暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第69回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (4) 権利義務の帰属主体の不存在 以下、Uniswapの利用場面を念頭に流動性供給開始が課税イベント(含み損益に対する課税の契機となる事象)であるかを検討する。 暗号資産の移転によって、暗号資産の処分権が暗号資産の移転先に移転するためには、移転先として権利義務の帰属主体の存在が必要である。しかしながら、DEXを利用する場合、(流動性供給者であるLP以外に)プールにある暗号資産の管理者というべき「者」は存在せず、暗号資産の移転先として権利義務の帰属主体になりうる者が存在しないことがあるため問題となる(本連載第65回の26(3)参照)。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 流動性供給開始からスワップユーザーが出現する前までに、(LP以外に)DEXのプールにある暗号資産の管理者や処分権者の候補となる者が存在せず、取引当事者として権利の帰属主体になりうる者が存在しないこと(※1)を所与のものとすると(※2)、 LPが流動性供給のためにプールに暗号資産を移転したとしても、暗号資産に係る権利それ自体の移転は観念できない。 (※1) 仮に存在する場合には、寄託や消費貸借等に該当することを念頭に置いて後述するWBTCへのラップと同様の観点から課税イベント該当性を検討することになるのではないか。 (※2) DEXやDAOが税法上の法人に該当する余地を完全に否定することを含意するものではない。また、スマートコントラクトのコードにLP以外の者がトークンの移転を受けることができる関数が含まれていたり、何らかの形でアップグレーダビリティが確保されている場合があることに注意が必要である。 よって、その暗号資産に係る権利の処分権者(保有者)の変更という意味におけるトークンの譲渡も観念できない。 流動性供給を解除すれば暗号資産が返却されることを考慮するとLPが単純に当該暗号資産に係る権利を放棄したと解することも難しい。 譲渡がないとすれば、仮に、流動性を供給したことと引き換えに取得したLPトークンを収入とみなした場合でも、それは権利の移転に係る対価ではない。ここでは、LPトークンはDEXのスマートコントラクトで発行されるものであり、スワップユーザーから移転されるものではないことを理解しておく必要があろう。 このように、 LPが流動性供給を開始した時点では、暗号資産の移転先としてその処分権に係る権利の帰属主体になりうる者が存在しないため、その処分権が移転することはありえず、よって流動性供給の開始は暗号資産の含み損益に係る課税イベントではないと解される。 他方、 LPは流動性供給開始後において権利義務の帰属主体であるスワップユーザーがプール内に存在する暗号資産を自身が保有する暗号資産と交換すること、これによりその処分権がそのスワップユーザーに移転することを前提として流動性供給していることに着目することで、流動性供給開始時点を課税イベントとして捉える見解を導くことはできないであろうか。 しかしながら、単に流動性を供給しただけでは、スワップユーザーとの間で交換がなされたことにはならないし、LPは自由に流動性供給を解除して暗号資産を自分のウォレットに取り戻すことができることから、流動性供給の開始に対して、税法上、処分権の移転に準じた評価を与えることには無理があるという批判が考えられる。 流動性供給の開始時点は、暗号資産の保有者(ここではLP)に対して、それまでに発生した値上がり益に課税ができる最後のチャンスであるとはいい難いという観点から(岡村忠生「所得の実現をめぐる概念の分別と連接」論叢166巻6号103頁参照)、このような批判を下支えすることもできよう。 また、基準としての明確性が確保されないことを考慮すると、処分権がいつ移転したかという基準を緩めることには直ちには賛同し難い。 (5) 課税イベントの候補 以上の議論を踏まえて、流動性供給開始以外のもので、流動性供給した暗号資産の含み損益に係る課税イベントの候補を検討しておく。 次の点を考慮すると、そもそも、流動性供給者であるLPとスワップユーザーとの間における私法上の法律関係を考慮する場合、両者間で暗号資産の交換契約が成立しているかという疑問に行き着く。 (※3) イーサリアムブロックチェーンにおいてコントラクトアドレスとは、スマートコントラクトがブロックチェーン上にデプロイされた際に割り当てられる固有の識別子である。例えば、DEXは、ブロックチェーン上にデプロイされたスマートコントラクトを通じてサービスを提供する。DEXに暗号資産を送付する際、利用者は、送付元として自身のプライベートウォレット(外部所有アカウント)、送付先としてDEXのコントラクトアドレスを指定することで、DEXとのやりとりを実行する。外部所有アカウントとは、スマートコントラクトが管理するコントラクトアカウントと異なり、いわば「人」が管理し、秘密鍵によって制御されるアカウントである。 ここではスマートコントラクトの法律関係に関する日本法における議論を詳しく取り上げることはできないが、例えば、次のとおり、スマートコントラクトのみを介したやりとりを通じて、関係者間に何らかの契約が成立すると考えることは難しいのではないかという見解がありえよう。 基礎となる契約や取引等の法律関係に影響を与えることが多いものの、スマートコントラクトの法律関係等に関する議論は発展途上であり、今後の議論の進展が期待される状況である。 もっとも、LPとスワップユーザーとの間で個別の交換契約を観念できないとしても、LPは交換によりスワップユーザーに移転される暗号資産のうちその割合的持分に対応するものを移転したとみて、その交換時点をLPが保有していた暗号資産に係る含み損益の課税イベントと解する見解がありうるのではないか。 この見解は、課税関係の文脈では、当事者が互いに暗号資産の処分権を移転したという事実上の交換があり、これによって、両者は新たに得た暗号資産を処分できるようになることに着目することで得られるものである。 このような見解は、上記のとおり、プールへの暗号資産の移転に当たり、LPやスワップユーザー以外に権利義務の帰属主体がいないことや、流動性供給のためにプールに暗号資産を移転したとしてもその処分権の移転は観念できないと捉えることと親和的である。 仮に交換契約の成立を観念できないとしても、スワップユーザーが交換により取得した暗号資産の処分権はLPが元々有していたものを、同一性を保持したまま承継したものであると理解し、スワップユーザーは契約以外の原因でその処分権を承継取得(※4)したなどと構成できるのであれば、上記見解を後押しすることができるかもしれない。このように第一次的には上記見解を支持し得る。 (※4) その取得した権利の根拠がその権利を前に有した者の権利にあるのではなく、その取得によってその権利が原始的に(原初的に)成立する場合の権利取得を原始取得といい、取得した権利の根拠がその権利を前に有した者の権利にあり、その権利を同一性を維持したまま取得する場合の権利取得を承継取得という(我妻榮ほか・前掲書473頁参照)。 他方、上記見解に対しては、実務的及び理論的観点からもう少し検討する余地もある。 例えば、繰り返し行われLPによる暗号資産の流動性供給やスワップユーザーによる暗号資産の交換によってプール内の暗号資産の数量や各LPの持分割合は常に変化しており、交換の都度、すべての取引、とりわけLPの持分に対応する暗号資産の数量・時価を把握して税務処理することを求められると、実務は回らないか、そもそも正確なデータの入手に窮する可能性がある。 次に、理論面について、仮に、各LPとの関係において、「スワップユーザーがプールに移転したトークンの総量のうちそのLPに割り当てられる分」を、「そのプールからスワップユーザーに移転されたトークンの総量のうちそのLPの持分に対応する分をスワップユーザーに移転したこと」に対する対価として、所得税法36条の収入に当たると解することができるとしても、 LPが流動性を解除する前においてその収入すべき権利が確定しているといえるか(権利確定主義)、あるいは利得を管理支配しているといえるか(管理支配基準)という問題がある。 このような問題視覚は、プールにあるトークンはLPごとに分別管理されておらず、LPは不特定多数の者によって提供されているプール内のトークンの割合的持分を有しているにすぎないこと及びLPとスワップユーザーとの間で個別の交換契約を観念できないことを前提としている。 プールにあるトークンは流動性を解除しない限り、LPのウォレットに移転することはできないし、プール内のトークンの数量・時価は常時変化していることを考慮すると、いまだ未実現の損益にすぎないという反論もありそうである。 これに対しては、例えば、次の点を考慮することにより、LPはスワップユーザーによる交換時に新たなトークンの処分権を得る、利得を管理支配しているなどと再反論することが考えられる。 もっとも、交換時ではなく課税年度終了時に、流動性供給開始時点と終了時点のトークンの数量の差に着目して含み損益の計算を行うなどの簡便的な取扱いも実務面に配慮した現実的な対応として候補に挙がるかもしれない。ここでは、国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」の問8で示されたブロックチェーンゲーム報酬に係る簡便法の採用を参考とした議論を展開する余地がある。 あるいは、国内の損益計算ソフトが採用しているように、流動性供給開始は課税イベントとしない一方、その解除を課税イベントとする対応も候補となりうる。実行容易性はいうまでもないが、例えば、解除によって最終的にLPに割り当てられるトークンの数量が確定し、その移転を受けるため、この時点で利得を管理支配するに至ったと主張することもできるかもしれない。 DEXのスマートコントラクト内のトークンに対する管理支配をどのように捉えるかが1つのポイントとなる。上記の流動性供給開始は課税イベントとしない一方、その解除を課税イベントとする対応は、少なくとも他の課税イベントの候補と比較する限りではユーザーの感覚に最も合うように思われる。 もちろん、いずれの対応についても、現行法の解釈論で採用しうるか、立法的手当てが必要かという問題は残る。また、流動性供給と課税イベントに係る上記の議論は、スマートコントラクト、DAOやDEXに関する私法上の法律関係という税法以前の問題に係る議論の進展に左右される。 ところで、 LPトークンは、単なる預かり証であるため課税イベントではないという見解を耳にすることがある。 日本法に照らすと、LPトークンは、割合的持分を表章するにすぎず、他者に譲渡可能であり、DEXによっては運用して報酬を稼得可能であり、FT(ファンジブルトークン)のみならずNFTに該当するものもあれば、資金決済法上の暗号資産(決済2⑭)、金融商品取引法上の集団投資スキーム持分(金商2②五)や電子記録移転権利(金商2③括弧書)に該当する可能性がある(斎藤創=浅野真平「Uniswap/DEX/AMM と日本法」3頁(2020.11.5改訂))。 このため、単なる預かり証であると評価することは躊躇されるが、いずれにしても、流動性供給開始の課税イベント該当性は、これまで検討してきた観点を踏まえて判断されることになる。 (了)
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年5月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年5月1日から5月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。 Ⅱ 法令関係 次のものが公表されている。 〇 「特定目的信託財産の計算に関する規則」等の改正(案) (内容:「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたもの。意見募集期間は2025年5月29日まで) (了)
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第10回】 「中途採用者に対する退職勧奨及び解雇のポイント」 弁護士 柳田 忍 【Question】 当社の従業員Aについてご相談があります。当社はAの職歴等に照らしてAが当社の業務に関する高いスキル等を有することを期待して中途採用しましたが、Aは当社が期待したとおりのパフォーマンスを上げていません。 また、Aには、周りの従業員に対して高圧的に接してトラブルを起こすといった問題も見られます。 よって、Aに退職してほしいと考えていますが、Aに退職してもらうために注意すべきポイントを教えてください。 【Answer】 従業員Aに対して退職勧奨を実施する場合は、Aのそれまでの経験やスキル等に対する自負を尊重したやりとりを行うことがポイントになります。 Aを解雇する場合は、Aには特定の業務に関する能力だけでなく、マネジメント能力やコミュニケーション能力が不足していることを解雇の理由とすることになると思いますが、まずはそれらの能力があることがAとの雇用契約の内容になっているかどうかを確認することがポイントになります。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 中途採用者に対する退職勧奨 従業員を退職させることを検討する場合に、実務上、まずは退職勧奨が実施されることが多いことは、本連載【第6回】において論じたとおりであるが、これは中途採用者についても当てはまる。 特に、(あくまで筆者の経験に基づく感想ではあるが、)中途採用者は自分の経験やスキル等に自負があることが多かったり、転職慣れしていることなどから、その会社では自分の経験やスキル等を活かせないと悟ると、比較的スムーズに退職勧奨を受け入れて次の転職先を探すことが少なくないように思われる。 なお、中途採用者の多くが自分の経験やスキル等に対して自負を持っていると思われることに照らすと、会社は当該中途採用者の経験やスキル等自体を否定するものではなく、あくまで会社が求めているスキルや仕事のやり方に合致しないだけであり、当該中途採用者がもっと活躍できる場所が他にあると思う、といった方向で話を進めるのがよいのではないかと思われる(ただし、当該中途採用者が退職勧奨に応じなかった場合に解雇のプロセスに進む可能性がある場合には、会社が当該中途採用者のスキル等に全く問題がないと評価していると見られないよう、表現等に注意すべきである。)。 2 中途採用者の解雇 従業員Aが退職に合意しない場合に従業員Aを退職させるためには解雇を検討せざるを得ない。この点、従業員Aには特定の業務に関する能力だけでなく、マネジメント能力やコミュニケーション能力の不足が見られるようなので、これらの点を解雇の理由とすることが考えられる。 (1) 特定の業務に関する能力不足を理由とした解雇 本連載【第2回】において説明したとおり、解雇は客観的に合理的な理由及び社会的相当性が認められなければ無効となり、勤務成績や勤務態度の不良に基づく解雇においては、雇用契約上の労務提供義務の不履行に至っているといえるほどに労務提供能力や適格性が欠如しており、指導や教育訓練、配置転換等によっても改善等が期待できず、解雇を回避することが難しいといえる必要がある。 このことは、中途採用者の解雇についても同様であるが、中途採用者は特定の業務について高い能力・スキルを有することを前提として採用されることから、能力不足が判明した場合、新卒採用者の場合と比較すると解雇の有効性が認められるハードルは低くなる。例えば、新卒採用者については能力不足が判明した場合であっても、改善指導等を経てもなお能力不足等が解消されないといった事情がなければ解雇が無効となる傾向にある。 一方、中途採用者はそもそも高い能力・スキルを有することが前提であることから、新卒採用者に対して求められるほど改善の機会を与えることは要求されない。 また、職種限定合意(本連載【第7回】参照)が認められる場合はもちろんのこと、そうでない場合においても、中途採用者については一定の職種やポジションにおいてパフォーマンスを発揮することが期待されて雇用されることから、新卒採用者ほどに配転等の機会を与えることが求められるわけではない。 もっとも、以上は、中途採用者に高い能力・スキルがあることが契約内容になっていることが前提であり、単に会社が一方的にそのような期待をしているというだけでは当てはまらない。 よって、会社においては、募集要項や雇用契約書、採用過程でのコミュニケーションの内容などに照らして、中途採用者に高い能力・スキルがあることが契約内容となっているかを確認する必要がある。 (2) マネジメント能力・コミュニケーション能力等の不足を理由とした解雇 一般に、コミュニケーション能力や協調性の欠如、上司への反抗的態度なども解雇事由となり得る。社会人経験を持つ中途採用者については、業務上の能力やスキルだけでなく、他の従業員とうまくやっていく高いコミュニケーション能力やマネジメント能力を有することを前提に採用されることが多いことから、業務上の能力やスキルの欠如・不足を理由とする解雇と同様、これらを理由とする解雇についても比較的緩やかに認められる傾向にある(以下裁判例参照)。 筆者の経験上、解雇の対象となる中途採用者には、業務上の能力やスキルに関する問題点もさることながら、自分のスキルや経験に自信があるあまり、自分の仕事の進め方に固執して会社に反抗したり、他の従業員とのコミュニケーションがうまくいかないといった問題が見られるケースが(新卒者と比較すると)多いように思われる。よって、中途採用者の解雇に際して、場合によっては、マネジメント能力やコミュニケーション能力等の問題点について重点を置いて主張を展開することも考えられる。 (了)
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第19回】 「任意後見契約に記載すべき事項」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 顧客からの依頼で任意後見契約の締結を実際に進めていくことになりました。契約書にはどのような事項を記載すればよいのでしょうか。また何か注意点はありますか。 【A】 任意後見契約は多くのひな形が紹介されていますが、ポイントを理解しないまま作成を進めるとトラブルにつながります。 いったん任意後見契約を締結した後、内容を変更したいと考えた場合は、改めて公正証書を作成する必要があることも頭に置いておきたいところです。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 任意後見契約に記載すべきこと 任意後見契約のひな形は公証人役場のホームページなどでも紹介されていますが、主に以下のような条項が記載されています。 2 任意後見契約の変更 いったん作成した任意後見契約を変更したい場合、公正証書による変更契約で対応できる場合と、いったん任意後見契約を解除して改めて任意後見契約を締結することが必要な場合があります。変更契約で対応できるケースには報酬額の変更が該当します。 いったん任意後見契約を解除して改めて任意後見契約を締結することが必要なケースには、委任者から受任者に代理権を付与する事項の変更が該当します。委任者から受任者に対していかなる代理権を付与するかは、任意後見契約の重要なポイントといえるため次回解説を行います。 (了)
《速報解説》 リース会計基準等の修正を受けた「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」が公表される ~リースの借手・貸手の定義を会計基準に合わせて改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年6月6日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。財務諸表等規則ガイドラインも改正する。 これは、「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等の修正を公表したこと等を受けたものである。 意見募集期間は2025年7月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 財務諸表等規則等の主な改正 1 リース会計基準関係 リースの借手の定義を「リースにおいて原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に獲得する企業をいう」から、「リースにおいて原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に獲得する者をいう」と改正するなど、「企業」から「者」に改正する(貸手も同様。財務諸表等規則8条の6、連結財務諸表規則15条の24、67条の2)。 2025年4月23日に、企業会計基準委員会が公表した「企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の修正について」では、2025年2月5日に公表された「会社計算規則の一部を改正する省令案に関する意見募集について」に対して寄せられた意見への対応として、「借手」の定義に企業以外の者が含まれることの明確化が図られていることを契機としてリース会計基準における「借手」及び「貸手」の定義を見直した結果、リース会計基準においても同様の対応を行うこととしたとしている。 2 金融商品実務指針関係 「金融商品に関する注記」において、組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とする取扱いを行っている場合には、その旨、当該取扱いを行う組合等の選択に関する方針及び当該取扱いを行っている組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額を併せて注記するものとする(財務諸表等規則8条の6の2、138条、連結財務諸表規則15条の5の2、111条)。 Ⅲ 施行日等 公布の日から施行する予定である(経過措置に注意)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 東京国税局、非財務指標を組み入れた 業績連動型株式報酬の税務上の取扱いに係る文書回答事例を公表 ~業績連動指標と非業績連動指標が混在している場合の取扱い示す~ 税理士 坂井 晴行 令和7年6月5日、国税庁ホームページにおいて、東京国税局による令和7年5月20日付文書回答事例「非財務指標を組み入れた業績連動型株式報酬の税務上の取扱いについて」が公表された。 (1) 要旨 業績連動型株式報酬制度に係る報酬として各業務執行役員に対して交付する株式の数を、業績連動指標と非業績連動指標であるESG対応状況を示す指標を組み合わせて算定した場合には、全額を否認するのではなく、業績連動指標を基礎として客観的に算定された部分は損金算入業績連動給与の額として取り扱って差し支えがないとする回答を公表した。 (2) 事前照会の内容 次の算式で算定される交付株式数による株式報酬を業務執行役員に対して支給することとしている。 [算式] (注1) 役位ごとに定められた交付株式数の基準となる株式の数 (注2) 当社の株式成長率を示す指標(0~150%)(株式交付割合Ⅰは、業績連動指標) (注3) 対象役員のESG対応状況を示す指標(80~120%)(株式交付割合Ⅱは、非業績連動指標) (注4) 役務提供期間における在任月数の割合 照会者は業績連動指標を基礎として客観的に算定された部分がある場合における当該部分、すなわち、本件株式報酬のうち上記[算式]の「株式交付割合Ⅱ」を80%(最小値)として算定するとしたならば算定される部分(以下「本件業績連動部分」という)(下記[算式a])の額については、損金算入業績連動給与の額として取り扱っても差し支えないかを照会した。 [算式a]本件株式報酬のうち本件業績連動部分 [算式b]本件株式報酬のうち本件業績連動部分以外の部分 (3) 見解 東京国税局は、照会者の見解で差し支えない旨を示した。 今回の事例により、業績連動指標と非業績連動指標が混在していたとしても、その株式報酬のうち、業績連動指標を基礎として客観的に算定された業績連動部分の額は、損金算入業績連動給与の額として取り扱って差し支えないことが明らかにされた。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、四半期開示制度の改正など各種制度改正を反映した「監査役監査実施要領」の改定版を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年6月3日、日本監査役協会は、改定版「監査役監査実施要領」を公表した。 これは、2024年4月の金融商品取引法における四半期開示制度の改正などの各種制度改正を反映したものであるが、全体にわたって記載内容を修正しているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改定内容 次のとおりである。 (了)
2025年6月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.621を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.148- 「石破総理の「国債発行による消費税減税」への警鐘は間違っていない」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 筆者は常々、日本の政治家はマーケット(市場)にあまりにも関心が低い、と思ってきた。このことが、野党政治家が安易に財源なき消費税減税を主張する要因の1つではないかとも考えている。 このような中、国会で興味深い論戦が行われた。石破総理は5月19日の参議院予算委員会で、「日本の財政状況はギリシャよりも悪い」とし、「財源を示すことなく国債発行で減税するという考え方は賛同しかねる」と答弁した。 これに対し国民民主党の玉木代表は翌日の記者会見で、「日本国の首相が、自国の国債市場に影響を与えるような発言を平気でするのは信じられない」と批判した。 産経新聞の阿比留記者もコラムで、「石破首相の『財政、ギリシャより悪い』は江藤発言より危険」という見出しを付け、総理の財政はよくないとの発信が、対外的に投資は控えた方がいいということにつながると非難した。 このやり取りはどこか滑稽だ。質問者(国民民主党)が財源なく15兆円もの財源を失う消費税5%への減税を主張したのに対し、総理は「大規模な減税をすれば財政危機を招く」として批判した。財源なき減税論を主張する方が、それを否定する方に「自国の国債市場に悪影響を与える」と批判するのは、全くの筋違いと言えよう。 国民民主党の質問者のよって立つ論理は、いわゆるMMT(現代貨幣理論)で、「自国通貨を発行する政府は財源に制約されることなく、財政支出を拡大し貨幣を供給することができる」という考え方である。この考え方は、本場米国でもすでに「終わった理論」でいまだに唱えている経済学者はごく少数である。 総理が「ギリシャ」を持ち出したのがおかしいという批判があるが、ギリシャ危機発生時のストックベースの債務残高GDP比は128%で現在のわが国は同240%であるため、数字を見る限り的外れではない。日本国民は、財政破綻のイメージとして、テレビで繰り返し放映されたギリシャ国民の暴動の場面を思い浮かべるので、総理はそれを例に出したのではないだろうか。 問題の本質は、ギリシャの財政状況が日本の現状に類似しているかどうかではない。国民民主党の主張する「国債発行による消費税5%への引下げ」が市場に与える不測の影響への危機感を持つことの重要性を述べたものだ。 筆者は、「財政破綻」するかどうかが問題の本質であるとは思わない。国民にとって重要なことは金利の上昇や加速するインフレで、こちらはすでに目の前に生じている。これ以上の急激な金利上昇や加速度的なインフレは国民生活に大きなマイナスを与えるので、それを引き起こす財政規律なき減税論には警鐘を鳴らす必要がある。 * * * 国債市場は、日本銀行が金融正常化を進め国債買入れ額を減額し、国内機関投資家や銀行が国債購入を控える中、外国人投資家頼みになっている。とりわけ30年物日本国債の利回りは2004年以来の高値を記録した。日本国債の格付けの引下げもささやかれている。国民民主党のよって立つMMTの主張がいかに空想的か、市場の動向を見れば明白だ。 政治家はもっと市場の動向に注意を向け、安易な減税論からくる市場の警鐘を知る必要がある。石破総理はその役割を果たしたまでである。 (了)
仕入税額控除制度における用途区分の再検討 -ADW事件最高裁判決から考える- 【第5回】 (最終回) 森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士・税理士 栗原 宏幸 8 用途区分に関する近時の裁決例の検討 本稿の最後に、用途区分の判定に関連する近時の裁決事例を2件取り上げ、若干の検討を行う。いずれも金融機関のATMの相互利用に関する課税仕入れが問題となった事案である。 (1) 国税不服審判所令和5年9月1日裁決・データベース未登載(※5)(結果:棄却) (※5) 裁決書は筆者のnoteの記事のリンクから入手可能である。 ① 事案の概要・争点 納税者(請求人)は金融機関であり、提携金融機関と契約を締結し、提携金融機関のATM等(提携ATM等)を自行の顧客が請求人との取引に関して利用した場合に、提携金融機関に対し、取扱件数1件当たりにつき、契約で定められた所定の手数料を支払っていた。この顧客が提携ATM等を利用して行う請求人との取引には、預金(ないし貯金)の引出しなどのほか、請求人から顧客に対する貸付(本件貸付)に係る取引も含まれていた(裁決書がマスキングされているため詳細は不明であるが、定期預金(ないし定期貯金)を担保とする担保貸付と推測される。)。 本件では、請求人が提携金融機関に対して支払う上記の手数料のうち、本件貸付を伴わない取引に係る手数料(本件支払手数料)の用途区分が争われた。 請求人は、顧客が提携ATM等を利用して行った請求人との取引に関し、請求人は顧客からATM利用手数料(課税売上)を収受することから、本件支払手数料は、ATM利用手数料のみに対応する課税仕入れであるとして、課税対応課税仕入れに当たると主張した。 これに対し、課税庁(原処分庁)は、請求人が本件貸付の受取利息(非課税売上)を収受することに着目し、本件支払手数料は、納税者の顧客に対する役務提供から生じるATM利用手数料(課税売上)と受取利息(非課税売上)に係る収入全体に寄与する費用であるとして、共通対応課税仕入れに該当すると主張した(※6)。 (※6) 上記のとおり、本件で用途区分が争われたのは、請求人が提携金融機関に対して支払った手数料全てではなく、顧客が提携ATM等を利用して行った請求人との取引のうち、本件貸付を伴わない取引に係る手数料(本件支払手数料)に限られており、本件支払手数料に係る取引から直接生じるのは課税売上(ATM利用手数料)だけであり、非課税売上(本件貸付の受取利息)は生じない。そのため、原処分庁は、顧客が提携ATM等で行った個々の取引単位で対応関係を判断するのではなく、提携ATM等を利用した取引全体との対応関係に基づいて共通対応を主張したのではないかと解される。 ② 審判所の判断(裁決)の概要 審判所は、用途区分の判断枠組みとして、ADW事件最高裁判決の判示内容(【第3回】の4(2)①)と同旨を述べた上で、㋐本件支払手数料の用途区分について、納税者と提携金融機関との間の契約書の記載内容から、本件支払手数料は、請求人がその顧客に提携ATM等を利用させてサービスを提供することにより生じる収益全体に寄与するものであり、これに対応する収益は、各取引の種類ごとに区別されるものではなく、請求人がその顧客に提携ATM等を利用させてサービスを提供することを通じて得られるもの全体、すなわち、ATM利用手数料(課税売上)及び本件貸付の受取利息(非課税売上)というべきであるとして、本件支払手数料は共通対応に区分されると判断した(原処分庁の主張と同旨)。 さらに、請求人が、提携ATM等の取引に係る情報から個々の取引単位で用途区分の判定ができると主張していたことから、審判所は、㋑仮に当該主張を前提とした場合に、契約書上は本件貸付を伴う取引に係る課税仕入れと本件貸付を伴わない取引に係る課税仕入れとに区別されていないとしても、本件支払手数料の内容及び性質等から用途区分上の区別ができるかどうかを検討し、請求人が提携金融機関に支払う手数料の額がATM利用手数料の額を上回るケースがあることに着目して、本件支払手数料は、その内容等に照らし、提携ATM等の利用を通じた既存の顧客の維持あるいは新規顧客の獲得という効果がある支出であり、具体的な収入と直接的な対応関係がない支出ともいえるなどと述べて、課税対応課税仕入れに該当するとはいえないとして請求人の主張を排斥した。 ③ 検討 裁決が共通対応への区分の論拠として掲げた㋐と㋑の関係性は必ずしも明確ではない。㋐が直接の論拠であり、㋑は請求人の主張する事実関係(提携ATM等の取引に係る情報から個々の取引単位で用途区分の判定ができること)が認められると仮定した場合の仮定的判断にすぎないようにも思われるが、仮定的判断とはいえ、㋑は㋐と矛盾する内容である上(㋐は対応関係が認められる売上を積極的に認定しているのに対し、㋑は、むしろ対応関係が認められる売上を積極的に認定することは困難であることを前提とするものである。)、契約書の定め方というある種形式的な理由のみに基づいて対応関係を判断することが合理的とも思われない。 このように裁決の論理構成には疑問がある上、全般的な印象として、提携ATM等に関する提携金融機関との提携の内容や請求人のビジネスモデルに照らし、フラットな視点で用途区分を判断しているというよりも、「本件支払手数料が課税取引のみに対応している(純度100%で課税取引に対応している)」という請求人の主張が正しいかどうかという観点で検討し、その主張が成り立たないこと(純度100%の対応関係とは言い切れないこと)を理由に共通対応という結論を導いているように見える。「審判所」の判断であることからやむを得ないという評価もあり得るが、この裁決のように、あたかも請求人が用途区分の立証責任を負っているかのような判断手法が果たして妥当かどうかは、今後、租税法学者や租税実務家の間で真摯に議論されるべき問題であると考える。 (2) 国税不服審判所令和5年3月16日裁決(※7)・TAINSコードF0-5-390(結果:全部取消し) (※7) 本裁決はADW事件最高裁判決の10日後の裁決であり、同判決の内容を前提にしてはいないと考えられる。 ① 事案の概要・争点 請求人は、提携金融機関との間でのATMの相互利用に関し、提携に係る経費の分担金と、自行の顧客の提携ATMの利用件数に応じた提携金融機関に対する手数料(本件支払手数料等)を負担しており、本件支払手数料等が共通対応に区分されることを前提に、本件支払手数料等に係る控除税額の計算に用いる準ずる割合として、大要、以下の内容の割合の適用を申請し、所轄税務署長(原処分庁)の承認を受けた。 ところが、原処分庁は、請求人に対する税務調査の結果に基づき、準ずる割合の承認を取り消す旨の処分をした。 裁決書がマスキングされているため詳細は不明であるが、原処分庁は、請求人が恒常的に実施していた顧客に対するATM利用手数料のキャッシュバックに着目し、提携ATMにおける課税取引は実質的には課税取引とはいえず、上記の計算方法は合理的な算定方法ではないとして取消処分を行ったようである。 ② 審判所の判断(裁決)の概要 審判所は、本件支払手数料等は共通対応に区分されると述べた上で(本件では元々用途区分の判定は争われていなかった。)、本件支払手数料等の額がいずれも取引件数を基礎として算定されることを指摘し、このことから上記の準ずる割合は合理的であると判断した。 そして、キャッシュバックに関する原処分庁の主張に対しては、上記の準ずる割合の計算方法は、キャッシュバックの対象取引が計算式中の課税取引の件数に含まれることを前提にするものではなく、対象取引が課税取引の件数に含まれるかどうかは準ずる割合を具体的に計算する際の適用上の問題であって、その計算方法自体の合理性に影響を及ぼす事情とはいえないと述べて、原処分庁の主張を排斥し、処分を取り消した。 ③ 検討 本裁決は、事業者が準ずる割合の申請を検討する際に参考になるものと考えられる。本件の計算方法について合理性が認められたのは、本件支払手数料等の額が取引件数を基礎として算定されることを踏まえ、取引件数を用いて準ずる割合を計算するものであったからであろう。 他方、本裁決が指摘するように、「計算方法自体の合理性」と「その計算方法を用いた実際の計算の妥当性」は別の問題であり、その計算方法自体に合理性が認められて承認を受けることができたとしても、その具体的な適用を誤る場合には、その計算方法に基づく控除税額が過大であるとして否認される可能性があるため注意を要する。 9 おわりに 本稿で検討したとおり、ADW事件最高裁判決は、今後の用途区分の判断のあり方に多大な影響を与えるものであるといえる。事業者としては、同判決の内容を踏まえ、取引の商流や契約書の内容などを吟味してこれまでの用途区分の取扱いを見直すとともに、必要に応じて準ずる割合などを活用し、税務調査での否認リスクに備えておく必要があろう。 また、同判決は、用途区分以外の仕入税額控除に関する諸問題(帳簿やインボイスの保存要件など)において、納税者に不利な形で援用される可能性があり、課税庁や今後の裁判例等の動向を注視する必要がある。 (連載了)