相続空き家の特例 [一問一答] 【第39回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑦ (買主が家屋取壊費用を負担して譲渡価額が決定している場合)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年6月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年11月にA社に対し9,900万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家で、その敷地も相続の時から譲渡の時まで未利用の土地でした。 なお、その家屋の取壊費用300万円についてはA社が負担することを条件として、当該譲渡価額が決定されています。 この場合、Xは、「相続空き家の特例(措法35③)」の適用を受けることができるでしょうか。 A 当該取壊費用300万円を譲渡価額に加算すると1億円を超えることから、「相続空き家の特例」の適用を受けることはできません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」の対象となる被相続人居住用家屋の全部の取壊し若しくは除却をした後又はその全部が滅失をした後に、被相続人居住用家屋の敷地を譲渡した場合には、この特例を受けることができ(措法35③二)、また、その譲渡の対価の額が1億円以下であることが、適用要件の1つとされています(措法35③)。 この場合の「譲渡の対価の額」とは、例えば譲渡協力金、移転料等のような名義のいかんを問わず、その実質において、その譲渡した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価たる金額をいうとされています(措通35-19(譲渡の対価の額))。 したがって、その譲渡者が被相続人居住用家屋の取壊し等をするところ、その売買に際し、買主がその家屋を取り壊している場合やその費用を負担している場合には、その実質の譲渡価額は、その取壊費用を加算して判定することとなります。 本事例の場合は、売買価額9,900万円に家屋の取壊費用300万円が加算されて、譲渡の対価の額が1億円を超えることから、本特例の適用を受けることができません。 (了)
企業結合会計を学ぶ 【第30回】 「①同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理 (合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合)と ②同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 今回は、共通支配下の取引等の会計処理のうち、次の2つを解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併の会計処理(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産である場合) 1 個別財務諸表上の会計処理 同一の株主(企業)により支配されている子会社同士の合併(合併対価が吸収合併存続会社の株式と現金等の財産)の場合、個別財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針250項~252項)。 ◎子会社(吸収合併消滅会社) 吸収合併消滅会社である子会社は、合併期日の前日に決算を行い、資産及び負債の適正な帳簿価額を算定する(企業結合会計基準41項)。 ◎子会社(吸収合併存続会社) 【資産及び負債の会計処理】 吸収合併存続会社である子会社が吸収合併消滅会社である他の子会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理(企業結合会計基準42項)】 《吸収合併消滅会社の株主資本の額がプラスの場合》 吸収合併消滅会社の適正な帳簿価額による株主資本の額から、合併の対価として支払った現金等の財産(結合分離適用指針95項。いわゆる三角合併のケースを含む)の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該金額を控除する)を控除した額がプラスとなる場合には、当該差額を払込資本とする。 当該差額がマイナスとなる場合には、払込資本はゼロとし、のれんを計上する。 のれん(又は負ののれん)は、結合分離適用指針72項及び76項から78項並びに資本連結実務指針40項に準じて会計処理する(結合分離適用指針448項)。 《吸収合併消滅会社の株主資本の額がマイナスの場合》 合併の対価として支払った現金等の財産の移転前に付された適正な帳簿価額(支払った現金等の財産に係る評価・換算差額等又は新株予約権が含まれている場合には、当該適正な帳簿価額を控除する)と等しい金額をのれんに計上する(結合分離適用指針448項)。 吸収合併存続会社の増加すべき株主資本については払込資本をゼロとし、その他利益剰余金のマイナスとして処理する。 ※ いずれの場合においても、評価・換算差額及び新株予約権の適正な帳簿価額は、吸収合併存続会社にそのまま引き継ぐ。 【企業結合に要した支出額の会計処理】 企業結合に要した支出額は、発生時の事業年度の費用として会計処理する。 ◎親会社(結合当事企業の株主) 事業分離等会計基準45 項により、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が吸収合併存続会社から受け取った現金等の財産は、原則として、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 当該価額が吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額を上回る場合には、原則として、当該差額を交換利益として認識(受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価はゼロとする)し、下回る場合には、当該差額を受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価とする。 ただし、いわゆる三角合併のように、子会社が親会社株式と自社(吸収合併存続会社である子会社)の株式を対価として他の子会社と吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社の株主(親会社)が受け入れる自己株式の取得原価は、吸収合併消滅会社の株式の適正な帳簿価額のうち引き換えられた部分に相当する額により算定する。 この結果、吸収合併消滅会社の株式に係る適正な帳簿価額から当該自己株式の取得原価を控除した額が、受け入れる吸収合併存続会社の株式の取得原価となる。 2 連結財務諸表上の会計処理 連結財務諸表上、次のように会計処理する(結合分離適用指針253項)。 Ⅲ 同一の株主(個人)により支配されている企業同士の吸収合併の会計処理 同一の株主により支配されている企業同士の吸収合併は、共通支配下の取引に該当し、吸収合併存続会社は次のように会計処理する(結合分離適用指針201項、254項)。 【資産及び負債の会計処理】 吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社から受け入れる資産及び負債は、企業結合会計基準41 項により、移転前に付された適正な帳簿価額により計上する。 【増加すべき株主資本の会計処理】 合併が共同支配企業の形成と判定された場合の吸収合併存続会社の会計処理(結合分離適用指針185項)に準じて処理する(結合分離適用指針408項)。 ただし、合併の対価に当該子会社株式以外の財産が含まれるときは、結合分離適用指針251項に準じて処理する。 【抱合せ株式の会計処理】 吸収合併存続会社が吸収合併消滅会社の株式(関連会社株式又はその他有価証券)を保有している場合には、結合分離適用指針247項(3)に準じて処理する。 (了)
組織再編時に必要な労務基礎知識 Q&A 【Q23】 会社分割した場合、労働条件を不利益に変更することはできるか 特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ 【A】 会社分割により分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはなく、また、会社分割を理由に一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。よって、会社分割に伴って労働条件を不利益に変更せざるを得ない場合は、労働組合法や労働契約法を踏まえた対応が必要となる。 (※) 本稿では、会社分割により事業を分割する会社を「分割会社」、それを承継する会社(新設分割の場合の新設会社も含む)を「承継会社」という。 会社分割による不利益変更 会社分割により、分割会社から承継会社に労働契約が承継された場合は、当該労働契約に関わる権利義務は包括的に承継会社に承継される。よって、当該労働契約に関わる労働条件は会社分割によって変更されることはなく、また、会社分割を理由に、一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。 労働条件の不利益変更 会社分割に伴って労働条件を不利益に変更せざるを得ない場合であっても、他の事情で労働条件を不利益に変更する場合と同様に、労働組合法や労働契約法を踏まえた対応が必要となる。 つまり、労働条件を不利益に変更するためには、次の3つのいずれかの方法によらなければならない。 ① 個別の合意 労働契約法8条には、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とあり、個別に合意することにより労働条件を不利益に変更することができる。 ただし、山梨県民信用組合事件(最二小判平28.2.19)では、 と判示しており、「自由な意思」に基づいて合意したと認められる「合理的な理由が客観的に存在」しない場合には、個別の合意の効力が否定されることがある。 ② 就業規則の変更 労働契約法10条には、 とあり、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更することができる。 ただし、上記のとおり、就業規則の変更により労働条件を不利益に変更する場合には、次の点に照らして合理的であることが求められ、合理的であるか否かについては裁判で争われることがある。 ③ 労働協約の締結 労働協約とは、労働組合と使用者が協議して取り決めた労働条件等に関する事項が記載された書面で、両者が署名又は記名押印したものをいう。 労働組合法16条には、 とあり、労働協約に個々の労働契約を規律する効力(これを規範的効力という)が与えられている。したがって、労働協約を締結することにより、労働条件を有利に変更するだけでなく、不利益に変更することもできると解されている。 ただし、労働協約の締結手続きに瑕疵がある場合や、特定の組合員を不利益に扱うことを目的に労働協約が締結されたと判断される場合などにおいては、労働協約の効力が否定されることがある。 会社分割などの組織再編時には、一般的には、労働契約法10条を踏まえて労働条件の検討を行い、変更後の労働条件を決定する対応となる。 複数の会社の労働条件を統一しようとする場合、すべての点において従業員に有利になる方を選択しない限り、労働条件を不利益に変更せざるを得ない。ただし、不利益に変更する点ばかりではなく、有利に変更する点も含まれることも多いため、総合的にバランスを図って変更後の労働条件を検討することとなる。また、どうしても総合的にみて不利益な変更となる場合は、労働者の受ける不利益の程度を緩和するための措置を導入する等の対応が必要となる。 (了)
中小企業経営者の [老後資金]を構築するポイント 【第19回】 「廃業という選択」 税理士法人トゥモローズ 事業承継時の老後資金準備の最終項として、「廃業」について取り上げたい。 東京商工リサーチの「2018年「休廃業・解散企業」動向調査」によると、『2018年に全国で休廃業・解散した企業は4万6,724件(前年比14.2%増)だった。企業数が増加したのは2016年以来、2年ぶり。2018年の企業倒産は8,235件(同2.0%減)と、10年連続で前年を下回ったが、休廃業・解散は大幅に増加した。』とのことだ。さらに『休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、60代以上が8割(構成比83.7%)を超え、高齢化による事業承継が難しい課題がより鮮明になってきた。』としている。 このように近年、廃業で自ら事業に幕を下ろす企業の件数が、倒産件数の5倍以上という数字になってきている。 〔図1〕休廃業・解散件数の推移 (出典) 中小企業庁「2019年版「中小企業白書」」P127 〔図2〕倒産件数の推移 (出典) 中小企業庁「2019年版「中小企業白書」」P16 今回は、本連載の【第15回】から【第18回】にかけて紹介してきたM&Aを含む事業承継の方法を検討したもののうまくいかなかった場合を前提に、廃業について、その検討から具体的に抑えておくべきポイントなどを〔STEP1〕~〔STEP3〕に分けて確認していく。 自社が〔STEP1〕に該当する企業の場合は廃業が選択肢の1つとして考えられるため、〔STEP2〕で自社の現状について把握したうえで、〔STEP3〕において実際の廃業のイメージをつかんでいただきたい。 〔STEP1〕廃業の検討 なお、廃業を選択しようにも債務超過である場合などは廃業を選択することができず、最悪倒産という事態に至る可能性もある。少し論点がずれるため深くは言及しないが、すべての経営者について「倒産」という最悪の事態は想定しておく必要がある。 老後資金を守る観点から、リスクヘッジの1つとして考えられるのは、銀行からの借入金について、経営者の個人保証が付いていないかの確認である。企業が倒産の憂き目にあった場合、経営者個人へ求償されないようプロテクトしておく必要がある。 中小企業庁は数年前から一定の借入金について経営者の個人保証を求めないという「経営者保証に関するガイドライン」を策定している。自社の調子が良いうちに早めに手を打っておくことが重要である。 〔STEP2〕実体B/Sの作成 〔STEP1〕の結果を受けて、自社の解散価値の確認に進みたい。廃業する場合は会社の解散価値(すべての資産を現金化し、すべての負債を返済した後の残りの手元資金)を知る必要がある。 〔STEP1〕に該当した企業の経営者でも、自社の解散価値を前提としたB/S(ここでは仮に「実体B/S」と呼ぶ)の把握はできているだろうか。以下で示すのは、決算書ベースのB/Sから実体B/Sに修正するチェック項目である。お手元のB/Sに追記いただきたい。 なお上記算式で最終的に残った資金が経営者の老後資金に直結するため、赤字が続いている場合は「将来」の老後資金を「今」まさに消耗しているものと捉えるべきであろう。 〔STEP3〕抑えておくべきポイント 〔STEP3〕では、実際の手続で抑えておくべき主なポイントについて確認し、廃業についてのイメージをご確認いただきたい。 以上が廃業の大まかな流れとなる。また債務超過となった場合や事業再開の可能性がある場合は「休眠」という手もある。それぞれの企業の実情に合わせて適切な選択が必要となる。 * * * 本連載では【第15回】から今回にかけて、事業承継時に確認すべき老後資金確保の方法について、事業承継の各方法とともに解説してきたが、次回からは事業承継後の対応について解説を行っていく。 (了)
令和時代の幕開けに思い馳せる 会計事務所経営 【第8回】 「経営は経営者の仕事ではなくチーム全体の仕事」 ~会議で培うチームビルディング~ (組織論④:チームビルディング編) 株式会社アーヌエヌエ 代表取締役 杉山 豊 ラグビーワールドカップで日本中が熱を帯びる中、その準決勝の日に筆を進めています。 日本代表のリーチ・マイケル主将の「One Team」とともに、ラグビーの精神論を語る上で「One for All, All for One」という言葉をよく耳にします。 「1人はチームのために、チームは1人のために」という解釈がされていますが、実はフランスの作家である、アレキサンドル・デュマの小説「三銃士」の中で、主人公とその仲間の三銃士が発した誓いの言葉として出てきます。 諸説ありますが、「1人はチームのために、チームは1つの目的のために」が本来の意味だそうです。 そう考えると、ラグビーはグラウンドで闘う15名の選手一人一人に役割があります。 一人一人がその役割を果たすことで1つの目的である「勝利」を掴む、そう解釈してもよいのかもしれませんね。 ➤チームビルディングのヒントは「会議」にあり さて、前置きが長くなりましたが、今回はチーム作りについて、すなわち「チームビルディング」についてお話をします。 先生は「チームビルディング」をする際に、どんな工夫をされているでしょうか? 先生の事務所は個性を発揮する環境、また個性と個性がぶつかり合いながらも1つの目的に向かって切磋琢磨する、そんな環境にあるでしょうか? 本来、人の持つ欲求の中には、組織やチーム、仲間の輪に所属していたいと思う、いわば安心感を得たい欲求として「所属欲求」があり、そしてその組織等の中で自己の存在や成果などを周囲に認められたいという欲求である「承認欲求」というものがあると言われています。 特に、社員という立場であると、これらの欲求が顕著に現れると言ってよいでしょう。 そんな社員の成長を促す、一人一人がその役割を存分に果たし、欲求を満たす場面があるとすれば、毎月行うであろう会議や事務所で行う社内外に向けたイベントなどがあります。 会議とは文字どおり「会って議論する」ことを言います。 先生の事務所の会議は「議論」になっているでしょうか? 先生が一方的に話し、社員は口を開く場面もなく、ただ聞いて頷くだけの会議になっていないでしょうか? そもそも会議はなぜ行うのでしょう。 単に事務所の経営状況の報告だけであるなら社内サイトへの掲示やメールでの伝達で済むはずです。 会って議論する意味、それは何かを決めるからこそではないでしょうか。 そこにチームビルディングのヒントがあります。 例えば、多くの先生方はマネジメント・アドバイザリー・サービス(通称「MAS」)を事業として取り入れていると思います。 そんな事務所に自らの経営計画がないわけがありません。 また、その経営計画は予実管理の遂行だけでなく、アクションプランが必ず入っており、そのアクションプランの遂行に対して社員の役割が必ずあるはずです。 社員も経営に参画したい、事務所の事業に貢献したいのです。 自らの手で企てた施策が採用され、そして任されて、一生懸命挑戦し、もがき苦しみながらも、自らが立てた目標だからこそ頑張って達成しようと努力するのです。 決して先生がその役割を分担する、決めるモノではないと考えます。 また、会議では社員たちの報告の場、承認の場、晴れの舞台が存在していますか? 「会議なんて短い時間で十分」と、そう思われる先生がいるとすれば、それは会議の位置づけが単なる連絡会だからです。 社員が声を発して議論する会議と単なる連絡会とでは、意味合いが違います。 ➤経営計画を社員と一緒に考える 事務所の経営計画を立案する際に、社員一人一人に同じように経営計画を立てさせてみてはいかがでしょうか? また、その経営計画をプレゼンする機会をちゃんと作り、そしてその施策の中から全員の投票等で事務所の施策として採用するというのはいかがでしょうか? 先生は「ウチの社員にそんなコトできるのか」と、不安視することもあろうかと思いますが、実は社員のほうが先生の見えていない経営課題をちゃんと理解していたりするものです。 また、大きな組織であれば、部ごと、課ごと、班ごとの各チームで、それぞれ1つの計画書を作成するという工夫をしてもいいでしょう。 それでもそれには、社員一人一人が個々に意見を持ち合うことは必須です。 1つのモノを皆で作り上げる、それに一人一人がしっかりと関わるからこそのチームワークですよね。 チームビルディングでは、経営者が個々を尊重し、事務所経営の一役を社員に担ってもらうこと、社員がその一役を担っているからこその責任感が連帯感を生むきっかけになるに違いありません。 社員の「貢献したい」と思うその純粋な気持ちを、どうぞカタチにしてあげてください。 全員で施策を決めるからこその会議、それをお披露目するからこその会議、その発表に全員が関わり温かいコメント、厳しいコメントをするからこその会議です。 デジタルコミュニケーションとアナログコミュニケーションは、必ず効果的に使い分ける必要があります。 会議は、チームビルディングにおいてアナログコミュニケーションだからこそ、運営の工夫次第で効果を生むのです。 ➤チームビルディングで「One Team」へ生まれ変わる 実は上記でお話したことは、私がサラリーマン時代に拠点経営をする上で実施していたことです。 それぞれが経営計画を立てることに対して、最初は「なんでこんな面倒なことしなければならないのか」「作る意味がわからない」なんて言う社員もいるかもしれません。 でも、そんな社員にかぎって翌年、翌々年と目を見張るようなこだわりを発揮し、経営計画を工夫して作ってくるものです。 自分の活動方針を自分で立てるうれしさと、それが遂行できて結果が出てくる面白さが成長を支えているように思えます。 当時、年初と半期には終日かけて皆にそれぞれの経営計画を発表してもらいました。 年初は2月の節分の日に必ず行い、皆で誓いを立てながら恵方巻きを食べました。 年初に経営計画という風呂敷を広げ、半期にはその風呂敷の大きさに自らが気づくことで「自覚」と「責任」という大きな財産が生まれるのだと思います。 そして社員同士で投票をし、一番得票の多かった社員にお客様向けの拠点経営計画発表会で登壇してもらう晴れ舞台を作ってあげたのです。 発表会に出席されたその社員のお客様は、その担当者を誇りに思い、また信頼関係が強くなる。 自らのチームビルディングが、お客様も含めた「One Team」へと生まれ変わる瞬間です。 そして、その結果に自信を感じた社員のそれ以後の頑張り、またそれを見ていた他の社員の「来年は自分こそ!」と思う気持ちについては、想像に難くない思います。 * * * チームビルディングとは、個を尊重する「思いやり」から始まります。 尊重とは「放任」することでは決してなく、信じて「任せる」ことです。 任されることで一人一人が自覚を持ち、自覚が責任感を醸成して個人の成長を促します。 その上でも事務所としての理念を明確化し、そしてその理念に基づく目標設定を具現化し、その目標設定を先生が行うのでなく、社員と一緒に行うことが重要です。 それこそがチームワークそのものであり、チームを作ることの第一歩ではないでしょうか? 素晴らしいチームが1つでもこの世に生まれたならば、顧問先である中小企業の発展にも貢献することでしょう。 (了)
《速報解説》 生命保険協会から「はじめての気候変動対応ハンドブック」が公表される ~実務担当者向けに基本知識や行動の視点などの幅広いポイントを整理して紹介~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年11月15日、一般社団法人生命保険協会は、「はじめての気候変動対応ハンドブック~生命保険業界への影響と考えるべきこと~」を公表した。 気候変動対応は世界的な課題となっており、生命保険協会は、2019年4月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に賛同を表明している。 気候変動対応ハンドブックは、はじめて気候変動の担当になった方を想定して、そもそも気候変動がなぜ大事なのかという基本的なことから、実務担当者としてどういったことを考えればいいのかまで幅広く整理した内容となっているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 表紙を含め、全体として80ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説することとする。 ハンドブックの主な構成は次のとおりであり、TCFDに関するわかりやすい説明が記載されている。 1 気候変動の物理的な影響を受けやすい業種 気候変動による影響は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC:第4章で解説)による分類によると、次の8つに大別されている(11ページ)。 日常生活を支える産業が受ける影響は、どれか1つだけとは限らず、複数の影響が組み合わさって相互に影響しながら、より大きな影響を及ぼすこともある。 そこで、グローバル化が進む現在、国内外に広がるサプライチェーンへの影響がどれほどの範囲に及ぶかを理解しながら、その対応を準備しておく必要があるとし、サプライチェーンに注目して、次の業種に対する気候変動の影響を述べている(11~15ページ)。 2 気候変動は生命保険会社にどんな影響があるか 生命保険会社には、①生命保険事業者としての側面と②機関投資家としての側面の2つがあるとのことである(22ページ)。 生命保険事業者としての影響(主に物理的リスク)として、気候変動による人の命と健康への影響が述べられている。 人の命と健康を左右する要因は、気候変動以外にも多くあり、自然現象によるものも人為的なものもある。これらの要因による影響が気候変動によってより強くなったり、これまで見られなかった新たな影響が生じたりする可能性があるとのことである(22、23ページ)。 機関投資家として直面する主要な気候変動影響には、物理リスクに加えて、低炭素・脱炭素社会への移行に伴う社会の変化、すなわち移行リスクがあるとのことである。機関投資家としては、投融資する先の企業がどのように温室効果ガスを排出しているか、つまり「ポートフォリオ」がどうなっているかが重要とのことである(27ページ)。 短期的には、移行リスクが最も大きく資産の価値に影響する要因の1つとなるが、中長期的にみると、気候変動による物理リスクが資産の価値や経済的パフォーマンスに及ぼす影響のほうが大きくなるとのことである(28ページ)。 さらに長期的には、気候変動による物理リスクが一層強くなり、移行リスクよりも大きく投融資の成績に影響するようになると想定され、自社の投融資先について、これらの動向を注意深く把握し、モニタリングしていく必要があるとのことである(28ページ)。 3 世界は何を考え、どう動いているのか 2015年にパリで開催されたCOP 21において「パリ協定」が採択され、次の目標を掲げている(31ページ)。 日本では、2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」を閣議決定し、この長期戦略には、「環境と成長の好循環を実現するため横断的施策」として、「イノベーションの推進」、「グリーンファイナンスの推進」、「ビジネス主導の国際展開、国際協力」が掲げられており、この「グリーンファイナンスの推進」の中に、「TCFD等による開示や対話を通じた資金循環の構築」、「ESG金融の拡大に向けた取組の促進」が位置付けられている(32ページ)。 4 投資家はどう動いているか 投資家が気候変動対策に目を向ける契機となったのは、PRI(Principles for Responsible Investment/国連責任投資原則)である。 PRIは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)が主導して2006年に作成した、自主的な投資原則のことである。 この原則は、投資の意思決定プロセスに、環境(Environmental)、社会(Social)、企業統治(Governance)の視点を組み込むことを求めており、ESG投資を行う投資家は、PRIに賛同することが一般的となっているとのことである(32ページ)。 PRIに署名すると、年に1回、PRI事務局から取組みをA+~Eの6段階で評価される仕組みとなっており、評価対象の種類は、「戦略とガバナンス」「上場株式」「債券」等がある。 生命保険会社やアセットマネジメント会社、年金基金などの投資家は、PRIの評価を高める等の取組みを通じて、今後は気候変動対応をさらに進めていく可能性が高いと思われるとのことである(33ページ)。 5 世界は、この先はどう動くか 2015年9月、持続可能な開発サミットで採択されたSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))は17の国際目標が掲げられており、その中の目標13に気候変動がテーマとなっており、「気候変動に具体的な対策を」という目標が掲げられている(34ページ)。 前述のパリ協定とSDGsの登場により、世界のルールが低炭素社会に向けて大きく舵を切ったと認識されており、今後数年間で、ステークホルダーごとに、又はそれぞれが連携する形で、世界的にさまざまな動きがでてくるであろうと述べられている(34ページ)。 (了)
《速報解説》 監査役協会、監査役等の選任や報酬の決定プロセスに着目し、 制度面及び独立性確保の実務実態に関する検討結果を公表 ~会社法の意図と実態の乖離がみられる調査結果も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年11月15日、公益社団法人日本監査役協会 ケース・スタディ委員会は、「監査役の選任及び報酬等の決定プロセスについて-実務実態からうかがえる独立性確保に向けた課題と提言-」を公表した。 これは、監査役(会)設置会社に焦点を絞ってアンケート調査(2,447社から回答)を行い、監査役等の選任や報酬の決定プロセスに着目し、制度面の検討とともに、実務実態として独立性が確保されているかを検討したものである。 アンケート調査結果からの好事例も紹介されており、参考になると思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 表紙及びアンケート調査結果を含め、全体として110ページに及ぶものであるので、以下では主な内容について解説することとする。 アンケートの総括として、アンケートの結果を見る限り、現行会社法に基づく決定プロセスで問題がないとの声が多いものの、監査役の選任・報酬の決定プロセスにおける執行からの独立性が、実務において十分に確保されているかについては、疑問を感ぜざるを得ないとし、現行制度下での取組と制度の改正に分けて、監査役の選任・報酬の決定プロセスにおける執行からの独立性をさらに充実させるための提言が行われている(18~20ページ)。 1 監査役の選任に際し、監査役(会)と執行側のどちらが最初に候補者を提案しているか(4ページ) 社内監査役候補者については、監査役(会)からが3.8%であるのに対し、執行側からが82.0%である。 社外監査役候補者については監査役(会)からが7.8%であるのに対し、執行側が78.4%である。 いずれの場合も執行側から最初に候補者を提案するケースが多数を占めた。 2 社外監査役候補者の選定(5ページ) 社外監査役候補者の選定に際し重視する要件は、「専門知識(財務会計、法務等)の有無」が87.7%と最も多く、「経営者経験」、「多様性」、「他社兼務状況」といった項目も一定の割合を占めている。 社外監査役候補者の選定方法は、「社外(非常勤)監査役の人的関係」が55.8%、「常勤監査役の人的関係」が49.4%であり、監査役の人的ネットワークを中心に候補者が選定されていることがわかるとのことである。 3 社外監査役候補者に関する同意権行使プロセス(6ページ) 社外監査役候補者の同意権行使プロセスとして、予め執行側に「資質等の要望を伝えている」が36.5%、「資質等について執行側に提案することを検討している」が26.9%であり、「今後候補者を提案することを検討している」と「今後資質等について提案することを検討している」が合わせて30.0%ある。 しかしながら、「予め執行側に資質等の要望を伝えていない」が58.6%、「候補者について何らかの提案をすることは特に考えていない」が66.8%あることから、多くの会社では執行側に任せているのが実態であるとのことである。この傾向は、社内監査役候補者の場合と同様である。 アンケートの自由記載からは、執行側からの情報及び同意の検討期間に関して、「提供された情報の内容や検討期間にかかわらず、同意権が形骸化し、会社法により期待される機能が発揮できていない」という指摘が散見されたとし、次のことが記載されている(7、8ページ)。 【社内監査役候補者】 ① 何も言う権利がないので検討する必要もなく、反対することもできず。結果、何日前であっても変わらない。 ② 基本的には親会社の人事ローテーションの一環として監査役人事も決まるので、検討期間は特に重要ではない。 ③ 基本的に特別問題となる候補者ではないので、検討期間の長短は関係ない。 ④ 執行側で既に内定した後に形式的に監査役会に紹介されており、既に反対意見は述べられない状況である。 【社外監査役候補者】 ① 執行側が決定した候補者に反対することはないので検討期間の長短は関係がない。 ② 執行側の採用面接ですでに採用が決定されている。監査役への同意確認はなし。 ③ 同意の期間は短くても良い。提案の時期は不同意とした場合新たな候補を選定できる期間を確保する必要があり、早くすることが望まれる。 ④ 現実には検討の余地がないし、余地があっても判断できない。職種しか判断材料が無い。人物像は資料だけではわからない。 4 任意の諮問委員会等(9、12ページ) 選任に関する任意の諮問委員会等の設置については、「設置していない」が81.6%に上っており、設置が一般的とまではいえない状況である。ただし、コーポレートガバナンス・コードの影響もあり、「1部上場」では、「設置している」が51.2%と半数を超えている。 報酬に関する任意の諮問委員会を設置しているのは、「1部上場」で48.8%と半数弱であったが、全体としては「設置していない」が82.4%と8割超であった。 5 報酬総額の決定方法(10ページ) 監査役の報酬決定プロセスとして、「株主総会で報酬総額が決議されている」が82.1%と多数を占めている。 また、総会議案として提出するプロセスについては、「事前協議で合意を得てはいるものの、執行側が主体的に議案内容を決めている」が51.1%、「執行側が監査役(会)の合意を得ずに決めている」が26.7%であり、両者を合わせて77.8%となっていることから、執行側主導で監査役報酬に関する議案提案の決定がなされていることがうかがえるとのことである。 6 個別報酬額の検討プロセス(10ページ) 報酬の総額枠内における個別報酬額の決定プロセスについては、「執行側から提示された個別報酬額で監査役会が決定している」が49.7%と約半数であり、また、「執行側が提示した個別報酬案を基に執行側と協議して決定している」が24.9%である。 報酬額について執行側と意見の相違があった割合が9.7%と僅少であることを考えると、個別報酬額は、執行側主導で決定されている会社が大半であり、会社法が意図するところと実態とでは大きな乖離が生じているものと推察されるとのことである。 (了)
《速報解説》 個人事業者の廃業時、事業用資産のみなし譲渡につき消費税課税漏れ ~会計検査院が国税庁へ改善要請~ 税理士 石川 幸恵 1 会計検査院による「平成30年度決算検査報告の概要」の公表 会計検査院は11月8日に「平成30年度決算検査報告の概要」を公表、10月8日付の日本経済新聞で報じられた個人事業者の廃業時における課税漏れの問題に関し、その詳細を明らかにした。 個人事業者は、業務に必要な車両や建物など、棚卸資産以外の資産(以下、事業用資産)を取得し、事業の用に供する。これらの事業用資産については、事業廃止時、消費税法第4条第5項第1号(みなし譲渡)の規定により譲渡があったものとみなされ、消費税が課される。 上記新聞報道における「4割課税漏れ」とは、消費税申告において、この事業廃止時のみなし譲渡の規定が適用されているかを、会計検査院がサンプル調査した結果である。 2 問題の概要 (1) 事業廃止時におけるみなし譲渡の消費税申告状況 会計検査院の平成30年度決算検査報告(P274-275)で示された数値を整理すると、下図のようになる。平成27年から29年までに事業を廃止した個人事業者851人を検査。851人中349人の個人事業者が、事業廃止時に、決算書上、未償却残高の合計で100万円以上となる資産を保有していた。このうち305人は、みなし譲渡を正しく適用していない蓋然性が高い。 (※) 会計検査院の公表数値をもとに筆者作成。 (2) 提出された廃業届出書等の取扱手続 個人事業者は、事業を廃止したとき、個人事業の開業・廃業等届出書(所得税法第229条)、事業廃止届出書(消費税法第57条第1項第3号 免税事業者を除く)を提出する。 これらの届出書や決算書が、税務署内部の事務処理手続上、事業廃止時のみなし譲渡の確認に活用されていなかった。 (3) 納税者への周知 会計検査院によると、事業を廃止した場合のみなし譲渡に関し、国税庁のホームページや冊子での周知が図られていなかったとのことである。 3 改善要請を受けた対応 (1) 国税庁内の改善処置 2(2)手続面の問題については、令和元年9月、事務処理手続を定め、国税庁から国税局等へ連絡済みとのことである。 また2(3)納税者への周知についても、本稿執筆時点で、事業廃止届出書の記載要領等(事業廃止届出書の裏面)において、下記の注が記載されている(タックスアンサー「No.6603 個人事業者が事業を廃止した場合」にも同趣旨の記載がある)。 (2) 申告時の注意 上記の注書きにもあるとおり、みなし譲渡について課税標準額に含める金額は、その資産の通常売買される価額(時価)に相当する金額である。財務省によれば、資産の状況等によっては未償却残高も1つの指標となり得るとのことである(会計検査院 平成30年度決算検査報告)。 なお、簡易課税が適用される場合には、事業用資産の譲渡であるため、第4種事業に該当する。 4 今後の動向 個人事業者は、事務用資産の取得時、仕入税額控除できる。事業廃止時に、みなし譲渡による課税を経ずに家事用への転用を許せば課税の公平が保たれないということが、今回の改善要請に至った。 これまでも会計検査院からの改善要請を受けた場合、税制改正によって対策を講じられるケースがあった。今回の指摘を受けた国税庁等による上記対応の他に法改正が行われるかどうかは不明だが、個人事業者の廃業時におけるみなし譲渡の適用については今後課税当局によるチェックが厳しくなることが予想されるため留意されたい。 (了)
2019年11月14日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.344を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第82回】 「立法資料から税法を読み解く(その1)」 中央大学商学部教授・法学博士 酒井 克彦 はじめに 条文解釈を行う際、その一つの拠り所として、立法資料を参照することは非常に有意義である。 かかる条文がどのような背景において成立したものであるかを調べるに当たって、立法資料の確認は欠かせない。 本連載では、国会審議(第52回)や税制調査会答申(第55回)を参照した租税法解釈の実例を取り上げてきたところであるが、本稿でも、実務上の問題点を取り上げつつ、立法資料から租税法解釈を読み解くこととしよう。 Ⅰ 申告期限内の2以上の申告書 1 問題の所在 確定申告の期限内に2以上の確定申告書が提出された場合の課税上の取扱いについては、必ずしも明確でないところがある。 実務的には、当初申告の後に提出された確定申告書を「訂正申告書」などと呼び(また、かかる申告行為を「訂正申告」などと呼び)、訂正申告書に記載された内容が当初申告書の内容に係る法律効果を塗り替えるものとして、すなわち、訂正申告書の内容に従った課税関係が正当なものとされると解されているようである。 そもそも、所得税法2条《定義》1項37号は、「確定申告書」の定義を、次のように規定しているに過ぎない。 このような規定振りを見るに、期限内に提出されるべき確定申告書が2以上あることを予定しているかどうかも判然としない。少なくとも、所得税法は、上記課税実務で用いられるような「訂正申告書」なる申告書を規定していないのである。 しかしながら、記載内容に抵触がある場合の申告書が2以上提出されている場合に、いずれの確定申告書の効力を有効なものとして取り扱うかという問題は、実務上は避けて通れない問題となる。 ここでは、議論の大前提として、期限内に2以上の確定申告書が提出された場合に、いずれの一の申告書のみの効力を認めるべきと解することがそもそも妥当であるのかという議論がある。 その上で、仮にそのように理解することが妥当であるとした場合に、いずれの申告書が所得税法2条1項37号にいう「確定申告書」に当たると解するべきかという問題は専ら解釈問題として委ねられているといわざるを得ない。 所得税法に「訂正申告書」に関する規定がないばかりでなく、そもそも、当初の申告書に記載された内容の変更について、納税者としては「修正申告」や「更正の請求」によってのみ是正することが国税通則法によって予定されていると解されるとすれば、かかる国税通則法上の手続と整合性をもった解釈論が導出されなければならないのはいうまでもない。 ここでは、期限内に2以上の確定申告書が提出された場合の「確定申告書」概念や、法定申告期限内における申告内容の是正問題について考えてみたい。 2 申告期限内の2以上の申告書が提出された事例 相続税法の事例ではあるが、例えば大阪地裁平成22年6月23日判決(税資260号順号11456)は、次のように判示する。 ここでは、後から提出された申告書が正当な申告書ではなく、先に提出した申告書が正当な申告書であるとの原告の主張が排斥されている。大阪地裁の立場は、当初の申告は後の申告によって吸収されてしまうという考え方であるとみてよいかもしれない。 3 吸収説と併存説 ア 吸収説 例えば、確定申告の提出後になされた増額更正(第一次更正)の効力は、当初申告とは別個に存在すると考えるべきか否かという問題がある。これは、その後に再更正(第二次更正)処分がなされた後においても、第一次更正処分の違法性を争う訴えの利益があるか否かという点でしばしば問題となるところである。 すなわち、次の図1にいうところの、墨塗り部分の納税額(8,000万円-5,000万円=3,000万円)についての訴えの利益があるか否かという問題である。 〈図1〉 この争点は、そもそも更正・決定と再更正との関係をどのように捉えるかという立場の違いをそのまま反映するものである。 まず、吸収説という考え方をみてみたい。 これは、更正又は再更正は、それぞれ、申告又は更正・決定を白紙に戻した上で、改めて税額を全体として確定し直す行為であるとする見解である。この見解によれば、申告又は更正・決定とは、更正又は再更正によって効力を失うことになる。 いわば、「以前の申告や更正を、後の更正又は再更正が全面的に塗り替える」(吸収する)といった関係と理解するものである。 すなわち、増額再更正の性質について、増額更正に係る課税標準・税額の脱漏部分のみを追加して確認する処分ではなく、納付すべき税額を全面的に見直し・・・・・・・、増額更正に係る税額を含めて税額全体を確認する処分・・・・・・・・・・・と捉えた上で、当初の更正・決定の効果は引き続き増額再更正の効力の中に承継されるが、当初の更正・決定自体は独立の存在を失い、増額再更正の内容としてこれに吸収されて一体となり、その外形が消滅するとの見解である(司法研修所編「租税訴訟の審理について」司法研究報告書36輯2号38頁)。 イ 併存説 これに対して、併存説という考え方がある。 これは、更正又は再更正は、申告又は更正・決定とは別個・独立の行為であり、申告又は更正・決定によって確定した税額に一定の税額を追加し、又はそれを減少させるにすぎない、とする考え方である。 吸収説において、「以前の申告や更正を、後の更正又は再更正が全面的に塗り替える」と説明したが、併存説は、「以前の申告や更正に、後の更正又は再更正をもって追加する」というイメージである。 4 学説 例えば、金子宏教授は、原則的には吸収説が妥当すると説明されるが、法的安定性の観点からの問題点も指摘される。 そこで、同教授は、国税通則法29条の規定に着目されている。 このように、同条が租税法律関係の安定を図るための措置として、上記のような規定をしているという点から、金子教授は、次のような結論を導出される。 すなわち、現行法の解釈としては、増額更正の場合には併存説が妥当し、減額更正の場合には一部吸収説が妥当するとされるのである。 その結果、更正又は再更正がなされても、申告又は更正・決定に係る税額の納付及びその税額を徴収するための滞納処分は、それによってその効力に影響を受けないし、また、再更正又は再々更正がなされても、更正・決定又は再更正に対する不服申立及び訴訟は、それによって影響を受けずに有効に係属を続けることになるというのである(金子・前掲書959頁)。 (続く)