《速報解説》 経産省、スピンオフ等の積極的な事業再編促進を図る「事業再編研究会」の立ち上げを公表 ~社外取締役等による実効的なガバナンス構築へ向け実務指針策定を目指す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020年1月29日、経済産業省は、「事業再編研究会」の立ち上げを公表した。 これは、日本企業のスピンオフ等による積極的な事業再編を促すため、実効的なガバナンスの仕組みを構築するための具体的な方策について検討し、実務指針を取りまとめるための研究会である。 第1回研究会は令和2年1月31日(金)に開催される。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次の問題意識を背景としている。 そこで、今般、「事業再編研究会」を立ち上げ、経営陣、取締役会(特に社外取締役)及び投資家を通じて、ガバナンスの力が有効に発揮される仕組みを構築するための具体的な方策(ベストプラクティス)について検討し、実務指針として公表することを予定するものである。 (了)
2020年1月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.354を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
山本守之の 法人税 “一刀両断” 【第67回】 「租税を巡る新しい動き」 税理士 山本 守之 米国の巨大IT企業が日本で稼いだ所得を低税率国にまわして節税する手法をとっており、これに対して税務当局が手を付けられない不公平が続いていましたが、ここへ来てこれが是正される動きが出てきました。 まず、広告事業を展開するグーグルが従来(2019年3月まで)日本で稼いでいた広告収入を税率の低いシンガポール(実効税率17%)で払っていた法人税について、2019年4月から日本で払うことを決めたのです。 同じくフェイスブックも今まで日本での広告収入を税率の低いアイルランド(実効税率12.5%)に計上していましたが、今年から日本で計上することに決めたのです。 企業の利益はそれが生み出された場所で課税するのが原則ですが、企業利益の源泉が「モノ」から「データ」に変わると納税地を容易に移転することができ「節税」になるとしていたのです。 「データ」(無形資産)は工場のような有形資産と違い、国境に関係なく容易に移転できるのです。データ処理をする所を恒久的施設とすれば、そこで納税することが税務上可能となるでしょう。 グーグルやフェイスブックもこれから国内(グーグルの場合は千葉県)のデータセンターを恒久的施設として日本に納税することになるでしょう。 グーグルとフェイスブックは日本のデジタル広告売上高の56%(電通調べ)を持っており、日本のインターネット広告市場は1兆4,480億円とされていますから、両社の収入が日本で計上されると、かなり大きな移動になります。 グーグルやフェイスブックが低税率国から日本へ法人税を払うという動きがあっても、なお、アップル(アプリ配信)やエアビーアンドビー(民泊)などは日本で払うべき法人税をアイルランドで払い続けているのも問題です。 それでは、グーグルとフェイスブックはなぜかなりの負担となる日本で広告収入を計上する道を選んだのでしょうか。 GAFAと呼ばれる企業は、従来次のように語っていました。「払う必要のない税金を払わないのは当然だ。問題なのは節税が可能な現在の納税制度だ。余計な金を払えば株主から訴えられる。」 企業は持続的成長をするために社会的責任に向かい合う必要があったのではないでしょうか。だとすれば、今回の両社の決断は評価すべきでしょう。 しかし、従来の課税当局の態度も反省すべきです。 税務当局が「税はそれを生み出した場所で払う」という税制の大義によって腹をくくって対応すべきだったでしょう。 デジタル時代に「恒久的施設の原則」という甘い基準で納税義務を定めているのも問題です。 米国の代表的な株価指数であるS&P500の構成企業の市場価値は次のように変化しています。 企業価値の源泉は製造業が中心であったころの「モノ」からグーグル、アップルなどのデジタル企業の無形資産(ノウハウ、顧客データ)に代わりました。 こうなると、どこで稼いだかが見えなくなってきています。知的財産権を低税率国に移すことで節税が行われるのです。 今日ではデータや知識が技術革新や経済成長の源泉になっており、無形資産の比重が増しています。 そこで物理的なモノや取引がなくても、サービス利用者の数を基準とするデジタル課税の手法が出てきたのです。 デジタル課税は所得課税に代わる税制の位置付けが必要です。 (了)
谷口教授と学ぶ 税法の基礎理論 【第28回】 「租税法律主義と租税回避との相克と調和」 -租税回避の否認アプローチ- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 租税回避の否認は、前回みたとおり、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すことを意味するが、そこでいう「行為」の意味内容は、否認アプローチによって異なる。筆者がこのことを(現在ほど整然とではないにしても)初めて認識したのは、いわゆる外国税額控除余裕枠利用事件に関する2つの最高裁判決を検討したときであった(拙著『租税回避論-税法の解釈適用と租税回避の試み-』(清文社・2014年)第2章第1節[初出・2007年]。第7回も参照)。 その2つの最高裁判決は、最(二小)判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁(以下「平成17年最判」という)と最(一小)判平成18年2月23日訟月53巻8号2447頁(以下「平成18年最判」という)である。今回は、これらの判決の(特に「読み方」の)検討を通じて、租税回避の2類型(第22回)のうち税法上の課税減免規定の濫用による租税回避については、その否認のために異なるアプローチがあることを明らかにした上で、そのことを租税回避の手段論(第22回参照)の観点から検討することにする。 Ⅱ 外国税額控除余裕枠利用事件最判の「読み方」 平成17年最判は次のとおり判示した(下線筆者)。 他方、平成18年最判は次のとおり判示した(下線筆者)。 上の2つの判示を比較すると、それぞれの判断の内容及び結論は基本的には同じであるが、唯一明確に異なるのは、外国税額控除制度の濫用について説示する文章(下線部)の「主語」である。この点については、「多少の表現の違い」(田中治「租税回避否認の意義と要件」岡村忠生編著『租税回避研究の展開と課題〔清永敬次先生謝恩論文集〕』(ミネルヴァ書房・2015年)39頁、46頁)の1つとみる向きもあるが(平成17年最判に関する調査官解説『最高裁判所判例解説民事篇 平成17年度(下)』(法曹会・2018年)998頁[杉原則彦]も同最判の前記下線部を「本件取引は、外国税額控除制度を濫用するもの」として、平成18年最判と同様の表現で要約している)、しかし、日本語の文法上は、主語の違いは当該説示の論理構成の理解にとって重要な意味をもつと考えられる。 また、平成18年最判が、異なる小法廷での判断であるとはいえ類似の事案に関する判断であり、しかも既に裁判所時報1402号(平成18年1月15日)7頁で公刊されていた平成17年最判(民集登載判例)を引用していないのは、「多少の表現の違い」だけを理由とするものではないようにも思われる(なお、民集登載判例を裁判所時報登載段階で引用した例として、例えば最判平成24年7月19日税資262号順号12005参照)。 そこで、筆者は、従来から、前記の「主語」の違いに着目して、両判決は外国税額控除制度の濫用の否認(禁止)について異なる論理構成を採用したものと理解した上で、平成17年最判の論理構成を「権利濫用アプローチ」、平成18年最判の論理構成を「租税回避アプローチ」と呼んできた(前掲拙著53頁、65頁[初出・2007年]参照)。その後、前者については言葉を補い「制度(権利)濫用アプローチ」という呼称を用いるようになった(拙稿①「ヤフー事件東京地裁判決と税法の解釈適用方法論-租税回避アプローチと制度(権利)濫用アプローチを踏まえて-」税研177号(2014年)20頁、拙稿②「租税回避と税法の解釈適用方法論-税法の目的論的解釈の『過形成』を中心に-」岡村編著・前掲書1頁、15頁、拙稿③「権利濫用」金子宏・中里実編『租税法と民法』(有斐閣・2018年)15頁、23頁参照)。 制度(権利)濫用アプローチというのは、外国税額控除制度を、法人税法69条が一定の要件の下で納税者に外国税額控除権という税法上の権利を付与する制度と理解した上で、平成17年最判のいう「本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすること」(主語)を「本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税について外国税額控除権を行使すること」と言い換え、かつ、同制度の趣旨・目的に著しく反する外国税額控除権の行使を外国税額控除権の濫用とみて、これには、民法における権利濫用と同じく、権利行使に伴う法律効果を認めない、というものである。 他方、租税回避アプローチというのは、「本件各取引」(主語)を「外国税額控除の制度を濫用するもの」とみる場合、その「濫用」は(その説示に続く)「これに基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすること」を意味すると理解した上で、外国税額控除制度の要件を同制度の趣旨・目的に著しく反する態様で充足する取引を「異常な」取引(私法上の形成可能性の濫用)とみて、これを「通常の」取引(平成18年最判の表現を借りると「本件銀行にとっては外国法人税を負担することにより損失が生ずるだけの取引」というような「異常な」取引をしないこと。これも取引に係る私法上の形成可能性の選択肢である)への引き直しによって否認する、というものである。 Ⅲ 直接的手段否認アプローチと間接的手段否認アプローチ 1 租税回避の手段論と否認論 もっとも、前記の2つの最高裁判決に関する以上のような「読み方」については、その出発点となる(特に「主語」の違いに関する)問題意識それ自体は今日でも変わるところはないにしても、この間の研究において租税回避の類型を検討する過程で、租税回避の「手段」の観点から検討し直した方が、否認アプローチの意味内容を理解しやすいのではないかと考えるようになった。 その直接の契機となったのは、第22回におけるヤフー事件・最判平成28年2月29日民集70巻2号242頁にいう「租税回避の手段」の検討である。同最判は次の判示(下線筆者)で「租税回避の手段」という文言を2回用いているが、それらは、以下で述べるような異なる意味で用いられていると解される。 上記の判示にいう「租税回避の手段」のうち1つ目は、「組織再編成」に係る私法上の形成可能性であり、2つ目は、「組織再編成に関する税制に係る各規定」(具体的には、資産の簿価や未処理欠損金額の引継ぎに係る課税減免規定)である。法人税法132条の2が否認の対象とする租税回避は、租税回避の第2類型すなわち税法上の課税減免規定の濫用による租税回避であるが、上記の1つ目の手段は、その「間接的手段」であり、2つ目の手段は、その「直接的手段」である(第22回Ⅲ参照)。 平成17年最判も平成18年最判も外国税額控除に係る課税減免規定(法税69条)の濫用による租税回避を対象とするものであるが、そのような租税回避の手段の観点からは、前者はその「直接的手段」としての外国税額控除規定の適用を否認するものであり、後者はその「間接的手段」としての私法上の形成可能性の濫用による「異常な」取引を否認するものである、ということができよう。後者においては、想定される「通常の」取引は、「本件銀行にとっては外国法人税を負担することにより損失が生ずるだけの取引」というような「異常な」取引をしないこと(これも取引に係る私法上の形成可能性の選択肢である)であると考えることができるが、これによっては外国税額控除規定の要件は充足されず、結局のところ、同規定の適用は否定されることになる。つまり、この場合、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避の否認は、「間接的手段の否認→直接的手段の否認」という二段階の法律構成を採ることになる。 このように考えてくると、筆者が従来「制度(権利)濫用アプローチ」、「租税回避アプローチ」と呼んできた否認アプローチは、それぞれ、「直接的手段否認アプローチ」、「間接的手段否認アプローチ」(あるいは前記の法律構成に着目して「二段階構成否認アプローチ」)と呼ぶ方が適切であるように思われるので、今後は、これらの呼称を用いることにする。 その際、租税回避の第1類型すなわち私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第22回Ⅱ参照)については、私法上の形成可能性が「直接的手段」とされるのである(同Ⅳ参照)から、直接的手段否認アプローチは、租税回避の類型によって異なる意味に理解すべきであることに注意しておく必要がある。 この点に関連して、タックス・シェルター(tax shelter)に関する筆者の理解について触れておきたい。筆者はタックス・シェルターについて従来から次のとおり述べてきた(【69】=拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)の欄外番号。下線追加)。 今から振り返ってみると、そこでは、タックス・シェルターを税法上の課税減免規定の濫用による租税回避とみて、これを間接的手段否認アプローチによって否認する考え方を述べていたということになろう。 なお、金子宏教授は租税回避の類型について次のⓐのとおり述べ(同『租税法〔第23版〕』(弘文堂・2019年)134-135頁。下線筆者)、租税回避の否認について次のⓑのとおり述べておられる(同135頁。下線筆者)。 これらの叙述によれば、金子教授は、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避について、その手段として「間接的手段」を問題にし、その否認について筆者のいう「間接的手段否認アプローチ」のような立場に立っておられるものと解される(前掲拙稿③32頁脚注45も参照)。 2 両アプローチの法的意味の違い 租税回避の否認アプローチについて、筆者は、当初は、平成17年最判と平成18年最判との論理構成の違いを明らかにすることを目的として、検討を行ったのであるが(前掲拙著第2章第1節[初出・2007年])、その後、それぞれの論理構成に関する2つの否認アプローチ(租税回避アプローチと制度(権利)濫用アプローチ)の法的意味の違いを、ヤフー事件・東京地判平成26年3月18日民集70巻2号331頁の次の判示(下線筆者)に対する批判のために、援用した。 すなわち、上の判断で示された不当性要件の解釈について、筆者は(ⅰ)を経済的合理性基準、(ⅱ)を制度趣旨・目的基準と理解した上で、その判断に対して前記の両否認アプローチの法的意味の違いの観点から次のとおり批判し(前掲拙稿①27-28頁)、さらに「許容されない法創造(目的論的解釈の『過形成』)の領域に踏み込んだもの」(前掲拙稿②28頁)とも批判した。 このように、租税回避の否認に係る両アプローチは、例えば法人税法132条の2の不当性要件の解釈において「異質な」基準を支える考え方として、異なる法的意味をもつと考えるところであるが、筆者による上記の判決批判に対して次のような批判が加えられている(関根英恵「法人税法132条1項と同法132条の2における『法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき』の解釈及び両規定における『不当』性判断枠組みの異同について」訟務月報61巻1号別冊(2015年)189頁、259頁。下線筆者。なお、荒井英夫「ヤフー事件最判を踏まえた法人税法132条1項と132条の2の不当性要件の解釈について」税大ジャーナル30号(2019年)69頁、87-88頁も参照)。 この批判に答えることは筆者の「宿題」となっていたが、今回、前記1で述べたとおり、租税回避アプローチ及び制度(権利)濫用アプローチをそれぞれ「間接的手段否認アプローチ」、「直接的手段否認アプローチ」と呼ぶことにしたのは、その「宿題」に答えるためでもある。両アプローチは否認(規制)の対象とする「租税回避の手段」を異にしその手段としての「行為」の意味内容を異にするので、両アプローチの違いはまさに「規制対象、内容に係る違い」というべきものと考えるところである。 ともかく、ヤフー事件最判は、前記1でみたとおり、「租税回避の手段」として、一方で、法人税法132条の2の趣旨・目的に関する説示の中では間接的手段(「組織再編成」に係る私法上の形成可能性)に言及しながらも、他方で、同条の不当性要件の解釈適用上は直接的手段(「組織再編成に関する税制に係る各規定」)を否認の対象とする判断枠組みを示したことから、同最判では、同事件の前掲東京地判にみられた「不自然で過剰な法律構成による解釈」の問題は解消されたと考えられる。 Ⅳ おわりに 最後に、今回の検討のまとめとして、前回述べた租税回避の否認の意味(「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すこと)を、租税回避の類型に即して、かつ、否認アプローチに従って、整理・敷衍しておこう。 まず、私法上の形成可能性(選択可能性)の濫用による租税回避(第1類型)については、課税要件(積極的課税要件)の充足回避のための直接的手段が私法上の形成可能性であることから、その否認は、直接的手段否認アプローチによって、納税者が私法上の形成可能性の濫用により選択した「異常な」行為を、想定される「通常の」行為に引き直すことを意味する。 次に、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(第2類型)については、課税要件(積極的課税要件)の充足回避のための①直接的手段は、積極的課税要件の適用を排除し租税負担を軽減・排除する課税要件(消極的課税要件)を定める課税減免規定であり、また、そのための②間接的手段は、消極的課税要件を充足する行為を選択する私法上の形成可能性であることから、その否認は、①直接的手段否認アプローチによれば、課税減免規定の適用を否定することを意味し、②間接的手段否認アプローチ(二段階構成否認アプローチ)によれば、納税者が私法上の形成可能性の濫用により選択した「異常な」行為を、想定される「通常の」行為に引き直すことを意味する。 このように整理すると、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避について、直接的手段否認アプローチによる否認は、一見すると、「異常な」行為を「通常の」行為に引き直すこととは異なる意味で理解されているように思われるかもしれないが、必ずしもそうではなく、前回Ⅲ1で述べたように、少なくとも否認に係る思考過程としては、次のような意味で理解すべきものである。すなわち、ⓐ課税減免規定をその趣旨・目的に反して利用する行為(課税減免規定の濫用)によってしか当該規定の適用を受けることができない場合に、ⓑ当該規定をその趣旨・目的に従って利用する行為を想定しこれを前提にして課税関係を構成すれば、当該規定の適用が受けられなくなる(否定される)ことを意味するのである。それらの行為を租税立法者の立場からみれば、ⓐの行為は立法者の想定外の(という意味で「異常な」)行為、ⓑの行為は立法者の想定内の(という意味で「通常の」)行為とみることができる。 また、税法上の課税減免規定の濫用による租税回避について、間接的手段否認アプローチによる否認は、一見すると、私法上の形成可能性の濫用による租税回避に関する直接的手段否認アプローチによる否認と同じ意味で理解されているように思われるかもしれないが、必ずしもそうではなく、前記Ⅲで述べたように、納税者が私法上の形成可能性によって選択した「異常な」行為に対して想定される「通常の」行為は、当該「異常な」行為をしないことという消極的な意味で理解すべきものである。当該「異常な」行為をしないことも私法上の形成可能性の選択肢ではあるが、それがもう1つの(しかも「唯一の」)選択肢である。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例82(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例(措法35③) (1) 被相続人の居住用家屋を取り壊しその敷地の用に供していた土地等を譲渡した場合 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋の全部を取り壊してその敷地の用に供していた土地等を平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に譲渡し、次の要件に当てはまるときは、居住用財産を譲渡したものとみなして、3,000万円の特別控除の適用を受けることができる。なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、被相続人の居住用家屋に該当するものとして特例の適用を受けることができる(平成31年4月1日以後の譲渡から)。 (2) 適用除外 次のいずれかに該当する場合には、特例の適用は受けられない。 ◆未経過固定資産税に相当する額の支払を受けた場合 固定資産税は、各年ごとに、その賦課期日である1月1日における土地又は家屋の所有者を納税義務者として課されるものであり、その年の賦課期日後に所有者の異動が生じたとしても、新たに所有者となった者がその賦課期日を基準として課される固定資産税等の納税義務を負うことはない。 固定資産税の賦課期日とは異なる日をもって土地建物の売買契約を締結する際に、買主が売主に対し、売主が納税義務を負う固定資産税額のうち未経過固定資産税に相当する額を支払うことを合意した場合、この合意は、土地及び家屋の売買契約を締結する際に、売主が1年を単位として納税義務を負う固定資産税につき、買主がこれを負担することなくその土地及び家屋を所有する期間があるという状況を調整するために個々的に行われるものである。 したがって、支払を受けた未経過固定資産税に相当する額は、実質的にはその土地及び家屋の譲渡対価の一部として譲渡所得の収入金額に算入される。 ◆相続財産を譲渡した場合の課税の特例(「取得費加算の特例」)(措法39) 相続により取得した土地、建物、株式などを譲渡した場合で、次の要件に当てはまるときは、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる。なお、上記「空き家に係る3,000万円の特別控除」とは選択適用となっているため、「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用を受けていないことが要件となる。 (了)
国外財産・非居住者をめぐる税務Q&A 【第37回】 「PEのない非居住者が行ったFX取引の課税関係」 税理士 菅野 真美 - 質 問 - 私は外国に転勤することになりました。国内にいる時からインターネットを通じてFX取引(店頭デリバティブ取引)をしていましたが、転勤後の取引の場合も、差金に申告分離課税されることになりますか。 ◆ ◆ 解 説 ◆ ◆ ▷FX取引とは FX取引(外国為替証拠金取引)とは、異なる通貨を売買しその差益を受け取るような取引である。例えば、1ドル100円の時にドルに交換して、1ドル120円の時に円に交換すれば、20円の差益を受け取ることができる。 取引の最初に証拠金(担保)としてお金を預け、レバレッジを掛けて預けたお金よりはるかに大きなお金を動かすことにより、リターンを大きくすることもできる。1ドルで100倍のレバレッジを掛けると、20円の円安で2,000円の差益を受けることができる。 さらにスワップポイントといって、金利差の調整がある。例えば、低金利の日本円を売って高金利の外貨を買う場合、その金利差を受け取ることができる。 ▷FX取引に係る課税関係 このFX取引の個人の課税関係であるが、差金決済により差益が生じた場合は、先物取引に係る雑所得等として、他の所得と分離して20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、地方税5%)の税率で課税される。 他方、差金決済により差損が生じた場合は、他の先物取引に係る雑所得等の金額との損益通算はできるが、他の所得の金額との損益通算はできない。他の先物取引に係る雑所得等と損益通算をしてもなお控除できない損失の金額は、一定の要件を満たした場合は翌年以後3年間、繰越控除できる。 なお、この申告分離課税の適用を受けるのは、居住者又は恒久的施設(PE)を有する非居住者である。 ▷PEのない非居住者が行ったFX取引に係る裁決事例 居住者やPEのある非居住者のFX取引により生ずる利益の課税方法は申告分離課税であるが、それでは、PEのない非居住者の場合の課税方法はどうなるのか。 この問題について、裁決事例から課税関係について検討する(平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分、平成27年分の所得税及び復興特別所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分・棄却・平31-03-25公表裁決、TAINSコード:J114-2-05)。 この事案は、平成25年6月18日にFX取引の開設を申し込んだ納税者が、同年8月26日以降、中国に転勤して、PEのない非居住者になった。この納税者が行った平成25年から平成27年のFX取引に係る所得について、平成25年分と平成26年分については確定申告書を提出し、平成27年分については提出しなかった。課税庁は3年分のうち平成25年分、平成26年分について更正処分を、平成27年分について決定処分を行った。 更正処分等の理由は、以下のようなものである。 PEのない非居住者の資産の運用、保有による所得が国内源泉所得に該当する場合は、総合課税の対象となる(所法161①二、164①二)。このことから納税者は不服であるとして審査請求を行った。争点は4つあったが、本稿においては2つに絞って検討する。 なお、課税処分段階では証拠金が国内にある資産だからと課税庁は主張したが、審査請求時点では契約上の権利が国内にある資産と差し替えている。 ▷争点①:FX取引による所得は資産の運用、保有により生ずる所得に該当するか 納税者は、FX取引による所得は「資産の運用、保有により生ずる所得」に該当しないと主張した。なぜなら、先物取引の契約の地位は、取得時に差金決済により利益が生ずるか損が生じるか不確定であるから、資産に該当しない。スワップポイントについては、資産に該当するのであれば、資産の譲渡による所得に該当する。資産の譲渡に該当しないとしても実質的には貸付金に準ずるものの利子に該当するから、資産の運用、保有による所得には該当しないと主張した。 しかし、審判所は以下のように、納税者の主張を認めなかった。 資産は、一般に経済的価値を有する財産権をすべて含むから経済的価値を有する契約上の権利も含むとし、FXの契約上の地位は、損失を生じさせるものであったとしても利益を生じさせ得るものだから、経済的価値を有する財産権であると解される。 差金決済による所得は、契約上の地位による権利行使の結果生ずるものであり、契約上の地位の移転により生ずるものではないから、譲渡所得ではなく資産の運用、保有により生ずる所得である。 スワップポイントも、差金決済と同様に資産の運用、保有から生ずるものであり、FX取引の内容は消費貸借と法的性質が明らかに異なるから、貸付金の利子に該当しない。 ▷争点②:平成25年8月23日(納税者が居住者である時点)に反対売買の約定が成立した取引に申告分離課税の適用はされるか否か 納税者は、約定日に決済益相当額の請求権が法的に発生し収入額が確定しているため、この日で所得を認識すべきである。約定日は平成25年8月23日で、納税者が居住者である時点であることから、申告分離課税が適用されると主張した。 しかし、審判所は納税者の主張を認めなかった。租税特別措置法第41条の14第1項第2号でいう「決済」とは、金融商品取引法第2条第22項第1号から①売買の当事者が将来の一定の時期において金融商品及びその対価の授受を約する売買であって、②当該売買の目的となっている金融商品の売戻し又は買戻し(反対売買)をしたときは、③差金の授受によって決済することができる取引である。つまり、決済とは②の反対売買の約定をする行為ではなく③の差金の授受によってなされた行為を指しているから、差金の授受による決済をした時点で所得を認識するということであり、その時点(平成25年8月27日)において納税者は恒久的施設のない非居住者であったからである。 このように、FX取引の所得は決済した日において居住者か非居住者の判定を行い、PEのない非居住者の場合は、雑所得等として超過累進税率で総合課税されることになると考えられるので注意が必要である。 (了)
措置法40条(公益法人等へ財産を寄附した場合の 譲渡所得の非課税措置)を理解するポイント 【第18回】 「申請書の提出期限に係る「寄附をした日」とは」 公認会計士・税理士・社会保険労務士 中村 友理香 - 質 問 - 譲渡所得の非課税措置を受けるためには、寄附をした日から4ヶ月以内に、国税庁長官宛てに申請書類を提出しなければいけないと聞きました。 この4ヶ月の計算の起算日となる「寄附をした日」とは、具体的にどの日を指すのでしょうか。 - 回 答 - 個人が公益法人等に財産を贈与又は遺贈を行った日については、次に掲げる日後に当該贈与又は遺贈の効力が生ずると認められる場合を除き、それぞれ次に掲げる日をいうものとして取り扱われます(措置法40条通達5)。 なお、(2)における「公益法人等の成立した日」とは、特定一般法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人、宗教法人、医療法人又は特定非営利活動法人の場合、法人の設立登記の日となります。 ○●○◆ 解 説 ◆○●○ 譲渡所得の非課税措置(租税特別措置法第40条)の適用を受けるためには、贈与又は遺贈のあった日から4月以内(当該期間の経過する日前に当該贈与があった日の属する年分の所得税の確定申告書の提出期限が到来する場合には、当該提出期限まで)に、納税地の所轄税務署長を経由して、「租税特別措置法第40条の規定による承認申請書」を国税庁長官に提出しなければならないとされています(措令25の17①)。 この場合の「贈与又は遺贈のあった日」については、ケース毎に次のように個別に定められています(措置法40条通達5)。 ただし、災害、重病等による場合、遺言をもって公益法人等を設立するための財産の提供があった場合において当該期間内に当該法人が設立されなかったときなど、当該期間内に申請書等を提出できなかった事情が客観的に認められる場合、かつ、当該贈与又は遺贈に係る山林所得、譲渡所得又は雑所得につき国税通則法第24条から第26条までの規定による更正又は決定を受ける日の前日までに申請書類の提出があったときには、期日までの提出があったものとして取り扱われることになっています(措置法40条通達6)。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第21回】 千葉商科大学商経学部講師 泉 絢也 エ 近接日における確定決算収益経理要件 法人税法22条の2第2項は、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って「当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の1項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合」には、1項の規定にかかわらず、その資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(法人税法22条4項を除く)があるものを除き、その事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入するとしている。 いわば、近接日における確定決算収益経理要件を定めているのであるが、上述のとおり、かかる要件は次の➊近接日要件と➋確定決算収益経理要件に細分化できる。 以下、それぞれの要件について考察を加える。 (ア) ➊近接日要件 (収益経理した日が目的物の引渡日又は役務提供日と近接する日であること) 後述するとおり、立案担当者は、法人税法22条の2第2項について、従前の取扱いによる収益計上を認めるために設けた旨を述べている。 従前から、資産の引渡日又は役務提供日以外の日において収益を認識する会計原則・会計慣行があり、そのような会計原則・会計慣行(一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に該当するものに限る)に従って収益経理していた場合には、法人税法上もその経理に従うこととされていた。 今回、法人税法22条の2第1項の創設により、資産の販売等に係る収益の計上時期を決する原則的基準として引渡基準が採用されたことから、従前の取扱いによる収益計上を認めるかが問題となった。平成30年度改正では、この点を踏まえて、従前の取扱いを維持するために、法人税法22条の2第2項を創設した、というのである(財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁参照)。 いずれにしても、資産の販売等に係る目的物の引渡日又は役務提供日と時間的に近接する日であることが法人税法22条の2第2項の適用要件として明文化されたことは明らかである。 そして、上述のとおり、仮に、引渡日又は役務提供日とは異なる日に収益を計上する場合に、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準においても、引渡日又は役務提供日に時間的に近接していることを要求しているとすれば、法人税法22条の2第2項は、引渡日又は役務提供日とは異なる日の属する事業年度に収益計上することを認めるための条件として、引渡日又は役務提供日との時間的近接性を重視し、あえて条文に明記したものという評価が与えられることになる。 この意味では、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」が含み持つその判断要素から、引渡・役務提供基準という法人税法上の原則的な収益計上日ないし収益計上基準との時間的近接性が抜き出されて要件化されたものといえるかもしれない。 かような時間的近接性を求める語句が法文に明定されたことの意義は、それなりに重い。 租税法律主義(憲法30条、84条)の原則が厳然と存在するため、租税法規の解釈は文理解釈を原則とする。 したがって、法人税法22条の2第2項の趣旨が従前の取扱いによる収益計上を認めることにあるとしても、従来、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」として認められてきた収益計上日ないし収益の計上時期に係る基準の中に、目的物の引渡日又は役務提供日と時間的近接性が認められないものがあるとすれば、これらについては、法人税法22条の2第2項の適用がないことになる。 かような改正が行われたことについては、批判も示されている(朝長英樹「『収益認識に関する会計基準等への対応』として平成30年度に行われた税法・通達改正の検証(6・了)」T&A master755号16頁以下参照)。 また、後述するとおり、立案担当者は、「近接する日」とされていることから、割賦基準・延払基準による収益計上は、別段の定めがない限り法人税の所得の金額の計算上は認められないと説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』274頁参照)。 結局のところ、法人税法22条の2第2項は、引渡・役務提供基準以外の基準による収益計上日について、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」に限定するものであるという説明が成り立ちえよう。 いかに、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従った処理(従前から認められてきた会計処理)であっても、目的物の引渡日又は役務の提供日との時間的近接性が認められなければ、法人税法上はその採用が認められないということである。この意味で、法人税法22条の2第2項は、引渡・役務提供基準から離れた会計処理を行う場面を想定する場合に、引渡・役務提供基準との関係において“限定された柔軟さ”を体現する規定であるといえよう。 《不明確性の根源》 法人税法22条の2第2項は、収益の計上時期について、一定の要件を満たした場合には、資産の販売等に係る収益の額について、目的物の引渡日又は役務の提供日に「近接する日」の属する事業年度の益金の額に算入することを規定している。 上述のとおり、かかる近接日基準にいう「資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日」とは、資産の引渡日又は役務提供日との時間的近接性を要求するものである。 もっとも、資産の引渡日又は役務提供日に「近接する日」といっても、具体的事案においてどこまでが「近接する日」として認められるのか、必ずしも明らかではない。 かかる不明確性の根源として、次の3つを指摘しうる。 ①の根源は、引渡・役務提供基準の不明確性の承継である。近接日基準にいう「近接する日」とは、法人税法22条の2第1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」を起点とした「近接する日」である。 この1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」自体が、概念的にも実際的にも漠とした部分を残すものである。2項の近接日がこれを起点に据える以上、1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」自体が有する不明確性を承継することになる。 もっとも、法人税法22条の2第2項が1項にいう「目的物の引渡し又は役務の提供の日」を起点とすること自体には利点もある。引渡・役務提供基準と近接日基準は互いに競合しない(重なり合うことはない)ことである。 ②の根源は、「近接」という語それ自体が持つ曖昧さである。「近接」とは幅のある概念であるから、その文言のみからその許容される程度を明らかにすることは難しい。 しかも、近接性の判断場面においては、採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断すべきか、あるいは実際の収益計上日ベースで近接性を判断するのか、という問題も伏在している。さらにいえば、それぞれにおける起点をどのように考えるべきかという点も議論の俎上にあげることができる。 採用する収益計上の基準ベースで近接性を判断する例としては、(国税庁が引渡基準の範疇であると考えている)出荷基準を起点として、(国税庁が近接日基準の範疇であると考えている)契約効力発生基準が近接日基準として認められるか否かを検討するケースを挙げることができる。 また、起点とする引渡・役務提供基準として何を持ってくるべきか、出荷基準以外にも複数考えられる基準の中からいずれを起点とすべきかという問題もある。 実際の収益計上日ベースで近接性を判断する例として、(国税庁が近接日基準の範疇であると考えている)仕切精算書到達日を採用している場合に、実際の到達日が出荷日等の引渡日から相当程度離れている場合に、「近接する日」として認められるか否かを検討するケースを挙げることができる。 また、いずれにしても、起点とする引渡・役務提供日として何を持ってくるべきか、複数考えられる引渡・役務提供日の中からどれを起点とすべきかという問題もある。 条文上は、個々の実際の収益計上日ベースで近接性を判断すべきであるように思えるが、収益計上日の選択ないし採用に継続性が求められることを前提とすると、大抵の場合は、採用する収益計上の基準ベースで近接性の判断に係る議論が進められる可能性はある。 もちろん、時間的近接性のみが問われるのではなく、公正処理基準準拠要件を通じて、そもそも近接日として採用する日の合理性や採用する近接日基準の合理性も問われる。 ③の根源は、公正処理基準準拠要件の不明確性の承継である。上記2つの問題を乗り越えたとしても、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」いるといえるかどうかという点が必ずしも明確ではない、という問題が待ち受けているのである。 法人が採用する近接日基準が「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って」いるかどうか、それは純粋に会計的観点から判断すべきか、法人税法固有の観点も織り込むべきか、旧来の法人税基本通達がリードして形成してきた会計慣行をどのように評価すべきか、など検討すべき課題の存在を指摘しうる。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第46回】 「ポイント引当金」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 今回は、ポイント引当金について解説する。我が国では、小売業やサービス業などにおいて、企業の販売促進の手段の1つとして、ポイント制度を導入している会社が多い。ポイント制度は、消費者が商品を購入したり、サービスを利用するたびにポイントが付与され、次の商品の購入やサービスの利用時にポイントを使用できるものである。 ポイント制度は、以下の引当金の4要件(企業会計原則注18)を満たす場合、引当金を計上する必要がある。多くの場合、当期以前に付与したポイントが将来のポイント使用時に費用の発生(又は、収益の減少)につながり、ポイントが使用される可能性は高く、かつ、データが揃えば合理的に見積ることが可能であるため、4要件を満たす場合が多いと考えられる。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 ポイント制度を導入している場合、顧客に商品の販売やサービスの提供が行われた時にポイントが付与される。 ポイントを付与した時点で顧客はポイントを取得することから、ポイントの付与時にポイント引当金を会計処理することも考えられるが、実務的には、決算時に会計処理することが多いと考えられる。そのため、ポイント付与時には、売上の会計処理のみが行われる。 ポイントが使用された際は、割引が行われる。そのため、ポイントによる割引分については、実態が現金値引であれば売上値引とし、将来の販売促進のための費用であれば販売促進費として処理することが考えられる。 ポイント引当金の金額は、以下のような計算で算出することが多いと考えられる。 (1) 期末日のポイント残高 システム上で、付与ポイント数、使用ポイント数、失効ポイント数を管理し、期末日のポイント残高を集計できるようにする必要がある。 (2) 失効率 失効率は、過去の使用実績及び失効実績に基づいて合理的に見積る必要がある。例えば、過去3年間の期末日のポイント残高に対する失効率の平均等で算定することが考えられる。 (3) 1ポイント当たりの単価 単価は、売価ベースと原価ベースで算定することが考えらえる。 例えば、1ポイント=1円(商品の原価率40%)の場合、売価ベースであれば、単価は1円であり、原価ベースであれば、単価は1円×40%=0.4円である。 《設例》 A社は、個人顧客Bに1,000,000円の商品を現金で販売(原価率40%)し、15,000ポイントを付与した。 ポイントは、1ポイント=1円として使用することができる。 その後、個人顧客Bに50,000円の商品を現金で販売(原価率30%)したが、個人顧客Bは5,000ポイント使用した。 ポイント使用時は、売上値引で処理する。 期末において、ポイント残高は10,000ポイントであり、失効率は20%であると見積った。 ポイント引当金に使用する1ポイント当たりの単価は売価ベースを用いる。 〈会計処理〉 1 ポイント付与時の会計処理 (※1) 1,000,000円×原価率40%=400,000円 2 ポイント使用時の会計処理 (※2) 50,000円×原価率30%=15,000円 3 決算時の会計処理 (※3) 10,000ポイント×(1-20%)×1円=8,000円 なお、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識基準」という)適用後は、以下のように会計処理する。 【販売時(ポイント付与時)】 ポイントが、重要な権利を顧客に提供する場合には、ポイント部分を履行義務として認識し、取引価格を売上部分(売上として計上する部分)とポイント部分(契約負債として計上する部分)にそれぞれの独立販売価格の比率で配分する必要がある。 また、独立販売価格の比率で配分する必要があるため、1ポイント当たりの単価は、売価ベースのみが採用される。 詳細は下記の拙稿を参照されたい。 なお、上記では、ポイント付与時に契約負債を計上する会計処理を紹介しているが、実務上は、収益認識基準適用後も決算時に契約負債を計上することで問題ない。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第95回】 株式会社シーイーシー 「特別調査委員会調査報告書(2019年11月8日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【特別調査委員会の概要】 【株式会社シーイーシーの概要】 株式会社シーイーシー(以下「CEC」と略称する)は、1968(昭和43)年2月設立。デジタルインダストリー事業とサービスインテグレーション事業を主たる事業とする。連結子会社は9社(国内8社、中国1社)、持分法適用関連会社1社(国内)を有する。売上高50,005百万円、経常利益5,058百万円、資本金6,586百万円。従業員数2,216名(いずれも訂正前の2019年1月期、連結ベース)。本店所在地は東京都渋谷区。東京証券取引所1部上場。会計監査人はPwCあらた有限責任監査法人(以下「PwCあらた」という)。 【調査報告書の概要】 CECは、2020年1月期第2四半期報告書に係る四半期レビュー手続において、会計監査人PwCあらたから、2019年7月末時点の売掛金の一部530,698千円の実在性に疑義があるとの指摘を受けた。 PwCあらたが疑義を指摘した点は次のとおりである。 CECは、PwCあらたによる指摘を受けて、当該取引が疑義のある取引であるか、深度ある調査が必要と判断したため、特別調査委員会を設置することとしたものである。 1 調査委員会による調査結果(A社案件) (1) 仕入販売取引 CECでは、PC、サーバー、ライセンス等の製品を仕入れて顧客に売却する物販取引(仕入販売取引)は、主要なビジネスであるシステムの開発及びIT関連サービスの提供に付随して顧客のニーズがあった際に行われるものと位置付けられており、こうした仕入販売取引は、主要ビジネスであるサービス提供と商流が異なる中で、売上高、売上総利益及び利益率等を大きく歪める上に、架空取引や循環取引に巻き込まれるリスクを持つという認識に基づき、独自のルールを設け、運用している。 (2) A社との取引の概要及び経緯 CECサービスインテグレーションビジネスグループ第一営業部所属の従業員は、C社(メーカー)従業員から、C社から複数の会社を経てE社(エンドユーザー)に至る商流への参加を打診され、発注先をD社、販売先をA社とする仕入販売取引を行うこととし、2018年10月、D社に対する発注、検収を行うとともに、2019年1月にA社に対する売上を計上し、支払予定日を4月末日とする請求書を発行した。 ところが、当初の支払期日である4月30日には、A社からの入金はなく、CEC担当者がC社担当者と交渉を行った結果、A社が、8月末日までに、売掛債権に迷惑料を加算した金額を支払うこととなった。 実際には、8月末日に、A社から入金されることはなく、9月2日に、「迷惑料」と称する金銭4,236千円がI社から、9月5日になって、H社からA社案件取引に係る売掛金相当額530,698千円が、それぞれ振込入金された。 (3) PwCあらたによる債権残高確認 PwCあらたは、2020年1月期第2四半期レビューに伴い、上記(2)におけるH社による入金の後、A社に対して2019年7月末時点を基準日とする債権債務残高確認状を、H社に対しては「株式会社シーイーシーとの債務に関する確認ご依頼の件」と称する書面を、それぞれ送付した。 その結果、A社からは「残高なし。金額に心当たりございません」との回答があり、さらに、PwCあらたがA社経理担当者に電話で確認したところ、「債務の認識はない」旨の回答があった。 一方、H社からは、以下の内容の回答があった(一部、記述を省略している)。 (4) 特別調査委員会の評価 調査結果を受けて、特別調査委員会は、A社案件を以下のように評価した。 2 調査委員会による調査結果(B社案件、報告書64ページ以下) 調査開始から1ヶ月後、CECは、「(開示事項の経過)特別調査委員会の調査状況及び新たな疑義の発生に基づく特別調査委員会の体制強化に関するお知らせ」を公表して、特別調査委員会による調査の過程で、「新たな疑義の発生」として、次のように説明した。 このメールを端緒に、特別調査委員会は委員を1人増員したうえで、2014年7月から開始していたB社(上記のリリースでは「F社」と表記されているが、本稿では、調査報告書に合わせる)に対する継続的な商品販売取引案件(B社案件)の調査を行った。 (1) 取引の概要 B社案件とは、CECが、レンタルサーバー提供業者であるB社に対し、C社製(10月17日付リリースでは「E社」であるが、調査報告書の表記に合わせる)のサーバーを購入し、CECの倉庫に受け入れたうえで、B社からの依頼に応じて、B社が契約するデータセンターに納入する取引である。 (2) 前倒し売上計上の手順 商談開始当初、B社は、サーバーが未出荷の状態でCECが請求書を発行した場合であっても、請求金額全額を期限までに支払っていたため、C社から納品される以前に前倒しで売上計上することも可能であった。 その後、B社の支払方法についてはいくつかの変遷を経て、B社への請求は注文された全件が納品されてからまとめて行われることとなり、納品ごとの売上計上との間で、売上月と請求月が不一致になっていた。 2018年10月におけるB社からの発注について、CEC担当者は、2019年5月22日に出荷できる見込みが立ったことから、4月中にB社から出荷指示を得ることにより、4月の売上計上を画策した。売上証憑としてはB社によって作成された「納品受領書」に、「2019年4月17日納品依頼分、2019年5月22日納品分」との記載があった。 同様の方法で、CEC担当者は、2019年5月及び7月にも、B社による出荷依頼をもとに売上計上を行っている。 (3) PwCあらたによる7月の売上計上が認められない見解 2019年8月20日頃から開始された2020年1月期第2四半期レビューにおいて、CEC担当者は、B社からの預り証が未入手であったことから、PwCあらたの担当者に対して、2019年7月に売上計上したB社案件について、未出荷のまま売上げを計上していた事実を伝達した。 その後のレビュー過程で、PwCあらたは、B社からの依頼に基づき、納品日までCECが預かっていることを示す書面(B社確認書)を取得するように要請を行い、CEC担当者は、2019年9月6日にB社確認書を入手した。 しかし、PwCあらたは、以下のような理由から、7月における売上計上が認められないとの見解を示した。 (4) 特別調査委員会による前倒し売上計上認定 調査の結果として、特別調査委員会は、法的には売買契約は有効に存在することを認めたものの、会計的評価としては「実現主義の原則」に基づき、上記、PwCあらたの見解と同様の理由から、「製品が実際に納入されていないにもかかわらず売上計上がされている取引は、(中略)すべて売上の前倒し計上である」と判断している。 特別調査委員会が認定した売上げの前倒し計上額は次のとおりである。 3 発生原因分析(報告書90ページ以下) 特別調査委員会は、CECにおける不適切な行為の発生原因分析の総論として、次のように述べている。 そのうえで、特別調査委員会は、「A社案件」と「B社案件」について、それぞれ、次のように発生原因を分析した。 4 再発防止策の提言(報告書103ページ以下) 特別調査委員会による再発防止策の提言は、以下のとおりである。 比較的一般的な項目が列挙されている中で、特別調査委員会が「強く提言する」と述べている「コーポレートサポート本部の名称変更」について、その理由を引用しておきたい。 CECでは、2015年2月から、従来の管理本部がコーポレートサポート本部へと改称されたため、内部統制におけるブレーキ役を期待されている管理部門が、推進(サポート)役という誤解を招きかねない名称となっている。調査の過程で、経理部等の管理部門が営業部等の現業部門へ強く出ることができなかった事例が見受けられた根底には、管理部門はマネジメントではなくサポートすべきであるというCECの風潮があるのではないか、という指摘である。 5 CECによる再発防止策 特別調査委員会による再発防止策の提言を踏まえて、CECが12月10日に公表した再発防止策は以下のとおりである。 特別調査委員会が強く提言していた、「コーポレートサポート本部の名称変更」については、「経理部等の管理部門が内部統制におけるブレーキ役となるべき管理機能を有することを示していくため、各種の対策を講じます」というのが、CECによる再発防止策であった。 【調査報告書の特徴】 会計監査人が四半期レビュー手続きの中で取引の実在性に疑義を抱き、深度ある調査を要求した結果、当初の疑義以外にも不適切な取引が判明するというパターンは、本連載でも繰り返し取り上げてきた(最近の記事では、【第92回】(株式会社平山ホールディングス第三者委員会調査報告書)、【第89回】(株式会社MTG第三者委員会調査報告書)、【第88回】(ホシザキ株式会社第三者委員会調査報告書)など)。 ただ、本件は、調査開始後に新たな疑義として表面化した「前倒し売上の計上」については、会計監査人による2020年1月期第2四半期レビューの過程で既に存在が判明していることから、特別調査委員会が調査着手後の早い段階でPwCあらたと意見交換を行うなど、情報を共有することができていれば、調査着手段階から「B社案件」についても調査をすることが可能であったのではないかと考える。 1 経理部門における内部統制機能 実際に商品が存在し、請求通りに入金があったB社案件では、売上計上時期の適正性が問題となるという点では、経理部門で適正性に対する疑義を指摘するのは難しく、監査部門による業務監査の強化、もっと言えば、業務監査における指摘事項をいかに現業部門に理解させ、遵守させるかの問題であるように考える。 一方、A社案件については、当初の売掛金回収予定日に入金がされないという情報を得た時点で、経理部門が主導して商談内容の確認を行わなければならなかったのではないか。この点、特別調査委員会は、報告書の「発生原因分析」の項で、次のようにまとめている。 また、調査報告書では、「B社案件」に係る売上計上をめぐって、現業部門担当者の発言として、経理部担当者が信頼されていないことをうかがわせる内容が引用されている。現業部門からの問合せについては、担当者個人の判断で回答するのではなく経理部として組織で見解を統一して回答すべきであることは当然であり、場合によっては、会計監査人の見解を確認する必要もあるが、報告書の記述を見る限り、経理部門の担当者を幹部社員がフォローしている様子はうかがえない(むしろ、経理部長は、「B社案件」についてはイレギュラーな対応を認識しながら、売上計上の適正性を検討することなく、承認をしているとの記述が、報告書「発生原因分析」の項に見られる)。 CEC経理部門のこうした体制が、「経理部門の体制強化」が特別調査委員会による再発防止策の中に織り込まれた原因であったと思料する。 2 CECによる関係者の処分 CECは、2019年12月10日付のリリースで、「関係者の責任の明確化」を公表した。その内容は、「本事案に係る経営責任を重く受け止め」、役員については、降格処分を含む報酬の自主返上とし、従業員については規則に則り、厳正に処分するというものであった。 なお、CECは、12月17日開催の取締役会において、田原富士夫代表取締役社長が代表取締役を辞任し、取締役コーポレートサポート本部長の大石仁史氏が代表取締役社長に就任することを決議したことを公表した。「異動の理由」の前半部分を引用する。 経営責任を問われている取締役が、専務取締役、常務取締役を飛び越えて代表取締役社長に就任することは異例ではないかと思われるが、現業部門の不祥事を再発させないためには、管理部門担当役員を経営トップに据えることが必要であるという経営判断につながっていると評価できるのではないだろうか。 なお、同じリリースでは、代表取締役社長を退任する田原富士夫氏は2020年1月31日付で取締役も辞任するということも公表されている。 (了)