〔“もしも”のために知っておく〕 中小企業の情報管理と法的責任 【第21回】 「情報漏えいが発覚した際の初動対応のポイント」 弁護士 影島 広泰 -Question- 自社の従業員が情報を持ち出していることが分かりました。初動対応として何をすべきでしょうか。 -Answer- 対策チームを立ち上げるとともに、情報漏えいの証拠を保全します。 なお、情報を持ち出している可能性がある本人に悟られないように注意する必要があります。 前回は、情報漏えいの兆候をどのようにチェックするのかについて解説した。 今回は、従業員・退職者・取引先等が自社の情報を持ち出していることが分かった場合のような、情報漏えいの可能性があることが判明した際に、初動対応として何をすべきかを「秘密情報の保護ハンドブック」を参考にしつつ解説する。 1 事前に備えておくべき体制 事前に何の準備もしていなければ、情報漏えい等の発生という緊急事態時にスムーズな対応を行うことは困難である。具体的には、以下の2点を事前に整備しておくと良い。 (1) 「報告連絡体制」の整備 まず、【第2回】で述べたとおり、社内の報告連絡体制を整備しておく。これは、個人情報保護委員会が公表している通則ガイドラインの「組織的安全管理措置」に記載されている対応であるし、実務的にも重要であるから是非とも整備しておきたい。報告が適時適切に上がってこなければ、適切な初動対応を取ることなどできないからである。 例えば、「情報漏えいの可能性があると思った際には、内線〇〇に連絡をしてください」と社内に告知しておくことが考えられる。内部の故意犯による持ち出し等に備え、内部通報の窓口を活用することも重要であろう。 (2) 「対策チーム」の設置 情報漏えい等が発生した場合に何をするのかを予め定めておくことも重要である。このことは、上記、通則ガイドラインの「組織的安全管理措置」で「漏えい等の事案に対応する体制の整備」として義務づけられている。 情報漏えい時の対応に際しては、様々な部署が関係部署となることが想定される。これらの関係部署が綿密に連携して、適切かつ迅速に対処する必要がある。中小企業では、会社トップが全体を統括しながら対応を進めていくことが現実的であろう。大企業では、役員クラスの者を長とする対策チームを設置することが考えられる。 対策チームには、コンピュータからの情報漏えいであれば、社内の情報システム部などの専門家を含める(このような、コンピュータからの情報漏えいの際の対策チームのことを「CSIRT(Computer Security Incident Response Team:シーサート)」と呼ぶ)ほか、必要に応じて外部の専門家を含めることも考えられる。サイバーセキュリティの専門会社、コンピュータ内の削除済みのデータを調査することなどに長けたフォレンジック会社、弁護士などである。 いずれにせよ、社内での情報拡散を防止する観点から、初動の段階では対策チームは必要最小限の人数で構成し、かつ扱っている内容については秘密保持を徹底することが必要である。 2 初動で行うべき対応 社内から「個人データ」が漏えいした場合の対応については、【第10回】で詳しく述べた。 すなわち、経済産業省の「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」の「付録C インシデント発生時に組織内で整理しておくべき事項(Excel形式)」を参考にしつつ、個人情報保護委員会の告示に従って、情報漏えいの対象となった本人への連絡、ウェブ等での公表、個人情報保護委員会等への報告等を行っていくことになる。 今回は、従業員等の情報漏えいが発覚した際に初動で行うべき対応として、証拠の保全の重要性について解説する。 営業秘密を、従業員・退職者・取引先等が故意に持ち出したようなケースでは、情報漏えいによる影響範囲を確定し再発防止策を講じるためだけでなく、その後の責任追及や社内での処分のためにも、情報漏えいの証拠を保全しておくことが重要となる。特に、電子情報は、時の経過とともに情報が失われていくことが多く、初動で迅速に対応しておくことが重要となる。 電子情報は、専門家に依頼をせずに自社だけで闇雲に保全を行おうとすると、データが壊れてしまったり、改ざんを疑われて事後的に証拠価値が失われることもあり得る。例えば、パソコン内に保存されたデータが盗まれた場合、犯人はその証跡をひと通り消している可能性が高い。 単に消しただけであればフォレンジック会社に依頼すれば復活することができる可能性があるが、当該データが保存されていた場所に別のデータが上書きされてしまうと復活することが困難となる。パソコンは、OSを起動するだけで空いている領域に新しいデータを書き込んでいく可能性があるから、証拠となり得る機器については、可能な限り何もせず(電源も入れず)、専門の業者に相談したほうが良い。悪質な犯罪であれば、警察に即座に通報することも考えられる。 また、まだ情報漏えいの証拠が十分に確保できておらず、漠然と漏えいが疑われるに留まる段階で、その漏えい行為をしたと考えられる従業員等に接触する(例えば不用意に事情聴取を行う)ことは、かえって証拠隠滅を助長するおそれがあるため、避けるべきである。 自社従業員からの情報漏えいが疑われる場合には、拙速に接触することなく、情報を対策チーム等の関係者に限って共有するなど慎重に対応することが、証拠の隠滅・散逸等を防ぐために重要である。 確保しておくべき証拠の典型例は以下のとおりである。適宜・適切に収集し、証拠として保全したい。 (了)
《速報解説》 軽減税率対策補助金の申請期限迫る ~最終期限は2019年12月16日~ Profession Journal 編集部 10月1日からの軽減税率の実施に伴い、軽減税率に対応したレジ(システム)の導入・改修を行った中小事業者は、一定の手続きをすることにより、軽減税率対策補助金(原則費用の3/4を補助、レジ1台あたり20万円まで)を受領することができる。 既報のとおり、中小事業者による対応レジの導入を幅広く促進する観点から、中小企業庁は2019年8月28日付けで、レジの導入等に係る軽減税率対策補助金の手続要件の緩和を明らかにし、「9月30日までの軽減税率対応レジの設置・支払いの完了」が必要とされていたものを「9月30日までにレジの導入・改修に関する契約等の手続きが完了」とすることに改めている。 また、8月の前線に伴う大雨に関する災害や台風で被災した中小事業者に対しては、レジ等が被災した場合、再導入についても補助対象にすることや、事情説明書の提出等により、導入・支払いの期限の延長を行うなど補助金交付手続き等に関する柔軟な対応も行われている。 上記の要件緩和や柔軟な対応により、中小事業者のレジの導入・改修は着実に進んでいると思われるが、軽減税率対策補助金の申請期限が2019年12月16日〈消印有効〉であることに変更はない。 レジの導入自体が済んでいても、年末の忙しさから申請まで手を付けられていない場合や、軽減税率に対応したレジを導入しなくともアナログでの対応ができると考えていた中小事業者も、処理の煩雑さにレジの導入を検討していることもあるだろう。 軽減税率対策補助金を受領する最後のチャンスなので、申請期限には十分注意したい。 (了)
《速報解説》 日本監査役協会、KAMに関するQ&A集の後編として 期中や監査報告書作成段階での対応を公表 ~株主からの質問や事前準備事項など株主総会への対応も~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2019年12月4日、日本監査役協会 会計委員会は、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を公表した。 これは、2019年6月11日に公表した「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」に続くものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 Q&A集・後編では、KAMに関して、期中での対応、監査報告書作成段階での対応、会社法上の会計監査人の監査報告書におけるKAMの取扱いなどについて記載されている。「株主総会に向けた対応」については、Q3-5-1からQ3-5-3に記載されている。 以下では主なQ&Aについて解説する。 1 期中で対応すべき事項(Q3-3-1) 監査人がKAMを最終的に決定するのは、監査報告書の内容を確定する時点である。 監査の過程においては、期初の監査計画策定の段階でKAMの候補を選定し、期中の監査活動の進捗状況を反映して適宜見直し(追加、絞り込み、入替え)が検討される。 監査人によるKAM候補の見直しは、監査の過程で随時行われるものであり、期中も監査人の監査に影響を及ぼす事象が発生すれば、監査役等と監査人の間で随時協議を行っていると思われるので、基本的に、監査計画策定時と同様に、監査人とのコミュニケーションに本質的な変化があるわけではない。 KAM候補に関連する財務諸表又はそれ以外の手段による開示状況とKAMの記述に未公表情報を含める必要があるかについては、監査人に都度十分な説明を行うよう促すことが重要である(2ページ)。 2 監査人による監査報告書作成段階での対応(Q3-4-1) 監査人は、期末において監査報告書のドラフトを作成する段階で、期中に検討されてきたKAM候補の最終的な絞り込み・決定を行うので、監査役等は、監査人から提示されるKAMのドラフトに対して、以下のポイントから確認することが考えられる(2、3ページ)。 また、KAMの項目や記載内容・詳細さの程度について見解の相違が発生した場合、監査役等は安易に妥協を促すべきではないが、執行側と監査人両者の見解を吟味し、負託を受けている株主等のステークホルダーにとって何が適切かについて、執行側や監査人と協議を重ねることが求められる(3ページ)。 3 会社法監査における会計監査人の監査報告書(Q3-4-3) 会社法上の会計監査人の監査報告書へのKAMの記載を義務付けることは見送られ、任意とされている(4ページ)。 現在の会社法と金商法の二元的な開示制度の下では、業態や事業の内容が複雑であったり、KAMの記載に際して監査人から追加の開示が求められたりするような場合は、有価証券報告書の記載内容を確認する前にKAMを選定かつ記載内容を確定することは基本的に難しいと言えることなどが記載されている(4、5ページ)。 4 監査役等の監査報告書の記載への影響(Q3-4-4) 監査役等の監査報告書への影響については、会社計算規則は、監査役等の監査報告書に最低限含めなければならない事項だけを定めており、記載が明示的に求められていない事項についても、監査報告の趣旨に沿っている限り、追加的に記載することができる(5ページ)。 ①会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されていない場合と②会社法上の会計監査人の監査報告書にKAMが記載されている場合にわけて、取扱いが記載されている(6、7ページ)。 5 監査人と監査役等との見解の相違(Q3-4-2) KAMは監査役等と協議された事項の中から選定されるものの、最終的には監査人が決定するものであり、必ずしも監査役等と監査人との間で見解が完全に一致することが求められるわけではない(3ページ)。 期中から協議を重ねていても、なお見解の一致に至らなかった事項がKAMとして選定されたり、逆に選定されなかったりすることも考えられ、また、監査報告書における表現についても最終的に見解の一致に至らないこともあり得る(3ページ)。 監査役等がKAMに該当しないと考える事項がKAMに含まれている場合、又はKAMの表現に疑問がある場合は、再度、当期の監査における他の項目との相対的重要性の観点に基づいて、項目の選定が適切か、又はKAMの趣旨(監査人の守秘義務の観点を含む)に照らして記載内容が適切かについて監査人と協議する必要がある(4ページ)。 監査役等がKAMに該当しないと考える事項を監査人が監査すること自体を問題にする必要はないが、監査の効率性の観点から内容を確認する必要がある(4ページ)。 監査報告書において監査役等の見解と異なる項目が選定されたり、異なる表現がなされたりする場合には、自身の見解と対応について説明できるように整理しておく必要がある(4ページ)。 (了)
2019年12月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.347を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
monthly TAX views -No.83- 「OECDデジタル税制をめぐる政治・経済的背景」 東京財団政策研究所研究主幹 中央大学法科大学院特任教授 森信 茂樹 OECDの場で、130ヶ国・地域が参加して議論されている「経済のデジタル化に伴う新たな税制」だが、来年1月の基本合意に向けて、10月と11月に2つのコンサルテーションペーパー(「提案」)が公表された。 未だ詰めるべき課題が山積しているが、ここまでまとまってきたことの背景を考えてみたい。 * * * そもそもの問題意識は2つである。 第1に、GAFAに代表される米国IT企業が、膨大な利益をアイルランドやシンガポールなどの軽税率国やタックスヘイブンに留保して、税負担をしていないことである。その背景には、利益の根源となる無形資産を移転させるプランニングがある。 第2に、PEがなくても市場国で大規模なビジネスが可能なので、実際に利益を上げている市場国で十分な税の負担をしていないことである。 この結果、きちんと税の負担をしている企業や伝統的ビジネスとの競争条件(レベルプレイングフィールド)に問題が生じるとともに、市場国は税収不足に陥っており、全世界レベルでの対応が必要となった。 処方箋としては、軽税率国やタックスヘイブンに移転されたIT企業の「課税ベース」を、何らかのルールに基づいて、市場国である先進国や新興国・途上国に再配分し、課税することである。 * * * OECDにおける議論が、ここまでまとまってきたことの背景は、次の2つである。 1つは、課税ベースの再配分により、軽課税国以外は先進国も途上国も税収増になる可能性があるということだ。つまり、130ヶ国・地域の集まる包括的枠組みは、ウイン・ウインのプロジェクトだということで、これが成功に導く大きなインセンティブとなっている。 もう1つは、米国の「変身」である。当初は、「ユーザーの参加」をキーとして配分し直す英国案が有力であった。しかし今回の提案を見ると、「マーケティング上の無形資産」を重視する米国案が盛り返した内容となっている。 米国が本プロジェクトに対し積極姿勢に転じた背景は、英国やフランスなどが独自課税を導入すること(ユニラテラル・アプローチ)への危機感である。各国の独自課税はGAFA狙い撃ちで、米国の国益を大きく損なうばかりか、長年税務当局が構築してきた国際協力が台無しになれば、デジタル企業・経済にとっては大きな打撃だ。 したがって、今回の提案を合意するにあたっては、フランス、英国などの独自課税を取り下げさせることが重要となる。 * * * では、わが国にとっての利害関係はどうなのか。 ピラーワン(第1の柱)の“所得A”と呼ばれる部分(再配分される超過利益)については、営業利益率10%以上、海外子会社も含む連結売上高900億円(7億5,000万ユーロ)以上の「消費者向けビジネス」を行う多国籍企業を対象にする案が有力だ。 製造業全体への波及を抑えたという点に、わが国当局の努力の跡が見える。もっとも、自動運転などについては、対象となる可能性もあり、今後注意が必要だが。 企業レベルの税負担についていえば、無形資産を低税率国に移転させるなどのタックスプランニングを行っている多国籍企業の場合は税負担増となりうる。一方で、アグレッシブな租税回避を行っていない企業については、今回の提案に伴う納税額の変化はほとんどないと考えられる。 この点は重要なポイントだ。 (了)
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例12】 「返品調整引当金の意義とその廃止の経緯」 国際医療福祉大学大学院准教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は近畿地方のとある地方都市で、既製服の製造を行っている株式会社Aを経営しております。わが社の主たる取引先は全国各地の衣料専門店ですが、そこでの取引においては、得意先の求めに応じて商品を納入するものの、売り切りではなく、売れ残った商品は全品当社が引き取るというやり方を採っていました。これは商慣行であり、契約に基づくものではありません。 わが社の場合、これまで、得意先に商品を納入したときに売上げを計上し、売れ残った商品の返品を受けた際に販売した金額に返品数量を乗じた金額の費用を計上してきました。既製服は当たり外れが結構大きく、外れた場合、大量の返品を引き受けることを余儀なくされます。そのような場合、そもそも売上の計上金額が過大であったとさえ思えます。 しかし、ある会合で同業者に、当社のような取引形態を行っている法人は、法人税法上、返品調整引当金という耳慣れない名称の引当金を計上することができる旨教えられました。これにより、売上を計上したタイミングを実際に返品され費用を計上するタイミングとのずれが大幅に縮小されることとなりますので、わが社の正しい実力が財務諸表及び法人税の申告に反映されることとなります。 そこで、当社の顧問税理士に当該引当金について問い合わせてみたところ、平成30年度の税制改正で廃止されており、新たに適用を受けることはできないといわれました。ただし、改正前の法人税法の下では、わが社のケースについても適用の余地があったということなので、もっと早くこの引当金のことを知っておくべきだったと後悔しております。 そこで、今更ではありますが、返品調整引当金の内容と、廃止に至った経緯について教えてください。 【A】 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営む者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていました。 当該引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなりました。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として所定の経過措置が受けられますので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきといえます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 引当金の意義 費用収益対応の原則の観点から、将来の費用又は損失の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該年度の負担に属する金額を費用又は損失として繰り入れて、正確な期間損益を把握し算定するための会計上の技術を引当金という。企業会計上、引当金は大きく以下の2種類に分類される。 ① 評価性引当金 将来において資産について生ずることとなる費用ないし損失が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(valuation allowance)である。 ② 負債性引当金 将来において生ずる債務ないし経済的負担が、当期の収益に対応する場合に計上する引当金(liability allowance)である。 一方、法人税法においても、上記企業会計の考え方を取り入れ、以下の3要件を満たすものについては引当金の計上を認めている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第二十三版)』(弘文堂・2019年)415頁。 法人税法上認められている引当金としては、従来、評価性引当金としての貸倒引当金及び返品調整引当金、負債性引当金としての退職給与引当金、賞与引当金、製品保証等引当金及び特別修繕引当金の6種類があった。 (2) 法人税法における引当金の廃止・縮小 しかし、平成10年度の税制改正で、賞与引当金と特別修繕引当金(特別修繕準備金に移し替え)、製品保証等引当金が廃止され、平成14年度の税制改正で退職給与引当金(※2)が廃止された。 (※2) 退職給与引当金の廃止は賞与引当金等の廃止とタイミングがずれたが、平成14年7月の連結納税制度の導入に伴う法人税収の減少を緩和するため、そのタイミングで廃止されている。 このように法人税法において引当金が廃止・縮小されてきた理由としては、政府税調・法人課税小委員会報告(平成8年11月)において、「課税ベースを拡大しつつ税率を引き下げる」という観点からすると、引当金に関して以下の点が問題であるとした。 〈ア〉 引当金は、具体的に債務が確定していない費用又は損失の見積りであることから、常にその見積りが適正なものであるかどうかが問題となる。公平性、明確性という課税上の要請からは、そうした不確実な費用又は損失の見積り計上は極力抑制すべきである。特に、貸倒引当金及び製品保証等引当金は、法定率によって繰入限度額を計算することができ、適正な費用又は損失の見積りを超えた引当金となっているおそれがある。 〈イ〉 賞与引当金や退職給与引当金は、課税上、翌期の賞与や将来の退職金の一部を当期の労働の対価として支払われる賃金と同様に取り扱うものである。すなわち、従業員に対する賞与や退職金は、実際に支払いがなされた時に経費として損金の額に算入される。これらの引当金によって、賞与も退職金も、従業員が勤務を提供した期間に応じて損金の額に算入することができる。 このように、未だ支払いがなされていない賞与や退職金を、その支給原因が発生した事業年度において引当金繰入額という形で実際の支払いに先行して費用計上を認めている。このことから、税制が企業の給与の支給形態に対し、結果として何らかの影響を及ぼしていることも考えられる。 また、これらの引当金は巨額に上っており、企業ごとの利用状況にも開差がある。企業がこれらの引当金に相当する金額を一定期間自己資本のごとく自由に利用できることを考慮すると、引当金制度が企業・産業間の実質的な税負担の格差を生み出し、非中立的な影響を与えているおそれがあることにも留意する必要がある。 〈ウ〉 製品保証等引当金、返品調整引当金及び特別修繕引当金は、特定の業種に限られた引当金であり、適用業種にとって重要性の高いものであることから認められている。しかしながら、引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要があろう。 * * * 上記〈ア〉から〈ウ〉は、いずれも一定の合理性がある理由ではあるが、引当金の存在意義を決定的に否定するほどの根拠とまでは言えないものばかりである。要は、当時、法人税率引下げという絶対的命題があり、そのための財源を捻出するための苦肉の策として引当金の廃止・縮小が俎上に載っただけであり、法人税制における理論的整合性は二の次であったと評価するよりほかないであろう。 (3) 返品調整引当金の意義と内容 それでは、法人税法上、返品調整引当金とはどのような引当金だったのであろうか。改正前の法人税法によれば、出版業等特定の事業を営む法人のうち、常時、その販売する事業に係る棚卸資産の大部分につき、買戻特約等を結んでいるものが、当該棚卸資産のその特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した場合には、その金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額は、損金の額に算入されることとされていた(旧法法53①)。 返品調整引当金の意義としては、一般に以下の通り説明される。すなわち、出版業や医薬品製造業においては、商品の販売に際し、買戻特約付きで販売店に売却することにより、販売店は一定の時期に売れ残った商品を仕入価額で売り戻すことができるケースがよくみられる。そのため、このような特約がある場合には、出荷基準による売上・収益の計上は暫定的で、過大な収益を表しているということになるため、買戻しによる損失を予め見越し計上することが、費用収益対応の原則の観点から合理的であるといえる。そこで認められたのが返品調整引当金の計上だったわけである(※3)。 (※3) 金子前掲(※1)書420頁参照。 そこで、以下では返品調整引当金制度の適用要件を確認しておく。 ① 特定の事業の意義 返品調整引当金の計上が認められている「特定の事業」とは、以下のものとされていた(旧法令99)。 ② 特約の意義 また、引当金の設定要件として、以下の事項を内容とする「特約」を結んでいることが必要であった(旧法令100)。 なお、上記特約の締結は、文書によることのみならず、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、特約を結んでいるものとして取り扱われる(旧法基通11-3-1の3)。 ③ 繰入限度額 返品調整引当金勘定への繰入限度額は、事業の種類ごとに、以下に掲げる(ア)又は(イ)のいずれかの方法により計算した金額の合計額である(旧法令101①)。 (ア) 売掛金基準による方法 (イ) 販売高基準による方法 なお、上記算式中の「返品率」及び「売買利益率」は、それぞれ以下の算式で計算することとなる(旧法令101②③)。 〈返品率〉 〈売買利益率〉 (4) 平成30年度税制改正 ① 改正の内容 上記(2)で触れた政府税調・法人課税小委員会報告にもかかわらず、返品調整引当金はその後も存続することとなった。それは、当時指摘された「引き当てる費用又は損失の額が適用業種においてなお重要なものであるかどうかについては、これらが特定業種にのみ認められているものであるだけに、十分吟味する必要がある」かどうかという点につき、結論が出なかったためであると考えられる。 それではなぜ、平成30年度の税制改正で返品調整引当金が廃止されることとなったのか。それは、わが国の企業会計基準委員会が平成30年3月30日に「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準29号)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針30号)を公表したことから、それを受けて法人税法において、同法第22条第4項の別段の定めとして第22条の2が創設されたことが契機である。 すなわち、法人税法第22条の2第5項において、資産の販売等に係る資産の買戻しの事実が生ずる可能性がある場合においても、その可能性がないものとして収益の額とするとされたことにより、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったためである。 したがって、返品調整引当金の廃止は、法人税法第22条の2の創設と一体ものであると解される(※4)。 (※4) 金子前掲(※1)書357頁参照。 ② 改正後の税務処理例 従来、返品調整引当金が認められてきた既製服販売業に関し、新収益認識基準に基づく売上処理と法人税法第22条の2に基づく売上処理を比較すると、概ね以下の通りとなる。 - 設 例 - A社は得意先B社に既製服(販売価格一着2,000円、原価一着1,200円)を100着販売したが、返品予想は20着である。なお、消費税は考慮しない。 上記のように、返品調整引当金廃止後は、A社の会計上の利益64,000円(=160,000円-96,000円)と法人税法上の所得80,000円(=200,000円-120,000円)との間に乖離が生じる(法人税法上の所得の方が16,000円多くなる)こととなる。これは、改正後の法人税法においては、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないためである。 会計上の収益認識基準の導入により、返品調整引当金は廃止されることとなったが、これは法人税法の会計基準への接近という側面があるものの、一方で、会計基準の変更を契機に課税所得を増加させようという課税庁のしたたかな戦略であるとも考えられる。その意味で、課税所得の増加を意図した引当金廃止の流れを引き継ぐ改正であると評価できるであろう。 ③ 経過措置 改正法の施行の際、現に対象事業を営む法人(経過措置法人)は、経過措置の対象となる法人とされている(H30改正法附則25①)。また、経過措置法人の平成30年4月1日以後に終了する事業年度(平成42(令和12)年3月31日以前に開始する事業年度に限る)が、経過措置の対象となる事業年度とされている(経過措置事業年度、H30改正法附則25①)。 経過措置法人の経過措置事業年度においては、改正前の規定を従前どおり適用できることとされている(H30改正法附則25①)。この場合における返品調整引当金の繰入限度額は、平成30年4月1日から平成33(令和3)年3月31日までの間に開始する事業年度については改正前の規定による繰入限度額とされているが、次の事業年度については、改正前の規定による繰入限度額に対し、それぞれ次の割合を乗じて計算した金額とされている(H30改正法附則25①)。 〇経過措置事業年度における繰入限度額に乗ずる割合 なお、この経過措置の適用により、法人の令和12年4月1日以後最初に開始する事業年度の前事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された返品調整引当金勘定の金額は、その最初に開始する事業年度において益金の額に算入することとされている(H30改正法附則25②)。 (5) 本件へのあてはめ 平成30年度の税制改正で廃止される前の返品調整引当金は、出版業、出版に係る取次業、医薬品・農薬・化粧品・既製服等の製造業及び卸売業等の一定の事業を営むの者のうち、常時、その販売する棚卸資産の大部分につき、販売時の価額による買戻特約を結んでいる者が、その棚卸資産の特約に基づく買戻しによる損失の見込み額を、返品調整引当金繰入額として損金経理した金額のうち、繰入限度額に達するまでの金額が損金に算入されていた。 本件のように、買戻特約が文書による契約で明示的に裏付けられる場合でなくとも、慣習によりその販売先との間に当該特約があると認められるときには、通達により、特約を結んでいるものとして取り扱われていた。 当該返品調整引当金は、収益認識に係る会計基準の導入により、返品見込額が収益の額から差し引かれることとなり、返品調整引当金繰入額を損金経理することができなくなったため、平成30年度の税制改正で廃止されることとなった。その結果、改正後の法人税法上は、売上の計上に際し、返品予想の見積金額を考慮する必要がないため、今後は会計上の利益よりも課税所得の方が大きくなることが想定されるところである。 なお、改正法の施行の日である平成30年4月1日において対象事業を営んでいる場合には、経過措置法人として前述(4)③の経過措置を受けられるので、本件の場合は当該経過措置の適用を検討すべきであろう。 (了)
相続空き家の特例 [一問一答] 【第41回】 「「相続空き家の特例」の譲渡価額要件(1億円以下)の判定⑨ (この特例を受けるための目的のみで相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分)」 -譲渡価額要件の判定- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、昨年4月に死亡した父親の家屋(昭和56年5月31日以前に建築)とその敷地400㎡を相続により取得した後に、その家屋を取り壊して更地にし、本年10月に1億2,000万円で売却しました。 取り壊した家屋の、相続の開始の直前の状況は、父親が一人暮らしをし、その家屋は相続の時から取壊しの時まで空き家でした。 実は、父の生前中、「相続空き家の特例(措法35③)」には譲渡価額要件(1億円以下)があることを知り、相続の開始の直前、庭先の一部100㎡を柵で囲ってXの主宰するA社の資材置場として利用しました。 相続の開始の直前に一時的に居住の用以外に供した部分を除く300㎡に係る対価の額は9,000万円となります。 この場合、Xは、本特例の適用を受けることができるでしょうか。 A 庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定の対象に含まれることから、譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができません。 ●○●○解説○●○● 「相続空き家の特例」は、被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等の譲渡の対価の額が1億円以下であることが、その適用要件の1つとされています(措法35③)。 そして、居住用家屋取得相続人が譲渡した資産が「対象譲渡資産一体家屋等」に該当するかどうかは、社会通念に従い、対象譲渡をした資産と一体として被相続人の居住の用に供されていたものであったかどうかを、相続の開始の直前の利用状況により判定することとされています。 ただし、本特例の適用を受けるためのみの目的で相続の開始の直前に一時的に居住の用以外の用に供したと認められる部分については、「対象譲渡資産一体家屋等」に該当します(措通35-22(「対象譲渡資産一体家屋等」の判定)(3))。 したがって、本事例の場合、庭先の一部100㎡も、「対象譲渡資産一体家屋等」の判定に含めて判定することから、対象譲渡価額は1億2,000万円となって、その譲渡価額要件を満たさず、「相続空き家の特例」の適用を受けることができないこととなります。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第75回】 「印紙税納付計器設置承認申請及び 印紙税納付計器使用請求書の書き方」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 銀行の窓口等で振込を行った際に受け取る「振込金受取書」には、収入印紙が貼付される代わりに赤色で税務署名と番号、金額等が表示された受取書を受領する場合がありますが、これはどのような仕組みになっているのでしょうか。 印紙税は原則として、収入印紙を貼付し、これに消印をすることにより納付するものであるが、印紙税納付計器による印紙税の納付方法も認められている。 印紙税納付計器により印紙税の納付を行う場合は、①事業所の所在地を管轄する税務署長に「印紙税納付計器設置承認申請」を行う。②税務署長から承認された場合は、承認番号が与えられる。これが赤色表示の税務署名と承認番号である。③承認後印紙税納付計器を購入し、設置後あらかじめセット金額を現金で納付し、印紙税納付計器をその納付額に合わせて使用できるようにセットする。 このセットは「印紙税納付計器使用請求書」及びセットに必要なカウンター等を持参し、税務署で所定の措置を行い、機種により異なるが封印等をすることにより、セット金額まで使用することができる。 (※) なお、印紙税納付計器又は納付印を製造しようとする者は、税務署長の承認が必要であり、納付計器の購入に関しても正規の販売業者から購入することが必要である。 ◎納付印 (出典) 国税庁HP [記載例] ◎印紙税納付計器設置承認申請書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (注) 交付を受ける課税文書に納付印を押すことの承認を併せて申請する場合(新たに納付計器を設置する場合)は、「印紙税納付計器設置承認・被交付文書納付印押なつ承認申請書」により承認を受けることとなる。 ◎印紙税納付計器使用請求書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 代理人が請求等の手続きをする場合は、「申告、申請等事務代理人届出書」を請求等の手続きをさせようとする時までに提出する。 ◎申告、申請等事務代理人届出書 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 印紙税納付計器使用請求に係る参考条文(法10、基通69・73・76) (了)
〈桃太郎で理解する〉 収益認識に関する会計基準 【第16回】 (番外編①) 「もし桃太郎が桃印を殿様に使用許諾したら ~ライセンス売上」 公認会計士 石王丸 周夫 今回からは番外編として、前回までの本編では説明できなかった新基準のポイントを取り上げます。桃太郎の正式な物語から話が少しそれますので、ご容赦ください。 1 「桃印」が殿様の旗印に? 桃太郎たちが、鬼退治を終えて帰ってくると、なんとそこにお殿様がやって来ていました。馬に乗ったお殿様は、宝物が載った車をチラリと見た後、桃太郎のほうを見下ろして言いました。 「桃太郎よ、大儀であった!」 「おほめに預かり、ありがとうございます。」 桃太郎はペコリと頭を下げました。 「実はな」馬を降りたお殿様は、声をひそめて言いました。「折り入って、そなたに頼みがあるのじゃが・・・」 「頼みといいますと?」 「そちの桃印を余の軍の旗印に使わせてもらいたいのじゃ。その方の今回の活躍は、国中で大評判じゃ。戦の時にこの桃印があれば、足軽どもの士気も上がるというものよ。むこう3年間でいい、ちょっと使わせてくれ。」 「・・・・。」 「なるほど、タダでは無理というわけか。それなら、小判3枚でどうじゃ、な、桃太郎。」 「ありがたき幸せにござりまする。」 桃太郎は、お殿様から小判3枚をもらい、桃印を使わせてあげることにしました。 「桃印」は、現代でいえば「商標」です。鬼をやっつけた桃太郎が使用した桃印は、縁起の良いものです。お殿様も自分の軍でこれを使用したいと思ったのでしょう。 桃太郎は、桃印の使用料として、お殿様から小判3枚をもらいましたが、これは桃太郎にとっては収益です。このような収益について、収益認識会計基準ではどのように会計処理するのでしょうか。 (本編の全15回では、収益計上する主体はイヌ・サル・キジでしたが、番外編では、その都度主体が変わります。今回は桃太郎が収益計上主体となります。) 2 桃印使用料はライセンス売上 収益認識会計基準では、知的財産のライセンス供与の会計処理について、指針が示されています。 知的財産のライセンスには、商標権に関するライセンスも含まれます。桃太郎の時代に商標登録の制度はありませんので、商標権として保護されているわけではありませんが、そこは問わないこととして、桃印の使用許諾料の受取りをライセンス売上と考えて説明していきます。 ライセンス売上の会計処理は、まず、ライセンスが他の財・サービスと一体となって供与されるかどうかを見極めます。「ライセンス」と「財・サービス」が別個でないかどうかを見極めるのです。 「別個かどうか」については、この連載の【第4回】で述べた要件を検討することになります(ポイントが2つありましたね)。その結果、「別個のものではない」と判断された場合は、ライセンスの供与と他の財・サービスを一括して単一の履行義務として捉え、その履行義務が一定期間で充足されるのか、一時点で充足されるのかを判定して、収益の認識をします。 一方、ライセンスを供与する約束が、他の財又はサービスを移転する約束と「別個のものである」場合は、また違った処理になります。桃印のライセンスは、単独で供与されていることから、こちらのケースに該当します。その場合は、以下の2つのいずれになるのかを判断します。 上記2つのケースのいずれに該当するかにより、それぞれ会計処理が定まってきます。 以下のとおりです。 3 アクセス権か使用権か では、桃印の使用許諾は、アクセス権と使用権のいずれになるのでしょうか。 判定のポイントは、以下の3点です。 これらの要件をすべて満たす場合、「アクセス権」と判定され、1つでも該当しなければ「使用権」となります。 そうすると、桃印というのは、桃太郎が強いからこそ旗印にする意味があるのであって、桃太郎が鬼退治終了後もその強さを維持するためには、日々精進していくことが合理的に期待されます。 もしそれを怠れば、桃太郎の評判も次第に薄れ、誰も桃印を恐れなくなることから、旗印に採用したお殿様は、桃太郎の活動の影響を受けるといえます。 といっても、精進の結果、財・サービスが桃太郎からお殿様に移転するわけではありません。 以上から、上記3つの要件をすべて満たすと考えられ、桃印の使用許諾はアクセス権と判定されます。アクセス権は、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理するので、桃太郎は、受け取った小判3枚を、使用許諾した3年間で期間按分するなどして収益計上していくことになります。 ▷今回のまとめ ライセンス供与が独立した履行義務である場合、アクセス権か使用権かを判定して、収益認識時期を決定します。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第155回】 固定資産に関する会計処理② 「更新投資に関する会計処理」 仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明 〈事例による解説〉 〈会計処理〉 ① 公共施設等運営権の取得時 ◆X0年4月1日 ② X3年4月1日の更新投資の実施時 ◆X3年4月1日 ③ X7年4月1日の更新投資の実施時 ◆X7年4月1日 ④ X8年3月31日の減価償却 ◆X8年3月31日 (※) 設例のため便宜的に「更新投資に係る資産」「更新投資に係る負債」と表記していますが、その内容を示す他の科目をもって表示することも考えられます。 〈会計処理の解説〉 1 更新投資の概要 公共施設等運営事業における更新投資は、公共施設等運営権及び公共施設等運営事業に関するガイドラインによれば、いわゆる新設又は施設等を全面除却し再整備するものを除く資本的支出又は修繕とされており、例えば、経年劣化や老朽化した設備などを修理したり取り替えたりする投資などが考えられます。 2 会計処理の解説 (1) 更新投資に係る資産及び負債の計上に関する取扱い 更新投資については、その実施時に資本的支出に該当する部分に関する支出額を資産として計上します。そのため、上記〈会計処理〉②、③のように取り扱われます。 《X3年4月1日の更新投資の実施時》 ◆X3年4月1日 7,000:更新投資のうち資本的支出に該当する部分 《X7年4月1日の更新投資の実施時》 ◆X7年4月1日 1,500:更新投資のうち資本的支出に該当する部分 一方、更新投資の中でも、公共施設等運営権を取得した時において、大半の更新投資の実施時期及び対象となる公共施設等の具体的な設備の内容が、管理者等から運営権者に対して実施契約等で提示され、当該提示によって、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額及び支出時期を合理的に見積ることができるものについては、当該運営権取得時に、支出すると見込まれる更新投資の額の総額の現在価値を負債として計上し、同額を資産として計上します。そのため、上記〈会計処理〉①のように取り扱われます。 《公共施設等運営権の取得時》 ◆X0年4月1日 10,000:公共施設等運営権を取得した時において、更新投資のうち資本的支出に該当する部分に関して、運営権設定期間にわたって支出すると見込まれる額の総額の現在価値 (2) 更新投資に係る資産の減価償却 無形固定資産に計上した更新投資に係る資産は、当該更新投資を実施した時から経済的耐用年数(経済的耐用年数が残存する運営権設定期間を上回る場合は、当該残存運営権設定期間)にわたり、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法によって、取得原価から残存価額を控除した額を各事業年度に配分します。 ここで、減価償却についてとで次のような差があります。 これは、更新投資の場合、経済的耐用年数が公共施設等運営権の残存する運営権設定期間を上回るために、運営権設定期間の終了後の期間に対応する部分として管理者等と運営権者との間で金銭の授受が行われることがあるといった実務を考慮したためです。 そのため、管理者等と運営権者との間で運営権設定期間の終了後の期間に対応する部分として金銭が授受されるような場合には、当該金銭を基礎として残存価額を算定することが考えられます。 《X8年3月31日の減価償却》 ◆X8年3月31日 1,850:1,000+700+150=1,850 1,000:公共施設等運営権の取得時に計上した更新投資に係る資産の減価償却費 取得原価10,000÷運営権設定期間10年=1,000 700:X3年4月1日の更新投資に係る資産の減価償却費 (取得原価7,000-残存価額2,100)÷残存する運営権設定期間7年=700 150:X7年4月1日の更新投資に係る資産の減価償却費 (取得原価1,500-残存価額1,050)÷残存する運営権設定期間3年=150 3 表示科目について 実務対応報告第35号「公共施設等運営事業における運営権者の会計処理等に関する実務上の取扱い」では、公共施設等運営権については、【無形固定資産の区分に、公共施設等運営権などその内容を示す科目をもって】と定められていますが、更新投資に係る資産については、【無形固定資産の区分にその内容を示す科目をもって】としか定められておらず、具体的な例示はありません。 同様に負債についても、公共施設等運営権の場合は「公共施設等運営権に係る負債など」と例示がある一方、更新投資の場合は例示がありません。 そのため、実態に即した適切な名称の表示科目を決定しなければならない点に注意が必要です。 (了)