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〔ケーススタディ〕国際税務Q&A 【第10回】「価格改定と寄附金課税」

〔ケーススタディ〕 国際税務Q&A 【第10回】 「価格改定と寄附金課税」   弁護士 木村 浩之   [Q] 日本法人である当社は、外国子会社との間の取引価格を見直しました。今般、税務調査によって価格改定は外国子会社に対する利益供与であるとして、寄附金に当たるとの指摘を受けました。どのように対応すればよいでしょうか。 [A] 調査において価格改定が寄附金に当たるとの指摘がなされた場合、それが実質的な贈与ではないことを証拠に基づいて主張することが重要になります。 ・・・[解説]・・・ 1 はじめに 国外関連者との取引については、移転価格課税のほか、寄附金課税の適用対象ともなりうる。例えば、日本の親会社が海外の子会社に製品を販売する場合、その対価が著しく低いとすれば、移転価格課税が適用されうるが、他方、親会社から子会社に対して時価との差額を実質的に贈与するものと認められれば、寄附金課税も適用されうる。 この点、実務では、国外関連者間の取引が実質的な贈与と認められる場合、移転価格課税ではなく、寄附金課税がなされることが多いといえる。そして、国外関連者に対する寄附金については、その全額が損金不算入とされる(措法66の4③)。 このようなことから、国外関連者との取引に係る価格改定が税務調査において寄附金に該当するとの指摘がなされた場合、当該価格改定が実質的な贈与ではないことを証拠に基づいて主張することが重要となる。   2 価格改定と寄附金 国外関連者との取引においては、当初設定した価格を期中や期末に変更し、それに応じて当初価格との差額を調整金として支払がなされることがある。 例えば、親会社が海外の製造子会社に製造委託をして、その委託料を支払う場合、期中に一定の対価を支払うものとした上で、期末において年間の総コストをカバーしてさらに一定の利益が生じるような対価に改定し、既払額との差額を調整金として支払うことがありうる。 このような価格改定に基づく調整金の支払が実質的な贈与と認められる場合、寄附金課税の対象となる可能性がある。もっとも、どのような場合に実質的な贈与と認められるかは、必ずしも明らかとはいえない。   3 関連裁判例 この点、国内取引に関する事案であるが、価格改定の寄附金該当性が争われた裁判例がある(東京地判平成26年1月24日・税資264号順号12394)。この事案は、親子会社間における継続的な製造物供給契約に関して、期中に支払われた代金を期末に減額して調整したことが寄附金に該当するか否かが争われたものである。 裁判所は、この事案につき、期中に支払われた代金は暫定的なものであり、期末における代金の調整は親子会社間の役割及び貢献度に応じて損益を分配するものであり、不合理なものではないことを理由に、寄附金には該当しない旨を判示した。   4 移転価格事務運営要領 また、国税庁は、税務職員が従うべき事務運営指針として、移転価格事務運営要領を定めている。ここでは、価格調整金等がある場合の留意事項として「当該支払等に係る理由、事前の取決めの内容、算定の方法及び計算根拠、当該支払等を決定した日、当該支払等をした日等を総合的に勘案して検討し、当該支払等が合理的な理由に基づくものと認められるときは、取引価格の修正が行われたものとして取り扱う」とされている(同要領3-20)。 これは、調整金の支払が合理的な理由に基づくものである場合、寄附金としては取り扱わないことを意味するものと解される。   (了)

#No. 303(掲載号)
#木村 浩之
2019/01/24

「収益認識に関する会計基準」及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第13回】

「収益認識に関する会計基準」及び 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の徹底解説 【第13回】   仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋   (2) 消費税法 収益認識基準等へ対応した法人税法の改正は前回解説したとおりだが、消費税法は収益認識基準等に対応した改正が行われていない。 消費税の税額計算の基礎となる課税標準は、「課税資産の譲渡等の対価の額」である。例えば、1つの契約に履行義務Aと履行義務Bがある場合、取引価格1,000を独立販売価格に応じて履行義務A900、履行義務B100と配分したとする。そして、履行義務Aは当期に収益を認識したが、履行義務Bは翌期に収益を認識するため、当期は契約負債として計上している。この場合、「課税資産の譲渡等の対価の額」は、取引価格1,000であると考えられるため、消費税法上は、収益認識基準等の会計処理が認められない。 また、収益を純額で認識した場合も純額の金額をベースに消費税を計算するのではなく、従来どおり総額の金額をベースに消費税を計算する。さらに、課税売上割合の計算も従前どおりである。 以上のとおり、消費税については、従前どおりに会計処理する必要があるため、システム変更する場合、会計処理(≒法人税の処理)と消費税の処理の両方に対応できるようにする必要がある。 (3) 会計、法人税、消費税の差異の設例 国税庁より収益認識基準等に従って会計処理を行った場合に、会計・法人税・消費税の相違点の典型例6つが公表されている(国税庁「収益認識基準による場合の取扱いの例」(平成30年5月))。 以下では、この典型例6つについて解説する。 ① 自社ポイントの付与 ケース1 自社ポイントの付与(論点:履行義務の識別) 家電量販店を展開するA社はポイント制度を運営している。A社は、顧客の100円(税込)の購入につき10ポイントを付与する(ただし、ポイント使用部分についてはポイントは付与されない。)。顧客は、1ポイントを当該家電量販店グループの1円の商品と交換することができる。X1年度にA社は顧客に10,800円(税込)の商品を販売し、1,080ポイントを付与した(消化率100%と仮定)。A社は当該ポイントを顧客に付与する重要な権利と認識している。顧客は当初付与されたポイントについて認識しない。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ② 契約における重要な金融要素 ケース2 契約における重要な金融要素 企業は顧客Aとの間で商品の販売契約を締結し、契約締結と同時に商品を引渡した。顧客は契約から2年後に税込対価2,160千円を支払う。契約上、利子を付すこととはされていないが、信用供与についての重要な便益が顧客に提供されると認められる。対価の調整として用いる金利は1%とする。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ③ 割戻を見込む販売(変動対価) ケース3 割戻を見込む販売(論点:変動対価) A社は、B社と商品Zの販売について2年契約を締結している。この契約における対価には変動性があり、下記のように、B社が商品Zを1,000個よりも多く購入する場合には1個当たりの価格を4,000円に、さらに2,000個よりも多く購入する場合には3,000円に減額すると定めている。 A社は、B社への2年間の販売数量予測は2,000個になると予想している。X1年5月に1,000個を販売し、X2年5月に1,000個を追加販売した。なお、消費税率8%とする。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 返金権付き販売 ケース4 返品権付き販売(論点:変動対価) A社は、顧客へ1個200円の商品(原価120円)を100個販売し、その返品予想は2個と見込んだ。なお、消費税率8%とする。A社の仕訳は次のとおり。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 (注) 本設例は、平成30年度税制改正における返品調整引当金に係る経過措置の適用終了後の取引を前提としている。なお、経過措置期間中は会計における返金負債勘定の金額から返品資産勘定の金額を控除した金額に相当する金額が損金経理により返品調整引当金勘定に繰り入れたものとして取扱われる(平成30年改正法附則25、改正法令附則9)。 ⑤ 商品券等 ケース5 商品券等(論点:非行使部分) 企業Bは1枚当たり1千円のギフトカードを500枚、合計500千円を顧客に発行した。過去の経験から、発行済ギフトカードのうち10%である50千円分が非行使部分になると見込んでいる。発行した翌期に200千円相当の商品と引き換えられ、消費税を含めて行使された。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ⑥ 消化仕入(本人か代理人か) ケース6 消化仕入(論点:本人・代理人) 百貨店Aは、B社と消化仕入契約を締結している。百貨店Aは顧客に1個20,000円の商品(卸値19,000円)を1個販売した。百貨店Aは、自らをこの消化仕入れに係る取引における代理人に該当すると判断している。なお、消費税率8%とする。百貨店Aの仕訳は次のとおり。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。   〈まとめ〉 上記典型例6つについて表にまとめると、下記のようになる。 ※ 法人税法上、商品券を発行した時点で、雑収入として計上することも容認される。 (了)

#No. 303(掲載号)
#西田 友洋
2019/01/24

企業経営とメンタルアカウンティング~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第10回】「デフォルトに振り回されるココロ」

企業経営と メンタルアカウンティング ~管理会計で紐解く“ココロの会計”~ 【第10回】 「デフォルトに振り回されるココロ」   公認会計士 石王丸 香菜子   *資料* 第1事業部で扱うカードリーダーの返品やクレームに関する、前期1月~3月のデータは以下の通りであった。 これ以外に、製品の品質管理のために生じるコストにはどのようなものがあるだろうか。また、データを集めることで、どのように品質管理に役立てることができるだろうか。 *  *  * 1 デフォルトの✔ 、外しますか? あなたのメールの受信フォルダ、いつの間にか、配信希望した覚えのないメールマガジンでいっぱいになっていませんか? インターネットで買い物をした時など、メールマガジンの配信を希望するかどうかを問われることがありますよね。そんな時、 こんなふうになっていることはありませんか。初期設定で✔とされていると、チェックをわざわざ外すのは気が引けるし、少し面倒なこともあって、そのままOKボタンを押してしまう人が多いのではないでしょうか。仮に、 となっていたら、よほどメールマガジンを読みたい場合以外は、あえてチェックを入れないでしょう。 人の判断は、デフォルト(初期設定)に大きな影響を受ける傾向にあります。「」と呼ばれるもので、フレーミング効果(【第5回】参照)の1つと考えることもできます。 第1事業部が以前から扱うカードリーダーについても、品質管理活動や検査方法がすでにデフォルトとして示されているため、それを超えた活動がされていないようですね。   2 品質コストは大きく2つに分けて考える 製品の品質管理や品質改善のために生じるコストを「」と呼び、これを測定・分析して経営管理に役立てるシステムを「品質原価計算」と言います。品質コストを分析する際には、「予防-評価-失敗アプローチ(PAF法:prevention-appraisal-failure approach)」という考え方で、品質コストを分類する方法が知られています(1950年代にGE社の品質担当エンジニアが考えた分類法と言われています)。 この考え方では、品質コストを、そもそも製品の品質不良が発生しないようにするためのコスト(「品質適合コスト」)と、製品の品質不良が発生してしまったために必要となるコスト(「品質不適合コスト」)とに大別します。 品質適合コストは、製品の品質不良の発生を予防するためのコスト(「予防コスト」)と、製品の品質不良を発見するためのコスト(「評価コスト」)とに細分できます。 予防コストの例としては、品質改善のための設計変更費や、作業員に対する品質教育訓練費などが挙げられます。また、評価コストの例としては、材料を受け入れる際の検査費や、完成品を出荷する際の検査費などが挙げられます。これらは、製品の品質不良の発生を事前に防ぐためのコストですので、経営者や管理者が、予算を割り当てて発生額をコントロールできるコストです。品質適合コストに適切な予算を配分することで、製品の品質改善・品質向上を図ることができます。 第1事業部では、以前からカードリーダーを取り扱っているため、製品設計や教育訓練、検査の方法などがデフォルトとしてすでに決まってしまい、品質適合コストに対して十分な予算を取っていない状況であると考えられます。 一方、品質不適合コストは、製品の出荷前に不良品が発生した場合に生じるコスト(「内部失敗コスト」)と、製品の出荷後に不良品が発生した場合に生じるコスト(「外部失敗コスト」)とに細分できます。 内部失敗コストの例としては、製造中の仕損費や、出荷前の検査で見つかった不適合品の手直費などが挙げられます。外部失敗コストの例としては、販売後の返品に関する補修費や運送費・処分費、クレーム対応費などが挙げられます(第1事業部長が集計したコストは、外部失敗コストに相当する部分だけということになります)。品質不適合コストは、製品の品質不良が発生してしまったためのロスであり、特に外部失敗コストについては、経営者や管理者が発生額を直接コントロールすることが難しいものが多いと言えます。 品質適合コストと品質不適合コストの性質を踏まえると、品質適合コストに適切な資源配分をすることで、製品の品質を管理・改善し、品質不適合コストの発生を少なく抑えることができることがわかります。 経理部のカズノ君と第1事業部のメンバーは、以下のように品質コストを分類・分析し、当期より品質適合コストに多くの予算を割り当てた。その結果、製品の品質改善や品質管理が進み、品質不適合コストの削減につながった。   品質適合コストと品質不適合コストとがトレードオフ関係(一方が増えると一方が減る関係)にあるとすると、両コストの合計が最小になるような組合せが存在すると考えることもできます。このように考えると、品質適合コストをほどほどにし、ある程度の品質不適合コストを許容した場合(あえて一定の品質不良を許容した場合)に、両者の合計が最小となるケースもあり得ます。 しかし、品質適合コストと品質不適合コストの合計を最小にすることが、最適な経営選択とは限りません。というのも、製品の品質不良は、企業の信頼低下やブランドイメージ悪化につながる可能性があります。コスト最小化を追求してあえて品質を落とすことには、非常に大きなリスクがあり、結果として、予期しない大きな損失を引き起こすおそれもあるからです。 ◆◇◆今回のキーワード◆◇◆ ▷ 人の判断が、デフォルト(初期設定)に大きな影響を受ける傾向のこと。 ▷ 製品品質の管理や改善のために生じるコストで、品質適合コストと品質不適合コストとに大別できる。適切な品質適合コストをかけることで、製品品質を改善し、品質不適合コストを抑えることができる。 (了)

#No. 303(掲載号)
#石王丸 香菜子
2019/01/24

企業結合会計を学ぶ 【第9回】「取得原価の配分方法④」-退職給付に係る負債への配分、ヘッジ会計の適用、暫定的な会計処理-

企業結合会計を学ぶ 【第9回】 「取得原価の配分方法④」 -退職給付に係る負債への配分、ヘッジ会計の適用、暫定的な会計処理-   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回に引き続き、取得原価の配分方法に関して解説する。 今回は、退職給付に係る負債への配分、ヘッジ会計の適用、暫定的な会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 退職給付に係る負債への取得原価の配分 確定給付制度による退職給付に係る負債は、企業結合日において、受け入れた制度ごとに「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)に基づいて算定した退職給付債務及び年金資産の正味の価額を基礎として取得原価を配分するので、被取得企業における未認識項目は、取得企業には引き継がれないことになる(結合分離適用指針67項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針67項)。   Ⅲ 被取得企業においてヘッジ会計が適用されていた場合 被取得企業でヘッジ会計を適用していたか否かにかかわらず、受け入れた金融資産又は引き受けた金融負債(デリバティブを含む)は、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)に従って算定した時価を基礎として取得原価を配分するので、被取得企業においてヘッジ会計が適用されており、繰延ヘッジ損失及び繰延ヘッジ利益が計上されていても、取得企業はそれらを引き継ぐことはできない(結合分離適用指針68項)。 次のことに注意する(結合分離適用指針68項)。   Ⅳ 暫定的な会計処理 1 基本的な考え方と会計処理 取得原価の配分は、企業結合日以後1年以内に配分するとされている(企業結合会計基準28項)。 識別可能資産及び負債を特定し、それらに対して取得原価を配分する作業は、企業結合日以後の決算前に完了すべきであるが、それが困難な状況も考えられる。 そのため、企業結合条件の交渉過程において、通常、ある程度の調査を行っている場合が多く、また、1年を超えた後に企業結合日時点での状況に基づいて企業結合日時点での識別可能資産及び負債を特定し、しかもそれらの企業結合日時点での時価を見積ることは非常に困難であることなど実務面での制約等を考慮し、配分する作業は企業結合日以後1年以内に完了するものとし、完了前の決算においては暫定的に決定した会計処理を行うこととされている(企業結合会計基準104項)。 つまり、企業結合日以後の決算において、配分が完了していなかった場合は、その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させることになる(企業結合会計基準注解(注6))。 例えば、企業結合日が年度決算の直前となる場合は、配分する作業が完了した時点で初めて会計処理を行うのではなく、その年度決算の時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行った上で、その後、追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる(企業結合会計基準104項)。 2 暫定的な会計処理の対象となる項目 暫定的な会計処理の対象となる項目は、繰延税金資産及び繰延税金負債のほか(結合分離適用指針73項)、土地、無形資産、偶発債務に係る引当金など、実務上、取得原価の配分額の算定が困難な項目に限られる(結合分離適用指針69項)。 ただし、企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算日までの期間が短い場合など、被取得企業から受け入れた識別可能資産及び負債への取得原価の配分額が確定しない場合(被取得企業の適正な帳簿価額の算定が企業結合日以後最初に到来する取得企業の決算には間に合わない場合等)も想定されるので、このような場合には、被取得企業から受け入れた資産及び引き受けた負債のすべてを暫定的な会計処理の対象とすることができる(結合分離適用指針69項、378項)。 暫定的な会計処理については、次の事項に注意が必要である(結合分離適用指針378項)。 なお、被取得企業の適正な帳簿価額を基礎として取得原価を売上債権に配分した後に発生した貸倒損失(設定された貸倒引当金を上回る損失額)は、取得企業の貸倒損失として費用計上しなければならず、当該損失をのれんに振り替え、資産計上することは認められない(結合分離適用指針378項)。 3 暫定的な会計処理の確定処理 暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合には、企業結合年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う(結合分離適用指針70項)。 企業結合年度の翌年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下合わせて「財務諸表」という)と併せて企業結合年度の財務諸表を表示するときには、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる(企業結合会計基準注解(注6))。 4 注記 「取得原価の配分に関する事項」として、取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由を注記する(企業結合会計基準49項(4)③)。 企業結合年度の翌年度において、暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、当該見直しがなされた事業年度において、その見直しの内容及び金額を注記する(企業結合会計基準49-2項)。 なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同じとなる場合には、個別財務諸表においては、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(企業結合会計基準49-2項)。 (了)

#No. 303(掲載号)
#阿部 光成
2019/01/24

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第146回】退職給付会計⑫「退職給付引当金の計算方法を簡便法から原則法に変更した場合」

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第146回】 退職給付会計⑫ 「退職給付引当金の計算方法を簡便法から原則法に変更した場合」   仰星監査法人 公認会計士 素村 康一     〈事例による解説〉   〈会計処理〉 ① 簡便法による退職給付費用の計上 ② 簡便法から原則法への変更に伴う退職給付引当金の調整   〈会計処理の解説〉 従業員数が比較的少ない小規模企業等においては、数理計算を要するような原則的な方法ではなく、簡便な方法により退職給付に係る負債及び退職給付費用を算定することが認められています。 この簡便法を適用できる「小規模な企業等」とは、原則として従業員数が300人未満の企業を指します。ただし、従業員数が300人以上であっても、年齢や勤務期間に偏りがあることにより原則法による計算の結果に一定の高い水準の信頼性が得られないと判断される場合には、簡便法によることができます。なお、この場合の従業員数とは退職給付債務の計算対象となる従業員数を意味し、複数の退職給付制度を有する事業主にあっては制度ごとに判断します。 従業員数は毎期変動することが一般的であるため、簡便法の適用は一定期間の従業員規模の予測を踏まえて決定する必要があります(「適用指針」47項)。 原則として従業員数が300人以上に達した場合は、原則法により退職給付に係る負債及び退職給付費用を算定する必要があります。この結果、変更時点では簡便法による計算結果と原則法による計算結果との間に差異が生じることになります。そしてこの差異を会計処理するにあたっては、その差異の性質が問題となります。 まず、この差異は、退職給付債務の数理計算に用いた見積数値と実績との差異や、見積数値の変更等により発生した差異ではないことから、数理計算上の差異には該当しません(同34項)。また、退職給付水準の改訂等に起因して発生した退職給付債務の増加又は減少部分でもないことから、過去勤務費用にも該当しません(同41項)。 したがって、簡便法による計算結果と原則法による計算結果の差異は、数理計算上の差異や過去勤務費用のように一定の年数で按分する遅延認識(同35項、42項)によることはできず、簡便法から原則法へ変更した期に一括で費用処理することになると考えられます。 (了)

#No. 303(掲載号)
#素村 康一
2019/01/24

組織再編時に必要な労務基礎知識Q&A 【Q13】「会社分割とはどういうものか」

組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q13】 会社分割とはどういうものか   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【A】 会社分割とは、会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継するもので、吸収分割と新設分割がある。また、会社分割に伴う労働契約の承継にあたり、労働契約承継法に基づく手続きが必要となる。    会社分割 会社分割とは、会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を他の会社に承継するもので、分割契約を締結して既存の会社に承継する吸収分割と、分割計画を作成して新設会社に承継する新設分割がある(会社法757条、762条等)。 以下、会社分割により事業を分割する会社を分割会社、それを承継する会社を承継会社という。 【吸収分割のイメージ】 A社(分割会社)からY事業をB社(承継会社)に承継する場合 会社分割では、分割契約又は分割計画に基づいて、分割会社から承継会社に権利義務が包括的に承継される(会社法759条、764条等)。これにより分割会社の資産等が変動するため、債権者保護等の手続きが必要となる。また、分割会社から承継会社へ労働契約を承継するにあたっては、合併や事業譲渡の場合とは異なり、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)に基づく手続きが必要となる。    労働契約承継法の手続き 労働契約承継法は、会社法の特例として定められたもので、会社分割が行われる場合の労働契約の承継に関して労働者の保護を図ることを目的に、次の手続き等について定められている。    商法等改正法附則第5条の手続き 労働契約承継法の手続きに加えて、商法等改正法附則第5条に基づく手続きも必要となり、分割会社で承継される事業に従事する労働者等と、労働契約の承継に関して協議する必要がある。この手続きは、労働契約承継法の手続き③の前に実施するものとなる。 上記手続きにあたってはさまざまな検討を要するため、会社分割を行う場合は、これら必要な手続きも踏まえた上でスケジュールの組み立てが必要となる。 (了)

#No. 303(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2019/01/24

中小企業経営者の[老後資金]を構築するポイント 【第9回】「老後の代表的な収入源となる公的年金」

中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第9回】 「老後の代表的な収入源となる公的年金」   税理士法人トゥモローズ   “人生100年時代”とも言われる昨今において、65歳で引退した夫婦2人が、その後30年暮らしたときにかかるであろう支出が1億円近くになることは連載の初めにお伝えしたとおりである。 このような中で、引退までの限られた期間内のストックのみで生涯の老後費用を賄いきることは難しい状況が想定され、ストックだけではなく、老後のフローにおける収入が重要な要素となってくる。 そこで今回は、老後の収入で代表的な公的年金について解説をしていく。この公的年金との向き合い方を改めて考えることで、老後資金の構築の第一歩となろう。   1 公的年金制度の概要 公的年金制度のそもそもの主旨は、高齢者となり働けなくなったときや障害を負った際に、社会全体で支えるための制度であり、現役世代が支払った保険料が高齢者などの年金給付に充てられている。 この公的年金制度は、20歳以上のすべての者が加入する「国民年金」と、会社員などが加入する「厚生年金保険」による、いわゆる2階建て構造となっている。 具体的には、自営業者など国民年金のみに加入している第一号被保険者が1階部分、会社員や公務員で厚生年金保険に加入している第二号被保険者、専業主婦など第二号被保険者に扶養されている第三号被保険者が2階部分として構成され、それぞれ保険料を負担し、将来における老後の年金を受給する(第三号被保険者は厚生年金制度などで保険料を負担しているため、個人としては保険料の負担はない)。 中小企業経営者も第二号被保険者としてこの厚生年金保険に加入しており、毎月の役員給与に対して所得に応じた年金が天引きされ、会社がもう半分の保険料を負担する形で厚生年金保険料が納められている。 〈公的年金制度の仕組み〉 (※) 厚生労働省ホームページより   2 年金受給 年金には、国民年金から支給を受ける「老齢基礎年金」と、厚生年金から支給を受ける「老齢厚生年金」があり、それぞれ原則として65歳から支給を受けることができる(老齢厚生年金は一定の要件を満たせば、60歳から生年月日に応じて支給される)。 仮に20歳~60歳までの40年間の全期間において保険料を支払った場合には、満額の約78万円(月額約65千円)の老齢基礎年金を受け取ることができる。 そして、上述のとおり、厚生年金保険の加入者は、国民年金に上乗せする形で厚生年金保険からも年金の支給を受けることができ、「老齢基礎年金」+「老齢厚生年金」が受給できる。この老齢厚生年金については、現役中に支払った保険料の金額(標準報酬、加入期間)によって、受け取る年金額が異なる。   3 中小企業経営者の在職老齢年金の支給停止 引退をした中小企業経営者は、既に公的年金の受給者として年金を受け取っている者も多くいる。一方で中小企業経営者のボリュームゾーンである65歳前後の経営者は、未だ現役として第一線で経営を行っている者も多い。 年金は65歳から(一定の要件を満たせば60歳から)老齢厚生年金の支給を受けることができるが、老齢厚生年金の支給を受ける者が厚生年金保険に加入しながら働いている場合には、年金の一部又は全部の支給が停止される「在職老齢年金の支給停止」という制度がある。 また、70歳になると厚生年金保険の被保険者資格は喪失するが、法人の経営者が現役で働き続け報酬を得ているような場合は、厚生年金保険に加入することとなる。中小企業経営者については70歳を超えたとしても現役でいる場合が多く、厚生年金保険へ加入しているため、この在職老齢年金の支給停止に該当する場合が想定される。 報酬を得ている期間は年金の支給停止となってしまう上に、さらに厚生年金保険料を支払うこととなるので、報酬の減額などを検討する必要があろう。   4 公的年金に係る課税関係 公的年金は、雑所得として確定申告により所得税を申告納税する必要がある。しかし、公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり源泉徴収を受けており、かつ、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である場合には、確定申告の必要はない。 公的年金に係る雑所得の金額は、以下のとおり算出される。 (a)×(b)-(c)= 公的年金等に係る雑所得の金額 〈公的年金等に係る雑所得の速算表(平成17年分以後)〉 (※) 国税庁ホームページより なお、原則として公的年金の支給の際に収入金額に応じた5.105%の源泉徴収が行われるため、他の所得や所得控除の状況に応じて、還付を受けるために確定申告を行うこともできる。 また、平成30年度の税制改正において公的年金等控除の見直しが行われ、公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額に上限(195万5,000円)が設けられ、さらに公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超の場合・2,000万円超の場合にそれぞれ控除額の引下げが行われる。 これらの見直しは平成32年分(2020年分)以後の所得税及び平成33年度分(2021年度分)以後の個人住民税から適用されるため、引退後の資産シミュレーションを行う際には留意されたい。 〈平成32年分以後の公的年金等控除〉 (※) 財務省ホームページより (了)

#No. 303(掲載号)
#税理士法人トゥモローズ
2019/01/24

《速報解説》 IFRS13号(公正価値基準)の定めを取り入れた「時価の算定に関する会計基準(案)」等がASBJより公表される~会計士協会も新基準案に対応した金融商品会計に関する実務指針等の改正(公開草案)を同時公表~

《速報解説》 IFRS13号(公正価値基準)の定めを取り入れた 「時価の算定に関する会計基準(案)」等がASBJより公表される ~会計士協会も新基準案に対応した金融商品会計に関する実務指針等の改正(公開草案)を同時公表~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成31年1月18日、企業会計基準委員会は、次のものを公表し、意見募集を行っている。 これは、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)が公正価値測定についてほぼ同じ内容の詳細なガイダンスを定めていることとの整合性を図るものである。 国際財務報告基準(IFRS)においてはIFRS 第13号「公正価値測定」(以下「IFRS第13号」という)、米国会計基準においてはAccounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」である。 なお、上記の公開草案に合わせて、平成31年1月18日、日本公認会計士協会から、次のものを改正する公開草案が公表されている。 意見募集期間は、企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会ともに、平成31年4月5日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 IFRS第13号の定めを基本的にすべて取り入れているが、「公正価値」の用語を用いず、「時価」の用語を用いている。 1 範囲 時価算定会計基準案は、次の項目の時価に適用する(時価算定会計基準案3項)。 金融商品については、国際的な会計基準と整合させることにより国際的な企業間の財務諸表の比較可能性を向上させる便益が高いものと判断し、会計基準の範囲に含める(時価算定会計基準案25項)。 例えば、年金資産については、その額を期末における時価により計算することとされており(「退職給付に関する会計基準」(企業会計基準第26号)22項)、金融商品が年金資産を構成する場合には、当該金融商品の時価の算定に時価算定会計基準案が適用される。 金融商品以外の資産及び負債については、時価算定会計基準案の範囲に含めた場合の整合性を図るためのコストと便益を考慮し、原則として、金融商品以外の資産及び負債は時価算定会計基準案の範囲に含めていない(時価算定会計基準案25項)。 2 時価の定義 「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(時価算定会計基準案5項、30項、金融商品会計基準案6項)。 時価の定義の変更に伴い、現行の金融商品会計基準におけるその他有価証券の期末の貸借対照表価額に期末前1ヶ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる定めについては、その平均価額が改正された時価の定義を満たさないことから削除する(金融商品会計基準案注解(注7))。 ただし、その他有価証券の減損を行うか否かの判断については、期末前1ヶ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いを踏襲している。なお、この場合であっても、減損損失の算定には期末日の時価を用いることとなる(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)改正案91項、284項)。 3 時価の算定単位 資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示による(時価算定会計基準案6項)。 しかし、一定の要件のすべてを満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引相手先の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる。なお、本取扱いは特定のグループについて毎期継続して適用する(時価算定会計基準案7項)。 4 時価の算定方法 時価の算定方法として、次の事項が規定されている(時価算定会計基準案8項~15項、時価算定適用指針案5項~23項)。 時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(そのアプローチとして、例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチがある)を用いる(時価算定会計基準案8項)。 評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にする(時価算定会計基準案8項)。 時価の算定にあたって複数の評価技法を用いる場合には、複数の評価技法に基づく結果を踏まえた合理的な範囲を考慮して、時価を最もよく表す結果を決定する(時価算定会計基準案9項)。 時価の算定に用いるインプットは、次の順に優先的に使用する(レベル1のインプットが最も優先順位が高く、レベル3のインプットが最も優先順位が低い。時価算定会計基準案11項、12項)。 時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価又はレベル3の時価に分類する(時価算定会計基準案12項)。 負債又は払込資本を増加させる金融商品(例えば、企業結合の対価として発行される株式)については、時価の算定日に市場参加者に移転されるものと仮定して、時価を算定する(時価算定会計基準案14項)。 負債の時価の算定にあたっては、負債の不履行リスクの影響を反映する。負債の不履行リスクとは、企業が債務を履行しないリスクであり、企業自身の信用リスクに限られるものではない(時価算定会計基準案15項)。 5 市場価格のない株式等の取扱い 時価算定会計基準案においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、たとえ観察可能なインプットを入手できない場合であっても、入手できる最良の情報に基づく観察できないインプットに基づき時価を算定することとしている。このような時価の考え方の下では、原則として時価を把握することが極めて困難な有価証券は想定されないことから、時価を把握することが極めて困難な有価証券の記載を削除している(金融商品会計基準案19項及び81-2項)。 ただし、市場価格のない株式等に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としても、それを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとした(金融商品会計基準案19項及び81-2項)。 これにより、これまで時価を把握することが極めて困難であるとして、取得原価又は償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額としていたもののうち、市場価格のない株式等に含まれないものについては、時価をもって貸借対照表価額とすることとなる。 市場価格のない株式とは、市場において取引されていない株式とする(金融商品会計基準案19項)。 また、出資金など株式と同様に持分の請求権を生じさせるものは、同様の取扱いとする。なお、民法上の組合等において、構成資産が主に市場価格のない株式及び出資金などである場合についても、同様の取扱いとする。これらを合わせて「市場価格のない株式等」という(金融商品会計基準案19項)。 6 開示 金融商品時価開示適用指針案では、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項として次の開示項目を注記する(金融商品会計基準案40-2項、金融商品時価開示適用指針案5-2項、四半期適用指針案80項)。 7 設例 時価算定適用指針案では、IFRS第13号の設例を基礎として、次の設例を設けている。 また、金融商品時価開示適用指針案では、「時価をもって連結貸借対照表価額とする金融資産及び金融負債」の記載例が示されており、レベル1、レベル2、レベル3の開示や時価の算定に用いた評価技法及びインプットの説明などが記載されている。   Ⅲ 適用時期等 平成32年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することを提案している。 ただし、平成33年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができる。 なお、平成32年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することを妨げない。 経過措置が定められる予定であるので、実際の適用に際しては注意が必要である。 (了)

#No. 302(掲載号)
#阿部 光成
2019/01/22

《速報解説》 日本監査役協会中部支部 監査実務チェックリスト研究会、上場会社に向けた「監査役監査チェックリスト」を公表~2017年公表分(機関設計区分)からチェック事項を追加~

《速報解説》 日本監査役協会中部支部 監査実務チェックリスト研究会、上場会社に向けた「監査役監査チェックリスト」を公表 ~2017年公表分(機関設計区分)からチェック事項を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年1月11日、日本監査役協会中部支部 監査実務チェックリスト研究会は、「監査役監査チェックリスト④【上場会社編】」(以下「チェックリスト」という)を公表した。 これは、2017年9月28日に公表された「改訂版 監査役監査チェックリスト①~③」の「③ 機関設計が【取締役会+監査役会+会計監査人】の会社の場合」を基に、上場会社向けに必要と思われる事項の追加、インサイダー取引規制、財務報告内部統制、ITガバナンス、適時開示体制、有価証券報告書・決算短信、コーポレートガバナンス・コード等、新たなチェックリストの作成なども行っている。分配可能額の算定や、子会社調査のチェックリストなどもあり、詳細なチェックリストとなっている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 チェックリストは、表紙を含めて138ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説する。 1 監査役になったらすぐ確認すべきチェックリスト 次の事項について、前任の監査役から引継ぎがなされているかなどについて記載されている。 2 定時株主総会(終了後)のチェックリスト 株主総会終了後の監査役会において、次のような事項が議題とされているかなどについて記載されている。 3 財務報告内部統制のチェックリスト 監査役は、取締役の職務執行の監査(法令遵守・適正開示)の観点から、金融商品取引法の財務報告内部統制の構築・運用状況を監視・検証すべきことを認識しているか、金商法の財務報告内部統制においては、監査する立場に加え、代表取締役等に評価され、監査人に検討される立場にあることを認識しているかなどについて記載されている。 4 会計監査人監査の相当性判断のチェックリスト 会計監査人の監査計画について、妥当性を確認しているか、会計監査人の監査実施状況を確認しているかなどについて記載されている。 5 有価証券報告書・決算短信等のチェックリスト 監査役は、取締役の職務執行の監査(法令遵守・適正開示)の観点から、有価証券報告書、四半期報告書、決算短信、四半期決算短信などの開示書類の適正性について監査すべきことを認識しているかなどについて記載されている。 有価証券報告書・四半期報告書の非財務情報は監査人の監査対象外となっているが会社の重要情報であるため、会社の実情に精通した監査役による実質的な監査が必要と記載されている。 6 コーポレートガバナンス・コードに関するチェックリスト 監査役は、コーポレートガバナンス・コードにおいて取締役会や経営陣(幹部)を対象とした原則について、取締役の重要な職務執行の監査の一環として、特に次の点に留意すべきことを認識しているかなどについて記載されている。 (了)

#No. 302(掲載号)
#阿部 光成
2019/01/22

《速報解説》 「総合型確定給付企業年金基金に対する合意された手続業務に関する実務指針」の公開草案が公表される~年金資産総額20億円超の基金へ導入~

《速報解説》 「総合型確定給付企業年金基金に対する合意された手続業務に関する実務指針」の公開草案が公表される ~年金資産総額20億円超の基金へ導入~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2019年1月17日、日本公認会計士協会は、「業種別委員会実務指針「総合型確定給付企業年金基金に対する合意された手続業務に関する実務指針」」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、総合型の確定給付企業年金基金は、貸借対照表(年金経理)の資産総額が20億円を超えた決算の翌々年度決算から、公認会計士又は監査法人による会計監査又は合意された手続の実施が求められることになったことに対応するものである(7項)。 公認会計士等による会計監査は、従前から任意監査として行われるケースがあり、すでに「年金基金の財務諸表に対する監査に関する実務指針」(業種別委員会実務指針第53号)が公表されているが、「合意された手続」については新規に導入されることとなる。 意見募集期間は2019年2月7日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 公開草案は、表紙を含めて33ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説する。 付録として次のものがある。 1 適用範囲 業務実施者は、総合型確定給付企業年金基金に対する「合意された手続業務」を実施する場合には、公開草案及び「合意された手続業務に関する実務指針」(専門業務実務指針4400。以下「専門実4400」という)に準拠することが求められる(2項)。 なお、公認会計士又は監査法人による会計監査を行う場合には、「年金基金の財務諸表に対する監査に関する実務指針」(業種別委員会実務指針第53号)に従って行う(1項)。 公開草案は、専門実4400 に記載された要求事項を遵守するに当たり、当該要求事項及び適用指針と併せて適用するための指針を示すものであるが、一部専門実4400に加え新たな要求事項を追加している(2項)。 2 合意された手続業務の特質 合意された手続に関する業務実施者の報告は、手続実施結果を事実に則して報告するのみにとどまり、手続実施結果から導かれる結論の報告も、保証の提供もしない。このため、実施結果の利用者は、業務実施者から報告された手続実施結果に基づいて、自らの責任で結論を導くこととなる(4項)。 また、合意された手続業務では、保証業務における証拠収集手続と類似した手続が業務実施者により実施されるものの、結論の基礎となる十分かつ適切な証拠を入手することを目的とはしておらず、保証業務とはその性質を異にするものである(5項)。 合意された手続実施結果報告書には、以下のような特質がある(6項)。 実施結果報告書の表題は、通常、「独立業務実施者の総合型確定給付企業年金基金に係る合意された手続実施結果報告書」とする(A15項)。 3 手続及び証拠 業務実施者は、保証業務とは異なり、合意された手続のみを実施し、入手した証拠を実施結果報告書の基礎として利用しなければならない(23項)。 業務実施者は、実施する手続の対象とする情報等を特定しなければならない(24項)。 合意された手続業務において適用される手続には、例えば、質問、分析などがあるが、手続は、「チェック」等の曖昧な表現を用いず、具体的かつ詳細に記述し、また、合意された手続として、「監査」、「検証」、「判断」、「レビュー」、「テスト」等の保証業務と誤解される可能性のある表現を用いることは適切ではない(A9項、A10項)。 合意された手続において、業務依頼者が計上された金額又は比率に関する推定値を提供しない限り、業務実施者は分析的手続を実施しない(A12項)。 分析的手続を実施する場合には、業務実施者は判断を行わず、計上された金額又は比率と業務依頼者から提供された推定値との差異を報告する。ただし、それが重要であるかどうかの判断は行わない(A12項)。 合意された手続の実施結果の記載の適切な例及び不適切な例としては、以下が挙げられる(A20項)。 4 手続実施結果と業務の実施過程において知るところとなった情報との矛盾 業務実施者は、業務依頼者及びその他の実施結果の利用者との間で合意された手続以外に、いかなる手続を実施する義務も負わない(26項)。 しかしながら、実施結果報告書日までの合意された手続業務の実施の過程において、実施結果報告書に記述される手続実施結果と矛盾した事実を示す重要な情報について知るところとなった場合には、合意された手続が依然として業務の目的に適合するものであるかどうかについて業務依頼者と協議し、手続の種類、時期及び範囲並びに内容の見直しを行うこと、又は当該実施結果報告書にこの事項を記載することを検討しなければならない(26項)。   Ⅲ 適用時期等 本実務指針は、公表日以降に発行する総合型確定給付企業年金基金に対する合意された手続実施結果報告書に適用することが提案されている。 (了)

#No. 302(掲載号)
#阿部 光成
2019/01/21
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