した財又はサービスとして評価することが原則(会計基準32項)ですが、本設例の割引クーポンは重要性が乏しいため、当該約束が履行義務であるかについて評価しないことができます(適用指針93項)。 顧客との契約の観点で重要性が乏しいかどうかを判定するにあたっては、当該約束した財又はサービスの定量的及び定性的な性質を考慮し、契約全体における当該約束した財又はサービスの相対的な重要性を検討します(適用指針93項)。 (2) X1年2月28日(一般顧客Bへの食料品の販売) 配送サービスについても履行義務として識別することが原則(会計基準32項)ですが、顧客が商品又は製品に対する支配を獲得した後に行う出荷及び配送活動については、商品又は製品を移転する約束を履行するための活動として処理し、履行義務として識別しないことができる(適用指針94項)とされています。そのため、Z社では配送サービスを履行義務として識別せず、配送料についても顧客Bが食料品に対する支配を獲得したタイミングで収益を認識しています。 (3) X1年3月31日(給食センターCへの食料品の販売) 給食センターCへの食料品の販売は、一時点で充足される履行義務であるため、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識します(会計基準39項)。本設例の場合も、顧客の検収時(会計基準40項)に資産に対する支配が顧客に移転すると考えられます。しかし、代替的な取扱いとして、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの間の一時点(例えば、出荷時や着荷時)に収益を認識することができるとされています。 なお、商品又は製品の出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間である場合とは、当該期間が国内における出荷及び配送に要する日数に照らして取引慣行ごとに合理的と考えられる日数である場合をいうとされています(適用指針98項)。 給食センターCは、Z社の近隣(国内)であり、出荷の翌日には検収を受けて、商品の支配が顧客に移転しており、商品の支配が顧客に移転される時までの期間が通常の期間であると言えます。このため、Z社では、給食センターCとの取引について、商品の出荷時に収益を認識することができます。 * * * (了)
税効果会計を学ぶ 【第19回】 「子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の 連結財務諸表における法人税等に関する取扱い」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱いについて解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 子会社等が保有する親会社株式等を当該親会社等に売却した場合の連結財務諸表における法人税等に関する取扱い 1 取引例 税効果適用指針の「設例9」をもとに、子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却し、子会社において、親会社株式売却益が計上されているケースについて考える。 【各社の個別財務諸表】 《P社(親会社)の個別財務諸表(X2年3月期)》 ① 取得時(X1年12月) ② 決算時(X2年3月31日) 《S社(連結子会社)の個別財務諸表(X2年3月期)》 ① 売却時(X1年12月) ・前提条件⑦から⑨を参照。 ② 決算時(X2年3月31日) ・前提条件⑦から⑨を参照。 【連結財務諸表】 《P社(親会社)の連結財務諸表(X2年3月期)》 ① 非支配株主に帰属する当期純利益の処理(X2年3月31日) ・S社の当期純利益のうち20%を非支配株主持分に振り替える(前提条件②、⑨を参照)。 ・非支配株主持分14 = 当期純利益70 ×(100% - P社持分比率80%) ② 連結会社間の取引消去(X2年3月31日) ・S社で計上した親会社株式売却益100を全額消去し、下記の計算式により、非支配株主持分に対応する部分20を非支配株主に配分する。 ・非支配株主持分20 = 親会社株式売却益100 ×(100% - P社持分比率80%) ③ 子会社に生じる売却損益に対応する法人税等に対する親会社持分相当額の処理(X2年3月31日) ・税効果適用指針40項に従って、下記の計算式により、S社に生じる売却損益(親会社株式売却益)に対応する法人税等のうちP社持分相当額を資本剰余金から控除する。 ・資本剰余金24 = S社で計上した法人税、住民税及び事業税30 × P社持分比率80% 2 会計処理 連結子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合(親会社としては、連結子会社から自己株式を取得した場合)、当該子会社に生じる売却損益に対応する法人税等のうち親会社持分相当額は、「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第2号)16項に準じて、資本剰余金から控除する(税効果適用指針40項、144項)。 また、持分法の適用対象となっている子会社等が保有する親会社の株式又は投資会社の株式(親会社株式等)を当該親会社等に売却した場合についても、上記の税効果適用指針40項と同様に処理する(税効果適用指針41項)。 自己株式等会計適用指針16項は次のように規定している。 3 基本的な考え方 連結子会社における親会社株式の売却損益(内部取引によるものを除いた親会社持分相当額)の会計処理は、親会社における自己株式処分差額と同様にその他資本剰余金を加減する(「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(企業会計基準第1号)16項)。 前述のとおり、当該会計処理に関連して、自己株式等会計適用指針16項は、連結子会社における親会社株式の売却損益及び持分法の適用対象となっている子会社等における親会社株式等の売却損益は、関連する法人税、住民税及び事業税を控除後のものとしている。 これらに鑑みて、連結子会社が保有する親会社株式を当該親会社に売却した場合の会計処理として、税効果適用指針40項が規定されている。 (了)
法務局における 「自筆証書遺言書保管制度」利用上のポイント 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 はじめに 「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「保管法」という)が令和2年7月10日から施行され、法務局における自筆証書遺言書の保管制度(以下、「本制度」という)が開始された。 本制度は、これからの相続・遺言実務に影響を与えるものであり、実務に携わる方にとっては必須の知識といえる。本稿では、筆者が実際に本制度を利用した経験を踏まえて、制度の概要と実務的なポイントを紹介するものとする。 1 制度の趣旨 自筆証書遺言は、作成にあたり公証人の関与が必要となる公正証書遺言と比較して、紙とボールペンと印鑑を用意すれば、いつでも自分の思いついたときに作成ができる手軽な点がメリットとされる。一方で、作成日付が抜けているなどの形式不備で無効となるリスクや、紛失・盗難のリスクがあるとされていた。 本制度では、自筆証書遺言書の保管にあたり法務局の職員(遺言書保管官)が形式面の不備をチェックしたうえで、法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言書を保管することとし、自筆証書遺言書の弱点とされていた部分を補い、自筆証書遺言書の作成を促進していくことを狙いとしている。 2 本制度利用の流れ 本制度の利用の流れは以下のとおりである。 自筆証書遺言書の作成 保管の予約 申請書等作成 申 請 保管の予約は、管轄の法務局に電話して行うこともできるが、専用のホームページ(※1)が用意されている。 (※1) 24時間365日利用可能で予約可能時間も確認しやすい。電話での予約は平日8時30分から17時15分まで(土・日・祝日・年末年始を除く)となっている。 なお、筆者自身は専用のホームページから予約を行った。予約可能な時間が分かりやすく示されており、ちょうど美容院や飲食店をインターネットから予約するのに近い印象を持っている。申込みを行うと、予約が行われた旨のメールが予約時に登録したメールアドレスに送られてきた。 3 管轄 保管の申請ができる遺言書保管所の管轄は、遺言者の住所地、本籍地、所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所とされている(保管法4条3項)。 4 保管の申請にあたっての必要書類等 保管の申請にあたっては、以下の書類等が必要になる。 5 保管の申請当日の流れ 予約した日時に法務局に出頭し、担当者に自筆証書遺言書の保管の申請のために訪れた旨を伝える。必要書類を提出し、法務局側がチェックを行うことになる。特に問題がなければ30分ほどで手続が完了する。 筆者が体験した実感としては、法務局側の対応も丁寧でストレスなく完了できたと感じている。 6 申請にあたっての注意点 申請にあたって注意しなければならない点は以下の2点である。 (※3) 遺言書の閲覧の請求についてはモニターでの確認につき1回1,400円、原本での確認につき1回1,700円の手数料が生じる。 7 遺言書保管所での保管方法 遺言書保管所では、遺言書の原本を保管するとともに(保管法6条1項)、提出された遺言書をスキャナで読み取り画像情報(遺言書情報)としても遺言書保管ファイルに記録する(保管法7条2項)。 相続開始後、遺言書保管所は、遺言者の相続人から遺言書の内容を記載した「遺言書情報証明書」の交付を受け付け、預金の解約など相続手続に利用してもらう取扱いになっている。保管された遺言書について検認は不要であり、相続手続を円滑に進めることが可能となる。 8 保管の撤回 遺言者は、保管の申請をした遺言書保管所において、保管の撤回を行うことができる。なお、保管の撤回を行ったとしても、遺言の撤回(民法1022条)になるわけではない点には注意が必要である。 9 通知について 遺言者が保管の申請を行っても、保管の事実を相続人等が知らなければ遺言書を手続に活用することができない。そこで本制度では2通りの相続人等への通知制度を用意している。 (1) 関係遺言書保管通知 遺言者の死亡後、相続人、受遺者等(関係相続人等)が、その遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けたときは、遺言書保管所から関係相続人等に対して、遺言書が保管されている旨を通知する制度である。これにより全ての関係相続人等に遺言書が保管されていることが伝わることとなる。ただし、関係相続人等が遺言書の閲覧等をしなければ、遺言者に相続が発生していても通知がなされないことになる。 (2) 死亡時の通知 関係遺言書保管通知を補うために、遺言書の保管申請時に、希望する遺言者が遺言者の推定相続人並びに遺言書に記載された受遺者等から1名を指定し、遺言書保管官が遺言者の死亡を把握したときは当該指定を受けた者に対して遺言書が保管されている旨を通知する仕組みが用意されている。遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を把握しやすくするために、市役所等の死亡届などにより遺言者の死亡の事実を把握する役所と情報連携する仕組みを整えるとされている。 10 これからの相続手続を行うにあたって これからの相続手続を行うにあたっては、被相続人につき、まず自筆証書遺言書の保管がなされていないかを確認する必要がある。自筆証書遺言書の保管の事実に気が付かず、遺産分割協議をまとめた後に自筆証書遺言書が保管されていることが分かった場合、せっかくまとめた遺産分割協議が無駄になってしまう可能性もある。 保管の申請は、令和2年11月現在で、およそ年3万件程度のペースで利用されており(※4)、少なくない方が本制度を利用しているようである。同様のリスクは公正証書遺言にも存在するが、本制度の利用をきっかけに相続業務のフローを見直すとよいであろう。 (※4) 法務省ホームページ「遺言書保管制度の利用状況」 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第12回】 「貸宅地の評価をめぐる争点」 ~税務の常識と鑑定評価の常識~ 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 底地評価に関する鑑定評価の考え方と手法 (1) 底地とは 不動産鑑定評価基準では底地を次のとおり定義しています。 このイメージを表したものが、次の〔図1〕です。 〔図1〕 底地のイメージ (2) 不動産鑑定評価基準における底地の評価手法 不動産鑑定評価基準では、底地の価格は借地権設定者(注1)に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものであり、底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格(注2)を関連づけて決定する旨定められています(不動産鑑定評価基準各論第1章第1節Ⅰ.3(2))。 (注1) 借地権設定者とは賃貸人を指します。 (注2) 収益期間を永続的なものとして捉えた場合、「実際支払賃料に基づく純収益の現在価値を求める」に当たっては、次の算式を用いることとなります。 ・実際支払賃料(年額)- 総費用(年額)= 純収益(年額) ・純収益(年額)÷ 還元利回り = 底地の収益価格 また、比準価格とは、実際に市場で売買された事例を基に、事例地と対象地の諸条件を比較検討して求められた対象地の価格のことです。そして、「底地の比準価格」という場合には、更地でなく、底地が実際に取引された事例を基に求めた価格を指しています。 土地所有者が建物所有を目的として土地を賃貸した場合(定期借地権を除きます)、借地借家法の手厚い保護により借地人に恒久的な利用権が保証され、しかも、同法の制約も手伝って賃貸人は地代改定も思うとおり実現できないのが実情です。そのため、収益性から捉えた底地の価格を試算しても、一般的な考え方を当てはめて計算した金額(=更地価格から路線価図等に記載されている借地権割合相当額を控除した額)に比べて低い結果しか得られず、底地の市場性は著しく劣るケースが多いといえます。 そのイメージを表したものが、次の〔図2〕であり、この図の(A)の線が収益性から捉えた底地価格の水準を示します。 〔図2〕 更地価格、借地権価格、底地価格の関係 2 財産評価基本通達における貸宅地の評価 (1) 貸宅地とは 財産評価基本通達25では、「貸宅地」という用語を、「借地権(又は定期借地権)の目的となっている宅地」という意味で使用していますが、鑑定評価における「底地」と同じ趣旨です。 (2) 財産評価基本通達における貸宅地の評価方法 財産評価基本通達25(1)では、借地権の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価する旨定めています(以下、この方式を「借地権価額控除方式」といいます)。 なお、上記〔図2〕の(B)の線が借地権価額控除方式を適用した結果求められる貸宅地の価額の水準を示します。 3 鑑定評価の常識と財産評価基本通達の手法(税務の常識)との本質的な相違点 上記1及び2で述べたとおり、「底地の収益性を重視する鑑定評価の捉え方」と、「自用地の価額から借地権価額を控除した価額そのものをもって貸宅地の価額とする財産評価基本通達の捉え方」の間には隔たりが見受けられます。すなわち、納税者からすれば、「実態に比べて財産評価基本通達における貸宅地の評価割合が高いのではないか」という疑問です。それでは、この隔たりはどこから生じているのでしょうか。 (1) 鑑定評価の常識 鑑定評価において求める価格は正常価格(=市場において誰が売り買いしても等しく成り立つ客観的な価格)が原則であり、底地の正常価格を求める際には、既に掲げたような貸主の様々な制約を踏まえ、底地が事実上地代収益権の価格と化している事実に着目しているケースが通常です。 すなわち、底地の正常価格を求めるという場合、その前提には、底地の買主は借地人以外の第三者であり、買主は借地人が居付きの状態で当該土地を買い取ることが条件となっています。このような状況を踏まえた場合、よほど高額な地代を徴収している土地でもない限り、底地の市場性は著しく劣るといえるでしょう。 ただし、底地の取引のなかには、現に借地をしている人がその底地を買い取る場合もあり、このような場合には当該宅地が同一所有者に帰属することにより市場性が回復することから、鑑定評価においても正常価格より割高な価格(=限定価格)で評価するケースがあります。なお、ここにいう「割高な価格」の意味ですが、これは買主にとって割の合わない価格ということではありません。それは、底地を借地人が買い取ることにより煩雑な権利関係が解消され、当該土地がその所有者にとって利用上の制約が一切ない状態に変化することから底地の価値が回復し、その分だけ割り増しして購入しても損はない(=経済合理性に見合う)といえるからです。 このように、底地の取引当事者をはじめから貸主・借主間に限定して捉える場合、鑑定評価で求める価格は正常価格ではなく限定価格ということになりますが、鑑定評価の基本原則は不動産鑑定評価基準に則り、正常価格を求めることにあります(なお、「正常価格」と「限定価格」について詳しくは本連載の【第2回】をご参照ください)。 (2) 財産評価基本通達による借地権価額控除方式の考え方 筆者が貸宅地の評価に係るこれまでの裁決事例や裁判例の傾向を調査したところ、借地権価額控除方式が適用されている背景には、例えば次の考え方が存するものと推察されます。 (3) 鑑定評価の常識と財産評価基本通達の手法(税務の常識)との本質的な相違点 上記(1)、(2)で述べたことを踏まえた場合、鑑定評価で求める底地の価格が「正常価格」を原則としているのに対し、財産評価基本通達ではむしろ鑑定評価にいう「限定価格」を前提とした貸宅地の評価方法を指向しているものと推察されます。鑑定評価の常識と税務の常識がかみ合わない大きな理由はこの点に基づくものと考えられ、その根底には根深い溝が存在するようにも受け止められます。 納税者が、財産評価基本通達に基づく貸宅地の評価方法に代えて不動産鑑定士による底地の鑑定評価書を課税庁に提出しても、結局は、「借地権価額控除方式によって適正な時価を適切に算定することのできない特別の事情はない」として否認されてしまうケースが多いのも、ここにその一端があるものと思われます。 参考までに、貸宅地の評価に当たり不動産鑑定士による鑑定評価の結果が受け容れられなかった事例としては、例えば以下のものがあげられます。 (了)
《速報解説》 土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~令和3年度税制改正大綱~ 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 令和2年12月10日、与党(自由民主党と公明党)による「令和3年度税制改正大綱」が公表された。 登録免許税に係る主な改正事項は、以下のとおりである。 1 土地の売買による所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長 新型コロナウイルス感染症により経済が大きな打撃を受ける中、土地の取得コストを軽減することにより、土地の流動化を通じた有効利用等の促進を図り、デフレ脱却・経済再生を確かなものとするため、土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の税率について、下記の特例措置を令和5年3月31日まで2年延長する。 2 特定目的会社に係る登録免許税の特例措置の延長 特定目的会社が資産流動化計画に基づき特定不動産を取得した場合の所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を令和5年3月31日まで2年延長する。 3 不動産特定共同事業法上の特例事業者に係る登録免許税の特例措置の延長 特例事業者等が不動産特定共同事業契約により不動産を取得した場合の所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置について、下記の措置を講じたうえで、適用期限を令和5年3月31日まで2年延長する。 4 相続登記の促進のための登録免許税の特例措置の拡充及び延長 相続登記が未了となっている土地の要因として相続登記に係る費用の負担が指摘されていることから、相続に係る所有権の移転登記に対する登録免許税の免税措置について、以下の対応を行う。 なお、令和3年度税制改正とは別に、相続等に係る不動産登記の登録免許税のあり方については、所有者不明土地等の問題の解決に向け、不動産登記法等の見直しについて、時期通常国会にて法案を提出する方向で検討が進められており、令和4年税制改正において必要な措置が検討される予定である。 (了)
《速報解説》 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置、非課税限度額の拡充や床面積要件の緩和等へ ~令和3年度税制改正大綱~ 税理士 徳田 敏彦 「令和3年度税制改正大綱」における住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の改正点は2点である。 1点目は、適用期限は延長されず令和3年12月31日までの契約のままであるが、令和3年4月1日以降の非課税限度額を現行と同額まで引き上げる内容となっていることである。 2点目は、住宅ローン控除の対象となる床面積の下限が40㎡以上に改正されることに併せ、住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置についても床面積要件の下限を40㎡以上に改正することである。ただし、この場合には受贈者の所得要件が付されることに留意する。 1 非課税限度額の拡充 令和3年4月1日から令和3年12月31日までの間に住宅用家屋の取得等に係る契約をした場合の非課税限度額を、令和3年3月31日までの非課税限度額と同額まで引き上げる。 ① 住宅用の家屋の新築等に係る対価等の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合 ② 上記①以外の一般の住宅用家屋である場合 2 床面積要件の改正 本特例の床面積要件の下限を『50㎡以上』から『40㎡以上』に引き下げる。ただし、この場合には受贈者の贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円以下である場合に限る。これは住宅ローン控除で40㎡以上の住宅を適用対象に加えたことに併せての改正である。 また、床面積50㎡以上の家屋に対して本特例を適用する場合の合計所得金額の要件は2,000万円以下のままで変更がないことに留意する。 この改正は令和3年1月1日以後の贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用する。 3 相続時精算課税制度の特例について 住宅取得等資金の贈与受けた場合の相続時精算課税制度の特例についても、床面積要件の下限を現行50㎡以上から40㎡以上に引き下げる。 ただし、相続時精算課税制度の適用を受ける場合は、従来通り受贈者の所得要件は課されないことに留意する。 この改正は令和3年1月1日以後の贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用する。 4 対象となる既存住宅(中古住宅)等の証明方法の拡充 税務署長が、納税者から提供された既存住宅用家屋等に係る不動産識別事項を使用して、入手等をした当該既存住宅用家屋等の登記事項により床面積要件等を満たすことの確認ができた住宅を、本措置の対象となる既存住宅用家屋等に含めることとされる。 これは現行、本措置の対象となる既存住宅(中古住宅)については、登記事項証明書等により要件を満たす住宅であることが証明されたものに限られているが、改正案では今後、納税者から提供を受けた不動産識別事項等(確定申告書に記載)用いて、税務署が法務省の登記情報連携システムを通じて入手した登記情報から、その要件を満たすことが確認できた住宅も含まれることとなる(住宅ローン控除についても同様)。 この改正は令和4年1月1日以後に贈与税の申告書を提出する場合について適用する。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「建設業及び受注制作のソフトウェア業における 収益の認識に関する監査上の留意事項」の公開草案を公表 ~虚偽表示リスクを高める要因や対応手続についても言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年12月11日、日本公認会計士協会は、「建設業及び受注制作のソフトウェア業における収益の認識に関する監査上の留意事項」(監査・保証実務委員会研究報告。公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)等の公表に伴って、「工事契約に関する会計基準」(企業会計基準第15号)等が廃止されることから、「工事進行基準等の適用に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第91号)を見直し、工事契約会計基準等の適用が多い建設業及び受注制作目的のソフトウェア業に関する監査上の留意事項を取りまとめたものである。 意見募集期間は2021年1月12日までである。 研究報告は、大きく、「リスク評価手続とこれに関する活動」と「リスク対応手続」に分けて、監査上の留意事項について記載している。 記載されている内容は、監査を受ける一般事業会社においても、収益認識会計基準の適切な適用のために参考になるものと考えられる。 以下では主な内容について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ リスク評価手続とこれに関する活動 1 虚偽表示リスクを高める要因 収益認識会計基準38項に関して、虚偽表示リスクを高める要因として次のものを記載している(12項)。 2 業務プロセスに係る内部統制 収益認識会計基準及び収益認識適用指針の適用に際しては、見積りや判断を要する事項が多いため、担当者以外の専門知識を有するしかるべき責任者又は部署が、客観的な観点で担当者が実施した見積りや判断を検討するプロセスが重要となる。 一般的にこのようなプロセスは承認という行為で内部統制上構築されることが多いため、それぞれのプロセスにおける承認という行為は重要な内部統制となる場合がある(28項)。 契約の識別に関して、業界の取引慣行や個別の契約ごとの事情等により、口頭による契約であるために合意内容を客観的に確かめることが困難な場合や個々の取引に係る契約書等の書面で合意内容が明記されていない場合など、監査上、注意が必要である(30項、31項)。 3 履行義務の識別 以下のような場合、約束した財又はサービスが、別個の財又はサービスであるか一連の別個の財又はサービスであるかはビジネスの実態を考慮した判断によるところがあり、また、履行義務の性質が一見しただけでは分かりにくいこともあるため、履行義務の識別が恣意的に行われる場合がある(42項)。 4 履行義務の充足に係る進捗度 履行義務の充足に係る進捗度に関して、アウトプット法とインプット法のいずれの見積方法が財又はサービスの性質を考慮して完全な履行義務の充足に向けて財又はサービスに対する支配を顧客に移転する際の企業の履行を描写する進捗度の見積方法として適切か判断することが難しい場合がある(58項)。 アウトプット法とインプット法の適用に際しての監査上の留意点が記載されている(60項、61項、67項、69項等)。 5 実行予算 工事原価総額の見積りは、一般的には実行予算に基づいて行われる。 工事原価総額を合理的に見積もるためには、見積りが履行義務の各段階におけるコストの見積りの詳細な積上げとして構成されている等、実際の原価発生と対比して適切に見積りの見直しができる状態となっている必要がある(64項)。 次のことに注意する(64項)。 6 発生したコスト 収益認識会計基準38項に定める収益の認識方法の適用には個別原価計算の採用が前提となる(68項)。 次のことに注意する(68項)。 Ⅲ リスク対応手続 1 アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスク アサーション・レベルの不正による重要な虚偽表示リスクが識別された場合、次のようなリスク対応手続が例示されている(86項(2))。 2 契約の識別に関する実証手続 契約の識別に関する実証手続として、次の監査手続が例示されている(91項)。 3 履行義務の識別に関する実証手続 履行義務の識別に関する実証手続として、次の監査手続が例示されている(95項)。 (了)
《速報解説》 固定資産税(土地)の負担調整措置 ~令和3年度税制改正大綱~ 税理士 菅野 真美 以下では12月10日公表の「令和3年度税制改正大綱」(与党大綱)における固定資産税の負担調整措置について、そのポイントを解説する。 ▷固定資産税の改正案の概要 固定資産税の負担調整について、現行の負担調整措置の仕組みを継続した上で、宅地等(商業地等は負担水準(※)が60%未満の土地に限り、商業地等以外の宅地等は負担水準が100%未満の土地に限る)及び農地(負担水準が100%未満の土地に限る)については、令和3年度の課税標準額を令和2年度の課税標準額と同額とする予定である。 (※) 負担水準とは・・・「前年度課税標準額 / 当該年度評価額」 なお、同様の改正は都市計画税においても行われる予定である。 ▷固定資産税の課税のしくみ 固定資産税は1月1日に土地、家屋、償却資産を所有する者に対して、土地等の評価額に基づいて市町村(東京都23区内は東京都)が課税するものであり、固定資産税の標準税率は1.4%である。 この評価額であるが、土地、家屋については3年ごとに評価替えを行い、3年間は原則的には据置きとなる。土地の評価額については、原則的には、地価公示価格等の7割を目途に評価を行っている。3年ごとの評価で評価額が急激に上昇した場合、納税者の負担感を配慮した負担調整措置が設けられている。 ▷なぜ改正になったのか 次の評価替え期間は令和3年からの3年間であり、土地の評価額の基準となる公示価格は令和2年1月1日時点の公示価格となる。 この令和2年の公示価格等は、全国平均で5年連続、住宅地は3年連続、商業地は5年連続上昇し、いずれも上昇基調を強めていたものであった。令和2年の公示価格に基づいて固定資産税評価額を算定すると、固定資産税も増加することになる。 このため改正案では、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化の影響を考慮して、1年間の特例として、税額が増えるケースでは令和2年度と同額に据え置くことになる予定である。なお、令和4年以降は段階的に引き上げる予定である。 ▷新型コロナウイルスの影響による固定資産税等の軽減制度について 上記税制改正と別に、新型コロナウイルス感染症の影響により事業収入が減少した中小企業者等の令和3年度分の固定資産税・都市計画税の軽減制度(一定の場合は課税標準が2分の1や0になる)の適用を受けるためには、認定経営革新等支援機関等の確認を受け、一定の書類を添付した特例申告書を、原則、令和3年1月31日(東京都の場合は2月1日)までに資産の所在する市町村役所(東京都23区内の場合は都税事務所)まで提出しなければならない。 (了)
《速報解説》 中小企業者等の法人税率の軽減特例、令和5年3月31日まで2年延長へ ~令和3年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 原則として普通法人又は人格のない社団法人等の法人税率は23.2%とされているが(法法66①)、資本金1億円以下の中小企業者等の場合、各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額については、軽減税率が適用される(年800万円を超える金額については23.4%)。 この軽減税率(本則)は19%とされているが(法法66②)、令和3年3月31日までの間に開始する各事業年度については、15%の軽減税率が適用されている(措法42の3の2①)。 12月10日公表の「令和3年度税制改正大綱」(与党大綱)では、新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況におかれている中小企業を配慮し、この軽減税率の適用期限を令和5年3月31日まで2年延長することが明記された。 なお、15%の軽減税率が適用される法人等は以下の通り。 (了)
《速報解説》 新規雇用者に重点を置いた 「賃上げ・投資促進税制(所得拡大促進税制)」の見直しについて ~令和3年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 令和2年12月10日、与党(自由民主党及び公明党)より令和3年度税制改正大綱が公表された。 今回の税制改正大綱では、「ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生」が主要項目の第一に掲げられており、その中にはコロナ禍を踏まえた賃上げ・投資促進税制(所得拡大促進税制)の見直しが含まれている。これは、コロナ禍にあって労働者を取り巻く環境が大きく変化する中で、企業が新しい社会へ適用していくためには、事業や構造を変革する新たな人材の獲得及び人材育成の強化が重要であることや、企業の採用状況が悪化する中で第二の就職氷河期を作らないことも重要であるとの認識に基づくものである。 そこで本稿では、令和3年度税制改正において示された、賃上げ・投資促進税制(所得拡大促進税制)の改正項目について紹介する。なお、文中の意見にわたる記述は筆者の私見であり、所属する団体・組織の公式見解ではないことを申し添える。 2 大企業向け「賃上げ・投資促進税制」の見直し 現行の「賃上げ・投資促進税制」は、雇用者給与等支給増加額(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額)の15%の税額控除ができる制度であるが、今回の改正によって、「控除対象新規雇用者給与等支給額」の15%の税額控除ができる制度に改められることとなった。 現行制度が、「雇用者給与等支給額」の増加分について税額控除のインセンティブを与えているのに対し、改正後の制度は、新規雇用者に対する雇用者給与等支給額そのものを対象としたものに変更されるということである。 具体的には、以下のような制度に変更される。 ① 適用年度 令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度。 ただし設立事業年度は対象外とされる。 ② 適用要件 ※「新規雇用者給与等支給額」とは →国内の事業者において新たに雇用した雇用保険一般被保険者(支配関係がある法人から異動した者及び海外から異動した者を除く)に対して、その雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額 ※「新規雇用者比較給与等支給額」とは →前期の新規雇用者給与等支給額 ③ 控除税額と控除上限 ここで「控除対象新規雇用者給与等支給額」とは、新規雇用者給与等支給額と「雇用者給与等支給増加額」(雇用者給与等支給額から比較雇用者給与等支給額を控除した金額)のいずれか低い金額をいい、雇用促進税制(地方活力向上地域等において雇用者の数が増加した場合の税額控除)の適用がある場合には、所要の調整が行われる。 この調整計算は、現行制度において雇用促進税制との重複適用を受ける際に求められる調整計算(雇用者給与等支給増加重複控除額の計算)と同様のものになると考えられる。 ④ 「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」の見直し 給与等の支給額から控除される「他の者から支払を受ける金額」の内容について、現在は措通42の12の5-2において例示されているものの、法令上では範囲が明確にされていなかった。 今回の改正により、その範囲を明確化するとともに、新規雇用者給与等支給額及び新規雇用者比較給与等支給額からは雇用調整助成金及びこれに類するものの額を控除しないこととされる。 3 中小企業向け「所得拡大促進税制」の見直し 中小企業(中小企業者等)向けの「所得拡大促進税制」については、賃上げだけではなく、雇用を増加させる企業を下支えするという観点から、大企業向けの「賃上げ・投資促進税制」とは異なる方向性での改正が行われることとなった。 すなわち、制度の枠組みとしては現行制度を維持しつつ、適用要件等を見直した上で適用期限を2年延長(=令和5年3月31日までに開始する事業年度まで適用)することとされた。 具体的な見直し項目は以下の通りである。 ① 適用要件の見直し 今回の改正により、「継続雇用者給与等支給額」ではなく、「雇用者給与等支給額」の増加割合によって適用要件を判定することとされる。 ② 控除率の上乗せ措置ための要件の見直し 現行制度では、「継続雇用者給与等支給額」の対前年度増加率が2.5%以上であり、かつ、教育訓練費増加等(※)の要件を満たす場合には、控除率を15%から25%に引き上げることとされているが、このうち「継続雇用者給与等支給額」の増加要件について、「雇用者給与等支給額」の対前年度増加率が2.5%以上であること、との要件に見直されることとなった。 (※) 教育訓練費増加等の要件:以下のいずれかの要件を満たすこと (a) 【当期の教育訓練費の額 ≧ 前期の教育訓練費の額 × 110%】であること (b) 中小企業等経営強化法における「経営力向上計画」の認定を受け、その経営力向上計画に記載された経営力向上が確実に行われたことにつき一定の証明がされたものでること ③ 「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」の見直し 大企業向けの改正と同様、「給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」の範囲を明確化するとともに、次の見直しが行われる。 (了)