《速報解説》 会計士協会からCOVID-19により変化し続ける環境下での会計上の見積りの監査(翻訳情報)が公表される ~会計上の見積りに関する開示の重要性を強調し追加的な開示の必要性を指摘~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により変化し続ける環境下での会計上の見積りの監査」(2020年6月26日、IAASBスタッフ文書)を公表した。 この文書は、ISA540(改訂)「会計上の見積りと関連する開示の監査」に基づいて作成されており、監査人の監査実務の動向を理解するうえで参考になる部分があると考えられる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計上の見積りと関連する開示に関する経営者の責任 経営者は、適用される財務報告の枠組みに従って、会計上の見積り及び関連する開示を認識し測定する責任を負っている。 会計上の見積りは、多くの企業にとって財務諸表の重要な項目であり、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的流行による事業環境や世界経済への影響は、減損テストのトリガーとなる可能性もある。 Ⅲ 会計上の見積りと関連する開示に関する監査人の責任 ISA540(改訂)は、会計上の見積りと関連する開示を監査する際の監査人の要求事項を規定している。 現状を踏まえると、会計上の見積りと関連する開示に関して評価された重要な虚偽表示リスクに対応する際には、追加的な又はより強固な手続が必要となる可能性が高い。 本文書では次の事項に焦点を当てている。 Ⅳ リスク評価手続とこれに関連する活動 次の事項が記載されている。 Ⅴ 重要な虚偽表示リスクの識別と評価 次の事項が記載されている。 Ⅵ 評価した重要な虚偽表示リスクへの対応 会計上の見積りの性質、適用される財務報告の枠組み、事業、産業及び経営環境を踏まえ、重要な仮定を検討する際には、経営者が作成した感応度分析を入手することも含まれる。 感応度分析は、代替的な仮定により生じ得る結果の範囲、及び経営者が「楽観的」シナリオと「悲観的」シナリオのどちらを選択したかの理解を監査人に提供するかもしれない。 COVID-19の世界的流行による不確実性を考慮すると、重要な仮定の変更が会計上の見積りに与える影響及び企業の財務状態に及ぼす影響を判断するためには、感応度分析が特に重要かもしれないと述べられている。 Ⅶ 開示 現在の環境下では、会計上の見積りに関する開示の重要性が特に強調されなければならないと述べられている。 ISA540(改訂)は、一定の状況において、適正表示を達成するために、財務報告の枠組みが明示的に要求しているもの以外にも追加的な開示が必要となる可能性があることも強調している。現在の環境下では、COVID-19の世界的流行以前には必要とされていなかった追加的な開示が必要となる可能性がある。 (了)
《速報解説》 経済産業省が「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書を公表 ~新たな電子的手段の活用の在り方や近年の環境整備等について検討~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年7月22日、経済産業省に設置された「新時代の株主総会プロセスの在り方に関する研究会」は、「新時代の株主総会プロセスの在り方研究会」報告書を公表した。 これは、株主総会当日の新たな電子的手段の活用の在り方及び近年の内外の制度整備や実務の積み重ねを踏まえたさらなる対話のための環境整備等について検討したものである。 また、参考として下記のものが公表されている。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 報告書は表紙を含めて83ページに及ぶものであり、次の内容である。 本稿では主なものについて解説する。 1 意思決定機関としての株主総会 株主総会には、(1)意思決定機関の側面と(2)会議体の側面という2つの側面がある。 意思決定機関としての株主総会に関して、企業、投資家・株主におけるそれぞれの現状と課題を踏まえ、今後、株主総会プロセスにおける企業と投資家・株主との対話をさらに効果的なものにしていくための方策として、次の事項を取り上げている。 (1) 目的に応じた効果的な対話・情報開示 目的に応じた効果的な対話・情報開示に関して、次のように、実施することが望ましいと考えられるポイントが記載されている。このほか、具体的な取組事例も紹介されている。 【実施することが望ましいと考えられるポイント】 (2) 対話環境の整備としての議決権電子行使の促進 対話環境の整備としての議決権電子行使の促進に関して、プラットフォームを利用していくにあたっての方策として、次の事項が記載されている。 (3) 対話環境の整備としての実質株主の判明 実質株主を議決権行使の判断を行っている者として、現状と改善の方向性として、議決権基準日時点における実質株主(企業が対話する相手方としての機関投資家)とその持株数について、企業が効率的に把握できるよう、実務的な検討がなされるべきと記載されている。 2 会議体としての株主総会 (1) ハイブリッド型バーチャル株主総会の活用状況 2020年2月26日に、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」が公表されている。 2020年3月以降の株主総会において、ハイブリッド型バーチャル株主総会は新型コロナウイルス感染症の拡大防止策としても検討され、様々なかたちで実施された際の企業の取組状況が記載されている。 (2) 新時代の株主総会プロセスに向けて 株主及び投資家との対話を重視し、株主総会当日に限定されない株主との双方向のコミュニケーションを充実させる企業も増えつつあり、今後、各社において株主総会プロセス及び株主総会当日の在り方についても検討が進むことが期待されると記載されている。 (了)
《速報解説》 国税庁、「年末調整手続の電子化に関するパンフレット」を公表し周知を図る ~承認申請の手続に留意~ 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 【1】 はじめに 令和2年分の年末調整から、年末調整手続の電子化に向けた施策が実施される。年末調整手続を電子化するには、企業と従業員いずれの側にも事前の準備が必要である。また、書面のやりとりによる今までの手続とは異なる流れとなるため、移行年度には混乱が生じる可能性がある。 このたび国税庁のホームぺージにおいて、年末調整手続の電子化を検討している企業向けに、電子化までのスケジュールや、事前に準備すべき事項をわかりやすくまとめたパンフレットが公開された。 【2】 年末調整手続の電子化の概要 平成30年度税制改正により、令和2年分の年末調整(※1)から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、住宅ローン控除証明書、年末残高等証明書(以下、控除証明書等という)は、従業員から勤務先へ電子データで提供できることとされた。 (※1) 電子データで提供できるようになるのは、令和2年10月1日以降。 なお、扶養控除等申告書、保険料控除申告書及び配偶者特別控除等申告書は、すでに電子データでの提供が可能である(※2)。これに加えて、住宅ローン控除申告書(※3)と、令和2年分の年末調整から新たに設けられた基礎控除申告書及び所得金額調整控除申告書についても、令和2年10月1日以降、電子データで提供できるよう手当てされている。 (※2) 平成19年7月1日以降。ただし配偶者控除等申告書は平成30年分以降。 (※3) 居住年が平成31年(令和元年)以後であるものに限られる。 書類別に電子化への対応時期をまとめると以下の通りである。 (※4) 配偶者控除等申告書は平成30年分以降。 年末調整手続を電子化することにより、従業員にとっては、これまで手書きで作成していた年末調整申告書の記入や控除額の計算が自動化され、控除証明書等を紛失したときの再発行手続の手間も省かれる。一方、勤務先においても、控除証明書等の内容確認や控除額の検算等に係る事務作業が軽減され、書面の保管コストの削減も可能となる。 〈参考〉電子化による主な変更点 【3】 公開されたパンフレットの概要 今回公開されたパンフレットは、次の7つの項目から構成されている。導入に向けた全体的なスケジュールの確認からはじまり、勤務先と従業員に分けて電子化に向けた準備と留意点がまとめられている。 年末調整に向けた準備は、例年であれば10月頃から始める企業が多いと思われるが、電子化を検討する場合には、給与システムの改修等はもちろんのこと、従業員がマイナンバーカードを取得したり、保険会社等から控除証明書等データの交付を受けたりする準備ができるよう、早めに周知する必要がある。 また、電子化について各従業員から事前に同意を得る必要はないが、従業員から年末調整申告書を電子データで提供を受けるためには、所轄税務署長に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、その承認を受ける必要がある。 なお、本申請書は、提出した月の翌月末日までに承認又は承認しないことの決定通知がなければ、申請書を提出した月の翌月末日に承認があったものとされる。令和2年10月1日から電子化を開始する予定であれば、令和2年8月31日までに申請書を提出する必要がある(令和2年9月30日に承認があったものとされる)。 今回公開されたパンフレット以外にも、よくある質問をまとめた「年末調整手続きの電子化及び年調ソフト等に関するFAQ」も公開されており、7月27日には問答の見直しや修正等の改訂が行われているので、参考にされたい。 (了)
《速報解説》 国税庁、配偶者居住権に係る2つの質疑応答事例(情報)を公表 ~評価事例では居住建物及びその敷地が賃貸・共有のケース等の計算例を示す~ 弁護士 木村 浩之 1 公表された質疑応答事例の概要 令和2年7月22日付けで、国税庁HPにおいて、配偶者居住権に係る相続税法上の取扱いに関するものを中心とした質疑応答事例(情報)が2本公表された。 周知のとおり、民法(相続法)については、一昨年に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年法律第72号)によって大幅な改正がなされており、原則として昨年7月1日にその施行がなされている。もっとも、同改正のうち、新たに創設された配偶者居住権及び配偶者短期居住権の制度については、その重要性に鑑みて、例外的にその施行が本年4月1日に先延ばしとされていた。 そして、本年4月1日にその施行日がいよいよ到来し、配偶者居住権等の制度も含めた改正相続法が全面的に適用されることとなった。なかでも比較的長期にわたって継続することが想定されており、相当な経済的価値を有すると考えられる配偶者居住権については、相続税法上でどのように取り扱われるかということは遺産分割等においても重要な問題であり、その取扱いを明確にする必要性が高いといえる。 そこで、国税庁においては、配偶者居住権等の制度が適用開始されることになったタイミングで、その相続税法上の取扱いを明確にする趣旨で、2本の質疑応答事例を公表したものと考えられる。 2本の質疑応答事例のうち、まず、①「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」は、配偶者居住権等の評価方法の基本的な考え方を包括的に整理した上で、各種事例に応じた具体的な計算方法を提示するものである。また、②「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)」は、主に配偶者居住権が設定された場合の小規模宅地等の特例の適用関係及び遺留分侵害額請求がなされた場合の相続税法上の取扱いについて整理するものである。いずれも今後の遺産分割等の実務において参考になるものと考えられる。 2 質疑応答事例①(「配偶者居住権等の評価に関する質疑応答事例」)の要点 配偶者居住権は遺産分割等において設定され、その存続期間中、居住建物を無償で使用・収益することができる権利であるが、これは相続税法上、相続によって取得した財産として相続税の課税対象になるとされている。問題はその評価方法であるが、一般の財産のように「時価」(相法22)を算出することが困難であることから、相続税法において別途評価方法を定めるという法定評価方法が採用されている(相法23の2)。 ここで前提とされている基本的な考え方は、配偶者居住権が居住建物を無償で使用・収益することができる権利であることの反面、その居住建物は、配偶者居住権が存続する期間中、無償の使用・収益を受忍する負担が付着した所有権(存続期間満了時点でようやく自由な使用・収益が可能となり、完全な所有権に復帰するもの)であるというものである。 このことから、配偶者居住権の評価に当たっては、まずは存続期間満了時点における建物所有権の価額を算定し、これを一定の割引率によって現在価値に割り戻すことで相続開始時点における(配偶者居住権の負担付の)建物所有権の評価額を算定した上で、当該価額を配偶者居住権が設定されなかった場合の相続開始時点における建物所有権の評価額から控除することにより、間接的に配偶者居住権を評価するものとされている(配偶者居住権に基づく敷地の使用権についても同様である)。 質疑応答事例①では、以上のような基本的な考え方を踏まえた上で、配偶者が居住建物の共有持分を取得する場合、配偶者が敷地の所有権を取得する場合、敷地が借地権である場合、居住建物又はその敷地が共有である場合、さらにはこれらが賃貸されている(されていない)場合など、様々な場面に応じて配偶者居住権の具体的な計算方法が示されている。 今後の実務においては、実際の案件がどの事例に当てはまるかを踏まえた上で、そこで示された計算方法を参考にしながら配偶者居住権の設定について検討することになると考えられる。 3 質疑応答事例②(「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)」)の要点 居住用の土地(土地上の権利を含む)を相続した場合、一定の要件を満たすことで、当該土地について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することが認められている(これを一般に「小規模宅地等についての課税価格の計算の特例」というが、本稿では、単に「小規模宅地等の特例」という。措法69の4)。 この点、配偶者居住権自体は建物についての権利であることから、土地を対象とする小規模宅地等の特例の適用はないものの、配偶者居住権には敷地利用権が付随していると考えられ、この敷地利用権は土地の上に存する権利であることから、その適用があると解されている。 質疑応答事例②では、このような理解を踏まえた上で、居住建物の敷地の土地が共有である場合、配偶者が土地の所有権を取得する場合、敷地が借地権である場合など、様々な場面に応じて配偶者居住権が設定されたときの小規模宅地等の特例の具体的な適用関係が示されている。 また、質疑応答事例②では、配偶者居住権に関する事例のほか、相続法改正に伴って問題となるいくつかの事例(主に遺留分侵害額請求に関するもの)についての相続税法上の取扱いもあわせて示されており、いずれも今後の実務において参考になると思われる。 (了)
2020年7月22日(水)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.379を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第73回】 「役員給与の減額が認められる場合」 税理士 山本 守之 新型コロナウイルスの影響で役員給与を減額する問題について、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」(以下「FAQ」)の問6-2では、次のような説明があります。 《回答》 貴社が行う役員給与の減額改定について、現状では、売上などの数値的指標が著しく悪化していないとしても、新型コロナウイルス感染症の影響により、人や物の動きが停滞し、貴社が営業を行う地域では観光需要の著しい減少も見受けられるところです。 また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が防止されない限り、減少した観光客等が回復する見通しも立たないことから、現時点において、貴社の経営環境は著しく悪化しているものと考えられます。 そのため、役員給与の減額等といった経営改善策を講じなければ、客観的な状況から判断して、急激に財務状況が悪化する可能性が高く、今後の経営状況が著しく悪化することが不可避と考えられます。 したがって、貴社のような理由による役員給与の減額改定は、業績悪化改定事由(法人税法34条1項、2項、法人税法施行令69条1項1号ハ、5項2号)による改定に該当します。 役員報酬の減額を基本通達で規定していた時代は、リストラをせざる得ない状況を中心に考えていましたが、コロナ対策を行う現在は、雇用を確保し、給与の減額をせざる得ない状況を中心に考えるようになってきています。 したがって、FAQの問6-2の回答に示すような新しいルールに踏み切っています。 財務状況の悪化は、「著しく悪化」でなければならない等が回答の文章に残っていますが、適用については減額を認める方向になっています。 法人税基本通達9-2-13(経営の状況の著しい悪化に類する理由)は、次のとおりです。 また、本通達の解説は次のとおりです。 業績の著しい悪化が不可避と認められる場合の役員給与の減額について、参考となる事例は次のとおりです(国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成24年4月改訂)[Q1])。 [A] ご質問の改定は、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたために行ったものであり、業績悪化改定事由に該当するものと考えられます。 したがって、このような事情によって減額改定をした場合の改定前に支給する役員給与と改定後に支給する役員給与は、それぞれ定期同額給与に該当します。 この事例について『法人税基本通達逐条解説』(税務研究会)では、次のように解説しています。 以上、これらの資料からみて、新型コロナウイルスの影響の場合のFAQ問6-2は、役員給与の減額の認定につき比較的ゆるやかですが、基本通達では厳しいことが分かります。 実務に携わるものとして、これらの使い分けを承知しておいた方がよいでしょう。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第6回】 「〔第1表の1〕養子縁組解消と株主判定」 税理士 柴田 健次 Q 丙は、下記の通り、甲と乙と養子縁組をしていましたが、甲と乙の死亡後に死後離縁を検討しています。また、非上場会社であるA社の議決権総数のうち70%は丙が保有しており、30%は丁が保有しています。 丁に相続が発生した場合において、次のそれぞれの場合には、丁の相続人である己が取得するA社株式の評価は原則的評価方式になるのでしょうか、それとも特例的評価方式(配当還元価額等)になるのでしょうか。 A ➤丙が死後離縁していなかった場合 ⇒己は原則的評価方式が適用される株主に該当します。 ➤丙が死後離縁していた場合 ⇒己は特例的評価方式(配当還元価額等)が適用される株主に該当します。 ◆ ◆ ◆ ① 養子縁組の効果 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる(民法727)とされていますので、養子縁組の日から丙と丁は兄弟姉妹の親族関係に該当することになります。 ② 養子縁組解消の効果 養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する(民法729)とされていますので、離縁によって養子縁組が解消された場合には、丙は丁及び己と親族関係を有しないことになります。 なお、養親の死亡後の養子縁組の解消は、「死後離縁」といいますが、家庭裁判所の許可が必要になります(民法811⑥)。例えば、養親又はその親族に対する扶養義務や祭祀を免れるためというように明らかに不純な理由に基づくものである場合には、離縁は認められないこととされています。 ③ 丙が死後離縁をしていなかった場合の株主判定 己の同族関係者として丙も含まれるため、己は同族株主に該当し、議決権割合5%以上となる株式を取得しているため、原則的評価方式が適用される株主に該当します。同族株主がいる場合の株主判定の手順については、本連載【第1回】の「同族株主がいる場合の株主判定の手順」をご確認ください。 ◎用語の意義と当てはめ ▷同族株主 課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数がその会社の議決権総数の30%以上(その評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者をいいます(評価通達188(1))。 死後離縁をしていなかった場合には、丙及び己が同族株主に該当します。 ▷同族関係者 法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)に規定する特殊の関係のある個人又は法人をいいます(評価通達188(1))。 特殊の関係のある個人は、例えば株主等の親族などをいいます。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいいます(民法725)ので、死後離縁をしていなかった場合には、丙は己の同族関係者となります。 ④ 丙が死後離縁をしていた場合の株主判定 丙が丁の相続開始前に死後離縁をしていた場合には、丙は養親及びその血族との親族関係は終了しているため、己の同族関係者として丙は含まれないことになります。したがって、己は同族株主以外の株主に該当することになり、特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されます。 評価通達188(1)によれば、「同族株主のいる会社の株式のうち、同族株主以外の株主の取得した株式」は、特例的評価方式(配当還元価額等)が適用されるものとされています。 ☆実務上のポイント☆ 養子縁組をしている場合には、養親との血族とも親族関係が成立しますので、株主判定で親族の範囲に留意する必要があります。養子縁組の効果、養子縁組解消の効果を確認して株主判定を行うようにしましょう。 (了)
令和2年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第5回】 「所得金額及び法人税額の計算(その2:グループ調整計算を行う項目)」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 (3) グループ調整計算を行う項目 ① 受取配当金の益金不算入制度 受取配当金の益金不算入制度について、連結納税制度では、グループ調整計算(グループ全体で益金不算入額を計算)となるが、グループ通算制度では個別申告方式となるため、負債利子控除額の上限額の計算を除いて、個別計算(各法人で益金不算入額を計算)となる(法法23)。 そして、次の取扱いに見直される(法法23①②④⑥)。 なお、受取配当金の益金不算入制度については、グループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度においても同様の取扱いに見直される(法法23①②④⑥)。 この場合、負債利子控除額の上限額(支払利子等の額の10%相当額)の計算について、単体納税制度では自社の支払利子等の額の10%とするが、グループ通算制度では、通算グループ全体の支払利子等の額を各通算法人の関連法人株式等に係る配当等の額(関連法人配当等の額)の比で配分した金額(支払利子配賦額)の10%とする(法法23①、法令19①②④)。 通算法人の「関連法人株式等に係る受取配当金の益金不算入額」の計算方法は、次のとおりとなる。 [通算法人の「関連法人株式等に係る受取配当金の益金不算入額」の計算方法] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 以上より、連結納税制度と計算方法が異なることになるが、元々、グループ全体の支払利子等の額が大きくない場合、グループ通算制度への移行によって連結納税と比較して税負担に大きな差異が生じることはないだろう(もちろん、単体納税との差異は生じることになる)。 なお、この負債利子控除額について、支払利子等の額の10%を上限とする取扱いを適用するためには、全ての通算法人において、その適用事業年度の確定申告書、修正申告書、更正請求書にその適用を受ける旨及び支払利子等の額を記載した書類の添付が必要となる(法令19⑨)。 通算法人の場合、通算グループ全体で上限額の計算を行わなければならないことから、関連法人配当等の額の4%の方が小さいことが明らかな場合や事務負担の軽減を優先したい場合は、その適用自体を行わないことも選択肢として考えられるだろう。 ② 外国税額控除 外国税額控除については、連結納税制度と同様に、通算グループ全体で税額控除額を計算することになる(法法69①⑭、法令148①~⑧)。 各通算法人の税額控除額の計算方法は、次のとおりとなる(法令148①~⑧)。 [通算法人の外国税額控除限度額の計算] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 上記の計算方法は、連結納税と大きく異なっているため、計算結果まで異なるのか疑問が生じる。 その点、通算制度の計算方法は、損益通算・欠損金の通算と同様に、通算法人のマイナスの控除限度額をプラスの控除限度額が生じる他の通算法人に配分する仕組みであり、マイナスの非課税国外所得金額や各通算法人の国外所得金額の合計額が各通算法人の所得金額の合計額の90%を超える場合の超過額もプラスの国外所得金額に基づいて各通算法人に配分計算しているため、連結グループ全体の控除限度額を計算した後に各連結法人のプラスの国外所得金額で配分計算する連結納税とは計算過程は大きく異なるが、計算結果までは異ならないと考えられる。 [外国税額控除額の計算例] ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ③ 研究開発税制 研究開発税制については、連結納税制度と同様に、通算グループ全体で税額控除額を計算することになる。 通算法人の試験研究費の税額控除額の計算方法は次のとおりとなる。 [手順1]通算グループ全体の税額控除可能額の計算 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法は、連結納税制度と同様に、次のとおりとなる(措法42の4①④⑦⑧三・⑱)。 【試験研究費の総額に係る税額控除制度(総額型)】 【中小企業者の試験研究費に係る税額控除制度】 【特別試験研究費に係る税額控除制度(オープンイノベーション型)】 [手順2]各通算法人の税額控除可能分配額の計算 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とする(措法42の4①④⑦⑧三・⑱)。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例88(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆相続財産を譲渡した場合の取得費の特例(措法39条) 相続又は遺贈により取得した資産を相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、その譲渡した資産の取得費については、一般の方法により計算した取得費に次の算式により算定した金額を加算することができる。 ただし、その金額がこの特例を適用しないで計算した譲渡益の金額を超える場合は、その譲渡益相当額となる。なお、贈与税額控除又は相次相続控除を受けている場合には、これらの税額控除前の相続税額を基に加算額を計算する。 (※) 贈与税額控除、相次相続控除を受けている場合には、加算後の相続税額 この特例は、この特例の適用を受けようとする年分の確定申告書に、この規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、この規定による譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他一定の書類の添付がある場合に限り適用できる。 (了)
〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第3回】 「修正申告を行う意味を考える」 弁護士 下尾 裕 1 修正申告とは 前回は税務調査の意味を検討したが、今回は、税務調査終了時の調査結果説明時に税務当局から持ち掛けられることがある「修正申告」の意味合いを考えてみたい。 修正申告とは、端的には、一度税務申告書を提出し又は更正処分を受けて税額等が確定した納税者が同一の年度について税額が増加する若しくは還付金又は損失の額が減少する税務申告書を提出する行為である(国税通則法第19条)。 納税者が一度申告した税額を減額等しようとする場合は修正申告ではなく、更正の請求の手続に拠らなければならない。その意味において、修正申告と更正の請求は、納税者の税負担を増加させる方向又は減少させる方向のいずれの行為であるかという観点で区別される。 では、納税者が自ら修正申告を行うことのメリット・デメリットはそれぞれどのようなものであろうか。以下の事例をもとに検討を進めたい。 2 納税者が修正申告を行うことのメリット (1) 加算税の減免等 納税者が積極的に修正申告を行うことのメリットはどこにあるのであろうか。これは端的には、修正申告を行うことにより、加算税の減免が受けられるほか、早く納税を完了する分、事後に更正処分等を受けるよりも増差税額に対する延滞税が少なくて済むというメリットがある。 各加算税の意義等については、本連載の別稿で改めてご説明させていただくこととするが、修正申告により、具体的には以下のとおり加算税の減免がなされることになる。 また、これらを前提とすると、事例Ⅰにおいては、X社は未だ税務調査の通知等を受けない段階で自ら修正申告を行う状況であることから、過少申告加算税又は重加算税の対象にはならないとの結論になる。一方、事例Ⅲにおいては、既に調査はほとんど終了している以上、後述する更正の予知に関する考え方の如何を問わず、加算税の減免は受けられないことになる。 (2) 「更正があるべきことを予知してされたもの」の意味合い 事例Ⅱにおける加算税の減免に関しては、既にX社は事前通知を受けていることから、修正申告が「更正があるべきことを予知してされたもの」であったかどうかにより結論を異にすることになる。 では、ここで「更正があるべきことを予知してされたもの」の意味は、どのように理解すればよいのであろうか。 この点、税務当局は、上記「予知してされたもの」の解釈につき、「納税者に対する当該国税に関する実地又は呼び出し等の具体的調査がされた後にされた」ものであると説明しているが(志場喜徳郎他『国税通則法精解(第16版)』(大蔵財務協会、2019年)P778)、過去の判例・裁判例においては、①調査により増差所得が発見された後にされたものと考えるもの、②調査が開始された後にされたものと考えるもの、及び、③調査により、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達し、納税者がそのことを認識した後と考えるもの、が存在しており、近年では以下の裁判例にもみられるように、③の考え方が有力になっている。 この③の考え方を前提とすれば、事例Ⅱにおいては、税務調査において売上計上漏れの発覚につながるやりとりが既に税務調査官との間でなされているかどうかが重要なポイントとなろう。 (※) 下線筆者 なお、ここで議論されている更正の予知は、「その申告に係る国税についての調査があったこと」が前提となるが、ここでは「実地の調査」ではなく、「調査」という文言が用いられている。よって、前回ご説明したとおり、ここでの調査は、少なくとも文言上は、税務当局内部での事前検討を広く含むものである。 しかしながら、国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達(以下「調査関係通達」という)1-1(3)及び1-2においては、以下のとおり、更正の予知の前提となる「調査」を文字どおりには解釈しない方向での解釈が示されている。 税務当局が内部検討を前提に、実地の調査によらずして納税者に接触する場合の多くは、前回述べたところの自主的な見直しを求める場合、すなわち調査ではなく、行政指導として整理される場合であると想定されることも踏まえると(調査関係通達1-2)、更正の予知の有無が現実に議論されるのは実地の調査が行われた場合又は行われようとする場合に限られるものと考えられる。 3 納税者が修正申告を行うことのデメリット 修正申告とは、上記のとおり、納税者自身が自ら当初申告した税額が過少又は還付金等が過大であったことを自認する行為である。また、修正申告を行う場合には、原則として税務当局からの更正処分等がなされないことから、修正申告の内容について不服申立て等を行うことはできない。 その意味において、事例Ⅲにおいては、X社は、修正申告を行うことにより不服申立ての機会が失われるというデメリットが存在することになる。 この点に関し、現行の国税通則法においては、納税者が修正申告を行った後であっても再度、更正の請求等の可否を行うことにより、修正内容の当否を争うことは妨げられないことから、実際のところ、修正申告によったとしても、更正の請求を通じて修正内容の当否(事例Ⅲでいうところの架空給与か否かの争点)を争うことは制度上可能である。 ただ、現実問題として、納税者が一度修正申告を行った場合には、当該申告の前提に客観的かつ明白な錯誤があったなど特段の事情がない限り、その修正内容が正当であると認めていたという外形的事実が残ることになるので、特に事実認定が争いとなるような場面においては、修正申告後に更正の請求を行うことの事実上のハードルは高いものと想定される。 * * * 次回は、税務調査において非違を指摘され、修正申告を行わない場合に想定される更正処分等について取り上げることとする。 (了)